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ブッカー・T・ワシントンのリンチ批判: 二〇世紀転換期アメリカ南部

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ブッカー・T・ワシントンのリンチ批判: 二〇世紀転換期アメリカ南部
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ブッカー・T・ワシントンのリンチ批判 : 二〇世紀転換期
アメリカ南部における人種・ジェンダー・階級
兼子, 歩
西洋史論集 = Journal of Occidental History, 12: 55-92
2009-03-23
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/39047
Right
Type
bulletin (article)
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12-003.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
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八九五年九月に催されたアトランタ博覧会(﹀己山口E のえさロ
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二O世紀転換期を代表するアメリカ黒人指導者のひとりとして知ら
されたという。試しに水を汲んでみると、 バケツには確かに真水が湛
たところ、﹁今いるところにバケツを下ろしたまえ﹂という信号を返
ある船が遭難して、偶然遭遇した地の船に真水を分けてもらおうとし
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に入学、七五年に卒業した。一八八一年、彼はハンプトン学院
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ンプトン師範農業学院(国防自立gZ056一言瓜﹀明付三E
住し、一八七二年にはヴァ lジニア州の黒人向け職業訓練校であるハ
子として生まれた。甫北戦争終結と共にウエストヴァ lジニア州に移
きであると説く。他方で南部白人に対しては、 そのような黒人たちに
なく、甫部に踏みとどまって勤勉な労働による経済的向上に尽力すべ
すなわち、北部都市や外国に移住せず、政治的権利の獲得を急ぐこと
たとえ話をもとに、彼は
えられていた。船がいた場所は、 アマゾン河口だったのである。この
∞
(
をモデルとしてアラパマ州で創設された黒人向け職業訓練校タスキー
﹁バケツを下ろす﹂
この演説の中で、人口に謄表したもう一つの比稔は、﹁社会的平等
つまり彼らに就労等の機会を提供すべきであると
方で南部黒人が﹁バケツを下ろす﹂べし、
、ギ師範産業学院(吋5
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訴えた。
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れるブツカ1 ・タリヴァ・ワシントン
一八五六年、ヴァ 1ジ ニ ア 州 の プ ラ ン テl ションに奴隷の
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説が大きな契機であった。彼はひとつのたとえ話から演説を始める。
のは、
そのワシントンが全国区の黒人指導者として注目を集めるに歪った
ブ ッ カ1
ワシントンのリンチ批判
一
O世紀転換期アメリカ南部における人種@ジェ
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はじめに
││﹁人種関係﹂ によって解釈することの意味
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導者として注目されるようになった。
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代校長に就任した。以来向学院の発展に尽力し、有力な黒人教育界指
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西洋史論集
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めに用いた、手と指の比鳴であった。
純粋に社会的なあらゆる事柄については、我々は指のように分かれて
いることができます。しかし相互の進歩にとって必須の事柄について
白人側から最大眼の利益を引き出し、黒人コミュニティの機会拡大に
貢献した現実主義的な指導者であるとする解釈が存在する。あるいは
披がむしろ黒人大衆の利害関心を反映する指導者であったと、穣極評
価する議論もある。また、公に見せる妥協的・融和主義的な立場とは
別に、密かに人種隔離立法などに対する訴訟活動を支援するなど、表
と裏の顔を使い分けるワシントン像を強調した研究が数多く登場し
た。その中でも特によく知られているのは、浩識な個人史料を渉猟し
ニOO六年に上梓されたマイケル・ルドルフ・ウエストによるブツ
は、我々は手のように一つなのであります。︹・:)我が人種のうち、
最も賢明な人々は、社会的平等の問題を扇動することが何よりも愚か
なことであることを理解しています。
この演説は、多数の白人と、少なからぬ数の黒人に好評をもって迎え
カl-T・ワシントン研究は、以上のような枠組みの前提を批判する
たルイス・ R ・ハ!ランによる一一巻の秀逸な伝記研究であろう。
られ、演説内容が全国の新聞聞に掲載された。こうしてワシントンは、
(522-えZS)﹂というパラダイムでアフリカ系アメリカ人の直
ようなアプローチを用いている。彼によれば、ワシントンは﹁人種関
係
くの議論が存在する。 その多くの議論は、﹁白人﹂と﹁黒人﹂ の人種
ブッカ 1 ・T ・ワシントンの立場の歴史的意味をめぐっては、数多
彼︹ワシントン︺が人種関係についての何らかの理念を有していたと
主義的であると理想化することを可能にしたのだと指摘する。﹁私は
定義することで、人種隔離やレイシズムを抱えるアメリカをなお民主
5
6
全国から注目を集める新しい黒人指導者の地位へと躍り出たのであっ
一九O 一年に刊行されて評判を呼んだ自伝﹃奴隷より立
関係によって編制されたダイコトミ l的な社会としてアメリカ南部を
述べたいのではない。私が主張したいのは、彼の理念そのものが人種
面 す る 問 題 を 捉 え 、 険 悪 な 人 種 関 係 の 改 善 を ﹁ 進 歩 ( 胃c
﹁ 印
)﹂と
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捉え、この枠組みの中でワシントンの言動の意義を解釈する、 とい﹀フ
関係であった、 ということである﹂ QE) と、ウエストは強調する。
アメリカ田市人文学の古典の一っともされている。
一方では、 ワシントンを妥協主義・融和主義
ウエストは以下のように主張する。ブッカ 1 ・T ・ワシントンは、
だと、彼は論じているのである。
物を評価するという枠組そのものが、ワシントンの一一言説戦略だったの
手法が前提されている。
世紀転換期において、 ワシントンが妥協主義的な態度を見せることで
他方には、白人至上主義が高揚し黒人に対する抑圧が高まった二O
究もある。
すなわち、人種関係を改善したのか悪化させたのかという準拠枠に基
は
的な黒人指導者であると解釈する議論があり、中には自由や人種的自
[b,担、
づいてワシントンをはじめとする黒人指導者たちの言動ないしその産
ちた
己決定権を追求する黒人の価値観から逸脱した存在として批判する研
上。
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点からレイシズムや人種隔離の問題を評価した。そして、 黒人が置か
人種関係という観点から物事を解釈するという視産を導入し、 その観
になり、 そして奴隷制の悪影響としての黒人の道徳的額廃を正すこと
は由人のみでなく黒人にも奴隷制の負の遺産への責任を負わせること
逆に、黒人の選挙政治への熱心な参加や奪われた選挙権の回復を叫
が黒人の進歩であり、 よりよき人種関係すなわち問題解決への道であ
ることで、ニO世紀転換期のワシントンは一世を風廃する黒人指導者
ぶことは、人種関係を悪化させるものであり、問問題解決ではないとワ
れた状態の相対的な向上を﹁進歩﹂と定義し、進歩によって人種関係
になった。そして、 ワシントン以後も人種関係の改善ないし悪化とい
シントンは批判する。だがウエストによれば、青年期のワシントンの
るとする一一一一口説を展開することを可能にしたのだという。
う観点からレイシズムの問題を測るという枠組自体は生命を保ち続け
行動をつぶさに再検討すれば、彼が再建期政治における平等と民主主
の改善が図られるとし、これを問題の解決であるとする言説を生産す
たのだと。 ウエストは人種関係一言説の意味をこのように語っている。
義の可能性にコミットしていた可能性を見出せるという。ワシントン
は演説や自伝を通じて、彼自身の過去とアメリカ黒人史の集合的記憶
ントンは人種関係の枠組を通じて奴隷制の記憶や自由の身となった黒
ワシントンなのだと、 ウエストは批判的に論じる。彼によれば、ワシ
人口に捨突させる摩史的役割を果たしてしまったのがブツカ1 ・T
持することを可能にするものこそが人種関係一言説なのであり、これを
ているにもかかわらずアメリカが民主的な社会であるとする仮定を維
ムや人種踊離、選挙権剥奪などの不正義を相対化し、人種差別を抱え
すなわち、棺対主義的に黒人の状況を評価することによってレイシズ
込んだ麗史分析を促す視座であり、そうした社会を編制する様々な要
てきた階級やジェンダl、セクシュアリティ等の歴史的諸条件を組み
組みによる叙述においては捉えきれなかった、あるいは不可視化され
の分析・解釈を行うことを志向している。それは、人種関係という枠
る歴史的状況における一言説的な構築物として捉えて、メタ・レベルで
研究に対して、人種関係という評価基準や叙述の枠組みそのものをあ
し、ワシントンの言動をこの基準に還元して評価を行ってきた従来の
人種関係概念をアメリカ黒人史の叙述の第一義的評価基準として前提
5
7
を書き換え、人種関係一一言説によって問題の所在と解決策を語ること
で、黒人指導者としての地位を白人のアメリカから承認されたのだ
人の状況を解釈し語ることによって、労働への軽蔑に代表される黒
素が織り成す歴史的状況における特定の人種的諸言説によって構築・
このようなウエストの議論は、︽白人/黒人︾のダイコトミ l的な
人・白人それぞれの道穂的類廃の深刻化という問題を設定した。それ
もしもジム・クロ iの待代に、自分の祖先の誰かをアフリカにたどる
ことのできる一人のシェアクロツパlが、問問難に打ち克って自分の土
地を購入することができたなら、たとえ︹元の︺土地所有者や債権者
たちが彼の生産性の大部分を搾取して利益を得ていたとしても、それ
はよき人種関係の証拠であるとされる。︹:山人種関係という考え方
は、分析における隔離の一形態なのである。(匂広)
と
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.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
ブッカー
西洋史論集
脱構築されたものが何であったかを明らかにしていくためにも、重要
は、賠級やジェンダ l、 セクシュアリティなどの争点を交えることを
の研究を踏まえ、特にワシントンによるリンチ批判一言説と﹁社会的平
通じて、大いに深化しているといえる。そこで本積は、そうした近年
とはいえ、 ウエストの議論にはいくつかの疑問点も見出される。
等﹂についての彼の立場の政治的意味を再解釈し、 ウエストの議論を
であるといえよう。
つには、 ワシントンがたびたび強調していた、 黒人および白人の道徳
批判しつつ補強することを目的としている。
(4) 現実主義者としてのワシントンの意義を評価する議論としては、
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大学出版部、一九七八年。ただし本稿での引用は兼子が独自に行った︺
(3) ワシントンを妥協主義者として位霞づける議論は、例えば、︿・匂
日り﹁山口}丘一PNwh応急めhh刊同)ミミ遺志ミさ抽出 入山内Nh 芝ミ 同凡的芯ミミ入品¥一MJNSお
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人解放窓懇の分裂111ワシントン、デュボイス論争を中心に﹂柴田三
千雄・成瀬治編﹃近代史における政治と思想﹂山川出版社、一九七七
年など。
、
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性や政治参加能力をカラ lブラインドな基準で公平に評価するよう要
求する主張をいかに解釈するか、 ウエストが明確には示していないと
いうことがある。
加えて、ジェンダiや階級など、黒人コミュニティ内の社会関係を
形成する人種以外の要素についての言及が少なく、同じ黒人であって
も階級や性によって異なりうるワシントンの一一一一口説の意味が必ずしも捉
えられていない。 そのため、 ワシントンやその他のアメリカ史上の黒
人指導者たちを評価する際にこれまで用いられてきた﹁融和主義か抗
