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世界経済レビュー - 国際金融情報センター

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世界経済レビュー - 国際金融情報センター
世界経済レビュー
No. 11
JULY 2006
JAPAN CENTER FOR INTERNATIONAL FINANCE
財団法人
国際金融情報センター
「世界経済レビュー」は、先進国経済および、アジア、
中東、中南米、中東欧・ロシア、アフリカ各地域の新興市
場経済の概要について、6 月下旬までの情報をもとにまと
めたものです。
本資料は、年 2 回の公表を予定しております。なお、主
要 29 カ国の経済指標は、JCIF オンラインサービスにおい
て、
「新興市場等経済指標」として随時更新しております。
JCIF オンラインサービスホームページ
http://www.jcif.or.jp/
目
次
ページ
概観
・・・・・・・・・・・・・
01
Ⅰ.先進国
・・・・・・・・・・・・・・
02
Ⅱ.アジア地域
・・・・・・・・・・・・・
08
東アジア
・・・・・・・・・・・・・
08
東南・南アジア
・・・・・・・・・・・・・
12
Ⅲ.中東地域
・・・・・・・・・・・・・・
17
Ⅳ.中南米地域
・・・・・・・・・・・・・・
20
Ⅴ.中東欧・ロシア、アフリカ地域
・・・・・・・・・・・・・・
25
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
概観
JCIF地域総括部長
瀬藤
芳哉
1.世界経済は 2000 年初頭の IT バブル崩壊の影響から脱して以来、概ね順調に拡大基調
を維持してきた。IMF によれば 05 年の成長率は 4.8%(本年 4 月「世界経済見通し」
の推定)で、06 年についてはそれを上回る 4.9%の予測を示している。実際、06 年に
入っても世界経済は順調に拡大を続け、石油や一次産品価格の高騰にもかかわらず、
物価上昇率は低位を続けてきた。
2.この背景には引き続きグローバリゼーションの進展による資源の効率的配分や生産性
向上があり、インフレ期待の落ち着きに伴って、長期金利も比較的低位で安定気味に
推移した。この間世界各地では、不動産投資や株式等の資産取引が活発化した。また、
米国は引き続き世界経済を牽引している。国内需要は住宅投資が減速しているものの、
活発な企業設備投資などに支えられて好調に推移している。膨大な経常赤字(GDP 比
6.5%)に伴う世界的なインバランス問題はあるものの、現状、石油輸出国や中国、イ
ンド等の新興市場国からの資本流入によりファイナンスされている。日本も景気回復
し自律的拡大局面に移行しつつあり、欧州でも景気改善が見られる。一方、ロシア・
中東・中南米等の資源国では原油・一次産品価格の上昇により先進国からの所得移転を
享受し、高い経済成長を続けている。
3.こうした中、5 月中旬頃から株価・為替・債券・商品市況等に変調が見られた。景気の成
熟度が増している米国経済の先行きに景気減速やインフレ懸念など不透明感が台頭し
たことが背景とみられる。米国の FRB はこれまで 2 年間にわたって続けてきた利上げ
が今後も必要かどうかについては今後の関係指標の推移如何との姿勢に転換している。
4.インフレ懸念の背景となった石油や一次産品価格の高騰には、地政学的な要素も働い
ているが、むしろ資源供給能力の余裕が小さい中で、中国やインド等による石油等の
資源需要増大が大きな要因となっている。また、インフレヘッジ等のため金融資産が
一次産品市況に流入していることも価格の上昇要因となっている。これまで米国は経
常赤字を産油国や東アジアの資金によりファイナンスしてきており、その前提たる中
長期的な成長確保が今後も必須で、そのためにはインフレ期待の抑制が必要である。
他方、米国経済の減速はその度合いにも応じ、世界経済、特に新興諸国の経済、資金
の流れなどにも大きく影響するだけに今後の状況の進展に十分留意する必要がある。
(注)以下、各地域の概観を行うが、個別国の最近の政治・経済動向については、JCIF カ
ントリー・レビュー06 年第 1-2 四半期をご参照されたい。
1
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
Ⅰ.先進国
JCIF調査部長
藤井
資久
1.先進諸国経済の概観
先進国経済は原油高による影響を受けながらも、底堅く推移している。米国経済は、息
の長い拡大を続けてきたが、このところ、コアインフレ率の上振れが生じる一方で、住宅
投資など減速の徴候もみられる。欧州経済は 2000 年以降、低成長が続いたが、輸出を中心
に緩やかな成長率の改善がみられる。日本経済は輸出、個人消費、設備投資の拡大により、
自律的拡大局面を迎えている。
足元、世界の主要株式市場の株価は、各国経済のファンダメンタルズが良好な中で大き
く下げた。この調整自体は、相場の行き過ぎに基づく一過性のものとみられるが、直接の
きっかけは、米国のインフレ懸念、利上げ観測である。米国の金融政策と各国株式市場、
石油価格変動は、今後その関連性をさらに強めるものと思われる。
[図表 I-1]先進諸国の経済指標
米国
実質 GDP 成長率(%、年率)
03
04
05
06/1Q
2.7
4.2
3.5
5.6
CPI 上昇率(%、年率)
03
04
05
06/1Q
1.9
3.3
3.4
3.7
経常収支(億ドル)
03
04
05
06/1Q
-5,275 -6,653 -7,915 -2,087
ユーロ
ドイツ
0.8
-0.2
2.1
1.6
1.3
1.0
2.4
1.5
2.1
1.0
2.1
1.7
2.2
2.0
2.3
2.0
366
48
569
992
-275
1,127
-78
224
フランス
1.1
2.0
1.2
2.1
2.1
2.1
1.7
1.8
92
-85
-324
-109
イタリア
英国
0.1
2.7
0.9
3.3
0.1
1.9
2.4
3.0
2.7
1.4
2.2
1.3
2.0
2.1
2.1
2.4
-199
-149
-152
-193
-267
-266
-93
-152
日本
1.8
2.3
2.6
3.1
-0.3
0.0
-0.3
0.4
1,316
1,713
1,665
414
(出所)各国統計
2.各国の最近の動き
(1)米国
05 年、米国経済は、第 3 四半期にメキシコ湾岸地域を襲ったハリケーンの影響と、エネ
ルギー価格高騰のマイナス要因を吸収しながら、持続的に拡大している。実質 GDP 成長率
は、05 年に年間 3.5%の後、
05 年第 4 四半期には 1.7%に減速したが、06 年第1四半期は 5.6%
と力強くリバウンドした。
成長要因の需要構成要素は、04 年同様、消費支出、設備・ソフトウェアへの企業投資、
そして輸出である。労働市場は、引き続き堅調で、非農業部門の雇用者数は、04 年に 210
万人、05 年に 200 万人それぞれ増加した。失業率は、03 年の 6.0%から、06 年 5 月には
4.6%にまで低下している。生産性の伸びは、01 年以降、年 3.6%のペースで上昇しており、
2
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
過去 10 年間の年平均 2.6%を大きく上回っている。
物価動向をみると、消費者物価指数(CPI)は、04 年の 3.3%から、05 年は 3.4%に上昇した。
内容的には、エネルギー価格は、04 年に 16.6%、05 年に 17.1%と大きく上昇したが、食料
品とエネルギーを除くコア CPI 物価指数の上昇率は 05 年に 2.2%と、小幅にとどまった。
消費者家計支出は、05 年のエネルギー価格の高騰によって 6.5%増加し、個人所得額の伸
び(5.4%)を上回った。家計のエネルギー財・サービスに対する支出の可処分所得に占める
比率は 02 年の 4.2%から 05 年 11 月には 6%に跳ね上がった。値上がりしたエネルギー支出
の大半は貯蓄取り崩しで賄われたかたちで、05 年の個人貯蓄率は 0.5%のマイナスに転じ、
06 年に入ってからも、マイナスが続いている。
昨年以来、米国経済のリスク・ファクターとして、住宅バブルの崩壊に警鐘が鳴らされ
てきた。過去 5 年間、住宅価格は年率 9.2%の割合で上昇してきた。この上昇の要因は、都
市部(東部、カリフォルニア州)での住宅需要の増大と、長期金利低下による住宅購入ロ
ーン費用の減少とされている。力強い需要とその結果生じた価格の上昇に反応して、05 年
の住宅着工件数は 200 万戸を上回り、過去最高水準となった。住宅投資は 05 年に GDP の
6%を占め、住宅建設の増加は、GDP 成長率に 0.5%ポイント寄与した。住宅ブームは、長期
金利の緩やかな上昇と、人口増加テンポの鈍化から、今後は次第に弱まることが予想され
る。住宅着工件数は、すでに足許やや低下傾向にあり、住宅開発は、高騰した住宅価格を
ある程度維持しながら、漸次減速に向かうとみられる。
こうした中で、FRB は 04/6 以降、FF レートを計 17 回、累計 4.25 ポイント引き上げてき
た(1→5.25%)。バーナンキ議長は、人々のインフレ心理抑制の重要性を強く意識してい
るとの評価が有力で、前広な利上げにより、結果としてやや低めの成長へのソフトランデ
ィングが予想される。
金融市場では、6 月 30 日現在、10 年債利回りが 5.14%、ユーロドル 3 ヶ月物金利が 5.48%
とイールドカーブは逆転している。為替は、ワシントン G7(4/21)の共同声明・附属文
書において、世界の不均衡是正が謳われたことをきっかけとして、ドル安が進んだが、そ
の後利上げ見通しが強まったことなどから、上昇に転じた。
この間、米国株価は、5 月上旬以降、大きく値を下げた(ダウ平均 5 月上旬 11,600→5
月下旬 11,100、6 月 30 日現在 11,150)
。6 月以降の FOMC で、
「経済指標次第では利上げの
可能性がある」との見方が強まったほか、国際商品市況が騰勢を強めたことなどが嫌気さ
れた。各国のファンダメンタルズは押しなべてしっかりしているが、投資家のポートフォ
リオ調整により、米国株価の下げに連動して、日本や新興国の株価も大幅に下落した。
米国政府が 6 月 8 日に発表した今年の見通しでは、実質経済成長率 3.6%(年初予測比
+0.2%)、消費者物価上昇率 3.0%(同+0.6%)、失業率 4.7%、長期金利 5.0%と比較的順
調な推移を想定している。
