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修士論文要旨 (2011 年度) 混合方程式および SPICE 指向型ホモトピー法を用いた 非線形回路の直流動作点解析 DC Analysis of Nonlinear Circuits Using Hybrid Equations and SPICE-oriented Homotopy Methods 電気電子情報通信工学専攻 柳 潤一 Junichi YANAGI 混合方程式も実用的な方程式として広く使われる可能性 1. ま え が き がある. この問題に対し,最近山村,戸野倉は SPICE の過渡解 非線形抵抗回路を記述する方程式にはいくつかの種類 があるが,その中で混合方程式は理論的に扱いやすいた め,理論研究においてしばしば用いられる.特に解の存 在,一意性,安定性に関する理論やホモトピー法の大域的 収束性の証明などにおいて多用されている [1]∼ [3].また 数値解析の観点からも,混合方程式は変数の数が少ない, 変数分離可能であるなどの性質をもつため,Katzenelson 法をはじめとする区分的線形解析や全解探索などにおい て非常に有利な方程式となる [3]∼ [5]. 混合方程式に関連する本研究室の成果をいくつか紹介 すると,まずホモトピー法の大域的収束性の証明に関す る山村,堀内,大石らの研究がある [6]∼ [9].ホモトピー 法の大域的収束性の証明はその後山村,井上らにより修 正節点方程式に対して行われているが [10],理論の骨格 を与えたのはそれ以前の混合方程式に対する研究である. また非線形回路の全解探索法に関する研究は最近の山村, 析を用いて混合方程式を導出する簡単な方法を提案して いる [15].また SPICE の過渡解析を用いてホモトピー法 を簡単に実現する SPICE 指向型ホモトピー法の研究が行 われている [16]. 本研究では,以上の研究を背景に,複雑な理論やプログ ラミングなしに,SPICE だけを用いて,混合方程式を自 動的に導出し,それにホモトピー法を適用する(混合方 程式の導出から解析までを一挙に行う)実用的で簡単な 方法を提案する.このような組み合わせに対する研究は 過去に例がなく,混合方程式の実用化に向けての一つの 示唆となる可能性をもつ. 2. 混合方程式 本章では非線形抵抗回路を記述する混合方程式につい て簡単に説明する [1], [2]. 混合方程式は非線形抵抗の枝電圧と枝電流のみを変数 須田,田村の研究 [11], [12] をはじめとして数多く行われ とする方程式である.電圧制御型非線形抵抗の枝電圧,枝 ているが,これらはすべて混合方程式の変数分離性の活 電流からなるベクトルを v a , ia , 電流制御型非線形抵抗の 用によりその計算効率を大幅に改善している. 枝電圧,枝電流からなるベクトルを v b , ib でそれぞれ表 その他,有名な篠田の問題 [13] に対して回答の一部を すものとする.混合方程式では,電圧制御型非線形抵抗 与えた研究として文献 [14] が知られているが,この成果 は電圧ポートとして,電流制御型非線形抵抗は電流ポー は混合方程式とホモトピー法をベースとするものである. トとして外部に取り出し,残りの線形抵抗,独立電圧源, (この研究の続編として,その後修正節点方程式に対する 文献 [10] の研究が行われている. ) このように混合方程式は理論面,実用面の両方において 独立電流源,従属電圧源,従属電流源をひとまとめにし て線形 n ポート回路と考える. ここで線形 n ポート回路の電圧ポートに独立電圧源を, 非常に優れた性質をもっている.しかし混合方程式は定式 電流ポートに独立電流源を接続する.そのような線形回 化が容易でないため [1],実用面で使われることはほとん 路のグラフを考え,接続した独立電圧源をすべて含み,独 どなく,実際には修正節点方程式が広く用いられている. 立電流源を含まない木を選ぶ.この木に対する基本カット もし混合方程式を「複雑な理論やプログラミングなしに」 セット方程式と基本閉路方程式を考え,行列演算により 「SPICE だけを使って」簡単に導出することができれば, v a , ia , v b , ib 以外の変数を消去すれば,次のような方程 式が得られる. ia +H vb v va ib −s=0 (1) v 1 h2 1T h1 ただし H は混合行列と呼ばれる n × n 行列,s は n 次元 v 代入することにより混合方程式 g(x) + Hx − s = 0 が得られる.ただし,x = [v a ib ]T である. h2 文献 [15] より,非線形抵抗回路の非線形抵抗を n 個 (= v 1T v 2n 1T ホモトピー回路 1 h1 (2) h 2n 1T 図1 ベクトルである.