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シンプル成果主義評価への提案: 国連の人間開発

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シンプル成果主義評価への提案: 国連の人間開発
Japanese Journal of Administrative Science
Volume19, No.2, 2006, 181-192.
Material
資 料
経営行動科学第19巻第 2 号, 2006, 181−192.
シンプル成果主義評価への提案:
国連の人間開発指数をヒントに
東京理科大学 W.
A. スピンクス
A Proposal for Simple Performance-Based Evaluation:
Hints from the Human Development Index
Wendy A. SPINKS
(Tokyo Rikadai University)
While the documented number of Japanese companies introducing performance-based
evaluation is on the increase, the number of early proponents either revising or abandoning
results-based systems would suggest that all is not well with the Japanese application
thereof.
Major issues fall into three main areas: 1) the increasing complexity of evaluation models;
2) the gap between what models promise and actually deliver; and 3) low staff buy-in to the
evaluation process per se. While each is independently cause for concern, a greater concern
is that they seem to compound each other, creating a kind of negative synergy. Accordingly,
this paper argues that a radical new approach is required to break this vicious circle,
positing the UNDP’s Human Development Index as an instructive alternative.
Specifically, the HDI approach of capturing the inherently complex concept of “human
development” by three indicators (longevity, adult literacy and GDP) may indicate a tenable
exit strategy from current evaluation complexities. While the specific performance
indicators proposed in the paper are highly provisional and need to be empirically tested, the
basic approach of pinioning evaluation frameworks on the concept of “bounded objectivity”
is deemed to hold promise for not only simplifying evaluation procedures, but also raising
their manageability and powers of persuasion.
Keywords: performance-based evaluation; HRM; Japanese companies; Japanese management
practices.
に機能した期間は長いが,小本(2004)と労務行政研究
1. はじめに
所(2004)をはじめ,少なくない調査結果が示すように,
Weber以来,その完全な実現が不可能とされながらも,
成果主義的要素を取り入れるべく多くの日本企業が試行
客観性や公平性を目指すべく,さまざまな従業員を評価
錯誤をおこなっている今日である(表1・2参照)
。また,
する制度やツールが提案されてきている。その流れの中
東京都労働相談情報センター(2005)の調べで明らかで
で流行り廃りはあるものの,一貫して従業員を評する手
あるように,こうした傾向は大手企業に限ったものでは
法が高度化し,たえずさらなる精緻化が追求されてきた。
なく,299人以下といった中小規模の事業所においても
従来の日本型経営の下で培われてきた年功型評価も充分
成果主義の導入が3割弱に達している。
表1 最近の日本企業による人事制度の試案一例
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経営行動科学第19巻第 2 号
表2 最近の日本企業による人事制度に関する調査報告の一例
−182−