議か﹂という二者択一的な枠組みを必ずしも解体できていない可能性
がある。以上の点は、以前の揺稿において検討を試みた論点である。
もう一つの開題として、 ウエストが論じる寵北戦争後の黒人と政治
の関係史において、﹁黒人の﹂権利・可能性・挫折に議論が隈定され
ているという点が挙げられる。再建期から一九世紀末にかけてのアメ
リカ高部政治史における人種間関係の擾雑さという、近年の研究では
非常に重視されつつある点を十分考慮に入れていないという問題であ
る。そのため、逆説的ながら、 ウエストの議論そのものが︽黒人/白
人︾のダイコトミiを棺対化しきれていない﹁分析的な人種隔離﹂状
態に陥っているという面も見受けられる。
しかしながら、近年の南部史研究における人種関係の複雑さの分析
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再 検 討l lタスキ iギ校をめぐるブツカ l ・T ・ワシントンの黒人
﹁自助﹄の展開﹂﹃西洋史学﹄第一五四号、一九八九年など。
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出尋問hRNU2lNEU(Z巾さJ
お、ハ lランによる一九八三年の伝記は、ピュ lリツァ賞を獲得した。
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件は一八八0年代に増加し始め、九0年代前半にリンチの数はピ!ク
に達した。とりわけ一八九一年から九四年にかけて、毎年少なくとも
一
O O人以上の黒人がリンチによって殺害された。
暗殺を含む殺人・暴行など他の暴力行為とは異なるリンチの特質
は、日本語において﹁私刑﹂と訳されるように、暴力行為を行う主体
が、正規の司法的手続を経ることなくコミュニティの公共的利害を代
表すると称して、正義の執行の名目で行われる超法規的な暴力である
という点にある。こうした暴力形態そのものは、必ずしも二O世紀転
換期の南部に閤有の現象ではない。司法・警察制度が不嬬な時代や地
域、とりわけ﹁フロンティア﹂的環境においては、馬泥棒等の様々な
犯罪に対処するために、自治の名の下に白壁一一日団が如組織され、治安維持
一九世紀末の高部において激増したりンチ事件は、以下の
に当たることは珍しくなかった。
しかし、
点において際立った特徴を示している。すなわち、加害者は白人男性
であり、犠牲者のほとんどが黒人男性であったこと、そして、暴力が
しばしば祝祭的な形態をとり、犠礼性と残虐性を増したということで
ある。最もスペクタクル的な性格の強いリンチ事件の場合、犠牲者と
なる黒人男性はコミュニティの広場に引きずり出され、白人の群衆に
よって拷問を受ける。この時しばしば男性器の切除が行われた。
は遺体を切り刻んで土産として持ち帰ることが多かった。
一八九九年
5
9
(
い
(7) 拙稿﹁男らしくバケツを下ろすiiiブツカ l-T・ワシントンの
﹁人種的引き上げ﹄イデオロギーにおける︽男らしき︾と階級﹂﹃歴史
学研究﹄第八四四号、ニO O八年。掠稿﹁ブツカ i-T・ワシントン
の政治的権利論における人種・階級・ジェンダ﹁北大史学﹄第四八
号、ニO O八年。
暴力と表象のポリティクス
階級@ジェンダ│@人種
lii
カi ・T ・ワシントンがアトランタで演説した一八九0年代は、南部
ながら火刑にされる。黒焦げになった遺体は引きずり降ろされ、群衆
後、木に吊るされた犠牲者は群衆に取り囲まれ、見物される前で生き
そ
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にアトランタ近郊で起きた黒人小作人サム・ホ 1ズ
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においてリンチ 23岳山口也事件が激増する時代であった。リンチ事
黒人は社会的平等を求めてもいないし求めるべきでもないとブツ
の
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ブッカー・ T ・ワシントンのリンチ批判(兼子
西洋史論集
門的{門可)
の社会学教授だった黒人社会学者・活動家の
ンチ事件について、当時、黒人向け高等教育機関アトランタ大学
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(﹀己山口
W-E-B ・ デ ュ ボ イ ス は 、 後 の 自 伝 に お い て こ う 回 想 し て い る 。
ジョージア中部の貧しい黒人サム・ホ!ズが地主の妥を殺尚一一口したとい
う。私は、明白な事実関係についての主張を、慎重に、道理を尽くし
色。町田口色q
て書き上げ、懐にジョエル・チャンドラ;・ハリス GO
H 田吋ユ印)宛ての紹介状を入れて﹁アト一フンタ・コンスティテュ i
山
シヨン(人史食誌芯のむき長ミなお)﹂紙のオフィスへと向かい始めた。だ
が、オフィスへはたどり着かなかった。途中で私は以下のニュースを
列乙
空手
長話
行法
す街
とぺ
いク
うタ
例/レ
もの
事ク
ミッチェル通りを下ったところにある雑貨屋に彼の拳が展示されてい
ス
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る、と。私は躍を返し、大学に一炭った。
た玄
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丁
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物手
の甲
別行
ようになった。各種のメディアを通じて
スペクタクル化されたリン
チは、 ア メ リ カ 人 の イ マ ジ ネ ー シ ョ ン に 浸 透 し て い っ た の で あ る 。
当時、 リ ン チ を 賛 美 し た り 必 要 悪 と し て 擁 護 す る 言 説 、 あ る い は 支
持しないまでもリンチが多発する理由を検討するジャーナリズム言説
は、白人暴徒がリンチを実行する原因としてひとつの現象を措定して
いた。それは、奴隷解放後の黒人男性が野獣化し、白人女性に襲いか
かり凌辱している、 と い う 現 象 で あ る 。 た と え ば 、 ニO 世 紀 転 換 期
ヴァiジ ニ ア 州 の プ ラ ン タ1兼 ア マ チ ュ ア 歴 史 学 者 フ ィ リ ッ プ ・ ア レ
グ ザ ン ダ1 ・ ブ ル ー ス は 、 以 下 の よ う に 黒 人 に よ る 強 姦 の 増 加 を 主 張
した。
強姦は、黒人たちが白人に対して犯す犯罪の中で最も恐るべきもので
てもたらされる速やかな処罰にもかかわらず高まっている。︹・:︺黒
ある。そして、強姦を続けようとする彼らの性向は、強姦に必ず続い
人は自身の性的快楽にとって未知な白人女性の魅力により興奮し、刺
激される。その魅力放に黒人は、いかなる障害があろうと、いかに犠
期のリンチ事件は新聞にとって一種の﹁商品﹂だっただけでなく、文
掲 載 さ れ た リ ン チ 報 道 を 自 に す る こ と に な っ た 。 また、ニO 世 紀 転 換
た。ニO 世 紀 転 換 期 に お い て は 、 南 部 諸 州 の 住 民 は 頻 繁 に 新 聞 紙 上 に
事件がなくなることはないと主張した。南部のリンチを無法行為とし
罪である﹁女性や子どもに対する強姦の犯罪が減らない限り﹂リンチ
た小説家トマス・ネルソン・ペイジは、﹁ほとんど黒人に限定された﹂
ま た 、 南 北 戦 争 以 前 の プ ラ ン テI シ ョ ン 生 活 を ノ ス タ ル ジ ッ ク に 描 い
牲を払おうと、その欲望を満たさんとするのである。
字通りの商品としても流通した。リンチされた黒人の遺体や、その遺
による白人女性強姦こそが﹁殺人や放火、大虐殺を全て合わせたより
て 蔽 し く 批 判 す る 雑 誌 編 集 者 ウ オ ル タ1 ・ハインズ・ペイジも、 黒人
れ流通した。一九世紀末以降にカメラが一般家庭にも普及すると、一
も、さらに白人男性の人種的感情を逆なでする﹂ものだと論じて、リ
体を取り聞む群衆の写真がそのまま絵葉書に加工され、大量に製造さ
あ様
般の白人市民がリンチを見物してその光景を撮影し、写真を保存する
6
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知ったのだ。サム・ホ Iズはリンチされ、私がそのとき歩いていた
つ相こ
リンチ事件の詳細は新聞を通じて広く公衆のあいだに広まっていっ
た三をう
。帯し
びた
、群
時集
にの
は見
見守
もその中にはそもそも無実の者も少なからず存在したことを明らかに
の嫌疑のうち強姦罪は全体のコ一O パーセント程度であったこと、しか
多くの寵史学的・社会学的研究が、リンチの犠牲者になった黒人男性
る見解が真実であるという前提に基づく議論を展開した。実際には、
ンチ激増の原因を黒人男性による白人女性強姦事件の増加に帰着させ
人女性﹂﹁家父長としての白人男性﹂像へとそれぞれ還元されて表象
利害の差異や階級的な分化は捨象され、﹁黒人レイピスト﹂﹁純潔な白
性のあいだ、白人女性のあいだ、そして由人男性のあいだに存在する
を、二一つの要素へと単純化していく。重要な点は、結果として黒人男
だという点にある。この神話は、南部社会編制の複雑さや立場の桔違
性・白人男性という一一一者によって構成される一種のエディプス的神話
まず黒人男性について見てみよう。 ロビン・ウィiグ マ ン に よ れ
している。しかも当時の白人女性強姦事件は、黒人男性ではなく、家
れている。だが当時は、﹁黒人男性が白人女性を強姦した﹂が故に
ば、奴隷解放は黒人男性を﹁財産﹂としての奴隷から、形式的には白
される点にある。
﹁リンチが発生した﹂とする因果関係を一認定する言説が繰り返し産出
人男性と同等の家父長約権威を主張しうる自由市民へと変容させたと
族の者を含む知人の白人男性によるものが大半であったことも指摘さ
されたのである。この言説を、黒人レイピスト神話と呼ぶこともでき
いう。男性性における黒人男性との同等性は、白人男性権力にとって
格を強めたと同時に、加害者が白人男性、犠牲者が黒人男性という明
次元(男性性の象徴としての男性器)へと還元され、さらに解体(殺
されたリンチ暴力の儀礼を通じて、黒人男性は特殊性としての身体的
6
1
よ﹀つ。
白な人種的性格を示すようになったのか。従来の研究の多くは、白人
害・火刑と男性器の切離)された。これによって、白人男性性のみが
の恐れを生じさせた。この同等性を拒否するために、スペクタクル化
至上主義体制が黒人を周縁化・従属化する人種的統制の手段としてリ
完全で普遍的なシティズンシツプを体現するという虚構を再確立した
一
O 世紀転換期に激増したリンチは、残虐なスペクタクル的性
ンチが用いられたことを強調しており、この点については疑いないで
それは、当時のアメリカ黒人男性の中に、白人中産階級に同化しう
のだと、ウィ lグマンは指摘する。しかし、なぜ黒人男性性は二O世
この間いを検討するためには、黒人男性による白人女性強姦と白人
る経済力や生活様式を獲得した、 つまり同等性を積極的に主張しうる
あろう。だが、 な ぜ そ の 手 段 が 黒 人 レ イ ピ ス ト 神 話 と い う 、 ジ ェ ン
男性による報復という、黒人レイピスト神話の因果関係言説が、いか
層が登場したからであったと推測される。奴隷制廃止による自由民と
紀転換期にリンチの暴力儀礼によってそれほどに身体性へと還元され
なる社会として南部を想像しようとしていたのかを考察する必要があ
田周囲の環境に恵まれるという
しての地位を得て以来、才能と幸運!11
ダI及びセクシュアリティを不可分な構成要素とするモラル・パニッ
る。黒人レイピスト神話の最も基本的な特質は、 黒人男性・白人女
る必要があったのだろうか。
な
ク一一一一口説を生み出し、なぜ暴力が残虐さと儀礼性を高めたのだろうか。
ぜ
歩)
.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
ブ、ツカ
西洋史論集
意味だけではなく、無一文に近い状態の解放民ではなく奴隷制廃止以
前から個人的に解放された自由黒人の子孫として一定の経済的・文化
的資本を相続していたという意味での幸運も含むilsにより実業家や
自営農民や専門職として身を立てることに成功した中産階級的な黒人
たちが、少ないながらも徐々に層の厚みを増していった。
彼らは中産階級的な生活様式を実践することを通じて、少数ながら
可視的な存在として南部社会に登場した。二O 世紀初頭の黒人中産階
級向け雑誌が盛んに取り上げた﹁新しい黒人﹂男女像は、当時の白人
ことができる。
スミスの言葉によれば、 黒人の人種的特性としての﹁悪しき熱情﹂が
ほとんどの黒人にとって、監獄も強制労働も大した恐怖ではない。ど
ちらにおいても、黒人は食べ眠ることができる。(:・︺翌職者や教師
のようなよき階級ですら、良心の答めにより践践することはなく、阿
賓の念に悩まされることもないのである。︹:)黒人の努は白人女性
を欲し、手に入らないときには子どもを得ょうとする。これが次世代
の黒人においてどれほど広く見られうることになるかはわからない
が、しかし疑いなく、安全にできるならばそうしようとする者は、数
千人にのぼるであろう。
けがつかない容貌であった。 一つの例を挙げれば、 黒人中産階級男性
沸き立つとき、階級に関係なく黒人男性はレイピスト化するというの
中産階級男女と (肌の色を除けば)外見上は階級的な指標による見分
一九世紀からこO 世紀初頭
的にも実質的にも示し(中には首を下に曲げることができないほど高
