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(3)牧野組合カルテからみた問題点と課題

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(3)牧野組合カルテからみた問題点と課題
(3)牧野組合カルテからみた問題点と課題
1)牧野組合カルテの作成
このカルテは、個々の牧野組合(入会集団)における管理面積・組合員の属性などの基礎
データ、牧野利用の実態、作業分担など様々な状況の違いを把握するとともに、草原管理作
業の負担の程度を比較検討し、草原維持のための今後の対応策を検討する基礎資料とするた
め、153組合について作成したものである。
カルテでは、「平成7年度阿蘇におけるあか牛活性化調査報告書」による各組合(*)の
データとその加工により、以下の項目を作成、掲載することとした。
*ここで対象とする「組合」の単位は各地区の入会集団とした。なお現在「牧野組合」の名
称はその内部の有畜農家の組織をいうケースもあり、注意が必要である。
【カルテに表記される項目とその説明及び指標としての意味]
1.牧野面積
・牧野面積とその内訳
→[図化]
・野草地面積/牧野面積:野草地面積の牧野面積に占める割合。この値が高いほど改く
良草地や植林地、田畑等の割合の少ないまとまった草原を保持しているといえる。
2.組合員などの動向
・総戸数:集落の総戸数。入会権をもたないものも含む。
・入会権者数とその内訳
(農家一非農家、農家の中の有畜農家、さらにその中の牧野利用農家)→[図化]
・有畜農家の年齢構成と平均年齢 →[図示]
3.牧野利用
・飼養頭数
・放牧頭数:他組合から委託されたものもその数に含んだ。
・放牧地面積:放牧を行っている面積として回答を得た数値を記載した。野草地、草地の
どちらも含まれている。
・放牧地面積/放牧頭数:“放牧牛1頭当りの放牧地面積。
・野草地面積/放牧頭数:放牧牛1頭当りの野草地面積。
この2つの値が大きいほど草原に放牧されている成牛の数は少なくまば
ら・
で、牛の踏庄等による草原へのプレッシャーは弱くなる。放牧庄が弱まる
こ
とで草丈が高くなり、野焼きの作業の際に危険な状態となる。成牛1頭は4
月上旬から11月下旬までの240日間の放牧期間にに約1∼2baの牧草を
たべるといわれいる。
・牧野利用農家数の見通し:以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとし
て得た回答を記載した。
0
不 明
1
増える可能性がある
2
現状のままでいく
3
やや減少する
4
著しく減少する
・放牧頭数と面積の関係:以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとし
て得た回答を記載した。
0
不 明
1放牧可能面積に対して放牧希望者が多く頭数を制限
2 放牧頭数に対してやや面積が不足している
3 放牧頭数と面積がほほつりあっている
4 放牧頭数が減少し、放牧地が過剰になっている
・備考:牧野利用の形態、新たなとりくみ、組合員の意見等、放牧利用に関して数値
化できない事項や、他組合、全組合平均との比較を記載した。
4.管理と共同作業
・防火帯幅、防火帯長さ
・輪地切り作業出役者数(延べ)
・1人あたり平均輪地切り面積:作業出役者1人・1日あたりの作業量を示す(*)。
*参考 植林地の下草刈り作業は1人1日当り2,000㌦である。
・輪地切り実施者区分 :以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとし
て得た回答を記載した。
0
不 明
1 組合貞全貞
2 有畜農家
3
当番組
4
その他
・野焼き実施面積
・野焼き出役者数(延べ)
・1人あたり平均野焼き面積:作業出役者1人・1日あたりの作業量を示す。
・野焼き参加者区分
:以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとし
て得た回答を記載した。
0
不 明
1組 合 員 全 員
2 有畜農家のみ
3 牧野利用農家のみ
4
その他
・野焼き現況:以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとして得た回答を
記載した。
0
不 明
1全ての牧草地で行われている
2 一部で行われている
3 ほとんど行われていない
4 全く行われていない
・野焼き予測:以下に示す項目のうち該当するものを選択するものとして得た回答を
記載した
0
不 明
1 当分(10年程度)問題無い
2 近いうち(4∼5年内)にできなくなる
3 すぐ(2∼3年内)にできなくなる
・作業負担分析表:従事者1人あたりの作業負担の大きさ、継続意向を表す指標を組
み合わせ、分析した。五角形の面積が大きいほどその負担も大きく継
続は難しくなる。 [図示]
放牧牛1頭当りの草原面積:全組合平均1.80匝a/頭】に対する比。
出役者1人あたり平均野焼き面積:全組合平均2.47匹a/人・日】に対する比。
出役者1人あたり平均給地切り面積:仝組合平均1135.1揮/人・日】に対する比。
有畜農家の年齢構成60歳以上割合:仝組合平均23.81【%】に対する比。
・備考:野焼きの費用負担、近年の動き、他組合や仝組合平均との比較について記載
した。
5.総合備考欄
・以上のデータをもとに、掲示したデータの相互関連についての総合的な分析、他牧
野組合、全組合平均との比較を行った。
作成したカルテの例を次ページに示す。
2)組合のタイプ区分とタイプ別モデルのカルテ作成
前項で作成した牧野組合カルテをもとに、ここでは今後の草原維持を考える上で、最も重
要な要素の1つでありその継続が懸念される野焼きに着目し、153組合をA∼Eの5つのタ
イプに分類、タイプ毎に該当する組合の平均値を各項目について算出し、各タイプの平均モ
デルを作成した。このモデルの問題点と課題等を比較することにより、牧野組合全体の問題
点とその要因の関連性、現状の傾向と今後の動向について考察した。
牧野組合の分類については、野焼きの実施状況と今後の継続意向についての関係から以下
に示すA∼Eにタイプ区分することとした。
表2−卜10 野焼きの現状と継続意向
当 分 ( 10 年 程 近いうち(4∼5 す ぐ ( 2 ∼ 3 年 現在野焼きを行 不明
野焼きの継続意向
度)は問題無い 年内)にできな 内)にできなく っていない・殆
くなる
野焼きの実施状鱒
なる