シンプル成果主義評価への提案:国連の人間開発指数をヒントに
一方,こうした成果主義の普及機運とは逆に,早期導
るように,賃金との関連が色濃い。いうならば,これは
入企業における成果主義の見直し,あるいは撤廃が少し
評価が賃金の根拠を示すためであり,「成果主義」という
ずつ表れてきている。そのうち,もっとも話題を呼んだ
フレームのなかで評価と報酬がコインの裏表の関係にあ
ケースは富士通(城 2004)であろう。しかし,清水
るといってもよい。
(2003)
,高橋(2004)や小松(2004)が示唆するように,
さて,成果主義の機軸概念は何であろう。もっとも簡
疑問の声は一部の企業に限られていないようである。
単にいえば,成果主義とは「業務評価が成果(結果)を
AERA(井原 2005)が労働政策研究・研修寄稿の協力で
中心に決定する仕組み」で,そこで得られた評価が報酬
実施した主要企業30社の調査では終身雇用を排除し,徹
を決定づけるシステムといえよう。ただし,成果をどの
底した成果主義度の導入が3社にとどまった。これらの
程度業務評価に反映させるか,また,その業務評価がど
指摘や結果を受け,日本企業における成果主義がうまく
の程度報酬を規定するかについては,貢献度=成果のみ
機能しているとは言いがたい。本稿では成果主義の基本
を評価対象とする「真性成果主義」から人件費削減を主
課題を整理した上で,人材評価に対する新たなアプロー
目標とするような「変種成果主義」(井原 2005)までと
チを提案する。その際,国連開発計画(UNDP)がおこ
幅が広い。ただし,内外のほとんどのケースにおいて成
なっている人間開発指数(HDI)といった,企業とは全
果主義が「おおよその成果主義」にとどまるという指摘も
く異質の場で用いられている評価アプローチを参考に提
ある(Creelman 2005)
。
なお,楠田(2005)によると,処遇システムとしての
案を試みたい。
成果主義に三つの柱が存在し,つまり1)役割給,2)業
2. 成果主義の定義と賃金制度との関連
績賞与,と3)成果昇進である。一方,成果を重視した
本題に入る前に,まずここでは成果主義とは何か,そ
評価の延長上に存在する特徴として,1)個人格差がつ
して賃金制度とどのように関連しているかを簡単に説明
く,2)給料の上下がありうる,3)昇格に年功要素の排
したい。
除などがあげられる。
2−1. 成果主義の定義
企業の導入例において,通常一年単位の目標設定と抱き
本来なら,長期視野が成果主義に不可欠な要素だが,
「成果主義」という用語が紙面に登場する頻度にもかか
合わせになるため,理論どおりに機能しない面が出てく
わらず,確たる定義に出会うことは少ない。本稿では成
る。また,上述から明確であるように,成果主義の前提
果主義を主に評価制度として位置づけて論ずるが,元と
条件として,各自の役割の明確化および具体的かつ適切
される英語名称(Pay for Performance)から明らかであ
な業績目標が必須である。
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具体的な仕様や活用方法はともあれ,本稿では成果主
かで職務が一定しない,あるいは人材不足にあって職務
義とは個々人の具体的な業務パフォーマンスを中心に評
を超える仕事が頻繁に発生する実態を理由に定着しなか
価し,その結果を報酬に反映させる仕組みと定義し,特
った経緯がある。もう一方では,資格制が混沌とした企
にその第1ステージにあたる評価の側面に注目したい。
業体を整理する利点もあって製造業を中心に浸透してゆ
しかし,その前にもう少し丁寧に成果主義と賃金制度,
くが,その代表的な仕組は,まず職位・役職ごと「資格
とりわけ戦後日本における賃金制度の変容について整理
区分」(たとえば主管,主事,社員)を設定し,それぞ
をし,議論の歴史的な文脈を簡潔に述べることとする。
れに資格の段階(たとえば主管,主事1級∼2級,社員1
級∼7級など)を設け,昇格基準点と在資格年数を定め
2−2. 成果主義と賃金制度との関連
る仕組である。しかし,やはりこの制度にも資格取得基
成果主義と賃金制度との関連を説明するために,まず
準が不明瞭,資格と職務難易度の関連性が乏しいといっ
戦後における日本の賃金制度の歩みに触れる必要があ
た問題が次第にでてきて1960年代では「能力主義」が主流
る。ここでは『Works』(2002/2003)の戦後人事特集を
となり,それを具現化した「職能資格制度」が1980年代ま
中心にまとめてみる。
で日本の賃金標準となる。
能力主義とは能力査定(現在のスキルインベントリー,
まず,戦後日本企業における賃金制度の原型は1946年
に導入された生活給(いわゆる「電産型給料」といってよ
あるいは実際の行動要素を省いたコンピテンシーに近い
い。
「家族給」と「本人給」がその大半(67.0%)を占め
概念)を中心とした賃金制度をさすが,背景にある考え
るが,能力的な要素が完全に欠落していたわけではなく,
は職務内容が一定しない環境下で成果主義に汎用性や共
「能力給」
(技術・能力・学歴を総合加味したもの)が総
通性はないが,能力に汎用性があるというものである。
計の20.5%を占めていた。ただ,年齢要素が強い生活給
具体的に,職種別に遂行能力が規定され,ランクの定義
が日本の年功型賃金の原型となり,年齢(経験=勤続年
をおこなう。規定されている能力要件を満たせば,ラン
数)に能力が上昇するという仮説を直接謳っていなくて
クアップが可能なこの制度では,いうまでもなく職能要
も,勤続年数が長くなればなるほど能力も高まるという
件がその中枢をなす。しかし,それを怠っては,あるい
