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濡れたシャツ

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濡れたシャツ
南アルプス深南部主稜線縦走
■期間:2012 年 8 月 15 日(水)~18 日(土)
■メンバー:村上(L)、A、N、Wo、川久保
■コースタイム:
1)8 月 15 日(水)小雨後曇り(歩き距離:7.5km)
7:15 上野毛発(N 車) ==11:50 水窪(昼食)13:11==(水窪警察署に登山届け提出)==14:28 戸中川林道
ゲート—15:50(4.5km 地点)小屋 16:14—(空身) —16:28 黒法師岳・丸盆岳登山口—16:59 小屋に戻る(泊
まり)
2)8 月 16 日(木) 小雨後曇り後晴れ後雷雨後曇り(歩き距離:11.0km)
3:00 起床(4.5km 地点)小屋 4:50—5:27 黒法師岳・丸盆岳登山口—8:39 黒法師岳と丸盆岳の分岐
8:52—(空身) —9:34 黒法師岳 9:46—10:17 黒法師岳と丸盆岳の分岐 10:49—12:11 丸盆岳—13:57 鎌崩の
取り付き—15:16 鎌崩核心部終了—15:48 鎌崩の頭(2075) —16:28 鹿平(タープ泊)
3)8 月 17 日(金) 晴れ後雷雨後曇り夜雨(歩き距離:10.2km)
3:00 起床(鹿平)(2015m)5:05—(空身ピストン) —5:53 不動岳(2171m)6:07—6:48 鹿平(タープ撤
収)7:34—8:24 水場(1802m) —(トラバース後登り返し) —10:34 正しい尾根に着く(1933m) —11:55 1799m
地点—13:13 六呂場山(1747m) —14:45 1762m 地点—15:53 1814m 地点—16:50 1995m 地点—17:14 テン
ト場(1925m)20:00 就寝
4)8 月 18 日(土)曇り後雷雨後曇り(歩き距離:11.8km)
3:00 起床(1925m テント場) 5:25—6:17 黒沢山とシヤウヅ山分岐—6:48 黒沢山 6:50—7:24 黒沢山とシ
ヤウヅ山分岐 7:33—9:20 テント場に快適地点 9:42—10:45 シヤウヅ山—11:10 奥布山—12:10 奈良代山
付近—14:11 戸中川吊り橋 14:25—14:31 戸中川ゲート
■記録:
1)8 月 15 日(水)小雨後曇り(歩き距離:7.5km) (N 記)
<プロローグ>本来であれば剱岳北方稜線の予定であったが、富山地方は連日の悪天予報で、とても
バリエーションルートに出かける天気では無いとの判断で、急遽南アルプスの更に南部の山に変更して、
黒法師岳からの縦走となった。黒法師岳は三百名山でその名を知っており是非登って見たいと思ってい
たので、良いチャンスであった。ただ、黒法師岳以降の丸盆岳、鎌崩、不動岳、六呂場山、黒沢山、シ
ャウヅ山、奥布山、奈良代山へと続き、スタート地点の戸中川東俣林道に戻る今回の縦走路については
村上さんの計画が出て始めてお目にかかるコースであった。村上さんの食指が動いたということからし
て当然の如く一般ルートでは無い。昭文社の登山地図もフォローはしていない。縦走登山道もない。鎌
崩は「かまなぎ」と読む。なぜ崩が「なぎ」なのかは別にして、ネットで調べると稜線の両側が崩落し
て鎌のようにナイフリッジとなっており、しかも足場は脆い状態という。その核心を無事に越えられる
か?核心部分を過ぎると後は笹が広がる天国のような山容が続くように見える。はたして北方から南方
に転進した今回のお盆休み山行はどうなることだろうか。
15 日上野毛駅周辺にAM7:00 集合した。N 車にて東京ICから東名に乗り途中より新東名を走り、浜
1