全ての牧草地で行われている
A
C
一部の牧草地で行われている
B
D
殆ど行われていない
全く行われていない
ど行っていない
E
不明
A:現在全ての牧草地で野焼きが行われており、当分は問題無く作業が継続できると考え
ている組合
B:現在一部の牧草地で野焼きが行われており、当分は間邁無く作業が継続できると考え
ている組合
C:現在全ての牧草地で野焼きが行われているが、何年かの内には作業ができなくなると
考えている組合
D:現在一部の牧草地で野焼きが行われているが、何年かの内には作業ができなくなると
考えている組合
E:現在野焼き作業が殆ど行われていない、もしくは全く行われていない組合
各区分の組合数、合計面積の全体に占める構成比は以下の通りである。
組合数、合計面積とも最も大きいのが区分Aのタイプで、組合数で44.2%、面積では全体
の54.2%を占める。
次に大きいのは区分Cのタイプで、合計面積は区分Aの約半分となっている。
組合数で最も少ないのは区分Bのタイプだが、合計面積ではタイプCに次いで大きい。
表2一1−11各区分の組合数と合計面積
組合数(組合)
牧野面積合計(ha)
A
64
(44.2%)
B
13
(9.0%)
1707
(7.9%)
C
38
(26.2%)
5828
(26.9%)
D
15
(10.3%)
1091
(5.0%)
E
15
(10.3%)
1286
(6.0%)
計
145 (100.0%)
不明
8
合計
153
11731 (54.2%)
21643 (100.0%)
761
22404
これらの区分による組合の分布状況を図2−1−29に示す。
区分D、区分Eの組合入会地は、火口丘以南と北外輪山以北に分布しているが、北外輪山
には存在しない。
やまなみ道路付近に区分Cの組合入会地が集中している。
3)タイプ別モデルのカルテ作成方法
前項で行った組合のタイプ区分に従い、各タイプ毎に基礎数値データの平均を求め、各タ
イプの平均モデルのデータとした。
また、その数値をもとに牧野組合カルテに掲載した各指標についての数値を算出した。
[カルテに表記される項目とその算出方法]
1.牧野面積
・牧野面積とその内訳:該当組合の平均値→ [図化]
・野草地面積/牧野面積:牧野面積とその内訳の平均モデルのデータをもとに算出
2.組合員などの動向
・総戸数:該当組合の平均値
・入会権者数とその内訳:該当組合の平均値→[図化]
・有畜農家の年齢構成:該当組合の平均値を各年齢層毎に算出→[図示]
・平均年齢:年齢構成の平均モデルのデータを元に算出
3.牧野利用
・飼養頭数:該当組合の平均値
・放牧頭数:該当組合の平均値
・放牧地面積:該当組合の平均値
・草原面積/放牧頭数:牧野面積とその内訳、放牧頭数の平均モデルのデータを元に
算出
・放牧頭数と面積の関係:該当牧野組合から得た回答の構成
・牧野利用農家数の見通し:該当牧野組合から得た回答の構成
4.管理と共同作業
・防火帯幅、防火帯長さ:該当組合の平均値
・輪地切り作業出役者数(延べ):該当組合の平均値
・1人あたり平均輪地切り面積:防火帯幅、防火帯長さ、輪地切り作業出役者数の平
均モデルのデータを元に算出
・輪地切り実施者区分 :該当牧野組合から得た回答の構成
・野焼き実施面積:該当組合の平均値
・野焼き出役者数(延べ):該当組合の平均値
・1人あたり平均野焼き面積:野焼き実施面積、野焼き出役者数(延べ)の平均モデ
ルのデータを元に算出
・野焼き参加者区分
:該当牧野組合から得た回答の構成
・野焼き現況:該当牧野組合から得た回答の構成
・野焼き予測:該当牧野組合から得た回答の構成
・作業負担分析表:平均モデルのデータを元に算出。→[図示]
4)タイプ別モデルのカルテからみた問題点
以上のような分類により、カルテに掲載される各項目について分析を行ったところ、以下
のようなタイプごとの違いと傾向があらわれた。
タイプA:放牧が良好な状態で行われているので草丈も高くなく、野焼きをしやすい状態で
あると考えられる。大規模な野焼きが現在も行われており、1人当りの作業負担
は平均をやや下回る。維持作業を行うのは牧野利用のない組合員が多いが、組合
として野焼きを継続する意志がある。
タイプB:現在野焼きが行われているのは放牧地の一部である。しかし、1人当りの作業負
担は仝組合の平均を下回っており、また牧野利用、畜産においては今後上向きの
状態で継続されることが予想される。これらが野焼きの継続意向に反映されてい
ると思われる。
タイプC:現在全ての放牧地で野焼きが行われているが、継続は困難な状況にある。作業負
担分析表では平均を大きく上回る結果となった。中でも特に輪地切りの負担は重
い。しかし放牧等の牧野の利用はそれらの作業負担の割には低調である。
タイプD:中小規模の牧野が多く、一部で野焼きが行われている。1人当りの作業負担は仝
組合平均を下回るが、輪地切り出役者数が多く、地形的要因などにより作業が困
難で人手を要すことも考えられる。また、有畜農家の高齢化も今後の野焼き継続
を困難にさせる要因の1つと思われる。
タイプE:現在野焼きが殆ど行われていないか、全く行われていない組合である。有畜農家
の平均年齢はやや高いが、60歳以上の割合では平均を下回る。畜産放牧による牧
野利用が比較的良好な状態で行われている。草地(人工草地)を中心に利用し、
野草地ではあまり放牧を行わないため野焼きの必要性が低く、中止しているので
はないかと思われる。
現在野焼きが行われていない組合でも放牧は継続されている。このような組合の特徴とし
て、草地(人工草地)の割合が高いことが挙げられる。その要因として、野焼きができなく
なったため放牧を人工草地に頼らざるをえなくなった、もしくは人工草地の利用が放牧の主
流となったため野草地の必要性が低下し、野焼きを中止したという2つが考えられる。いず
れにしてもこのタイプの場合、組合の主導によって野草地の維持管理が行われることは考え
にくいといえる。
また、波野村から高森町にかけてこのような組合が多く分布しているが、この地域では採
草が野草地の維持管理の主体となっている。
次に、野焼きの継続が困難との見通しを立てている組合の傾向として、畜産業の低迷とそ
れに伴う牧野利用の減少、牧野を利用しない入会権者の作業負担の増加が挙げられる。
それらの組合(Cタイプ及びDタイプ)を見てみると1人あたりの作業負担、牧野利用者
以外の作業出役者の割合のどちらもCタイプよりDタイプ、つまり野焼きの継続がより危機
的状況にある組合の方が大きくなっている。牧野利用者と作業負担者の乗離は野焼きの存続
