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「淮南子」 「唐詩紀事」

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「淮南子」 「唐詩紀事」
ノノ
ノノ
や
や
ノノ
レ
キキテ
ニニ
レ
クク
リリ
ふ シ レ
の
レ
を の
ヲヲ
推 敲
ゆ
ゆる
ハハ
ナナル
ヲヲ
力
レ
ララ
量
レ
ノノ
お ス A*御=御者。馬を操って馬車を走らせる人。
か きよ
B*賈島=中唐の詩人。
*挙=科挙。中国の官吏登用試験のこと。
語 釈
「唐詩紀事」
ま
そノ
まさニ うタント そ
い
いは
タタリ
ラント
却。不
しりぞ
ララ クヲ シシテ
ヲヲ
ススモ
二
フフ
*賦=詩歌を作る。詩歌を歌う。
*敲=(門などを)とんとんとたたく。
*勢=しぐさ。動作の様子。
さう こう い
れふ
とうそうはちたい か
いつ ちゆう あ
あし
あ
まさ
そ
*大尹=ここでは、都の長官のこと。「尹」は〈長官〉の意。
せい
*韓愈=中唐の詩人・文章家。唐宋八大家の一人。
う
そ
ぎよ
と
い
こ
なん
むし
わ
A
斉 の 荘 公 出 で て 猟 す。 一 虫 有 り 、 足 を 挙 げ 将 に 其 の 輪 を
こ
いはゆる たう らう
もの
そ
むし
すす
搏たんとす。其の御に問ひて曰はく、「此れ何の虫ぞや」と。
い
しりぞ
ひと
いきほ
く
ゆ
し
かなら
おもむ
ひさ
な
い
え
ちから
てん か
けい
こと之を久しくす。
これ
いま
いた
すい
かう
はか
ゆう ぶ
あらた
けつ
じ
よ
ろ
の
かう
おぼ
てき
な
かろ
し
くるま
ふ
めぐ
ほつ
たいゐんかん ゆ
つひ
くつわ
なら
あ
そう
て
さうこう い
これ
し
お
ひ
さ
げつ か
すい
すなは つぶさ
ろん
に言ふ。愈曰はく、「敲の字佳し」と。遂に轡を並べて詩を論ずる
い
敲の勢ひを作すも、未だ決せず。覚えず大尹韓愈に衝たる。乃ち具
かう
の門」の句を得たり。推を改めて敲と作さんと欲す。手を引きて推
もん
B
賈島挙に赴きて京に至り、驢に騎りて詩を賦し、「僧は推す月下
か たう きよ
「此れ人たらば必ず天下の勇武たらん」と。車を廻らして之を避く。
こ
知りて却くを知らず。力を量らずして敵を軽んず」と。荘公曰はく、
し
対へて曰はく、「此れ所謂螳螂なる者なり。其の虫たるや、進むを
こた
訓 読
い ハ ク
推
敲
之
詩、得「二僧
推
月
ズズ
知
レ
レレ
ちょうあん
足
将 レ搏 二其
輪。
一一 *京=唐の都、長安。
ヲヲ
た う ら う
レ
ゲゲ
螳 螂之斧
一
一
虫、一 挙
ず
ず
こ
こたヘテ ハハク
の リ テ ろ ニ レ
ヲヲ
手
作
キキテ
驢 *賦
た ラ バ
ムムヲ
や
やト
こ
これヲ
之。
け
けいニ
レ
なサントか
かうト
*
京、 騎
す
すいヲ
レ
すな
つぶ
ゆニ
一 はチ さニ
か
かん
あ タ ル た
たい
ゐ
ゐん
推
作 敲。引
レ
レ
メメテ
改
*
挙
至
レ
スス
二
エエ
レ
轡
論 詩
久 之 。
シクス こ
これヲ
レ
ズル
ベベテ くつわヲ コト ヲヲ
並
つ
つひニ
覚
衝 二*大
尹 *韓
愈。一乃 具
曰、
言。 愈
ヲヲ一
ず
ず
レ
レレ
リリテ
ゾゾ
二
リリ
「淮南子 」
い デ テ スス
