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報告書 - 森林総合研究所

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報告書 - 森林総合研究所
「森林炭素モニタリング手法の研究・開発を通した、REDD プラスへの貢献」
清野 嘉之(森林総合研究所 REDD 研究開発センター)
私たちは REDD で何をしようとしているのだろうか。REDD のルールはまだ決まってい
ないが、恐らく過去の炭素蓄積の変化を推定する必要があるだろう。それに基づいて、も
し REDD の活動がなければ、今後どのような排出があるのかを予測する。また、実際に
REDD の活動を通して、起こった排出をモニタリングしていき、REDD の効果をできるだ
け大きくしたいと考えている。
そもそも過去に森林の炭素蓄積が減ってきた一番大きな理由が食料生産や産業原料の生
産であったことを考えると、私たちが REDD でやろうとしていることは単なる森林保全で
なく、森林という土地利用と食料生産や産業原料生産の土地利用のバランスをいかに変え
ていくかという取組だ。従って、森林だけの努力ではなく、食料生産などの努力もあって
初めて実現するものだと考えている。
REDD 研究開発センターでは三つの国を選び、それぞれの政府機関や研究所と共同で研
究を進めている。カンボジアでは、熱帯季節林から農地やゴム林への転換が進んでいる。
マレーシアでは、森林がゴム林やオイルパーム畑へ転換されてきた。
パラグアイでは農地や牧場への転換が進んでいる。
三つの国でのケーススタディを踏まえ、現在、REDD プラスのためのガイドブックを作
成中である。炭素蓄積やその変化を推定するフローを構成している個別の技術について、
ガイドブックで解説していく。日本語版と英語版を作成し、近々出版する予定である。今
年作るのはドラフト版で、内容的に十分とは言えないが、毎年バージョンアップしていく
予定である。
森林の炭素蓄積量の変化を推定する基本式は、森林炭素蓄積量(Forest carbon stock)=
Σ(森林面積×面積当たり平均炭素蓄積量)である。森林を分類して、分類された単位ご
とにこの計算を行って、足し上げていく。青字の部分が森林を分類して面積を測る、主に
衛星リモートセンシングでデータを得ていく部分だ。緑色の字の部分は地上調査を中心に
データを得ていく部分である。
研究上の課題は、森林の分類をいかにオートマティックに行うかということだ。これま
では人間がマニュアルで判読していくという手法を用いてきて、実績も上がっているが、
これをいかに自動化して客観的なものにしていくかが一つの研究課題だ。地上に関しては
精度の向上、調べる手法の簡素化も研究課題である。
衛星リモートセンシングには、季節性の問題がある。図の中央にある青い湖のすぐ上の
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森林を見ると、10 月、11 月、12 月と進んでいくに従って色が消えていくが、これは季節
的に葉の量が変化する落葉林だ。このような森林を対象にして単純な自動分類をすると、
森林なのか非森林なのか、誤った判読をしてしまう。
これに対して、乾期に葉の量が減り雨季に葉の量が回復するという季節変化のパターン
をモデル化して、それを組み入れたアルゴリズムを作ることによって間違いを減らすとい
う結果を得ている。左側の図は単純な分類によるもので、右側は季節変化をモデル化する
ことによって誤りを減らしている例である。
熱帯雨林では森林の季節変化はあまりないのだが、1 年を通して雲が多いという問題が
ある。雲がかかっていない部分だけの衛星画像を取り出して組み合わせ、雲の少ない画像
を作るという方法も自動化を目指している。実際には、雲のない画像がそろわない場合に
はどうにもならないのだが、それが満たされればこの方法を使える。
カンボジアでは国レベルの森林の炭素蓄積を推定した。深緑色が常緑林、黄色が
deciduous forest(落葉樹林)
、黄緑色が二つの林の中間タイプで semi-evergreen forest、白丸
が permanent sampling plot(PSP)の位置を表している。カンボジアの森林局は、全国に 100
カ所の PSP をつくっている。この森林分布図から面積を計算し、PSP から森林の炭素蓄積
を計算して、両者を掛け合わせた。
その結果、500 万 ha 以上ある semi-evergreen forest を含めた evergreen forest(常緑林)の
平均炭素蓄積は 163 Mg/ha、