方で、西瓜を食べて翰快に歌い踊って暮らす、愚かで陽気、白人には
ニO世紀転換期は黒人レイピスト神話が霊場した時代であるが、他
秩序を撹乱した。それ故に、その存在を視角的に否定するリンチの暴
うな黒人中産階級男性の存在は、白人至上主義者が想定する人種関係
ト的黒人男性像も、陽気で知性を欠く黒人男性像も、 いずれも中産階
ション生活の回想録などを通じて、大量に流通した。ただ、 レイピス
た、一克奴隷所有プランタl家族の手によるアンテベラム期プランテi
6
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が身に着けていたシャツの硬い立ち襟は、
く硬い襟もあったてシャツに襟を付けない労働者階級と自己を社会
従順な下層階級としての伝統的なサンボ (
ω
ωヨσ。)的黒人男性ステ
である。
的に差異化するための重要な外見上の指壊だった。換言すれば、硬い
レオタイプも、
までの白人中産階級男性にとって、自己の身体性の規律と抑制を象徴
立ち襟の着用は、自人中産階級男性と黒人中産階級を分かつどころ
るいはヴォ lド ヴ ィ ル や 後 に は 映 画 の よ う な 商 業 娯 楽 を 通 じ て 、
力儀礼と、その正当化一言説としての黒人レイピスト神話が産出された
級化した黒人の存在を積極的に否定するカリカチュアであることは疑
一九世紀末以降に絵葉書や玩異・景品・商品広告、あ
か、むしろ呂に見える同一性を表しうる指標として機能した。このよ
のである。黒人男性の多様性を捨象し、一枚岩的に凶暴なレイピスト
このような、二元的でありながら、黒人の階級分化を否定し黒人男
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作家チャールズ・スミスによる一八九二年の雑誌記事での論考に見る
ないしその予備軍として表象するこの神話の典型的な言明を、南部の
ま
一九O 七 年 、 連 邦
導者に見出すことができる。 サ ウ ス カ ロ ラ イ ナ 州 知 事 や 両 州 選 出 連 邦
戦略の典型を、二O 世 紀 転 換 期 を 代 表 す る 二 人 の 南 部 白 人 至 上 主 義 指
性の白人性との同一性を拒否する点においては一貫した黒人男性表象
なる黒人である。﹃豹の珪﹄ で は 腐 敗 し 白 人 女 性 を 脅 か す 黒 人 ・ 農 民
使と、 凶 暴 化 し て 南 部 政 治 の 支 配 を 狙 い 、 白 人 女 性 を 強 姦 す る よ う に
ら一貫して無学だが主人公の白人男性に忠実な﹁分をわきまえた﹂否
る。どちらの作品にも、 黒 人 は 二 種 類 し か 存 在 し な い 。 奴 隷 制 の 頃 か
上院議員を歴任したベンジャミン・テイルマンは、
連合政権に支配された市政を主人公率いる白人集団が暴動によって打
ンが捕らえて殺害するシl ンが、それぞれ物語のクライマックスと
性 を 強 姦 し た 元 奴 隷 の 黒 人 兵 を 主 人 公 率 い る ク 1 ・クラックス・クラ
議会の議場において、堂々とリンチ擁護の演説を展開した。
白人女性を凌辱する人の形をした獣に、峻厳にして悲しみをその顔に
議えた白人の男たちが死を与えるとき、そこにあるのは︹:ム哀悼、
倒するシ1 ン 、 そ し て ﹃ ク ラ ン ズ マ ン ﹂ で は 主 人 公 の 幼 馴 染 の 白 人 女
あるいは葬儀として参加する感覚なのです。彼らは最悪の過ち、あら
なっている。
の人気を誇る大衆小説家となった。どちらの作品も、南北戦争終結後
説 ﹁ 豹 の 現 ﹂ と 一 九O 五年の ﹁クランズマン﹄によって、
一躍全国芭
一九O 二年の小
スの聴衆に訴えることで、南部のリンチ行為への正力をかけようと試
るアメリカ南部白人男性こそ真に非難されるべき野蛮であるとイギリ
ストのアイダ・ B ・ウェルズはこの可能性を利用し、 リンチに参加す
ば一九世紀末から一一O世 紀 前 半 に か け て 活 躍 し た 黒 人 女 性 ジ ャ i ナリ
立における文明の地位から転がり落ちる可能性を苧んでいた。たとえ
的暴力を実践することによって、白人男性は︽文明/野蛮︾の二項対
次に白人女性について見ていこう。黒人男性に対してリンチの儀礼
ことを課題としなければならなかったのである。
点では共通した黒人男性表象のスティグマと対峠し、これを克服する
な愚か者という、両極端でありながら黒人中産階級の存在を否定する
のアメリカ黒人、特に中産階級層は、危険なレイピストと陽気で従願
対 等 な 黒 人 中 産 階 級 男 性 は 存 在 し な い 。 逆 に い え ば 、 ニO 世 紀 転 換 期
テイルマンの世界にもディクソンの世界にも、白人中産階級男性と
ゆる犯罪の範礁の中で最も極惑な犯罪に対する復即時一一﹃をしたのです。
他方でテイルマンは、﹁古きよき﹂黒人、 つ ま り 白 人 に 隷 従 す る 身 分
に満足するような黒人男性を、 ノスタルジックに称揚する。 それは、
私が子ども時代に共に遊んだ黒人であり、自分が劣等であることを
知っており、平等を主張するなどと考えられなかった黒人のことで
す。南部全域に、こうした黒人に対する敬意と愛の感情が普遍的に見
られました。そんな黒人は今ここにはいませんが、私の家にはそんな
黒人の写真があります。彼を﹁オールド・ブラック・ジョ l﹂と呼べ
るかもしれません。
の 南 部 ( 特 に ﹁ 豹 の 斑 ﹂ は 南 北 戦 争 後 半 世 紀 の ノ l スカロライナ州の
みた。
あるいは、小説家トマス・ディクソン・ジュニアは、
歴史をモチーフにしている)を舞台にした由人至上主義的小説であ
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ブッカー
西洋史論集
的としては文明の防衛へと昇華されるのだという。白人女性の純潔を
う要素を導入することで、リンチは手段としては野蛮でありながら目
の指摘によれば、白人女性の純潔を黒人レイピストから防衛するとい
蛮化ということを回避するという機能があった。先述のウィ lグマン
に、黒人男性が白人女性強姦容疑で起訴された場合、告訴した白人女
、、司、 一 九 世 紀 末 に は ス ペ ク タ ク ル 的 リ ン チ が 横 行 す る と 同 時
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性と同棲する下層階級の白人女性に向けられる現象がしばしば見られ
ク1 ・クラックス・クラン
このような状況は奴隷制の廃止によって一変したが、再建期にはなお
合、法廷において日常の性的品行が厳しく問われることも多かった。
文明の粋として称揚するこの言説は、多くの白人女性にとって二一面性
性は階級や日常の性的な振る舞いにかかわりなく、白人女性であるこ
だが、黒人レイピスト神話には、 リンチの実行による白人男性の野
を有していた。一方では、女性史家ジャクリン・ホールが論じるよう
と自体によって純潔を推定されるようになった。奴隷制下の︽奴隷/
の暴力的制裁が黒人男
に、他方でその純潔を白人男性によって﹁保護﹂されるべきものとし
自由人︾の安定した境界線に代わるものとして、︽白人/黒人︾の区
EM向山内}山口)
(間口問
て定義し、白人女性の家父長への従属を要求し彼女らの公的領域への
分が最重要な境界線と化したのである。
最後に、白人男性のあいだの階級的対立や利害の相違も、黒人レイ
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進出を制約することにもなった。黒人レイピストの恐怖という神話と
リンチ暴力の問題は、白人性の特権と女性の権利のあいだのディレン
他方、黒人レイピスト神話において黒人男性の階級分化が否定され
名誉を防衛する点に共通の利害を見出すと、南部白人指導者は主張す
い︾南部白人男性は、立場や地位の違いに関わらず白人女性の純潔と
ピスト神話においては昇華されることになった。あらゆる︽男らし
たように、白人女性の階級的差異はこの神話において考議されず、黒
る。たとえば南部で著名な教育者だったアティカス・ G- へイグッド
マとして南部白人女性たちを悩ませていくことになる。
人レイピストの脅威と対崎する限りにおいては、全ての白人女性が白
は、リンチが最も頻発していた一八九三年に、次のように述べた。
l 、妻、姉妹、娘たちの名誉に関
南部人たちは常に、その女たち │ │ 母
して最も敏感な人々である。南部女性の純潔を少しでも疑う一一言は、
多くの男たちの生命を犠牲にしてきた。どんな南部の陪審酉も、女性
を当然の保護者として守るために人を殺した男を有罪にすることはほ
とんどしないだろう。︹:︺犯人が黒人であったがゆえに、彼らの怒
りはさらに激しかったことは疑いない。︹:・︺﹁血は水よりも濃し﹂な
のだから。
人であるという理由で一律に文明的な純潔性の保持者として奉られ、
白人男性権力による保護の対象とされていく。アンテベラム期におい
ては、黒人男性が白人女性を強姦した容疑で起訴された場合、容疑者
の黒人男性が無罪とされたり、有罪判決が下っても知事による思赦を
得る事例が少なくなかった。それは黒人男性の大半が奴隷だった時
代、処刑は﹁財産﹂ の損失になるため、奴隷主がしばしばその権威を
用いて無罪判決が下るよう働きかけたり、知事から思赦を獲得したり
したためであった。また、告訴した白人女性が下層暗級であった場
6
4
では、﹁女たちの名誉一﹂を守るために発露する﹁血﹂ の共通性なるも
言説を選挙運動において盛んに流布させた。こうしたキャンペーンは
政権が黒人男性の白人女性に対する性的欲望を掻き立てているとする
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のによって不可視化された、白人男性のあいだの椙違とは何だったの
しばしば功を奏し、 ノl スカロライナ州ウイルミントン
白人男性有権者の大量離反によって連立政権を崩壊させることに成功
で一八九八年一一月の投票日直前に発生した人種暴動のように、
ノスタルジツクな農本社会などではなく、南北戦争後の市場経済の浸
する事例が相次いだ。黒人レイピスト神話は、﹁白人男性﹂が家父長
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透や産業資本の流入による社会変動を背景に、実際には大プランタ 1
として﹁白人女性﹂を﹁保護﹂するという、階級的利害対立を越えた
一九世紀末の南部は、一枚岩の由人至上主義体制によって安定した
と小規模自営農民・小作人・シェアクロッパ!、あるいは産業資本家
逆に、民主党内で主流派の保守エリートに対抗する勢力が、同様の
︽男らしき︾の遂行という共通利害を形成した。
同戸与 O﹃)や農民
一九世紀末は南部諸州で労働騎士団(間三mygo
言説を用いて挑戦する事例も見られた。典型例といえるサウスカロラ
と労働者階級が激しく衝突していた。それは選挙政治の次元にも表出
のめ)、ポピュリスト (
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イナ州の場合は、民主党主流派の保守層に対して農民運動を背景にし
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ぇ、生産者市民としての団結を訴え、人種的一偏見の限界を字みつつ
業資本家や金融資本、大規模プランターによって脅かされていると訴
体現する市民という一一一一口語によって自己を表現し、この美徳の基盤が産
も稀ではなかった。労働騎士団やポピュリストは、生産者的な美徳を
かも、こうした運動に参加した白人たちは、黒人の協力を求めること
や労働者を糾合しようと試みた。方向性は逆のように見えるが、ここ
しての白人男性の︽男らしき︾を発揮するよう訴えて白人の貧困農民
らは白人の敵である、 と攻撃することを通じて、白人女性の保護者と
策によって黒人男性が白人女性を強姦する危険を高めており、故に彼
として民主党内闘争を勝ち上がったiーーが、主流派エリートはその政
テイルマンも、彼自身は富裕ブランクーであるが、反主流派の指導者
た二O 世 紀 転 換 期 の 反 主 流 派 勢 力i l先に紹介したベンジャミン・
も、両人種運動として展開した。ときには白人の対抗的政治勢力が黒
でも政治的対立は、階級対立の言語よりも、白人男性・白人女性・白
配する民主党に挑戦する対抗的政治運動が勃興した時代であった。し
人の支持する共和党と連合して民主党から政権を奪取する州や市が、
人の敵(この場合は黒人男性と畏主党内の主流派由人エリート麗)
(お)
甫部各地で見られたのである。当時の南部は社会的・経済的・政治的
かくして、 アンテベラム期に見られたような、家政を統べる家父長
三角形的言説によって分節化されたのである。
こうした状況下で南部政治支配の維持・奪回を自指す民主党は、両
としての独立性と名誉に立脚する自人男性たちの、指級格差を越えた
に緊張に満ちた時代であった。
人種共簡による連立政権を非難しその正当性を攻撃するために、連立
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立場を取っていた。彼は、白人女性を強姦する黒人男性への制裁とし
てリンチを正当化する説を否定するために、現実にはリンチされた黒
人男性の大半は強姦の犯人でも容疑者でもなかったことを強調した。
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一九O 一 二 年 の 全 国 ア フ ロ ・ ア メ リ カ ン 評 議 会 ( Z E Z E ] ﹀
