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道徳教育が変えるもの ~子どもの心をゆさぶり

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道徳教育が変えるもの ~子どもの心をゆさぶり
道徳教育が変えるもの
~
子どもの心をゆさぶり、行動を変える
~
熊本市立泉ヶ丘小学校 教諭 緒方 千秋
要
約
道徳の時間を大切にした授業づくりに取り組み、子どもたちの心を豊かにし、落ち着いて学習でき
る環境を道徳教育によって培っていけないものかと考え、道徳の時間を中心に取り組んできた。
そして、道徳の時間で培われた道徳的実践力と道徳的実践とが相互に響き合って、一人一人の道徳
性を高め、道徳の時間以外で行う様々な活動と道徳の時間とを学校教育活動の中で具現化していけば、
子どもの心をゆさぶり、子どもの行動を変えていけると考えた。
併せて、魅力ある資料を作成することで、子ども一人一人に感動ある学習ができるものと考え、資
料開発及び、資料作りに取り組んできた。
〈
1
キーワード 道徳資料の開発、道徳の時間の指導過程、道徳の時間における言語活動〉
はじめに
約36年の教職生活において、道徳教育を中心に取り組んできたが、道徳教育によって、「何が子
どもの心をゆさぶり、子どもの行動を変えることができたのだろうか。」について、実践記録をまと
めてみることにした。
近年、社会の変化により、子どもの生活や意識に変化が見られる。また、自然体験の不足や少子化
により、家族による人間的触れ合いの減少が見られ、子どもたちの心身の健康問題は深刻化している。
本校においても、体験の不足や人間関係の希薄化が浮き彫りとなり、子どもの自尊感情が非常に低
下していると感じている。
そこで、これまでの取組を通して、見えてきたもの、明らかになったものを実践内容で示していき
たい。
2
実践内容
(1)道徳資料の開発
道徳の時間は、一般的に「より高められた価値観に照らして、今までの自分はどうであったかを見
つめる時間」とされている。もっと簡単に言うと「自己を見つめる時間」だとも言われている。子ど
も一人一人は、性格も違えば、育った環境や経験も違う。だから、現在持っている価値観も当然異な
っていると考えられる。こうした集団の中で、子ども一人一人の価値観を高めていくためには、共通
の素材である「資料」を基本として、授業づくりを行うことが必要となる。
そこで、次の5点に関する資料作りを行い、授業に取り組んだ。
〈図 1〉
① 地域の人材を生かした資料・・・
「マンガ家をめざして」
「僕のおじさん」
「水前寺もやし造りのおじさん」「お乳のでるぎんなんの木」
② 体験活動をもとにした資料・・・「和菓子作りの職人さん」
③ 人権啓発パネルをもとにした資料・
「こんな色のランドセル」
④ 自分の体験をもとにした資料・・「私を支えた6枚のはがき」
「僕の住む町」
⑤ 感動ある本をもとにした資料・・・
「命輝いてー野尻さん」「生きているかぎりー星野さん」
「メジャー」〈漫画本から〉
〈 図1 資料項目〉
(2) 主体的に学習する道徳の時間の指導過程〈図2〉
道徳の時間では、4つの出会いがあると考えている。
初めに、資料の主人公との出会いを通して、自分と同じような体験や異なる体験をもつ主人公に
共感する。
次に、
友達がこの資料を通して感じとった気持を聞
きあうことで、友達の考えに出会わせる。
続いて、自分の生き方や考え方を振り返らせるこ
とで、これまでの自分と出会わせる。
最後に、学級担任の説話やゲストティーチャーの話を
聞くことで、これからの自分を向き合わせる。
このような指導過程を踏まえることで、資料を通
して子どもが主体的に学ぶことができる。
この指導過程によって授業を組み立ててきた。
〈図2 道徳の時間の指導過程〉
(3) 道徳の時間における言語活動
言語の果たす役割には、下記の2点が考えられるが、道徳においての言語活動では、コミュニケ