この式に非線形抵抗の電圧・電流特性を v 2 2k-1 1T h2k-1 v 2 2k h 2k 1T 1T トランジスタの数×2+ダイオードの数) の独立電圧源に置 き換え,置き換えた電圧源の枝電圧を v = (v1 , · · · , vn )T , その電圧源を流れる枝電流を i = (i1 , · · · , in )T とする. このとき式 (1) は次のようになる. i + Hv − s = 0 i2 i1 v v 2 (3) もとの回路のネットリストに簡単な修正を施し,行列 H を求める H 回路およびベクトル s を求める s 回路作 成し,解析することで混合方程式を導出できる. i2k 1 i2k-1 v v 2k 2k-1 図 2 混合方程式の枝電流 i を導出する回路 と 定 義 す る .こ こ で i = (i1 , · · · , i2n )T , v = (v1 , · · · , v2n ) (n はトランジスタの数)である.まず, T 文献 [15] の手法により導出された行列 H およびベクトル 3. 提案手法 1 s を式 (6) に代入し,電流式 i を記述する.次に,式 (6) 本章では,ホモトピー法を用いた混合方程式の解析法 に対して式 (4) のようにホモトピー法を適用し,図 1 に示 について述べる.ホモトピー法とは,既知解 x0 を持つ補 すホモトピー回路の従属電流源に記述し,パス追跡回路 助方程式 f 0 (x) およびホモトピーパラメータ λ を導入し, と併せて過渡解析することで解が得られる. しかし,式 (6) におけるトランジスタに流れる枝電流 ホモトピー関数 h : Rn+1 → Rn を i = (i1 , · · · , i2n )T は,Ebers-Moll モデルのような簡単 h(x, λ) = λf (x) + (1 − λ)f 0 (x) (4) なモデルであれば手作業で簡単に記述できるが,SPICE では一般的に Gummel-Poon モデルのような複雑なモ で定義する.ここで (x, λ) を変数とする方程式 デルが使用される.また,SPICE のデバイスモデルは h(x, λ) = 0 (5) を考えると, 式 (5) を満たす (x, λ) の集合は一般に Rn+1 における曲線となる. ホモトピー法はこのような解曲線 (パス) を (x0 , 0) から始めて追跡し, t = 1 に達した時点 頻繁に改良されるため,枝電流 i の電流式を手作業で記 述するには手間のかかる作業となる.そこで枝電流 i を SPICE のデバイスモデルを用いてネットリストから自動 的に導出する方法について述べる.まず,独立させたト ランジスタを用意し,図 2 のような回路を考える.ここ で式 (5) の解 x∗ を得る方法である. 次に提案手法について説明する.ここでは説明の簡略化 のため,非線形抵抗はトランジスタのみで構成される回 路を考える.ホモトピー法を用いて混合方程式を解析す で,i2k−1 ,v 2k−1 (k = 1, 2, · · · , n) はそれぞれエミッタ 側の枝電流,ベース・エミッタ間電圧を表している.ま た,i2k ,v 2k (k = 1, 2, · · · , n) はそれぞれコレクタ側の枝 電流,ベース・コレクタ間電圧を表している.これらの るには, 回路の節点 v2k−1 および v2k の節点電圧をそれぞれ図 2 f (x) = f (i, v) = i + Hv − s (6) に示すようにトランジスタのベース・エミッタ間,ベー s-circuit H -circuit homotopy circuit VCC 12V path-following circuit Rc1 Rc2 10K 10K RBIAS 20K Rs1 1K Q1 Q2 Rs2 1K VIN 0V 図3 提案手法 2 Q4 Q3 ス・コレクタ間に与える.次に,このトランジスタに流 VEE -12V れる枝電流 i2k−1 ,i2k を変数として取り出し,それぞれ 図4 ホモトピー方程式 h2k−1 ,h2k に代入する.これにより, 差動回路 SPICE 上に枝電流 i を手作業で記述することなくトラン ジスタモデルから自動的に導出することができる.なお, R1 R2 2K 2K R5 107 Q5 この手法は MOS トランジスタに対しても同様に枝電流 Q6 Q1 Q4 を導出することができる.これらの回路をパス追跡回路 と併せて過渡解析することにより,h(x, λ) = 0 の解曲線 Q3 Q2 VBIAS -6V R4 7K R3 を追跡することができる.したがって,この提案手法は, 2K 第一段階で混合行列 H およびベクトル s を求め,第二段 VEE -12V 階で使用する構成となる. 4. 提案手法 2 本章では一つの段階で混合方程式の導出から解析まで 図5 VCC 5.6V 定電流源回路 R5 7.5K R1 12K を行う方法を提案する. この方法のアイデアは極めて単純であり,混合行列 H R9 1.5K Q3 Q6 Q5 R7 5K およびベクトル s を求める際に置き換えられた電圧源を Q1 流れる枝電流 i を変数として考え,図 3 に示すように s 回 Q4 Q7 路と H 回路をホモトピー回路およびパス追跡回路と並列 Q2 R2 300 R3 1.5K R6 1.0K に接続し,SPICE の過渡解析を適用する.