に大きな影響を与えているといえる。野焼きの継続には作業負担の軽減がカギになるが、こ
れらのタイプの場合も、牧野組合という既存の枠組みの下での草原維持は早晩できなくなる
可能性が高い。
一方、野焼きを現在全ての面積で行っており、今後も継続可能と考えている組合(タイプ
A)をみてみると、畜産業の動向については比較的良好で、なおかつ作業出役者の負担も軽
く好条件が揃っている。しかし、入会権者に占める牧野利用農家の割合は決して高いとはい
えない。ここでも牧野利用者と作業負担者の乗離は起こっている。では、これらAタイプと
C・Dのタイプにおける条件の違いはどこにあるのだろうか。
その1つとして牧野面積の広さ、入会権者数の多さ、それらの釣り合いが挙げられる。野
焼き面積の広さは、作業負担からみるとマイナス要因とも考えられるが、出役者が多い場合
はプラスの要因となり得る。
かつて野焼きは草原維持作業であるとともに年中行事の1つでもあった。このように年中
行事として、広大な牧野を多くの人が一気に焼く、典型的な野焼きが現在も続いているのは
タイプAの組合に限られており、このタイプの組合が今後の草原維持管理の主体としての一
つのあり方を示していると思われる。
1.耀山牧野
/採草放牧地上しての草原の維持を目的とした野焼き
<地域の概要>
兵庫県村岡町
放牧地は約40ha
○兵庫県北西部に位置し、町土の舗.8%を山林が占め、町全域が振興山村に指定され
ている。農地は5.3%、ほとんどが急傾斜地で山間の棚田を形成している。
○神戸牛や松阪牛の素牛、全国の改良素牛である但馬牛の原産地であり、現在71戸で
約700頭の繁殖牛を飼育。
従来の利用形態とその変遷
昭和30年代頃より放牧が衰退していたが、昭和50年代に入り、山村振興対策事業で15ha
の草地開発を実施したことをきっかけに放牧が再開された。さらに、昭和60年代に実施
された畜産基地建設事業により28haの放牧地と採草地の整備が行われた。しかし、集落
の畜産農家の減少により、集落で飼養する牛だけでは牧場を運営できなくなってしまう
間蓮が発生したこと等から、集落外の多頭飼育農家を中心に親牛だけの預託を受け、昼
夜放牧するシステムを導入した。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
かつては一部の草刈り場だけで行われていた火入れが、昭和50年代以降、放牧地内全
域で、集落の年間行事として毎年実施されるようになった。しかし町内では、現在は2
ケ所の放牧地で実施されるのみである。平成8年は、隣接する山林への延焼を防止する
ために、延長約500mのシバを利用した防火帯を設置し、火入れ等の作業軽減を図った。
火入れに出役してくる集落の若年層は、野瞬きについて草原維持作業というより一種
のイベントとしてとらえている。
野焼き作業概要
時期:5月
体制:集落が主体
課題等
・放牧地管理者の高齢化問題および経済的問題の克服
・集落機能の維持
〈参考にした資料〉
「草原シンポジウム■97・第2回全国草原サミット一章原の意義と生業による維持保全一資料集」
草原サミットー97実行委員会/平成9年10月
2. 霧ヶ峰高原 /草原による観光地としての魅力増進を目的とした
野焼き
<地域の概要>
長野県茅野市
八ヶ岳中信高原国定公園内(国定公園面積39,857ha)
○草原面積600ha(相原財産区分)。
○標高1,600∼1,800mにはススキ草地、1,800∼1,900mにはヒメノガリヤス草地が
広がる
。
○白樺湖と草原を資源とした観光拠点だが、以前と比べ観光客延べ人数は15%程度減少
している。
所有形態
大部分が私有地であり、財産区で所有している。財産区では白樺湖畔の旅館に土地を
貸している。
従来の利用形態とその変遷
かつては、約150戸の集落があり、およそ8割の家が農耕馬を飼っており、馬の飼い
葉と堆肥作りのために、草原に生える草を刈っていた。刈った草は「ハギ」と呼ばれ、
飼い葉や堆肥作りに使われる他、他集落に売り現金収入としていた。草原は、火入れを
しないと木が生えてしまうため、ハギを取る草原を維持するために火入れを行っていた。
しかし、戦後(昭和30年代)農業機械が入ってきて山からの採草が不要になり、約800ha
あった草原では火入れが行われなくなった。
昭和39年の植樹祭の時に、入会権をめぐって紛争の多かった山を分け、3つの財産区
が所有するようにして入会権を解消した。柏原財産区は600haを所有。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
昭和20年に白樺湖ができて以来観光が盛んになってきたことから、検討会を開いて草
原を観光の目玉にすることとした。美しい草原を維持し観光地としての魅力を増すため、
火入れを再開することとし、柏原財産区が主体で約63haに火入れを行っている。
草原は3つの財産区にまたがるが、草原の維持管理や運営に関する評議会等は設けら
れていない。
野焼き作業概要
時期:4月末
体制:財産区が主体(作業)だが、営林署・茅野市林務課(監視)、地元消防署が参加
野焼き面積:約63ha(今後も継続予定)
作業手順:
①防火線
・山の上の境界にブル・ドリルで溝を掘り両脇に土を盛って、幅5mの防火線をつく
る。境界の外には国有林があり、誤って火が移ると賠償金を払ったり原状復帰が必
要になる。数年に1回、営林署に許可を取り、ブルドーザーを入れてつくり直す。
・下方の集落側は、道路(ビーナスライン)が防火線となる。
・車山側の境界には防火線がなく、火入れ前に草刈り機や熊手で草刈りを行う。
②火入れ
・当日朝6時に集合し、注意事項の伝達等を行った後、日が出て草の露が切れるのを
待って火入れを開始する。作業は9班から10班に分かれて行う。
・まず境焼きを行う。1班が、山上の防火線のある境界から火をつけ、境界の外に火
が広がらないようにマツの枝で叩く。火が下へ10mほど進んだら、全員で下(集落
側)から火をつける。
助成等:費用は全て財産区が負担する。
火入れの費用は合計86万円であり、内訳は以下の通りである。
・ブルドーザーによる防火線の補修費…約30万円/年
・出払い(人が作業に出る)の人件費…日当4,000円×140人=56万円
課題等
・観光資源として、火入れをイベント化することを検討中である。
・火入れは草原景観維持と観光地としての魅力増進のため行っているが、財産区に観
光客による直接収入はない。間接的に旅館に土地を貸した地代が収入となっている。
<参考にした資料>