ーションや感性・情緒に関することを中心に取り組んでいくことが必要である。そこで、
互いの存在についての理解を深め、尊重していくこと
①
自らの考えをもちつつ、それを相手に伝えようとするとともに相手の思いを理解し、尊重し
ようとする。
② 相手の話をしっかり聞き取り、受け止めようとするとともに、納得したり、合意したり、折り
合いを付けたりするなど、状況に応じて的確に反応する。
感じたことを言葉にしたり、それらの言葉を交流したりすること
①
様々な事象に触れさせたり体験させたりするとともに、感情表現の場合、「何が」「どのよう
に」
「すばらしい」かなど、より的確な表現を考えさせるようにする。
以上の2点を授業の中で取り入れていけば、道徳における言語力は育っていくものと考えられる。
3
研究の実際
(1) 体験活動をもとにした資料作りから〈図3〉
(出水南小学校での実
践)
和菓子づくりの職人さん(自作資料)
きのう、学校で『和菓子づくり』がありました。
~途中 略~
私たちは片岡さんの巧みな技に、目をうばわれました。そして、自分たちも同じように作れるのかと不安になりました。友達の顔
を見ると真剣そのものです。みかんとキキョウを作ったのですが、みかんのお菓子は、皮をむくと本物そっくりの中身が現れて、
みんなの歓声が体育館にひびきました。片岡さんの技は、わたしたちの心を引きつけました。わたしは、最初、和菓子より洋菓子
の方がいいなと思っていました。でも、片岡さんのお話から、日本の食文化や職人さんの苦労や工夫、感謝の気持ち、和菓子の魅
力や作る楽しさが伝わってきました。片岡さんの技術は、わたしたちが短時間でまねできるものではありませんが、和菓子作りの
楽しさは十分に味わうことができました。片岡さんは、「季節には色があり、その色を和菓子で表現することや和菓子は食べるだ
けでなく、目でも楽しむものだと話されました。
〈 図3 自作資料〉
① 主題名 夢に向かって
【1-(2)希望・努力】
② 資料名「和菓作りの職人さん」
③ 主題のねらい
人間は、こうしたい、こうありたいという願いをもち、常に「よりよく生きる」ために生活
し、その願いを現実のものとしていくために、努力していくものである。誰もが現状に甘えて
向上しようという願いをもたなかったら、個人や社会の進歩はありえない。
特に、高学年の段階では、それぞれが高い理想を追い求める時期である。そこで、「より高
い」目標を設定し、その達成に向けて意志と努力の必要性を自覚させていくことが必要となる。
現代においては、くじけずに努力することの大切さが希薄になり、希望にあふれる将来像を抱
けない子どもが少なくない。
そこで、この内容を設定し、少しでもより高い目標を設定し困難や失敗に出会ってもくじけ
ずに努力することが大切であることを理解させ、それが生きがいや幸福につながるものである
ことを押さえたい。
本時の学習でのねらいでは、
「一度決めたことは、困難や失敗にくじけず、ねばり強くやり遂
げようとする態度を育てること」と「片岡さんの生き方とふれ、自己の生き方と比べさせるこ
とによって、自己を見つめ直し、自己の生き方を高めることができるようにする」の2点を掲
げた。
④ 多様な学習活動や体験活動を生かした指導過程の工夫
ア 導入(気づく段階)
ねらいとする価値への方向づけ
a アンケート調査の結果から、どんな夢を学級の友達がもっているのかを知らせ、本時の学
習が将来の夢や仕事に関する内容であることをとらえさせた。
イ 展開前段 (考えを深める段階)
ねらいとする道徳的価値への追求
a
和菓子作りの体験時のビデオを見せながら、事前に作成したBG
Mを入れ資料を流す。 〈図4〉
○発問1では、
「準備や片付けばかりで和菓子作りを教えてもらえ
なかった主人公の気持ちを考えよう。」とし、和菓子作り
の職人さんが、修行中の心のあせりやつらさ・弱さを共感させた。
〈図4 資料提示〉
○発問2では、
「父親の言葉(そんなことでは、立派な職人にはな