3
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
(2)欧州
ユーロ圏の経済回復の足取りはこれまでに比べるとしっかりしてきている。実質 GDP 成
長率は 05 年に 1.3%の後、06 年には第1四半期は 2.4%と伸びを高めた。もっとも、5 月
上旬に欧州委員会が発表した見通しによれば、06 年は 2.1%、07 年は 1.8%と緩やかな減速
を見込んでいる。07 年の低下はドイツの付加価値税率引き上げによるもので、その影響は
一時的とみられている。03 年夏から始まった今の回復局面では、過去に比べ、投資及び消
費の回復のスピードが緩慢であったことが特徴であるが、ここへ来て、投資が回復のペー
スを上げつつある。消費については、雇用の改善がそれほど期待できないこともあり、引
き続き、きわめて緩やかな拡大にとどまるとみられる。
ユーロ圏主要 4 カ国(ドイツ、フランス、イタリア及びスペイン)の経済成長のパター
ンにはそれぞれ特徴があり、国際競争力の優劣相違を背景とした輸出と民間消費のパフォ
ーマンスの格差に起因している。
(イ)ドイツ: 90 年代末から賃金、雇用の抑制と生産性向上に向けた政策努力が効を奏
して、国際競争力は向上、輸出の伸びは目覚しく高まった。もっとも、賃金、雇用の抑
制の結果、消費は低迷を余儀なくされ、低成長に甘んじている。
(ロ)フランス:生産性はある程度向上しているものの、相対的に高い賃金上昇によって
相殺されており、国際競争力の回復はドイツほど捗々しくない。輸出の伸びは低いが、
個人消費が好調に推移しているため、成長率はまずまずの水準を維持している。
(ハ)イタリア:生産性が向上していないにも関わらず、賃金上昇率が高いため、インフ
レ傾向にあり、国際競争力は著しく低下している。近時は消費も振るわないことから、
経済成長率の低さが際立っている。
(ニ)スペイン:国内建設部門及びサービス部門の堅調に支えられて内需主導の高成長を
続けているものの、高い賃金上昇率と、生産性の伸び悩みから、国際競争力は著しく脆
弱で、経常収支の赤字に悩んでいる。
欧州中央銀行(ECB)は、政策金利を 05 年 12 月、06 年 3 月、6 月と 3 回にわたり、計
0.75%、2.750%に引き上げた。ユーロ圏の消費者物価上昇率は 05 年 2.2%、06 年以降は 2.4%
近辺で推移しており、ECB がターゲットとする 2.0%近辺を上回っている。
英国の実質 GDP 成長率は 04 年の 3.1%から 05 年は 1.8%に減速したが、05 年第 4 四半
期、06 年第1四半期の成長率は各 2.3%に回復し、2.5%近辺とされる潜在成長率を維持した。
金融政策は、05 年 8 月に 0.25%引下げ、4.5%としたが、その後は 8 ヶ月連続で現状維持
の判断が続いている。米国・欧州において金融引き締めの動きがみられるのとは対照的に、
4
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
英国では、消費の弱さから景気の減速懸念がつきまとっており、総じて利下げ観測が強い。
(3)日本
日本経済は、輸出・個人消費・設備投資の堅調な伸びに支えられて、拡大局面に入りつ
つある。05 年の実質 GDP 成長率は 2.6%(年度では 3.2%)、06 年 1-3 月期の成長率(2 次速
報値)は年率 3.1%と、05 年 10-12 月期の年率 4.5%からは減速したものの、1%台とみられ
る潜在成長率を大きく上回る成長となった。
輸出は米国・中国を中心とした海外経済の堅調により拡大が続いている。個人消費は、
雇用・所得環境の改善により、着実に増加している。設備投資は、好調な企業収益、潤沢
なキャッシュフローを背景に拡大している。06 年度の政府経済見通しでは、今年度成長率
は 1.9%であるが、2%台後半の成長率が見込まれる。
(以下余白)
5
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
米国の主要経済指標
実質
GDP
* C
2001
2002
2003
2004
2005
2005/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2006/1
2
3
4
5
0.8
1.6
2.7
4.2
3.5
3.8
3.3
4.1
1.7
5.6
鉱工業
生産
* B
設備
稼働率
* %
総事業
失業率
売上高
除く軍人
在庫率
*
* %
%
非農業
雇用者
増減 *
(千人)
個人
所得額
* B
(名目)
個人
支出
* B
(名目)
個人
貯蓄率
*
(名目)
自動車販売
小売
売上高 (軽トラックを
* B 含む)百万台
* 年率
-3.5
0.1
0.6
4.1
3.2
76.3
75.1
75.7
78.6
80.0
1.41
1.39
1.32
1.30
1.26
4.7
5.8
6.0
5.5
5.1
-1,763
-535
112
2,097
2,019
3.5
1.8
3.2
5.9
5.4
4.7
4.2
4.9
6.5
6.5
1.8
2.4
2.1
1.7
-0.5
2.9
2.4
4.2
6.2
7.2
17.1
16.8
16.6
16.9
16.9
0.2
0.4
0.0
-0.1
0.2
0.8
0.0
0.3
-1.3
1.1
0.9
1.0
-0.1
0.4
0.5
0.8
-0.1
79.8
80.0
79.9
79.7
79.8
80.3
80.2
80.3
79.1
79.9
80.5
81.1
80.9
81.1
81.4
81.9
81.7
1.30
1.31
1.30
1.30
1.30
1.29
1.27
1.27
1.27
1.26
1.27
1.26
1.25
1.26
1.26
1.26
5.2
5.4
5.1
5.1
5.1
5.0
5.0
4.9
5.1
4.9
5.0
4.9
4.7
4.8
4.7
4.7
4.6
76
265
140
228
106
166
241
175
48
37
354
145
154
200
175
126
75
-2.6
0.5
0.5
0.2
0.3
0.5
0.5
-2.0
3.1
0.2
0.2
0.5
0.6
0.3
0.4
0.7
0.4
0.2
0.7
0.5
0.7
0.0
1.0
1.4
-0.4
0.4
0.3
0.5
0.7
0.8
0.2
0.5
0.7
0.4
0.7
0.5
0.4
-0.2
0.0
-0.6
-1.3
-3.3
-0.2
-0.3
-0.6
-0.8
-1.3
-1.3
-1.5
-1.6
-1.7
-0.4
1.0
0.1
1.6
-0.4
1.3
2.5
-1.8
0.4
0.3
0.6
0.4
3.0
-0.8
0.7
0.8
0.1
16.3
16.4
16.8
17.2
16.6
17.8
20.7
16.8
16.3
14.7
15.7
17.1
17.6
16.5
16.5
16.7
15.7
景気先行 消費者信用 民間住宅
指数 残高(前月 着工件数
* B 比増減額)
年率
耐久財
受注額
B
非国防
消費者
物価
A
資本財受注
B(除く航空機)
生産者
物価
最終財 A
輸出額
輸入額
貿易収支 経常収支
(財・サービス) *
*
十億ドル
十億ドル 十億ドル 十億ドル
2001
2002
2003
2004
2005
-1.8
4.9
5.0
7.4
2.3
7.7
4.5
4.2
4.2
2.7
1,601
1,710
1,854
1,950
2,073
-9.7
-1.2
-0.6
6.4
9.0
-13.2
-7.1
-2.0
2.8
12.3
1.6
2.4
1.9
3.3
3.4
-1.8
1.2
3.9
4.3
5.5
1,004.9
974.7
1,016.1
1,151.9
1,275.2
1,367.7
1,395.8
1,511.0
1,763.2
1,992.0
-362.8
-421.1
-494.9
-611.3
-716.7
2005/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2006/1
2
3
4
5
-0.2
0.4
-0.7
0.1
0.1
1.1
-0.1
0.1
-0.9
0.8
1.0
0.2
0.4
-0.5
0.4
-0.1
-0.6
3.7
7.5
4.6
11.4
-3.5
12.0
9.8
10.3
4.8
-8.5
0.5
3.9
6.9
3.7
1.4
10.6
2,137
2,213
1,856
2,079
2,034
2,078
2,070
2,075
2,158
2,046
2,131
2,002
2,265
2,132
1,972
1,863
1,957
-0.9
1.2
-1.7
1.1
7.0
1.2
-5.5
4.5
-1.6
3.2
4.4
0.9
-7.6
3.6
6.0
-4.7
-0.3
4.5
-1.8
-0.9
2.0
-0.1
2.9
-2.6
4.3
-1.6
1.5
-0.2
2.1
2.1
-1.0
3.4
-1.9
1.0
3.0
3.0
3.1
3.5
2.8
2.5
3.2
3.6
4.7
4.3
3.5
3.4
4.0
3.6
3.4
3.5
4.2
4.1
4.7
5.0
4.8
3.6
3.7
4.7
5.3
6.9
5.9
4.4
5.4
5.6
3.7
3.5
4.0
4.5
101.9
101.8
102.9
105.3
105.4
105.9
106.5
108.0
106.3
108.6
110.0
112.6
114.8
113.9
115.9
115.7
158.5
159.3
156.9
162.3
162.0
164.4
164.6
166.7
171.3
175.2
174.0
176.7
181.0
176.5
177.8
179.1
-56.6
-57.5
-53.9
-57.0
-56.6
-58.4
-58.1
-58.7
-65.0
-66.6
-64.0
-64.2
-66.2
-62.7
-61.9
-63.4
*季調済
A: 前年同期(月)比増減率 B: 前期(月)比増減率 C: 前期比年率
(注)生産者物価、消費者物価の年ベース計数は12月の前年同月比
6
-389.0
-472.0
-528.0
-665.0
-792.0
-191.7
-193.3
-183.4
-223.1
-208.7
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
ユーロ圏の主要経済指標
実質GDP 鉱工業生産
* C
* B
2001
2002
2003
2004
2005
