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Autumn 1998 No.23

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Autumn 1998 No.23
Autumn 1998 No.23
長崎の眼鏡橋
アーチ式の石橋。ローマで考え出されたこのアーチ式の石橋の技術は、ポルトガル船により日本に伝わり、1634年に長崎で最初
の眼鏡橋が造られた。
目次
●
●
提言
核不拡散、核軍縮を促進するために(提言報告書ページへリンクします)
緊急シンポジウム
どうする南西アジアと世界の秩序 −印・パ核実験の意味するもの−
●
●
いんふぉ・くりっぷ
六ヶ所再処理工場への試験用燃料受け入れへ
10年ぶりに原子力発電所の新規立地
編集後記
Plutonium Autumun No.23
発行日/1998年9月22日
発行人/向坊 隆
編集人/後藤 茂
社団法人 原子燃料政策研究会
〒100-0014 東京都千代田区永田町2丁目9番6号
(十全ビル 801号)
TEL 03(3591)2081
FAX 03(3591)2088
緊急シンポジウム
どうする南西アジアと世界の秩序
―印・パ核実験の意味するもの―
インドとパキスタンが5月に核実験を行いましたが、その背後にある社会、政治環境、核兵器の技術レベルな
どについて意見を伺い、討論するため、当研究会では、政治、軍縮、防衛、国際外交など広範な分野で活躍さ
れている専門家の方々にお集まりいただき、緊急シンポジウム「どうする南西アジアと世界の秩序−印・パ核
実験の意味するもの」を7月23日に開催致しました。シンポジウムでは「この現実をどのように考えなければ
ならないのか」「わが国はインド、パキスタンに対して何ができるのか」「わが国は世界の安全保障のために
どのようなイニシアティブをとるのか」などについて、専門家の種々の提案を伺うことができました。それら
のご意見が多岐にわたり、大変示唆に富んでおりますので、シンポジウム全体の内容を掲載することと致しま
した。
(編集部)
[Keynote]
[パネル討論]
[参加者との質疑応答]
[Keynote]
インドとパキスタンの核はみんなが知っていた
明石
インドとパキスタンの核実験が5月に相次いで行われ、わが国の国民に非常に大きな衝撃を与えたわけで
す。その後、いろいろな形での波紋があり、現在はパキスタン自体がデフォルトに近い状況にまできていると
いうことで、経済制裁の効果もあったのではないかと思います。アメリカはパキスタン、できればインド
もCTBT(包括的核実験禁止条約)に参加させようという外交的な努力を現在でも続けている様子です。ま
た、ASEAN9カ国の会議が行われており、この印・パの核実験に関連して、両国を名指して批判すべきかどう
かについて、「そうすべきだ」というフィリピンに対して、慎重論も出ていると聞いております。
とにかく唯一の被爆国として、また非核三原則を掲げて、国連内外において核軍縮のためにいろいろなイニシ
アティブをとってきたわが国としては、この問題はもちろん大きな関心事であります。事は単にインドとパキ
スタンによる核実験と南アジア地域における安全の問題に限らず、結局、CTBTとNPT(核不拡散条約)からな
る現在の核不拡散体制、核軍縮体制それ自体が、果たしてこれでいいのか、これらを廃止すべきなのか、それ
とも改善・強化すべきなのか、改善・強化すべきだとすれば、どの
ようにするのかについて、当然、わが国としては核兵器をつくる能
力を保有しつつも、核兵器を作らないという政治的な決意を表明し
た国として、大きな発言権があるのではないかと思います。
ご承知のとおり、わが国政府もこの問題を検討するための国際的な
フォーラムを緊急行動会議の形で提唱しまして、「国際問題研究
所」と「広島平和研究所」が共催の形で、外務省の応援を得て、こ
の8月末頃に発足させることが予定されております。ここにおられ
るパネリストの一人である今井先生にも、ご参加をいただくことが
決まっています。
明石 康氏
東京大学法学部卒。バージニア大学、
フレッチャー法律外交大学院を経て、
国連日本代表部大使、国連事務次長、
カンボジア暫定統治機構(UNTAC)
国連事務総長特別代表などを歴任。
1998年4月から広島平和研究所長、
人口問題協議会会長。
そういう意味で、きょうは4人の優れたパネリストのご意見を聞
き、それを踏まえて、皆様方から自由に率直なコメントなりご意見
をお聞きし、それを参考にしながら、提言をまとめようという話に
なるかと思います。
私としては、4人のパネリストの意見に非常に興味を持っているわ
けです。最初のスピーチとして今井さんに、インドとパキスタンの
核兵器の技術的なレベルはどういうものか、また2国による核兵器
の拡散に協力したのはどこの国か、などについてお話しいただきた
いと思います。
今井 写真(図
1)は、インドが5月11日に爆発をさせた核爆発装置の
一つだそうで、インドのある雑誌の表紙に使われていたの
を、朝日新聞社の科学担当の論説の方が、水爆なのか原爆
なのかなどの説明は一切なしで、写真だけもらってきたも
ので、朝日新聞社発行の科学雑誌『SCIaS(サイア
ス)』(1998年7月17日号)に載っております。写真か
らすると結構大きなもので、場合によっては水爆級の大き
さであるかもしれませんが、何ともわかりません。
インドとパキスタンは、イスラエルと並んで以前から核兵
器を持っていることについては、かなりよく知られていた
国です。ですから、核実験をしたからといって、みんなが
非常にびっくりしたということは必ずしもないわけです。
インドの場合は1974年に最初の核実験をしましたし、パ
キスタンは1976年頃からアルメロというオランダの工場
の遠心分離技術を、要するに盗み出して、濃縮ウランの製
造を始めておりました。1980年代には高濃縮ウランがで
きて、爆弾の準備がかなりできていたということも知られ
ております。
パキスタンの原子力委員長は、ご存じの方も多いと思いま
すが、ムニエル・カーンという人で、ムニエルに「爆弾で
きたか」と言うと、「いやあ、そんなものは作ってない」
と言うのですけれども、80年代の終わりにはパキスタン
が核を保有していたことは、ほぼ判っていました。
イスラエルはもっと早い時期に、これはフランスの全面的
な協力を受けてと言うべきでしょうが、「サムソンズ・オ
プション」という本にそのいきさつが細かく書いてありま
す。早い時期からプルトニウム原爆をつくっていまして、
湾岸戦争の時には「ジェリコ」という有名なミサイルに核
弾頭をつけて、街に並べたというのは大げさですが、事あ
るごとに撃つ準備をしてみせたものです。
図1インドの週刊誌「インディア・トゥディ」に
掲載された5月11日の核実験装置の一つ
(SCIaS, 1998年7月17日号より)
問題はミサイル
インドとパキスタンの場合に問題なのは、核兵器を小型・軽量化して、ある距離を飛ばすことです。要するに
核ミサイルができるかどうかが一つのポイントです。インドの場合は、実験をしている、「Under
Development」(図2)と書いてあるものは、まだ2,500kmの距離には届いていないと思います。インドのどこ
から撃っても北京に届くには5,000km飛ばないといけないので、今度の爆弾が軽量・小型化ができて弾頭にな
る―500kgぐらいが限度―としても、これでは中国に対する抑止力にはなりません。当然、パキスタンには届き
ますから、パキスタンに対する抑止力にはなります。
インドの場合には43キロトン(kT)の熱核爆弾を爆発させて、これはブースターによるものではないと言って
おります。プルトニウムをトリガーとする2段階の爆弾である
という説明をしていますので、きっとそうなのでしょう。た
だ、熱核爆弾をつくって43kTと言うのですけれど、外部から実
際に探知された爆発力はその半分以下だそうで、一体そんな水
爆があるのか。やはりブースターではないかという議論があり
ます。
インドの場合は、原子力発電そのものも、原爆そのもの
も、1974年の最初の実験のプルトニウムは、カナダから輸入し
た重水炉でつくったのですが、それ以後は国産の重水炉に切り
かえております。インド自身は20万kWクラスの重水加圧の国産
炉が10何台かありますし、また建設中のものもあり、今、50
万kWクラスを計画中というのですから、原子力に関してはかな
りの大国であることは確かです。したがって、実験の内容には
いろいろ辻褄の合わないことはありますが、きっとインドなら
やったのかもしれないと見られています。
パキスタンのほうは、もともとが盗んできた技術で、「自分で
つくった技術だと、うまくいかなかったときにどこを直せばい
いかわかるけれども、盗んできた技術は、うまくいかなかった
ときにどうしたらいいかわからないから、さぞ困っているだろ
う」と言うと、「いやあ、そんなことはない」と言うのです
が、だいぶ苦労をしたようです。その点は、中国が濃縮ウラン
型原爆ですから、中国のかなりのサポートがあったのだろうと
推測されています。
今 井 隆 吉 氏
東京大学理学部卒。工学博士。
ハーバード大学大学院、
フレッチャー法律外交大学院を経て、
クウェート大使、ジュネーブ軍縮会議大使、
メキシコ特命全権大使を歴任。
現在は、(社)原子燃料政策研究会理事、
世界平和研究所理事・首席研究員、
(社)日本原子力産業会議・常任顧問、
杏林大学教授。
また、つい先日、パキスタンが実験をした「ガウリ」というミ
サイルは、これは明らかに中国の援助に基づいています。もともとは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の
「スカッド」だというのですが、「スカッド」がその程度の飛距離のはずはないので、中国の中クラスのミサ
イルの技術が入っていると言われています。パキスタンの場合にはインドを抑止すればいいのであって、
ニューデリーとは目と鼻の先のようなものですから、問題になるのは今度の実験で、特に第1回の5月28日に
行った30kTというものが、本当にウラン235で30kTの爆弾であり、それが本当に500kgの大きさにまで縮める
ことができているのかどうかということです。要するに、私がいろいろ説明していることは、「よく判らな
い」ということを言っているだけで、その判らなさ加減をご説明しているだけです。
図2
米国とインド、パキスタンでは甚だの差
核兵器の技術がどの程度であるかをどのように考えたらいいかについては、アメリカが核兵器を開発して、毎
年どういうことをしてきたかを簡単に申し上げて、それに対してインド、パキスタンがどの程度の水準にある
のかを申し上げます。(表1)
表1 米国核弾頭の開発状況
年
No.
名 前
威 力
1945
Little Boy
13kt
1945
Fatman
22kt
1952 Mk5
重 量
(lb)
9,000
長 さ
(inch)
120
直 径
(inch)
28
備考
HEU
Pu
3,000
gravity bomb
1953 W18
280mm horwizer
1957 W25
1.5kt
833
9.6
18
1958 B28
1.1/1.45Mt
2,540
36
20
1958 W31 Nike Hercules 1-20kt
1,123
missile
1958 W31 Honest John
1,238
missile
2,151/2,641 16×16 25
shell
20-40kt
1956 W33
1961 B43
1Mt
2,000
144
18
1961 W44 Asroc
1kt
280
1963 W48
11kt
120
34
6
155mm howitzer
1963 W50 Pershing-I
60/200/400kt 697
1962 B53
9Mt
8,850
12.4
50
largest US bomb
1962 W53 Titan missile
9Mt
8,800
102
36.5
largest warhead
1963 W54 Davy Crockett 0.1/0.5kt
31
1965 W56 Minuteman-II
1.2/2Mt
1,600/2,200
1963 B47
1-20kt
710
11
atomic demolition
Pu Thermonuclear
119
14.75
variable yield
1970 W62 Minuteman-III 170kt
800
MIRV
1971 W68 Poseidon C3
40/50kt
367
Pu with DT boost
1970 W69 SRAM
170/200kt
100kt
362
MIRV
1979 W78 Minuteman-III 325kt
800
1974 W72 SPARTAN
1978 W76 Poseidon C4
181cm 54.3cm
MIRV
(3 stages, 66ft high, 73,000lb, throw-weight 1,000/1,625lb)
1980 W80 ALCM
220/250kt
270
(missile 3,000lb, 20'9", 27.3"φ)
1987 W87 MX
300/475kt
68.9
21.8(at base)
(missile 193,000lb, 71ft, 92"φ(at base) throw-weight 7,200/7,900lb)
出所:Nuclear Weapons Databook, Vol.1 より作成
1945年は広島、長崎の年です。
1952年、この辺で水爆が登場してきています。52年、53年が水爆の実験の頃です。
1957年になると、1.5kTという非常に小型の爆弾をつくって、重さも400kgを切っているものができています。
1958年になると、水爆が実用化しています。これは1.1メガトン(MT)、1.45MT、重さは約1トンです。この辺
が水爆のできた時期です。それから、同じころ「ナイキ・ハーキュリース」とか、「オネスト・ジョン」とい
う中距離ミサイルが、20kTぐらいの弾頭をつけて、これは弾頭の重量が500kgをそろそろ切っているわけで
す。そのようにして核爆弾がだんだんできてきたということです。「B43」というのは一時期の標準的な水爆
で、重量はほぼ1トンです。「パーシング」は、短距離ミサイルですけれども、これにはいろいろな距離を撃
てるものが出てきます。
1963年は、部分核実験禁止条約の年ですから、この禁止条約ができても、核を作る方はせっせと作っていたと
いうことは、今さら言うまでもないことですが、非常に明らかなことです。
「タイタン」というのは、高さ70mぐらいあるようなばかでかいもので、これには9MTという、これはアメリ
カのつくった中では最大の水爆です。実際の水爆実験ではソ連が北極海で1957年にもっと大きいものの実験を
行っていますが、武器として採用して武器庫に入れておいたものはタイタン程度のものです。その後、潜水艦
発射のミサイルができてきて、いろいろ改良がされていったわけです。
インドは60発保有、パキスタン?