れんぞ。職人というものは、人の技を見て学ぶものだ。立派な職人になって帰ってこい。
)
で主人公はどんな気持ちになったでしょう。
」とし、つらさを乗り越えて努力を重ねた主
人公の素晴らしさを捉えるようした。
○
発問3では、
「主人公のように夢と感動を与えられるにはどう
すればよいのだろう。
」とし、グループで話し合いを行わせ、職
人として技術を高めることであり、つらいことを乗り越えて一人
前になれることを感じ取らせた。〈図5〉
〈図5 グループでの話合い〉
ウ 展開後段(自己を見つめる段階)
道徳的価値の自己への投影
a 資料で話し合ったことを生かし、各自の体験などをもとに子どもが自分自身の問題として
捉え直す活動を行った。本時では、書く活動を取り入れた。発問では、「今までに自分の目
標を立ててやり通したことや途中でくじけてしまった時のことを振り返り、その時の気持ち
を道徳ノートに書きましょう。
」とし、書いた後、発表という形を取った。
〈図6〉
僕は、これを見て、とても取りもどせた物があると思います。それは、やる気です。僕は、将来野球選手になりたいと思っ
ています。僕は、初めて野球をやったとき、とても楽しくて、将来は野球選手になりたいと思いました。でも、このごろやる
気がなくなって、野球の練習がめんどうくさくなっていました。でも、この話を聞いて、とてもやる気をとりもどせたと思い
ます。それに、僕のお父さんは病気で入院していて、野球の練習ができませんでした。ですから、今度からは、お父さんの分
もがんばって練習してレギュラーがとれるようがんばりたいです。
私は、5年生からバスケット部に入っています。バスケット部では、5人の人がベストメンバーに入れます。私は,背がそ
こまで高くないので、ガードです。でも、ガードはたくさんいて私は、ベストメンバーではありません。あれだけ、練習して
ベストメンバーに入れないとつらかったです。でも、そんな人は、まだいます。私より、前に入った人でも入れない人がいま
す。夏休みやふつうの休みにとても練習がきついときがたくさんありました。そして、休もうかなとあきらめていたときもあ
りましたが、今は、
「絶対部活を休まない」という目標を持っています。ベストメンバーになれなくても、昨日の自分に勝つよ
うに、決して満足しないようにがんばりたいです。
〈図6 自己をみつめて(子どもの書いた作文)
〉
エ 終末(あたためる段階)
ねらいとする道徳的価値のまとめ
a
教師の説話から、自分の夢や目標に向かって頑張っていく過程には、くじけそうになるこ
とがあるが、それを乗り越えて行くことで、達成した喜びを味わうこともできるし、自分の
夢を実現していくことで、自分の生きがいにもなることにつなげ、意欲的にこれからの生活
ができるような話を行った。〈図7〉
先生の話を聞いてください。先生には、二人の子供がいます。一人の子供は、現在、東京の大学に行って
いるのですが、ソフトテニスを始めてもう、10年になります。全日本メンバーがいる中で、レギュラーに
選ばれるのは、なかなか難しく、3年生の時、何度かやめてしまおうかと思ったことがあるそうです。そん
なとき、ただひたすらに練習する一人の友達の姿を見て、質問したそうです。
「どうして、そんなに頑張れる
の。」すると返ってきた言葉は、「今頑張っておかないと、せっかくチャンスがめぐってきても生かせないじ
ゃないの。
」ということでした。それから、もう一度、練習を頑張っていこうと思えるようになったそうです。
そして今、全日本大学生大会で、見事全国3位の座を勝ち取ることが出来たのです。
〈図7 本授業時における教師の説話〉
⑤ 家庭や地域との教育力を生かす
ア 学級懇談会時に道徳の時間の様子をお話たり、道徳
の時間に書いて学習シートを紹介したりして、子ども
たちの道徳性や思いなどを紹介した。
また、保護者と子どもとの話題にしていただき、子
どもとの会話で道徳性について考える機会として頂く
(図8 学級通信)
よう呼びかけを行った。また、学級通信等で子ども