ぎ
ぎよニ い
いハク こ
こレ
一
た
たう
ハハク
虫
也、知 レ進
而
不
レ
た
たル
曰、「此
何
虫
也。」
対
曰、「此
所
謂
螳
螂
斉
荘
公
出
猟。 有
A
【螳螂之斧】
ヒヒテ
問 二其 *御
ノノ
者
也。其
為
な
なり
①
④
敵。」荘
公
曰、「此
為 レ人
而
必
為 二天
下
勇
レ
ンズト ヲヲ
②
車
而
避
めぐ
ラシテ ヲヲ
矣。」廻
一
而
軽
武
③
*
B【推敲】
か
か
の
の
セセ
決
。不
よ シ ト
⑦
*
賈
島
赴
ノノ
レ
ヒヲ
一 い
いまダ
** ヒ
ずず
⑥
字
佳
矣。」
遂
「「敲
ノノ
勢、一未
下 門」 之
句。
欲
一
⑤
⑧
LT1031HR101BZ–01
16
LT1031HR101BZ–02
■句法・語句チ ェ ッ ク
ノ
関 「且」も同じ意味・用法の再読文字。
しようとする〉という意味。
A①将
再読文字。
「まさニ……(ント)す」と読んで、〈いまにも……
②何……也
疑問形。
「なんノ……(ゾ)や」あるいは「なんノ……か」
と読んで、
〈どんな……か〉の意味。
「也」は文末に用いる疑問の助
字で、
「や・か」と読む。
の問いに答える場合に用いる。
③対
「こたフ」と読み、
〈返答する〉の意味。多くは、目上の人から
④所謂
二字で「いはゆる」と読む。
〈俗に言う・世間で言うところの〉
全 訳
足をあげていまにもその(=荘公の乗る馬車の)車輪をたた
A
斉 の 荘 公 が 外 出 し て 猟 を し た。 一 匹 の 虫 が い て、( 虫 は )
いう虫か」と。(御者が)答えて言うには、「これは俗に言うカマキ
こうとした。(荘公が)馬車の御者に尋ねて言うには、「これは何と
リという虫です。その虫の本性は、前進することは知っていますが
退却することを知りません。
(自分の)力量を考えないで敵を軽く
見ているのです」と。荘公が言うことには、「この虫が人であった
う かい
ならばきっと天下に知られた武勇者となっただろう」と。(そして)
車を迂回させてカマキリを避けた。
B
賈島が科挙(の受験)のためにやってきて都(長安)に到着し、
ロバに乗って詩を作り、「僧は推す月下の門」という句を思いつい
た。「推す」を改めて「敲く」にしたいと思った。(そこで)手を動
かして(門を)推したりたたいたりするしぐさをしてみたが、まだ
決まらない。(詩作に夢中になっているうちに)思いがけず都の長
の意味。
B⑤欲
「……(ント)ほつス」と読み、
〈……したい(しようと思う)〉
官 で あ る 韓 愈 の 一 行 に ぶ つ か っ た。
(韓愈に事情を尋ねられ)そこ
た。
とうとう(二人は)馬のくつわを並べて詩についてしばらく議論し
で詳しく話した。韓愈が言うには、「敲の字(を使うの)がよい」と。
という願望や、
〈……しそうだ〉という状態を表す。返読文字。
⑥未
再読文字。
「いまダ……ず」と読んで、〈まだ……でない(しな
い)
〉の意味。
⑦乃
「すなはチ」と読んで、
〈そこで〉の意味。順接の接続詞。「す
なはチ」と読む字は多く、それぞれ異なる意味をもつので要注意。
⑧遂
「 つ ひ ニ 」 と 読 ん で、
〈 と う と う・ そ の 結 果 〉 の 意 味。 関 「終・卒・ 」も「つひニ」と読むが、
意味は〈結局・最後まで〉。
淮南子
唐詩紀事
17