表2では、START-IIIのときの核兵器の目標値が2,000発なので、一応、アメリカ、ソ連については2,000発と書
いてあります。250発というのはイギリスの実数です。旧ソ連は、全面核実験禁止まではたぶん考え方として言
えば、技術レベルでもアメリカと並んでいましたが、その後はしまい込んでいるだけで、改良は行われていま
せん。アメリカの場合は兵器の技術改良はかなり行われていて、核兵器メンテナンス・プログラムが10年間
に450億ドルを使うという大計画の一部をなしていますので、依然として改良はされているようです。
表2 核兵器と核ミサイル、効用、兵器としてのグレード(縦線の長さに比例)
イギリスは、「トライデントD5」という原子力潜水艦から撃つミサイルはアメリカから買うものですから、水
準としては同じぐらいのところまできていますが、自力開発ではありません。
フランス、中国が1996年に、CTBTの直前に駆け込み実験をしたときは、考えてみると、これは「ポセイドン
C」か、「ポラリス」の最後のころのものに相当し、多重核弾頭になっていたり、なっていなかったりで、今
のアメリカの「トライデント」とは技術的に差はあるようです。
イスラエルは、「マルクール」(フランスの核研究施設)を丸ごと持ってきて、地面の下へ施設を作り、爆弾
を作りました。これはプルトニウム爆弾ですが、それがこの時期です。
インドは、いろいろな数が言われておりますけれども、今使っているプルトニウム生産炉から考えて、60
∼70発。この間、5発実験したのでその分だけ減ったのかもしれません。パキスタンに至っては数を数えよう
もないので、20発ぐらいはあっただろうけれども、この間7発実験したことになっているので、あと何発残っ
ているのか心配だということです。北朝鮮、その他はゼロです。
1kTより小さいと探知できなくなる
今回の実験で技術的に問題になっていることの一つは、CTBTのための地震探査網というものがあって、地震波
の伝わってくる強さによって波形分析し、どの程度の核実験を実施したかを見つけることになっていて、1kT
以上なら世界の何処で実験してもかなりよく見つかるということになっておりました。ところが、今回の両国
の実験でよくわからなくなってしまったのは、インド、パキスタンのそれぞれ2度目の実験は、インドは2発
と言いますし、パキスタンも2日後に2発と言うのですけれども、どれもほとんど地震探査網にかかっていな
いのです。1kTより小さかったというのがその場合の言いわけで、1kTより規模が小さいと探知できない確率
が大きくなると言われています。CTBTを地震探査により検証するのであればCTBTの効果は、1kT以下、すな
わちサブキロトン程度で判らなくなってしまうということを実証したのか、あるいは、両国が小型化した爆弾
を実験しようとしたが、爆発しなかったのか、どちらかは分かりません。
ただ、一般的に言われているのは、データを取った経験がない新しい実験の場所では、爆発規模を正確に当て
ることはほとんど不可能で、4倍ぐらいの開きがあるそうです。しかし、実験したか、しなかった、どっちか
は判るはずで、しなかったと結果が出ているものですから、地震探査そのものに問題があるのか、あるいは実
際は爆発しなかったのか、その程度がインド、パキスタンの核兵器の技術の水準であるということなのか、そ
の辺もよくわからないということです。
国際核不拡散体制は崩壊していない
明石2番目のパネリストとして黒澤先生から、NPT、CTBTからなる現在の体制をインド・パキスタンの核実験
を踏まえてどのように評価されるか、またこれから将来の問題としてどういうオプションが存在するのかなど
についてお話しいただきます。
黒澤私は特に国際政治の側面から少しお話をさせていただきます。問題となっております国際核不拡散体制と
いうものが、果たしてそれがどういう影響を受けたのか、あるいはこの体制を今後どうすべきなのかというと
ころに話を絞っていきたいと思います。
インド、パキスタンが核実験を行ったことによって、国際核不拡散体制が崩壊したのだという議論もあります
が、私自身は必ずしもそうは思っておりません。国際核不拡散体制はどういうものから成り立っているのかと
いいますと、中心はNPTと言われる核不拡散条約です。それからCTBTにおいても、核実験を止めさせて、核の
質的な競争をとめるのがもともとの主旨だったのですが、条約の交渉の途中から、これは核不拡散のためで、
インド、パキスタン、イスラエルに核実験をさせないためという交渉の方向に若干変わりました。現在、CTBT
は、そういう意味で核不拡散体制の一つの要素になっております。
また、地域的に非核兵器地帯というのが、例えば中南米、南太
平洋、あるいはアフリカ、東南アジアにありまして、これも地
域の中で核不拡散を進める一つの要素になっていると思いま
す。
さらに、技術的にはIAEA(国際原子力機関)の保障措置で、平
和利用が軍事利用に転用されないように見張るというふうな側
面もあるわけです。核関連の物質とか、技術に関する輸出管理
の制度であるロンドン・ガイドラインとか、危険な国に技術と
か物質を輸出しないという取り決めも不拡散体制の一部になっ
ております。そのようなもの全体で核不拡散体制ができている
わけです。
今回、インド、パキスタンが実験をしたことによって、その体
制が崩壊したとは考えられないということです。インド、パキ
スタンは基本的にこの核不拡散体制に今まで入っていなかった
黒 澤 満 氏
わけです。NPTにも入っていないし、CTBTにも入っていません
大阪大学法学部卒。法学博士。
でした。非核兵器地帯もつくっていなければ、IAEAの保障措置
新潟大学教授、バージニア大学客員研究員、
も受ける義務はありませんでした。さらに、核関連の輸出管理
大阪大学法学部教授を歴任。
の制度にも参加していないということで、核不拡散体制の外側
現在は大阪大学大学院
にあり、法的にはどの国際法にも違反していないというのが実
人口問題協議会会長。
状です。
国際公共政策研究科教授。
NPT体制を支持する国際社会が、インド、パキスタンをその体制に入れるのに失敗したというのが正確な判断
ではなかろうかと思います。もちろん入れるべきであったと思いますし、NPT体制自体が完全なものにならな
かったという意味では失敗ではありますが、インド、パキスタンのほうからすれば、いかなる国際法にも違反
していないし、いかなる約束にも違反していないということです。
仮に核不拡散体制に入っている国、例えば北朝鮮とか、イラン、イラクとか、そういう国が核実験をします
と、これは体制の内部から崩壊していくということになり、今後、そのようなことが起こらないように十分な
努力をする必要があろうかと思います。
実験、配備、ミサイル、核物質−自制せよ
次の問題は、インド、パキスタンの核実験に対して国際社会がどういう対応をしたかということで、それぞれ
の実験のすぐ後に、国連の安全保障理事会の議長声明というものが出されております。また、インドの実験の
後に、たまたまバーミンガムでG8のサミットが開かれており、そこで特別声明が出されております。6月に
入り、ジュネーブの軍縮委員会で47の国が共同声明を出しています。さらに中心になりますのは6月4日のP
5、5大国の共同声明で、5大国がインド、パキスタンの核実験をどのように評価して、何を求めているかが
明らかにされております。また、6月8日に安全保障理事会決議、それを引き継ぎまして、6月10日に日本も
参加しましたG8の共同声明という形で、国際社会の対応がとられてきています。
もちろん、若干の相違はありますが、これらの国際社会の対応の中身は何なのか、それでいいのかどうか、あ
るいはもっとほかに必要なことがあるのかどうかということです。
まず、インド、パキスタンに対して自制を求めているわけです。これ以上核兵器をつくる方向に進まないよう
にとか。これには四つほどあり、一つはこれ以上核実験をするな、核実験を差し控えなさいということです。
インド、パキスタンは今のところ、これ以上は実験をしないという反応を示しております。
二つ目は、その実験によって、さらに核兵器の開発を進めることなく、核兵器の製造・配備を差し控えなさい
ということです。これは今後見てみないとわからないところがあります。
三つ目は、核兵器を搭載することのできるミサイルの実験、配備を差し控えなさいとしています。これに対し
ては、インドは停止しないという反応を示しております。
四つ目は、核分裂性物質を生産しないようにということです。
以上の四つの自制をとりあえず求めています。これ以上事態が悪化しないようにということが、大きな対応の
一つです。
核兵器国と認めない
2番目の対応としては、核不拡散体制を維持・強化しようとすることです。壊れてはいないけれども、核不拡
散体制は動揺しているわけでして、それを維持するために、ここでも四つの措置を挙げております。
一つは、核不拡散条約(NPT)に無条件で参加しなさいとしています。この無条件参加との関係で国際社会が
出しておりますシグナルは、インドとパキスタンは核実験をしたが、両国を核兵器国としては認めませんとい
うものです。核不拡散条約では、5大国だけが核兵器国であって、ほかはすべて非核兵器国であるという定義
を持っているわけです。1967年1月1日前に、核兵器あるいは核爆発装置を製造し、かつ爆発させた国という
定義があり、5大国がちょうどそれに当てはまるわけで、それ以外は全部非核兵器国です。5大国は特権的な
地位を持っているが、それをインド、パキスタンには認めないということが、何度も言われております。
インド、パキスタンがNPTに入るということは、非核兵器国として入れということでして、これは近い将来と
しては、不可能な状況ではなかろうかと思われます。しかし、日本政府としては、すぐには不可能であるとし
ても、原理原則の問題として言い続ける必要があろうかと思います。これが1番目です。
CTBTに参加せよ
2番目は、CTBTへの無条件参加です。ご存じのように、CTBTはインドが最後の段階で反対し、入っておりま
せんし、パキスタンも入っていません。けれども、CTBTには核兵器国とか、非核兵器国という区別はないわけ
でして、すべての国に対して核実験をしないようにということですから、差別性はありません。既にインド、
パキスタンは核実験を行ったわけですけれども、これに入る可能性は非常に高いのではないかと思います。昨
日、一昨日、インド、パキスタンにアメリカのタルボット国務省副長官が訪問して、CTBTに入るようにと勧め
ており、パキスタンは経済的な理由から、経済制裁の解除と引き換えにCTBTに入る可能性があるという報道も
ありますように、CTBTは一番最初に求めるべき措置ではなかろうかと思います。
3番目は、カットオフ条約の交渉に参加しろということです。兵器用の核分裂性物質生産停止の条約の交渉に
参加しろということで、インドは参加すると言っているわけですが、ジュネーブ軍縮委員会では、カットオフ
の対象すなわち禁止の範囲、あるいは期限付きの核兵器廃絶条約とセットで交渉するという根本的な問題が解
決されておりません。そういう問題がありますけれども、カットオフ条約の交渉は早期に始める必要があろう
かと思います。
4番目は、輸出管理政策を確認しろということです。インド、パキスタンは、それぞれが輸出管理を非常に厳
しくして、核物質あるいは核技術は他国には輸出していない、ということを何度も言っております。これはイ
ンド、パキスタンが言っていることでして、それは確認のしようがないわけですが、これを続けなさいという
ことが言われております。体制維持のためにこのような国際社会の対応があります。
中、印、パの関係改善が必要
近い将来においては、これらの自制の措置と体制の維持の措置が重要であろうかと思いますが、問題の根本的
な解決の方策もとられないとだめでして、若干私見を申し上げると、二つあるわけです。
一つは、地域的な対立要素を解決しないとだめです。この場合の地域的な対立には二つの側面があり、一つは
カシミールをめぐるインドとパキスタンの関係です。これがクローズアップされているわけですが、インドが
核実験した背後には中国が視野にあるわけでして、パキスタンも中国の援助を受けています。それから、中国
は核兵器国として多くの核実験を行ってきていますが、だれからも強く非難されていません。アメリカも中国
に対しては最近友好的です。それに対してインドが1回しただけで非常に非難されるというところもありま
す。中国を含めたインド、パキスタンの関係の改善が必要になろうかと思います。それが根本的な解決の1要
素です。
もう一つは、核不拡散体制は、インド、パキスタンが非難していますように、非常に差別的なものであるわけ
です。核兵器を持っている国は核兵器を持ち続けていいし、どんどん開発してもいい。持っていない国は持っ
てはだめというように、ある意味では、世界中の国を5つの国とそれ以外に分けるという非常に差別的なもの
ですから、この差別を削減していく必要があります。NPTの第6条に、核軍縮の交渉継続の義務があるわけで
すが、それが十分行われていません。核軍縮の進展がこの条約の差別性をなくすのにどうしても必要であると
考えます。
NPTは核軍縮の手段
核不拡散と核軍縮をどのように考えるか。アメリカなど5大国は、核不拡散を目的化しているわけです。これ
を究極の目的としますと、5大国は常に特権的な地位にいて、ほかの国は核を持てないで、その下の地位にい
ることになります。しかし、この条約のもともとの趣旨は、核軍縮に至るためには事態の悪化を防いで、核兵
器国を5カ国でくい止めておかないとだめだというものでした。目的と手段の関係でいいますと、核不拡散と
いうのは、あくまでも核軍縮の手段であるということで、このため多くの核兵器を持っていない国がNPTに
入ったわけです。この点をもう一度再確認する必要があろうかと思います。
特に核兵器国は核不拡散体制を強化することによって、それを目的化して、5大国に都合のいい国際秩序をつ
くろうとしているわけですが、将来的にはそれはあくまでも手段であって、目的は核軍縮なのだということを
さらにはっきりさせることによって、より平和な世界に移っていくべきではないかと考えます。
印、パの実験は核保有を明らかにしただけ
明石 3番目のパネリストとして森本先生にお願いします。特に印・パの核実験以来、南西アジアにおける政
治的なバランスがどのようになったのか。今後またどのようになっていくであろうか。また、印・パの対立の
一つの大きな原因であるカシミール紛争、この紛争を調停する可能性―私自身はかなり疑問を持っております
けれども―があるか。それから、両国の間の信頼醸成、これには中国も関連するわけですけれども、より大き
なアジア諸国における信頼醸成、軍備管理状況に関する透明性の導入とか、そういう一連の問題があると思い
ます。できれば朝鮮半島など北東アジアにおける問題、その他についても言及いただければありがたいと思い
ます。
森本 第1点は、先ほど黒澤先生がご説明になったNPT、CTBTを含む核不拡散体制という問題の中で、インド
とパキスタンをどう考えるかという点です。私は、黒澤先生よりもう少し核不拡散体制の現状について危機感
を持っており、核不拡散体制、特にNPT体制やCTBT体制が壊れているとは思いませんが、極めて重大な挑戦を
受けていると考えています。特にNPT体制、CTBT体制の中で、インドとパキスタンをどう扱うかという問題は
大変重要な問題だろうと思います。ただ、NPT体制について言えば、この2カ国が核を放棄して非核兵器国と