﹀ヨゆ吋町内け内山口打。己口三]) において、彼はこう演説した。﹁最も慎重で体系
的な調査﹂によれば﹁リンチされた者のうち、女性に対する暴行罪を
問われていた者は三五パーセントに過ぎない﹂。しかもそのうちの何
人が本当に強姦を犯していたのかも疑わしい。﹁この三五パーセント
一九O 四年にワシントン
の全員が有罪だった﹂と主張することは﹁法廷よりも暴徒の方が誤り
がない﹂ と主張するに等しいではないかと。
が発表したリンチへの抗議声明には、﹁このこ週間で我が人種に属す
る一ニ名が火実りにされ、うち一名は女性でありました。三人のうち、
白人女性の虐待とわずかでも関係する罪を問われた者はいませんでし
のほとんどが実擦には強姦犯ではなかったことを、数字を具体的に挙
一九O 八年の声明においても、リンチの犠牲者
ブッ力l@T@ワ シ ン ト ン の リ ン チ 批 判 と 階
げ て 強 調 し た 。 こ こ 六0 日間でリンチされたニ五人の黒人のうち、
た﹂と書かれていた。
級・ジェンダ!一一一日説
していた。彼の反リンチ論は、常に彼が抱き、そして同時代の多くの
ブツカ 1 ・T ・ワシントンは、 リンチに対しては批判を幾度も公に
た一ニ六名の犠牲者のうち﹁たった一つの事件のみ、リンチされた者が
聞の編集者に宛てた一九一三年の書簡においても、前年にリンチされ
繰り工場への放火の疑いなどであったという。 ワシントンは北部の新
たった四件だけが婦女暴行の容疑であり、他は殺人が九件、一二件が綿
黒人指導者たちに共有されていた﹁人種の引き上げ﹂と呼ばれる理念
強姦の罪を問われていたに過ぎない﹂と強調していた。
という印象に対して、批判を加えようとした。
一九O九年の著書にお
さらに彼は、黒人が特に強姦を犯しやすい性向を有する人種である
と不可分なものとして構成されていた。
奴隷制廃止後の黒人男性が野獣化し白人女性を頻繁に強姦している
というモラル・パニック的一言説に対して、 ワシントンは常に批判的な
6
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歩)
.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
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西洋史論集
罪発生数を他集団と比較した。この比較によると、 黒人の強姦罪数が
いて、彼は一九O 四年の統計資料を用いて人口一 O 万人あたりの強姦
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刀 ワシントンのリンチ批判論の特質は、 リンチ正当化の言説と
したのである。
犠牲者になりうるという恐怖に萎縮させられているという現実を非難
た一部の黒人男性を制裁するという名目で、 黒人男性全員がリンチの
ために、黒人男性を二種類に分類する言説を幾度も展開した点にある
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一・八件、 アメリカ生まれ白人は0 ・六件、外国人移民の平均が一
O件であるが、 イタリア人移民は五・三件、 メキシコ人移民が四・八
実態のずれを指摘する点よりもむしろ、リンチあるいはリンチされる
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南・東ヨーロッパ出身移民よりも少ないことを示し、﹁他の諸人種の
といえる。彼は黒人を二つの階級に区分した。
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(オーストリア支配下の諸民族を含む) オーストリア人が三・二
可能性という脅威による威嚇を黒人男性全てに向けることを非難する
ヰ下、
ハンガリー人移民がニ・ O 件 な ど 、 黒 人 に よ る 強 姦 罪 発 生 数 が
男たちよりも黒人の男たちにおいてより︹女性への暴行罪︺を犯す傾
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。 σ022門凶器括的)﹂であり、 もう一つは﹁犯罪的な階級﹂あるいは
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、
件
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向があるという主張﹂に対して反駁した。リンチ正当化論と実態のず
﹁怠惰な階級﹂である。披の階級概念が端的に表出した一一一一口明として、
ワシントンの階級一一一一口説は、単純に生産手段の所有の有無や収入などの
黒人には二つの階級が存在します。アラパマの黒人は大半が平和的で
遵法的な市民です。︹:・︺しばしば、人々が黒人一般を怠惰で不道徳
な人種であると語るのは、過ちであると忠われます。彼らが述べてい
るのは、正しくはほとんどの場合、黒人という人種には怠惰で不道徳
な騒が存在するということです。(・:︺罪を犯しているのは大概がゴ
ロツキ・博徒・酔っ払い、武器を隠し持つ議、いかがわしい応に居付
く連中です。︹・)犯罪を犯さぬ階級の黒人は、家を持ち、納税者で
あり、自分で商売をしているか定期的な雇用があり、あるいは専門的
な仕事に就いていて教育があります。
げることができる。
一九O 六年にアラパマ州モントゴメリで聞かれた共進会での演説を挙
一つは﹁よき階級
れは、 ワシントンが繰り返し指摘する点であった。
そしてワシントンは、自人女性を襲う黒人レイピストの恐怖という
一言説そのものが人種関係の緊張を生産し、現実には必ずしも存在しな
い罪に対するリンチを誘発する可能性をも論じた。一九O 七年、ヴア
ンダービルト大学における講演で、彼はこう述べた。﹁アラパマ州知
一挙は最近の公の演説において、彼の政権下で少なくとも五人の黒人
が、無実であったにも関わらずリンチされたと述べています﹂。そし
て黒人レイピストの脅威という構鴎を一扇動することで﹁多くの臆病な
白人女性に、 もし道で特に見知らぬ黒人と遭ったら、その黒人が暴行
しようとしているが如き印象を与えている﹂可能性を憂慮した。結果
として﹁道で出会う無実の黒人が窓口を加えてこようとしていると思い
して興奮した暴徒が黒人男性を殺害する事例すら存在すると、ワシン
経済的指壊によって階級を決定するものではなかった。職業・生活様
込んだ人﹂が恐怖を覚えて逃げ出し、黒人の犯罪への恐輔が一人歩き
トンは批判した。その結果として、白人女性に対する強姦の罪を犯し
7
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9
頭にかけて多くの中産階級的な黒人指導者たちが自己を表現するため
一九世紀の末から二O世紀初
が、不可分に結びついて、健全さと異常性のダイコトミーを構成する
式・経済的状態・学歴などの要素と、犯罪的性向などの道徳的な次元
に彼はリンチや人種暴動などの暴力を非難する文章でこう強調した。
暴行する犯罪を犯した者﹂はほとんど存在しないと主張した。四年後
誌記事で﹁産業学校や大学で教育を受けた﹂黒人男性のうち﹁女性を
を与えるようなことはしないと繰り返し述べた。彼は一九OO年の雑
象となるような犯罪を犯すことはない、 つまりリンチを実行する口実
欠の構成要素として用いられていた。彼は一八九七年、ある黒人新聞
このようなワシントンの階級的一一一一口説は、彼のリンチ批判論にも不可
年の論考において、彼は以下のように指摘した。ミシシッピ州マ l
罪が犯されることは稀である、ということです﹂。あるいは一九O 九
﹁なにより明白なのは、教育があり、財産を所有する黒人によって犯
言説であった。このような階級一一言説は、
に用いたものであった。
のインタビュ i に対してこう断言した。リンチの犠牲者は﹁必ずと
の ホ リ l ス プ リ ン グ ス (出。ニ可
シヤル郡(沼山門岳山口
ω日)ユロ間判的) では﹁南北戦争以来一度しかリンチが起きたことがない切
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ロロ同可)
いってよいほど浮浪者であり、財産も地位も持たない男たちでありま
一九O 七年に開催されたヴァ 1ジニア州の博覧会での演説にお
なぜ人種関係が平和的なのかを彼が尋ねたところ、地元の白人も黒人
の中で獲得する﹂知識しか持たない者たちによって犯されている。南
とんどは財産も家も所有せず、﹁都市スラムや刑務所や集団強制労働
﹁暴徒を匝結させ、暴力の口実を与えることになるような犯罪﹂のほ
るいは一九一一一一年の書簡において、彼は以下のように述べている。
る犯罪﹂を犯す者は﹁ほとんどの場合、無知であります﹂。そして一
罪は無産で無学な黒人が犯すものであり、﹁自己抑制の欠如に起冒す
のであり、これは黒人にも当てはまる。リンチを引き起こすような犯
のように主張していた。﹁最も教育があるところで最も犯罪が少ない﹂
してきた﹂ のだと、 ワシントンは論じた。
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す
﹂
。
いて、 ワシントンはこう訴えた。罪を犯した黒人がリンチされると
とに起因している﹂と答えたという。そしてホリ 1 スプリングスの
も﹁マーシャル郡では多くの黒人農民が自身の農場を所有しているこ
人によって犯されるものであり、彼らの多くの場合は愚鈍であり、こ
オッド・フエロ lズ財務担当者は﹁地元銀行に二O 万ドルもの預金を
き、﹁この犯罪は家も銀行日産も職も国定した住所もない浮浪する黒
いウイスキーを飲用することでさらに強調されるのです﹂。ぁ
部は黒人を﹁農民や大工や鍛冶屋にするような学校﹂を軽規すること
八九二年のピ iク以降リンチの件数が減りつつあるのは﹁南部におけ
中産階級であって、 リンチを誘発するような犯罪を実際に犯す下層階
だがワシントンはこうした言明とは逆に、 リンチで苦しむのは黒人
一九一三年の書簡で彼は次
で、犯罪者になるよう仕向けているのだと。彼の言明が農民や職人な
他方でワシントンは、中産階級化した黒人は決してリンチ暴力の対
明らかである。
る富・産業・教育・個人的自由の着実な成長﹂によるのだと。
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どの﹁よき措級﹂と犯罪的な階層へと黒人男性を二分していることは
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.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
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西洋史論集
る。リンチの恐怖は﹁いくつもの郡から最も価値ある黒人労働力を剥
される黒人は﹁倹約と勤勉によって家と財産を得てきた人々﹂であ
多く﹂がコミュニティから追放されてきた。多くの場合、暴徒に脳ま
たちによる﹁無法の支配﹂によって、﹁黒人のうちでも最上の人々の
級的黒人ではない、 とする一言説をも展開していた。南部のリンチ暴徒
るべきであると。リンチに抗議する一九O 八年の声明において、
しすぎることなどないと我々が考えている﹂ことを世界に向けて訴え
を凌辱せんとするいかなる人種の卑劣漢に対しても、法的な刑罰が厳
する口実を与えてはならないことを教えるべきである。そして﹁女性
き﹂であり、黒人の大部分が﹁怠惰な犯罪者である﹂とレッテル貼り
ぎ取り、くずのような連中を残している﹂と。
述べた。﹁あらゆる善良な市民﹂は﹁怠惰で悪徳に満ち賭博に溺れる
ントンは﹁よき階級﹂にあたる楽人指導者たちがすべき努力について
一九一二年の雑誌記事
で、彼は以下のように論じた。﹁黒人が犯罪を犯した場所で、無実の
ような層﹂を捻去するべきである。 そして、
もたらしているからであると、彼は強調したのである。
そのような努力が必要な理由は、﹁怠惰な麗﹂こそがリンチの火種を
黒人のうちのよりよき層は、特に都市においてその影響力を行使する
ことによって、恒常的で安定した職業や住所を持たず佼知のみによっ
て生きているような怠惰な層が、改善されるかあるいは何らかの方法
で除かれるかするよう、努力しうるのだということを述べておかなけ
れば、公正ではないでしょう。
者がリンチされ、真犯人はリンチを逃れてさらなる犯罪を犯す﹂事例
すらある、と。ワシントンのこうした言説は、先述の主張とは矛盾す
るようにも映る。だがどちらの言説も、 黒人を﹁よき階級﹂と﹁犯罪
的階級﹂のごつに区分し、前者を擁護し後者を批判することを通じて
リンチを批判する基本構造において共通している。これはむしろ、ワ
シントンがリンチ正当化論への反論として、黒人のあいだに階級的区
分を立てる一一一一口説を重視していたことの表れともいえる。
ワシントンは﹁よき階級﹂に属する黒人指導層に、彼らの対極とし
て設定された﹁犯罪的階級﹂を教化・規律し、道徳的に引き上げてい
全階級が団結する﹂ことであり、特に﹁犯罪の起源となる怠情で白蜜
つは﹁犯罪が消滅するような公衆感情を創出する真一塾な努力のために
パマ州モントゴメリの新聞に寄せた。リンチ問題を解決する方策の一
ンチの犠牲者の共通点は、故意であろうとなかろうと何らかの意味で
そうとはいえない。 レオン・リトワクの指摘するところによれば、リ
人男性たちなのか、彼らの行為に原因があるのかといえば、必ずしも
な、安定した職業に就かず定住もしない下層階級の移動労働者的な黒
リンチの犠牲者が本当にワシントンが﹁犯罪的階級﹂と呼ぶよう
落、目的意識もない階級﹂を許してはならないのだと。全国アフロ・
