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7 - Keio University

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7 - Keio University
宿題の解説 11 月 8 日
c
三井隆久⃝
Department of Physics, Keio University School of Medicine,
4-1-1 Hiyoshi, Yokohama, Kanagawa 223-8521, Japan
(Dated: November 30, 2016)
I.
問I
プラスチックの平らな表面に水を一滴たらすと、半球状
の滴ができる。このときの力の釣り合いを、空気・固体・
液体が接する点(3 重線, triple line)で考えよう。3 重線
で作用している力は、固体の表面張力 σS 、液体の表面張
力 σL 、固体と液体の接触面での表面張力 σSL である。
(a) 固体と液体の接触面を基準として、3 重線において
液体表面が基準面となす角度 θ を接触角という。水平方向
の力の釣り合いを表す式を求めよ。この関係式を、ヤング
の関係式という。
(b) 接触角が 0 度及び 180 度の場合、液滴はどのように
なるかのべよ。
(c) 水の表面張力は 72.2×10−3 N/m, ポリエチレンの表
面張力は 35.6×10−3 N/m, 両者の接触面での表面張力は
95×10−3 N/m である。接触角を求めよ。
(d) エタノールと水を 8:2 で混合した液体の表面張力は
25.6×10−3 N/m, ポリエチレンとの接触面は 7×10−3 N/m
である。接触角を求めよ。この液体をポリエチレン表面に
たらしたらどのようになるかのべよ。
(e) 接触角は材質に大きく依存するが、固体表面の形状
にも大きく依存する。形状に依存する例を述べよ。
A.
答え
(a)
σS = σL cos(θ) + σSL ,
(1)
(b) 0 度の場合は完全にぬれて、広がる。180 度の場合
は、完全にはじき、球形の水滴が表面にできる。
(c) 式 (1) へ値を代入すると、
35.6 × 10−3 = 72.2 × 10−3 cos θ + 95 × 10−3 ,
(2)
となるから、cos θ = −0.82 となる。したがって、145 度。
90 度より大きいので、ぬれにくいといえる。
(d) 接触角は正確には定義できないが、強いて言うなら
0 度。cos θ が ±1 の範囲に無い場合、三重線で力の釣り合
いが成立せず、液体が広がり続けるため、ヤングの関係式
が成立しない。
(e) 葉の表面には、微細な毛がある。このため、毛と水
の接触角が小さくても、葉と水の接触角は 180 度に近い
値になり、水をはじく。同様の現象は、乾いた化学繊維の
布に水滴をたらすと水をはじくことなどで経験しているだ
ろう。
葉に限らず、生体を考える場合、ぬれるか否かは重要で
ある。角膜表面はぬれる必要がある。赤ちゃんはおなかの
中に居るときは肺の中を濡らしているが、生まれたら、不
必要に多く濡らしてはいけない。
II.
問 II
(a) 散乱断面積 σ, 数密度 n の領域を距離 L 伝搬したと
ころ、強度が 1/e に低下した。L を求めよ。この距離を平
均自由行程という。
(b) 我々の住んでいる宇宙の中を伝搬する光の平均自由
行程を光年単位で求めよ。ただし、光の散乱体は恒星(太
陽など)とし、地球から観測できる宇宙の大きさを半径 140
億光年の球、この中における恒星の数を 7 × 1022 個、恒
星の平均的な大きさを太陽と同じ (半径 696000 km=7.36
×10−8 光年) とせよ。
(c) 上で計算した光の平均自由行程は地球から観測でき
る宇宙の大きさよりはるかに大きい。実際と異なる想定上
の話だが、もし、平均自由行程が宇宙の大きさより短いよ
うな状況であったとすると、(c1) 夜空はどのように見える
か。(c2) このとき人間は地上で生きていけるか。理由を付
けて述べよ。
A.
