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金属材料破断面の基礎的データの構築

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金属材料破断面の基礎的データの構築
群馬県立産業技術センター研究報告(2012)
金属材料破断面の基礎的データの構築
加部重好・大槻洋三・野口貴生
Construction of a database for fracture surface of metallic materials
Shigeyoshi KABE, Yozo OHTSUKI, Takao NOGUCHI
市販の鉄鋼材料を、単純な破壊方法により金属材料を破断し、マクロ観察及びミクロ観察手法により
破断面を評価した。その結果、同一素材ごとに破断の特徴を捉えることができた。
キーワード:破断面、金属材料
The fracture surfaces of commercially available metallic materials were investigated through
micro and macro observations. As a result fracture features for in the same kind of the metals were
characterized.
Keywords:fracture surface、metallic material
1
はじめに
2
実際に使われていた機器が損傷した場合
2.1
の金属材料の破断面は、複雑な破断形態を取
実験及びデータベースの作成
選定した鉄鋼材料について
今回の実験に用いた鉄鋼材料は、
っていることが多い。そのため、産業技術セ
SS400(一般構造用圧延鋼材)
ンターに持ち込まれる、破断品等に関する相
S45C(機械構造用炭素鋼)
談についても単純なものでない場合が多く見
FC250(ねずみ鋳鉄)
られる。この複雑な問題を解決するためには、
SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)
まずは単純な破壊方法により金属材料を破断
の代表的な 4 種を選定し各種試験片を作製し
させ破断面の観察を行うことが破断形態を理
た。
解する上で有効である。
2.2 実験方法について
万能試験機を用い、静的破断をさせること
により破断面を作製し、その評価を行った。
シャルピー衝撃試験機を用い、動的破断を
させることにより破断面を作製し、その評価
を行った。
回転曲げ試験機を用い、疲労破断させるこ
とにより破断面を作製し、その評価を行った。
疲労破断の場合には、微少な形状の影響も受
けやすいため旋削加工による送り目の影響に
ついても同時に検証したいと考え、送り速度
(f=0.1mm/rev、0.25mm/rev)の違う2種類の
試験片を作製し評価を行った。
そこで、金属材料を単純な方法で破断さる
ことにより、基本的な破断のプロセスをマク
ロ観察やミクロ観察により明らかにし、金属
材料の破断形態を同一素材ごとに特徴を捉え
データベースにまとめることを目的とした。
この場合に利用する金属材料については、
一般的に入手しやすく、代表的なものを選定
し、評価の対象とした。
また、データベースにまとめることで、破
断した部品等に関する相談に来た企業への簡
単な説明資料としての利用も目的とした。
機械係
- 55 -
3
片に 0.01 ㎜ほどテーパーが付いていた
ことから寸法の細い部分より破断に至っ
た。このことから繰り返し荷重がかかる
場合には形状精度の影響や表面粗さの影
響を敏感に受けやすいことが言える。
実験結果
実験により得られた各種破断面の評価を行
い、データベースとしたものを図1~4に示
す。
4
まとめ
(1)一般構造用圧延鋼材については、引っ
張り、衝撃試験ともにディンプル破面
となり、延性破面の特徴を示している。
疲労試験においては予想通り送り目の
影響をかなり受けたこと、また試験片
に 0.01 ㎜ほどテーパーが付いていた
ことから寸法の細い部分より破断に至
った。このことから繰り返し荷重がか
かる場合には形状精度の影響や表面粗
さの影響を敏感に受けやすいことが言
える。
(2)機械構造用炭素鋼については、衝撃試
験では脆性破断の特徴である擬へき開
破面となり、引っ張り試験では延性破
面の特徴であるディンプルとなり、破
面のでき方は荷重のかかり方により特
徴が表れやすいようである。疲労試験
においてはこちらも予想通り送り目の
影響をかなり受けたことと、また試験
(3)ねずみ鋳鉄については、引っ張り、衝撃、
疲労試験どれもすべて粒界割れや黒鉛を
伝わりはがれたような破面である。
この素材は他の素材と違い引っ張り試
験においても形状精度に敏感に反応し破
断しており、加工時の形状精度や表面粗
さに敏感に影響を受けることから、加工
には注意が必要である。
(4)オーステナイト系ステンレス鋼について
は、非常に延性素材であり伸びや絞りも
大きな値示すのが特徴である。
そのため疲労試験においては荷重を軽
くし変形を抑えて試験をした場合には破
断に至らず、荷重を 50N ほど上げた場合
に大きく変形を起こし試験終了となるほ
ど変形しやすい素材である。このことは
通常の使用では破断に至る前に大きく変
形を起こすことが考えられ、破断しづら
い素材であることがいえる。その反面、
かなり変形を起こしやすい素材であるた
め機械構造用部材での使用については検
討が必要と思われる。
- 56 -