2005/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2006/1
2
3
4
5
1.9
0.9
0.8
2.1
1.3
1.4
1.6
2.6
1.2
2.4
失業率
*
経常収支
小売売上 生産者物価 消費者物価 貿易収支
十億ユーロ 十億ユーロ
* B
A
A
(通関ベース)
*
(数量)
0.4
-0.5
0.3
2.0
1.3
7.8
8.3
8.7
8.9
8.6
1.8
1.2
0.8
1.4
1.4
2.0
-0.1
1.4
2.3
4.1
2.4
2.3
2.1
2.1
2.2
47.8
99.3
69.6
71.5
23.2
-21.3
53.2
31.9
46.8
-22.7
0.3
-0.4
-0.3
1.4
-0.5
0.5
0.3
0.8
-0.2
-0.6
1.4
0.2
0.2
0.0
0.6
-0.6
8.8
8.8
8.8
8.7
8.7
8.6
8.5
8.5
8.4
8.3
8.3
8.3
8.2
8.1
8.0
8.0
0.2
-0.1
0.5
-1.6
1.2
0.4
-0.4
1.2
-0.6
0.4
0.1
-0.1
0.5
-0.2
-0.7
1.4
4.0
4.2
4.2
4.3
3.5
4.0
4.1
4.0
4.4
4.2
4.2
4.7
5.3
5.4
5.1
5.4
1.9
2.0
2.2
2.1
2.0
2.1
2.1
2.2
2.6
2.4
2.3
2.3
2.4
2.4
2.2
2.4
2.5
-1.6
3.4
4.0
1.6
2.2
7.2
7.9
-2.4
2.0
0.4
-1.0
-0.5
-9.8
-3.0
0.6
-2.0
0.9
3.4
1.8
-0.1
0.1
1.0
-2.0
-5.4
-1.8
-6.0
-11.2
-3.4
-0.7
-4.0
-1.8
0.0
*季調済
A: 前年同期(月)比増減率 B: 前期(月)比増減率 C: 前期比年率
日本の主要経済指標
実質
鉱工業
GDP
生産
*C
*B
2001
2002
2003
2004
2005
2005/1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
2006/1
2
3
4
5
0.4
0.1
1.8
2.3
2.6
5.1
5.5
1.0
4.5
3.1
失業率
全世帯消費 新設住宅 機械受注
水準指数 着工(年率) (民除船電)
*
*
千戸 *
*B
国内
企業
物価 A
全国
貿易収支 経常収支
消費者
(季調前) (季調前)
物価 A
兆円
兆円
-6.5
-1.3
3.3
5.3
1.5
5.0
5.4
5.3
4.7
4.4
98.9
99.5
98.4
98.9
98.9
1,174
1,152
1,159
1,189
1,235
-6.3
-12.1
11.1
4.4
6.7
-2.3
-2.1
-0.8
1.2
1.7
-0.7
-0.9
-0.3
0.0
-0.3
6.56
9.88
10.19
11.95
8.71
10.65
14.14
15.77
18.62
18.26
1.9
-0.9
-0.4
1.1
-0.8
-0.1
-0.9
1.0
0.2
0.5
2.0
1.3
-0.1
-1.2
0.2
1.4
-1.0
4.5
4.6
4.5
4.4
4.4
4.2
4.4
4.3
4.3
4.5
4.5
4.4
4.5
4.1
4.1
4.1
4.0
99.6
99.3
98.9
98.7
99.6
99.0
96.4
99.2
99.2
99.5
98.7
98.2
96.8
98.1
96.9
96.8
1,290
1,174
1,177
1,160
1,212
1,224
1,309
1,272
1,248
1,282
1,303
1,169
1,259
1,334
1,224
1,335
1,294
1.6
3.0
4.0
-2.6
-5.1
7.2
-1.3
6.0
-6.7
2.9
1.9
4.1
-2.8
1.5
-5.2
10.8
1.4
1.3
1.4
1.9
1.8
1.4
1.6
1.8
1.8
2.1
2.0
2.3
2.7
3.0
2.7
2.5
3.3
-0.1
-0.3
-0.2
0.0
0.2
-0.5
-0.3
-0.3
-0.3
-0.7
-0.8
-0.1
0.5
0.4
0.3
0.4
0.6
0.19
1.08
1.11
0.95
0.29
0.86
0.86
0.10
0.95
0.82
0.59
0.91
-0.35
0.95
0.97
0.65
0.38
0.78
2.08
1.80
1.61
1.39
1.09
1.69
1.21
1.85
1.44
1.45
1.87
0.72
2.21
2.40
1.28
*:季節調整済
A: 前年同期(月)比増減率 B: 前期(月)比増減率 C:前期比年率
7
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
Ⅱ.アジア地域(東アジア)
JCIFアジア第1部長
羽鳥
克郎
1.東アジアの政治・社会
東アジア各国の政治外交情勢をみると、日中韓の関係を中心に不安定な状態が続いてい
る。
(1)中国では 06 年 3 月、北京で第 10 期全国人民代表大会(全人代)第 4 回会議が開催
され、今後 5 年間の経済運営の骨格となる「第 11 次 5 ヵ年規画(計画)」が採択された。
全人代では、中国の高い成長率(05 年 GDP 成長率は 9.9%)に対する懸念や、中国経済が
抱える様々な問題が指摘され、中でも今後の経済発展に不可欠な農村の発展、資源・エネル
ギー利用の効率化、環境問題、過剰投資に伴う生産・供給過剰問題などが重点課題として取
り上げられた。一方、外交面では、日中関係において小泉首相の靖国神社参拝を巡って双
方が歩み寄る姿勢を全く示していない。靖国神社参拝問題以外にも、東シナ海のガス田開
発や尖閣諸島問題など、見解が対立している問題が数多く存在する。米中関係では 4 月に、
胡錦濤国家主席が就任後としては初めて米国を公式訪問し、ブッシュ大統領との首脳会談
が開催された。この会談では、人民元の切り上げ、貿易不均衡の是正、知的財産権の保護
という米国側の要求に対する中国側の対応が注目されていたが、中国側が従来からの立場
の説明に終始したこともあり、個々の問題で大きな進展はみられなかった。また、中台関
係について言えば、独立志向が強い台湾の陳水扁総統に対し、中国政府は台湾野党との対
話を進めることで、牽制を図ってきた。こうした状況の下、2 月には台湾の陳総統が、中
国との統一への道筋を定めた「国家統一綱領」と、統一問題に関する総統の諮問機関であ
る「国家統一委員会」の廃止を決定した。中国側は「一つの中国」原則の立場から、こう
した動きを強く非難している。
(2)韓国では 5 月 31 日に次回大統領選(07 年 12 月に予定)の前哨戦ともいわれる第 4
回統一地方選挙が実施されたが、事前の予想通り最大野党であるハンナラ党の圧勝に終わ
った。与党ウリ党の敗北要因としては、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の推進した経済政
策が効果を上げられなかったことや北朝鮮寄りの政策が国民の評価を得られなかったこと
などが考えられる。外交面では、日本による竹島(韓国名:独島)周辺の排他的経済水域
(EEZ)の調査計画をめぐり、日韓で緊張が高まった。盧大統領は、靖国参拝や歴史教科書
問題と併せて断固たる態度で臨む姿勢を示しており、日韓関係の冷え込みは当面継続する
可能性が高い。また、昨年 11 月以来中断したままの 6 ヵ国協議は、韓国・中国が北朝鮮に
早期復帰を働きかけているものの、北朝鮮が昨年来の米国による金融制裁解除を条件とす
る姿勢を崩しておらず、再開の目途は立っていない。
(3)台湾では 05 年 12 月 3 日に統一地方選挙が行われ、野党である国民党が大勝し、陳
8
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
総統率いる与党民進党は大敗した。06 年 2 月末、陳総統は「国家統一綱領」と「国家統一
委員会」の運用停止を発表し、中国政府に大きな波紋を投げかけた。これは、求心力が低
下している陳政権が野党国民党に対抗するために、民衆に対して独立志向を強く示すこと
で、支持の回復を狙ったものと考えられる。一方、馬英九・国民党主席は 3 月の訪米に続
き、翌 4 月の訪中で中国共産党との合同フォーラム開催など、積極的な外交活動に乗り出
しており、次期総統選勝利へ闘志を燃やしている。
(4)香港では、05 年 7 月の曾蔭権(ドナルド・ツァン)氏が行政長官就任以来、香港市
民から政府への信頼度は高く、支持率は 98 年以来最高となった。香港政府と中国中央政府
との間で 03 年に締結された経済貿易関係緊密化協定(CEPA)も 06 年からは既に第 3 フェ
ーズに移行しており、関税の撤廃対象の拡大と併せ、香港への個人旅行の自由化について
も中国の対象都市が段階的に拡大されている。
2.東アジアの経済
各国経済は、05 年後半以降回復に転じており、06 年に入ってからも拡大傾向にある。こ
うした堅調な動きは、内需・外需双方に支えられたものである。中国では投資の根強い増勢
に加え、輸出も依然として 20%台後半の伸びを維持している。NIEs 諸国も世界景気の回復
に伴い、エレクトロニクス製品を中心に需要が回復し、輸出が拡大している。特に、外需
依存度の高い中国、韓国、台湾などの経済にはプラスに働いているといえよう。これまで
比較的安定していた消費者物価は、主として国際的な石油価格の高騰などにより、徐々に
上昇の度合いを強めている。各国は政策金利の引き上げ等による金融引締め策の発動によ
り、概ねインフレ圧力を抑制している。最近の CPI 上昇率は、中国が依然として 1%台の
上昇ペースに留まっているほか、NIEs 各国も 3%を下回っている。
[図表Ⅱ-2]東アジア主要国の経済指標
実質 GDP 成長率(%)
CPI 上昇率(%)
経常収支(億ドル)
03
04
05
06/1Q
03
04
05
06/1Q
03
04
05
中国
10.0 10.1 9.9
10.3
1.2 4.0 1.8
1.2
458.8
686.6 1,608.2
韓国
3.1
4.6 4.0
6.1
3.6 3.6 2.7
2.3
119.5
281.7
165.6
香港
3.2
8.6 7.3
8.2 -2.1 0.0 1.1
1.4
164.7
157.3
197.0
台湾
3.4
6.1 4.1
4.9 -0.3 1.6 2.3
1.4
292.6
184.9.
