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日機連20高度化-10
平成20年度
鉄鋼用希少金属原料の未利用資源からの
リサイクル技術に関する基盤的調査報告書
平成21年3月
社団法人
日本機械工業連合会
神 鋼 リ サ ー チ
株式会社
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp/
序
我 が 国 機 械 工 業 に お け る 技 術 開 発 は 、戦 後 、既 存 技 術 の 改 良 改 善 に 注 力 す る
こ と か ら 始 ま り 、や が て 独 自 の 技 術・製 品 開 発 へ と 進 化 し 、近 年 で は 、科 学 分
野にも多大な実績をあげるまでになってきております。
し か し な が ら 世 界 的 な メ ガ コ ン ペ テ ィ シ ョ ン の 進 展 に 伴 い 、中 国 を 始 め と す
る ア ジ ア 近 隣 諸 国 の 工 業 化 の 進 展 と 技 術 レ ベ ル の 向 上 、さ ら に は ロ シ ア 、イ ン
ド な ど B R I C s 諸 国 の 追 い 上 げ が め ざ ま し い 中 で 、我 が 国 機 械 工 業 は 生 産 拠
点 の 海 外 移 転 に よ る 空 洞 化 問 題 が 進 み 、技 術・も の づ く り 立 国 を 標 榜 す る 我 が
国の産業技術力の弱体化など将来に対する懸念が台頭してきております。
こ れ ら の 国 内 外 の 動 向 に 起 因 す る 諸 課 題 に 加 え 、環 境 問 題 、少 子 高 齢 化 社 会
対策等、今後解決を迫られる課題も山積しており、この課題の解決に向けて、
従 来 に も 増 し て ま す ま す 技 術 開 発 に 対 す る 期 待 は 高 ま っ て お り 、機 械 業 界 を あ
げて取り組む必要に迫られております。
こ れ か ら の グ ロ ー バ ル な 技 術 開 発 競 争 の 中 で 、我 が 国 が 勝 ち 残 っ て ゆ く た め
に は こ の 力 を さ ら に 発 展 さ せ て 、新 し い コ ン セ プ ト の 提 唱 や ブ レ ー ク ス ル ー に
つ な が る 独 創 的 な 成 果 を 挙 げ 、世 界 を リ ー ド す る 技 術 大 国 を 目 指 し て ゆ く 必 要
が あ り ま す 。幸 い 機 械 工 業 の 各 企 業 に お け る 研 究 開 発 、技 術 開 発 に か け る 意 気
込 み に か げ り は な く 、方 向 を 見 極 め 、ね ら い を 定 め た 開 発 に よ り 、今 後 大 き な
成果につながるものと確信いたしております。
こ う し た 背 景 に 鑑 み 、弊 会 で は 機 械 工 業 に 係 わ る 技 術 開 発 動 向 調 査 等 の テ ー
マ の 一 つ と し て 神 鋼 リ サ ー チ 株 式 会 社 に「 鉄 鋼 用 希 少 金 属 原 料 の 未 利 用 資 源 か
ら の リ サ イ ク ル 技 術 に 関 す る 基 盤 的 調 査 」を 調 査 委 託 い た し ま し た 。本 報 告 書
は、この研究成果であり、関係各位のご参考に寄与すれば幸甚です。
平成21年3月
社団法人
会
日本機械工業連合会
長
金
井
務
はしがき
機械製造に不可欠な素材として、鉄鋼材料分野ではこれまでに種々の用途に対応して高
機能化に向けた材料開発を進めてきた。主原料の鉄鉱石やコークスのほかに、バナジウム、
モリブデンなどの希少金属の添加により、高抗張力鋼、高速度鋼、耐熱鋼、ステンレス鋼
などの鋼種が生産され、自動車、宇宙・航空、原子力、各種プラントなどの機械製造分野
において素材・部材に利用されている。ところが、最近の金属資源を巡る国際的な動きを
みると、すなわち経済発展著しい中国等の旺盛な原材料調達等による資源高騰や資源メジ
ャーによる資源の囲い込みにより、また我が国が資源供給を大きく依存する資源国が輸出
抑制措置を発動した場合でも、資源安定供給に対する重大な制約を生じる可能性が高い状
況にある。バナジウムについては南ア、中国、ロシアに集中し、モリブデンについては多
くが銅の副産物として生産され、かつ米、中国、チリに集中しているために、必ずしも安
定した供給体制にあるとは言えず、経済成長に必要な資源の安定確保は、喫緊の課題とな
っている。
このような中で、未利用資源の利用が注目されている。バナジウム源としては原油高騰
で注目されているオイルコークス、オリノコタール、オイルサンドの燃焼から今後大量に
発生する燃焼灰や重油燃焼灰の有効活用が、またモリブデン源としては銅製錬スラグや各
種潤滑剤などの有効活用が考えられる。これらの未利用資源が利用できれば、鉄鋼製品、
とりわけ特殊鋼の生産に不可欠なバナジウム、モリブデンの新たな資源の確保につながり、
我が国の資源安定供給に貢献するとともに、新たな鉱石を採掘する必要がなくなることか
ら、CO2 削減にも貢献できる。ところが、これまでバナジウムやモリブデンに関して未利用
資源中の潜在性、また活用を図るための技術的課題等について明らかにされていない。
本調査事業は、バナジウム、モリブデンが含まれている廃棄物等未利用資源を鉄鋼用原
料としてリサイクルするための課題を抽出し評価することによって、機械製造に不可欠な
鉄鋼生産における廃棄物系希少金属資源の有効活用の促進に資するために実施したもので
ある。
ここに本報告書を作成するにあたり、ご指導を賜った経済産業省並びに社団法人日本機
械工業連合会に深く感謝の意を表すとともに、調査研究を遂行する上で助言・提言を頂い
た調査検討委員会の日野委員長をはじめ委員各位及び関係者に厚く御礼を申し上げるもの
である。
本報告書が関係方面に十分活用されて、我が国の産業の発展に寄与することを願う次第
である。
平成21年3月
神鋼リサーチ
代表取締役社長
株式会社
大友
朗紀
「鉄鋼用希少金属原料の未利用資源からのリサイクル技術に関する基盤的調査検討委員会」
委員名簿
<委員会>
委員長
日野光兀
東北大学大学院工学研究科・工学部金属フロンティア工学専攻
委
員
長坂徹也
東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻
委
員
原田幸明
独立行政法人物質・材料研究機構材料ラボ
教授
教授
ラボ長
委 員 岡部 徹
東京大学生産技術研究所 循環資源・材料プロセス工学研究室 教授
委
員
三木貴博
東北大学大学院工学研究科・工学部金属フロンティア工学専攻
委
員
金丸守賀
株式会社神戸製鋼所技術開発本部開発企画部
委
員
坂本浩一
株式会社神戸製鋼所技術開発本部材料研究所精錬凝固研究室
准教授
担当部長
室長
<オブザーバー>
永山純弘
経済産業省製造産業局 鉄鋼課製鉄企画室 課長補佐
杉浦孝志
経済産業省製造産業局 鉄鋼課製鉄企画室 技術係長
松本麻子
経済産業省製造産業局 鉄鋼課製鉄企画室 調査係長
<事務局>
北浦伸幸
神鋼リサーチ(株)産業技術情報センター
持続型社会システム研究グループ 主席研究員(GL)
菊地
茂
同
同
上席主任研究員
出口航一
同
同
主任研究員
久保道子
同
同
研究員
<委員会の開催>
第1回 平成20年12月25日 10:00~12:00 鉄鋼会館 706 号室
第2回 平成21年 1月26日 10:00~12:00 鉄鋼会館 804 号室
第3回 平成21年 3月10日 15:00~17:00 鉄鋼会館 705 号室
目次
第1章
本調査研究の狙い
1.1 鉄鋼用希少金属に関する最近の動向······················································ 1
1.2 政府主導による鉱物資源の安定供給確保················································ 1
1.3 本調査研究の狙い·············································································· 2
第2章
リサイクルの現状と課題
2.1 モリブデン······················································································· 4
2.1.1 モリブデンの主な用途 ····································································· 4
2.1.2 モリブデンの供給と消費の現状 ························································· 5
2.1.3 リサイクルの現状と課題 ································································ 20
2.2 バナジウム····················································································· 28
2.2.1 バナジウムの主な用途 ··································································· 28
2.2.2 バナジウムの供給と消費の現状 ······················································· 29
2.2.3 リサイクルの現状と課題 ································································ 38
第3章
未利用資源とその利用における技術課題
3.1 モリブデン····················································································· 45
3.1.1 未利用資源の現状 ········································································· 45
3.1.2 未利用資源の利用における技術課題 ················································· 55
3.2 バナジウム····················································································· 57
3.2.1 未利用資源の現状 ········································································· 57
3.2.2 未利用資源の利用における技術課題 ················································· 68
第4章
調査検討委員会からの提言
4.1 モリブデン····················································································· 90
4.2 バナジウム····················································································· 91
第1章
1.1
本調査研究の狙い
鉄鋼用希少金属に関する最近の動向
モリブデン、バナジウムといった主に鉄鋼用に用いられている希少金属をはじめ、
その他のクロム、ニッケル、コバルト、タングステン、マンガンを含めた、いわゆる
レアメタルといわれる金属は、一般に希少性や偏在性が強く、加えて、ベースメタル
等の副産物として産出される場合が多いという特殊性があり、主産物であるベースメ
タルの生産動向や、生産国の輸出政策、主要生産施設の状況等の影響を大きく受ける。
○
近年、多くのレアメタル価格は高騰し、直近では下落傾向にあるものの、引き続
き高水準。
○
レアメタルの供給は少数の資源国に集中。
○
中国の展開(外資による採掘禁止、輸出税の引き上げ、輸出許可数量の削減等、
国内資源の囲い込み・輸出抑制)など供給国側の政策の影響を受けやすい。
表 1.1-1
1.2
資源(鉱石)の上位産出国(2007 年)
政府主導による鉱物資源の安定供給確保
我が国においては、鉱物資源の探鉱・開発、リサイクルの推進、代替材料等の開発、
