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微生物学まとめノート

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微生物学まとめノート
微生物学まとめノート
細菌学分野(宮本先生&菖蒲池先生)
戸田新のまとめ
目次
1、ブドウ球菌属
7、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌
・ブドウ球菌
・アシネトバクター属
・黄色ブドウ球菌
・ステノトロホモナス属
・コアグラーゼ生産陰性ブドウ球菌の病原性
・クリセオバクテリウム属
2、レンサ球菌属
8、レジオネラ菌とコクシエラ
・レンサ球菌
・レジオネラ属
・化膿レンサ球菌
・コクシエラ属
・ストレプトコッカス・アガラクチアエ
・肺炎レンサ球菌
9、ブルセラ、フランシセラとバルトネラ
・口腔レンサ球菌
・ブルセラ属
・エンテロコッカス属
・野兎病菌とフランシセラ属
・バルトネラ属
3、淋菌とナイセリア属
・ナイセリア属
・淋菌
10、百日咳菌とボルデテラ属
・百日咳菌
・髄膜炎菌
11、ヘモフィルツ属
4、シュードモナス属
・緑膿菌
・総論
・インフルエンザ菌
・軟性下疳菌
5、バークホルデリア属
・鼻疽菌
・類鼻疽菌
12、パスツレラ属
・パスツレラ・マルトシダ
・バークホルデリア・セパシア
13、カンピロバクター属
6、モラクセラ属
・モラクセラ属
・総論
・カンピロバクター・ジェジュニ
/カンピロバクター・コリ
1
14、ヘリコバクター属
20、ジフテリア菌とコリネバクテリウム属
・総論
・ジフテリア菌
・ヘリコバクター・ピロリ
・プロピオニバクテリウム属
15、腸内細菌科の細菌
21、結核菌と抗酸菌(マイコバクテリア)
・総論
・マイコバクテリウム属
・大腸菌
・結核菌(ヒト型結核菌)
・赤痢菌属
・非結核性抗酸菌
・サルモネラ属
・らい菌
・ペスト菌
・腸炎エルシニア
22、スピロヘータ
・クレビシエラ属
・総論
・セラチア属
・梅毒トレポネーマ
・回帰熱ボレリア
16、ビブリオ属
・ライム病ボレリア
・コレラ菌
・レプトスピラ属
・腸炎ビブリオ
・黄疸出血性(ワイル病)レプトスピラ
・ビブリオ・バルニフィカス
23、マイコプラズマ
17、バシラス属
・炭疽菌
・生物学的特徴
・肺炎マイコプラズマ
・セレウス菌
・ラクトバシラス(乳酸菌)
24、リケッチア
・ビフィドバクテリウム属
・総論
・発疹チフスリケッチア
18、リステリア属
・リステリア属
・発疹熱リケッチア
・ロッキー山紅斑熱リケッチア
・つつが虫病リケッチア
19、偏性嫌気性菌
・総論
25、クラミジア
・クロストリジウム属
・トラコーマクラミジア
・破傷風菌
・オウム病クラミドフィラ
・ボツリヌス菌
・肺炎クラミドフィラ
・組織障害性クロストリジウム(ガス壊疽菌群)
・クロストリジウム・ディフィシレ
26、真菌
・バクテロイデス属
・カンジダ属
・ポルフィロモナス・ジンジバリス
・アスペルギルス属
・クリプトコックス・ネオフォルマンス
・新興真菌症の原因菌
2
1、ブドウ球菌属 (戸田新 p460~)
<ブドウ球菌>
○Staphylococcus 属
○通性嫌気性のグラム陽性球菌
○コアグラーゼ生産の有無によって分類される
・コアグラーゼ:フィブリンを析出させて血漿を凝固させる酵素
・黄色ブドウ球菌が産生する
・フィブリンの網をバリアにして食細胞の貪食から免れる
・コアグラーゼ生産陽性:黄色ブドウ球菌
・Staphylococcus aureus
・コアグラーゼ生産陰性:表皮ブドウ球菌
・Staphylococcus epidermidis
○薬剤耐性
・メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
:ペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン系であるメチリシリン耐性のもの
・細胞膜に存在するペニシリン結合タンパク(PBP)の変化により耐性を示す
・PBP2’はメチシリンとの結合親和性が著しく低いため、メチシリンは効かなくなる
・PBP2’の産生は染色体上の mec 遺伝子の存在により支配される
<黄色ブドウ球菌>
○Staphylococcus aureus
○コアグラーゼ生産陽性
○病原性が高く、多彩な病態を呈する
○健常者でも創傷部位から組織内や血中に侵入した場合などに病巣を形成する
○毒素
・エンテロトキシン(腸管毒):ブドウ球菌による食中毒の原因となる毒素
・無色、無味、無臭
・耐熱性(100℃に 30 分耐える)
・毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)
・剥脱性毒素
・コアグラーゼ:血漿を凝固させる作用を持つ
○黄色ブドウ球菌が酸性する外毒素が原因となる感染症
・化膿症:溶血毒、ロイコシジン、コアグラーゼ、クランピング因子、莢膜
・食中毒:エンテロトキシン
・剥脱性皮膚炎:剥脱性毒素
・毒素性ショック症候群:毒素性ショック症候群毒素
3
○病原性
・ヒトでの感染症の代表例
:化膿症、食中毒、剥脱性皮膚炎、毒素性ショック症候群、尿路感染症、敗血症
・せつやようとった表在性の皮膚化膿症の 90%は黄色ブドウ球菌が原因となる
・肺炎、肺化膿症、骨髄炎、中耳炎、副鼻腔炎、心内膜炎、髄膜炎などの深在性の化膿症の原因にも
なる
・病巣からの分離率では化膿巣、鼻腔及び咽頭からが著しく高い
・ついで分離率が高いのは喀痰と尿
・健常者の約 30%には鼻腔内に黄色ブドウ球菌が定着している
<コアグラーゼ生産陰性ブドウ球菌の病原性>
○Coagulase Negative Staphylococcus
○健常者の鼻腔内から 100%分離される
○ヒトの皮膚、頭髪などにも常在している
○黄色種に比べて病原性は弱い
○Staphylococcus epidermidis
・表皮ブドウ球菌
・尿路感染の大きな原因となる
・臨床分離株の多くは粘液層を産生する
・カテーテルなどの医療用プラスチックの表面によく付着する
・日和見感染症で発症する
4
2、レンサ球菌属
(戸田新 p469~)
<レンサ球菌>
○径 2μm 以下の球形または卵円形
○通性嫌気性グラム陽性菌
○芽胞や鞭毛は持たない
○莢膜を形成するものがあり、主な病原因子となる
○臨床では溶レン菌とも言われ、それはβ溶血性の菌をさす
○ヒトまたは動物に化膿性炎症を起こす代表例
:Streptococcus pyogenes(化膿レンサ球菌)
・Streptococcus agalactiae
・Streptococcus pneumonia(肺炎レンサ球菌)
<化膿レンサ球菌>
○Streptococcus pyogenes
○典型的なβ溶血性を示す
○Staphylococcus aureus と並んで最も重要な化膿性炎症の原因菌
○ヒトに対して咽頭炎、扁桃炎などの急性局所性の化膿性炎症を引き起こす
○細菌性咽頭炎の原因菌として最も高頻度に分離される
○主に 5~15 歳の若年者が罹患する
○猩紅熱:A 群β溶連菌による咽頭炎、扁桃炎に全身性の発疹を伴うもの
・咽頭炎とともに全身の皮膚に紅疹が生じる
○劇症型 Streptococcus pyogenes 感染症
:敗血症、壊死性筋膜炎、呼吸不全、多臓器不全といった重篤な症状を引き起こす
・黄色ブドウ球菌による毒素性ショック症候群に症状が似ている
・死亡率が高い感染症
・ex)毒素性ショック様症候群(TSLS)、レンサ球菌毒素性ショック症候群(STSS)、
重症侵襲性レンサ球菌感染症
○溶血毒
・活性タンパクを産生し、細胞外に分泌する
・赤血球、白血球などを傷害する
・ex)ストレプトリジン O、ストレプトリジン S
・抗ストレプトリジン O 抗体(ASO、ASLO):診断上重要
○発熱毒素
・発熱原性、エンドトキシンショックの助長、免疫系へのスーパー抗原性
5
○続発症
・post-streptococcal diseases
・腎臓や心臓に障害をもたらす
ex)急性糸球体腎炎、リウマチ熱
・リウマチ熱は菌体性分の分子擬態によちって引き起こされる自己免疫疾患である可能性が高い
○治療