自然景観地における農耕地・草地の景観保全管理手法に関する調査研究報告書」
(財)国立公園協会/平成8年3月
3. 久住高原
/採草放牧地の保全を目的とした野焼き
<地域の概要>
大分県直入郡久住町
阿蘇くじゅう国立公園内(国立公園面積72,680ha)
○久住山の南斜面に広がるススキ・ネザサ型の火山性高原で、現在では、ほとんどが人工
草地化されているが、ススキ型、ススキーネザサ型、ネザサ型草地が点在している。
○久住町全体の草原面積は14,287ba(採草放牧地833ba、原野2,570ba)。
所有形態
草原の大部分を久住町が所有。
入会権者で構成される牧野組合等の地域団体が放牧、採草等を行っている(*)。
*たいていの場合、入会権者が町外に出て出夫(維持、管理のための共同作業)をし
なくなれば入会権を主張できなくなる。また、町も含めて全入会権者の合意なしには
分割して土地を処分できない。
従来の利用形態とその返還
草原面積が全国的に減少傾向にある中で、久住町は昭和45年には、2,777baだった草
原面積は平成5年には3,403baへ増加している。しかし内訳で見ると、採草放牧地(人
工草地)が急激に増加しており、原野面積は2,750baから2,570baへ減少している。
草原を畜産放牧利用している牧野組合等が行う年1回の採草と2年に1回の火入れに
よって維持管理されているところが多い。しかし採草放牧地(人工草地)の増加と原野
の利用の減少、組合の高齢化等の問題から、野焼きの面積は昭和50年と比較すると約2
分の1へと著しく減少した(昭和50年1,432ba、平成7年775ba)。
現在17の牧野組合、団体が野焼きを行っている(次ページ位置図)。
従来の組合のみで行う野焼きが困殊になったことから、ボランティアを募り作業を行
うようになった組合がある。
野焼き作業概要
時期:3月
野焼き面積:775ha
実施主体:牧野組合ほか
管理方法(野焼き)の新しい動き
平成7年3月、「久住高原野焼きシンポジウム・全国野焼きサミット」が久住町て
催(大分県主催)。畜産放牧による草原利用の衰退、野焼きの人手不足等による実嘉
穂の縮小などの問題について意見が交わされた。これをきっかけに大分県・久住町で†
焼きボランティア」を組織することを企画した。危険を伴う作業であることから地元
合では反対するところが大半だったが、その中で趣旨に賛同した稲葉牧野組合で翌年
らボランティア参加による野焼きを試行、平成9年までに計4回行っている。
<稲葉牧野組合野焼き概要>
時期:3月半ばの土・日を予定。
天候に左右される作業であるため、予備日として2日間を設けている。
体制:組合が主体。大分県、久住町。
ボランティア募集:2月末。牧野組合が窓口となる。
参加料2,000円(昼食、作業道具の準備費として徴収)。
保険加入はない。
課題等:
・毎回70∼80人のボランティア及び体験参加者の登録があるが、天候に恵まれず日程
が平日にずれ込むなどするため、1回に10人程度の参加となってしまう。実施方法、
募集方法に工夫が必要である。
・何回も参加しているボランティアは作業に慣れる。
・地元側はボランティアを労働力と認め、扱うようになった。
・地元では都会から来る人が何を求めているのか、農村のツーリズムのあり方などが
わかってきた。また、参加者は農村のイメージと中身の違いがわかってきて、都市
と農村との人のつながりができてきた。
・牧野組合の中で核となる人が出来てきたおり、その人が中心となって野焼き、輪地
焼き作業の他にも、蕨採り、田植えなどを年中行事化し、同様に参加者を募り行っ
ている。
・地元とボランティアの橋渡し役、核となる人が必要である。
〈参考にした資料等〉
「草原シンポジウム■97・第2回全国草原サミット一章原の意義と生業による維持保全一資料集」
草原サミットー97実行委員会/平成9年10月
第3回草原懇話会(平成9年6月)山田朝夫九重町理事の発言
4. 三瓶山
/防火、草原景観の維持等を目的とした野焼き
<地域の概要>
島根県大田市
大山隠岐国立公園内(国立公園面積31,927ha)
○放牧や野焼き等、人為による撹乱の強い所はシバ・ネザサ群落、山腹および山上部に
はススキ草原が広がる。
所有形態
・北の原…県借地(市有地)で、三瓶フィールドミュージアム財団に有償管理委託
・東の原…入会権が設定された市有地
・西ノ原…市有地
従来の利用形態とその変遷
三瓶山でほ、江戸時代頃から入会の山として牛の放牧が行われ、山全体がシバの草原
であった。江戸時代は900baの草原で放牧が行われていたという。しかし、営林署によ
るカラマツヤスギの植林が行われたり、昭和50年を境に放牧が衰退したことによりスス
キや潅木に覆われ、三瓶山は本来の美しさを失った。
農民の放牧への熱意や昔の三瓶山の姿を取り戻したいという市民の強い気持ちもあっ
て、西の原では平成元年に野焼きが、平成8年に放牧が再開され、牛の放牧庄により山
は昔の姿に戻りつつある。また、希少種のオキナグサがよみがえり、レンゲツツジも増
えている。
また、東の原のスキー場では、以前は50haの草地をシーズン前に刈り払っていたが、
放牧が再開され、その放牧圧により刈り払いの必要がなくなり、それまで作業にかかっ
ていた人件費等が浮いたため、スキー場職員が牧柵の撤収や修理等の作業に積極的に参
加するようになった。現在では、観光と共存した形で畜産農業が成り立っている。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
かつては、農家の人が入会の山として火入れを行っていたが、放牧の衰退で廃れてい
た。西の原では昭和63年に山林火災が起こり、その反省から、市が主体となり、防火、
害虫駆除、草原景観の維持等を目的として、その翌年に野焼きを再開した。現在は市や
消防署、森林組合の職員が行っている。
平成7年には、地元の市民団体「緑と水の連絡会議」がボランティアを募集し、広島
県等から訪れた40人程の市民ボランティアが初めて火入れの作業に参加した。
現在、ボランティア団体「大田市のレンゲツツジを守る会」が草原の周囲にある木の
刈り払いを行っている。
野焼き作業概要
時期:3月下旬
体制:大田市(大田市、消防署、森林組合の職員等が作業を行う。)
野焼き面積:33ha(西の原)
<参考にした資料>
「久住高原野焼きシンポジウム・全国野焼きサミット報告書」羅針盤/1995.5月
草原シンポジウム‘97・第2回草原サミット資料「三瓶山周辺の和牛使用の変化」千田雅之
5. 秋吉台
/草地景観の確保等を目的とした山焼き