してNPTに入ってくることは極めて困難であるということについて黒澤先生と同じ意見です。
今回の5月11日に始まったインドの実験について、今井大使が前述
されたとおり、両国が核兵器の能力をかねてより持っているという
ことは、ある種公然の事実であり、今回の実験で急に核能力を持つ
に至ったわけではありません。単にこの2カ国が核実験を行うこと
によって、白日のもとに核能力を持っていることを明らかにしたと
いうだけであって、今に始まったことではないわけです。
森 本 敏 氏
防衛大学校卒。防衛庁、外務省、
在米日本大使館一等書記官を歴任。
現在、野村総合研究所主任研究員、
慶應義塾大学非常勤講師、
中央大学客員教授。
しかるに、今回のように核実験を実施するという決定をした背景に
は、かなり内政的な要因がかなり強く、それが正しいかどうかは別
として、インドの核実験の決定もごく数人によって内々に決定さ
れ、外務大臣でさえ2、3時間前に知らされたという状況であり、
いわば突然に、主として内政上の要因から今回の決定が行われたの
だろうと思います。もちろん、その後、インドの説明は決してそう
いうことではなく、かねてより持っている核不拡散体制に対する不
満、あるいは中国からの核の脅威が核実験を行ったことの背景理由
として言及されていますけれども、いわばそれは実験をやった後の
言い訳でして、大宗は国内政治的な要因だったと思います。
インドのもくろみは裏目に
両国が核実験を実施した後、両国の国内ではナショナリスティック
な賛成論が吹き荒れていましたが、しかし、インドが持っていたもくろみ、すなわちNPT体制への不満とか、
あるいは中国の核に対する抑止という目的が、決して今回の実験によって達せられたということではありませ
ん。
したがって、インドがこのような核実験をして、次いでパキスタンも核実験に引き込んだことは、結果として
当初もくろんでいたものが裏目に出ているということです。他方、その後に、インド国内にはかなりさめた議
論があり、インドは実験に踏み切るべきではなかったとの意見が国内に少しずつ広がってきたのは、賢明なこ
とだと思いますし、インドという国の中で民主主義が、何であれ確実に進展しているよい兆候なのではないか
と思います。
核開発のデメリットを認識させることが必要
両国が核開発能力を放棄する可能性が全くゼロなのかということを考えてみると、国際社会の中で核兵器の能
力を持っている、あるいはその計画を持っている、現に核兵器を持ったがその後自らの手で核を放棄したとい
う国がいくつかあって、それは三つのカテゴリーに分かれます。
持つに至ってこれを放棄した国の中で特筆すべきなのは、南アフリカです。もちろん、ウクライナとか、ベラ
ルーシとか、カザフスタンのように、ソ連が崩壊したためにたまたま国内に核兵器が残ったため、持つに至っ
て、そして放棄したという国はありますけれども、それは自らの手で開発して生産したわけではないわけで
す。南アは冷戦時代に隣国アンゴラにソ連とキューバの軍事的な配備と支援があって、ソ連が戦術核を持ち込
むかもしれないということに懸念を持ち、1970年代に自らの手で開発しました。そして、冷戦が終わってナミ
ビアが独立した後、ソ連とキューバ兵がアンゴラから撤退し、核の脅威がなくなったので、自らの判断によっ
て核兵器を廃棄して、NPTに入りました。
その一連のプロセスを考えてみますと、インドが核兵器を開発したことによって得るメリットよりも、むしろ
そのことによって被ったマイナスが大きいと彼らに思わせるアプローチが大切です。それから黒澤先生が述べ
られたように、安全保障上としては、中国の脅威、あるいは中国とパキスタンの連携を、インドから見て緩和
させることによって、インドが核開発を引き続き進める理由を少しずつ減らし、非核国としてNPTに迎え入れ
ることができるのではないかと思うわけです。それがまず第1です。
印、パがCTBTに入ることが核軍縮の前進か
一言付け加えれば、CTBTにインド、パキスタンの両国が入るかもしれないと言われますが、それにはインドが
これ以上核実験をしなくても、十分にこれから核開発が引き続き進められる技術レベルを得るに至ったと考え
るのが正しいのかどうかを判断する必要があります。つまり、未臨界実験をする能力、コンピュータ・シミュ
レーションによって核開発ができるような能力を持ってしまったのでCTBTに加盟するのか、あるいはそうでは
なくて、これ以上核実験を進めることが国際社会の中で許されないから、ここで犠牲を払ってでも入るという
ことなのか、と言うことを考えてみると、インドが今回の実験を通じて未臨界実験に必要な技術データと能力
を持つことができたかということが、一つの大きなカギだろうと思います。もちろんパキスタンがそこまで
至っているとはとても思えないのですが、いずれにしてもインドとパキスタンがCTBTに入ることは核軍縮に向
けての一つの前進なのかもしれません。
でも、本当に前進なのか。例えば、CTBTの枠の外で実験をして、核の能力を保持したからCTBTに入ってくる
ことが、我々にとってそれほどありがたいのかなと思います。確かに核実験が拡散することを防止することは
いいことかもしれないけれども、手放しで喜べるような雰囲気に私はなれないのです。いずれにせよ、CTBTそ
のものが両国の加盟によって発効に近づくのであれば、それは望ましいことです。
5カ国核軍縮へは仏がカギ
第2点は、核兵器国の核軍縮問題です。これは言うまでもなくSTART-Ⅰが今進んでいて、START-Ⅱはロシア
の批准が待たれています。START-ⅢはロシアのSTART-Ⅱの批准後に交渉することになっていて、したがって
まだ先のことです。問題はSTART-Ⅲから先であって、START-Ⅳというものがもしあるとすれば、米ロ
がSTART-Ⅲによって2,000∼2,500発の配備弾頭数になった後の話です。現在の核の能力は、イギリスが250
∼260発、中国が400発、フランスが450発ぐらいだと仮にしますと、三つの国で合計弾数がたかだか1,000発程
度です。これが今から2007年ぐらいまでの間に1,500発ぐらいになったとすると、米ロの持っている核配備弾頭
数と大体匹敵するようになります。次の段階の核軍縮にこの3カ国をどうやって組み入れるかということが問
題です。したがって、そこまでは5カ国の核軍縮ということにはならないと思います。
イギリスでは、既に核兵器の一部を削減する旨の検討を進めているとも伝えられていますので、そう難しくな
いけれども、一番のカギはフランスだと思っています。といいますのは、フランスが核軍縮交渉に合意してく
れると、P5の中で中国だけが取り残されることになります。他の4カ国が核軍縮を進めるというイニシア
ティブをとったときに、中国だけが国際社会の中で反対することは、中国の国益にとって非常に難しい判断に
なると思います。したがって、カギはむしろフランスにあるではないでしょうか。しからば、ヨーロッパの中
で、フランスの核軍縮をどう進めるか、ここがこれからの課題だろうと思います。
南西アジア諸国内の信頼醸成を
最後に、明石議長の問題提起に示された南西アジアの問題について、一言だけ申し上げたいと思います。
結論から申し上げると、日本がカシミールの問題に何らかのイニアシチブをとることには賛成しかねます。ご
承知のとおり、カシミールというのは、インドとパキスタンが3次にわたる激しい戦争を、1940年代、60年
代、70年代と繰り返し、恐らく未来永劫に解決しないのではないかと思います。カシミール住民の6∼7割が
イスラム教徒で、そして上流社会にいた藩王がインドへの帰属を決めるという、非常に矛盾したカシミール地
域の地域紛争が、簡単に解決するとは思われないのです。これは両国で何とか解決してもらわないといけない
問題です。
そこで、この問題に何らかの問題提起をするということは、インドから見ると、日ロの領土交渉に他の国が手
を出すというのに近いわけで、インドの核実験に日本が被爆体験を基礎にいろいろな批判的発言をしたこと
は、インド国民から見てそれなりに理解されたとしても、カシミールという問題は、日本の被爆体験とは関係
ないわけです。したがってカシミール問題に、例えば東京会議などを設定して仲介の働きかけをするというこ
とは、インドにとって全く受け入れられない議論だろうと思います。
むしろ私は二つの問題提起をしたいと思います。一つは、地域紛争、カシミール問題という捉え方ではなく、
南西アジアそのもののまさに信頼醸成措置や、紛争をこれ以上広げない、深刻なものにしないために、例えば
国連によるPKOや兵力引き離しの努力を進めることです。あるいは両国の政治指導部、軍の指導部にホットラ
インを設け、偶発的な核戦争に至る危険性をできるだけ未然に防止するためのいろいろな提案をすることなど
で、これはカシミール問題とは次元の違う話です。つまり、この地域における地域的な安定を強化するための
提案はしてもいいと思いますけれども、カシミール問題そのものについて、多国間で話し合う枠組みを提案す
ることは、これは我々は慎重たるべきであると思います。
両国の問題が核戦争に至るかどうかについての議論がありますけれども、両国は決してこの紛争に核を使うこ
とはない、と繰り返し言っています。核の抑止の議論から言うと、核兵器による攻撃をしても、なお相手から
第2撃が飛んでくるという恐ろしさがある限り、核の抑止が機能するのですが、現時点で、両国は決して核の
抑止が効くような状態ではなく、通常紛争が深刻になったときに、どちらかが国家の生存をかけて核兵器を使
うという危険性がむしろ非常に高いのです。その意味において、我々はもう一つの大きな危険性、すなわち核
兵器が現実に使用される危険性に直面しているのではないかということです。これをこれからどう規制すれば
いいのか、それがこれからの大きな問題と思います。
核保有の連鎖の危険
森本 最後のパネリストとして、津島先生から今までの3人のいろいろな鋭いご指摘に基づいて、わが国とし
てはどういう対応をすべきか、また何ができるかということについて、政治家としての見地も踏まえながらご
発言をお願いしたいと思います。
津島 日本の立場からの問題点、それから今後の対応、外交上の問題について、若干申し上げたいと思いま
す。
今までお話がいろいろありましたように、今度の印・パの核実験が国際的な核不拡散体制への重大な挑戦で
あって、また脅威であるということは論をまたないわけです。この問題意識に関連して、おそらく三つの点が
指摘できるだろうと思います。1番目は、戦後の国際秩序の基本をなしている流れがありました。冷戦構造が
だんだん進む中で、187カ国が核不拡散条約(NPT)に署名をしたというこの秩序が今、問われることになるで
あろうと思います。2番目としては、日本の立場からしましても、とにかく非核原則を貫いていくわけですか
ら、わが国のような国にとっては、核不拡散体制が安全保障を維持する基本的な柱でありますから、非核原則
をとっている国に対してもゆゆしい問題になるであろうというのが問題点です。
3番目は、インド、パキスタンの2国が核兵器を保有することが、
その次の連鎖的な動き、中東諸国あるいは北朝鮮を刺激して、その
方向に進めていく危険性があるのではないかということです。ま
た、その延長線上で、関連技術が流出していくことが限りなくこの
動きの連鎖反応を助けていく恐れがあります。
以上の3点について、もうちょっと敷衍して申し上げますと、まず
第1のこれまでの国際秩序の基本にかかわることについては、冷戦
の中から米ソを中心としてNPTができ、1995年にこれが無期限延長
されて、一つの柱になってきました。それから、CTBTが一応採択を
され、さらに米ロが中心になってSTARTなどの核軍縮プロセスが進
んできたという基本的な流れができました。このような流れについ
て、今回の印・パ核実験を契機に、一体それだけでいいのだろうか
という基本問題が提起されているということを申し上げたいわけで
す。
2番目の核を保有しない国に対して安全保障上の大変な問題を惹起
しかねないということについては、特に日本の場合に唯一の被爆国
としての国民感情、国内世論に対する影響は大きいわけで、そうい
う意味では、政治的にも日本独自の真剣な対応が必要であるという
ことをご指摘しなければならないと思います。
3番目のこのような核開発の動きがどんどん広がっていくという危
険性についてですが、昔のように大国間の安全保障上の問題として
主として扱われていた冷戦時代から、地域紛争のための核武装とい
津島雄二氏
東京大学法学部卒。大蔵省、
在フランス大使館一等書記官、
経済協力開発機構(OECD)
日本政府代表部員などを歴任。
1976年から衆議院議員、
青森県選出当選8回。
自由民主党。
(社)原子燃料政策研究会副会長。
う問題になってきます。ひいては特定グループによる核兵器使用の危険にまでいきかねない問題点を示唆して
いるわけです。その点については、かなり真剣で、また綿密な検討が必要になると思うわけです。
こういう問題点に対して、わが国の対応については、今度のインド、パキスタンの実験に対して、アメリカや
他の国よりも先がけて厳しい措置を決定したわけです。その内容については特に申し上げる必要はないと思い
ますが、アメリカもこれに続いてグレン修正法に基づいて厳しい措置をとりました。しかし、他の国はという
と、ドイツは210億円の新規援助を凍結したことはあっても、必ずしも具体的措置を明確にとったとは言えない
ような感じがするわけです。
日本は核のない世界に向けての姿勢の堅持を
こういう周辺事情を念頭に置いて、今後の日本として留意すべき点としては、恐らく二つのことが大切でしょ
う。
第1は、今回の個々の出来事に対する対応にとどまらず、これからある程度の期間にわたって一貫して粘り強
い対応が必要です。したがって、核のない世界に向けての我々の粘り強い努力を背景として、容易に妥協的な
態度はとってはならないということです。もちろん、パキスタンが経済制裁に非常に強い影響を受けて、デ
フォルトの心配も出てくるというようなこと、あるいは思い余って第三国にミサイル技術を放出するというよ
うな心配もあります。そういう問題については、緊急非難的な対応が必要であろうと思いますけれども、基本
的には核のない世界へ向けての日本の姿勢を堅持していくべきです。
第2に、今度のことが今の核不拡散体制の中で、前から言われていた「不平等」などのいろいろな議論を誘発
する可能性はもちろんあります。しかし、であるからといって差別的であるからという次元でこれを扱っては
なりません。第1点で指摘しましたように、日本は、核のない世界を目指すという流れを堅持すべきで、技術
的に条約が差別的であるとの議論で、インド、パキスタンに対する我々の批判を緩めるようなことがあっては
ならないと思います。
日本が「緊急行動会議」設置へ
こういう考え方に基づいて、わが国はこれまでいろいろな外交努力をしてきました。その内容を簡単に申し上
げますと、G8のサミットで総理大臣(橋本氏)が、インド、パキスタンを非難する内容のコミュニケを取り
まとめるために努力をされました。また、国連安保理事会における決議1,172号の共同提案国としてその採択を
努力しました。あるいは、G8の外相会議において、G8のタスクフォースの設立を提唱し、これを受け入れ
させました。その後、その第1回の会合には15カ国が参集して7月にロンドンで行われたことはご承知のとお
りです。
また、総理の提唱により、世界各国の有識者による「緊急行動会議」が設けられることとなり、年間に4回開
