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JBIC 中国レポート 2012年11・12月号

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JBIC 中国レポート 2012年11・12月号
株式会社
国際協力銀行(JBIC)
JBIC 中国レポート
11・12
2012 年
月号
新公布法令・改正法令情報 .................................................................................................... 2
主な新公布法令 ...................................................................................................................... 2
新公布法令解説 1 ................................................................................................................... 6
外商投資企業にかかわる持分出資に関する暫定施行規定
新公布法令解説 2 ..................................................................................................................11
地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税額に係る分配状況に対して検査を行
うことに関する通知
新公布法令解説 3 ................................................................................................................. 15
直接投資に係る外貨管理政策をより一層改善し、及び調整することに関する通知
中国智庫- 寄稿(毎号掲載) 富士通総研経済研究所 主席研究員 柯 隆
...........
24
中国の構造転換と中国における日本企業・中国企業のブランド戦略
時事問題研究-国際協力銀行 北京首席駐在員 菊池洋................................... 29
直接投資の潮流変化と資本取引管理の自由化
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
JBIC 中国レポート
本レポートは、株式会社国際協力銀行 北京代表処が、日系企業の皆様の中国に於ける
ビジネスの参考として役立ちそうな投資、金融、税制等にかかる現地の情報を集め、配
信させて頂くものです。本レポートに関するご質問・ご要望等ございましたら、当代表
処までご照会下さい。
また、本レポートはホームページでも御覧頂けます。
(http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html)
株式会社国際協力銀行 北京代表処
菊池 洋
新公布法令・改正法令情報
主な新公布法令【 1】
(直近 3 ヶ月にて公布された新法令【 2】のうち、特に重要と思われるものについて会社設
立・M&A、債権管理、労務管理、税関管理、税務・会計、外貨管理、その他の項目別にと
)
りまとめたもの。また、法令名が太字の法令等については解説等を掲載。
 会社設立・M&A
法令名:
外商投資企業にかかわる持分出資に関する暫定施行規定
公布部門: 商務部
文書番号:商務部令[2012]8 号
公布日:
2012 年 9 月 21 日
施行日:2012 年 10 月 22 日
概要等:
本規定は、国内外の投資者がその保有する中国国内企業の持分権をもって出資し、
外商投資企業を設立又は変更・増資する場合における条件、制限、手続等について
定めるものである。
→新公布法令解説 1
 労務管理
法令名:
「外国人の中国における永久居留の享有に関連する待遇の弁法」の印刷・発布に関
1
本来、法令の公布は、中央性法規については国務院の、地方性法規については地方人民代表大会常務委
員会の承認を経てなされる。本レポートでは、かかる公布手続きを経たことが確認できない法令、規範性
文書(法令以外の文書)についても、便宜上、その発出日を公布日として表記。施行日については、規定
により確認可能であるものについてのみ、表記している(「-」は未確認の意)
。また一部法令については、
遡及施行されている。
例)企業所得税法に基づき制定された税務通達
公布日:2009 年7月 1 日、施行日:2008 年 1 月 1 日(遡及適用)
。
また、文書番号の文字部分は、法令公布部門を表す。
2 本号においては、一部の新法令について 2012 年 11 月に公布されたものを含む。
2
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
する通知
公布部門: 中共中央組織部、人力資源及び社会保障部
文書番号:人社部発〔2012〕57 号
公安部等 25 部門
公布日:
2012 年 9 月 25 日
施行日:2012 年 9 月 25 日
概要等:
本通知は、
「外国人永久居留証」を取得した外国人が中国において享受することが
できる各種の待遇を全般的に定めるものである。これには、外国人就業証の取得
免除、外商投資企業設立の際の発展改革部門、商務部門、工商部門及び外貨管理
部門等における手続の簡素化・優遇、自己使用建物の購入制限緩和等がある。
法令名:
外国籍ハイクラス人材のために中国におけるビザ及び居留に係る便宜を提供する
ことに関係する問題に関する通知
公布部門: 中共中央組織部、人力資源及び社会保障部
文書番号:人社部発〔2012〕57 号
外交部、公安部、国家外国専門家局
公布日:
2012 年 9 月 28 日
概要等:
本通知は、条件に適合する、中国に来ている外国籍のハイクラス人材及びその外
施行日:-
国籍の配偶者、18 歳未満の外国籍の子供又は中国籍で帰国しているハイクラス人
材の配偶者及び 18 歳未満の外国籍の子供について、それらの者のためのビザ及び
居留便宜を提供すること等を定めるものである。
 税関管理
法令名:
税関特殊監督管理区域の科学的発展を促進することに関する指導意見
公布部門: 国務院
文書番号:国発〔2012〕58 号
公布日:
2012 年 10 月 27 日
概要等:
本指導意見は、現在存在する税関特殊監督管理区域(保税区、輸出加工区、保税
施行日:-
物流園区、保税港区、綜合保税区等)の段階的な綜合保税国への整理・統合、一
定の条件を有する税関特殊監督管理区域について、研究・開発、設計、ブランド
の創立、核心デバイスの製造及び物流等の業務の奨励等に関する基本的な政策の
指針を示したものである。
 税務・会計
法令名:
地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税額に係る分配状況に対して検
査を行うことに関する通知
公布部門: 国家税務総局
文書番号:国税函[2012]445 号
公布日:
2012 年 9 月 24 日
概要等:
本通知は、
「地区を跨ぐ経営に係る集計納税企業所得税徴収管理暫定施行弁法」
(国
施行日:-
税発[2008]28 号)に基づき地区を跨いだ経営における企業所得税の集計納税を行
っている企業(一部を除く。)に対し、これらの集計納税の税金分配状況の検査を
3
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
行うことについて定めたものである。
→新公布法令解説 2
 外貨管理
法令名:
直接投資に係る外貨管理政策をより一層改善し、及び調整することに関する通知
公布部門:
国家外貨管理局
文書番号:匯発[2012]59 号
公布日:
2012 年 11 月 19 日
施行日:2012 年 12 月 17 日
概要等:
本通知は、国務院による各種行政審査認可事項に対する規制緩和の流れを受け、
外国投資家による中国への直接投資に関する一部の事項について、外貨管理局によ
る審査承認(核准)事項の取消し、手続の簡素化等を進めることを定めたものであ
る。
→新公布法令解説 3
 その他
法令名:
対外貿易の安定した成長を促進することに関する若干の意見
公布部門: 国務院
文書番号:国弁発[2012]第 49 号
公布日:
2012 年 9 月 16 日
施行日:2012 年 10 月 1 日
概要等:
本意見は、今年の対外貿易の安定した成長を促進するため、適切な輸出税還付・金
融サービス、貿易の利便化レベルの向上、貿易環境の改善、貿易構造の合理化及び
組織指導の強化に関する政策の指針を示したものである。
法令名:
国内水路運送管理条例
公布部門: 国務院
文書番号:中華人民共和国国務院令第 625 号
公布日:
2012 年 10 月 13 日
施行日:2013 年 1 月 1 日
概要等:
本条例は、国内水路運送(始発港、所属港及び目的港が全て中国の管轄する通航
水域内にある経営性旅客運送及び貨物運送)及び水路運送補助業務(国内水路運送
のため直接にサービスを提供する船舶管理、船舶代理、水路旅客運送代理及び水路
貨物運送代理等の経営活動)の経営活動全般に関する事項を定めるものである。外
