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ヘテロカプサ に特異的に感染して増殖しうるウイルス

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ヘテロカプサ に特異的に感染して増殖しうるウイルス
JP 3654522 B2 2005.6.2
(57)【 特 許 請 求 の 範 囲 】
【請求項1】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス 。
【請求項2】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 含 有 す る 液 体 試 料 を 0 . 1 μ m 孔 径 の フ
ィルターで濾過し、得られた濾液をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行い
10
、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液を限界希釈することにより前記ウイル
スをクローニングする工程を含む、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染
し て 増 殖 し う る ウ イ ル ス で あ っ て 、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの
球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス の 単 離 方
法。
【請求項3】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 含 有 す る 海 底 泥 を 液 体 に 懸 濁 さ せ 、 得 ら
れた懸濁液を遠心分離して上清を採取することを含む、ヘテロカプサ・サーキュラリスカ
20
(2)
JP 3654522 B2 2005.6.2
ーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠き、
粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な
いウイルスを海底泥から抽出する方法。
【請求項4】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス に 感 染 し て 、 溶 藻 が 確 認 さ れ た ヘ テ ロ カ プ
サ属の藻類の培養液を遠心処理し、得られた上清をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種
して培養を行う操作を少なくとも1回繰り返す工程を含む、ヘテロカプサ・サーキュラリ
スカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾部構造および外膜構造を欠
10
き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ
れないウイルスを継代培養する方法。
【請求項5】
培 養 を 、 温 度 20∼ 25℃ 、 光 強 度 40∼ 200μ mol photons m
-2
s
-1
、明暗周期を与えた条件
下で行う請求項4載の方法。
【請求項6】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス に 感 染 し た 宿 主 の 培 養 液 ま た は 該 培 養 液 を
濃縮して得られた懸濁液を凍結保護剤と混合し、該混合物を凍結保存することを含む、ヘ
20
テロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって、尾
部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を と ら
ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 保 存 す る 方 法 。
【請求項7】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス に 感 染 し た 宿 主 の 培 養 液 を 遠 心 分 離 に よ り
濃縮することを含む、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しう
る ウ イ ル ス で あ っ て 、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、
規 則 的 な 結 晶 構 造 を と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 濃 縮 す る 方 法 。
30
【請求項8】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 有 効 成 分 と し て 含 む 赤 潮 防 除 剤 。
【請求項9】
ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに特異的に感染して増殖しうるウイルスであって
、 尾 部 構 造 お よ び 外 膜 構 造 を 欠 き 、 粒 径 約 20∼ 30 nmの 球 形 で あ り 、 規 則 的 な 結 晶 構 造 を
と ら ず 、 DAPI染 色 に よ り 染 色 さ れ な い ウ イ ル ス を 赤 潮 水 域 に 散 布 す る こ と を 含 む 赤 潮 防 除
方法。
【請求項10】
40
ウイルスを固定化剤に包埋して、貝類養殖筏に設置する請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうる小型ウイルス、該ウイ
ルスを利用する赤潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法、抽出方法
、継代培養方法、保存方法、および濃縮方法に関し、より詳細には、ヘテロカプサ属の藻
類に特異的に感染して増殖しうる小型ウイルス、該ウイルスを利用する赤潮防除方法およ
び赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法、抽出方法、継代培養方法、凍結保存方法、
および濃縮方法に関する。
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(3)
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【0002】
【従来の技術】
わ が 国 の 海 面 養 殖 業 は 、 国 内 漁 業 生 産 額 全 体 の 約 1/4を 占 め て い る 。 こ の 振 興 に あ た っ て
は、とくに養殖漁場の環境保全を図ることが不可欠であり、なかでも深刻な被害を引き起
こす赤潮に対する有効な対策の推進がきわめて重要である。
【0003】
1980年 代 末 に わ が 国 に 出 現 し た 赤 潮 原 因 藻 ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ は 、 カ キ
、アサリ、真珠貝等の貝類を特異的に斃死させる性質を持ち、日本各地の二枚貝養殖産業
に 深 刻 な 被 害 を も た ら し て き た 渦 鞭 毛 藻 の 一 種 で あ る 。 そ の 損 害 額 は 1998年 の 広 島 カ キ へ
の 被 害 だ け で 約 39億 円 、 累 計 で は 100億 円 を 突 破 す る も の と 思 わ れ る 。 世 界 で 初 め て の ヘ
10
テ ロ カ プ サ 赤 潮 が 発 生 し た 1988年 当 初 は 高 知 県 浦 ノ 内 湾 で の み 本 種 細 胞 が 確 認 さ れ た が 、
ヘテロカプサは驚異的な速さでその分布域を広げてきており、現在では熊本県から福井県
・静岡県までの西日本沿岸域に広く分布している。日本の周辺国への本種の移出は未だ確
認されていないものの、貿易船舶のバラスト水を介した有害有毒プランクトンの国際間移
送の事例も知られていることから、本種の分布動態には十分な監視体制が必要である。
【0004】
こうした背景の下、貝類養殖業者ならびに彼らを抱える我が国各地の自治体からは、ヘテ
ロカプサ赤潮に対する具体的対策の確立が強く望まれている。これまでのところ、ヘテロ
カプサ赤潮に対する具体的な対策は、「継続的なモニタリングによるヘテロカプサ発生状
況の把握」および「養殖筏の赤潮域からの移動」以外には全くないのが現状である。しか
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しながら、赤潮発生域からの養殖筏の移動は、ヘテロカプサ細胞も同時に移植してしまう
危険性を孕んでおり、養殖業者には筏移動についての慎重な対応が望まれている。
【0005】
1999年 に は ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ を 宿 主 と す る 大 型 の 2 本 鎖 DNAウ イ ル ス
( HcV: Heterocapsa circularisquama virus) が 分 離 さ れ 、 本 種 に よ る 赤 潮 の 防 除 に 向 け
た応用の可能性が現在も鋭意検討されているところである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
今 回 の 出 願 対 象 で あ る ウ イ ル ス ( HcSV: Heterocapsa circularisquama scattered virus
) は 、 HcVと 同 様 に ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ を 宿 主 と す る が 、 HcVと は 全 く 性