答え
(a) 散乱断面積 σ の物体が密度 n で分散している場合、
一度も散乱されずに伝搬する確率は exp(−nσL) であり、
光強度などはこれに従い減衰する。この時、L = 1/nσ を
平均自由行程といい、散乱されずに伝搬できる距離の目安
としている。2 種類の濁った液体がある時、どちらがより
濁っているかの 1 つの目安として、平均自由行程を用いる
ことができ、短い方が濁っているといえる。
(b) 地球から観測できる宇宙の体積 V = 4π/3 × (140 ×
108 光年)3 =1.1×1031 光年3 。したがって、恒星の密度は、
n = 7 × 1022 /V =6 × 10−9 /光年3 。散乱体の断面積 σ =
π(7.36 × 10−8 光年)2 = 1.7 × 10−14 光年2 。
これらから、平均自由行程 L = 1/nσ=9.6×1021 光年
=9.6 ×1013 億光年となる。
(c1) 過去問の霧 (視程) に例えると、濃霧で先が見えな
い状態。濃霧の時には、先は見えず、至る所に霧の粒子が
見える。「夜空」の場合には、全天が太陽で覆われたよう
に見える。地球が自転して向きを変えてもこの状況は変わ
らないので、昼夜の区別がなくなり、夜空はなくなる。 (c2) 地表の温度は太陽の表面温度と同じになる。ただし、
現在の太陽の表面温度は 6000 K であるが、これは宇宙が
冷たいからであり、ここで想定した状況では太陽の表面も
冷えないので、太陽の表面温度は、太陽の中心温度 (1600
万 K) と同じになり、地球の表面もこの温度になる。人が
住めるか否かは、考えてみよ。今の宇宙に恒星がまばら
に存在し、夜空が暗いことは、人間にとって極めて重要で
ある。
この問題はオルバースのパラドクスの定量的な答えに
なっている。
III.
問 III
間隔 2 m で平行に並んだ無限に長い2本の電線に、互
いに向きが逆で 10000 A の電流が流れている。電線から
10 m 離れた場所の磁束密度を求めよ。
2
撥水する傾向を持つ
sL 空気
固体表面 q 水滴
sS 3重線 sSL 固体
接触角
y
送電線2
電流-I
(-x, y)
濡らす傾向を持つ
接触角が90度より小さいとぬれやすく、
大きいとぬれにくい。ただし、90度
が熱力学的に特別に意味のある角度といわ
けではなく、目安。
もある(根拠は薄い)。G は、ガウスといい、昔使われて
いた磁場強度を表す単位であり、1 G = 10−4 T である。
4 × 10−5 T = 400 mG なので、1 mG よりかなり大きい。
地球磁場は 300 mG 程度あるが、これは問題ならない。こ
こで有害として主張されているのは、低周波振動磁場であ
り、磁場強度が変化しない地磁気は対象外である。送電線
は、電源と同じ周波数(50 Hz)で振動する磁場を出す。
送電線1
電流I
(x, y)
合成磁場
送電線2の磁場
x
送電線1の磁場
A.
IV.
問 IV
⃗ があるとす
物体が磁化しており、磁気モーメント M
⃗
⃗ が作用
る。この物体に静磁場 B を加えると、トルク N
⃗
⃗
⃗
し、N = M × B となる。水素原子核の磁気モーメント
は、2.79277µN である。ここで、µN は核磁子と呼ばれ、
5.05 × 10−27 J/T である。
水 1 cm3 に含まれる水素原子核がすべて同じ向きを向
いているとして、1 T の磁場を磁気モーメントに垂直に加
えた場合のトルクを求めよ。
答え
A.
直線電流の周囲に生じる磁場は、
B(R) =
µ I
,
2π R
(3)
なので、この式をここでの条件に合わせて用いる。ここで
µ=1.2566 ×10−6 H/m である。
送電線の座標をそれぞれ (x, y), (−x, y) とする。このと
き、原点での磁場強度は、送電線1本につき、
µ
I
√
,
2
2π x + y 2
(4)
答え
水 1 cm3 に含まれる水素原子核の数は、
1g
× NA × 2 個,
18g
(7)
である。ここで NA = 6.022 × 1023 /mol はアボガドロ数
である。トルクを計算すると、9 × 10−4 Nm となる。
V.