・ペニシリン系薬剤に対する耐性化はいまのところ報告が無いため、ペニシリン系薬剤が第一選択薬
<ストレプトコッカス・アガラクチアエ>
○Streptococcus agalactiae
○B 群レンサ球菌とも呼ばれる
○ヒトの膣から高頻度で分離される
○新生児に敗血症、髄膜炎、肺炎などを引き起こす
<肺炎レンサ球菌>
○Streptococcus pneumonia
○連鎖が短い傾向にある
○α溶血性で群抗原はない
○200~400mm の厚い多糖体性の莢膜を有する
○細胞壁の主要構成要素
:ペプチドグリカン、タイコ酸、リポタイコ酸、PspA
・タイコ酸とリポタイコ酸は従来 C 物質と呼ばれ、同一のユニットがホスホジエステル結合で重合し
たもの
・炎症の際には、構成要素と非特異的に反応して沈殿するタンパク質である CRP が血清のβ-グロブ
リン分画に出現する
○病原性
・化膿性炎症を引き起こす
・多くの感染症の原因となる
ex)肺炎、中耳炎、髄膜炎、敗血症、膿胸
・全肺炎の 10~30%の原因となる
・乳幼児の中耳炎の三大原因菌の一つ
・病原因子としては莢膜が最重要
6
<口腔レンサ球菌>
○Oral streptococci
○ヒトや動物の口腔および上気道に常在するレンサ球菌
○易感染宿主の口腔や非口腔領域に日和見感染を引き起こす
○亜急性心内膜炎を引き起こす
・細菌性心内膜炎の約 40%の原因となる
○ミュータンス菌群
・Mutans group
・う蝕との関連で重要視されるグループ
・う蝕:歯エナメル質表面の限局性の脱灰から始まり、深部の象牙質まで拡大する硬組織疾患
<エンテロコッカス属>
○Genus Enterococcus
○形態状は連鎖状の球菌なので、かつては D 群レンサ球菌に分類されていたが、独立した
○グラム陽性菌
○腸管や女性生殖器に常在する
○健常人への病原性は乏しいが、免疫不全患者への日和見感染の原因菌となる
○バンコマイシン耐性エンテロコッカス(VRE)
・バンコマイシンの作用部位に変化が生じ、耐性を獲得したもの
・有効な抗菌薬はリネゾリド
・近年増加し、病院内感染の原因菌として問題になりつつある
7
3、淋菌とナイセリア属 (戸田新 p481~)
<ナイセリア属>
○Genus Neisseria
○グラム陰性菌
○単在または対をなして存在する
○芽胞、鞭毛は持たない
○莢膜や線毛が見られることがある
<淋菌>
○Neisseria gonorrhoeae
○腎形またはソラマメ形のグラム陰性球菌
○2 個の細胞が凹部で向かい合った双球菌として存在
○高温に対して抵抗力が弱く、55℃で 5 分以内、42℃で 5~15 時間で死滅する
○消毒剤にも弱く、1%フェノールで 1~3 分、0.1%硝酸銀で 5 分程度の処理で死滅する
○乾燥にも弱い
○外界での抵抗力が弱いため、自然界には生息せず、ヒト以外の動物も保有しないため、淋疾患者にの
み生息する
○間接伝播はほとんどなく、性行為による接触感染を起こす
○妊婦からの産道感染により、新生児の淋菌性結膜炎(膿漏眼)を起こす事がある
○新生児が淋菌の産道感染を受けると失明の原因となるので、出生時にエリスロマイシンやテトラサイ
クリン系薬剤の点眼を行う(1%硝酸銀など)
○性感染症(STD、STI)である淋病を引き起こす
・男性は尿道炎
・女性は尿道炎や子宮頸管炎
・女性の場合は症状が軽いため放置されたまま骨盤内炎症性疾患(PID)にいたり、不妊の原因となる場
合がある
○病原因子
・抗原変異:淋菌の線毛は 100 万の組み合わせの異なった抗原を作る事が出来る
・IgA1 プロテアーゼ:分泌型 IgA1 を切断し、免疫を妨害する
○薬剤感受性
・以前はペニシリン系薬剤に感受性が高かったので、第一選択薬として使われていた
・染色体性のペニシリン耐性株が分離菌の約 10%になる
8
○治療
・ペニシリン系薬剤とクラブラン酸の合剤が PPNG 株に対して有効
・淋症後尿道炎:ペニシリン系及びセフェム系薬剤による治療後に、淋菌が消失しても尿道炎の症状
が残ること
・半数以上は Chlamydia trachomatis が原因
<髄膜炎菌>
○Neisseria meningitidis
○腎形ないしソラマメ形のグラム陰性双球菌
○2 個の菌が平面で相対している双球菌
○線毛を有する
○元来ヒトの鼻咽腔に生息し、健常者の 5~20%から検出される
○流行時の検出率は 70~80%に達する
○感染経路は飛沫感染
○髄膜炎、敗血症、電撃型敗血症の原因菌
○病原性
・鼻咽腔粘膜に定着し増殖した菌は粘膜を傷害して血液に入り、脳脊髄液に達して化膿性炎症を引き
起こす
・発熱、項部硬直、頭痛、嘔吐などの髄膜刺激症状を呈する
・髄膜炎を発症すると、治療しない場合の死亡率はほぼ 100%
○治療にはペニシリン G またはβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンが用いられる
9
4、シュードモナス属 (戸田新 p488~)
<緑膿菌>
○Pseudomonas aeruginosa
○グラム陰性桿菌
○緑に着色した包帯から分離された桿菌
○湿潤な環境やヒトの皮膚、ヒトや動物の消化管内の常在菌叢の中に見出せる
○病院では皮膚、人工呼吸器、加湿器などが重要な感染源となり、患者の状態によっては致死的な病院
内感染の原因となる
○培養
・ムコイド型:アルギン酸と呼ばれるムコ多糖体を生産する株
・呼吸器、尿路の慢性難治性感染症の病原体として問題になっている
○病原因子
・色素:ピオシアニンと言われる水およびクロロホルムに溶解する青緑色の色素
・ADP-リボシル化毒素:エキソトキシン A を生産することでリボソームのペプチド身長因子を ADPリボシル化してタンパク合成を阻害する
・ムコイド:アルギン酸と呼ばれる細胞外ムコ多糖体を産生
・緑膿菌が粘膜に感染するとムコイドの過剰生産により感染部位にバイオフィルムが形成
される
○病原性
・めったに健常者の病気の原因にはならない
・広域スペクトルの抗菌薬、ステロイド剤、免疫抑制剤などを長期間使用している免疫力の弱った人、
慢性の消耗性疾患を患っている人、白血球減少症の人などは感染症をおこす
・敗血症をおこすことがある
・欧米人に多い遺伝病の嚢胞性線維症(CF)患者の難治性の気道感染症の重要な病原体
・尿路感染症、皮膚感染症、外耳炎、角膜炎、眼内炎の原因となる
○治療
・抗菌薬に対して高度耐性を獲得しやすい菌
・第一選択薬:抗緑膿菌ペニシリン系薬剤、抗緑膿菌アミノグリコシド系薬剤、
抗緑膿菌性静脈注射用第 3 世代セフェム系薬剤
・多剤耐性緑膿菌(MDRP):治療に使用されるニューキノロン(レボフロキサシンなど)やカルバペネム
(イミペネムなど)、アミノグリコシド(アミカシンなど)の 3 系統の化学療
法薬に耐性を獲得した緑膿菌
10
5、バークホルデリア属 (戸田新 p492~)
<鼻疽菌>
○Burkholderia mallei
○2 本の環状染色体を持つ
○ウマ、ロバ、ラバに自然感染する鼻疽(Glanders)の病原菌
○ヒトからヒトにも伝染する
○生物兵器として使用されたこともある
<類鼻疽菌>
○Burkholderia pseudomallei
○2 本の環状染色体を持つ
○東南アジアの熱帯地域に多く、致命率の高い類鼻疽症の原因菌
○ヒトからヒトには伝染しない
<バークホルデリア・セパシア>
○Burkholderia cepacia
○病原性は低いが、免疫力が低下した人に日和見感染症を起こす
○創傷感染、火傷感染なども起こす
○いったん感染すると治療しにくく、多剤耐性化しやすい
○クロルヘキシジンで死滅せず生き残る事がある
○多くの抗菌薬に対して抵抗性がある
6、モラクセラ属 (戸田新 p295~)
<モラクセラ属>
○Genus Moraxella
○10 菌種が含まれる
○Moraxella catarrhalis
・臨床上で最も問題となる
・もともと口腔内細菌叢を形成するナイセリア属に分類されていた
・現在でも Branhamella catarrhalis と呼ぶこともある
・日和見的に上気道の粘膜の炎症(カタル)や中耳炎や副鼻腔炎などを引き起こす
・80~90%がβ-ラクタマーゼ産生菌なので、β-ラクタム系薬剤に耐性を持つ