国の企業、その他の経済組織並びに個人は、国内水路運送業務を経営し、また中国
籍船舶または船室等の方式をリースすることにより形態を変えて水路運送業務を
経営してはならないとされる。
法令名:
危険化学品環境管理登記弁法(試行)
公布部門: 環境保護部
文書番号:環境保護部令第 22 号
公布日:
2012 年 10 月 10 日
施行日:2013 年 3 月 1 日
概要等:
本弁法は、
「危険化学品安全管理条例」
(国務院令第 591 号、2011 年 12 月 1 日施
行)に定める危険化学品の生産使用、輸出入に係る環境管理登記に関する事項及び
その監督管理等について定めるものである。
4
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
法令名:
単一用途商業プリペイドカード管理弁法(試行)
公布部門: 商務部
文書番号:中華人民共和国商務部令 2012 年第 9 号
公布日:
2012 年 9 月 21 日
施行日:2012 年 11 月 1 日
概要等:
本弁法は、小売業、宿泊及び飲食業並びに住民サービス業に従事する企業法人が
中国国内において単一用途商業プリペイドカード業務を展開する場合における備
案手続、発行及びサービス、資金管理等に関する事項について定めるものである。
本弁法にいう単一用途商業プリペイドカードとは、上記企業が発行する、当該企
業又は当該企業の所属集団又は同一ブランドのフランチャイズ経営体系内に限っ
てのみ現金として支払う、財貨又はサービス代金に係る前払証憑をいい、磁気カ
ード、チップカード及び紙製の券等を媒体とする実体カード並びにパスワード、
識別番号、図形及び生物特徴情報等を媒体とするバーチャルカードが含まれる。
法令名:
支払機構プリペイドカード業務管理弁法
公布部門: 中国人民銀行
文書番号:中国人民銀行公告〔2012〕第 12 号
公布日:
2012 年 9 月 27 日
施行日:2012 年 11 月 1 日
概要等:
本弁法は、支払機構すなわち「支払業務許可証」を取得し、プリペイドカードの
発行及び受理業務の許可を取得したカード発行機構及びプリペイドカード受理業
務の許可を取得した受理機構が、中国国内においてプリペイドカード業務を行う
場合における発行、受理、使用及びチャージ等に関する事項について定めるもの
である。本弁法にいうプリペイドカードとは、カード発行機構が特定の媒体及び
形式により発行し、同機構以外における商品又はサービスの購入が可能な前払価
値を有するものをいう。
5
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
新公布法令解説 1
外商投資企業にかかわる持分出資に関する暫定施行規定
中華人民共和国商務部は、2012 年 9 月 21 日に「外商投資企業にかかわる持分出資に関
する暫定施行規定」
(以下、
「本規定」という。)を公布し【 3】、同規定は 2012 年 10 月 22
日より施行された。
外商投資企業を含む中国国内の会社(有限責任会社又は株式有限会社)における出資持
分権の現物出資については、従前より「会社法」
【 4】や工商行政部門における登記に関す
る「出資持分出資登記管理弁法」
【 5】等に関連する規定は存在していたが、少なくとも外
商投資企業においては、その審査認可機関である商務主管部門における具体的な審査認可
手続等を定めた規定が存在せず、実務上、多く用いられていたとはいえない。
このような状況のもと、本規定は、外商投資企業にかかわる持分出資について、対象と
なる持分の内容、商務主管部門における審査認可手続等を初めて規範化したものであると
評価できる。
以下において、その内容について概観する。
1.適用範囲
本規定はその適用範囲を、国内外の投資家(持分出資者)がその保有する中国国内企業
(以下、
「持分企業」という。
)の持分をもって出資し、外商投資企業を設立又は変更する
場合としており、これには次の 3 つの場合が含まれる(第 2 条第 1 項)
。
①
新設会社の形式をもって外商投資企業を設立する場合
②
増資して、非外商投資企業を外商投資企業に変更する場合
③
増資して、外商投資企業の持分に変更を発生させる場合
なお、上記のうち特に②については、
「外国投資家による国内企業の買収に関する規定」
商務部令 2012 年第 8 号
参考 URL(商務部ウェブサイト内)
:
http://www.mofcom.gov.cn/aarticle/b/c/201210/20121008398882.html
4 2005 年 10 月 27 日全国人民代表大会常務委員会改正公布(国家主席令 2005 年第 42 号)
、2006 年 1 月
1 日施行。同法第 27 条第 1 項は「株主は、貨幣を用いて出資することができ、現物、知的所有権及び土
地使用権等の、貨幣を用いて価額を評価することができ、かつ、法により譲渡することができる非貨幣財
産を用いて価額を決定して出資することもできる。
」としており、持分による出資はこの規定を根拠に理
論上は認められると解される。
また、
「最高人民法院の「会社法」の適用に係る若干の問題に関する最高人民法院の規定(3)」
(2011 年 1
月 27 日最高人民法院公布[法釈[2011]3 号]
)第 11 条においても、他の会社の持分による出資について
規定している。
5 2009 年 1 月 14 日国家工商行政管理総局公布(国家工商行政管理総局令第 39 号)
、同年 3 月 1 日施行
3
6
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
(いわゆる「M&A規定」
)
【 6】にいう「持分買収」にも該当する場合であると考えられる。
そこで、本規定においては、持分出資が外国投資家による国内企業の合併買収にあたる事
由がある場合には、本規定を適用するほか、この「M&A規定」を遵守しなければならない
旨も定めている(第 25 条。他にも、同時に適用される規定等について明記している(4.
(2)において後述)
。
)
。
2.持分出資の条件及び制限
(1)出資として用いることができる持分
本規定第 4 条第1項においては、出資として用いる持分につき、権利帰属が明らかであ
り、権能が完全であり、かつ、法により譲渡することができなければならないものとされ、
また持分企業が外商投資企業である場合には、その企業は法に基づいて設立が許可され、
外商投資産業政策に合致しなければならないとされる。
また、次に掲げる事由に該当する持分は、出資として用いることが禁止される(同条第
2 項)
。
①
持分企業の登録資本が全額払い込まれていないもの
②
既に質権が設定されているもの
③
既に法により凍結されているもの
④
持分企業の定款(契約)において譲渡禁止の約定があるもの
⑤ 規定どおりに前年度の外商投資企業連合年度検査に参加せず、又は合格していな
い外商投資企業の持分
⑥ 不動産企業、外商投資性会社、外商投資ベンチャー(持分)投資企業の持分
⑦
法律、行政法規又は国務院の決定により、持分の譲渡につき認可を経るべき旨が
規定されているのに認可を経ていないもの
⑧
法律、行政法規又は国務院の決定の規定により譲渡が禁止されるその他の事由
なお、上記のうち、①~④、⑦、⑧は前出「持分権出資登記管理弁法」においても同様
の規定が存在している、⑤、⑥は同弁法には存在せず、本規定に特有のものとなっている。
(2)外商投資関係各規定への合致
本規定第 5 条においては、持分出資が行われた後の被投資企業(持分出資の出資先とな
2009 年 6 月 22 日商務部改正公布(商務部令 2009 年第 6 号)
、同日施行
なお、同規定は、
「外国投資家による国内企業の買収」を「外国投資家が国内の非外商投資企業の株主
の持分を購入し、若しくは国内会社の増資を引き受け、当該国内会社をして外商投資企業として変更・設
立させること又は外国投資家が外商投資企業を設立し、かつ、当該企業を通じて国内企業の資産を購入し、
及び当該資産を運営することを合意し、若しくは外国投資家が国内企業の資産の購入を合意し、かつ、当
該資産をもって投資して外商投資企業を設立して当該資産を運営させること」と定義した上で、これにつ
いての制度と手続について定める。
6
7
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
る企業をいう。以下同じ)
、持分企業及び直接又は間接に持分を保有する企業は、
「外商投
資方向指導規定」
、
「外商投資産業指導目録」及びその他の外商投資関係規定に合致しなけ
ればならないとされる。持分出資が行われた後は、これらの企業はいずれも外商投資企業
そのもの又はその出資者となるため、従前の外商投資に関する政策からすると当然の帰結
であると思われる。
(3)出資として用いる持分の評価等
以上のほか、出資として用いる持分は、法に基づき設立された国内評価機構による評価
を経なければならず(本規定第 6 条)
、持分出資にかかる取引の当事者(持分出資者及び
被投資企業の出資者その他の投資家)はその取引価格を協議により確定することができる
が、このうち被投資企業の登録資本に算入する部分の金額(持分出資金額)は、上記の評
価金額を超えることができない(本規定第 7 条第 1 項、第 2 項)
。
また、被投資企業の出資者全体の持分出資金額とその他の非貨幣財産につき価額評価し
て出資(≒現物出資)する金額との和は、その被投資企業の登録資本の 70%を上回っては
