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地球温暖化防止コミュニケーターガイドブック≪基礎知識編≫WG2

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地球温暖化防止コミュニケーターガイドブック≪基礎知識編≫WG2
ガイドブック 〜 基礎知識編 〜
2
2016年2月12日版
2015年3月11日 確定版
WG2 基礎知識編
1. INDEX
目次
1 INDEXと本ガイドブックの見方
P01
2 序章
P03
2-1
2-2
2-3
2-4
2-5
IPCCとは
RCPシナリオ
評価報告書における表現
WG2に関連するWG1の内容
AR5 WG2報告書の特徴
3 世界の影響、リスク、適応の考え方
3-1
3-2
3-3
3-4
3-5
3-6
3-7
世界で観測された影響
主要な8つのリスク
5つの懸念材料(RFC)
脆弱となる要因
気候変動のリスクマネジメント
リスクに対する適応
緩和と気候変動リスクの関係
4 分野別の観測結果・将来予測・適応
4-1
4-2
4-3
4-4
4-5
4-6
4-7
4-8
4-9
4-10
4-11
P12
淡水資源
陸域及び淡水生態系
沿岸システム及び低平地
海のシステム
食料安全保障及び食料生産システム
都市域
農村域
主要な経済部門及びサービス
人間の健康
人間の安全保障
生計及び貧困
5 地域別の観測結果・将来予測・適応
5-1
5-2
5-3
5-4
5-5
5-6
5-7
5-8
5-9
P76
アジア
アフリカ
ヨーロッパ
オーストラレーシア
北アメリカ
中央・南アメリカ
極域
小島嶼
海洋
6 将来のリスクマネジメントとレジリエンスの構築 P105
6-1
6-2
6-3
6-4
6-5
6-6
6-7
6-8
効果的な適応に向けて
様々な適応オプション(選択肢)
不適切な適応
適応のコスト
効果的な適応
気候に対してレジリエントな経路と変革
気候にレジリエントな経路
変革の例
P20
7 用語の解説
P118
1
1. INDEX
資料の構成と本ガイドブックの見方
資料の構成
ガイドブックの見方
2. 序章 〜 第5次評価報告書に関する基本情報 〜
各ページの内容について、該当するものに印がついています。
AR5
: AR5で示された内容
Q&A
: 伝える場で出そうな質問と答え
関連情報 : 内容に関連する事項
3. 世界の影響、リスク、適応の考え方
観測結果
過去の観測・研究結果など
将来予測
将来の見通し
適応策の例など
適応
4. 分野別
5. 地域別
3. 分野別
3-6
将来予測
都市域
✔ AR5
Q&A
✔ 関連情報
都市には、人と資産が集中しているため、気候変動に伴うリスクも大きい
都市のヒートアイランドは、2070年代には気候変動に加えて1~1.5℃の気温上昇をもたらすと予測されています。豪雨や高潮による氾濫や洪水は、
家屋や公共施設の浸水・破壊、水源の汚染、生活やビジネスの喪失、水媒介感染症の増加を引き起こす可能性があります。特に大規模な港湾施設
や石油化学・エネルギー関連産業を持つ都市は、洪水のリスクに脆弱です。下図は、海面が現在よりも0.5m上昇し、熱帯低気圧の降雨強度が10%強
くなった場合の、被害金額が高い上位20都市を示したものです。
観
測
結
果
将
来
予
測
適
応
観
測
結
果
将
来
予
測
 2070年代の気候変動における曝露資産上位20都市の分布
AR5以外の関連図
適
応
2070年代における人口と資産の沿岸洪水に
よるリスクの上位20都市のランキングは、アジ
アのデルタ地帯に集中しています。
また、資産のリスク上位20都市には東京、大
阪-神戸、名古屋も含まれています。
FACシナリオ※1における
曝露資産(百万ドル)
※1 Future city all changes シナリオ。0.5m海面水位が上昇し、
熱帯低気圧の降雨強度が10%増加し、経済・人口は現在
のものを反映したシナリオ
◇AR4では◇
都市域という章立てはありませんでした。
出典:Hanson et al., 2011, Fig.8
61
6. 将来のリスクマネジメントとレジリエンスの構築
7. 用語の解説
・ AR5のWG1又はWG3の図
・ 文章はAR5の内容であるが、図等
を他の資料から掲載しているもの
また、必要に応じて図の見方や解説、
AR4との比較なども記載しています。
2
AR5
Q&A
関連情報
2. 序 章
3
2. 序 章
2-1 IPCCとは
✔AR5
■ IPCCとは
IPCCは、 1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織で、現在の参
加国は195か国、事務局はスイス・ジュネーブにあります。IPCCでは、人為起源による気候変動、影響、適応及び
緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行い、報告書としてとりまとめてい
ます。「第5次評価報告書」(2013年~2014年)は、世界中で発表された9,200以上の科学論文を参照し、
800名を超える執筆者により、4年の歳月をかけて作成されました。
■ これまでに出された評価報告書
第1次評価報告書
(FAR)
1990年
第2次評価報告書
(SAR)
1995年
第3次評価報告書
(TAR)
2001年
第4次評価報告書
(AR4)
2007年
人為起源の温室効
果ガスは気候変化
を生じさせるおそ
れがある。
識別可能な人為的
影響が全球の気候
に現れている。
過去50年間に観測さ
れた温暖化の大部分
は、温室効果ガス濃
度の増加によるもの
であった可能性が高
い。
気候システムの温暖化には疑
う余地がない。20世紀半ば以
降に観測された世界平均気温
の上昇のほとんどは、人為起
源の温室効果ガス濃度の増加
によってもたらされた可能性
が非常に高い。
ストックホルム
2014年3月
横浜
2014年4月
ベルリン
2014年10月
コペンハーゲン
第1作業部会(WG1)
報告書
第2作業部会(WG2)
報告書
第3作業部会(WG3)
報告書
統合報告書(SYR)
気候システム及び
気候変動の
自然科学的根拠
についての評価
気候変動に対する
社会経済及び自然
システムの脆弱性、
気候変動の影響
及び適応策の評価
✔関連情報
IPCC AR5 執筆者について※1
IPCC評価報告書の作成には世界中からノミネート
された大変多くの研究者の中からIPCCビューローに
よって選出・承認されます。
その選出には、各章立てに、研究者の専門性や研
究の質、また全体の地域的なバランス(先進国や、
ある一定の国から執筆者が集中しないようにする
等)を考慮して選ばれます。
日本※2からの執筆者はWG1に10名、WG2に11
名、WG3に10名、SYRに1名、のべ32名です。
執筆者は、基本的に下記のように分類されています。
統括執筆責任者(CLA)
担当章全体の執筆方針及び
編集及び執筆を担当する。
方針を決める
代表執筆者(LA)
ある章の中の担当部分の原稿を
実際に執筆する。
■ 「IPCC第5次評価報告書」(AR5)公表の流れ
2013年9月
Q&A
温室効果ガスの
排出削減など
気候変動の緩和策
の評価
WG1~WG3の
報告書と特別報告書
の内容に基づき
AR5の最終文書とし
て気候変動に関する
総合的見解を提示
執筆する
AR5
査読編集者(RE)
担当章全体の査読を通し、
編集に貢献する。
査読する
※1:参考 IPCC WG1国内事務局HP (http://ipccwg1.jp/AR5/writer.html)
及びIPCC HP(https://www.ipcc-wg1.unibe.ch/AR5/wg1authors.pdf、
http://www.ipcc-wg2.gov/AR5-tools/WGII-AR5_Authors.pdf、
http://www.ipcc-wg3.de/assessment-reports/fifth-assessment-report/Authors、
http://www.ipcc-syr.nl/index.php/authors-and-review-editors)
※2:執筆者の記載情報がJapan(国籍・国/組織)
4
2. 序 章
2-2 RCPシナリオ
✔AR5
Q&A
✔関連情報
■「RCPシナリオ 」とは
RCP(Representative Concentration Pathway)シナリオは、代表的濃度経路に関する将来シナリオ ※1であり、 AR5で主に用いられています。RCPシナリオは、IPCCの要請により開発されたもの
です。これは既存のSRESシナリオが更新(排出の基準年)や対象範囲の拡大(ガス種の増加、SRESで考慮されなかった450ppm CO2換算のような低濃度のシナリオなど)を必要としていたためです。
○RCPシナリオの特徴
AR5以外の関連情報
■ 各RCPシナリオの特徴
・ 1つのベースラインシナリオを除き、温室効果ガスの緩和策を扱っています。
2100年における温室効果ガス濃度
濃度の
・ 将来の温室効果ガス(GHG)濃度の安定化レベルと、そこに至るまでの経路のうち、 シナリオ
放射強制力
名称
(CO2濃度に換算)
推移
代表的なものを4つ選んだシナリオです。
RCP8.5
2100年において8.5W/㎡を超える
約1,370ppmを超える
上昇が続く
・ これら4つのシナリオは、2100年時点での放射強制力に対応した温室効果ガスの
濃度を仮定した濃度シナリオです。その濃度はAR4やそれ以降の研究から、将来あ
RCP6.0
2100年以降、約6.0W/㎡で安定化
約850ppm(2100年以後安定化)
安定化
り得ると考えられる上限(8.5W/m2)のRCP8.5と下限(2.6W/m 2)の
RCP4.5
2100年以降、約4.5W/㎡で安定化
約650ppm(2100年以後安定化)
安定化
RCP2.6が設定されており、その間にRCP4.5、RCP6.0が用意されています。RCP
RCP2.6
2100年以前に約3W/㎡でピーク、その後減少
2100年以前に約490ppmでピーク、その後減少
ピーク後減少
の後に続く数値は放射強制力(→ガイドブック「WG1 基礎知識編」p.8参照)を
出典:Van Vuuren, Detlef P., et al. “The representative concentration pathways: an overview.” Climatic Change 109 (2011): 5-31.1から作成
表しています。
■RCPシナリオの各WGにおける位置づけ
【WG1】
【WG3】
年間GHG排出量(Gt-CO2換算/年)
CO2換算
90パーセンタイル※
CO2換算
中央値
CO2換算
10パーセンタイル※
【WG2】
2100年のGHG濃度と
RCPシナリオの位置
2000年から2100年までのGHG排出経路:全てのAR5シナリオ
関連情報
1000ppm超
RCP8.5
CO2換算
気候予測
影響などの評価
気候予測
影響などの評価
気候予測
影響などの評価
720-1000ppm
CO2換算
RCP6.0
CO2換算
AR5データベース
全体の範囲
580-720ppm
RCP4.5
530-580ppm
※10パーセンタイルとは、下から10%の値、
90パーセンタイルは、90%より大きい
値をそれぞれ除いたという意味。つまり、
上下10%を除いた範囲のこと。
480-530ppm
430-480ppm
RCP2.6
(年)
気候予測
影響などの評価
参考:IPCC AR5 WG1、WG2及び
WG3 SPM Fig SPM.4、Table
SPM.1から作成
【WG1】:各RCPシナリオに基づいて将来気候を計算しています。この計算結果を「気候シナリオ」と呼びます(緑色枠)
【WG2】:気候シナリオを基に、将来の様々な分野の指標について「影響」、「適応」、「脆弱性」を計算しています(青色枠)
【WG3】:緩和の評価を行うために、世界の研究機関から将来排出量の推計結果(約1200通り)を収集しました。このうち、約300がベースラインシナリオ(排出を抑制しようとする明確な追加的緩和努力がな
いシナリオ)、約900が緩和シナリオであり、後者は緩和政策のタイミングやGHG濃度、技術制約などに分類され、詳細な分析に用いられています。これら1200のシナリオのうち代表的なもの4つがRCP
シナリオと呼ばれています(赤色枠)(→ガイドブック「WG3 基礎知識編」p.22, p.23参照)
【参考】SRESシナリオの特徴
・ 主にTAR、AR4で用いられていた排出シナリオです。一部AR5でも用いられています。
・ 社会経済の将来像(経済発展重視か環境と経済の調和を目指すのか、グローバル化か地域主義化か)を考慮していますが、追加的な気候変動対策(緩和策)は考慮されていません。SRESのあとに続く英数字が、想定している将来の社会経済を表します。
A1 ※1:高度経済成長が続き、世界人口は今世紀半ばにピーク、その後減少。新技術や高効率化技術が急速に導入される社会。エネルギーシステムの技術革新の選択により3つに分かれる。化石エネルギー源重視(A1FI)、非化石エネルギー源重視(A1T)、全てのエネルギー源のバランス重視
(A1B)
A2 ※2:世界の各地域が固有の文化を重んじ、多様な社会構造や政治構造を構築する。世界の人口は増加を続ける。世界の経済や政治がブロック化するため、地域間格差が広がり、全体として経済発展は遅れる。経済成長が低めであるため、技術革新が遅れ気味と なる
B1 ※1:地域間格差が縮小した世界。経済、社会、環境の持続可能性のための世界的な対策に重点が置かれる。21世紀半ばに世界人口がピークに達し、後に減少するが、経済構造はサービス及び情報経済に向かって急速に変化し、物質志向は減少し、クリーンで省資源の技術が 導入される
B2 ※1:経済、社会及び環境の持続可能性を確保するための地域的対策に重点が置かれる世界。経済発展は中間的なレベルに止まり、 B1とA1の筋書きよりも緩慢だが、より広範囲な技術変化が起こる
参考. ※1:気象庁「気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第三次評価報告書 第一作業部会報告書 気候変化2001 科学的根拠~政策決定者向けの要約(SPM) 気象庁訳」、※2:環境省「4つの社会・経済シナリオについて-温室効果ガス排出量削減シナリオ策定調査報告書-」
5
2. 序 章
2-3 評価報告書における表現
✔AR5
Q&A
関連情報
■ IPCCの評価報告書における「確信度」と「可能性」の表現
気候変動の予測は、観測、仮説の設定、実験、コンピューター上でのモデル実験等に基づいて結論を出しますが、それぞれの過程において、不確実性が
生じます。そこで、その不確実性がどの程度、結論に影響を与えるかを考慮し、「結論の確からしさの度合い」を執筆者チームで検討します。
「結論の確からしさの度合い」のうち、質的な確からしさは「確信度」という物差しで表現します。また、確からしさが、量的にも評価できる場合、「(確から
しさの)可能性」という物差しで表現します。
○「確信度」 → モデル、解析あるいは意見の正しさに関する質的な確からしさを表す用語です。“証拠(例えば、データ、モデル、理論、専門家の判断
など)の種類、量、品質及び整合性”と“特定の知見に関する文献間の競合の程度などに基づく見解の一致度”に基づいて、定性的に
表現されます。
○「可能性」 → はっきり定義できる事象が起こった、あるいは将来起こることについての確率的な評価を表す用語です。
□ 「可能性」の定義
□ 「確信度」の定義(証拠、見解の一致度との関係)
見解一致度は高い
見解一致度は高い
見解一致度は高い
High agreement
High agreement
High agreement
非常に高い
証拠は確実
Very high
Limited evidence
Medium evidence
Robust evidence
高い High
見解一致度は中程度
見解一致度は中程度
見解一致度は中程度
Medium agreement
Medium agreement
Medium agreement
証拠は確実
Medium
Limited evidence
Medium evidence
Robust evidence
低い Low
見解一致度は低い
見解一致度は低い
見解一致度は低い
Low agreement
Low agreement
Low agreement
Limited evidence
Medium evidence
Robust evidence
見解の一致度
証拠は限定的
証拠は中程度
証拠は限定的
証拠は限定的
証拠は中程度
証拠は中程度
証拠は確実
中程度
非常に低い
Very low
確信度の尺度
証拠(種類、量、質、整合性)
ほぼあり得ない
6
2. 序 章
観測結果
2-4-1 WG2に関連するWG1の内容
✔AR5
Q&A
関連情報
WG1では、観測結果として下記のような内容が整理されています。
 気候変動(→用語解説)の要因
 海洋
人間による影響が20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的
な原因であった可能性が極めて高い
 気温
1880年から2012年までの間に、世界平均気温は0.85℃上昇した
 1901-2010年の間に世界の平均
海面水位は19cm上昇した
 1971-2010年に海洋表層の海水
温が上昇したことはほぼ確実
 海洋は人為起源のCO2を吸収し、海
洋酸性化を引き起こした
図. 世界平均海面水位の変化
(1900-1905年平均を基準)
 雪氷圏
年
図. 1850-2012年において観測された世界平均地上気温(陸域+海上)
の偏差(1961-1990年平均からの偏差)
 北半球の春季の積雪面積や北極の
夏季の海氷が減少し続けている
 世界各地で氷床・氷河が減少した
 永久凍土の温度が上昇した
 水循環
1901年以降、北半球中緯度の陸域で降水量は増加した
図. 北極域海氷面積の変化(7-9月平均値)
 異常気象の例
現象及び変化傾向
陸地における年降水量の10年あたりの変化傾向(mm)
図. 観測された陸域の年降水量の変化
変化発生の評価(特筆ない限り1950年以降)
ほとんどの陸域で暑い日や暑い夜の頻
度の増加や昇温
「可能性が非常に高い」
大雨の頻度、強度、大雨の降水量の
増加
減少している陸域より、増加している陸域の方が
多い「可能性が高い」
強い熱帯低気圧の活動度の増加
長期(百年規模)変化の確信度が低い
1970年以降、北大西洋では「ほぼ確実」
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約
7
2. 序 章
将来予測
2-4-2 WG2に関連するWG1の内容
✔AR5
関連情報
Q&A
WG1では、将来予測として下記のような内容が整理されています。
 気温
 海洋
世界平均気温は、1986-2005年平均に対して21世紀末に最大で
4.8℃上昇する
21世紀末に、世界平均海
面水位は、 1986-2005年
平均に対して最大82cm上
昇する
82cm
 雪氷圏
図. 将来の海面水位変化の予測
北極域の海氷がほぼ消失する可能性がある
4.8℃
図. 世界の平均気温の変化の予測
 水循環
※
※
湿潤地域と乾燥地域での降水量の地域差が拡大する
RCP2.6
RCP8.5
RCP2.6 図. 北半球(9月)の海氷面積の予測 RCP8.5
(2081-2100年平均と1986-2005年平均の比較)
 異常気象の例
※北極域の海氷面積の気候値と1979-2012年における傾向を現実
にかなり近く再現したモデルのみによる結果を平均したことを表す
現象及び変化傾向
図. 年平均降水量変化の予測
(1986-2005年平均と2081-2100年平均の差)
将来変化の可能性(21世紀末)
ほとんどの陸域で暑い日や暑い夜の頻度の
増加や昇温
「ほぼ確実」
大雨の頻度、強度、大雨の降水量の増加
中緯度の大陸のほとんどと、湿潤な熱帯域で
「可能性が非常に高い」
強い熱帯低気圧の活動度の増加
北西太平洋と北大西洋で、
「どちらかといえば(可能性が高い)」
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約
8
2. 序 章
2-5-1 AR5
WG2報告書の特徴
✔AR5
Q&A
✔関連情報
第2作業部会報告書の特徴を一言でいうと
「気候変動が人間社会にどう影響し、私たちが何をすべきかが分かりやすくなった」
今回の報告書では、気候変動の影響にどう対応するか(専門用語では「適応」 (→用語解説)といいます)、適応できない領域も含めて、気候変動が
人間社会に与える影響と社会の適応方法が詳しく示されました。
世界人口の半分を占め、今後も人口増加が予想される都市域のパートが、章として独立しました。さらに、適応するだけでなく、適応を機会に、もっと良い社
会にするにはどうしたらいいか。その方法、実例を挙げながら報告しているところに、今回の報告書の特徴があります。
■ 日本で初めて開かれたIPCC総会後の記者会見風景(2014年3月31日
横浜市)
9
2. 序 章
2-5-2 AR5
WG2報告書の特徴
✔AR5
Q&A
✔関連情報
第2作業部会報告書の6つの特徴
1.人間と社会への影響・人間の適応に焦点
特に焦点が当った箇所は、次の4点です。
①気候変動によって人間社会と自然システムがどう変容しつつあるか、また、適応できる限界はどこか
②持続可能な開発をすすめるうえで、関係する諸要素の間には、どんな相乗効果があるか(簡単に言うと、将来世代も幸せに暮らせる条件と気候変動
対策との間に、どんな関係や相乗効果があるか。それを評価した)
③気候変動に対応するリスク・マネジメント
④制度、社会、文化、及び価値観と結びついた諸課題と、気候変動問題との関係
2. 文献数が、2005年〜2010年の間に2倍以上の増加  地域別の気候変動に関する文献数
文献数の増加で、政策形成を支える上で、今まで以上に
しっかりした評価が出来るようになりました。
地域別の気候変動
文献数
公表時期
1981-1990
※20世紀最後の10年(赤いバー)と
21世紀最初の10年(青のバー)で
比べると、論文数の激増が分かります
1991-2000
2001-2010
出典: AR5 WG2 第1章 Fig 1-1(B)一部改編
10
2. 序 章
2-5-3 AR5
WG2報告書の特徴
✔AR5
Q&A
✔関連情報
第2作業部会報告書の6つの特徴
3.気候変動に関する諸科学(自然科学から社会科学、人文科学まで)が、急速に進歩
気候変動に適応しながら、発展する道筋を選ぶ。そのための政策をつくるには、様々な情報が必要です。科学の進歩で、そうした情報を提供できるように
なりました。社会には数多くのストレス要因があります。ストレスに対し、しなやかに〝適時適所”に 適応する能力を“レジリエンス(→用語解説参照)”
と呼びます。気候変動は数あるストレス要因の一つです。
数あるストレス要因に対し、“適時適所”に意思決定する機会と、その場所を「(気候変動に適応すると同時にもっとよい社会に変えていくための)機会
の空間」と、報告書は名づけました。
この「機会の空間」で、気候変動と対応の結果を観察し、経験を重ね意思決定を続けていくことが、社会と自然の行方に影響を与えます。
4.「適応」が気候変動研究、国レベルの計画、気候変動戦略の実施において、中心領域として台頭
政府や民間が発行した多数の文献を読むと、①適応の機会、②適応、緩和、③持続可能で現在の発展様式の代替案となる道筋、この3者の関係に
焦点が当っていることが分かります。
社会全体を大きく変える「過程」に関する研究※1が台頭していることも、文献から分かりました。適応計画、発展戦略、社会の維持、減災やリスクマネ
ジメント。これらの間の相乗効果を勘案しながら、社会を大きく変えるにはどんなステップを踏むべきかという研究です。
※1:適応的統合システム研究、トランジション・マネジメント等の研究を指します。トランジション・マネジメントとは、社会がある安定状態から次の安定状態に移る
までの移行期間(トランジション)をマネジメントする手法です。EU(欧州共同体)やオランダ政府の、エネルギー政策や気候変動政策の策定の際にも使わ
れています(出典:John Grin他、 Transitions to Sustainable Development, 2010, Routledge)
5. 今回の評価報告書の主な特徴とイノベーション
主要な知見は、厳密に定義され、意味や程度の違いも区別された 〝言語”によって提示されました。これによって、知見の不確実性の度合いや、科学
者間で見解が何処でどの程度割れているのか、という点も伝えています。また、知見の根拠と科学者間の合意に関する記述を用意することで、他者が知
見を検証できるようにしました。
6.気候変動の影響と気候モデルの予測
報告書で扱う気候変動の影響については、『排出シナリオに関するIPCC特別報告』(SRES(→p.5 2-2「RCPシナリオ参照」))や、新たな「代表
的濃度経路」シナリオ(RCPシナリオ(→p.5 2-2「RCPシナリオ参照」))を使用した気候モデルに基づいています。
11
AR5
Q&A
関連情報
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
12
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-1 世界で観測された影響
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動が、すべての大陸や海洋において自然や人間社会に影響を及ぼしている
ここ数十年の間に、すべての大陸と海洋において、気候変動が自然や人間社会に影響(→用語解説)を及ぼしています。
また、気候変動の影響は、自然システムにおいて最も強くかつ包括的に現れています。
 ここ数十年における気候変動に起因する影響の世界的パターン
【図の見方】~海洋生態系のアイコンを例として~
北極
<アイコンの中の色>
(中白)
気候変動による影響の
度合いが小さい
ヨーロッパ
北アメリカ
(中塗)
気候変動による影響の
度合いが大きい
アジア
小島嶼
アフリカ
<確信度>
中央・
南アメリカ
(白抜き1つ)
→ 非常に低い
(濃色3つ+薄色1つ)
→ 中程度~高い
オーストラレーシア※
南極
気候変動に原因があ
ることの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
確信度の幅
を示す
非常に
高い
◇AR4では◇
【気候変動に起因する観測された影響】
物理システム
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
人間及び管理システム
生物システム
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
地域規模の
影響
海洋生態系
中白: 気候変動による影響の度合いが小さい
中塗: 気候変動による影響の度合いが大きい
すべての大陸及びほとんどの海洋の観測によって得
られた証拠は、多くの自然システムが地域的な気候
変動、とりわけ気温上昇の影響を受けつつあること
が示されていました。
※オーストラリアとニュージーランドにおける領土、沖合の海、海洋島、排他的経済水域として定義
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig SPM.2(A)
13
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-2 主要な8つのリスク
✔AR5
「5つの懸念材料(RFC※) 」の元となる主要な8つのリスク
Q&A
関連情報
※Reasons for concernの略称
主要なリスク(→用語解説)とは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第2条に記載されるような「気候システムに対する危険な人為的干渉」による深
