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地域資源を活用した特長ある牛肉生産[PDF:692KB]

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地域資源を活用した特長ある牛肉生産[PDF:692KB]
地域資源を活用した特長ある牛肉生産
東北農業研究センター
畜産飼料作領域
渡邊
彰
地域資源としての日本短角種
家畜改良センターのホームページ1)には牛の個体情報識別制度を利用した飼養頭数の情
報が掲載されています(表1)。これまでその他とされていた地方特定品種のデータも平
成 20 年度から掲載されています。これによると平成 23 年度 8 月末において黒毛和種が
1,789,317 頭で日本短角種が 9,769 頭 となっています。乳用種も含めた牛の総数が
4,222,664 頭なので、日本短角種の割合は僅か 0.23%となります。そして、その 68%が北
東北地域で飼養されているという貴重な地域資源です。北東北地域の中山間地域は急傾斜
地に加えて極寒の気象条件であり、ここで昔から飼養され現在に残る本品種は、地域に適
合した特長を有する品種と考えられます。
表1.飼養頭数(家畜改良センターHP より)
80
600
黒毛和種(n=63)
品種名
ホルスタイン種
ジャージー種
乳用種
交雑種(肉専用×乳用)
黒毛和種
褐毛和種
日本短角種
無角和種
黒毛和種×褐毛和種
和種間交雑種
肉専用種
その他
総計
頭数
1,861,496
13,638
5,832
487,947
1,789,317
23,394
9,769
198
1,231
1,071
28,612
159
4,222,664
県名
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
福島
茨城
新潟
静岡
沖縄
頭数
1891
1217
5495
275
343
72
85
82
21
4
日本短角種 (n=33)
60
400
40
300
200
20
0
500
100
水分(%)
水分(%)
脂肪(%)
脂肪(%)
蛋白(%)
蛋白質(%)
0
カロリー (kcal)
カロリー(kcal)
炭水化物g×4.11は無視
図1.日本短角種の3成分組成
いっぽう、日本における牛肉消費の歴史は浅く、その販売形態のほとんどがスライス肉
であり、料理も焼肉が主流となっています。脂肪交雑度の高い牛肉は調理によって硬くな
ることはなく、この日本の消費形態に合致したものと思われます。日本においては「柔ら
かさ=美味しさ」と評価されるため、脂肪交雑程度の高い牛肉ほど高値で取引されていま
す。残念ながら日本短角種は配合飼料を多給しても脂肪交雑(筋肉内脂肪含量)が高くな
ることは期待できません。高くても 10%前後です(図1)。しかし、「残念ながら」とい
う言葉は適当ではないと思います。それは、これまで牛肉の評価をひとつの定規でしか判
定してこなかったことが問題であり、それはあたかも「豚肉」と「鶏肉」を同じ土俵の上
で評価しているようなものではなかったかと感じています。「脂肪交雑の牛肉」と「赤肉
主体の牛肉」(写真1)は取扱い方や調理の仕方、飼養方法なども含めて異なる食肉とし
て意識する必要があることを強く感じています。レストラン(イタリア料理)のシェフに
よれば写真2のような料理は脂肪交雑の高い肉では作れないそうです。
- 42 -
写真1.
A5 ランクの黒毛和種牛肉と A2 の短角牛肉
写真2.赤肉で作ったイタリア料理
→
ブランド化
国が地域ブランド化を支援してきたこともあり、全国的にも様々なブランドで牛肉が販
売されています。短角牛肉も「いわて短角和牛」「山形村短角牛」などが商標登録されて
います。また、いわて純情プレミアム短角牛、盛岡短角牛、いわいずみ(プレミアム)短
角牛などそれぞれの産地で名称をつけて販売が行われています。これらは国産飼料 100%
給与、国産トウモロコシサイレージ主体、スローフードなどを掲げ、それぞれの基準で生
産に取り組んでいます。このような生産者の努力もあって、近年、食関連の雑誌(サライ
2006 年 6 月号2)やダンチュウ 2010 年 11 月号3))などに取り上げられ赤肉の美味しさに
興味を持つ消費者が増えたように感じます。また、2009 年の日本政策金融公庫農林水産事
業によりとりまとめられた情報戦略レポート(No.26)4)によれば、「消費者が魅力を感
じているブランド」或いは「売り上げ拡大のための潜在力を持つブランド」として短角牛
肉が上位にランクされています。食肉研究を担当している我々の所には、地域ブランドと
しての食肉の化学的特徴を明らかにしたいという相談が持ち込まれ少々困惑してしまうと
ころがあります。牛肉ではと畜後 10 日間以上の熟成期間を経るためにその間の変動が大き
く、飼養条件の多少の変更では牛肉の理化学的特性に結びつくような明瞭な関係を導き出
すのが困難な場合が多いからです。
このような状況ですが、昨年度の自給飼料利用研究会で青森県七戸畜産農業協同組合の
澤目幸男氏が有機 JAS 牛肉生産について報告されています5)。認定された牛肉は写真3の
ようにして流通出来るところまで至りました6)。東北農業研究センターではこの牛肉につ
いて特徴を明らかにする仕事を行いました7)。当初は需要に応じて出荷された部分肉を買
い取り調査することから開始しましたが、表2に示すように月齢が進んでいる割には枝肉
重量が小さいことが伺えます。また、需要と供給のバランスがとれないためにと畜月齢が
進んでしまうことが問題でした。そのため、有機牛肉を流通させるひとつのポイントとし
て子牛肉を扱ってくれるレストラン等を開拓することが重要と考えられます。子牛肉が私
たちの健康にも極めて望ましいことは表3から明かです。
表2.有機(候補)牛肉の格付け
月齢 等級
有機