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状 の 異 な る 小 型 ウ イ ル ス で あ る 。 該 ウ イ ル ス は 、 HcVに 比 べ 高 収 量 で あ る 点 、 HcVよ り も 安
定 保 存 性 が 高 い 点 で 優 れ て お り 、 ま た 体 積 比 に し て HcVの 約 1/400と 小 型 で あ る こ と か ら 、
固定化技術の導入による製剤化もより容易であると期待される。
【0007】
本発明は、実用にかなうヘテロカプサ赤潮防除技術の開発を念頭に置きながら、新奇に分
離された小型ウイルスの赤潮防除への応用の可能性を探ることをその主要な目的とする。
ウイルス利用による赤潮防除は、他生物や生態系全体への負荷が小さい環境修復技術とし
てその安全性に高い期待が寄せられており、ウイルスの大量培養技術・散布手法・コスト
等の面での諸問題がクリアされれば、実用化への道が開かれるものと期待される。
【0008】
40
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染し死滅させる小型ウイルス(
HcSV) の 分 離 に 世 界 で 初 め て 成 功 し 、 本 発 明 を 完 成 さ せ る に 至 っ た 。
【0009】
すなわち、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1
μm未満のウイルスを提供する。ヘテロカプサ属の藻類はヘテロカプサ・サーキュラリス
カーマであるとよい。本発明の一態様において、ウイルスは、尾部構造および外膜構造を
欠 き 、 粒 径 約 20-30nmの 球 形 で あ る 。
【0010】
また、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm
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未 満 の ウ イ ル ス を 含 有 す る 液 体 試 料 を 0.1μ m孔 径 の フ ィ ル タ ー で 濾 過 し 、 得 ら れ た 濾 液 を
ヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行い、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観
察された培養液を限界希釈することにより前記ウイルスをクローニングする工程を含む、
ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm未満のウイルスの
単離方法を提供する。
【0011】
ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm未満のウイルスを
含有する液体試料としては、該ウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する
液体試料(例えば、ヘテロカプサ赤潮終息期の海水、前記ウイルスに感染しているヘテロ
カプサ属の藻類の培養液など)、前記ウイルスを含有する海底泥の懸濁液、該懸濁液を遠
10
心分離して得られた上清などを例示することができる。
【0012】
ヘ テ ロ カ プ サ 属 の 藻 類 を 培 養 す る た め の 培 地 と し て は 、 SWM3培 地 、 ESM培 地 、 F/2培 地 、 AS
P系 培 地 な ど の 液 体 培 地 を 例 示 す る こ と が で き る 。
【0013】
該ウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する液体試料を調製するための宿
主となるヘテロカプサ属の藻類は、対数増殖期にあるヘテロカプサ・サーキュラリスカー
マ で あ る と よ く 、 例 え ば 新 鮮 な SWM3培 地 に 体 積 比 で 約 1/10量 の 対 数 増 殖 期 末 期 ま た は 定 常
期 初 期 に あ る ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ 培 養 を 接 種 し 、 温 度 20∼ 25℃ 、 光 強 度
40∼ 200μ mol photons m-2 s-1、 明 暗 周 期 12時 間 明 : 12時 間 暗 の 培 養 条 件 下 で 2 ∼ 4 日 間
20
培養することで、対数増殖期にあるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養を調製する
ことができる。このヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ培養液に該ウイルスをウイルス
粒子数が藻体細胞数の2倍以上になるように接種し上記培養条件下に2日間以上置く、も
し く は ウ イ ル ス 粒 子 数 が 藻 体 細 胞 数 の 1/1000∼ 2 倍 に な る よ う に 接 種 し 上 記 培 養 条 件 下 に
4日間置くことで、該ウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有する液体試料
を調製することができる。
【0014】
本発明のウイルスの単離方法において、植物プランクトン、細菌類、ならびに大型のウイ
ル ス 粒 子 を 除 去 す る た め 、 孔 径 0.8μ m、 0.2μ mの ヌ ク レ ポ ア メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で 濾 過
後 、 最 終 的 に 0.1μ mの フ ィ ル タ ー で 濾 過 を 行 う の が 適 当 で あ る 。
30
【0015】
ウ イ ル ス の ク ロ ー ニ ン グ に お け る 限 界 希 釈 は 、 100∼ 10-10倍 の 希 釈 段 階 で 行 う と よ い 。
【0016】
本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm未満の
ウイルスを含有する海底泥を液体に懸濁させ、得られた懸濁液を遠心分離して上清を採取
することを含む、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm
未満のウイルスを海底泥から抽出する方法も提供する。
【0017】
海底泥を懸濁させる液体としては、海水培地、滅菌海水、ヘテロカプサ培養用液体培地な
どを例示することができる。
40
【0018】
海底泥からウイルスを抽出(分離)するには、海底泥と液体(海水培地、滅菌海水、ヘテ
ロカプサ培養用液体培地など)をプラスチック試験管中で混合し、密栓後、撹拌、遠心分
離 し て 上 清 を 採 取 す れ ば よ い 。 こ の と き 遠 心 分 離 は 、 1500∼ 2500rpmの 速 度 で 、 5∼ 15分 間
行うとよい。
【0019】
また、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm
未満のウイルスに感染して、溶藻が確認されたヘテロカプサ属の藻類の培養液を遠心処理
し、得られた上清をヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種して培養を行う操作を少なくと
も1回繰り返す工程を含む、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径
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0.1μm未満のウイルスを継代培養する方法を提供する。
【0020】
ヘテロカプサ属の藻類の培養は、本発明のウイルスに感染させる前であるか、後であるか
を 問 わ ず 、 温 度 20∼ 25℃ 、 光 強 度 40∼ 200μ mol photons m-2 s-1、 明 暗 周 期 の あ る 条 件 下
で行うことが好ましい。
【0021】
さらに、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μ
m未満のウイルスを有効成分として含む赤潮防除剤を提供する。
【0022】
さらにまた、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.
10
1μm未満のウイルスを赤潮水域に散布することからなる赤潮防除方法を提供する。
【0023】
この小型ウイルスを固定化剤に包埋して、貝類養殖筏に設置してもよい。これにより、ウ
イルスを継続的に筏周辺に放出させることができる。
【0024】
固定化剤としては、合成高分子ゲル、合成樹脂プレポリマー、天然多糖類、中空糸膜、シ
リコンポリマー、活性炭、マイクロカプセル、各種増粘剤等を例示することができる。
【0025】
小型ウイルスを固定化剤に包埋したものを耐海水性のネットまたは容器に入れて、筏に吊
したり、筏に固定するといった方法で波に常に洗われている状態にするとよい。
20
【0026】
また、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm
未満のウイルスに感染した宿主の培養液または該培養液を濃縮して得られた懸濁液を凍結
保護剤と混合し、該混合物を凍結保存することを含む、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に
感染して増殖しうる、粒径0.1μm未満のウイルスを保存する方法を提供する。このと
き、遠心分離によりウイルス感染細胞の高密度懸濁液を調製し、凍結するとよい。
【0027】
さらにまた、本発明は、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.