問V
⃗ がある。この原子核に
水素原子核には磁気モーメント M
外部から磁場を加えると、磁場中で位置エネルギーを持つ
ようになる。これは、方位磁石が北を向いたとき位置エネ
ルギーが最低で安定であり、南を向くと位置エネルギーが
高く不安定なのと同じ現象である。外部から加えた磁場を
I
µ
x
⃗ とすれば磁気モーメントの位置エネルギーは、−M
⃗B
⃗と
√
√
, (5) B
送電線の下の磁場 (y 方向) = 2
2π x2 + y 2 x2 + y 2
⃗ | =2.79277µN ,
なる。水素原子核の磁気モーメントは、|M
µN =5.05 × 10−27 J/T である。
µx
I
=
,
(6)
a) 外部から 1 T の磁場を加えた場合、水素原子核の磁
π x2 + y 2
気モーメントが外部磁場と平行な場合と反平行な場合のエ
である。与えられた条件 x=1 m, y=10 m, I=10000 A を
ネルギー差を求めよ。
入れると、4 × 10−5 T となる。
b) 光に限らず、電磁波は物質と hν 単位でエネルギー
かなりいかがわしいが、電磁場が人体に有害であるとい
のやりとりをする確率がそれ以外と比較して格段に高い。
う説がある。とくに、小児白血病を誘発するともいわれて
ここでプランク定数 h=6.62×10−34 Js, ν は電磁波の振動
いる(医学会で認められているわけではない。)身近な電
数である。このことから, 電磁波には粒子と同様な性質が
磁場発生源として特に注目されているのが携帯電話と送電
あるとみなされ、電磁場の粒子を光子という。光子のエネ
線である。ここで計算した例は、送電線の下の磁場を想定
ルギーは hν である。a) で求めたエネルギーと同じエネル
している。有害な磁場の強度は 1 mG 以上であるという説
ギーの光子の振動数を求めよ。
である。磁場の向きは、送電線を中心とした円周の向きで
あることに注意して、二本の送電線の磁場を合成すると、
y 成分のみが残る。したがって、
3
A.
答え
a) 平 行 な 場 合 と 反 平 行 な 場 合 の エ ネ ル ギ ー 差 は 、
2M B=2.8×10−26 J である。
b) 2.8×10−26 J = hν から、ν=42.6 MHz. この周波数
の電磁場は、この条件の原子核に効率よく吸収され、この
現象を核磁気共鳴という。MRI と呼ばれる磁気共鳴を用
いた断層像計測法では、人体に 1.5 T の磁場を加え、60
MHz で計測を行う。
A.
答え
(a)
1
2.2 × 10−3 J/kg × 50kg = 2 × 0.5MeV × N0 × NA , (8)
2
これを解いて、N0 = 2.3 × 10−12 mol.
(b) 半減期を T とすれば、放射性物質の量 N (t) は、
N (t) = N0 2− T ,
t
VI.
(9)
問 VI
Positron Emission Tomography (PET) では、放射性原
子核由来のγ線を用いて、診断を行う。放射性原子核 1 個
に対して 0.5 MeV のγ線が 2 個放射され、確率 1/2 で人
体に吸収されるとしよう。
(PET では、放射性原子核が陽
電子を放射し、陽電子が電子と対消滅することでγ線光子
を 2 個放出する。ここでは、陽電子は無視して、放射性原
子核からγ線光子 2 個が直接放射されるとして計算せよ。)
(a) 体重 50 kg の人の被曝量が 2.2 mSv であるとし
て、放射性原子核の数 N0 を mol 単位で答えよ。 素電荷
1.6×10−19 C、アボガドロ数 NA =6.022×1023 /mol。
(b) 放射性原子核 (18 F) の半減期 T を 110 分として、人
体に放射性物質を投与した直後の壊変数 (Bq) を求めよ。
に従い減少する。ここで、N0 は時刻ゼロにおける放射性
物質の量である。
壊変数 B(t) は 1 秒あたりの放射性崩壊数なので、N (t)
の 1 秒あたりの減少率と同じ値になる:
N (t) − N (t + ∆t)
dN (t)
=−
,
∆t
dt
(
)
t
log 2
= N0
2− T .
T
B(t) =
(10)
(11)
したがって、放射性物質を投与した直後の壊変数は B(0) =
N0 log 2/T = 144 MBq である。ここでは N0 は mol では
なく、分子数で表す。
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