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米国にみる電子商取引の 信頼性を高める社会的な装置

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米国にみる電子商取引の 信頼性を高める社会的な装置
N E T
電子商取引の基盤となる社会的な
装置の必要性
日本でもネットオークションと
B U S I N E S S
W AT C H
米国にみる電子商取引の
信頼性を高める社会的な装置
呼ばれる個人間の電子商取引が普
及の兆しを見せ始めているが、同
時にトラブルや違法行為も目立つ
吉川尚宏
ようになってきた。電子商取引は
そもそも、参加者が互いには物理
的に見えない空間で、商品の機能
落としにする人はまずいない。カ
com)は、実際に商品やサービス
や品質さえも受け取ってみるまで
ード会社からの請求書を確認した
を購入したり利用したりした消費
は不確かという環境のなかで行わ
うえで小切手を送付する。日本で
者の声をもとに、商品やサービス
れる。それゆえトラブルが生じる
は、大半の人が自動引き落としを
を5段階で評価している。対象商
のは当然という見方ができる。
利用しているため、金額が引き落
品・サービスは、自動車、大学、
しかし、トラブルが多い市場か
とされた後、不正を発見するケー
コンピュータ、電気製品、金融商
らは参加者が遠ざかり、やがては
スも生じる。米国ではまた、万が
品、食料品など多分野にわたる。
市場全体が沈滞化してしまう。日
一、身に覚えのない取引履歴があ
この企業がユニークなのは、「Eロ
本での電子商取引市場をさらに拡
った場合でも、一定額を超える金
イヤルティーズ」という報償制度
大させるためには、米国のネット
額の支払いは免れる。
を設けて、消費者からのコメント
ビジネスのビジネスモデルだけで
このようにクレジットカードの
なく、その背後にある社会的な装
不正利用を防ぐ二重の安全装置が
置をも学ぶ必要がありそうだ。
働いているのである。以下では、
のフィードバックを促している点
である。
米国での電子商取引におけるリス
<売買価格の設定>第三者機関か
日本の電子商取引でクレジットカ
ク回避の事例を「商品の品質」
らの情報サービスの利用
ードの利用が進まない理由
「紛争処理」など5つの側面に分
身近な例をあげてみよう。日本
けて紹介する。
では電子商取引の決済でクレジッ
オークションの参加者にとっ
て、いくらで売買するかはきわめ
て重要な課題である。米国ではイ
トカードの利用があまり進んでい
<商品の品質>消費者からの情報
ンターネットの普及以前より、ブ
ないが、米国ではよく利用されて
をフィードバック
ルーブックと呼ばれる独立系の会
いると指摘される。この理由は、
購入したいと思う商品が自分の
社が商品やサービスの評価、格付
米国でクレジットカードを実際に
期待水準を満たす商品かどうか
け、見積もりなどに関する情報を
持ってみればわかる。
は、実際に手にとって利用してみ
出版している。
米国では、クレジットカード会
社からの請求を銀行口座自動引き
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知的資産創造/2000年6月号
るまでわからない。
エピニオンズ(www.epinions.
中古車の売買を例にとろう。ケ
リー・ブルー・ブックのホームペ
ージ(www.kbb.com)にアクセ
ファスト・パーツ・ドット・コム
タッフでは解決できない場合は外
スし、車種、年式、走行距離、オ
(www.fastparts.com)の場合、参
部の紛争処理機関に依頼するが、
プションなどを入力すれば、標準
加できる企業の資格として、有力
この分野でもインターネットを利
的な下取り価格や売買価格が表示
な業界団体に加入していること
用したサービスが登場している。
される。売り手、買い手は、こう
や、ISO9000(品質保証の国際規
イーベイは、スクエア・トレー
した標準価格をある程度念頭に置
格)の認定を受けていることなど
ド(www.squaretrade.com)とい
きながら交渉を行えばよい。
をあげている。
う会社のサービスを利用し、100
ドルを超える商品に関連する紛争
<売買相手の選択>過去の取引履
<個人間決済>条件付き発効証書
を処理している。紛争の調停に際
歴による格付け
の利用
しては、実際に調停人が個別案件
個人間オークション大手のイー
条件付き発効証書とは、商取引
ベイ(www.ebay.com)では、フ
において一定の条件が満たされる
ィードバックフォーラムと呼ばれ
まで、第三者が保管する仕組みの
る、ユーザーが売買の経験につい
ことである。イーベイは、高額商
てコメントを残せる場を設けてい
品の取引での安全性、信頼性を高
以上みてきたように、電子商取
る。買い手は売り手の過去のフィ
めるためアイエスクロー(www.
引の信頼性を高めるための工夫
ードバック履歴を確認すること
iescrow.com)と提携している。
が、単に技術的な観点からだけで
を担当しており、決して仮想的な
サービスではない。
日本企業への示唆
で、また売り手も買い手の過去の
この会社は、買い手からの支払
なく、非技術的、社会的な観点か
履歴を確認することで、互いの評
いをいったん留保し、買い手が商
らも行われている。米国のビジネ
判を知ることができる。
品を検査して承認したうえで売り
スモデルを表層的に模倣しても、
手に支払う、という仕組みを提供
社会的な成立基盤が異なるため、
取引の信頼度を高めるケースもあ
している。また、買い手が返品を
日本で成功するとは限らない。
る。より多くの購入者を募ること
する場合には、売り手が返品され
他方で、電子商取引の信頼性を
によって価格を引き下げることを
た商品を検査して承認したうえで
高めるための社会的な装置を提供
狙うデマンドアグリゲーション型
買い手に返金している。
する主体自身がベンチャー企業に
一方、参加資格に条件を設けて、
オークションを運営するモブショ
よって担われつつあり、新たなビ
ップ(www.mobshop.com)では、
<紛争処理>外部紛争処理機関の
ジネスを産んでいることにも注目
18歳以上で、2000年3月6日以前
利用
すべきである。
にISP(インターネット接続業者)
個人間オークションで詐欺、取
と契約した人に限定するなど、参
引違反、違法商品陳列などの問題
加資格に制限を設けている。
が生じた場合は、まずオークショ
B to B(企業間)型の電子商取
ン運営会社のスタッフが紛争の解
引では、参加資格はさらに厳しい。
決に当たるケースが多い。内部ス
著者――――――――――――――――
吉川尚宏(よしかわなおひろ)
情報・通信コンサルティング部上級コン
サルタント
米国にみる電子商取引の信頼性を高める社会的な装置
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