白人至上主義体制に対して挑戦したと白人の自に映った黒人であると
一九O 一
年
、 ワシントンは以下のような声明をアラ
アメリカン評議会における一九O 一一一年の演説で、彼は黒人指導者の責
いうことだけであるという。実際の犠牲者の中には、 そもそも犯罪を
くことを求めた。
シ
務をこう論じた。同胞黒人、特に若者に対して﹁怠惰と犯罪は止むべ
7
2
ワ
の評判を得ていた。しかし事件後は地元紙の報道において地主の妻を
殺害してしまうという事件を起こす前、地元では真面目で総明な農夫
う保障にはならなかったことを指摘している。 ホ1ズは誤って地主を
ホiズのリンチ事件を例に、地元の評判がリンチされないで済むとい
W- フイツツヒュ i ・プランデイジは、第二節で紹介されたサム・
か経済的に成功した、あるいはしつつある黒人もいるという。また、
犯していない者、 リンチされた理由が全く不明な者、下層階級どころ
ことを自身の責務のひとつとすべきであります。もし彼らに触れこれ
なごろつきたちを改善するか、世界のどこか別の場所へと移動させる
らが指導者たち、
アイスでの集会で以下のように述べた。﹁ムユ夜私が一訪問りかけている我
要とした。
ティ内の﹁犯罪的階級﹂を﹁よき階級﹂が道徳的に規捧することを必
級﹂の黒人による自己表象戦略が成功するためには、黒人コミュニ
知で怠悟、不精な者たちであります﹂と。そして、こうした﹁よき階
ワシントンは、彼の経歴のかなり初期の段階から、﹁よき階級﹂に
げ、面目を汚すことになるでしょう﹂。
に牧師、教師、弁護士、医師、実業家は、犯罪的
一九O 九 年 に テ ネ シ ー 州 を 訪 問 し た ワ シ ン ト ン は 、 メ ン
凌辱した凶悪で粗暴な黒人として扇情的に書き立てられたという。っ
を変革することがなければ、彼らはこの町の我らが人種全体を引き下
ノ、
η リンチされる以前の経済的・物質的なステータスそのものは、
宇小
必ずしも誰が犠牲者になり誰がならないかということを表す指標とは
(孔)
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、
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し
、刀宇八し
タイプの者たちによって測られるべきではありません﹂。ここに、盟十一'
が生み出せる最上の層によって判断されるべきであり、人種の最悪の
チャ!ルストンで行った演説において彼はこう訴えた。黒人は﹁我々
一九O 一 年 に サ ウ ス カ ロ ラ イ ナ 州
ストという黒人男性全体に課せられた否定的ステレオタイプを克服す
て白人に認められ、 リンチ正当化論の根拠にもなっていた黒人レイピ
返し展開した。それは、 それによって前者が黒人を代表する存在とし
黒人のあいだに﹁よき階級﹂と﹁犯罪的階級﹂を区分する一一言説を繰り
と惰弱の習慣の代わりに道徳的スタミナを﹂もたらす、すなわち黒人
の代わりに椅一一鹿な校舎での六ヶ月や八ヶ月の授業を、そして不誠実さ
有を、借金の代わりに銀行口座を、ぼろぼろの小屋での三ヶ月の授業
体を革命化・再生﹂し﹁一部屋きりの丸太の借家の代わりに住宅の所
学院の卒業生たちが黒人コミュニティ指導者として﹁コミュニティ全
部の進歩に貢献しうる存在であることを証明すると同時に、これらの
﹁ハンプトン、 タスキ1ギその他の学院﹂は、﹁教育された黒人﹂が南
刊行された会衆派教会系雑誌において以下のような論考を寄せた。
ステレオタイプが改善されることを期待していた。彼は一八九一年に
よる黒人コミュニティ全体の引き上げによって白人の抱く否定的黒人
人を二つの階級に分類する彼の一一一口説の帰結が明らかになっている。彼
指導者層による下層階級の引き上げの成果を提示することによって、
それにもかかわらず、あるいはそうであるがゆえに、 ワシントンは
は黒人男性全体に課せられた否定的ステレオタイプの責めを﹁犯罪的
南部自人は黒人教育への﹁感情や態度﹂を変えつつあるのだと。
ることを期待したからである。
措級﹂に負わせていく。﹁犯罪を犯すのは教育ある黒人ではなく、無
7
3
歩)
ブ ッ カ ー .T.ワシントンのリンチ批判(兼子
西洋史論集
宅その他の財産を獲得すること。銃を持ち歩き暴力的な喧嘩等に参加
たりせず、自己の欲望や熱情を抑制すること。それによって定職と住
ばしば見られるように、勤勉と倹約の美徳を実践し、飲酒して酪面し
は、以下のようなものであった。これまで引用してきた彼の発言にし
あり、後者が前者の道徳的引き上げによって獲得すべきとされた徳目
て、勤勉・倹約・節制・貯蓄を通じた経済的な向上、究極的には経済
の成果を我が物とし蓄積することを可能にする個人財産権に立脚し
思想は、市場において個人が自由に労働契約を結ぶ権利と、その労働
ある。 アンテベラム期に形成され、
するとされる徳吉は自由労働イデオロギーに則った典型的な価値観で
以上のように﹁犯罪的階級﹂との対比において﹁よき階級﹂が体現
を欽んだり火器を持ち歩くことを止めさせる﹂ょう訴えた。
したりといった行為を避けること、などであった。たとえばワシント
的独立を達成することを称揚し、これを通じて社会の物質的進歩と繁
ワシントンにとって﹁よき階級﹂と﹁犯罪的階級﹂を区分する線で
一九一一一年にアラパマ州で聞かれた共進会で、以下のような演
栄がもたらされるとするものであった。自由労働イデオロギーにおい
に共和党によって担われたこの
説をした。黒人農民は収穫の一部を蓄えていくべきである。平均的黒
ては、自由労働制は奴隷制とは違って万人に向上への機会があると仮
人農民が貧しい理由は
ンは、
一六五日のうち一五O 日 以 下 ﹂ し か 働 か ず
定する。故に経済的上昇の失敗を当事者の怠情・放縦・浪費などの
す﹂と。
一九一三年一 O 月 に ニ ュ ー ヨ ー ク の 牧 師 に 宛 て た 電 報 の 中
情な人間をなくすべきです。あらゆる犯罪的性向を取り除くべきで
いる﹂ことを期待したい。経済的機会が﹁ある特定人種に属している
が人種の人々に対してひとつの人種としてではなく、個々人として報
う観点﹂からして﹁我らが人種をよりよくしようとする人々﹂が﹁我
7
4
﹁他の実業家たちのようなやり方をせず、半分の時間しか労働しない
﹁個人﹂的責任に帰する一一一一口説として機能する反面、 それ自体は﹁人種﹂
を 問 わ な い 、 す な わ ち 形 式 的 に は カ ラ1ブ ラ イ ン ド な 理 念 で も あ
で生活しようとする﹂からである。綿花収穫後も野菜を植え、
を製造し、鶏を育て、卵や果物を土曜市場で売れば、年に一回の綿花
った。この点はワシントンも彼の黒人向上戦略において重視してお
で、技は黒人が﹁留保無しに法と秩序と禁酒の側に立つ﹂ことを期待
という理由で黒人には閉ざされている﹂状態は﹁不公正であり、我が
一九一四年の演説において以下のように述べていた。﹁産業とい
する旨を記し﹁我が人種から苦労して稼いだ金を宅り取る﹂酒場の閉
人種の最もたくましく優れた男たちの意欲を削ぎ後退させてしまいま
郡で勤勉と倹約における模範となることを望んでおります。全ての怠
鎖を支持するよう訴えた。そして同年一二月の新鶴への投書におい
一九世紀アメリカにおける
︽男らしき︾の理念そのものでもあった。白出労働を通じて成功を収
そして、この自由労働イデオ口、ギーは
す﹂と。
ての親たち﹂はその影響力を通じて﹁クリスマスの季節にウイスキー
発することを憂慮し、﹁牧師や日曜学校・公立学校の教師、 そして全
て、彼はクリスマスに黒人が酒を飲んで暴れ、銃による流血沙汰が頻
り
の収穫時だけでなくいつも現金を稼ぎうる。﹁私は、我が人種がこの
タ
なワシントンの言明は、このような彼の路線を象徴する文言であると
﹁セルフメイド・マン﹂ の理想を体現することであった。以下のよう
人々にとって模範であり、あるべきアメリカ男性市民の姿としての
め、経済的に独立した男となることは、当時の中産階級を中心とした
いるものであり、知的な自人はこの点についてなんら北部の白人と異
人の生命への軽視は、白人の中でも下層階級によってのみ表明されて
インタビューに答えて、設は以下のように述べた。﹁南部における黒
も、ワシントンの重要な反リンチ一一一口説の要素であった。
のできない存在としてリンチに参加する白人暴徒を否定的に描くこと
で、被害者が彼女の前に最初に連れてこられた者を犯人だと名指す﹂
まった者は暴行されたとされる女性の前に引き出される。﹁興奮の中
されていく﹂。犯人と疑われた者が捕えられ、強姦事件の場合、捕
広がっていく﹂。やがて﹁暴徒が形成され、悪質なウイスキーで満た
が犯されたという情報に端を発する。話はたちまち伝わり、﹁興奮が
チ暴徒の発生過程の描写にも表われていた。暴徒の発生は、ある犯罪
なる感情を示すところはありません﹂。あるいは、以下のようなリン
一八九七年の
言えるだろう。
南部のどの郡にもいる数千人の模範的な黒人たちは、一蹴酒で快適な家
を所有し、技能と勤勉さと倹約精神を持ち、銀行に預金があり、多額
の税金を納め、自身のコミュニティと郡のためにあらゆる男らしいや
り方で白人たちと協調する。それによって、数年のうち、黒人の市民
としての現在の地位と、白人の諮問人に対する態度の双方を変化させる
方向への道を大いに進んでいくことになるであろう。
彼は、白由労働体制において勤勉や倹約の徳自を実践して︽男らし
と、﹁更なる興奮、もっと多くのウイスキー﹂となる。そして﹁吊る
一言説において、 興奮に身を任せて飲酒し酪町する白人暴徒は、自己抑
い︾独立生産者となることは、黒人男性にも可能であり、目指すべき
倹約や勤勉の美徳を体現した﹁よき階級﹂の黒人男性の存在を前面
制と節制の美徳を体現するとされる﹁よき階級﹂ の黒人たちの対極と
され、撃たれ、体を焼かれるのである﹂と。ワシントンのリンチ批判
に押し出すことで、凶暴なレイピストというこO世紀転換期の黒人男
して表わされた。
路線であることを強調したのである。
性性ステレオタイプに論駁し、さらに、自由労働体制で成功する勤勉
けることで、白人至上主義に立脚した自人たちの階級縦断的な連帯を
加えて、 ワシントンは﹁よき階級﹂の南部白人指導者たちに呼びか
人イメージとしての (テイルマンやディクソンらが黒人レイピストの
掘り崩すことを目指していた。
52)﹂ と 対 比 さ れ る 否 定 的 黒
恐怖と対比させることで称揚したような)陽気で愚かだが白人に喜ん
ンタで、 黒人による白人女性強姦が急増しているという選挙運動中の
足
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な﹁セルフメイ、ド・マン (諸民t
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で隷従する黒人男性という表象に願応することを同時に拒否すること
一扇動が引き金となって、大規模な人種暴動が起きた。その直後、ワシ
ントンは全国アフロ・アメリカン評議会の賭上で以下のように訴え
一九O 六年九月にジョージア州アトラ
が、被の戦略であった。
加えて、自由労働の徳自に反し、自己の感情や衝動を抑制すること
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学史論集
と。暴徒と﹁我々﹂、すなわち前評議会に集う黒人指導躍を対比させ
を学び、我々は感情ではなく理性によって統御される﹂存在である、
た。﹁我々は一人種として、我々が平静と自己抑制という偉大な教訓
の立場を批判するようになったのだと。
マンが加えている危害に気がつき始めました﹂。そしてヴァ iダマン
せんでした。しかし今や彼が白人を攻撃することで、彼らはヴァ lダ
﹁ヴァ!ダマンが黒人を攻撃している限り、大きな関心を寄せはしま
級﹂の︽男らしい︾白人と黒人は、 興奮に自己を抑制できぬ暴徒の対
ことを学ばねばなりません﹂と。つまり法と秩序を重んじる﹁よき措
することは、自殺的行為であり危険な方策です。我々は一弘別をつける
忘れてはなりません。(・:)我らが人撞が全ての白人を無差別に非難
に、男らしく勇敢に法と秩序の慨に立った白人たちを信頼することを
徒の活動を突出させたことを非難しつつも、我々は、最近の試練の時
であり、法を尊重する者﹂たるべきである。そして﹁南部における暴
人をこそ類廃させる、すなわちリンチ派白人にとってこそ不利益にな
り黒人が黒人をリンチしたりするようになった﹂。彼は、 リンチが白
なった。そして、今や同様の犯罪について、白人が白人をリンチした
﹁リンチの慣習は、今や白人が黒人を︹・:︺リンチするところまでに
することで、 アメリカ南部社会は文明から野蛮へと退化していく。
額廃を導いている、 というものであった。彼によれば、 リンチを黙認
が盛んに用いたレトリックは、 リンチ暴徒を許すことが文明と秩序の
白人の﹁よき階級﹂にリンチへの反対を要請するときにワシントン
(泣)
た後に、彼はさらに続ける。黒人は﹁いかなる場所においても遵法的
極として互いに協調すべきだと、 ワシントンは訴えたのである。
ウスカロライナ州のテイルマンと並ぶ急進的な白人至上主義政治家
を訪れ、各地の講演会でリンチを批判した。当時間州知事であり、サ
軽視されるでしょう﹂。結果として、﹁人種間に存在すべき友好的関係
黒人に対する無法行為を許せば、やがて﹁法は白人が関わるときにも
は、﹁同罰則を受ける人々以上に与える側を定め不名誉となるでしょう﹂。
るという主張に、特に力点を置いて訴えた。リンチとその詳細な報道
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あるいは一九O 八年、 ワシントンはリンチが頻発するミシシッピ州