催し、そこから核不拡散、核軍縮に向けた具体的な提案を得ることとなっております。それから、今秋の国連
総会において、核軍縮、核不拡散についての具体的な道筋をつける決議案を提出する予定です。わが国のこう
いうイニシアティブが各国から歓迎され、評価されてきたことはご承知のとおりです。
また、外務大臣からは、非核兵器国約60カ国に対して核不拡散に対する結束を呼びかける書簡を出しているわ
けです。
このように、G8の中でもわが国は、特にこの問題について重大な関心を示し、行動したように、これからも
ひたすら核兵器の廃止に向けて一歩一歩地道な努力をしていくことをすべきであろうと思います。そして、並
行して、核保有の効果が相対的に少なくなっていく環境をつくることも必要です。核を保有することは、軍事
的なメリットがあるにしても、経済的なデメリットを含めて決して望ましいことではないという状況をだんだ
んと作っていくことが、私どもにとって大切だし、日本としても国際社会に貢献できる一つの道ではないかと
思っているわけです。
[パネル討論]
カシミール問題は国連が担当してはどうか
明石 4人の方々から非常に示唆に富むご指摘がなされましたが、さらに具体的に詳細にわたってお聞きした
いと思われる諸点について、私のほうから幾つか質問させていただきます。まず今井先生のご指摘になった諸
点のうち、核実験の包括的禁止条約関連で、CTBTに入っていても未臨界の核実験ができるという、いわばエス
ケープクローズが現実にあるわけで、インドとパキスタンがよしんばCTBTに加入することになっても、そのよ
うなことが可能なわけですから、この未臨界核実験の存在をどうするかという質問です。これには、核を持た
ない、またCTBTに参加しているほかの国にとっても関心のあるところであろうと思いますが、今井先生からご
説明願えれば幸いです。
それから、CTBTはご承知のとおり、44カ国が批准しないと発効しないわけです。この点についてはどうすれば
よいのか、44カ国批准まで待っているというのも、はなはだのんきなことにも思われますので、CTBTの弱点と
して指摘される点についてのお考えもお伺いできればと思います。
黒澤先生から、まさに核不拡散だけではだめなのであって、多くの国が、ある意味で核不拡散を核軍縮の一つ
の手段と考えてNPTに参加したというご指摘は、まさにそのとおりだと思います。それでは不拡散から核軍縮
へどのように進むのか。しかも、CTBTへの印・パの無条件参加が可能になったとしても、両国が核を保有しな
い国としてNPTに参加することについては、黒澤先生はかなりペシミスティックな見解を述べられたわけです
けれども、NPT体制、特に第6条の問題をどのように考えておられるかお伺いできればと思います。
それから、G8はカットオフ条約への印・パの参加を呼びかけておりますが、カットオフの対象になるものが
新しい兵器用核物質のカットオフなのか、それとも現存の核物質も含むのか、それを含むとすれば、アメリカ
などからの反対があり得るのではないかという問題もあると思います。また、カットオフ条約の交渉を呼びか
けても、その成果については決して楽観できないという問題もあると思います。
森本先生からは、戦略的な観点からの指摘がいろいろありました。
印・パは核実験を行ったわけですが、核実験を行った後の問題とし
て、G8を含めてこれを兵器としての配備しないようにという強い
呼びかけがあるわけです。ウエポナイゼーション(武器化)がどの
程度進捗しているかについて森本先生からも指摘がありましたが、
確かに印・パの保有する極めて原始的な核は、アメリカやロシアの
持っている第2撃能力を備えた核とは次元の違うもので、偶発戦争
の危険性を秘めているというご意見に全く同感です。それに関連し
て、その兵器化をどの程度食いとめられるだろうかということを、
ミサイルの問題も含めてお話しください。
また、森本先生の、カシミール問題の解決に、日本があまり積極的
にイニシアティブをとっても大した効果はないというご指摘は、
私、全く賛成です。私も森本先生と一緒に参議院の外交・防衛委員
会に出たときに、下手に手を出すとやけどをするということを申し
ましたけれども、カシミールの問題は1948年以来、国連も既に5、
6人の調停官が手がけておりますが、全部失敗しています。ご承知
のとおり、インドはカシミールが自国の一部になった、主権の問題だから手を触れてはいけないというわけで
す。他方、パキスタンは、民族自決の原則を適用すべきだ、そうすれば、住民の多数はモスリムですから、パ
キスタンに都合のいい結論になるであろうという期待があるわけです。
しかし、こういう難しい問題でありますけれども、日本が単独で手を出すのではなくて、G8ないしは国連が
この問題を担当する。例えば、イギリスとアイルランドの間に数ヵ月前に合意された北アイルランド方式がど
うかと思います。つまり、イギリスの主権は尊重しつつも、実質的にアイルランド系カソリックの利益を十分
に勘案した、名をイギリスに持たせて実をアイルランド系が取ったという味のある解決策、このような方法が
ありはしないかという感じも持つわけです。それについてのコメントもいただければありがたいと思います。
軍縮は周辺の信頼醸成から
それから、津島先生のご指摘の日本の役割は、まさにそのとおりだと思いますし、日本としても日本の国是、
また安全保障の問題が正にかかってくる問題ですし、独自の真剣な対応が必要でしょう。また、津島先生は、
粘り強い対応の必要性を繰り返されましたが、これについても単発的に効果のある方策はないと思います。そ
ういう意味で、極めて現実的な、段階的な対応が必要であろうと思います。しかし、わが国の国民性からいっ
て、粘り強い対応が果たして期待できるのかどうか、私はちょっと心もとない感じがします。手を代え品を代
え、いろいろな手を打っていく必要があると思います。
私は、軍縮の問題というのは、しばしば急がば回れであって、軍縮の問題そのものの解決を試みるよりは、周
辺的な信頼情勢とか、安全性を高めるとか、そういう一連のことが行われないとだめだと思っています。そう
いう観点から何ができるかといいますと、私はパキスタンの場合は、狭い意味での安全保障が核実験の大きな
動機であったと思います。また、インドの場合はより複雑で、より根が深いと思います。
森本さんのご指摘のように、インドの場合、国内的な要因が非常に多かったとは思いますけれども、対中国の
観点、それから2050年までには人口が15億を超え、中国を追い抜くと予想されている押しも押されもせぬアジ
アの大国が、国際社会においてきちんと正当に評価されていないという、国家の威信とか、フラストレーショ
ンの問題も絡まっていると思います。インドでは、BJP(インド人民党)など民族主義政党が連立政権の中核
をなしているという問題のほかに、私はある意味では一昨年の国連の安保理選挙で、日本に大敗したことも、
私は大国インドのプライドを非常に傷つけたと思います。そういう国が核保有国にならなくても、コンペン
セーションを得る道を国際的に考えるべきではないでしょうか。
したがって、核実験のほとぼりも冷めて、インドではむしろ核実験にもろ手を挙げて賛成する意見が、ややさ
めた意見に変わってきているということは、まさに森本先生のご指摘のとおりです。我々もちょっと頭を冷ま
した次元で、こういう国が核実験をしたが、わが国とかドイツと同じように、安保理の常任理事国にした方
が、非軍事的な、より危険の少ないステータス、より建設的な国際的な役割を果たさせるという意味では、検
討に値するのではないかと思います。
核爆発の定義がない
今井 明石さんからご質問の未臨界核実験の問題についてですが、NPTのとき以来、「核爆発あるいは核兵器
とは何か」という定義がなされていないのが非常に厄介な問題としてあります。実はNPTのときには、何とか
して定義をしようとする努力はなされたのですが、細かく定義をしていくと、平和利用のいろいろな実験装置
がひっかかってしまうので、結局できませんでした。したがって、NPTは、「核爆発についての定義がない」
ものを否定している妙な条約になったわけです。そういういきさつがあるのもですから、CTBTにしても何にし
ても、核爆発の定義を改めて発明するわけにいかず、条項にありません。
そこで問題となることについては、三つぐらいの段階があります。一つは核実験そのものですが、サブキロト
ン、つまりキロトンのレンジよりだいぶ低くて、地震探知にかからないものが問題です。要するに、「見つか
らないものは無かったのと同じだ」という議論をする国は結構ありまして、今回のインド、パキスタンのそれ
ぞれ第2回目の核実験の中に、そのような規模の核実験が入っていたかどうかが一つの問題です。
第2の点は、サブクリティカルな、要するに連鎖反応は起こさないけれども、内圧式という爆発をして、ウラ
ンあるいはプルトニウムの形状の変化を物理的に調べたいというものです。これはアメリカが非常に望んでい
て、そのためにいろいろな予算をつけているくらいです。要するに、核爆発でないけれども、核実験であるこ
とは確かで、その辺のところの境目は、アメリカをはじめとして核兵器国が「あれは核爆発ではない」という
ことに決めてしまっています。しかし、これも探知ができないことは事実なものですから、概念としての議論
になって、問題が残ってしまうと思います。
CTBTそのものについても、これも言うなれば何を禁止したのかが定義できていないわけです。したがって、同
じようなあいまいさの問題は残ると思いますし、議論の種として残ると思います。
同じようなことは、実を言うとアメリカが実施しているX線レーザーによる核融合を、実験室内で実現すると
いう実験―非常に巨大な装置―があります。これは明らかに爆発的な核融合であることは確かで、どうしてあ
れが条約から除外できるのか、これも定義がないために、うやむやになっているところだと思います。
インドの核実験は駆け込み?
もう一つ、別な問題として、インドが何でこの時期に核実験をしたかというのは、確かに国内的な政治的圧力
が非常に高かったことは事実のようです。同時にインドの核実験というのは技術的な解明が非常に難しい。あ
あいう地下実験のようなものを単に地震探査だけから読んで、何が行われたかを類推することは、過去2,000回
以上の核実験のうち、半分以上を実施したアメリカなら、あるいはできるのかもしれませんが、そのほかの国
にとっては、このくらい遠い、微弱な信号から、装置が何であったかということを類推するのは非常に難しい
と思います。
しかしながらインドの実施したことは、43キロトンの熱核爆弾の恐らくプライマリーだと考えられる小さな核
爆発と、それから14キロトンと言っているのは普段使いの爆弾だったと思います。その後、2回実験したと
言って、実際は1発しか実験しなかったもう一つを組み合わせて、彼らは未臨界実験と数学的なシミュレー
ションによって、今後とも必要なことはできる―何が必要なことなのかというのはわからないんですけれど
も―という自信を得たという種類の表現をとっております。
したがいまして、1996年のCTBTの時にフランスと中国が駆け込み実験をして、それがそれぞれどのような爆
弾だったかは大体みんな見当がついていて、フランスの場合も中国の場合も、恐らく海中発射のミサイルの弾
頭の実験だったということになっています。インドの核兵器開発がどの辺のところをねらっているかですが、
インドがアメリカのような核兵器を持てないことは明らかです。インド自身は、核兵器を抑止力とする相手が
中国だけでいいわけですから、潜水艦ミサイルによる核兵器のような抑止力は必要がないことになります。つ
まり、規模といいスケールといい、中国とインドの間では、アメリカとソ連の間であったような大きな抑止力
の均衡は考えなくていいわけです。そうすると、インドも実は駆け込みの実験をしたのであって、この
後、CTBTに入るということは一つの戦略として十分考えられることです。
「インドは大国」との認識が欲しいのか
その際に、インドのことですから、当然、猛烈な交渉―インドと交渉するのは必ずしも愉快なことではないの
です−が行われるだろうというので、その交渉とは何だろうかという話が、先般、アメリカ人たちと話をして
いたときにも出てきました。やはりインドは「核を持っている大国である」という認識がほしいのではないか
ということでした。NPTのもとでは、条約の変更をしなければならないので、これはできないのですが、何か
の形でインドが核を持っている大国であるということの認識が世間的に受け入れられるということさえあれ
ば、インドはこれ以上核兵器をたくさんつくる―兵器を作り続けるかもしれませんけれども−より強大にする
必要はないのであって、それよりも今までNPTの関連で村八分状態にあったのが、CTBTに入ってしまえば彼ら
の目から見ればNPTを実質的に無力化したことになるわけで、それが一つの政治的なねらいではないかという
ものです。
そうだとすると、パキスタンの実験はむしろインドが行ったので、しょうがないからパキスタンも実験したと
いう感じが多少あるわけです。インドがCTBTへ入れば、パキスタンは何と引き換えに入るかというのは難しい
ところでしょうが、自分だけ入らないで村八分の最後の一人になるわけにもいきませんということでしょう。
したがって、大国であるとの認識のために、インドを国連・安保理の常任理事国にするということは、褒めて
やったことになってしまって、どうもよくないだろうというのが一つです。そのようなことになると、日本が
常任理事国に推薦されるときにも、それでは日本も核武装しなければいけないかという種類の議論が周囲から
出てくるでしょうし、パキスタンの扱いをどうしたらいいのかもわからなくなってしまいます。そこで、どう
いう形でインドにCTBTに入らせる取引をするかが、今後の大きな問題だろうと思われます。それができれば、
先ほど言及された44カ国全部の批准を待たなくても、インドが入ればあとは雪崩現象みたいなことが考えられ
ますので、CTBTが成立するためにも、それは十分考慮に値することではないかという感じです。
インドが水爆を持ったかどうかは判らない
森本 今井大使に二つご質問したいのですが、一つは、最後に言わ
れたインドがNPTに核兵器国として入るということは認められない
というその議論はよくわかります。しかし、現実にインドがすべて
の核開発計画を廃棄して、ただちに非核兵器国としてNPTに入るこ
ともなかなか難しいわけです。そのような状況の中で、例えばイン
ドが何らかの体面を保つ方法として、現在のNPT体制の中で、非核
兵器国はIAEAのフルスコープの保障措置を受け入れないといけない
ということになっていますが、これを一部除外するといったよう
な、インドがメンツを保つ条件を受け入れられるかということと、
それによってIAEA体制の中に重大な問題が起こり得るのかどうか、
それが第1の質問です。
もう一つは、一般に言われていることとして、インドが今回の実験
を通じて、核融合爆弾(水爆)を保有するに至ったことが今回の実
験で判明したというのは本当なのでしょうか。パキスタンは持って
いないけれども。その二つを教えてください。
今井 簡単にお返事します。最初に言われたNPTとCTBTの間へうまく入り込んで、インドの体面を保つ方策が
あるかどうかということですが、IAEAのフルスコープ保障措置のレベルを落とすことは、IAEA自身の本質にか
かわることになるので、非常に難しいのではないかと思います。むしろNPTに入らないわけですから、フルス