仮説にもとづく賃金制度であったことは確かである。
は何年も見直さなければ,上辺だけの制度運用につなが
しかし,戦後社会が安定してくる1950年代に入ると生
り,年功的な要素が強まる,と指摘するのは職能制度の
活給に対する批判が表れ,「職務給」と「資格制」とい
生みの親,楠田丘氏である(Works 2002/2003 p.28)
。つま
うふたつの動きがでてくる。生活給の人気低迷を複数の
り,職能体制においても運用の段階ではいわゆる能力仮
要因によるが,代表的なものは1)個人の能力や成果を
説(能力が年功的にあがる)が綿密な能力要件定義の代
軽んじるため若手有能人材のやる気低下につながる点と
わりをつとめ,従業員の安定欲求と企業の従業員刺激欲
2)従業員の年齢構成がピラミッド型では必然的に労動
求を絶妙にバランスさせることに成功する。しかし,や
コストの上昇につながる点である。ただしその一方で,
がて職能制にも制度疲労がみられ,バブル崩壊後日本の
アメリカ型職務給が当時の革新する産業や個別企業のな
人事制度の中に成果主義を取り込む試行錯誤が頻発する。
表3 日本における評価・賃金制度の年表
以上,戦後の賃金制度の歩みを足掛け的に紹介したが,
多くの学者と実践者が指摘するように,いずれの制度を
−184−
シンプル成果主義評価への提案:国連の人間開発指数をヒントに
とってみてもやがて年功的運用に帰結するパターンが見
を示すだけであり,他の要素が排除されると限らない点
受けられる。その大きな原因は外部労働市場の欠如(=
である。生活給の大きな要素の一つは家族給であったが,
職種・職務別の客観的な評価基準の欠如)と評価に欠か
能力給も入っており,能力給の中心は能力要件だが,年
せない能力要件定義の簡略,あるいは省略である。ただ
功的な要素も入っており,成果給にも成果のみを考慮す
し,綿密な能力要件を定義しない,制度の原型からの離
る制度が皆無で,俗人的要素,あるいは経験的要素(年
脱はさておき,見逃してはならない点は,日本企業によ
功要素)を取り入れているものが多数存在する。
さいごに成果主義と賃金制度の関連について簡単に整
る年功的な賃金制度運用が思いがけない利点,つまり従
理してみるが,すでに上述で触れているように成果主義
業員による強い協調姿勢を生み出した点である。
なお,生活給→能力給→成果給という賃金制度の推移
という広義的概念には「評価の要素」と「賃金制度の要
を考えると,実践された能力給が生活給の延長上にある
素」が含まれており,成果主義評価が被評価者の業績を
ことは容易に理解できる。たとえば,当初から生活給に
中心としており,いずれの評価制度と同様,昇格や賃金
は能力要素が含まれていただけでなく,両制度には共通
制度の根拠を示す役割を有する。一方,成果主義賃金制
した能力仮説の存在が確認できる。だが,能力給から成
度は業績評価を賃金決定の中心項目と据えている制度で
果給への転換は基盤思想の転換であり,いわゆる「人間
あり,全報酬を業績によって決まる歩合制もあれば,業
中心型」賃金制度か,「仕事中心型」賃金制度かの違いで
績評価を報酬の一部(たとえば本給の何割か,あるいは
ある。また,さいごに留意されたい点は,いずれの制度
賞与の全額など)を決定する要因として採用する制度も
をとってみても,その名称が該当賃金制度の中心的基準
ある(図1参照)
。
図1 成果主義における評価と報酬の関連図
ある。さらに,1990年代に入り,いわゆる情報革命とあ
3. 現状の課題
いまって,イノベーションや創造性といった定量的に測
それでは,実際の組織現場における成果主義評価をめ
定しにくい項目までが注目され,成果主義型人事考課シ
ぐった課題は何かを整理すると,大きく分ければ3つの
ート,コンピテンシーモデルやバランススコアカードと
課題に集約できよう。ひとつは評価モデルそのものの複
いった,多数の評価項目を織り込む評価手法が主流にな
雑化である。もうひとつは評価モデルの原型(理想型)
りつつある(日本経団連 2003)
。
コンピテンシーモデル(CM)を例に取ってみると,
と実際運用との間に存在する乖離である。そして最後は
被評価者にとっての「納得性」の低下である。以下では
模範的な設計プロセスは下記のとおりである。太田
それぞれの観点から考察する。
(1999)によると,コンピテンシー人事の導入に1)土台
3−1. 評価モデルの複雑化
土台づくりでは目的の明確化,適用範囲の決定,導入方
づくり,2)モデルづくり,3)活用という3段階があり,
人材評価をめぐって,おそらく最大の問題は評価モデ
法の決定と社内への通知というステップがある。一方,
ルの複雑化であろう。年功的な評価体制下では,評価の
モデルづくりでは,関係者との面接をもって行動例を抽
機軸概念がきわめて簡素で,勤続年数=能力の向上=評
出・確定し,コンピテンシーの一般定義を複数レベルで
価という図式が大方定着し,こうした年功を重んじた制
おこない,必要コンピテンシーと保有コンピテンシーを
度がきめ細かい評価を不要とするため,ある意味では
視野に入れたアセスメント体制をつくる。活用段階では,
「評価を必要としない評価制度」と位置づけられる。し
採用,配置,コンピテンシー開発,目標管理,評価,賃
かし,能力主義や成果主義の導入が進むにつれ,評価基
準が増え,評価制度が次第に複雑さを増してきた経緯が
金制度,等級制度等とさまざまな場面が想定されている
(同著 pp.36-37)
。
−185−
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経営行動科学第19巻第 2 号
この一連の手順や作業が膨大で,なかにはもっとも労