161.2
アジア平均
7.0
7.8 7.4
NA
2.6 4.1 3.4
NA 1,692.9 1,756.6 2,396.3
(出所)IMF IFS、および各国統計
(注)アジア平均は、「アジア開発銀行 05 年 12 月 Outlook」による。経常収支はアジア合計額で表示。
06/1Q
NA
-11.2
NA
63.7
NA
また、各国の為替・株式市場は、米国の金融政策をめぐる不透明感などを背景に乱高下が
目立っているが、世界的な景気拡大により各国の外貨準備高も積み上がり、急激な通貨安
など不測の事態に陥った場合の対応力は強まっているといえよう。
9
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
3.各国の状況
(1)中国の 06 年第1四半期の実質 GDP 成長率(以下、成長率)は、前年同期比 10.3%
と 05 年通期の 9.9%からさらに加速した。高成長を牽引しているのはこれまで同様、固定
資産投資と外需である。特に固定資産投資は、地方の各地で地元成長率を引上げるための
開発プロジェクトが推進されてきたこともあって、高い伸びを示した。マネーサプライの
増加を背景とした銀行貸出の増加がこうした固定資産投資の伸びを支えている。また、投
資の増加が一部の業種における供給過剰を引き起こして企業収益の悪化を招いており、さ
らに輸出に拍車をかけている。政府は過剰投資を抑えるため、3 月には生産能力の過剰な
特定業種(自動車、鉄鋼、アルミなどの素材産業を中心に 10 業種)を指定し、厳格に運営
するなどの対策を講じた。また、金融政策面では、人民銀行は 4 月に入り貸出基準金利の
引き上げを実施し、さらに 7 月 5 日から預金準備率を 0.5%引き上げる旨公表した。
また、外需も、貿易黒字が前年を上回るペースで増加している。06 年 1-5 月期では、輸
出の伸び(前年同期比 25.7%)は、輸入の伸び(同 22.0%)を上回っており、貿易黒字の
累計は 467.9 億ドルに達し、前年同時期の 302 億ドルを大幅に上回った。これは、今後の
人民元高を見込んだリーズ・アンド・ラグスの動きや国内の余剰生産能力増に伴う押し出
し輸出の増大が少なからず影響している。また、進出企業による貿易額は、貿易額全体の
6 割近くまで高まっている。
為替改革の動きをみると、人民元相場は、05 年 7 月の対米ドル切り上げ以降緩やかに上
昇を続けており、本年 5 月には初めて1ドル-8.00 元の壁を突破した。ただし、この間の
上昇率は約 3.4%に留まり、1日の変動幅も上限の 0.3%よりは、はるかに低い幅に抑えら
れている。また、中国証券監督管理委員会(証監会)は 5 月 17 日、「株式の新規公開発行
と上場管理方法」を公布し、昨年 5 月以来凍結されていた国内株式市場における新規株式
公開(IPO)を再開する法整備を行った。この IPO 再開の第 1 号として、6 月に国有企業の
1 社が深圳市場に上場した。
中国経済に関するリスクファクターはこれまでにも数多く挙げられているが、喫緊の課
題は金融機関の不良債権問題の再燃を如何に防ぐかであろう。この間、地方の官吏に対す
る評価基準は、今なお目標成長率の達成度が柱となっており、中央政府にとっては、地方
政府が投資を加速させないで如何に経済発展を図っていくかが大きな課題といえよう。
(2)韓国では輸出と民間消費の拡大により、06 年第1四半期の成長率が、前期比 1.2%、
前年同期比 6.1%と高い伸びを示した。もっとも民間消費と輸出は、ウォン高、原油高、
株価下落等の外部環境変化により、先行き鈍化することが懸念される。国際収支面では、
経常収支が貿易黒字の減少とサービス収支赤字の増加を主因に、3 年ぶりの赤字となった。
輸出は、ウォン高の進行にもかかわらず、電気・電子機器中心に 06 年第1四半期は前年同
期比で二桁(11.4%)の伸びを維持している。また、輸入は原油や非鉄金属中心に高い伸
びを続けている(同 19.8%)ことから、貿易黒字は縮小傾向にある。今後、ウォン高の進
行が輸出企業に与える影響が懸念される。しかし、原油高ではあるものの、ウォン高を背
10
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
景にインフレ圧力はある程度抑制されるとの見方もあり、成長率への影響は限定的とみら
れている。また、外貨準備高は 97 年の金融危機以来ほぼ一貫して増加しており、韓国銀行
の発表では 5 月末には 2,246.9 億ドルを記録した。CPI 上昇率は、ここ 1 年 2%台と安定し
た動きを続けてきたが、韓国銀行は 6 月、景気回復と原油高の継続により物価上昇圧力が
高まりつつあるとして、政策金利を 0.25%引き上げて 4.25%とした。
為替・株式市場は 5 月に入り、やはり乱高下の場面が多くなっている。最近についても、
米国の金融政策に対する不透明感や世界景気の減速懸念台頭により、同国の市場も不安定
な動きとなっている。
(3)台湾の 06 年第1四半期の成長率は、前年同期比 4.9%と、2 月時点の政府見通し同
5.1%とほぼ同水準であった。05 年下期以降、世界景気の回復を反映して半導体や液晶パ
ネルなどのエレクトロニクス関連部品に対する需要が拡大しているため、輸出が経済成長
を牽引している。
国際収支面では、04 年以降減少傾向にあった経常黒字が、05 年 10-12 月期は前年同期比
74.1 億米ドル増の 91.4 億米ドルと過去最高の水準に並んだ。05 年後半から世界的なエレ
クトロニクス製品への需要拡大によって貿易収支が急回復したことがその背景にある。ま
た、外貨準備は、06 年 1-5 月中に 76.5 億米ドル増加し、06 年 5 月末には 2,609.4 億米ド
ルに達した。
この間、物価は 05 年には天候不順の影響で食料品価格が高騰したが、06 年に入ってか
らは安定的に推移し、CPI 上昇率は前年同月比 1%台の水準に落ち着いている。
今後のリスク要因としては、陳総統の罷免案提出など、政局混乱による立法院の機能麻
痺、原油高に伴うインフレ圧力、カードローン多重債務者の急増による民間消費への悪影
響などが挙げられる。
(4)香港の 06 年第1四半期の成長率は前年同期比 8.2%と高成長を持続した。内需、外
需ともに好調で、この背景には中国政府が 03 年の新型肺炎(SARS)による景気低迷以降行
ってきた香港への経済支援がある。香港は消費財の多くを輸入に依存しているため、恒常
的に貿易収支は赤字である。経常収支は貿易赤字を観光業などサービス収支の黒字で補う
構造が 98 年以降続いている。また、株式市場では中国国有企業の上場が相次いでおり、6
月に上場した中国銀行は、中国企業として過去最高の 97 億米ドルを調達した。ハンセン株
価指数は 5 月上旬、米国の利上げ停止観測や香港ドルの変動幅拡大を予想する投機資金の
流入などを背景に、一時 5 年 8 ヶ月ぶりに 17,000 ポイントを超えたが、5 月中旬以降は海
外市場の株価下落や金利上昇観測などから弱含んでいる。
好調な香港経済であるが、香港政府は原油高、米国金利の上昇、中国本土の政策変更な
どをリスク要因として挙げている。
11
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
Ⅱ.アジア地域(東南・南アジア)
JCIFアジア第2部長
松村
淳
1.東南・南アジアの政治・社会
(1)政治情勢
東南アジア・南アジア各国の政治情勢をみると、タイ・フィリピンが不安定な状況にあ
る。
(イ)タイでは、06 年 1 月にタクシン首相の一族が保有する株式のシンガポール企業など
への売却に際し不正を行ったとの疑惑が浮上した。その売却金額が巨額であったことも
あって、同首相への批判が高まった。これに対抗して首相は 2 月に下院を解散し、4 月
に総選挙を行ったものの、野党のボイコットもあって一部選挙区で当選者を決定できな
い事態に陥った。この混乱のプロセスではプミポン国王の介入もあり、首相が総選挙直
後に辞任を表明し、やり直しの総選挙が行われることになった。投票は今のところ 10
月が予定されている。空白期間が長期となったことによる政策執行の遅れを回避するた
め、一時休養に入った首相が現在では職務に復帰したが、その首相の復帰に対しても批
判が高まっている。
これに加えて、委員が辞任を求められている選挙管理委員会と裁判所の対立も長期化
している。秋の選挙が円滑に実施されるか、また後継者として誰が選出されるのかも不
透明であり、今後も政局は不安定な状況が続くものと思われる。
(ロ)フィリピンでは、05 年 5 月以降アロヨ大統領本人の選挙時の不正や家族の不正資金
受取などに対する疑惑が噴出、その後大統領退陣を求める民衆デモなども行われ政局が
一時混乱した。さらに 06 年 2 月には国軍内部に政権打倒の動きがあるとして軍将校 2
名が逮捕される事件が発生し、大統領は非常事態宣言を発令した。これは 1 週間後に解
除され、その後一応混乱は収まった形となっている。それでも、大統領に対する不満は
各層で高まっており、アキノ元大統領などもアロヨ大統領の辞任を求めている。現大統
領は憲法を改正し、議院内閣制に移行することで自らの権限を縮小しつつ混乱を乗り切
ろうとしている模様であるが、憲法改正はかなり時間を要する見込みであり、反対派の
不満の高まりを抑えられるかどうか微妙な情勢になっている。
(ハ)ベトナムでは、4 月に 10 回共産党大会(5 年に 1 回開催)が行われた。注目の党書
記長には、現職のノン・ドゥック・マイン氏が再任された。さらに 6 月末には国会で、
国家主席(大統領)にエン・ミン・チェット氏、首相にグエン・タン・ズン氏以下が指
名され、新政権が発足した。
(ニ)外交面では、3 月の米国ブッシュ大統領のインド・パキスタン訪問が注目された。
その際に米国はインドに対して原子力発電など民生利用に限定して核燃料や核技術の移
12
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
転を行うことを表明した。一方、パキスタン側は、米国に対しインドに約束した核協力
と同等の援助を求めたが、ブッシュ大統領はこれを拒絶したと報じられている。米国は
同じ核保有国であっても、民主主義国のインドと軍人出身のムシャラフ大統領が率いる
パキスタンでは信頼度に差があることを強調したものとみられる。
(2)社会情勢
5 月 27 日、インドネシアのジャワ島中部ジョグジャカルタ近郊でマグニチュード 6.3 の
大地震が発生した。これによる死者は 5,700 人強、負傷者は約 38,000 人に達した。物的損
害も甚大であり、被害・損失総額は 29.1 兆ルピア(約 31.3 億ドル)まで拡大した模様であ
る。これに対して日本をはじめ世界各国からの支援が表明され、救援・復興活動が行われ
ている。
治安は相変わらず不安定な国が多く、各地でテロ事件や暴動が発生している。タイでは、
イスラム教徒居住地域の南部 3 県において、主としてイスラム過激派によるものとみられ
るテロ事件や暴動が相変わらず断続的に発生している。また、スリランカでは 6 月 15 日に