一般構造用圧延鋼材(SS400)
金属組織写真
備
試験条件および加工条件
考
白地はフェライト色のついている
箇所はパーライトである。
組織は介在物も少なく一般的な
正常なものである。
100倍
備
考
切削速度 V=200M/min
送り F=0.1、F0.25㎜/回転
刃物のノーズR0.2
加工条件
回転曲げ試験機
試験条件 回転数 2000rpm
荷重 200N
400倍
衝撃試験よる破断
試験結果
回転曲げ試験による破断( 送りF0.1)
試験結果
マクロ写真(CC Dカメ ラマイクロスコープ)
吸収エネルギー 約120J
マクロ写真( CCDカメラマイクロスコープ)
破断回数 75,000回
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。比較的
短時間での破断であったが破
面はフラットである。回転曲げ
のため起点は外周各部より入り
ラチェットマークが多数存在す
る。
破断面は延性素材のため、か
なり凹凸感があり、完全に破断
しきれていない。
破断面正面
破断面横
破断面正面
ミ クロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真(FE- SEM))
ストライエーショ
衝撃試験においても延性破面
の特徴であるディンプルが全面
に観察される。
200倍
1000倍
ストライエーションの間隔が大きく1000
倍程度でも観察できる。
高負荷による試験のため、低サ
イクル疲労破面となりストライ
エーションが表れにくく、全体に
試料がひび割れを多く起こして
いる。
1000倍
引っ張り試験による破断
試験結果
回転曲げ試験による破断(送りF0.2 5)
試験結果
マクロ写真(CC Dカメ ラマイクロスコープ)
最大応力 約600N/mm2
マクロ写真( CCDカメラマイクロスコープ)
破断回数 40,000回
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。比較的
短時間での破断であり、かなり
送り目の影響を受けは破断に
至るまで約半分の時間となり、
また同一面上の破断ではなく
立体的に破断している。
延性素材であり引っ張り試験の
ため、外周はせん断方向に組
織が滑りカップアンドコーンの形
状となる。
破断面正面
破断面横
破断面正面
ミ クロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真(FE- SEM))
ストライエーショ
ストライエーションの間隔がかなり大き
く1000倍程度でも十分観察できる。
延性破面の特徴であるディンプ
ルが全面に観察される。
200倍
800倍
高負荷による試験のため、低サ
イクル疲労破面となりストライ
エーションが表れにくく、また刃
物の送り目の影響で色々な箇
所より破断が始まり全体に凹凸
感があり試料がかなりひび割れ
ている。
1000倍
図1 SS400(一般構造用圧延鋼材)
機械構造用炭素鋼(S45C)
金属組織写真
備
試験条件および加工条件
考
加工条件
白地はフェライト色のついている
箇所はパーライトである。
組織は介在物も少なく一般的な
正常なものである。
100倍
備
考
切削速度 V=200M/min
送り F=0.1、F0.25㎜/回転
刃物のノーズR0.2
回転曲げ試験機
試験条件 回転数 2000rpm
荷重 200N
400倍
衝 撃試験による破断
シャルピー衝撃試験
回転曲げ荷重による破断(送りF0 .1 )
試験結果
マクロ写真(C CDカメラマイクロスコープ)
吸収エネルギー 約32J
マクロ写真( CC Dカメラマイクロスコープ)
破断回数 100,000回
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。破面は
同一面上で破断しているためフ
ラットである。回転曲げのため起
点は外周各部より入りラチェット
マークが多数存在する。
脆性破断しているためは凹凸感
は少なめである。
破断面正面
破断面横
破断面正面
ミクロ写真( 電子顕微鏡写真( FE- SEM))
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
ストライエーショ
2000倍い程度でないと観察できない
ため、SS400に比べかなりストライエー
ションの間隔は狭くなっている
脆性破断の特徴である疑へき
開が全面に観察される。
200倍
1000倍
細かいストライエーションが無数
に観察できる。
2000倍
引っ張り試験による破断
引っ張り試験
回転曲げ荷 重による破断( 送りF0 .25)
試験結果
マクロ写真(C CDカメラマイクロスコープ)
最大応力 約800N/mm2
マクロ写真( CC Dカメラマイクロスコープ)
破断回数 43,000回
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。比較的
短時間での破断でありかなり送
り目の影響を受け同一面上の
破断ではなく立体的に破断して
いる箇所も見られる。
引っ張り試験のため、外周はせ
ん断方向に組織が滑りカップア
ンドコーンの形状となる。
破断面正面
破断面横
破断面正面
ミクロ写真( 電子顕微鏡写真( FE- SEM))
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
ストライエーショ
静的荷重のため衝撃荷重の場
合と違い延性破面の特徴であ
るディンプルが全面に観察され
る