ならないとされる(本規定第 8 条)
。これは、持分出資も出資持分という現物を価額評価
して行う出資の一種であることから、それに対する「会社法」上の原則と平仄を合わせた
。
ものと考えられる【 7】
3.持分出資の手続
(1)審査認可機関
本規定上、持分出資を行う場合の審査認可機関は商務部及び省級(省、自治区、直轄市
及び計画単列市)の商務主管部門に限定されており(第 3 条第 2 項)
、更なる下級の商務
部門による審査認可は、条文上行い得ないこととなっている。
(2)必要文書等
投資者が持分出資する場合、投資家又は被投資企業が審査認可機関に対して次の文書を
提出しなければならないとされる(本規定第 10 条)
。
① 持分出資申請と持分出資契約
② 持分出資者が適法に有する出資に用いる持分の証明
7
「会社法」上の原則(規定)は次のとおりである。
第 27 条 株主は、貨幣を用いて出資することができ、現物、知的所有権及び土地使用権等の、貨幣を用
いて価額を評価することができ、かつ、法により譲渡することができる非貨幣財産を用いて価額を決定し
て出資することもできる。ただし、法律又は行政法規の規定により出資としてはならない財産を除く。
出資とする非貨幣財産については、評価して価額を決定し、財産を確認しなければならず、高く評価
し、又は低く評価して価額を決定してはならない。法律又は行政法規に評価による価額決定について規定
がある場合には、当該規定に従う。
株主全体の貨幣出資金額は、有限責任会社の登録資本の 100 分の 30 を下回ってはならない。
8
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
③ 持分企業の「企業法人営業許可書」
(写し)
④ 持分企業が外商投資企業の場合、
「外商投資企業許可書」の原本及び写し、外商投
資企業連合年度検査の合格証明
⑤ 評価機構の持分評価報告
⑥ 法律事務所及びその委託派遣弁護士が本規定第 4 条及び第 5 条に基づき提出した
法律意見書
⑦ 外商投資の法律、行政法規及び規定により報告すべきその他の外商投資企業の設
立又は変更に関わる文書
⑧ 法律、行政法規又は国務院の決定により企業の出資者が持分譲渡を行う際に申請
が必要な場合、関連する許可文書
⑨
審査認可機関が要求するその他の文書
上記の各文書のうち、弁護士による法律意見書の提出が求められている点(⑥)が比較
的特徴的といえる。このほか、持分出資のうち「増資して、非外商投資企業を外商投資企
業に変更する場合」
(上記1.②)にあたる場合には、
「M&A規定」上、出資の対象となる
非外商投資企業の前財務年度の財務会計監査報告、同企業の従業員安定配置計画等も提出
。
が求められる【 8】
(3)認可取得後の手続
持分出資申請に対して、審査認可機関がこれを認可する場合には、審査認可機関は、備
考欄に「持分出資未払込」と注記された「外商投資企業許可証書」を発行又は変更するこ
とになる(本規定第 11 条)
。
その後、持分企業において出資者変更手続を行った後、工商、税務、税関、外貨管理等
の関係各部門において変更登記手続を行い、他方で出資検査機構の出資検査を経た上で、
被投資先企業が審査認可機関に対し、備考欄に「持分出資払込済」と記載された「外商投
資企業許可証書」の交換発行を申請することになる(以上につき本規定第 13 条乃至第 15
条)
。
4.その他
(1)登録資本と投資総額に関する規定
このほか、本規定においては、第 9 条が「被投資企業が有限責任会社である場合には、
その投資総額は、「中外合資経営企業の登録資本と投資総額との比率に関する暫定施行規
定」
【 9】に基づき、持分出資後の被投資企業の登録資本に従い確定をしなければならない。
」
「M&A 規定」第 21 条第 1 項参照。但し、実際の手続において提出が求められる文書については各地
の実務により異なる可能性があり、これを実際に行う場合には、事前に予定地の当局に確認されることが
望まれる。
9 国家工商行政管理局、1987 年 2 月 17 日公布・施行
8
9
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
と定め、登録資本と投資総額との比率について現金出資の場合と同様の基準で扱うものと
している一方で、第 18 条においては「被投資企業の外債登記及び輸入免税限度額手続を
行うときは、被投資企業の持分権出資部分控除後の登録資本で確定した投資総額に基づき
査定しなければならない。
」と定めている。そうすると、この条文の解釈次第では、持分出
資がなされた外商投資企業については、外形上の投資総額と登録資本の差額(投注差)と、
外債登記枠乃至免税輸入限度額とが異なる結果となる可能性もあり、注意が必要である。
今後、この点に関する商務部の正式な見解及び実務の集積が注目される。
(2)その他の関連する法令
1.において述べたとおり、本規定に基づく持分出資については「M&A 規定」の適用場
面と重複するケースがありうるが、このほか、本規定においては、次のとおり、各場合に
おける他の関連する法令の遵守についても定めているので併せて紹介する。
No.
ケース
関連法令(括弧内は本規定における条文番号)
国内の上場会社にかかわる場合
国の証券監督管理、証券取引及び証券登記決
①
②
③
④
済等の関係規定(第 16 条第 1 項)
外国投資家が持分企業の持分を対価とし
①のほか、
「外国投資家による上場会社に対す
て国内の上場会社による持分の割当発行
(第 16 条第
る戦略投資に係る管理弁法」【 10】
又は合意による譲渡に参与する場合
2 項)
企業国有資産権及び上場会社の国有持分
国有資産管理の関連規定(第 20 条)
管理の事項にかかわる場合
外国投資家による国の軍事工業・国防安
「外国投資家による国内企業の合併買収に係
全その他国の安全に関わる企業の買収等
る安全審査制度を確立することに関する通
(第 22 条第 1 項)
知」
【 11】
外商投資性会社にかかわる持分出資
外商投資による投資性会社の設立・運営の関
⑤
⑥
連規定(第 23 条)
外国投資家が国内企業の持分を対価とし
「外商投資企業の投資家の持分の変更に係る
てその他の投資家の保有する国内企業の
若干の規定」【 12 】及び「M&A規定」(第 25
持分を交換取得する場合
条)
商務部/中国証券監督管理委員会/国家税務総局/国家工商行政管理総局/国家外国為替管理局令 2005 年
第 28 号、2005 年 12 月 31 日公布
11 商務部公告 2011 年第 53 号、2011 年 9 月 1 日施行
12 対外貿易経済合作部/国家工商行政管理局([1997]外経貿法発第 267 号)
、1997 年 5 月 28 日公布・施行
10
10
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
新公布法令解説 2
地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税額に係る分配状況に対し
て検査を行うことに関する通知
国家税務総局から 2012 年 9 月 12 日に出された「地区を跨ぐ経営について集計納税され
る企業所得税額に係る分配状況に対して検査を行うことに関する通知」(以下、「本通知」
という。
)は、
「企業所得税法」の施行(2008 年 1 月 1 日)により内国資本企業と外商投
資企業の企業所得税が統一されたことにより、外商投資企業における納税方法も従来は総
公司(本店)一括納税であったのが、四半期又は月次予納については分公司(支店)でも
行われることに変更されており、その実際の執行状況について検査を行うことを定めたも
のである。
検査については、サンプル抽出方式によって行われ、自己検査と国家税務総局によるサ
ンプル検査とがある。
1.本通知の制定背景
地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税額について、その具体的な計算方法
は、「地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税徴収管理暫定施行弁法」(2008
年 3 月 10 日・国税発[2008]28 号。以下、
「徴収弁法」という。)に定められている。
「徴収弁法」によると、地区を跨いで【 13】行われる経営における企業所得税は、
「統一
計算、分級管理、当該地予納、集計清算、財政国庫調整」の方法により管理される。そし
て、これらの概念は、同弁法において、次のとおり定義されている。
第 4 条 「統一計算」とは、企業の総機構が企業に所属する法人格を有しない各営業機構及び
場所を含むすべての課税所得額及び納付すべき税額を統一して計算することをいう。
第 5 条 「分級管理」とは、総機構又は分支機構の所在地の主管税務機関が当該地の機構に対
して企業所得税管理をする責任を有し、総機構及び分支機構はそれぞれ機構の所在地の主管税
務機関の管理を受けなければならないことをいう。
第 6 条 「当該地予納」とは、総機構及び分支機構がこの弁法の規定に従い、月ごとに、又は
四半期ごとにそれぞれ所在地の主管税務機関に企業所得税を申告し予納しなければならないこ
とをいう。
第 7 条 「集計清算」とは、年度終了後に、総機構が企業所得税の年度集計清算納付をするこ
とに責任を負い、企業の年度の納付すべき所得税額を統一計算し、総機構及び分支機構の当該
年において既に当該地で数期に分けて予納した企業所得税額を充当・減算した後に、多い場合