・第 3 世代セフェムに感受性を示す
11
7、ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌 (戸田新 p495~)
<アシネトバクター属>
○Genus Acinetobacter
○病原性は弱いが日和見病原体としてときに臨床材料から分離される
○環境中や病院内に生息し、喀痰、尿、創傷、留置カテーテルなどの臨床材料から分離される頻度は、
緑膿菌に次いで多い
○院内感染の原因菌となる
○多くの抗菌薬に耐性を示すが、イミペネム、ドキシサイクリン、ノルフロキサシン、ST 合剤などには
感受性を示すものがある
○薬剤耐性が進化し、メタロβ-ラクタマーゼ産生株も出現している
<ステノトロホモナス属>
○Genus Stenotrophomonas
○Stenotrophomonas maltophilia など 3 菌種が含まれる
○日和見病原体として病原性を発揮する
○上気道、創傷、血液、尿などの臨床材料からしばしば分離される
○カルバペネム系薬剤に自然耐性であることから、これらの薬剤投与により菌抗体症として認められる
ことが多い
<クリセオバクテリウム属>
○Genus Chryseobacterium
○球桿菌または桿菌状を呈する
○運動性はないが、一部の菌には鞭毛が見られる
○クロルヘキシジンなどの消毒剤にも抵抗性を示す
○病院内感染の原因となる
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8、レジオネラ属とコクシエラ (戸田新 p497~)
<レジオネラ属>
○Genus Legionella
○偏性好気性グラム陰性桿菌
○極鞭毛をもつため、運動性がある
○B-CYEα寒天培地を培養に用いる
○自然界ではしめった土壌や水系の環境中に生息する
○水冷式空調設備の冷却水中などで増殖し、散布されることで集団発生する(塵埃感染)
○免疫機能が低下している患者に多いが、健常者にも発症する
○レジオネラ肺炎
・在郷軍人病とも言われる
・潜伏期は 2~10 日
・高齢者、臓器移植患者、糖尿病患者などの易感染宿主が罹患する日和見感染
○ポンテアック熱
・肺炎症状が無く、インフルエンザ様症状(発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛)を示す
・潜伏期は 1~2 日
・肺炎型の軽症例とは異なる
○細胞内寄生菌なので、マクロファージ内で生息する
○マクロファージ内で増殖する能力の発現には icm/dot 遺伝子群などの影響がある
○感染早期から尿中にリポ多糖抗原が排泄される
○現在は尿中抗原検出キットによってレジオネラ肺炎が診断される場合が多い
○治療
・細胞内移行のよい薬剤のみが有効
ex)マクロライド系抗生物質、ニューキノロン系薬剤、リファンピシン、ミノサイクリン
<コクシエラ属>
○Genus Coxiella
○細菌は Q 熱コクシエラ(Coxiella burnetii)の 1 種のみ
○偏性細胞寄生性の細菌
・宿主細胞のファゴリーム内(特にリソソームの融合したファゴリソソーム内)で増殖する
・pH4.5 の環境下でも増殖できる
○多形性を示すグラム陰性桿菌
13
○病原性
・動物においては不顕性感染の場合が多い
・動物が妊娠すると、感染している菌は胎盤において盛んに増殖
・分娩時産物(羊水、胎盤)や排泄物由来のエアロゾル、汚染された塵埃などにより飛沫感染する
・乳汁、尿、糞便も感染源となりうる
○Q 熱
・人獣共通感染症
・感冒用症状を中心とした様々な臨床症状を呈する寒栓症
・急性 Q 熱:潜伏期は 2~3 週間
・典型的な症状はインフルエンザに類似
・肺炎や肝炎のような症状を伴う
・慢性 Q 熱:心内膜炎の病像をとる
・心弁膜の異常を有しているヒトの感染が多い
・予後が悪く、数ヶ月~数年にわたる長期間の化学療法(テトラサイクリン系)を要する
14
9、ブルセラ、フランシセラとバルトネラ (戸田新 p504~)
<ブルセラ属>
○Genus Brucella
○ヤギ、ウシ、ブタなどの家畜に感染して流産を起こす菌
○人獣共通感染症であるブルセラ症の原因菌
・マルタ熱、地中海熱、波状熱などと呼ばれてきた
・潜伏期は 1 週間~数ヶ月
・急性期は間欠的な高熱が特徴
・発汗、頭痛、悪寒、疲労感、筋肉痛、関節痛などの症状も示す
○グラム陰性短桿菌(球桿菌)で芽胞をつくらず、鞭毛をもたない
<野兎病菌とフランシセラ属>
○Genus Francisella
○Francisella tularensis
・野兎病の原因菌
○野ウサギなどの野生動物に接触して起こる致死率の高い急性熱性疾患
○グラム陰性短桿菌で球桿菌にも見える
○鞭毛をもたない
○ヒトへの感染
・感染野ウサギの血液や肉への接触により起こる
・創傷が無くとも皮膚から感染が起こる
・潜伏期は 3~10 日
・発熱、頭痛、全身倦怠感などで始まり、所属リンパ節腫大が起こる
○治療にはストレプトマイシンやゲンダマイシンが用いられる
<バルトネラ属>
○Genus Bartonella
○バルトネラ・バシリフォルミス
・Bartonella bacilliformis
・南アメリカのアンデス山地西側斜面に分布する
・オロヤ熱とペルーいぼの病原体となる
15
○バルトネラ・クインターナ
・Bartonella quintana
・塹壕熱の病原体
・ベクターはシラミ
・リザーバーはヒト
○バルトネラ・ヘンゼレ
・Bartonella henselae
・ネコひかっき病の原因菌
・グラム陰性桿菌
・2 週間の潜伏期の後、発熱し所属リンパ節の有痛性腫大をきたす
・疲労感、食欲不振などの症状も示す
16
10、百日咳菌とボルデテラ属 (戸田新 p510~)
<百日咳菌>
○Bordetella pertussis
○グラム陰性短桿菌
○偏性好気性で運動性は無い
○上気道に付着後、気管支の粘膜上皮または線毛間で増殖する
○飛沫感染を起こす
○病原因子
・百日咳毒素:白血球増多作用、ヒスタミン感受性亢進作用、インスリン分泌促進など多くの生物活
性を示すホロ毒素
・繊維状赤血球凝集素
・易熱性皮膚壊死毒素
・アデニル酸シクラーゼ:細胞侵入性の CyaA 活性と溶血性を示す
・線毛:菌体表面に長短 2 種類が観察される
・パータクチン:外膜タンパク質
○百日咳
・痙攣性の咳発作(痙咳発作)とリンパ球有意の白血球増多が特徴
・発症は小児が中心だが、近年では成人の症例も多い
・新生児、乳児では重症化しやすい
○治療
・エリスロマイシンなどのマクロライド系薬剤が第一選択薬
○予防
・PT/FHA を主成分とする acellular 百日咳ワクチン
・10 歳代や成人への百日咳ワクチン接種が開始されている
17
11、ヘモフィルツ属 (戸田新 p513~)
<総論>
○Genus Haemophilus
○小~中型のグラム陰性球桿菌ないし桿菌
○多形態性を呈する
○増殖の際に血液中に含まれている X 因子、V 因子の両方または一方を要求する
・X 因子:ヘミンもしくはその他のポルフィリンを指す
・V 因子:ビタミン様物質
・ほとんどが赤血球内にある
・チョコレート寒天培地で培養される
・血液寒天培地を 75℃に加熱すると赤血球から放出される
<インフルエンザ菌>
○Haemophilus influenzae
○インフルエンザ流行時に患者の喀痰から、培養に血液を要求するグラム陰性小球桿菌として多量に分
離された
○好気性グラム陰性小桿菌
○インフルエンザウイルスがインフルエンザを引き起こす病原体である
○増殖の際 X 因子(ヘミン)と V 因子(NAD または NADH)の両因子を要求する
○分離、継代培養にはチョコレート寒天培地を用いる
○衛星現象
・チョコレート寒天培地での培養の際、培地上に溶血性のブドウ球菌が同時に発育していると、その
周囲のインフルエンザ菌のコロニーが大きくなる現象
○莢膜型別
・莢膜多糖体の抗原性による分類方法
・type-b のみ五炭糖
・type-b は PRP(polyribosyl-ribitol phosphate)と呼ばれる
・Hib:Haemophilus influenza type-b
・侵襲性感染の 95%の原因となる
○病原因子
・莢膜多糖体:白血球貪食、補体による溶菌に抵抗する