200倍
800倍
図2
2000倍い程度でないと観察できない
ため、SS400に比べかなりストライエー
ションの間隔は狭くなっている。
送り目の影響によるストライエーション
の差は見られなかった。
2000倍
S45C(機械構造用炭素鋼)
- 57 -
細かいストライエーションが無数
に観察できる。
ねずみ鋳鉄(FC250)
金属組織写真
備
試験条件および加工条件
考
白地はフェライト黒い箇所は黒
鉛である。
金属組織は粗悪なものとなって
いる
100倍
備
考
切削速度 V=200M/min
送り F=0.1、F0.25㎜/回転
刃物のノーズR0.2
加工条件
回転曲げ試験機
試験条件 回転数 2000rpm
荷重 100N
400倍
衝撃試験による破断
シャルピー衝撃試験
回転曲げ荷重による破断(送りF0.1)
試験結果
マクロ写真(CC Dカメ ラマイクロスコープ)
吸収エネルギー 約2.8J
マクロ写真( CCDカメラマイクロスコープ)
破断回数 78,000回
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。破面は
同一面上で破断しているためフ
ラットである。回転曲げのため起
点は外周各部より入りラチェット
マークが多数存在する。
脆性破断しているため破断面が
かなりフラットな形状になってい
る。
破断面正面
破断面横
破断面正面
ミ クロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真( FE- SEM))
ストライエーションは見当たらない。
脆性破断のため粒界割れのよ
うであり、また黒鉛の境目から
の割れと混在している。
200倍
1000倍
動的試験、静的試験破面と全く
変わらない破面である。
1000倍
引っ張り試験による破断
引っ張り試験
回転曲げ荷重による破断(送りF0.2 5)
試験結果
マクロ写真(CC Dカメ ラマイクロスコープ)
最大応力 約290N/mm2
マクロ写真( CCDカメラマイクロスコープ)
破断回数 33,000回
静的荷重の場合にも脆性破断
しているためかなりフラットな形
状である
破断位置に関しては試験片の
形状の影響も受けていることか
ら、形状に敏感に反応している
破断面正面
破断面横
疲労破断のため塑性変形を伴
うことなく破断している。比較的
短時間での破断でありかなり送
り目の影響を受け同一面上の
破断ではなく立体的に破断して
いる箇所も見られる。
破断面正面
ミ クロ写真(電子顕微鏡写真( FE-SEM) )
破断面横
ミクロ写真(電子顕微鏡写真( FE- SEM))
衝撃試験とほとんどミクロ破面
では変わりがなく、脆性破断の
ため粒界割れのようであり、ま
た黒鉛の境目からの割れと混
在している。
200倍
800倍
ストライエーションは見当たらない。
動的試験、静的試験破面と全く
変わらない破面である。
1000倍
図3
FC250(ねずみ鋳鉄)
オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)
金属組織写真
備
試験条件お よび加工条件
考
加工条件
オーステナイト組織特有の焼き
なましフ双晶である。
金属組織は炭化物がかなり多く
に観察され、もしかしたら溶体化
処理がされていないようにも見
える素材である。
100倍
備
考
切削速度 V=200M/min
送り F=0.1、F0.25㎜/回転
刃物のノーズR0.2
回転曲げ試験機
試験条件 回転数 2000rpm
荷重 100N~150N
400倍
衝撃試験に よる破断
シャルピー衝撃試験
回転曲げ荷 重による破断( 送りF0.1 )
マクロ写 真(C CDカメラマイクロスコープ)
吸収エネルギー 約365J
マクロ写真 (CC Dカメラマイクロスコープ)
No image
破断面正面
No image
試験結果
かなりの延性材料のため荷重を
150Nとすると塑性変形を起こし
機器のリミットを踏み試験中止と
なる。100N程度では長時間の
試験を試みないとわからないが
破断に至らないようである。
破断面横
ミクロ写真(電 子顕微鏡写真( FE-SEM) )
延性破断の特徴であるディンプ
ルが引き伸ばされた形状で観
察される。
200倍
No image
No image
1000倍
引っ張り試験による破 断
最大応力 約630N/mm2
延びや絞りもかなり大きくなって
いる。破断形状もカップアンド
コーンの形状となる。
破断面正面
回転曲 げ荷重による破 断(送りF0 .2 5)
No image
No image
破断面横
ミクロ写真(電 子顕微鏡写真( FE-SEM) )
ミクロ写真(FE-SEM)
1相(オーステナイト)の組織で
あるためディンプルの大きさもそ
ろっており細かくなっている。
ディンプルのそこに穴が開いて
いるが炭化物が抜け落ちた穴
であると思われる。
200倍
No image
No image
800倍
図4
試験結果
マクロ写真 (CC Dカメラマイクロスコープ)
マクロ写真(CCDカメラマイクロスコープ)
SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)
- 58 -
かなりの延性材料のため荷重を
150Nとすると塑性変形を起こし
機器のリミットを踏み試験中止と
なる。100N程度では長時間の
試験を試みないとわからないが
破断に至らないようである。
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