すると SPICE R10 240 R8 10K R11 150 R4 98.603K ではまず,λ = 0 におけるこれらの回路の直流解を計算す 図6 る.この直流解析によって,枝電流 i の値は s 回路と H 発振回路 回路から計算される.この場合,回路規模は大きくなる るトランジスタのベース・エミッタ間電圧, 横軸はホモト が,第一段階で得られた混合行列 H およびベクトル s を ピーパラメータ λ を表し,また解曲線上のマークはステッ 第二段階でネットリストへの入力が不要となる. プを表している.また,計算結果を表 1∼表 3 に示す. 5. 数 値 例 6. 結 混合方程式 (HE) を導出と解析を二段階で行う提案手 本稿では,SPICE だけを用いて混合方程式を簡単に解 法 1(proposed1) および導出から解析までを一段階で行う 析する方法を示した.混合方程式は非常に便利な方程式 提案手法 2(proposed2) を不動点ホモトピー法 [10] を用い であるが,その解析をおこなうには別個のプログラムを て SPICE3f5 上に実装し,図 4∼図 6 に示す実用回路に 使う必要があった.本稿で示したように複雑な理論やプ 対してシミュレーションを行った.また,修正節点方程式 ログラミングを一切用いることなく,SPICE のみを用い (MNE) にも同様に不動点ホモトピー法を適用し,計算効 て混合方程式を簡単に導出から解析まで行うことができ 率の比較を行った. 図 4∼図 6 の回路に混合方程式および れば,混合方程式も実用的な方程式として広く使われる 修正節点方程式に対して不動点ホモトピー法を適用した 可能性がある.当面,修正節点方程式がデファクトスタン 時の解曲線を図 7∼図 9 に示す.これらの図で,縦軸はあ ダードである状況は変わらないと予想されるが,混合方 論 1 表1 MNE HE(proposed1) HE(proposed2) Q3 Ve 0.8 使用方程式 0.6 3.130 86 278 0.12 HE(proposed1) 3.130 86 269 0.10 HE(proposed2) 3.130 86 269 0.22 使用方程式 0.2 0 0 0.2 0.4 0.6 λ 0.8 MNE HE(proposed1) HE(proposed2) 0.8 総反復回数 計算時間 (秒) ステップ数 MNE 6.000 158 610 0.30 HE(proposed1) 4.633 127 453 0.28 HE(proposed2) 4.633 127 453 0.80 表3 使用方程式 図 7 差動回路に対する解曲線 発振回路に対する計算結果 総反復回数 計算時間 (秒) 解曲線の長さ ステップ数 MNE 6.900 181 670 0.40 HE(proposed1) 5.800 153 478 0.36 HE(proposed2) 5.800 153 480 1.28 [4] Q1 Ve 定電流源回路に対する計算結果 解曲線の長さ 1 1 総反復回数 計算時間 (秒) ステップ数 MNE 表2 0.4 差動回路に対する計算結果 解曲線の長さ 0.6 J. Katzenelson, “An algorithm for solving nonlinear resistor networks,” Bell Syst. Tech. J., vol.44, no.8, pp.1605-1620, Oct. 1965. [5] 0.4 L.O. Chua and R.L.P. Ying, “Finding all solutions of piecewise-linear circuits,” Int. J. Circuit Theory Appl., vol.10, no.3, pp.201–229, July 1982. 0.2 [6] 山村清隆, 久保浩之, 堀内和夫,“ 不動点ホモトピーを用いた非線形抵 抗回路の大域的求解法, ”電子情報通信学会論文誌 (A), vol.J70-A, 0 0 0.2 図8 0.4 0.6 λ 0.8 no10, pp.1430-1438, Oct. 1987. 1 [7] 定電流源回路に対する解曲線 久保浩之, 山村清隆, 大石進一, 堀内和夫, “ 不動点ホモトピーを用い た非線形抵抗回路の大域的求解法. トポロジカル定式化による解析., ” 電子情報通信学会論文誌 (A), vol.J71-A, no.5, pp.1139 − 1146 , 1 MNE HE(proposed1) HE(proposed2) 0.8 May 1988. [8] 山村清隆, 堀内和夫, “ 非線形回路解析におけるホモトピー法の収 束性について, ” 電子情報通信学会論文誌 (A), vol.J72-A, no1, pp.156-159, Jan. 1989. Q4 Ve 0.6 [9] K. Yamamura and K. Horiuchi, “A globally and quadratically convergent algorithm for solving nonlinear resistive networks,” 0.4 IEEE Trans. Comput.