13
省、自治区、直轄市及び計画単列市を跨ぐことをいう(「徴収弁法」第 2 条第 1 項)
。
11
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
には税金の還付を受け、少ない場合には追加納付することをいう。
第 8 条 「財政国庫調整」とは、財政部が、中央国庫に納入される地区を跨ぐ総機構・分機構
の企業所得税の未処分収入を、査定した係数に従い定期的に地方金庫に調整することをいう。
一方、徴収した税額をどのように税務機関ごとに予算分配するのかについては、
「徴収弁
法」及び「省・市を跨ぐ総機構・分機構の企業所得税の配分及び予算管理暫定施行弁法」
(2008 年 1 月 15 日・財預[2008]10 号。以下、
「予算弁法」という。)に定められてお
り、総機構・分支機構が統一計算する当期の要納税額の地方享受部分のうち、25%は総機
構の所在地が享受し、50%は各分支機構の所在地が享受し、25%は一定の比率に従い各地
。
間において分配することが原則とされている【 14】
ただし、従前より、実際には上記の法令に従わず、分公司の四半期又は月次予納をして
いない企業もあるといった問題が生じていた【 15】。そこで、本通知はその実際の執行状況
について検査をするために定められたものである。
2.本通知の概要
(1)検査対象企業
検査対象企業は、
「徴収弁法」に基づいて、全額中央収入となる企業【 16】を除き、総機
構と二級分支機構【 17】とで企業所得税の四半期又は月次予納を行っている企業である。
(2)検査対象項目
本通知四(二)によると、検査対象となる項目は次のとおりである。
14
「予算弁法」は、
「省・市を跨ぐ総機構・分機構の企業所得税の配分及び予算管理弁法」
(財預[2012]40
号)によって改正されており、改正弁法は 20013 年 1 月 1 日から施行される。
15 関連する国家税務総局の通知として「地区を跨ぐ経営に係る集計納税企業所得税徴収管理に関係する
問題に関する通知」
(国税函[2008]747 号)がある。
16 「予算弁法」一(二)第 1 項、第 2 項、
「徴収弁法」第 2 条第 2 項において次のとおり規定されている。
鉄道運送企業(広鉄集団及び大秦鉄路公司を含む。
)
、国有郵政企業、中国工商銀行株式有限公司、中国農
業銀行、中国銀行株式有限公司、国家開発銀行、中国農業発展銀行、中国輸出入銀行、中央匯金投資有限
責任公司、中国建設銀行株式有限公司、中国建銀投資有限責任公司、中国石油天然ガス株式有限公司、中
国石油化工株式有限公司及び海洋石油天然ガス企業(香港・マカオ・台湾及び外国投資家投資並びに外国
の海上石油天然ガス企業を含む。)等の納付する所得税が中央及び地方の享受する範囲に組み入れられて
いない企業については、この弁法を適用しない。
17 「地区を跨ぐ経営について集計納税される企業所得税徴収管理に係る若干の問題に関する通知」
(2009
年・国税函[2009]221 号)第 1 条「二級分支機構の判定に関する問題」に基づけば、「二級分支機構とは、
総機構がその財務、業務、人員等に対して直接統一計算及び管理する非邦人営業許可証を取得している分
支機構を指す。
」とされている。よって、ここでいう二級分支機構とは、生産経営機能を有する出先機関
であるといえる。二級分支機構であっても生産経営機能を有さない倉庫、研究機関等は集計納税から除外
される。
二級分支機構より下は、三級分支機構、四級分支機構等とされる。
三級分支機構以下は、
「予算弁法」一(二)第 2 項で「三級及び三級以下の分支機構については、その
経営収入、従業員給与及び資産総額は二級機構に合算して計算する」とされている。
なお、税務上は一級分支機構という概念は使用されていないが、国有 4 大銀行などでは、省、自治区、
直轄市、計画単列市の分行を一級分行としているとされる。
12
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
① 年度申告書に基づく 2011 年度の全体の所得税の金額
② 予納申告書に基づく 2011 年度 1 月から 6 月及び 7 月から 12 月の総機構分担所得税
額
③ 予納申告書に基づく 2011 年度 1 月から 6 月及び 7 月から 12 月の分支機構の分担所
得税額
(3)集計納税の方法の概略
「徴収弁法」に基づけば、集計納税の方法は以下のとおりである。
① 予納の方法
(a) 総機構と分支機構の納付税額の配分(
「徴収弁法」第 19 条)
総機構 50%、分支機構 50%とされる。
総機構の予納額 50%は、25%部分が中央収入、25%部分が総機構所在地の収入とさ
れる。
分支機構の予納額 50%は、一定の比率で各分支機構に配分されそれぞれの分支機構で
納付される。
(b) 納付時期
四半期又は月次終了後 15 日以内であり、総機構は四半期又は月次終了後 10 日以内に
各分支機構にそれぞれ納付すべき金額を通知しなければならない。(「徴収弁法」第 19
条第(1)号及び第(2)号)
② 予納税額の計算
(a)四半期又は月次ごとに所定の期間内に実際の利益額に従い予納することが可能な場
合はその税額。
(
「徴収弁法」第 20 条)
(b) 期間内に実際の利益額に従い予納することが困難な場合は、総機構の所在地の主管
税務機関の認可を経て、前年度の課税所得額の 12 分の 1 又は 4 分の 1 に従い、総機構
及び分支機構が企業所得税を当該地予納が可能。
(
「徴収弁法」第 18 条第 2 項)
予納方式は、一旦確定したら当該年度内は変更不可。
(「徴収弁法」第 18 条第 3 項)
③ 予納額の配分計算(
「徴収弁法」第 23 条)
(a) 過年度(1 月から 6 月は前々年度に従い、7 月から 12 月は前年度に従う。) の分支機
構の経営収入、従業員賃金及び資産総額の 3 つの要素に従い各分支機構が分担すべき所
得税額の比率を計算しなければならず、3 要素の加重は、順に 0.35、0.35、0.30 である。
(
「徴収弁法」第 23 条第 1 項)
(b) ある分支機構の分担比率=0.35×(当該分支機構の営業収入/各分支機構の営業収入
の和)+0.35×(当該分支機構の賃金総額/各分支機構の賃金総額の和)+0.30×(当該分
支機構の資産総額/各分支機構の資産総額の和) (徴収弁法)第 23 条第 2 項
(c) 新設分支機構は、設立の当該年は企業所得税を当該地予納は不要とされる。(「徴収
弁法」第 13 条)
13
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
3.法令の背景についての補足(地区を跨ぐ経営を行う企業の実際の対応につ
いて)
上記 2.
(3)①(b)のとおり、税金の納付時期が翌月の 15 日までとなっており、また総
機構が分支機構に税額を通知する期限が翌月の 10 日までと期間が非常に短く定められて
いる。
このため、多くの企業は、通常、当該税額計算対象期間の実際の課税所得ではなく、前
年度の課税所得額に基づいて税額計算を行っているものと推測される。
しかしながら、総機構と分支機構の会計データがネットワークを通じて総機構で一元的
に管理されているような場合には、実際の課税所得に基づくことも可能であろう。
この点、前年度の課税所得額のデータを使用する場合には、申告及び清算納付期限であ
る年度終了後 5 ヶ月目には多額の未払税額又は未収還付税額が発生する可能性がある。
その意味で、分支機構を有する企業は、総機構と分支機構の会計データがネットワーク
を通じて総機構で一元的に管理される会計システムを採用することが望ましいといえる。
14
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
新公布法令解説 3
直接投資に係る外貨管理政策をより一層改善し、及び調整することに関する通
知
近時、国務院においては、外商投資に関する事項を含む各種の行政審査認可事項につい
て、審査認可の取消し、審査認可権限の下級委譲を含む規制緩和が進められており、2012
年 9 月 23 日にも、314 項目にわたる行政審査認可事項の取消し及び調整が行われること
が決定された【 18】
。この流れを受け、外貨管理部門(国家外貨管理局)においても、外貨
管理領域での行政審査認可制度の改革業務、法規の整理、規制緩和及び権限委譲が進めら
れている。
「直接投資に係る外貨管理政策をより一層改善し、及び調整することに関する通知」
(匯
発[2012]59 号。以下、
「本通知」という。)も、その一環として、外国投資家による中国へ
の直接投資に関する一部の事項について、外貨管理局による審査承認【19】事項の取消し、
手続の簡素化等を進めることを定めたものである。
本通知に関する国家外貨管理局の関係担当者による記者会見【 20】
(以下、
「本記者会見」
という。
)によると、外貨管理局は本通知により、
「事前審査認可のプロセスを大幅に縮減
することにより、登記を主とする外商直接投資の外貨管理方式を実現し、リスクを防止す
る手段を向上させるとともに、投資の利便性を高め、実体経済に対するサービスをより良
くする」ものとされている。
1.基本原則
本記者会見によると、本通知に基づく今回の直接投資に係る外貨管理政策調整の基本原
則は、次の 3 つである。
① 登記原則・・・大部分の通常業務の事前審査承認を取り消し、登記による方法を通じた