LT1041HR101BZ-01
レレ
ララン
リリ
ララ
レ
ジテ
ジ
ハハク
トト
ズズルハ ノノ
な
な
ククシテ
レ
んゾ
ん
ララン
キキ
をうが
ニニ
キキ
レ
ヲヲ
レ
ヒヒ
カカラ
キ キ
ムム
ニニ
ニニ
カカラ
レ
ススル
ルル
トト
レ
トト
ヲヲ
ニニ
ニニ
リリ
ハハク
ニニ
ナナリ
トト
禍、
レ
* 塞 上 =( 国 境 の ) と り で の 近 く。「 塞 」 は〈 と り で・ 国 境 〉
を表す。「上」は〈ほとり・周辺〉の意味。
*術=占術。占い。
*胡=中国の北方または西方の遊牧民族。ここではその領地を指す。
*弔=(不運や不幸を)慰める。見舞う。
*賀=喜ぶ。祝う。
*髀=ももの骨。
いう。
*丁壮者=働き盛りの男。「丁壮」は、一人前の力仕事のできる者を
*跛=足が不自由なこと。「折其髀」の後遺症である。
くわふく
てん
あひしやう
そ
へん み
がた
さいじやう ちか
*化=変化するありさま。直前の「福之為禍、禍之為福」を指す。
そ
ひと
じゆつ
よ
もの あ
うまゆゑ な
に
こ
い
夫れ禍福の転じて相生ずるは、其の変見え難きなり。塞上に近
てう
そ
ほ
い
こ
な
ん
ふく
な
きの人に、術を善くする者有り。馬故無くして亡げて胡に入る。
こ
き
な
すうげつ
ん
こ
この
ていさう
ひと
は
ふく
くわきは
そ
な
ん
お
な
ものげん
ゆゑ
うま こ
もつ
くわ
ひ
しゆん め
な
そ
ひ
たたか
ふ
ひき
あた
を
さい
し あひたも
しんはか
を
かへ
ひとみなこれ
ひとみなこれ
ちか
ゆゑ
てう
いち ねん
ひと
ふく
し
くわ
為るは、化極むべからず、深測るべからざるなり。
な
が
いへりやう ば
そ
こ ひと おほ
な
ものじふ
ほ
くわ
そ
い
く
と
さい
ふく
ほ
此れ独り跛の故を以て、父子相保てり。故に福の禍と為り、禍の福と
こ
入る。丁壮の者弦を引きて戦ひ、塞に近きの人、死する者十に九なり。
い
「此れ何遽ぞ福と為らざらんや」と。居ること一年、胡人大いに塞に
こ
其の子騎を好み、堕ちて其の髀を折る。人皆之を弔す。其の父曰はく、
そ
曰はく、「此れ何遽ぞ禍と為ること能はざらんや」と。家 良 馬に富む。
い
居ること数月、其の馬胡の駿馬を将ゐて帰る。人皆之を賀す。其の父
を
人皆之を弔す。其の父曰はく、
「 此 れ 何 遽 ぞ 福 と 為 ら ざ ら ん や 」 と。
ひと みな これ
訓 読
ルルコト
ノノ
ノノ
之。其
レ
可 測
也。
テテリ
レ
ルル
可 極 、深
不
レ
語 釈
塞 翁 馬 エエ
ルル
見
也。近
レ
にゲテ
に
ムム
スス
福
乎。」居
レ
ララ
遽 不
レ為
ルル
トト
二
ヲヲ
ルル
之。其
父
曰、
イイニ
ノノ
良
馬。一其
而
帰。人
皆
賀
ルルコト
レ
スス
禍
乎。」家
富
ルルコト トト
一
ヲヲ
レレ
術
者。 馬
無 故
亡
而
入 胡。
ククスル ヲヲ
善
二
福
乎。」居
一
年、胡
人
大
入 レ塞。
トト
*
「淮南子」
ニニ
レ
一
夫
禍
福
之
転
而
相
生、其
変
難
ニニ
二
ノノ
塞
上 之
人、有
一
ヲヲ
ハハ
胡
駿
馬
二
ゾゾ
レ
ヲヲ
能 レ為
ノノ
③
弦
而
戦、近 レ塞
之
人、死
者
十
九。
レ
ルル
レ
ララン
ひ
ひきヰテ ノノ
之。其
父
曰、「此
何
レ
スス
人