刻な影響の可能性を指しています。また、いずれのリスクも確信度は高く、複数の分野や地域に及びます。
主要な8つのリスク
懸念材料(RFC)
(→次ページ参照)
①
沿岸災害被害
高潮、沿岸洪水、海面水位上昇による、沿岸の低地並びに小島嶼開発途上国、及び
その他の小島嶼における、死亡、負傷、健康障害、生計崩壊のリスク
RFC1~5
②
洪水・健康被害
いくつかの地域における内陸洪水による大都市に住む人々への深刻な健康障害や生計
崩壊のリスク
RFC2,3
③
インフラ機能停止
極端な気象現象が、電気、水供給、保健及び緊急サービスのようなインフラ網や、重要
なサービスの機能停止をもたらすことによるシステムのリスク
RFC2~4
④
暑熱影響
特に脆弱な都市住民、都市域または農村域の屋外労働者にとっての、極端な暑熱期
間における死亡及び羅病のリスク
RFC2,3
⑤
食料不足
特に都市及び農村のより貧しい住民にとっての、温暖化、干ばつ、洪水、 降水の変動及
び極端現象に伴う食料不足や食料システム崩壊のリスク
RFC2~4
⑥
水不足
特に半乾燥地域における、最小限の資本しか持たない農民や牧畜民にとっての、飲料
水及び灌漑用水への不十分なアクセス、並びに農業生産性の低下によって農村部の生
計や収入を損失するリスク
RFC2,3
⑦
海洋・沿岸生態系の損失
特に熱帯と北極圏の漁業コミュニティにおいて、沿岸部の人々の生計を支える海洋・沿
岸生態系、生物多様性、生態系の財・機能・サービスが失われるリスク
RFC1,2,4
⑧
陸域・内水生態系の損失
人々の生計を支える陸域及び内水の生態系と生物多様性、生態系の財・機能・サービ
スが失われるリスク
RFC1,3,4
14
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-3 5つの懸念材料(RFC)
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動によるリスクには「5つの懸念材料」がある
5つの懸念材料は、気候変動のリスク水準に関する判断の根拠として用いられます。なお、括弧内は関連するリスク番号(→前ページ参照)です。
1. 固有性が高く脅威(きょうい)に曝(さら)されるシステム:適応能力が限られる種やシステム、特に北極海氷・サンゴ礁システムが脅かされるリスク(①,⑦,⑧)
2. 極端な気象現象:熱波、極端な降水、沿岸洪水のような極端現象によるリスク(①,②,③,④,⑤,⑥,⑦)
3. 影響の分布:特に地域ごとに異なる作物生産や水の利用可能性の減少などの気候変動影響によるリスク(①,②,③,④,⑤,⑥,⑧)
4. 世界全体で総計した影響:生態系の財やサービスの損失と関連する広範な生物多様性の損失リスクや世界経済への損害のリスク(①,③,⑤,⑦,⑧)
5. 大規模な特異事象:温暖化の進行に伴い、いくつかの物理システムあるいは生態系が曝される急激かつ不可逆的な変化のリスク(①)
 世界年平均気温の変動(観測値と予測値)に対応する懸念材料に関連する追加的リスクの水準
気候変動による追加的リスクの水準
(年)
※工業化以前(1750年以前)の世界平均地上気温の概算値として1850-1900年の期間を用いる
高い
非常に高い
工業化以前の水準からの
世界平均気温変化:℃
(1850-1900との比較)
中程度
世界平均気温変化:℃
(1986-2005との比較)
観測値
RCP8.5(高排出シナリオ)
重複部
RCP2.6 (低排出緩和シナリオ)
工業化以前の水準からの
世界平均気温変化:℃
(1850-1900※との比較)
世界平均気温変化:℃
(1986-2005との比較)
検出できない
すでにリスクが
中程度にある
ものも存在
2003-2012年
固有性が
高く脅威に
曝される
システム
極端な 影響の 世界全体 大規模な
気象現象 分布 で総計した 特異事象
影響
1850-1900
年から19862005年までで
0.61℃の気温
上昇が観測さ
れている
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Box SPM.1 Fig.1
◇AR4では◇
TARで示された「5つの懸念材料」に関するグラフはAR4では掲載されませんでした。しかし、AR4の本文の記載では、「5つの懸念材料」について、極端な気象現象では、「2000年レ
ベル比2℃までの温暖化が洪水、干ばつ、熱波、及び火災などの多数の極端現象のリスクを高めるであろうことについては確信度が高く、この結論における悪影響と確信度のレベルは
気温上昇のレベルが高まるほど増大する」などその内容の幾つかがTARから更新されました。
15
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-4 脆弱となる要因
✔AR5
Q&A
関連情報
社会の不平等も、気候変動に対して弱者・貧困者が脆弱な状況におかれる要因となる
気候変動に対する脆弱性(→用語解説)と曝露(→用語解説)の大きさは、多くの場合、不平等な開発過程により生じる多面的な不平等(性別、階
級、民族、年齢、人種、障害の有無)や、気候以外の要因によっても引き起こされます。これは気候変動に対するリスクの大きさの違いとなります(下図)。
 不平等の特徴が交わることにより決まる多面的な脆弱性
レジリエンスが高い
リスクがある
社会経済的な
発展経路
高
気候変動及び
気候変動への応答
多面的な
脆弱性
能力・機会
同一性マーカーと
不平等の特徴
性別
階級
民族
年齢
人種
障害(有無)
低
不平等の特徴の
交わり
特権者
人々
弱者・貧困者※は気候変動に対
するリスクが高いのに対し、反対
の立場にある特権者はリスクが
低く、レジリエンスが高い
※例えば、気候変動による健康への影響に対し
ては、「高齢者」や「社会的に孤立した人」を
指す。
気候変動による洪水被害に対しては、ネパー
ルでは大人よりも「子ども」がより弱者である。
これは死亡割合が大人よりも子どもの方が高
いため。
弱者・貧困者 干ばつにより作物に損失が生じ、生活に影響
が発生した場合、インドでは男性よりも「女
性」、特に「カーストが低い女性」が、より弱者
である。
これは、作物の損失を補てんするためにこれら
の人々が賃金労働者として働くことが多いため。
多面的な脆弱性
出典: AR5 WG2 TS Box TS.4 Fig.1
16
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-5 気候変動のリスクマネジメント
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動影響への対応には、将来世代、経済、環境への影響を意識したリスクマネジメントが必要である
ハザード(→用語解説)を直接なくすことはできませんが、緩和により、その規模や頻度を低減することはできます。また、脆弱性や曝露は、適応という社会経
済の取組や、持続可能な開発の道筋となる適切な社会経済的経路の選択、意思決定などのガバナンス(→用語解説)により、低減することができます。こ
れら両方の観点により、総合的にリスクを低減することが可能となります。
 WG2の中核となる概念及びリスク要因となる各要素への解決法
脆弱性及び曝露
社会経済的経路
・ 脆弱性及び曝露の低減
・ 後悔の少ない戦略及び行動
・ 多角的な不平等への取組
影響
・ 多様な価値及び目的
・ 気候にレジリエントな経路
・ 変革(→用語解説参照)
脆弱性
気候
自然変動性
適応及び緩和と相互作用
社会経済
的経路
リスク
・ リスク評価
・ 反復的リスクマネジメント
・ リスク認識
社会経済的
プロセス
ハザード
リスク
・ 追加的・変革的適応
・ コベネフィット(→用語解説参照)、
相乗効果及びトレードオフ(→用
語解説参照)
・ 特有な背景における適応
・ 補完的な行動
・ 適応の限界
適応と
緩和行動
人為起源の
気候変動
ガバナンス
曝露
人為起源の気候変動
・ 緩和
(→ガイドブック「WG3基礎知識編」参照)
ガバナンス
温室効果ガスの排出
及び土地利用変化
・ 不確実性下の意思決定
・ 学習、モニタリング及び柔軟性
・ 規模間の調整※
脆弱性、曝露、ハザードの増加は
どれもリスクを増大させる
左右の吹き出しは、各項目(リスク、人為起源の気候変動、ガバナンスなど)における取組や検討事項などを表す。
※国家政府が、情報提供や法的枠組みな
どを通じて、地方公共団体や地方政府が
行う適応を調整(連携)させること。
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig.SPM.8
17
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-6 リスクに対する適応
✔AR5
Q&A
関連情報
反復したリスクマネジメントによる適応
気候変動による影響の深刻度や時期には、不確実性や適応の有効性の限界を伴います。時間経過とともに不確実性や適応の有効性に関する状況が変化
するため、気候に関連するリスクへの対応には、下図に示す、反復したリスクマネジメントが有効です。
 複数のフィードバックを伴う反復リスクマネジメント
スコーピング
リスク、脆弱性、
目的の特定
実施
意思決定基準の
設定
影響の対象(リスク、脆弱性、目的)を
「定め」(スコーピング)、
その対象を「分析」し、
対応を「実施」する。
実施の効果が薄れてきた場合などには新
たに対象を定める。
分析
オプション
の特定
レビューと
学習
適宜ひとつ前の段階に戻り(フィードバッ
ク)、より適切な選択を行えるようにする。
決定事項の
実施
モニター
トレードオフ
評価
リスク評価
出典:AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig.SPM 3
18
3. 世界の影響、リスク、
適応の考え方
3-7 緩和と気候変動リスクの関係
✔AR5
関連情報
Q&A
緩和によって気候変動リスクは減少させることができる
 A. 1986-2005年と比較した
世界年平均気温の観測値と将来予測値
(→ガイドブック「WG1基礎知識編 p.25」参照)
世界平均気温変化(℃)
(1986-2005年からの比較)
近い将来における適応と緩和によって、21世紀の気候変動のリスクは大きく変化します。図Aは観測された気温変化とRCP2.6(青)とRCP8.5(赤)のも
とで予測された気温変化を示したものです。21世紀後半以降になると、世界の気温上昇は排出シナリオ間で大きくわかれます。これはシナリオごとに設定された
緩和の程度に依存しています(図B)。長期的な期間では、将来の適応及び緩和、またそこに至る開発経路が気候変動のリスクを決定づけると考えられてい
ます。
観測値
RCP8.5
重複部
RCP2.6
(年)
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig.SPM.4(B)
AR5
WG3
※10パーセンタイルとは、下から10%の値、90パーセン
タイルは、90%より大きい値をそれぞれ除いたという意
味。つまり、上下10%を除いた範囲のこと。
90パーセンタイル※
中央値
ベースライン
(→ガイドブック「WG3基礎知識編 p.20」参照)
年間GHG排出量(Gt-CO2換算/年)
 B. 2000-2100年におけるRCPシナリオ
ごとの温室効果ガスの排出経路
2100年のGHG濃度
10パーセンタイル
AR5データベース全体の範囲
点線:約1200シナリオ全体の範囲
(年)
出典: AR5 WG3 政策決定者向け要約 Fig.SPM.4 一部抜粋
19
AR5
Q&A
関連情報
4. 分野別の観測結果・将来予測・適応
20
4. 分野別
観測結果
4-1 淡水資源
✔AR5
Q&A
関連情報
1901年以降、降水量が増加している地域と乾燥化が進行している地域がある
1901年以降、北半球の中緯度陸域では、平均的に降水量が増加傾向にある一方、サヘル、地中海周辺、アフリカ南部・西部、南アジアの一部では、乾燥
化の傾向がみられます。また、1950年以降、地中海と西アフリカでは干ばつの強度や持続期間が増加した可能性が高いとされています。
 観測された陸地の年降水量の変化
AR5
WG1
(mm/10年)
出典:AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig.SPM.2
21
4. 分野別
観測結果
4-1 淡水資源
✔AR5
Q&A
関連情報
氷河は世界中で縮小を続けている
気候変動により、ほぼ世界中で氷河が縮小し続けており(下図のオレンジ部分)、河川の流出量の変化や、下流の水資源に影響を与えています。例えばヒ
マラヤ氷河の体積は減少(下図の水色線)しています。
 ヒマラヤの氷河体積収支測定値
ヒマラヤ氷河(ブータン、中国、インド、ネパール、パキスタン)において、ここ50
年間の質量収支(降雪と融解のバランス)は平均してマイナスとなっています。
【図の見方】
ヒマラヤの氷河体積の測定(1回)
氷河の体積収支率(水換算 m/10年)
測定値の
+1標準偏差
測定における
平均値
測定値の
-1標準偏差
・ 各測定値は、平均収支を中心とした±1標準偏差の囲みで示される(上図)。
ただし、複数年にわたる測定の場合は±1標準誤差で示される。
・ ヒマラヤ全域の測定値は、衛星からのレーザー高度計の観測による。
・ 世界平均(WG1 第4章)は、±1標準偏差で示される。
ヒマラヤ全域の測定
◇AR4では◇
地域的なヒマラヤの測定
ヒンドュークシ(パキスタン北部の山脈)~ヒマラヤの氷塊のすべ
てが、ここ20年間で減少してきていると示されていました。
地域的なヒマラヤの測定平均
世界平均の氷河体積収支
(グリーンランドと南極を除く)
(年)
出典:AR5 WG2 第3章 Fig.3-3
22
4. 分野別
観測結果
4-1 淡水資源
AR5
Q&A
✔関連情報
日本では降水量の少ない年と多い年の差が大きくなっている
近年、日本では降水量の少ない年と多い年の差が拡大する傾向にあり、渇水と洪水の発生リスクが高くなっています。※1
1991年から2010年にかけて、四国地方を中心とする西日本や東海、関東地方で渇水が頻繁に発生しました。※2
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦 2012」 ※2:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
 日本の年平均降水量の偏差(1898-2014年)
 1991-2010年における渇水の状況
変動の幅が拡
大してきている
(年)
棒グラフ:国内51地点での年降水量偏差を平均した値
(基準値に対する偏差で、mmであらわす)
太線(青):偏差の5年移動平均。
基準値は1981~2010年の30年平均値。
出典:気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn_r.html(2015年1月)
西日本から東海、
関東地域において
頻繁に発生
出典:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」 図3.2.3
23
4. 分野別
将来予測
4-1 淡水資源
✔AR5
Q&A
✔関連情報
気候変動により乾燥亜熱帯地域では水資源が減少すると予測されている
ほとんどの乾燥亜熱帯地域で地表水及び地下水資源が著しく減少し、一方で、高緯度地域では降水量の増加に伴い、水資源が増加すると予測されていま
す(→「Q&A」参照) 。これらの変化は、例えば、地下水資源に対する人間の脆弱性の分布に影響を与えます(下図)。
 2050年代までの気候変動がもたらす地下水資源の減少に対する人間の脆弱性
• 左図は地下水涵養が10%以上減少す
る地域のみを対象として、脆弱性指数を
表示したものです。(脆弱性指数には
単位はありません)
• 脆弱性指数は、地下水涵養量が減少
するほど高まり、地下水への依存度が小
さいほど、低くなります。
(参考: Döll, P., 2009: Vulnerability to the impact of
climate change on renewable groundwater resources: A
global-scale assessment. Environmental Research Letters,
4(3), 035006.)
◇AR4では◇
地下水涵養※の変化予測
減少量:なし~少ない
減少なし
減少量:10%以上
脆弱性指数
ECHAM4:ドイツの気候モデル
減少10%未満
低い
高い
HadCM3:イギリスの気候モデル
A2:SRES A2シナリオ
※地表水(降水や河川水)が地下滞水層に浸透して地下水となること
B2:SRES B2シナリオ(→p.5 2-2「RCPシナリオ」参照)
今世紀半ばまでに、年間平均河川流量と水
利用可能量は、高緯度地域及びいくつかの
熱帯湿潤地域において10~40%増加し、
現在水ストレスを受けている地域を含む、中
緯度域のいくつかの乾燥地域及び熱帯乾燥
地域において10~30%減少すると予測され
ていました。
出典:AR5 WG2 第3章 Fig.3-7
24
4. 分野別
4-1 淡水資源
AR5
✔Q&A
関連情報
水資源についてのQ&A
Q.
A.
なぜ地域によって水資源の増減が異なるのか?
気候変動により、雨の降り方が地域によって現在とは異なってくるためで
す。特に、高緯度地域、中緯度の湿潤地域、太平洋赤道域では平均
Q.
A.
水資源は、どのように気候変動の影響を受けるのか?
水資源は、多くの中緯度及び乾燥亜熱帯地域で減少し、高緯度及び
多くの湿潤な中緯度地域で増加すると予測されています。
降水量が増加する可能性が高く、一方で、亜熱帯や中緯度帯の乾燥
水資源の増加が予測されている場合でも、降水量の大きな変動に起因
地域の多くでは、平均降水量は減少する可能性が高いと予測されてい
する河川流量の更なる増減や、氷雪量の減少に起因する水供給の季
ます。降水量が減少すれば河川流量や地下水涵養量も減少するため、
節的な減少により、短期的な水不足になる可能性があります。 ※3
これらに水資源を頼っている地域は影響を受けます。
良い影響としては、より頻繁な暴風雨やハリケーンなどにより、栄養物が
河口や湖から洗い流されることで、富栄養化の危険性の減少が予測さ
れています。 ※1
悪い影響としては、水不足を経験する世界人口の割合の増加(干ば
つの強度や持続期間の増加)や、主要河川の洪水の影響を受ける割
合の増加(大雨の頻度、強度の増加)が予測されています。 ※2
 年平均降水量変化(左:RCP2.6, 右:RCP8.5)
(2081-2100年平均の1986-2005年平均との差)
AR5
WG1
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig.SPM.8(b)
参考:※1:AR5 WG2 第3章 3.2.5
※2:AR5 WG2 政策決定者向け要約
※3:AR5 WG2第3章 FAQ3.2
25
4. 分野別
4-1 淡水資源
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
水資源のマネジメントへの適応技術は、気候変動の不確実性に対処できる
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
制度
気候変動の正負の影響を考慮した土地や
水資源マネジメントの統合支援
ヨーロッパでは、総合的水資源管理の方法として、EU水政策枠組み指
令(EU Water Framework Directive, WFD)が導入されている。
WFDは、適切な品質の飲料水や浴用水の供給による人の健康の保護、
持続可能な水資源のマネジメントシステムの構築、水域の生態系及びそ
れに関係する地域の生態系の保護、洪水及び渇水の影響の緩和等を
統一的な水資源のマネジメントによって実現することを目標にしている。※1
設計とオペ
レーション
水インフラの設計基準の見直し
東京都内では、水資源の有効活用のために、漏水率の低い給水管を用
いる。※2
水源の多様化と貯水池マネジメントの改善
水源を河川水のみに頼るのではなく、雨水、地下水や再生水などを適切
に利用することで、水不足による被害を低減させる。東京都墨田区では
江戸東京博物館や東京スカイツリーなどの施設に雨水貯留槽を設置して
いる。※3
(災害に備える)危機管理計画の開発
広島市は異常渇水に対して緊急対応するための実施機関、発生想定
箇所、想定被害に関して「広島市危機管理計画」を策定している。※4
自然災害の
影響低減
参考: AR5 WG2 第3章 Table3-3, 3.6.4
※1:環境省HP https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h22/html/hj10010402.html
※2:東京都水道局 東京都水道局事業概要 平成26年度版 http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suidojigyo/gaiyou/pdf/01_gaiyou26_03_04.pdf
※3:国土交通省資料 http://www.mlit.go.jp/common/000160791.pdf
※4:広島市危機管理計画 http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1164175590084/files/kikikanrikeikaku2.pdf
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第3章 Table3-3の一覧表をご覧ください。
26
4. 分野別
4-1 淡水資源
適 応
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:再生水の活用
淡水資源における適応は、緊急時と平常時の双方に配慮することが重要です。下図は、適応策として再生水を活用した例です。再生水は、水を必要とする
地域にきわめて近いところにある質的にも量的にも安定した新しい水資源です。再生水の利用は、渇水リスクの低減に加え、省エネによる緩和策としても期待
することができます。※1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
 再生水利用の社会的意義・効果
出典:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
27
4. 分野別
観測結果
4-2 陸域及び淡水生態系
✔AR5
関連情報
Q&A
気候変動は動植物に様々な影響を与えてきた
ここ数十年の間に、多くの植物及び動物の生息域、個体数、季節性行動が、気候変動に合わせて変化しています。
例えば植物群系では、緯度方向や、高度方向への植物群系の変化が観測されています(下図)。
 20世紀に植物群系の変化が観測された事例の分布
【植物群系】
氷原
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
温帯針葉樹林
温帯広葉樹林
温帯混交林
温帯灌木地
温帯草地
砂漠
熱帯草地
熱帯林地
熱帯落葉広葉樹林
熱帯常緑広葉樹林
【図の見方】
各半円の色は、公表された野外観測に基づき、植物群系の拡大・後退を示したもの。
図中の番号は右の表の地点番号に対応。植物群系の拡大・後退、及びその移動タイプは表を参照のこと。
<北アメリカ、ヨーロッパ、アジア>
該当する色の植物群系が後退
該当する色の植物群系が拡大
<アフリカ、ニュージーランド>
該当する色の植物群系が拡大
該当する色の植物群系が後退
地点番号
移動タイプ
後退する植物群系
拡大する植物群系
1
緯度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
2
緯度方向
温帯針葉樹林
温帯広葉樹林
3
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
4
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
5
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
6
高度方向
寒帯針葉樹林
温帯広葉樹林
7
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
8
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
9
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
12
高度方向
ツンドラと高山植物
温帯広葉樹林
13
緯度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
14
緯度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
15
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
17
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
18
緯度方向
熱帯林地
熱帯草地
19
緯度方向
熱帯林地
熱帯草地
20
高度方向
ツンドラと高山植物
寒帯針葉樹林
21
高度方向
ツンドラと高山植物
温帯針葉樹林
22
高度方向
温帯灌木地
温帯広葉樹林
10, 11, 16, 23
未検出
-
-
出典:AR5 WG2 第4章 Table4-1 一部抜粋
◇AR4では◇ 多くの研究で、地域的な気候が陸
域種に与える影響は、植物・動物の極地及び標高が
高い方向への移動を含む温暖化トレンドに整合してい
ることが明らかにされました。
出典:AR5 WG2 第4章 Fig.4-1
28
4. 分野別
観測結果
4-2 陸域及び淡水生態系
✔AR5
Q&A
✔関連情報
幾つかの生物種は、最近の気候変動による存在量の変化が観測されている
これまでのところ、近年発生した種の絶滅について、気候変動に起因すると特定されているものは僅かです。生物の存在量や絶滅には、種がかかる病気、土地利用変化、外
来種などの要因があるため、最近の温暖化が原因であるという確信度を損なっています。全体的に、観測された種の絶滅が、最近の温暖化に原因があることについての確
信度は「非常に低い」とされており、世界的な絶滅への気候変動の関与は非常に小さく、また関与しているという根拠も弱いとされています。
一方で、現在の人為起源の気候変動よりも速度が遅い世界的な自然起源の気候変動は、過去数百万年の間に重大な生態系の移動や種の絶滅をもたらしました(確信
度が高い)。また、幾つかの生物種については、最近の気候変動による存在量の変化などが高い確信度で観測されています。
 近年の気候変動に関係した絶滅の事例
• ここ数世紀の絶滅のほとんどは、生息地の喪失、乱獲、汚染または侵入種に起因しており、これらは、現在の絶滅の原因として最も重要です。国
際自然保護連合(IUCN)によって記録された世界中の絶滅 ※1のうち、20の絶滅が最近の気候変動にわずかに関係しています。
※1:800以上が記録されている
• 両生類の絶滅の主要な原因の一つは気候変動とされています。ここ20年で160以上の両生類の絶滅が記録され、その多くが中央アメリカで発生
しています(例:気温上昇によりカエルツボカビ感染症が大発生しやすい気候となったため、感染したオスアカヒキガエルが絶滅した ※2)。
 人為起源の気候変動が生物種の局地的絶滅に影響を及ぼした例
生物種
場所
※2:Pounds, J.A., M.R. Bustamante, L.A. Coloma, J.A. Consuegra, M.P.L. Fogden, P.N. Foster, E. La Marca, K.L. Masters, A. Merino-Viteri, R.