外商投資企業のクロスボーダー資金流動及び為替兌換限度額を設定する。
② 便利化原則・・・現行の管理プロセスを大幅に取り消し、又は簡素化・統合し、企業の
申請資料を簡素化し、現行の業務申請書を統一の標準化された申請表フォーマットに取っ
「第 6 期行政審査認可項目の取消し及び調整に関する国務院の決定」
(国発〔2012〕52 号)
。
中国語:
「核准」
。以下同じ
20 記者会見の内容は下記国家外貨管理 HP に掲載。
http://www.safe.gov.cn/wps/portal/!ut/p/c5/hY2xDoIwAES_xS_oVWpbxlJjW4uAaVRkIR0MIRFwM
H6_EGf1bnx5d6Qhc8f46rv47Kcx3klNGt4yIMiMKpQh3cGllEklqgSgM7_yVhtlmcgByQzgWFYWV
h8pXPLHvix_vLV6qw_eUEh_lnBuE_T-5Nc6Fx_-a3_h-BIFUthpuJHHUKOvutUbGRxr1w!!/dl3/d3/
L2dJQSEvUUt3QS9ZQnZ3LzZfSENEQ01LRzEwODRJQzBJSUpRRUpKSDEySTI!/?WCM_GLOB
AL_CONTEXT=/wps/wcm/connect/safe_web_store/safe_web/whxw/ywfb/node_news_ywfb_store/ca2
f0f804d8709baa321a7fd3fd7c3dc
18
19
15
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
て代わらせることにより、手続を簡素化し、コストを低減する。
③ リスク統制可能原則・・・外管局の関連業務システムを通じ、直接投資の全過程と関係
のある資金の流出入、為替兌換及び国内振替データを全面的に採集し、事後検査及び統計
分析事前警戒メカニズムを更に強化し、
外貨管理の有効性及びリスク防御能力を増強する。
本通知は、これらの原則に基づき、次のような事項について規定している。以下におい
て、主要なものを紹介する。
2.直接投資における外貨口座開設及び入金に係る審査承認の取消し及び外貨
口座の整理・合理化(第 1 条)
(1)本条においては、次の各事項について、従前必要とされていた外貨管理局による審
査承認手続が取り消された。これにより、銀行が直接外貨管理局の関連業務システムの登
記情報に基づき、口座開設主体のための手続を行うこととなる。
・初期費用外貨口座、外貨資本金口座、資産現金化口座及び保証金口座の開設(第 1 項
第 1 文)
・初期費用外貨口座の人民元転、外国投資家専用外貨口座(買収類、保証類、投資類、
費用類)第 1 項第 2 文)
・外国投資家土地使用権入札用保証類専用外貨口座及び外国投資家資産権取引専用外貨
保証金口座(第 1 項第 3 文)
・資産現金化口座、国外貸付専用口座の入金(第 2 項)
・異地外貨資本金口座の開設、資産現金化口座の制限、外貨資本金口座の開設数制限及
び 1 口座あたりの流入限度額(第 3 項)
(2)また、既存の各種外貨口座につき、次の種類に整理及び合理化がなされることとな
る(本記者会見八、も参照)
。
口座名称
用途
初期費用外貨口座
外国投資家が国内において従事する直接投資活
動と関連する各種初期費用の預入れ
外貨資本金口座
外商投資企業の外貨資本金の預入れ
国外被仕向け送金保証金専用口座及び
国外から送金を受けた外貨保証金及び国内で振
国内振替入金保証金専用口座
替入金された外貨保証金の預入れ
国内資産換価口座及び国外資産換価口座
国内の主体の国外又は国外の資産権益所得に係
る外貨の預入れ
国内再投資専用口座
国内再投資で受領した外貨資金の預入れ
3.外国投資家による国内の適法な所得による再投資に係る審査承認の取消し
16
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
(第 2 条)
外商投資企業が、外国投資家に属する資本準備金、利益準備金、未分配利益等の適法な
所得及び外商投資企業の登記済み外債(利息を含めることが可能)を登録資本に組み入れ
て増資すること(第 1 項)
、及び国内の利益、持分譲渡、減資、清算、先行投資回収等の
適法な所得をもって再投資すること(第 2 項)についての審査承認がそれぞれ取り消され
た。
これらにより、会計士事務所が、投資先の企業に関する出資検査の証明確認手続を、そ
の企業の関連する外貨登記情報に基づき直接に行うことができることとなった。
4.外商投資性会社による国内再投資に係る外貨管理の簡素化(第 3 条)
本条においては、外商投資性会社が国内再投資を行った場合における投資先企業の外貨
登記手続が取り消され、外貨登記上、当該投資性会社は中国側出資者として取扱われるよ
うになった。一方、外商投資性会社が外国投資家(外国企業)と共同出資した場合には、
投資先企業は従前と同様に外貨登記手続を行う必要がある(以上につき第 1 項)
。
同時に、外商投資性会社の国内投資金振替、その投資先企業の配当等の当該投資性会社
への振替等に関する審査承認の取消し(第 2 項)
、外商投資性会社による国内出資に対す
る出資検査の取消し(第 3 項)等が定められている。
これらのほか、外商投資ベンチャー投資企業、外商投資出資持分投資企業等の、投資を
主要な業務とする外商投資企業についても、外商投資性会社に関する上記各規定を参照し
て管理される(第 5 項)
。
5.外商投資企業の出資検査証明確認手続の簡素化(第 4 条)
本条においては、会計士事務所による外貨管理局に対する出資検査の証明確認を行う際
に、紙ベースでの資料提出を要求していたのを取り消し、電子申請資料を送付することに
改めた(第 1 項)
。
また、外商投資企業における外国投資家による減資にかかる証明確認手続を取り消した
(第 2 項)
。
本記者会見によれば、これにより、出資検査の証明確認手続を全てインターネットで行
うことができ、会計士事務所は外管局に赴いて照会する必要がなくなることから、当該手
続の利便性が大幅に高まったとされる。
6.外国投資家による中国側持分買収に係る外資の外貨登記手続の簡素化(第 5
条)
17
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
外国投資家が国外からの被仕向け送金により(現金で)持分譲渡代金全額を支払う場合
には、従前必要とされていた中国側の持分買収に係る出資確認登記の申請が不要となり、
外管局が自動的に同登記を完了することとなった(第 1 項)
。
ただし、現金以外の(非貨幣)形式により持分譲渡代金の全部又は一部を支払う場合に
は、依然として出資確認登記手続を申請しなければならない(第 2 項)
。
7.直接投資における外貨購入及び対外支払いに係る審査承認の取消し(第 6
条)
本条においては、次の各事項に関する外貨管理局による審査承認手続が取り消された。
・外商投資企業における減資・清算・先行投資回収所得を外国投資家に支払う場合の外貨
転及び対外支払い(第 1 項)
・国内機構又は個人が外商投資企業の外国側出資持分を購入し、その対価を対外支払い
する場合の外貨転及び対外支払い(第 2 項)
・国内機構による国外投資初期費用の国外送金(第 3 項)
・国外機構が設立する国内の分支機構、代表機構及び国外の個人が、国内の商品家屋を
譲渡するに当たっての外貨局における外貨購入・支払い(第 4 項)
・対外貸付専用口座資金の出金(第 5 項)
・上記業務の異地における外貨購入及び対外支払い制限(第 6 項)
ただし、これらの審査承認手続の取消しはあくまで外貨管理局における手続が取り消さ
れたのみであり、その他の政府主管部門による関連規定に基づき必要となる手続(商務部
門による審査認可、登記主管部門による登記等)は当然ながら引き続き必要であることに
は注意が必要である。
8.対外貸付管理の更なる緩和(第 8 条)
本条においては、対外貸付を行うための原資について、国内における外貨貸付資金を用
いることが許可され(第 1 項)
、外商投資企業がその国外親会社への貸付を行うことが認
められた(第 2 項)
。なお、後者については、その貸付限度額は、当該外国投資家に対す
る配当済み未送金利益及び当該外国投資家の出資持分比率に従い享有する未配当利益の和
を超えることができない。すなわち、貸付可能金額は当該国外親会社に対する配当可能利
益の範囲に限定されている。これは、国外親会社への貸付を無制限に行うことを認めるこ
とにより、
(返済期限が存在する点は異なるものの)結果的に今なお比較的厳格な規制の対
象となっている減資(自己資本の回収)とほぼ同様の状態が作出され、国外への不当なキ
ャッシュアウトが生じてしまうことを避けるためのものであると考えられるが、この点に
18
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
ついて、外貨管理局からは明確な説明が得られなかった【 21】
。
9.銀行の職責
本記者会見によると、今回の直接投資に係る外貨管理政策の調整後、銀行における関連
業務取扱いの際の職責は、①業務のコンプライアンス審査、②関連業務の処理にあたって
のデータ及び情報について備案を行うこと、の 2 点であるとされる。
本通知第 10 条においても、直接投資項目下の外貨管理業務取扱いに係る銀行のコンプ
ライアンス意識を高めるべきであり、銀行が本通知その他の外貨管理関連規定に違反した
場合には、「外貨管理条例」【 22】等の関連法規により処罰がなされる旨が確認されている