政府に反抗する少数民族タミル人の武装勢力「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」による
とみられる地雷の爆発で、一般住民の乗るバスが大破し少なくとも 64 人が死亡した。ノル
ウェーの仲介で 02 年 2 月に政府と LTTE の間の停戦合意がなされていたが、これは実質的
に形骸化した状態になっている。
この間、鳥インフルエンザ被害がやや拡大している。東南アジアでは、03 年以降ベトナ
ム、インドネシア、タイ、カンボジアでは、人間の発症者・死亡者が出ている。今のとこ
ろ大発生という事態には至っていないが、今後の大きなリスク要因として注意が必要であ
る。
2.東南・南アジアの経済
(1)概況
東南アジア・南アジア地域の各国経済は、原油高騰により大きな影響を受けている。も
っとも原油高の経済に対する影響は、国によって大きく異なる。一般的には輸入エネルギ
ーへの依存度が高いタイ、フィリピン、インドなどにはマイナスの影響が大きく、エネル
ギー輸出超過国のベトナム、インドネシア、マレーシアなどでは相対的にマイナスの影響
が少ないといえる。
各国では総じて物価上昇、国際収支の悪化、金利上昇などの現象が目立ってきている。
もっとも、直近 06 年第 1 四半期の実質 GDP 成長率(前年同期比)は、輸出の堅調や省エネ
努力の効果などが寄与して堅調な伸びを維持する国が多い。これは、原油価格上昇の結果
として発生する物価上昇圧力を、各国が金利引き上げなどのマクロ政策によって抑え込ん
でいるところが大きいものと思われる。このため、当該各国における原油価格高騰の影響
は、これまでのところ相対的に小さいものに留まっているといえよう。
13
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
[図表Ⅱ-2]東南・南アジア主要国の経済指標
実質 GDP 成長率(%)
CPI 上昇率(%)
03
04
05
06/1Q
03
04
05
06/1Q
ベトナム
7.3
7.7
8.4
7.2
3.1
7.8
8.3
8.5
インドネシア
4.9
4.9
5.6
4.6
5.2
6.4
17.1
15.7
シンガポール
2.2
8.7
6.4
10.6
0.5
1.7
0.5
1.4
タイ
7.0
6.2
4.5
6.0
1.8
2.8
4.5
5.7
フィリピン
4.9
6.2
5.0
5.5
3.5
6.0
7.6
7.3
マレーシア
5.5
7.2
5.2
5.3
1.1
1.4
3.0
3.2
インド
8.5
7.5
8.4
9.3
5.3
6.5
4.8
NA
(出所)IMF IFS、および各国統計
(注)インドは年度(4 月~3 月)の数値を表示しており、物価は WPI。
経常収支(億ドル)
03
04
05
06/1Q
-19
-9
-3
NA
84
16
9
NA
270
279
347
94
79
69
-37
17
14
21
24
NA
134
149
199
NA
69
-54
NA
NA
この間、各国では 06 年に入り、押しなべて為替相場、株式相場が上昇した。アジア諸国
の経済の好調を背景に海外投資家の新興市場買いが継続的になされたものと判断される。
しかし、多くの場合、為替・株式市況は、5 月上旬をピークにほぼ歩調を合わせて下落に
転じた。これは、米国のインフレ懸念と利上げ観測の台頭によりドル買いの動きが強まっ
たところへ広い範囲で海外投資家による利食いの動きが加わったためとみられている。
今後当面の経済動向を展望すれば、様々なリスク要因が指摘できる。まず、原油価格高
騰の影響として、仮に価格が現在の水準程度に留まるとしても、現状その製品価格への転
嫁があまり進んでないことに照らし、物価上昇圧力は今後も根強く潜在するものとみられ
る。また、各国とも物価上昇の抑制に向けて当面金融引締め政策を継続すると想定され、
これが個人の消費意欲の減退や企業の設備投資の低迷につながる可能性もある。
また、前述の通り 5 月以降、多くのアジア諸国で為替・株式相場の下落傾向がみられた
ことを受けて、今後の相場動向には留意が必要である。もっとも、各国経済は国際収支、
財政収支、外貨準備高などの面で、90 年代後半のアジア経済危機当時と比較して大幅に改
善しており、対外債務残高も大幅に減少している。従って、為替相場や株式相場の変動に
対する各国経済の抵抗力はかなり強まっていると判断される。
さらに、不確実な要因ではあるが、新たなテロの発生や鳥インフルエンザの被害の拡大
などについては、起こりうるリスク要因として指摘しておきたい。
(2)主要国の経済動向
(イ)ベトナムの 06 年第 1 四半期の実質 GDP 成長率(以下、成長率)は、前年同期比 7.2%
と前年並み水準を維持した。産業別では、原油減産により鉱業が不振だったが、製造業
が 11.0%の伸びと成長を牽引した。物価上昇率は第 1 四半期 8.5%と高めに推移してい
る。今後 7 月に予定される電気料金の引き上げなどにより、物価上昇の加速が懸念され
ている。一方、国際収支は、原油・繊維などの輸出好調により改善傾向にある。
(ロ)インドネシアは、05 年 10 月の石油製品価格の大幅引き上げ以降、物価が顕著に上
昇し、CPI 上昇率が 17~18%台に高まった。その後、その水準は 06 年 5 月以降 15%台
まで低下したものの、物価上昇による購買力の低下や金利上昇による消費者の割賦販売
14
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
の低迷を招き、個人消費の不振などにつながっている。この結果、06 年第 1 四半期の成
長率も、外需の好調はあったものの 4.6%と減速した。政府は、最低賃金の引き上げや
一連の低所得者層対策により石油製品の価格上昇に伴う影響を緩和しようと努めており、
高水準ながら物価上昇率も落ち着きつつある。このため、今後については内需の回復が
期待できると思われる。
なお、5 月末に発生したジャワ島中部の大地震については、人的・物的被害は甚大で
あったが、経済成長率に与える影響は軽微とされている。
(ハ)シンガポールの経済は好調を持続している。06 年第 1 四半期の成長率も前年同期比
10.6%と高水準に達した。輸出が成長を牽引しているほか、内需も好調である。また、
物価も安定しており、経常収支も引き続き高水準の黒字を確保している。当面成長率は
若干鈍化するとしても、引き続き堅調に推移すると見込まれる。
(ニ)タイは、原油価格高騰の影響により 05 年以降物価の上昇が顕著となった。直近でも
06 年1-5 月の CPI 上昇率は 5.9%と近時の同国の動向からみて高い水準に達した。しか
しながらコア・インフレ率は同期間で 2.7%と比較的安定している。政府は、度重なる
政策金利引き上げを通じてインフレ抑制重視の政策スタンスを明確にしており、今後の
物価動向はさほど心配ないとコメントしている。
06 年第 1 四半期の成長率は前年同期比 6.0%と数字は良好であったが、前年同期が不
振であったことの反動増の要因が大きく、季節調整済前期比成長率は 0.7%に留まって
いる。経済の実態としては減速の兆しが窺われる。政治面の混乱により、やり直し選挙
後の新政権発足までの間、大型インフラ事業の執行が凍結されたことも今後のマイナス
要因となろう。
(ホ)フィリピンでは、原油価格高騰の影響により貿易収支が悪化している。ただし、同
国輸出の主力となるエレクトロニクス製品の輸出回復により相当程度そのマイナスを相
殺し、さらに海外労働者(OFW)送金の順調な拡大が寄与したため、経常収支段階では黒字
を確保している。OFW 送金の増加は、民間消費の堅調な伸びにも貢献している。また、
CPI 上昇率も、06 年 1-3 月期には 7.3%、4 月 7.1%、5 月 6.9%とやや落ち着いてきた。
06 年第 1 四半期の成長率は、前年同月比 5.5%と堅調な伸びを確保したが、季節調整
済前期比成長率は 0.9%と同国としては低水準となった。これは、前年同期(05 年 1-3
月期)が農業部門の不振などで低い伸びであったことの反動によるところが大きい。また、
最近の OFW 送金の伸びが頭打ちとなっていることも勘案すれば、同国経済は当面緩やか
に減速する懸念がある。
(ヘ)マレーシア経済は引き続き安定的に推移している。同国はエネルギーの純輸出国で
あることから、物価上昇率の若干の高まりを除けば、原油価格高騰のマイナスの影響は
小さい。工業製品の輸出好調が経済を牽引し、内需も順調に推移しているが、GDP に占
める輸出依存度が高い経済構造であることから、輸出相手国の経済状況の悪化がリスク
要因となる。ただし、現状は先進国経済が堅調に推移しているため、当面の懸念は少な
15
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
いものと考えられる。
(ト)インドは、原油価格高騰の影響などにより貿易収支が悪化しているが、経常収支段
階では、印僑などからの海外送金の流入や IT 産業などサービス輸出の拡大に支えられ、
悪化を小幅に留めている。物価上昇もこのところやや高まってはいるものの、WPI 上昇
率は 5 月末で 4.7%に留まっている。これを受けて、06 年第 1 四半期の成長率は、前年
同月比 9.3%と好調であり、この結果、05/06 年度の成長率も 8.4%と高い水準を維持し
た。農業部門が天候に左右されることは否めないが、製造業やサービス部門は相変わら
ず好調であることから、同国は当面高成長が持続できるものと思われる。
(以下余白)
16
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
Ⅲ.中東地域
JCIFアジア第2部長
松村
淳
1.政治・社会
中東地域においては、政治面で種々の不安定要因を抱えており、同地域のみならず、世
界全体にとって大きな火種と認識されている。
(1)イラク情勢
イラクでは、サダム・フセイン政権崩壊後、3 年以上が経過し、政府樹立に向けた動き
がようやく進展してきた。まず、05 年 5 月の段階で移行政府が発足し、その後、懸案であ
った憲法草案が同年 10 月の国民投票で可決され、これを踏まえて同年 12 月に国民議会選
挙(定数 275)が実施された。06 年 1 月になって開票結果が発表され、シーア派連合会派
の「統一イラク同盟(UIA)」が第 1 党となった。新政権は首相の人選に混乱があったが、結
局、同会派のマリキ氏が任命された。新政権は、選挙結果確定から 4 ヶ月遅れの 5 月 20
日に発足したが、治安面での重要閣僚の内相、国防相、国家治安相の任命が 6 月 8 日まで
ずれこんだ。政権内部でのシーア派、スンニ派、クルド系の対立は依然として激しく、今
後円滑な政権運営ができるかどうか危惧されている。
一方で、武装勢力のテロ攻勢は相変わらず沈静化の兆しがみられず、兵士やイラク住民
などの犠牲も断続的に続いている。駐留多国籍軍の中核をなす米軍では、兵士の死者数が