有機
有機
対照(n=4)
33
37
36
24
A2
B2
A2
A2
枝重 ロース面積
BMS BCS BFS
歩留
(kg)
(cm2)
342
43
2
5
3
73.1
335
35
2
5
4
71.4
359
43
2
5
3
72.5
392-418 48-65
2
4
4-6 72.0-75.5
- 43 -
表3.有機牛肉の化学的特徴
粗飼料多給肥育 有機短角牛 有機子牛肉
水 分(%)
72.8
74.3
78.3
脂 肪(%)
4.6
2.8
0.6
蛋白質(%)
21.1
22.1
19.5
カルニチン(mg/100g)
72.5
85.5
147.6
6.9
2.8
1.9
n6/n3
写真3
流通した有機短角牛肉
国産飼料プロの紹介
日本短角種を用いたプロジェクトではありませんが、現在、国産飼料プロ(H22~H26)
において、牛肉の香りについての試験研究を推進しています。対象としているのは熊本県
を中心に飼養されている褐毛和種で、九州・沖縄農業研究センターなどの協力のもとで実
施しています。東北では周年放牧は不可能で、冬期の飼養条件がテーマとなりますが、本
プロジェクトでは周年放牧牛肉の香りの特徴を明らかにしようとするものです。詳細はこ
れからの研究によりますが、これまで、図2のクロマトグラムに認められる典型的な違い
が認められました。これは以前報告した黒毛和種牛肉と輸入牛肉(オージービーフ)の違
いに類似するものです8)。これらはクロロフィル由来の成分で牛肉の香りに影響すること
は知られています。試験場内での官能評価試験においても有意に識別できることが認めら
れましたが、好みについては差異は認められませんでした(図3)。この種の香り(パス
トラルフレーバー)は日本人には馴染みのない香りで異常と感じられることのないよう注
意する必要があると思われます。牛肉の異常臭として liver-like-flavor が問題となるこ
とがありますが、異常臭か特徴かを明確に区別して行く必要があります。
(人数)
10
8
6
4
2
0
正答
誤答
放牧
舎飼
(人数)
6
4
2
0
図2.周年放牧と慣行肥育の違い
図3.識別試験と好み
- 44 -
抗酸化
化付与の必要
要性
日本
本短角種は赤
赤身(赤肉)
)の多い牛肉
肉です。特に
に放牧した場
場合はn3 系
系高度不飽和
和脂肪
酸(PUUFA)であるα-リノレン
ン酸や EPA などの割合が
な
が高いため、脂肪交雑の高
脂
高い牛肉と比
比較し
て、日本短角種は
はより人の健
健康に望まし
しい脂肪酸組
組成をもって
ていると言え
えます。しか
かし、
PUFA は不安定で
であるため脂質酸化には特に注意を払
払う必要があ
あります。ま
また、赤身肉
肉割合
加は脂質酸化
化を速める傾
傾向がありま
ます(図4)。酸化を抑
抑制する抗酸
酸化剤として
てはビ
の増加
タミン E が有名で
です。脂溶性
性であり動物
物の脂肪組織
織や筋肉の膜
膜組織に蓄積
積され効果を
を発揮
す。生草にも含まれます
すが、草には
は高度不飽和
和脂肪酸も多
多いため、や
やはり積極的
的にビ
します
タミン E を給与す
することが重
重要と考えら
られます。
かしながら、
、脂肪交雑度
度の高い黒毛
毛和牛肉では
はビタミン E 含量に注意
意が必要と考
考えて
しか
います
す。黒毛和牛
牛では独特の
の甘い香りが
が評価される
る場合がある
るためで、こ
この香りには
はラク
トンという物質が
が関与するこ
ことが報告さ
されています
す。ラクトン
ンは脂質酸化
化の初期段階
階で生
、私たちは高
高濃度のビタ
タミン E がγ
γ‐オクタラ
ラクトンやγ
γ‐ノ
じることが報告されており、
成を顕著に抑
抑制すること
とを明らかに
にしました(図5)8)。抗酸化性と
と牛肉
ナラクトンの生成
質については
は更なる研究
究が必要と考
考えています
す。
の品質
γ‐n
nonalactone
Relative peak intensity
120
000
a
100
000
ab
80
000
60
000
bcc
40
000
20
000
0
cd
d
DOX NE LE
MEE HE
1) (10.7)
(1.9) (2.7) (6.1
α‐ttocopherol (ppm)
図4.筋肉と脂肪割
割合の変化が脂
脂質酸
図5.ビタミン E 含量がヘッドスペー
化に及
及ぼす影響
中のγ-ノナラ
ラクトン強度 に及ぼす
ス中
影響
響
ml
1) htttps://www.id..nlbc.go.jp/daata/toukei.htm
2)サラ
ライ
2009 年 6 月 20 日増刊
日
3)ダン
ンチュウ 20010 年 10 月 6 日
P14
P46
4) htttp://www.jfc.go.jp/a/information/invesstigate/colum
mn/pdf/columnn_090723.pddf
5) htttp://www.nilggs.affrc.go.jpp/pub/kenkyuukai/jikyushirryoriyo/2010ppdf/04.pdf
6)中村
村郁惠、渡 邊彰
日本
本国内初!有
有機 JAS マ ークを付し
した牛肉の販
販売
食肉の
の科学
Vol.551, P19-24,20010
7)Imaanari et al., Meat qualityy from the cattle
c
raised with organicc and concenntional diet.
ICoM
MST in Ghentt, Proceedinggs P195
8)渡邊
邊彰
黒毛和
和牛における
るビタミン E
畜産技術
術
- 45 -
平成 23 年 3 月 P17--18
57th
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