(第 3 項)
。
21
22
国家外貨管理局資本項目管理司投資処(010-68402269)男性担当者へのヒアリングによる。
国務院令第 532 号、2008 年 8 月 5 日最終改正公布、施行
19
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
富士通総研経済研究所 主席研究員
柯
隆
中国の構造転換と中国における日本企業・中国企業のブランド戦略
中国経済は重要な転換点に差し掛かっている。これまでの 30 余年間、中国は外国企業
を誘致し、国内の安い労働力を利用し、廉価な中国製品を海外へ大量に輸出することで奇
跡的な経済成長を実現してきた。しかし、30 年に亘る年平均 10%の成長の結果、人件費
は上昇し、人民元も徐々に切り上がっている。これは従来の中国モデルが機能しなくなる
ことを意味するものである。このまま行くと、中国のコスト競争力は次第に低下し、世界
の工場としての魅力を失うことになりかねない。そこで、中国は新たな成長エンジンを見
つけてこないといけない。そして、それは中国企業の技術力とブランド力の強化しかない
と思われる。
一方、日本企業は長い間、中国を製造センターと位置付け、中国に工場を移転すること
でそのコスト競争力を維持してきた。ここに来て、中国での人件費の上昇は日本企業の利
益を圧迫し、コスト競争力が減退している。同時に、韓国企業の猛追と中国地場企業の追
い上げを受けて、近年、日本企業の中国ビジネスは伸び悩んでいる。考えてみれば、日本
企業は技術力を失ったわけではないうえ、中国での製造コストの上昇は日本企業だけでな
く、すべての企業にとって同じ条件である。それにもかかわらず、なぜ日本企業だけ経営
が難しくなっているのだろうか。
1. 経済発展と世界の市場としての重要性
この 30 年間、
中国地場企業は世界の潮流にキャッチアップし技術力を強化するために、
外国企業と合弁または提携を行い、技術移転を受け、質の高い労働力をできるだけ大量に
確保し、安い製品を大量に輸出するという薄利多売のモデルであった。外国企業から移転
される技術には一流のものこそ少ないが、二流の技術と国内の安い労働力との組み合わせ
で十分に競争力を誇示できた。
一方、外国企業にとり中国に進出する魅力といえば、安い労働力が際限なく供給される
ことであった。しかし、近年、人件費の上昇によって、世界の工場としての中国の魅力が
次第に薄れつつあることが懸念されている。そしてその反面、経済成長と一人当たり GDP
の拡大により、中国の市場としての魅力が徐々に高まっている。
たとえば、自動車についていえば、販売台数は 3 年間連続で世界一位を記録した。冷蔵
庫や薄型テレビなどの白物家電の生産と販売はいずれも世界一である。アメリカで発生し
20
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
た金融危機とヨーロッパで発生した債務危機により欧米の市場が縮小していることもあり、
中国の市場としての重要性が急速に高まっている。それゆえ、世界各国の企業はその経営
資源を中国に集約し、し烈な市場競争を繰り広げている。
長い間、中国ウォッチャーの間では、中国は 13 億人を擁するビッグマーケットである
と言われてきた。しかし、中国でビジネスを展開する企業にとって、中国は必ずしも 13
億人のビッグマーケットとなるわけではない。なぜならば、中国は確かに 13 億人の人口
を有する大国だが、その消費市場は所得の階層化が進展することによってかなり細分化さ
れているからである。自動車市場に関していえば、外資系メーカーはミドルエンドからハ
イエンドまでの市場にターゲットを絞っているのに対し、中国の地場メーカーはその技術
力とブランド力の弱さからローエンド市場にフォーカスせざるを得ない状況にある。この
ように中国では、
企業が細分化された所得層に応じてターゲットを絞らざるを得ないため、
必ずしも 13 億人全ての消費者がターゲットになるとは限らないのである。
しかしながら、外資系企業と地場企業が
今後も「分業」して共存していくことがで
きるとは考えにくい。地場企業はもともと
政府のバックアップを重要な推進力として
いたが、それに加え、すでに技術力の強化
に乗り出している。一方、外資系企業はミ
ドルエンド以上の市場に集中しているため、
外資系企業同士でし烈な競争を繰り広げな
中国では、地場企業が技術力強化に乗り出してお
ければいけないことになる。
り、し烈な市場競争が繰り広げられている。
結論的にいえば、中国経済は年平均 10%
(写真:青島市内)
近い成長を続けてきており、今度も 8%前
後の成長を実現できるとみられているが、上記のような状況がすでに生じているとおり、
すべての市場参入者にとり決して安易に戦える市場ではないことをまずここで強調してお
きたい。
では、なぜ中国市場が拡大しているのに、そこで勝ち抜くことは簡単ではないのだろう
か。
一つは、中国経済はそのパイこそ拡大しているが、国内外からの新規参入もまた急増し
ている点が挙げられる。もう一つは、それぞれの企業にとりそのターゲットとなる所得層
へのアクセスはそれほど簡単ではないという点が挙げられる。ほぼすべての企業にとり、
市場競争において絶対優位はありえず、ローエンド市場に進出しようとすれば地場企業と
競合し、し烈な価格競争を強いられる。反対に、ハイエンド市場にシフトしようと思えば、
先進諸国の企業とぶつかる。
つまり、各企業の市場競争力とその比較優位が問われているということなのである。
2.中国企業のブランド力とブランド戦略
21
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
「改革・開放」の初期段階から、中国政府は、中国企業への技術移転を促すため、外国
企業に対し、単独での進出を認めず必ず地場企業との合弁でなければならないとの条件付
けを行った。そして、当時の地場企業はほとんど国有企業であった。自動車製造について
いえば、合弁企業への外国メーカーの出資比率は 50%を超えてはならず、しかも、外国メ
ーカー1 社につき、合弁を組む地場企業は 2 社までと限定されている。
表 1 中国企業ブランド価値トップ 15(2011 年)
注:企業ブランド価値は 1 ドル=6.35 元にて換算
資料:Interbrand
胡錦濤政権になってからの中国政府は「科学的発展観」を提唱し、産業界に対して産業
構造と発展モデルの転換を呼びかけてきた。
「科学的発展観」の定義は明らかにされていな
いが、おそらく二つの大きなポイントが含まれている。一つはマクロ的にみて経済と産業
の効率性を高めるという点である。これは、これまでの経済発展が要素投入型といわれ、
資源効率が低く、環境負荷も高いため、持続不可能であるとの判断に基づくものである。
もう一つはミクロ的にみて各企業の技術力とブランド力を強化しなければならないという
点である。
しかしながら、2013 年 3 月の初旬に開催予定の全人代で胡錦濤政権は正式に引退する
が、
「科学的発展観」はいまだ実現していない。マクロ的にみて産業構造の転換が遅れてい
るがために、資源効率は依然として低いままである。また、ミクロ的にみて地場企業はイ
ノベーションに取り組む姿勢が弱く、技術力とブランド力は十分に強化されていない。
表 1 に示されているのは、ブランドバリューが大きい中国企業上位 15 社である(2011
22
JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
年)
。そのうち 13 社は国有企業であり、市場を独占・寡占する国有通信会社と国有金融機
関が大きなウェイトを占めている(なお、一般的には企業のブランドバリューは株価や時
価総額で算出される企業価値から投下資本を引いた無形価値が基準になるといわれている。
しかし、中国企業の場合、企業の財務情報が十分に開示されていないため、資本総額を用
いることが多いようである。
)
。
問題は、表 1 にランクインしている国有企業は独占による巨額の利益を得ているため、
真の意味でのブランドバリューを表しているとは言い難いという点である。なによりも、
自動車やエレクトロニクスなど中国経済の支柱となるべき基幹産業がまったくランクイン
されていないことが、中国企業のブランド力の弱さを物語っている。
では、なぜ中国企業のブランド力は強化されないのだろうか。
本来、いかなる国のいかなる企業もブランド力強化を望んでいるはずである。なぜなら
ば、企業にとってブランド力の最大化は即利益の最大化を意味するからである。計画経済
の時代においては、国営企業の経営目的は必ずしも利益の最大化にはなかった。したがっ
て、当時の中国企業にとりブランド力は重要ではなかった。しかし、中国はすでに市場経
済制に移行しており、すべての中国企業にとりブランド力は諸外国の企業と同様、重要で
あるはずである。
しかし、これまでの 30 余年、中国経済の発展とは裏腹に、中国企業のブランド力はそ
れほど強化されてきていない。この点に関し、いくつかの問題点を指摘しておきたい。
まず、地場企業の技術は、自らのイノベーションによるものではなくそのほとんどが日
本企業など外国企業からの技術移転によるものである。地場企業は「研究・開発」
(R&D)
に十分に取り組んでおらず、中国発の技術が生まれていない。中国企業は技術のキャッチ
アップを急ぐあまり、イノベーションよりも外国企業から技術をコピーし、外国製品より
も安い類似品を製造することに終始し、その結果、それなりの利益を得ることができた。