レアメタル備蓄等により、中長期的かつ持続的に鉱物資源の安定供給の確保を図って
いる。
<探鉱開発の推進>
激化する資源獲得競争の中で、資源確保に向けた多面的・総合的な対策を実施。
<リサイクルの推進>
技術開発により、国内で収集された使用済製品等に含有する非鉄金属の回収率向
1
上を促進。
<代替材料等の開発>
希少金属の使用量低減技術及び希少金属の機能を代替する新材料の開発を実施。
<レアメタル備蓄>
官民協調によるレアメタル備蓄について、備蓄物資の機動的な保有・売却を実施。
備蓄対象7鉱種:ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン、タングステン、
コバルト、バナジウム
平成18年度
情報収集事業報告書
第15号
出典)JOGMEC ホームページ
図 1.1-1
1.3
希少金属の備蓄
本調査研究の狙い
総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策部会において、各種希少金属
の備蓄状況が調査され、2007年7月31日に「今後のレアメタルの安定供給対策につい
て」の調査結果が報告された。報告書中の備蓄7鉱種の供給安定性の評価において、
備蓄積み増しの優先度が示されている(表1.1-2参照)。この中で、優先度が高く評価
されたコバルト(Co)、タングステン(W)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)の中で、鉄
鋼の添加合金として業界のニーズが高いものはバナジウム、モリブデンである。
さらに、同報告書において、平成8~11年までの平均消費量に対する、直近分を追加
した平成8~17年の平均消費量の割合を比較すると、モリブデン122.9%、バナジウム
113.1%で、この2元素の増加率が最も大きく、今後の使用量が増加していく傾向にあ
ることが示されている(表1.1-3参照)。
2
表 1.1-2
備蓄7鉱種の供給安定性の評価
鉱種
コバルト
供給安定性の状況
主用途の電池向けでは、マンガン等代替物の利用が可能。ニッケル・銅の副産物として増産の
可能性あり。我が国企業の権益保有が進む。一方、電池向け等で、消費者は堅調に拡大。引き
続き、備蓄積み増しの優先度は高いものと評価。
タングステン 希少性、中国依存度が極めて高く、中国政府は国内消費が拡大する中。輸出抑制策を採用。引
き続き、備蓄積み増しの優先度は高いものと評価。
バナジウム
希少性が高く、南アに最も依存する鉱種であるが、中国依存も高い。引き継き備蓄積み増しの
優先度は高いものと評価。
モリブデン
H12 年の段階ではリスク低下したと評価したが、その後の銅鉱山の減産・焙焼設備不足等で、厳
しい需給ひっ迫を経験。供給リスクが高まっており、備蓄積み増しの優先度は高いものと評価。
ニッケル
我が国企業の権益保有が進み、供給源も多角化したことから供給リスクは、他のベースメタル
同等と評価。ステンレスとしてのリサイクルも可能。備蓄対象としては、優先度は高くないも
のと評価。
クロム及び
南ア依存度が高いが、日本企業の現地投資も進展。クロムについてはステンレスとしてのリサ
マンガン
イクルも可能。マンガンについては、非鉄金属の中で、アルミニウム、銅に次ぐ市場規模を有
し、消費量は安定。備蓄対象としての優先度は高くないものと評価。
表 1.1-3
H8~11 年
平均(A)
レアメタル備蓄対象物資消費量の推移(単位:トン、%)
H12 年
H13 年
H14 年
H15 年
H16 年
H17 年
H8~17 年
10 年平均(B)
(B/A)
ニッケル
169,508
157,625
153,150
161,054
165,666
168,096
152,789
163,642
96.5
クロム
824,322
877,813
838,986
841,653
893,580
908,251
922,799
858,037
104.1
タンクステン
5,036
5,404
3,774
3,421
4,078
5,095
5,571
4,749
94.3
コバルト
2,178
2,403
2,146
1,782
3,235
3,006
2,535
2,382
109.4
122.9
モリブデン
マンガン
15,895
20,166
20,840
19,777
20,683
22,300
23,859
18,920
375,283
387,067
403,166
408,696
393,914
396,575
418,977
390,953
104.2
5,573
6,558
6,714
7,252
6,341
6,671
7,182
6,302
113.1
1,397,295 1,457,046
1,428,776
1,443,635
1,487,497
1,509,994
1,533,712
1,444,985
106.4
バナジウム
合計
さらに、先述したように経済発展著しい中国等の旺盛な原材料調達等による資源高
騰や資源メジャーによる資源の囲い込みにより、また我が国が資源供給を大きく依存
する資源国が輸出抑制措置を発動した場合でも、資源安定供給に対する重大な制約を
生じる可能性が高い。そのため、経済成長に必要な資源の確保は、喫緊の課題となっ
ている。鉄鋼生産では鉄鉱石、コークスのほかに、鉄鋼用希少金属が、高張力鋼、高
速度鋼、耐熱鋼などの鋼種の生産に不可欠で、自動車、宇宙・航空、原子力、各種プ
ラントなどの分野において素材・部材に利用されている。
特に、モリブデンについては多くが銅の副産物として生産され、かつ米、中国、チ
リに集中し、バナジウムについては南ア、中国、ロシアに集中しているために、必ず
しも安定した供給体制にあるとは言えず、我が国にあっては国家備蓄鉱種に指定され
ているように、鉄鋼の安定生産に向けて、より安定した資源の確保が求められている。
2006年のモリブデンの国内需要は26,200トン(モリブデン換算)であり、その内、特
殊鋼用が23,500トン(90%)を占める。
一方、バナジウムの国内需要は約6,000トン(バナジウム換算)であり、うちフェロ
バナジウム5,700トン(バナジウム換算)のほぼ全量が製鋼用に使用されている。
従って、本調査研究では、鉄鋼用原料として利用されるモリブデンとバナジウムを
取り上げて、
1)リサイクルの現状と課題
2)未利用資源の調査とリサイクル技術の技術課題
の2点に関して調査を行い、有識者による調査検討委員会で課題を明確化することで、
鉄鋼用希少金属資源の有効活用の促進に資することを狙いとした。
3
第2章
2.1
リサイクルの現状と課題
モリブデン
2.1.1
モリブデンの主な用途
モリブデンは、主として特殊鋼に使われ、次いで触媒(石油精製用、石油化学工業用)
に利用されており、その他には金属モリブデンの線、板、棒、箔の形態で使用される
照明器具や電子材料、各種無機薬品等の用途がある。また、潤滑材添加剤としてモリブ
デン硫化鉱が使われている。ただし、モリブデン硫化鉱については全量輸入されてい
るものの、その数量は明らかになっていない。
出典:JOGMEC ホームページ
図 2.1-1
モリブデンの用途
①特殊鋼及びスーパーアロイ
Mo は、古くより鉄鋼用希少金属として使われている。Mo を鋼に添加することによ
り、硬さ、強度、粘り、耐熱性等の性質を付与できる。特殊鋼では、構造用合金鋼(Mo:
0.15~0.7%)、ステンレス鋼(Mo:0.5~5.0%)、抗張力鋼(Mo:0.15~0.7%)、合金工具
鋼(Mo:0.2~1.5%)、高速度鋼(Mo:3.5~9.5%)などに添加されている。また鋳物には
0.3~3.5%の Mo が含まれ、スーパーアロイでは最大 25%を含むものまで種々ある。
②触媒
Mo の S と結合しやすい性質を利用して、石油から S を除くのに使われる。石油精
製用の NiO-CoO-MoO3 系触媒には、水素化脱硫触媒(Mo:4.5%)と水素化分解触媒
(Mo:7.0%)の2種類があり、石油化学工業用には Bi2O3-MoO3 系触媒(Mo:12%)が使用
されている。
③線・板・棒・箔
Mo の耐熱性(融点 2600℃以上)の性質を生かして、照明ランプのフィラメントや
半導体子デバイスなどの高耐熱性が求められる材料に使われており、Mo を金属の線、
4
板、棒、箔の形態で使用する用途として、照明器具(マンドレル、反射鏡)、電子管用陰極
及びヒーターグリッド、ガラス炉融炉用電極棒、マグネトロン部品(陰極、端子等)、工業
炉用発熱体等がある。
④無機薬品
Mo 含有無機薬品として、防錆塗料用に塩基性モリブデン酸亜鉛(Mo:25~30%)、着
色顔料のモリブデン酸レッド(Mo:9%)がある。また硫化モリブデンの形態で潤滑剤と
して使用されているものもある。
2.1.2
1)
モリブデンの供給と消費の現状
世界のモリブデン需給バランス
世界のモリブデンの需給動向を、表 2.1-1 に示した。供給は米国、チリ、中国に集
中しており、上位 3 ヶ国で 76%を占めている。モリブデンは、世界生産の 6 割以上が
銅生産の副産物として生産される。そのために、焙焼能力の不足等、供給面で問題を
抱えている。消費量は、鉄鋼部門の需要増を反映して、年々増加している。図 2.1-2
は、2006 年の国別のモリブデン消費割合を示している。世界全体の消費量の値が表
2.1-1 とは異なるが、2006 年における日本の世界に占めるモリブデンの消費割合は
16%である。しかし、将来、中国を中心とした鉄鋼・特殊鋼分野の需要増が予想され
ており、かつこの分野の代替性もない状況にあって、需給両面でリスクがある鉱種で
ある。
表 2.1-1 世界のモリブデンの需給
年
供給 アメリカ
チリ
中国
ペルー
カナダ
メキシコ
その他
合 計
需要 欧州
アメリカ
日本
その他
合 計
需給バランス
1996
56.2
17.1
8.6
4.0
8.7
2.7
5.9
103.2
42.2
29.3
19.0
14.0
104.5
-1.3
1997
59.8
23.1
12.7
4.3
8.6
4.1
5.6
118.2
45.1
29.7
22.5
15.0
112.3
5.9
1998
54.9
24.6
15.9
5.4
8.1
5.4
7.2
121.5
46.3
29.9
22.0
15.9
114.1
7.4
1999
44.4
27.7
15.9
5.0
5.8
6.6
7.4
112.8
45.4
29.9
19.1
14.5
108.9
3.9
2000
42.0
32.3
18.6
5.0
6.4
6.6
7.3
118.2
47.6
30.4
21.8
18.1
117.9
0.3
2001
37.9
38.1
25.9
3.3
8.1
5.4
11.2
129.9
49.3
32.7
23.6
22.4
128.0
1.9
(単位:純分千トン)
2002
31.8
31.5
32.2
4.9
9.0
3.6
11.3
124.3
49.9
31.8
23.6
22.7
128.0
-3.7
2003
33.1
37.7
31.3
5.4
8.9
3.2
11.9
131.5
53.5
32.7
23.6
23.6
133.4
-1.9
2004
40.6
41.8
28.3
12.2
10.9
3.2
12.7
149.7
56.3
34.4
27.2
24.3
142.2
7.5
2005
53.2
44.4
23.1
13.1
8.2
4.1
12.6
158.7
59.4
38.1
28.6
26.1
152.2
6.5
2006
148.9
154.1
-5.2
出典:平成17年度特殊金属プロジェクト報告書(特殊金属備蓄協会)
出典:JOGMEC ホームページ
図 2.1-2
5
世界国別モリブデン消費割合
2)
モリブデンの埋蔵量
埋 蔵 量 は Mineral
Commodity
Summaries 2007によると、世界全体で860
万トン、うち、中国が38.4%、米国が31.4%、
チリ12.8%と上位3カ国で82.6%を占めて
いる。
出典:Mineral Commodity Summaries 2007
図 2.1-3
世界のモリブデン埋蔵量
出典:資源エネルギー庁
図 2.1-4
3)
世界のモリブデン埋蔵量
モリブデンの供給障害と価格の推移
表2.1-2に過去のモリブデンの供給障害事例を示す。銅鉱山でのストライキ・事故等
による減産、ステンレス鋼等の生産増に伴う需要増、中国鉱山の事故・焙焼能力不足
によるものが認められる。
三酸化モリブデンの価格は、図2.1-5に示すように、種々の要因で2003年頃より急上