1μm未満のウイルスに感染した宿主の培養液を遠心分離により濃縮することを含む、ヘ
テロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる、粒径0.1μm未満のウイルスを濃
30
縮する方法を提供する。
【0028】
上記のウイルスの保存方法および濃縮方法において、該ウイルスに感染した宿主はヘテロ
カプサ属の藻類、特に、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマであるとよい。宿主は、ウ
イルスに感染してはいるがまだ細胞内にウイルス粒子を含んだままで崩壊していない状態
で あ る と よ く 、 ウ イ ル ス 接 種 後 24∼ 36時 間 く ら い が そ の よ う な 状 態 に あ る 。
【0029】
前 記 ウ イ ル ス に 感 染 し た 宿 主 の 培 養 液 を 濃 縮 す る に は 、 1500∼ 2500 rpmの 低 速 遠 心 分 離
を 10∼ 15分 間 行 う と よ い 。 こ の 操 作 に よ り 、 高 密 度 ウ イ ル ス 感 染 細 胞 懸 濁 液 が 得 ら れ る 。
【0030】
40
本明細書において、「赤潮」とは、プランクトンの急激な増殖に伴い海水の色が変化する
現象を指す。この用語は、水産生物の被害の有無に関わらず広く用いられる。わが国の有
害赤潮の原因となるプランクトンとしては、シャットネラ属、ギムノディニウム属、ヘテ
ロシグマ属などが挙げられる。「ヘテロカプサ属の藻類」とは渦鞭毛藻綱に属するもので
、ヘテロカプサ属に属する種としてはヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロカプ
サ・トリケトラ、ヘテロカプサ・イルデフィナ、ヘテロカプサ・ピグメア、ヘテロカプサ
・ ア ー ク テ ィ カ な ど が 挙 げ ら れ る 。 「 ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ ( Heterocaps
a circularisquama )」 は 、 魚 類 に は 全 く 影 響 を 及 ぼ さ ず 、 貝 類 だ け を 特 異 的 に 殺 す と い う
性 質 を 持 つ 、 長 径 20μ m 前 後 の 比 較 的 小 型 の 渦 鞭 毛 藻 類 で あ る 。 本 種 に よ る 赤 潮 は 1988年
に 高 知 県 浦 の 内 湾 で 初 め て 発 生 し 、 ア サ リ 1500tを 斃 死 さ せ る 被 害 を も た ら し た 。 以 降 、
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本 種 の 赤 潮 は 西 日 本 各 地 に 広 が り 、 漁 業 被 害 も ほ ぼ 毎 年 発 生 し て い る 。 と く に 1992年 の 三
重 県 英 虞 湾 に お け る 養 殖 真 珠 貝 へ の 被 害 、 1998年 の 広 島 湾 に お け る 養 殖 カ キ へ の 被 害 は 甚
大であり、本種による赤潮は貝類養殖業者から恐れられている。貝類に対する本種の毒性
は特異的かつ強烈であり、これまで知られていないメカニズムで斃死を引き起こしている
可能性があるため、現在もその毒性発現機構について詳細な研究が進められている。
【0031】
「ウイルス」とは、感染した宿主細胞内においてのみ増殖しうる感染性をもった球形また
は繊維状の微小構造体をいう。ウイルスは、二分裂で増殖することはできず、宿主細胞の
生合成系を利用することでのみ自己の複製を行うという点で、細菌とは全く異なる。また
、細菌の場合と比較して宿主特異性が著しく高いのが特徴である。なお、「宿主特異性が
10
高い」とは、病原性寄生生物(この場合はウイルス)が感染し増殖しうる宿主生物種の範
囲(宿主域)が狭いことを意味する。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0033】
本 研 究 の 対 象 生 物 で あ る ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ は 、 1988年 に わ が 国 に は じ
めて出現した赤潮原因藻であり、カキ、アサリ、真珠貝等の二枚貝類を特異的に斃死させ
る性質を持ち、日本各地の二枚貝養殖産業に深刻な被害をもたらしてきた渦鞭毛藻の一種
である。
20
【0034】
本発明のウイルスは、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる。ヘテロカプ
サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ に 特 異 的 に 感 染 し て 増 殖 し う る 小 型 ウ イ ル ス ( HcSV: ヘ テ ロ カ
プサ・サーキュラリスカーマ・スキャッタード・ウイルス)は、尾部構造および外膜構造
を 欠 く 粒 径 約 20-30nmの 球 形 ウ イ ル ス で あ る 。 実 験 で は 、 こ の ウ イ ル ス に 感 染 し た ヘ テ ロ
カプサ細胞は運動性を失い死滅するが、このときおびただしい数の複製された子孫ウイル
スを放出し、新たな(すなわち、未感染の)ヘテロカプサ細胞の感染・死滅を誘発する。
したがって、数百万∼数千万個のヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ細胞を含む培養液
中に1個のウイルスを加えるだけで、培養中のすべての細胞を完全に死滅させることが可
能である。また、本ウイルスの宿主特異性は高く、これまでのところ、ヘテロカプサ・サ
30
ーキュラリスカーマ以外の植物プランクトンに対する本ウイルスの影響は全く検出されて
いない。
【0035】
本発明のウイルスは、以下のようにして単離することができる。まず、ヘテロカプサ属の
藻類に特異的に感染して増殖しうるウイルスに感染しているヘテロカプサ属の藻類を含有
する海水(例えば、ヘテロカプサ赤潮終息期の海水)または海底泥中に存在するウイルス
を 懸 濁 さ せ た 海 水 培 地 を 最 終 的 に 0.1μ m孔 径 の フ ィ ル タ ー で 濾 過 し 、 得 ら れ た 濾 液 を 対 数
増 殖 状 態 に あ る ヘ テ ロ カ プ サ 属 の 藻 類 の 培 養 液 に 接 種 し 、 12時 間 明 : 12時 間 暗 の 明 暗 の サ
イ ク ル で 5-7日 間 、 45μ mol photons m -2 s-1の 白 色 蛍 光 灯 の 照 射 下 で 培 養 す る 。 光 強 度
は市販の光量子計を用いて測定することができる。このとき海底泥中に存在するウイルス
40
を 懸 濁 さ せ た 海 水 培 地 を 調 製 す る に は 、 例 え ば ヘ テ ロ カ プ サ 赤 潮 発 生 海 域 の 底 泥 2g( 湿 重
量 ) と ヘ テ ロ カ プ サ 属 の 藻 類 の 培 養 液 2mlを プ ラ ス チ ッ ク 試 験 管 中 に 入 れ 、 密 栓 後 、 400rp