Puschendorf, S.R. Ron, G.A. Sanchez-Azofeifa, C.J. Still, and B.E. Young, 2006: Widespread amphibian extinctions from epidemic disease
driven by global warming. Nature, 439(7073), 161-167.
局地的絶滅の直接的原因
アメリカナキウサギ(ウサギ)
アメリカ
極端な高温や低温に対する許容限界
プラナリア(へん形動物)
イギリス
河川水温の上昇による餌の減少
コバンハゼ(魚類)
パプアニューギニア
水温上昇によるサンゴの白化により、コバンハゼの生息に不可欠なサンゴ生息地を破壊
出典:Cahill, A.E., M.E. Aiello-Lammens, M.C. Fisher-Reid, X. Hua, C.J. Karanewsky, H.Y. Ryu, G.C. Sbeglia, F. Spagnolo, J.B. Waldron, O. Warsi, and J.J. Wiens, 2013:
How does climate change cause extinction? Proceedings of the Royal Society B, 280(1750), 20121890, doi:10.1098/rspb.2012.1890, Table.1 抜粋
 人為起源の気候変動が生物種の存在量の減少に影響を及ぼした例
生物種
場所
衰退の直接的原因
アロエ(樹木)
ナミブ砂漠
降水量減少に起因する乾燥ストレス
チドリ(鳥類)
イギリス
夏の高温による餌のガガンボ(昆虫)の減少
ゲンゲ(魚類)
バルト海
水温上昇による海水に溶け込む酸素量の制限(酸素は水温が冷たいほどよく溶け込む)
出典:Cahill, A.E., M.E. Aiello-Lammens, M.C. Fisher-Reid, X. Hua, C.J. Karanewsky, H.Y. Ryu, G.C. Sbeglia, F. Spagnolo, J.B.
Waldron, O. Warsi, and J.J. Wiens, 2013: How does climate change cause extinction? Proceedings of the Royal Society B,
280(1750), 20121890, doi:10.1098/rspb.2012.1890, Table.2 抜粋
◇AR4では◇
証拠は限定的ですが、少数の局地的絶滅については、気候変
動に原因があるとされていました。
29
4. 分野別
観測結果
4-2 陸域及び淡水生態系
AR5
Q&A
✔関連情報
日本でも植物季節の変化や昆虫等の分布域の北上などが確認されている
気温の上昇に伴い、全国的にさくらの開花日の早まりや、かえでの紅(黄)葉日の遅れなどの植物季節に変化がみられています(図A)。また、積雪域の変
化によるニホンジカやイノシシの分布拡大(図B上)や、暖かい気候を好むナガサキアゲハの分布域の北上などが確認されています(図B下)。※1
※1:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
 A. さくらの開花日と
かえでの紅(黄)葉日の経年変化
【さくら】※
 B. 分布の変化
【ニホンジカ】
【イノシシ】
開花が10年あたり
0.9日早まっている
【かえで】※
分布域が拡大傾向にある
【かえで】※
【ナガサキアゲハ】
紅葉が10年あたり
3.0日遅くなっている
緑線:平年差(1981-2010年の平均からの差)
青線:5年移動平均 赤線:変化傾向
出典:気候変動監視レポート2013 図2.3-1
※さくらは全国59地点、かえでは全国51地点の観測データを用い
ている。どちらも東京や大阪などの大都市を含むことに留意
分布域の北上
出典:北原正彦, 入来正躬, 清水剛 (2001) 日本におけるナガサキアゲハ (Papilio memnon Linnaeus) の分布の拡大と気候温暖化の関係.
日本鱗翅学会誌, 52, 253-264. 図1、文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
30
4. 分野別
将来予測
4-2 陸域及び淡水生態系
✔AR5
Q&A
✔ 関連情報
動植物の多くは、気候変動によって絶滅リスクの増加に直面する
RCP2.6の場合は、気候が変動するスピード(気候速度)よりも、種の移動速度の方が速いため、絶滅リスクは少ないものの、それ以外のシナリオ(RCP4.5、
6.0、8.5)では、気候速度に追従できず、絶滅リスクがより高くなると予測されています(下図)。
 予測された気候速度と種ごとの最大移動速度
平均気候速度
2050~2090年
種が移動できる最大速度(km/10年)
100
上限
80
RCP8.5平地
60
中央値
下限
40
RCP6.0平地
20
RCP4.5平地
RCP8.5世界平均
RCP6.0世界平均
RCP4.5世界平均
RCP2.6平地及び世界平均※
0
樹
木
草
本
偶
蹄
類
肉
食
哺
乳
類
齧
歯
動
物
霊
長
目
植
食
性
昆
虫
淡
水
軟
体
動
物
 21世紀以降の予測される気候変動下では、特に
気候変動と他のストレス要因(生息地の改変、乱
獲、汚染、侵入生物種など)が相互に作用するほ
ど、陸域種と淡水種の大部分の絶滅リスクが増加
します
 変化する気候に、十分に速く適応できない種は、
生息数の減少や生息域における部分的もしくは全
体的な絶滅へと向かうでしょう
 2040年までは、土地利用変化、汚染、水資源開
発などの直接的な人間の影響が、ほとんどの淡水
生態系と陸域生態系への主な脅威であり続けます
(図中の気候速度、種の移動速度や定着速度、モデル
には大きな不確実性が含まれています。また、気候速
度についての確信度は低いとされています)
※平地は気候速度を110km/℃で計算したもの
世界平均は気候速度を30km/℃で計算したもの
 図の気候速度は、(降水変化などは考慮せず)気温のみで計算されています。
 種の移動速度は、古生物学的記録※1、気候の温暖化による現在の生息範囲の移動速度、移動・
定着モデル、観測された最大の移動距離、遺伝子分析などの様々な手法によって計算されています。
※1.例えば、完新世(開始時期は1万1700年前)の樹木個体群が新しい 生育地にコロニーを作る速度の測定には、
花粉の古分布を用いている(Kinlan and Gaines, 2003)
◇AR4では◇
世界平均気温の上昇幅が1.5~2.5℃を超えた場合、
これまで評価された植物及び動物種の約20~30%は、
絶滅するリスクが増す可能性が高いと予測されました。
出典:AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig SPM.5
31
4. 分野別
将来予測
4-2 陸域及び淡水生態系
AR5
Q&A
✔関連情報
日本の自然植生の一部は、絶滅リスクが高まる
将来、ハイマツ、シラビソは絶滅リスクが高くなり、本州はブナの生息適域ではなくなる可能性があります。一方で、アカガシは分布拡大の可能性があります。※1
※1:S-8 地球温暖化「日本への影響」
 各気候帯の優占種4種における現在気候と3つのRCPの将来気候シナリオで予測された2081年-2100年における潜在生育域
現在
2081-2100年
RCP2.6
ハイマツ
中部以北の高山帯
(寒帯)で優占す
る低木性針葉樹
シラビソ
四国から東北南部
の亜高山帯(亜寒
帯)で優占する常
緑針葉樹
ブナ
九州から北海道の
冷温帯で優占する
落葉広葉樹
アカガシ
九州から東北の暖
温帯で優占する常
緑広葉樹
RCP4.5
RCP8.5
RCP2.6、4.5:中部地方と北海道の
高山域が逃避地となります。
RCP8.5:逃避地もなくなり、日本全
域で絶滅リスクが高まります。
現在はシラビソが分布しているものの、
将来潜在生育域から外れる四国の山
頂域は孤立個体群となり、脆弱である
と推定されます※。
※現在気候において北東北や北海道に広がる潜在生育域は
実際には分布していない不在生育域であることに注意
RCP2.6では潜在生育域が拡大します
が、RCP4.5、8.5では減少します。本
州太平洋側から西日本の潜在生育域
はほぼ消失するため、この地域の個体
群は脆弱であると推定されます。
潜在生育域がどのシナリオでも増加しま
す。しかしアカガシの移動速度が遅いこ
と、生育する自然林が分断されているこ
とから分布拡大は遅いと考えられます。
出典:S-8 日本への影響 図1(5)-1
32
4. 分野別
適 応
4-2 陸域及び淡水生態系
✔AR5
Q&A
✔関連情報
適応はリスクを低減し、生態系がもつ先天的な適応能力を増大させる
適応のオプション例(AR5)
生態系と野生
生物の自律的
適応
効果/事例(関連情報)
生物季節の変化
気候変動に伴う、開葉・開花時期の早期化、紅(黄)葉日の遅延化など※1
気候に合わせた遺伝的適応
イギリスにおける春季の平均気温上昇に対する主な地域的な遺伝的適応として、一般的なカエル(ヨーロッパアカガエ
ル)の産卵の早期化など※2
種の移動
気候変動に合わせて、生息に適した地域へ種が移動する※3
人間が生態系を Ecosystem Based Adaptation
支援する適応
(EBA)※
自然インフラ(森林、マングローブ)の保護と再生など※4
保護地域の制定
高山の岩塊地には生物の避難場所・生息環境が残存する可能性が高いため、人間の影響を排するために、これらを保
護地域(国立公園など)に指定する※5
景観や流域の管理
小河川システムの河岸植生の保護と回復は、温度状況を緩和し、気温上昇を相殺する。さらに下流生態系や、給水
エリアの水質を守る※6
カナダでは、植生組成と植生群落の操作が、山火事への気候変動の影響を相殺する戦略として提案されている※7
種の移動支援
緑の回廊(→次ページ参照)を作ることで、分断された森林を繋ぎ動植物の移動を支援する※8
域外保全
庭園、動物園、繁殖プログラム、種子バンク、遺伝子バンクなどの自然環境外において、動植物の遺伝資源を保全する
ことで、気候変動や他の理由による生物多様性の損失と窮乏化に対する「保険」となる※9
※EBA:生態系ベースの適応。気候変動への適応戦略に生物多様性と生態系サービスの利用を統合したもの。
 EBAの有無による気候変動影響の違い
気候緩和
気候変動影響
生態系の保護
と回復
生態的プロセスの
劣化と生物多様性
の喪失
気候影響リスクを
生態系/自然資本
低減した
持続可能な経済 への圧力増加
生物多様性の保持、
生態系のレジリエンス
と脆弱性の低減
生態系サービス※10
の喪失
生態系サービ
ス提供の持続
人間の幸福
の喪失
生態系ベースの
適応有り
生態系ベースの
適応無し
人間の幸福の増加
出典:AR5 WG2 Cross-Chapter Box Fig.EA-1
参考:AR5 WG2 第4章 4.4
※1:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
※2:Phillimore, A.B., J.D. Hadfield, O.R. Jones, and R.J. Smithers, 2010: Differences in spawning date between
populations of common frog reveal local adaptation. Proceedings of the National Academy of Sciences of
the United States of America, 107(18), 8292-8297.
※3:AR5 WG2 第4章 Fig.4-1
※4:環境省HP
http://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/iccccrc2013/pdf/year2013630/side_event/radhika.pdf
※5:環境省「気候変動への賢い適応」、環境省「気候変動適応の方向性」
※6:AR5 WG2 第4章 4.4.2.3
※7:AR5 WG2 第4章 4.4.2.3
※8:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
※9:AR5 WG2 第4章 4.4.2.5
※10:多様な生物に支えられた生態系は、人類に多大な利益をもたらす。ミレニアム生態系評価の報告書は4つの機能に生態系サービスを
分類している。
①供給サービス:食料、燃料、木材、繊維、薬品、水など、人間の生活に重要な資源を供給するサービス
②調整サービス:森林があることによって気候が緩和されたり、洪水が起こりにくくなったり、水が浄化されたりといった、環境を制御するサービス
③文化的サービス:精神的充足、美的な楽しみ、宗教・社会制度の基盤、レクリエーションの機会などを与えるサービス
④基盤サービス:①から③までのサービスの供給を支えるサービス。例えば光合成による酸素の生成、土壌形成、栄養循環、水循環など
※10の出典:環境省HP https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h19/html/vk0701020100.html
33
4. 分野別
適 応
4-2 陸域及び淡水生態系
AR5
Q&A
✔関連情報
日本の適応例:「緑の回廊」
国有林の保護林を連結してネットワークを形成する「緑の回廊」を設定して、野生動植物の生育・生息地を結ぶ移動経路を確保することにより、個体群の交
流を促進し、種の保全や遺伝的な多様性が確保できるようになります。※1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
 緑の回廊のイメージ
 緑の回廊の設定状況(2013年4月1日現在)
緑の回廊総面積(全国)
約58.3万ha
出典:林野庁 緑の回廊設定状況
• 緑の回廊では、分断された個体群の保全と個体群の遺伝的多様性の確保、
生物多様性を保全するはたらきを発揮させるため、緑の回廊としてのはたらきを
発揮するのにふさわしい森林については、適切にその維持を図っています。また森
林整備の必要がある場合には、植生の状態に応じて、下層植生を発達させたり、
裸地化の抑制を図り、緑の回廊全体として、針葉樹や広葉樹に極端に偏らな
い樹種構成、林齢、樹冠層等の多様化を図るための森林施業を実施すること
としています。
• 緑の回廊においては、野生生物の移動実態や森林施業との因果関係等を把
握するため、モニタリングに努め、その結果を緑の回廊の設定及び取扱いに適切
に反映させることとしています。
出典:林野庁HP http://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/sizen_kankyo/corridor.html
出典:林野庁HP http://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/sizen_kankyo/corridor.html
34
4. 分野別
観測結果
4-3 沿岸システム及び低平地※
✔AR5
Q&A
関連情報
沿岸域の産業、輸送設備等は、極端な高潮や洪水などの影響を受けやすい
沿岸域の産業や、それを支える港湾・道路・鉄道・空港などの輸送を含むインフラ、電力供給、水供給、上下水道などは、極端な降水、強風、高潮、海面水
位の上昇による洪水などの極端現象からの影響を、非常に受けやすい状況にあります。
 風、波浪、雨、雷と高潮を伴う暴風雨は、輸送、電力・水供給へ特に強い影響を与えます。
 輸送ターミナルが被害を受けていなくても、そこへアクセスする道路への被害は輸送を停止、及び減少させます。
 1ヵ所の港の被害が、広範囲のサプライチェーンに混乱をもたらします。
 上下水道やパイプラインなどの地下のインフラも、ハリケーンや洪水により長期的な影響を受けます。
 2005年のハリケーン・カトリーナはミシシッピー州の港湾に1億ドルの被害を与えました。また、2012年のハリケーン・サンディはニューヨーク港
に一週間の機能停止をもたらし、500億ドルの経済被害を与えました。
◇AR4では◇
※海、河川、湖などの水域周辺にあって、水位変動の影響を受けやすい環境下にある平地。
なお、AR5ではこの分野にはサンゴ礁(システム)も含んでいるが、本ガイドブックではp.39
4-4「海のシステム」を参照のこと
海面水位の上昇と人間による開発の双方が、沿岸湿地とマング
ローブの消失を引き起こし、多くの地域で沿岸洪水による被害を
増加させている、と記載されています。
35
4. 分野別
将来予測
4-3 沿岸システム及び低平地
✔AR5
Q&A
関連情報
海面水位の上昇により、沿岸域の洪水や浸食などのリスクが現在よりも高まる
海面水位の上昇により、浸水、沿岸洪水、沿岸浸食などが増加すると予測されています。このため、沿岸域の洪水や浸食などのリスクは高まります。 20812100年の海面水位の上昇による洪水頻度を1986-2005年と同程度に抑えるためには、沿岸堤防の嵩上げが必要です(下図)。海面水位の上昇幅は
地域によってばらつきがあるため(→「Q&A」参照) 、リスクも地域によって異なります。
 RCP4.5の予測に基づいて推定された、2081-2100年の洪水頻度を1986-2005年と同程度に抑えるために必要な
沿岸堤防の嵩上げ高(余裕高)
◇AR4では◇
必要な余裕高
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
※. 図中の◯は潮位計(182箇所)の位置を表す。
RCP4.5に基づいた地域により異なる海面水位の上昇量を仮定している。
0.8 (m)
気候変動及び海面水位の上昇により、沿
岸域は浸食など多くのリスクにさらされ、その
影響は人為起源の圧力の増大によって悪
化していくだろうと記載されています。
出典:AR5 WG2 第5章 Fig.5-2
36
4. 分野別
4-3 沿岸システム及び低平地
✔Q&A
AR5
関連情報
沿岸域及び低平地についてのQ&A
海上風の変化、暖まった海水の拡大及び氷の融解は海
流の変化に影響を与えます。海流が変化すると、ある地
域から別の地域への海面水位の変化がもたらされることと
なります。また、グリーンランドや南極の氷床も地域的な海
面水位の変動に影響を与えます。このような理由により、
WG1
(年)
サンフランシスコ
サンフランシスコ
各地域での海面水位は様々な変化傾向を示します。
シャーロットタウン
シャーロットタウン
ストックホルム
ストックホルム
マニラ
参考: AR5 WG1 第13章 FAQ13.1
アントファガスタ
海面水位(mm)
AR5
アントファガスタ
マニラ
海面水位の変化(mm/年)
A.
に違いがあるのか?
 衛星高度計(地図)及び潮位計(グラフ)による
地域別の海面水位の変化
海面水位の変化(mm/年)
なぜ地域によって海面水位の上昇量
海面水位(mm)
Q.
パゴパゴ
パゴパゴ
(年)
※上下のグラフ(灰色線)は各地の潮位計による(1950-2012年)海面水位の変化
※赤線は、世界の平均海面水位の変化の推定値
※中央の地図は衛星高度測定による(1993-2012年)地域別の海面水位の変化率の分布
出典: AR5 WG1 第13章 FAQ13.1 Fig.1
37
4. 分野別
4-3 沿岸システム及び低平地
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
沿岸域の適応策は、先進国において著しく進展した
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
防護
(保護)
護岸、海岸堤防、高潮防壁
マングローブ林を防波堤として活用するEBA(→p.32 4-2「陸域及び淡水
生態系」参照)も含む。日本では高規格堤防の整備や洪水調整施設の整
備(地下調節地)などが進められている。※1
順応
洪水ハザードマップ
地域の水害リスクだけでなく、地域に応じた避難行動のあり方などを伝えることが
でき、洪水時に住民の円滑かつ迅速な避難を確保する上で有効である。※2
早期洪水警報システムの導入加速
コミュニティラジオサービスなどの活用により、早期に洪水を知らせる。※3
高潮・海面水位の上昇に対するリスク保
険の適用
被害にあった際に、保険金の支払いを受けることで生活の再建を支援する。国
家洪水保険制度(アメリカ)や水災補償(日本)などがある。※4
海面水位の上昇・高潮に備えて、沿岸低
平地から内陸地域への移動
海面水位の上昇による浸水を防ぐ。※5
撤退
上記では、早期洪水警報システムの導入、リスク保険の適用がコミュニティベースドアダプテーション(CBA)の事例である。CBAは地域主導の適応戦略の発生
と実施を指す。これは気候変動影響と気候に脆弱な部分の開発の不足の両方に対処し、気候と非気候リスク要因に対する地域の人々の適応能力の強化を
目的としている。
参考: AR5 WG2 第5章 Table5-4, 5.5.2
※1:国土交通省「気候変化に対する適応策のあり方(水関連災害分野)」
http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/kikouhendou/pdf/080601_shiryo_16_24.pdf
ポ・ポ・ウォン(2013)沿岸及び島しょ地域のための海面上昇への適応, 地球温暖化防止とサンゴ礁保全に関する国際会議
http://www.env.go.jp/nature/biodic/coralreefs/iccccrc2013/pdf/year2013630/section4/poh.pdf
※2:国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_000623.html
※3:AR5 WG2 第5章 Table5-4
※4:国土交通省国土技術政策総合研究所 資料 第106号 http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0106.htm
小島治幸(2001)海面上昇の適応策に対する意識とその方策について, 第9回地球環境シンポジウム
※5:国立環境研究所HP http://www.nies.go.jp/escience/ondanka/ondanka02/lib/f_04.html
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第5章 Table5-4の一覧表をご覧ください。
38
4. 分野別
4-3 沿岸システム及び低平地
適 応
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:港湾における具体的な適応策
沿岸域での災害リスクの増大等に対応するため、下図のように具体的な施策が整理されています。適応策の目標としては①人口や資産が集積する背後地の
高潮等による災害リスクの軽減、②国際・国内物流を担う港湾活動の維持が挙げられています。※1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
 港湾における具体的な適応策
出典:国土交通省交通政策審議会「地球温暖化に起因する気候変動に対する港湾施策のあり方 答申」 ,2009
39
4. 分野別
観測結果
4-4 海のシステム
✔AR5
Q&A
関連情報
海洋生物の分布が水温の低い海へと移動している
気候変動による海水温の変化や酸性化など、海洋の変化(→「Q&A」)によって、多くの海洋生物の生息範囲が極方向や、より深く冷たい海域へと変化して
います(下図)。また、プランクトンの繁殖などの季節的活動のタイミングの変化や、魚類の体長(最大値)減少などの変化が観測されています。
 海生動植物群の分布域の平均移動速度(1900〜2010年の観測)
(㎞/10年)
• 各研究機関がそれぞれ調査・観測を行っ
てこれまでに発表した結果を整理したもの
です。
• 分布域の正方向への移動は、水温の低
い海域(通常は極方向)へ移動してい
ることを示しています。
( )内の数字は調査観測件数。
分布域の移動
標準誤差
平均値
標準誤差
より水温の
低い海域
◇AR4では◇
より水温の
高い海域
高緯度の海洋においては、生息範囲の極方
向への移動と、藻類、プランクトン及び魚の存
在量の変化が起こっていると記載されています。
※非硬骨魚:サメやエイ、ギンザメなど、全身の骨格が軟骨で
構成されている魚類。その他の一般的な魚類は硬骨魚
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig. SPM.2(B)
40
4. 分野別
観測結果
4-4 海のシステム
AR5
✔Q&A
関連情報
海洋生態系についてのQ&A
気候変動によって、海洋にはどのような変化が見られているか?
AR5 WG1では、海洋で観測された変化として、①海水温の上昇、②海面水位の上昇、③酸性化の進行があげられています。
なかでも、①海水温の上昇と③酸性化の進行は、海洋生物に影響を与えるとしています。
1022J
AR5
 ③海面のCO2とpH
WG1
海洋にエネルギーが蓄
えられ、海水温が上昇
AR5
WG1
CO2
年
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig SPM.3(c)
1900-1905年の
世界平均海面水位からの差(mm)
AR5
pH
年
 ②平均海面水位の変化
CO2分圧(μatm)
 ①海洋表層(0-700m)における平均貯熱量の変化
現場観測によるpH
Q.
A.