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を破壊し、関係するコミュニティの物質的繁栄を傷つけ妨げる﹂のだ
論じることもあった。 一八九六年の講演において、彼は一言う。﹁黒人
と。さらに彼は、 リンチは黒人よりも由人に対して害が大きいとまで
は、我々の文明を脅かしている危険への注意を喚起したいのです﹂
であれ、黒人のための特別な訴えをしているのではありません。私
むしろ由人のためのものであると主張した。﹁私は、有罪であれ無実
と、彼は主張した。 ひいては、 ときには彼は、 リンチ反対が黒人より
て、彼は以下のような見解を述べていた。
ヴァ lダマンは彼の新聞を通じて、私の集会に出席した白人の人々に
野蛮な攻撃を開始しました。これこそが、私が欲していたところのも
のであります。この、白人に対する攻撃は、白人の公衆感情における
分断をもたらしました。
ワシントンによれば、彼が演説する集会に出席した白人たちは
7
6
は一時的な不使を耐えることはできますが、自人の傷は永遠となりま
ドルフ・ウエストが指摘するところの、黒人の進歩を通じた人種関係
因を解消していく存在であると表した。 それはまさしくマイケル・ル
することで人種関係は改善され、文明は進歩していくと論じて、
一九O 四年、彼はま
かつ勇敢にリンチが非難された﹂こと
との敵対関係を通じて白人間の階級的相違を不可説化する白人至上主
義的な連帯を阻止し、リンチに反対する﹁よき措級﹂とリンチに逸る
﹁犯罪的階級﹂へと白人を分断する、言説的な戦略でもあったという
点を見逃してはならないだろう。こうした戦略は、南部史家ジヨエ
ル・ウィリアムソンの言葉に従えば﹁ラディカルな白人至上主義者﹂
に反対する南部白人リベラルないしパタlナリスト的な保守的白人指
導者のあいだに支持者を見出す可能性はあった。
たとえば、前節で紹介したりンチ批判派の論客ウオルタ!・ハイン
の文明的視座を見失う﹂こと
ズ・ペイジは﹁南部の公衆感悟﹂が
つまり﹁よき階級﹂が中産階級以上の南部白人指導膚であり、 リンチ
実業家が暴徒を扱う場合、彼は暴漢の仕事をなくすべきである。商工
会議所や商人たち、銀行家、製造業者らによって、産業を無法状態に
よって妨げられるつもりはないと宣言されるべきである。
明白だった。彼の処方議は、
論じた。彼にとって﹁最上の者たち﹂が誰でリンチ暴徒が誰なのかは
が﹁文明と進歩への脅威と戯れたりはしない﹂ことを宣言すべきだと
の地元の公衆感情を高め活性化させなければならない﹂と述べ、彼ら
に、人種関係の向上を見出した。 そして彼は﹁リンチという不名誉な
階級﹂と、 その対極としての﹁犯罪的階級﹂に区分し、前者の自己表
するために、 黒人男性を自由労働的な︽男らしさ︾を体現する﹁よき
もった﹁白人女性を襲う凶暴なレイピスト﹂というスティグマに対抗
課せられ、リンチや人種暴動などの暴力的抑圧を正当化する機能を
ようにまとめられる。彼は、二O世紀転換期において黒人男性全体に
以上のようなブツカ1 ・T ・ワシントンの反リンチ翌日説は、以下の
かったことでありましょう﹂と宣言したのである。
人のよき階級の人々のあいだの協調を通じてでなければ、醸成されな
にリンチの真の危検性を見出した。そして﹁南部の最上の者たちがそ
退役軍人集会によって、
の数日間で日刊紙、白人説教師、大結審、知事、 ときには南部連合の
オハイオ州であれ、文明にとっての汚点であります﹂と非難し、﹁こ
ず﹁法的な適性手続きなしに人名を奪うことは、ジョージア州であれ
チ反対への﹁よき階級﹂ の白人に協力を訴えた。
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慣習についての現在の賞賛すべき感情は、白人のよき階級の人々と黒
ン
もっともこのプロジェクトが、 黒人レイピスト神話的な黒人男性像
す﹂。彼は﹁白人諸氏が自身を退廃から救う﹂ょう訴え、﹁ある郡でリ
めを負うべき数千人に訪れるのです﹂と警告したので
改善プロジェクトだったといえる。
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ンチされた一人の黒人が肉体的な死に至るとすれば、道徳、魂の死は
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ワシントンは、白人と黒人の﹁よき階級﹂が白人リンチ暴徒に反対
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象を前面に打ち出し、前者が後者を﹁引き上げる﹂ことでリンチの原
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西洋史論集
序を守るべきと訴えて、リンチを批判し出。ワシントンと彼のタス
法的な黒人﹂は保護を受けるべきであると論じ、白人暴徒から州の秩
事のウィリアム・ J ・ノ 1ゼンは黒人レイピストを非難しつつ、﹁遵
らしき抑制﹂であると謡うのであった。あるいは、元ジョージア州知
のだと論じる。 そして﹁持続的な労働の規律﹂が﹁熱情に対する素晴
る者﹂は強姦をせず、﹁無知と怠惰と浪費癖﹂から犯罪が生じている
ものは一人もいないと賞賛し、﹁文字を読めて定職を持ち家を所有す
タスキ lギを卒業した数百人﹂の黒人男性の中に白人女性を凌辱した
い知性の輩から構成されている﹂と非難する一方で、﹁ハンプトンや
﹁コミュニティの最悪の成分から輩出されており、破綻した人格と低
農業新聞の編集者クラレンス・ポ 1は、リンチを行う﹁暴徒﹂たちが
暴徒が労働者階級以下の男たちであることを前提する言説であった。
おいて利用される﹂と、彼は憂慮した。﹁社会的平等﹂なるものをい
男女が黒人を助けようと真撃な努力を進めようとするあらゆる機会に
の意味を﹁誰も正確には理解していない﹂にもかかわらず﹁南部白人
する要因であることを問題調していた。﹁社会的平等の恐慌﹂は、そ
あった。ワシントン自身、この点が﹁よき階級﹂の人種間協調を阻害
がこの三角形から離脱していることをより積極的に示していく必要が
正当化論が不当であると主張するためには、﹁よき階級﹂ の黒人男性
の黒人男性と違ってリンチを招くような犯罪を犯さないが故にリンチ
危険性を喧伝していたので、﹁よき措級﹂の黒人男性が﹁犯罪的階級﹂
単純化したエディプス的な三角形の神話に依拠して黒人男性の性的な
義者たちは南部社会を黒人男性・白人女性・白人男性という一ニ者へと
級﹂が存在することを主張するだけでは不十分であった。白人至上主
かに扱うかは、彼のプロジェクトの成否を左右する問題であったとい
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に接近することによって、人種間の暴力的対立を緩和するプロジェク
トとして一定の支持や援助を受けることを期待できたのである。
すなわち、 リンチ暴力に見られる黒人と白人の対立の構図は、
の克服という進歩の構図である。この書き直しが、ワシントンの反リ
ンチ戦略だったのである。
2-3、 リンチ肯定論に反駁するためには、 黒人のあいだに﹁よき潜
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ンチ暴徒を野蛮であると憂慮し自らを白人の﹁よき階級﹂と任、ずる層
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を犯す野蛮に染まった﹁犯罪的階級﹂の対立であり、前者による後者
維持促進を追求する﹁よき階級﹂と、強姦や報復としてのリンチ殺人
ントンの一言説においてはこう書き直される。文明と友好的人種関係の
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本構冒頭で述べたように、プツカ!・ T ・ワシントンは、 黒人が南
部社会において﹁社会的平等﹂を少しも求めていないし、求めるべき
八九五年、被は﹃ニューヨーク・ワールド﹄紙
でもないと強調していた。 それは、 アトランタ博覧会以外の場におい
ても同様であった。
への投書において、黒人の目指すべき道をこう表現していた。
が追求すべきは産業的機会の平等であって、 いかなる人々のあいだに
交流のある南部の慈善活動家エドガ l ・G ・マ I フィが彼に送った忠
告の手紙に、 それが簡明に表れている。
私は貴方の立場の微妙さを擁護し、貴方の自尊心を守るために、何よ
りも慎重を期してきました。しかしこの件では、(南部の︺平均的な
一般庶民は、大統領と貴殿の側に人種間結婚(日己負aBR門戸出向巾)と人
口)をもたらすための入念な企図以外の何物も
種混合(出ヨ丘町阿国ヨ丘一 O
見出すことはできないでしょう!
また、 トマス・ネルソン・ペイジは以下のように述べた。奴隷制廃止
後に生まれ育った世代である﹁無知で粗暴な若い黒人﹂にとって、社
会的平等は﹁白人男性と同等に、白人女性と暮らす特権を享受する機
会﹂に他ならないと。端的に表現すれば、当時の南部文化において、
程を通じて、この希釈を拒む一言説と法制度が強化されていった。奴隷
制が政治的に動揺する一八五0年代以降、南部では黒人と白人の混血
としてのムラ!トに黒人とは異なる特別な社会的カテゴリーとしての
持つ者は全て黒人として認定されるようになった
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も存在しないような社会的平等の問題に時間を費やすべきではない﹂。
一九O 一年にも彼は書簡の中で同様の主張をしている。﹁私は南部に
社会的平等とは究極的には黒人男性と白人女性の結婚あるいは性的交
渉を通じた人種混交に也ならなかったのである。白人至上主義体制の
おいてであれどこにおいてであれ、社会的平等の聞いを喚起したり、
黒人に社会的見地から白人に対して出しゃばるよう促すことを試みて
要は﹁白人﹂の地位を希釈させないことにあった。それ故に法的に厳
覧会の開会式で行った私の演説において、完全に表されております﹂。
社会的平等とは、果たして何を意味していたのか。それは、広くは
市民社会において互いを対等の存在と認めて交流することであった
アル化された合意を苧む概念であった。それは、一九O 一年にワシン
も混入すれば由人になるわけではない点に、支配人種としての﹁白
地位が認められなくなり、﹁一滴の血﹂、 つまり黒人を一人でも祖先に
トンが当時の新大統領セオドア・ローズヴェルトに招かれて大統領官
人﹂の境界線を防衛せんとする意識が表われている)。また、再建期
白人の血が一漉で
邸で会食したことへの南部白人世論の反発に見られる。ワシントンと
が、ニO世紀転換期の南部においては国有のジェンダ1化・セクシユ
格な身分秩序たる奴隷制が動揺し、南北戦争の結果として消滅する過
いかなる善も我が人種に対してなしうることはないと信じており
人
ます。(・:)この主題についての私の見解は、数年前にアトランタ博
も
歩)
プ ッ カ ー .T.ワシントンのリンチ批判(兼子
西洋史論集
至上主義的な反人種混交のき口説において、危険課されていたのはあく
性的交渉が厳しく禁じられるようになったのである。もっとも、白人
が再建終了後の南部各州において次々と復活し、白人と黒人の結婚や
には人種間の市民的平等に反するとして撤廃された反人種間結婚立法
たる白人淑女を妻として得ないといえるであろうかと。 また、
れば、﹁黒人紳士﹂の子孫たちがジョージア州の旧奴隷所有者の子孫
た。白人と黒人のあいだの﹁社会的カ 1 ストのもろい樟壁﹂が山崩れ去
の書一物において、著者のチャールズ・キャロルは以下のように警告し
平等あるいは人種混交を憂慮する議論は、ほとんどが白人女性と黒人
までも黒人男性と白人女性のあいだの結婚や性交渉であった。社会的
﹁白人文明﹂に追いつけるよう引き上げることは不可能だと主張して、
で、高等教育どころか﹁いかなる産業・古典・宗教教育﹂も黒人を
ス・ディクソンは﹃サタデ l ・イヴニング・ポスト﹄紙に寄せた論考
ワシントンの産業教育論に非難を浴びせた。そして彼は、デュボイス
男性の結びつきへの警戒に集中していたのである。
さらには、社交の領域において黒人男性を白人男性と対等の存在と
EER)、 チ ャ ー ル ズ ・ チ ェ ス ナ ッ ト
(VFggE門)らのような黒人知識人が﹁人種融合 (mEと官
(わげ
ω
52Z ロ)﹂ に期待しており、 ワシントンがそのことを公に語るのを避
や ケ リi ・ミラー (同己ぞ
ム -D・ジエルクスは、以下のように論じた。﹁黒人問題﹂を考察す
けているのは、彼が北部の篤志家や南部白人との友好的関係を保つこ
認めることが、最終的には黒人男性と自人女性の人種混交に至るとい
る際の大前提は﹁社会的平等は存在しえない﹂ということであり、そ
とを優先する﹁これまでに彼の人種が生み出した中で最高の外交官﹂
が白人の娘にふさわしい﹂という意味になるので﹁白人の炉辺や食
人男性であろうと、 黒人男性が白人家族と食事を共にすることは﹁彼
席区画﹂を使用すべきである。ましてどれほど敬意を払うに値する黒
は多々見られる。たとえばデュボイスは、
クストに、人撞関係とセクシュアリティの密接な関連を指摘する議論
黒人は強烈に意識していた。白人主上主義を批判する黒人知識人のテ
このような、人種聞の性的関係をめぐる白人至上主義者の態度を、
吋}命的
れは﹁分離の法則が白人の血に刻み込まれて﹂いるからである。黒人
として振舞っているからにすぎないと、攻撃したのである。
卓﹂からは排除されると。さらには、政治的・市民的権利における黒
一一一一口葉で白人男性権力のあり方を批判した。白人男性にとって﹁人種問
う恐怖も喧伝された。 アラパマ州の知事を務めた経験を持つウィリア