松北IC経由、水窪(みさくぼ)の町を目指した。
東名高速道路は御殿場からは新東名高速を走った。新しく広々として快適である。最初のSA駿河湾沼
津で休憩、浜松北ICからは秋葉街道を走り、水窪の町に入った。ドライブインで昼食を取り、水窪警
察に立ち寄って登山届けを提出した。
水窪の町からは水窪湖を目指す。更にその先、戸中川東俣林道の終点まで走った。この林道は落石も多
く、皆さんに手伝って貰い何ヶ所かで落石、倒木の排除をしての走行である。林道ゲート手前に車をデ
ポして、後は今夜の寝場所を求めて歩き出した。走行中かなりの降雨に見舞われたが、今はほぼ上がっ
て来た。ゲート入り口には入山後行方不明者を捜している旨の看板があった。林道には林道工事業者の
作業小屋がいくつか見られた。作業小屋を今夜の宿に拝借したい意見もあったが、私有財産の無断借用
は避けて、登山道手前 30 分位のところにあった廃屋を今夜の宿とした。雨風は防げるが、入り口出口の
両扉は壊れて無い。真ん中にある土間に向かい合
って両側に朽ちかけた板の床があり、土間の真ん
中には錆びて半壊したストーブがあるだけである。
ザックを降ろして、4 名で登山口の下見に出かけ
た。水量の多い日影沢を過ぎて約 30 分で登山道
入り口に到着。そこには登山口を表示する柱が立
っていた。黒法師岳、丸盆岳登山口とある。登山
口を確認して小屋に戻る途中で、心配して迎えに
来た Wo と合流する。小屋に戻って、早速いつも
の順序で、お湯を湧かし、夕食の支度を始めた。
ストーブの残骸の中に林道で拾った小枝を入れて
一夜利用させて貰った廃屋
火を熾した。小枝を投じた手に何か蠢くものが!
ギャー!!何と、蛭が手に!驚いて飛び上がって、手を振り払った。しかしそんなもんで蛭は取れるも
のでは無い。戻る途中で林道から山側に踏み込んだ人は足に、靴下の中にも蛭が!!!よくよく土間を
見ると蛭が鎌首をもたげているではないか!!鳥肌
が立った。もう食事の準備どころでは無い。何を置い
ても蛭対策である。漸く、何とか見える範囲に蛭はい
なくなった(に違いない・・・・と思いこまないとど
うにも落ち着かない。
)なんとか食事の支度に掛かれ
るが正直落ち着かない。今夜の夕食は川久保さん担当
のカレーライス。やがて立ち上がる香ばしいカレーの
香りに一気に夕食モードとなる。いつもながらの美味
しいカレーを堪能して 19:45、早めに就寝した。夜中
に目を覚ます。全身蛭に噛まれてミミズ腫れの夢を見
た。蛭も寝ていて欲しいと想いながら又眠ってしまっ
登山道入り口を表す表示柱
た。
2)8 月 16 日(木):小雨後曇り後晴れ後雷雨後曇
り(歩き距離:11.0km) (A 記)
2
前夜、Wo さんは、小屋の土間にいるヤマヒル
を熱心に探し出しては駆除していた。水場に隣接
した湿っぽい土間にはヤマヒルがいた。 外はシ
トシト小雨が降っていたので、壊れかかった小屋
の床板を清掃して、そこに横になった。しかし、
ヤマヒルが気になって、まんじりともせずに朝を
迎えた。予定の 3 時を待っていたかのように、朝
食の準備に取り掛った。朝食は、悩んだ末のメニ
ューとして「かに雑炊」としたが、嬉しいことに、
皆さんは残らず食べてくださった。
深夜に一度あがった雨は、出発する頃には再び
等高尾根と主稜線の合流点
降り始めた。足元からヤマヒルが侵入しないよう
に、足元は厳重に防護して雨具とスパッツを装着
した。昨夕に確認しておいた登山口には、明るく
なって着いた。ここから、東に真直ぐ伸びる「等
高尾根」に取っ付き、主稜線に向かった。途中、
休憩時に、注意深く地面をみるとやはりヤマヒル
を見つけることができる。身震いして、改めて雨
具やスパッツを調える。
稜線に着く手前には急登があり、それが終わる
ところに「弁当ころがし」の道標があった。急登
を示す面白い標識である。黒法師岳と丸盆岳を繋