WG1
海洋の熱膨張、陸氷
の融解などにより海面
水位が上昇
海洋にCO2が吸収され、
化学反応により
海水中のpHが低下
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig SPM.4(b)
年
出典: AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig SPM.3(d)
41
4. 分野別
観測結果
4-4 海のシステム
AR5
Q&A
✔関連情報
日本では、南方系種の増加やサンゴの白化が見られている
日本の周辺海域では海水温の上昇により、北方系の種が減少し、南方系の種の増加・分布拡大が報告されています。例えば東京湾では、東南アジア原産
のミドリイガイの越冬個数が増加し、従来は夏にしか観測されていなかったチョウチョウウオが、最近は11月まで見られるなどの変化が生じています※1。また、サン
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
ゴの白化や藻場の消失・北上なども確認されています※2。
※2:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
 石西礁湖におけるサンゴの白化と温度の関係
白化の原因は十分には解明されてい
ませんが、原因の一つとしてサンゴ内
部の褐虫藻という植物プランクトンが
海水温30℃以上で色素を失うこと
や、サンゴの外へ出て行ってしまうこと
が挙げられています。
〔白化したサンゴ〕
出典:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動
とその影響(2012年度版)」 図3.2.21
 ミドリイガイ(左)とチョウチョウウオ(右)
出典:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度
版)」 図3.2.22
(注1)「累積白化指標気温」とは、気温から30℃を差し引いた値の合計。
(注2)1988年も危険範囲にあるが、この年はオニヒトデの食害で気温の影響
を受けるサンゴ自体がほとんどなかった。
出典:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
42
4. 分野別
将来予測
4-4 海のシステム
✔AR5
関連情報
Q&A
海洋生物の生息域が変化し、食料や国家の安全保障にまで影響を及ぼす
中高緯度の地域では海洋生物の種や漁獲量が増加する一方、熱帯や南極域では減少すると予測されています(図C)。また、中・高排出シナリオ(RCP4.5、6.0、
8.5)では、海洋の酸性化が進み、海洋生態系、特に極域の生態系やサンゴ礁に大きな影響を与えると予測されています(図D)。こうした海洋生物の生息域の変化
(図A、図B)は、漁獲量の減少からくる食料安全保障や、漁業海域の変化による国家安全保障へも影響を及ぼすことが懸念されています。
 B. 漁獲底生魚の緯度分布(上)
深度分布(下)
 A. 分布範囲の変化
気候依存の分布
緯
度
侵入
 D. 現在の軟体動物と甲殻類の漁業分布と既知の造礁サンゴ※1及び冷水サンゴ※2の分布
及びRCP8.5における海洋酸性化の予測(2081-2100年と1986-2005年との比較)
より低温の海水への分布移動
km/10年
pHの変化
軟体動物と甲殻類漁業
(現在の年間漁獲率>0.005 t/km2)
漁獲可能量と
体長/体重に変化
侵入
冷水サンゴ
造礁サンゴ
極側へ
A国
B国
m/10年
局所的絶滅
深海へ
元々の分布
深度
 C. 最大漁獲可能量の変化(2001-2010年と比較した2051-2060年の10年平均値)
減少
増加
~
~
~
データなし
~
~
~
~
影響を受ける種の割合(%)
下のグラフは海洋酸性化への感度を比較したもの。 棒グラフの上の数字は分析された種の数
冷水サンゴ
造礁サンゴ
甲殻類
軟体動物
正の効果
効果なし
負の影響
2100年のCO2分圧(μatm)
2100年の各CO2分圧に収まるシナリオはRCP4.5(500-650μatm)、RCP6.0( 651-850μatm )、RCP8.5( 851-1370μatm )、
2150年までにRCP8.5は1371-2900μatmに収まる。コントロール(Control)は380μatm(現在)に対応
※1:熱帯域のサンゴ礁に分布するイシサンゴは、サンゴ礁を形成するため造礁サンゴと呼ばれている
※2:イシサンゴのうち、約1500m までの大水深の海底に生息するグループは冷水サンゴと呼ばれている
※1、※2参考:鈴木ら(2006)造礁サンゴ、冷水サンゴ、深海サンゴの骨格の酸素・炭素同位体比の挙動について,日本地球化学会年会要旨集,53(0),234-234
SRES A1Bシナリオを使用。乱獲や海洋酸性化の潜在的影響分析は行っていない
出典: AR5 WG2 第6章 Fig.6-14(A)-(C) , AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig.SPM.6(A),(B)
◇AR4では◇ 継続する温暖化に起因して、サケやチョウザメなどの魚類の分布及び生産性に地
域的な変化が生じ、養殖及び漁業に悪影響があると予測されていました。
43
4. 分野別
将来予測
4-4 海のシステム
AR5
Q&A
✔関連情報
日本沿岸のサンゴ礁は将来消失する可能性がある
日本沿岸のサンゴ礁の分布域に関する研究では、将来、分布域は北上するものの、海水温の上昇による白化現象の増加域とサンゴ骨格の形成に適さない
酸性化域に挟まれる形となります。結果として、日本沿岸の熱帯・亜熱帯サンゴ礁の分布域は2020~30年代に半減、2030~40年代には消失すると予
測されています。※1
※1:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
 現在(2000年)と将来(2040年、2060年)のサンゴ礁の北限の変化
熱帯・亜熱帯
サンゴ礁の北限
温帯サンゴ礁の北限
サンゴの生息に不適
とされる海水温30℃
のライン
アラゴナイト※2が溶解
※3
• SRES A2シナリオを利用。値は4つの気候モデル(IPSL, MPIM, NCAR CSM1.4, NCAR CCSM3)の平均値を示しています。
• 日本を取り囲むメッシュは、酸性度の指標であるアラゴナイト飽和度(スケールバー参照)。
※2:サンゴなどを構成する炭酸カルシウムの一種。
※3:アラゴナイト飽和度は、二酸化炭素が海に溶け込むことで低下します。1を下回るとアラゴナイトが溶解し、炭酸カルシウムの殻や骨格の形成が
困難となります。
出典:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」 図3.2.26
参考:気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/mar_env/knowledge/oa/acidification_influence.html
44
4. 分野別
4-4 海のシステム
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
局所的な保全や漁業の抑制だけでは世界規模の影響は止められないが、
海の生態系のレジリエンスを高めることはできる
適応のオプション例(AR5)
生態系
マネジメント
海の状況の
調査
効果/事例(関連情報)
乱獲の制限
水産資源の保全・回復を図り、水産資源を持続的に利用していくために「水産資源管理」の取
組が行われている。これには漁獲可能量の設定などにより漁獲量を制限することも含まれる。※1
酸性化した海水を避けた
養殖
海洋の酸性化は炭酸カルシウムの殻をもつ生物(貝類、サンゴなど)の成長を阻害する。※2
そのため酸性化が少ない海域等にて養殖を行う研究が、例えばカキを対象に行われている。※3
環境に適した種の育成
高温耐性をもつ品種の開発を行うことで、海水温が上昇した海域においても生息を可能とする。
日本ではヒラメやノリなどで研究が進められている。※4
富栄養化の低減
生活排水等の適切な処理を行い、また排水基準を制定する。※5
海のモニタリング
海洋酸性化は栄養が制限された条件下で、沿岸海洋生物種の毒性を悪化させる可能性があ
るため、この生物毒素を適切にモニタリングする。※6
参考: AR5 WG2 第6章 6.4.2.1, 6.4.2.3
※1:水産庁HP http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/
※2:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
※3:Barton, A., B. Hales, G.G. Waldbusser, C. Langdon, R.A. Feely, 2012: The Pacific oyster, Crassostrea gigas, shows
negative correlation to naturally elevated carbon dioxide levels: Implications for near-term ocean acidification effects,
Limnology and Oceanography, 57(3): 698-710.
※4:農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/budget/review/h25/pdf/0246_sai.pdf
※5:環境省 https://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/mle2_j/009.pdf
※6:AR5 WG2 第6章 6.4.2.3
45
4. 分野別
適 応
4-4 海のシステム
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:影響を受けやすい生態系への対策
特に気候変動の影響を受けやすいサンゴ礁などのモニタリングは、生態系の異変をいち早く捉えることにより、迅速かつ適切な保全施策につながります。※1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
 「モニタリングサイト1000 サンゴ礁調査」における平均サンゴ被度※(2013年度)
※サンゴが着生可能な海底の面積に占める、サンゴが覆っている面積の割合
円グラフの黄緑色部分が
被度を表す
サイト2(小宝島周辺)、サイト8(大東諸島)は2013年度調査未実施
モニタリングサイト1000 サンゴ礁調査では、日本の沿岸域をサンゴの分布状況から、トカラ列島以南の沖縄島や奄美群島等のサンゴ礁地形が見ら
れる「主なサンゴ礁域」と、屋久島・種子島以北の「高緯度サンゴ群集域」の2つの海域に分け、全国に24サイトを設けて調査しています。※2
※2:環境省生物多様性センターHP http://www.biodic.go.jp/moni1000/coral_reef.html
出典:環境省 生物多様性センター「平成25年度 モニタリングサイト1000 サンゴ礁調査報告書」図Ⅰ-1-1及び表Ⅱ-1-1から作成
46
4. 分野別
観測結果
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
✔AR5
Q&A
✔関連情報
気候変動は熱帯地域・温帯地域における作物の収量に負の影響を与えている
気候変動は、高緯度地域では作物収量が増加するという良い影響があるという研究もありますが、一般的に、熱帯地域や温帯地域では、収量が減少するな
どの負の影響を及ぼしています(下図)。
 1960-2013年に観測された気候変動の影響による主要4作物の収量影響評価
収量影響(%/10年)
左図は、気候変動(降水量や気温)の影響がな
かった場合を、過去の気象状況と収量の関係などか
ら統計的に導く統計モデルや、作物の生育や登熟等
の成長、過程のメカニズムから計算を行うプロセス
ベースのモデル等を用いて計算した推定収量と、実
際に得られた収量との差を計算した研究を地域ごと、
作物種ごとにまとめたものです。
(左図に含まれる研究の一つであるKucharik and
Serbin,(2008)は統計モデルの一種である重回帰
モデルを用いて推計)
90パーセンタイル※
75パーセンタイル
中央値
◇AR4では◇
25パーセンタイル
例えば、アフリカのサヘル地域では、温暖化及び乾燥化
した条件により、作物の成長期間が短くなり、作物への
悪影響が生じていると記載されています。
10パーセンタイル
熱帯
温帯
地域
コムギ
大豆
コメ
トウモロコシ
作物の種類
(
※10パーセンタイルとは下から10%の値、90パーセンタイルとは上から
10%の値。つまり、この収量影響の幅は上下10%ずつに含まれる値が
除かれて示されている
)はデータポイント数を表す
出典:AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig SPM.2(C)
47
4. 分野別
観測結果
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
AR5
Q&A
✔関連情報
日本では、農作物に高温障害が発生している※1
 農作物の被害
夏の高温により、コメの粒の内部
が白く濁る白未熟粒(しろみ
じゅくりゅう)や胴割粒(どうわれ
りゅう)※などの品質低下が報告
されています。※1
平成25年には、白未熟粒の発
生が27県(東日本11県、西
日本16県)で報告されました。
なお平成24年は29県、平成
23年は28県でした。※2
※粒の平面に亀裂があるもの
秋から冬にかけて高温・多雨で
推移することで、ウンシュウミカン
の果皮と果肉が分離する浮皮
(うきかわ)の発生が報告され
ています。※1
平成25年には、浮皮の報告が5
県(西日本5県)で報告されま
した。なお平成24年は6県、平
成23年は12県でした。 ※2
白未熟粒(左)と
正常粒(右)の断面
ウンシュウミカンの浮皮(左)
健全果(右)
全国:47県、北日本:7県、東日本17県、西日本:23県と定義
トマトなどの果菜類では、夏の高
温により花粉の機能に障害が生
じ、花落ち等花のつく割合、身の
付く割合が低下する着花・着果
不良が報告されています。※1
平成25年には、着果不良が21
県(北日本2県、東日本9県、
西日本10県)で報告されまし
た。なお、平成24年は27県、平
成23年は23県でした。 ※2
トマトの花落ち
着色不良のブドウ
ブドウの成熟期である秋から冬に
かけて高温で推移することにより、
果実が着色不良になることが報
告されています。※1
平成25年には、着色不良・着
色遅延の発生が13県(東日
本6県、西日本7県)で報告さ
れました。なお平成24年は18県、
平成23年は16県でした。 ※2
出典:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
※2:農林水産省「平成25年地球温暖化影響調査レポート(平成26年7月)」
48
4. 分野別
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
将来予測
✔AR5
Q&A
関連情報
気温が20世紀末より2℃以上高くなると、作物の収量は負の影響を受ける
将来人口が増加すると食料需要は高まります。一方で、 20世紀後半より地域の平均気温が2℃以上高くなると、適応策をとらない場合、熱帯、温帯の作
物(コムギ、コメ、トウモロコシ)の収量は本来よりも減少し、4℃以上高くなると、食料安全保障にとって大きなリスクになると予測されています。下図にまとめら
れている予測は、熱帯及び温帯地域を対象に、異なる排出シナリオによる予測も適応策がとられている場合もとられていない場合も含まれます。収量変化は
20世紀後半と比較したもので、時間経過とともに、収量減の証拠が増加していくのがわかります。
 気候変動による作物収量変化予測の研究数の割合
各タイムフレームのデータを合算すると
100%になります。
収量予測研究数の割合(%)
凡例
収量変化範囲
~
収
量
増
~
~
~
~
~
収
量
減
~
~
~
~
(年)
タイムフレーム
◇AR4では◇ 中~高緯度地域では、作物によって差があるものの、地域の平均気温が1~3℃上昇すると
わずかに作物生産性が向上し、それを超えると減少に転じると予測されていました。
出典:AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig SPM.7
49
4. 分野別
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
将来予測
AR5
✔関連情報
Q&A
日本では、コメの収量の変化は少ないが、品質が下がる
将来のコメの全生産量は、21世紀中盤にかけて増加し、その後も大幅に減少はしないと予測されましたが、一方で高温により、品質低下のリスクが高くなると
予測されています(図A) ※1 。2008年の玄米の政府買入価格は1等米(1類):14,148円/60kg、2等米(1類):13,548円/60kgであり※2品
質の低下(等級の低下)は稲作収入の減少につながります。また、収量が増加する地域と減少する地域の偏りが極めて大きくなると予測されています(図
B)※1。
※1:S-8 地球温暖化「日本への影響」, ※2:食糧統計年報平成20年版
 A. コメ全生産量の20 年毎の推移
(MIROC3.2-hires※3 A1b※4;適応なし)
 B. コメの推定収量の分布
(2081-2100 平均;MIROC3.2-hires A1b)
増加
収
量
• 各メッシュの算定収量に水田面積を乗じて全国集計したもので、
1981-2000 年の現行移植日による値を100 とした場合の相対値。
• 高温による品質低下のリスク:
低(HDD<20),中(20<HDD<40),高(40<HDD)
HDD:出穂後20 日間の日平均気温26℃以上の積算値。
※3. 気候モデルの名称、※4. SRES A1B(→p.5 2-2「気候シナリオ」参照)
減少
値は1981-2000 年平均の値を100 とした相対値
出典:S-8 日本への影響 図1(6)-2
出典:S-8 日本への影響 図1(6)-1
50
4. 分野別
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
将来予測
AR5
Q&A
✔関連情報
日本では、ウンシュウミカンの栽培適地が北上すると予測されている
ウンシュウミカンの栽培適温は年平均気温15℃~18℃とされています※1。RCP8.5シナリオを用いた研究では、ウンシュウミカンの適地よりも高温となる地域が
徐々に北上し、21世紀半ばには九州の一部が、21世紀末には関東以西の太平洋側を中心としたほとんどのウンシュウミカン生産県で適地が半減すると予想
※1:杉浦 俊彦・杉浦 裕義・阪本 大輔・朝倉 利員(2009)温暖化が果樹生産に及ぼす影響と適応技術, 地球環境, 14, 207-214
されています(下図)。※2
※2:S-8 地球温暖化「日本への影響」
 ウンシュウミカンの栽培適地の変化予測
基準期間
適地
より低温の地域
より高温の地域
21世紀半ば
適地
より低温の地域
より高温の地域
21世紀末
適地
より低温の地域
より高温の地域
基準期間は1981-2000年、21世紀半ばは2031-2050年、21世紀末は2081-2100年を表す。用いたモデルは
MIROC5であり、シナリオはRCP8.5である。基準期間からの年平均気温変化量は、21世紀半ばで2.1℃、21世紀末で
4.8℃である。※2
出典:S-8 地球温暖化「日本への影響」 図1-3抜粋
51
4. 分野別
適 応
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
✔AR5
Q&A
✔関連情報
作物への適応による平均便益は、適応をしない場合と比べて
15-18%増加すると予測されている
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
種まき日の変更
作期の遅いコメの品種を用いることで、登熟期(もみ殻の中で米の粒が成長する時期)の高温遭遇を回避し、
品質低下を防ぐ。※1
短期間で収穫できる品種の栽培
作期が短い品種は、干ばつや高温に曝される可能性を減らすことができる。※2
灌漑の最適化
気候変動による融雪水や降水時期の変化が生じた場合、流量が変化し、農業の灌漑用水確保が難しくなる
可能性がある。その場合に、灌漑時期における灌漑効率を上げることで水田供給水量を適切に管理し、収量
を確保することが可能となる。※3
最適な肥料の使用
例えば、日本では、水稲の登熟期の高温に伴い、主な既存品種に白未熟粒が全国的に発生している。これに
対応するために、施肥管理の導入・普及に向けた研究が進められている。※4
参考:AR5 WG2 第7章 7.5.1.1.1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
※2:AR5 WG2 第7章 7.5.1.1.1
※3:増本隆夫(2012)水田灌漑主体流域における気候変動影響評価法とその利活用. 中日2012年推廣先進農業技術因應氣候變遷研討會議,平成24年12月18~19日,台北.
http://www.tjia.gov.tw/conference/2012/doc/topic4.pdf
※4:農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/aid/hozyo/2014/seisan/pdf/seisan_23.pdf
 作物に様々な適応策を用いた場合の予測便益の中央値※
オプション
適応を用いた場合の
便益(%)
栽培品種の
変更(n=56)
23
種まき日の
変更(n=19)
3
※データを小さい順に並べて、ちょうど真ん中になった値のこと
栽培品種変更及び
種まき日の変更
(n=152)
17
灌漑の最適化
(n=17)
3.2
上表の研究結果すべて(263事例)の便益をグラフに表示すると、適応による平均便益が15-18%増加となります。
肥料の最適化
(n=10)
1
その他
(n=9)
6.45
参考:AR5 WG2 第7章 Table 7-2 一部抜粋
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第7章 Figure 7-8をご覧ください。
52
4. 分野別
4-5 食料安全保障及び食料生産システム
適 応
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:高温障害対策
 高温耐性品種「にこまる」(左)とコメの内部が濁った在来品種(右)
コメは登熟期に気温が高くなることで品質が低下します。
当面の適応策として、「高温に耐性を持つ品種への転換」や、「高温
時期と被らない、作期の遅い品種への転換」などで障害発生の回避に
努めています。
高温耐性品種(左)は、
白未熟粒がなく、品質の
低下がみられません。
出典:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
ブドウは、夏から秋にかけての成熟期が高温で推移することで果実の着
色不良が生じます。
当面の適応策として、「幹の表皮を環状に剥皮することで、同化養分
を果房へ集中させ着色を良好にする技術(環状剥皮)」や、「高温
でも着色しやすい品種の導入」などで影響の軽減に努めています。
 ブドウの環状剥皮による着色不良対策
出典:環境省「地球温暖化から日本を守る 適応への挑戦2012」
53
4. 分野別
4-6 都市域
観測結果
✔AR5
Q&A
関連情報
都市には人と経済活動が集中しているため、気候変動に伴うリスクも大きい
 気候変動の影響による暑い日や暑い期間の増加はヒートアイランド現象を悪化させています。
 干ばつによる淡水資源の減少から都市域の水不足が発生し、(水力発電の)電気や食料供給の不足、(汚染された水の利用によ
る)水関連の疾病などの影響が生じています。
 海面水位の上昇による河岸・沿岸の浸食や高潮に伴う洪水は、人々、財産、沿岸植生・生態系など広範に影響を及ぼし、商業、ビジネ
ス、生計などの脅威となっています。
 開発途上国の大規模都市の急速な成長により、極端現象に曝される脆弱な都市コミュニティが拡大しています。
 先進国における気温と死亡率の関係の研究では、高齢者は熱関連による死亡リスクに対して若者よりも脆弱であるとされています。
◇AR4では◇
都市域という章立てはありませんでした。
54
4. 分野別
将来予測
4-6 都市域
✔AR5
Q&A
✔関連情報
世界的気候リスクの大部分は都市部に集中している
都市のヒートアイランドは、2070年代には気候変動に加えて1~1.5℃の気温上昇をもたらすと予測されています。豪雨や高潮による氾濫や洪水は、家屋や
公共施設の浸水・破壊、水源の汚染、生計やビジネスの喪失、水媒介感染症の増加を引き起こす可能性があります。特に大規模な港湾施設や石油化学・
エネルギー関連産業を持つ都市は、洪水のリスクに脆弱です。
下図は、海面が現在よりも0.5m上昇し、熱帯低気圧の降雨強度が10%強くなった場合の、被害金額が高い上位20都市を示したものです。
 2070年代の気候変動における曝露資産上位20都市の分布
AR5以外の関連図
2070年代における人口と資産の沿岸洪水に
よるリスクの上位20都市のランキングは、アジア
のデルタ地帯に集中しています。
また、資産のリスク上位20都市には東京、大
阪-神戸、名古屋も含まれています。
◇AR4では◇
FACシナリオ※1における
曝露資産(百万ドル)
都市域という章立てはありませんでした。
※1 Future city all changes シナリオ。0.5m海面水位が
上昇し、熱帯低気圧の降雨強度が10%増加した場合。経
済・人口は現在のものを反映。
出典:Hanson, S., R. Nicholls, N. Ranger, S. Hallegatte, J. Corfee-Morlot, C. Herweijer, and J. Chateau, 2011:
A global ranking of port cities with high exposure to climate extremes. Climatic Change, 104(1), 89-111., Fig.8
55
4. 分野別
4-6 都市域
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
都市では、適応策を講じることによって、脆弱性や曝露を著しく低減できる
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
安全な土地の提供
土地利用基本計画の策定・実施による災害危険区域の指定と、治水対策の一体的推進により、被害の防止・軽減
を図る。※1
適切な建築基準、土地利用管理
建築物の強化や嵩上げ。また危険区域(浸水想定区域)における建築行為の禁止等の法整備により被害の防止・
軽減を図る。※1
インフラの改修、(緊急)サービスの
向上・拡大
下水道施設整備による都市の排水能力の向上により内水氾濫被害を防止・軽減する。※1
政策やインセンティブの合致※2
新たな都市政策とインセンティブを含む適応への取組み、そして既存施策は、リスクと脆弱性を軽減する。※3
例として、国土交通省作成の内水ハザードマップ作成の手引き(案)は内水浸水被害の最小化を図ることを目的とし
ているが、これは将来の気候変動による極端な降水時の浸水被害時の対応にも用いることができる。※4
地方公共団体や地域社会の適応能
力の強化※2
例として、リスクマッピング、早期警報、リスク認識、地域社会の健康増進、避難訓練などが挙げられる。※5
政府と民間部門との相乗効果※2
政府が民間部門の適応を支援するために、最新の気候情報を確保し、民間部門は、その情報を適応のために利用す
る。※7
例:リスクスクリーニングとリスクマネジメントのためにダウンスケール(空間の細分化・高解像度化)された気候変動予
測情報とツールは、関連する公共部門、企業、消費者の利益享受の役に立つ。※6
適切な資金調達と制度開発※2
適応行動のための金銭的支援。例として重要なインフラを建設、運営、維持するための民間金融による資金支援を実
施する。※7
低所得グループや脆弱な地域社会の
能力・発言力・影響力の向上※2
低所得者向けの金融サービス(マイクロファイナンス)は、低所得グループへの支援を提供するための手段となる。※8
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約, 第8章 Table.8-2, 8-4, 8-5, 第8章 8.4
※1:環境省「気候変動適応の方向性」
※5:AR5 WG2
※2:AR5 WG2 政策決定者向け要約
※6:AR5 WG2
※3:AR5 WG2 第8章 8.4
※7:AR5 WG2
※4:国土交通省「内水ハザードマップ作成の手引き」
※8:AR5 WG2
第8章
第8章
第8章
第8章
Table.8-4
8.4.1.5
Table8-5
8.4.2.3 Box.8-3
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第8章 Table 8-2,8-4,8-5の一覧表をご覧ください。
56
4. 分野別
4-6 都市域
適 応
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:ヒートアイランド対策
ヒートアイランドへの対策は、都心における夏の暑さをやわらげ、熱中症の防止にもつながります。※1
※1:環境省「地球温暖化から日本を守る適応への挑戦2012」
 ヒートアイランド対策の模式図
適応を含む施策
出典:環境省「平成24年版 ヒートアイランド対策ガイドライン」 図2.1 一部加筆
57
4. 分野別
4-7 農村域
観測結果
✔AR5
Q&A
関連情報
自然資源への影響等によって、人々の生活がおびやかされている
 干ばつや暴風雨、その他の極端現象を含む気候変動に起因する影響は、農村域におけるインフラや健康、主要作物の長期的減少などに
も影響を及ぼします。
 暴風雨などの極端現象や洪水は、農村インフラに影響を与え、人々の生命を奪うこともありました。例えば、メキシコ南東に位置するチアパ
ス州沿岸の約60万人が、2005年10月のハリケーン・スタンによる洪水や氾濫の被害を受けました。
 干ばつは農業や畜産業に深刻な影響を与えてきました。例えば、2009年の干ばつにより、南部ケニアの家畜の死亡率が80%にまで上昇
しました。
 気温の変化は、農業技術の改善によって得られる利益の一部を相殺し、変化がなかった場合と比較して、トウモロコシとコムギの収量を減
少させました。
◇AR4では◇
農村域という章立てはありませんでした。
58
4. 分野別
4-7 農村域
将来予測
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動の影響は水供給、食料安全保障、農業所得への影響を通じて
現れると予測されている
 インダス川及びブラマプトラ川流域の農村域は、6,000万人の食料安全保障に影響を与える水の利用可能性の変化の影響を受けやす
いであろうと予測されています。
 農村域は、自然資源に強く依存している(農業、林業、漁業)ため、生計や収入に対する気候変動の影響は特に深刻なものとなる可
能性があります。
 農村域における二次産業(製造)とこれに基づく生活や収入についても、実質的な影響を受ける可能性があります。
 農村域の地域内及び都市域への移住は、すでに様々な事由で行われていますが、気候変動の影響はさらに、農村域からの移住を加速さ
せるかもしれません。
 政府によるバイオ燃料の栽培奨励や、森林伐採の制限によるGHG排出量の削減政策などの気候政策によって、雇用機会の増加や淡水
などの資源の競合、景観の変化など、正と負の二次影響を被る農村域もあると予測されています。
◇AR4では◇
農村域という章立てはありませんでした。
59
4. 分野別
適 応
4-7 農村域
✔AR5
Q&A
✔関連情報
先進国はもとより、開発途上国の農村域における適応施策は、
AR4以降、事例が増加しつつある
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
貿易
貿易の改革※1
世界貿易システムの信頼性の向上は、気候変動による食料の供給不足などの市場の不安定性を軽減
させることができる。※2
投資
開発途上国の小規模農家への 農家への投資により、作物供給能力を高めることで、気候変動による食料の供給不足などの市場の不安
投資※1
定性を軽減させることができる。※2
農業
様々な品種の活用
作期の遅いコメの品種を用いることで、登熟期の高温遭遇を回避し、品質低下を防ぐ。作期が短い品種
は、干ばつや高温に曝される可能性を減らすことができる。※3
水
ダム
西アフリカにおいて、雨季の開始時期の変化が予測されている。そのため、現在の降水(雨)に頼って作
物を育てる天水農業は継続が難しくなる。ダムを建造することで、乾季に農業で使用するための水を雨季
に貯水し、渇水への備えとする。※4
地下水のくみ上げ
多くの地域において降水の変動や積雪からの融解水の減少により、河川や湖沼などの地表水の減少が予
測されているため、地下水のくみ上げにより水資源を確保する。※5
効率的な水のマネジメントへの
改良
ブラジルの流域では、いつ、どこで水の利用が必要になるのかをモデルを用いて分析し、農家の水利用に役
立てている。※6
生物
多様性
植生組成と植生群落の操作
カナダでは、山火事への気候変動の影響を相殺する戦略として植生組成と植生群落の操作が提案され
ている。※7
漁業
養殖
海洋の酸性化は炭酸カルシウムの殻をもつ生物(貝類、サンゴなど)の成長を阻害する※8。そのため酸
性化が少ない海域等にて養殖を行う研究が、例えばカキを対象に行われている※9。
参考: AR5 WG2 第9章 9-7, 9-8, 9.4.3.3, 9.4.3.4
※1:AR5 WG2 政策決定者向け要約、
※2:AR5 WG2 第9章 9.3.3.3.2
※3:AR5 WG2 第7章 7.5.1.1.1
※4:Van de Giesen, N., J. Liebe, and G. Jung, 2010: Adapting to climate change
in the Volta Basin, West Africa.Current Science, 98(8), 1033-1037.,2010
※5:Kundzewicz, Z.W. and P. Döll, 2009: Will groundwater ease freshwater
stress under climate change? Hydrological Sciences Journal, 54(4), 665-675.