んでもない逆効果につながる危険さえある。富士通(城
力を必要とする作業,そしてCMの核心をなすものはコ
2004),あるいは東海ゴム工業の年功賃金復活(井原
ンピテンシーの定義(コンピテンシーディクショナリと
2005)の例だけを見てもそうした危険性を疑う余地はな
もいう)である。同著によると,コンピテンシーを1)
い。また,労働政策研究・研修機構が2004年7月に発表
知識・技能,2)人との関係づくり,3)マネジメント・
した調査結果では,企業約7割で企業が考えているほど
行動,4)思考,と5)感覚にグループ化することができ,
実際の職場の雰囲気は業績・成果思考になっていない。
それぞれの定義例として実に計59項目が列挙されている
さらに,日本能率協会(2001)では11.3%の企業が成果
(同著 pp.110-111)
。マニュアルによってはその具体的な
主義人事の見直し・改革をあげており,社会経済生産本
内容や数が異なるものの,コンピテンシーをいくつかの
部(2004a)の「第7回日本的人事制度の変容に関する調
クラスターに分類し,それぞれを定義していく手法は共
査」結果では成果主義を基調とする年俸制を中断,もし
通で複雑さをきわまるといっても過言ではない。
くは廃止した企業が4.0%であった。まだ低い水準とは
当然,評価項目が増えれば増えるほど,評価システム
いえども,見直しにとどまらず中断,もしくは廃止にま
の設計,特に項目の選別が難しくなり,評価システムを
で踏み切る重大さを考慮すると,これらは気になる数字
運営する組織負担も増加する。さらに,評価の対象が多
である。もしや,
「やりっぱなしの成果主義」,あるいは
くなればなるほど評定者への負担も増し,評定者がかつ
てないほどきめ細かく被評価者を観察し明確な差をつけ
目標設定の形式化の背景にあるファクターはこうした
「原型」と「実際」の乖離かもしれない。
ることが要求される。言い換えれば,前述したコンピテ
ンシーモデルのように,評価項目が一定の数以上に細分
3−3. 評価手法の「納得性」低下
化されてしまうと,評定者の評価能力が追いつかない恐
さらに,前述した複雑化と形骸化問題は評価システム
れがあり,後述する被評価者への「納得性」を損なう恐れ
をめぐった第3の課題の引き金となっている。経営学の
もある。
流れの中で常に強調される点は,評価制度の公正さであ
る。公正な制度こそが内部の支持を得て動機づけを高め
3−2. 評価モデルの原型と実際運用との乖離拡大
評価モデルの原型と実際運用との乖離拡大という課題
るといった本来の評価システムの機能を果たすわけであ
る。しかし,こうしたシステムの納得性が低下すれば,
は,一見して前項の複雑化と酷似しているようにみえる
ネガティブ動機づけにつながりかねない。こうしたネガ
かもしれない。また,密接な関係にあることは確かであ
ティブ動機づけが古くからはTaylorの組織的怠業を皮切
る。しかし,評価制度の課題を整理する上では,こうし
りに,組織を長年悩ませてきた課題だが,多くの調査結
たギャップを区別して取り扱うことは重要である。なぜ
果が示しているように,現在の職場では諸評価システム
ならば,評価システムの複雑化は設計と実際の評価を困
に対して一種の疑心暗鬼が蔓延しており,よくても面倒
難しているが,原型と実際の乖離が導入そのものを危う
な儀式,悪ければ不満不平の根源となる傾向が強い。そ
くする可能性を秘めているからである。
のためか,前述した社会経済生産本部の「第7回日本的
あらゆる組織的変革が同じ問題を抱えるが,組織の真
人事制度の変容に関する調査」では「成果主義の企業ほ
髄にも当たる評価システムを変えるということは並大抵
ど,評価の納得性やキャリア開発支援のための制度の整
の努力をなくしてありえないのである。言い換えれば,
備をしている」ということにつながる。
注目されている評価システムを原型どおりに導入するこ
あるいは,労働政策研修機構が2000年4月-2004年12月
とは不可能で,各社に蓄積された経営理念,求める人材
の間に発行しているメールマガジンを検索すると,三井
像,遂行する業務内容などに整合性を持たせて初めてそ
化学(2001/02/23 掲載)
,オムロン(2001/09/14 掲載)
,
の導入が可能となるわけである。また,こうした徹底的
東亜合成(2002/01/18 掲載)や武田薬品(2002/03/29
な現状分析および自社に合った仕様づくりを怠れば,と
掲載)など,新しい人事評価の導入目標に「納得性の向
表4 成果主義導入に「納得性・感」をあげている企業件数
−186−
シンプル成果主義評価への提案:国連の人間開発指数をヒントに
図2 3年前と比べた処遇や評価に対する納得感,公平感(労働者調査)
上」を掲げている企業は少なくない(表4参照)。一方,
り」と考えており,機能していると答えた従業員が0.
同じく労働政策研修機構が2004年1月に実施した「労働
0%という労務行政研究所(2005)の調査結果,あるい
者の働く意欲と雇用管理のあり方に関する調査」(労働
は主に従業員の成果や業績の評価を明確にするために賃
政策研修機構 2004)では,3割弱の労働者が3年前と比
金制度を見直した企業が46.5%にのぼり,見直した後の
べて評価の賃金・賞与への反映に対する納得感が低下し
賃金制度に対する「必ずしも満足はしていないが現状で
たという結果が得られた(図2参照)
。また,評価の公平
は止むを得ない」とする事業者が51.8%,労働組合では
感と努力評価の納得感に対しても「低下した」とする労
48.2%という東京都労働相談譲歩センター(2005)の調
働者が「高まった」とする労働者を上回り,設定目標の