の素晴らしい行為を紹介することが出来た〈図8〉
。
⑥
基本的な生活習慣を築く
ア 生活の記録を毎日行い、一週間に一度、子どもの反省
と保護者からの一言をいただくことで、子ども・保護者・
教師との三者の関係を深める事ができた。しかも、子ども
自身が生活の目標を振り返る事で、生活をみつめるのに役
〈図9 生活を見つめる)
立てることができた〈図9〉
。
⑦ 成果と課題
ア 成果
a
学校の行事や総合的な学習の時間等を意図的に道徳の時間と関連することで、道徳の時
間にも深まりが生まれ、様々な体験が体験のみに終わらずに済むことが出来た。
b
授業の展開は、パターン化しているが、
「いつでも・どこでも・だれにでも」授業に取り
組め、有効である。
c
研究授業に使用した資料の保存を行い、授業参観の時でも他の担任の使用が容易である。
d
子どもの言語力を高めるには、普段からの人間関係づくりはかかせない。そこで、帰り
の会や学級活動の時間を活用して、「友達の良いところ探し」や帰りの会での「ほめほめ
シャワータイム」を位置づけ、自尊感情を高める取組を行ってきた。
e
下記の表1は、中心価値【1-(2)希望・努力】の意識調査である。5年生時の意識
調査と6年生時の意識調査結果を比べると、一年間で意識が高まっているのを読み取るこ
とができた。これは、道徳の時間で培われた道徳的実践力と道徳的実践とが相互に響き合
って、一人一人の道徳性を高め、道徳の時間以外で行う様々な活動と道徳の時間とを学校
教育活動の中で具現化していった成果ではないかと考える。
表1〈意識調査の結果〉
行為
走ることをやめる。
暖かい日だけ走る。 今日一日だけ、休ん
目標に向け
(時間を短くする)
で、明日から続け
て毎日、しっ
る。
かり走る。
気持ち
寒くて、つらいから。
0(2)
0(3)
1(0)
0(0)
今日は、休みたいな。
0(6)
1(2)
9(1)
0(0)
少しでも続けたい。
0(0)
3(1)
3(17)
5(2)
ここで、くじけたくない。
0(0)
0(0)
1(0)
17(4)
※5年生(6年生)の調査を示す。
イ 課題
a
今回は、川尻の和菓子屋さんを資料化したが、校区の地域の方々や地域にまつわる昔話
なども資料化していけば、地域性を生かした道徳の授業作りが行えると考えられる。
b
子どもが分かりやすい発問をさらに工夫していきたい。
(2)人権啓発パネルをもとにした資料づくりから〈図10〉(泉ヶ丘小学校での実践:泉ヶ丘小学
校の研究テーマに沿ってまとめたものである。)
そんな色のランドセル
か
おじいちゃんとおばあちゃんとひろしさんと三人でランドセルを買いにまちまで出かけました。
広いランドセル売り場には、音楽が売り場いっぱいになりわたっていました。そこには、さまざまな色のランドセルがならん
でいます。
ひろしさんは、心がはずみました。ひろしさんは、どれにしようかなとまよいなんどもランドセル売り場をぐるぐると見て
まわりました。しばらく考えて、ひろしさんはみどり色のランドセルをえらぶことにしました。ひろしさんが、
「みどり色のランドセルがいいよ。」
と言うと、おじいちゃんとおばあちゃんは口をそろえて、
「だれもそんな色のランドセルはもっていないよ。きっとこうかいするから、やめておきなさい。」
と言いました。ひろしさんは、
「みどり色がすきなのに、どうしてすきな色をえらんじゃいけないの。」
と、おじいちゃんとおばあちゃんに言ってなっとくしません。
〈図10 自作資料〉
① 主題名 自分らしく(個性伸長)
② 資料名 そんな色のランドセル(じんけんパネルから)
③ 主題について
色による男女の区別は生まれたときのベビー服の色に見られるように、様々な場面で幼い頃
から「男の子の色」「女の子の色」の区別を経験してきている。子どもの衣服の色に見られる
ように、最近では色による男女の違いはだんだん少なくなってきているが、絵本や童話の挿絵、
テレビでのアニメの主人公の服装を見ても女の子はピンク、オレンジ、赤という暖色系、男子