・IgA1 プロテアーゼ:粘膜免疫を担う IgA1 のちょうつがい部のペプチド結合を切断することより失
活させる
18
○病原性
・侵襲性疾患:95%が Hib によって引き起こされる
・85%は 5 歳未満の小児に発生する
・特に 6~12 ヶ月の小児が最もリスクが高く、2 歳以降は減少する
・髄膜炎は 2 歳未満児が全症例の を占める
・粘膜感染症:ほとんどが無莢膜型株による
・急性中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、気管支炎、結膜炎など
○薬剤耐性
・アンピシリンに対する耐性を獲得する株が出現している
・BLNAR:β-Lactamase negative ampicillin resistant H. influenzae
<軟性下疳菌>
○Haemophilus ducreyi
○X 因子のみを要求する(チョコレート寒天培地)
○性感染症としての軟性下疳を引き起こす
○潜伏期間は 2~5 日
○外陰部、亀頭包皮に腫脹、発赤、膿疱、潰瘍が発生する
12、パスツレラ属 (戸田新 p519~)
<パスツレラ・マルトシダ>
○Pasteurella multocida
○卵円形ないし桿状を呈するグラム陰性桿菌
○鞭毛は持たない
○鳥類や動物を宿主とする
○人獣共通感染症の起炎菌
○健康なイヌの 20~55%、ネコの 70~90%が保菌している
○ヒトには動物との接触により感染する
○骨・関節炎、呼吸器感染症、心内膜炎、敗血症、髄膜炎など侵襲性感染症を起こす
○治療にはペニシリンが用いられる
19
13、カンピロバクター属 (戸田新 p520~)
<総論>
○Genus Campylobacter
○グラム陰性微好気性らせん桿菌
○運動性を持つ
○人獣共通感染症
<カンピロバクター・ジェジュニ/カンピロバクター・コリ>
○Campylobacter jejuni/Campylobacter coli
○動物腸管内に広く分布する
○カンピロバクター腸炎の起因菌
○カンピロバクター腸炎
・日本や欧米でも最多の感染性腸炎の 1 つ
・4~7 月に発生のピークを迎える
・散発性もしくは集団食中毒として発症する
・汚染食品(鶏肉が多い)の摂取、保菌動物との接触により感染する
・潜伏期は 2~5 日
・症状:下痢、腹痛、発熱
・ほとんどは 1 週間以内に回復する
・まれに関節炎、ギラン・バレー症候群やその亜型のフィッシャー症候群などの合併症を起こす
・細菌性食中毒(下痢症)の中では最も高率にみられる
20
14、ヘリコバクター属 (戸田新 p525~)
<総論>
○Genus Helicobacter
○1983 年に Marshall と Warren が発見
○グラム陰性無芽胞らせん菌
○鞭毛をもち運動性がある
○微好気性~嫌気性で大気中では発育しない
○37℃の微好気環境(5%酸素、5~10%二酸化炭素)で発育
<ヘリコバクター・ピロリ>
○Helicobacter pylori
○胃の酸性環境下でも増殖できる
○胃粘膜に生息するらせん状のグラム陰性桿菌
○感染すると急性胃炎、慢性活動性胃炎を引き起こす
○十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍の治癒・再発にも重要な役割を果たす
○胃癌、胃の MALT、リンパ腫との関連も報告されている
○感染率は発展途上国で人口の 70~80%、先進国では人口の 20~30%
○感染率は加齢とともに上昇する
○病原性
・ヒトからヒトへ経口感染
・感染の第一歩は胃粘膜への定着
・その後鞭毛を使って粘膜下に潜り込む
・粘膜やウレアーゼで守られながら生息する
・運動性、走化性、ウレアーゼが重要な病原因子
・潰瘍患者からの臨床分離株は CagA タンパクと空胞化毒素活性の陽性率が高い
○発見者のマーシャルとモーリスはコッホの 4 原則を確認するため、自ら菌を経口摂取した
・両者とも急性胃炎を起こした
・マーシャルは自然治癒したが、モーリスは慢性胃炎へと移行した
21
15、腸内細菌科の細菌 (戸田新 p531~)
<総論>
○抗原性
・抗原には病原性と関連しているものがある
・O 抗原:菌体に由来する抗原
・K 抗原:莢膜の抗原
・O 抗原の表面を覆っている
・M 抗原:ムコイド株の有する表面抗原
・H 抗原:鞭毛抗原
・共通抗原:腸内細菌に広く分布している耐熱性の抗原
<大腸菌>
○Escherichia coli
○もともとはヒトや動物の腸管内常在菌の一種
○ヒトでは便の常在菌の約 0.1%を占め、ビタミン類を産生して宿主に供給している
○(腸管性)下痢原性大腸菌:病原因子の獲得により下痢を起こす
○病原大腸菌:腸管以外の部位に感染を起こす菌などの総称
○病原性
・下痢原性大腸菌:ヒトに下痢を引き起こす大腸菌
・腸管病原性大腸菌:EPEC
・特定の毒素を産生しない
・腸管上皮微絨毛に付着してタイプⅢ分泌系を通過する
・毒素原性大腸菌:ETEC
・コレラと区別しがたい下痢症を引き起こす
・易熱性と耐熱性の毒素がある
・旅行者下痢症の主な原因となる
・水や食物による集団発生がある
・腸管組織侵入性大腸菌:EIEC
・臨床的には赤痢と区別できない症状を起こす菌
・腸管出血性大腸菌:EHEC
・出血性の下痢を生じる
・凝集付着性大腸菌:EAEC
・均一付着性大腸菌:DAEC
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・腸管以外に感染する大腸菌
・尿路病原性大腸菌:UPEC
・膀胱炎、腎盂炎などを引き起こす
・K1 大腸菌:髄膜炎を起こしやすい
<赤痢菌属>
○Genus Shigella
○志賀潔によって発見された
○病原性
・細菌性赤痢:赤痢菌属に属する全ての菌が原因となる
・宿主はヒトおよびサル
・赤痢菌は糞便で汚染された飲料水や食物から経口感染する
・便口感染、ハエによる媒介もある
・胃酸による殺菌に抵抗する
・サルモネラやコレラ菌と比べて少ない菌数で感染が成立する
・サルモネラと異なり、全身感染を起こすことは無い
・発熱、腹痛、下痢といった症状を示す
・典型的な下痢はしぶり腹を伴う膿粘血便
・小児の場合、日本では疫痢と言う
・原因菌が A 亜群(Shigella dysenteriae)である場合は重症の事が多く、過去にしばしば
大流行を起こした
・志賀毒素:Shigella dysenteriae1 のみが産生する
・大腸上皮細胞に侵入、増殖して化膿性炎症を起こす
○疫学
・流行菌型:世界では年間約 1 億 6 千万人が赤痢に罹患し、100 万人が死亡している
・罹患のほとんどが発展途上国で起こり、赤痢の 70%、死亡の 60%は 5 歳以下の子供
・発展途上国から帰国した人が国内に持ち込むこともある
・多剤耐性赤痢菌:R プラスミドが存在する
<サルモネラ属>
○Genus Salmonella
○遺伝学的に大腸菌、赤痢菌と近縁にある細菌属
○自然界では温血動物、冷血動物の腸管内に広く分布する
23
○細胞内侵入性を持った菌であり、細胞内寄生菌である
○食中毒
・経口感染後 6~24 時間で急性胃腸炎として発症する
・感染にはかなり大量の菌が必要
・ほとんどが患者の糞便に汚染された水や食物を介して感染する
・主な症状:発熱、頭痛、腹痛、下痢、嘔吐
・死亡することはまれ
・流血中から菌が証明されることはないため、全身感染では無い
・肉類や卵が感染源として多い
・サルモネラは先進諸国でも最も多い食中毒の原因
・ペットとして飼うカメがしばしば subsp arizonea を持っている
・腸炎を引き起こす代表的な血清型
:serovar Enteritidis
・seronar Typhimurium
・serovar Enteritidis のニワトリ卵内感染は卵による食中毒の主因
○腸チフスとパラチフス
・腸チフスは Salmonella Typhi によって、パラチフスは Salmonella Paratyphi A によって起こる
・どちらも全身感染症
・患者の便や汚染された食品や水を感染源とし、経口感染を起こす
・開発途上国では年間 1600 万人が腸チフスに罹患し、そのうち 60 万人が死亡している