ぐ主稜線には登山口から 3 時間で着いた。ここに
黒法師岳頂上にて
荷をデポして空身で黒法師岳に向かった。山道は
深い笹薮に隠れている。黒法師岳の手前に、千頭
山の道標があり、バラ谷の頭へ下る分岐ルートが
示されている。いずれのルートも深い笹薮に覆わ
れている。黒法師岳の頂上は樹林で囲まれた笹原
で、頂上を示す標識の周りだけに地肌が見える。
眺望は全くきかなかった。
デポした地点まで戻って皆で足元を再確認し
たところ、やはりヤマヒルが見つかった。デポ地
点から丸盆岳に向かう道もやはり笹薮に隠れ、腰
まで埋まるところもあった。途中、絨毯のような
笹原のなかに、立ち枯れの白い木がまばらに立
丸盆岳に向かう
っていた。大台ケ原で見た景色である。
笹原のなかで、川久保さんのアンダーシャツの中にヤマヒルが潜り込んでいるのを発見して、大
騒ぎとなった。駆除はしたが、シャツのお腹の部分に出血の跡が残ってしまった。この主稜線では
ヤマヒルを見かけなかったことから、どうやら麓から連れてきたようである。笹薮を踏み分けなが
3
らさらに進むと、丸盆岳に着いた。ササで覆われ
た頂上は、文字通り、お盆のように丸い形の突起
が出ている山である。
ここからはいよいよ、核心の鎌崩(かまなぎ)
に向けて下降する。すぐに左側の南側斜面がガレ
ており、その崩壊が主稜線にまで達している尾根
にさしかかる。このガレの境界に沿った踏み跡を
辿ったが、進めなくなると北側斜面の藪に入って
これを巻いた。 そしてついに、両側斜面のガレ
が主稜線までに達して、ナイフリッジとなってい
る岩稜にさしかかる。これが鎌崩(かまなぎ)と
丸盆岳から鎌崩に向かう尾根道
いう難所である。この手前にあった白いボード標
識には「たいへん危険です。鎌崩は通行不可」と書かれていた。既往の山行報告では、鎌崩を避け
て、ガレ境界の斜面を大きく下って、これを巻いて登り返すルートを辿っているようである。 我々
はこれを通過することを目標に準備してきたので、そのまま進む。
まず、最初のピッチは 45mのロープで確保しつつ、村上さんのリードでナイフリッジの中間点ま
で進み、その間に固定ロープを張った。鎌崩の稜線はボロボロに風化してレンガを積み上げた様相
鎌崩の始点から鎌崩の頭を望む
鎌崩のナイフリッジを通過
で、横方向に力をかけると簡単に崩れてしまう。そのためにセルフビレーの確かなアンカーはとれ
なかった。固定ロープの一端を中間点で腰がらみで確保してもらい、積みあがった岩片を両手で上
から押さえながら通過した。鎌崩(かまなぎ)と称される所以である。
4
ナイフリッジ上の岩塊を乗り越える
鎌崩の頭から鎌崩の始点を振り返る
2ピッチ目は、中間点の先に生えていた小さい樹木を束ねて、アンカーとし、村上さんをトップ
にして最後の岩塊を越えた。ここでも、固定ロープを張って、ナイフリッジを馬乗りになりながら
全員が無事通過した。
3ピッチ目は、鎌崩の頭を巻くように左側に水平にトラバースして、ガレの境界尾根を登った。
鎌崩の頭からは踏み跡があり、途中にやはり白い道標があった。風化して文字は消えていたが、反
対側にあったのと同じ文言が書いてあったのだろう。再び、ササで覆われた道を辿る。不動岳の手
前には、西側の淵がガレ斜面となっている笹原が広
がっている。 草を食んでいた数頭の鹿が我々を迎
えてくれたが、我々をみると林のなかに飛び込んで
消えてしまった。ここが鹿平である。 我々の宿泊
予定地でもある。 ストックを支柱にしてロープを
張り、これにタープをかけた簡易テントをつくる。
焚き火用にと薪になる枯れ木を探したが、倒木を鋸
で切る作業が大変で、早々に諦めてしまった。ここ
には、もはやヤマヒルはいなかった。前夜の寝不足
のためか、夕食もそこそこに寝入ってしまった。
テントサイトの鹿平
3)8 月 17 日(金) 晴れ後雷雨後曇り夜雨(歩き距離:10.2km)
(川久保 記)