昇し、2005年から2008年夏頃までは変動があるものの、30~35$/lbで推移してきた。
ただし、昨年後半よりステンレス等の需要減などがあり、急激に値を下げている。
($/lb)
40
35
30
25
20
15
10
5
7月
6月
5月
4月
3月
2月
12月
2008年1月
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
12月
2007年1月
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
2006年1月
2007年平均
2006年平均
2005年平均
2004年平均
2003年平均
2002年平均
2001年平均
0
出典:産業新聞社調べ
図2.1-5
モリブデン鉱価格の推移
6
表2.1-2
4)
モリブデン供給障害例
日本のモリブデンの需給
2006年の日本のモリブデン需要は、表2.1-3においてはモリブデン純分で26.2千tと
推定される。その内、特殊鋼用の消費は23.5千tと推定され約90%を占めている。
表2.1-3
歴年
数量
2002 年
21,800
日本のモリブデン需要量
2003 年
24,500
2004 年
25,400
2005 年
27,200
(単位:t)
2006 年
26,200
(出典:工業レアメタル2007)
表2.1-4は、レアメタルの鉱種毎に、原料(鉱石、地金、中間原料、中間製品)、レ
アメタル含有製品として部材・部品(生産財として使用される特殊鋼、触媒など)及
び最終製品(主に消費財)に分けて、現実的に調査可能な対象製品に限り、主な用途
の市場を示している。
・部材・部品:ステンレス鋼、特殊鋼、化合物、磁石、触媒
・最終製品
:超硬工具、二次電池、電気電子製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エ
アコン、パソコン、各種デジタル家電、携帯電話、HDD、CD-ROM)、
自動車及び自動車部品
モリブデンは、ステンレスと特殊鋼を合わせて88%を占めており、次いで触媒の8%
となっている。
(バナジウムも特殊鋼に78%、チタン合金用に21%を占め、触媒への利用は2%程度
である。)
7
表 2.1-4
鉱種別の用途別の市場(1)
(2006 年)
対象品目
部材・部品 最終製品
のみ
含む
204,000 192,500 198,500
100
94
97
Ni
Cr
Mn
Co
W
Mo
V
8
Nb
Ta
Sr
Sb
Pt
Pd
Rh
PGM
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
1,253,000
(単位:純分 Ton、レアアースは REO Ton)
部材・部品
世界市場 国内市場
140,000
68.6
特殊鋼
50,000
24.5
460,000
81.7
95,000
16.9
ステンレス鋼
化合物
最終製品
磁石
2,000
1.0
触媒
500
0.2
フェライト磁石
6,176,000
563,000
100
555,000
99
555,000
99
5,100,000
880,000
100
600,000
68
600,000
68
600,000
68.2
50,000
11,200
100
1,900
17
9,900
88
1,000
8.9
60,000
6,600
100
700
11
5,700
86
500
7.6
200
3.0
180,000
28,400
100
27,300
96
27,300
96
5,000
17.6
2,300
8.1
50,000
5,800
100
4,600
79
4,600
79
4,500
77.6
100
1.7
15,000
5,900
100
5,700
97
5,700
97
5,700
96.6
3,000
600
100
0
0
420
70
500,000
17,200
100
8,000
47
8,000
47
50,000
9,500
100
0
0
100
1
250
53.0
100
27.0
51
30.0
57
27.0
50.9
300
62.0
100
34.0
55
43.0
69
34.0
54.8
30
9.0
100
3.0
33
3.0
33
3.0
33.3
580.0
124.0
100.0
64.0
52
76.0
61.3
64.0
51.6
20,000
70.4
400
3.6
磁石
500
4.5
電気・電子機器
3,000
1.5
めっき
その他部品・部材、最終製品
1
2
3
1,500
4,000
0.7
2.0
その他 非鉄合金
4,000
2,000
2,000
0.7
0.4
0.4
めっき
耐火物
60,000 200,000
20,000
6.8
22.7
2.3
一次電池 普通鋼
Al合金
7,200
1,300
64.3
11.6
その他
Liイオン電池
900
13.6
フィラメント、放熱板、他
1,100
3.9
電極、電子管、他
1,200
20.7
超硬工具 二次電池
3,000
1.5
電池
200
1.8
磁性膜
600
5.4
5,000
75.8
Ti合金製品
250
41.7
コンデンサ
90
15.0
磁性膜
8,000
46.5
フェライト磁石
3.0
5.7
めっき・磁気膜
9.0
14.5
めっき
12.0
9.7
めっき・磁気膜
出典:経済産業省委託事業
100
100
1.7
1.7
レンズ NMR、超伝導
80
80
100
13.3
13.3
16.7
レンズ ヒーター、他
50
150
9,000
0.3
0.9
52.3
レンズ
火薬
化学薬品
100
250
8,500
650
1.1
2.6
89.5
6.8
難燃材 鋳物、他
鉛蓄電池 顔料(黄)
17.0
3.0
3.0
32.1
5.7
5.7
投資・宝飾 ガラス坩堝 その他
14.0
5.0
22.6
8.1
歯科
宝飾
6.0
66.7
その他
22.0
14.0
12.0
17.7
11.3
9.7
投資・宝飾
歯科
その他
「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
表 2.1-4
鉱種別の用途別の市場(2)
(2006 年)
対象範囲
部材・部品 最終製品を
のみ
含む
11,570
2,000
2,000
100
17
17
市場規模
部材・部品
(単位:純分 Ton、レアアースは REO Ton)
最終製品
その他部品・部材、最終製品
ステンレス鋼
電気・電子機器
特殊鋼
化合物
磁石
触媒
超硬工具 二次電池
1
2
3
市場
90,000
2,000
9,570
17.3
82.7
比率(%)
用途
添加材
Ti応用製品
3,600,000 105,300
市場
Ti
0
1,000
1,000
103,300
1,000
0
1
8.6
98.1
0.9
(化合物) 比率(%)
コンデンサ 磁気ヘッド
塗料・顔料 その他
用途
市場
Li
17,000
2,000
50
1,400
50
500
850
100
250
250
100
3
70
2.5
25.0
42.5
5.0
12.5
12.5
比率(%)
HDD、フィルタ
用途
触媒
Liイオン電池 一次電池、他 冷凍機,他 グリス・電解質
市場
Ga
200
120
0
115
55
60
5
100
0
96
45.8
50.0
4.2
比率(%)
化合物半導体
用途
その他
LED
市場
In
650
590
0
560
550
10
10
5
15
100
0
95
93.2
1.7
1.7
0.8
2.5
比率(%)
化合物半導体
低融点合金
用途
電池
その他
ITO
市場
RE
65,000
22,600
6,000
6,900
6,000
900
2,000
3,000
6,000
3,700
100
27
31
26.5
4.0
8.8
13.3
26.5
16.4
比率(%)
センサ、コンデンサ
用途
蛍光体
Ni水素電池 ガラス・レンズ 研磨剤 その他・不明
FeNdB磁石,他
出典:Roskill、USGS、鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計、工業レアメタル、鉱物資源マテリアルフロー、他から神鋼リサーチ作成
対象品目カバー範囲:部材・部品のみ=(対象品目(部材・部品)の市場)÷市場規模
:最終製品を含む=(対象品目(部材・部品)+対象製品(最終製品)の市場)÷市場規模
Ti
(金属)
9
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
表2.1-5は、金属添加用モリブデンの生産量を、表2.1-6は粉末製品と加工製品の生産
実績を、表2.1-7は、触媒に使われるモリブデン消費量を示している。
表2.1-5
金属添加用モリブデンの生産量(単位:トン)
歴年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
505
599
744
682
310
2,375
2,691
3,323
4,011
4,229
酸化モリブデンブリケット
フェロモリブデン
2007 年
2008 年
4,573
4,554
出典:工業レアメタル2007、タングステン・モリブデン工業会、経産省生産統計
表2.1-6
粉末製品と加工製品の生産実績(単位:トン)
2002 年
歴年
2003 年
2004 年
2005 年
2006 年
粉末製品
574
648
936
1,013
1,388
加工製品
376
481
759
960
1,208
出典:工業レアメタル 2007、タングステン・モリブデン工業会
表 2.1-7
触媒用モリブデンの消費実績(単位:トン)
2002 年
歴年
2003 年
2,019
数量
2004 年
1,889
2,468
2005 年
2,497
2006 年
2,247
出典:工業レアメタル 2007、経済産業省化学工業統計
中間生産物に係る我が国の主要生産者並びに生産品目は、表 2.1-8 のとおりである。
表 2.1-8
中間生産物に関する主要生産者及び生産品目
主要生産者
生産品目
太陽鉱工
モリブデン(フェロ、ブリケット)
日本新金属
金属モリブデン、化合物
日本タングステン
モリブデン合金
アライドマテリアル
モリブデン粉、棒、線、板
東邦金属
モリブデン粉、棒、線、板
妙中鉱業
モリブデン(フェロ、ブリケット)
東芝マテリアル
金属モリブデン
出典:工業レアメタル 2007、新金属データブック 2002、合金鉄年鑑 2007、国内各社ウェブサイト
10
一方、供給については、我が国はモリブデン精鉱(焙焼鉱=三酸化モリブデンMoO3)
の全量を輸入に依存するとともに、フェロモリブデンの約50%を輸入に依存している。
また、塊・粉やくずも輸入している。
2008年のモリブデン精鉱の輸入量は、表2.1-9に示すように焙焼鉱を3.8万トン輸入
しており、非焙焼鉱は100t前後と少ない。フェロモリブデンの輸入量は、4~5千ト
ンであったが、2007年及び2008年には3千トン台に低下している。
モリブデン精鉱の供給国別内訳(2008 年)では、チリ 50%、米国 17%、メキシコ 13%、
カナダ 9%、中国 3%などとなっており、中国については 2003 年の 5,200 トンから 2008
年には 1,012 トンに低下している。フェロモリブデンについても、中国からの輸入量
は急激に低下しており、2008 年は、前年の 30%程度にまで落ち込んでいる。これは
2005 年 8 月に中国政府により実施された委託加工の禁止が大きく影響したものと思わ
れる。
フェロモリブデンは、環境問題、コスト等の観点から海外の供給者確保が難しい状
況となっており、国内生産者(MoO3 を輸入し、酸化モリブデン、フェロモリブデン等
に加工)も過去には7社あったものが現在では2社に減少している。中国への依存度
が高いため、国内生産者の存在は不可欠である。
表2.1-9
日本の酸化モリブデンとフェロモリブデンの輸入量 (単位:トン)
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
モリブデン鉱(焙焼鉱)
30,140
32,727
35,462
40,289
38,543
38,226
37,546
主な輸入先
13,259
12,509
19,774
21,530
20,557
21,334
18,671
メキシコ
4,600
6,221
4,951
5,956
6,550
5,848
4,816
米国
1,088
1,448
2,058
2,343