・小腸からリンパ管を経て血液中に入ったチフス菌によって全身倦怠、食欲不振などの前駆症状をも
たらし、菌が血流中に入るとともに悪寒や発熱が現れる
・治療後、胃菌が胆嚢内に残って慢性保菌者となることがあり、この場合は感染源となる
<ペスト菌>
○Yersinia pestis
○14 世紀にヨーロッパ全域に流行した黒死病が有名
○病原性
・ネズミ族間に流行する伝染病
・地域によってはリス、プレーリードッグ、ウサギ類にも伝染減となる
・腺ペスト:人におけるペストの病型として最も多い
・ノミが媒介する
・Yersinia pestis の内毒素による出血性素因が現れ、皮下出血班が黒点となる(黒死病)
・多くが Yersinia pestis 性敗血症を伴い死亡する
・死亡率は 40~90%
・肺ペスト:腺ペストで支配リンパ節での Yersinia pestis の増殖を食い止められない場合、血行性に
24
肺に到達することによって発症する
・飛沫感染によるヒトからヒトへの水平感染を起こす
・腺ペストに比べると伝播は速やかで、症状も激しい
・致命率はほぼ 100%
<腸炎エルシニア>
○Yersinia enterocolitica
○自然界に広く分布している
○回腸末端炎、腸間膜リンパ節炎、虫垂炎などの急性腹症を起こす
○食中毒原因菌の一つとして指定されている
○5℃で増殖するので冷蔵庫の過信は禁物
○輸血用血液を汚染して、輸血を受けた人が敗血症となる例があった
<クレブシエラ属>
○Genus Klebsiella
○大腸菌より大型の腸内細菌
○肺炎桿菌
・Klebsiella pneumonia
・肺炎患者から分離された
・常在菌としても存在する
・肺炎などの呼吸器感染症、尿路感染症、肝・胆道系の感染、敗血症、髄膜炎、腹膜炎などの原因菌
・肺炎は大葉性でアルコール中毒患者に多く、肺胞の隔壁が破壊される傾向が強い
<セラチア属>
○Genus Serratia
○赤色の色素を産生する、色素産生菌
○基準種は Serratia marcescens で霊菌と言われる
○眼内炎や尿路感染などの原因になる、重要な日和見感染菌の1つ
○病院内の感染も多い
25
16、ビブリオ属 (戸田新 p563~)
<コレラ菌>
○Vibrio cholera
○グラム陰性菌でコンマ状に湾曲した中等大の桿菌
○鞭毛をもち活発に運動する
○2 つの環状染色体を持つ
○分離用培地
・アルカリ性普通寒天培地、TCBS 寒天培地、TTGA 寒天培地
○抵抗性
・抵抗力は比較的弱い
・酸に弱く、1 万倍の鉱酸中で数秒で死滅する
・バイオフィルム中で生存していると考えられている
○臨床症状
・コレラ:コレラ毒素を産生する O1(および O-139)コレラ菌による感染により発症する
・不安感に引き続いて多量の水様の下痢(米のとぎ汁様便)と嘔吐を主徴とする
・下痢の量は全経過を通して数 l~数十 l に及ぶため、著しい脱水症状と血症電解質の異常(ア
シドーシス)をきたす
○治療
・適切な輸液による水と電解質の補給が重要
・経口輸液が行われる
<腸炎ビブリオ>
○Vibrio parahaemolyticus
○NaCl が無いと増殖できない好塩性の菌
○海水中に生息する
○感染源と感染経路
・海水に生息しているので、海産の魚介類が感染源
・分裂速度が速く倍加時間は適温で 15 分
・夏に患者発生が多い
・海水の温度が 15℃以下では増殖が抑制され、20℃以上になると活発になる
○腸管毒性と心臓毒性を持つ
○食中毒は感染型
○腸管感染の成立には多数の生菌の摂取が必要
○日本では 6~9 月に好発し、8 月がピーク
○日本における食中毒原因菌の上位にある
○東南アジアなどに旅行したときに感染する旅行者下痢症の原因菌としても重要
○加熱により菌は死滅するので、食前加熱が食中毒(腸管感染症)予防に有効
26
<ビブリオ・バルニフィカス>
○Vibrio vulnificus
○肝疾患や糖尿病などの基礎疾患がある患者が経口的に(魚介類の生食)感染すると、四肢の水泡、紅班、
壊死性潰瘍などを伴う敗血症を起こすことがある
○致命率は非常に高い
○海水に接した後の創傷感染から潰瘍、蜂巣炎、壊疽などが起こる例もある
○易感染宿主の日和見感染症として注目されている菌
○予後不良の敗血症となることがある
27
17、バシラス属 (戸田新 p578~)
<炭疽菌>
○Bacillus anthracis
○好気性ないし通性嫌気性の芽胞形成桿菌
○炭疽の病原菌としてコッホが分離し、コッホの 4 原則を確立した
○皮膚炭疽の場合、病変部に炭のような痂皮が現れる
○生物兵器として研究されてきた菌の一種
○人獣共通感染症
○病原性
・皮膚炭疽
・肺炭疽:芽胞の吸入により起こる
・高熱、呼吸困難、喘息、チアノーゼ、ショック、髄膜炎を引き起こす
・最も重篤になりやすい
・腸炭疽
○莢膜形成能と毒素産生能が主な病原因子
○家畜の予防接種には弱毒生菌ワクチンが用いられている
<セレウス菌>
○Bacillus cereus
○自然界に広く分布し、食品腐敗菌として知られる
○食中毒の原因菌に指定されている
○病原性
・下痢型:潜伏期は 6~24 時間
・腹痛や下痢を主症状とする
・腸管内で産生された下痢原性毒素により起こる
・嘔吐型:潜伏期は 1~6 時間
・悪心や嘔吐を主症状とする
・食品中で産生された嘔吐毒を摂取することにより起こる
・いずれも症状は軽く、1~2 日で回復する
<ラクトバシラス(乳酸菌)>
○一般に乳酸菌(lactic acid bacteria)と呼ばれる細菌
○糖を発酵する際に多量の乳酸を生成する細菌の総称
○細菌分類学上の名称ではない
○下痢原性細菌の定着抑制や感染による腸管病変の軽減を示す成績も報告されている
○プロバイオティクス:生菌製剤を経口投与して生体にプラスの影響を示すもの
28
○自然界に広く分布し、ヒトや種々の動物の糞便、植物表面、乳製品や発酵食品などから分離される
○膣の自浄作用を持ち、デーデルライン桿菌とも呼ばれる
<ビフィドバクテリウム属>
○Genus Bifidobacterium
○芽胞を作らない非運動性のグラム陽性桿菌
○乳酸菌群の中で唯一の偏性嫌気性
○腸管内に生息し、成人や人工栄養児の糞便中にも見出される
○母乳栄養児の糞便に高率に見られる
18、リステリア属 (戸田新 p588~)
<リステリア属>
○Genus Listeria
○グラム陽性無芽胞桿菌
○リステリア症
・人獣共通感染症
・food-borne infection とみなされている
・自然界に広く分布し、乳製品や肉類などの食品が感染経路として考えられている
・周産期リステリア症:垂直感染による流産死、胎児性敗血症の原因となる
・髄膜炎や敗血症:成人に起こるリステリア症
○診断と治療
・食品などの汚染を調べる際に、リステリア菌の低温発育能を利用して 5~10℃で長期間増菌培養を
行ったのち分離する
29
19、偏性嫌気性菌 (戸田新 p592~)
<総論>
○臨床的に感染が疑われ、培養を行う条件
・病巣部、膿、分泌液、穿刺液に悪臭があったり、ガスが存在している場合
○常在細菌叢、特に腸管内の常在菌には嫌気性菌の数と菌種が多いので、さまざまな生理機能が考えら
れる
○多糖体莢膜を持つ Bacteroides fragilis は単独で膿瘍を作る
○嫌気性菌感染症
・常在性の無芽胞嫌気性菌のいくつかは日和見病原体である
・臨床材料からの検出頻度が高い菌としては、バクテロイデス属が最も重要
・Bacteroides fragilis 群が多い
・内因性感染を起こす
・バクテロイデス属:消化管の常在菌
・糞便中に大量に含まれる
<クロストリジウム属>
○Genus Clostridium
○ヒトに病原性を持つものは少数の菌種に限られている
○向神経性の毒素を産生
・Clostridium tetani
・Clostridium botulinum
○組織障害性の毒素を産生
・Clostridium perfringens
○腸管毒や細胞毒を産生
・Clostridium difficile
<破傷風菌>
○Clostridium tetani
○元来は土壌細菌で世界中の土中、水中に広く分布
○グラム陽性の桿菌
○芽胞は円形で菌体末端に位置し、菌体より膨隆する
○太鼓のバチ状の形態を呈する
○抵抗性