※6:Van Oel, P.R., M.S. Krol, A.Y. Hoekstra, and R.R. Taddei, 2010: 2010: Feedback mechanisms between
water availability 5 and water use in a semi-arid river basin: A spatially explicit multi-agent simulation
approach. , 25(4), 433-443. Environmental Modelling & Software, 25(4), 433-443.
※7:AR5 WG2 第9章 9.4.3.3
※8:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
※9:Barton, A., B. Hales, G.G. Waldbusser, C. Langdon, R.A. Feely, 2012: The Pacific oyster, Crassostrea
gigas, shows negative correlation to naturally elevated carbon dioxide levels: Implications for near-term
ocean acidification effects, Limnology and Oceanography, 57(3): 698-710.
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第9章 Table9-7,9-8の一覧表をご覧ください。
60
4. 分野別
4-8 主要な経済部門及びサービス
観測結果
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動も経済部門やサービスに対して影響を及ぼしている
 気候変動の影響は経済的な財・サービスの需要と供給に影響を及ぼしてきました。しかし、人口、年齢、所得、生活様式、技術、規制、
統治、その他多くの社会経済の変化が与える影響に比べて、気候変動の影響は小さいと考えられています。
 気候変動は、住宅や店舗などの暖房のエネルギー需要を削減する一方、冷房のエネルギー需要を増加させました。
 気候変動はエネルギー源や技術に対して、様々な影響があります。例えば、依存する資源(水、風、日射)や技術プロセス、立地(沿
岸地域、氾濫原)などが挙げられます。
◇AR4では◇
経済部門及び主要なサービスという章立てはありませんでした。
61
4. 分野別
将来予測
4-8 主要な経済部門及びサービス
✔AR5
関連情報
Q&A
気温が2℃上昇した場合、世界の年間経済損失は最大2.0%と推定されている
現在より約2℃の気温上昇(工業化前から約2.5℃の気温上昇)時の、世界の年間経済損失は、収入の0.2~2.0%※と推定されています(下図)。人
命、文化的遺産、生態系サービスの損失といった多くの影響は、貨幣価値化が困難であるため、災害損失の推計値は下限であり、損失推計値への反映は
十分ではありません。気候変動による経済への影響は存在すると考えられていますが、他の要因(人口、年齢構成、収入、生活様式、技術、規制など)の
方が経済により大きな影響を与えると予測されています。ただし、気候変動による経済への影響は研究途上です。
※平均から±1標準偏差の範囲
 世界の平均地上気温の上昇と経済損失(所得損失)の関係
所得損失(%)
2.5
-1.4
2.5
-1.9
2.5
-1.7
2.5
-2.5
差は約0.9。
2.2
0.0
よって平均-1.1の±1標準偏差
2.2
0.1
の範囲は-0.2~-2.0。
2.5
-1.5
2.5
-0.1
2.5
-0.9
左図のおよそ2.5℃の気温上昇
-0.2%
時の所得損失の値は右表。
9データの平均は-1.1。標準偏
0
年間所得の変化(%)
気温上昇量(℃)
※導出方法
3
-3
-2.0%
-6
出典:AR5 WG2 第10章 Supplementary Material Table SM10-1 抜粋
◆マークはAR4以降に発表さ
れた研究です。
また、この図は18の研究成果
から作成されています。
-9
◇AR4では◇
-12
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
5.0
5.5
気温上昇量(℃)
工業化前の
気温を基準
およそ現在の
気温に相当
出典:AR5 WG2第10章 Fig.10-1
世界平均気温の上昇が1990年水準と比べて1~3℃未満である
場合、幾つかの影響は、ある場所や分野に便益をもたらすが、他の
場所や分野にはコストの増加をもたらすと予測されました。気温上昇
が2~3℃以上である場合、すべての地域が正味の便益の減少、も
しくは正味のコストの増加のいずれかを被る可能性が非常に高いとさ
れています。4℃以上となると、世界平均損失はGDPの1~5%であ
ろうと予測されています。
62
4. 分野別
適 応
4-8 主要な経済部門及びサービス
✔AR5
Q&A
関連情報
政府や官民主体の適応策の他に、エネルギー施設への適応もある
 経済部門・サービスにおける適応例
適応のオプション例(AR5)
効果/事例
大規模な官民協働による主導的なリス
ク低減※1
農業開発を促進する官民パートナーシップ。例えば、ローンによって、農家は生産量が低い作
物から高い作物へと営農体系を変えることができる。※2
リスク分散が不可能な部分への政府の
保険※3
通常の保険は個々のリスクを保証するが、それでは対応できないリスクについて、政府が介入す
る公共の法定保険制度によって、リスクを保証する。※4
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約, 第10章
※1:AR5 WG2 政策決定者向け要約、 ※2:AR5 WG2 第10章 Table10-8、 ※3:第10章 Executive Summary、 ※4:AR5 WG2 第10章 10.7.6.1
 エネルギー施設への適応例
施設
適応のオプション例(AR5)
効果/事例
火力-原子
力発電所
極端な暑熱に対して、可能ならば、極端な暑熱を避けられる場所
への移動
気温の上昇は熱変換効率を低下させるため、これを回避
できる。※5
水力発電
流入量の変化に対するソフト対策としての水のマネジメント調整。
ハード対策として、タービンランナーの能力向上、貯水容量の増加
季節・年間の発電出力の変化を低減させる。※5
太陽光発電
暑熱期間に対して、自然通風や強制通風、液体冷却材などで
太陽光パネルを冷却
機器が30℃から50℃まで高温になると出力が3-9%減
少するため冷却により、出力低下を防ぐ。※5
風力発電
風勢の変化に対して、(より効率的に発電可能な)立地の選定
風力発電ポテンシャルの変化に対応する。※5
パイプライン
永久凍土の融解に対して、設計コードと計画基準の調整、減災
計画の適用
新たな計画基準を用いることで、永久凍土融解により生じ
る地盤沈下のために、支柱が不安定となることを防ぐ。※6
参考: AR5 WG2 第10章 Table 10-1,10-2、※5:AR5 WG2 第10章 Table 10-1、※6:AR5 WG2 第10章 Table 10-2
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第10章 Table10-1,10-2の一覧表をご覧ください。
63
4. 分野別
観測結果
4-9 人間の健康
✔AR5
Q&A
関連情報
気温の上昇により死亡リスクが高まっている
 気温上昇は、熱に関係する死亡及び病気のリスクを増加させました。例えば、1968年から2010年の間に、オーストラリアでは年平均気
温の上昇と関連して、夏から冬への死亡率が増加しました。また、1999年から2008年のヨーロッパにおける夏の猛暑が、健康に与えるリス
クを少なくとも4倍にした可能性が非常に高いと結論付けた研究もありました。
 気温と降雨の局所的変化は、水媒介及び生物媒介の病気の分布を変化させました。例えば、過去20年間でデング熱※を媒介するヒトス
ジシマカに、より適する気候条件に変化した地域がありました(例.中央北西ヨーロッパ)。
※. デングウイルスが感染しておこる急性の熱性感染症で、発熱、頭痛、筋肉痛や皮膚の発疹などが主な症状。
 気温と降雨の局所的な変化は、農業生産を減少させ、地域の食料価格を高騰させ、これが食料消費、ひいては健康への負の影響をもた
らすという研究があります。
 最近数十年間の気候変動は、人々の健康に影響を及ぼしてきました。しかし、気候変動による健康への影響は、他のストレス要因による
健康への影響と比べると比較的小さく、十分に定量化されていません。
◇AR4では◇
ヨーロッパにおける過剰な死亡率と極端な高温現象の増加が関連付けられました。
また、ヨーロッパとアフリカの一部の地域において、人間の感染症を媒介する生物の
分布が変化しているという証拠が表れている、と記載されています。
64
4. 分野別
観測結果
4-9 人間の健康
AR5
Q&A
✔関連情報
日本でも、暑熱による健康への影響や媒介生物の生息域拡大が見られる※1
参考: ※1:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」
 熱中症※2による年間死亡者数の推移
 ヒトスジシマカ分布域の拡大
夏季平均気温偏差※3
死
亡
者
数
(
人
)
 8月の海面水温20℃線と
ビブリオ・バルニフィカス症の発生地域
気
温
偏
差
(
℃
)
年
出典:熱中症年間死亡者数:厚生労働省「人口動態統計」
気温偏差:気象庁HP
http://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.phpから作成
※2. 人口動態統計の死因が「熱および光線の作用(T67)」に該当するものとした。
(参考:藤部文昭, 2013: 暑熱 (熱中症) による国内死者数と夏季気温の長期変動. 天
気, 60, 371-381.)
※3. 国内17地点における平均の7,8月の平年偏差。
気温偏差の計算対象地点は以下である。
網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、長野、水戸、飯田、銚子、境、浜田、
彦根、多度津、宮崎、名瀬、石垣島
これらは、都市化の影響が比較的少なく、長期間の観測が行われている地点か
ら、地域的に偏りなく分布するように選出している。なお、宮崎は2000年5月に、
飯田は2002年5月に、移転しているため、1995年から1999年まではこれら2地
点を除いた15地点平均を、2000年から2001年までは飯田を除いた16地点平
均となっていることに留意。
<直接的影響>
暑熱の直接的な影響の一つである熱中症による死
亡者数は増加傾向にあり、特に猛暑であった2010
年は突出して死亡者数が多くなりました。※1
出典:S-8 日本への影響 図1(8)-1
<間接的影響>
デング熱を媒介するヒトスジシマカの分布は年平均
気温が11℃以上の地域とほぼ一致します。1950
年以降、徐々に分布域が北へ拡大しています。※1
出典:文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動と
その影響(2012年度版)」 図3.2.40
<間接的影響>
温暖で閉鎖性の高い汽水域に多く分布し、下
痢・腹痛等を引き起こすビブリオ・バルニフィカス
菌が九州地方で多く報告されています。この菌
は海水表面温度が20℃以上で検出数が増
加しますが、この20℃線は近年北上傾向にあ
ります。※1
65
4. 分野別
将来予測
4-9 人間の健康
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動は、人々の健康に大きな影響を及ぼす
多くの地域、特に低所得の開発途上国における健康被害の増大が予測されています。
健康被害は、気温上昇に単純に比例するよりも大きくなると考えられており、工業化以前と比較して、4℃以上の気温上昇による健康への被害は、2℃の時
の2倍以上になると予測されています(下図)。
 気候変動と適応を通じた影響低減可能性による健康影響の概念
現在
栄養不良
生物媒介
疾病
暑熱
2030-2040年
+1.5 ℃
食品・水
媒介感染症
メンタルヘルス
・暴力
極端現象
大気質
適応の余地が大きい項
目もあれば、余地があま
りない項目もある
+4 ℃
栄養不良
労働衛生
生物媒介
疾病
暑熱
食品・水
媒介感染症
2080-2100年
労働衛生
栄養不良
生物媒介
疾病
暑熱
食品・水
媒介感染症
労働衛生
大気質
メンタルヘルス
極端現象 ・暴力
特に気温上昇に対して、非線形で影響が
大きくなる例として、暑熱に対する死亡率、
子どもの成長や栄養状態を左右する農作
物の収量、感染症などが挙げられます。
メンタルヘルス
・暴力
極端現象
大気質
適応への
リスクとポテンシャル
現行の適応下での
リスクレベル
高度な適応下での
リスクレベル
◇AR4では◇
特に途上国において、世界全体での気温
上昇による健康への負の影響が、寒さによ
る死亡の減少による便益を上回ると予想
されていました。
リスク低減のための
適応の可能性
出典:AR5 WG2 第11章 Fig.11-6
66
4. 分野別
将来予測
4-9 人間の健康
AR5
Q&A
✔関連情報
日本においても健康影響リスクが増大する
RCP8.5の場合、 21世紀末には全国で熱ストレスによる死亡がおよそ4~13倍に増加する可能性がありますが、適応策を講じることで2倍未満の増加に抑
えることが可能であると予測されています(図A)。また、デング熱、チクングニア熱※を媒介するヒトスジシマカの分布域(年平均気温11℃以上)は、より拡
大すると予測されています(図B)。※1
※1:S-8 地球温暖化「日本への影響」
適応策なし
 B. ヒトスジシマカ分布域の拡大
分布域(%)
変化率(倍)
 A. 熱ストレス超過死亡者数の変化率※(総数、日本)
適応策あり
R2.6:RCP2.6, R4.5:RCP4.5, R8.5:RCP8.5
◆:MIROC5, ■:MRI-CGCM3.0,▲:GFDL
CM3,●:HadGEM2-ES
( これら4種はモデルの名称)
灰色:適応策あり
出典: S-8 日本への影響 図1-1(b)一部抜粋、一部変更
R2.6:RCP2.6, R4.5:RCP4.5, R8.5:RCP8.5
◆:MIROC5, ■:MRI-CGCM3.0,▲:GFDL
CM3,●:HadGEM2-ES
( これら4種はモデルの名称)
出典: S-8 日本への影響 図1-1(b)一部抜粋
※チクングニアウイルスを保有するヤブカ属のネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどに刺されることで感染する。潜伏期間は
3~12日(通常3~7日)で、患者の大多数は急性熱性疾患の症状を呈する。
67
4. 分野別
4-9 人間の健康
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
健康には、脆弱性を低減するための有効な適応策が存在する
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
基本的な公衆
衛生対策の実
施・改善※1
浄水
水因性疾病の原因となる不衛生な水を安全な水の供給へ変更する。※2
公衆衛生の提供
例えば、公衆衛生関連インフラ(上下水道、排水路、公衆トイレ等)を整備すること
は、水・食物媒介感染症の被害軽減に寄与する。※3
重要な医療の
確保※1
ワクチン接種
例えば、日本では、コガタアカイエカの活動範囲の北上により、日本脳炎の感染リスク地
域の拡大が予測されている。ワクチン接種はリスク低減に効果を持つ。※4
災害に備えた
対応能力の強
化※1
監視強化
定期的に監視、調査を行うことで病原体媒介生物の発生動向を見守り、感染症の発
生及び蔓延を防ぐ。※5
(熱波等の)早期警報システム
例えば、ヨーロッパでは、熱波の影響を未然に防ぐための熱波警報システムの構築が始
まっており、熱波襲来を事前に予測し、一般市民に警報を発する。※6
(熱波等の)脆弱性マップの作
成・公開
気候変動に関連する現在、及び将来のリスクをよりよく理解するために、脆弱性マップの
利用がますます進んでいる。※7
参考: AR5 WG2 第11章 Executive Summary、11.7.2, 11.7.2.1, 11.7.3
※1:AR5 WG2 政策決定者向け要約
※2:JICA「国際協力機構年報2011」
※3:JICA「気候変動対策ツール/適応策 試行版Ver1.0」
※4:環境省HP http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai_hyouka/h24/mid.html
※5:環境省「地球温暖化と感染症」
※6:国立環境研究所HP http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/32/12-13.html
※7:AR5 WG2 第11章 11.7.2.1
68
4. 分野別
適 応
4-9 人間の健康
AR5
Q&A
✔関連情報
日本での適応例:熱中症予防・対策に向けた情報提供・普及啓発
 熱中症予防情報サイト
 熱中症環境保健マニュアル
<情報提供>
環境省では、「熱中症予防情報サイト」を運用し、暑さ指数
(WBGT※)の予測値や実況値などの情報を、ホームページ
や携帯サイト、メール配信サービスなどを通じて提供しています。
※暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、
熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。
単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。暑さ指数
(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱
収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、
③気温の3つを取り入れた指標である。
出典: 環境省HP http://www.wbgt.env.go.jp/
<情報提供・普及啓発>
環境省では、熱中症についての基礎知識、熱中症になった時
の対処法、予防のための対策、保健指導のあり方等をまとめた
「熱中症環境保健マニュアル」を作成しています。
出典: 環境省「熱中症環境保健マニュアル2014」
69
4. 分野別
観測結果
4-10 人間の安全保障
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動は、暴力的な紛争のリスクを増加させるいくつかの要因に影響を及ぼす
低所得、景気後退、一貫性のない国家制度が、暴力の発生に関連付けられており、これらの要因は気候変動の影響を受けやすいとされています。また、気候
変動に適応するために必要な能力の多くは、現在進行中の、または最近の武力紛争によって損なわれています。紛争中や紛争発生後の国(下図の赤四角
プロット)では、気候変動に適応する能力が低くなっています。
 紛争と統治と人間開発のレベルに関する散布図
紛争中や紛争発生後ではない低所得国
紛争中及び紛争発生後の国
政
府
機
能
の
有
効
性※1
指
数
※1:-2.5~+2.5の間で推定値として表示され、推定値が大きくなる
ほど、統治が良好と判断される。
行政サービスの質、政治的圧力からの自立度合い、政府による政
策策定・実施への信頼度、政府による(改革への)コミットメントを
意味する。
日本は1.59(2013年)であり、210か国中14位。*
※2:その国の人々の生活の質や発展度合いを0~1の間で示す指標。
値が大きい方が良好。
「健康で長生きすること」「教育を得る機会」「一定水準の生活に必
要な経済手段が確保できること」を数値化することで、時間の経過に
よる改善や後退、またその達成度の国際比較ができるようにしている。
日本は0.890(2013年)であり、187か国中17位。**
参考:* World Bank(http://www.worldbank.org/)
** UNDP「人間開発報告書2014」
◇AR4では◇
気候変動は、例えば、アジア太平洋地域において、統制のない
不安定な人口移動の一因となり、国家の安全保障に新たな課
題を与えるかもしれないと記載されています。
人間開発指数※2
出典:AR5 WG2 第12章 Fig.12-2
70
4. 分野別
将来予測
4-10 人間の安全保障
✔AR5
Q&A
✔関連情報
気候変動は、暴力や紛争のリスクを間接的に増大させる可能性がある
気候変動は、貧困や経済的打撃といった紛争の要因を増幅させることによって、内戦や民族紛争といった暴力的紛争のリスクを間接的に増大させると予測さ
れています。影響の強さは不確実であっても、気候変動が武力紛争のリスクを増大させることについては共通の懸念があります。
例えば、将来の気温上昇を元とした、暴力のリスク増加の分布の研究もなされています(下図)。
 2050年までの気温変化予測を現在気温の標準偏差の倍数として表した分布
AR5以外の関連図
濃色地域ほど、暴力のリス
ク増加が予測されている
標準偏差
0 1 2 3 4
気温や極端な降水の標準偏差が1増えると、個人間暴力が4%、
民族紛争が14%増加すると推定されています。
※気温上昇の幅は地域によって異なるが、図は気温上昇幅そのものではなく、将来の気温
上昇幅を、現在気温の頻度分布に当てはめた時の標準偏差(平均からのばらつき)と
して表していることに注意。
※SRES A1Bシナリオを用いた21モデルのアンサンブル平均から計算。
出典:Hsiang, S.M., M. Burke, and E. Miguel, 2013: Quantifying the influence of climate on human conflict. Science,341(6151), 1235367. Fig.6
71
4. 分野別
適 応
4-10 人間の安全保障
✔AR5
Q&A
✔関連情報
適応戦略による脆弱性の減少が、人間の福祉や安全保障を推進する
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
農業や漁業システムにおいて収入を生む行
動の多様化
例えば、エチオピアでは、牧畜民が牧畜のみでなく、農業も行う農業牧畜へと生業を変化さ
せた。※1
天水農業地域の遊牧民と農民間での、ま
たは漁業コミュニティの中でのリスクマネジメ
ント戦略としての移住
例えば、ガーナでは、エルニーニョ南方振動などに起因する季節や経年スケールでの海洋生
態系の変動による漁獲量の変化に適応するために、季節的・永続的な移住に着手し始め
た。※2
脆弱な集団に対する保険システムの開発
干ばつや冷害などの被害に対する農業保険。※3
女性への教育
経済発展段階の国における母親への教育は、子供の健康状態を良くする。※4
移動機会の拡大
極端な気象現象に対してリスクにさらされている人々の脆弱性を低減させうる。※5
頑健な国家及び政府間制度による協力の
強化
外交や非暴力的メカニズムを用いることで、紛争に対処する。※6
参考: AR5 WG2 第12章 12.2.2
※1:Tolossa, D., 2008: Livelihood transformation from pastoralism to agro-pastoralism as an adaptation strategy among the Urrane of
north-eastern Ethiopia. Quarterly Journal of International Agriculture, 2, 145-165.
※2:Perry, R. and U. Sumaila, 2007: Marine ecosystem variability and human community responses: the example of Ghana, West Africa.
Marine Policy, 31(2), 125-134.
※3:第2104回定例研究会(農林水産政策研究所)
※4:Rammohan, A. and M. Johar, 2009: The determinants of married women‘s autonomy in Indonesia. Feminist Economics, 15(4), 31-55.