査結果が問題の深刻さを物語る。
また,上記であげられている各課題が単独だけでも深
納得感に対してのみ「高まった」が僅かながら「低下し
刻ではあるが,各種調査であげられている不満や問題視
た」より多い結果となった。
あるいは,納得感そのものではないがやがて納得性の
の高さを考えると,成果主義におけるこれらの問題点が
低下につながりかねないものとして,評価制度を巡った
一種の悪循環を生み,いわば負の相乗効果につながって
企業と従業員の認識ギャップがあげられる。たとえば,
しまっている恐れは否定できない。つまり,あらゆる組
日本能率協会(2005)の調査では,成果主義がビジネス
織的変化の大前提は何らかの状況改善であり,変革に費
の競争力・業務効率や社員の意欲向上に役立つと答えた
やされた労力に見合った改善効果が当然期待される。し
企業が半数を占め,
「効果なし」はほとんどなかった反面,
かし,現場での支持を得られず,さらなる見直しや工夫
従業員の「効果なし」が「効果あり」を上回った。もう
を重ねる試みはある限度を超えると,いわば収益漸減の
ひとつの例として,野村総合研究所(2005)による調査
法則ならず,
「効果漸減の法則」にぶつかる懸念がある。
があげられる。この結果では人事制度改革の評価に対し
別の言い方をすれば,前述の成果主義における課題が重
て企業と個人の認識に差が認められ,「成果・貢献と処遇
なり合うと,悪循環による悪性進行過程が生まれ,負の
が整合した」と評価する意見は人事担当者が75.9%に対
相乗効果が出現してしまうことは必然ではないにしろ,
し,従業員が40.6%にすぎなかった。同じく,人事制度
その可能性が増大する(図3参照)
。
改革の達成状況に関する満足度について,人事担当者の
66.4%に対し,従業員が46.5%にとどまった。さらに,労
務行政研究所(2005)の調査でも成果主義人事制度の導
入による職場への波及効果を企業側が肯定的に見ている
反面,従業員が否定的という結果が得られている。
3−4. 負の相乗効果
たしかに,複雑化,原型と運用との乖離や納得性の低
下は成果主義固有の問題ではなく,大方どの評価制度に
もまつわる課題といえよう。ただし,前述した見直しの
動きや現場における低い支持率を鑑みると,日本企業で
は,成果主義が成功するために何か不可欠な要因が欠如
しているといわざるを得ない。労使とも9割が「問題あ
−187−
図3 負の相乗効果(概念図)
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経営行動科学第19巻第 2 号
つまり,報告される多くの日本企業における人事評価
せない(Unconvincing)仕組みとなるため,最終的には
の工夫・改定が要求と実践に適合した(Matched),評
役に立たない(Unusable)結果を生む構図が見受けられ
定者に有効活用可能で(Manageable),被評価者にとっ
る(図4参照)
。よって,各要素が加重するこうした悪循
て納得感のある(Meaningful),動機づける力のある
環を断ち切るためには,新たなアプローチが強く求めら
(Motivational)仕組みにはなっていない。むしろ,適合
れている。
しない(Untailored),扱いにくい(Unwieldy),納得さ
図4 組織変革の望ましい過程とズレの流れ(概念図)
4. 国連開発計画の「人間開発指数」
(HDI)
の概要
筆者は昨今の成果主義評価制度の流れが確実に導入の
な評価ツールが必要で,UNDPがその構築・提示の責務
を負うという理念に基づいている。
4−2. HDI指数の構成
狙いからずれておこなわれていると考え,本稿にて成果
ジェンダー開発指数(GDI),ジェンダー・エンパワ
主義的評価制度を簡素化するケースを論じたい。その際,
ーメント測定(GEM)
,人間貧困指数(HPI)
,と技術達
参考にしたいものはノーベル受賞した経済学者アマティ
成指数(TAI)など,人間開発に関連した多種の指数が
ヤ・センも加わり開発された国連開発計画(UNDP)に
加わり,人間開発報告書の幅が充実されても,人間開発
採用されている「人間開発指数」(HDI)である。なお,
の核となる指数は人間開発指数(HDI)であり,その構
下記にてHDIの詳細を記すが,本稿ではその内容的な是
成は基本的に不動のままである。そうしたHDIの背後に
非ではなく,複雑な現象の本質を捉える数少ない変数で
ある基軸概念は,「人間が自らの意志に基づいて自分の
も一定の測定が可能かつ有用であるといったHDIの特徴
人生の選択と機会の幅を拡大させること」である。人間
を着目課題としたい。
の選択の度合いをキャプチャーするために,人間開発の
概念を3つの本質的な選択肢に削ぎ落とされた。つまり,
4−1. その趣旨と開発経営
1)「健康で長生きすること」,2)「知的欲求が満たされ
UNDPの「人間開発指数」が1990年から導入され,一
ること」,と3)「一定水準の生活に必要な経済手段が確
定の評価を得ている,国の発展度合いを経済指数以外の
保できること」である。図5が示すように,それぞれの
もので測ろうとする試みである。趣旨は経済評価一辺倒
指標として用いられたものは,1)出生時平均余命,2)
の是正であり,経済評価の否定ではない。つまり,人間
成人識字率及び1996年から総就学率(1992-95年,平均
が生活を営む上では所得といった経済側面は重要だが,
就学年数)
,と3)一人当たりのGDP(購買力平価ベース)
すべてではない。むしろ人間開発を測定する他の補足的
と,きわめてシンプルかつ明快なものである。
図5 HDIの算出構造
−188−