469 万 ha の落葉林は 56 Mg/ha あり、
これらを掛け合わせて 1088
Tg がこの国の森林に存在することが分かった。この計算を繰り返すことで、森林の蓄積の
変化を明らかにすることができる。
この平均炭素蓄積量を求めるのに必要な PSP の数を推定した。必要数は炭素蓄積のばら
つきの大きさや、deviation(偏差)の大きさ、期待する精度にもよる。5%以上の precision
(精密)
、95%の confidence level(信頼水準)という条件で計算したところ、336 プロット
が必要という結果になった。この期待精度は、多くの developed country がその国の National
Forest Inventory を設計するときに目安としている精度なので、336 個のプロットで推計し
た結果はほかの国にとってもある程度納得のいく数字だろう。
ただ、森林減少が進む国では PSP の森林が破壊されたり、ほかの土地利用に転換される
ことがしばしば起こる。そのことを考えると、PSP の数にはある程度の余裕を持たせた方
がよい。必要な数も、樹木が切られたり成長したりすることでも変化するので、必要なプ
ロット数もモニタリングしていき、必要に応じて追加する。
アロメトリ式とは、樹木の直径のような簡単な数字からその木のバイオマスを推定する
式である。アロメトリ式には、熱帯の樹木全般に通用するジェネリックな汎用式既に複数
あるが、特定の森林に適用するときには、その汎用式が当てはまるかどうかを検証する必
要がある。レインフォレストやトロピカル・モンスーン・フォレストなどといった特定の
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森林を、私は biome と呼んでいる。biome ごとのアロメトリ式がどれだけあるのか、ない
のかという現状を表にまとめた。例えばレインフォレストでは既に式があるが、モンスー
ンフォレストではいくらもないか、全くないという違いがある。
私たちは、重要な biome でありながらアロメトリ式がまだ作られていないものを二つ選
び、その作成に取り組んでいる。一つが落葉林、もう一つが peat swamp forest である。
カンボジアの森林局と共同でアロメトリ式を作るための破壊調査を行った。樹木の根も
掘り起こした。この作業をマニュアルにまとめ、カンボジア語や、同様な作業を行う予定
のパラグアイ用にスペイン語のバージョンも現在準備している。
カンボジアの落葉林でアロメトリ式を使った結果が得られた。既にある汎用式を検証し
てみたところ、どの式も 2 割ぐらいのオーバーエスティメートをしていることが分かった。
従って、もし汎用式しか手に入らないのであれば、汎用式を使うほかないが、それ以上に
精度の高い式が得られるのであれば、そちらを選ぶべきである。
落葉林の式はカンボジアだけで通用するものではなく、ベトナムやタイ、ラオス、ミャ
ンマーというインドシナの広い地域で当てはめる式になる可能性がある。そうしようと、
現在ラオスの人などと連絡を取りながら分析を進めている。
biome によってモニタリングするときの重要な炭素プールや排出が変わってくる。私た
ちの研究成果によると、カンボジアの季節林が減少・劣化していくときに排出される総排
出量のうち、89%がバイオマスから出てきている。従って、熱帯季節林ではバイオマスが
最重要のモニタリングターゲットである。それに対してインドネシアの peat swamp forest
では、ピートからの排出が 86%を占めており、ピートをモニタリングすることが最も重要
だと分かった。このように、重要な対象をできるだけ正確にモニタリングすることが全体
の推定精度の向上に役立つ。
多くの途上国では、国レベルで森林の炭素蓄積がモニタリングされていることはない。
しかし、広い地域に既に PSP が置かれている場合は、データを使って衛星リモートセンシ
ングで森林の炭素をモニタリングできる。それをカンボジアで試みたところ、一定の推定
値を得ることができた。これを繰り返せば炭素蓄積のトレンドが分かる。カンボジアのこ
の計算例は一つのプロトタイプと考えている。国によっていろいろ条件は違うと思うが、
条件に応じて計算ができるだろう。繰り返しになるが、技術的課題はリモートセンシング
の自動分類、自動化である。地上調査については、正確でシンプリファイされた方法が課
題である。森林総合研究所の技術解説書には、森林の炭素の計測とできるだけ新しいモニ
タリングの知識を盛り込んでいきたい。
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