<地域の概要>
山口県秋芳町、美東町
秋吉台国定公園内(国定公園面積4,500ha)
○草原面積1,500ha。
○秋吉台の草原はカルスト台地上に広がるススキを主体としたネザサ型草原である。
○第1種・2種・3種特別地域および特別天然記念物に指定されており、学術的価値も
高い。オキナグサやムラサキ等の希少植物のほか、セッカヤヒバリ等の野鳥やバッタ
類等が多く生息している。また、年間150万人の観光客が訪れる、山口県の一大観光
拠点でもある。
所有形態
・ドリーネ(*)における耕作地のみ私有地であるが、大半は町有地。
*ドリーネとは、石灰岩台地における凹地で、石灰岩の溶けかすが溜まった肥沃な土
地のことで、耕作地として利用されてきた。
・採草権(町有地である草原に入り、採草を行える権利)が設定されている。
従来の利用形態とその変遷
大昔の秋吉台はタブやソバキ、ヤプニッケイ等の大原生林であったと考えられてい
るが、農耕文化の発達からこの自然植生に手が入り、牛馬の飼料や田畑の堆肥として
草が大切なものとされるようになると、良い草を生やすために枯れ草を焼く作業が始ま
った。以来、長期にわたりこうした人為によって、乾燥した台地に生えるネザサやハギ、
ワラビを中心とした植生が維持されてきた。この「山焼き」は少なくとも中世には始ま
っていたといわれる。
かつては、採草権を持つ農家の人々が、より良質の草をより多く得るために、年に何
度も草を刈り、採草権をもつ団体(集落)ごとに火道切り(防火帯づくり)、山焼きと
いう作業を自主的に行っていた。
しかし、採草等での草原の利用が少なくなり、草丈が長くなってしまったため、低い
草丈の状態で生息するオキナグサヤセンブリ、リンドウ、スミレ等の植物、スミレをエ
サとするオオヒラギンヒョウモン等が減少した。また、山焼きについては、草原利用の
減少とともに、草地景観の確保や、生態系および貴重な動植物の保全、観光客のタバコ
等による山火事の防止を主目的とするようになった。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
①行政(地元2町)主導による山焼き
昭和47年、福岡県平尾台で山焼き中に事故が起こったことをきっかけに、秋芳町と美
東町は、事故の起きない山焼きの実現を目指し、消防署や警察署の協力を得て「秋吉台
山焼き対策協議会」を設置した。これに地元集落が準奉仕的な形で参加し、山焼きが公
的行事の一環として実施されるようになった。
②採草権者の意欲低下と周辺部からの議論の盛り上がり
また、草刈り機によりケガをする事故があって以来、これ以後山焼きに参加したくな
いという声が高まった。これに対し平成5年から地元グループを中心とした「とっても
ゆかいな秋吉台ミーティング」が開催され、山焼きの問題点について議論を行ない、マ
スコミを通じて情報を発信した。また、秋芳町、美東町でも山焼きを中心に秋吉台の諸
問題を考え直す「秋吉台山焼き問題特別委員会」を設置し、1)作業道の整備、2)恒久
的な防火帯づくり、3)山焼きにかかる経費の一部援助を求める陳情書を提出した。
③県が、新たな防火帯づくり、作業道整備、山焼き作業への助成実施の方針を決定
これを受けて国定公園の管理者である山口県は、平成6年に地元採草権者代表、学識
経験者、自然保護団体代表、マスコミ代表、山口県代表、地元町代表ら25名で「秋吉台
山焼き対策検討協議会」を設置し、1年にわたり協議した。その結果、草刈りによる植
生変更によって防火帯とする方法の実験、景観を破壊しない範囲での作業道の整備、山
焼きへの支援を決定し、山焼き作業については従来通り、秋芳町、美東町、農家(採草
権者)が中心となって行うこととなった。
④ボランティアの協力受け入れは検討中、若い農業者グループの協力の輪が広がる
マスコミを通じて事情を知ったボランティアから火道切りに協力したいとの申し出が
あったが、危険を伴う作業であるため、ケガの補償問題を含め検討中である。火道切り
に関しては、地元の若い農業者の集まりである4Hクラブが、近在の4Hクラブと合同で
作業の手伝いを行っている。
山焼き作業概要
<火道切り>
時期:年末から2月始め(最も草丈の伸びた時)、作業延べ日数39日
火道切り全長:約17km
参加人数:合計 21集落3団体 583人(平成5年度)ノし
(内訳)秋芳町 435人(16集落364人、農協16人、森林組合55人)
美東町148人(5集落128人、森林組合20人)
<山焼き>
時期:2月第3日曜日
体制:秋芳町、美東町が主体(各農林課が担当)
山焼き面積:1500ha(1日で全て焼く。)
参加人数:合計
(内訳)秋芳町
美東町
31集 落 2団 体
986人 ( 平 成 5年 度 )
708人(24集落607人、農協16人、森林組合11人、消防団
74人)
278人(7集落167人、消防団111人)
作業手順:
①火道切り(防火帯づくり)
最も草丈が伸びた時期(年末から2月はじめ)に、5∼7mの帯状に、全長約17km
の草を刈り取る。これは防火帯の役割を果たす。なお、秋吉台を横断する秋吉道路は
県管理となっており、有刺鉄線の柵等を守るために、県が土木業者を雇って草を刈り、
防火帯をつくっている。
②火入れ
山焼き当日の早朝6時に、秋芳町、美東町の町長、消防団長等対策協議会の主要メン
バーが秋吉台上に集まり、草の乾燥状態や天候等を見て山焼きの実施を決定する。山
焼きの決行が決まると、消防団貞は、万一の火災に備えて水嚢を持ち待模し、午前9
時の煙火を合図に一斉に火を放つ。この火入れは、地元農家(採草権者)の中でも長
年の経験を積んだものが指揮をする。
助成費等:
草刈りと山焼きの経費等として1千万円ほどかかり、その約8割を町が、1割を県
が負担している。
課題等
・作業従事者の中では兼業農家、非農家が多くなっており、山焼きにかかる労力が負
担になっている。
・作業従事者の確保のためにも、ケガの補償問題等に対処しながら、火道切り等のボ
ランティア受入れ体制を整備する必要があるが、農家(採草権者)側では自分たち
だけでやりたいとの意向が強く、受け入れない。
・一方で町(行政)の関与がなければ継続できないほどに、農家の人々に昔のような
自主性がなくなり、日当の要求や、町が山焼きを実施すべきという意見がでてくる。
・草原の維持のために1)草を使用する農民、2)観光として利用する秋芳町・美東町、
3)国定公園として管理している山口県が協力してゆく体制作りが必要である。
・米軍空爆演習地間接があって以来、山口県全体として秋吉台に対する保護意識が高