3,238
3,765
6,201
カナダ
3,990
3,792
3,403
4,075
4,478
3,630
3,275
中国
3,889
5,187
2,159
2,800
2,206
1,405
1,012
50
39
110
117
95
97
96
フェロモリブデン
3,993
5,121
5,066
4,119
4,305
3,234
3,327
主な輸入先
中国
3,773
4,790
4,682
3,345
3,005
1,448
458
チリ
220
260
308
520
740
1,360
2,410
歴年
チリ
モリブデン鉱(焙焼鉱以外)
(出典:財務省貿易統計)
モリブデン
年
2008
18,671
4,816
6,201
1,012
3,275
3,571
1,405
2007
21,334
2006
5,848
20,557
3,765
6,550
3,630
3,238
2,244
1,514
4,478
2,206
2005
21,530
2004
5,956
19,774
2003
4,951
12,509
2002
6,221
13,259
0
5,000
10,000
15,000
チリ
2,058 3,403
1,448 3,792
4,600 1,088 3,990
米国
5,187
3,889
20,000
メキシコ
2,343
2,159
2,800
3,585
3,117
3,570
3,314
25,000
カナダ
4,075
中国
30,000
35,000
40,000
その他
(出典:財務省貿易統計)
図 2.1-6
モリブデンの輸入依存相手国比率
11
45,000
(MT)
図 2.1-7
モリブデンの埋蔵国、生産国、対日輸出国
12
出典:JOGMEC ホームページ
表2.1-10は、モリブデンとバナジウムの原料(鉱石、地金、中間原料、中間製品)
について、日本とアジア10カ国、米国、EU、及びその他諸国間の輸出入量を示してい
る。
モリブデンについては、モリブデン酸塩や、塊・粉あるいは板・くずとして、また
二硫化モリブデンとして輸出もされている。
バナジウムについては、酸化物として韓国などに輸出されていることが示されてい
る。
(1) モリブデン原料のフロー(2006 年)
モリブデン原料の輸入は Mo 純分で 29.6 千トン、輸出は 1.2 千トンである。(輸入
量-輸出量)をモリブデン原料の国内市場とすると、2006 年の国内市場は純分で 28.4
千トンとなる。
モリブデン原料は主にモリブデン鉱石(酸化モリブデン)、フェロモリブデン、及び
塊・粉・板・くずとして輸入されている。モリブデン鉱石(酸化モリブデン)の輸入
量は Mo 純分合計 23,183 トンであり、主な輸入相手国はチリ、カナダ、中国である。
フェロモリブデンは Mo 純分で 2,669 トンが輸入されており、主な輸入相手国は中国、
チリである。塊・粉・板・くずは主に中国、ドイツ、オーストリア、米国から輸入さ
れている。モリブデン原料の輸出は Mo 純分で 1,240 トンであり、輸入に比較して少
ない。
(2) モリブデン含有製品のフロー(2006 年)
モリブデン含有製品(部材・部品及び最終製品)の輸出入に伴うモリブデンの輸出
入を表 2.1-11 に示す。製品としてモリブデンの輸入量は Mo 純分で 987 トン、輸出量
は 14,619 トンであり、
(輸入量-輸出量)はマイナス 13,632 トンである。この調査( 経
済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査」)の対象品目に限ると、Mo
原料の国内
市場 28,383 トンのうち、約 52%がモリブデン含有製品として加工され、輸出されて
いると見ることができる。
表 2.1-11
モリブデン含有製品の輸出入に伴うモリブデンの輸出入量(2006
年)
表3-7-1 品目別フロー
輸出
輸入
純分トン
%
純分トン
%
超硬工具
0
0
0
0
二次電池
0
0
0
0
電気電子機器
0
0
1
0
自動車・部品
577
4
28
3
触媒
222
2
205
21
磁石
0
0
0
0
特殊鋼
13,471
92
561
57
スクラップ
348
2
193
20
合計
14,619
100
987
100
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
図 2.1-8 は、モリブデン含有製品の輸出に伴うモリブデンの輸出量(国別)を示し
ている。モリブデンは主として特殊鋼、自動車及び自動車部品として、中国、韓国へ
13
はスクラップとしての輸出もみられる。
図 2.1-8
モリブデン含有製品の輸出に伴うモリブデンの輸出量(2006
年)
図3-7-3 モリブデンの輸出(製品)
5,000
電気電子機器
自動車・部品
触媒
4,000
特殊鋼
スクラップ
純分トン
3,000
2,000
1,000
その他
EU
米国
インドネシア
フィリピン
マレーシア
シンガポール
タイ
ベトナム
香港
台湾
中国
韓国
0
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
(参考)
表2.1-11は、小型家電に含まれるレアメタル含量を示している。
14
表 2.1-10
品目
モリブデン
鉱石
モリブデン酸塩
フェロモリブデン
塊・粉。板・くず
二硫化モリブデン
バナジウム
塊
フェロバナジウム
酸化物
純分含有 単位
率(%)
㌧
輸出
60.0
輸入
㌧
輸出
7.8
輸入
㌧
輸出
62.0
輸入
㌧
輸出
100.0
輸入
㌧
輸出
60.0
輸入
㌧
輸出
100.0
輸入
㌧
輸出
80.0
輸入
㌧
輸出
52.0
輸入
韓国
23
12
9
0
0
99
335
273
55
0
0
0
0
430
184
8
中国
0
1,324
1
48
2
1,863
21
1,041
103
9
0
3
2
397
9
1,079
レアメタル原料別の輸出入量(純分)(2006 年)
台湾
0
0
0
0
1
0
267
182
3
0
0
0
0
12
5
0
香港
0
0
0
0
0
0
1
0
29
0
0
0
0
0
2
0
ベトナム
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
0
タイ
0
0
1
0
13
0
30
1
43
0
1
0
13
0
1
0
シンガ
ポール
0
0
0
0
1
0
12
5
11
0
0
0
0
0
0
0
マレー
シア
0
0
0
0
2
0
7
0
0
0
0
0
0
0
0
0
フィリ
ピン
0
0
0
0
1
0
0
0
2
0
0
0
1
0
0
0
インド
ネシア
0
0
0
0
0
0
0
0
21
0
0
0
0
0
4
0
米国
0
2,000
0
30
0
74
37
532
3
414
0
331
8
2
1
0
EU
5
864
3
2
0
174
125
1,095
26
48
8
92
80
966
20
0
その他
0
18,983
2
12
0
459
1
1
44
74
0
5
13
2,768
5
83
世界
合計
28
23,183
16
93
21
2,669
835
3,131
340
546
10
431
117
4,575
234
1,170
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
15
表 2.1-11
小型家電中のレアメタルの含有率
16
(3) 主要用途としての特殊鋼分野におけるレアメタル消費の現状
昨夏の米国発金融不安に端を発して、世界同時に経済成長が減速し、自動車・家電
などの需要分野の影響を受けて、今年度の日本の粗鋼生産量は、前年度割れの可能性
が出てきた。
しかし、平成19年度には1億2,151万600トンと、対前年比3.2%増となり、平成12
年度から8期連続して1億トン台に乗せ、過去最高であった1973年度の1億2,001万
700トンを抜いた。鉄鋼製品は、自動車、造船、電気・電子製品、産業機械、あるいは
各種インフラ等に欠かせない素材として極めて大きな役割を担っている。
鉄鋼製品の高品質・高機能化に不可欠な素材が、ニッケル、クロム、マンガン、コ
バルト、タングステン、モリブデン、バナジウム等のレアメタルであり、日本の誇る
世界トップの鉄鋼製品の品質を支えている。かつ、これらを使用する自動車、船舶、
電気電子製品等の高機能化・省エネ化・小型化を高め、世界トップレベルの製品とし
て流通しているのも、レアメタルの存在が極めて大きく、レアメタルがなければ、鉄
鋼産業も鉄鋼を使った各種製品等の産業が成り立たない。
①
特殊鋼の生産
直近5年間の鉄鋼生産(粗鋼)は、1億1,000万トンから1億2,000万トンで推移し、
その内訳は転炉鋼が8,300万~8,900万トン前後(70%強)、電炉鋼で3,000万トン前後
(30%弱)となっている。
高炉メーカーは、特殊鋼の中でも高抗張力鋼と機械構造用炭素鋼が主であり、形状
では鋼帯・鋼板がベースとなっている。一方、電炉メーカーが生産する特殊鋼は、構
造用合金鋼、ばね鋼、快削鋼などの小ないロットの鋼種が主であり、形状も棒鋼や線
材が主体になっている。ステンレス鋼については、高炉メーカーでは鋼帯と管材が多
く、主な鋼種は18Cr系やNi-Cr系である。電炉メーカーでは、鋼帯、鋼板も半分以上
を占めるものの、棒鋼、線材の割合は高炉メーカーより高く、特にNi-Cr-Mo鋼が多く
なっている。
②
特殊鋼鋼材の最終用途先
2005年度の特殊鋼鋼材の生産量は、20,378千トンとなっている。最終用途別の使用
量は18,225千トンであり、他に鋼管用や鋼塊、半製品向けが349千トンで、合計で
18,574千トンになる。この量と20,378千トンとの差は、次工程加工中のものや在庫と
考えられている。最終需要部門に分配された数量のうち、73%が国内需要向けで、国
内向け受注量の53%が建設用、産業用、機械用、自動車用等の最終需要部門等に直接
出荷され、36%が線材二次加工やボルトナット、ばね用等の次工程用で、残り11%は
販売業者向けとなっている。鉄鋼メーカーからは27%が直接輸出されている。
以上のように一次分配された特殊鋼鋼材のうち、次工程用と販売業者向けに分配さ
れた特殊鋼鋼材は、様々な部品等に加工されて最終需要部門に二次分配されて最終使
途ベースの各需要部門での特殊鋼使用量が推計されている。二次分配の過程で中間製
品として約5%が輸出されているので、直接輸出と合わせると、特殊鋼受注量合計の
32%が輸出されていると推計されている。最終需要部門で最終製品になってから輸出
17
されるものもあることから、国内に留まる分が目減りすることになり、レアメタル7 鉱
種のリサイクル対象量も減ることになる。一次分配で次工程用(36%)と販売業者向
け(11%)に向けられた特殊鋼鋼材が、最終需要部門に再分配された最終使途ベース
での受注量は12,546 千トン(国内需要の95%)、この他に中間輸出が5%ある。自動
車用が内需の54%となり、特殊鋼の最大需要部門となっている。次いで産業用の18%、
建設用の11%でベスト3を形成し、この3 部門で特殊鋼鋼材需要の83%を占めている。
次に最終使途ベースの需要部門にどのような特殊鋼鋼種がどれだけ分配されている
のか。自動車には特殊鋼の54%、7,138千トンが使われている。中でも機械構造用炭素
鋼が最も多く2,706千トン(38%)、次いで機械構造用合金鋼が1,635千トン(23%)、
高抗張力鋼が783千トン(11%)、快削鋼が680千トン(10%)と続く。ステンレス鋼
は382千トン(5%)で、この5鋼種で使用される特殊鋼の87%を占めている。
次に多い産業用は、特殊鋼の18%、2,442千トンが使用されている。構造用炭素鋼31%、
構造用合金鋼27%、ステンレス鋼13%、高抗張力鋼11%となっている。建設用には、
1,479千トンの特殊鋼が使われている。この建設用で多い鋼種は、高抗張力鋼が30%で
トップ、ピアノ線材が28%、ステンレス鋼が15%となっている。構造用炭素鋼も16%
あり、この4鋼種で89%になっている。
③ 特殊鋼鋼材の輸出状況
特殊鋼鋼材の最終使途別受注量は、2005年度で18,225千トン、その内鋼材輸出量は
4,970千トン(27.0%)になっている。この他に次工程処理された後、中間製品として
輸出された量は711千トン(内需合計の5%、総受注量に対しては4%程度)あり、こ
れを含めた輸出比率は32%である。鋼種別の輸出比率は、高抗張力鋼55%、ステンレ
ス鋼39%、耐熱鋼31%となっている。