開戦以降 2,500 人を超え、イラク治安部隊や一般市民の死者も多数にのぼっている。6 月 7
日に米軍の空爆作戦によりヨルダン人テロリストのザルカウィ容疑者が殺害されたが、残
党からこれに対する報復宣言が出ており、むしろテロが一層激化する可能性も出てきた。
米国などは、なるべく早い時期に多国籍軍がイラクに治安維持機能を委譲し撤退する方針
であるが、このままイラク内部の混乱を容認し、多国籍軍が撤退に踏み切ることはできな
い状況となっている。従って、米国など多国籍軍が、駐留軍の撤退などの「出口戦略」を
具体的にどのように構築するか、今後の動向が注目される。
(2)イスラエル・パレスチナ情勢
パレスチナ情勢は、05 年 8-9 月にイスラエルがガザ入植地から全面撤退したことで、和
平に向けて大きな進展があった。しかしながら、和平を主導してきたイスラエルのシャロ
ン首相が、新党「カディマ」を 05 年 11 月に立ち上げた後、06 年 1 月に病に倒れ再起困難
となり、後継者のオルメルト氏が 3 月の総選挙を経て新首相に就任したことによって、支
配体制に大きな変更が生じた。
一方、パレスチナ側では、06 年 1 月に評議会選挙が実施されたが、イスラム原理主義組
織のハマスが勝利し、世界中に衝撃が走った。ハマスは、イスラエルの存在を認めておら
ず、これまでテロ攻撃を繰り返してきた過激派組織であることから、欧米諸国はパレスチ
17
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
ナ自治政府に対する経済援助を中止するなど圧力を掛けている。また、パレスチナ自治政
府のアッバス議長は、ハニア首相率いるハマス主導の内閣に対し、事実上イスラエルの存
在を認める「国民和解文書」の受け入れを迫り、6 月末にハマスはこれに合意したが、正
式調印は先送りとされた。
このように、パレスチナ内部での抗争に加え、6 月に入り、イスラエルの攻撃に対抗し
て、ハマスが 05 年 2 月以来維持してきた停戦協定を破棄し、イスラエル側にロケット弾を
打ち込んだ。これに対し、イスラエル軍もパレスチナ武装勢力を狙った空爆で応酬した。
さらに 6 月 28 日には、05 年 9 月のガザ地区からの撤退以降はじめて、イスラエル軍がパ
レスチナ自治区のガザ地区南部に本格的に侵攻した。このように、パレスチナ・イスラエ
ル双方のテロや武力闘争が激化しており、現状では同地区和平の目処は立たないといえる。
(3)イランの核開発問題
イランの核開発問題も重大な局面に差し掛かっている。同国は平和的な核利用の権利を
強く主張するが、これが核兵器開発につながる疑いが強いとする米国・EU 諸国と鋭く対立
している。特に、79 年以降イランと断交状態にある米国は、ブッシュ大統領がイランを「悪
の枢軸」と呼ぶなどイラン敵視政策を維持している。双方の交渉は膠着しており、国連安
保理事会や IAEA でも経済制裁論などを含む議論が都度行われ、これにイランが異を唱える
ということが繰り返されてきた。
6 月に入り、米・英・仏・中・露の国連安保理事会常任理事国 5 カ国とドイツがイラン
に包括見返り案を提示した。同案の内容詳細は非公表だが、ウラン濃縮活動をイランが断
念する代償に欧米側が各種の経済協力を行うものとみられている。イラン側は包括見返り
案を真摯に検討する意向を示しているが、回答提示までにはしばらく時間がかかるものと
予想される。
一方、常任理事国側もイランに対する経済制裁も辞さないとする米・英・仏と、あくま
でも交渉による解決にこだわる中・露との温度差があることは否めず、今後の推移は不透
明な状況になっている。
2.経済
中東産油国は、総じて原油価格高騰に伴う石油収入増加の恩恵を受けている。
原油価格は 06 年に入り再度上昇し、WTI 原油先物市場は 5 月初旬に 1 バーレル 74 ドル
台の史上最高値を付けた。その後やや相場は落ち着いたものの、6 月に入っても 70 ドル超
の水準で高止まっている。原油相場上昇ないし高止まりの原因として、①産油国の生産能
力がサウジアラビアを除けばそれほど余力がないとされている、②世界第 2 の石油消費国
の中国をはじめ世界的にエネルギー需要が増大している、③イランの核開発問題に伴う供
給不安、④中東地域やナイジェリアなどのテロ懸念の継続、⑤投機資金の流入、などが指
摘されている。中長期的にみても、前述の諸要因からは今後短期間での原油価格の目立っ
た低下は期待しがたいとの見方が多い。
18
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
原油価格の上昇は、輸入国から輸出国に所得が移転する効果を持つことから、サウジア
ラビアやイランなどの主要な原油輸出国にとって経済・財政面でのプラスは大きい。実質
GDP 成長率(以下成長率)についてみると、サウジアラビアは 05 年に 6.6%と過去 10 年間
で 2 番目に高い水準に達した。イランも 05 年の第 1-3 四半期で、5.6%と堅調な成長率を
維持している。もっとも、両国とも石油部門の成長率は、生産数量ベースの小さい伸びを
反映して小幅に留まっており、非石油部門が経済成長を牽引する形となっている。物価動
向をみると、サウジアラビアは広範囲な物品に対して政府が補助金を支出しているため、
CPI 上昇率は低い水準に留まっているが、イランでは相変わらず二桁の上昇率となってい
る。この間、国際収支や財政収支は顕著に好転している。この点、ますます拡大するオイ
ルマネーの動きが注目されている。
ただし、これら中東産油国は、共通して石油収入に依存する体質や、高い失業率などの
構造的な問題点を抱えており、増加する石油収入を有効に活用した経済構造改革が引き続
き重要な課題となっている。
一方、石油輸入国のトルコは、IMF 主導の経済改革を進めているが、原油価格高騰や内
需好調を反映して国際収支が悪化している。06 年に入っても、貿易収支・経常収支とも前
年を大幅に上回る赤字が続いている。物価は、04 年、05 年とも CPI 上昇率が一桁台となる
など一旦は落ち着きをみせたが、06 年に入り原油価格高騰の影響などから上昇率がやや高
まってきた。さらに、5 月以降、通貨(トルコ・リラ)と株式相場が大きく下落しており、
今後のインフレの加速などによる経済の悪化が懸念される。
[図表Ⅲ-1]中東主要国の経済指標
実質 GDP 成長率(%)
CPI 上昇率(%)
経常収支(億ドル)
03
04
05
06/1Q
03
04
05
06/1Q
03
04
05
06/1Q
イラン
6.8
4.8
5.6
NA
15.6
15.2
12.7
NA
8
40
121
NA
サウジアラビア
7.7
5.3
6.6
NA
0.6
0.3
0.7
1.7
280
519
907
NA
トルコ
5.8
8.9
7.4
NA
18.4
9.3
7.7
8.1
‐80
-155
-231
‐86
(出所)IMF IFS、および各国統計
(注)イランの 05 年の数字は、実質 GDP 成長率は 05 年上半期、CPI 上昇率・経常収支は 05 年第 1-3 四半
期のもの。
(以下余白)
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
Ⅳ.中南米地域
JCIF中南米部長
桑原
小百合
マスメディア等は、中南米地域の現状を解説するのに、政治は「右派 vs 左派」、「親米
vs 反米」、経済政策は「ファンダメンタルズ重視の正統派 vs ポピュリズム的異端派」とい
う Dichotomy(二分法)を好んで使うが、ある意味では、政治・経済も一つの方向に収斂
しつつあるように思われる。政治においては、国民の支持を得た新たな政治グループが伝
統的な政党にとって替わり、また、先住民や NGO が存在感を増している。80~90 年代の債
務危機と構造調整策を経て、中南米地域の所得格差は拡大した。情報通信革命の進展とと
もに、世界中の出来事は瞬く間に地球の隅々まで届く。そのような中では、この地域でも、
従来のように一握りのエリートが権力と富を支配し、一国を動かすことは不可能になって
いる。経済政策については、具体的な政策ツールは個々の国が置かれた状況や過去の経緯
によって異なるものの、マクロ経済の安定が経済発展の「必要条件」とのコンセンサスは
できているといってよく、各国とも国内均衡・対外均衡を重視する姿勢を明確にしている。
以上を念頭に置き、以下、本節では、、中南米地域の最近の大統領選挙の結果と今後の見
通し、および、経済動向と見通しを「慎重かつ楽観的」に概観したい。
1.政治・社会
(1)05 年 12 月 11 日のチリの大統領選挙を皮切りに、中南米は選挙の季節に入った。こ
れまで実施された選挙は、いずれも平穏に実施され、敗れた候補者は公式結果を受け入れ
て、勝者を祝福した。この地域の民主主義の成熟化を示すものと評価したい。主要国の選
挙結果は以下のとおりである
(イ)チリ:1 月 15 日に決選投票が実施され、ラゴス前大統領が推す、与党連合コンセル
タシオンのバチェレ女史が当選し、中南米で初の女性大統領が誕生した。公約にしたが
い、閣僚の半数に女性を起用した。マクロ経済の安定を持続しつつ、教育や福祉、雇用
対策など社会政策に重点を置く方針を表明している。
(ロ)ボリビア:先住民、農民、コカ栽培者等が支持する、社会主義運動党のエボ・モラ
レス氏が当選し、1 月 22 日就任した。公約に掲げた天然ガスの国有化を 5 月 1 日に実施
し、この措置に最も大きく影響を受けるブラジル初め、スペイン、フランス等の投資国
との関係悪化が懸念されている。天然ガス国有化は、チャべス大統領の影響のほか、公
約実現の遅れに対する国内世論の批判に押された面がある。ただ、中南米地域の最貧国
の一つである同国は、対外援助への依存度が高く、欧米諸国と敵対するような政策は採
れないだろうとの見方も強い。
(ハ)コスタリカ:2 月 5 日に投票が行われた大統領選の結果、米国との FTA(CAFTA)を
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推進する中道右派
世界経済レビュー No. 11 2006.7
国民解放党のアリアス元大統領が当選し、5 月 8 日に就任した。大
統領選挙は、CAFTA の是非を巡る国民投票の様相を示した。
(ニ)ペルー:6 月 4 日の決選投票で、中道左派 APRA 党のアラン・ガルシア元大統領が右
派・ナショナリストのウマラ候補を破って当選し、16 年ぶりに政権に返り咲く。就任は
7 月 28 日。しかし、有権者は「よりましな候補者を選んだ」といわれ、政権基盤は強固
でない。国会ではウマラ氏の UPP が最大議席を獲得し、APRA 党は第 2 党に甘んじている。
明確な政策ビジョンを示すとともに、国会での多数派工作、ウマラ氏支持に回った貧困
層の不満への対応など、課題は山積している。
(ホ)コロンビア:5 月 28 日の大統領選挙第1回投票で、現職のウリベ大統領が得票率 62%
という過去最高の得票率で当選した。治安改善、景気回復における実績が買われた、と
みられる。二期目の課題は、当面、米国との FTA 批准であるが、引き続き治安を改善さ