は青、緑と言った寒色系で性別を表すことが多いようである。
このような中でも、現代の小学校低学年の子どもたちは、自分の好みで好きな色を選ぶよう
になってきている。しかし、色のイメージに関して、
「男の子の色」
「女の子の色」と大人の通
念に左右されていることが多い。そこで、性別にかかわりなく、色のイメージを自由にとらえ
ることができるように、また、色自体を性別に分け、個人の選択の幅を狭めることがないよう
にしたい。
このような実践を通して、性別にかかわりなく、自分の能力や自分らしさを十分に発揮する男
女共同参画社会の実現者となる資質や能力の基礎を培っていきたい。
④ 指導の実際
ア 言語活動について
a
友達の話を積極的に傾聴したり、自分の思いを発言したり
することができる。
b
資料の読み聞かせを通して、疑問や感想を出させ、一人
一人が、自分には関係ない出来事であると言う意識をなくすために、自分だったらどのよ
うな気持ちになるだろうかを〈図11役割演技〉
考え、役割演技を取り入れて、一人一人のいろんな思いを伝え合うようにする。
イ 分かりやすい学習活動について
a
スモールステップとして、 資料の中の人物を分かりやす
く挿絵を使う。
b
それぞれの役を決め、役割演技を行う〈図11〉
。
c
身近な課題として、ひろしさんの妹のよし子さんがランドセル
を買うとしたら、
「どんなアドバイスをするか。
」を考えさせ、リ
アル性を出す。
〈図12 視覚化〉
ウ 視覚化(見える化)について〈図12〉
a
各自のランドセルを写真にし、視覚的にどんな色のランドセルが多いかを捉えさせる。
b
動作化をおこない、自分がランドセルを買いに行った経験
とそのときの気持ちを。想起させる。
エ 小グループによる共同学習について
それぞれの心情をつかませるために、隣同士で役割演技を行う。
オ 確かなルール設定について
発表の場を設定し、人の話をしっかり聞き、拍手をする〈図13〉。
〈図13 発表の場〉
⑤ 成果と課題
ア 成果
a
b
子どもたちの実態を十分にふまえ、授業に生かすことができた。
校内研修の事前研を開き、内容の検討を行ったので、本時に生かすことができた。
c 「男の子の色」
「女の子の色」という通念にとらわれず、性別にかかわりない色のとらえ
方ができる子どもが増えた。
d
友達の違いに気付き、それぞれのよさを帰りの会の「ほめほめシャワー」タイムで、
発表する子が増えた。
e
低学年に親しみやすいように、吹き出しを活用した板書にすることができた。
f
板書の配置を工夫することで、子どもを引き付けるような板書となった。
g
役割演技を入れたことで子どもたちの考えが深まったように感じた。
イ 課題
a
今回の授業で、人の考えを否定するのではなく、人の考えを受け入れながら、自分の考
えをしっかりと伝えていくことの大切さを感じた。
b 茶色のランドセルを選んだ子どもたちに、なぜ、その色を選んだのかを聞いてみると学
習の幅が広まったのかも知れない。
c
時代と共に、消費者のニーズに応えられるようになってきているので、ランドセルの色
も多様化してきている。今回使用した資料が、子どもたちの実態に即していたものか、
資料選定の段階で、これで良かったのか考える必要があった。
⑥ 講師の講話より〈図14〉
色をはじめとした偏見や身近な差別にもっとアンテナを高くすることです。今日の授業の中の子どものつぶやきに、
「やはり、
男の子・女の子の色があるじゃん。」というつぶやきがありました。こういう素直なつぶやきにも耳を傾けていくことが大切だ
と思います。また、もっともっと子どもたちや保護者との距離を縮め、共に歩む関係を築きたいと思います。
つぎに、
「わがまま」と「自分らしさ」を、子どもたちが履き違えないように、周りの人たちとの繋がりに、もっともっと関心
を持たせることを取り組みたいと思います。具体的には、子どもたちに大人や仲間の気持ちをしっかりと伝えること、分りや
すく説明することなどに取り組みたいと思います。
〈図14 講師の講話〉
