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1/1冊(16.9MB) - 経済産業省・資源エネルギー庁

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1/1冊(16.9MB) - 経済産業省・資源エネルギー庁
海域地質環境調査技術高度化開発
成
果
報
告
書
平成 25 年 6 月
独立行政法人
産業技術総合研究所
海域地質環境調査技術高度化開発
目
次
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1-1 研究の背景
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
1-2 研究の目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2
第1章 はじめに
1-3 研究の全体計画
1-4 本年度の研究内容
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
第2章 沿岸域地質構造評価技術の開発
2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
5
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2-1 浅海域における反射法探査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2-2 調査海域選定のための検討
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
9
2-3 浅海域における反射法データ解析手法の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
2-4 反射法データ取得仕様の検討
32
はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
第3章 海上掘削調査技術の開発
3-1 緒言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-2 既往研究
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-3 水理地質構造モデルの構築
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3-4 地下水流動解析による海底下地下水流動性評価
46
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
90
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
127
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
149
3-5 海底下地下水流動の評価予測
3-6 沿岸域滞留性地下水領域の提示
3-7 結論
45
第4章 おわりに
4-1 おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
付 録
154
153
155
1 本報告書で使用した単位一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
156
2 評価委員会報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
158
第1章
は
1
じ
め
に
1-1 研究の背景
平成 17 年 8 月,経済産業省資源エネルギー庁は,地層処分基盤研究調整会議を招集し
た。核燃料サイクル開発機構(現,日本原子力研究開発機構),原子力環境整備促進・資金
管理センター,電力中央研究所,産業創造研究所,放射線医学総合研究所に加えて産業技
術総合研究所が構成機関として名を連ね,第 2 次取りまとめ以降の処分研究の進捗状況に
ついて情報交換等をおこない,基盤研究開発の計画的かつ効率的な推進を目指した。傘下
に組織された地質環境ワーキングでは,わが国特有の地質環境に関する議論が行われ,堆
積岩地域と結晶質岩地域の基礎研究に関しては精力的な研究開発が実施されているものの,
沿岸域というカテゴリーに関しては充分な知見が集積されているとはいえないという結論
に達した。沿岸域の地質環境については,内陸地域に比べて調査の実績が少なく,海水の
影響や塩淡境界の分布を考慮する必要があるため,研究開発の余地が大きいと考えられる
ことが理由の一つである。地下水流動に限れば,内陸域と同様の水理地質構造(断層など
の不連続構造,低透水性構造)や動水勾配などに加えて,塩淡境界や海底湧水を把握する
ための調査技術の整備,海水と淡水との密度勾配による流動や移流場から拡散場への移行,
海水準変動の影響などに着目した解析技術の開発等が重要とされており,物理探査につい
ても,作業効率や解析技術などの改良・高度化が図られるべきとされている。これを受け,
資源エネルギー庁は平成 18 年 3 月の地層処分基盤研究開発報告会において,沿岸域に関
する調査技術高度化の必要性を強調している。
しかし,沿岸域(とくに浅海域)では,これまでは物理探査などの調査が困難であるこ
とから断層等の地質構造調査が十分になされてこなかった。沿岸域に潜在する断層は,地
質学的な安定性を欠くばかりでなく,深層地下水の流路として核種の選択的な移行経路に
なる可能性がある。沿岸域が処分場の候補地となる可能性がある以上,沿岸域に係る調査
法や既存データの再解析法の適用性や信頼性を向上させる必要があると考えた。そのよう
な背景の中,本委託事業「海域地質環境調査技術高度化開発」は,原子力発電環境整備機
構(NUMO)の強い要請を受け,平成 19 年度より開始している「沿岸域塩淡境界・断層
評価技術高度化開発」の発展的な研究課題として,前述の全体計画のうち「地質環境特性
調査評価技術」における要素技術の開発・改良・高度化研究の一つとして位置付けられた。
1-2 研究の目的
我が国においては,これまでの原子力エネルギー利用に伴い既に放射性廃棄物が発生し
ており,この処理処分対策を着実に進める必要がある。高 レ ベ ル 放 射 性 廃 棄 物 等 の 地
層 処 分 に つ い て は ,「 原 子 力 政 策 大 綱 」 等 に 沿 っ て , 国 , 研 究 開 発 機 関 等 が ,
それぞれの役割分担を踏まえつつ,密接な連携の下で,基盤研究開発を着実
に進めていくこととしている。
2
高 レ ベ ル 放 射 性 廃 棄 物 等 の 地 層 処 分 に お い て は ,天 然 の 岩 盤( 天 然 バ リ ア )
と人工的なバリア(人工バリア)から構築される多重バリアシステムによっ
て長期的な安全確保がなされる。この処分システムの成立性や安全性に係る
信頼性を一層高めていくためには,天然バリアである深部地質環境の状況把
握と将来変化に係る調査評価技術の信頼性向上が重要である。これらを踏ま
え,本委託事業では,特に沿岸域領域での調査評価技術に着目して,沿岸域
海底下の特徴的な地質環境や地下水環境の調査評価手法の高度化開発を行う
ことを目的とする。
1-3 研究の全体計画
高レベル放射性廃棄物等の地層処分において,処分システムの成立性や安
全性を評価するうえで,海底下深部の地質構造や地下水等の状況を,海上ボ
ーリング調査によって把握するとともに,その長期的な変遷を評価する必要
がある。本委託事業では,特に,ボーリング調査を用いた評価技術を対象と
して,地下水の長期的な流動解析を含めた要素技術の高度化開発を行い,沿
岸域海底下の地質環境の総合評価手法を構築する。
具体的には,これまでの国内外における関連研究開発の成果,また,資源
エネルギー庁の関連委託事業で開発してきた手法や要素技術を活用しつつ,
(1)沿岸域地質構造評価技術の開発
(2)海上掘削調査技術の開発
のそれぞれについて,既往の知見等に基づく課題整理と計画策定を踏まえ,
要素技術の開発・改良,実際の沿岸域フィールドにおける体系的な適用試験
と総合評価を実施し,沿岸域での一連の地上からの調査技術と解析評価手法
として体系化を図る。さらに,将来的に処分事業を開始した場合に地下水が
移動する範囲等を的確に評価し,将来的な安全研究にも資する。
1-4 本年度の研究内容
(1)沿岸域地質構造評価技術の開発
本開発項目では,物理探査技術を駆使して,沿岸域(海域から陸域にわた
る領域)の連続的な水理地質評価を念頭に,地質構造を3次元的に調査評価
す る 技 術 を 開 発 す る 。こ のため,電磁探査や 地 震 探 査 等 に よ る 統 合 解 析 手 法 を
体系化する沿岸域地質構造評価技術の開発においては,3次元地震探査を行
った場合を想定して,沿岸浅海域における3次元海底下水理地質モデルを構
築するための最適探査計画を解析的に求める。これにより,海底地形と地質
構造,ひいては(潜在)断層との関係を明らかにする。
3
(2)海上掘削調査技術の開発
本開発項目では,既往の関連情報も踏まえ,水理地質構造を評価するため
の掘削方法,地質・地下水試料採取方法,海底下地下水環境モデルの構築方
法に関する体系的な研究を実施し,他の沿岸域研究課題による成果も活用し
て,既往の研究成果や情報を踏まえた上で,海上ボーリング調査対象となる
沿 岸 域 の 海 底 下 水 理 地 質 モ デ ル を 構 築 し ,地 下 水 流 動 解 析 を 実 施 す る こ と で ,
掘削地周辺の地下水環境の推定や掘削適地の評価を行う。
表 1-1 研究の全体計画(過年度は実績)
開発項目
地質構
海域物理探査
造評価
技術
H23 年度
研究題目
H24 年度
H24 以降の研究
地震探査最適化
計画・立案
解析
モデリング
H25 年度
H26 年度
地震探査
沿岸域地質構造
とりまとめ
モデリング
海上掘
海上掘削
削調査
技術
市場調査
海上掘削(準備)
海上掘削
掘削環境研究
地下水流動解析
沿岸海底下地下水
沿岸海底下水理
海底下広域地下水
流動解析
地質モデリング
流動解析
とりまとめ
現段階における調査研究の内容と課題:
・
「沿岸域塩淡境界・断層評価技術高度化開発」において,沿岸海底下には淡水領域が存在
することが海域の電磁探査により観測された。この淡水領域の成因は直下の地下水の安定
性を大きく左右するものであり,処分場建設に大きな影響を与える。従って,この領域の
地下水環境を調査することが求められる。
・浅海域はこれまで,物理探査等の調査が難しく断層を含む地質構造を判断することが困
難であった。地震探査や電磁探査を駆使した物理探査技術・解析技術の高精度化により海
陸接合を図る必要がある。
・海底下のボーリングにおいて,塩水の侵入を排除して浅深度のコアリングを実施する技
術や地下水サンプリングを実施する手法を確立し,同時に掘削中のモニタリング手法につ
いても構築する必要がある。
4
第2章
沿岸域地質構造評価技術の開発
5
2
はじめに
沿岸域海底下の特徴的な地質環境の調査評価手法の高度化開発を行うことを目的として,
沿岸域における反射法物理探査技術に関する研究を実施した。海底下の地質構造を把握し,
その長期的な変遷を評価するために必要な反射法物理探査データ解析技術の検討を行うた
めにふさわしい調査海域についての検討を行い,当該地域の地質モデルを三次元弾性体グ
リッドモデルという形で作成した。作成した三次元弾性体グリッドモデルを用いた数値シ
ミュレーションを実施することにより,当該海域で実施予定の反射法物理探査を効果的に
実施するために必要な探査仕様の検討を行った。
2-1 浅海域における反射法探査の概要
海域での反射法探査においては,通常圧縮空気を海中で放出する,エアガンと呼ばれる
音波発震装置(震源)と,数 km~十数 km にわたる長大なケーブルにハイドロフォンと
いう音圧を検知するセンサーをとりつけたストリーマケーブルを曳航する受振システムと
を用いる調査を実施する場合が多い。しかしながら,そのような大規模なシステムは沿岸
の浅海域で使用するには不向きである。そのような調査においては,同一測線を何度か往
復しながらデータを取得することが通常行われるが,長大なストリーマケーブルを牽引し
た調査船は,
回頭して同じ測線に戻るための回転半径が数 km~十数 km 必要であるため,
沿岸域に側線を設置することが困難である。また,わが国の沿岸域のように船舶が密に航
行し,盛んに漁業活動が行われている海域においては,そのような長大なケーブルを曳航
しながら他の船舶や漁具を避けて調査することは非常に困難である。
このような沿岸域で可能な反射法物理探査データ取得法として,海底敷設型ケーブル
(OBC)を利用する方法(図 2-1-1,図 2-1-2)および短いストリーマケーブルを受振シス
テムとして用いる方法(図 2-1-3)をあげる事ができる。後者は二船式反射法物理探査と
呼ばれる(鶴ほか,2003)
。
OBC を用いたデータ取得では,受振器を海底に設置するため,高品質なデータが取得可
能である。また,各受振点で鉛直一成分および水平二成分の地震計でのデータを取得する
とともにハイドロフォンでのデータを取得するため,ゴースト反射波と呼ばれるコヒーレ
ントノイズの抑制処理を適用可能になる,S 波情報を利用した地下把握が可能になるなど
の利点をあげることができる。その一方,OBC は調査期間に渡って設置することとなるた
め,漁業活動の状況によっては,調査が困難になることが考えられる。さらに,OBC には
使用可能水深の限度があり,水深 200m 以浅の海域でのみデータ取得が可能である。
短いストリーマケーブルを用いた二船式反射法物理探査は,長大ストリーマケーブルを
曳航した場合に比較して,他の船舶や漁具を避けてのデータ取得に適しており,方向転換
の際の小回りも利くため,沿岸域での物理探査に向いている。しかし,発震船と受振船の
二船が測線を一度同時併行走向してデータ取得を行っても,ストリーマケーブル長が限ら
6
れているため,取得される発震点・受振点間の距離(オフセット)は限定されてしまう。
そのため,二船間の距離を変更し,同一測線上を複数回同時併行移動しながらデータ取得
をすることにより,全オフセットの記録を取得することが必要となる。この二船間の距離
変更の際,受振船側に搭載しているエアガンの位置を受振センサー間隔の 1/4,1/2 とずら
すことにより,ニアオフセット側では CMP(Common Mid Point)間隔を短くすることが
可能になる。CMP 間隔が短くなると構造に対する空間分解能があがる。すなわちこの手
法は,長大オフセットによる深部探査と空間的に細かいサンプリングによる浅部詳細調査
を両立したデータ取得方法と言うことができる。
図 2-1-1 OBC を用いた沿岸域二次元反射法物理探査の概念図
図 2-1-2 OBC を用いた沿岸域二次元反射法物理探査の概念図(俯瞰図)
7
図 2-1-3 二船式による沿岸域二次元反射法物理探査の概念図
8
2-2 調査海域選定のための検討
沿岸域海底下の地質構造を把握する反射法物理探査のデータ取得,データ処理・解析技
術の検討を行うのにふさわしいモデルフィールドを選定した。モデルフィールドに当たっ
ては,
1. 沿岸域での反射法によるイメージングがそのフィールドの地質構造把握のために
不可欠であること,
2. 地下構造がある程度複雑であり,技術開発に適していること,
3. 実際にデータ取得が可能であると予想されること,
4. その他のデータがある程度取得されており,技術の検証が可能であること,
などを考慮した。
以上の点を考慮して,静岡県の富士川河口域をモデルフィールドとして選定した。
2-2-1 モデルフィールドの地質セッティング
モデルフィールドとして選定した静岡県の富士川河口域はフィリピン海プレートとユー
ラシアプレートの境界域に相当し,フィリピン海プレートは,ユーラシアプレートの下に
沈み込んでいる。両者の境界部には逆断層が形成されており,調査対象地域である富士川
河口域では,入山瀬断層,入山断層,善福寺断層といった複数の活断層(富士川断層帯)
が存在する。また,駿河湾内には駿河トラフと呼ばれるトレンチ状の凹地があり,南海ト
ラフに連続する(図 2-2-1)
。
9
図 2-2-1 モデルフィールドの地質セッティングおよび概念図
10
2-2-2 モデルフィールド周辺の地史と基本層序
2-2-2-1 富士川断層帯西側
ユーラシアプレート側は,白亜系~第三系の四万十累層群とその上位に累重する倉真層
群,西郷層群,富士川層群,庵原層群などの新第三紀以降の地層からなる。四万十累層群
は四国海盆の形成(30Ma~15Ma)以前,太平洋プレートの沈み込みにより形成された付
加体堆積物からなり,褶曲構造が発達している。また,モデルフィールドの南西方に位置
する掛川地域や基礎試錐「相良」や「御前崎沖」においては四万十累層群の上位に,古第
三系の三倉層群や瀬戸川層群相当層が累重する。これらは,付加体上に形成された前弧海
盆堆積物であると考えられている(上田ほか,2007)
。
また,初期~中期中新世(20Ma-15Ma)の頃,日本海が拡大を開始した。掛川地域や
基礎試錐「相良」や「御前崎沖」においては,古第三系の上位に下部~中部中新統の倉真
層群・西郷層群が不整合で累重する。これらは,この時期に形成された前弧海盆堆積物と
考えられている。
また,日本海の拡大に伴い大地溝帯(フォッサマグナ)が形成された。三次元グリッド
モデル作成対象地域は大地溝帯の西端である糸魚川-静岡構造線の東側に位置しており,大
地溝帯の形成に伴い日本海から太平洋につながる堆積盆が形成された海域に位置する。後
期中新統富士川層群は,砂岩泥岩互層を主体とする地層からなる。金栗・天野(1995)は,
富士川層群の堆積場について検討し,トラフ充填堆積物であるとしている。また,この時
期,フィリピン海プレートの北上に伴い伊豆・小笠原弧が本州に衝突を開始し,プレート
境界である富士川断層帯の西側に分布する富士川層群をはじめとする一連の地層は,褶曲
を伴う変形を被った。
第四紀以降は,伊豆半島の衝突に伴い,ユーラシアプレート側が急速に隆起し,風化・
浸食に伴う大量の砕屑物が,富士川を通って駿河トラフに供給された。
2-2-2-2 富士川断層帯東側
フィリピン海プレート側は伊豆・小笠原弧の火山岩類を主体としている。伊豆小笠原弧
は,約 1000 万年前に日本列島に衝突を開始し,伊豆・小笠原弧上に位置する伊豆半島は,
約 100 万年前に日本列島に衝突したと考えられている。
伊豆・小笠原弧の衝突に伴い,モデルフィールドには,伊豆・小笠原弧の火成活動に伴
う火山性砕屑物が供給されるようになった。金栗・天野(1995)は富士川層群において,
伊豆・小笠原弧に近い東側ほど火山砕屑物の含有量が多くなる傾向があることを指摘して
いる。また,伊豆半島が本州に衝突した 100 万年前以降は,富士山や古富士山などの火山
が形成され,プレート境界である富士川断層帯より東側には厚い火山噴出物からなる地層
が堆積した。
11
2-2-3 三次元弾性体グリッドモデルの作成
三次元弾性体グリッドモデルを用いて数値実験を行う対象地域位置図を図 2-2-2 に示す。
富士川河口断層帯の走向位置については下川ほか(1996)
,地震調査研究推進本部(1998)
を参考とした。グリッドモデル作成領域の広域な構造は今まで述べてきた地質の情報を使
うこととし,浅部の詳細な地質モデルとして,越谷・丸井(2012)を用いた。
図 2-2-2 数値実験対象地域位置図
12
2-2-3-1 地層の構造形態
ユーラシアプレート側,フィリピン海プレート側の地質ユニット境界について,それぞ
れ以下のとおり設定し,モデル作成対象地域の概念図を作成した(図 2-2-3)
。
断層面については,入山瀬断層,善福寺断層,入山断層の断層面を地質モデルに反映す
ることとした。断層は全て逆断層で,断層面の走向および傾斜角度は,浅層地震探査断面
(静岡県, 1996)より設定した。また断層面における地層の変位は,入山瀬断層の活動度
が,約 7m/1000 年,入山断層が約 0.25m/1000 年であるとされる(Yamazaki, 1992; 杉山・
下川, 1982; 地震調査研究推進本部, 1998)ことから,入山瀬断層をプレート境界から派生
する主断層として設定した。
フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界付近には,トラフ状の凹地が形成さ
れ,これらは第四系の堆積物で埋積されているものと考えられる。ここでは,この凹地を
埋積した堆積物の地質分布について検討する。
まず,入山瀬断層の東側に沿って富士川が位置し,入山瀬断層はトラフ状の凹地の西端
部に相当する。入山瀬断層より西側(ユーラシアプレート側)のブロックに東側(フィリ
ピン海プレート側)のブロックが衝突し沈み込もうとするため,富士川付近が相対的に最
も低くなっている可能性がある。この場合,富士川の流路はもっぱら入山瀬断層沿いに固
定されることになる。入山瀬断層以東の駿河湾沿岸部は,伊豆半島を形成する火山岩の上
位に,第四紀以降,富士山等の火成活動によってもたらされた火山砕屑物が,富士山を頂
点として厚く堆積している。
これらのことから,プレート境界部に堆積した第四系砕屑物については,西側は富士川
起源の砕屑物の含有量が多く,東側ほど火山砕屑物の含有量が多くなる傾向がある可能性
がある。東西の岩質の違いに関しては未知の部分が多く(特に物性値)今後の検討課題と
した。
図 2-2-3 モデルフィールドの東西断面概念図
13
2-2-3-2 地層の物性値