シンプル成果主義評価への提案:国連の人間開発指数をヒントに
平均寿命の採用について,3つの観点があげられてい
人材評価への適用である。具体的に,HDIを枠づける基
る。まず,長生きそのものがもつ本質的な価値,2)さ
軸概念は「人々の選択肢の拡大」である。その本質的な
まざまな人生における目標を達成する上での長寿の重要
キー選択肢を抽出し,代理変数を立てるという構築スタ
性,そして3)長寿が持つ健康と栄養等との高い関連性
ンスを貫いている。たとえば,人材評価の場合,成果主
である。一方,初期から取り入れられた成人識字率の採
義における評価の根底に流れる本質的な概念はワーカー
用について,教育へのアクセスを荒く反映するにすぎな
のパフォーマンスの測定である。測定結果が昇進の決定,
いと認めながらも,人間が歩む学びや知識獲得への第一
あるいはフィードバックの提供,動機づけなど,どのよ
歩として取り入れられた経緯がある。第3の指標,一人
うに活用されるかは,評価と密接な応用関係にあるもの
当たりのGDP(購買力平価ベース)について,社会経済
の,評価そのものの核をなしていない。ならば,人材を
の資源を活用できる代理変数として用いられ,単なる一
評価する際にまず考えなければならないのは,測定すべ
人当たりの所得より,1年間で新たに生産された財・サ
きワークー・パフォーマンスの本質的な側面は何かとい
ービスの価値の合計であるGDPに購買力平価を用いたほ
うことになる。
うが妥当という見解が示されている。
しかし,HDIと人材評価の決定的な違いは,HDIの評
HDIを構築したプロセスを見ると,もうひとつ重要な
価は外部によるものであり,その評価に納得できなけれ
点がある。つまり,HDIを意図的に簡単なものにした点
ば,無視することはできる。が,内部の人間がおこなう
である。人間開発が持つ複雑な側面を完全に捉えようと
社員の人材評価では被評価者の具体的行動が対象であ
するとさまざまな指標を取り入れなければならない。し
り,被評価者の行動が望ましいものならそれを奨励し,
かし,複数の指標を用いると,肝心な測定対象があいま
望ましくないものならそれを改めさせる性質を持つ。よ
いになってしまう恐れがある一方,複数の指標の採用が
って一企業における評価に対する被評価者の納得感がき
指数の解釈と活用をより難しくすると判断された。その
わめて重要な要素である。そこで,被評価者にとっての
結果,幅をもたせながら,クリティカルと位置づけられ
納得性について,行動経済学のもっとも著名な実験のひ
た側面への敏感性を保たせるといった,一種の妥協を図
とつであるアルチメータム・ゲーム(Ultimatum Game)
る必要があった。前述した成果主義評価モデルの限りな
を考慮する余地がある。アルチメータム・ゲームでは匿
い複雑化と照り合わせると,考えさせられる構築スタン
名の2者をペアに組ませ,次のルールによって10ドルを
スである。
分配させる。提案者が単独で分配率(半々,7対3など)
を決め,応答者に「受けるか蹴るか」,一回限りのオフ
5. HDIを従業員評価に転用
ァーをする。応答者が承諾すると,両者が提示の分配ど
さて,本節ではこうした国連開発計画のHDIのアプロ
おりでお金を得るが,拒否すれば両者が何の収穫も得ず
ーチを人材評価の分野に転用できる可能性を探りたい
ゲームが終了する。両者が合理的であれば,提案者が9
が,その前に再度,断っておく点は,筆者は決してHDI
ドルを,応答者が1ドルを収穫するが,応答者がしばし
をそのまま,いわばWDI(ワーカー開発指数)に転用さ
ば2ドル以下の低いオファーを拒否し,最も多く成立す
せるつもりがない点である。むしろHDIを取り上げるポ
る分配は5ドルずつである。
イントはその中身にあらず,その設計アプローチにある。
なぜアルチメータム・ゲームにこうした結果が多いか
特に,HDIが示す,簡素なものが複雑な課題に適用でき
というと,その答えは提案者の決め方にある。つまり,
うる点が,構成員の評価を試みる組織にとって学ぶべき
提案者が努力の末ではなくただ単に偶然に決まった場
ものがあると同時に,「複雑な側面を完全に捉えようと
合,両者が分配を公平(Fair)にすべきという感覚を強
すると,複数の指標を用いるあまり,肝心な測定対象が
く抱くようである。しかし,面白いことに,例えばテス
あいまいになってしまう恐れがある」HDIの構築スタン
トで高得点を獲得したなど,提案者がその地位を「稼い
スが肝要に思える。組織に置き換えると,この考えが資
だ」という設定に一旦変れば,提案者がより低い分配を
源の有効利用やコスト・ベネフィット理論に通じるとこ
提示しても拒否されるケースが激減する。こうした行動
ろがあり,評価制度構築・運用のために投入した組織的
経済学の実験を意味するところを一言でいうと,人が達
資源に対する妥当な効果の見返りを考慮すべきという教
成と収穫との間に妥当(Reasonable)な関係を求めるも
訓をも内包している。
ので,仕事の評価に対しても同じ習性が認められる。収
いいかえれば,筆者が提案したいものはHDIで貫かれ
ている緻密な概念枠組みとそれに基づいた本質のみに焦
穫に妥当な根拠を見出せるなら,評価が各自の実績を完
璧に反映していなくても納得はする。
点を絞った,数少ない変数でより多くを把握する姿勢の
−189−
アルチメータム・ゲームで認められたこうした行動的
資 料
経営行動科学第19巻第 2 号
習性を踏まえるなら,評価が荒くてもかまわないが何ら
かの根拠を示すことが肝要ということになる。さらに,
(=直属上司)を独占せず自主的に行動をしたか(質的
軸)である。
HDIの仕組と同様,この3側面で特定の職場に存在す