(3) 自分の体験をもとにした資料作りから〈図15〉(出水南小学校の実践からと泉ヶ丘小学校
での実践に向けて)
私を支えた6枚のはがき(自作資料)
今から約一年と六か月前のことです。
一月の中旬、足のふともものあたりにしこりがあることに気付きました。しこりの部分は、痛みもないので数日はほってお
きました。しかし、リンパ腺がはれているなら、何らかの原因があるのではないかなと思った私は、病院に行って検査をする
ことにしました。
病院では、血液の検査やエコーを取ってみたのですが、血液の異常がないので、原因がわかりませんでした。そのため、
「し
こりの部分を取って、検査しましょう。
」ということになりました。
検査のための手術をしてから、約 1 か月余り経った日のことです。なかなか、検査結果が出ないので、私は、
「先生、異常なかったら、申し訳ないですけど、忙しい時期なので電話で検査結果をお知らせ願えませんか。」と医者に伝え
ました。
すると、先生からの言葉は、思いもかけないものでした。
~略~
〈図 15 自作資料〉
① 主題名 思いを伝える【2-(2)思いやり・親切】
② 資料名 「私を支えた 6 枚のはがき」
(自作資料)
③ 主題について
人が社会という集団生活の中で共に生きるうえで、相手のことを思いやることは、人間関係
を豊かにし、温かくするために欠かせないことである。コマーシャルに、「思いは見えないけ
れど、思いやりは見える。
」といった言葉の通り、相手の立場を「わが身に振り返って思いや
る」ときに、本当の親切が実現する。つまり、親切とは相手の心や相手の置かれている立場や
状況に一致して、適切な手を差し延べることである。
特に、高学年の段階では、
「親切にしたい」という気持ちだけに止まらず、
「困っている人を
見ると、助けずにはいられない」という内面的自覚にまで高めることが重要である。
他人とかかわり、だれかの役に立つことで、親切にすることのよさを実感させたい。また、
本当の思いやりとは何かを考えさせ、進んで相手のことを思いやる心を育てていきたい。
ア 本時のねらい
誰に対しても思いやりの心をもち、相手の立場に立って温かく接しようとする態度を養う。
イ 本時の展開
学習活動
気
づ
く
5
分
1
CMを視聴し、
気づいたことを
発表する
主な発問と子どもの反応
このCMを見たことが
ありますか。このCM
が伝えたいことはなん
でしょうか。
心の中で思っても、実
際に行動しないとわ
からない。
2
考
え
を
深
め
る
22
分
資料「私を支
・感想を発表しよう。がん
えた6枚の手紙」
と言うとどう思います
か。
う。
(1) 先生に「完治す
るのですか。
」と
尋ねることがで
きなかった時の
私の気持ちを考
える。
読んで、私が「も
つそう。
・
なぜ、私は、先生に「完
治するのですか。」と聞
けなかったのでしょう。
ろう」という気持
ちになったのは
なぜか考える。
(3) 私を支えてくれ
た6枚のはがき
言われた時のショック
完治できないと言
が大きすぎて、聞けなか
われたら、ものす
った。
ごくショック。
「もう一度仕事にもど
ろう」という気持ちにさ
せてくれたのは、なぜで
しょう。
う一度仕事に戻
あた
ため
る
3分
れないと思う。き
を聞いて話し合
(2) 6枚のはがきを
自
己
を
見
つ
め
る
15
分
怖い。死ぬかもし
元気をもらえた。・先
生は、出水南のことが
だいすきだから、学校
・子どもたちが頑張って
と 先生を つなげ てく
いるから先生も勇気を
れた。
もらえた。
6枚のはがきには、私を
支えるどんな力が隠さ
れているのでしょう。
・子ども達が先生に感謝している。
・先生を応援する気持ちの力が入っ
ている。
・あきらめな
・みんな頑張っているから応援する
には、どんな力が
いでという力
力
あるのかを話し
が入ってい
合う。(本当の思
る。
いやりとは。
)
今までに、相手の気持ちを察して、思い
やりのある行動や親切にできたことはあ
りませんか。