各地質時代の地層の P 波速度の代表値は,屈折法地震探査による御前崎地域の速度構造
検討結果(表 2-2-1,中部電力, 2009a; 2009b)を参照した。また,各地質時代の地層内の
岩種による P 波速度変化については,物理探査学会(1990)を参照して与えた。
また,グリッドモデル作成対象地域を含む糸魚川-静岡構造線沿いの地下の速度分布
(地
震調査研究推進本部, 2006)と比較を行い,構築した概念モデルに与えた物性値が概ね妥当
であることを確認した。
S 波速度については,御前崎地域で実施された中部電力(2009b)の PS 検層(サスペン
ション法)の結果から導出された Vp-Vs 関係式を用いて S 波速度を計算した。また密度に
ついては,
P 波速度から密度を推定する経験式である Gardner の式
(Gardner et al., 1974)
を適用して決定した。表 2-2-2 に設定した各地層の物性値一覧を示す。
表 2-2-1 屈折法探査により求められた弾性波速度
表 2-2-2 各地層の物性値一覧
14
2-2-3-3 広域三次元弾性体グリッドモデルの作成
数値実験を実施する対象地域を含んだ広域的な地下構造概念を示すために東西 50km,
南北 8km の範囲を対象エリアとして広域三次元弾性体グリッドモデルを作成した(図
2-2-4)
。モデル作成には,シュルンベルジェ社のソフトウェア「Petrel」を使用した。
地表および海域の地形は,
「国土地理院数値地図 50mメッシュ(標高)」および「日本海
洋データセンター」の 500m メッシュ海底地形データを利用して作成した。またフィリピ
ン海プレートの上面については,伊豆半島の主体部を構成する先古第三系の火成岩類の上
面として設定し,その深度については Hirose et al. (2008)を参照した。
また三次元弾性体グリッドモデルの各地層に対し表 2-2-2 で与えた物性値を適用した
(図 2-2-5)
。
図 2-2-4 三次元弾性体グリッドモデル
15
図 2-2-5 弾性体グリッドモデルに適用した物性値分布
(a) P 波速度、(b) S 波速度、(c) 密度
16
2-2-3-4 二次元モデルの切り出し
差分法による二次元弾性波シミュレーションにより合成弾性波記録を生成するため,本
節においては,三次元弾性体グリッドモデルより二次元構造モデルを切り出して作成した。
二次元構造モデルの範囲は,三次元弾性体グリッドモデルの中央部の東西方向 8km,深
度 6km の海域における区間とした。三次元弾性体グリッドモデルは,東西方向 50m,南
北方向 50m の間隔で,深度方向に層毎の地層傾斜に沿った格子における物性値として作成
している。一方,差分法計算においては数値分散を防ぐための,等間隔グリッドの十分に
密な速度モデルが必要となる。この目的のため,三次元弾性体グリッドモデルから二次元
構造モデルの切り出しは次の手順により行った。
まず,三次元弾性体グリッドモデルの上端における相対座標値で南西端
(6130.52,-99366.40),北東端(15815.34,-97533.72)のラインに沿って,水平方向 6.25m,
深度方向 10m の間隔での地層傾斜に沿ったメッシュデータとして断面を切り出した。次に,
南西上端を原点として,南西端,北東端を結ぶ 8km の直線および鉛直方向 6km の深度で
規定される鉛直断面に対して,切り出したメッシュデータを投影した。最後に,同断面上
で水平方向 6.25m,鉛直方向 6.25m の間隔での格子上の点におけるグリッドデータとして,
投影されたメッシュデータから近接点を再配置することにより,二次元構造モデルを構築
した。
二次元構造モデルにおける物性値は,上述の切り出しに用いたデータにおいては P 波速
度を用い,その他に差分法計算に用いる S 波速度および密度については前項と同様に,当
該地域における Vp-Vs 関係式および Gardner の式を用いて求めた。また前項において定
義した最上位層より上部の海水層においては,P 波速度を 1500m/s,S 波速度を 0m/s,密
度を 1.0g/cc とした。作成した二次元構造モデルを図 2-2-6~2-2-8 にそれぞれ P 波速度モ
デル,S 波速度モデル,密度モデルとして示す。
構築した二次元構造モデルは,モデル中央に逆断層の構造境界が存在し,モデルの左右
で物性値が大きく異なる。またこの他に左右それぞれ 1 本ずつの逆断層が存在する。モデ
ルの左部では浅層に速度逆転が存在し,部分的に尖滅する層が含まれる。これより生成さ
れる波形においては境界面による不連続および回折波の生成による分岐,多重反射の増幅
による強振幅のノイズなどが見られると予測される。
17
図 2-2-6 三次元弾性体モデルから切り出した二次元 P 波速度モデル
図 2-2-7 三次元弾性体モデルから切り出した二次元 S 波速度モデル
18
図 2-2-8 三次元弾性体モデルから切り出した二次元密度モデル
19
2-3 浅海域における反射法データ解析手法の検討
選定されたモデルフィールドにおいて,沿岸域海底下の地質構造を把握する反射法物理
探査のデータ取得,データ処理・解析技術の検討を実施するため,差分法による二次元弾
性波シミュレーションを実施し,合成弾性波記録を作成した。作成された合成弾性波記録
に二次元データ処理解析を実施することにより,反射法の適用性の検討を行った。
2-3-1 二次元弾性波シミュレーションによる合成地震記録の作成
前章で作成した二次元構造モデルを用いて波形シミュレーションを行い,合成地震記録
を作成した。
2-3-1-1 波形シミュレーションの条件
シミュレーションにはスタガード格子有限差分法(空間 4 次・時間 2 次精度,Vireux,
1984; Levander, 1988)を用いた。震源波形には中心周波数 20Hz の Ricker 波を用いた。
S 波を含めて数値分散が十分小さくなるよう考慮して格子間隔は 6.25m とした。計算領域
は水平方向 8km,深さ方向 6km とし,領域の外周部分に 2km の吸収境界(Cerjan et al.,
1985)を設けた。計算時間は 6 秒までとした。
受振・発震については,OBC 方式および二船式の 2 種類のレイアウトについて検討し
た。OBC 方式においては海底面に敷設した多成分受振器(OBC)により上下動一成分,水平
動二成分,およびハイドロフォンによる圧力の合計 4 種類のデータを測定することを想定
した。受振点は海底面で等間隔の 25m ごとに配置し,発震点は水深 5m で等間隔の 6.25m
に配置した。また二船式では水深 10m に下げたハイドロフォンによる 300m のストリー
マケーブルの曳航を前提に,発震船・受振船による二船式における最大オフセット 300m,
600m,1200m での取得を想定した。発震点は OBC 方式と同様に等間隔の 6.25m で配置
し,受振点を発震点から 25m 間隔で 300m,600m,1200m の 3 パターンで配置した。
発震点数は 1281 点であり,受振点数は OBC 方式の場合に 321 点,二船式の場合に各
発震点に対して最大オフセット 300m の場合に 12 チャンネル,
600m では 24 チャンネル,
1200m で 48 チャンネルとなる。
2-3-1-2 合成地震記録の作成
前節における OBC 方式,二船式の各々について差分法計算を実施し,合成地震記録を
作成した。得られた合成地震波記録を図 2-3-1~2-3-5 に示す。図 2-3-1~2-3-3 はそれぞれ
発震点 SP40,600,1220 における OBC 方式における受振測線での記録を示す。記録は
ハイドロフォン成分に 1000ms の AGC を適用して示した。また図 2-3-4,2-3-5 はそれぞ
20
れ発震点 SP600,
1220 における二船式における受振測線での記録を示す。
左図から 1200m,
600m,300m のオフセット長でのハイドロフォン記録を示した。ただし,計算範囲は作成
した二次元速度構造モデルの範囲であるため,SP40 の記録においては範囲外の受振点の
記録は計算していない。
得られた波形記録では,特に海底面における多重反射が強く見られる。層境界における
反射波は強インピーダンス面においては顕著に見られるが,多重反射に覆われ判別しにく
い部分もあるため,次項における処理において S/N の改善を図った。また本シミュレーシ
ョン計算においては,実際の観測における震源,伝播,受振におけるノイズは加えていな
い。今後の課題として,白色ノイズなどを付加したデータを用いた重合効果およびノイズ
除去処理適用による検討が考えられる。
図 2-3-1 合成地震記録例(OBC 方式測線,SP40,ハイドロフォン記録)
21
図 2-3-2 合成地震記録例(OBC 方式測線,SP600,ハイドロフォン記録)
図 2-3-3 合成地震記録例(OBC 方式測線,SP1220,ハイドロフォン記録)
22
図 2-3-4 合成地震記録例(二船式測線,SP600,ハイドロフォン記録)
図 2-3-5 合成地震記録例(二船式測線,SP1220,ハイドロフォン記録)
23
2-3-2 合成地震記録を用いた反射法データ処理
二次元弾性波シミュレーションで作成した合成地震記録に対して,CMP 重合法による
標準的な反射法データ処理を行った。
以下に,二船式と OBC 方式のそれぞれの合成記録に対する,主要な処理内容について
述べる。
2-3-2-1 二船式合成地震記録
図 2-3-6 に示す反射法探査データ処理流れ図に従って実施した。二船式のデータは,発
震点間隔(6.25m,12.5m,25m),最大オフセット距離(300m,600m,1200m)の組合せに
ついて解析を行った。
図 2-3-6 反射法データ処理フローチャート(二船式測線)
24
(1) フォーマット変換およびデータ編集( Geometry Application )
弾性波シミュレーションの出力フォーマット(IEEE binary)から,ソフトウェアのフォー
マットへの変換を行った。
(2) トレースヘッダーへの測線情報の入力( Geometry Application )
トレースヘッダーに関して,発震点及び受振点のインデックス,オフセット距離等の測線
情報を入力した。
(3) 多重反射波抑制( Multiple Wave Suppression )
海底面多重反射が顕著であるので,多重反射波抑制処理を適用した。ここでは,一次反射
波への影響が低いラディアルトレースデコンボリューションを採用することとした。
(4) コヒーレントノイズ抑制処理( Suppression of Coherent Noise )
モデル中央部の逆断層に起因する散乱回折波が発震記録ならびに重合断面上で卓越するの
で,NMO 補正後の共通発震点アンサンブルで速度フィルターを適用した。
(5) 共通反射点編集( Common Midpoint Sorting )
共通反射点重合処理を行うため,発震点と受振点の位置にしたがって共通反射点編集を行
った。各発震点・受振点に対して中点の位置を求め,共通する中点ごとに集めたデータを
作成した。
(6) デコンボリューション( Deconvolution )
フィールド観測記録では,地層の非弾性や観測系の諸特性により伸長した波形をパルスに
戻すとともに,短周期の多重反射波を除去することを目的として,デコンボリューション
(Deconvolution)を適用した。S/N の低い記録に対してホワイトニング・デコンボリューシ
ョンを適用すると,ノイズを強調するだけでなく波形も歪むことから,重合効果の低下を
招くことになる。ここでは基本波形への影響を抑えるため,予測型デコンボリューション
(予測距離 48ms)を採用した。
(7) 速度解析( Velocity Analysis )
次項の NMO 補正において最適な補正量を求めるため,以下に示す定速度重合法による速
度解析を実施した。定速度重合法はいくつかの解析点(250m 間隔)において,さまざまな速
度で重合した結果から重合効果の高いものを読み取り,最適な速度を求める速度解析法で
ある。図 2-3-7 に解析で得られた速度構造(重合速度プロファイル)を示す。
25
(8) NMO 補正( Normal Moveout Corrections )
速度解析によって求められた重合速度-時間の関数を時間-空間方向に内挿し,その速度テ
ーブルに従って NMO 補正を適用した。NMO 補正による過伸張波形の抑制は,ストレッ
チミュート(ファクター:2.1)により行った。
(9) ミュート( Outside Mute )
NMO 補正に伴う波形の伸長及びオフセット距離の大きいトレースに残留する屈折波初動
部分を抑制する目的で,ミュート処理を適用した。
(10) トレースバランシング( Trace Balancing )
共通反射点アンサンブルにおける時間方向に微弱なトレース間の振幅を増幅し,重合効果
を高めることを目的として,下記のウィンドー長 1000ms の自動振幅調整(Instantaneous
AGC)によるトレースバランシングを適用した。
(11) 共通反射点重合( CMP Stack )
共通反射点アンサンブルに関して,以下の有効オフセット距離に関して水平重合処理を実
施した。反射面からの振幅を強調し,ノイズを低減することを目的として,共通反射点ア
ンサンブルに関して,水平重合処理を実施した。
(12) 帯域通過フィルター( Bandpass Filter )
不要なノイズ成分を抑制し,反射波の視認性を向上させるため,零位相帯域通過フィルタ
ーを適用した。
(13) 周波数―空間領域予測フィルター( F-X Prediction Filter )
重合後時間断面に対して,ランダムノイズを抑制し相対的に S/N を向上させる周波数-空
間領域複素型予測フィルター(F-X 予測フィルター)を適用した。
(14) 時間マイグレーション( Time Migration )
時間断面上の反射点位置を実際の位置に移動させ,回折波を回折点に復元することを目的
として,近似精度 45 度の差分マイグレーションを適用した。
(15) 深度変換(Depth Conversion)
速度解析の結果得られた重合速度プロファイルから,時間及び空間方向に平滑化した平均
速度分布を用いて,バーティカルストレッチ法による深度変換を実施した。
以上の処理により得られた二船式の合成地震記録に対する深度変換後マイグレーション
断面図を図 2-3-8 に示す。
26
図 2-3-7 重合速度解析結果(二船式測線)
図 2-3-8 マイグレーション処理+深度変換断面図 (二船式測線)
発震点間隔および最大オフセット距離をそれぞれ
(a) 6.25m,300m, (b) 6.25m,600m,
(d) 12.5m,300m, (e) 12.5m,600m,
(c) 6.25m,1200m,
(f) 12.5m,1200m,
(g) 25m,300m, (h) 25m,600m, (i) 25m,1200m,
とした場合の比較
27
2-3-2-2
OBC 方式合成反射法記録
図 2-3-9 に示す反射法探査データ処理流れ図に従って実施した。OBC 方式のデータは,
発震点間隔(6.25m,12.5m,25m),重合最大オフセット距離についての組合せについて解
析を行った。
図 2-3-9 反射法データ処理フローチャート(OBC 方式測線)
(1) フォーマット変換
弾性波シミュレーションの出力フォーマット(IEEE binary)から,ソフトウェアのフォー
マットへの変換を行った。
(2) トレースヘッダーへの測線情報の入力( Geometry Application )
トレースヘッダーに関して,発震点及び受振点のインデックス,オフセット距離等の測線
情報を入力した。
(3) 多重反射波抑制( Multiple Wave Suppression )
海底面多重反射が顕著であるので,多重反射波抑制処理を適用した。ここでは,ラディア
ルトレース領域においてデコンボリューションを適用した。
28
(4) コヒーレントノイズ抑制処理( Suppression of Coherent Noise )
モデル中央部の逆断層に起因する散乱回折波が発震記録ならびに重合断面上で卓越するの
で,NMO 補正後の共通発震点アンサンブルで速度フィルターを適用した。
(5) 共通反射点編集( Common Midpoint Sorting )
共通反射点重合処理を行うため,発震点と受振点の位置にしたがって共通反射点編集を行
った。各発震点・受振点に対して中点の位置を求め,共通する中点ごとに集めたデータを
作成した。なお,受振点は海底に設置されており,発震点側と基準面をそろえるため,鉛
直方向に水深分の走時補正を行った。
(6) デコンボリューション( Deconvolution )
フィールド観測記録では,地層の非弾性や観測系の諸特性により伸長した波形をパルスに
戻すとともに,短周期の多重反射波を除去することを目的として,デコンボリューション
(Deconvolution)を適用する。S/N の低い記録に対してホワイトニング・デコンボリューシ
ョンを適用すると,ノイズを強調するだけでなく波形も歪むことから,重合効果の低下を
招くことになる。ここでは基本波形への影響を抑えるため,予測型デコンボリューション
(予測距離 48ms)を採用した。
(7) 速度解析( Velocity Analysis )
次項の NMO 補正において最適な補正量を求めるため,以下に示す定速度重合法による速
度解析を実施した。定速度重合法はいくつかの解析点(250m 間隔)において,さまざまな速
度で重合した結果から重合効果の高いものを読み取り,最適な速度を求める速度解析法で
ある。図 2-3-10 に解析で得られた速度構造(重合速度プロファイル)を示す。
(8) NMO 補正( Normal Moveout Corrections )
速度解析によって求められた重合速度-時間の関数を時間-空間方向に内挿し,その速度テ
ーブルに従って NMO 補正を適用した。NMO 補正による過伸張波形の抑制は,ストレッ
チミュート(ファクター:2.1)により行った。
(9) ミュート( Outside Mute )
NMO 補正に伴う波形の伸長及びオフセット距離の大きいトレースに残留する屈折波初動
部分を抑制する目的で,ミュート処理を適用した。
(10) トレースバランシング( Trace Balancing )
共通反射点アンサンブルにおける時間方向に微弱なトレース間の振幅を増幅し,重合効果
を高めることを目的として,ウィンドー長 1000ms の自動振幅調整(Instantaneous AGC)
によるトレースバランシングを適用した。
29
(11) 共通反射点重合( CMP Stack )
共通反射点アンサンブルに関して,以下の有効オフセット距離に関して水平重合処理を実
施した。反射面からの振幅を強調し,ノイズを低減することを目的として,共通反射点ア
ンサンブルに関して,水平重合処理を実施した。
(12) 周波数―空間領域予測フィルター( F-X Prediction Filter )
重合後時間断面に対して,ランダムノイズを抑制し相対的に S/N を向上させる周波数-空
間領域複素型予測フィルター(F-X 予測フィルター)を適用した。
(13) 帯域通過フィルター( Bandpass Filter )
不要なノイズ成分を抑制し,反射波の視認性を向上させるため,零位相帯域通過フィルタ
ーを適用した。
(14) 時間マイグレーション( Time Migration )
時間断面上の反射点位置を実際の位置に移動させ,回折波を回折点に復元することを目的
として,近似精度 45 度の差分マイグレーションを適用した。
(15) 深度変換(Depth Conversion)
速度解析の結果得られた重合速度プロファイルから,時間及び空間方向に平滑化した平均
速度分布を用いて,バーティカルストレッチ法による深度変換を実施した。
以上の処理により得られた OBC 方式の合成地震記録に対する深度変換後マイグレーシ
ョン断面図を,図 2-3-11 に示す。
30
図 2-3-10 重合速度解析結果(OBC 方式測線)
図 2-3-11 マイグレーション処理+深度変換断面図
(OBC 方式測線)
発震点間隔および最大オフセット距離をそれぞれ
(a) 6.25m,8000m, (b) 12.5m,8000m, (c) 25m,8000m,
(d) 6.25m,1200m, (e) 12.5m,1200m, (f) 25m,1200m,
(g) 6.25m,2400m, (h) 6.25m,3600m,
とした場合の比較
31
2-4 反射法データ取得仕様の検討
2-4-1 発震点間隔の検討
受振点間隔はストリーマケーブルまたは海底着底型ケーブル(OBC)のハード面から制約
を受ける一方,発震点についてはその間隔を適宜変更できる。そこで,適切な発震点間隔
の検討を行った。
図 2-3-8(c),
(f),
(i)および図 2-3-11(d)~(f)に示された,
発震点間隔を 6.25m,
12.5m,25m の三通りに変化させた場合の合成地震探査記録に対する反射法データ処理結
果の比較を比較したところ,大きな差は見られなかった。その原因を考察すると,今回の
モデルでは発震点間隔の違いに対して構造変化のスケールの方が大きいため,発震点間隔
に対する顕著な影響が現れなかったものと考えられる。
上述のように,発震点間隔の差は結果に顕著な差として現れなかったものの,必ずしも
25m の発震点で良いというわけではない。ハード面から制約が大きい受振点間隔を一定と
した場合,発震点間隔に応じてデータ密度や設定可能な CMP 間隔が変わることとなる。
これは言い換えると,