コープの保障措置を受ける必要がないわけで、そこのところをうまくプレーアップすることができれば、それ
が一つの方式でしょう。
核融合爆弾についてはわかりません。インド側の発表では、実際には70∼80kTのものができたが、近所の村に
被害を及ぼすことを恐れて、43kTにとどめたという説明があって、それに対してアメリカのどこかの地震研究
所では、20kT台だっただろうという話をしています。中性子爆弾というものもあるくらいで、核融合を主体と
する爆弾は、理屈から言えば小さいものでもあり得るわけですけれども、それはほとんど無意味なのであっ
て、要するに大きくする手段だからこそ核融合爆弾であるわけです。
もう一つは、先ほどの問題にかかわるのですが、プレステージの問題として、ゴルフのセットと同じでフル
セット持っていないと格好がつかないような感じが多少あるのではないかと思います。今度の実験からだけで
は、だれもあれが確かに熱核爆弾で、しかもインド自身が言っているプライマリーとしてプルトニウム原爆で
起爆をさせて、それから出るX線レーザーで核融合させる方式だという説明を、世界のいろいろな人たちは必
ずしも納得しているわけではないようです。
常任理事国としてのインドの可能性は
明石 先ほど今井先生から、インドを安保理の常任理事国にするのは褒美を与えるようなものではないかとい
う話がありましたけれども、私はインドに対していろいろな制裁措置をきちんと厳しくとるのはそれはそれと
して行うべきです。その問題とは別に、やや中長期的な観点から、安保理の改組をし常任理事国の数を一定限
度内で増やす場合に、例えばわが国とドイツは、当然、非核保有国として入ることになるでしょうし、そのほ
かにもブラジルなども同じようなことになるでしょう。そういう意味では、むしろ核を持たない大国が褒美を
得るということから常任理事国になるということでしょう。インドは例外的に、人口からいっても、国土の広
さからいっても、国際的な影響からいっても、ずば抜けて大きな国ですから、そういう点からの評価はあり得
るのではないかということが一つあります。
どの国を新しく常任理事国に加えるかということは大きな問題で、大体、線引きが非常に難しいものです。ド
イツを新しくヨーロッパから常任理事国に入れるということでは、南のイタリアが、自分たちは国連分担金が
イギリスやフランスとそんなに違わないし、アフリカ、その他途上国への貢献も大きいということを言ってゴ
ネているわけです。ブラジルが入ると、お隣のアルゼンチンやメキシコがおもしろくない。また、アフリカか
らはどの国を入れるのか、南アフリカか、ナイジェリアか、エジプトかという問題が起きて、線引きの問題が
介在していますから、問題の解決は決して容易ではありません。現在の五つの常任理事国に、だれが見てもほ
ぼ匹敵すると思われる国、そういう尺度を適用すれば、インドは候補国として再浮上の可能性があると思いま
す。
しかしながら、アメとムチをどのようにうまく使って、核保有国の数がこれ以上増えない、できれば減らして
いく努力を続けるかが、我々の大きなチャレンジであろうかと思います。
核兵器国は核軍縮の「結果を生み出す義務」がある
黒澤 先ほど明石議長から質問されました、核不拡散から核軍縮へどのように進展させるかということです
が、CTBTに関しましては、先ほど今井大使が言われましたように、インド、パキスタンを何らかの手段あるい
は取引によってCTBTに入れるのは可能ではないかと思います。このために国際社会は努力すべきだし、アメと
ムチをうまく使って、核実験したことが他の国に誤ったシグナルを与えないように、すなわち一方的に得にな
ることはないという方法でCTBTに入れることが必要です。
インドがNPTに非核兵器国として参加する事については、私は悲観的だというお話をしましたが、今でもそう
思っております。森本先生のシナリオではあり得ることかもしれませんが、私には当分難しいのではないかと
思います。
NPTの第6条をどのように考えていくべきか、そして今後核軍縮をどのように進めるかについては、カットオ
フ条約のご質問も出ており、それとの関係でお話しします。NPTの第6条には「すべての国」と書いてあり、
「核兵器国」とは書いてありませんが、核軍備競争の停止、あるいは核軍備の縮小について誠実に交渉を継続
するということで、従来、これは「交渉継続の義務」として、必ずしも「結果を生み出す義務」とは考えられ
ていなかったわけです。
それが1996年7月の国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見で解釈が変わり、ICJの14人の判事の全会一致の勧告
的意見の「F」の項目で、これは「誠実に交渉を行うだけでなく、その交渉を結論に導く義務」なのだという
新しい解釈が示されました。ICJの勧告的意見でありますから、法的拘束力のある判決ではないわけですが、国
際司法裁判所の14人の判事が全会一致でこういう考え方を出したというのは、一つの方向を示しているのでは
ないかと思います。
核軍縮は段階的に期限を切って進める
そういう意味で、特に冷戦が終わり、どうしていくか。核軍縮を進める場合に二つの大きな考え方がありま
す。一つはインドなどが主張しています、核兵器国は放っておくといつまでも核軍縮を進めないから、タイム
・スケジュールをきちんと決めて、そのプログラムに従って核軍縮をする。タイム・フレーム・ワークを例え
ば何十年という形で決めて、それまでに核兵器を廃絶しようというアプローチがあります。
もう一つは、今、可能なところから一つずつ進めるというもので、現実に行われている、ある意味では段階的
と言われるアプローチです。しかし、これはある意味では核兵器国任せという形になっています。
それらの中間的なところが考えられないかということで、その第1段階として3年なり5年と決めて、その3
年か5年の間にこれだけの措置をしてくださいという合意を得る方法です。その先は、また次の措置として決
めていくというように、最後までを最初に決めてしまうのではなく、とりあえず第1段階に重要なもの、そし
てまた可能なものを、3年、5年と期限を切って進めることです。これは、1995年のNPTの再検討・延長会議
で、96年の末までにCTBTを完成するようにということが合意されたことがあり、そのようなことからすると必
ずしも不可能ではないと思います。
ロシアは早くSTART-IIの批准を
そこで、今、具体的にどのような措置が可能で、早期になされるべきかということで、六つほど考えています
のは、一つは、最近、米・中でなされたディ・ターゲッティング(照準外し)、あるいはディ・アラーティン
グ(警戒体制解除)で、弾頭とミサイルを別々に置くものです。これはまたすぐ元に戻せるようで、それほど
重要でないという意見もありますが、信頼醸成という側面からは重要であろうと思います。このことに関連し
て、中国とアメリカがお互いの戦略兵器をディ・ターゲットしたのであれば、日本に向けている核兵器もディ
・ターゲットしくれないかとの主張も、日本からできるのではないかというのが第1点です。
第2点は、核兵器を使わないようにしようということです。一つは核兵器を持っていない国に対して使わない
という消極的安全保障(NSA:ネガティブ・セキュリティー・アシュアランス)と、核兵器国の間で先制使
用をしないということで、これらの議論を進めるべきではないかと考えます。
3点目は、START-IIの批准問題で、ロシアでの批准がないとSTART-IIIの交渉が始まらないわけです。9月に
クリントン大統領がロシアを訪問しますが、今まではロシアがSTART-Ⅱを批准しないと大統領は訪問しない
と言っていましたが、訪問することとなったわけですから、批准問題の進展も若干見込まれるのではないかと
思います。しかし、START-IIIの交渉は、START-IIの批准を待たなくて始まるかもしれませんし、始めるべき
であると私は考えております。
第1段階として3∼5年の間に六つの具体的措置を
4番目は、カット・オフの問題で、核兵器原料の将来の生産だけを禁止するのか、あるいは今ストック・パイ
ルとなっているものも含めるのかということです。これは対立がありますので、例えば2段階にして、第1段
階では将来の生産停止だけで、第2段階あるいは何年か後にはストック・パイルも入れるというような妥協的
な方向で進めるべきではないかと思います。
5番目は、非核兵器地帯をさらに設置すべきではないかということです。もちろん南アジアとか、中東地域で
も以前から言われておりますが、非常に難しいわけです。この非核地帯化については、特にまだ核兵器のない
と考えられているところで、以前にソ連の核兵器が配備されて撤去された東欧、あるいは旧ソ連のウクライナ
とか、ベラルーシなどで進めるべきです。中央アジアの5カ国の間では具体的に話が進んでいます。そして、
日本も関係します北東アジアで非核兵器地帯が可能なのかどうかも議論すべきであろうと考えます。
6番目は、今、西ヨーロッパに戦術核兵器が若干残されているわけで、名目的なものでしょうけれども、これ
を撤去する。それが先制不使用とも絡んでくるわけです。戦術核兵器は、冷戦終了後大幅に撤去されたのです
が、まだ少し残っているところがありますし、ロシアの戦術核兵器も管理が不十分ですから、その辺も国際的
に規制する必要があろうと思います。
以上のことをを第1段階として、3年か5年の間に実施するという考え方でいくのがいいのではないかと考え
ます。
明石 第1段階というのは、つまり最終的な核廃絶のタイム・リミットといいますか、デッド・ラインを設け
るのではなく、第1段階を3年ないし5年以内に達成する、達成しなくてはいけないというデッド・ラインで
すか。
黒澤 そうです。CTBTのときに、1996年の末までに条約をつくれということが95年のNPT再検討・延長会議
で決められました。あの様式で考えております。
明石 大変興味のあるご提案です。
パキスタンのミサイルは中国の技術
森本 私は一つだけ、核兵器の運搬手段、つまり核兵器そのものの武器化について話をいたします。
言うまでもなく、核兵器というのは使用する場合に三つの方法があるわけです。一つは航空機に搭載して、落
とすというやり方です。その場合には、広島型の原子爆弾でさえも相当大きなものなものですから、相当に推
力のある爆撃機、戦闘機でなければ搭載して相手の領土に行って落とすことはできません。アメリカとロシア
では非常にこの面の技術が進んでいて、爆撃機の下に小型化された核弾頭を巡航ミサイルに装備して、「スタ
ンド・オフ」といって爆撃機は相手国の防空ミサイル射程の外で巡航ミサイルを発射し、Uターンして戻って
くる。巡航ミサイルだけが相手の領地に飛んでいくという使い方をするわけです。
中国も、インドも、爆撃機について十分なものは持っていません。インドが核兵器を巡航ミサイル型に小型化
しているとは思われません。したがって、今のところ、そのような使用方法は必ずしも有効ではありません。
もう一つは潜水艦に積む方法です。これはいわゆるSSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)という原潜に搭載
をする方法です。ご承知のとおり中国には「夏型」というSSBNがありますが、これは一般に失敗作だと言われ
ています。オペレーショナル・レディネスの確率が非常に低くて、必ずしも常時、運用されているということ
ではないようです。インドは通常型の潜水艦は持っていますが、原子力潜水艦はありません。
したがって、インドでは以上の二つの方法がないので、結局は地上のミサイルで飛ばすことになります。そこ
で、まずインドは、「アグニ」という地対地の2,500kmぐらいの射程で、ペイロード(搭載重量)でいうと1
トンぐらいのミサイルがあります。これは中国の心臓部には何とか届きます。それから、「プリトビ」は、150
∼250km程度の地対地のミサイルで、パキスタンとの国境沿いに配備されていて、中国には使えませんが、パ
キスタンには有効です。この二つの種類のミサイルを現在開発し、一部が配備されています。
一方、パキスタンのミサイルは、ほとんどが中国からの技術導入で作っているわけです。ご承知のとおり、今
回のインドの核実験の3週間前に「ガウリ」というミサイルの実験をしましたけれども、これは北朝鮮の「ノ
ドン型」を改良した1,000km以上の射程を持っているミサイルです。それから、かねてより開発している「ハ
トフⅠ」というミサイルが、射程80km、「ハトフⅡ」は射程300kmぐらいのミサイルで、いずれも中国の技術
を使って、ペイロードがほぼ0.5トンぐらいの戦術ミサイルを開発しています。
パキスタンの核戦力は脆弱
さて、以上のことがどういう意味を持っているかということです。一つは、核兵器を開発しても、それをミサ
イルの弾頭に積めるように小型化しないといけません。インドもパキスタンも現在のレベルでは、まだ十分に
小型化されているとは思えないのです。小型化されますと、大変大きな威力を持つということになると思いま
す。あるいは、インドは、既に「アグニ」には積めるぐらい小型化された核兵器になっているかもしれません
が、こうした技術開発についてはなかなか分かりません。
核抑止というのは、攻撃を受けた場合に、それによって全ての核兵器が壊れてしまっては核抑止にならないわ
けです。したがってインドが、60発以上を持っているとすれば、それは分散配備して持っている必要がありま
す。つまり、そのうち幾つかが中国やパキスタンから攻撃を受けて壊れてしまっても、残りのもので第2撃の
報復ができるという状態にしないと、核の抑止は機能しないのです。
一方、そういう意味ではパキスタンの核戦力はまだ弱く、核開発の施設も少なく、弾頭数も少ないので、戦闘
機に積んだ通常ミサイルで破壊されるという可能性は常にあります。パキスタンのほうが脆弱な状態であると
いうことだと思います。
ミサイルの軍備管理交渉に中国を入れる
以上のことを前提にして一つだけ申し上げたいのは、このような運搬手段であるミサイルをどう規制するかを
考えないといけないということです。もちろん、両国が持っているミサイルの開発を規制することのみなら
ず、このミサイルが他の国に移転されることをどう規制するか、という二つの問題があります。
第1点は、非常に難しいわけで、これはある種のミサイル規制交渉、軍備管理交渉をしなければなりません。
第2点については、両国をMTCR(ミサイル関連技術輸出規制)に入れると、ある程度のことはできることに
なるわけです。
しかし、MTCRの中に入れるのはまだちょっと先の話です。恐らくCTBTに入れたり、カット・オフを審議した
りするプロセスの中で、両国をMTCRに入れるということはできましょうが、まずミサイルを規制するのにど
うしたらいいのかが先です。結局は中国を一緒に入れた形で、ミサイルの軍備管理交渉を進める必要がありま
す。そのためには、どうしても中国がまずこのミサイル軍備管理交渉に入ってくれないと、インドは自らのミ
サイルを規制しないでしょう。では中国をどうやって入れるか。ここに大きなカギがあると思います。
実は昨日の午後まで私は中国にいまして、その前の週は台湾にいたのですが、台湾の会議で私も意図的に発言
したのですが、日本が今まさに新しい政権下で、今年の8月の末までに、来年度予算の中にTMD(ミサイル地
域防衛構想)を向こう5年間、200∼300億円の経費で、日米間で技術研究計画を進めるための予算を政府は用
意をしているわけです。したがって、これはこれからの日米間で非常に大きな問題になると思いますが、中国