※学習シートに記入することで自分を見つめていった。
3
・思いやりを心がけたい。
・思いやりに力が入っている。
・病気の友達に手紙を書いた。
・休んでいる友達に電話をした。
・いじめている人に注意をした。
・父母に感謝の気持ちで手伝いを
した。
これまでの自
分やこれからの
体験を想起し自分をふり返る発表をした児童に対し、子ども同士で感想を述べ
自分を見つめる。
合い、学び合いを深めながらコミュニケーション力をつけていった。
4教師の説話を聞
く
3月11日に発生した東日本大震災について、先生が、思っているこ
とを話します。
ウ 考察
a
上記の授業は、出水南小学校での授業をまとめたものである。出水南小学校では、授業
者が飛び込みの授業にもかかわらず、子どもたちは、しっかり考えて自分の考えを発表す
ることができていた。
b
この授業を、平成 27 年2月5日の「わくわく授業研究会」で、授業公開する予定であ
る。展開過程において、展開後段に「自己を見つめる」としていたが、資料と自分とをつ
なげることに難しさが見られたので、展開後段を「今日の学び」と位置づけ授業を行う。
そして、学んだことをまとめながら、自分自身を振り返えらせると書くことが容易になる
と考えている。また、「今日の学び」を入れることで、これからの道徳の教科化に向けて
の一提案としたいと考えている。
4
終わりに
道徳の時間をいろんな視点から取り組んできたが、大きな成果は、道徳の時間が楽しいといえる
子どもが増えてきたことである。道徳の時間では、いろいろなお話が聞けて楽しいから、自分の意
見や思いを言えるから、みんなが自分の話を聞いてくれるから、また、家庭で道徳の時間に、「こ
んなお話のお勉強をしたよ。
」と話題になるから、などの理由があげられている。
また、週一時間の授業を毎週積み重ねていくことの大切も実感した。毎時間、きちんと授業を重
ねることで、子どもたちは、自分の言葉で自分を語り、友達に認められる場が設定されることで、
自尊感情の高まりを見ることが出来た。自尊感情の高まりによって、友達のよさにも気付くことが
でき、学級集団としての安心感と強い人間関係が築かれていくことも分かった。
子どもたちは、様々な体験活動や道徳の時間に自分の居場所が確保され、自分の存在が認められ
ているという実感をもてるようになってきた。
このことが「心」を育て、子どもたちの学習意欲につながっている。
道徳教育によって、「学級経営ができる」と言っても過言ではない。これからも、道徳の時間を
通して、自分の行為を見つめ、自分らしく生きることができる子どもたちを育てていきたい。
ある会合で、一人の青年が乱れた靴をそろえていた場面に出くわした。それを見た、私は、「親
の躾がいいのだな。
」と感心した。その青年に、
「なぜ、靴をそろえたの。
」と尋ねると、青年は、
「陰
徳という言葉をご存じですか。
」と言う。
「陰徳」とは、人知れず、
「徳」を積むことである。
「自分
は、一日一つ、徳を積むことにしているのです。
」とにっこりとした笑顔で答えた。
一つの行為は、
「徳」を行う側も、
「徳」を見る側もさわやかな気持ちになる。道徳の時間のみに
「徳」を解くのではなく、自らの行為によって、「徳」を導いて行くことの大切さも改めて学ばせ
てもらうことができた。
永年、道徳教育に関わって分かったことは、「教師の熱意と実践」である。子どもの心をゆさぶ
り、そして、行動を変えるためには、
「大人であっても、感動する気持ちを忘れず、子どもを信じ
継続して研究に取り組んでいくこと」であると結びたい。
今回、これまでの教育実践をまとめてみたが、この機会をいただいたことに感謝する。
参
考 文 献
文部科学省『小学校学習指導要領解説 道徳編』平成20年8月
八田 久弥『道徳授業の新しい展開』小学館 1995年
押谷 行夫・ 新宮 弘識・上杉賢士『道徳の授業をひらく』国土社 1997年
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