発震点間隔が密になるほど,
空間分解能は向上することを意味する。
また,CMP 間隔が固定される場合には,発震点間隔が密になるほど重合数が上がるため,
実際の観測でノイズが含まれる場合には,データの S/N 向上が期待される。また,速度フ
ィルターなどのノイズ除去処理を行う場合には,
CMP 間隔が密であるほうが有利である。
特に浅部の構造を対象とする場合には,発震点間隔を 6.25m と密にした方が浅部の詳細な
構造を高品位に捉えられることが期待できる。したがって,空間分解能の向上と重合数増
大による品質向上の観点から,発震間隔は 6.25m 以下に設定することが望ましい。
二船式と OBC 方式のそれぞれについて,想定される発震点および受振点間隔に対する,
処理で設定可能な最小の CMP 間隔は下記のようになる。
・二船式の場合
・受振点間が 25m のストリーマを使用した場合
CMP 間隔
発震点間隔
6.25 m
→
6.25 m
12.5 m
→
12.5 m
25 m
→
12.5 m
・受振点間隔が 12.5m のストリーマを使用した場合
CMP 間隔
発震点間隔
6.25 m
→
6.25 m
12.5 m
→
6.25 m
25 m
→
6.25 m
32
・OBC 方式の場合(受振点間隔 25m の固定展開)
CMP 間隔
発震点間隔
6.25 m
→
3.125 m
12.5 m
→
6.25 m
25 m
→
12.5 m
2-4-2 二船式と OBC 方式の比較検討
図 2-3-8(a)~(c)および図 2-3-11(a),(d),(g),(h)に示した,発震点間隔を 6.25m とした
場合について,二船式と OBC 方式の,異なるオフセット距離の影響を比較した。二船式
では,オフセット距離が大きくなるに従って,多重反射波の抑制効果が向上し,構造イメ
ージングが改善される。また,速度推定の精度向上と重合数確保の観点からも長いオフセ
ット距離の確保が必須となる。
ストリーマケーブルを用いた反射法探査でオフセット距離を確保するためには,長大ス
トリーマケーブルを曳航する必要があるが,他船舶の航行や漁業活動を考慮すると当該海
域においては困難が予想される。
この時にとり得る選択肢として,二船式(比較的短いストリーマを曳航するケーブル船
とエアガン発震船の組合せ)によるデータ取得があげられる。しかしながら,この方式で
オフセット距離を確保するためには,同一測線を二船間の距離を変えて複数回データ取得
を行う必要がある(図 2-1-3 参照)
。
二船式と OBC 方式の結果を対比した場合,二船式の方が高分解能で,鮮明な断面が得
られた。OBC 方式の場合,重合に使用するオフセット距離を変えると異なるイメージ結果
が得られることも明らかとなった。これは後述する理由によるものであり,データ処理に
おいてより高度な方法を採用することにより解決は可能である。
OBC 方式で取得されたデータは,二船式と違って発震点・受振点の深度がそれぞれ異な
り,その受振点の設置深度は場所によって大きく変わることが特徴である。即ち,二船式
に比べて海中の片道分の走時が欠如しているため,標準的な CMP 重合法による反射法デ
ータ処理には注意が必要である。受振点位置の水深が十分に小さい場合,本スタディのデ
ータ処理で実施した様に,簡易的には水深に応じた鉛直方向の走時補正が適用される。し
かし,発震点と受振点の間の距離が大きくなり鉛直方向に対する波線の傾きを持つと誤差
が生じ,受振点位置の水深増加に伴って,その誤差は拡大する。また,CMP 重合処理の
ために中点を定義する際,発震点と受振点の水平座標に基づくと,海中の片道分の経路が
不足するため,水平成層の場合でも真の反射点から偏倚した位置に中点位置が定義される。
こうした着底ケーブルに関わる水深の影響は,海底面形状が不規則な場合や反射面が傾斜
している場合,さらに複雑な状況をもたらす。その結果,オフセット距離と反射波走時の
整合関係が乱され,重合効果が低下する。
33
水深補正に関しては,特に水深が大きい場合には,波動論に準拠したリデータミングが
有効と考えられる。また,反射法データ処理で高分解能な断面を得るには,必ずしもすべ
てのオフセットデータを使用する必要はなく,オフセット重合テストを通じてターゲット
に合わせたデータ利用をするのがよい。一般にはオフセット距離が長いほど,深部の屈折
波や反射波を捉えるのに有利である。OBC 方式は,原則的には固定展開でデータを取得す
るので,最大オフセットは OBC の展開長に応じて決まる。そのため,二船式に比べて長
いオフセット距離を確保できることから,深部反射波の速度構造推定の精度向上が期待で
きるほか,屈折初動走時を用いたトモグラフィー解析が合わせて実施できる点は有利であ
る。
2-4-3
S 波利用の有効性検討
OBC 方式の測線において,多成分受振器により S 波成分を含む地震波記録の取得が可
能であることから,S 波を利用した解析の有効性についての検討を行った。S 波は P 波に
比較して伝播速度が遅いので,同一周波数であれば S 波の波長の方が短くなる。つまり,
一般に S 波を用いた方が高分解能な調査が可能である。
想定されるエアガン震源から発生した波は海水中を P 波として伝播するが,図 2-4-1 に
示すように層境界において PS モード変換が生じることにより,受振器では P 波成分・S
波成分の混在した地震波記録が得られる。そこで,この PS 変換による S 波成分を利用し,
PS 変換波を用いた重合前深度マイグレーション(PSDM)処理についての検討を行った。
図 2-4-1 PS 変換波の概念図
34
2-4-3-1 重合前深度マイグレーション処理の概要
PSDM 処理は通常処理における重合後マイグレーション処理と比較して,正確な速度構
造を与えた場合にはマッピングの精度が高く,重合効果が大きくなる。また反射面を仮定
することにより,微弱な PS 変換波による反射面を検出して振り分けることが可能となる。
PSDM 処理においては’Input-oriented’型のキルヒホッフマイグレーションを適用した
(淺川・大西, 2008)。PSDM 処理の概念図を図 2-4-2 に示した。本手法においては,次の 3
つのステップによりマイグレーションが実施される。
(1) 与えられた速度構造モデルを用いて,発震点・受振点の組に応じて各反射点における
走時を波線追跡によって計算する。
(2) 得られた等走時面に相当する反射点分布に対し,波形記録を走時に応じて振り分ける。
(3) 全点での波形記録を振り分けた後,重合処理を実施する。
図 2-4-2 重合前深度マイグレーションの概念図
35
2-4-3-1 重合前深度マイグレーション処理結果および検討
合成地震波記録に対し PSDM 処理を適用し,P 波および PS 変換波による S 波イメージ
ングを実施した。P 波によるイメージングにおいては鉛直成分,PS 変換波によるイメージ
ングにおいては水平成分の波形記録を入力とした。
走時計算においては,速度は既知であるとしモデルの値をそのまま用いた。PS 変換波
の波線としては図 2-4-1 に示した PPS 波を想定し,発震点から反射点まで P 波速度構造モ
デル,反射点から観測点までは S 波速度構造モデルを用いて走時を計算した。
得られた PSDM 処理適用深度断面を二次元速度モデルと重ねたもののうち P 波断面を
図 2-4-3 に,S 波断面を図 2-4-4 に示した。
得られた PSDM 処理適用深度断面のうち,P 波はモデルと良い整合を示している。この
良好な結果が得られた一因は,PSDM 処理の入力の P 波速度モデルとして,二次元モデル
の値すなわち正解の速度分布を与えたためである。用いた入力データがノイズフリーの数
値シミュレーションデータであったことも大きな要因である。
PSDM 法は走時計算に用いる速度構造の精度にイメージング精度が大きく依存するこ
とが一般に知られている。実際の観測において PSDM 法を適用する場合は,速度構造推
定精度を確保するため,’Coherency Inversion’,’Reflection Tomography’に加えて残差走
時解析等の多様かつ高度なアルゴリズムを併用して速度モデルの精度を担保する必要があ
る。
S 波を用いたイメージングにおいては,特に海底面から 1km 程度までの浅部において P
波によるイメージングよりも高精度の断面が得られている。深部におけるイメージングは
P 波によるイメージングと比較して不鮮明となるが,これは波形記録における PS 変換波
の S/N が弱いためと考えられる。浅部においては S 波を用いたイメージング,深部におい
ては P 波を用いたイメージングを相補的に扱うことにより,統合的な構造の把握が可能と
なることが期待される。また,P-S 変換波と P 波断面図との対比を通じて得られる S 波速
度及び Vp/Vs 構造は,当該地域における物性情報を含めた水理地質モデルの構築に重要な
知見を提供するものと考えられる。
36
図 2-4-3 重合前深度マイグレーション断面に速度モデルを重ねた図(P 波)
図 2-4-4 重合前深度マイグレーション断面に速度モデルを重ねた図(S 波)
37
2-4-4 地震探査仕様案の策定
沿岸海域における二次元地震探査のフィージビリティ・スタディ検討結果を踏まえ,大
深度までを対象にした地震探査仕様案を策定した。具体的には,当地域における反射法の
調査対象深度を考慮して,かつ,浅層での高分解能イメージングを達成できるように,発
震点密度を 6.25m(標準)
,受振展開長を 2,000m 以上になる仕様案を設計した。
測定の基本となる作業は,観測船を航行しながら震源(エアガン)から音波を発し,海
底面や地下の堆積層等の地層境界面にて反射してくる音波を受振器にて受け,その信号を
探査装置で記録する作業である。発震船は,測定時は船上に設置した GPS でリアルタイ
ムに計画測線と船位置との関係を把握しながら船を計画測線上に誘導する。船速は,2~4
ノット(3.7~7.4km/h)で航行する。
二船式では,エアガンとハイドロフォンは観測船のエンジン音等のノイズを避けるため,
観測船の後方に曳航する。また,震源-受振器間の距離(オフセット距離)を多く取るた
めに,観測船の前方に震源のみを曳航した発震船を配置し,同期しながら発震作業を行う
(二船式)
。発震船と観測船の離隔距離として,300m から 2,100m まで 300m 刻みの 6 パ
ターンのデータを収録する。
当地域は,通航船舶が多く,漁業活動が活発であるために,ストリーマケーブルの曳航
長を大きく設定すると海上交通安全上のリスクが高まる。また,浅海域で曳航船舶を繰り
返し回頭させるために,離岸距離と比べて曳航長を十分小さく設定する必要がある。今回
の二船式の仕様案は,ストリーマケーブルを 300m に短く設定して,二船間の距離を変更
しながら同一測線を何度も計測することでオフセット距離をカバーする仕様案を採用した。
なお,許認可申請書や地元交渉の過程で,ストリーマケーブルの曳航長に関しては,さら
なる制約が課せられる場合も想定されるが,その場合は,航行回数の増加によって対応す
ることになる。
それぞれの調査測定仕様を,表 2-4-1(a)および(b)に示した。また,OBC 方式と二船式の
手法の比較を,表 2-4-2 にまとめた。海況・天候の影響度合い,技術的な難易度,得られ
る成果に関して,一長一短がありどちらが優位であるかは決定できない。ただし,地元交
渉(県,地元漁協)や許認可申請(海上保安庁)の経緯によっては,どちらかの手法しか
選択できない場合も考えられる。例えば,年間を通して底引き漁が行われる海域では,OBC
を敷設すること自体が難しくなる。また,通航船舶が多いという理由で,ストリーマケー
ブルの曳航作業を伴う調査の許可が得られない可能性も想定される。従って,当地域にお
いて調査の実現可能性を高めるためには,計画段階では両方の手法を検討しておき,でき
るだけ選択の幅を広げておくことが望ましい。
38
表 2-4-1 モデルフィールド調査に適した調査測定仕様
表 2-4-2 OBC 方式と二船式それぞれの比較
39
参考文献
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中部電力 (2009a): 浜岡原子力発電所 3、4 号機「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査
指針」の改訂に伴う耐震安全性評価に関わる報告 中越沖地震を踏まえた地価構
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41
第3章
海上掘削調査技術の開発
42
3-1 緒言
高レベル放射性廃棄物等の地層処分においては,天然の岩盤(天然バリア)と人工的な
バリア(人工バリア)から構築される多重バリアシステムによって長期的な安全確保がな
される。この処分システムの成立性や安全性に係る信頼性を一層高めていくためには,天
然バリアである深部地質環境の状況把握と将来変化に係る調査評価技術の信頼性向上が重
要である。このうち,海底下地下空間は,沿岸域に原子力発電所が多く立地すること,沿
岸域深部の塩水域は自然災害による地上からの影響を受けにくいこと,淡水地下水に比べ
流れが遅く,生物圏までの到達時間が長いこと,溶存酸素が少なく腐食が起こりにくい環
境(還元環境)であること等から,処分適地の一つとして挙げられている(長谷川ほか,
2001)
。
沿岸域海底下の地質環境は重要性を認識されつつも,内陸地域に比べて調査の実績が少
なく,特に地下水に関するデータは殆ど存在しない。このため,従来から地質環境の長期
変動や気候変動が浅海域の地下水流動システムに影響を及ぼしうることが懸念されていた
ものの,その検証は行なわれておらず,未だに海底下地下空間における体系的な地下水流
動の調査評価手法は確立されていない(前川,2010)
。
これを受けて,北海道幌延地域では,2007 年度より,沿岸域特有の地下水流動状況を把
握するため,ボーリング調査や物理探査などが実施されてきており,これによって,幌延
沖の浅海域海底下に沖合約 7km まで淡水性地下水領域が拡がっている可能性が指摘され
た(産業技術総合研究所,2012a;2012b)
。
本研究では,昨年度までに幌延沿岸域,東京湾沿岸域,磐城沖沿岸域にて実施された海
底下地下水流動評価の全国展開を目指し,列島周辺地域の地形,地質情報の収集,整備及
び超長期地下水流動解析によるケーススタディを実施した。昨年度の対象地域である磐城
沖沿岸域については新たに得られたデータを基に水理地質構造モデルの高精度化及び広域
化を図るとともに,今年度は新たに苫小牧沖沿岸域,新潟沖沿岸域,庄内平野沿岸域,福
井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域の 6 地域を検討の対象として追加した(図
3-1)
。それぞれの地域に対して,3 次元水理地質構造モデルの構築及び超長期地下水流動
解析を実施することによって,海底下地下水の流動状況を評価し,長期的に安定な水理地
質条件を抽出するとともに,海上ボーリング調査や海上物理探査の適地選定に資する基礎
資料を提示した。
43
:H23年度対象地域
:H24年度対象地域
:H23, 24年度対象地域
図 3-1 対象地域位置図
44
3-2 既往研究
北米のニュージャージー沖で行われた大陸棚掘削プロジェクトでは,海底下の大陸棚に
淡水性地下水が発見された。Hathaway(1979)によれば,この地下水の形成過程には 2
つの説があるとされている。一つはニュージャージー沿岸平野から連続する帯水層中を流
動してきた海底湧水であるという考え方である。一方,もう一つは海退最盛期に陸地化し
ていた大陸棚に涵養した地下水がその後の海進を経ても海水と混合せず残ったままになっ
ているという考え方である。この地下水の分布範囲や水質特性などは把握されておらず,
未だにその形成過程については明らかとされていないが,Meisler et al.(1984)は淡水性
地下水が氷河性海水準変動によって形成されることを,数値モデルによって説明した。
また,南米のスリナム沖の第三紀堆積層中においても,沖合 25km の位置に,淡水に近
い地下水が含まれていることが分かっている。これについても,ウィスコンシン海退の間
に大陸棚に涵養された地下水によって形成されたものであると考えられている(Groen et
al., 2000)
。
Cohen et al., (2010)は,このような古水文学的現象をさらに解明するため,ニュージ
ャージー州からメーン州にかけての大陸棚について,過去二百万年間の地下水流れ,熱輸
送,物質輸送,氷河形成,海水準変動を再現する高精度モデルを構築した。これによれば,
ニュージャージー沖合 100km の淡水性地下水は,浅部帯水層が露出するバルティモア湾
やハドソン湾に沿った海底湧水によって維持されていると考えられた。また,最終氷期に
ローレンタイド氷床によって覆われていたニューイングランドの大陸棚の一部では,現在
の 4 倍の涵養量が存在していたと計算された。このモデルによって,ニューイングランド
の大陸棚中には塩分濃度 1ppt 以下の淡水性地下水が 1300km3 も存在するとされ,米国東
部沿岸で 104km3,世界の大陸棚には 3×105km3 もの淡水性地下水が存在するものと見積
もられた。
45
3-3 水理地質構造モデルの構築
磐城沖沿岸域,苫小牧沖沿岸域,新潟沖沿岸域,庄内平野沿岸域,福井平野沿岸域,静
岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域における陸域から海域にわたる広域 3 次元水理地質構造モ
デルを構築した。モデル作成は「日本列島における地下水賦存量の試算に用いた堆積物の
地層境界面と層厚の三次元モデル(第一版)(越谷ほか,2012)」(以下,堆積層三次元マ
ッ プ ) を 基 本 と す る が , 海 域 デ ー タ 等 の 空 白 域 は J-EGG500 ( 海 上 保 安 庁 ),
RIO-DB-SEISMIC(産総研)や海洋地質図,旧石油公団報告書,海底地質構造図などに
よって補間を行った。
対象範囲は陸域平野を包含し水深 200 m 程度までを対象とした 10,000 km2 程度の領域
とした。対象地層は堆積層三次元マップを参考として,新第三紀層までとした。
3-3-1 地形・地質情報の収集
3 次元地質構造モデルに必要となる地形・地質データは堆積層三次元マップを基本デー
タとして用いた。堆積層 3D マップは,公開論文等による調査結果を地質年代で整理し,1
km メッシュあたりの地質境界面の深度情報として電子化された地形・地質データ(MS
Excel 形式で収録)である。堆積層 3D マップにおける地質区分は上位層から,H,Q3,
Q2,Q1,N3,N2,N1,Pre-N1 の層序で管理されている。なお,H は Holocene(完新
世)
,Q3~Q1 は Quaternary(第四紀),N3~N1 は Neogene(新第三紀)である。ここ
で,Pre-N1 は基盤(BaseRock)と称する。また,陸域および海域の地質構造に関する補
助データの候補を以下に示す。これらのデータは解析対象領域において,堆積層 3D マッ
プが網羅されていない領域を補填する目的で使用した。
・海域地質構造データベース:
(独)産業技術総合研究所
・海洋地質図:
(独)産業技術総合研究所
・国内石油・天然ガス基礎調査:石油公団
・海底地形地質調査報告:海上保安庁
・20 万分の 1 地質図:
(独)産業技術総合研究所
庄内平野沿岸域,福井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域においては,陸域
の地形情報についてより解析精度を確保するため,堆積層三次元マップの 1 km メッシュ
よりも解像度が高いデータを補助データとして加えることとした。
46
3-3-2 解析対象地域の地質モデル構築結果
(1) 磐城沖沿岸域
調査地は福島県東部沿岸域に位置する磐城地域である。モデル対象範囲は南相馬市~い
わき市にかけての沿岸域と東側の太平洋にかけての範囲である。
1) 地形
磐城地域の位置する福島県浜通り地区は阿武隈山地の東に位置する。阿武隈山地は西縁
を阿武隈川と棚倉破砕帯,東縁を双葉断層と太平洋で境された山地である。阿武隈山地は
その全域にわたって著しい定高性が認められ,従来から隆起準平原と考えられてきた(地
質調査所,1994)
。
阿武隈山地の東縁には双葉断層が分布する。双葉断層の両側の地形は対照的で,西側の
阿武隈山地側には標高 500m~700m の比較的小起伏な山地が広がるのに対し,断層の東
側は標高 200m 以下(ほとんどが 100m 以下)の低平な丘陵及び段丘からなる。両者の境
界はほぼ双葉断層と一致して極めて直線的であるが,崖地形は明瞭ではない。また,双葉
断層に平行して西約 km の位置に畑川破砕帯が通り,この破砕帯を境に西側の山地高度は
東側より約 100m 高くなっている(地質調査所,1994)
。
いわき市横川からいわき市八茎付近を境に南側では,丘陵が西方に大きく入り込んで発
達している。いわき市八茎以北においては,東側の丘陵は,丘陵のほかに段丘及び平野が
発達する木戸川以北と,段丘及び平野の発達が悪い木戸川以南に区分される(東京電力株
式会社,2008)
。
木戸川以北の阿武隈山地東縁から海岸線までの地域は,主に標高 70m~180m 程度の丘
陵からなり,数段の河成あるいは海成段丘及び河川沿いに沖積平野が発達している。木戸
川以南で,いわき市八茎から同市四倉以北の阿武隈山地東縁から海岸線までの地域は,標