せるとともに、税制、年金などの構造改革を推進し、海外からの投資を呼び込むことが
安定成長への鍵を握る。
(2)06 年後半の大統領選挙の見通しは次のとおりである。
(イ)メキシコ:与党 PAN のカルデロン候補と左派 PRD のロペス・オブラドール候補の争
いとなるが、6 月 6 日の大統領候補者による TV 討論後、ロペス・オブラドール氏が巻き
返し、支持率トップとなった。ただ、カルデロン氏との支持率は僅差で、7 月 2 日の選
挙の結果は予断を許さない。同日実施される国会議員選挙、地方選挙については、前与
党 PRI の優位が揺るがないとみられる。メキシコは米国との一体化が進んでおり、選挙
結果は、政治・経済政策の路線を大きく変えることはないとの見方が一般的だ。
(ロ)ブラジル:10 月 1 日の大統領選挙は、現職のルーラ大統領とアルキミン前サンパウ
ロ州知事による事実上の一騎打ちとなる。ルーラ大統領は、昨年来、政治資金スキャン
ダルなどにより次々と側近が政権を去る事態に追い込まれ、ついに、財政健全化の功績
を残したパロッシ前財務相までもが 3 月 28 日に辞任した。ボリビアの天然ガス国有化に
ついては弱腰外交との非難も聞かれた。しかし、パロッシ氏の後任のマンテガ氏は前任
者の政策を踏襲し、市場の信認を得ており、景気も回復しつつあることから、ここにき
て、ルーラ大統領の支持率は上昇している。再選は視野に入ってきた。
(ハ)エクアドル:05 年 4 月にグティエレス前大統領の罷免を受けて、パラシオ副大統領
が暫定大統領に就任した。経済政策はポピュリスト的と評されている。06 年 10 月 15 日
に大統領選挙が実施されるが、ノボア元大統領を初めとして多数の政治家が立候補の意
思を表明しており、行方は混沌としている。
(ニ)ベネズエラ:12 月 3 日に予定されている大統領選挙では、チャベス大統領の再選が
確実視されている。主要野党は統一候補を 7 月中にも投票により選出する予定だが、チ
ャべス大統領の支持率は 60%近く、予備選で誰が当選しても勝ち目はない。チャべス大
統領再選後は、政治・社会の分裂が深刻化し、チャべス大統領への権力の集中によるチ
21
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
ェック・アンド・バランス機能の低下が進むだろう。すでに 3 権と軍はチャべス大統領
の支配下にあると言われ、中央銀行やその他の機関の独立性も低下している。石油価格
の急落、長期低迷といった事態になれば、石油収入を元手にしたポピュリスト政策は継
続困難となり、チャべス大統領の早期退陣もあり得る。
2.経済
05 年の中南米経済は、世界的な資源ブームと潤沢な流動性に支えられて、物価安定と
着実な成長、輸出の拡大という良好なパフォーマンスを示し、06 年上半期も底堅く推移し
た。
中南米地域の実質 GDP 成長率は、04 年の 5.6%から、05 年は 4.3%へと低下した(IMF 世
界経済見通し 06 年 4 月による。以下地域全体の数値はすべて同様)。ブラジルとメキシコ
の減速、および、アルゼンチンとベネズエラのピークアウトが主な要因である。06 年は、
ブラジルとメキシコが金融緩和を背景として景気回復する一方、アルゼンチン、ベネズエ
ラ経済が巡航速度へと向かうとみられる。資源価格高の恩恵を強く受けてきたペルー、チ
リ等も減速の兆しをみせている。地域全体では、05 年とほぼ同水準の実質 GDP 成長率が見
込まれる。
05 年の CPI 上昇率は、地域平均で 6.3%と、04 年の 6.5%からわずかながら低下した。主
要国の年末 CPI 上昇率は低下あるいは低位安定したものの、アルゼンチンでは、需給ギャ
ップの縮小と金融緩和の継続などにより、インフレが加速した。チリを除く主要 6 カ国は
石油自給を達成しており、エネルギー価格の高騰は、インフレ圧力を生んでいない。主要
国で採用されているインフレーション・ターゲッティングの枠組みはうまく機能し、06 年
も概ねディスインフレが継続するものと予想される。ただし、アルゼンチンとベネズエラ
は、価格統制や食料品の輸出規制を柱にインフレ抑制を図っている。短期的には成功して
いるが、いずれは抑圧されたインフレの再燃、競争力の低下といった問題を招くはずとの
批判も聞かれる。
財政面では、好調な一次産品関連収入と景気拡大による税収増、低金利や債務削減にと
もなう債務負担の低下といった要因に加え、各国が規律をもった財政運営を行なっている
ことから、収支が改善し、政府債務は減少している。なお、ベネズエラは、歳出規模を大
幅に拡大させるとともに各種減税を実施するなどの拡張的財政政策を続けている。
国際収支については、一次産品の価格上昇と輸出数量の堅調な伸び、労働者送金の増加
などにより、05 年の中南米地域の経常収支は 3 年連続で黒字を計上し、経常収支黒字/GDP
比率は 1.2%と、前年比 0.3 ポイント拡大した。06 年第 1 四半期の経常収支は、前年同期と
比べ、アルゼンチン、メキシコ、チリ、ベネズエラが改善、ブラジル、ペルー、コロンビ
アが悪化した。地域全体の 06 年の経常収支黒字/GDP 比率は、昨年から 0.4 ポイント低下
して 0.8%と予想されている。資源価格の上昇に歯止めがかかりつつある一方、総じて内需
が拡大基調にあり、貿易黒字が縮小するとみられる。
22
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
(2)06 年上半期の株・為替・債券市場は、他の新興市場国と同様、米国をはじめとする
先進国の動向に影響を受けた。年初来上昇基調にあった新興市場国の債券、通貨、株価は、
5 月上旬の米利上げ観測に端を発した投資家のリスク忌避の高まりから、ほぼ売り一色の
展開となった。とりわけ、4 月末までに軒並み最高値を更新した株価は、世界同時株安の
影響で、大きく下げている。なかでも、過去 3 年で 7 倍に高騰したコロンビア IGBC 指数の
下げがきつかった。米国経済、債券・株式相場の先行き不透明感が長引き、投資家心理が
冷え込んだままとなれば、中南米諸国の実体経済にも悪影響を及ぼすこととなろう。
対外債務管理政策に関しては、中南米主要国は引き続き、前倒返済や借替えによる返済
コストの圧縮、返済スケジュールの平準化、借入れ通貨の多様化によるリスク分散に努め
ている。また、対外環境の悪化に備えて、06 年の返済資金の資金調達をおおむね終わらせ
ている。05 年末にはブラジルが、また、06 初めにはアルゼンチンがIMFへの債務を全額前
倒し返済した。ブラジルは、06 年4 月には、残存するブレイディ債を全額前倒し償還し、
80 年代の累積債務危機の負の遺産を清算した。ただ、中南米諸国の対外債務水準は、アジ
ア、中東欧など他の新興市場国に比べて高く、ペルー、コロンビア、ウルグアイなどのよ
うに、投資家の信認確保のためにIMFプログラムの継続を求める国も多い。IMFプログラム
を「卒業」した国々も、同様の理由からIMFとの政策対話を継続するものと思われる。
[図表Ⅳ-1]
中南米主要国の経済指標
実質 GDP 成長率(%)
03
04
05
06/1Q
8.8
9.0
9.2
アルゼンチン
8.6
0.5
4.9
2.3
ブラジル
3.4
3.7
6.1
6.6
チリ
5.1
3.9
4.0
5.1
コロンビア
5.2
1.4
4.4
3.0
メキシコ
5.5
4.0
5.2
6.4
ペルー
6.8
-7.6
17.9
9.3
ベネズエラ
9.4
(注)*:前年同期比、**: 3 月の前年同月比
(出所)IMF IFS、および各国統計
03
3.7
14.7
2.8
6.5
4.6
2.5
31.1
CPI 上昇率(%)
04
05
6.1
12.3
6.6
6.9
1.1
3.1
5.9
4.9
4.7
3.3
3.5
1.5
21.8
14.4
06/1Q
11.1
5.5
4.1
4.1
3.7
2.9
12.1
経常収支(億ドル)
03
04
05
06/1Q
76.6
33.5
57.1
11.8
41.8 117.1 142.0
17.9
-11.0
13.9
7.0
5.9
-9.8
-9.4 -19.3
NA
-86.4 -72.0 -57.2
8.8
-9.4
-0.0
10.3
-0.2
114.5 138.3 253.6
74.7
中南米地域が直面する主要なリスクは、
(i)国際金利上昇、新興市場国からの資金流出、
(ii)一次産品価格の下落、世界的需要の軟化、(iii)政権交代にともなう国内政治リス
クであろう。言うまでもなく、これらのリスクは世界経済が抱えるリスク(米国経済の失
速、グローバル・インバランスの拡大に起因する主要通貨間の為替レートの急速な調整お
よび長期金利の上昇、原油価格高騰による物価上昇圧力の増大など)に連動し、顕現すれ
ば中南米地域に大きな影響を及ぼす。しかし、70~90 年代に比べれば、対外ショックに対
する同地域の抵抗力は格段に高まり、経済運営も柔軟で、巧みになってきている。過去の
ように、様々なショックが通貨・金融・国際収支にまで発展する可能性は少ないといえる。
IMF は、06 年 4 月の世界経済見通しにおいて、中南米諸国の中長期課題として、公的債
務の削減および債務構造の改善(満期の長期化、為替リスク軽減など)および投資環境の
23
100
アルゼンチン
24
2006年3月6日
2006年4月3日
(以下余白)
2006年5月8日
2006年5月29日
2006年5月22日
2006年5月15日
ベネズエラ
2006年5月1日
2006年4月24日
2006年4月17日
2006年4月10日
EMBI+
2006年3月27日
2006年3月20日
2006年3月13日
チリ
2006年2月27日
メキシコ
2006年2月20日
20 0
2006年2月6日
400
2006年2月13日
500
2006年1月30日
bps
2006年1月23日
コロンビア
2006年1月9日
[図表 Ⅳ-2] 主要国株価指数(03年初=100)
2006年1月16日
700
2006年1月2日
2006年6月
200
2006年5月
300
2006年4月
600
2006年3月
2006年2月
2006年1月
2005年12月
2005年11月
2005年10月
2005年9月
2005年8月
ブラジル
2005年7月
2005年6月
2005年5月
2005年4月
2005年3月
2005年2月
2005年1月
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世界経済レビュー No. 11 2006.7
改善を挙げている。民間投資を活性化するために、貯蓄を生産的投資に導く発達した金融
市場、所有権の保護強化、司法改革および契約義務の迅速な執行、民間投資にかかわる規
則・規制の透明性・安定性の向上などが必要としている。国際機関、各国当局、投資家の
間で広く共有されている問題意識と思われる。
60 0
[図表 Ⅳ-3] カントリー・リスク指標の推移
50 0
400
アルゼンチン
ペルー
30 0
ブラジル
ベネズエラ
100
0
メキシコ
財団法人 国際金融情報センター
Ⅴ.