mで 30分 間 撹 拌 し た 懸 濁 液 を 2000rpmで 5分 間 遠 心 分 離 し 、 上 清 を 採 取 す れ ば よ い 。 こ の 操
作により、底泥中のウイルスを培養液中に懸濁することができる。
【0036】
ヘテロカプサ属の藻類の培養液は、この藻類を予めマイクロピペット法または限界希釈法
に よ り ク ロ ー ニ ン グ し て 、 株 化 し て お き 、 2nMの Na 2 SeO 3 含 有 改 変 SWM3培 地 (Chen ら , 1969
, J. Phycol 5:211-220; Itoh & Imai, 1987, Shuwa, Tokyo, p.122-130)に 接 種 後 、 45μ
mol photons m
-2
s
-1
の 白 色 蛍 光 灯 を 12時 間 明 : 12時 間 暗 の 明 暗 サ イ ク ル で 照 射 し 、 20℃
で 培 養 す る こ と に よ り 調 製 で き る 。 新 鮮 な SWM3培 地 に 対 し 体 積 比 で 約 1/10量 の 対 数 増 殖 期
50
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末期または定常期初期にあるヘテロカプサ属藻類の培養を接種し上記条件下においた場合
、 培 養 開 始 後 約 2∼ 4日 で 対 数 増 殖 期 に 入 る 。
【0037】
次いで、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液をヘテロカプサ属の藻類の培養
液で限界希釈することによりウイルスをクローニングする。ヘテロカプサ属の藻類の培養
液の調製法は上記のとおりである。限界希釈は次のようにして行うとよい。まず、ヘテロ
カ プ サ 属 の 藻 類 の 溶 藻 が 観 察 さ れ た 培 養 液 を と り 、 改 変 SWM3培 地 で 100∼ 10-10倍 に 段 階 希
釈し、各希釈液を対数増殖中のヘテロカプサ属の藻類の培養液に接種する。これらを、例
え ば 20℃ 、 45μ mol photons m-2s-1、 12時 間 明 : 12時 間 暗 の 明 暗 周 期 条 件 下 で 7 ∼ 10日
間培養する。培養後、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された最も希釈段階の高いもの
10
を 選 択 し て 、 そ の 培 養 液 に つ い て 上 記 の 段 階 希 釈 法 に よ る 処 理 を 少 な く と も 2回 繰 り 返 す
。最終の段階希釈法による処理の後、ヘテロカプサ属の藻類の溶藻が観察された培養液の
うち、最も希釈段階の高い培養液を採取して、対数増殖中のヘテロカプサ属の藻類の培養
液に接種する。以上の操作をもって、本発明の小型ウイルスのクローニングの完了とみな
すことができる。
【0038】
ウイルスのクローニングが完了したヘテロカプサ属の藻類の培養液から遠心分離(例えば
、 2,000∼ 2,500 rpm、 10∼ 15分 ) に よ り 細 胞 残 さ を 除 去 後 、 遠 心 上 清 を 上 記 の 要 領 で 段 階
希釈法によって処理して得られた各希釈段階における死滅ウェル数から、統計的計算によ
り 上 清 中 に 存 在 し た 小 型 ウ イ ル ス の 密 度 を 推 定 す る こ と が で き る 。 な お 、 2 本 鎖 DNAに 特
20
異 的 に 結 合 す る 蛍 光 試 薬 DAPI(4',6'-diamidino-2-phenylindole)に よ る 染 色 方 法 で は 該 ウ
イルスを検出することはできない。
【0039】
本発明のウイルスを赤潮水域に散布することにより、赤潮を防除することができる。赤潮
の防除にあたっては、本発明のウイルスの培養液またはその上清をそのまま使用してもよ
いが、本発明のウイルスを活性成分として含む製剤を調製してこれを使用してもよい。本
発明の赤潮防除方法および赤潮防除剤は、自然環境中にすでに存在している宿主特異性の
高いウイルスを利用するので、生態系への負荷が小さな環境修復技術として、その安全性
に高い期待が寄せられる。また、本発明の赤潮防除剤は、他の通常の薬剤と異なり、ウイ
ルス自体に自己複製能が備わっているため、少量の投入で広範囲への赤潮制御が期待でき
30
る。また、ウイルスを固定化剤に包埋したものを貝類養殖筏に設置し、ウイルスを継続的
に筏周辺に放出させるとよい。この方法は、ウイルスの海水中への希釈拡散を抑え、赤潮
防除の対象となる筏周辺に長期間に渡り高いウイルス密度を維持する上で有効であると考
えられる。固定化剤としては、合成高分子ゲル、合成樹脂プレポリマー、天然多糖類、中
空糸膜、シリコンポリマー、活性炭、マイクロカプセル、各種増粘剤等を利用することが
できる。
【0040】
次に、本発明の小型ウイルスを継代培養する方法について説明する。
【0041】
本発明の小型ウイルスに感染して、溶藻が確認されたヘテロカプサ属の藻類の培養液を遠
40
心 処 理 ( 例 え ば 、 7,000 rpm、 5分 ) し 、 得 ら れ た 上 清 を 対 数 増 殖 中 の ヘ テ ロ カ プ サ 属 の 藻
類の培養液に接種して培養を行う。培養液中の細胞密度を光学顕微鏡下で経日的にモニタ
ーする方法により、その後の藻体の増殖を評価することができる。これにより、上記の方
法で継代培養したウイルスが、ヘテロカプサ属の藻類に対する感染性を保持していること
がわかる。
【0042】
さらに、本発明の小型ウイルスを濃縮および凍結保存する方法について説明する。殺藻因
子 ( ウ イ ル ス ) 接 種 後 26時 間 目 ( す な わ ち ウ イ ル ス に 感 染 し て は い る が ま だ 細 胞 内 に ウ イ
ル ス 粒 子 を 含 ん だ ま ま で 崩 壊 し て い な い 状 態 ) の 宿 主 培 養 液 50mlを 遠 沈 処 理 ( 2000rpm、 1
0min) に よ り 1mlま で 濃 縮 ( 50倍 濃 縮 ) す る と 、 高 力 価 の 懸 濁 液 を 得 る こ と が で き る 。 図 5
50
(8)
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に は 、 濃 縮 前 の タ イ タ ー /ml( 単 位 容 量 あ た り の 力 価 ) が 、 濃 縮 後 に は そ れ ぞ れ 1 オ ー ダ
ー以上上昇していることが示されており、この結果は、このシンプルな低速遠心操作によ
る「高密度ウイルス感染細胞懸濁液」の調製によりウイルスを効率的に濃縮できる(すな
わち、高ウイルス密度の懸濁液を調製できる)ということを示している。
【0043】
この高密度ウイルス感染細胞懸濁液を凍結保護剤と混合し、この混合物を凍結保存する。
凍 結 保 護 剤 と し て は 、 セ ル バ ン カ ー 2 ( BLC-1、 十 慈 フ ィ ー ル ド 社 製 ) を 使 用 す る と よ い
。例えば、高密度ウイルス感染細胞懸濁液を等量のセルバンカー2と混合し、バイアル中
に分注し、バイアルを−196℃の液体窒素中に浸漬し、凍結させ、そのままの状態で保
存する。
10
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例により限