高 120m~160m 程度の丘陵からなり,同地域では,段丘の発達が悪く,平野がほとんど分
布しない。いわき市横川から同市四倉以南の阿武隈山地東縁から海岸線までの地域は,標
高 70m~300m 程度の丘陵からなり,数段の河成あるいは海成段丘及び沖積平野が発達し
ている。沖積平野は夏井川を中心に比較的広く発達する(東京電力株式会社,2008)
。
主要な河川としては北から新田川,小高川,高瀬川,熊川,富岡川,紅葉川,井出川,木
戸川,仁井田川,夏井川があり,阿武隈山地に源を発し太平洋に注ぐ。高瀬川・木戸川の
上流域の阿武隈山地では山地の起伏が小さい為,勾配が小さく,谷底には沖積低地が発達
する。中流部にあたる山地東縁部の双葉断層と畑川破砕帯の間では深い渓谷を形成してい
る。また,双葉断層より下流では再び勾配が小さくなり,沖積平野及び数段の河岸段丘が
発達する(地質調査所,1994)
。
海域の地形は,大陸棚外縁の水深は 150~180m であり,調査範囲での大陸棚の幅は 40
㎞程度である。水深は最大で 2600m 程度におよぶ。大陸斜面は,気仙沼沖からいわき沖
にかけては傾斜が最も緩く幅も約 100km と広く,特にいわき沖では大陸斜面の水深 200m
47
~1000m の部分は 70km の幅を持っている。さらに沖合の水深 1000m~1500m には深海
平坦面が見られる。調査地の約 5km 沖合に南北に延びる基盤の高まりが分布し,阿武隈
リッジと呼ばれている。阿武隈リッジは仙台沖から小名浜沖までが最も明瞭であり,幅は
3km で頂部は高原状を呈しその深度は 2sec 程度である。
阿武隈リッジを境界とする東西の堆積盆について,陸側に Inner Basin,外洋側に Outer
Basin が分布する。さらに Inner Basin は北上山地西縁の延長と考えられる断層より北側
を北部 Inner Basin,
南部を南部 Inner Basin と呼ぶ。南部 Inner Basin 堆積層は北部 Inner
Basin に比べ良く成層した堆積構造を呈しており,その最大の厚さは双葉沖付近で約
4.4sec である。
(石油公団,1986)
。
2) 地質
本地域では白亜系,古第三系,新第三系,第四系が累重する。以下に概要を述べる。本
地域では,阿武隈山地東縁に沿って双葉破砕帯が,その西方約 7km~9km の阿武隈山地内
に畑川破砕帯および八茎断層が,
いずれも N-S~NNW-SSE 方向に平行して連続している。
また,本地域南部のいわき市八茎付近では,それらとほぼ直交する NW-SE 方向に,二ツ
箭断層が連続している。これらの破砕帯および断層は概ね地層および岩石の境界をなして
いる(東京電力株式会社,2008)
。
調査地海域では北北東~南南西のトレンドを持った断層の系列が卓越している。また,
これとは別に陸上でみられる早池峰構造線,北上山地西縁や双葉断層群と同様の北北西~
南南東のトレンドを持つ断層の系列も認められる(石油公団,1986)
。
調査地の地質は大局的に畑川破砕帯中央断層西側,畑川破砕帯中央断層東側~双葉断層
(破砕帯)間,双葉断層(破砕帯)以東,二ツ箭断層以南の 4 つに区分できる。畑川破砕
帯中央断層西側には白亜紀のいわゆる阿武隈花崗岩類とそれに内包される変成岩・超苦鉄
質岩が分布する。
浪江・富岡地区の畑川破砕帯中央断層以東の先第三系は先デボン紀の八茎変成岩に対比
される変成岩類,古生代の堆積岩および火山岩を原岩とする変成岩類,白亜紀前期貫入岩
類などから構成されている。これらの地表での分布域はすべて双葉断層以西に限られ,双
葉断層以東では新第三系の下に伏在する。
(地質調査所,1994)。調査地北部の原町・大甕
地区では先デボン紀の助常変成岩類,石炭・二畳系の相馬古生層及びジュラ-白亜系の相
馬中村層群,白亜紀の高倉層と貫入岩類などから構成されている。これらのうち相馬中村
層群だけが双葉断層に沿ってその東側に分布しており,そのほかはすべて双葉断層以西に
分布している。
(地質調査所,1990)
双葉断層以東,二ツ箭断層以南には第三系が分布する。ここでは柳沢ほか(1989)にお
ける常磐炭田北部の層序区分を引用する。常磐炭田では基盤岩(変成岩類,花崗岩類及び古
生界)を不整合に覆って,下位より白亜系の双葉層群,古第三系の白水層群,新第三系の湯
長谷・白土・高久・多賀・仙台層群の各層群が累重している。これらの層群はそれぞれ不
48
整合で画されている。海岸及び河川沿いにはこれらを不整合に覆って段丘堆積物及び沖積
層が分布する。
白水層群は下位より石城・浅貝・白坂の 3 層に区分される。石城層は礫岩・砂岩・泥岩
及び石炭層からなる。本層の下部には特徴的な堆積輪廻が発達し,上部は主として砂岩か
らなる。浅貝層は細粒砂岩からなり,浅貝型の軟体動物群化を産する。最上部の白坂層は
灰色の泥岩である。
湯長谷層群は下位より滝・五安・水野谷・亀ノ尾・平の 5 累層からなる。滝層は炭層を
挟む砂岩・泥岩及び凝灰岩からなる。五安層は浅海成の砂岩で滝層が発達しないところで
は,下位層を直接不整合で覆う。水野谷層は砂岩と泥岩の互層からなり,上位の亀ノ尾層
に漸移する。亀ノ尾層は特徴的な薄葉理泥岩からなる。最上部の平層は,下部は砂岩,中
部は泥岩,上部は斜交葉理のある砂岩から構成され,安山岩質の火砕岩を挟む。
白土層群は中山層一層からなる。本層は礫岩・凝灰質泥岩・凝灰質砂岩からなる。地質
調査所(1957)によれば,下部の吉野谷礫岩砂岩部層と上部の南白土凝灰岩部層に分けら
れるとされる。
高久層群は下部の礫質粗粒砂岩からなる上高久層,中部の細粒砂岩の沼ノ内層,及び上
部の泥岩からなる下高久層から構成される。
多賀層群は無層理の珪藻質泥岩ないし砂質泥岩からなり,一部に斜交層理の発達した砂
岩を挟む。双葉地域で多賀層群に含まれるのは南磯脇層だけである。
仙台層群は主に常磐炭田北部に分布し,四倉層,広野層及び富岡層からなる。四倉層は
模式地の仙台層群下部(亀岡・竜の口層)に,広野層及び富岡層は模式地の仙台層群上部(向
山・大年寺層)に相当する。四倉層は基底部が礫岩から主部は砂質泥岩からなる。広野層
は最下部が粗粒な砂岩から主部は珪藻質の砂質泥岩からなる。富岡層も同じく砂質泥岩か
らなり,
広野層とは境界部に挟まる砂岩層ないし砂岩泥岩互層の下限を持って分けられる。
柳沢ほか(1989)は,従来常磐炭田地域において「多賀層群」とされていた地層が,中新
世の多賀層群と鮮新世の仙台層群とに区分できるとしており,この区分に従った。
常磐炭田北部の双葉地域では NNW-SSE 方向に走る双葉断層帯に沿って白水・湯長谷・
白土の諸層群が急傾斜して撓曲帯を作り,これらを仙台層群が不整合に覆っている。仙台
層群は下位層との接触部では双葉断層帯に平行の走行で急傾斜するが,撓曲帯を離れると
急速に緩傾斜となり,緩い波曲を伴いながら,3-5°の傾斜で東に傾いている(柳沢ほか,
1989)
。常磐炭田では高久層群以下の第三系については双葉・二ツ箭・湯ノ嶽および山田
の 4 段層群によって,北から富岡・双葉・石城北部・石城南部・多賀の 5 地塊に大別され
る。これらの各地塊は阿武隈山地の隆起に伴って,一般に西部ほど東方へ,また東部ほど
北方へ傾動している。多賀層群は各断層を覆って分布している場合が多い(地質調査所,
1957)
。双葉断層以東の第四系は主として段丘堆積物と沖積層からなる。
49
3) 地質構造モデル
磐城沖沿岸域の解析対象領域を図 3-2 に示す。基本データとなる堆積層三次元マップは,3
次元水文地質モデルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,N1,
Pre-N1 に区分されている。構築した地質モデルの俯瞰図及び断面図を図 3-3,図 3-4 に示
す。
図 3-2 磐城沖沿岸域解析対象領域
50
図 3-3 地質構造モデル俯瞰図(磐城沖沿岸域)
図 3-4 地質モデル断面図(磐城沖沿岸域)
51
(2) 苫小牧沖沿岸域
調査地は中央北海道南部,太平洋北岸に位置する苫小牧市である。苫小牧市は製紙工場
の立地や国内初の内陸堀込港の建設を契機として産業都市として発展してきた。1989 年に
勇払油ガス田が発見され,地下深部の探鉱調査の実績を有する。また,勇払平野に位置す
るウトナイ湖は日本を代表する水鳥の中継地でラムサール条約登録湿地である。
1) 地形
調査地は苫小牧市の太平洋沿岸地域に位置し,勇払平野に含まれる。調査地の北側は石
狩平野と呼ばれる標高 10m 以下の低平地が数 10km 以上に渡り連続している。調査地北
西には約 4 万年前に形成されたカルデラ湖である支笏湖が位置し,支笏湖の南側・東側・
北側山麓斜面には支笏火山噴出物が堆積している。調査地北東には馬追丘陵が位置し,新
第三紀の堆積物が分布している。勇払平野と馬追丘陵の境界は断層で画されている。
調査地の主要河川は二級水系安平川(延長約 30km),安平川水系勇払川(延長約 20km)
,
勇払川の支川である美々川(延長約 10km)があるが,いずれも規模は小さい。安平川は
馬追丘陵に源を発し,南へ流下して太平洋に注ぐ。勇払川は調査地北側の斜面に端を発し
東流した後,ウトナイ湖から南へ向かい安平川に合流する。美々川は千歳市駒里地区付近
を源とし,南流した後,ウトナイ湖に注ぐ。その他苫小牧市市街地には支笏火山噴出物中
を流下する苫小牧川・幌内川・明野川といった小河川が分布する。調査地近傍の他の主要
河川としては,石狩川の支流である千歳川(一級河川)があり,延長 108km である。千
歳川は支笏湖を源として東流し,千歳市市街地付近で北へ向きを変える。石狩平野を北流
した後,江別市付近で石狩川と合流する。千歳川が北流する地点と南へ流下する美々川の
源流部との間は駒里台地と呼ばれ,標高 20~25m 程度の流域境界が存在する。この流域
境界は石狩平野と勇払平野を区分している。
海域は海底地形上,南東方向に日本海溝に向かってひらく日高舟状海盆とそれを取り囲
む大陸棚,下北半島尻屋崎の沖合から北方に延びている水深 100m 前後の尻屋海脚,さら
に本州と北海道とを分けている津軽海峡に分かれる。大陸棚の外縁の水深はおよそ 100~
150m である。大陸棚は襟裳岬周辺では比較的広く約 35km の幅を持っているが,その他
の海域ではおよそ 10~20km である。日高舟状海盆は北西~南東方向の軸を持ち南東に開
いた形をしている。道南での海域の水深は大陸棚上の約 60m から約 1500m である(石油
公団,1987)
。
52
2) 地質
北海道地質構造区分(北海道立地下資源調査所,1980)によれば,調査地は西部北海道
の西南北海道東部地域と石狩低地帯の境界部に位置する。石狩低地帯は,地形学的にも北
海道を分ける低地帯で,地質区分上も重要である。石狩低地帯東部の丘陵部は中央部北海
道の第三紀褶曲帯に当たり,新第三紀中新世~鮮新世の主として泥岩・砂岩・礫岩や硬質
頁岩などの砕屑性堆積岩の地層が北西―南東方向の走向で厚く分布し,雁行状の背斜・向
斜構造の配列が見られる。これに対して西側の西南北海道東部地域では新第三紀中新世~
鮮新世の凝灰岩・凝灰角礫岩や安山岩質溶岩などの火山砕屑物が厚く発達する。石狩低地
帯は更新世~完新世の泥岩・砂岩・礫岩などが広く分布する(北海道開発局,1985)
。
海域では苫小牧から尻屋崎東方には南北に連なる重力および地磁気の異常帯が認められ,
苫小牧リッジと呼ばれている。苫小牧リッジは内容不詳の基盤岩類(ジュラ~白亜紀前期)
から構成される南北トレンドの構造的高まりである。苫小牧リッジは東方の白亜系~第三
系が厚く発達する日高堆積盆の西縁付近に位置するとともに,東北地方日本海側から連続
するグリーンタフ地域(上記,北海道地質構造区分による西南北海道東部地域と同一)の
東縁にあたる(石油公団,1996)
。
苫小牧リッジの近傍では基盤(ジュラ~白亜紀前期)の上に古第三系が分布し,日高堆
積盆中心部に発達する白亜系蝦夷累層群相当層は欠如している。また,リッジの西側では
基盤(ジュラ~白亜紀前期)の上に新第三紀のグリーンタフが発達し,これまで白亜系お
よび古第三系は発見されていない。一方,グリーンタフを構成する火山岩・火砕岩類から
なる地層は既存坑井では滝の上層と称され,その岩相はリッジ付近を境として,東側で泥
質岩類へと急激に変化している。また,それと呼応するかのように,リッジ東部ではその
上位に振老層が出現し,東方に向かって厚く発達する(石油公団,1996)
。
苫小牧沖にはほぼ南北のトレンドを有する新第三系による背斜構造群が 4 系列存在する。
それらは西から白老沖構造,苫小牧沖 A 構造~苫小牧沖 C 構造系列,静川構造~勇払沖 A
構造~勇払沖 B 構造系列,鵡川沖 A 構造と称されている(石油公団,1996)
。
53
3) 地質構造モデル
苫小牧沖沿岸域の解析対象領域を図 3-5 に示す。基本データとなる堆積層三次元マップ
は,3 次元水文地質モデルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,
N1,Pre-N1 に区分されている。構築した地質モデルの俯瞰図及び断面図を図 3-6 と図 3-7
に示す。
図 3-5 苫小牧沖沿岸域解析対象領域
54
図 3-6 地質構造モデル俯瞰図(苫小牧沖沿岸域)
図 3-7 地質モデル断面図(苫小牧沖沿岸域)
55
(3) 新潟沖沿岸域
新潟平野沿岸域の解析対象領域を図 3-8 に示す。基本データとなる堆積層三次元マップ
は,3 次元水文地質モデルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,
N1,Pre-N1 に区分されている。また,解析対象領域内については,海陸シームレス地質
情報集「新潟沿岸域」
(岡村ほか,2011)
,20 万分の 1 地質図,海底地質図の補助データ
を基本データに補足的に追加して地質モデルを構築した。構築した地質モデルの俯瞰図及
び断面図を図 3-9 と図 3-10 に示す。
図 3-8 新潟沖沿岸域解析対象領域
56
図 3-9 地質構造モデル俯瞰図(新潟沖沿岸域)
図 3-10 地質モデル断面図(新潟沖沿岸域)
57
(4) 庄内平野沿岸域
庄内平野沿岸域の解析対象領域を図 3-11 に示す。海岸線から陸域距離,海域距離が大き
く変わらないこと,北側に位置する海底地形の窪地部分を反映することを踏まえ,EL.-600
m までを解析範囲とした。基本データとなる堆積層三次元マップは,3 次元水文地質モデ
ルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,N1,Pre-N1 に区分さ
れている。また,解析対象領域内については,20 万分の 1 地質図,海底地質図の補助デー
タを基本データに補足的に追加して地質モデルを構築した。構築した地質モデルの俯瞰図
及び断面図を図 3-12 と図 3-13 に示す。
10
20 km
図 3-11 庄内平野沿岸域解析対象領域
58
図 3-12 地質構造モデル俯瞰図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(庄内平野沿岸域)
図 3-13 地質モデル断面図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(庄内平野沿岸域)
59
(5) 福井平野沿岸域
福井平野沿岸域の解析対象領域を図 3-14 に示す。解析領域に対する海域の範囲は,海岸
線から陸域の占める距離と同じ程度となるように EL.-300 m までとした。基本データとな
る堆積層三次元マップは,3 次元水文地質モデルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,
Q2,Q1,N3,N2,N1,Pre-N1 に区分されている。また,解析対象領域内については
20 万分の 1 地質図,海底地質図の補助データを基本データに補足的に追加して地質モデル
を構築した。構築した地質モデルの俯瞰図及び断面図を図 3-15 と図 3-16 に示す。
10
20 km
図 3-14 福井平野沿岸域解析対象領域
60
図 3-15 地質構造モデル俯瞰図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(福井平野沿岸域)
図 3-16 地質モデル断面図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(福井平野沿岸域)
61
(6) 静岡平野沿岸域
静岡平野沿岸域の解析対象領域を図 3-17 に示す。海域は海溝と認められる EL.-1,600 m
までを解析範囲とした。これは,同地域は陸域に富士山があるため,後背山地の高いポテ
ンシャルに配慮したためである。基本データとなる堆積層三次元マップは,3 次元水文地
質モデルに基づいたデータであり,地層は H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,N1,Pre-N1 に
区分されている。また,解析対象領域内については 20 万分の 1 地質図,海底地質図の補
助データを基本データに補足的に追加して地質モデルを構築した。構築した地質モデルの
俯瞰図及び断面図を図 3-18 と図 3-19 に示す。
10
20
km
図 3-17 静岡平野沿岸域解析対象領域
62
図 3-18 地質構造モデル俯瞰図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(静岡平野沿岸域)
図 3-19 地質モデル断面図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(静岡平野沿岸域)
63
(7) 宮崎平野沿岸域
宮崎平野の解析対象領域を図 3-20 に示す。解析対象領域は,海岸線から陸域距離と海域
距離が大きく変わらない範囲に配慮し,EL.-500 m までの範囲を選定した。
基本データとなる堆積層 3D マップは,
3 次元水文地質モデルに基づいたデータであり,
地層は年代ごとに H,Q3,Q2,Q1,N3,N2,N1,Pre-N1 に区分されている。また,
解析対象領域内については,20 万分の 1 地質図,海底地質図の補助データを基本データに
補足的に追加して地質モデルを構築した。構築した各層の地質モデルの解析対象領域全体
図,俯瞰図および断面図を図 3-21 と図 3-22 に示す。
10
20
km
図 3-20 宮崎平野沿岸域解析対象領域
64
図 3-21 地質構造モデル俯瞰図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(宮崎平野沿岸域)
図 3-22 地質モデル断面図(高さ方向 2.25 倍に拡大)(宮崎平野沿岸域)
65
3-4 地下水流動解析による海底下地下水流動性評価
3-4-1 地下水流動解析モデルの構築
(1) 磐城沖沿岸域
モデルの離散化は,水平方向を 1km×1km とし,深度方向はそれぞれ地表面から 100m
間隔のグリッドに分割した。解析グリッド鳥瞰図を図 3-23 に示す。解析グリッド数は
187,380 となった。
透水係数
(m/day)
図 3-23 解析グリッド鳥瞰図(磐城沖沿岸域)
(2) 苫小牧沖沿岸域
モデルの離散化は,水平方向を 1km×1km とし,深度方向はそれぞれ地表面から 100m
間隔のグリッドに分割した。解析グリッド鳥瞰図を図 3-24 に示す。解析グリッド数は
69,044 となった。
透水係数
(m/day)
図 3-24 解析グリッド鳥瞰図(苫小牧沖沿岸域)
66
(3) 新潟沖沿岸域
モデルの離散化は,水平方向を 1km×1km とし,深度方向はそれぞれ地表面から 100m
間隔のグリッドに分割した。解析グリッド鳥瞰図を図 3-25 に示す。解析グリッド数は
522,335 となった。
透水係数
(m/day)
図 3-25 解析グリッド鳥瞰図(新潟沖沿岸域)
(4) 庄内平野沿岸域
解析メッシュ図の鳥瞰図を図 3-26 に示す。要素数は 503,976 となった。
図 3-26 解析メッシュ鳥瞰図(庄内平野沿岸域)
67
(5) 福井平野沿岸域
解析メッシュ図の鳥瞰図を図 3-27 に示す。要素数は 329,960 となった。
図 3-27 解析メッシュ鳥瞰図(福井平野沿岸域)
(6) 静岡平野沿岸域
解析メッシュ図の鳥瞰図を図 3-28 に示す。要素数は 898,716 となった。
図 3-28 解析メッシュ鳥瞰図(静岡平野沿岸域)
68
(7) 宮崎平野沿岸域
解析メッシュ図の鳥瞰図を図 3-29 に示す。要素数は 382,986 となった。
図 3-29 解析メッシュ鳥瞰図(宮崎平野沿岸域)
69
3-4-2 解析プログラム
(1) 対象流体系
本検討では沿岸域の陸域・海域の連続的な地下水流動を適切に捉えることが重要である。
沿岸域では,海水と淡水の密度差により,地下深部において,密度の小さい淡水の下方に
密度の大きい海水が潜り込む密度流が発生し,塩淡漸移帯を形成する。海水と淡水の密度
差は主に海水中の塩分によるものであり,淡水と海水が接触する塩淡漸移帯では,海水中
の塩分が淡水中に拡散し海水と淡水が混在する。また,地表面付近においては,地下水面
の上方に不飽和帯が発達し,地下水と土壌中の空気が相互に流れる状態となる。庄内平野
沿岸域,福井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域においては,対象とする流体
システムを水・空気の 2 相流とし,それに加え地下水中の塩分を追跡することにより海水・
淡水の密度流を考慮することとした。
(2) 支配方程式
磐城沖沿岸域,苫小牧沖沿岸域,新潟沖沿岸域においては,水,塩分濃度を対象とした
下記の支配方程式を適用した。