はこの2年間、ガイドラインや周辺事態法よりもこのTMDを非常に気にしていまして、大変大きな懸念を表明
しています。中国が言っていることと思っていることはだいぶ違いまして、言っていることとしては、アジア
の軍拡競争をエンカレッジするとか、防御兵器だ、実は攻撃に使えるということを言っているのです。
しかし、本音はそういうことではなくて、中国の持っているIRBM、つまり中距離のミサイルが無力化されると
いうことへの懸念と、もう一つは台湾がもしTMDを配備し、日本も配備すると、アメリカと共に三つの国の防
衛システムができ上がってしまう。これは中国にとって相当に大きな問題だろうと思います。
ミサイルの規制が次世紀の大きなカギ
したがって、中国にとってこのTMDの問題は非常に重大な問題です。私はTMDが有効であるとは必ずしも思っ
ていませんが、将来、日本がTMDの政治決定をして、アメリカと協力して開発を進めますと、どういうことが
起こるかというと、ヨーロッパでのINF(中距離核戦力)問題のようになると思います。すなわち、かつてヨー
ロッパが1970年代末に、ソ連のSS-20(旧ソ連の地対地ミサイル)の脅威を受けて、1979年にNATOが二重決
定をして、1981年に米ソ交渉が始まりました。1983年11月にアメリカがいよいよINFを配備したときに、ソ連
がこの交渉からウォーク・アウト(退席)して、翌々年の1月に交渉に戻り、結局1987年にINFのグローバル
・ゼロが規制されました。
このヨーロッパでの10年間の経緯を見た場合に、中国が、TMDにより中国による核の脅威、IRBMのミサイル
の脅威を無力化することに、それほど大きな懸念を持っているのであれば、中国を軍備管理交渉に招き入れる
ために、TMDを利用することができると思います。日本や台湾にTMDを配備しないということの見返りに、イ
ンドとパキスタンと一緒に、中国がIRBMのミサイルの削減交渉に入るというテコをアメリカに与えることに
よって、軍備管理交渉ができれば、少なくともミサイルの規制か核の規制ができることになると言っているわ
けです。それがうまくいかなかったらTMDを淡々と、かつ整々と配備するだけでよいとうことです。
この問題をあまり議論すると、TMDの議論に入りますので、やめますが、要するに運搬手段であるミサイル、
特に中国のミサイルをどう規制できるかということが、結局はインドのミサイルとパキスタンのミサイルを規
制できるということで、これが次の世紀の大きなカギになるのではないかということです。
印・パ間の環境をよくする枠組み作りを
カシミールについては、確かに明石議長も述べられましたし、私も冒頭に申し上げたように、カシミールその
ものの紛争に他の国が多国間で手を出すことは有効でないかもしれません。しかし、国連が仲介をしてカシ
ミール紛争がこれ以上拡大しないように、とりあえずカシミールの真ん中にPKF(平和維持軍)あるいはPKO
(平和維持活動)を強化する。あるいは非武装地帯をつくるかして、兵力引き離しをし、とにかく第4次イン
ド・パキスタン紛争が起こらないようにしておきながら、両国による紛争解決の交渉をエンカレッジするとい
うやり方は可能です。その一方で、両国の首相か、両国の参謀長、あるいは軍の指揮官の間にパラレルにホッ
トラインなど、要するに偶発的に紛争が起きても、紛争がエスカレーションして、どちらかが命がけで核弾頭
を使うなどということが決してあってはならないようにするための枠組みを、地域的な形で提案することがい
いのかなと思います。
それは多国間でカシミール問題を交渉するということではなく、あくまで2国間で行うのですが、全体の環境
をよくするための枠組みを国連あるいは地域的な枠組みの中でつくっていくことは、我々が提案してもよいの
ではないかと考えています。
日本の科学技術をCTBTの検証に役立たせる
明石 津島先生が述べられた、核を持つことの政治的・軍事的な効果が少なくなるような国際環境を、我々は
つくっていかなくてはならないというご指摘は、大変適切だと思います。私は、核を持たない国が安保理の常
任理事国になるということも、そういう環境をつくることに貢献するのではないかと常に思っております。
また、ある意味でアメリカと旧ソ連が持っていた核兵器は、一種の核抑止政策に立っていました。それが冷戦
の終結とともに、核抑止の必要性は、少なくとも2超大国の間では意味がなくなってきている思います。まさ
に1990年代の新しい国際環境では、グローバルな形での緊張が解消しつつあるわけですが、その新しい国際環
境が、いろいろな地域で緊張が増えてきているという現象にもなっています。
1990年代のいろいろな紛争は、世界銀行の計算によりますと、少なくとも90年代になってから69回起きていま
す。そのうちの61回が国内紛争、内戦であるというのです。2、3日前に話題になったタジキスタンも、典型
的な例でありますけれども、そういうところでの核兵器の有効性はかなり低いものだと思うのです。そういう
ことがある中で、核を持ちたがる国をディスカレッジする可能性は増えているとも考えられるのではないかと
思いますが、その点についてもコメントをいただければと思います。
それから、今井先生のご指摘で、印・パの核実験を、国際的に存在するCTBTの検証制度がきちんと捕らえられ
なかったということに関連して、日本の科学技術が検証制度の全般的な強化に役立つのではないでしょうか。
いろいろな先進工業国の科学技術の開発は、軍事技術の開発に相当向けられているわけですが、わが国の場合
は、それを平和のため、軍縮のための技術開発として、まさに検証制度の全面的な強化のために役立てるなら
ば、これもまた日本の果たし得る一つの大きな役割ではないかと思いますが、これについても、一言お願いで
きればと思います。
日本の援助にももっとメリハリを
津島 議長が言われましたように、冷戦時代と違って、核の効用の性格が変わってきました。一方では、地域
化し、あるいは将来内戦の対立に使われるような心配があるという、扱いにくい面もないわけではないのです
が、逆に言えば、コントロールしやすい。メリット・デメリットがかなり管理できるようになってくるという
点を我々は重視しなければならないと思います。
さっき森本先生が、パキスタンについて、デメリットがメリットより大きくなるような状況が考えられると言
われたのですが、そういう意味で、日本の外交政策のあり方としても今まで以上に、例えば援助についてもも
う少しメリハリのついた方針を考える余地があるのではないかということを申し上げたいと思います。
もう一つ、国際的な探知制度ですが、これは結局は予算の話になるわけで、コマーシャル・ベースでできる話
ではありませんが、国際的な有効性とか、効用が明らかにされる中で、予算化をしていくことが必要になるだ
ろうと思います。しかし、だんだんと厳しくなる世の中、民間主導で物事を進めようとしている中で、そのよ
うな方向に私は賛成ですけれども、これを実施していくためには、それがどのような効用があるのかを国民に
分かるように説明する必要があるのではないかと思います。その点を指摘しておきます。
明石 メリハリのある援助政策ということは、現在存在するODA4原則よりもさらに一歩進めてということで
すか。
津島 ええ、一歩出て。例えば、核実験を行った直後には、その国には人道的なODA以外のものをみんな止め
てしまう。しかし、気がついてみたら何をしているのか解らないないというのではなしに、これは日本の援助
政策の中にある程度基本的に組み入れられていることがいいわけです。望ましくない事態が出てくる前から、
それが相手にも気がついていただけるような仕組みになっていればいいなという感じです。私の個人的な意見
ですが。
核兵器の軍事的、政治的価値を下げるには
明石 核を持たない国の安全保障をどうするか。それについては、積極的な安全保障と消極的な安全保障と二
つあるわけですが、非核兵器地帯の問題は既に触れられておりますが、先制不使用の問題とか、そのようなこ
とについて、特に黒澤先生と森本先生から一言ご発言下さい。
黒澤 積極的な安全保障といいますのは、核兵器で攻撃された場合に、攻撃された国に対して援助を行うとい
う、ポジティブなセキュリティー・ギャランティー、あるいはセキュリティー・アシュアランスということ
で、例えば日米安保条約のように日本が核で攻撃されたらアメリカが援助にくるというものです。それに対し
て、消極的安全保障、ネガティブ・セキュリティー・アシュアランスとは、ネガティブですから「しない」と
いうことを意味するわけで、NPTの加盟国である非核兵器国に対しては、核兵器を使用しないという約束を核
兵器国がするべきだというものです。これは一方的な宣言としての条件つきであるわけです。
ネガティブとポジティブとの両方の安全保障をどのように考えていくのがいいかということですが、同盟国の
場合と非同盟国の場合では違うわけです。一般論で言いますと、先ほどから発言されているとおり、核兵器が
持っている軍事的、政治的な価値を下げること、これが軍縮を進める上で極めて重要なことです。そういう意
味では、私は、一般論としては消極的安全保障あるいは先制不使用の方向を進めるのがいいのではないかと思
います。
「核の傘」を再考すべきか
もちろん個別に、国それぞれの状況が違うわけです。日本はどうすべきかという問題はまた別に機会をつくっ
て考える必要があるかもしれません。それにしても、日本は一応「核の傘」の下に現在もあると一般に言われ
ているわけです。冷戦が終わったところでの核の傘の評価は、今までほとんどタブーとして議論されていない
わけです。例えば、中国の核実験の非難をしたときに、「日本はアメリカの核の傘のもとにあるから、そう言
う資格はない」と言われまして、それに対してきちんと答えられないという状況です。そういう面をもう一度
議論して、核の傘が実際はどういう意味を持っているのか、実際にそのシステムが働いているのか、これから
も必要か、あるいはほかに選択肢があるのかないのか、などについて議論を始める時期ではないかと考えてお
ります。
森本 私も基本的に黒澤先生と同じですけれども、少しだけ最後のところのトーンが私と違うのは、日米同盟
に基づく拡大抑止、いわゆる核の傘によってわが国の安全保障が担保されているという、この枠組みを損なう
ことがあってはならないと思うのです。
そのために、例えば、アメリカが明示的にどこかの国に対して「核を使用しない」という約束をすることは、
結果としてわが国に対する拡大抑止の信頼性を損なうことになります。実際に我々の周囲に核兵器国があると
いうことが現にあり、その問題が解決できれば私はいいと思うのです。はっきり言ってしまうと、中国とか、
ロシアが、将来にわたって核軍縮の道を確実に歩み、やがて自国の国益を守るためだけの最後に残されたわず
かな核弾頭以外は持たない、他の国に核の脅威を与えるほどの数はないというぐらい数が減るのであれば、私
はそれはいいと思うのです。しかし、そうでない限り、わが国は依然として核の傘が必要です。
したがって、アメリカの核の抑止力が損なわれるような形、つまり先制不使用とか、あるいは北東アジアにお
ける非核地帯というのは、現実の国際政治の中では、段階的に行われないといけない。つまり、慎重でないと
いけない。その条件が満たされる時期は、結局は中国が核軍縮の交渉に真剣に入り、現実の世界の中で中国が
核弾頭削減を進めていくというプロセスが実現されるときで、その時こそもう1回考え直すべき時です。そこ
まではちょっと難しいのではないかと私は考えております。
「核弾頭を減らす」とは予備を増やすことか
今井 補足説明しておきたいのは、ご指摘がありました検証の限界という議論です。先ほども地震探知でどこ
まで見つかるかというお話がありました。これは科学技術の貢献という話ですが、実際問題として、CTBTのた
めに地震探知網がこれだけ完備したその多くの部分は、日本が貢献しているわけです。ジュネーブに「グルー
プ・オブ・サイエンティフィック・エキスパート」という組織が昔からあって、日本の地震の専門家が大変熱
心にこの問題を取り上げて、世界的なネットワークをつくるために、WMO(世界気象機関)のネットワークを
通じて実験をしたり、様々なことをした結果として、今日のようなネットワークができているわけです。
何で地震探知が気象ネットワークなのかというのは、考えてみたら、地震が気象庁に所属していたからで、気
象ネットワークを使って情報を交換することは各国ともだれも思いつかなかった。日本でそれを行っており、
地震を見つけた場合の情報を流す実験、や練習が随分すでにできていたということです。
一般論として、軍縮条約における検証の限界という問題が常にあると思います。例えば、最初に部分核実験禁
止条約ができたときに、月の裏側で核実験をしたらどうなるかという話がアメリカの議会で問題になりまし
た。これは見つからないに決まっているわけです。結局、そんなところまで行って、そんな面倒なことをする
者はいないだろうという話になって、この議論はおしまいになったのですが、地震で実際問題として探知でき
る範囲と、論理として見つけなければいけない範囲とのギャップのようなものが、まだ今後とも残っているの
ではないかと思います。その辺が一つの問題だろうということです。
もう一つ、別な話ですが、アメリカにしろロシアにしろ、核弾頭を減らすという約束はいろいろしています
が、実際に両国のインベントリーの表を見ていると、単にミサイルに載せてある核弾頭だけでなく、それ以外
に予備というのが随分あるわけです。予備があってはいけないというわけにもいかないし、予備は何%以下に
抑えろというわけにもいかないので、実際に今、両国が考えている予備というのは、たぶん全体の数に相当す
るぐらいの量を予備扱いしようとしていると思います。
そのようなことを考えてみると、最終的に核兵器を廃絶するというのは非常に難しいことです。アメリカとロ
シアがSTART条約を結んで、恐らくロシアも最後には条約を批准をするのでしょうから、削減はできるとして
も、それ以上減らそうと思っている人は、実はアメリカの中にはあまりいないようです。どうやったらそこか
ら先に進めることができるか、核兵器を2,000発まで減らすといっても、そもそも2万発も持っていたわけです
から、それを本当に分解して、その後どうするか。分解した原料をそこらへただ置いておいたら臨界で爆発し
てしまうわけです。結局は今議論になっているように、プルトニウムを取り出して軽水炉で燃やすとか、いろ
いろな話が出てきて、簡単に越えられないところがあると思います。
以前にオーストラリア政府の提案で「キャンベラ・コミッション」が設置されました。そのときに審議しよう
としたことは、核兵器を軍縮から廃絶まで持っていく手順について具体的に考えてみようということだったの
です。キャンベラ・コミッションも実はその目的が達成できないうちにおしまいになってしまいました。そこ
で私は、日本が、非核三原則の外交をたぶん貫いてきただろうと思うのですが、守ってきた国として、核兵器
の廃絶に至る具体的な手順をきちんと挙げて見せてはどうかと思います。先ほど提案の3年か5年かで1ス
テップという話のように、たぶん第1のステップではなかなかそうはならないかもしれないのですが、第2の
ステップのあたりで具体的な、というのは第2のステップのあたりでSTART-Ⅱの期限である2007年になるで
しょうから、具体的な核兵器の最終的な廃絶への手順をみんなにコミットさせるということを考えてもいいの
ではないかと思っています。
[参加者との質疑応答]