は﹁分離馬車、路間電車の分離座席、人種分離ホテルや劇場の分離座
人と白人の平等が人種混交をもたらすという憂慮も、 たびたび表明さ
題とは、根患においては単純明快に女性を所有するということであ
性との結婚ないし性的関係を追求する存在であるとする言説も表れて
そして、 黒人男性はその階級的な地位や状態に関わりなく、白人女
するのである﹂と。あるいは、一九一二年に麗名で出版され、
とする。そして黒人男性がその領域をわずかでも侵犯することに憤慨
る。白人男性は、黒人と白人の、 つまり全ての女性を所有し用いよう
一九二二年に以下のような
れていた。
いた。 キリスト教原理主義的レイシズムに埋め尽くされた一九OO年
守
ア
a
8
2
ト
九
ま数人の白人男性客と乗り合わせることになった。彼らのあいだで議
持った主人公の黒人男性が南部を鉄道で旅をしているときに、たまた
ようなシ l ンが描かれている。白人に成りすますこともできる外見を
MCFD
由。ロ)作として再び出版された小説﹁元黒人の自伝﹂には、次の
されることはない﹂ので、﹁アダムの子孫の女性は、劣等の蒙たる黒
れる﹂のであれば﹁純粋なアダムの血統が混血によって吸収され破壊
あり、﹁純粋なアダム的女性の婚姻関係が純粋なアダム的男性に限ら
の一種でしかない。白人女性は﹁アダム的創生の偉大なる橋頭壁﹂で
に似せて創造したアダムは白人であり、故に黒人は人間ではなく、猿
恐れる﹂ のだという。チャ i ルズ・キャロルはこう述べた。神が自ら
論が始まる。自分に批判的な北部出身の男に対して、テキサスの綿花
人や混血克との結合によって自己を庭めることを拒否﹂しているの
ロ
プランタ!の男が反駁する。﹁君はニガーを対等な存在として扱いた
だと。 つまり、 黒人男性と正常な白人女性のあいだの関係は、前者に
﹂弓命日仏C
がっているようだが、君は自分の応接室に奴らが坐っているのを見た
よる後者の強姦以外にはありえないとするのである。白人至上主義の
(TBg
い か ね ? ム ラ ! ト 化 し た 南 部 を 見 た い か ね ? わかりやすく言え
パラノイア的一一一一口説において、社会的平等は強姦を生むという結論が導
七年に本名ジェイムズ・ウェルドン・ジョンソン
ば、君は娘さんがニガ!と結婚するのを許すのかね?﹂北部人は答え
き出されるのである。
さて、このような固有の意味を付与された﹁社会的平等﹂に対する
ワシントンの立場は、明快であった。彼は﹁よき階級﹂の黒人ほど社
繰り返し生産したという点である。 フィリップ・ A ・ブルースは、
的に性交渉を行ったり婚姻関係に入ることはありえないという言説を
を制定しながら、地方で、白人女性は人種的本能故に黒人男性と自発
このことは全ての黒人たちにとって真実となっていくでしょう﹂と述
に満足するのです。黒人種が教育を受けて繁栄する度合いに応じて、
びのためであれば、私にとっていつもその希望は我が向胞の中で完全
ドガ 1 ・G ・マ!フイに宛てた書簡において設は﹁純粋に社交的な喜
8
3
る。﹁いや、私は娘がニガ!と結婚することには同意しないだろうが、
しかしそれは黒人を公正に扱うことを止めはしないだろう﹂と。
社会的平等とリンチとの関連において重要なことは、白人至上主義
﹁ムラ lトの子を産むごく少数の白人女性﹂が白人社会から﹁怪物﹂
べた。一九O 六年の論考で彼は主張した。﹁知的・道徳的な前進に比
一九O 四年、
課されてきたこと、 そ の よ う な 白 人 女 性 が ﹁ 白 人 の 中 で も 最 も 困 窮
例﹂して、黒人は人種融合によって消えていくことを拒むようになっ
会的平等を徹窟的に避けるのだと強調したのである。
し、最も堕落した﹂存在であり﹁野獣の水準にまで沈んだ生き物﹂と
ている。黒人は弓の可能性を理解し、世界において独自の復命を
一方では白人女性と黒人男性の結婚を恐れて人種間結婚禁止法
して嫌悪されてきた例外的存在であるが、他方﹁最上層から最下層ま
有することを信じ、 その使命を意識することによる自尊心を獲得しつ
者が、
で﹂全ての白人女性は黒人男性による強姦を恐れて﹁一人で遠くへ出
つある﹂ のだと。あるいは、
一九一三年の全国パプテイスト会議にお
かけるどころか、家のごく近所であっても保護なしに歩き回ることを
こ
コ
歩)
.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
ブッカー
酋洋史論集
いて演説したワシントンは、教会指導者たちを前に訴えた。﹁我らが
人種の指導者たち﹂は﹁南部の進歩﹂ のための運動を盛んにしていく
ることを徹底すべきである。そして﹁肌の色が異なる二つの人種が、
たものとして受け取られる傾向がある。しかしワシントンの伝記が局
このような叙述はモールデンの労働者階級居住地区を見たままに描い
酒、絡博、口論や喧嘩、そして衝撃的なまでに不道徳な行為が頻繁に
なされていた。
社会的事項については分離しつつ、間じ土地において共に平和的・友
到な自己表象戦略に基づいて構成されていることは考慮されねばなら
責務がある。衛生の向上、 よき納税者となること、法と秩序を遵守す
好的に生きることが可能である﹂ことを証明するために努力すべきで
ない。﹃奴隷より立ち上がりて﹄は有力出版社から刊行され、黒人の
になった。 そのモ i ルデンで見た光景一を、彼は自伝において次のよう
(昌巳号ロ) の製塩工場や炭鉱に勤める労働者たちの街区で暮らすこと
と 合 流 し た ブ ツ カ 1少 年 は ウ エ ス ト ヴ ァ lジ ニ ア 州 モ ー ル デ ン
ヴァ iジニアの粗末な小屋で生活を始め、そこに数年間滞在した﹂と
ルデンの街の様子に何も言及していない。ただ﹁私たちは、ウエスト
再びモールデンの記述に一民ると、﹁私の人生と仕事の物語﹄はモー
れ方にワシントンの自己表象戦略を析出することができるといえよ
に紹介している。新しい家はかつての奴隷小屋同様に粗末で、空気は
記されているのみである。したがって、前述の人種混在的なモ 1 ルデ
南北戦争終結後、母や兄妹らと共にプランテI ションを去り、義父
汚れていた。住宅が密集した地区は、衛生基準もないために極めて不
働の必要性から自由な、楽しく安逸な生活﹂を得ることにあると考え
学んだことをこう書き加えている。かつて彼は教育の効能を﹁肉体労
加えられた叙述である。 さらにワシントンは、彼がハンプトン学院で
ンの情景描写は﹃奴隷より立ち上がりて﹄においてあえて新たに書き
の式
あると。
「の
私形
みならず白人も含む多数の読者を獲得したが、 その前年、彼は﹃私の
人生と仕事の物語﹄
、 7芯
はさ会
ワシントンは﹁よき階級﹂の黒人男性が白人との混交を望んでいな
いことを強調するために、人種混交があくまでも﹁犯罪的措級﹂に特
耶リ
ワb
人生と仕事の物語﹂ の文章表現の多くがそのままの形で ﹁奴隷より立
で刊行していたのである。
ブし白£
九O 一年に上梓した彼の自伝﹃奴隷より立ち上がりて﹄における、
有の現象であるとする言説を繰り返し展開した。その一例として、一
τら
義主
主主
ち上がりて﹄にも使われており、両者は独立した別々の自伝的書物で
を手
遅出
し醇
ウエストヴァ lジニア州で過ごした少年時代についての叙述を挙げる
轄 な
はなく、初版と改訂版の関係にあると指摘している。故に、改訂のさ
自を
ことができる。
伝小
潔であった。 そしてその住民は、
隣人のある者は黒人であり、また郎の隣人はもっとも貧しく、もっと
も無知で退廃的な白人たちであり、大変に雑多な混合であった。飲
8
4
と
題
し
こた
つ自
の{云
フ。
ハンプトンでは﹁労働それ自体、 そ し て 独 立 と 自 侍 の た
ワシントンが語る﹁よき階級﹂ の黒人男性を異現化した存在として
ていたが
の彼自身が、 いかに白人女性との物理的な接近や身体的な親密さを欲
モl ル デ ン で の 少 年 時 代 に 製 塩 工 場 の 所 有 者 の 妻 ヴ ア オ イ ラ ・ ラ フ
してはいないかを訴えることも、彼は重視した。自伝において彼は
め﹂という点から労働を﹁不名誉ではなく、 むしろ愛する﹂べきもの
だと学んだのだと。 ちなみに﹁私の人生と仕事の物語﹄において、
シントンがハンプトン学院で学んだ﹁最も価値ある教え﹂として挙げ
での学習についての以上のような新たな叙述が挿入されることで、彼
律されたが、 そ れ は ﹁ い か な る 教 育 よ り も 私 に と っ て は 価 値 あ る 教
している。彼は整理整頓の習慣を身につけるように彼女から厳しく規
耐
えE
(
︿
日ogH
2) のもとで使用人として働いたときの経験を記
が教育の機会を求めて抜け出した、 つ ま り 彼 が 否 定 す る ﹁ 犯 罪 的 階
私を信用してくれた﹂という。白人女性ラフナ!と黒人少年ワシント
たのは﹁風呂に入ること﹂であった。モ!ルデンの光景とハンプトン
いて明確に二項対立として構築されるようになったといえる。前者は
ンの関係が、親密さというよりも、権威と恭順の関係であったと、彼
を通じて参入した﹁よき階級﹂の世界が、彼の自伝のナラティヴにお
ようになった。彼女は私を信用しうると知ると、彼女は暗黙のうちに
え﹂であった。やがて﹁私は彼女を最良の友のひとりとして尊敬する
ワシントンが拒否するところの人種が混交する怠惰の世界であり、後
の叙述は示唆している。さらに彼は、﹃私の人生と仕事の物語﹄には
級﹂と地続きの下層労働者階級の世界と、 ハンプトン学院で学ぶこと
者は彼自身が公の立場とする人種が社会的に混交せずに分離する勤勉
なかったが﹁奴隷より立ち上がりて﹂には新たに挿入された叙述とし
て、ジョ iジア州を鉄道で移動していたときの体験を記している。知
の世界である。
ワシントンは邑伝以外のテクストにおいても、人種混交を﹁犯罪的
意から﹂ワシントンに彼女らと一緒の座席に着くよう進められ、彼は
女ら善良なご婦人たち﹂は、﹁南部の慣習に全く無知だったので、
人であるボストン出身の二名の白人女性とたまたま同乗したが、﹁彼
一九O 九 年 に メ ン ア イ ス で 講 演 し た ワ シ ン ト ン は 訴 え
階級﹂に帰し、対極として﹁よき階級﹂の黒人指導層を設定する一言説
を展開した。
た。﹁牧師、教師、弁護士、医師、実業家﹂などからなる黒人指導者
蕗踏しながらも申し出を受けた。さらに彼は食事とお茶を共にするこ
とを余儀なくされたが、﹁食事が終わったとき、その食事は私がこれ
たちの責務は﹁犯罪的ごろつき﹂ の存在という問問題を解決することに
ある。特に﹁白人の中の最悪の要素と黒人の中の最悪の要素が一緒に
までに取ったなかで、最も長い時間に感じられた﹂という。 つまり彼
も
暴
徒
や
ン
チ
リ
を
み出す撚料を供給することになりま
ソ!ドを、岳人読者に向けて書き加えたのである。
そのような機会を決して欲してはいないことを強調するためのエピ
は白人女性との同席と身体的な接近を慎重に避けているのみならず、
なって街をうろついている﹂ことは深刻な危険をもたらす。﹁両人種
す何
のあいだに多数の浮浪する悪徳に満ちた層が存在すると、それは他の
」よ
え8り
8
5
ナ
歩)
ワ
.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
ブッカー
西洋史論集
の純粋性は、黒人によってではなく退廃約な白人自身によってこそ深
うとする黒人﹂を自人は拒もうとするはずなので﹁コ 1カサス系人種
九O 四年に刊行した著書において述べている。﹁人種の障壁を越えよ
かもしれない。たとえば先に引用したエドガ!・ G- マl フィは、
て、開催地であるシカゴの連盟支部の幹部はこう挨拶した。連盟の参
T ・ワシントンが組織した全国黒人実業連盟の一九O 一年大会におい
﹁よさ桔級﹂ の黒人実業家男女の見本市たらしめんとしてプツカ 1 ・
て、盗み、 戻っていくような輩なのです﹂と強調した。あるいは、
く言わぬような者であり、 アライグマのように夜にスラムから出てき
はありません。︹:心犠牲者はいつもコミュニティの誰一人として良
刻に脅かされる﹂。そして陪部における混血は、﹁南部に存在していた
加者はみな周波れた人格を有する成功者であり、﹁この会場の中に、
このようなワシントンの言説戦略は、ある程度功を奏したといえる
同地域の大軍11│
怠需によって顔廃していた北箪の下層階級と、敗北
以上、 ワシントンのリンチ批判言説を分析してきたが、こうした戦
ン・テイルマン上院議員の娘と結婚する機会を求めて指を鳴らすよう
の可能性﹂が大切になる。黒人間士の生活の中に﹁生きるに値する世
略に伴って失われる可能性や機会に光を当てて検討することも、忘れ
によって積廃した南軍の下層階級ーーが、最も立場が弱い状態でのの
界﹂が形成されればされるほど﹁自己を消去しようとする絶望的な熱
られではならないだろう。冒頭に紹介したマイケル・ルドルフ・ウェ
な男はいないでしょう。 かの偉大なるサウスカロライナ人の一言うとこ
情﹂は牽制されるだろう。故に﹁教養ある南部世論は、決して黒人の
ストの議論は、ブッカ 1 ・T- ワシントンの一言説に見られる人種関係
黒人大衆との接触環境に置かれたとき﹂に、激しく進展したのだと論
進歩を妨げようとはしないのだ﹂と。 つまり、階層分化が黒人のあい
と進歩のレトリックの検討において優れた議論を提示しているとはい
ろの社会的平等の怪物など、我々には関係ないのであります﹂と。
だで進む││中産指級化する黒人が勃興するliiにつれて、後らが白
ぇ、ワシントンが否定した可能性が何であったかを、彼の一一一一口説と歴史
じる。他方、 黒人の人種的純粋性を保ち高めるには﹁社会的な差異化
人との人種混交に自己を搭け込ませようとしなくなっていくとマ l