   K f



f
 h 
f

f

 
h f
 C
z   S

 qs
f
 
t
C t
 
 
N
q
C
   D  C     vC  s C s   Rk
t

k 1
 : 流体密度、 f : 淡水密度、K f : 透水係数テンソル、h f : 等価淡水水頭、S f : 比貯留係数、
 : 間隙率、C : 溶質濃度、q s・C s :ソース/ シンク項、D : 水理学的分散係数、Rk : 反応項
一方,庄内平野沿岸域,福井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域においては,
水,空気,塩分濃度を対象とした支配方程式を適用した。各式は,それぞれ標準状態での
水,空気,塩分に関する質量収支式を表す。
(水)


Kkrw
S 

    w
 w    w q w    w w 
 w Bw
t 
Bw 


(空気)


Kkrg
Sg 


  g
 g    g q g    g 





B

t
B
g
g
g 



(塩分)
 Kkrw R s

 S R
  
 w     D p Rs  f s   w s
t  Bw
  w Bw

70



ここに,添え字 p は水相および空気相を示し,水( w ),空気( g )に関する諸量であること
を表わし,各変数を以下に示す。
K
:絶対浸透率 [m2]
k rp
:P 相の相対浸透率
p
Bp
p
p
[]
:P 相の粘性係数 [Pa‧s]
:P 相の容積係数
[]
:P 相の流体ポテンシャル [Pa]
:P 相の密度 [kg/m3]
qp
:単位体積当たりの P 相の生産圧入速度 [m3/m3/s]

:有効空隙率
Sp
:P 相の飽和度
Rs
:溶存物質の単位体積当たりの地下水体積に対する溶存比 [m3/m3]
Dp
:拡散係数 [m2/s]
fs
:吸着・脱離による物質の相間移動量 [m3/m3/s]
[]
[]
また,拡散係数 Dp は,3 次元方向成分のそれぞれについて次式に従う。
DpX 
DpY 
DpZ 
DmG
v y2
vx2
v2
  L  T  T z
V
V
V
DmG
v y2
vx2
v2
 T   L  T z
V
V
V


DmG

 T
v2
vx2
v2
 T y   L z
V
V
V
 S  S wr
G   w
V  v v v
 1  S wr
,
2
x
2
y
2
z



71
ここで,Dm は分子拡散係数(m2/s), L は縦分散長, T は横分散長, は屈曲度である。
単位体積当たりの地下水に対する塩分の体積比 RS と塩分濃度 C S (mg/ℓ)との関係は以下の
ように書ける。
CS 
RS  s
 10 3
1  RS
ここで,  S は塩分の固体密度(g/cm3),  は固体塩分が水に溶解した際の塩分の体積減率
を示す。V s を固体塩分の体積(m3),Vsol を溶液の体積(m3),V w を水の体積(m3)とすると,
は以下のように書ける。