定されるものではない。以下の実施例において、特にことわらない限り、%の表示は体積
%を示すものとする。
【0045】
【実施例】
〔実施例1〕
材料および方法
供試プランクトン
殺 藻 因 子 の 分 離 に は 、 高 知 県 浦 ノ 内 湾 か ら 分 離 さ れ た ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 、 三 重 県 英
20
虞 湾 か ら 分 離 さ れ た ヘ テ ロ カ プ サ HA92-1株 、 三 重 五 カ 所 湾 か ら 分 離 さ れ た ヘ テ ロ カ プ サ HC
LG-1株 、 熊 本 県 八 代 海 か ら 分 離 さ れ た ヘ テ ロ カ プ サ HY9428株 ( い ず れ も 無 菌 ク ロ ー ン 株 )
を 用 い た 。 本 種 は 、 一 般 に 細 胞 内 に 共 生 細 菌 を 持 つ こ と が 知 ら れ て い る が 、 上 記 4株 の う
ち HU9433-P株 は 共 生 細 菌 を 持 た な い 。 培 地 に は 改 変 SWM3培 地 を 用 い 、 培 養 は 温 度 20 ° C、
光 強 度 45 μ mol photons m-2 s-1、 12hL: 12hDの 明 暗 周 期 条 件 下 で 行 っ た 。
【0046】
殺藻因子の分離
殺 藻 因 子 の 分 離 に 供 し た 試 水 は 、 2001年 7月 か ら 2001年 9月 に か け て 西 日 本 各 地 ( 三 重 県 英
虞湾、兵庫県福良湾、香川県志度港、福井県小浜湾、および高知県浦ノ内湾)で採水した
ヘテロカプサ赤潮終息期の海水、ならびに三重県英虞湾から採取した海底泥を懸濁させた
30
海 水 培 地 で あ る 。 こ の 試 水 を 孔 径 0.8μ m、 0.2μ mの ヌ ク レ ポ ア メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で 濾
過 後 、 最 終 的 に 0.1μ mの フ ィ ル タ ー で 濾 過 し 、 得 ら れ た 各 濾 水 0.5mlま た は 1mlを 対 数 増 殖
中 の ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 、 HA92-1株 、 HCLG-1株 お よ び HY9428株 の 培 養 液 1 mlに そ れ ぞ
れ 接 種 し た 。 ま た 、 対 照 と し て 0.1μ m以 下 の 画 分 を 加 熱 処 理 ( オ ー ト ク レ ー ブ ( 121℃ × 1
5分 ) ま た は 100℃ × 5分 ) し た も の を 同 様 に そ れ ぞ れ 接 種 し 、 上 述 の 条 件 下 で 培 養 を 行 っ
た。
殺 藻 因 子 を ク ロ ー ニ ン グ す る こ と を 目 的 と し 、 以 下 の よ う に 限 界 希 釈 法 を 2回 繰 り 返 し 行
っ た 。 上 述 の 培 養 で 溶 藻 が 確 認 さ れ た 培 養 液 を 改 変 SWM3培 地 で 100-10-10倍 に 段 階 希 釈 し
、 各 希 釈 液 100μ lを 対 数 増 殖 中 の ヘ テ ロ カ プ サ 株 ( 溶 藻 が み ら れ た 実 験 区 で 使 用 し た も の
と 同 じ 株 ) の 培 養 液 150μ lに 接 種 し た 。 実 験 に は 96穴 マ イ ク ロ プ レ ー ト を 使 用 し 、 各 希 釈
40
段 階 に つ き 8本 立 て で 接 種 を 行 っ た 。 ま た 、 改 変 SWM3培 地 の み を 接 種 し た も の を 対 照 区 と
し て 設 け た 。 こ れ ら を 上 述 の 条 件 下 で 7∼ 10日 間 培 養 し た 。 溶 藻 が 見 ら れ た ウ ェ ル の う ち
、最も高い希釈段階で接種を行ったウェル中の溶藻培養液を複数採取し、再度上述の段階
希 釈 法 に よ る 処 理 を 試 み た 。 2回 目 の 処 理 で 溶 藻 が 見 ら れ た ウ ェ ル の う ち 、 最 高 希 釈 段 階
の 溶 藻 培 養 液 を 200μ l採 取 し 、 対 数 増 殖 中 の ヘ テ ロ カ プ サ 株 ( 溶 藻 が み ら れ た 実 験 区 で 使
用 し た も の と 同 じ 株 ) の 培 養 液 1mlに 接 種 し た 。 以 上 の 操 作 を も っ て 、 殺 藻 因 子 の ク ロ ー
ニ ン グ が 完 了 し た も の と み な し た 。 ま た 、 得 ら れ た 殺 藻 因 子 懸 濁 液 を 無 菌 検 査 培 地 ST10-1
に 接 種 し 20℃ で 1-2日 間 培 養 後 、 白 濁 の 有 無 に よ っ て 混 在 す る 細 菌 の 有 無 を 確 認 し た 。 白
濁がみられた場合(すなわち細菌が混在すると判定された場合)には、殺藻因子懸濁液を
孔 径 0.2μ mま た は 孔 径 0.1μ mの フ ィ ル タ ー で 濾 過 し 、 無 菌 化 を 行 っ た 。
50
(9)
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【0047】
底泥からの殺藻因子の懸濁
三 重 県 英 虞 湾 の 立 神 定 点 か ら 2001年 7月 24日 に 採 取 し た 海 底 泥 2gを SWM3培 地 2mlと と も に プ
ラ ス チ ッ ク 製 遠 心 管 中 に と り 、 密 栓 後 、 400rpmで 30分 間 撹 拌 し た 懸 濁 液 を 2000rpmで 10分
間遠心分離した。得られた上清を、上記の限界希釈法により処理し、各希釈段階で生じた
溶藻ウェル数から、供した試料中の殺藻因子密度を推定した。
【0048】
得られた殺藻因子の力価の測定
クローン化および無菌化が完了した殺藻因子の一部について、各溶藻液を、各殺藻因子を
分離する際に使用した宿主株の対数増殖期培養に接種し、上記条件下で培養を行った。光
10
学 顕 微 鏡 観 察 に よ り 宿 主 細 胞 の 約 3/4が 死 滅 し た と 判 断 さ れ た 時 点 、 お よ び 第 1 回 目 の 測
定 か ら 24時 間 後 の 時 点 で 、 培 養 液 を そ れ ぞ れ 採 取 し 、 上 記 の 限 界 希 釈 法 に よ り 処 理 し 、 各
希釈段階で生じた溶藻ウェル数から、供した試料中の殺藻因子密度を推定した。
【0049】
透過型電子顕微鏡および蛍光顕微鏡による微視的観察
得 ら れ た 殺 藻 因 子 ク ロ ー ン の う ち か ら HcSV34株 お よ び HcSV109株 を 選 択 し 、 各 溶 藻 培 養 液
9mlを 対 数 増 殖 中 の HU9433-P株 お よ び HCLG-1株 の 培 養 液 50mlに そ れ ぞ れ 接 種 し た 。 接 種 前
お よ び 接 種 か ら 約 27時 間 後 に サ ン プ ル を 採 取 し 、 常 法 に よ り 固 定 包 埋 処 理 後 、 JEOL社 製 JE
