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アリとキリギリス

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アリとキリギリス
第 12 講 第3章 財政負担(1)
1.財政資金調達の影響
増税による財源調達
財政出動−何らかの財源
1) 増税
2) 国債=国民に借金
3) 財政規模を変えずに財政出動の内容を変える=公共事業の削減(第2章→使い道がしっかり吟味
されているかぎり、減税よりも公共事業の方がずっと意味がある→本章の対象外)
●増税による減税の財源確保
→減税対象と増税対象は異なる
→現時点での国民の間の所得の再分配
↓
現時点での増税でやりくりした減税=所得の再分配政策
ただし、財政出動として減税の代わりに公共事業を行っても、所得の再分配という意味では減税とま
ったく同じ
→財源として税金を徴収される人々から、公共事業によって直接間接に雇用され、賃金を支払われる
人々への所得再分配
公共事業の場合には公共財を残すが,物ではなくお金の側面からみれば、減税も公共事業も、右から
左に金を回すだけ
国債による調達の問題点
●国債=政府の民間部門に対する借用証書
→将来その利子と元金を民間の国債保有者に返済
→将来,利子元金返済のための財源が必要に
→将来いつかの時点で国民に対して増税を行い、利子を含めた累積赤字分を返済
↓
国債は、民間にとっては現在と将来との時点間の所得再分配
●国債発行による財源調達の問題点についての一般的認識
1.
国の借金が増えて国家財政が危うくなり、国の経済が立ち行かなくなる。
2.
将来借金の返済をしなければならないため、将来世代に負担がかかる。
▽大蔵省の財政再建の論拠
国債の累積に伴って将来の元利支払いが上昇し、その結果、将来には増税せざるを得なくなる。その
ため、国民所得に占める租税額と社会保障負担額の合計値を表す「国民負担率」は上昇し続けて、「危
機的状況」に陥る(図 3・1 参照)。これを避けるためには、財政規模を毎年引き下げなければならな
い
→九七年の財政構造改革法である。
第一は明らかな誤りであり、第二についても国債を発行する時期の景気の状態に依存しており、必ず
しも正しくはない
現実の日本における重要な経済政策の決定が、このような誤解に基づいてなされていることこそが、
大問題
「政府の借金」と「国の借金」の混同
●政府の赤字と国全体の赤字との重大な混同
*
国債発行による財政赤字の累積=政府部門の民間に対する負債
しかし,
*
国債発行による政府部門の負債の増大=民間部門では同額の国債という資産蓄積
国全体の資産=民間の資産+政府の資産・負債
→国債額がいくらたまっても、またいくら減っても、負債と資産がちょうど相殺されて、国全体の資
産には何の変わりもない
(図 3・2 参照)
「国債発行は,国民の資産総量を変化させない」という議論についての遠州の補足
この議論は,厳密に言えば成り立たない。民間による国債購入資金の調達は,当該年度の付加価値
額(GNP)うち,貯蓄等にまわるはずの分(資産増加予定分)を充てるか,それだけでは足りない場
合には民間全体として従来すでに保有していた資産分を取り崩して行われるので,その分だけ純粋に
負債が増加し,国全体としての総資産量は減少する。
ただし,失業者が存在する場合には,その生活の維持のために政府が支出しなければ,結局,民間
資産を取り崩すか,貯蓄に回す分を減らして民間が負担しなければならないので,国債を発行しなく
ても総資産の減少が生じる。したがって,国債による政府資金の調達と財政出動が失業者に資金供給
するものである限りは,国債発行によって総資産が減少しても,その減少分は国債発行を行わなくて
も減少したものに相当する。国債の発行高にかかわらず資産総量を変化させないという表現は不正確
...