まっている。しかし、地元には自然保護、景観維持にかかる制限を減らしてほしい
との意見がある。
・過疎化および高齢化等により作業従事者の確保が困難になることが予想される。また、
現在では夏草を刈らず、草丈が非常に長くなっていること等から、丁寧な山焼きが
できなくなってきている。
く参考にした資料>
「久住高原野焼きシンポジウム・全国野焼きサミット報告書」羅針盤/1995.5月
「自然景校地における農耕地、草地の景観保全管理手法に関する調査研究報告削
(財)国立公館協会/平成8年3月
6. 仙石原・箱根湿生花園 /観光資源としてのススキ草原の復元を
目的と■した山焼き
<地域の概要>
神奈川県箱根町
富士箱根伊豆国立公園内(国立公園面積122,690ha)
○山焼きが行われる草原は台ケ岳北西斜面の18ba。
○ススキ草地。昭和11年に国立公園に指定される2年前の昭和9年に、仙石原湿原の一
部が天然記念物に指定され、その周辺および県有地が昭和50年に特別保護地区、台ケ
岳北西斜面は第2種特別地域に指定されている。
所有形態
箱根町が所有
従来の利用形態とその変遷
江戸時代より、牛馬の放牧・採餌場と裏関所破りを防止するために、箱根山の稜線か
ら芦ノ湖までを草地にしていた。昭和45年までは年1回の火入れと草刈りが行われてい
た。戦後、ヒノキの植林や食料増産を目的に湿原を水田化したため、草地が減少してい
った。
箱根町が、昭和48年から大原水田跡地を買収造成し、昭和51年に箱根湿生花園を開園。
ワレモコウ、リンドウ等の種を播種することで、草原の復元を図っている。
一方、火入れが実施されなくなり、潅木化が進んだため、箱根町では平成元年に台ケ
岳斜面の火入れを再開した。火入れが実施されているところは、ススキ原に戻り、観光
客の訪れる名所となっている。ただし以前の植生と比較すると、草刈りを実施しなくな
ったためにススキの丈が長くなり、ススキ以外の植物が減少している。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
観光資源として「ふるさとの自然景観」を残すために、平成元年に、箱根町が「仙石
原火入れをする会(山焼き実行委員会)」に委託し、台ケ岳北西斜面の火入れを再開し
た。会のメンバーは火入れ経験者からなっている。
国立公園の特別保護地区になっているため、動植物調査が義務づけられている。調査
の結果によると、火入れにより山野草や動物が増えていることが明らかになっている。
また、昭和61年より湿原の環境保全および植生復元実験を実施し、火入れの影響、地
温の変化等について調査している。植物の成長への火入れの影響がないこと、種組成を
増やすには6∼7月に草刈りを実施する必要があることが明らかになっている。
火入れ作業概要
時期:1月
体制:箱根町が、「仙石原火入れをする会(山焼き実行委員会)」へ作業を委託
火入れ面積:18ha
作業手順:火入れは晴天が続く乾燥した1月に実施し、残ったところは草刈りを行ない
補う。ススキ草原の復元が目的であるため、6月の草刈りは実施していない。
助成等:箱根町が負担する。
火入れの経費の年総額は約460万円であり、内訳は以下の通りである。
・委託費…200万円
・調査研究費…110万円
・臨時駐車場借り上げ費…40万円
・看板・消耗費…110万円
課題等
・人の踏み込みやオートバイが侵入した所が、決壊やエロージョン(侵食)を起こし、
植物の乱獲も行われている。
・ススキ原に人が踏み込まないように、専用歩道の設置を検討している。
<参考にした資料>
「自然景観地における農耕地・草地の景観保全管理手法に関する調査研究報告書」
(財)国立公園協会/平成8年3月
7.川内峠
/防火と郷土景戟としての草地の保全・育成を目的とした
野焼き
<地域の概要>
長崎県平戸市
西海国立公園内(国立公園面積24,636ha)
○草原面積30ha(平戸市内には川内峠を含め7ケ所、約138haの草地がある)
○川内峠は、観光地平戸市の北部に位置し、市街地に近いため、市民の憩いの場や観光
名所となっている。草地の一面には平戸ツツジが約1万2千本植栽されており、開花
時期には多くの花見客が訪れている。
所有形態
4部落の部落共有地。ただし平戸市が、部落共有地を1年間に8,000円/haで借地し、
草地として担保している。
従来の利用形態とその変遷
平戸市には和牛肥育農家が多く、平戸牛の産地として知られる。川内峠の草原は明治
時代から昭和を通じ、和牛のための採草地として面積的には拡大してきた。しかし和牛
肥育農家数の減少とともに和牛の頭数も減少し、採草もほとんど行われなくなっている。
現在は平戸市の借上げ、ツツジの植栽等により園地的な利用が中心となっており、地権
者の一部には草地の市への売却を希望する者もでてきている。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
放置された草地に高木、潅木が混ざり草地景観の呈をなさなくなったことから、平戸
市のもつかけがえのない郷土景観の保全を目的とし、昭和55年から市の観光課主体で野
焼きが復活された。昭和61年の野焼きでの失火が原因で翌62年は中断したものの、昭和
63年から再開され、今日まで続いている。
野焼き作業概要
時期:2月
体制:平戸市(観光課)が主体となり、地権者である4部落が参加
野焼き面積:30ha
参加人数:約200人(4部落の地権者、消防署、消防団、市関係者)
助成等:防火帯整備、当日の日当、傷害保険等について毎年100万円程度市が負担する。
作業手順:
①防火帯づくり
防火帯づくりは、野焼き当日に行う。各地区では道路を防火帯とし、また、樹林
と隣接する場合は5m程の防火帯を風下からの火入れによってつくる。延焼防止
は水をつけた常緑樹の枝で行う。
②火入れ
防火帯により安全が確保された後、下方からブロックごとに順次火入れを行ない、
午前中に終了する。所要時間は約3∼4時間。
図2−2−2 川内峠の野焼きを行った草地と順序(平成7年2月27日)
課題等
・地元関係者の高齢化等により、野焼きが実施できる人数と技術の確保が困難になるこ
とが予想されるため、地元の人が野焼きの技術指導することを含め、今後はボラン
ティアの導入を検討する必要がある。
・川内峠は、眺望ポイント、市民の憩いの場となっていることから、平戸市は休憩所3
ケ所の駐車場を整備中である。
<参考にした資料>
「自然景観地における農耕地・草地の景観保全管理手法に関する調査研究報告書」
(財)国立公園協会/平成7年3月
8.