また、中国では、著作権など知的財産権が十分に保護されていないため、地場企業にと
り「研究・開発」に取り組むインセンティブが強く働かない。
さらに、中国では、大型国有企業の市場独占または寡占が認められているため、市場を
独占・寡占する国有企業は「研究・開発」に取り組もうとせず、他方、比較的不利な立場
に立たされている民営の地場企業は「研究・開発」に取り組もうとしても資金調達が難し
いといった厳しい市場環境故に、技術力がなかなか強化されない。
近年、中国政府は毎日のように「品牌戦略」
(ブランド戦略)の推進を声高に宣言するが、
残念ながら政府主導のブランド戦略は企業のブランド強化の努力につながっていない。そ
の結果、中国経済を支える柱を安い労働力から強いブランド力にシフトさせていかなけれ
ばならないにも拘らず、その目標を実現する目途は立っていない。
3.中国における日本企業の競争力
中国に対しては、約 25,000 社の日本企業が直接投資を行っている。中国は 2001 年に世
界貿易機関(WTO)に加盟した。WTO 加盟以前に中国に進出した日本企業はそのほとん
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
どが製造業であったが、WTO 加盟後は、中国の市場開放を受け、物流や流通などのサー
ビス業も徐々に中国に進出するようになってきている。これは中国の市場開放の更なる進
展を見込んで、中国で製品を販売しようとする企業が徐々に増えているためである。しか
し、全体的にみて、中国に進出している日本企業の大半は依然として製造業である。
表 2 中国市場における乗用車メーカーの販売台数と市場シェア(2012 年 1-9 月)
注:乗用車には、セダン、MPV、SUV と「微型車」が含まれる。
資料:中国自動車工業会
グローバルビジネスを展開する日本企業にとって、中国の位置づけは、単なる製造セン
ターから製造センタープラス消費市場へと変化している。かつて、日本企業は、中国を製
造センターと位置付け、中国での販売はごくわずかだった。しかし今では、日本にとって
中国は最大の輸出相手国に成長し、最も魅力的な市場となっている。
しかし、
中国における日本企業の販売戦略は必ずしも大成功を収めているわけではない。
表 2 に示したのは、2012 年 1-9 月のメーカー別の自動車販売実績と市場シェアである。
10 月以降、日本メーカーの販売は中国で起きた反日デモの影響を受けて大きく落ち込んだ
ものの、それ以前の販売実績が貢献した結果、市場シェアは、トヨタ 7.1%、ルノー・日
産 6.5%、
ホンダ 4.4%であった。
しかし、ドイツの VW の 20.8%、
アメリカの GM の 10.1%、
韓国の現代自動車の 9.8%に比べると、日本メーカーのこの数字は、本来の技術力と日本
車の品質からすれば、かなり不本意なものだったといえる。
振り返れば、1980 年代、日本企業のブランドは中国のみならず、世界市場をほぼ完全に
制覇していた。当時、中国の一定程度裕福な家庭の若者にとっては、日本製のカラーテレ
ビ、冷蔵庫、洗濯機が、結婚の条件となる「三種の神器」であった。一般家庭はまだ車を
保有していなかったが、
「車到山前必有路、有路必有豊田車」
(車で山の近くまで行けば、
必ず道が現れる。道があれば、必ずトヨタの車が走っている)とのテレビコマーシャルは
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
老若男女、全国津々浦々にまで浸透していた。これこそ、日本企業と日本製品のブランド
力なのである。
しかし、現在、中国市場において、日本企業は技術力でこそ依然として比較優位を誇示
しているものの、市場競争力はほぼ全面的に後退している。表 2 に示すとおり、日本メー
カーは劣勢に立たされている。
「三種の神器」だった日本製のカラーテレビ、冷蔵庫、洗濯
機は、とっくの昔に韓国メーカーと地場メーカーにとって代わられてしまった。スマート
フォンを含む携帯電話の分野でも、日系メーカーはほぼ完全に撤退を余儀なくされた。現
在、日本製品で中国市場を支配しているのはデジタルカメラだけといった状況である。
繰り返しになるが、こうした状況においても、日本企業の技術力が大きく低下している
わけではない。世界で最も多く販売されているスマートフォンである iPhone のキーコン
ポーネント(コアな部品)の多くは日本企業が作ったものである。2011 年の東日本大震災
と津波の影響により、日本の部品メーカーの出荷が一時的に滞ったために、世界のエレク
トロニクス産業などのサプライチェーンが寸断されたことは記憶に新しい。
4.日本企業のブランド力と日本企業のブランド戦略
では、技術競争力の強い日本企業のブランド力はなぜ低下したのだろうか。
この設問に答える前に、まず、表 3 をご覧頂きたい。グローバル企業のなかでブランド
バリューが大きいトップ 15 社のうち、日本企業でランクインしているのは、10 位のトヨ
タだけである。ちなみに、トップ 10 社のうち、8 社は米系企業である。
表 3 世界トップブランド 15(2012 年)
資料:Interbrand
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
そもそも、企業のブランドというのはどのようなものなのだろうか。企業のブランド
とは、簡単にいえば、その製品やサービスに含まれているバリュー(価値)
、カルチャー(文
化)
、ステータス(存在感)からなる無形の価値の合計である。1980 年代の中国では、日
本製品は中国人消費者の憧れの的だった。時計でいえば、カシオの電子時計だった。オー
ディオでいえば、サンヨーのダブルデッキのラジカセだった。冷蔵庫は三菱電機のツード
アの冷蔵庫が一番の人気だった。
1990 年代に入ってから、アメリカとヨーロッパの企業が中国に進出するようになった。
同時に、中国と韓国の国交樹立を受け、韓国企業が大挙して中国に進出した。そのなかで、
少しずつ日本企業が追いやられていった。ただし、日本企業の敗北は中国市場におけるそ
れというよりもむしろ日本を含むグローバル市場における敗北だった。
ここで日本国内の経済を振り返ると、まず、1990 年代初めに、バブル経済が崩壊した。
そして、1990 年代半ばに入ると、日本円は急激に切り上がった。バブルの崩壊は内需の縮
小を意味するものであり、急激な円高は日本の輸出製造業の輸出競争力の低下を予兆する
ものであった。こうしたことを背景に、日本企業は海外に工場を移転すると同時に、価格
競争力を強化するために、コストカット経営を行った。具体的には、人件費、研究費、広
告費などを大幅に削減するようになった。1990 年代末以降、IT ブームをきっかけに、日
本の製造業は部品調達の系列を打破し、アメリカ企業に倣って、モジュール化した部品調
達にシフトした。
しかし、このコストカットの経営こそが日本企業の原動力の低下をもたらした。なぜな
らば、日本企業が取り組んだコストカットは人件費、研究費、広告費を含めた一律カット
であったため、従業員のモチベーションの低下をもたらしたと同時に、ブランド力の低下
をももたらしたからである。本来、企業経営においてコストはカットするものであるべき
ではなく、あくまでも最適化するものでなければならない。コストカット経営の弊害はマ
クロ的にはデフレを助長するものであり、ミクロ的には企業のブランド競争力を落として
しまうからである。
次に、製造業を例にとっていえば、そのセ
ールスポイントは未だに製品の性能であるこ
とが多い。しかし、どんなに技術的に優れて
いる日本企業でも、製品の性能のみをもって
競争相手の韓国企業などと差別化を図ること
は難しい。時計を例に挙げると、日本の時計
メーカーは電波や GPS などの技術を駆使し
て世界一の正確な時計を作っているが、消
日本製時計の世界一の正確さは、中国の消費者に
費者にその正確さが十分に認知されない。
は十分に認知されていない。
(写真:鄭州市内)
そもそも今は時計だらけの世界になってお
り、都会では至る所に時計がある。人々にとり、腕時計を身に付けるのは時間を知るため
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
というよりも、アクセサリーとしての役割の方が重要となっている。要するに、製品の性
能は必要条件ではあるが十分条件ではないのである。日本の製造業と類似した性能を韓国
企業も中国企業も供給できるようになっている現在、日本企業がキャッチアップしてくる
韓国企業と中国企業との差別化を図るためには、性能を強化するだけでなくブランド力を
強化することが不可欠である。
そして、性能の強化のみではブランド力の強化は図れない。
日本企業のブランド力が強化されない今一つの課題は、設計を大切にするがデザインを
粗末にしているように見えるという点である。技術者による設計では、性能が生まれるが
カルチャーが生まれにくい。デザインは技術者の仕事ではなく、画家、ミュージシャン、
ファッションデザイナーなどのアーティストに加え、哲学者や文学者などの仕事である。
日本企業がデザイン軽視のモノづくりを行っているとすれば、それでは、スマートな製品
が生まれにくくブランド力は強化されない。
そして、ブランド力が弱いままでは、性能も次第に低下する恐れがある。日本企業にと
り、
同じような性能の備わった製品を供給する韓国企業と中国企業は脅威となりつつある。
そこで、製品の性能だけでは差別化を図ることができなくなった日本企業は、利益率を低