(4) モリブデン、バナジウムの消費量
表2.1-12はJOGMECが特殊鋼メーカー各社の主要製品等から推計した鋼種別のレ
アメタルの消費量であり、この表によれば、2005年の特殊鋼粗鋼に含まれるレアメタ
ルの総投入量は131万トン、国内での消費量は91万トンとなっている。レアメタルの
うち、モリブデンは3.1万トン、バナジウムは665トンと推定されている。
(以上の出典:JOGMEC「レアメタルのリサイクル流通状況調査報告」平成19年6月)
18
表2.1-12
炭素
工具鋼
熱間圧延鋼材
生産量(07年度)
熱間圧延鋼材
生産量(05年度)
熱間圧延鋼材
生産量(04年度)
熱間圧延鋼材
生産量(03年度)
熱間圧延鋼材
生産量(02年度)
熱間圧延鋼材
生産量(01年度)
19
熱間圧延鋼材
生産量(05年度)
粗鋼換算
鉱種毎消費量
Mo
Cr
Ni
Co
W
V
Mn
合計
国内向け
生産比率
合金
工具鋼
高速度
工具鋼
特殊鋼鋼種別のレアメタルの消費量(2005年度)(単位t、%)
構造用
炭素鋼
構造用
合金鋼
快削鋼
ばね鋼
軸受鋼
ステンレス鋼
高マンガン
鋼
112,287
757,022 5,355,840
(その他の特殊用途)
ピアノ
線材
高抗張力
鋼
耐熱鋼
総合計
137,345 129,118
19,961 5,198,295 4,189.823
972,959
520,413
969,673 3,391,049
129,447 128,290
19,416 4,826,550 3,874,811 1,073,756
474,246
949,149 3,168,963
725,091 4,627,456
322,091
58,252
20,377,518
135,784 125,341
19,394 4,604,659 3,362,153 1,104,059
470,557
857,577 3,443,164
858,880 4,605,397
341,932
70,695
19,999,592
124,867 122,489
18,460 4,367,490 3,108,051 1,054,601
448,708
796,601 3,386,242
791,500 4,445,357
352,397
55,255
19,072,018
108,509 107,942
17,549 4,076,069 2,885,291 1,016,994
411,401
771,403 3,181,450
735,944 4,434,401
376,535
52,784
18,176,272
16,638 3,427,171 2,559,969
905,322
345,907
612,719 3,072,546
603,569 3,496,145
321,379
52,035
15,604,988
129,447 128,290
19,416 4,826,550 3,874,811 1,073,756
474,246
949,149 3,168,963
725,091 4,627,456
322,091
58,252
20,377,518
150,520 149,174
22,578 5,612,267 4,505,596 1,248,552
551,449 1,103,662 3,684,840
843,129 5,380,763
374,524
67,735
23,694,789
91,309 100,279
0
647
155
0
0
0
1,294
2,096
1,492
414
( 4.8%) ( 1.3%)
17,901
312
0
0
0
0
0
459
522
143
448
15
20,363
1,343
24,781
2,253
0
0
0
16,445
43,479
1,374
( 4.4%)
8,834
6,554
0
0
0
8,772
25,534
80.7
0
0
5,612
5,612
0
0
0
44,898
56,122
78.3
80.1
72.2
91.8
74.4
0
507
122
0
0
0
1,014
1,643
1,195
14,339
0
0
0
418
358
16,310
299
225
0
0
331
103
11
969
0
5,152
5,152
0
0
0
41,216
51,520
0
18,437
1,676
0
0
0
12,235
32,348
8,824
16,003
0
0
0
0
2,207
18,210
25,487
( 82.2%)
620,283
315,361
0
0
0
27,636
988,767
77.6
81.3
67.2
0
21,753,785
0
0
0
0
0
0
0
6,323
6,323
2,247
( 7.2%)
43,070
1,124
0
0
0
2,809
80,712
5,381
8,071
0
0
0
67,260
49,250
102
847
0
0
0
10,160
11,109
31,014
(100.0%)
747,338
339,977
0
459
665
192,679
1,312,132
73.4
48.3
73.4
73.4
71.9
0
国内向け消費量
Mo
Cr
Ni
Co
W
V
Mn
合計
1,108
0
18,069
0
1,649
0
0
22,320
7,129
13,011
416,509
0
31,614
2,599
75
513,020
5,290
0
227,744
0
825
3,898
621
245,328
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
331
0
0
0
0
0
0
0
521
7,078
1,795
19,079
4,641
2,062
32,486
7,458
132,856
20,605
6,846
14,806
681,401
4,641
38,983
36,150
8,154
914,376
出典:経済産業省、及びJOGMEC「レアメタルのリサイクル流通状況調査報告」平成19年6月
2.1.3
1)
リサイクルの現状と課題
リサイクル
図2.1-9に、Moの用途別のリサイクルを工程くずと使用済製品に分けて整理した。
(工程くず)
特殊鋼
特殊鋼原料
(使用済製品)
特殊鋼部品等
鉄スクラップ
(使用済製品)
使用済触媒
Mo
(工程くず)
線、板、棒、箔
(使用済製品)
線、板、棒、箔
(使用済製品)
無機薬品(塗料)
(使用済製品) 潤滑油(含 Mo 有)
再生重油
再生潤滑油
図 2.1-9
(1)
(Mo 機能は活かされる)
(Mo 機能は活かされない)
(Mo 機能は活かされる)
(Mo 機能は活かされない)
(Mo 機能は活かされる)
Mo の用途別のリサイクルの概略
工程くずと使用済製品別のリサイクル
<工程くずのリサイクル>
○特殊鋼メーカー内で発生した工程くずは自社内で製鋼として、ほぼ 100%リサイク
ルされている。また、一部メーカーでは専門業者に回収されて合金にリサイクルさ
れている場合もある。
○特殊鋼を使った部品、製品のメーカーから発生した工程くずは、上流工程でリサイ
クルされるものもあるが、一般の鉄スクラップになるものもあると推察される。鉄
スクラップの場合、Mo の機能は活かされていないと考えられる。
<使用済製品のリサイクル>
○特殊鋼からなる使用済自動車部品の一部は、特殊鋼原料としてリサイクルされはじ
めているが、多くは鉄スクラップとしてリサイクルされている。また、輸出される
ものもあり、この場合も鉄スクラップとしてリサイクルされているために、Mo 機能
は活かされていないと考えられる。
○国内触媒回収業者のリサイクル技術は、海外に比べて高く、触媒に用いられたモリ
ブデンのほとんどが使用済み後に回収されている。
(2)
用途別のリサイクル
① 特殊鋼・スーパーアロイのリサイクル
工場内でのスクラップほぼ全量が原料として回収されている。また製品として出荷
20
された後、使用済みになったものは鋼スクラップとして回収後再溶解原料とされてい
る。しかし、自動車部品の一部が特殊鋼の原料として、その含有されるレアメタルを
生かすことが行われつつあるが、現状は、鉄スクラップとしてリサイクルされる。
鉄スクラップとして処理される場合は、Mo の機能が活用されていない。Mo の機能
を生かすためには、工程くずも含めて、特殊鋼の特性に合わせた有効な分別システム
が必要である。
○Mo添加ステンレス鋼のリサイクル
特殊鋼の中でMoが最も使われているステンレス鋼(特殊鋼におけるMoの消費割合
82%、2005年)の状況を以下に記す。
ステンレス鋼は、クロム系 (400系)とクロム・ニッケル系 (300系)に大別され、また
マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、二相系等に分別される。この
うち、Mo添加ステンレス鋼は、フェライト系、オーステナイト系、二相系に分布して
おり、表2.1-13に示すように、耐食性が求められる特殊な用途に限定して使われてい
る。
表2.1-13
ステンレスの分類
マルテンサイト系
(磁性)
Mo添加ステンレスの用途
代表的鋼種(主成分)
SUS410(13Cr)
焼入れ可能、汎用鋼種
焼入れ可能、耐摩耗性
刃物、外科用器具
耐磨耗性大
軸受、ベアリング、刃物
SUS430
(18Cr、低 C)
SUS434(18Cr-1Mo、低 C)
フェライト系
(磁性)
SUS447J1
SUSXM27
(26Cr-0.5Mo-Nb,極低(C,N))
(非磁性)
SUS304(18Cr-8Ni)
SUS316(18Cr-12Ni-2.5Mo)
に優れる、汎用鋼種
電気器具部品、化学プラント
430 より耐塩性
自動車外装用部品
300 系
二相系
(25Cr-4.5Ni-2Mo)
(オーステナイト
SUS329J3L
とフェライトの複
(22Cr-5Ni-3Mo-0.1N-低 C)
合)
(磁性)
析出硬化系
SUS329J4L
(25Cr-6Ni-3Mo-0.2N-低 C)
SUS630(17Cr-4Ni-4Cu-Nb)
SUS631(17Cr-7Ni-Al)
温水機器、貯水槽、食品機器、排気系部
品、化学プラント、熱交換器
耐食性に優れる,耐孔食
有機酸関係プラント、苛性ソーダ製造プ
性
ラント、電池ケースなど
耐食性に優れる、軟磁性
耐食性と軟磁性が必要な用途、有機酸プ
ラント、公害防止機器、海水プラント
耐粒界腐食性良、成形性、 建材、構造材、内外装、化学プラントタ
溶接性良、汎用鋼種
ンク、家庭用品、自動車部品
耐食性に優れる、靭性、 工業設備、圧力容器、食品工業、原子炉
SUS316L(18Cr-12Ni-2.5Mo-低 C) 低温、高温、強度大
SUS329J1
排ガス処理設備、マフラー、ボルト
耐食性、加工性、溶接性 厨房用品、建築内装、自動車部品、ガス・
SUS444(19Cr-2Mo-Ti,Nb,Zr 低 C) 耐食性に優れる
(30Cr-2Mo-極低(C,N))
オーステナイト系
主な用途
SUS420(13Cr,高 C)
SUS440(18Cr)
400 系
特長
機器、水管橋、水道管
耐海水性、耐応力、耐食 海水熱交換器、化学プラント、バルブ、
性、耐酸性
水門、排煙脱硫装置
耐海水性、耐応力、耐食 硫化水素、炭酸ガス、塩化物などを含む
性、耐酸性
環境で使用。油井管
耐食性に優れる、高強度 公害防止機器、海水熱交換器、製塩プラ
(標準品より 2 倍の強度
ント、ガス・石油開発の掘削プラットホ
を持つ。軽量化可能)
ーム
高強度、析出硬化性を持 スプリング、ボルト、バルブ、航空機部
たせた鋼種
品、建築用金具、ヨット
耐食性、溶接性
シャフト、スチールベルト
出典:ステンレス協会HP
○Mo添加ステンレス鋼の工程くずのリサイクル
Mo添加ステンレススクラップに関して、ステンレススクラップを取り扱っている10
の事業者へ聞き取りを行ったところ、以下の理由から、Mo添加ステンレスの工程くず
の90%以上がMo添加ステンレスの原料としてリサイクルされていると考えられる。
21
・Mo添加ステンレス鋼の用途が特殊であるために、スクラップの素性が把握しやす
いこと。
・取引価格が汎用ステンレス鋼と比べて高いこと(概ね2~3割高)。
・金属加工業者において、工程くず(加工スクラップ)を分別排出する際、Mo添加ス
テンレス鋼を、鋼種別(例えば、SUS316別、SUS444別、SUS447J1別など)に分
別していないものの、Cr系のMo添加ステンレス、Ni系のMo添加ステンレス毎に
分別していること。中には鋼種別に分別している業者もいる。
・スクラップ購入業者においても、Mo添加ステンレスを他のステンレスと分別して、