※5:AR5 WG2 政策決定者向け要約
※6:AR5 WG2 第12章 12.6.2
72
4. 分野別
4-11 生計及び貧困
観測結果
✔AR5
Q&A
関連情報
気候に関連するハザードは、貧困層の生活に負の影響を与えている
 気候に関連するハザードは、気候以外のストレス要因を悪化させ、特に貧困層の生計に負の影響を与えています。
 貧困層の生活に対する気候変動の影響には、作物収穫量の減少、家屋の損失、食料不足などの直接的な影響と、食料価格の上昇な
どの間接的な影響があります。
 極端現象などにより資産を失った一時的な貧困者は、食料価格の上昇、移動の制限、差別などにより、失った資産を再建できない場合、
慢性的な貧困に陥ります。
(多くの低所得国では、貧困層に影響を与えるような気象現象についての地理的・経年的な観測データが不足しているた
め、十分な知見は得られていません。)
◇AR4では◇
生活及び貧困という章立てはありませんでした。
73
4. 分野別
4-11 生計及び貧困
将来予測
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動は、2100年までに更なる貧困を生み出す可能性がある
 気候変動による経済成長の低下や食料安全保障の悪化などの深刻な影響を受ける地域は、サハラ砂漠以南のアフリカと東南アジアの都
市部及び一部の農村地域であると予測されています。
 バングラデシュやベトナムなどの海面水位上昇の影響を受ける地域をもつ開発途上国では、低標高沿岸域、人口密度及び高潮被害領
域のために、貧困が悪化する可能性があります。
 また、先進国、開発途上国のどちらにおいても、社会の不平等が拡大している国では、新たな貧困を生み出す可能性があります。
 特に賃金労働に依存している貧困世帯は、食料不足と格差が大きい地域(特にアフリカ)の都市や農村域において、食料価格高騰に
よる生活への影響を受けやすくなります。
◇AR4では◇
生計及び貧困という章立てはありませんでした。
74
4. 分野別
適 応
4-11 生計及び貧困
✔AR5
Q&A
✔関連情報
貧困層の生活への適応策は始まったばかりである
適応のオプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
生計の多様化
例えば、農業では、ハイブリッド品種の栽培、品種の多様化、農業保険への加入が挙げられる。※1
ただし、最貧困層※には適用できない。
移住
降水量の減少による農業生産性の低下は、経済的な影響を与えるため、他の地域への移住の要
因となりうる。※2
気候変動を指標とした農作物や
家畜への保険
例えば、労働力を掛け金とすること(プレミアムフォーワーク)により、通常は保険に加入できない人
たちが加入できるように設計された保険の適用が挙げられる。これにより作物の降雨障害が発生した
場合でも保険を受けることが可能となる。※3
生産的セーフティネットプログラム
例えば、エチオピアでは、公共事業に参加し、その報酬として食料、もしくは現金の給付を受けること
ができる食料安全保障と資産形成を促すプログラムが行われている。※4
災害リスク削減
例えば、ブータンでは、コミュニティベースの防災委員会を設置し、地区や村レベルの災害マネジメント
チームを組織し、ハザードを明らかにすることにより、気候リスクを削減している。※5
※適応を実施するための資源や余剰を持たない人々
参考: AR5 WG2 第13章 13.3.2.1, 13.3.2.2, Box13-2
※1:Smith, B., I. Burton, R.J.T. Klein, and J. Wandel, 2000: An anatomy of adaptation to climate change and variability. Climatic Change, 45(1), 223-251.
※2:Tacoli, C., 2009: Crisis or adaptation? Migration and climate change in a context of high mobility. Environment and Urbanization, 21(2), 513-525.
※3:AR5 WG2 第13章 13.3.2.2
※4:Devereux, S., R. Sabates-Wheeler, M. Tefera, and H. Taye, 2006: Ethiopia’s Productive Safety Net Programme (PSNP): Trends in PSNP transfers
within targeted households. Institute of Development Studies (IDS), Sussex, UK, pp. 1-72.及び「現金給付政策の政治経済学(中間報告)」調査研究報告
書,2013
※5:Meenawat, H. and B.K. Sovacool, 2011: Improving adaptive capacity and resilience in Bhutan. Mitigation and Adaptation Strategies for Global Change,
16(5), 515-533.
75
AR5
Q&A
関連情報
5. 地域別の観測結果・将来予測・適応
76
5. 地域別
観測結果
5-1 アジア
✔AR5
Q&A
関連情報
アジアで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(アジア)
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
アジア
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
氷河・雪・氷
食料生産
沿岸浸食・海面影響
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●
●
●
○
●
●
○
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
東シナ海や西太平洋上のサンゴ及び日本海の魚食性魚類の生息域が北方へ拡大
アジアの多くの地域、特に北・東部で、植物の開葉季節や成長が変化
シベリア、中央アジア、チベット高原の永久凍土の規模が縮小
中国でコムギやトウモロコシの総収量が減少
アジア極域で沿岸浸食が増加
氷河が縮小し、融解水が増加したため、多くの河川流量が増加
イスラエルにおいて、水媒介感染症が増加
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
77
5. 地域別
将来予測
5-1 アジア
✔AR5
関連情報
Q&A
アジアの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
二酸化炭素
施肥効果※1
高度な適応下での
リスク水準
現状の適応下での
リスク水準
※1:二酸化炭素濃度上昇による施肥効果:光合成の原料である二酸化炭素の濃度が高いほど、植物は二酸化炭素を吸収しやすくなるため、光合成が促進される効果を指す
主要なリスク
アジアにおけるインフラや居住に対し広範
な被害をもたらす河川沿い・沿岸域・都
市部での氾濫の増加(確信度が中程
度)
適応の課題と展望
・ 施設による対策とそれ以外による対策、効果的な土地利用計画、選択的
移住を通した曝露の軽減
・ ライフラインインフラとサービス(例:水、エネルギー、廃棄物管理、食料、バ
イオマス、モビリティ、地域の生態系、通信)における脆弱性の低減
・ モニタリング及び早期警報システムの構築:曝露された地域を特定し、
脆弱な地域や世帯を支援し、生計を多様化させる対策
・ 経済の多様化
気候的動因
時間軸
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
暑熱に関連する死亡リスクの増大(確信 ・ 暑熱に関する健康警報システム
度が高い)
・ ヒートアイランド現象を軽減するための都市計画立案:建築環境の改
善:持続可能な都市の開発
・ 屋外作業員の熱ストレスを回避する新たな働き方の実践
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
栄養失調の原因となる干ばつによる水・
食料不足の増大(確信度が高い)
・
・
・
・
・
早期警報システム及び地域対応戦略などの災害への備え
適応的/統合的水資源管理
水インフラや調整池の開発
水の再利用を含む水源の多様化
より効率的な水利用(例:改良された農業慣行、灌漑管理、及びレジリ
エントな農業)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
78
5. 地域別
適 応
5-1 アジア
✔AR5
Q&A
✔関連情報
アジアの一部では、適応が促進されている
アジアの一部の地域では、早期警報システム、統合的水資源管理、アグロフォレストリー(樹木を植林し、樹間で家畜・農作物を飼育・栽培する農林業)、
マングローブの沿岸林再生などを通じて、適応が促進されています。
 淡水資源マネジメントの例
地域
内容
ガンジス川流域
水インフラの整備※1
中国
水の再利用※2
シルダリア川流域
キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、カザフスタンに関連する流域における
水のマネジメント※3
インダス・ガンジス-ブラマプトラメグナ川流域
バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタンに関連する流域における水のマネジメント※4
参考: AR5 WG2 第24章 24.4.1.5
※1:Bharati, L., G. Lacombe, P. Gurung, P. Jayakody, C.T. Hoanh, and V. Smakhtin, 2011: The Impacts of Water Infrastructure and Climate Change on the Hydrology of the
Upper Ganges River Basin. IWMI Research Report 142, International Water Management Institute, Colombo, Sri Lanka, 36 pp.
※2:Yi, L., W. Jiao, X. Chen, and W. Chen, 2011: An overview of reclaimed water reuse in China. Journal of Environmental Sciences, 23 (10), 1585-1593.
※3:Siegfried, T., T. Bernauer, R. Guiennet, S. Sellars, A.W. Robertson, J. Mankin, and P. Bauer-Gottwein, 2010: Coping With International Water Conflict in Central Asia:
Implications of Climate Change and Melting Ice in the Syr Darya Catchment. International Peace Research Institute, Oslo, Norway, 36 pp.
※4:Uprety, K. and S.M.A. Salman, 2011: Legal aspects of sharing and management of transboundary waters in South Asia: preventing conflicts and promoting cooperation.
Hydrological Sciences Journal, 56 (4), 641-661.
 農業の例
地域
内容
インドネシア
アグロフォレストリーによる、炭素貯蔵効果及び、土壌侵食の低減、洪水、土砂災害、干ば
つに対するレジリエンスの向上。※5
パキスタン
作期の短い、また高収量のコムギ品種の開発※6
中国
コメの田植え時期の変更や高温耐性品種の利用※6
参考: AR5 WG2 第24章 24.6、Table SM24-7
※5. AR5 WG2 第24章 24.6
※6. AR5 WG2 第24章 Table SM24-7
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第24章 Table SM24-7、SM24-8の一覧表をご覧ください。
79
5. 地域別
観測結果
5-2 アフリカ
✔AR5
Q&A
関連情報
アフリカで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(アフリカ)
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
アフリカ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
氷河・雪・氷
食料生産
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●
●
●
●
●
○
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
熱帯アフリカ海域のサンゴ礁の減少
南部の動植物の生息・生育域のシフト。キリマンジャロでの火災の増加
東アフリカの熱帯高地の氷河の後退
サヘルにおける果樹の減少
西アフリカの河川における流量の減少
ケニア高地におけるマラリアの増加
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
80
5. 地域別
将来予測
5-2 アフリカ
✔AR5
関連情報
Q&A
アフリカの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
主要なリスク
水資源に対する複合的ストレス
水資源は現在の過剰利用と水質悪化、そして将来の
より大きな需要からくる重大な制約に直面。アフリカの
干ばつが発生しやすい地域では、干ばつストレスの悪
化(確信度が高い)
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
適応の課題と展望
・ 水資源に対する非気候ストレス要因の低減
・ 需要管理、地下水評価、総合的上下水管理計画と統合土
地・水ガバナンスのための制度能力の強化
・ 持続可能な都市開発
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
地域、国家、家庭の生計と食料安全保障に対する強
い悪影響を伴う暑熱や干ばつのストレスに関連する農
作物生産性の低下、病虫害の増加、及び食料システ
ムインフラへの洪水の影響(確信度が高い)
気温と降水量の平均と変動性の変化(特にその分布
の端にある場合)に起因する生物媒介感染症や水
媒介感染症の発生率や地理的範囲の変化(確信
度が中程度)
・ 技術的な適応による対応(例:ストレスに強い農作物種、灌
漑、観測システムの強化)
・ 小規模自作農の信用貸しや他の重要な生産資源への利用可
能性向上:生計の多様化
・ 地域、国家、及び地方レベルで早期警報システムを含む農業を
支援する制度やジェンダーの視点にたった政策支援の強化
・ 農業の適応による対応(例:アグロフォレストリー、保全型農
業)
・ 開発目標の達成、特に安全な水への利用可能性向上、衛生
向上、及び健康追跡調査などの公衆衛生機能の強化
・ 脆弱地域のマッピング、早期警報システム
・ 分野間の調整
・ 持続可能な都市開発
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
81
5. 地域別
5-2 アフリカ
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
アフリカでは、適応に向けた制度的枠組みが立ち上がっている
アフリカでは、ほとんどの国の政府が、適応に向けた制度的枠組みを立ち上げています。
制度的枠組みは、現在実施中の取組とは個別に行われる傾向にありますが、現在取り組んでいる個別の適応(災害リスクマネジメント、技術とインフラの調整、
生態系ベースのアプローチ、生計の多様化など)により、脆弱性が低減されています。
適応オプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
災害リスクマネジメント
アフリカの国々では、家庭の、地域社会の、さらにより広範な経済への自然災害の影響を相殺するため
に、リスク軽減戦略をとっている。これには、洪水などの早期警報システム、災害リスク準備金及び予算、
移住などが含まれる。
技術とインフラによる調整
道路や輸送インフラの例として、マダガスカルでは洪水を避けるための潜水道路の建設が、ジブチでは洪
水を避けるための堤防の建設が行われた。
生態系ベースのアプローチ
沿岸域における塩水の侵入阻止や、気候ハザードによる沿岸生産の損失を低減するための、マング
ローブ林の再生が行われている。
生計の多様化
例えば、ボツワナ、オカバンゴ・デルタにおいて、洪水からの影響を軽減するために、主たる生計手段を、
農業以外の労働へ切り替えることや、洪水時期以前に収穫可能な作物への切り替え等が行われてい
る。※1
参考: AR5 WG2 第22章 22.4.5
※1:Motsholapheko, M.R., D.L. Kgathi, and C. Vanderpost, 2011: Rural livelihoods and household adaptation to extreme
flooding in the Okavango Delta, Botswana. Physics and Chemistry of the Earth, 36(14-15), 984-995.
82
5. 地域別
観測結果
5-3 ヨーロッパ
✔AR5
Q&A
関連情報
ヨーロッパで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(ヨーロッパ)
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
ヨーロッパ
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
氷河・雪・氷
食料生産
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●
●
●
○
○
●
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
北東大西洋における動物プランクトン、魚、海鳥、底生無脊椎動物の北方への分布のシフト
温帯、寒帯の樹木における緑化・出葉・結実の早期化
アルプス、スカンジナビア、アイスランドの氷河の後退
技術の向上にも関わらず、ここ数十年、幾つかの国ではコムギの収量が停滞
河川流量の極端な変化と洪水発生回数の変化
イングランドとウェールズにおける、暑熱による死亡者数の増加
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
83
5. 地域別
将来予測
5-3 ヨーロッパ
✔AR5
Q&A
関連情報
ヨーロッパの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
主要なリスク
適応の課題と展望
進行する都市化と海面水位上昇、海岸侵食、河川
のピーク流量によって引き起こされる河川氾濫や沿岸
洪水によって影響を受ける経済的損失と人々の増加
(確信度が高い)
・ 予測されるほとんどの被害は適応によって避けることが
出来る(確信度が高い)
・ ハード面での洪水防護技術における重要な経験及び
湿地回復の経験の増加
・ 増大する洪水防護のための高い費用
・ 実施に対する潜在的障害:ヨーロッパにおける土地需要と環境と
景観に関する懸念
増加する水利用の制限。河川取水や地下水資源か
・ より多くの水効率技術や節水戦略(例:灌漑・穀物種・土地被
ら利用可能な水の大幅な減少と、同時に生じる水需
覆・産業・家庭用について)の採用による証明された適応ポテン
要の増大(例:灌漑、エネルギーと産業、家庭用)、
シャル
かつ増大する潜在蒸発量(地表面での正味放射、
・ 河川流域管理計画や統合的水管理における好事例やガバナン
大気湿度、風速、気温によって決まり、土壌水分量
ス手段の実施
が少なくなると増加する指標)の結果、排水と流出が
減少(確信度が高い)
極端な暑熱事象によって影響を受ける経済的損失と
人々が増大。健康、福祉、労働生産性、穀物生産、
大気質への影響。南欧及びロシア寒帯地域における
火災のリスク増大(確信度が中程度)
・ 早期警報システムの実装
・ 住居、職場、交通、エネルギーインフラの適応
・ 大気質を改善するための(硫黄酸化物や窒素酸化物などの)
排出削減
・ 火災管理の向上
・ 天候による収量変動に対する保険商品の開発
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
84
5. 地域別
適 応
5-3 ヨーロッパ
✔AR5
Q&A
✔関連情報
ヨーロッパでは、あらゆる行政レベルが適応策を策定している
ヨーロッパでは、あらゆる行政レベル(EU、国、地方自治体)が適応策を策定しています。
適応計画の一部は、沿岸のマネジメント、水のマネジメント、環境保全、土地計画、災害リスクマネジメントの中に統合されています。
 欧州における適応の事例
 オランダのHeijde付近の海岸に
おけるサンド・モーターの事例
AR5以外の関連図
AR5以外の関連図
汎ヨーロッパ
・持続可能な森林管理
・森林火災、洪水、干ばつに対する早期警報システム
・都市部における行動のポートフォリオ
・欧州にわたる適応策融資
北ヨーロッパ
・ 小自作農農家による生態系ベースの適
応(EBA)(スウェーデン)
北西ヨーロッパ
・ スヘルト河口における洪水のマ
ネジメント(ベルギー)
・ 生態系ベースの適応
(EBA)戦略とグリーンインフ
ラ(オランダ)
・ 泥炭地の復元(アイルラン
ド)
・ 洪水リスクマネジメントとテムズ
川堤防(イギリス)
・ 洪水、淡水及びオランダデルタ
計画(オランダ)
出典:EEA,2013 Fig.2.3
山岳地域
・ 自然災害に対する保険(スイス)
中央・東ヨーロッパ
・ 洪水リスクマネジメントのためのドナウ川低湿
地の復元(ドナウ川流域)
<海面水位の上昇への適応>
オランダの海岸の砂浜は毎年、海流により砂が削られていた。砂浜の消失は、海抜ゼ
ロメートル地帯にある市街地への海水侵入へつながる。これを防ぐためにサンド・モー
ターが考案された。
沖合1kmに人工の半島
(サンド・モーター)を形成
最初の砂はポンプで
吸い上げる
半島が沿岸の海流を変化させる
地中海地域
・ 統合沿岸マネジメントの一部としての技術的モニタリングと調査行動(フランス)
・ 水供給のための脱塩(スペイン)
・ ワイン部門における新品種と生産システム(スペイン)
・ 健康と安全を支援するための地域的早期警報システム(イタリア)
・ 統合海岸適応にむけての海岸の復元(フランス)
出典:EEA, 2013: Adaptation in Europe - Addressing Risks and Opportunities From Climate
Change in the Context of Socio-Economic Developments. European Environment
Agency, Copenhagen, Denmark, pp. 1-136.
海流の変化により半島と海岸の間が
砂で埋まる
風が砂を運び、砂丘を
大きくする
砂浜が維持され、
市街地への海水侵入を防ぐ
(参考:EEA,2013 , http://www.dezandmotor.nl/en-GB/the-sand-motor/)
85
5. 地域別
観測結果
5-4 オーストラレーシア
✔AR5
Q&A
関連情報
オーストラレーシアで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(オーストラレーシア)
気候変動に原因がある
ことの確信度
オーストラレーシア
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
●
陸域生態系
●
氷河・雪・氷
●
●
○
●
食料生産
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
オーストラリア近辺における海洋生物種の南方への分布のシフト。グレートバリアリーフのサンゴの病
気のパターンが変化
多くの種、特にオーストラリアの鳥、蝶、植物における遺伝、成長、分布、生物季節(開花や落葉、
鳥の渡りなど、植物や動物が周期的に示す現象)の変化
ニュージーランドにおける氷と氷河の大幅な減少
ここ数十年、ワイン用ブドウの成熟時期が早期化
南東オーストラリアにおける地域的気温上昇のための干ばつの激化
オーストラリアにおける夏季の暑熱による死亡者数の増加
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
86
5. 地域別
将来予測
5-4 オーストラレーシア
✔AR5
Q&A
関連情報
オーストラレーシアの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
主要なリスク
適応の課題と展望
オーストラリアにおけるサンゴ礁システムの
群集構成と構造の重大な変化(確信度
が高い)
・ サンゴ礁が自然に適応する能力は限定的で、上昇する水温や酸性化の有害
な影響を相殺するには不十分
・ 他のオプションは、他のストレス(水質、観光、漁業)の軽減や早期警報シス
テムにほぼ限られている:移植支援や遮光による白化の低減などの直接的介
入が提案されてきたが規模的にはいまだ試されていない
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
オーストラリアとニュージーランドにおけるイ
ンフラや居住に対する洪水被害の頻度や
強度が増大(確信度が高い)
・ 現在の洪水リスクに対し、地域によっては適応が重大に欠如している
・ 効果的な適応として、土地利用のコントロール(管理)と移住、及び増大す
るリスクに対する柔軟性を確保するための保護と調節があげられる
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
オーストラリアとニュージーランドにおける沿
岸インフラや低平地の生態系に対するリス
クの増大。予測される海面水位上昇の上
限値に近づくにつれて被害は広範になる
(確信度が高い)
・ 現在の沿岸侵食と洪水リスクに対する適応が不足している地域がある。連続
する建造と保護のサイクル*が柔軟な対応を制約している
・ 効果的な適応としては、土地利用のコントロール(管理)、最終的には移転
や保護と調節がある
*例:大規模な洪水後の保護対策の強化と急速な再建が、気候変動が継続するために、
保護することが次第に高コストとなる固定資産を(その場所に)ため込んでいくこと
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
87
5. 地域別
5-4 オーストラレーシア
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
オーストラレーシアには、水に関連する多くの適応計画がある
オーストラレーシアでは、海面水位上昇に対する計画、オーストラリア南部では利用可能な水資源の低下に対する計画が広く採択されています。
実施は断片的ですが、過去20年間にわたって海面水位上昇に対する計画が大幅に進められ、取組みも多様化しました。
 ニュージーランド西海岸の侵食海岸線からの移転
地域
効果/事例(関連情報)
ニュージーランド
沿岸政策声明では、ハザードのリスクを評価するために最
低100年の計画期間を義務付け、脆弱な地域における
新たな開発を回避するよう推奨している。※1
ニュージーランド
行政指導として、2090年代に0.5mの海面水位の上昇
を基本に想定し、0.8mの上昇までを考慮したリスクに基づ
く取組み(2100年以降は0.01m/年の上昇を想定)を
推奨している。※2
クイーンズランド州
(豪州)
7つの個別分野(居住地・インフラ・生態系・水のマネジメ
ント・一次産業・リスクマネジメント・健康)について、現況
やリスク、これまでの適応策と今後実施すべき適応策を計
画に記載している。※3
参考: AR5 WG2 第25章 25.3.2
※1:Minister of Conservation, 2010: New Zealand Coastal Policy Statement. Ministry of
Conservation, Wellington, 31pp.
※2:MfE, 2008: Coastal Hazards and Climate Change: A Guidance Manual for Local Government
in New Zealand (2nd edition). Revised by Ramsay, D., and Bell, R. (NIWA). Ministry for the
Environment, Wellington, 139 pp.