質問1−核拡散を防ぐ方法があるか
インドとパキスタンの核実験を考えると、インドが1974年に初めて核実験をしたのはNPTの発効の後の話です
し、現行の核不拡散体制がインド、パキスタンへの拡散を防げなかったのは事実だと思うわけです。いわゆる
水平の不拡散の世界で、さらなる拡散を防ぐ何らかの強化の方策があるのでしょうか。もう少し具体的に言え
ば、インドもパキスタンも核兵器やその技術をよそには出さないことを約束しているとのお話がありました
が、それをさらに第三国の立場、あるいは世界という観点から防ぐ具体的な手段があるのでしょうか。私は個
人的には非常に難しいと思っているのですが。
質問2−平和利用と核兵器を混同する人がいるが
核のない世界について津島先生から話がありましたが、日本で核のない世界と言いますと、原子力平和利用も
含むと考える人もいます。質問は、原子力の平和利用と核兵器ときちっと分けて、核軍縮に取り組むわが国の
体制は、現在、どこでどのようにされているのか。核軍縮に取り組むわが国の今の体制が十分なのかどうなの
か、その辺のご見解を聞かせていただきたい。
質問3−核不拡散をどうするか
核のない世界、あるいは核が少ない世界を実現するのに、核軍縮の道と、もう一つは核不拡散、核拡散をどう
防止するかという二つの道があります。今までのパネリストのご発言のウエートは、核軍縮のほうに置かれて
いて、核拡散防止のほうにはまだ議論の対象になっていないという感じがします。
そこで、きょうのパネリストの先生方に、後者の核拡散防止のほうに、インド、パキスタンはしょうがないと
いうわけではないのですが、これ以上核拡散を防止するのはどのようにしたらいいのかをお聞かせいただけれ
ばと思います。
明石 拡散には水平的拡散と垂直的拡散があり、水平拡散の防止はインドやパキスタンのような国を許さな
い、増やさないことで、垂直的拡散の防止はまさに核保有国による核軍縮であるわけで、両者はいろいろな意
味で関連した両面だと思います。この点については、黒澤さんと森本さんにコメントをいただければと考えて
います。
それから、核兵器のない世界を実現するためにはどうすればいいか。核の平和利用は今日のテーマではありま
せんが、ご質問にもあったとおり、核の平和利用と核兵器の問題を意図的にか混同する向きもあります。アメ
リカも日本のプルトニウム政策に関連してかなり問題視する向きもあり、今井大使からこれについてはコメン
トをいただけるかと思います。
それでは、黒澤先生、コメントをお願いします。
核実験をした国には国際的非難を
黒澤 非常に重要な問題を二人の方からご指摘いただきました。インド、パキスタンが核実験をしましたが、
今まで核不拡散体制に入っていなくて、その2国をその体制に入れるのに失敗したという話をしました。この
後重要なのは、核不拡散体制内の国々が、その体制を壊すような形で核実験をすることを防ぐことだとを申し
上げました。それには政治的な手段と技術的な手段と大きく分けて二つあると思います。
政治的な手段としては、政治的なインセンティブを持たせないとい
うことで、今、一番大切なのは、インド、パキスタンが核実験をし
たことによって、国際社会から非難されないとか、あるいは実験を
してしまった方が得だというような国際社会の対応がありますと、
それに続く国が出てくると思います。ですから、いち早く日本が制
裁したことは、私はその点からは正しいと思いますし、国際社会
が、インド、パキスタンを「NPT上の核兵器国とは認めない」と一
般的に言っていることも正しいと思うわけです。ほかの国がインド
やパキスタンに続く可能性をなくすためにも、両国に対する政治的
措置を第1に明確にしないとだめだと思います。
2番目には、政治的に核兵器を持たなくていいような状況をつくっ
ていくべきでしょう。これは地域の安全保障の問題です。今まで何
度も話が出ていますように、不拡散の問題はグローバルなところか
ら、冷戦が終わって地域的な問題になってきているわけです。例え
ばヨーロッパのOSCE(欧州安全保障協力機構)とか、そのような
安全保障の体制をそれぞれの地域でつくっていくことが必要であろ
うし、可能ならば非核兵器地帯をつくることが必要になるのではないでしょうか。森本先生とはここの意見が
違うわけですが、北東アジアに非核兵器地帯をつくったほうがいいというのは、日本と韓国、北朝鮮の3国で
非核兵器地帯をつくることによって、北朝鮮に核兵器を持たせないというメリットが日本にとってもあるとい
う政治的な方法が一方で考えられます。
他方、技術的に核兵器開発能力を持たせない、輸出管理制度を導入させる、あるいは保障措置を非常に厳しく
することも大切です。IAEAの保障措置強化・効率化策「93プラス2」で、保障措置が一層厳しくなり、イラク
のように保障措置を受けていない場所で隠れてつくっていても判ってしまう保障措置が、これから議定書の締
結によって実施されていくように、政治的なインセンティブの問題と技術的なキャパシティーの問題との両面
から対応していくべきではないかと考えております。
5大国の核軍縮に重点を置くと小悪人を見逃すことになる
森本 今回のシンポジウムを通して強調したい点は、日本の国内を見ますと、今回のインド、パキスタンの核
実験を契機に、いろいろな議論がありますが、それは2点に集約されます。一つは核不拡散体制が非常に大き
なチャレンジを受けていることで、これをどうやって立て直すかという点が一つです。もう一つは、5大国の
核軍縮をどうやって進めるかです。
ところが、日本の国内はどちらかというと後のほうに結局重点があるわけです。つまり、5大国が核軍縮を進
めないから、こうなるのだという結論です。「核を持っている5つの国はもっと核軍縮を進めるべきだ。」
「そうだ。」と、こうなるわけです。しかし、この議論はインド、パキスタンを助けてしまうわけです。イン
ド、パキスタンは、そのことに不満を持って核実験をやったと言っているわけです。
したがって、第2点目の追求はもちろん正しいのですが、あまり第2点に重点を置くと、小犯罪をした人を見
逃すことになるわけです。つまり、インド、パキスタンは悪いことをした、でも、すでに持っている5カ国が
何もしないことが悪いんだと。このように、後のほうに重点をかけた議論をすると、インド、パキスタンは
「それ見ろ。我々もそう思っていたのだ」と言って、何のことはない目の前で悪いことをした国を、むしろ論
理的に助けてしまうことになります。
私はこの二つの議論は、バランスがとれていないといけないと思います。まず第1の点、つまりインド、パキ
スタンは明らかに時代錯誤的な、国際社会を不安定にするようなことをしました。これには世界各国が対応し
ないといけない。次いで、「実は5大国も核軍縮を進めるべきだ」と、こういう議論だったらいいのです。こ
のことは、よくよく心得ていないとなりません。それが第1点です。
CTBTの発行は44カ国ではなく、5大国の批准で
2点目は、「それでは第1点の核不拡散体制を進めるためにどうしたらいいのか」ということです。今、我々
がやるべきことは、CTBTを速やかに発効することではないかと思います。つまり、今のように44カ国が批准し
ないと発効しないというのでは、いつになったらできるのかわからない。インド、パキスタンに「入れ、入
れ」と言って、大変な苦労をして2国を入れても、まだ入っていない国がいっぱいあります。もっとひどいの
は、米国、ロシア、中国などP5でさえ批准していない国があります。これでは話にならないわけです。
一番大事なことは、CTBTを改正して、P5の5カ国が批准したら、速やかに発効するようにする。そして、イ
ンド、パキスタンを入れる。この時点で核実験ができないという形にしておくことが、核不拡散体制を強固に
する、つまり、核拡散をこれ以上広めさせない一番重要なことだと思います。
このためには、CTBTを部分改正する必要があると思います。1条だけ改正すればいいのです。そもそも44カ国
という、国別に名前が書いてある国がすべて批准しないと発効しないという体制がおかしいのです。だから、
なるべく早く、ことしの末までにでもCTBTを発効させるための条約改正をもう1回やるべきです。そこに両国
を招き入れる。こうすれば、この時点から、核実験を実施したら条約上の違反になります。そうすれば、ある
程度の核拡散を防止できます。これが提言すべきというか、我々がイニシアティブをとるべき一つの大きな重
要な点なのではないかと思います。
CTBTの批准は時が来れば雪崩現象のように進む
明石 今井さん、コメントをお願いします。最後の森本さんのご提案にもコメントをいただければと思いま
す。今井さんは、44カ国批准は、インドが入ってしまえばそんなに難しくないだろう、というご意見だったと
記憶していますが。
今井 私はそう思っています。条約については雪崩現象のようなものがあって、化学兵器禁止条約を日本は国
会に出したまま批准しないで、ほっておいたら、ある日突然、オウム真理教事件が起きて、びっくりして批准
したという変な話があります。そのように何か無関係なことによって、何とはなしに遅れているけれども、み
んなが急ぎ出したらかなり進むことがあるのだと思います。
ただ、CTBTの部分的な改定の余地は大いに残しておくべきだと思います。そういう意味から言うと、1995年
のNPTの再検討のときに、NPTを無条件・無期限に延長してしまったことには、私は非常に反対だったので
す。だけども、私が反対してもどうなるものでもなくて、無条件・無期限で通ってしまいました。今になって
見ると、例えば先ほどちょっと話が出たNPT第6条の強化とかをしようと思ってもできなくなっています。
したがって、森本さんの話ではないのですが、5大国が核兵器を持っているのが悪いと言っても、NPTの第6
条が無力化されていると全く対抗手段がないことになり、悪いことをした国の言うことに対して「そうだ、そ
うだ」という話になってしまうという感じがあります。今さら、NPTの延長・再検討会議のときにそういうこ
とをさせるべきでなかったと言ってもしょうがないのですが、現在行われているプロセスの中で、NPT、CTBT
も、場合によって改定の余地があるということを、これは条約ですから、みんなが合意すれば改定はできるわ
けです。そういう合意は、一人一人頼んで歩かなくても、機が熟すると成り立つものだと思いますので、それ
は一つ大事だと思います。
原子炉級プルトニウムで核兵器を作る馬鹿はいない
もう一つ、兵器利用と平和利用の関係で、しばしば言われているのは、日本のプルトニウムの問題で、日本は
プルトニウムを持っていて申しわけないみたいな話になっている観がありますが、私は、プルトニウムは、兵
器グレードのものと原子炉グレードのものとは非常に違うと思います。兵器グレードのものと言われるアメリ
カのスペックを見ると、プルトニウム239が93.8%という非常に高いレベルで、当然、プルトニウム240が少な
い。それが爆発させるための非常に大事な条件になってきます。
一方、軽水炉で30,000MWD/Tぐらいまでウランを燃やして出てくるプルトニウムというのは、プルトニウ
ム239が60%ぐらいなのです。アメリカの話によると、この60%のプルトニウムを使って核爆発を起こさせる
ことはできるし、「できた」というのです。「できた」と言うのですから、これはサイエンスの論争ではな
く、「データを見せろ」というわけにいきませんので、そう言うならそうだろうということになります。
ただ、だんだん質問をして、それで核兵器をつくるのかどうかということになると、できればそんなプルトニ
ウムではなくて、兵器用のプルトニウム、つまり、ハンフォードやサバンナリバー、クラスノヤルスクやトム
スクで作ったような兵器用のプルトニウムを使って作る。例えば北朝鮮で作ろうとした、あのニョンビョンの
原子炉は、兵器用のプルトニウムをつくるための原子炉であって、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が
支援して作る計画である軽水炉からのプルトニウムでは爆弾は作れない。作れないことはないが、その爆弾の
信頼性が悪い。つもり、時間とともに劣化するわけです。時間とともに劣化する割合が、例えばプルトニウ
ム241のように、劣化してアメリシウムにどんどんなり、手でさわれなくなって、修理もできないことになる、
という種類の話が出てきます。
「作れば作れる」と米国が主張するから混乱する
さらに突っ込んで聞いてみると、「非常に精巧にデザインができるものならば、核兵器となる。しかし、そん
なに精巧なデザインのできる者が原子炉用のプルトニウムでわざわざ核兵器をつくっても、それはしょうがな
いのであって、核武装するつもりの国ならば兵器用のブルトニウムを使うのが当然なのだ」と思うと言うので
す。
あるイギリス人の言いぐさでは、「だれだって鉄の板で飛行機をつくることはできる。非常に強力なエンジン
をつければ飛ぶかもしれない。ただ、もっと軽い材料があるときに、そんなばかなことをするやつはいないだ
けだ」という話があります。兵器用プルトニウムと原子炉用プルトニウムの違いについて理論的な議論をする
と、「ではプルトニウム239が何%のところで核兵器の境目ができるか」のような議論になってしまって、らち
が明かないのです。ですから、軽水炉から出てきたプルトニウムで兵器を作ることは、実際問題としてあり得
ないことなのだというのが常識であるのに、しかし作れば作れるという「あとがき」のほうだけが、特にアメ
リカがそれを主張するからなのですが、世の中を回っているように思います。
その議論をここでこれ以上してもしょうがないのですが、そういう論点の中で、「プルトニウムがあるから兵
器ができるし、そのプルトニウムは平和利用の原子炉が作るプルトニウムと同じものだ」というのも間違いだ
というのが私の意見です。
明石 今井先生とアメリカの科学者との論争については、原子燃料政策研究会発行の機関誌「Plutonium」
(Summer 1998 No.22、http://www.glocomnet.or.jp/cnfc/)をごらんになればわかるとおりです。
持つデメリット、持たないメリットを明確にする制度作りを
津島 専門家でない立場から先ほどのご質問に二つだけコメントしたいのですが、核の不拡散がなかなか目的
を達するような効果を発揮していません。それは確かなのですが、私が漠然と感じていますのは、いわゆる核
軍縮の話は、たぶんにそれこそ地政学的な話であって、核の不拡散という問題とはわずかながら質が違うと思
います。
NPTの話はこれからも出てくる核不拡散の基本論で、基本的にいつでも議論のあり得る話です。その基本的な
問題を処理していく上で大事なことは、ますます持たないことのメリット、持つことのデメリットを明確にす
ることができるのではないでしょうか。これについては、今、他のパネリストからもご発言がありましたが、
それを一つの制度としてつくり上げていく努力がまだ不足をしているように思えます。
ただし、このメリット・デメリットを無視して行動するグループといいますか、そういう話はあり得ます。こ
れには別の次元から対応しなければなりませんが、NPTの話というのは、人類が核エネルギーを手にしたとこ
ろから必然的に避けて通れない問題だと思っております。
もう一つ、平和利用と核兵器の問題ですが、これは今、私が前述した話と同じで、「核のない世界」という言
葉で一切合切、原子力平和利用まで否定するというのはあり得ないことで、科学技術の知見を否定しようとし
ても否定できないわけです。日本の独特の問題というのは、すぐここを混同してしまう、原子爆弾と核の平和