寒くもなく暑くもない夜であった。起床時の気温は
16.7℃。外は見事な星空である。タープの内壁は我々が
発散した水分の為かビッショリと濡れている。昨夜少し
あった風が収まり水蒸気が飛ばされなかったようだ。Wo
さん担当の朝食を済ませ、空身で不動岳に登る。道は熊
笹の中に有るかと思えば消え、無いかと思えば又現れる。
地図上ではそれほどの急登の場所は無いのに所々背丈
ほどの熊笹を両手で掴みながらせり上がって行く所も
ある。晴れて遠望が利き、これから登る六呂場山から黒
沢山の尾根が見える。長い尾根だ。
休憩もそこそこに急いで下り鹿平に帰りついてター
不動岳頂上
プを片付け出発準備をする。これからのコースには昨日
の鎌崩のような難所は無く、ただひたすら歩くだけなので気持ちは楽である。私(川久保)が先頭
5
で六呂場への尾根筋を忠実に辿るつもりで左手にガレ
場を見ながら歩いて行くと明瞭な踏み跡があり、つい最
近大勢の人たちが通った様子である。これに沿って快調
に下りて行くと Wo さんからだんだん尾根から外れてい
るとの注意を受ける。しかし道がハッキリしているし、
多分この道は歩きやすい沢場の場所につけられており
最低鞍部の所から右にトラバースしているだろうとの
私の主張が皆に受け入れられ、そのまま下りて行った。
その内水の流れる音が聞こえ、道は予想通り右に曲がり
六呂場山から黒沢山に至る尾根
始めた。ここが沢に一番近い場所のようなのでザック
を下ろし、今日と明日の各自の行動水プラス炊事用の
1.5 リットルの共同水を汲むようにとの村上リーダー
の指示の下、各自プラティパスやペットボトルを持っ
て沢に下りて行った。最初の予定では六呂場山を過ぎ
た最低鞍部から高度差 200m くらい下りた所に水汲みに
行かねばならないとの事であったがこれで水の確保が
出来て時間短縮になったと喜んだ。道は少し下り気味
ではあるが、殆ど同じ標高を保ったまま六呂場山の尾
根に向かっていると思っていたら、ひとつ手前の尾根
六呂場山頂
でトラバース道は消え、鹿平に登り返す方向に急登と
なった。地図上ではこの手前の尾根と六呂場山への正
規の尾根の間は殆ど高低が無いような浅い谷になって
いるが現実はかなり深い谷で藪漕ぎをしながら目的の
尾根に辿り着くのはえらく時間がかかりそうである。
やむなく高度差 180m を登り返してやっと正規の尾根に
着いた。何の事は無い。我々が取った道は鹿平の水場
への道だったらしい。教訓として「明瞭な踏み跡でも
明らかに方向が違う場合はその道を取ってはならぬ」
事が身にしみた。六呂場山の鞍部で水汲みに行く時間
教訓
がなくなった事を考慮しても約 2 時
間のロスであった。日当たりの良い
六呂場山方向
場所では笹が生い茂り道が隠されて
黒法師山方向
いる所もあるが、鹿平から 250m 程下
りた最低鞍部の辺りから道は登山道
登り返し
地点
と言えるようなハッキリとした道と
なった。六呂場山の頂上では『耳目
鹿平
は欺かない。判断が欺くのだ』とい
う正に今朝私がやったミスを指摘す
水場
るような格言を書いたプラスティッ
クの板が木に取り付けてあった。
鹿平からの水場(間違ったルート)
6
今日はとても黒沢山には着けそうもないなと気落
ちしながらも黙々と歩く。13 時頃から遠くで雷の音が
し始めた。その内、大粒の雨が降り出し、かなり近く
で雷が光り始め、数秒後に雷鳴がとどろく。森の中な
ので多分大丈夫だと思いひたすら歩く。まだ昼過ぎな
のに日没直後のように薄暗くなって来た。15 時くらい
には雷雲も過ぎ去ったようで雨も小降りになりホッと
する。
17 時過ぎに黒沢山手前、1901m ピークの手前で森の
黒沢山手前 1901m ピークの手前でのタープ
中に一面熊笹が生い茂っている上にロープを渡しタープをかけ側面のロープを笹にしばりつけてペ