※3:State of Queensland (Department of Environment and Resource Management) ,2011
AR5以外の関連写真
移転前
(海岸沿いに
立地)
移転後
(海岸から離れた
場所に立地)
出典:MfE,2008 Fig.6.7 一部改変
<海岸浸食への適応>
沿岸ハザードによる影響によってリスクにさらされている公私の資産
の撤退・移転・放棄が計画的に行われている。※2
88
5. 地域別
観測結果
5-5 北アメリカ
✔AR5
Q&A
関連情報
北アメリカで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(北アメリカ)
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
北アメリカ
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
氷河・雪・氷
沿岸侵食・海面影響
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●
●
●
●
●
●
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
北西大西洋における魚種の北方への分布のシフト
多数の種における生物季節の変化、高地・北方への種の分布のシフト
北アメリカ西部及び北部における氷河の縮小
アラスカ及びカナダにおける沿岸浸食の増加
北アメリカ西部における春季の積雪水量の減少
カナダ北極圏先住民の生計への影響
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
89
5. 地域別
将来予測
5-5 北アメリカ
✔AR5
関連情報
Q&A
北アメリカの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
主要なリスク
増大する乾燥傾向や気温上昇傾向の結
果として、火災による生態系の統合性の
損失、財産の損失、人間の疾病と死亡
(確信度が高い)
暑熱に関連した人間の死亡(確信度が
高い)
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
適応の課題と展望
・ 他の生態系よりも火に対する適応力が高い生態系もある。森林管理者や都
市計画者らは火災に対する保護措置を以前より多く取り入れている。
(例:所定の山焼き、耐性のある植生の導入)。生態系と適応を支える制
度的能力は限られている
・ 人間の居住はリスクの高い地域における急速な私有財産開発と家庭レベル
での適応能力が限られていることによって制約されている
・ メキシコではアグロフォレストリーが倒木地や焼畑耕作を低減させる有効な戦
略となりうる
・ 住宅のエアコンは効果的にリスクを軽減することができる。しかしエアコンの入手
と利用は非常に変動的で、停電の際には完全に利用できなくなる。脆弱な
人々にはエアコンが利用できない競技選手や屋外労働者も含まれる
・ 地域社会規模や家庭規模での適応は、家庭支援、早期暑熱警報システム、
クーリングセンター、緑化、高アルベド塗装を通じて極端な暑熱に対する曝露
を低減できる可能性がある
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
海面水位上昇、極端な降水、サイクロン
による河川や沿岸域の都市洪水がもたら
す、財産とインフラの被害:サプライチェー
ン、生態系、社会システムの分断・断絶:
公衆衛生に対する影響:水質の劣化
(確信度が高い)
・ 都市排水の管理の実施は費用がかかり、かつ都市域にとっては破壊的である
・ コベネフィットのある後悔の少ない戦略には、地下水の再貯水がより多くなるよ
う不透水表面を少なくすることや、緑のインフラ、屋上庭園などがある
・ 海面水位上昇は沿岸部の河口水位を上昇させ、排水を防げる。多くの場合、
古い降雨設計基準が使用されており、現在の気候条件を反映するにはそれ
らを更新する必要がある
・ マングローブなどの湿地の保存及び土地利用計画戦略は洪水事象の程度を
軽減させうる
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
90
5. 地域別
適 応
5-5 北アメリカ
✔AR5
Q&A
✔関連情報
北アメリカでは、特に自治体レベルの行政機関が適応に取り組んでいる
北アメリカでは、特に自治体レベルの行政機関が、漸進的な適応の評価と計画に関与しています。
地域
全米
効果/事例(関連情報)
省庁間気候変動タスクフォースの設立(2009)
国内インフラ防御計画(NIPP)の開発(2009)
炭素排出を削減し、温度上昇により悪化する破壊的な気候への対応準備を行う包括的な気候変動対策であ
る「国家気候変動行動計画」を公表(2013)
ニューヨーク市
より強く、よりレジリエンスのあるニューヨークにするために、予測される気候変動影響に対してニューヨークのインフラ、
コミュニティ、建築物に対して追加的な防護を行う計画を作成
参考: DOE-PI, 2013: U.S. Energy Sector Vulnerabilities to Climate Change and Extreme Weather. United States Department of Energy’s Office of Policy and
International Affairs (DOE-PI) and the National Renewable Energy Laboratory (NREL), DOEPI, Washington, DC, USA and NREL, Golden, CO, USA, 82 pp.
 米国における適応計画取組状況
AR5以外の関連図
適応計画作成済
一般計画に適応計画を推奨中
適応計画作成中
正式な計画はない
出典:C2ES HP http://www.c2es.org/us-states-regions/policy-maps/adaptation
91
5. 地域別
適 応
5-5 北アメリカ
✔AR5
Q&A
✔関連情報
北アメリカでは、特に自治体レベルの行政機関が適応に取り組んでいる
北アメリカでは、いくつかの予防的適応策が、エネルギー及び公共インフラを保護するために行われています。
下図は湾岸エネルギー資産に対する脆弱性の評価を行った事例です。
 2030年までにリスクがあると予測された湾岸エネルギー資産(テキサス〜アラバマ南部)
ミシシッピ
2030年の湾岸エネルギー資産の見通し
ルイジアナ
テキサス
オイルパイプライン
120億ドル
石油ガス生産機器
50億ドル
陸域掘削装置
10億ドル
送変電・配電
その他
2580億ドル
LNG施設
70億ドル
アラバマ
ガス処理
工場
80億
ドル
発電所
800億ドル
天然ガスパイプライン
600億ドル
その他石油・ガス
深海生産設備
800億ドル
• モデル化:9万マイルのパイプ
ライン、2千の沖合プラットホー
ム、2.7万の井戸を含む5万
の石油・ガス施設
<海面水位の上昇・ハリケーンに対する脆弱性評価>
テキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマの沿岸の郡を
含む広域を対象とした研究は、2030年までに海面水
位の上昇と強いハリケーンからの潜在的リスクに約1兆ド
ルのエネルギー資産が曝されると予測している。2030年
には、湾岸のエネルギー部門は、ハザード、資産、脆弱
性の解析に基づくと、気候変動と極端現象により年平
均80億ドルの損失に直面している。
• 50万マイル以上の送配電・
変電、300以下の発電設備
浅海生産設備
10億ドル
沖合パイプライン
680億ドル
深海生産設備
その他施設
精製所
1070億ドル
化学工場
2050億ドル
精製所
石油化学製品工場
LNG設備
発電所
浅海生産設備
AR5以外の関連図
沖合掘削装置
370億ドル
• EIA, MMS, Energy
Velocity, OGJ, Tecnon,
HPDI, Wood Mackenzie,
Ventyx, Entergyを含む10
~15の主要なデータベース間
の情報統合
出典: DOE-PI, 2013: U.S. Energy Sector Vulnerabilities to Climate Change and Extreme Weather. United States Department of
Energy’s Office of Policy and International Affairs (DOE-PI) and the National Renewable Energy Laboratory (NREL), DOEPI,
Washington, DC, USA and NREL, Golden, CO, USA, 82 pp.Fig31
92
5. 地域別
観測結果
5-6 中央・南アメリカ
✔AR5
Q&A
関連情報
中央・南アメリカで観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(中央・南アメリカ)
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
中央・
南アメリカ
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
氷河・雪・氷
食料生産
沿岸浸食・海面影響
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●
○
●
●
○
●
●
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
西カリブ海におけるサンゴの白化の増加
アマゾンにおける樹木の枯死と森林火災の増加
アンデスの氷河の縮小
南アメリカ南東部における農作物収量の増加と農業地域の拡大
南アメリカの北部沿岸におけるマングローブの劣化
アマゾン川の極端な流量変化
ボリビアの先住民アイマラ農民の生計が、水不足のために、より脆弱化
●:気候変動による影響
の度合いが大きい
○:気候変動による影響
の度合いが小さい
参考: AR5 WG2
政策決定者向け要約
Table SPM.A1
93
5. 地域別
将来予測
5-6 中央・南アメリカ
✔AR5
関連情報
Q&A
中央・南アメリカの主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
主要なリスク
半乾燥地域と氷河の融解に依存する地
域及び中央アメリカにおける水の利用可能
性:極端な降水による都市域及び農村
域での洪水及び地滑り(確信度が高
い)
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
適応の課題と展望
・ 統合水資源管理
・ 都市及び農村の洪水管理(インフラを含む)、早期警報システム、気象・
流出予報の向上と感染症のコントロール(制御)
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
食料生産量と食料の質の低下(確信度
が中程度)
・ 気候変動(気温、干ばつ)に対してより適応性のある新たな作物品種の
開発
・ 食料の質の低下による人間や動物の健康への影響の相殺(オフセット)
・ 土地利用変化による経済的影響の相殺(オフセット)
・ 伝統的な先住民の知識体系や慣行の強化
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
生物媒介感染症の高度方向と緯度方向
の拡大
・ 気候の情報及びその他の関連する情報に基づく疾病管理・軽減のための早
期警報システムの開発。多くの要因が脆弱性を増大させる
・ 基本的な公衆衛生サービスを拡大するためのプログラムの確立
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
該当なし
該当なし
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
94
5. 地域別
5-6 中央・南アメリカ
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
中央・南アメリカでは、生態系や農業に対する多くの適応が行われている
中央・南アメリカでは、保護地域、環境保全協定、地域社会による自然地域のマネジメントといった生態系ベースでの適応が行われています。また、一部の地
域では、農業分野で、気候予報の活用、レジリエントな作物品種の多様化、統合的水資源のマネジメントが行われています。
適応オプション例(AR5)
生態系ベースの適応
(EBA)
効果/事例(関連情報)
例えばコスタリカでは、森林の自然再生、再植林、既存の森林の保全など、水資源が存在する場所の保
全等プログラムが運用されている。※1
(→p.33 4-2「陸域及び淡水生
態系」参照)
気候予報情報の活用
例えばブラジルのアマゾンでは、エルニーニョの発生期間に降水量が減少するため、干ばつや森林火災が増
加し、農作物に影響が生じる。気候予報情報を活用することで、これらの被害に備えて、水の備蓄や火災
予防のための投資などを行い、影響に対処することが可能となった。※2
作物品種の多様化
例えば、ペルーのアンデス山脈では、イネの単一栽培地において、複数の品種を育てている。これにより、遺
伝的多様性が真菌(カビ)の爆発的な発生を低下させている。※3
統合的水資源管理
例えば、ブラジルでは、水の過剰消費、水汚染、干ばつを解決するための行動として統合的水資源管理
(従来別々に管理されていた河川、上下水道、農業用水、工業用水などを統合的に管理すること※4)
が推進され、流域の水管理への住民参画(意思決定)を法制度化している。※5
参考: AR5 WG2 第27章 27.3
※1:財団法人地球環境戦略研究機関・京都大学・長崎大学・名古屋大学(2012)平成23年度 環境経済の政策研究 経済的価値の内部化による生態系サー
ビスの持続的利用を目指した政策オプションの研究 最終研究報告書(http://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/F_research/f-09-03.pdf)
※2:AR5 WG2 第27章 27.3.4.2及びMoran, E.F., R. Adams, B. Bakoyéma, S.T. Fiorni, and B. Boucek, 2006: Human strategies for coping
with drought in Amazônia. Climatic Change, 77(3-4), 343-361.
※3:AR5 WG2 第27章 27.3.4.2及びLin, B.B., 2011: Resilience in agriculture through crop diversification: adaptive management for
environmental change. BioScience, 61(3), 183-193.
※4:日本水フォーラムHP http://www.waterforum.jp/jpn/iwrm/contents/concept.htm
※5:小野奈々(2012)ブラジルにおける流域委員会の立法化への住民関与 サンパウロ州とリオグランデドスル州を事例として. 水資源・環境研究, 25(1), 13-23.
95
5. 地域別
観測結果
5-7 極域
✔AR5
Q&A
関連情報
極域で観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(極域)
北極域
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
南極域
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
海洋生態系
●
北極圏における海鳥の繁殖成功の低下。海洋酸性化により、南極海での有孔虫の殻の厚みが減少
陸域生態系
●
北アメリカ・ユーラシアのツンドラ地帯における低木被覆の増加。西南極半島及び近隣島嶼における植
物種の生息範囲が拡大
氷河・雪・氷
●
●
●
●
沿岸浸食・海面影響
河川・湖・洪水・干ばつ
生計・健康・経済
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
夏季の北極海氷面積の減少。南極沿岸域の氷の消失
北極圏全体で沿岸浸食が増加
北極圏の大部分で冬季の最低河川流量が増加
北極圏先住民の生計への影響
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
96
5. 地域別
将来予測
5-7 極域
✔AR5
関連情報
Q&A
極域の主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
主要なリスク
適応の課題と展望
種の生息地の質、範囲、季節、生産性に
加えて従属経済に影響を与える、氷、積
雪、永久凍土、淡水/海洋条件の変化に
よる淡水・陸域生態系(確信度が高い)
や海洋生態系(確信度が中程度)のリス
ク
・ 科学的及び先住民の知識を通じた理解の向上が、より効果的な解決及び
/または技術的革新を生み出す
・ 安全で持続可能な利用を達成する生態系資源のモニタリングの強化、規
制、早期警報システム
・ 可能であれば、異なる種の狩猟または漁獲、生計手段の多角化
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
物理的環境の変化、食料不足、安全で信
頼できる飲料水の不足、及びインフラの損
害(永久凍土地域を含む)による怪我や
疾病に起因する北極圏住民の健康と福祉
のリスク(確信度が高い)
・
・
・
・
科学技術と先住民の知識を組み合わせて、より強固な解決策の共同制作
観測、モニタリング、及び早期警報システムの強化
コミュニケーション、教育、及び訓練の改善
資源基盤、土地利用、及び/または居住地の移動
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
社会システムが適応できるよりも変化が速
い場合、気候関連ハザードと社会的要因
間の複雑な相互連関により北方地域社会
にとっては未曾有の問題となる(確信度が
高い)
・
・
・
・
科学技術と先住民の知識を組み合わせたより強固な解決策の共同制作
観測、モニタリング、及び早期警報システムの強化
コミュニケーション、教育、及び訓練の改善
居住における土地の権利の調停を通じて開発された適応的共同管理によ
る対応
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
97
5. 地域別
5-7 極域
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
極域では、伝統的知識と科学的知識の組合せにより適応策が行われている
北極圏の一部の地域社会においては、伝統的な知識と科学的な知識の組み合わせによる、適応の共同マネジメント戦略や通信インフラの整備が始められて
います。
適応オプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
技術と伝統的知識の
組み合わせ
トナカイの牧畜に雪は必要なものだが、気候変動によって北極圏の気候は暖かくなり、トナカイを飼育し
ている遊牧民が、雪のある牧草地を見つけるのが困難な状況となっている。そこで、衛星を用いた雪の
マップを提供し、遊牧民が移動可能な牧草地を見つける手助けを行っている。※1
狩猟、採集、牧畜、漁業の
時期や場所の変更
例えば、海氷状態の変化を撮影した衛星画像をインターネットで配信し、狩猟場所へのスノーモービルや
犬ぞりによる安全で効率的な移動を計画できるようにする。※1
狩猟時におけるさらなる
物資の利用
嵐に備えた恒久的な避難所の建設、情報通信インフラの整備、GPSの利用、合成開口レーダー※の
データ利用。※2
参考: AR5 WG2 第28章 28.4
※1:Galloway-McLean, K., 2010: Advance Guard: Climate Change Impacts, Adaptation, Mitigation and Indigenous Peoples–A
Compendium of Case Studies. Nations University – Traditional Knowledge Initiative, Darwin, Australia, pp. 124.
※2:AR5 WG2 第28章 28.4
※航空機や人工衛星に搭載したレーダーを用いて、観測対象を移動しながら連続して電波を送受信することにより、搭載している実際の開口長(アンテナの大きさ)
よりも仮想的に大きなアンテナ(開口)を人工的に合成する技術のこと。これにより分解能を向上させることが出来る※3
※3:参考 国土地理院測地部HP:http://vldb.gsi.go.jp/sokuchi/sar/mechanism/mechanism01.html
98
5. 地域別
観測結果
5-8 小島嶼
✔AR5
Q&A
関連情報
小島嶼で観測されている影響の例
 ここ数十年における気候変動に起因する影響(小島嶼)
小島嶼
気候変動に原因がある
ことの確信度
非常に
低い
低い
中程度
高い
非常に
高い
確信度の幅を示す
中白:気候変動による
影響の度合いが小さい
地域規模の
影響
中塗:気候変動による
影響の度合いが大きい
氷河・雪・氷
永久凍土
河川・湖・洪水
干ばつ
沿岸侵食
海面水位影響
陸域生態系
食料生産
火災
生計・健康・経済
海洋生態系
海洋生態系
陸域生態系
沿岸浸食・海面影響
河川・湖・洪水・干ばつ
食料生産
●
●
○
○
○
●:気候変動による影響の度合いが大きい
○:気候変動による影響の度合いが小さい
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約
Fig.SPM.2(A)抜粋、一部変更
熱帯小島嶼近辺におけるサンゴの白化の増加
モーリシャスにおける熱帯の鳥の個体群が変化。ハワイの固有植物種の減少
洪水や浸食の増加
ジャマイカにおける水不足の増加
サンゴ礁の白化の影響による沿岸漁業の劣化
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.A1
99
5. 地域別
将来予測
5-8 小島嶼
✔AR5
関連情報
Q&A
小島嶼の主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
主要なリスク
乾燥傾向
極端な降水
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
適応の課題と展望
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
生計、沿岸居住、インフラ、生態系サービス、 ・ 島々にはかなりの潜在的な適応性があるが、外部からの追加的な資源と
及び経済安定の損失(確信度が高い)
技術が対応を強化するだろう
・ 生態系の機能やサービス、水・食料安全保障の維持と強化
・ 伝統的な地域社会の対処戦略の有効性は将来的に大幅に減少すると
予想される
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
21世紀における世界の平均海面水位上昇 ・ 陸地の大きさに比べて沿岸域の面積割合が大きい場合、島嶼にとって適
と高水位現象との相互作用は、低平な沿岸
応は財政面、資源面で重大な課題となるだろう
地域を脅かすだろう(確信度が高い)
・ 適応の選択肢としては、沿岸の地形と生態系の維持と修復、土壌・淡水
資源マネジメントの改善、及び適切な建築基準法と高所に集落をつくるな
どの居住パターンがある
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
100
5. 地域別
5-8 小島嶼
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
小島嶼での適応はCBAを考慮することで、さらに便益が大きくなる
小島嶼は、民族・部族、社会・経済状況など多様ですが、地域社会ベースの適応(CBA)(→p.37 4-3「沿岸システム及び低平地」参照)は、他の開発
活動とともに行われた場合、より大きな便益をもたらすことが示されてきています。
適応オプション例
(AR5)
効果/事例(関連情報)
社会的ネットワーク
や家族関係を通じ
たリスク分散
例えば、フィジーでは、2003年のサイクロン通過後、
被害がなかった世帯が被害を受けた世帯を支援する
ために、漁獲量を増やし、利益を分配するようにした。
このような相互支援は、CBAのための中心的役割を
果たす。※1
コミュニティによる共
同での影響への対
処
フィジーやサモアでは、複数の関係者(政府省庁、国
連開発計画など)と複数分野(沿岸生態系、防災
など)による参加型の取組みが、地域住民によるレジ
リエンスの強化に用いられている。※2, ※3
例えば、フィジーでは、国連開発計画がコミュニティに
対して、既存の洪水早期警報システムに関する理解
を発展させるためのプロジェクトを実施した。※3
参考: AR5 WG2 第29章 29.6.2.2, 29.6.2.3
※1:AR5 WG2 第29章 29.6.2.2
※2:AR5 WG2 第29章 29.6.2.3
※3:Gero, A., K. Méheux, and D. Dominey-Howes, 2011: Integrating community
based disaster risk reduction and climate change adaptation: examples from the
Pacific. Natural Hazards and Earth System Sciences, 11(1), 101- 113.,
 洪水早期警報システムを記述した
フィジー・ナブアの標識
出典: Gero, A., K. Méheux, and D. Dominey-Howes, 2011:
Integrating community based disaster risk reduction and
climate change adaptation: examples from the Pacific. Natural
Hazards and Earth System Sciences, 11(1), 101- 113., Fig.3
101
5. 地域別
5-9 海洋
観測結果
✔AR5
Q&A
関連情報
海洋で観測されている影響の例
海洋生態系
 1958年以降、北東大西洋における冷水動物プランクトン群の分布域が、北極に向かって縮小し、北側
1,000kmまで温水動物プランクトン群が進出
 アラビア湾における大量のサンゴの白化と死滅が発生
 プランクトンブルーム(増殖)や回遊パターン、魚と無脊椎動物の産卵などの時期や生物季節の変化
氷河・雪・氷
北太平洋における1990年代から2006年にかけての季節ごとの海氷面積の減少
沿岸浸食・海面影響
北大西洋高緯度地域において、海面水温が1950年から2009年の間で0.44℃上昇
食料生産
バレンツ海におけるタラ、コダラ、ニシンなどの北方漁業資源の増加
※当該項目には、気候変動による影響の度合い関する情報は未記載
参考: AR5 WG2 第30章 Executive Summary、30.5
102
5. 地域別
将来予測
5-9 海洋
✔AR5
関連情報
Q&A
海洋の主要リスク及びリスク低減の可能性
影響をもたらす気候関連の要因
リスク水準及び適応の可能性
リスク軽減のための追加的適応の可能性
温暖化傾向
極端な気温
乾燥傾向
極端な降水
主要なリスク
魚類と無脊椎動物の種の分布がシフトし、
低緯度、例えば、赤道湧昇域(→用語解
説)と沿岸境界システム(→用語解説)
及び亜熱帯循環域(→用語解説)におけ
る漁獲可能量の減少(確信度が高い)
降水
積雪
破壊的な
サイクロン
海面水位上昇
海洋酸性化
適応の課題と展望
・ 魚類と無脊椎動物の種の温暖化に対する進化的適応ポテンシャルは温度維
持のための分布変化によって示されているように限定的である
・ 人間の適応の選択肢:
①漁獲量が減少する海域(低緯度)と過渡的に増加する海域(高緯度)
といった商業的漁業活動の地理的分布の大規模な変化
②変動性や変化に対応できる柔軟な管理
③汚染や富栄養化といった他のストレス要因を減じることにより熱ストレスに対す
る魚類のレジリエンスを向上
④持続可能な養殖の拡大や一部の地域における代替生計手段の開発
沿岸境界システムや亜熱帯循環域において、 ・ 気候変動に適応するためのサンゴの早急な進化の証拠は非常に限られている。
高温で引き起こされる大規模なサンゴの白
中には高緯度側に移動するサンゴもあるかもしれないが、全てのサンゴ礁システ
化と死滅の増加により、サンゴ礁がもたらして
ムが速い速度で進行する水温シフトを追従できるとは予測されていない
いた生物多様性、魚類の存在量、沿岸の
・ 他のストレス要因を軽減するには、人間の適応の選択肢は限られており、主に
保護が低減(確信度が高い)
水質の向上と観光と漁業による圧力を抑制することである。これらの選択肢は、
人間による気候変動の影響を数十年遅らせるが、その有効性は熱ストレスが
増大することにより大幅に減少するだろう
海面水位上昇、極端現象、降水量の変化
による沿岸の氾濫と沿岸生物の生息地の
損失、生態系レジリエンスは例えば沿岸境
界システムや亜熱帯循環域において低下
(確信度が中程度~確信度が高い)
・ 他のストレスを軽減するための人間の適応の選択肢は限られており、主に汚染
を減少させ、観光、漁業、物理的破壊、及び持続可能でない養殖からくるスト
レスを抑制することが挙げられる
・ 森林伐採量を低減、河川流域と沿岸域での植林の拡大、沿岸域の堆積物と
栄養素を維持
・ マングローブ、サンゴ礁、海草保護の拡大、及び沿岸保全や観光価値、魚の
生息地といった多くの生態系の財・サービスを保護するための修復
二酸化炭素
施肥効果
気候的動因
高度な適応下での
リスク水準
時間軸
現状の適応下での
リスク水準
リスク及び適応の可能性
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
非常に
低い
中程度
非常に
高い
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
現在
近い将来
(2030-2040年)
長期的将来
(2080-2100年)
※各リスクを取り巻く状況(適応策の有無、地域の固有性等)が異なるため、リスクレベルを他の地域と単純に比較できないことに留意する必要がある。
長期的将来(2080-2100年)は工業化以前の世界平均気温水準からの上昇量を表す。
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Assessment Box SPM.2 Table1抜粋
103
5. 地域別
5-9 海洋
適 応
✔AR5
Q&A
✔関連情報
海洋では、国際協力や海洋計画などによる適応策が促進されている
海洋においては、空間規模やガバナンス上の課題による制約を伴いつつも、国際協力や海洋計画によって気候変動に対する適応を促進し始めています。
適応オプション例(AR5)
効果/事例(関連情報)
漁業・養殖業
漁業管理
魚のサイズ制限、時期や場所による制限、産卵地域の保全などの漁
獲制限により、乱獲による水産資源の枯渇を回避する。※1
熱帯における大型
遠洋漁業
例えば、ナウル協定締約国(PNA)※が
導入している船舶の操業日の合計によるマ
ネジメント(vessel day scheme)の
完全実施
気候変動に直面した水産資源からの経済的利益を分配する。※1
小規模漁業
漁獲努力の対象を変更
沿岸地域の海洋に、人工浮き漁礁(FADs。浮きを付けた人工物を
海の表層や中層に設置し形成した人工の漁礁)を導入することで、
(漁獲が見込めなくなった)サンゴ礁からFADsでのカツオやキハダマグ
ロへと漁獲努力の変更を行う。これにより生計を維持する。※1
北半球の高緯度
地域における漁業
重要な魚種に関する国際協力の進展
海水温上昇と海洋酸性化により、魚(タラ)の生息域が北方に変化
し、国によって漁獲高に増減が生じるため、国際協力によって緊張を
緩和する必要がある。※1
観光
生態系の保全
マングローブ、塩湿地、サンゴ礁などの保全により、海岸線の安全性の
確保と自然の堤防の普及を促進する。これらは観光資源としても重
要である。※1
※ ナウル協定締約国(PNA):パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル、キリバス、ナウル、ツバル、ソロモン、パプアニューギニアからなる協定国。
加盟国の水産資源の権益確保や乱獲による資源枯渇の防止、生物多様性の保全を目的としている※2
参考: AR5 WG2 第30章 30.6, Table30-4
※1:AR5 WG2 第30章 30.6.2
※2:The Parties to the Nauru Agreement(PNA)HP http://www.pnatuna.com/
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 第30章 Table 30-4の一覧表をご覧ください。
104
AR5
Q&A
関連情報
6. 将来のリスクマネジメントと
レジリエンスの構築
105
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-1 効果的な適応に向けて
✔AR5
Q&A
関連情報
効果的な適応策を行うための基本的な考え方
効果的な適応を行うための考え方として、
AR5 WG2 政策決定者向け要約では大きく以下の内容が記載されています。
① 適応は各地域の場所や状況など、特徴に合わせて行う必要があります。
② 適応計画とその実施は、個人から政府まで、あらゆる層が取り組むことで強化されます。
③ 適応の第一歩は、現在存在する気候変動の脆弱性や曝露を低減することです。
④ 適応計画の策定と実施は、価値観や目的、リスク認識に左右されます。
⑤ 意思決定支援は、意思決定に至る過程や主体者が多岐にわたる場合に、最も効果を発揮します。
⑥ 経済的なインセンティブなどにより、適応を促進することができます。
⑦ 適応の計画や実施には様々な制約があります。
⑧ 不十分な予測や計画、短期的成果の過度な追求が適応の失敗をもたらす可能性があります。
⑨ 世界全体で必要とされる適応と、実際に適応に利用可能な資金には隔たりがあります。
⑩ 適応や緩和には、コベネフィットや相乗効果、トレードオフが存在するものもあります。
次ページからは、一般市民に関係が深いと考えられる事例(①、⑧、⑨、⑩)を具体的に見ていきます。
106
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-2 様々な適応オプション(選択肢)(①)
✔AR5
Q&A
✔関連情報
地域にあった適応オプションを選択する必要がある
適応は、地域によって独特なものであり、すべての状況に適切なリスク低減のアプローチは存在しません。
そのため、リスクを正しく認識し、適切な適応オプションを選択することが重要です。熱波からの影響を軽減するための熱波警報システム(左下図)、生態系の
保全にも役立つ街路樹の植樹(中下図)、災害の危険度を示す地図(右下図)はそのよい例です。
 適応オプションの例
AR5以外の関連図
2006年7月におけるフランスの
州別熱波警報システム稼動日数
ミリオンツリーズNYC※による
2007年からの街路樹植樹分布
米国の地震、ハリケーン、竜巻、雹などの
大規模災害における損失の危険度を示す地図
植樹重点区域
地区ごとの
警報稼働合計日数
稼働なし
出典: Fouillet, A., G. Rey, V. Wagner, K. Laaidi, P. EmpereurBissonnet, A. Le Tertre, P. Frayssinet, P. Bessemoulin, F.