・栄養型は熱および消毒剤に対してほかの無芽胞菌と同程度の感受性を持つ
・芽胞は抵抗性が強く 100℃で 60~90 分の過熱でもかなり生残する
・常用消毒剤ではグルタールアルデヒドが最も有効
30
○病原性
・自然感染ではヒトとウマに病原性を示す
・高い嫌気度を要求するため、発症は少ないこともある
・ヒトの場合、受傷後 4~7 日ないし 4~5 週の潜伏期を経て発症する
・場合によっては受傷後数年を経て発症することもある
・菌の増殖は感染局所に限局し、菌自体が他の部位へ広がることはない
・産生する神経毒素(テタヌストキシン)によって全身の横紋筋の強直性けいれん・持続的緊張をきたす
・下行性テタヌス:強直の範囲が身体の下部に向かって進行する
・牙関緊急:咬筋の痙攣による開口障害
・痙攣発作はちょっとした物音や明りの点灯、風などによってしばしば誘発される
・現在はトキソイドワクチンの普及により、先進国での発症は減少している
・全世界では年間 100~200 万人が罹患している
○治療には破傷風免疫ヒトグロブリン(ヒト TIG)が用いられている
○日本では小児期にジフテリアトキソイド、百日咳ワクチンと共に 3 種混合ワクチン(DTP ワクチン)と
して予防接種を受ける事で予防している
<ボツリヌス菌>
○Clostridium botulinum
○ボツリヌス症(ボツリヌス中毒)
○病原性
・食餌性ボツリヌス症:ボツリヌス中毒とも言われる
・土壌中に存在する菌が野菜や肉類に付着する
・食品加工時に滅菌が不十分であると菌は芽胞の形で生残する
・典型的な毒素型食中毒
・日本の症例では複視が診断の手がかりとなった例が多い
・乳児ボツリヌス症:生後 2 週齢から 1 年未満の乳児に見られる疾患
・ボツリヌス菌芽胞を含むハチミツが原因となった例が多い
○ボツリヌス毒素は易熱性であるため、食品を摂取直前に加熱することで予防ができる
<組織障害性クロストリジウム(ガス壊疽菌群)>
○histotoxic clostridia
○クロストリジウム・パーフリンジェンス
・Clostridium perfringens
・ウェルシュ菌
・各種の糖を分解して酸とガスをつくる
・ガス壊疽:皮下組織や筋肉に壊死を起こす感染症の総称
31
・創傷感染による疾患では壊死巣が急速に拡大していく状態
・クロストリジウム性筋壊死とも言う
・致命率は 15~30%
・受傷後 2~3 日後に発症
・汚染された創傷部を早急に辺縁切除することが予防に重要
・ウェルシュ菌食中毒:A 型菌の特殊な菌株による食中毒
・食中毒は多量の生菌を含む食物の摂取により起こる
・ウェルシュ菌は広く分布しているため、食物が汚染される機会は多い
・菌で汚染された食物を加熱調理すると耐熱性の芽胞は生残しているため、調
理後の冷却と共に発芽し、食物中に急激に増殖する
・感染型食中毒に分類される
<クロストリジウム・ディフィシレ>
○Clostridium difficile
○健常者の腸管内に少数生息している
○偽膜性大腸炎の原因菌
○腸内細菌叢が乱れ、菌交代症として本金が増殖する
○下痢を主体とする症状を呈する(偽膜性大腸炎)
○薬剤性大腸炎の 1 種
○診断にはラテックス凝集反応を用いた毒素検出法もある
<バクテロイデス属>
○Genus Bacteroides
○グラム陰性菌の無芽胞桿菌
○糖分解性で、胆汁中でよく増殖する Bacteroides fragilis 群はヒトの腸管内に存在しているため、糞便
中から最も多く検出され、嫌気性菌感染症の際に分離される嫌気性菌として重要
○バクテロイデス・フラジリス
・Bacteroides fragilis
・ヒトの臨床材料からは他の細菌と共に分離される場合と、単独で分離される場合とがある
・ヒトの軟部組織の感染巣や嫌気性菌による菌血症から最も頻繁に分離される
・嫌気性菌による菌血症としては、本菌によるものが最も多い
・本菌による敗血症の予後は非常に悪く、致死率は 34~80%と報告されている
・ショックや全身性血管内血液凝固を伴う場合には予後はより悪くなる
32
<ポルフィロモナス・ジンジバリス>
○Proohyromonas gingivalis
○ヒトの口腔から分離され、歯周病と関連がある
20、ジフテリア菌とコリネバクテリウム属 (戸田新 p621~)
<ジフテリア菌>
○Corynebacterium diphtheriae
○まっすぐか少し弯曲したグラム陽性桿菌
○ポリホスフェイトを主体とする異染小体を持つ
○異染小体染色(ナイセル法)により、横褐色の菌体の中に数個の黒色の異染小体が見られる
○トキソイド
・毒素液の長時間放置により抗原性は保存されたものの、毒素の消失した状態になったもの
・毒素は漸減消失するが、抗原性は保存される
・日本ではジフテリアトキソイド(D)と破傷風トキソイド(T)を混合した DT、沈降 DT、さらに百日咳
ワクチン(P)を加えた 3 種混合の沈降 DTP がワクチンとして使用されている
○ジフテリア
・飛沫感染によって生じる上気道粘膜疾患
・粘膜に生じる偽膜が特徴的
・咽頭から喉頭にまで広がり、気道閉塞に至ることもある
<プロピオニバクテリウム属>
○Genus Propionibacterium
○グラム陽性の嫌気性桿菌
○非運動性で芽胞は形成しない
○嫌気性コリネと呼ばれることもある
○皮膚、粘膜の常在菌
○代表的な菌種はニキビの原因となる Propionibacterium acnes(アクネ菌)
33
21、結核菌と抗酸菌(マイコバクテリア) (戸田新 p630~)
<マイコバクテリウム属>
○Genus Mycobacterium
○細胞壁にミコール酸を持つ
○グラム陽性
○非運動性で芽胞や莢膜を形成しない
○いったん染色されると酸、アルコール、煮沸などの強い脱色作用にも抵抗性が強い
○培養不能菌としてらい菌がある
<結核菌(ヒト型結核菌)>
○Mycobacterium tuberculosis
○結核(tuberculosis)の病原体
○1882 年にコッホにより発見された
○純培養、動物実験などによる確認ができるので、コッホの 4 原則を満たす最初の菌となった
○結核
・地球上の全人口の 1/3 が感染
・毎年 800 万~1000 万人が発病
・毎年 200 万~300 万人が死亡
・感染者の はアジア地域の住人
・世界でも最重要の感染症
・結核菌の飛沫核の吸入(空気感染)により経気道的に発症する
・2 週間以上持続する咳などを主訴とする
○脂質に富む厚い細胞壁を有するため、色素の通過が妨げられ、染色されにくい
○加熱された場合はグラム陽性に染まる
○チール・ネールゼン法
・国際的に最も広く用いられている染色法
・結核菌は赤く染まる
・結核菌以外の細菌や細胞などは青く染まる
○固形培地による発育
・小川培地:卵をベースにした培地
・喀痰中の結核菌を培養するのに 3~4 週、場合によっては 8 週の長期培養を必要とする
・ミドルブルック培地:寒天をベースにした培地
34
○抵抗性
・無芽胞菌としては抵抗性の最も強い細菌
・温度抵抗性も強い
・パスツリゼーション:牛乳の低温滅菌に用いられる処理
・63~65 度で 30 分処理
・日光にはかなり弱い
・直射日光では紫外線の作用により培養菌は 20~30 分で死滅、喀痰内の結核菌でも喀痰が薄層の際に
は 2~3 時間で死滅する
○細胞壁
・脂質に富む強固な細胞壁を持つ
・脂質としてはミコール酸、コードファクター、リン脂質などを含む
・多糖体やタンパクも存在する
○タンパク産生
・酵素タンパクや種々の機能を有する多種類のタンパクを産生する
・ツベルクリン活性(遅延型アレルギー)をもつ種もある
・感染防御免疫に関与する種もある
○ツベルクリン
・結核菌の培養濾液中に分泌されるタンパクを主成分としたもの
・結核菌の感染の有無の判定に用いられる
・ツベルクリン反応:結核菌のタンパク成分に対して起こる遅延型アレルギー
○BCG による結核予防
・BCG:ウシ胆汁加バレイショ培地に 13 年にわたり 230 代の継代を重ねて確立した病原性を示さな
い菌株
・ワクチンとしての有効性がある
・生菌でないと感染防御免疫は誘導されない
○治療
・化学療法薬の第一選択薬:イソニコチン酸ヒドラジド(INH)、リファンピシン(RFP)、