M-1010透 過 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 観 察 を 行 っ た 。 ま た 、 溶 藻 培 養 液 中 の 殺 藻 因 子 の 形 態 観 察
をネガティブ染色法により行った。
20
ま た 、 上 述 の 殺 藻 因 子 ク ロ ー ン に よ る 溶 藻 培 養 液 350μ lに 、 シ ス テ ア ミ ン 塩 酸 塩 を 添 加 し
た ト リ ス バ ッ フ ァ ー に 溶 解 し た DAPI溶 液 ( 15μ g ml-1) 25μ lを 添 加 し た 。 5-10分 間 、 暗
所 で 染 色 後 、 孔 径 0.02μ mの Anodiskフ ィ ル タ ー ( Whatman) 上 に 減 圧 濾 過 に よ り 捕 集 し 、
蛍光顕微鏡を用いて紫外線励起下で観察した。
【0050】
接種実験
上 述 の 殺 藻 因 子 ク ロ ー ン に よ る 溶 藻 培 養 液 を 孔 径 0.1μ mの メ ン ブ レ ン フ ィ ル タ ー で 濾 過 し
て 得 ら れ た 濾 液 、 な ら び に そ の 一 部 を 熱 処 理 ( 100℃ × 5分 ) し た も の を 、 対 数 増 殖 中 の ヘ
テ ロ カ プ サ 培 養 液 4mlに 対 し て そ れ ぞ れ 200μ lず つ 接 種 し 、 上 述 の 条 件 下 で 培 養 を 行 っ た
。また、対照として接種を行わない実験区(非接種区)を設けた。実験は、各実験区につ
30
き 2本 立 て で 行 い 、 細 胞 密 度 の 変 化 を 経 日 的 に モ ニ タ ー す る こ と で 、 そ の 後 の 藻 体 の 増 殖
を評価した。
ま た 、 感 染 の 継 続 性 に つ い て 検 討 す る た め 、 溶 藻 培 養 液 を 7000rpmで 10分 間 遠 心 し 得 ら れ
た 上 清 30μ lを 対 数 増 殖 中 の ヘ テ ロ カ プ サ 株 培 養 液 3 mlに 接 種 す る と い う 操 作 を 3回 以 上 繰
り返し行った。また、対照として非接種区を設け、ともに上述の条件下で培養を行った。
【0051】
宿主範囲の検討
表 1に 示 し た 対 数 増 殖 中 の 各 藻 体 株 培 養 液 700μ lに 対 し て 、 上 述 の 溶 藻 培 養 液 を 7000rpmで
5分 間 遠 心 し て 得 ら れ た 上 清 35μ lを そ れ ぞ れ 接 種 し 、 上 述 の 条 件 下 で 培 養 を 行 っ た 。 た だ
し 、 ア レ キ サ ン ド リ ウ ム ・ タ マ レ ン セ (Alexandrium tamarense)、 シ ャ ト ネ ラ ・ ベ ル キ ュ
40
ロ ー サ (Chattonella verruculosa)、 キ ー ト ケ ロ ス ・ デ ィ デ ィ マ ム (Chaetoceros dydimum)
、 デ ィ チ ラ ム ・ ブ ラ イ ト ベ リ (Ditylum brightwellii)、 ス ケ レ ト ネ マ ・ コ ス タ ー タ ム (Ske
letonema costatum)お よ び タ ラ シ オ シ ラ (Thalassiosira sp.)の 6種 は 、 培 養 温 度 を 15 ° C
と し た 。 ま た 、 対 照 と し て 非 接 種 区 を 設 け た 。 実 験 は 各 実 験 区 に つ き 2本 立 て で 行 い 、 経
日的に光学顕微鏡により被検細胞の状態を観察し、その後の藻体の増殖を評価した。接種
14日 後 ま で に 溶 藻 が 確 認 さ れ な か っ た も の に つ い て は 、 本 殺 藻 因 子 の 宿 主 で は な い も の と
判定した。
【0052】
ウイルスの濃縮および凍結保存
殺 藻 因 子 接 種 後 26時 間 目 の 宿 主 培 養 液 50mlを 遠 沈 処 理 ( 2000rpm、 10min) に よ り 1mlま で
50
(10)
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濃 縮 ( 50倍 濃 縮 ) し 、 そ の う ち 0.9mlの 濃 縮 液 を 等 量 の セ ル バ ン カ ー 2 ( BLC-1、 十 慈 フ
ィ ー ル ド 社 製 ) と 混 合 撹 拌 し た 後 、 0.45mlず つ に 等 分 し て -196℃ で 保 存 し た 。 実 験 に は 、
HcSV34と ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 の 組 合 せ 、 な ら び に HcSV109と ヘ テ ロ カ プ サ HCLG-1株 の
組合せの2系列を用いた。凍結開始後7日目に解凍処理を行った。
殺藻因子を接種した細胞懸濁液、遠心により得た感染細胞濃縮液、および解凍後の感染細
胞濃縮液のタイター(=力価、殺藻因子の単位体積あたりの密度)をそれぞれ限界希釈法
により算出し、比較した。
【0053】
結果および考察
殺藻因子の分離
10
実 験 に 供 し た い ず れ の ヘ テ ロ カ プ サ 株 も 、 試 水 の 0.1μ m以 下 の 画 分 を 接 種 す る こ と に よ り
、 細 胞 が 溶 解 し 、 死 滅 に 至 っ た 。 一 方 、 0.1μ m以 下 の 画 分 を 熱 処 理 し た も の を 接 種 し た 場
合には、いずれのヘテロカプサ株も細胞溶解ならびに死滅は観察されず、増殖の継続が確
認された。
各地域由来の試水を材料として得られた各溶藻培養液に対して、限界希釈法による処理を
2 回 施 し 、 表 2に 示 す 殺 藻 因 子 ク ロ ー ン 株 計 88株 が 分 離 さ れ た 。 こ れ ら の 殺 藻 因 子 株 は 、
現在、すべて細菌の混在しない状態で、発明者らにより培養が継続されている。
【0054】
底泥からの殺藻因子の懸濁
三 重 県 英 虞 湾 の 立 神 定 点 か ら 2001年 7月 24日 に 採 取 し た 海 底 泥 よ り 得 た 殺 藻 因 子 浮 遊 画 分
20
の タ イ タ ー を 測 定 し た 結 果 、 HU9433-P株 を 宿 主 株 と し て 用 い た 場 合 に は 1,580殺 藻 因 子 /ml
、 HcLG-1株 を 宿 主 株 と し て 用 い た 場 合 に は 432殺 藻 因 子 /mlの 密 度 が そ れ ぞ れ 検 出 さ れ た
。したがって、現場環境中の底泥には活性を持つ殺藻因子が相当量含まれているものと推
察された。
【0055】
得られた殺藻因子の力価の測定
各 殺 藻 因 子 株 の 力 価 を 測 定 し た 結 果 に 基 づ き 、 各 株 の 最 高 収 量 を 表 3に 示 し た 。 収 量 は 10
8
6
8
∼ 10 /mlの オ ー ダ ー に あ り 、 測 定 し た 株 の 中 で の 最 高 値 は 5.75× 10 /mlで あ っ た 。 こ の 値
は 、 過 去 に HcVで 記 録 さ れ た 最 高 収 量 の 約 6倍 に 相 当 す る も の で あ る 。
【0056】
30