Vsol  Vw
Vs
以上の基本方程式を数値的に解くことで,任意の時刻,地点における圧力,水飽和度,塩
分濃度を得ることができる。
72
(3) 使用コード
磐城沖沿岸域,苫小牧沖沿岸域,新潟沖沿岸域においては,使用コードに SEAWAT2000
を選定した。SEAWAT は地下水流動解析プログラムである MODFLOW と溶質輸送解析
プログラムである MT3DMS を連成させたプログラムであり,塩濃度の変化に応じて流体
密度を適宜変更し,
地下水流動の駆動力に反映させることが可能である。
本プログラムは,
90 年代後半の初期バージョンの公開以来,世界中の塩水化問題に適用されており,現在で
も多くの研究者が利用している(例えば,SWIM,2010)
。
一方,庄内平野沿岸域,福井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域においては,
汎用地圏流体シミュレータ GETFLOWS を用いた。本コードは,空間離散化に積分型有限
差分法(IFDM)を採用し,コーナーポイント型差分格子を用いることにより,柔軟な空
間表現が可能となっている。また,時間差分については完全陰的に取り扱う。陰解法のた
め,線形マトリックスソルバーが搭載され,その前処理に Nested Factorization(NF)を
採用し共役残差法(Orthomin)を用いている。本解析コードは,接続する各格子間の流
量と格子内の物質収支を完全に満たす解を得ることが特徴である。また,大容量計算を高
速処理するため,非線形反復過程の中で収斂した格子をソルバーから自動的に除外する逐
次陽化処理や領域分割法によるスカラー並列計算手法を採用し,実用規模の 3 次元問題を
より効率的に解くことを可能とする。
73
3-4-3 解析に用いるパラメータの収集
(1) 透水係数
梅田(1996)にて示されている透水係数データを表 3-1 に示す。同データを用いて,解
析モデルに反映する地質区分に対応する地層構造を分類した。表 3-2 に分類結果を示す。
各地層区分に属する地層構造データを平均し,解析に用いる透水係数を表 3-3 のように設
定した。
表 3-1 透水係数データ
記号
Q 2 -Hmsg
地質時代
岩相の特徴
固結度
log(cm/s)
cm/s
後期更新世~完新世
非海成~浅海成堆積物
未固結
-3.18
6.6E-04
Qls
第四紀
礫成石灰岩
礫岩~軟岩
-1.06
8.7E-02
Qv
第四紀
火山岩~火山性砕屑物
礫岩、未固結
-3.97
1.1E-04
Qp
第四紀
火山性砕屑物
未固結、硬岩
-3.66
2.2E-04
Qtg
第四紀
段丘堆積物
未固結
-2.21
6.2E-03
Qmsg
第四紀
非海成~浅海成堆積物
未固結~反固結
-2.94
1.1E-03
N-Qvp
鮮新世~更新世
陸成火山岩
硬岩~未固結
-3.98
1.0E-04
Nms
新第三紀
解析堆積物
固結~軟岩
-4.06
8.7E-05
Nvp
新第三紀
海底火山噴出物
硬岩
-4.37
4.3E-05
非海成~浅海成堆積物
軟岩
-4.7
2.0E-05
白亜紀~古第三紀
陸成火山岩
硬岩
-4.37
4.3E-05
後期中生代~古第三紀
白亜紀
優地向斜層およびフリッシュ堆積物
海成乱堆積相堆積物
硬岩
-4.14
7.2E-05
優地向斜相堆積物
硬岩
-4.35
4.5E-05
PG-Nmsg 古第三紀~中新世
K-PGvp
Kms
P-Mmscvp 古生代~前期中生代
P-Mls
古生代~前期中生代
優地向斜相堆積物
硬岩
-3.8
1.6E-04
P-Msch
古生代~前期中生代
優地向斜相堆積物
硬岩
-4.21
6.2E-05
sp
先第四紀
超苦鉄質・苦鉄質貫入岩
硬岩
-3.88
1.3E-04
gr
先第四紀
酸性貫入岩片麻岩
硬岩
-4.19
6.5E-05
-3.56
2.8E-04
全データ
74
表 3-2 透水係数データの地質区分ごとの分類
地質区分
H
記号の対応
log(cm/s)
cm/s
Q2-Hmsg
-3.18
6.6E-04
Qtg
-2.21
6.2E-03
Q2-Hmsg
-3.18
6.6E-04
Qtg
-2.21
6.2E-03
Qp
-3.66
2.2E-04
Qv
-3.97
1.1E-04
Qp
-3.66
2.2E-04
Qv
-3.97
1.1E-04
Qmsg
-2.94
1.1E-03
N-Qvp
-3.98
1.0E-04
N-Qvp
-3.98
1.0E-04
Nms
-4.06
8.7E-05
Nms
-4.06
8.7E-05
Nvp
-4.37
4.3E-05
Nms
-4.06
8.7E-05
Nvp
-4.37
4.3E-05
PG-Nmsg
-4.7
2.0E-05
Nvp
-4.37
4.3E-05
PG-Nmsg
-4.7
2.0E-05
PG-Nmsg
-4.7
2.0E-05
Q3
Q2
Q1
N3
N2
N1
BASE
75
表 3-3 解析に用いる透水係数
地層区分 採用値(cm/s)
H
3.4E-03
Q3
1.8E-03
Q2
3.9E-04
Q1
9.6E-05
N3
6.5E-05
N2
5.0E-05
N1
3.1E-05
B
2.0E-05
(2) 有効間隙率
有効間隙率に関する一般値を表 3-4,表 3-5 と表 3-6 に示す(日本地下水学会,2010;
核燃料サイクル開発機構,1999)
。これらのデータから,第四紀に該当するデータを表 3-7
に,新第三紀堆積岩に該当するデータを表 3-8 に,新第三紀よりも古い地層に該当するデ
ータを表 3-9 にそれぞれ取りまとめた。解析に用いる各層の有効間隙率は,表 3-7~表 3-9
の平均値を参考にして表 3-10 に示す値とした。
表 3-4 有効間隙率データ①
76
表 3-5 有効間隙率データ②
表 3-6 有効間隙率データ③
77
表 3-7 H 層及び Q3~Q1 層の有効間隙率決定に用いたデータ
地質
有効間隙率データ
(%)
沖積礫層
15.0
細砂
15.0
砂丘砂層
20.0
泥粘土質層
15-20
洪積砂礫層
15-20
砂層
30.0
ローム層
20.0
泥層粘土層
5-10
平均値
17.8
*幅があるデータは中央値を用いて平均値を算出
表 3-8 N3~N1 層の有効間隙率決定に用いたデータ
有効間隙率データ
地質
(%)
頁岩(固結度の高いもの)
0.3-5
頁岩(固結度の低いもの)
10-25
安山岩
1-7
玄武岩(割れ目がないもの)
0.5-5
玄武岩(少し割れ目のあるもの)
5-7
砂岩(固結度の高いもの)
0.6-7
砂岩(固結度の低いもの)
20-42
新第三紀堆積岩(砂質岩)
17.9
新第三紀堆積岩(泥質/凝灰質岩)
20.0
*幅があるデータは中央値を用いて平均値を算出
78
平均値
10.4
表 3-9 基盤(BaseRock)の有効間隙率決定に用いたデータ
有効間隙率データ
地質
(%)
結晶質岩(酸性岩)
4.0
結晶質岩(塩基性岩)
7.0
先新第三紀堆積岩(砂質岩)
6.5
先新第三紀堆積岩(泥質/凝灰質岩)
7.7
平均値
6.3
表 3-10 解析に用いる有効間隙率
地層区分
有効間隙率
(%)
H
20
Q3
15
Q2
15
Q1
15
N3
10
N2
10
N1
10
BaseRock
5
備考
表 3-7 の平均値 17.8%を参考に設定
表 3-7 の平均値 17.8%を参考に設定
表 3-8 の平均値 10.4%を参考に設定
表 3-9 の平均値 6.3%を参考に設定
79
(3) 地盤の圧縮性
一般的に浸透流解析コードで用いられる比貯留係数と圧縮率は,次式の関係となってい
る(濱ほか,2007)
。
S S   w g (cr  c f  )
ここで,
式 (1)
S S は比貯留係数[1/m],  w は水の密度(=998.2)[kg/m3], g は重力加速度
(=9.81)[m/s2],c r は一次元的な変形をする場合の排水条件下における岩石の圧縮率[1/Pa],
cf
は水の圧縮率(=4.5×10-10)[1/Pa],  は間隙率[-]である。代表的な地盤と比貯留係数を
表 3-11 に示す。
表 3-11 比貯留係数の代表例
比貯留係数下限
比貯留係数上限
(1/m)
(1/m)
塑性粘土
2.60×10-3
2.00×10-2
締まった粘土
1.30×10-3
2.60×10-3
やや硬い粘土
9.20×10-4
1.30×10-3
ルーズな砂
4.90×10-4
1.00×10-3
密な砂
1.30×10-4
2.00×10-4
密な砂礫
4.90×10-5
1.00×10-4
割れ目のある岩石
3.30×10-6
6.90×10-5
固結した岩石
-
3.30×10-6
物質
80
比貯留係数の
対数平均値
(1/m)
6.97×10-4
7.06×10-6
表 3-11 と式(1)を用いて導出した地盤の圧縮率を表 3-12 に示す。ここで地層区分 H,
Q1~Q3 は砂・粘土・砂礫質,地層区分 N1~N3 と BaseRock は岩石とみなし,表 3-12
に示した比貯留係数の対数平均値を用いた。
表 3-12 解析に用いた各地層区分の比貯留係数及び地盤の圧縮率
有効間隙率
比貯留係数
地盤の圧縮率
(-)
(1/m)
(1/Pa)
H
0.20
6.97×10-4
7.11×10-8
Q3
0.15
6.97×10-4
7.11×10-8
Q2
0.15
6.97×10-4
7.11×10-8
Q1
0.15
6.97×10-4
7.11×10-8
N3
0.10
7.06×10-4
6.76×10-10
N2
0.10
7.06×10-4
6.76×10-10
N1
0.10
7.06×10-4
6.76×10-10
BaseRock
0.05
7.06×10-4
6.98×10-10
地層区分
81
(4) 分子拡散係数
解析に用いる塩水の分子拡散係数は,表 3-13 に示す分子拡散係数データより,Na+,Clの分子拡散係数の平均 16.8×10-10m2/s を参考として 20.0×10-10 m2/s を用いた。
表 3-13 分子拡散係数データ一覧
82
(5) 分散長
解析に用いる縦方向分散長は,図 3-30 に示す観測規模(移行経路長)と分散長の関係に
基づき,地層処分が実施される地下深部からの移行経路長は km スケールになることを想
定して 100 m とした。横方向分散長は,縦方向分散長の 1/10 とした。
図 3-30 観測規模と分散長
(6) 海水の物性値
海水の塩分濃度は,
日本近海の表面塩分を参考に平均的な値として 35 PSU とした。
PSU
とは「実用塩分 1978」と呼ばれ単位はなく,海水 1kg 中に含まれる固形物質を g で表し
た物に相当する。海水中に含まれる固形物質が全て塩分であると仮定した場合,一般的な
海水の密度 1.025 (g/cm3)から,海水の塩分濃度 C S は 35,875(mg/ℓ)となる。式(1)より単
位体積当たりの地下水に対する塩分の体積比 RS に換算すると 0.0167(m3 /m3)である。また,
塩分の固体密度  S が 2.17(g/cm3)のとき,式(1)より固体塩分が水に溶解した際の塩分の
体積減率  は 0.658 となる。
83
3-4-4 解析の手順
数値解析は図 3-31 に示す手順で実施した。初期洗い出し解析は,間隙水中の塩水濃度を
解析領域全域で海水と同じ塩水濃度(19,000 ppm)に設定した状態から,降雨涵養(塩水
濃度=0 ppm)による塩水の洗い出しを行い,現在の塩水濃度に近い分布を求めた。初期洗
い出しの照査は,
“いどじびき”等の既往調査に基づいて判断を行った。
洗い出し解析によって,ある時刻の塩水濃度分布が既往調査と整合した後は,その時刻
の塩水濃度分布を初期状態(現在の状態)として海水準変動解析を実施した。海水準変動
解析は,1 サイクル 12 万年とし,10 万年で 120 m 海退,2 万年で 120 m 海進する条件を
5 サイクル繰り返した。なお,現在の海水位は最海進期から-5 m 海退した状態として条件
設定を行った。海水準変動期間の気候変化に対応させる目的で,降雨量についても最海進
期 1 mm/日,最海退期 0 mm/日とした条件を設定した。
海水準変動期間の解析結果に対しては,塩淡境界面や淡水賦存量などについて取りまと
めた。
【解析結果照査】
初期洗い出し解析
いどじびき
深井戸台帳
温泉地科学データベース
洗い出し継続
現在の塩水濃度
分布との比較
No
Yes
海水準変動解析
(1 サイクル 12 万年×5)
【解析結果】
塩淡境界面の表示
淡水賦存量の把握
END
図 3-31 解析の流れ
84
3-4-5 解析条件
(1) 涵養量
1) 初期洗い出し期間
初期洗い出し期間における涵養量については,以下のように推定した。ある流域の水収
支は,人間活動を考慮しなければ,降水量を P,蒸発散量を E,流出量を R とすると以下
のように記載される。
P=E+R
流出量 R は,河川による直接流出量 Rd,いったん地下へ涵養した後に地上へ流出する
水量 Rg,
及び地下へ涵養した後に地上へ流出せずに海域へ流れ込む水量 RS に分けられる。
ここで,RS は Rd や Rg と比べて十分小さいと仮定すると,Rg は涵養量に等しいと考え
られる。流出量 R に占める降雨涵養量の割合(Rg / R)は,地下水ハンドブック編集委員
会(1979)によると全世界でほぼ同じ値を示し,日本国内では 0.29~0.33 程度であるこ
とが推定されており,本検討では中間値の 0.31 を採用した。よって,涵養量の推定値は,
降水量 P と蒸発散量 E を用いて以下の式で得られる。
Rg  ( P  E )  0.31
降水量 P については,気象庁が公開しているメッシュ気候値の年間平均値を使用した。
メッシュ気候値は,1971~2000 年の 30 年間の全国の気象台・測候所等に加えアメダスの
平年値と,標高・勾配などの地形因子や都市因子(ヒートアイランドなど)との統計的な
関係を重回帰分析により,1 km メッシュで年間平均値と月別平均値を推定したものであ
る。
蒸発散量 E については,気温と可照時間のみから可能蒸発散量 Ep を推定できるハーモ
ン(Harmon)法を採用し,可能蒸発散量に補正係数 0.65 を乗じることにより実蒸発散量
を求め,これを蒸発散量 E とした。使用する気温データは降水量と同じくメッシュ気候値
の年間平均値を使用した。
ハーモン法よる可能蒸発散量は以下の諸式を用いて算定される。
E p  0.14D02 pt
ここで,Ep は日平均蒸発散量(mm/日)
,D0 は 12 時間を 1 に規格化した可照時間(-)
,
pt は飽和絶対湿度(g/m3)を示す。飽和絶対湿度 pt は理想気体を仮定し,飽和水蒸気圧
esat(hPa)と温度 T(℃)から以下の式によって算出した。
85
pt 
217  esat
T  273.15
ここで,飽和水蒸気圧 esat は以下に示す Lowe の式(Lowe,1977)より求めた。
esat  A0  T ( A1  T ( A2  T ( A3  T ( A4  T ( A5  A6T )))))
A0  6.107799961
A1  4.43651852110 1
A2  1.428945805 10 2
A3  2.65064847110 4
A4  3.031240396 10 6
A5  2.034080948 10 8
A6  6.136820929 10 11
可照時間
D0 は地下水ハンドブックに示されている昼の長さの補正値を用いた(表 3-14)。
表 3-14 北緯に対する昼の長さ
北
10
11
12
月
月
月
1.03
0.97
0.86
0.85
1.16
1.03
0.97
0.86
0.84
1.25
1.17
1.03
0.97
0.85
0.83
1.25
1.17
1.04
0.96
0.84
0.83
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
35
0.87
0.85
1.03
1.09
1.21
1.21
1.23
1.16
36
0.87
0.85
1.03
1.10
1.21
1.22
1.24
37
0.86
0.84
1.03
1.10
1.22
1.23
38
0.85
0.84
1.03
1.10
1.23
1.24
緯
以上より求めた降雨涵養量,各解析対象領域で概ね 1 mm/日前後であった。
86
2) 海水準変動期間
図 3-32 に海水準変動期間に作用させる降雨涵養量変化を示す。メッシュ気候値より,現
在の降雨涵養量がおよそ 1 mm/日前後と推定されるため,最海進期における降雨涵養量を
1.0 mm/日とする。最海退期では 0.0 mm/日として,その期間は線形で補間した。
1.2
降雨涵養量(mm/日)
1周期
2周期
3周期
4周期
5周期
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
12
24
36
48
経過時間(万年)
図 3-32 海水準変動時に涵養させる降雨量
87
60
(2) 海水位条件
1) 初期洗い出し期間
初期洗い出し期間における海水位条件は,現在の海岸線より海域の海底面に対して,水深
×塩水密度から計算される水圧を固定条件として作用させた。
2) 海水準変動期間
海水準変動期間における海水位条件は図 3-33 に示す変動データを適用した。現在の海水
位は,最海進期から-5.0m 低下した状態となる。海水準変動は,以後,経過時間 10 万年で
最海退期の海水位-115m に達し,その後 2 万年で最海進期の海水位 + 5.0m まで上昇する
ものとした。
海水位E.L.(m)
50
0
-50
-100
1周期
2周期
3周期
4周期
5周期
-150
0
12
24
36
48
経過時間(万年)
図 3-33 海水準変動期間に作用させる海水位変動
88
60
(3) 塩水濃度分布
1) 初期洗い出し解析期間
初期洗い出し解析期間においては,解析対象領域全域に対し,間隙水中の塩分濃度を海
水と同じ値(19,000 ppm)に設定した。また,地表面の降雨設定面は淡水の塩分濃度を
0.0 ppm として設定した。
2) 海水準変動期間
海水準変動期間における降雨/海水位の設定条件は,図 3-34 に示すように,海水位の状
態によって,降雨/海水位設定の切り替えを行った。この切り替えは,海水位が 1 m 変化
するごとに,海水位に対する地表面座標の上下判定を行い,地表面座標>海水位である場
合は降雨設定,地表面座標<海水位となった場合は海水位設定とした。
①
最海進期
(現在+5m)
②
現在
最海退時
(現在-115m)
③
④
・初期洗い出し期間:①-③⇒降雨設定,③-④⇒海水位設定
・海水準変動期間(最海退時)
:①-④⇒降雨設定
・海水準変動期間(最海進時)
:①-②⇒降雨設定,②-④⇒海水位設定
*解析に際しては段階的に,降雨/海水位設定の範囲を増減させる
図 3-34 海水準変動期間における降雨/海水位設定の概念
89
3-5 海底下地下水流動の評価予測
(1) 磐城沖沿岸域
1) 初期洗い出し解析
洗い出し完了時における塩分濃度分布図および塩分濃度の等値線図、鉛直地下水流動量
の分布図を図 3-35 と図 3-36 に示す。塩淡境界面は現海岸線より概ね沖合 2~3km の範囲
にまで拡がっている。
図 3-35 塩分濃度分布(磐城_洗い出し完了時)
図 3-36 塩分濃度の等値線図(磐城_洗い出し完了時)
90
2) 海水準変動解析
変動 2 周期目の最海退期、変動 5 周期目の最海進期の塩分濃度等値線図を図 3-37、図
3-38 に示す。堆積層が比較的厚く分布するいわき市浅海域で境界深度が深くなっており,
海底下地下水の存在が推定される。
図 3-37 変動 2 周期目の最海退期の塩分濃度等値線図(磐城)
図 3-38 変動 5 周期目の最海進期の塩分濃度等値線図(磐城)
91
(2) 苫小牧沖沿岸域
1) 初期洗い出し解析
洗い出し完了時における塩分濃度分布図および塩分濃度の等値線図を図 3-39 と図 3-40
に示す。堆積平野北部で東西から流動してくる地下水の流出域が存在する。また,海底湧
水が沖合 5km まで拡がることが分かる。
図 3-39 塩分濃度分布(苫小牧_洗い出し完了時)
側線①
図 3-40 塩分濃度の等値線図(苫小牧_洗い出し完了時)
92
2) 海水準変動解析
変動 5 周期目の最海退期、最海進期の塩分濃度等値線図を図 3-41 に、図 3-42 に示す側
線①における最大海退期、
最大海進期における塩分濃度分布図と流速分布図を図 3-43 に示
す。浅層部の淡水と塩水の置換が素早く生じ,海底下地下水が残りにくい状況になってい
る。
図 3-41 変動 5 周期目の最海退期の塩分濃度等値線図(苫小牧)
図 3-42 変動 5 周期目の最海進期の塩分濃度等値線図(苫小牧)
93
最大海退期
淡水
V=10-2 ~
10-3 m/day
最大海進期
塩水
V=10-7
m/day
図 3-43 最大海退期・最大海進期における塩淡境界形状と流速分布図
94
(3) 新潟沖沿岸域
1) 初期洗い出し解析
洗い出し完了時における塩分濃度分布図および塩分濃度の等値線図を図 3-44 と図 3-45
に示す。越後平野南部に活発な地下水流動が生じている。海底湧水が沖合 5km まで拡が
る様子が窺える。
図 3-44 塩分濃度分布(新潟_洗い出し完了時)
図 3-45 塩分濃度の等値線図(新潟_洗い出し完了時)
95
2) 海水準変動解析
変動 1 周期目の最海退期の地下水ポテンシャル等高線図と流速分布図、塩分濃度分布図
を図 3-46、図 3-47 に示す。地形勾配の緩やかな新潟平野北部に向かって地下水が集まる
様子が窺える。また、塩淡境界とモデル境界が近接してしまった影響が否定できないが、
淡水域が 10km 程度沖合まで拡がり、海退期においてもその影響が残存していることが分
かる。
図 3-46 変動 1 周期目の最海進期の地下水ポテンシャル等高線図と流速分布図(新潟)
図 3-47 変動 1 周期目の最海進期の塩分濃度分布(新潟)
96
(4) 庄内平野沿岸域
1) 初期洗い出し解析
洗い出し完了時における水飽和度分布を図 3-48 に示す。標高が低い平野部において,高
い飽和度の状態が広く分布している。井戸データと解析結果の塩分濃度の比較を図 3-49
に示す。解析結果は観測値よりも若干高い値を示した。
塩分濃度分布図および塩分濃度の等値線図を図 3-50 と図 3-51 にそれぞれ示す。水飽和
度が高い平野部において,塩淡境界が陸域に侵入している様子が確認できる。図 3-51 に示
した側線位置に対応する断面の塩淡境界分布および流速ベクトル分布を図 3-52~図 3-54
に示す。側線①は塩淡境界を淡水が海域へ押し込む分布を示し,反対に,側線②では陸域
方向へ塩淡境界が大きく侵入する分布を示した。
図 3-48 水飽和度分布(庄内_洗い出し完了時)
97
100,000
解析結果(mg/l)
10,000
1,000
100
10
1
1
10
100
1,000
観測濃度(mg/l)
10,000
100,000
図 3-49 井戸データと解析結果の塩分濃度比較(庄内)
図 3-50 塩分濃度分布(庄内_洗い出し完了時)
98
図 3-51 塩分濃度等値線図(庄内_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-52 側線①の塩淡境界および流向分布(庄内_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-53 側線②の塩淡境界および流向分布(庄内_洗い出し完了時)
99
海岸線
図 3-54 側線③の塩淡境界および流向分布(庄内_洗い出し完了時)
2) 海水準変動解析
各時間の塩分濃度等値線図を図 3-55~図 3-59 に示す。最海退期でも,洗い出し完了時
に分布している陸域深部の塩淡境界位置は変化しなかった。このことから,平野部直下の
地下水流動は緩慢となっていると考えられる。
一方,側線①として示した領域においては,
海水位の変動に対応して,顕著な塩淡境界の変動が確認できる。海水準変動の 1 周期目と
5 周期目の挙動に大きな差異は見られない。
現在の海岸線より陸域および海域の堆積層の淡水賦存量の変化をそれぞれ図 3-60 と図
3-61 に示す。陸域の堆積層の多くが,海水位の低下に伴い,賦存量が上昇する傾向を示し
た。庄内平野の堆積層はすべての層が海から陸にかけて広範囲に分布している。したがっ
て,
海水位の低下に伴い,
海域方向へ後退する塩淡境界が淡水へ置換されたと考えられる。
海域部についても,新たに地表面となった部分からの淡水流入の面積の拡大に対応して,
海水位の低下に伴って淡水賦存量はすべての層で上昇を示した。
図 3-55 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の塩分濃度等値線図(庄内)
100
図 3-56 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の塩分濃度等値線図(庄内)
図 3-57 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の塩分濃度等値線図(庄内)
101
図 3-58 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の塩分濃度等値線図(庄内)
図 3-59 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の塩分濃度等値線図(庄内)
102
海水位(m)
20.0
0.0
-20.0
-40.0
-60.0
-80.0
-100.0
-120.0
0
10
20
30
40
50
60
100.0
H_Land
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Land
Q2_Land
10.0
Q1_Land
N3_Land
N2_Land
N1_Land
