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トセラニブが奏功した腸管間質腫瘍(GIST)の犬の 1 例

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トセラニブが奏功した腸管間質腫瘍(GIST)の犬の 1 例
小 3
左後肢断脚と右肩甲骨全摘出術により運動機能温存できた犬の1例
○田浦保穗 1 ) 檜山雅人 1 ) 谷 健二 1 ) 松木秀多 1 ) 西川晋平 1 ) 原口友也 1 ) 板本和仁 1 ) 井芹俊恵 1 ) 伊藤良樹 1 ) 中市統三 1 ) 平松育子 2 ) 1) 山口大学動物医療センター・山口県 2) ふくふく動物病院・山口県
1.はじめに:犬の四肢に発生する腫瘍は、激痛のため緩和目的の断脚手術が選択されることが多い。また遠隔転
移率が高く、断脚や術後の化学療法を併用しても生存期間が短く、予後不良の腫瘍が多い。断脚による QOL 改善効
果と運動機能維持は可能であり、患肢温存法を検討した報告もある。今回我々は、左大腿部の脂肪肉腫による断脚
15 ヵ月後に,右肩甲骨に発生した腫瘍症例に対して、肩甲骨全切除術による上腕以下の患肢温存を試み、良好な結果
が得られたので報告する。
2.材料および方法:症例;雑種犬、11 歳4ヵ月齢、体重 7.85kg の不妊済雌。2 年前から左大腿部の脂肪肉腫が腫大
し 1 年前に同部位を断脚した。その後1ヵ月間の急性腎障害や持続する高 CRP 血症の精査のために来院。初診時に
は認められなかった右肩甲骨周囲の軟部組織腫脹と右肩甲骨の骨腫瘤病変が 13 ヵ月後には 46x47x32mm と大きくなっ
ていた。全身麻酔下で CT 検査および組織生検を実施し、CT 所見では病変は右肩甲骨に限局しており、病理診断で
は脂肪肉腫を疑う所見は得られなかった。しかし患肢の跛行や疼痛は酷く QOL の著明な低下が認められた。治療方
針について、左後肢は既に断脚しており、飼主は患肢温存を最重要項目の1つに挙げていたため、右肩甲骨全切除術
により上腕以下の患肢を温存する方法を選択した。
3.結果および考察:手術は、術前・術中・術後のケタミン・フェンタニル・モルヒネを用いた疼痛管理下で行い、
可能な限り患肢の外観と運動機能を温存した。腕神経叢と腋窩動静脈は保護し肩甲上神経と肩甲下神経は分離し切断
した。腫瘍に付着する筋群を切断後、上腕骨付着部より棘下筋、棘上筋、肩甲下筋を切断し、肩甲骨と腫瘍を一括し
て摘出した。術後の病理診断は組織球肉腫の疑いであり、脂肪肉腫の再発は認められなかった。術後は大きな合併症
はなく、術後 10 日から CCNU による化学療法を開始した。現在術後8ヵ月経過しているが再発および転移は認めら
れていない。温存した患肢の機能回復も順調で、三肢を上手に使っており、QOL は良好である。
肩甲骨全切除術は、一般的な断脚術と較べ注意すべき点も多く、適応するには慎重を要する。さらに本例では、既に
左後肢が断脚された状況であり、術後の運動機能温存に関しては不安があった。このような症例に対しても、腫瘍の
局所制御と機能温存の両者で良好な結果が得られたことから、選択肢の1つとして充分に提案可能な治療法であると
考えられた。
小 4
トセラニブが奏功した腸管間質腫瘍(GIST)の犬の 1 例
○大黒屋勉 大黒屋有美
みさお動物病院・山口県
1.はじめに:トセラニブは癌細胞に特異的に過剰発現、機能亢進して腫瘍化させる特定の分子に作用する、犬用の
分子標的薬のひとつである。今回、外科手術での切除が困難であった消化管間質腫瘍(GIST)のトイ・プードル 1 例
において、トセラニブリン酸塩(商品名:パラディア)を投与したところ奏功したため、その概要を報告する。
2.症例: トイ・プードル、未去勢オス、14 歳。体重減少と腹腔内の可動性腫瘤を主訴に来院。超音波検査において、
小腸の一部を巻き込む低エコー原性で直径 4㎝の硬性腫瘤病変が認められた。初診日を第 1 病日として第 24 病日に外
科的切除を目的とした開腹手術を行ったところ、腫瘤病変は腸間膜動脈に密着しており、完全切除は困難な状況であっ
た。このため、組織生検を行い閉腹した。病理組織検査の結果は、GIST であった。
3.結果: 第 45 病日よりトセラニブリン酸塩 10㎎の隔日投与を開始した。投薬開始より 13 日目の第 58 病日には腫
瘍に若干の縮小が見られ、その後も徐々に縮小し、72 日目の第 117 病日に腫瘍は触知されなくなった。投薬中、明ら
かな副反応は認められなかったが、食欲むらは持続的に認められた。しかし、第 181 病日に食欲不振と体重減少が顕
著となったため、投薬間隔を 3 日毎としたところ、食欲・体重ともに回復した。
4.考察: GIST は消化管の筋層に分布するカハール細胞が腫瘍化したものとされている。GIST は幹細胞成長因子受
容体(KIT)陽性腫瘍であり、KIT の遺伝子である C-KIT の遺伝子変異を有する可能性が高い。本症例では遺伝子検
査において C-KIT 遺伝子に変異が認められたため、
KIT を標的とした分子標的薬であるトセラニブの効果が予想され、
実際に腫瘍は超音波検査において確認できない大きさにまで縮小した。現時点で再発は認められず良好に維持してい
るが、今後は投与量および投与間隔についての検討が必要と考えられた。
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