で,「国債の発行高にかかわらず総資産の減 少 分 に変化はない」と言うのが正しい。しかし,この減
少は社会的には当然起こるべきもので何の問題もない。あるいは,総資産の減少分は,現金化されて
財政出動されるので,総資産と現金との価値の合計は変化しない。従って「国債の発行高にかかわら
ず,国全体の総資産と流通している現金との価値の合計に変化はない。」しかも,不況期には,需要
不足で預貯金のうち相当部分が民間投資に回すことができず金余りの状態にあり,それが,国債購入
に充てられるから,その面でも問題はない。
一方,総資産量の減少は,将来における購買力の減少を意味するので,失業者に資金供給するため
に必要な分を超えて進行したときには,少なくとも将来世代の負担となる可能性はある。また,完全
雇用期に資産取り崩しによる国債購入が発生すれば,必要とされる民間投資が削減される(=クラウ
ディング・アウト)可能性もある。
失業者に資金供給するために必要となる分を超える総資産量の減少=将来の購買力の減少が,将来
世代の負担にならないためには,国債発行で調達した政府資金による民間への資金供給が,少なくと
も将来において支出される場合に得られたはずの便益を生み,かつ将来まで持続されること,あるい
は最終的に有効に投資されて,総資産量の減少を上回る投資収益を生むことが重要である。なお,将
来世代の一人当たり資産量でみれば,総資産量の減少にみあって人口が減少すれば,変化がない場合
もある。
本当の意味での国の借金=対外債務
「対外債務」どころか「対外資産」を世界一ため込んでおり、国が借金で倒れるということは考えら
れない状況
国債が外国に流れた場合
●国債の元利→国内で納税者から国債保有者への支払い
→日本という国全体から見れば、右から左にお金が回っているに過ぎない
●国債を持っている人が外国人であり、そのため国債の元利が外国に支払われる場合には、日本の負
担となるか
→日本の負担にはならない
●外国人の国債を購入
→それと等価値の外国資産を、日本政府あるいは日本の旧国債保有者に支払って購入
→国内にその分の外国資産が残る
→国債の元利を外国に支払うとともに、それと等価値の外国資産の元利が外国から支払われ、
差し引きすれば外国にまったく支払わないのと同じになる
たとえば、アメリカ人が日本の国債を購入するとしよう。そのとき、アメリカ人はまずドルを売っ
て日本人から円を購入し、その円を日本人に払って日本の国債を購入する。その結果、円はもと通り
日本にもどり、アメリカ人の手元には日本の国債が、また日本人の手元にはドルが残る。日本人はド
ルの現金を保有していても仕方がないから、そのドルを支払ってアメリカ企業の株式や財務省証券を
購入する。結局、アメリカ人の手には日本の国債が、日本人の手にはアメリカの株式か財務省証券が
残り、将来は国債の利子が日本からアメリカにわたるとともに、アメリカから日本に株式の配当か財
務省証券の利子が支払われる。こうして、両国の利子支払いが相殺されてしまう。(87 頁)
●公共投資によって、日本が外国に対して負担を背負う可能性
→日本政府が公共投資を行うために外国製品を購入し、その支払いに見合うだけの価値を生み出すこ
とができなければ、そのマイナス分が日本の負担になる
対外資産蓄積のメカニズム
●国の借金である対外資産が黒字になるか赤字になるか
→ある国が外国に比べて、相対的に現在の消費よりも将来の消費を、どのくらい重んじているか
イソップ寓話の「蟻とキリギリス」と同じ
蟻はキリギリスよりも将来の消費を重んじ、反対にキリギリスは蟻よりも現在の消費を重んじている
→キリギリスは蟻に対し、将来の自分の稼ぎをある程度蟻にわたすという証書と交換に、現在の蟻の
稼ぎの一部をもらう
→この証書が対外資産
日本が経常収支を黒字にして対外資産をためているということは、現在の消費を減らしてでも将来の
購買力(対外資産)をためて、将来の消費を増やそうとしているから
赤字国は、将来の消費を犠牲にしてでも今消費を多くした方がいいと思っている
●政府の行動と対外資産
完全雇用期に政府が多額の公共投資を行い、そのため政府支出を含めた国全体の支出が増えれば、経
常収支の黒字幅は減少し、そのため対外資産の黒字幅も減少
しかし、日本人の現在の消費に対する将来の消費への選好が、外国よりも強いかぎりは、経常収支の
黒字幅が減少しても、長期的に赤字基調にまでなるということはない
ただし,国債累積額が大きくても、また減税を行っても、日本国内の納税者から国債保有者、
あるいは納税者から減税対象者にお金が回るだけであって、対外的には何の影響もない
公共事業が外国製品の購入をともなわず、不況期に自国の失業者を活用して行われる場合→黒字幅の
減少効果はない
→公共事業による支出の伸びが、国内生産の伸びによってまかなわれるため、需要の増大分が国内の
供給増大によってちょうど相殺され、対外収支には影響が出ない
しかし,完全雇用期には、供給は国全体の生産能力の限界に来ているため、公共事業によって国全体
の総需要が増えれば、その分だけ外国からの輸入が増えて、対外収支が悪化する
対外債権の拡大とその危険についての遠州の補足
対外債権の拡大は,一般的にはよいことのように思われるが,次の点で,注意を要する。
1)貿易収支は,ゼロサム・ゲームであり,ある国が黒字であれば,かならず,赤字の国がある。対
外債権の蓄積は,地球上の他のいずれかの場所で,それと同規模の対外債務の蓄積が生じている。対
外債務の蓄積が,返済可能な範囲にあるうちは問題がないが,返済不可能なまでに拡大すれば,当事
国経済の破綻を招くだけではなく,黒字国の保有する対外債権も無価値なものになってしまう。
2)返済可能か不可能かの判断は難しいが,一般にある国の消費水準を将来引き下げるのは著しく困
難だから,現在の消費水準を維持しつつ,一定の期間内(例えば 20 年∼30 年)で対外債務を返済し
きることが可能なだけの経済成長が起きているかどうかで判断することになろう。傾向的には,世界
経済の成長率は鈍化してきているので,各国間の対外収支に著しい偏りがある状態は好ましくない。
3)過去には,対外債務の返済が極めて困難となった事態は数多くある。最近では,70 年代∼80 年
代にかけて発生した南米の累積債務問題は記憶に新しい。また,現在の合衆国のようにすでに世界最
大の債務国でありながら,貯蓄率がマイナスとなっている事態は,対外債務の拡大が一層進むことを
意味しており,極めて危険である。
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