取引(購入、(選別)、売却)している。また、近年のポータブル型の分析装置の開
発により、含有成分が簡単に把握できるようになり(分析装置価格は約600万円)、
スクラップは組成別に分別されるようになっている。さらに、購入業者が工程く
ずを購入する場合、鋼種別にある程度分別しているところも増えている。
・スクラップを原料としているステンレスメーカーでは、スクラップ受入時に成分
分析を行い、少なくとも分別されたMo添加ステンレススクラップを、Cr系、Ni
系に分けて、場合によっては鋼種別に分けて、Mo源として活用していること。
○Mo添加ステンレス鋼の使用済製品のリサイクル
一方、市中発生スクラップについても、
・化学プラントなどの特殊用途に限定されていること。
・そのために発生場所が限定され、発生スクラップの鋼種も把握しやすいこと。
・分析装置の開発
により、これらの市中くずについても、上述のステンレススクラップ取扱事業者によ
ると、発生量の90%前後が回収され、Mo源としてリサイクルされているという。
このようにMoの最大用途であるステンレス鋼にあって、Mo添加ステンレススクラ
ップは、工程くず、市中くずともに、Mo源として(Moの機能を活用して)概ねリサ
イクルされている状況にあるが、リサイクルにおいてMo機能をさらに活用するには、
素性の確認できるものについて可能な限り鋼種別に分別することが今後必要である。
なお、Mo添加ステンレスは、すべてが国内で消費されるのではなく、プラント部材
やステンレス材として海外に輸出されている。その結果、国内でリサイクルされたと
しても、Moの量では不足しており、Mo原料を海外から輸入する状況にある。
○ステンレス鋼の鋼種別生産量
国内発生Mo添加ステンレス鋼スクラップは、再びMo添加ステンレス鋼のMo原料に
高率で戻っていることが明らかになった。Mo源としてどの程度戻っているのか。
鉄連統計によると、ステンレス特殊鋼メーカーで使用されたMo含有スクラップは
4,522t(うちリターンが70%、外部購入が30%)となっている。Mo含有率の高いハ
ステロイ等は、Moを評価のうえステンレス鋼の原料として再利用されているものもあ
るが、これらはMo純分量で50tにも満たないとみられている。
ここでは、ステンレス鋼の生産統計より推測を試みた。
ステンレス鋼の鋼種別生産量の統計は、表 2.1-14 に示すように 2008 年の Mo 添加
ステンレス量の生産量は、Cr-Mo 系(平均 Mo 量 1%と仮定)22 万トン、Cr-Ni-Mo
系(平均 Mo 量 2.5%と仮定)30 万トンであり、Mo 含量からステンレス鋼に添加され
22
た Mo 量(純分)は、概ね 9,700 トンと見積もることができる。なお、この数値は、
表 2.1-12 に示した 25,487 トン(2005 年)と大きな開きがあり、Mo の消費量の 90%
が特殊鋼用であるとの記述からもかけ離れている。
他方、Mo の供給をみると、フェロモリの 2008 年生産量が 4,554 トン(Mo 純分 2,823
トン)、輸入量 3,327 トン(Mo 純分 2,063 トン)、ブリケット(2008 年生産量不明ゆえ
に、2006 年生産量 186 トン:純分)で、統計年が異なるが、ここでは供給 Mo 量(純
分)は計 5,072 トンと仮定した。さらに、金属モリブデン(輸入量 2,832 トン、国内
生産量 1,208 トン:2006 年の数値)の一部も、使用されていると考えられるので、こ
こでは、半量 2,020 トンが使われたと仮定した。ステンレス鋼以外の特殊鋼やスーパ
ーアロイにも Mo が使われるので、ステンレス鋼への消費割合を 80%とすると、
需要:9,700/0.8=12,125 トン
∴
供給:5,072+2,020=7,092 トン
不足:12,125-7,092=5,033 トン
不足分を Mo 添加ステンレススクラップの供給が支えているものと考えられる。
表 2.1-14
年月
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
13Cr 系 18Cr 系
マルテンサイト系 フェライト系
SUS410 等 SUS430 等
325,788 459,165
259,061 546,596
350,263 602,458
395,162 612,398
315,799 632,292
329,885 747,108
391,116 818,517
447,388 791,910
466,523 788,054
-
ステンレスの鋼種別の生産量
Ni-Cr 系 Ni-Cr-Mo 系
Cr 系
Cr-Mn 系
SUS304J
オーステナイト系 オーステナイト系の SUS410,
SUS430
等
SUS304 系 中の SUS316
1,829,364
153,148
1,709,995
134,312
1,922,924
145,435
1,989,217
150,118
1,979,594
170,036
2,073,765
179,474
2,023,758
201,387
1,812,634
206,670
1,879,769
237,366
1,322,334 107,386
1,247,320
86,498
出典)経済産業省経済産業政策局調査統計部編
(単位:トン)
Cr-Ni 系
SUS304
等
1,518,137
1,356,640
Cr-Mo 系 Cr-Ni-Mo 系
SUS434,
SUS316,
SUS444
SUS329 等
226,344
318,009
219,456
299,962
鉄鋼・非鉄金属・金属製品統計年報
生産量(t)
4,000,000
Cr-Ni-Mo系
3,500,000
Ni-Cr-Mo系
Cr-Mo系
3,000,000
2,500,000
Cr-Ni-Mo系
Cr-Mo系
Cr-Ni系
Cr-Mn系
Cr系
Ni-Cr-Mo系
Ni-Cr系
18Cr系
13Cr系
2,000,000
1,500,000
1,000,000
500,000
0
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 年
図 2.1-10
ステンレスの鋼種別の生産量
23
② 触媒 (出典:JOGMEC、平成 19 年 6 月「レアメタルのリサイクル流通状況調査報告書」より)
一般に工業用触媒は、製造場所・発生場所・品質が判っているために、リサイクル
は経済的に成立しやすく、大部分がリサイクルされており、システムも確立されてい
る。モリブデン触媒もその一つで多くがリサイクルされている。
モリブデンは、主に石油精製用触媒(MoO3-CoO-NiO)における水素化脱硫用及び
水素化分解用に使用されている。水素化脱硫用ではモリブデン含有率が4.5%、水素化
分解用では7%が平均値とされる。
国内で使用されたモリブデン触媒のうち石油精製用のものはリサイクルシステムが
確立しており、直接脱硫用は 1~2 年、間接脱硫用は 7~8 年の使用の後、リサイクル
され再利用されている。
以下は、使用済触媒資源化協会(東京都千代田区、加盟33社、各触媒の資源化実績
をまとめている団体)の資料から触媒リサイクルの状況である。
使用済触媒を焙焼し、含有している油分、水分、硫黄分などを除去した後、塩基性
条件で浸出を行ってMo、Vを抽出し回収する。焙焼と浸出を実施する方法にソーダ焙
焼法と低温焙焼法の2つがあるが、工業的に行われているのはソーダ焙焼法である。
但し、高温で処理されるため、Ni、Coの回収は行われず、Mo、V回収後の触媒の多く
がステンレスメーカーで有効利用されている。
協会の資料によると、平成15年度のMo含有触媒のリサイクル実績は、受入量が1万
8,890t、Mo回収量が870t、V回収量が463tとなっている。受入量の1万8,890tは、
推定発生量の50%程度とみられている。平成15年度は、Mo市況が高騰したことで回収
率も高かった時である。しかし平成16年度については、生産が増加しているにも関わ
らず、回収量は減少。減少の要因として台湾、中国などへの輸出増加が挙げられてい
る。
Mo含有触媒の耐用年数は2~4年。回収率は50%(他は鉄スクラップに混入か輸出さ
れている)である。平成17年のMo回収量は830t。この830tの回収量は過去最高量
であり、Mo市況高騰と重なっている。経済性と回収率は比例するという典型的な例で
ある。
太陽鉱工、日本キャタリストは、触媒用のMo純度を99.99%までアップグレードし
再び触媒用原料として使う完全リサイクルを行っている。JFEマテリアルは、フェロ
モリブデンを製造し、ステンレス特殊鋼メーカーに販売している(販売はメタルテク
ノロジー)。JFEマテリアルのMo純度は、90%程度である。世界的に高純度のMoを
製造できるメーカーが少なくなってきているので、太陽鉱工、日本キャタリストのオ
ペレーションは重要となっている。
③ 線、板、棒、箔
(出典:JOGMEC、平成 19 年 6 月「レアメタルのリサイクル流通状況調査報告書」より)
照明器具材料製造用に使用された金属 Mo は、全て回収・リサイクルされている。
工業炉用では発熱体、ポート、敷板の形態で使用済みとなる。その他電子管、マグネト
ロン管、半導体デバイス等の形態で使用済みとなるものもある。分離回収できるもの
はリサイクルされているが、一部は組み込み器材と共に廃棄されていると思われる。
これらのMo含有スクラップの発生元は、電気製品メーカーの工場など。工場での選
別保管が成されており、専門の回収業者が回収し、ステンレス特殊鋼メーカーでステ
24
ンレス、またはスーパーアロイの原料としてリサイクルされている。リサイクル率は
高くほぼ100%と推定されている。
照明用については、業者経由でリサイクルされ、酸処理後にモリブデン塩としてリ
サイクルされ特殊鋼用に利用されている。
④ 無機薬品
(出典:JOGMEC、平成 19 年 6 月「レアメタルのリサイクル流通状況調査報告書」より)
無機薬品に含まれる Mo は微量添加物あるいは消耗品であり、最終製品からのリサ
イクルは行われていない。例えば防錆塗料や着色顔料として使用された Mo は、使用
後は各種器材の塗膜とし存在するものが大部分で回収はなされない。
潤滑剤として使用される硫化モリブデン(MoS2)も、グリース、ギヤー油等の廃油
の形で使用済みとなるが、一部潤滑油として再生されるものもあるが、潤滑油の大部
分は再生重油となるために、少なくともこの時点においては、Mo 機能が活かされてい
ることにはならない。
なお、潤滑剤(117t=輸入貿易通関統計、Mo 純分 60%)となる硫化モリブデンは、
現在は全量を輸入しており、仮に潤滑油からの Mo を抽出してのリサイクルについて
は、量的な確保には繋がらないと思われる。
なお、潤滑油の再生重油へのリサイクル、再生重油燃焼灰中のモリブデンについて
は後に紹介する。
⑤
鉄鋼製品
(出典:K.Najima, K.Yokoyama, Y.Matsumo and T.Nagasaka: ISIJ International, Vol.47 (2007),
No.3, pp.510-515)
国内の Mo 需要 28,000 トン(Mo 換算:2004 年)に対して鉄鋼原料として 85%が
使用されているものの、特殊鋼として最終製品となった自動車、建築用等のスクラッ
プは、Fe 原料として型鋼に分別してリサイクルされており、Mo 源としては利用され
ていない。国内で様々な最終製品となったスクラップをモリブデン機能としてリサイ
クルするためには、特殊鋼材料としての解体・分別技術の構築とその標準化が必要で
ある。
2)
マテリアルフロー
図2.1-11は、2006年のモリブデンのマテリアルフローを示したものであるが、モリ
ブデン精鉱の輸入量23,183トン(純分)に対して、フェロモリブデンの生産量2,662トン
(同)、モリブデンブリケット186トン(同)、金属モリブデン1,208トン(同)、触媒1,798
トン(同)の合計が9,000トンに満たない。
しかし、本調査において、特殊鋼、特にステンレスのスクラップについては、赤実
線で示すように、相当量がステンレス鋼のMo源としてリサイクルされていることが明
らかになった。同様に、図2.1-12、図2-1-13においては、Mo添加ステンレススクラッ
プについては、鉄スクラップとしてリサイクルされているよりも、より高度にMo源と
してリサイクルされていることとなろう。
25
モリブデン(Mo)
<原料>
2006年ベース、単位:( )はMo純分t、その他はマテリアルt
<最終製品>
<主要応用製品>