グ代わりにしてタープを張った。笹の上にシートを敷くとクッションのような快適な寝床となった。
雨が降って来たがタープの防水はバッチリで雨は漏れて来ず、タープの側面に流れ落ちた雨水は笹
の下を通るのでシートの上には上がって来ない。村上さんの美味しい料理と残っていたアルコール
類を飲んで外は雨にも関わらず快適に寝た。一番風上に寝た A さんは少し雨が降り込みツェルトを
被っておられたようで気の毒であった。21 時には雨が止んだようだ。
4)8 月 18 日(土)曇り後雷雨後曇り(歩き距離:11.8km) (N 記)
いよいよ最終日である。少なくとも計画書では。
昨日まではルート間違えも有って、相当の時間を
ロスした。今日中に本当に戻れるのだろうか?正
直疑心暗鬼の朝を迎えた。当コースはリーダーを
始めとして全員が未経験。黒沢山は日帰りで登る
人もいるという村上さんの言葉も心なしか、うつ
ろに聞こえる。
朝は 3:00 起床。スズタケの原でスズタケを倒して
広げたシートに不安定に置かれたバーナーに点火
し、モーニングコーヒーの準備を始めた。今朝の
食事は各自の非常食である。昨夜のチゲスープの
残りにご飯を入れた雑炊もある。簡単な朝食を済
タープ撤収跡
ませ、ザックに装備を詰める。タープをたたむ。
雨は上がっているが、靴下もシャツも濡れたままだ。さすがに濡れたシャツは着る気がしない。予備の
シャツで今日はスタートである。ズボンは予備を持たないので濡れたままである。幸いなことに今朝の
この天気は一日持ちそうである。濡れたズボンも乾きそうだ。5:30 出発。黒沢山を目指す。ルートは相
変わらず不明瞭。南側崩落地帯通過。先頭を行く村上さんは縁ギリギリを歩くが、どうも縁は崩れそう
で気持ちが悪い。我々は途中から少し山側に付いた獣道を歩いた。少し進みすぎた所為か、戻るように
黒沢山を登るようになるが、そこでザックをデポすれば、黒沢山から戻って無駄なく次なるシャウヅ山
へのルートに入れる。只し此処に戻れない可能性もある?とのことで村上さんが赤いタオルをザック残
置点の枯れ枝にくくりつけた。
7
目の前にある笹に覆われたお椀型のピーク目指し
て登り始めるが縦横に張り巡らされた獣道と倒木
とで道は寸断され、なかなか思うように進めない。
眼前に見えていたピークは着いてみると更に尾根
は長く先に続いている。そうだよな、そんなに甘く
ないよな。自分に言い聞かせて更に高度を稼ぐ。も
う着くか?やっと着いた。それも甘かった。ピーク
に着くと更に長い尾根が上に登っている。ようやく
着くか?「山頂だ」先頭の村上さんの声が聞こえた。
村上情報では黒沢山は日帰りでも登られていると
今日もやぶと倒木を踏み分け、跨いで進む
言う話である。黒沢山に着いたということは少なく
とも(ルートさえ間違わなければ)今日の下山は確
かに保証されるに違いない。ところがそれも甘かっ
た。残念ながら更に先に尾根があるでは無いか。黙
って進む。さすがに次は山頂が待っていてくれた。
6:46 山頂着。古ぼけた山名板が立木にくくりつけら
れている。そして山頂も笹で覆われている。僅かに
樹間から山々が遠く雲海の上に浮かんでいた。独立
峰に見える山は恵那山だろうか。ようやく日帰り出
来るという山の頂に立てた。山頂に立てたことより、
赤タオルを目印にザックをデポ
正直、予定通りの下山が現実味を帯びてきた事の方
が嬉しかった。
早々に下山に掛かるが、直ぐに道を失った。川久保
さんが御法度のGPSを見ながらコースはもっと
右手だと叫んでいる。大きく西にずれて下ったよう
だ。村上さんはズーッと先を行ってしまっている。
一度は修正するがまた直ぐに大きく西にずれてい
黒沢山山頂にて
るのが、帰ってトラックデーターを確認するとよく
分かった。苦労の末、ようやく枝にブル下げた村上
さんの赤いタオルを確認して、タオル目指して笹藪を漕ぐ。先行していた村上さんの姿は無い。オーイ!