小清水原生花園
/原生花園植生回復を目的とした実験的野焼き
<地域の概要>
北海道小清水町
網走国定公園内(国定公園面積37,261ha)
○草原面積63ha。
○オホーツク沿岸海岸砂丘上に成立している半白然の海岸草原(「原生花園」という呼
称は観光目的でつけられたもので、小清水町以外にも多く点在している)。
○エゾスカシュリ、エゾキスゲ、ハマナス、センダイハギ等がみられる(第1種特別地
域)。小清水町は農業が基幹産業の町だが、年間約100万人の観光客が訪れ、原生花
園はその主な目的地となっている。
従来の利用形態とその変遷
約20年前まではエゾスカシュリ、エゾキスゲ、ハマナス、センダイハギ等が密生して
生息し、自然の花園を作り上げていた。
これは、かつて行われていた牛馬の放牧と、蒸気機関車の火の粉による野火が牧草と
して利用されていたイネ科の植物の生育を抑制していたためと考えられる。(イネ科の
植物の根は非常に厚くはり、マットのような役割を果たす。年間降雨量の極めて少ない
地域であることに加え、その雨水のほとんどを牧草の根のマットが受け止めてしまうた
め、イネ科の植物が増えると他の植物は水分が足りず発芽や成育が出来ない。)
しかし、海岸草原や砂丘での家畜の放牧が効率性の観点から廃止されていくとともに、
蒸気機関車が廃止され火の粉による野火がおこらなくなった。このため、昭和44年噴か
ら徐々にエゾスカシェリ等の群落もまばらな状態となり、原生花園に多くの観光客が訪
れるようになった反面、その評価は以前ほど高くない。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
放牧・野火による従来の牧草への圧力が再開されることに期待出来ないことから、牧
草(イネ科の植物)のオーバーな生育展開を抑止することによるこれらの植生の回復を
目的として、北海道大学の辻井教授を中心に昭和58年から野焼きを実験的に開始した。
当初、20mX60mの土地を3分割し、順次火をつけながら3年間程様子をみるという実
験を行ったところ、牧草類のマット状の根はほほ消滅し、また発芽できずにそこに残っ
ていた球根類から発育の兆候が見られるようになった。
この結果を受け、平成7年には約30haに面積を拡大し、地元市町村、自然保護団体、
地元営林署等が協力し火入れを行った。その後毎年、火入れを継続して行い、その効果
について検証中である。
野焼き作業概要
時期:5月半ば
体制:地元町村、自然保護団体、地元営林署が主体となり実施
野焼き面積:30ha
二参考にした資料>
 ̄久住高原野焼きシンポジウム・全国野焼きサミット報告書」羅針盤/1995.5月
9. 飯田高原
/放牧地の保全と動植物の保護を目的とした野焼き
<地域の概要>
大分県玖珠郡九重町
阿蘇くじゅう国立公園内(国立公園面積72,680ha)
○九重連山の北麓に広がる標高700∼1,200mの火山性高原で広大な草原には牧場があり、
温泉も湧いて、ミヤマキリシマが美しく咲く。高原の一部には、長者原自然研究路が
整備されている。
所有形態
組合共有地、町有地、環境庁所管地
従来の利用形態とその変遷
昭和30年代半ばまで採草放牧地としてその利用は盛んだったが、30年代後半のやまな
み道路の開通を機に観光施設等の整備が進み、草原面積は減少した。近年の畜産業の衰
退による草原の放置、針葉樹の植栽等によりその荒廃、減少は更に進行している。
かつては牧野を利用する入会権者で構成される牧野組合が野焼き等の維持管理作業を
行っていたが、畜産放牧による利用が減少し、現在は動植物の保護などのために作業を
行っているところもある。
また、牧野組合の人手不足、高齢化問題は年々深刻さを増し、その面積は九重町全体
では、昭和30年代と比較して約3分の1の1,786haにまで減少し、野焼きが行われなく
なった牧野も出現した。
現在飯田高原では5つの団体で計886haの野焼きを行っている(次ページに位置図を
示す)。この中の1つ、泉水山麓野焼き実行委員会では、そのような牧野の野焼きを近
隣の牧野組合、地元ボランティア団体等が協力して行っている。
野焼き作業概要
実施時期:3月半ば∼4月未
実施面積:886ha
実施体制:下表のとおり
表2−2−2
管理方法(野焼き)の新しい動き
飯田高原泉水山麓では牧野の入会権をもつ牧野組合が3つに分かれ、かつては各組合こ
とに野焼きを行っていた。しかし、組合員の高齢化、後継者不足、過疎化等から個々の翁
合だけでは維持管理が困難になり、ついにその中の1つの組合で野焼きを中止する事態と
なった。
しかし、地元の農家(上記の牧野組合員を含む)後継者等で構成されるボランティア巨
体、飯田高原デザイン会議のメンバーが主体となって、関係する3組合が協力して野焼き
を行うことを企画した。このグループは景観保全や地域おこしのイベントなど様々な活動
を行っており歴史も古い。メンバーの中には他の地区の野焼きにボランティアで参加した
経験をもつ者もあった。
野焼きの企画については、責任者の決定、作業体制、ボランティアの参加等について問
題となったが協議を重ね、平成9年、「泉水山麓野焼き実行委員会」を組織、野焼きを再
開することとなった。
〈泉水山麓野焼き概要〉
時期:4月下旬(関係3組合がそれぞれの地区で単独で行う野焼きが終了した後に行う)
実行組織:泉水山麓野焼き実行委員会
構成 牧野組合員(湯坪下牧野組合、奥郷牧野組合、松山牧野組合)
飯田高原デザイン会議
九重の自然を守る会
くじゅう地区パークボランティアの会
(メンバーは一部重複)
野焼き面積:約300ba
参加人数:210名
費用等:飯田高原デザイン会議が20万円補助している。
作業手順:
・参加者210名は4班にわかれ作業する。
・各班のリーダーは牧野組合員がつとめる。
・飯田高原デザイン会議のメンバー(牧野組合員やその後継者)は火引き役など
経験者でないと難しい作業を担当する。
・その他のボランティアは火消し役を担う。