根拠とは明確な評価基準を提示する他でもない。つまり,
HDIが「人間の選択の度合」という機軸概念を立て,そ
る業務と業績の複雑性を完全に捉えることは到底できな
の本質を1)「健康で長生きすること」,2)「知的欲求が
い。しかし,基本的な人材への組織的期待である点,職
満たされること」,と3)「一定水準の生活に必要な経済
場において広く理解されている概念である点,業績に関
手段が確保できること」に削ぎ落とす緻密な概念枠組み
するさまざまな面に関連性が高いこと,そして実践しや
と同様に,人材評価に「ワーカーのパフォーマンスの度
すい評価項目数である点がその強みといえよう(図6参
合」という機軸概念を立て,その本質を凝縮した要素を
照)。さらに,評定者の主観が加わっても,判断基準が
枠づけることが欠かせない。問題はどの要素に削ぎ落と
あらかじめ提示されているのなら,被評価者が評定者の
「癖」を念頭に入れて行動することは可能である。した
していくか,である。
実証的な検証が必要ものの,議論を展開するために,
がって,評価の根拠を示す責任は依然としてあるものの,
やや常識に頼った要素をあげると,業務やビジネス環境
完全な客観性を装わないですむ分,評定者への評価負荷
がいかに変貌しても,おそらく現場にいる評定者と被評
が低い一方,被評価者にとって評定者の「癖」を事前に織
価者の双方にとっても,1)業務の遂行実績,2)情報の
り込むことにより一定の納得性が生まれよう。また,同
共有実績,と3)従業員の自主性が多くの職種評価の中
様の仕組みが一般社員のみならず,組織のあらゆる階層
枢となろう。つまり,1)個別命令,職務定義,目標設
を対象に適用されれば,その納得性がいっそう増すと予
定,プロジェクト仕様表,形はいずれにせよ,当てられ
測できる。再びアルチメータム・ゲームを例に取れば,
た業務をどれだけできたか(量的軸),2)必要事項の周
被評価者が求めるのは完璧な評価ではなく,評価の根拠
囲への連絡の徹底(共有の軸),そして3)創意工夫のみ
である。
ならず,どれだけ組織の限られたかつ貴重な管理資源
図6 人材評価指数の算出構造の一例
プル」評価体制は「単純」という意味合いではない。行
6. さいごに
き過ぎた複雑性の評価を,使いこなせるものへと「既約
本稿は冒頭で述べたさまざまな企業や人材評価に関す
化」するニュアンスで捉えられたい。また,前述の図5の
る調査結果を踏まえ,日本企業による成果主義への移行
「算出例」は到底実証的な裏づけを持つ成熟したもので
が必ずしも成功していない現状を指摘した。関連する主
はない。むしろ,現在の複雑化の傾向に歯止めをかけ,
な課題を1)評価モデルそのものの複雑化,2)評価モデ
評価の簡素化の可能性を探ってみては,という問題提起
ルの原型と実際運用との間に存在する乖離,と3)被評
に過ぎない。
そこで,若干の飛躍を許していただけるなら,
価者にとっての「納得性」の低下と整理した上で,国連
開発計画が実施しているHDIを紹介し,もし国単位で人
Surowiecki(2004,pp.93-94)が集団の賢さを題材にし
間開発の本質を3つの要素で捉えることができるなら,
た著書で述べている興味深い論点を紹介したい。彼は地
個々の従業員評価も同じく3つの要素で捉えることがで
下鉄における席をいかに配分するかという調整問題
きないかという疑問に応えるべく,シンプルな成果主義
(Coordination Problem)について論じているが,シル
評価体制を推奨した。明らかに,本稿が提案する「シン
バーシートなどの特別席を除けば,世界のどの地下鉄で
−190−
シンプル成果主義評価への提案:国連の人間開発指数をヒントに
も誰が座るかは,必ず先着順という原則で決まる。これ
犠牲にする恐れに留意する必要がある。
はあまりにも当たり前な習慣で誰もが疑問に思えない
参考文献
が,席を配分する方法としては必ずしも最適な方法とは
いえない。一緒に座りたい人がいるかどうか,特定の乗
井原 圭子 2005 変種成果主義に負けない−漂流する
客がどれだけ座りたいかどうか,荷物の有無など,先着
日本企業の人事・賃金制度 AERA
順方式はこれらのファクターを完全に無視している。も
日号 pp.12-17
ちろん,これらの要因を考慮した配分をおこなうことは
太田 隆次 1999 アメリカを救った人事革命 コンピ
可能だが,より綿密な席配分で享受できるメリットはそ
の作業に要される労力に見合わないと主張する。そのた
テンシー 産労総合研究所出版部
太田 隆次 2003 コンピテンシー実践活用マニュアル
め,欠点があるものの,人々を強制することなく自然に
おこなわれる調整による,単純明快な先着順に基づいた
日本法令
ウィリアム・マーサー社 1999 戦略人材マネジメント
席配分方式が広く支持されているわけである。座れるか
否かについて戦略的に考える必要がないゆえ,思考をも
東洋経済新報社
楠田 丘 2005 能力主義と成果主義のミックスで真
っと大事なものに向けられる。つまり,優先順位として,
の人体主義を Works
最適な配分より欠点つきの配分方法のままで,思考先=
pp.20-22
努力を別の課題に当てたいため,乗客が手を打っている
2005年6月13
No.70(2005年6-7月号)
Creelman, David 2005 アメリカ企業の人材マネジメン
と解釈している。
ト−この10年の動きと今後の展望 Works
人材評価についても同じことがいえるような気がして
ならない。つまり,所詮ありえない客観性の追求に多大
No.70
(2005年6-7月号)pp.29-34
国連開発計画 2003 人間開発ってなに?