エタンブトール(EB)、ストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)
・INH と RFP は特に有効な薬剤
・DOTS:第三者により患者が確実に服薬したことを確認する方法
・結核の薬物治療に効果を上げている
・多剤耐性結核菌:他の薬剤に対する耐性の有無にかかわらず INH と RFP に耐性を獲得した結核菌
・治療が困難になる
35
<非結核性抗酸菌>
○Non Tuberculous Mycobacteria(NTM)
○結核菌とらい菌を除く抗酸菌の総称
○大部分は自然界の水や土壌中に存在する
○ヒトへの感染は自然界から起こる
○ヒトからヒトへの伝染は認められていない
○日和見病原体
○日本での感染
・75~80%は Mycobacterium avium、Mycobacterium intracellulare(Ⅲ群)による
・20%弱は Mycobacterium kansasii(Ⅰ群)による
・細菌は HIV 感染症(エイズ)との合併が問題となっている
・エイズとの感染の場合、消化管より感染し、血行性に広がって全身感染を起こすのが一般的
<らい菌>
○Mycobacterium leprae
○ハンセン病の病原体
○抗酸性を示す桿菌
○食細胞であるマクロファージ(らい細胞と称する)内で増殖する
○体外における抵抗性はきわめて弱い
○ヒトに対する病原性
・皮膚や粘膜を介して感染する
・ほとんどが不顕性感染で、ごく一部が発病する
・発病には遺伝的な素因(HLA-DR2 型)も関与すると考えられている
・成人が患者との接触により発病することはない
○動物に対する病原性では、ココノオビアルマジロで L 型類似の病変を起こし、多量のらい菌を得るこ
とができる
○疫学
・日本では 1996 年 4 月に「らい予防法」が廃止された
・患者が多いのは東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカ
・特に患者が多いのはインド
・新患者の 60%はインドで占められている
36
22、スピロヘータ (戸田新 p654~)
<総論>
○Spirochetes
○細長いらせん状を呈し活発に運動するグラム陰性菌
○分類
・トレポネーマ属(Genus Treponema)
・ボレリア属(Genus Borrelia)
・レプトスピラ属(Genus Leptospira)
<梅毒トレポネーマ>
○Treponema pallidum
○梅毒の原因菌
○The New World or Columbian Theory
○ヒトに性病性または先天性の梅毒を起こす
○ウサギの精巣(睾丸)内接種で増殖させることができる
○培養
・ゲノムサイズが 1.14Mb と極めて小さいので、生合成系に限界がある
・補酵素、脂肪酸、ヌクレオチドの de novo 経路での(新生)合成ができない
○抵抗性
・宿主体外での抵抗性は極めて低く、2 時間以上生存できない
・高温、低温、乾燥、浸透圧変化、各種抗生物質の作用などにより容易に死滅する
・ほとんどが直接接触による感染
・熱に対する感受性がきわめて高い
○病原性
・感染はほとんどが性行為などの直接感染で起こる
・後天梅毒:生後感染する
・皮膚や粘膜の小傷から組織に侵入する
・第 1~2 期を早期梅毒と言う
・第 3~4 期を晩期梅毒と言う
・他人への感染性があるのは第 2 期まで
・先天梅毒:胎児期に母体から胎盤を通して感染する
・胎盤形成は妊娠 4 ヶ月以後なので、それ以前に化学療法で治療することで予防が可能
・TORCH 感染症の 1 つ
37
○免疫
・Treponema pallidum 感染の場合、体液性免疫応答として、Treponema pallidum に特異的な抗体と
脂質抗原(カルジオリピン-レシチン-コレステロール)に対するレアギンが出現する
・レアギン:抗体価が臨床状態を反映し、化学療法による治療効果を判断する上で重要な視標となる
・補体結合反応(ワッセルマン反応)、沈降反応(ガラス板法)などによる診断に利用される
○梅毒血清反応
・Serological Test for Syphilis(STS)
・使用される術式:ワッセルマン反応、VDRL テスト、RPR カードテスト
・非特異的な反応であるため、梅毒以外の感染症、自己免疫疾患、妊娠などにおいても陽性(生物学的
偽陽性)になることがある
○トレポネーマ抗原テスト
・特異的な抗体を測定する検査法
・特異性が高いので確定診断には必須
・STS より陽性になる時期が遅れたり、治療により病原体が消えた後も陽性が続くため治療効果の判
定には使えない
・スクリーニングには STS を用いた検査を行う
・確定診断と治療判定には STS とトレポネーマ抗原テストを組み合わせた検査を行う
○治療と予防
・治療には主にペニシリン系やマクロライド系抗生物質が使われる
・Treponema pallidum に曝露された人の約 が発症する
・性的接触者の抗生物質による予防療法も重要
<回帰熱ボレリア>
○Borrelia recurrentis
○回帰熱:熱発作が反復して起こる
○シラミを唯一のベクターとする病原体
○治療にはテトラサイクリン系、マクロライド系薬剤が用いられる
<ライム病ボレリア>
○Borrelia burgdorferi
○子供の関節炎の流行からライム関節炎と呼ばれた
○季節的にはマダニの活動期である春から夏に発病が多い
○910,725bp のきわめて小さな線状染色体と 21 種の線状ならびに環状プラスミドから構成される
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○日本ではベクターのシュルツェマダニの分布に対応し、北海道から本州中部以北に患者が見られる
○遊走性紅斑が出現した後に関節炎、筋肉炎、髄膜炎などの神経症状を呈する
○治療は抗生物質の投与が行われる
・テトラサイクリン系やペニシリン系など
<レプトスピラ属>
○Genus Leptospira
○レプトスピラ感染症は世界各地に広範に蔓延する最も代表的な人獣共通感染症の一つ
○レプトスピラ属は 120 種以上の動物から分離される
○特に高温、多雨の熱帯、亜熱帯の発展途上国でのヒト、家畜の被害が甚大
<黄疸出血性(ワイル病)レプトスピラ>
○Leptospira interrogans
○ヒトの場合は 2~16 日の潜伏期を持つ
○潜伏期を終えたら高熱、筋痛、結膜充血、出血性傾向、タンパク尿などをともなって発病する
○約半数の患者で黄疸が見られる
○3 主要徴候:タンパク尿、黄疸、出血
○日本の都会ではワイル病が、農村地区ではワイル病に加えてほかの血清群による感染が混在
○散発的に発生している
○ワイル病レプトスピラは主にドブネズミ、クマネズミが保菌している
○保菌動物の腎臓に保有されたレプトスピラが尿中に排泄され、汚染された水や泥土が感染源となる
○治療にはペニシリン系、テトラサイクリン系などが用いられる
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23、マイコプラズマ (戸田新 p673~)
<生物学的特徴>
○細胞壁を持たないため、ペニシリンには非感受性
○細菌細胞にある強靭な細胞壁(ペプチドグリカン)を欠如する
○細胞質は 3 層の細胞膜で包まれている
<肺炎マイコプラズマ>
○Mycoplasma pneumoniae
○ヒトに病原性があるマイコプラズマの一種
○マイコプラズマ肺炎
・5~30 歳、特に 9 歳以下に好発する
・3 歳以下の乳幼児や高齢者での発生はまれ
・潜伏期は 2~3 週間
・症状は発熱、咳
・混合感染がなければ予後は良好
・感染経路は飛沫感染
・学校での学童間の感染から、家庭内に持ち込まれ、家族内感染が頻発する
・家族内感染様式とともに、学校内感染の症例数と抗体の動きから、流行が 4 年ごとに繰り返される
ためオリンピック病ともいわれる
○治療
・細胞壁を欠くためペニシリンなどのβ-ラクタム系薬剤は無効
・エリスロマイシンなどのマクロライド系薬剤やテトラサイクリンが有効
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24、リケッチア (戸田新 p683~)