・70歳くらいの組合員が長老として見張り・後始末役を担当する。同時にボラン
ティアに直接指示、指導を行う。
課題等:
・以前ボランティア参加の野焼きを行った際、参加者の軽率な行動がもとで山林
に延焼しそうになったことがあり、地元の人々にボランティアに対する不信感
がある0そのため、作業範囲を火消し役のみに限って参加を受け入れている。
・火消しについても用具の使い方など事前に指導を徹底する。
・参加人数が多すぎるとかえって統制がとれなくなり、また経験者なしでは行え
ない作業であるため、実行委員会では作業体制、人数、ボランティアの割合に
ついても現状のまま進めていく考えである。
・飯田高原デザイン会議では地元観光協会、他ボランティア団体などと連携して
野焼きの他にも様々なイベントを企画、開催している0費用負担などを含め、
得意分野を生かした役割分担と体制作りが今後の課題である。
く参考にLた資料等〉
「久住高原野焼きシンポジウム・全国野焼きサミット報告書」羅針盤/1995.5月
その他現地ヒアリング結果をもとに作成
10.飯田高原タデ原/草原維持についての関心の喚起と
新しい草原維持管理の体制づくりをめざした野焼き
<地域の概要>
大分県玖珠郡九重町宇田野長者原タデ原
阿蘇くじゅう国立公園内(国立公園面積72,680ha)
○タデ原は、長者原ビジターセンターに隣接し、そのエコフィールドと位置づけられて
いる。食虫植物のモウセンゴケの他、湿原植物等を育んでいる飯田高原最大の湿原で
ある。南端部の森林内及びこれに連続する草原の一部の植物を観察できる自然研究路
が大分県によって整備されている。また、平成9年度には環境庁が湿原観察路を整備
した。
所有形態
奥郷牧野組合入会地、環境庁所轄地、法人所有地
従来の利用形態とその変遷
九重町内では牧野組合による野焼きは一部地域を除いて中断されており、現在は地
元有志による野焼きが時折実行されているのみである。タデ原についても、かつては奥
郷地区の採草地として利用されていたが、現在採草は中止されており、昭和61年以降野
焼きも中止されている。
その後は、平成5年、湿原植物の保全を主目的に「九重の自然を守る会」を中心に
ボランティアによる野焼きが7年ぶりに実施されたのみである。
現状の管理方法(野焼き)と経緯
しかし近年、飯田高原観光協会、くじゅう地区パークボランティアの会等の間で、
牧野組合等の協力を得て野焼きを実行しようという気運が高まり、平成10年飯田高原観
光協会が主体となり関係団体の協力を得て野焼きをすることとなった。また同時に参加
者による意見交換会も行い、草原維持管理の体制づくりについて検討した。
野焼き作業概要
<体制等>
主
催:タデ原野焼き実行委員会(委員長飯田高原観光協会長熊谷薫)
環境庁九州地区国立公園・野生生物事務所
技術指導:奥郷牧野組合員
参加団体:飯田高原観光協会
飯田高原デザイン会議
九重の自然を守る会
くじゆう地区パークボランティアの会
飯田高原公私隊
く野焼き〉
日時:平成10年3月18日(水)8:30∼11:30
(予定日は前日の悪天候により草地の状態が悪かったため、3日後に延期した。)
野焼き面積:約20ba
参加人数:60名
【内訳】奥郷牧野組合 5名
飯田高原観光協会
20名
ボランティア 25名(飯田高原デザイン会議ほかの参加団体会員)
事 務 局 10名
作業体制:
・作業の総指揮は、実行委員長である飯田高原観光協会長が担当。
・「火引き」(火をつける役目)は、長年の経験が要求されるため奥郷牧野組合
員が担当した。
・火消しの作業は、山側作業班、川側作業班に分かれ、山側の火消しを飯田高原
観光協会員が担当、ボランティアは川側の火消しを手伝う役割を担うこととした
野焼き作業配置:
・対象地は、国有林、集団施設地区、幹線道路に隣接している。延焼のおそれの
ある境界部分は事前に輪地切り、輪地焼き(防火帯の設定)が行われており、
その他の部分は敷地境界を流れる川を防火帯とした。
・作業は外周部から始め、次ページ図に示すように山側と川側に分かれて進めた。
・延焼防止及び安全対策のため、5ケ所に「見張り」を置くほか、パトカーが待
機した。
作業の進行:
8:30
集合/各自、受付けにて所属する班及び役割を確認。
受付け後、作業用具を用意。
8:45∼9:15
オリエンテーション(作業説明)
主催者あいさつの後、作業内容、作業上の注意事項を説明。
9:30∼11:30 野焼き/班別に作業、班長の指示に従って行動。
火引きは図に示す順に行なった。
解散/完全な消火を確認し、班長の合図を待って移動。
<意見交換会>
日時:平成10年3月15日(日)8:30∼14:00
(天候の都合により野焼きに先立って行なった。集合後、オリエンテーション、
火入れセレモニーを行なった上で、意見交換会を実施した。)
場所:旧長者原ビジターセンター前広場
参加人数:75名
【内訳】飯田高原観光協会 23名
ボランティア 35名(飯田高原デザイン会議ほかの参加団体会員)
事 務 局 17名
今後の課題等
・ 経費の負担方法(受益者が不特定多数であるとき、行政の助成以外にどのような
負担方法があり得るか)
・ 関係者間の意向の調整、意思決定(立場の異なる人々が集まって共同作業を行う
場合、対立する意見を何を根拠にしてどう調整していくのか)
責任体制(野焼きのように延焼の危険=賠償責任を伴うような活動を、最終的に
誰の責任で行うのか)
牧野組合の関与の形態(伝続的な草原管理者としての責任意識や主体性の維持、
及び技術の継承をどう担保していくか。また、牧野組合=入会権者側からみれば、自
らが主体的に管理するのでない場合土地に対する権利が長期的にどうなっていくかが
検討され示される必要がある)
・ボランティア参加者の参加意識の高揚と活動の管理のバランス
〈参考にした資料等〉
現地ヒアリング結果をもとに作成
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