的文脈の関連において十分に検討しているとはいいがたい。以下に、
まずなによりも、 ワ シ ン ト ン の 言 説 は ﹁ よ き 階 級 ﹂ と ﹁ 犯 罪 的 階
フィは論じているのであり、これはワシントンが唱える立場に近いと
そして、ブッカ!・ T ・ワシントンが展開した、 リンチと社会的平
級﹂のダイコトミーを用いてリンチを批判することを通じて、白人至
これまでの議論を踏まえながら、 その点を概観したい。
等をめぐる﹁よき措級﹂と﹁犯罪的階級﹂のダイコトミ l化された言
上主義から諜せられた黒人レイピスト像のスティグマを
いえる。
説戦略は、二O世紀転換期の少なからぬ黒人エリート層によっても共
の存在を訴えることで払拭しようとする戦略であるが故に、必然的に
き階級﹂
有されたものであった。 たとえば、ジョ iジア州のある黒人牧師は、
﹁犯罪的階級﹂として名指された黒人たちにスティグマを転嫁してし
b
﹁殺人事件の場合以外で、 リスベクタ フルな黒人がリンチされたこと
8
6
Jミ
弱い立場にある黒人労働者糖級・下層階級男性をますます追い詰める
るレトリック構成は、 黒人間士のあいだに、深刻な分断をもたらし、
が、汚名を被るべき﹁犯罪的措級﹂黒人の存在を不可避的に必要とす
まっている、 という点にあるだろう。﹁よき階級﹂ の黒人の汚名払拭
した。代表的なものとしては、 ワシントンが在住するアラパマ州で発
者と黒人労働者が協同してストライキに突入する事例がいくつも存在
労働などーーにおいては、 二O世紀転換期の南部においても白人労働
ヒエラルキー化がなされにくい職場ii山一次鉱や港湾労働、製材所での
危険な労働現場で、待遇が劣悪であり、 かっ、熟練度による労働力の
説に見られる人種関係と進歩のレトリックの検討において優れた議論
ケル・ルドルフ・ウエストの議論は、プツカ 1 ・T ・ワシントンの一言
くことになっていた、 ということが指摘できる。冒頭に紹介したマイ
もしれないリンチへの抗議・抵抗手段を模索する可能性を閉ざしてい
さらなる問題点として、 ワシントンの一言説戦略は、地にありえたか
にリンチ暴力の激化の責任をも負わせていくワシントンの一言説は、雇
け、社会的平等や人種混交を後者の悪徳として分節化し、後者の存在
た。このような状況下に即せば、﹁よき階級﹂と﹁犯罪的階級﹂を分
協力を﹁社会的平等を促進する﹂ものであると非難する言説であっ
した労働運動を攻撃する雇用者側の武器の一つは労働者階級の人種間
生した鉱山労働者のストライキが挙げられよう。これに対して、こう
﹂を度々起こしていた。だが、物理的に過酷かっ
印 丹 江WO)
善しようとした黒人労働者階級の利害関心との議離をもたらしたとも
いえる。 一八九四年には、アラパマ州の炭鉱で自人・黒人双方の労働
者が合同して大規模なストライキを起こした。だがその翌年にアラパ
マ州タスキ lギからアトランクの博覧会に招かれたワシントンが、盟⋮
人は﹁ストライキも労笹紛争もせず﹂南部の経済開発に労働力として
貢献してきたのだと強調し、聴衆の支持を得たことは皮肉である。そ
してその後も、両人種労働者が共闘するストライキが、向じ炭鉱で幾
度も発生したのである。
二O世紀転換期の南部において、労働運動における人種間協力の挫
折をもたらした大きな要因は、 黒人労働者側よりも白人労働者側が反
8
7
ことに加損する言説としても機能したといえよう。
を提示しているとはいえ、 ワシントンが否定してしまった可能性が何
(EZ
キ
機能することで、白人労働者との共闘という手段を選択して状況を改
用者側寄りの反﹁社会的平等﹂ないし反人種混交のレトリックとして
﹂れまでの議論を踏まえながら、
一九O九年に
ジョージア州の白人鉄道労働者の組合が起こしたストライキのよう
別的慣行によって黒人労働者の加入を拒否していたし、
たびたび指摘したように、ニO世紀転換期の労働組合の多くは人語差
的な社会運動の可能性を否定するものでもあった。 ワシントン自身、が
双方の周縁的立場に置かれた人々による、措級的連帯に基づいた対抗
帰さしめる側面がある。しかし逆にいえば、彼の言説は、黒人・由人
まず、 ワシントンの一言説は人種混治的な可能性を﹁犯罪的階級﹂に
の点を概観したい。
ているとはいい、がたい。以下に、
であったのかを、彼の一言説と歴史的文脈の関連において十分に検討し
ピ
J
グ
に、積麗的に黒人を職場から排斥することを目指す﹁へイト・ストラ
イ
歩)
.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
プッカー
西洋史論集
ぅ。だが、ブッカ l-T・ワシントンが公に取った立場と彼が展開し
﹁社会的一平等﹂意識から脱しきらなかった点に起闘しているといえよ
共感と譲歩を引き出しうる揺が存在したかもしれない。しかしそれは
善する手段として追求された。その立場には、白人指導層から一定の
のみならず、 リンチに象徴される険悪な人種関係に由来する問題を改
外の可能性を自ら積極的に否定するという、大きな代償を伴う戦略で
たき口説が、これらの人種間共闘による労働運動の側ではなく、これら
最後に、 ワシントンが積極的に否定した﹁犯罪者階級﹂ 11│
定職に
もあった。そしてその可能性とは、ワシントンが否定し、改善あるい
﹁よき階級﹂を百指す個人としての黒人男性の自助努力という路線以
就かず定住もしない、移動性の高い下層労働者たちの世界ーーから生
は引き上げの対象として措定した﹁犯罪者階級﹂としてくくられた
に反対する側に与したという側面は否めない。
成された、 リンチに対する非公式的な抵抗の表れについて指摘してお
人々の中にこそ、見出されるかもしれなかったのである。
‘
迂
きたい。南部農村には、貧しい黒人農民男女が集い、飲食や賭博、ダ
ン ス と 音 楽 を 楽 し む た め の 場 所 と し て ジ ュ iク ジ ョ イ ン ト coow
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) と呼ばれる、大抵は粗末な小屋で催された娯楽施設が存在し
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) と呼ばれるものがあった。ジュ!クジョイントや
一八九0年代にアメリ
一定のコ 1ドを通じて表現される手段でもあったという
こそ達成されるべきものであった。それは、 黒人個々人の経済的状況
い︾生産者的美徳を発揮して上昇を果たしていくという進歩によって
く、非公式的な抵抗文化でもなく、個人が自由労働体制下で︽男らし
ワシントンにおける黒人の権利獲得とは、集団的な大衆行動ではな
指摘が、近年なされているのである。
する抵抗が、
ル1 スの歌詞は南部を覆う儀礼的人種暴力としてのリンチの恐怖に対
カ黒人文化を代表する音楽であるブルースが誕生した場所であり、ブ
らなかったであろうこれらの黒人娯楽施設は、
ていた。そして、 ワシントンの自には﹁犯罪者階級﹂の拠点としか映
ホンキ 1トンクでは、渡りの黒人ミュージシャンたちが生活の糧を得
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叫判担細川百渋困
の黒人エリート麗にも共有されるものであったし、白人エリート層の
中にも彼の路線を支持する者がいたことは確かである。だが、果たし
て彼の戦略は実際にどれほどの成果を産んだのであろうか。少なくと
もいえることは、﹁よき階級﹂と﹁犯罪的階級﹂を厳しく区別するこ
とで逃れようとした黒人男性・白人女性・白人男性のエディプス的三
角形の構造に、彼自身が傷つけられる事件が起こった、ということで
ある。
る。そして、
南部においては、私はいかなる黒人よりも南部の人々の感情を尊重す
るように配慮してきた者であります。しかし私は、北部であれヨー
ロッパであれ、南部の外にいるときには、南部諸州にいるときと河じ
生活の規則に順応することを期待できないことは、貴兄も同意してい
ただけるものと存じます。
かろうか。南部における﹁よき階級﹂ の黒人男性指導者として振る舞
この反論の投書に、 ワシントンの苛立ちを読み取ることも可能ではな
いたワシントンが、白人女性の姿を窓から覗こうとしていると誤解さ
うことで個人として成功を収めたブツカ1 ・T ・ワシントンは、逆に
一年一ニ月、 ニューヨーク市六三一番街で知人の家を探し回って
へンリ l ・アルパ 1ト・ア 1リック (国企凶吋可﹀号。江口町刊のげ)な
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るドイツ系の自人男性に殴打され負傷するという事件に巻き込まれ
いくという個人的代償も支払っていたのである。
南部を離れても南部白人のまなざしに従属することを余儀なくされて
そのような代債を支払ったワシントンの反リンチ戦略であるが、第
た。このア lリック事件はスキャンダルとなり、それまでワシントン
と敵対していたデュボイスら黒人知識人・活動家たちがワシントンを
三節で述べたように、確実にいえることは、 リ ン チ へ の 抗 議 に お い
スティグマを転嫁することによって﹁よき階級﹂ への汚名を払拭しょ
探護した一方、ワシントンの動機を疑う論評を掲載する南部の新聞も
彼自身、高部の社会的平等に抵触するようなトラブルを起こさない
うとする言説を展開した、 という点である。そして彼は﹁よき階級﹂
て、ワシントンは黒人レイピスト神話のスティグマを直接否定するの
ように行動することで、振る舞いを自己規制しなければならないこと
に属するべき黒人男性個々人の自助努力ぶりを訴えるという以外の可
存在した。この事件は﹁よき階級﹂と﹁犯罪的階級﹂を区分する彼の
を、心地よくは感じていなかったのかもしれない。 ワシントンが北部
能性を、積極的に否定することにもなったのである。彼が捨て去り否
ではなく、黒人の中の﹁犯罪的階級﹂なる存在を設定し、この階級に
白人と晩餐を共にすることで﹁人種の平等﹂を推進しようとしている
定した可能性とは、階級に基づく人種間協力の労働運動であったり、
言説戦略の脆さを物語っているといえよう。
と、南部の新聞紙上で批判されたとき、彼は投書にて反論を行った。
臼く﹁私がそのような件で招待を
であると見て非難した﹁犯罪的階級﹂にくくられうる人々の中にこ
文化的な抵抗であったりした。 いずれにせよ、彼がリンチ発生の原因
つ受けるとき、私は一 Oを断って
いる﹂し、﹁純粋にビジネスの事柄について﹂ の招待のみを受けてい
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.T・ワシントンのリンチ批判(兼子
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西洋史論集
そ、新しい抵抗の萌芽があったかもしれないのである。
最後に、リンチ正当化言説とワシントンのような反リンチ言説の逆
説的な共犯関係がもたらす、看過し得ない問題点を指摘しておきた
い。黒人レイピスト神話は、白人女性をめぐる黒人男性と白人男性の
闘争という、 エ デ ィ プ ス 的 な 三 角 形 構 造 の 言 説 で あ っ た 。 ワ シ ン ト ン
こそが人種主義の犠牲者全体を代表するという歴史の記憶を逆手に
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取った黒人女性の芦の封じ込めであり、 ま さ に 男 性 化 さ れ た リ ン チ 認
識の負の遺産であると一一一一口わざるを得ないだろう。
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の反リンチ論は、ダイコトミ1的な措級三口説を導入することで、この
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三角形を崩そうとするものであった。だが、 ど ち ら の 側 の 言 説 か ら も
漏れていたが故に、 ま す ま す 周 縁 化 さ れ て い く 存 在 が あ る 。 そ れ が 黒
人女性である。
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3
) トマス!ヒル事件と黒人女性史の一
関連については、以下の分析が秀逸
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黒人男性こそがセクシュアルな人種暴力の犠牲者であると措定する
号一口説には、人種・ジェンダ 1 ・セクシュアリティの交錯する中で、
人女性が白人や黒人男性から受けてきた抑圧や迫害を軽読・不可視牝
一九九一年の
するという、別の深刻な不正義を産み出しかねないという問題があ
る。そのことをもっとも醜悪な形で表出させた事件が、
トマス iヒル事件であろう。
連邦最高裁判指名に際して、黒人女性法学者アニタ・ヒル
(hgzRぬ斗F052) は 、 公 聴 会 に お
(﹀三宮同日)に対する執掲な性的嫌がらせを告発された保守的な黒
人法律家クラレンス・トマス
いてこの非難を自分に課せられた﹁ハイテク・リンチ (
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﹂ であると嘆いてみせることで、判事の指名を確保するこ
とに成功した。ポスト公民権運動のアメリカにおいて、 黒 人 男 性 が リ
ンチの犠牲になることは、当然の報いから許容しえない不正義へと変
化 し た 。 だ が こ の こ と を 利 用 ( 悪 用 ) したトマスの行為は、 黒人男性
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