<リサイクル>
<中間製品>
(1,798)
(2,247)
無機薬品
(不明)
石油精製・石油化
使用済廃触媒
防錆・顔
リサイクルなし
細線
照明製造用部材
溶解回収
生産量(21)
45
電子
86
半導
637
触媒
モリブデン精鉱(焙
焼鉱及び非焙焼鉱)
26
輸入量:38,638(23,183)
輸入国
チリ:20,557(12,334)
メキシコ:6,550(3,930)
カナダ:4,478(2,687)
中国:2,206(1,324)
その他:4,487(2,908)
線棒
生産量(45)
金属モリブデン
生産量:(1,208)
輸入量:(1,420)
ドイツ:(464)
アメリカ:(244)
中国:(690)
その他:(22)
板
生産量(292)
加工品
生産量(850)
フェロモリブデン
生産量:4,229(2,662)
輸入量:4,285(2,657)
中国:2,985(1,851)
その他:1,300(806)
モリブデンブリケット
構造用
68
炉用
27
一部回収
その他
328
特殊鋼
金属スクラップ
スーパーアロイ
(不明)
生産量:310(186)
モリブデン硫化鉱
リサイクルなし
潤滑剤
1.鉱石埋蔵量(Reserves):8,600千㌧(MCS2007)
3.工業レアメタル2007、日本貿易統計
図 2.1-11
2.純分換算:モリブデン煤焼鉱・モリブデンブリケット60%、モリブデン硫化鉱56.6%、
フェロモリブデデン62%、特殊鋼0.055%
出典:JOGMEC ホームページ、赤線は神鋼リサーチ
モリブデンのマテリアルフロー(2006 年)
出典)平成 19 年 4 月資源エネルギー庁「レアメタル 17 鉱種のマテリアル・フローと課題について」
図 2.1-12
モリブデンのマテリアルフローの概要(2005 年)
出典)K.Nakajima, K.Yokoyama, Y.Matsuno and T.Nagasaka: ISIJ International, Vol.47 (2007),No.3,
pp.510-515
図 2-1-13
モリブデンのマテリアルフロー(2004 年)
27
2.2
バナジウム
2.2.1
バナジウムの主な用途
バナジウムを含有した抗張力鋼の厚板は、主に橋梁、船舶、大型建造物、ラインパ
イプに使用され、非調質鋼は主に自動車の車軸、ボルト等に使用される。合金工具鋼
は、バイト、タップ、ダイス等の切削工具、ポンチ、たがね等の耐衝撃工具、シャー
刃、ねじ転造ダイス等の冷間金型工具及びプレス型、ダイカスト型等の熱間金型工具
に使用される。高速度工具鋼は、特に高速重切削用各種工具、難切削材の切削工具と
して使用される。また、ステンレスの耐熱鋼(SUH)の一部にもバナジウムが含有され
自動車用エンジンの排気バルブやタービンブレードとして使用される。
出典:JOGMEC ホームページ
図 2.2-1
バナジウムの用途
①フェロバナジウム
特殊鋼添加材として用いられる。0.1%程度のバナジウムによって、鋼中の炭素と結
合し結晶粒が細かい金属構造が形成され、靭性を維持したままで機械的性質や耐熱性
などが向上する。そのために、抗張力鋼として、高層建築用材、橋梁、貨車、石油パ
イプライン用の厚板などに使用され、非調質鋼として、自動車の車軸、ボルトなどに
使われる。また、機械用工具、切削工具、対衝撃工具、金型工具などの工具鋼として
使われる。さらに、耐熱鋼としてエンジンバルブ、タービンブレードに作られる。
②バナジウム合金
特殊鋼以外の合金としては、バナジウムを2~6%含むチタン合金(Ti6.4、Ti-6Al-4V)
があり、日本ではゴルフクラブのヘッド用として多用されている。
③触媒
硫酸製造用に、高純度(99.9%)のV2O5(五酸化バナジウム)が使われ、無水マレイ
ン酸や無水フタル酸の製造用の酸化触媒に利用されている。このほかも、脱硝用に、
28
タングステンやチタンの酸化物と複合、または表面担持して用いられ、水素化脱硫装
置により得られる硫化水素の酸化触媒として用いられる。
④バナジウム塩
バナジウムは酸化数によって多彩な色を示すことから、耐熱性の高い着色剤として
利用される。バナジウムの示す色としては、五酸化バナジウムや三塩化バナジウムが
鮮やかなオレンジ~赤を示すほか、概ね2価が紫、3価が緑、4価が青であり、5価で無
色となる。また、セラミックスの上薬として使用され、他の元素を添加することによ
り、さまざまな色を合成することができる。ターコイズブルー(ZrSiO4にバナジウム
イオンが固溶したもの:青色のセラミック顔料)、ビスマスバナジウムイエローがバ
ナジウム酸ビスマスから製造され、カドミウムイエローの代替として普及している。
アルミニウム系塗料の着色にも使用される。
2.2.2
1)
バナジウムの供給と消費の現状
世界のバナジウム需給バランス
世界のバナジウムの需給動向を、表2.2-1に示した。世界のバナジウムの生産量(五
酸化バナジウム)は、南ア、中国、ロシアで全体の8割を占める。世界の粗鋼生産の
増産基調や原油高等を背景にバナジウムの消費は伸長してきた。図2.2-1は、2006年の
国別のバナジウム消費割合を示している。世界に占める日本の消費割合は11%である。
が、中国を中心とした鉄鋼・特殊鋼分野での需要増が予想されていることから、需給
両面でリスクがある鉱種である。
表2.2-1
世界の五酸化バナジウム(V2O5)の需給
(単位:V2O5量千トン)
出典:平成17年度特殊金属プロジェクト報告書(特殊金属備蓄協会)
29
出典:JOGMEC ホームページ
図 2.2-1
2)
世界国別バナジウム消費割合
バナジウムの埋蔵量
埋 蔵 量 は Mineral
Commodity
Summaries 2007 に よ る と 、 世 界 全 体 で
1,300万トンのうち、ロシアが38.5%、中国
も38.5%、南ア23.1%と上位3カ国でほぼ
100%を占めている。
出典:Mineral Commodity Summaries 2007
図 2.2-2
3)
世界のバナジウム埋蔵量
バナジウムの供給障害と価格の推移
表2.2-2に過去のバナジウムの供給障害事例を示す。南ア、ロシアでの種々の要因に
よる減産、中国での需要増、メジャーの寡占化などによって、バナジウムの価格は大
きく変動してきた。
フェロバナジウムの価格は、図3.2-3に示すように、過去に2~3倍に触れてきたが、
2004年頃からは、中国の需要増と供給不足懸念から、一気に10倍まで高騰した。その
後40$/kgで推移していたが、08年には再び2倍の90$に高まったが、直近では、30
$台に戻してきている。
30
表2.2-2
バナジウム供給障害例
($/kg)
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
7月
6月
5月
4月
3月
2月
12月
2008年1月
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
12月
2007年1月
11月
9月
10月
8月
7月
6月
5月
4月
3月
2月
2006年1月
2007年平均
2006年平均
2005年平均
2004年平均
2003年平均
2002年平均
2001年平均
0
出典:産業新聞社調べ
図2.2-3
4)
フェロバナジウム価格の推移
日本のバナジウムの需給
(1) バナジウムの需要
日本のバナジウムの主要な消費分野は、特殊鋼などの合金添加材と石油化学分野の
触媒である。なかでもバナジウムの需要の90%以上が合金添加材に消費されており、
そのため消費量は、特殊鋼生産量と密接に関係している。例えばフェロバナジウム需
要は、ラインパイプの需要増加及び鋼材の抗張力化等により好調を持続し、今後もバ
ナジウム需要は、鉄鋼製品の高級化志向に伴って持続すると予想されている。
表2.2-3
(単位:グロスt)
日本のフェロバナジウムの需給
年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年 2007年 2008年
生産
4,073
3,349
4,108
3,613
3,692
3,595
2,178
2,360
3,036
3,205
3,477
輸入
1,913
1,981
2,775
2,975
3,236
4,251
5,518
5,821
5,718
5,493
6,392
供給計
5,986
5,330
6,883
6,588
6,928
7,846
7,696
8,181
8,754
8,698
9,869
消費計
5,412
5,605
6,395
6,537
6,744
6,341
6,899
7,426
7,230
7,409
7,853
755
1,524
1,289
2,016
バランス
特殊鋼
574
- 275
488
51
184
1,505
797
17,540
17,132
18,870
18,910
20,398
22,183
23,582
24,536 25,526 26,124 26,167
(千t)
出典:平成 17 年度特殊金属プロジェクト報告書(特殊金属備蓄協会)、JOGMEC、貿易統計、経産省生産統計
31
表2.2-4(前出:モリブデンの項と同じ表)は、レアメタルの鉱種毎に、原料(鉱石、
地金、中間原料、中間製品)、レアメタル含有製品として部材・部品(生産財として使
用される特殊鋼、触媒など)及び最終製品(主に消費財)に分けて、現実的に調査可
能な対象製品に限り、主な用途の市場を示している。
・部材・部品:ステンレス鋼、特殊鋼、化合物、磁石、触媒
・最終製品
:超硬工具、二次電池、電気電子製品(テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エ
アコン、パソコン、各種デジタル家電、携帯電話、HDD、CD-ROM)、
自動車及び自動車部品
バナジウムは、特殊鋼に78%、チタン合金用に21%を占め、触媒への利用は2%程
度である。
(2)
バナジウムの供給
バナジウムの国内需給は、世界の需給と密接にリンクしており、とりわけ南ア、中
国、ロシアの生産動向等の影響を強く受ける。
日本ではバナジウム全量を、表2.2-5、図2.2-4に示すように、主に五酸化バナジウム
(V2O5)、フェロバナジウムの形態で輸入している。現在、国内のV2O5の生産は、太陽
鉱工及び日本キャタリストサイクルの2社が石油精製用使用済触媒からの回収を、新
興化学工業及び鹿島北共同火力の2社が重油ボイラーの煙灰からの回収という形で行
われている。また、フェロバナジウム生産は、2001年の粟村金属工業の撤退、2003年
の日本電工の海外生産への移転により、太陽鉱工1社のみとなっていたが、2006年4
月よりメタルテクノロジーが石油精製用使用済触媒及び重油ボイラーの煙灰からの生
産を開始している。
表2.2-5
日本のバナジウムの輸入量
(単位:V純分t)
年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
フェロV
酸化物
金属V
合計
1,531
2,824
190
4,544
1,585
2,072
103
3,760
2,220
2,542
238
5,000
2,380
2,037
230
4,647
2,581
2,229
217
5,027
3,401
2,133
175
5,709
4,415
1,273
316
6,004
4,657
1,519
288
6,464
4,575
1,260
431
6,266
4,394
1,490
225
6,108
5,114
1,495
230
6,839
V純分の換算率:酸化物 56%、金属 100%、FeV 80%
出典:貿易統計
t-V純分
8,000
金属V
Fe-V
酸化物
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
図 2.2-4
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
32
2008
バナジウムの輸入量
表 2.2-4
鉱種別の用途別の市場(2006 年)
対象品目
部材・部品 最終製品
のみ
含む
204,000 192,500 198,500
100
94
97
Ni
Cr
Mn
Co
W
Mo
V
33
Nb
Ta
Sr
Sb
Pt
Pd
Rh
PGM
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
市場
比率(%)
用途
1,253,000
(単位:純分 Ton、レアアースは REO Ton)
部材・部品
世界市場 国内市場
140,000