Laurent, P. De Crouy-Chanel, E. Jougla, and D. Hemon,
2008: Has the impact of heat waves on mortality changed
in France since the European heat wave of summer 2003?
A study of the 2006 heat wave. International Journal of
Epidemiology, 37(2), 309-317.,Fig.2
※ニューヨーク市の長期環境プランNYCの一環と
して2007年に開始した、ニューヨーク市内に
100万本の植樹をするプロジェクト
出典:City of New York, 2011: PlaNYC. Update, 2011, The City
of New York, Mayor Michael R. Bloomberg, New York, NY,
USA, 199 pp.,
www.nyc.gov/html/planyc2030/html/theplan/theplan.shtml., p.44
出典:Ranger, N., R. Muir-Wood, and S. and Priya, 2009:
Assessing extreme climate hazards and options for risk
mitigation and adaptation in the developing world.
Development and Climate Change Background Note
World Bank, Washington, D.C., pp. 28., Fig.2
107
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-2 様々な適応オプション(選択肢)(①)
AR5
Q&A
✔関連情報
自治体レベルでの取組の具体例 コペンハーゲン市(デンマーク)の場合
本編第23章には、「ロンドン、マドリッド、コペンハーゲン、ロッテルダム、ヘルシンキなどで適応戦略や計画を実施している」と記載しています。
それらのうちから、コペンハーゲン市(デンマーク)の事例を下に紹介します。
コペンハーゲン市 適応策を機に、もっと住みやすい町につくりかえる
1.市の概況と背景
国連の気候変動交渉COP15(2009年)の舞台ともなったコペンハーゲン市(人口52万人)は、10年8月と11年7月の2年
続けて、ゲリラ豪雨による洪水に、市内が見舞われました。被害額は「800億円余り」と見積もられました。
2.「気候変動適応戦略」の概要
今後の被害を減らすため「気候変動適応戦略」を2012年にまとめました。
浸水や熱波による被害リスクの高い地区から優先的にインフラを更新します。対策をすすめるなかで、新たな政策や技術の開発
を行い関連の新規雇用を増やす。この分野で世界のリーダーになることなどが骨子です。
洪水対策の要である雨水排水に関しては、「大規模集中型の施設を拡張するよりも地域分散型の方が半分以下の投資額です
むと試算された」(「ゲリラ豪雨マネジメント計画」)。
洪水対策と暑熱対策として都市内の緑化も進めています。これは「緑のインフラ」と本編8章で説明されています。緑地で豪雨を吸収する、樹木で日陰をつく
る、植物の蒸散作用で地表面の温度を下げる、風の道をつくるなどの手法を使います。
さらに海の近くは、「海面上昇の影響で地下水位が上がり、建物に影響がでると予想されます。市内の建物は毎年1%ずつ更新します」(「適応計画」)。
3.対策費用と財源
対策費はゲリラ豪雨対策だけでも400億円ほどと見込まれています。財源は税金と民間投資でまかないます。そのために、市役所が新たに課税出来るという
条項が、『適応計画』に挿入されています。市民の負担が増えることになり、反発も予想されますが、「気象災害に強く、水と緑が豊かな地区になることで、土
地・建物の不動産の資産価値が上がる。さらに、この分野で世界に先駆けて政策や技術を開発することで、新しい雇用をつくることが出来る」(「ゲリラ豪雨
マネジメント計画」)。リスクマップを示しながら、住民参加型で、複数の選択肢を作成して、費用便益計算を出すという手法も使います(同上)。
なお、欧州開発銀行では、全融資額の最低25%は「温暖化対策」に充てられることになっています。上記の事業は、分野的には融資対象にあたります。
出典:Copenhagen Climate Adaptation Plan Oct 2011, The City of Copenhagen Cloudburst Management Plan 2012
108
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-2 様々な適応オプション(選択肢)(①)
AR5
Q&A
✔関連情報
自治体レベルでの取組の具体例 ボローニャ市(イタリア)の場合
ボローニャ市 “人の輪”で老人世帯を見回る
1.市の概況
イタリア北部の平野中央に位置するボローニャ市(人口37万人)。欧州最古の大学(1088年設立)があり、中小
商工業者が多い都市です。経済の停滞とともに若者がまちを出て、市内には、高齢者世帯が多く、「彼らは、熱波や洪
水の被害者になりやすい」と同市HPは記載しています。
2.活動の概要
市は、高齢者世帯を見回る“人の輪”運動を、2013年6月中旬から9月半ばまで実施しました。市内の地域組織、ボ
ランティア団体、薬局、介護サービス組織に協力してもらい、高齢者世帯を支えようというものです。
“人の輪”には、赤十字社ボローニャ支部、消費者協会、全国アクティブシニア連帯協会、自治運営協会も参加しており、
主たる社会運動団体が結集した感があります。
市役所では彼らと協働し、屋上緑化、壁面緑化の効果や方法を教える啓発活動も実施しています。
市内には大学をはじめ歴史的遺産も多く、これらは観光資源でもあり、それらを水害や熱波から守るのも温暖化対策の
一つです。同時に、コンクリート面を浸透性にしたり、水路を復活して豪雨の地区内処理を進めるという「青のインフラ」も
実施しています。「青のインフラ」は、雨水を地区内で処理し、利用する手法とインフラを指します。
また、リスクマップを作成し、地区のキーマンを巻き込みながら、住民参加の減災計画づくりを進めています。気候変動や
気象災害に対応するためのテキストを渡し、コーチングのサービスも行っています。
3.活動費
活動の経過と成果もまとめています。費用の一部はEU(欧州連合)の「温暖化の適応」予算から出ています。ボローニャ方式をまとめ、他のイタリア諸都市
に普及することも活動の一部です。
なお、欧州開発銀行は、全融資額の最低20%を「温暖化対策」に充てています。同市もその活用を検討しています。
出典: 『WE ARE PLANNING BOLOGNA-AS A RESILIENT CITY』
109
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-2 様々な適応オプション(選択肢)(①)
AR5
Q&A
✔関連情報
コミュニティ単位の適応例
準備
アラスカの沿岸地域では、海面上昇と氷河の融解で、住めなくなった
コミュニティが生まれ、適応策としての集団移転が行われています。
右の計画フローは、①準備段階、②先発隊による移転先での体験
滞在、③元の地区から移転先への移行期間、④最終的な移転と
いう4つのステップがマニュアル化されています。
先発隊による
体験滞在
移行期間
移転の
最終段階
土
地
造
成
交
通
住
宅
上
下
水
健
康
通
信
教
育
エ
ネ
ル
ギ
ー
出典:Agnew::Beck Consulting with PDC Engineers and USKH Inc. for the State of Alaska,
RELOCATION REPORT:: Newtok to Mertarvik FINAL DRAFT ISSUED FOR REVIEW by the
Community of Newtok and the Newtok Planning Group, August 2011.
地
域
資
源
110
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-2 様々な適応オプション(選択肢)(①)
AR5
Q&A
✔関連情報
※参考 AR4とAR5の間に公表された:
『気候変動への適応推進に向けた極端現象及び災害のリスク管理に関する特別報告書』(SREX)の概要
IPCCは2012年11月に、極端現象と災害リスクへの対応に焦点をあてた特別報告書SREXを公表しました。
ここでその知見を幾つか紹介します。
1.1950年以来の観測によれば、各地で寒い日が減り、温かい日が増えた。
2.21世紀までに気温は上昇すると、気候モデルは予測している。
3.豪雨、豪雪の増加も、各地で予測されている。
4.気象災害による経済的損失は、先進国で大きい。
5.災害後の復旧活動や再建は、将来の気象災害リスクを減少させる。
6.気候変動の適応や災害のリスクマネジメントに関し、地方、国、国際間で協力しあうことにはメリットがある。
7.各地方の知識と科学者、技術者の知識がむすびつくと、気候変動のリスクを減らすことに役立つ。
8.リスクマネジメントは、地域の事情に合わせて実施すると、もっともうまくいく。
9.現在及び将来のリスクをマネジメントする種々の手法には、他のメリットもある。
例えば、生計の改善、生物多様性を保つ、人々の幸せを増進する等。
10.“後で後悔することの少ない”手法として、災害警報システム、土地利用計画の変更、持続可能な土地
マネジメント、生態系マネジメント、健康モニタリング、水供給、排水システム、建築規格の改善・強化、
普及啓発活動等がある。
11.ガバナンスと技術の漸進的改善策に加え、トランスフォーメーション(社会変容)*のアクションが異常
気象のリスクを減少させる上で必須である。
出典:本編第1章p16~17
*トランスフォーメーション(社会変容、社会を大きく変えること)
「目標や価値観を含む社会システムの基本的属性の根本的な変化」と定義されるトランスフォーメーション(社会変容)が、主要概念として、近年、出現しました。気候変動に対し社会が
どの次元で対応するか、その対応にはどんな類型が見られるのか、その程度はどうか。こうしたことを記述する際の主要概念です。適応の文脈においては「漸進的適応」と「社会変容を伴う適
応」を区別することが可能です。SREXでは後者を、技術システム、金融システム、規制システム、立法システム、行政システムにおける変容ととらえています。近年の文献は、価値観、社会
規範、信念体系、文化、進歩や幸福の概念の変化が、「社会変容」の促進要因や阻害要因になると指摘しています。
こうした性格を持つ「社会変容」が生じるためには、次の条件が要求されます。それは、人々が、リスク、適応マネジメント、ラーニング(訳注:教える人、学ぶ人の区別がなく、双方の価値
観が変わるような協働学習を指す)、イノベーション、リーダーシップに関し、特別の理解を進めることです。 これは気候変動に対し、レジリエントな展開に通じる道筋かもしれません(本編
第1章p11~12)。
111
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-3 不適切な適応(⑧)
✔AR5
Q&A
関連情報
適応には不適切なものも存在する
不十分な計画、短期的成果の過度な強調、不十分な影響予測は、不適切な適応をもたらします。
適応の失敗は、将来における人々、場所、分野の脆弱性を増大させる可能性があります。下表はAR5における不適応となる可能性がある活動例を示してい
ます。
 AR5における不適応な活動、及び不適応となる可能性がある活動例
不適応な活動種類の例
1
2
間違った将来の気候予測
将来の気候には不十分である大規模工事計画
適応問題早期解決のための再生不可能資源(例:地下水)の集中利用
EBA(Ecosystem-based adaptation)※などの代替手段を排除する人工物による防護
※気候変動の悪影響への適応を助けるために、全体的な適応戦略の一部として生物多様性や生態系サービスを使用すること
3
広範囲での影響を考慮していない適応策
4
より多くの情報の取得タイミングが不適切。これにより、拙速な適応の実施や、反対に適応の遅滞を招く
5
早急な適応行為のために長期的な利益を考慮しない
自然資本を消耗することでさらに深刻な脆弱性を招いてしまう
6
やむを得ない事後不適応策 例:将来的に移転が必要な灌漑設備の拡大など
7
ある特定のグループだけに直接的・間接的な利益をもたらし、他のグループ間での決裂や衝突を招いてしまう適応策
8
すでに適応ではなくなった対応の継続利用
9
内容や個人によって適応・不適応、または両方の結果が予測される移住
参考: AR5 WG2 第14章 Table14-4 一部抜粋
112
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-4 適応のコスト(⑨)
✔AR5
Q&A
関連情報
適応に要する費用、財源、投資についてより良い評価を行う必要がある
研究事例、データ、研究の適用範囲が不十分なため、適応にかかるコストの試算には幅があり(下表)、現状では正確な評価を行うのは難しいとされていま
す。今後、世界全体の適応に要する費用、財源、投資のより良い評価を行う必要があります。
 世界の適応コストの一例
出典
結果
(10億米ドル/年)
時間枠
部門
世界銀行(2006)
9-41
現在
詳細不明
Stern, 2007
4-37
現在
詳細不明
Oxfam, 2007
>50
現在
詳細不明
UNDP, 2007
86-109
2015
詳細不明
UNFCCC, 2007
28-67
2030
農林水産業、水供給、
健康、沿岸域、インフラ
世界銀行(2010)
70-100
2050
農林水産業、水供給、
健康、沿岸域、インフラ、
極端現象
参考: AR5 WG2 第17章 Table17-2
113
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-5 効果的な適応(⑩)
✔AR5
Q&A
✔関連情報
適応にはコベネフィットをもたらすものがある
下の写真のような、マングローブ、海草、塩湿地を保全する適応策は、沿岸侵食や災害被害の抑制、水生種生息地の保護、炭素貯蔵や隔離などのコベネ
フィットをもたらします。
 熱帯と温帯の海岸における炭素を貯蔵している主要な生態系
AR5以外の関連図
(A)海草藻場
(B)マングローブ林
(C)塩湿地
(D)海草
海草藻場、マングローブ林、塩湿地の喪失
と劣化は、(D)の海草にみられるように、
地下バイオマスの曝露等により、数百から
数千年分の貯留炭素を放出します。※1
参考:※1. Irving et al., 2011
出典: Irving, A.D., S.D. Connell, B.D. Russell, 2011: Restoring Coastal Plants to Improve Global Carbon
Storage: Reaping What We Sow. Plos One, 6(3), e18311.,Fig1
114
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-6 気候に対してレジリエントな経路と変革
✔AR5
Q&A
関連情報
気候に対してレジリエントな経路と変革は持続可能な開発の道筋である
気候に対してレジリエントな経路と変革については、
AR5 WG2 政策決定者向け要約では大きく以下の内容が記載されています。
① 世界が気候変動に対する緩和策を実施することにより、持続可能な開発のための気候にレジリエントな経路の見通しが決まります。
② 気候変動の速度と規模が大きくなると、適応の限界を超える可能性が高まります。
③ 経済的、社会的、技術的、及び政治的な意思決定や行動における変革は、気候に対してレジリエントな経路の選択を可能にします。
次ページからは特に重要と考えられる③について具体的に見ていきます。
115
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-7 気候にレジリエントな経路(③)
✔AR5
Q&A
関連情報
気候変動・影響の低減には適応と緩和を組み合わせた持続可能な経路が必要
我々の世界(A)は、レジリエンスに影響を及ぼす複数のストレス要因(気候変動、土地利用変化、生態系の劣化、貧困と不平等、文化的要因など)によって脅か
されています。機会の空間(B)は、様々な将来(C)(異なる水準のレジリエンスやリスクを伴う)へとつながる意思決定点と経路を示しています。意思決定点(D)は機
会の空間(B)を通して気候変動リスクを管理、あるいは管理に失敗する分岐点となります。気候にレジリエントな経路(E)は効果的な適応策・緩和策などを通じてより
レジリエントな世界へつながります。レジリエンスが低下する経路(F)は、不十分な緩和、適応の失敗、その他レジリエンスを低下させる行動などを含みます。
 機会の空間と気候に
レジリエントな経路
我々の世界
気候変動を含む
複数のストレス要因
機会の空間
将来
高レジリエンス
低リスク
低レジリエンス
高リスク
気候にレジリエントな経路
意思決定点
生物物理的ストレス要因
レジリエンス空間
社会的ストレス要因
レジリエンスが低下する経路
出典: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Fig SPM.9
116
6. 将来のリスクマネジメン
トとレジリエンスの構築
6-8 変革の例(③)
✔AR5
Q&A
関連情報
経済的・社会的・技術的及び政治的な意思決定や行動の変革は、
気候に対するレジリエントな経路の選択を可能にする
変革によって、気候にレジリエントな経路を進むことができ、また、人々の生計の向上や社会・経済的福祉の推進、さらには責任ある環境管理に役立つ戦略や
行動を、追求することが可能になります。
 気候にレジリエントな経路を可能とする変革の例
カテゴリ
変革の例
制度的
【経済面の選択肢】
金融インセンティブ、保険、生態系サービスに対する支払、マイクロファイナンス、災害非常予備基金、官民パートナーシップ
社会的
【情報面の選択肢】
ハザード・脆弱性マッピング、早期警報・対応システム、体系的なモニタリング、リモートセンシング、気候サービス
構造的
/物理的
【技術的選択肢】
新たな作物の多様性、先住民の知識、伝統的な知識・その土地の知識、効率的な灌漑、節水、技術脱塩、保全型農
業(アグロフォレストリーなど)、食品貯蔵・保存施設、ハザード・脆弱性地図・モニタリング、早期警報システム、建物の断
熱、メカニカルクーリング・パッシブクーリング、技術開発
変化の
領域
【政治面】
脆弱性・リスクを低減し、適応、緩和、持続可能な開発を支援することと整合性のある、政治的、社会的、文化的、生態
学的意思決定と行動
参考: AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.1一部抜粋
★より詳しく知りたい方は、AR5 WG2 政策決定者向け要約 Table SPM.1の一覧表をご覧ください。
117
AR5
Q&A
関連情報
7. 用語の解説
118
7. 用語の解説
用語の解説
✔AR5
Q&A
✔関連情報
■ 気候変動※1
■ 影響※1
気候変動は、その特性の平均や変動性の変化によって特定されうる気候の状態の変化を指
す。その変化は、長期間、通常は数十年かそれ以上持続する。気候変動は、自然起源の内
部過程あるいは太陽活動周期の変調、噴火、大気の組成や土地利用において起こり続けて
いる人為起源の変化といった外部強制力によるものである可能性がある。
自然及び人間システムへの影響。本報告書では、「影響」という用語は、主に極端な気候・
気象現象及び気候変動が自然及び人間システムに及ぼす影響を指す。影響は一般的に、
特定の期間内に起こる気候変動または危険な気候現象と、それに曝露した社会またはシステ
ムの脆弱性との相互作用による、生命、生計、健康、生態系、経済、社会、文化、サービス、
インフラへの影響を指す。また洪水、干ばつ及び海面水位上昇のような地球物理学システム
への気候変動の影響は物理的影響と呼ばれる影響の一部である。
■ 適応※1
人間社会において、現実/予測される気候及びその影響に対して、損害を和らげ、回避し、ま
たは有益な機会を活かそうとする調整の過程。一部の自然システムにおいては、人間の介入
は予測される気候やその影響に対する調整を促進する可能性がある。
■ ハザード(災害外力)※1
人命の損失、負傷、健康影響に加え、財産、インフラ、生計、サービス提供、生態系、環境
資源の損害・損失をもたらしうる、自然または人間によって引き起こされる物理的事象または
傾向が発生する可能性、あるいは物理的影響のこと。本報告書では、「ハザード」は通常、気
候に関連する物理的な現象や傾向、またはその物理的影響を指す。
■ 曝露※1
悪影響を受ける可能性がある場所や環境の中に、人々、生活、生物種、または生態系、環
境機能、サービス及び資源、インフラ、あるいは経済的、社会的、文化的資産が存在すること。
■ 脆弱性※1
■ 変革※1
人間と自然のシステムの基本的な特性の変化。政策決定者向け要約では、貧困削減を含
む持続可能な開発のための適応の促進に向け、強化され、変更され、方向づけられたパラダ
イムや、目標、価値を反映しうる。
■ レジリエンス(強靭性)※1
適応、学習、及び変革のための能力を維持しつつ、本質的な機能、アイデンティティ、及び構
造を維持する形で、対応または再編して、危険な事象もしくは傾向または混乱に対処する社
会、経済、及び環境システムの能力。
■ コベネフィット※2
社会福祉全体の正味の効果と関係なく、一つの目的に向けた政策・措置が別の目的に対し
て持つプラスの効果。
悪影響を受ける性向あるいは素因。脆弱性は危害への感受性または影響の受けやすさ、対
処し適応する能力の欠如を含む様々な概念と要素を網羅している。
■ トレードオフ※3
■ リスク※1
■ ガバナンス※4
多様な価値が認識されるなか、価値のあるものが危機にさらされており、かつその結果が不確
実である場合に、望ましくない結果が生じる可能性があること。リスクは、危険な事象の発生
確率とその事象や傾向が発生した場合の影響の大きさの積として表されることが多い。リスクは
脆弱性、曝露そしてハザードの相互作用によって生じる。本報告書では、「リスク」は気候変動
影響のリスクを指すために用いられる。
政策・施策を決定し、管理し、実現する手段を包括する総合的な概念。ガバナンスは、国際
社会が直面する多くの種類の問題に対処するための様々なレベルの政府(地球規模、国際
間、地域間、地方間)の貢献と民間・非政府組織、及び市民社会の貢献の役割として認
識される。
複数の条件を同時にみたすことができないような関係。
参考: ※1. AR5 WG2 政策決定者向け要約.、 ※2. AR5 WG2 AnnexⅡ Glossary 、※3. 大辞林、※4. AR5 WG3 AnnexⅠGlossary
119
7. 用語の解説
用語の解説
■ 赤道湧昇域※1
✔AR5
Q&A
関連情報
 世界の海洋における主要な6つの小区域分類
東部太平洋及び大西洋の赤道域にみられる最大の湧昇シス
テムのこと。領域は右図参照。
■ 沿岸境界システム※2
ここは、太平洋の渤海/黄海、東シナ海、南シナ海、東南アジア
海域を網羅し、北西太平洋、インド洋、及び大西洋の縁辺海
を含む。領域は右図参照。
■ 亜熱帯循環域※3
太平洋、大西洋、インド洋に卓越し、コリオリ力により北半球で
は時計回りに、南半球では反時計回りに循環する大規模な安
定した水塊で構成されている。領域は右図参照。
赤道湧昇域
沿岸境界システム
高緯度春季ブルームシステム
半閉鎖性水域
亜熱帯循環域
東部沿岸湧昇システム
出典:AR5 WG2 第30章 Fig.30-11一部抜粋
参考: ※1. AR5 WG2 第30章 30.5.2、 ※2. AR5 WG2 第30章 30.5.4、※3. AR5 WG2 第30章 30.5.6
120
AR5
監
修 : 肱岡靖明 (国立環境研究所 社会環境システム研究センター 環境都市システム研究室 室長)
企画・制作 : IPCCリポート コミュニケーター・プロジェクト
著
Q&A
作 : 環境省
関連情報
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