下させ、研究・開発費までも削減した結果、新たな性能を研究する余力がなくなってしま
った。これこそが日本企業が陥っている負のスパイラルである。
上記分析からも、日本企業のやるべきことは既に明白である。まず、コストカットの経
営を一刻も早く改め、コスト最適化の経営にシフトすることである。性能を売り物にする
セールスに代えてブランドバリューを売り物にするセールスを行うべきである。モノづく
りにおいて設計とデザインを同等に大切にしていくことが重要である。
中国経済は二桁成長の時代を終え、今後は 8%前後の成長を続けることが予想される。
従って、中国市場に参入しているすべての企業は、しのぎを削って競争に挑まなければ生
き残ることはできない。そのときのカギはいうまでもなく、ブランド力の強化である。
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
表 4 日本企業トップブランド 10(2012 年)
百万ドル
資料:Interbrand
筆者紹介:
1963 年中国南京市生まれ。1994 年名古屋大学大学院経済学修士課程修了。1998 年より、
富士通総研経済研究所 主任研究員を経て現職。専門は開発金融、中国経済論。
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
時事問題研究-直接投資の潮流変化と資本取引管理の自由化
国際協力銀行
北京首席駐在員 菊池洋
今回の「JBIC 中国レポート」で新公布法令解説 3 として取り上げた「直接投資に係る外
貨管理政策をより一層改善し、及び調整することに関する通知」
(匯発[2012]59 号)は、受
け入れ直接投資の一部手続の簡素化に資するものである。日本を中心とする外国からの直
接投資は、技術移転と同時に外貨の流入と言う形で中国経済の発展に大きな役割を果たし
てきたが、今、直接投資の受け入れ(Foreign Direct Investment:FDI)と進出(Outbound
Direct Investment:ODI)の双方において、大きな動きがある。
1. FDI と ODI の逆転
2012 年に中国が受け入れた FDI 額は 1,117 億ドルに留まり、前年比▲3.7%の減少となっ
た。一方で、中国語で「走出去」と言う海外に出て行く方の投資(ODI)が近年目覚ましく
増加している。2012 年 12 月の ODI は過去最高の 147 億ドルに達し、117 億ドルに留まっ
た FDI を初めて上回った。即ち、単月だけのことではあるが、中国が直接投資の受け入れ
側から出し手側に変わったのである。2012 年通年の ODI は 777 億ドルなので、基本的に
は依然ネットの海外投資受け入れ国ではあるものの、前年比では 28.6%の大幅な伸び率を
記録した。そう遠くない将来、両者の関係が通年で逆転する可能性がある。
輸出も、欧州経済の影響を受けた側面はあるが、2012 年は前年比伸び率が僅か 7.9%増に
留まり、目標の二桁成長を下回った。これは、直接投資の受入れと、それにより向上した
生産能力で輸出を伸ばすという、成長・外貨獲得のための両輪が転換期を迎えている状況
を示している。
2. 対中 FDI の問題点
日本は対中 FDI で香港に次ぐ第 2 位に位置し、尖閣諸島問題と反日デモがあった 2012 年
でも、通年の投資額が 73.8 億ドルで中国の受入総額の 6.6%を占めた。国際協力銀行が日
本の製造業企業を対象に毎年実施する「海外事業展開調査」では、2012 年 11 月時点で集計
した回答でも、中国が引き続き中期的な有望国の第 1 位を維持した。しかし同時に多くの
企業は、中国事業への取り組みの見直しや慎重な対応が必要と感じ、他国・地域へのリス
ク分散の重要性を認識している。実際に投資を実行する際に必要となる手続きに関しても、
中国政府が資本取引に伴う外貨を厳格に管理してきたため、口座開設から資金使途の管理、
為替取引等の手続きに関して、いくつもの政府担当部局への登録や承認が必要とされ、ま
たその判断に関して窓口担当者毎に対応が異なることや、判断が口頭でしか伝えられない
などの問題もある。これらの問題への対応として、中国で事業を行う日本企業の多くが会
員となっている中国日本商会は、
「中国経済と日本企業 2012 年白書」での建議を通じ、状
況の改善を要請するなどの努力をしている。
今回紹介した通知に基づき 12 月 17 日から施工された新しい手続きでは、外貨管理局が所
掌する一部の手続きが、事前の承認から登録へと変更された。借入金の資本金への転換(デ
ット・エクイティ・スワップ)に係る手続も一部変更されており、所謂「投注差」と言わ
れる外商投資企業の対外借入枠を増やす手続きが容易になることで、進出企業の資金調達
手段が多様化することが期待される。
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JBIC 中国レポート 2012 年 9・10 月号
3. 対中 FDI の新しい動き
この様な状況の中で、深圳経済特区の中に作られた前海サービス特区が注目に値する。人
口僅か数万人の漁村が数十年を経て世界的にも有数の製造業集積地となった深圳で、今、
サービス産業に特化した特区の建設が進んでいる。正式名称は「前海深圳・香港現代サー
ビス業合作区」
。特区の中の特区と
言われ、次期国家主席への就任が
確実となっている習近平共産党総
書記が、2012 年 11 月の党大会終
了後に最初の地方視察として訪問
したことで、一躍注目を集めるこ
とになった。1992 年に深圳を訪れ
た当時の最高実力者鄧小平氏は、
南巡講和によって改革開放路線を
後戻りできないものとし、その後
の中国の目覚しい発展の礎を築い
た。習近平総書記が同じように深
習近平総書記が記念撮影した石碑。ここだけ舗装されていた。
圳・広州を視察し、前海の特区を
訪問したことは、改革開放への強い決意を示したもので、今後の中国の経済発展の潜在性
がサービス産業にあり、そのために外国からの資金流入を有効活用していく姿勢を見て取
ることができる。
即ち、前海特区は中国の今後の発展の方向性に係る一つの新しい実験場と言える。これま
で中国の受け入れ直接投資の中心は製造業であったが、リーマンショック後の 4 兆元経済
対策の影響もあり、投資の GDP に占める比率(投資率)が 50%近い水準にまで到達。投
資を梃子にした経済発展パターンの持続が難しくなる中で、中国政府はサービス産業の育
成に力を入れている。製造業中心の従来の発展パターンの象徴であった深圳に、サービス
業に特化した特区を作る取り組みは、過去 30 年間の改革・開放路線を堅持しつつも、その
方向性が変化したことを印象付ける。
4. 金融自由化と歩調を合わせられるか
加えて金融面において、実需原則で厳格に管理してきた資本取引の自由化を進めることで、
サービス産業の発展を目指す政府の姿勢が前海特区の開発方針に現われている。中国人民
銀行深圳市中心支行が 2012 年 12 月 27 日付で公布した「前海クロスボーダー人民元貸付管
理暫定弁法」は、香港人民元のクロスボーダー貸付に係る期間と金利の自由な設定を認め
ている(第 8 条、第 9 条)
。中国国内でも、基準金利からの一定幅の乖離を認めるようにな
るなど、人民元金利の自由化に向けた動きは進んでいるが、本格的な自由化に向けたロー
ドマップは未だに示されていない。その意味では、前海特区での取り組みは一定の進展と
評価することができる。しかし、同弁法は同時に、クロスボーダー人民元は前海の建設及
び発展に用いなければならないと規定している(第 7 条)
。「建設及び発展」の解釈は不明
な点もあるが、前海特区の面積は 15 平方㌔にしか過ぎない。前海特区が、中国大陸内に香
港人民元が流入するルートになるとの期待は、取り敢えず外れることになった。
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JBIC 中国レポート 2012 年 11・12 月号
習近平総書記が訪問してから 1 カ月後の 2013 年 1 月初旬に訪れた際は、記念碑が一つ立
っているだけの荒地で、展示館さえ完成しておらず、運転席に誰もいないショベルカーが
静かに止まっていた。30 年前の深圳や 20 年前の上海浦東地区で誰も現在の発展を想像でき
なかったことを思えば、前海特
区も今後大きく変貌する可能性
はある。その姿を見る時には、
中国が経済の構造転換と言う大
きな課題を克服した象徴となっ
ているであろう。弁法公布後約 1
カ月が経過した 1 月下旬、香港
で人民元業務を行う銀行 15 行が、
合計 26 のプロジェクトについて
総額 20 億人民元の融資を前海特
区に進出した企業に対して行っ
たと報道された。改革・開放継
続に対する習近平体制の揺ぎ無
荒地に無人のショベルカー。奥は深圳のマンション群。
い姿勢が試される。
(了)
ご照会先
株式会社国際協力銀行 北京代表処
中華人民共和国 北京市建国門外大街 2 号 銀泰中心 C 座
Tel: +86-10-6505-8989 Fax:+86-10-6505-3829
2102 号
本レポートは中国に関する概略的情報を株式会社国際協力銀行
北京代表処が皆様に
無償ベースにて提供するものであり、当代表処は情報利用者に対する如何なる法的責任
を有するものではありませんことをご了承下さい。
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