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-60 現海岸線より陸域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(庄内)
100.0
H_Sea
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Sea
Q2_Sea
10.0
Q1_Sea
N3_Sea
N2_Sea
N1_Sea
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-61 現海岸線より海域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(庄内)
103
(5) 福井平野沿岸域
1) 初期洗い出し解析
洗い出し完了時における水飽和度分布を図 3-62 に示す。同図から,平野部や谷合い部を
中心に広い範囲で飽和度 0.9 ~ 1.0 の分布となっていることが確認できる。この領域は地
下水流向としては流出側となっていると考えられる。一方,飽和度 0.8 以下の領域につい
ては涵養域と推測することができ,降雨浸透の影響によって地下水は下方へ流動している
可能性が考えられる。
井戸データ(参照:いどじびきデータ)と洗い出し完了時における解析結果の塩分濃度
の比較を図 3-63 に示す。井戸データは,該当箇所の緯度,経度,深度,塩分濃度として整
理されており,解析結果は,該当箇所を含有する格子における値を抽出して比較した。井
戸データは陸域で観測されたデータであるため,塩分濃度は 100 mg/L 以下の低い値が主
であったが,解析結果は比較的井戸データに調和的であった。
塩分濃度分布の鳥瞰図および塩分濃度の等値線図の鳥瞰図を図 3-64 と図 3-65 に示す。
塩分濃度の等値線図から,解析領域中央部において,陸域方向に 1,000 mg/L 以上の塩分
濃度が内陸部へ広範囲に侵入している様子が確認できる。
ここで,図 3-65 中の側線①~③に対応させ,図 3-66~図 3-68 に各側線の塩淡境界およ
び流速ベクトル分布を示した。まず,図 3-65 に示した鉛直断面に示される塩淡境界の状態
から,淡水が塩淡境界を海岸線よりも海方向へ押す傾向を示していることがわかる。塩淡
境界の角度が側線②③と比較して立っていることからも,この位置は陸域から海域へ向か
う流速が大きいと推測できる。一方,側線②断面は側線①と反対に,塩分濃度の陸域への
侵入が広範囲に渡っていることから,陸域から海域方向への地下水流動が緩慢となってい
ることが推測される。側線③の位置については,側線①と比較すると,塩淡境界の角度が
低く,陸域方向への塩分濃度の侵入領域も広い。しかし,側線②ほど塩淡境界の陸域への
侵入は著しくなく,これは標高差を含む地表面形状によるものと考えられる。
104
図 3-62 水飽和度分布(福井_洗い出し完了時)
100,000
解析結果(mg/l)
10,000
1,000
100
10
1
1
10
100
1,000
観測濃度(mg/l)
10,000
100,000
図 3-63 井戸データと解析結果の塩分濃度比較(福井)
105
図 3-64 塩分濃度分布(福井_洗い出し完了時)
図 3-65 塩分濃度等値線図(福井_洗い出し完了時)
106
海岸線
図 3-66 側線①の塩淡境界および流向分布(福井_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-67 側線②の塩淡境界および流向分布(福井_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-68 側線③の塩淡境界および流向分布(福井_洗い出し完了時)
107
2) 海水準変動解析
着目時間における塩分濃度の塩分濃度の等値線図を図 3-69~図 3-73 に示す。1 周期目
の最海退時および 2 周期目の最海進時の塩淡境界の分布と,5 周期目の塩淡境界の分布は
ほぼ同程度と判断できることから,周期間の差は小さいことがわかった。また,洗い出し
完了時に海岸線より陸域に侵入していた解析領域中央部の塩分濃度は,最海退時にも残存
していることから,地下深部は海水位や降雨涵養量の変化による影響を受けにくい場であ
ることがわかった。
現在の海岸線より陸域および海域に分布する堆積層に含有する淡水賦存量の変化をそれ
ぞれ図 3-74 と図 3-75 に示す。ここで,淡水の定義は 1,000 mg/L 以下とした。陸域の帯
水層においては,海水位の低下に伴い(降雨量も低下),淡水賦存量が低下を示した層(H,
Q1,N3,N2,N1)と淡水賦存量が上昇を示した層(Q3,Q2)に分けられる結果となっ
た。まず,淡水賦存量が低下を示した層のうち,H 層は最上位層であるため,降雨量の減
少が淡水量の低下と関係することが想定される。同様に N1 層についても,本モデルにお
いては N1 層の露頭領域が広く分布しているため,降雨涵養量の影響が反映されたものと
推察される。Q1,N2,N3 層については,海岸線から離れた箇所に点在する分布を示して
いることから,塩水に浸される環境下にないために,降雨量低下に伴う解析領域全体的な
淡水量の減少に対応した変化を示したものと推察される。一方,Q2 及び Q3 層は海岸線付
近に分布する地層であることから,塩淡境界の動きに対応して,海退期には上昇し,海進
期には減少を示したものと考えられる。
海域に分布する堆積層においては,海退期に上昇を示す傾向が全ての層で一貫した傾向
になっている。この理由は,海水位の低下に伴い,新たに地表となった部分に降雨による
淡水の涵養があるためと考えられる。
108
図 3-69 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の塩分濃度等値線図(福井)
図 3-70 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の塩分濃度等値線図(福井)
109
図 3-71 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の塩分濃度等値線図(福井)
図 3-72 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の塩分濃度等値線図(福井)
110
図 3-73 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の塩分濃度等値線図(福井)
111
海水位(m)
20.0
0.0
-20.0
-40.0
-60.0
-80.0
-100.0
-120.0
0
10
20
30
40
50
60
100.0
H_Land
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Land
Q2_Land
10.0
Q1_Land
N3_Land
N2_Land
N1_Land
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-74 現海岸線より陸域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(福井)
100.0
H_Sea
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Sea
Q2_Sea
10.0
Q1_Sea
N3_Sea
N2_Sea
N1_Sea
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-75 現海岸線より海域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(福井)
112
(6) 静岡平野沿岸域
1) 初期洗い出し解析
初期洗い出し解析における水飽和度分布を図 3-76 に示す。大まかな傾向として,飽和度
が高い領域は地下水が流出を示す湧出域,飽和度が低い領域は涵養域と判断することがで
き,地下水流向としては,湧出域は上昇流,涵養域は下方流を示す傾向となる。したがっ
て,同図から,富士山の麓付近は広い湧出域となっていること考えることができる。地表
面において飽和度の低い場所が一部で認められるが,高透水の H 層に低透水の N1 または
N2 層が隣接する場所と概ね整合しており,このような層では水が行き届いていない結果
となっていると想定される。
井戸データと解析結果における塩分濃度の対比図を図 3-77 に示す。解析結果は観測濃度
と比較して高い濃度分布となった。地表面部に分布する H 層は高透水性であるため,降雨
涵養による洗い出しを促進させる地層と考えられるが,本モデルで考慮されている H 層の
分布は平面的にも点在に近い状態である。一方,堆積年代が古い N1 や N2 層なども広く
平野部に分布しており,堆積年代の古さに対応してこれらは低透水性となっているため,
塩分濃度の洗い出しが実データで示される濃度ほど進行しなかったものと考えられる。
洗い出し完了時における塩分濃度分布の鳥瞰図を図 3-78 に示し,塩分濃度の等値線図を図
3-79 にそれぞれ示す。塩分濃度の等値線図から,1,000mg/L を上回る塩分濃度は陸域方向
へは広く侵入していないことがわかり,塩淡境界は角度が大きく,立った形状をしている
ことが確認できる。同図に記した側線位置に対応した鉛直断面に対し,塩淡境界位置と流
速ベクトルを図 3-80~図 3-82 に示した。地下深部は塩水密度と淡水密度の関係で,塩水
くさびが陸域に侵入している様子が見られるが,侵入距離は大きくはない。側線②断面に
おいては,淡水が塩淡境界を海域へ押し込んでいることも確認できることから同サイトは
陸域の淡水の流速が大きいことが推測できる。
図 3-76 水飽和度分布(静岡_洗い出し完了時)
113
100,000
解析結果(mg/l)
10,000
1,000
100
10
1
1
10
100
1,000
観測濃度(mg/l)
10,000
100,000
図 3-77 井戸データと解析結果の塩分濃度比較(静岡)
海岸線
図 3-78 塩分濃度分布(静岡;洗い出し完了時)
114
図 3-79 塩分濃度等値線図(静岡;洗い出し完了時)
海岸線
図 3-80 側線①の塩淡境界および流向分布(静岡;洗い出し完了時)
海岸線
図 3-81 側線②の塩淡境界および流向分布(静岡;洗い出し完了時)
115
海岸線
図 3-82 側線③の塩淡境界および流向分布(静岡;洗い出し完了時)
2) 海水準変動解析
静岡では海進/海退の影響の度合いが小さい。一部解析領域と塩淡境界が近づく場所も
あり,その影響がないとは言えないが,淡水の流速が全般的に高いことも原因となってい
るとも考えられる。
図 3-83 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の塩分濃度等値線図(静岡)
116
図 3-84 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の塩分濃度等値線図(静岡)
図 3-85 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の塩分濃度等値線図(静岡)
117
図 3-86 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の塩分濃度等値線図(静岡)
図 3-87 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の塩分濃度等値線図(静岡)
118
海水位(m)
20.0
0.0
-20.0
-40.0
-60.0
-80.0
-100.0
-120.0
0
10
20
30
40
50
60
100.0
H_Land
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Land
Q2_Land
10.0
Q1_Land
N3_Land
N2_Land
N1_Land
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-88 現海岸線より陸域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(静岡)
100.0
H_Sea
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Sea
Q2_Sea
10.0
Q1_Sea
N3_Sea
N2_Sea
N1_Sea
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-89 現海岸線より海域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(静岡)
119
(4) 宮崎平野沿岸域
1) 初期洗い出し解析
宮崎平野における初期洗い出し完了時の水飽和度分布を図 3-90 に示す。平野部の地表は,
高い飽和度の領域が広範囲に分布している。
宮崎平野においては,
図 3-91 に示すように解析対象領域内に公開された有効な塩分濃度
の観測値がなかったため,いどじびきとのデータの照合を行えなかった。
塩分濃度の等値線図の鳥瞰図を図 3-92 に示し,塩分濃度の等値線図を図 3-93 にそれぞ
れ示す。塩分濃度の等値線図から,解析領域中央部において,塩水が陸域に侵入している
様子が確認できる。この位置は,水飽和度の高い領域と一致していることから,地表面か
らの涵養が起きた場合でも密度差の関係で深部までは地下水は潜り込めないと推測される。
図 3-93 に示した側線①~③に対応した断面の塩淡境界および流速ベクトル分布を図 3-94
~図 3-96 に示す。側線①および③は海岸線を流出部とした塩淡境界面が形成されているが,
側線②は陸域へ塩淡境界が大きく入り込むように分布しており,涵養した地下水が塩淡境
界の影響により浅部で上昇流に変わっていることがわかる。
図 3-90 水飽和度分布(宮崎_洗い出し完了時)
120
100,000
解析結果(mg/l)
10,000
1,000
解析対象領域内に塩分濃度比較対象データが
100
存在しなかった。
10
1
1
10
100
1,000
観測濃度(mg/l)
10,000
100,000
図 3-91 井戸データと解析結果の塩分濃度比較(宮崎)
図 3-92 塩分濃度分布(宮崎_洗い出し完了時)
121
図 3-93 塩分濃度等値線図(宮崎_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-94 側線①の塩淡境界および流向分布(宮崎_洗い出し完了時)
海岸線
図 3-95 側線②の塩淡境界および流向分布(宮崎_洗い出し完了時)
122
海岸線
図 3-96 側線③の塩淡境界および流向分布(宮崎_洗い出し完了時)
2) 海水準変動解析
着目時間を対象とした各時間の塩分濃度の等値線図を図 3-97~図 3-101 にそれぞれ示す。
1 周期目の最海退期においても,領域中央部の塩分濃度は陸域の拡大による影響を受けて
いない。この傾向は,5 周期目の最海退期でも同様であった。しかし,2 周期目,5 周期目
の最海進期の塩分濃度分布から,
領域中央部の陸域への塩分濃度の侵入は解消されている。
このことから,領域中央部の陸域への塩水侵入は,最海進後に海水位が低下に転じた場合
でも遅れて進行することがわかる。
陸域および海域それぞれの堆積層の淡水賦存量の変化を図 3-102 と図 3-103 に示す。陸
域堆積層のうち,N2 は海水位の低下に伴い賦存量が上昇し,それ以外は減少傾向を示し
た。N2 層は平野部から海域まで広く分布する地質であることから,海退期に塩淡境界が
海域へ後退する期間に淡水量が増加を示したと考えられる。それ以外の地層は塩淡境界の
変動に関わりが薄く,海退時に同時に低減する降雨量の影響で,淡水量も低下したと考え
られる。海域に分布する堆積層は,すべての層で海水位の低下に伴って上昇を示した。こ
れは降雨涵養域の拡大に起因するものと考えられる。
123
図 3-97 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の塩分濃度等値線図(宮崎)
図 3-98 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の塩分濃度等値線図(宮崎)
124
図 3-99 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の塩分濃度等値線図(宮崎)
図 3-100 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の塩分濃度等値線図(宮崎)
125
図 3-101 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の塩分濃度等値線図(宮崎)
126
海水位(m)
20.0
0.0
-20.0
-40.0
-60.0
-80.0
-100.0
-120.0
0
10
20
30
40
50
60
100.0
H_Land
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Land
Q2_Land
10.0
Q1_Land
N3_Land
N2_Land
N1_Land
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-102 現海岸線より陸域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(宮崎)
100.0
H_Sea
淡水賦存量(m3/m2)
Q3_Sea
Q2_Sea
10.0
Q1_Sea
N3_Sea
N2_Sea
N1_Sea
1.0
0.1
0
10
20
30
40
50
60
経過時間(万年)
図 3-103 現海岸線より海域に分布する堆積層における淡水賦存量の変化(宮崎)
127
3-6 沿岸域滞留性地下水領域の提示
ここでは,庄内平野沿岸域,福井平野沿岸域,静岡平野沿岸域,宮崎平野沿岸域におい
て,対象地域ごとに EL.-300 m,-500 m,-1,000 m の 3 断面について,物質が地表面に
達するまでに要する移行時間(トラベルタイム)及び移行距離の等値線表示による分布図
を示す(図 3-104~図 3-147)
。これらの分布図は,沿岸域における地層処分を想定したと
きの埋設施設の設置位置の検討に資する情報となると考える。また,対象地域ごとに前出
の時間断面における任意の 3 つの縦断面の塩分濃度の等値線図についても示す。塩分濃度
の分布を時間断面ごとに比較することによって,滞留性地下水の存在する領域について検
討した。
移行経路情報の等値線図からは,総じて海岸線を挟んで海側の地下水は移行経路長・移
行時間とも長い傾向にあることが分かる。これは塩淡境界に沿って,密度の高い海水系の
地下水が潜り込むためであると推測される。また,標高の異なる 3 断面を対象として等値
線図を描いたが大きな傾向の差はなく,深い位置でも地形の影響を受けていると考えられ
る。
塩分濃度の等値線図は,最初の変動周期と 5 回目の変動周期の結果について示している
が,いずれの地域でも両者に大きな差は見られず,海水準変動の繰り返しによる塩水のト
ラップ等の現象も確認できなかった。
対象地域ごとの特徴としては,標高の高い富士山を背後にもつ静岡平野では,淡水が海
水を押し出す傾向が強く,海進/海退の差が小さいうえに塩淡境界が高角であるという特
徴があるのに対し,他の 3 地域は海退時に地表面からの涵養が浅部の淡水域の広がりに寄
与しており,塩淡境界が低角になる傾向が確認された。これは,海域に高透水の地層が地
表面に存在していることによると考えられる。宮崎平野では海岸線付近の地表面に透水性
の高い H 層に挟まれるように透水性の低い N1 層が存在しており,これが最海進時の塩水
濃度の等値線図で見られる塩淡境界の不規則な部分を形成させる原因となっている。福井
平野や庄内平野の陸域では領域の中央に水が集まりやすい地形となっており,形成される
塩淡境界が同じ地域でも場所によって角度が異なる要因となっていると考えられる。
128
(1) 庄内平野沿岸域
図 3-104 EL.-300m 平面における移行時間分布(庄内_洗い出し完了時)
図 3-105 EL.-500m 平面における移行時間分布(庄内_洗い出し完了時)
129
図 3-106 EL.-1,000m 平面における移行時間分布(庄内_洗い出し完了時)
図 3-107 EL.-300m 平面における移行経路長分布(庄内_洗い出し完了時)
130
図 3-108 EL.-500m 平面における移行経路長分布(庄内_洗い出し完了時)
海岸線
移行経路長(m)
図 3-109 EL.-1,000m 平面における移行経路長分布(庄内_洗い出し完了時)
131
図 3-110 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(庄内)
図 3-111 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(庄内)
132
図 3-112 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(庄内)
図 3-113 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(庄内)
133
図 3-114 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(庄内)
134
(2) 福井平野沿岸域
図 3-115 EL.-300m 平面における移行時間分布(福井_洗い出し完了時)
図 3-116 EL.-500m 平面における移行時間分布(福井_洗い出し完了時)
135
図 3-117 EL.-1,000m 平面における移行時間分布(福井_洗い出し完了時)
図 3-118 EL.-300m 平面における移行経路長分布(福井_洗い出し完了時)
136
図 3-119 EL.-500m 平面における移行経路長分布(福井_洗い出し完了時)
図 3-120 EL.-1,000m 平面における移行経路長分布(福井_洗い出し完了時)
137
図 3-121 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(福井)
図 3-122 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(福井)
図 3-123 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(福井)
138
図 3-124 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(福井)
図 3-125 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(福井)
139
(3) 静岡平野沿岸域
図 3-126 EL.-300m 平面における移行時間分布(静岡_洗い出し完了時)
図 3-127 EL.-500m 平面における移行時間分布(静岡_洗い出し完了時)
140
図 3-128 EL.-1,000m 平面における移行時間分布(静岡_洗い出し完了時)
図 3-129 EL.-300m 平面における移行経路長分布(静岡_洗い出し完了時)
141
図 3-130 EL.-500m 平面における移行経路長分布(静岡_洗い出し完了時)
図 3-131 EL.-1,000m 平面における移行経路長分布(静岡_洗い出し完了時)
142
図 3-132 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(静岡)
図 3-133 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(静岡)
図 3-134 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(静岡)
143
図 3-135 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(静岡)
図 3-136 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(静岡)
144
(4) 宮崎平野沿岸域
図 3-137 EL.-300m 平面における移行時間分布(宮崎_洗い出し完了時)
図 3-138 EL.-500m 平面における移行時間分布(宮崎_洗い出し完了時)
145
図 3-139 EL.-1,000m 平面における移行時間分布(宮崎_洗い出し完了時)
図 3-140 EL.-300m 平面における移行経路長分布(宮崎_洗い出し完了時)
146
図 3-141 EL.-500m 平面における移行経路長分布(宮崎_洗い出し完了時)
図 3-142 EL.-1,000m 平面における移行経路長分布(宮崎_洗い出し完了時)
147
図 3-143 変動 1 周期目の最海退期(9.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(宮崎)
図 3-144 変動 2 周期目の最海進期(11.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(宮崎)
図 3-145 変動 5 周期目の最海進-60m(52.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(宮崎)
148
図 3-146 変動 5 周期目の最海退期(57.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(宮崎)