透過型電子顕微鏡および蛍光顕微鏡による微視的観察
透 過 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 細 胞 切 片 の 観 察 結 果 を 図 1に 示 し た 。 HcSV34株 お よ び HcSV109株
の 接 種 区 で は 、 接 種 か ら 27時 間 目 に は 、 溶 藻 に 至 る 前 段 階 と し て 運 動 性 を 失 い 、 培 養 容 器
底 面 へ の 藻 体 細 胞 の 沈 積 ( 図 2) な ら び に 球 形 化 を 呈 し た 。 ま た す で に こ の 時 点 で 、 一 部
の 細 胞 の 崩 壊 が 確 認 さ れ た 。 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 に よ る 観 察 の 結 果 、 殺 藻 因 子 接 種 27時 間 後
の細胞中に球形の小型ウイルス様粒子が多数検出された。熱処理した殺藻因子懸濁液を接
種 し た 実 験 区 な ら び に 無 菌 海 水 接 種 区 に お い て は 、 藻 体 細 胞 は 接 種 か ら 24時 間 後 お よ び 48
時間後でも活発に遊泳しており、透過型電子顕微鏡による細胞切片観察によっても、健常
な 細 胞 内 構 造 が 観 察 さ れ た ( 図 1A, 1D) 。
溶 藻 培 養 液 を ネ ガ テ ィ ブ 染 色 法 に よ り 観 察 し た 結 果 、 直 径 約 20-30nm(平 均 26nm程 度 )の 球
40
形ウイルス様粒子が多数観察され、いずれも外膜構造ならびに尾部構造を持たないことが
確 認 さ れ た ( 図 3) 。
ま た 、 蛍 光 顕 微 鏡 観 察 の 結 果 、 HcVで み ら れ た よ う な 明 瞭 な 粒 子 の 染 色 は 確 認 さ れ ず 、 DAP
I染 色 に よ る 観 察 は 該 殺 藻 因 子 に は 不 適 で あ る と 考 え ら れ た 。
【0057】
接種実験
前 処 理 を 施 し た 殺 藻 因 子 ク ロ ー ン を 接 種 し た 場 合 の ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 お よ び HcLG-1
株 の 細 胞 密 度 の 推 移 を 図 4に 示 し た 。 0.1μ m濾 液 接 種 区 で は 、 接 種 翌 日 か ら 細 胞 密 度 の 減
少 が 見 ら れ た 。 熱 処 理 接 種 区 で は 、 接 種 6日 後 に お い て も 細 胞 密 度 の 減 少 は み ら れ な か っ
た 。 ま た 、 溶 藻 後 の 0.1μ m濾 液 接 種 区 か ら は 、 電 子 顕 微 鏡 観 察 に よ り 上 述 の 球 形 ウ イ ル ス
50
(11)
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様粒子が確認された。
また、連続した植え継ぎ実験から、本殺藻因子クローンは対数増殖中のヘテロカプサ細胞
を速やかにかつ繰り返し溶藻せしめることが確認された。
以 上 の 結 果 か ら 、 こ の 殺 藻 因 子 の サ イ ズ は 0.1μ m未 満 で あ り 、 か つ 加 熱 処 理 に よ り 著 し く
殺藻性を喪失することが示唆された(予備実験により、本殺藻因子を完全に失活させるに
は オ ー ト ク レ ー ブ ( 121℃ × 15分 ) 処 理 が 望 ま し い こ と が 確 認 さ れ て い る ) 。
し た が っ て 、 こ の ウ イ ル ス 様 粒 子 は 、 1) 病 巣 部 に は 必 ず そ の 菌 も し く は ウ イ ル ス が 検 出
さ れ る 、 2) 健 常 な 組 織 か ら は そ の 菌 も し く は ウ イ ル ス は 検 出 さ れ な い 、 3) 人 為 的 に そ の
因子を接種することにより宿主にある特定の病気を起こさせることができる、という「コ
ッホの条件」を満たしている。このことから、このウイルス様粒子がまさしく殺藻因子で
10
あり、「ウイルス」であることが示された。感染細胞内でのウイルスの増殖の様子から、
本 ウ イ ル ス を 「 HcSV (ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ ・ ス キ ャ ッ タ ー ド ・ ウ イ ル ス
)」 ( 注 : 「 ス キ ャ ッ タ ー ド 」 は 「 散 乱 し た 」 の 意 )」 と 命 名 し た 。
【0058】
宿主特異性
HcSV34株 お よ び HcSV109株 は 、 標 的 種 で あ る ヘ テ ロ カ プ サ ・ サ ー キ ュ ラ リ ス カ ー マ を 除 く
珪 藻 4種 、 緑 藻 2種 、 ク リ プ ト 藻 1種 、 渦 鞭 毛 藻 9種 、 ユ ー グ レ ナ 藻 1種 、 ハ プ ト 藻 2種 お よ び
ラ フ ィ ド 藻 6種 に 対 し て 殺 藻 性 を 示 さ な か っ た ( 表 1) 。 こ の 実 験 結 果 か ら 、 本 ウ イ ル ス が
ヘテロカプサにのみ特異的に感染するウイルスである可能性は高いものと推察された。
【0059】
20
ウイルスの濃縮および凍結保存
HcSV接 種 後 26時 間 目 の 細 胞 懸 濁 液 、 同 懸 濁 液 を 遠 心 す る こ と で 得 ら れ た 感 染 細 胞 濃 縮 液 、
および解凍後の感染細胞濃縮液のタイターをそれぞれ限界希釈法により算出した結果を図
5に 示 し た 。 こ の 結 果 か ら 、 低 速 遠 心 分 離 に よ り HcSV感 染 細 胞 を 濃 縮 す る こ と に よ り 容 易
に高力価の懸濁液を得ることができることが明らかとなった。また、凍結保存処理により
HcSVの 力 価 は ま っ た く 低 下 せ ず 、 む し ろ 限 界 希 釈 法 に よ っ て 得 ら れ る 見 か け 上 の 力 価 は 上
昇 す る こ と が 判 明 し た 。 こ れ は 、 凍 結 処 理 に よ り 凝 集 塊 と し て 存 在 し て い た HcSVが 離 散 し
、その結果として見かけ上の力価(感染性を持った粒子の密度)が上昇したことによると
推察される。
し た が っ て 、 高 密 度 の HcSV懸 濁 液 を き わ め て 安 定 な 状 態 で 保 存 す る こ と が 可 能 で あ る 。
30
【0060】
このように、我々は、西日本各地の海域で赤潮を形成し、貝類養殖業に多大な被害を及ぼ
している渦鞭毛藻ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマに感染し、殺藻する小型ウイルス
HcSVの 分 離 に 成 功 し た 。 ウ イ ル ス は 爆 発 的 な 増 殖 力 を 有 す る こ と か ら 、 小 規 模 か つ 低 コ ス
トで多大な効果が期待できること、本ウイルスは天然環境水中から分離されたものである
こと、本ウイルスはヘテロカプサに特異的に感染し、殺藻すること、を考慮すると、本ウ
イルスの散布はヘテロカプサ赤潮の防除法として有効であることが期待される。また、従