<総論>
○Ricketts
○ロッキー山紅斑熱から見つかった
○細胞内に寄生しないと増殖することができない小さな細菌
○感染の伝播
・リザーバー:自然界でリケッチアを保有している動物
・ベクター:哺乳動物にリケッチアを媒介する節足動物
・節足動物がリケッチアを保有するに至る過程
:リケッチアを保有する節足動物から経卵的に次世代へ伝播
・ex)ノミ
・リザーバーの哺乳動物からの吸血により節足動物へ
・ex)ノミ、シラミ
・ダニの場合は経卵的伝播により代々リケッチアを保有するので、リザーバーとベクターを兼ねる
○病原性
・出血、血栓の形成などにより、小血管の閉塞を起こす
・症状:皮膚の発疹、頭痛、心不全、腎不全、ショック
○ワイル-フェリックス反応
・リケッチアとプロテウス属菌の O 抗原の間に存在する共通抗原を利用した凝集反応
・特異性が低い
・現在では診断上の価値はそれほど高くない
○治療
・テトラサイクリン系抗生物質が最も有用で著明な効果を示す
・早期に投与すれば死亡例が激減するが、免疫成立が不十分となる場合もある
<発疹チフスリケッチア>
○Rickettsia prowazakii
○発疹チフスおよびブリル・ジンサー病の病原体
○発疹チフス
・戦争、飢餓などに伴う非衛生的な集団生活につきまとう伝染病
・リザーバーはヒト
・ベクターはコロモジラミ、アタマジラミ
・感染したシラミは 1~3 週間以内に死ぬため、リケッチアの経卵垂直伝播は起こらない
・シラミは約 29℃の環境(衣類のひだ)を好む
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・シラミは吸血すると脱糞し、ヒトがシラミに刺された部位をかくためにリケッチアを傷口からすり
込んでしまう
・中枢神経症状を呈する
・化学療法の無い時代の致命率は 10~70%であった
・リケッチアはリンパ節に存続し得る
<発疹熱リケッチア>
○Rickettsia typhi
○発疹熱の病原体
○リザーバーはネズミ
○対策
・殺虫剤をネズミの通路に散布し、その後ネズミの駆除を行う
・逆の順番で行った場合は宿主を失ったネズミノミがネズミの代わりにヒトにつくので危険
<ロッキー山紅斑熱リケッチア>
○Rickettsia rickettsii
○ロッキー山紅斑熱の病原体
○森林ダニ、アメリカイヌダニがリケッチアのリザーバーとベクターを兼ねる
<つつが虫病リケッチア>
○Orientia tsutsugamushi
○日本のつつが虫病、東南アジアの草原熱の病原体
○つつが虫病
・新潟県の信濃川と阿賀野川、山形県の最上川、秋田県の雄物川流域に夏季(7~9 月)に発生
・致命率の高い急性の熱性・発疹性疾患
・特有の刺し口が特徴
・今日では古典的(型)つつが虫病と呼ばれる
・新型つつが虫病:日本各地で秋から冬(9~12 月)に発生するつつが虫病
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25、クラミジア (戸田新 p694~)
<トラコーマクラミジア>
○Chlamydia trachomatis
○ヒトを宿主とする
○眼と泌尿生殖器の粘膜に感染する
○分娩時に産道感染する
○以下の疾患の原因となる
・トラコーマ:伝染性の慢性角結膜炎
・封入体結膜炎:生殖器(産道)から新生児の眼へ感染する
・性病性リンパ肉芽腫症:鼠径リンパ節の亜急性の炎症
・尿道炎
・子宮頸管炎
・非淋菌性尿道炎(NGU):感染の約半数がトラコーマクラミジアによる
・妊婦の約 10%が子宮頸管に本菌を保有している
○女性生殖器炎は男性よりも症状が軽いため、感染を見逃しやすい
○不妊、子宮外妊娠の原因にもなりうるので、軽視すべきではない
<オウム病クラミドフィラ>
○Chlamydophila psittaci
○人獣共通感染症
○菌が付着した塵埃を吸入することで塵埃感染を起こす
<肺炎クラミドフィラ>
○Chlamydophila pneumonia
○肺炎をはじめとする呼吸器系疾患を起こす
○飛沫による経気道感染
○抗体保有率は 5~15 歳で増加し、成人では 80%に達しる
○Chlamydophila psittaci による肺炎よりは症状が軽く、かぜ症状や無症状感染で経過することも多い
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26、真菌 (戸田新 p863~)
<カンジダ属>
○Genus Candida
○主要な菌は Candida albicans
○ヒトの口腔、腸管、膣、皮膚などに常在する
○土壌中にも生息する
○近年は臓器移植や HIV 感染などによる易感染宿主の増加に伴い、重要性が増大
○栄養や温度などの環境条件により、酵母形または菌糸形のいずれかの発育形態を示すものがある
○病原性
・ヒトの常在菌なので、内因感染を起こし、ヒトからヒトへ伝染することはない
・病原性は弱いが、感染防御能の低下した人に日和見感染症を起こし、重篤になる場合がある
・真菌感染症では最も多くみられる日和見感染症の 1 つ
・表在性カンジダ症:口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症、膣カンジダ症
・深在性カンジダ症:腸管、心内膜、肺などの新部臓器に生じる
・カンジダ性敗血症をきたして、全身性カンジダ症となる
・体内にカビが生じる終末感染の様相を呈する
・カンジダ症の基礎的要因:糖尿病、造血系腫瘍、抗菌薬の多用、ステロイド剤の使用、
HIV 感染による免疫不全(エイズ)
・口腔咽頭カンジダ症はエイズ発症の指標疾患
○診断の際には常在真菌であることに留意する必要がある
○表在性カンジダ症にはアゾール系薬剤やポリエチレン系薬剤が局所的に使用される
<アスペルギルス属>
○Genus Aspergillus
○糸状菌で環境中に広く分布する
○ヒトの常在菌ではない
○ヒトの病原菌としては Aspergillus fumigatus が重要
○ヒトへは経気道的に感染する
○感染するとアスペルギルス症を発症
○生活環境に広く存在する真菌
○ハト飼育者など塵埃を多く吸入するヒトに見られる職業病と考えられていた
○病原性
・Aspergillus fumigatus による感染が大半を占める
・アスペルギルス症の中では肺アスペルギルス症の治療が困難
・肺アスペルギローマの発生頻度が高い
・播種性アスピルギルス症に進展すると、週末感染の様相を呈することが多い
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○自然界に広く分布する菌であるため、診断で分離された菌の病原的意義は十分考慮された上で決定さ
れるべき
<クリプトコックス・ネオフォルマンス>
○Cryptococcus neoformans
○クリプトコックス症の原因菌
○土壌中に存在する真菌で、自然界に広く分布し鳥類(特にハト)の糞中に効率に存在する
○病原性は弱いが、日和見感染症を起こす
○初感染は肺に起こり肉芽腫性結節を生ずるが、健常者ではたいてい不顕性感染で終わる
○易感染宿主の場合は全身性クリプトコックス症に移行し、中枢神経に親和性があるため、クリプトコ
ックス性髄膜炎を起こす事が多い
・血行性に散布される
○エイズ発症の指標疾患
○日本ではクリプトコックス症、カンジダ症、アスペルギルス症は三大深在性真菌症と言われている
<新興真菌症の原因菌>
○トリコスポロン属
・Genus Trichosporon
・白血病患者などに予後不良の深在性トリコスポロン症をおこす
・菌は土壌中に存在する
・菌を反復吸入するとアレルギー性呼吸器疾患の夏型過敏性肺臓炎を起こす
○ニューモシスチス・ジロベシイ
・Pneumocystis jirovecii
・エイズ患者などの免疫力が低下したヒトに発症する肺炎
・ニューモシスチス肺炎の病原体
・HIV 感染者において最も重要な真菌感染症
・胸部 X 線像や CT 像では非定型肺炎で定型的なスリガラス状陰影がみられる
・治療にはペンタミジン、サルファ剤、トリメトプリムなどが有効
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