図 3-147 変動 5 周期目の最海進期(59.58 万年後)の任意断面濃度等値線図(宮崎)
149
3-7 結論
本研究では,整備の完了した陸域データベースに,全国規模の海域データベースを追加
し,今後の検討に資する基盤情報を整備した。また,これを用いて全国7地域の堆積地域
について,海水準変動と気候変化を考慮した周期的な密度流解析を実施し,地下水を含む
長期の地下水流動状況を評価した。
その結果,同じ地域でも場所ごとに濃度分布形状の違いが確認され,地表面における地
形や透水性が影響すると考えられた。特に、磐城沖沿岸域、新潟沖沿岸域、庄内平野南部、
宮崎平野といった遠浅な大陸棚を持つ地域については海底下に淡水性地下水が残りやすい
傾向になることが分かった。また、福井平野沿岸域のように、海域の尾根部においても海
底下に淡水性地下水が残存していることが確認される。これは海退期に陸地化した浅海域
の面積が広いほど、淡水性地下水が残りやすくなるものと考えられる。
今回は 5 周期の海進・海退を対象とした長期シミュレーションを実施したが,初回と 5
回目の解析結果に大きな違いは確認されなかった。つまり、周期的な海水準変動、気候変
化が仮定される場合、長期間にわたるシミュレーションを行わずとも、一周期分の解析結
果をもとに将来を推定できることが示唆できる。
沿岸域滞留性地下水領域については移行経路情報と塩水濃度分布により評価した。淡水
環境が長期的に安定となりうる水理地質条件は,深い位置ほど有利であることはもちろん,
当該箇所の地形や地表面の標高と関係があり,陸地側の動水勾配が高いほど淡水が海水を
押し込むため,淡水環境が維持されやすい傾向が見られた。移行経路情報からは,塩淡境
界よりも海側が密度差による潜り込みに起因して,地表面までの移行時間・移行距離が長
く滞留性が高いという結果が得られた。ただし,海水環境下では人工バリア性能の発揮に
有利でない面もあるため,放射性廃棄物等の埋設施設を検討するにあたっては,多重バリ
アの概念を踏まえた総合的な安全評価が必要であると言える。
150
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Saltwater-Freshwater in the Northern Atlantic Coastal Plain. U.S. GEOLOGICAL
SURVEY WATER-SUPPLY PAPER 2255, 28p.
SWIM(2010):Proceedings “21st Salt Water Intrusion Meeting”, 402p
152
第4章
おわりに
152
第4章
おわりに
沿 岸 域 地 質 構 造 評 価 技 術 の 開 発 に お い て は ,3 次 元 地 震 探 査 を 行 っ た 場 合
を 想 定 し て ,沿 岸 浅 海 域 に お け る 3 次 元 海 底 下 水 理 地 質 モ デ ル を 構 築 す る た
めの最適探査計画を解析的に求めることを目標とした。今年度の研究では,
漁 業 活 動 や 船 舶 の 航 行 が 多 い わ が 国 の 沿 岸 浅 海 域 に お い て は 、長 大 ス ト リ ー
マケーブルを曳航する通常の手法で反射法地震探査データを取得するのは
困 難 で あ る 。こ の よ う な 海 域 に お い て の デ ー タ 取 得 に 適 し た 、海 底 設 置 型 地
震 計 (OBC)を 用 い た 手 法 お よ び 短 い ス ト リ ー マ ケ ー ブ ル を 曳 航 す る 二 船 式 の
二 つ の デ ー タ 取 得 方 式 に 関 す る 検 討 を 行 っ た 。そ れ ぞ れ の 方 式 に 関 し て 、適
切 な デ ー タ 取 得 仕 様 を 提 案 し た 。 ま た , O BC を 用 い た 手 法 で は 、 波 長 の 短 い
S 波 を 利 用 す る こ と に よ り 、詳 細 な 構 造 を 把 握 す る こ と が 可 能 で あ る 。二 船
式 で は 、複 数 回 同 一 測 線 上 で デ ー タ を 取 得 す る 事 が 必 須 で あ る が 、そ の 際 ニ
ア オ フ セ ッ ト の 震 源・受 振 点 間 距 離 を CM P 間 隔 分 ず ら し て デ ー タ 取 得 す る こ
と に よ り 、浅 部 の 空 間 分 解 能 を 向 上 さ せ る こ と が で き る 。こ れ ら に よ り 、浅
部詳細地質構造把握が可能となり、水理地質モデル構築に資する。
海 上 掘 削 調 査 技 術 の 開 発 に お い て は ,水 理 地 質 構 造 を 評 価 す る た め の 掘 削
方 法 ,地 質 ・ 地 下 水 試 料 採 取 方 法 ,海 底 下 地 下 水 環 境 モ デ ル の 構 築 方 法 に 関
す る 体 系 的 な 研 究 を 実 施 し ,他 の 沿 岸 域 研 究 課 題 に よ る 成 果 も 活 用 し て ,既
往 の 研 究 成 果 や 情 報 を 踏 ま え た 上 で ,海 上 ボ ー リ ン グ 調 査 対 象 と な る 沿 岸 域
の 海 底 下 水 理 地 質 モ デ ル を 構 築 し ,地 下 水 流 動 解 析 を 実 施 す る こ と で ,掘 削
地 周 辺 の 地 下 水 環 境 の 推 定 や 掘 削 適 地 の 評 価 を 行 う 。今 年 度 は 7 地 点 ,昨 年
度 ま で の 研 究 と 合 わ せ て 9 地 点 で ,幌 延 に お い て 観 測 し た よ う な 海 底 下 に 淡
水 地 下 水 の 張 り 出 し が 在 る 無 し の 解 析 を 実 施 し た 。そ の 結 果 ,沿 岸 部 の 地 形
や地質に応じて張り出しが存在することが解析的に求められた。すなわち,
湾 弧 が 狭 ま っ て お り ,か つ 後 背 山 地 が 海 岸 に 迫 っ て い る 方 が ,淡 水 地 下 水 の
海 底 下 へ の 張 り 出 し が 大 き い こ と が わ か っ た 。こ の 意 味 で 幌 延 地 区 は ,海 底
下 に 張 り 出 す 地 下 水 の 淡 水 領 域 が 大 き い と は 言 え ず ,そ の 存 在 条 件 が 良 好 と
は 考 え ら れ な い 。 し か し な が ら ,「 沿 岸 域 塩 淡 境 界 ・ 断 層 評 価 技 術 高 度 化 開
発 」に お い て は ,淡 水 地 下 水 領 域 を 観 測 し て お り ,解 析 的 に も こ れ を 証 明 し
て い る 。当 該 研 究 で 実 施 し た 評 価 技 術 は 相 応 の レ ベ ル を 有 す る と 考 え る 。ま
た ,超 長 期 的 な 解 析 よ り も 地 形 や 地 質 を 考 慮 し た 広 域 的 な 解 析 の 方 が ,深 層
地下水環境を高精度に把握できることも示唆できた。
本 研 究 で も 対 象 と し た 駿 河 湾 地 域 で は ,当 該 研 究 者 に よ り 既 に 海 底 湧 出 地
下 水 を 観 測 し て お り ,陸 域 か ら 流 下 す る 淡 水 地 下 水 が 海 底 下 に 湧 出 し て い る
こ と が 確 認 で き て い る 。駿 河 湾 地 域 は 地 層 処 分 の 除 外 地 域 で は あ る が ,火 山
153
性 堆 積 物 地 域 で あ る た め 、そ の 地 下 水 流 動 が 活 発 で あ る こ と や 既 存 の 研 究 事
例 が 多 く 断 層 な ど の 地 下 構 造 が 精 度 よ く 把 握 で き て い る こ と か ら ,実 証 的 な
研究を実施し,評価技術を確立することができる適地と考える。
154
付
録
155
1 本報告書で使用した単位一覧
2 沿岸域地質構造評価技術の開発
項目
単位
距離,深度,水深
m,
地質年代
Ma
活動度
m/年
速度
m/s,km/s
周波数
Hz
時間
sec
密度
g/cc
km
3 海上掘削調査技術の開発
項目
使用した単位
透水係数
cm/sec
比貯留係数
1/m
流体密度
kg/m3
分散長
m
分子拡散係数
m2/s
塩濃度
g/l, %
降水量,地下水涵養量
mm/day
156
3-1 海底下地下水流動解析
項目
単位
透水係数
cm/sec
弾性波速度
m/sec
比貯留係数
1/m
流体密度
kg/m3
分散長
m
分子拡散係数
m2/s
地下水位・地下水頭
m
塩濃度
kg/m3, %
地下水年代
ky, Ma
地下水流速
m/year
地下水涵養量
mm/day
157
2 評価委員会報告
平成 24 年度「海域地質環境調査技術高度化開発」評価委員会
1.総 評
2.第 1 回評価委員会 次第
3.第 1 回評価委員会 議事録
4.第2回評価委員会 次第
5.第2回評価委員会 議事録
6.評価報告(まとめ)
158
報告書目次
平成 23 年度「海域地質環境調査技術高度化開発」評価委員会
総
評
我が国の地層処分問題において欠くことのできない課題と位置づけられ,本研究を遂行
する意義は大きい。特に,堆積平野の沿岸海底下に淡水地下水があることの普遍性をとら
えた地下水研究の成果は大きい。すなわち,堆積平野沿岸域において,海底下に淡水地下
水領域が存在することが解析的に求められたが,これは既存の地下水研究において,堆積
平野の沿岸海底下に海底湧出地下水が存在することが確認されていたことと合致し,さら
にその下位の塩水地下水が長期的に安定した環境であることを証明するものであり,本事
業への貢献は大きいと考える。さらに,解析事例を重ねることで,超長期的な解析よりも
地形や地質を考慮した広域的な解析の方が地下水環境をとらえることに大きな意義がある
ことも示唆された。これは,今後の地層処分研究にとって,大きな進歩と考える。
本年度は東日本大震災の影響をひきずり,いわき沖において予定していた現地調査が中
止された経緯があり,研究計画が頓挫している。重要な研究であるだけに,次年度以降調
査地を確実に確保し,研究を加速していただきたいと考えます。
今後とも,成果を社会に発信しつつ研究を進めていただきたい。
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2012/11/22
独立行政法人 産業技術総合研究所 受託事業
海域地質環境調査技術高度化開発
平成 24 年度 第 1 回 運営評価委員会
日時:平成 24 年 11 月 22 日 15:30~17:00
場所:産業技術総合研究所
つくば第 7 事業所 810 会議室
住所:茨城県つくば市東1-1-1
議事次第
1.産総研プロジェクトリーダー ご挨拶
2.資源エネルギー庁 ご挨拶
3.出席者紹介
3.委員長選出
4.事業報告と質疑
5.その他
160
平成 24 年 11 月 30 日
資源エネルギー庁委託事業「海域地質環境調査技術高度化開発」
平成 24 年度 第 1 回運営評価委員会
議事録
下記の通りご報告申し上げます。
記
日時:平成 24 年 11 月 22 日(木) 15:30~17:00
場所:産業技術総合研究所
つくばセンター 第 7 事業所 7-1 棟 8 階 810 会議室
出席者
委員:今村・杉田・松島・平山(敬称略)
オブザーバー:弥富(敬称略)
産総研:丸井・光畑・町田・井川・越谷・小原・楠瀬・古宇田・森山・小野・樽沢
外部出席者:伊藤
地下水学会:佐々木・平山
配布資料
第 1 回運営評価委員会
議事次第
第 1 回運営評価委員会
参加者名簿
資料 1.列島周辺海底下における広域地下水流動評価
議事
1.産総研プロジェクトリーダー 挨拶
(丸井)平成 23 年から開始した本プロジェクトの概要,期間中の計画変更,
今年度分の研究期間の延長について説明をした。今後のプロジェクト実施に
当たっての方向性も含めてご指導をお願いした。
2.資源エネルギー庁 挨拶
(弥富)昨今の状況から本プロジェクトは非常に難しい状況に置かれているが,
海域における 4 年間の研究開発のために委員会でご指導を頂き,より良い成果
を残してほしい。
3.出席者紹介(佐々木)
161
4.委員長選出
(佐々木)今村委員を委員長に選出した。
(今村)委員長就任の挨拶として,将来必要となる海域の地下空間利用にあたって
役立つような成果を期待していると述べた。
5.事業報告と質疑
5-1.現状報告と今後について
(丸井)本プロジェクト実施に当たっての背景,これまでの実施状況,計画変更の経緯
および今後の計画について説明した。
5-2.広域地下水流動
(小原)日本列島周辺の海底下地下水の不動領域について予察的に推定するための,
超長期 3 次元地下水流動解析モデルの構築状況,適用事例について報告した。
質疑応答
(松島)資料 1,8 ページ,データにはばらつきや不確実性がある。モデルでは地質を
均質として扱っている。パラメータの調整はできているか?
また,現地との比較や不均質性については今後どう扱うか?
(小原)データに不確実性・不均質性があることは理解しているが,本検討では
解析フローで示すように,統一的な手法・データでモデルを構築し,
解析結果の地域間比較を実施できることに意義がある。
統計的な手法による解析も今後の課題とする。
(松島)モデルの不確実性を把握・定量化して,それを減らしていくことが必要と
思われる。
(小原)了解した。
(平山)このモデルでどこまで出すか?これで本当に地下水の流動がきちんと解析
できるのか?
(小原)原子力研究における文献調査段階でのモデリング構築を意識している。
その後の概要調査段階での海域物理探査,海上ボーリング調査の基礎資料と
しても意義があり,産総研として全国規模の地球科学データを配信するという
役割を果たすという意味でも重要である。
162
(平山)たとえば東京湾について,SGD などは出てくるのか?
(小原)SGD は海上保安庁のデータレベル(サイズ)の解析メッシュが必要であり,
今回のモデルでは難しい。今回のターゲットはあくまで海底下に存在する
淡水性地下水である。
(平山)(応用地質学会の部会では)関東平野の解析範囲は広大な範囲を対象として
いるが,産総研はこの程度の広さでいいのか。
(小原)応用地質学会が実施しているような解析領域では,計算機の都合上タフなもの
となる。また沿岸域海底下の地下水を対象とした時に,その解析事例のような
広大な解析領域が必要であるかどうかを考えなければならない。
(平山)一般の方への説明を意識したときにこれで良いのか?
(丸井)PA を取るため,全国の中での比較が必要である。
例えば,応用地質学会の
解析例で実施すると,一般の方は必要以上にお金をかけているのではなどの
疑念を抱かれる可能性があるので,そのような手法は取るべきでないと考える。
また,地域ごとにコスト面でどの程度違うのか,安全サイドに立った
パラメータで概要をシミュレーションすることが PA を取るために必要なこと。
(平山)検討すべきは安全サイドに立って PA を意識した解析パラメータであろう。
(今村)駿河湾モデルは?
(小原)今週に話が出てきたため,まだ解析が進んでいない。
他の地域も加えてシミュレーションを実施する予定である。
(杉田)資料 1,12 ページおよび 16 ページに記載されているものは安全側に立った
パラメータであるか。
(丸井)最終的な計算に用いるものがそうである。
(杉田)沢山のパラメータが集まると不均質性が集約されて全体として結果の振れ幅が
大きくなる。不均質性を考慮することが重要である。
(今村)HLW にとって暴露評価が重要
163
(丸井)市民の方々は,日本列島の放射性物質についても全国各地で観測されている
自然値より低い値を求めていることがある。地球科学情報でなく経済情報を
第一とする傾向がある。それを克服することも産総研の仕事である。
(松島)不均質性の一端として小規模断層の評価が重要と考える。データは戦略的に
とるべきであり,現在は総花的印象がある。
海底電磁探査では小規模断層の発見は可能か?
(光畑)難しい。海外でも石油が対象とされている。
駿河湾は場所を選ぶ必要がある。
(松島)地震波探査をかけた後にどういうロジックで掘削ロケーションを
決定するのか?
(小原)地下水シミュレーション結果と海底地形や地質構造の関係性を見て,
ポイントを絞れればと考えている。
(今村)駿河湾周辺では地震観測データがあるが,そのデータを使ってみてはどうか?
(小原)今後検討する。
(平山)駿河湾は非常に深いので,頑張って欲しい。
(今村)なるべく合理的な物探の測線を設定して,良い成果を出してもらいたい。
6.総合討論
前に同じ
7.資源エネルギー庁 総括
(弥富)委員の方々にお礼を述べた。今回頂いたご意見を基に,今年度の取りまとめと,
来年度の計画に生かしてほしい。
8.その他
(佐々木)事務連絡,2 回目の運営評価委委員会を 2012 年 2 月 14 日(木曜日)
,
産総研つくばセンター第 7 事業所 810 室で開催予定。詳細は改めて連絡する。
(丸井)10 か所の予察解析,プロジェクトの今年度報告書の納期を伸ばすことに
ついて説明した。
以上
164
(添付資料)会議写真
写真 1 会議の状況
写真 2 報告・審議の状況
165
2013/02/14
資源エネルギー庁 委託事業
海域地質環境調査技術高度化開発
平成 24 年度 第 2 回 運営評価委員会
日 時:平成 25 年 2 月 14 日(木) 14:00~15:30(予定)
場 所:独立行政法人産業技術総合研究所 つくば中央 第7事業所
7-1棟8階 810 会議室
住 所:茨城県つくば市東 1-1-1 中央第7
議事次第
1.産総研プロジェクトリーダー 挨拶
2.資源エネルギー庁 挨拶
3.事業報告と質疑
4.資源エネルギー庁 総括
5.評価作業
6.その他
166
平成 25 年 2 月 19 日
資源エネルギー庁委託事業「海域地質環境調査技術高度化開発」
平成 24 年度 第 2 回運営評価委員会
議事録(案)
下記の通りご報告申し上げます。
記
日時:平成 25 年 2 月 14 日(木) 14:00~15:30
場所:産業技術総合研究所
つくばセンター 第 7 事業所 7-1 棟 8 階 810 会議室
出席者
委員:登坂・杉田・松島・今村・平山(敬称略)
産総研:丸井・光畑・井川・小原・森山・古宇田・小野・樽沢
外部出席者:伊藤
地下水学会事務局:佐々木・平山
配布資料
第 2 回運営評価委員会
議事次第
第 2 回運営評価委員会
参加者名簿
第 1 回運営評価委員会
議事録(案)
平成 24 年度 成果報告書目次(案)
資料 1.海域地質環境調査技術高度化開発
資料 2.沿岸域地質構造評価技術の開発
資料 3.列島周辺海底下における広域地下水流動評価
議事
1.産総研プロジェクトリーダー 挨拶
(丸井)平成 23 年から開始した本プロジェクトの概要,期間中の計画変更,
今年度分の研究期間の延長について説明をした。
2.資源エネルギー庁 挨拶
資源エネルギー庁,三原・弥富,両氏の欠席につき省略した。
3.事業報告と質疑
(佐々木)運営評価委員会の開会に当たり,登坂委員を委員長として選出した。
167
3-1.はじめに
(丸井)本事業実施の背景,経緯と現状について報告を行った(資料 1)
。
質疑応答
(登坂)実証研究とは何か?2
(丸井)国の地層処分研究の第 3 フェーズでは,これまでに蓄えた技術の有用性を
確認することが大きな課題となっている。
(平山)平成 24 年度までの沿岸域研究と平成 25 年度の海域地質研究とのつながりは?
(丸井)沿岸域研究とは場の理解であり,地上からの調査の範囲に位置づけられる。
一方,海域地質研究は深部地下水研究であり,坑道を利用した深部地下研究に
対応している。
3-2
168
(光畑)周波数の設定は悩ましい。また,発振についても海では難しく,陸域では
実施できる場所が今のところない。
(登坂)曳航しながらの調査は行うのか?
(光畑)曳航調査はストリーマケーブルによる調査が該当する。海底面に下して実施
する調査も計画している。
(松島)OBC は 4 成分なのか?実体波の P 波以外はキャンセルが難しいと思う。
(今村)S 波利用の有効性とは何か?また,適用するに当たり何かアイデアは
あるのか?
(光畑)まずはシミュレーションを行う予定である。
(登坂)シミュレーションでの地下の構造は何を入れるのか?駿河湾を考えたモデルを
作るのか?
(光畑)地下の構造は地質モデルを作り,弾性波速度と密度を与える。駿河湾は浅い
部分は既存の情報を使い,深い部分はある程度の仮定を用いる。
(松島)S 波で狙っているものは何か?
(光畑)分解能を上げることが狙いである。
3-3.列島周辺海底下における広域地下水流動評価
(小原)海上調査掘削技術の開発に関する現状を報告した(資料 3)
。
質疑応答
(今村)不確実性の評価はメッシュサイズによって変わると思うが,メッシュサイズは
100m で良いのか?解析条件やフラックス量のチェック,ペクレ数のチェック
などは出来ているのか?
(小原)100m グリッドと 10m グリッドの解析メッシュによるチェックを,すでに
幌延の沿岸域研究で実施しており,検証は済んでいる。
169
(平山)資料 3,10 ページ,海域 DB の活用法やクリギング法の使い方などは
どうなっているのか?
(小原)ボーリングデータのグリッド化の際にクリギング法を利用しており,
平面データのグリッドへの離散化に利用している。
(平山)海域のデータは密度が荒いと思うが,問題ないか?
(小原)地質学的な観点からも考慮に加えてモデル化する。
(平山)できるだけ多くの実測データの集めるようにしてください。
(杉田)モデルのキャリブレーションは何で行うのか?
(小原)深井戸 DB や地下水位で実施している。
(杉田)海域に地下水位のデータはありますか?
(小原)海域にはないため,入り口側の陸域の地下水位を利用している。
(松島)数多くの地域で解析を実施しているのはなぜか?
また解析対象とした 9 箇所はどのようにして選定したのか?
(小原)普遍性を確保するためである。地質などの調査が進んでおり,情報を集め
やすい場所を優先した。
(登坂)資料 3,5 ページ,
「活発な流動」および「~ならなければならない」の表現に
は注意をしてほしい。3 次元モデルの前に 2 次元モデルを用いた検討はしない
のか?
(小原)幌延ですでに検証を行った。
(登坂)各地のモデルの解析範囲が緯度経度によって区切られている。これらの境界
条件はどのようになっているのか?
(小原)陸域は峰の部分を境界とし,海域は峰線から直線に伸ばしている。
(登坂)新潟のモデルでは陸域の水位が高すぎるように思える。
170
(小原)海底湧水を調査して検証するほかない。
(登坂)水位の設定はどのように行ったか?また不飽和帯は考慮しているのか?
(小原)塩水で満たして水位を落としている形であり,不飽和帯は考慮していない。
(登坂)やみくもに計算を行うのではなく,philosophy を導き出して取り掛かかる
と良い。
(平山)モデルの境界条件は閉鎖境界なのか?
(小原)陸域の側方は閉境界,海は静水圧(固定)境界である。解析には SEAWAT を
用いている。
3-4. おわりに
(丸井)来年度実施予定の研究計画について述べた。
質疑応答
(今村)現行法では使用済み燃料の直接処分は出来ないのではないか?
(丸井)国民感情を考えると,直接処分も十分にありうる。
(今村)廃棄物は処分よりも監視が望ましいのではないか?
雇用創出も望めるのではないか?
(丸井)後世に負担を残さないことは,既に議論されていることであり,道徳的に
許されない。
(登坂)来年度に対象となる地域ではこのような研究を実施して良いのか?
得られた成果は一般化をすることが可能か?
(丸井)除外地域に該当するため,問題ない。地質や地下水のジャストポイントを探る
ために,海水が流入しないような掘削技術の開発,実証を行う必要がある。
(杉田)断層地帯を選ぶのはなぜか?
(丸井)社会情勢を踏まえ,実証研究が実施可能な地域を選定した。
171
(平山)地すべり地帯,地下水のシミュレーションは難しいのでは?
(丸井)陸側のシミュレーションは既に精度よく実施されている。
海域のシミュレーションを実施できれば,陸域から海域にわたる水の流れが
把握できる。
(松島)国民の信頼性を得るためには,どういう形で示すことが良いのか?
現時点での見解を聞きたい。
(丸井)難しい点ではある。地層処分関連研究に関して PA を取るためには,情報発信
の方法を考慮する必要があると考える。
4.資源エネルギー庁 総括
資源エネルギー庁,三原・弥富,両氏の欠席につき省略した。
5. 評価作業
(丸井)本件が納期を 6 月末まで延長したことや,今後のスケジュールを説明し,
委員には 5 月初めごろに報告書のドラフトを送り,評価して頂くことを確認
した。
以上
172
(添付資料)会議写真
写真 1 会議の状況
写真 2 報告・審議状況
173
外部委員会による事業の評価(まとめ)
174
175
176
177
海域地質環境調査技術高度化開発
平成 24 年度 成果報告書
平成 25 年 6 月 28 日
編著者
発行
丸井敦尚・光畑裕司・小原直樹・井川怜欧・横田俊之・
上田匠・小野昌彦・伊藤成輝・越谷賢・楠瀬勤一郎・
町田功・樽沢春菜・吉澤拓也・西崎聖史・古宇田亮一
(独立行政法人
発行者
独立行政法人
産業技術総合研究所)
産業技術総合研究所
地圏資源環境研究部門
発行所
独立行政法人
http://unit.aist.go.jp/georesenv/
産業技術総合研究所
〒305-8567 茨城県つくば市東 1-1-1 中央第7
電話
029-861-2605
http://www.aist.go.jp/
著作権者 独立行政法人
産業技術総合研究所
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産業技術総合研究所
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copyright AIST, 2004
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