来 の HcVに は み ら れ な か っ た 「 高 収 量 性 」 と 「 高 安 定 性 」 が HcSVに は 備 わ っ て い る 上 、 体
積 比 に し て HcVの 約 1/400と き わ め て 小 型 で あ る こ と か ら 、 固 定 化 剤 ( 合 成 高 分 子 ゲ ル ) に
包埋したものを貝類養殖筏に設置し、小型ウイルスを継続的に筏周辺に放出させることか
らなる赤潮防除方法を提供する上で有利な要件を備えているといえる。
【0061】
なお、上記のウイルスクローンは、独立行政法人 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産
研究所(所長:福所邦彦) 赤潮環境部 赤潮生物研究室の研究グループに保管されており
、特許法施行規則第27条の3の規定に準じて分譲を行う用意がある。
【0062】
【表1】
40
(12)
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【0063】
【表2】
20
(13)
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【0064】
30
(14)
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10
20
30
【0065】
40
(15)
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10
【0066】
【表3】
20
30
40
【0067】
【発明の効果】
本発明により、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる小型ウイルスが提供
された。また、本発明により、ヘテロカプサ属の藻類に特異的に感染して増殖しうる小型
ウイルスの単離方法、抽出方法、継代培養方法、保存方法および濃縮方法が提供された。
本発明の小型ウイルスを用いることにより、赤潮を防除することができる。
【図面の簡単な説明】
【 図 1 】 ヘ テ ロ カ プ サ 細 胞 お よ び HcSVク ロ ー ン の 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 写 真 で あ る 。
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A : 健 常 な ヘ テ ロ カ プ サ 細 胞 ( ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 ) の 断 面 像 。
B : HcSV34株 の 接 種 か ら 27時 間 後 の ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 細 胞 の 断 面 像 。 細 胞 内 で 増 殖
するウイルスの集合体が、細胞質内に電子密度の高い領域として観察される(矢印)。
C:Bの拡大像。規則的な結晶状構造をとらないウイルスの集合体が観察される。
D : 健 常 な ヘ テ ロ カ プ サ 細 胞 ( ヘ テ ロ カ プ サ HcLG-1株 ) の 断 面 像 。
E : HcSV109株 の 接 種 か ら 48時 間 後 の ヘ テ ロ カ プ サ HcLG-1株 細 胞 の 断 面 像 。 細 胞 内 で 増 殖
するウイルスの集合体が、細胞質内に電子密度の高い領域として観察される(矢印)。
F:Eの拡大像。規則的な結晶状構造をとらないウイルスの集合体が観察される。
【 図 2 】 ウ イ ル ス 接 種 前 お よ び 接 種 後 4 8 時 間 目 の ヘ テ ロ カ プ サ 培 養 液 ( HcSV34株 お よ び
HcSV109株 ) 。 ウ イ ル ス 感 染 に よ り 明 ら か に 細 胞 が 運 動 性 を 失 い フ ラ ス コ 底 面 に 沈 積 し て
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いることがわかる。
【 図 3 】 ネ ガ テ ィ ブ 染 色 を 施 し た HcSV粒 子 の 透 過 型 電 子 顕 微 鏡 写 真 で あ る 。 こ れ ら の 写 真
か ら 、 HcSVが 粒 径 約 26-28nmの 小 型 球 形 ウ イ ル ス で あ る こ と 、 な ら び に 外 膜 お よ び 尾 部 構
造を欠くことがわかる。
A : HcSV34株
B : HcSV109株
【図4】各種の前処理を施したウイルスクローンを接種した場合のヘテロカプサ株の増殖
を示す。矢印はヘテロカプサに対しウイルスクローンを接種した日を示す。
A : ヘ テ ロ カ プ サ HU9433-P株 に 対 す る HcSV34株 の 接 種 試 験 結 果 。
B : ヘ テ ロ カ プ サ HcLG-1株 に 対 す る HcSV109株 の 接 種 試 験 結 果 。
凡例:□;熱処理を施したウイルスクローンを培養2日目に接種した実験区のヘテロカプ
サ密度、■;ウイルスクローンを培養2日目に接種した実験区のヘテロカプサ密度。
【 図 5 】 ウ イ ル ス 感 染 後 26時 間 目 の ヘ テ ロ カ プ サ 細 胞 を 低 速 遠 心 に よ り 濃 縮 し 、 そ の 後 凍
結保存した場合の、各段階におけるウイルスの力価を示す。
A : HcSV34株 の 各 段 階 に お け る 力 価 。
B : HcSV109株 の 各 段 階 に お け る 力 価 。
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【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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(72)発明者 山口 峰生
広島県広島市佐伯区楽々園6丁目12番−21−405号
(72)発明者 樽谷 賢治
広島県広島市佐伯区五日市1丁目1番−7−308号
(72)発明者 外丸 裕司
広島県広島市佐伯区坪井1丁目5番51 エントピア新谷A−201号
審査官 森井 隆信
(56)参考文献 Appl. Environ. Microbiol.,1999年,Vol.65, No.3,898-902
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(58)調査した分野(Int.Cl. ,DB名)
JICSTファイル(JOIS)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
C12N 7/00
A01N 63/00
C02F 3/00
C02F 3/34
C12N 7/02
(54)【発明の名称】赤潮プランクトンに特異的に感染して増殖・溶藻しうる小型ウイルス、該ウイルスを利用する赤
潮防除方法および赤潮防除剤、並びに該ウイルスの単離方法、抽出方法、継代培養方法、保存方
法、および濃縮方法
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