皆
弔
ノノ
レレ
数
月、 其
馬
将
ハハク
ゾゾ
は
は
ヲヲ
為
チチテ
父
曰、「此
何 遽
不
レレ
テテ
キキテ
「「此
何 遽
不
ノノ
リリ
二
トト
⑥
ヲヲ
②
*
跛
之
故、
子
相
保。故
福
之
為
一父
丁
壮
者
引
レレ
此
独
以
ルルハ
*
福、化
不
レ
*
ミミ
*
*
禍
之
為
⑤
*
①
子
好 レ騎、堕
而
折 二其
髀。
皆
弔
一人
④
*
*
18
■句法・語句チ ェ ッ ク
きに用いる。
①夫
「そレ」と読んで、
〈そもそも〉の意味。新しい話題を提示すると
②而
順接を表す置き字。直前に読む字の送り仮名に接続助詞「テ」を
加えて読む。右の文中にある「而」の用法はすべて同じ。
全 訳
わざわ
一般に禍いと福とは交替してかわりばんこに生ずるが、その変
化を見通すのは難しい。(ある国境の)とりでの近くに住んで
いる人に、占術の上手な者がいた。(ある時、その人の)馬が理由も
なしに逃げて胡の地へ行ってしまった。人々は皆このことを(気の毒
がって)慰めた。その老人は言った、「これがどうして福とならない
ことがあろうか、いやきっと福となる」と。それから数カ月、(逃げた)
馬を好み、(ある時)落馬して自分のももの骨を折った。(そこで)人々
うか、いや禍いとなる」と。その家には良馬がふえた。その息子は乗
た。その老人は言った、「これがどうして禍いにならないでいられよ
馬が胡の優れた馬を引き連れて帰って来た。人々は皆このことを祝し
か、いや、…ない〉という意味。
「何遽」は二字で「何」と同じ働き
③何遽…乎
反語形。
「なんゾ…ンや」と読んで、〈どうして…であろう
は皆このことを(気の毒がって)慰めた。その老人は言った、「これ
ゾ
をする。
「乎」は疑問・反語を表す助字で「や」または「か」と読むが、
ることができないのである。
の ) 変 化 は 極 め 知 る こ と は で き ず、
(またその)道理の深さは測り知
じて)禍いとなり、また禍いが(転じて)福となることについて、
(そ
めに(召集されず)、親子ともに助かった。こうしたわけで福が(転
人までが死んだ。(ところが)その息子だけは足が不自由であったた
たちは弓を引いて戦い、とりでの近くに住む者たちは、十人のうち九
ら一年、胡の人々が大挙して(この)とりでに攻め入ってきた。若者
がどうして福とならないことがあろうか、いや福となる」と。それか
反語の場合は「や」と読む。
ハ
④不 レ能
「あたハず」と読む。ここでは〈…はありえない〉の意味。〈…
できない〉
という不可能の意味で用いられることが多い。「不 能
… 」
レ
二
一
のように、必ず下から返って読む。
「よク」と読み、
〈…できる〉という可能の意を表す。
関 能
⑤独
「ひとリ」と読んで、
〈…だけは〉という限定を表す。
カラ
表すが、
「不能」が能力的な不可能に対して、機会を得られない場
関 ④⑥以外に、不 レ得「えず」と読んで〈…できない〉と不可能を
のように、必ず下から返って読む。
⑥ 不 レ可
「 べ カ ラ ず 」 と 読 ん で、
〈 … で き な い 〉 の 意 味。「 不 レ可 二… 一」
合を表す。
淮南子
19
LT1041HR101BZ-02
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