世界経済レビュー No. 11 2006.7
中東欧・ロシア、アフリカ 地域
JCIF欧州・アフリカ部長
片倉
憲一
1.政治・社会、経済の概観
EU が新たな加盟国 10 カ国を加え 25 カ国へと拡大してから 2 年が経過した。中東欧諸国
でもチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スロベニアが加盟を果たしたが、こ
れら新加盟国の次なる目標は EMU(経済通貨同盟)への加盟・ユーロの導入である。しか
しながら、財政赤字等を克服し、マーストリヒト・クライテリア(EMU 加盟条件たる経済
収斂基準)の充足に取り組む必要があるが、各国の政権基盤の脆弱性もあいまって、速や
かな基準到達は容易ではない。一部には、目標としていた 2010 年前後の加盟達成を先送り
する動きも見られる。一方、ルーマニアとブルガリアは、05 年 4 月にEU加盟条約の調印
に漕ぎ着けたものの、昨年 10 月および本年 5 月に加盟準備の遅れを欧州委員会から指摘さ
れ、07 年 1 月の加盟については 10 月まで結論が先送りされた。引き続き条約批准に向け
た交渉が進められるが、残された課題は多い。
EU 加盟後 2 年が経過した国々および加盟予定国は、それぞれ跛行性はあるものの概ね経
済運営は順調である。EU 圏への輸出や根強い内需に支えられ相応の経済成長を果たし、外
国直接投資も増加、これに伴う自動車産業や電子部品産業の輸出増加などを謳歌している。
為替相場と各国の株式市場は 06 年第 1 四半期までは各国通貨高、株価指数の大幅高を享受
していたが、5 月上旬をピークに世界的な新興市場からの資金引揚げの影響もあり、足元
は 05 年末の水準前後まで戻り、調整局面を迎えている(なお、ハンガリーは財政赤字の問
題を抱えており、東欧諸国のなかで唯一年初来為替レートが弱含みであった)。CPI は相応
の水準にて落ち着いているものの、国民の間には改革に伴う痛み、具体的には失業率の高
止まり、税金の負担感増加などから、政府に対する不満が高まりつつある。無条件に EU
加盟およびユーロの導入に賛成するのはいかがなものかとの懐疑的な見解も増えており、
昨年から今年にかけての各国での選挙結果および基盤が脆弱な政権の樹立はその証左とも
言えよう。
ロシアは高値で推移するエネルギー資源の輸出と旺盛な個人消費が経済成長を牽引して
いる。増大する貿易黒字を背景にルーブル高への圧力も強く、活発なドル買い介入を実施
し、外貨準備高は大幅に増加している。政治面では、5 月の大統領年次教書演説で「強い
ロシアの再興」の動きを明確に打ち出し、軍備増強を明確に打ち出したこととあわせ、こ
の数年の動きである中央集権化も注視すべきであろう。対外的には、資源国としての優位
さを梃子に強気の経済外交を展開している。こうした環境のなかで、初めて議長国を務め
るサミットをロシアがどのように成功させるかが注目される。
25
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
2.主要国の最近の動き
(1)ポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニア
(イ)政治・社会
ハンガリーでは 4 月に議会選挙が実施され、ジュルチャーニ首相率いる社会党が政権を
維持した。与党・野党ともポピュリスト的な施策を表明する選挙戦の中で、有権者は積極
的に社会党政権の継続を望んだものではなく、消去法での政権維持とも言えよう。過去の
放漫財政による財政赤字の拡大が 2010 年のユーロ導入目標の障害となっている状況(201
2 年以降になると市場はすでに予想)の中、政府は 6 月中旬、ユーロ導入に向けた財政健
全化が喫緊の課題であり、経済収斂計画達成に向け、08 年までに財政赤字を名目 GDP の 3%
以内に抑制すべく迅速かつ大胆な歳出削減と歳入拡大を行う旨表明した。しかしながら、
今年度の財政赤字は GDP 比 10%以上となるとの予測もあり、08 年の 3%は達成困難との見
方も多い。なお、政府は欧州委員会に本年 9 月までに、より具体的な収斂計画の提出を行
う予定であり、その内容の有効性と早期の対策実施が今後の課題となろう。
チェコでは 6 月に下院選挙が実施された。98 年以来連立政権を維持したパウロベク首相
率いる社会民主党が破れ、トポラーネク党首率いる中道右派の市民民主党が 200 議席中 74
議席を獲得した。しかしながら、連立を予定している他の 2 党とあわせ半数の 100 議席で
あり、過半数を獲得できない状況である。クラウス大統領はトポラーネク党首に組閣を依
頼しているが、連立の行方は予断を許さず、最悪数ヶ月の空白もありえる。
ポーランドでは昨年 9 月の選挙後、キリスト教的保守の「法と正義」が少数与党として
他の 3 党とのゆるやかな政治協力の下に組閣したが、離反等の動きが起こり、政権運営に
苦しんだ。ようやく本年 5 月、先鋭的農民政党の自衛と右派の家族同盟との 3 党連立内閣
が組成された。
昨年選挙が実施されたルーマニア、ブルガリアを含め東欧諸国の政治体制は総じて脆弱
な基盤に基づく連立政権が多い。連立政権の組成とそれに伴う空白期間が生じており、好
調な経済発展状況とは対照的といえよう。これは、経済的にはEU経済圏に参加すること
による取引の拡大と発展、生活水準の向上といった恩恵はあるものの、EU参加のための
構造改革、対外開放、法律整備とその的確な施行などの変革が必ずしも国民の支持をすべ
て得ているものではないことの証左であろう。
(ロ)経済
06 年第 1 四半期の各国の実質 GDP 成長率(前年同期比)はポーランド 5.2%、ハンガリ
ー4.6%、チェコ 7.4%、ルーマニア 6.9%と極めて好調であり、なかでもチェコは独立以
来最高の成長率を記録している。好調な輸出と投資活動の活発化が成長を牽引しており、
外国直接投資の流入も継続している。新規EU加盟国の CPI は総じて低い水準で推移して
いる。エネルギー価格の上昇が光熱費・輸送費などに影響しはじめているものの、食品、
衣料品等の価格下落がこれを相殺している状況である。ルーマニアは 05 年度よりようやく
1 桁台の CPI が定着してきた。国際収支関連ではチェコが 05 年通年で貿易黒字を計上した
26
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
ことが特筆される。これは同国の過去の外国直接投資が本格的生産段階に入り、自動車輸
出が著しく伸張したことによるものである。財政面では各国とも相応の赤字水準ではある
が、特にハンガリーは要注意である。ジュルチャーニ政権は昨年来、保険・医療、住宅取
得支援など多岐にわたる分野で支出を拡大し、さらに本年よりは VAT などの税率引下げ、
最低賃金の引上げなどの赤字拡大を伴う政策を実施した。06 年の 1 から 4 月の財政赤字が
既に年間目標の 59%に達しており、6 月の新政府の構造改革案の発表のすぐ後にもかかわ
らず、S&P は BBB+(見通しネガティブ)への格下げ(1 ノッチ)を実施した。
(2)ロシア
(イ)政治・社会
本年 5 月、プーチン大統領が行った年次教書演説は、軍事増強による「強い国家の再興」
を訴える内容であった。国家安全保障の観点からテロなどの脅威に備え、これに対抗でき
る軍事力の保持を強調している。また、内政面では人口減少がロシアにとって最大の社会
問題であるとの認識のもと出生率対策などを行い、市民生活の質の向上のため医療・教育・
農業と住宅建設に重点を置くと表明している。経済面では高い成長率が継続していること
を強調しつつも、設備投資の遅れ、機器の陳腐化などの問題点を指摘しその改善を目指し
ている。エネルギー分野でのロシアの優位性を強調し、ガスプロムが時価総額で世界第 3
位(演説当時)になったことを誇らしげに語り、原子力・宇宙産業等の最先端分野への注
力も謳われている。対外経済・外交面では WTO への加盟はロシアに経済的な利益があるこ
とが条件と明確に表明している。また、ルーブルの完全兌換化を半年早め、7 月より実施
するとしたが、他方で石油・天然ガスなどロシアが優位にある資源について、将来的には
ルーブル建てにて取引すべきとしている。
資源国であることを梃子とした強気の経済外交の行方を注目すべきであろう。本年 1 月
のウクライナに対する天然ガス供給の一時停止と価格引上げを皮切りに、エネルギー安全
保障の観点からはガスプロムなどを初めとする特定の会社を国の管理下に置く方向性を打
ち出している。6 月に開催された上海協力機構(SCO)の首脳会議では中国、中央アジア諸
国などとの緊密さを強調しており、米国と対立関係にあるイラン大統領をオブザーバーに
招き、さらに将来エネルギー担当者会議をイランで開催することを提案させるなど欧米諸
国を刺激する動きをとっている。
民主化の後退の動きともとれる中央集権化を大統領は推し進めている。連邦構成主体首
長を公選制から任命制に変更し、下院選挙に比例代表制を全面的に導入したほか、連邦構
成主体の合併を推進している。本年 1 月には NGO(非政府組織)のロシアでの活動を大幅
に規制する法案が可決された。ロシアは今後も民主国家であり続けると常々強調している
が、ロシアの中央集権的、垂直的統治体制に対する欧米諸国の懸念を払拭できずにいる。
外交面では、大統領は積極的な首脳外交を展開している。中国、インド、中央アジア諸
国との協調を進め、そして CIS 諸国に対する米国との綱引きなどが顕在化する中で、7 月
27
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
に開催される G8サンクトペテルブルグ・サミットを注目したい。
(ロ)経済
旺盛な個人消費が成長を牽引しており、05 年の実質 GDP 成長率は 6.4%、06 年第 1 四半
期も 6.4%となっている。03 年、04 年と比較し若干鈍化したものの、引き続き高い成長率
を持続している。外資導入に向けて、6 ヵ所の経済特区を設立し、さらに追加的に特区開
設の動きがある。物価については、依然 10%を超える上昇が続いている。所得増加による
旺盛な消費、貿易黒字による高いマネーサプライなどがその要因である。エネルギー価格
の高騰による輸出増加は、常にルーブル高への圧力となっており、7 月に予定されている
ルーブルの完全兌換化もこれを促進するものとみられる。なお、油価の高値推移を主因に
大幅な貿易黒字(05 年 約 1,180 億ドル、06 年第一四半期 約 330 億ドル)を達成してお
り、その結果外貨準備高は 5 月末には約 2400 億ドル(韓国を超える水準)にまで達してい
る。株式市場は 1 月にガスプロム株式の取引制限が撤廃されたことも影響し、RTS 株価指
数は 5 月半ばには 1680 ポイントと年初来 55%上昇した。その後世界的な新興国市場から
の資金流出を受けて、足元は 1,300 ポイント台で推移している。なお、石油大手ロフネス
チの新規株式公開を 7 月に予定するなど資本市場での動きは活発である。財政面でも石油
関連の税収増による歳入の拡大が継続している(05 年の黒字は名目 GDP 比 7.4%にのぼる)。
政府は、引き続き、国防、治安、教育、農業、地域開発支援に財政資金を投入する方針で
ある。財政安定化基金も 06 年 4 月時点で約 665 億ドルに達しており、昨年に引き続きパリ
クラブ債務の前倒し返済(完済)を実行の予定である。
(3)南アフリカ
南アフリカの経済については、内需主導で実質 GDP 成長率 4%台を維持している。物価
は原油価格高騰を受けて上昇基調にある。これらを受け、経常収支赤字は 05 年第 4 四半期
は GDP 比 4.7%に悪化している。為替の動きは激しく、年初来 1 月と 4 月に 1 ドル=6 ラン
ドを切る水準まで上がったものの、新興国からの資金流出、そして特に金などの価格調整
も影響して 5 月中旬以降急落している。株式市場も同様に 5 月半ば以降急落している。こ
のような動きを受け 6 月 8 日南アフリカ準備銀行は 4 年振りに政策金利(レポ金利)を 50bp
引き上げて 7.5%とした。政治・社会面では、引き続き深刻な雇用問題、貧富の格差問題
などをかかえている。来年の与党アフリカ民族会議(ANC)党大会で現ムベキ大統領の後継
者が決定される予定であり、政権与党内での混乱も見受けられる状況下、現政権の指導力
が問われている。なお、4 年後のサッカーワールドカップは南アフリカで開催の予定であ
り、インフラ整備を含め様々な投資が行われる予定である。今後の政治・経済運営が注目
されよう。
28
財団法人 国際金融情報センター
世界経済レビュー No. 11 2006.7
[図表Ⅴ-1]中東欧・アフリカ主要国の経済指標
ポーランド
ハンガリー
チェコ
スロバキア
ルーマニア
ブルガリア
ロシア
南アフリカ
エジプト
実質 GDP 成長率(%)
03
04
05
06/1Q
3.8
5.3
3.4
5.2
3.4
5.2
4.1
4.6
3.7
4.4
6.2
7.4
4.2
5.4
6.1
6.3
5.2
8.4
4.1
6.9
4.3
5.6
5.5
NA
7.3
7.2
6.4
6.4
3.0
4.5
4.9
4.2
3.1
4.1
4.9
NA
03
0.7
4.7
0.1
8.5
15.2
2.1
12.0
5.8
4.5
CPI 上昇率(%)
04
05
06/1Q
3.6
2.1
0.9
6.8
3.5
2.5
2.8
1.8
2.8
7.6
2.7
4.3
11.9
9.0
8.6
6.4
5.0
8.1
11.7
10.9
10.8
1.4
3.4
3.8
11.3
4.8
3.7
03
-46
-72
-58
-3
-33
-19
354
-23
37
経常収支(億ドル)
04
05
06/1Q
-105
-44
-15
-88
-80
NA
-56
-26
0.1
-14
-41
NA
-56
-86
-19
-21
-39
-13
599
842
280
-74
-101
NA
39
22
NA
(出所)IMF IFS
以
上
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