利用と混同してしまうというのは、わが国の不幸な歴史からきている問題点ですけれども、いわゆる理解を得
るための活動を積み重ねていく以外はないでしょう。一世代ぐらいかかると思っております。
質問4−日本は非核三原則で信頼を勝ち得ているか
きょうは、どちらかというとインド、パキスタンの核実験問題を中心に、いろいろとお話を聞かせていただい
たのですが、少し違った切り口からご意見を伺いたいと思います。
原子力の専門家として、今井大使のご説明のような原子炉用と兵器用のプルトニウムの違いもよくわかるので
すが、一般の人から見ると、プルトニウムはみな同じプルトニウムだという見方があると思うのです。同時
に、日本とインド、パキスタンを比べた場合に、日本はインド、パキスタンよりもはるかに技術力は高い。プ
ルトニウムを所持している量もはるかに大きい。森本さんのお話にあったような核兵器のいわゆる運搬手段の
ロケットについても、はるかに高い能力を持っているというバックグラウンドがあるものですから、一般の人
から見ると、日本以外の人もそうですが、日本はそれだけのポテンシャルが非常に高いと思われています。
それに対して日本は、津島先生も述べられたように、非核三原則を堅持するということだけで、確かに何度も
繰り返し言っているのですが、どうもそれだけでは本当に信頼をかち得ているのかどうか心配するところで
す。我々はプルトニウム路線を歩む限り、常にそれに直面するのですが、そういった問題についてどうすれば
いいのかついて、先生方からご意見をお聞かせいただければと思います。
遠くの国への説得の努力が足りない
今井 外から見たときの日本が、日本人が内から見ている日本と非常に違うことは私が申し上げるまでもなく
て、みなさんがいろいろご経験になったところだと思います。私も以前に困ったことがありました。例えば軍
縮会議でどこかの国の大使に、「日本は自動車も立派だし、カラーテレビもあるし、いろいろなものが沢山あ
る。核兵器などさぞいいのがあるだろう」なんて言われて、「いや、日本にはないのです」と言っても、「そ
んなことはあるまい」と。(笑声) そのように、日本のことを特に注意して見ていない限りは、ご指摘のよう
に技術も進んでいるし、何か知らんけれどもカネも持っているようだし、何か作っているのではないか、プル
トニウムも沢山あるそうだし、という種類の話があります。これは日本の不徳のいたすところだろうと思いま
す。日本が非核三原則について、実際問題、外交面で対外的にどれだけ大きな声できちんと言っているかにつ
いては、かなり議論の余地があると思います。要するに、日本は自分が信じていることを、諸外国、特に遠く
にある国に対して説得する努力をされていないし、説得ができていないとうことだと思います。
仕方がないと言ってしまえば、それっきりなのですが、日本という国はただ非核三原則と言っているだけでは
なく、武器輸出三原則というのもあるのですが、具体的にどうして核を減らすことができるかという手順を出
して見せて、これを働きかける。あるいは、その中に日本が核兵器を持つと誤解されるかもしれない要素があ
れば、日本としてもそういう種類の具体的な説得を試みる必要があります。普通の人が普通に見ている限り
は、「やはりいつか作るのだろう」のように考えてしまうのは、どうもやむを得ないことのように思います
し、日本の置かれた立場としては、何とかそういう考え方に対して説得をすべきだと思います。
核物質管理を国際機関の手に
森本 この問題は常に悩ましくて、国際会議に出るたびに、最近はアメリカからも言われて、「こんな国が日
本の同盟国か」と思うぐらい不愉快な気持ちになるのですが、それは一言で言うと、日本のプルトニウム政
策、いわゆる原子力開発政策をどうしたらいいかということについて、明確な方法がきちっとないからです。
つまり、今井大使が述べられたように、日本は極めて高い技術的な潜在力を持っています。プルトニウムも相
当持っています。だから、国家に意図があれば、いつでも核兵器ができるとだれが考えても、それは不自然で
ないのです。
私が持っている印象は三つあります。一つは、そういう懐疑心で見られるのはむしろ結構なことだとさえ最近
は思うようになっているのです。極端に言うと、私みたいな単なる
主任研究員ぐらいがパキスタンかなどに出張して、「日本のODAの
見返りに、おたくの核実験データをこちらに渡さない?」とか言っ
て、それが新聞に1行程度パッと載ると、それでみんな震え上が
る。それぐらいでもいいんだろうと思うのです。
非核三原則という政策を仮にやめて、どこかで核兵器の道を選ぶと
しても、日本の技術者、日本の世論というのは120%そのなものに組
みしないわけです。ところが、それをいくら説明しても、外国は
「政策は1日で変わる。国民感情は一世代で変わる」という議論で
すから、話にならないわけです。
そこで、私が考えている一番重要なことは二つあります。一つは、
それほど言われるなら、日本がIAEAのもとで非常に厳しいフルス
コープ保障措置の査察を受けている核物質の管理を、国際機関に任
せてしまうというやり方です。例えば、日本が持っているプルトニ
ウムを、ある一定期間、アジアに作った国際機関に任せる。その代わり、日本だけではなく、中国も北朝鮮も
任せてみるというシステムを作るわけです。各国が国際機関の金庫にプルトニウムを預けるということです。
日本が持っているものは即座にIAEAの係官に見せて、渡し、国際管理のもとに置く。そこまで行えばいいで
しょう。
しかしそれには、地域で核物質の管理の枠組みができればということです。かなり乱暴な意見ですが、そうい
うやり方までして皆さんの疑惑がとれるのなら、私はそれはそれでいいだろうと思います。原子力発電所の燃
料のために必要になったら、伝票を書いて払い下げをしてもらうというやり方です。
米国との同盟の中で安全保障を維持
もう一つは、一体、日本の国民感情とか、政策が、どういう状態で変わるかということを考えてみるのです。
国際会議で、例えば中国が「日本はいずれ核兵器国になる」ということを必ず言うのです。彼らは「政策は変
わる。広島、長崎の原爆はいずれ風化する。日本は非核三原則と言うけれども、あれは法律でも憲法でも何で
もない。あんなものは政権が新しい政策をとればそれで終わりだ」と言いますから、私はそれほど言うのなら
と、次のようなことを言ってみるのです。
「我々が次の世代のどこかの段階で、日本が核の脅威を受けることがあった場合、我々の選択は二つしかあり
ません。一つは自ら核兵器のオプションを開くこと、もう一つは最後まで日米同盟に依存すること、この二つ
です。」 ところが、核兵器の脅威を受けたときに、自らの手を縛る、つまり自ら核兵器のオプションをとらな
い方法をとった場合、残された道は日米同盟の道しかないわけです。その日米同盟に中国は反対しているので
す。「では我々は日米安保条約を、それほどおっしゃるなら破棄して、自らの道を選ぶことでもいいのです
ね。あなた方は日本が核兵器を持つこと、日米同盟を破棄すること、どちらを選びますか」と言うと、ほとん
どだれも返事できないのです。それは答えがない問いです。
「結局、我々はアメリカとの同盟の中で日本の国家の安全保障を維持するという方法しかないでしょう。それ
がわが国の周りの国にとっても一番安全な方法なのでしょう。わが国の国民もそう考えているのです。どうし
てそれが悪いのですか。」「そのもとで、日本は核を持たないというオプションを維持しているのです。日米
同盟の信頼性がなくなって、アメリカから離縁状が送られてきて、さらに日本が周りから核の脅威を受けると
いう日になったら、日本の国民は黙っていませんよ。」そういう方法でしか、我々は論理の世界の中では彼ら
を説得できないのです。
ですから私は、日米同盟を維持することが日本も安全で、周りの国に脅威を与えない方法であるということ
を、彼らに納得させるということが第1です。それでも疑心暗鬼になるというなら、ではあなたの国でもプル
トニウムを国際管理するために出しなさい、わが国も出しましょう。国際機関の金庫に入れましょう。それで
納得するというのなら、そういう方法があるのではないですか。この二つしか解決の方法がないと思います。
平和憲法の解釈・運用にまだ議論の余地
津島 今の問題について一つ申し上げますが、非核三原則は、日本の場合には広島、長崎という固有の経験に
裏づけられているのですが、これは外国から見るとわからない話ですね。経験しておりませんから。そこに今
のようなご議論が出てきて、いくら説得しても「いや、それは変わるだろう」と言う話になってしまう。
私はこの問題の本質を突き詰めていくと、非核三原則ばかりでなく
て、やはり平和原則、平和外交の話になると思います。日本に平和
憲法がありながら、いろいろな議論が出てくる背景には、平和憲法
の解釈・運用などについて、現実的な行動原理として本当に確立さ
れているかどうかについて、まだ議論の余地が残っているためで、
「あれはあるけれども、どうなのだ」という議論が絶えずつきま
とっています。だから、そこのところを我々は時間を多少かけても
いいから、わが国の国是として現実的な行動原理として、こういう
ものだというものを築き上げていく以外にはないだろうと思いま
す。
[まとめ] 核廃絶への努力はねばり強く
明石 まさに津島先生が述べられたとおり、私も日本に対する誤解
は、単なるPRの問題ではなくて、基本的な日本の国際的スタンス
が、世界では非常にユニークな例外的なものであるということで、基本的な認識にギャップがあるのだと思い
ます。
伝統的な国際政治というのは基本的に権力政治であり、勢力のバランスに立っているのだという、古めかしい
けれども非常に根強い欧米的な考え方に立つと、日本の政策は理解できないものだと思います。また、キッシ
ンジャー的なペシミズムに立ちましても、日本の平和政策はある意味で非常にもろいものだし、永続はしない
という結論になるのでしょう。しかし、核の洗礼を浴びた国として、根本的な前提からして権力政治と核兵器
を安易に短絡的に結びつけることが、政策の短見であるという理論を、我々はより精緻なものにして、日本の
政策がより合理的なものであるし、より平和な世界をつくる上で説得力を持ち得るということを知らしめる義
務があると思います。
それから、核不拡散と核軍縮との関係については、パネリストの間で、相対的な重要性、緊急性についての意
見の相違が見られましたけれども、ともかくNPT体制はより広い見地から見なくてはいけないということで、
より狭い意味でのCTBT体制の維持強化と、NPTについて多少違う見地からいろいろご検討いただきました。
また、核廃絶に関しても、それに至る道順を、インドの言うように、きちっと包括的な形でまとめることは無
理だとしても、さしあたって目の前の短期的な形での第1段階から、より具体的な形で提示し得るのではない
かという貴重なご指摘もいただきました。
米ロの核軍縮はもとより、イギリス、フランス、中国をどういう形でそのプロセスに巻き込むのか、また、核
兵器のみならず、運搬手段の問題の重要性についてもご指摘いただきました。その根底に横たわる安全保障の
問題、また日本の果たし得る役割についても、大変貴重なご意見を承ることができました。
パネリストの皆さんは、意見が全く同じではなかったわけで、それは当然で、むしろ歓迎すべきことであると
思います。日本国民の一般的な心情的である「核のない世界」を具体化することは、現実的には至難の業です
が、ご指摘のとおり、こういう努力を時間をかけて息長く粘り強く続けることが貴重であろうと考えます。
[No.23目次へ]
Oct. 23 1998 Copyright (C) 1998 Council for Nuclear Fuel Cycle
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六ヶ所再処理工場への試験用燃料受け入れへ
日本原燃(株)と青森県、六ヶ所村の三者間で、日本原燃が建設を進めている六ヶ所村再処理工場への試験用使用
済核燃料100体の搬入に関する安全協定が、7月29日に締結されました。
この安全協定は、「輸送計画の事前連絡」、「異常時の連絡」、県、村の「立ち入り調査」、受け入れ貯蔵施
設の運転停止など「措置の要求」、「損害の賠償」、「関連事業者に関する責務」、「違反時の措置」といっ
た骨子から成り立っています。さらに、再処理事業が困難となった場合には、県、六ヶ所村、日本原燃が協議
の上、日本原燃は使用済核燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講じるものとする旨
の覚え書きも同時に締結されています。
原子燃料サイクルの確立は、わが国のエネルギー政策の根幹をなすもので、なかでも六ヶ所村の再処理事業は
その中核となるものです。日本原燃は、3カ月かけて東京電力・福島第二原子力発電所4号機(BWR)から44
体、四国電力・伊方原子力発電所1号機(PWR)から56体の使用済燃料、計100体(約32トン)の搬入を行う
計画です。
10年ぶりに原子力発電所の新規立地
青森県六ヶ所村の北に隣接する東通村に、わが国では石川県の志賀原子力発電所(北陸電力)以来10年ぶりに
原子力発電所の新規立地が実現することとなりました。これは、8月3日に、東通原子力発電所1号機の安全
性の審査を行っていた原子力安全委員が、通産大臣に対して、設置許可は妥当とする答申を行ったことで実現
することとなり、近く通産省より設置許可がおりる見込みです。
東通原子力発電所は、現在、東京電力と東北電力が110万kWを2基ずつ建設する計画で、1号機は東北電力
が1996年8月に設置申請を行い、通産省による第1次審査が1997年9月に終了、原子力安全委員による第2次
審査が行われていました。東北電力は今年12月には建設に着手したい意向で、2005年5月に運転開始を計画し
ています。
[No.23目次へ]
Oct. 18 1998 Copyright (C) 1998 Council for Nuclear Fuel Cycle
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編集後記
● 8月下旬、北朝鮮が弾道ミサイル「テポドン」を発射し、ロケットの第1段目は日本海に、第2段目、3段
目は日本の上空を経て太平洋に落下しました。北朝鮮は、人工衛星打ち上げのためであると発表しましたが、
その確認はとれていません。どちらにしても北朝鮮が、3,500km飛ぶと言われている弾道ミサイル「テポド
ン」を実用化したことには違いありません。核兵器開発疑惑と絡めて、不穏な空気を察ししないわけにはいき
ません。
5月に行われた印・パの核実験、今回の北朝鮮の不意のミサイル発射実験など、一連の動きを見ると、イデ
オロギーによる東西冷戦構造が崩壊した後で、民族意識の高まりというか、ハーバード大学のハンチントン教
授の「文明の衝突」というか、アジア地域での不協和音が大きくなりつつあるように思えます。不協和音の発
生は、他の地域でも見られることですが、冷戦終了後の新たな地域情勢の変化に対して、期せずして、国連を
中心として先進国の影響力が試されていることとなっているようです。
●
[No.23目次へ]
Oct. 18 1998 Copyright (C) 1998 Council for Nuclear Fuel Cycle
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