声をかけると随分と下の方で応答がする。やはり西側に進みすぎてしまったようだ。やがて全員デポ地
に集合。木の上の赤いタオルは大正解であった。根本に置いたザックだけではここにたどり着けなかっ
たかもしれない。小休止して、シャウヅに向かう。相変わらずのスズタケの藪が続くが、更に一段と倒
木の数が多くなった。落雷、腐食以外でも台風に因るものか、根こそぎ倒れている木々が加わる。また
がる、くぐる、よじ登る・・・・倒木との戦いが続く。1810mのピークを越えた鞍部に着いた。9:20。
8
広くて、平で、笹もなくとても良いテン場である。のんびり、まったりと休憩の一時を楽しむ。この前
後の道はアップダウンは少なく平坦に近いがそれだけしっかりとルートを見ないと間違えやすい。基本
はルートを見失わないこと。それでも偶にロストする。シャウヅ山に着いた。10:25。山頂部は少し盛り
上がって、笹は無い。展望は無いが多少広い。栃生山との表示もある。(下には)14:00 位かな?村上さ
んの判断であった。シャウヅ山からは道は明快。赤
布もふんだんにある。倒木には道幅分だけカッティ
ングしてある。太い倒木には足場も刻んである。先
頭を川久保さんが進んだ、踏み後も明瞭で、赤布も
要所要所にあるので迷いようが無い。正に今までと
は地獄と天国の差である。小生も川久保さんの後ろ
で、赤布頼りにドンドン行こうとハッパを掛けた。
これがいけなかった。奥布山は山頂の右を巻いて、
奈良代山は手前から大きく西にそれて、行き着いた
ところが山頂手前の林道であった。この時雷鳴が轟
いた。今にも大粒の雨が落ちてきそうな雰囲気に一斉
シャウヅ山からは道は明快
に雨具を着る。が・・・結局雨は降らなかった。早め
に降り立った林道を登り方向に少し進むとヘヤーピ
ンカーブになる。ここから奈良代山山頂は直ぐである。
が・・・一旦林道に降り立ってしまうともう僅かな登
りさえも辛くなるのだろう。皆山頂には行かないとい
う。やむなく、奈良代山からの下山道とクロスするま
での山腹トラバースを提案したが斜面は急でトラバ
ースも容易でない。素直に山頂に登って下山道に入っ
た方が楽だったに違いなかった。漸く下山道に合流す
るが、そこからの下山道も半端でない険路であった。
これが登山道か!と言うほどの急傾斜の斜面に踏み
橋を渡れば下山口
跡がつづれ折りならまだしも直線で付いている。せめ
てもの救いは往来が少ない為(?)落葉層で地面は柔
らかい。雪山を下る要領の踵着地でドンドン高度を効率的に落とすことは出来た。しかし、万が一、転
倒したら止まらないだろう。密に生えた樹木に激突することになる。念のため小生と川久保さんはヘル
メットを被った。備えあれば憂いなし。有るものは有効活用である。しかし、もうウンザリするほどの
距離を降り続けた。足の爪先が痛い。最後は喘ぎあえぎ高度差 1000m を下り切った。最後の標高差 150
m程は一般登山道風のつづれ折りの道となる。全てを降りると途中川に掛かる吊り橋が登山終了を告げ
てくれた。時は 14:12。さすが村上さん。下山時刻の判断は我々を欺くことはなかった。
<エピローグ>・・・・登山を終わって。
近場なこともあり一番良く行く、蛭で知られた丹沢で蛭に遭遇したことがなかった小生も当山行で始め
て蛭の洗礼を受けた。
下山口に湧水を引き込んだ水場があった。全員、靴下を脱ぎ、靴を洗い、汗にまみれた頭も洗った。何
とそこでも蛭との遭遇である。靴のベロの隙間に、靴下の中に・・・。全員またもや一騒動であった。
9
緑色(第 1 日目):戸中川ゲートから 4.5km 地点小屋
(注:GPS データは出発して約 2km 過ぎてから)
茶色(第 2 日目):4.5km 地点小屋から黒法師岳往復、鹿平
10
赤色(第 3 日目):鹿平から不動岳往復、黒沢山手前・1901m ピークの手前
11
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