http://www.undp.or.jp/Publications/whats_hd.pdf
な労力,時間と資源を投入するよりも,「不完全な客観
性」を基調としたシンプル評価手法を検討してもいいの
小松 勝 2004 成果主義型人事の“再構築”を考え
では,と論じたいものである。なお,いうまでもなくこ
る 現代マネジメント研究会 2004年12月9日,日
の提案が組織の現場において支持されるかどうか,また
本人材マネジメント協会,発表資料
支持されるなら,パフォーマンスの本質をどのような具
小本 恵照 2004 雇用・賃金体系の見直しを進める日
体項に落とすべきかについては,調査や聞き取りを通じ
本企業 ニッセイ基礎研REPORT,ニッセイ基礎研
た検証が不可欠である。かつて,Simon(1957)がその
究所,5,2-9
「管理人仮説」において,「経済人」がもつ情報収集力と
Simon, Herbert A. 1957 Administrative Behaviour: A
して,全ての代替案を得ており,特定の代替案をとった
Study of Decision-Making Processes in Administrative
Organisation Macmillan
時の結果がわかるため,意思決定力をおこなう際に客観
的合理性に基づく最善の代替案を選択することができる
清水 佑三 2003
のに対し,「管理人」は代替案の一部のみを得ており,特
PHP研究所
定の代替案をとった時の結果は部分的にしか推測できな
社会経済生産本部 2004
いため,主観的合理性に基づく,満足し得る行動のみを
http//www.jpc¥sed.or.jp/esr/seido/page5n.html
社会経済生産性本部 社会労働部(編)2004 2004年度
は評価の「主観的合理性」(=制約された合理性)を認
め,評定者にも被評者にもどの部分は合理的で,どの部
版日本的人事制度の現状と課題
城 繁幸 2004
分が主観的であるかの提示がことに肝要であろう。なお,
評定者による行き過ぎた主観,あるいは平均への偏りす
Surowiecki, James 2004 The Wisdom of Crowds Doubleday
New York
高橋 伸夫 2004 虚妄の成果主義−日本型年功制復活
上位者のみによる評価を改め,多面的評価(360度評価
など)を加味する必要もあろう。しかし,評価のプロセ
のススメ 日経BP社
東京都労働相談情報センター 2005
スに参画する者を増やす過程において,評価項目の増殖
「賃金制度と労使
交渉に関する実態調査」調査結果がまとまりました
を許してしまうようなことがあるならば,「主観」が「合
理性」を圧迫し,願われている肝心な「納得性の向上」を
内側から見た富士通−「成果主義」
の崩壊 光文社
ぎなど,不適切な評価を防止するためには,評定者自身
の評価に部下の評価実績のような要件を盛り込む一方,
第7回 日本的人事制度の変
容に関する調査結果概要
選択できると謳っている。人事評価,とりわけかなりの
不評を得ている成果主義の制度的納得性をあげるために
数字と人情―成果主義の落とし穴
とうきょうの労働 第1194号(2005年6月)pp.6-7
日本経団連出版(編)2003 最新成果主義型人事考課シ
−191−
資 料
経営行動科学第19巻第 2 号
て−』(共著,2003年,日本労働研究機構),「A Survey
ート集 経団連出版
日本能率協会 2001 直面する企業経営課題に関する調
of Home-Based Workers in Japan: Emerging Health
査
Issues」(2002年,Journal of Occupational Health),な
http//:www.jma.or.jp/keikakushin/2001/research/1
どがある。
3.html
日本能率協会 2005 成果主義に関する調査
http//:www.jma.or.jp/bin/jma/release//release.cgi
?type=contents_20050223
野村総合研究所 2005
人事制度改革に関する調査
http//:www.nri.co.jp/news//2005/050408.html
労働政策研修機構 2004 労働者の働く意欲と雇用管理
のあり方に関する調査
http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/doko/h1607
/index.html
労働政策研修機構(旧日本労働研究機構)メールマガジ
ン・バックナンバー
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/bn/index.htm
労務行政研究所 2004 脱・年功,成果主義志向が強ま
る 企業における人事労務施策の動向
http://www.rosei.or.jp/press/pdf/200404.pdf
労務行政研究所 2005 成果主義人事制度の導入効果と
問題点
http://www.rosei.or.jp/press/pdf/200503.pdf
Works
2002/2003
日本の人事,失敗の本質 No.55
(2002年12月-2003年1月号)pp.4-40
(平成17年 1 月26日受稿,平成17年10月19日受理)
W. A. スピンクス
東京理科大学工学部経営工学科
〒162-8601
東京都新宿区神楽坂1−3
TEL: +81-3-5228-8344
FAX: +81-3-3235-6479
[email protected]
東京理科大学工学部経営工学科教授。
Ph.D. Management(シドニー大学経営大学院)
。
日本テレワーク学会顧問。
国際テレワーク・アカデミー代表幹事。
最近の論文として,「マネジメントの失敗−労働時間・
有給休暇・労働衛生の管理課題とテレワーク」(共著,
2004年,日本テレワーク学会誌)
,
「Telework in Japan-A
General Overview for Comparative Analysis in the eGap
Project」(2003年,欧州委員会),『在宅ワーカーの労働
者性と事業者性−在宅ワーカーへの対応・支援をめぐっ
−192−
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