-Aided Des. Integr. Circuits Syst., vol. 9, no. 5, pp. 487–499, May 1990. [10] 0.2 K. Yamamura, T. Sekiguchi, and Y. Inoue, “A fixed-point homotopy method for solving modified nodal equations,” IEEE Trans. Circuits Syst. I, Fundam. Theory Appl., vol.46, no.6, 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 pp.654–665, June 1999. λ [11] 図 9 発振回路に対する解曲線 K. Yamamura, K. Suda, and N. Tamura, “LP narrowing: A new strategy for finding all solutions of nonlinear equations,” Applied Mathematics and Computation, vol.215, is- 程式が有利となる局面でそれを利用することができれば 大変有意義であると考えられる. sue 1, pp.405–413, Sept. 2009. [12] rable systems of piecewise-linear equations using integer pro- 謝辞 本研究を行うにあたり,多大なる御指導を賜わり ました山村清隆教授に心より感謝の意を表します.また gramming,” Journal of Computational and Applied Mathematics 掲載予定. [13] 多くの御協力を頂いた研究室の皆様にも感謝致します. 文 [1] 献 立 75 周年記念出版), 第 3 部 最近 25 年間における電子情報通信 [14] K. Yamamura and T. Sekiguchi, “On the stability of dc op- L.O. Chua and P. M. Lin, Computer-Aided Analysis of Elec- erating points obtained by solving hybrid equations,” IEICE tronic Circuits: Algorithms and Computational Techniques, Trans. Fundmentals, vol. E80-A, no. 11, pp. 2291–2299, Nov. L. O. Chua and N. N. Wang, “On the application of degree 1997. [15] Int. J. Circuit Theory and Applications 掲載予定. Circuit Theory Appl., vol.5, no.1, pp.35–68, Jan. 1977. T. Ohtsuki, T. Fujisawa, and S. Kumagai, “Existence the- K. Yamamura and M. Tonokura, “Formulating hybrid equations and state equations for non-linear circuits using SPICE,” theory to the analysis of resistive nonlinear networks,” Int. J. [3] 篠田庄司, “線形回路と非線形回路,” 電子情報通信学会 75 年史(創 技術の発展, pp.249–255, 電子情報通信学会, 1992. Prentice-Hall, Englewood Cliffs, New Jersey, 1975. [2] K. Yamamura and N. Tamura, “Finding all solutions of sepa- [16] W. Kuroki, K. Yamamura, S. Furuki, “An efficient variable orems and a solution algorithm for piecewise-linear resistor gain homotopy method using the SPICE-oriented approach,” networks,” SIAM J. Math. Anal., vol.8, no.1, pp.69–99, Feb. IEEE Trans. Circuits Syst. II, Express Briefs, vol.54, no.7, 1977. pp.621–625, July 2007.