68.6
特殊鋼
50,000
24.5
460,000
81.7
95,000
16.9
ステンレス鋼
化合物
最終製品
磁石
2,000
1.0
触媒
500
0.2
フェライト磁石
6,176,000
563,000
100
555,000
99
555,000
99
5,100,000
880,000
100
600,000
68
600,000
68
600,000
68.2
50,000
11,200
100
1,900
17
9,900
88
1,000
8.9
60,000
6,600
100
700
11
5,700
86
500
7.6
200
3.0
180,000
28,400
100
27,300
96
27,300
96
5,000
17.6
2,300
8.1
50,000
5,800
100
4,600
79
4,600
79
4,500
77.6
100
1.7
15,000
5,900
100
5,700
97
5,700
97
5,700
96.6
3,000
600
100
0
0
420
70
500,000
17,200
100
8,000
47
8,000
47
50,000
9,500
100
0
0
100
1
250
53.0
100
27.0
51
30.0
57
27.0
50.9
300
62.0
100
34.0
55
43.0
69
34.0
54.8
30
9.0
100
3.0
33
3.0
33
3.0
33.3
580.0
124.0
100.0
64.0
52
76.0
61.3
64.0
51.6
20,000
70.4
400
3.6
磁石
500
4.5
電気・電子機器
3,000
1.5
めっき
その他部品・部材、最終製品
1
2
3
1,500
4,000
0.7
2.0
その他 非鉄合金
4,000
2,000
2,000
0.7
0.4
0.4
めっき
耐火物
60,000 200,000
20,000
6.8
22.7
2.3
一次電池 普通鋼
Al合金
7,200
1,300
64.3
11.6
その他
Liイオン電池
900
13.6
フィラメント、放熱板、他
1,100
3.9
電極、電子管、他
1,200
20.7
超硬工具 二次電池
3,000
1.5
電池
200
1.8
磁性膜
600
5.4
5,000
75.8
Ti合金製品
250
41.7
コンデンサ
90
15.0
磁性膜
8,000
46.5
フェライト磁石
3.0
5.7
めっき・磁気膜
9.0
14.5
めっき
12.0
9.7
めっき・磁気膜
出典:経済産業省委託事業
100
100
1.7
1.7
レンズ NMR、超伝導
80
80
100
13.3
13.3
16.7
レンズ ヒーター、他
50
150
9,000
0.3
0.9
52.3
レンズ
火薬
化学薬品
100
250
8,500
650
1.1
2.6
89.5
6.8
難燃材 鋳物、他
鉛蓄電池 顔料(黄)
17.0
3.0
3.0
32.1
5.7
5.7
投資・宝飾 ガラス坩堝 その他
14.0
5.0
22.6
8.1
歯科
宝飾
6.0
66.7
その他
22.0
14.0
12.0
17.7
11.3
9.7
投資・宝飾
歯科
その他
「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
図 2.2-5 は、五酸化バナジウムの輸入量を、図 2.2-6 はフェロバナジウムの輸入量を示
している。バナジウム酸化物については、南アからの輸入量は減少しているが、中国か
らの輸入量は最近では 2,000 トンを超えている。中国のシェアは 94%を超えている。南
アを含めると上位 2 ヶ国のシェアはほぼ 100%となっている。一方、フェロバナジウム
については、南アからの輸入量が最大であるものの、2005 年以降でみると次第に減少し
ており、2008 年のシェアは 44%にまで低下している。
t-グロス
6,000
その他
オーストラリア
南ア
中国
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
1998
1999
2000
図 2.2-5
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
五酸化バナジウムの輸入先
t-グロス
7,000
その他
チェコ
韓国
中国
ロシア
南ア
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
1998
1999
2000
図 2.2-6
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
フェロバナジウムの輸入先
図 2.2-7 は、バナジウムの埋蔵国、生産国(以上、2005 年)、対日輸出国の輸出量(2004
年ベース)を示している。
表 2.2-6(モリブデンの項、表 2.1-10 と同じ)は、バナジウムの原料(地金、中間原
料)について、日本とアジア 10 ヶ国、米国、EU、及びその他諸国間の輸出入量を示し
ている。
バナジウムについては、酸化物として韓国などに輸出されていることがわかる。
34
図 2.2-7
バナジウムの埋蔵国、生産国、対日輸出国
35
出典:JOGMEC ホームページ
表 2.2-6
品目
モリブデン 鉱石
モリブデン酸塩
フェロモリブデン
塊・粉。板・くず
二硫化モリブデン
バナジウム
塊
フェロバナジウム
酸化物
純分含有 単位
率(%)
㌧
輸出
60.0
輸入
㌧
輸出
7.8
輸入
㌧
輸出
62.0
輸入
㌧
輸出
100.0
輸入
㌧
輸出
60.0
輸入
㌧
輸出
100.0
輸入
㌧
輸出
80.0
輸入
㌧
輸出
52.0
輸入
韓国
23
12
9
0
0
99
335
273
55
0
0
0
0
430
184
8
中国
0
1,324
1
48
2
1,863
21
1,041
103
9
0
3
2
397
9
1,079
レアメタル原料別の輸出入量(純分)(2006 年)
台湾
0
0
0
0
1
0
267
182
3
0
0
0
0
12
5
0
香港
0
0
0
0
0
0
1
0
29
0
0
0
0
0
2
0
ベトナム
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
0
タイ
0
0
1
0
13
0
30
1
43
0
1
0
13
0
1
0
シンガ
ポール
0
0
0
0
1
0
12
5
11
0
0
0
0
0
0
0
マレー
シア
0
0
0
0
2
0
7
0
0
0
0
0
0
0
0
0
フィリ
ピン
0
0
0
0
1
0
0
0
2
0
0
0
1
0
0
0
インド
ネシア
0
0
0
0
0
0
0
0
21
0
0
0
0
0
4
0
米国
0
2,000
0
30
0
74
37
532
3
414
0
331
8
2
1
0
EU
5
864
3
2
0
174
125
1,095
26
48
8
92
80
966
20
0
その他
0
18,983
2
12
0
459
1
1
44
74
0
5
13
2,768
5
83
世界
合計
28
23,183
16
93
21
2,669
835
3,131
340
546
10
431
117
4,575
234
1,170
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
36
①
バナジウム原料のフロー(2006 年)
バナジウム原料の輸入量は V 純分で 6,176 トン、輸出量は 361 トンである。「輸入量
-輸出量」をバナジウム原料の国内市場とすると、2006 年の国内市場は V 純分で 5,814
トンとなる。(表 2.2-6、前出モリブデンの項の表 2.1-10)
②
バナジウム含有製品のフロー(2006 年)
バナジウム含有製品(部材・部品及び最終製品)の輸出入に伴うバナジウムの輸出入
を表 2.2-7 に示す。2006 年の製品に含まれた形で輸入されたバナジウム量は V 純分で
47 トン、同じく輸出量は 221 トンであり、
「輸入量-輸出量」はマイナス 174 トンであ
る。この調査(経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査」)の対象品目に限ると、
V 原料の国内市場 5,814 トンのうち、約 4%がバナジウム含有製品として加工され、輸
出されていると見ることができる。他の鉱種に比較して製品としての輸出は少ない。
表 2.2-7
バナジウム含有製品の輸出入に伴うバナジウムの輸出入量(2006 年)
輸出
純分t
超硬工具
二次電池
電気電子製品
自動車・部品
触媒
磁石
特殊鋼
スクラップ
合計
0
0
0
0
11
0
210
0
221
輸入
%
0
0
0
0
5
0
95
0
100
純分t
0
0
0
0
10
0
37
0
47
%
0
0
0
0
22
0
78
0
100
出典:経済産業省委託事業「平成 19 年度鉱物資源供給対策調査報告書」
③
主要用途としての特殊鋼分野におけるレアメタル消費の現状
(モリブデンの項を参照)
37
2.2.3
1)
リサイクルの現状と課題
リサイクル
図2.2-8に、バナジウムの用途別のリサイクルを工程くずと使用済製品に分けて整理し
た。
(工程くず)
特殊鋼・工具
(使用済製品)
特殊鋼部品等
(使用済製品)
使用済触媒
(工程くず)
V-Al 合金製品
(使用済製品)
無機薬品(着色)
図 2.2-8
(V 機能のリサイクルあり)
鉄スクラップ (V 機能のリサイクルなし)
V
V-Al 合金
(使用済製品)
(1)
特殊鋼原料
V-Al 合金原料 (V 機能のリサイクルあり)
(リサイクルなし)
V の用途別のリサイクルの概略
工程くずと使用済製品別のリサイクル
<工程くずのリサイクル>
○特殊鋼メーカー内で発生した工程くずは自社内で製鋼として、ほぼ 100%リサイクル
されている。また、一部メーカーでは専門業者に回収されて合金にリサイクルされて
いる場合もある。
○特殊鋼を使った部品、製品のメーカーから発生した工程くずは、上流工程でリサイク
ルされるものもあるが、一般の鉄スクラップになるものもあると推察される。鉄スク
ラップの場合、V の機能は活かされていないと考えられる。
<使用済製品のリサイクル>
○特殊鋼からなる使用済自動車部品や工具等の一部は、特殊鋼原料としてリサイクルさ
れはじめているが、多くは鉄スクラップとしてリサイクルされている。また、輸出さ
れるものもあり、この場合も鉄スクラップとしてリサイクルされているために、V 機
能は活かされていないと考えられる。
○国内触媒回収業者のリサイクル技術は、海外に比べて高く、触媒に用いられたバナジ
ウムのほとんどが使用済み後に回収されている。
(2)
用途別のリサイクル
①特殊鋼、工具
バナジウムは各種金属の添加剤として使われ、バナジウムを添加することで抗張力や
耐熱性を増す性質がある。用途は製鋼用(特殊鋼添加剤、合金用)と化学用(工業触媒
38
等)に大別される。日本のバナジウム消費量の約90%は製鋼用に使用されている。
V添加の高抗張力鋼、合金工具に関し、高抗張力鋼の橋梁、船舶、建築物等の寿命は
数十年に渡り、自動車の廃棄までの期間は十数年、機械加工に使用されるバイト等の工
具鋼は1年程度の寿命で、金属スクラップ業者、自動車解体業者によって回収・解体さ
れる。スクラップ、鉄屑として回収され電気炉メーカーで再利用されている。
しかし、通常の鉄スクラップとして処理される場合は、Vの機能はリサイクルされて
いない。これは、特殊鋼、使用済み工具が、工程くずも含めて、その他の鉄スクラップ
との混合されてしまっている状況にあり、これらの特殊鋼等に含まれるVの機能を活用
するためには、有効な分別が必要である。これは、モリブデンを含む特殊鋼についても
同様である。
②触媒及び燃焼灰
バナジウム添加触媒は、石油化学製造用触媒に数多く見られる。活性物質としての用
途が多く、微量添加されている。また排煙脱硝触媒にも添加されており、EU、米国では
日本の技術により現地生産されているために、バナジウムの消費は減少している。
表2.2-8
消費量
バナジウム触媒の消費量(単位:t)
2001 年
80
2002 年
90
注:2005 年は推定。
2003 年
151
2004 年
109
2005 年
80
出典:使用済触媒資源化協会
触媒での消費量が少ないため、触媒自体からのバナジウムのリサイクルは少ないが、
重油を脱硫する際に重油に含まれるバナジウムが触媒毒として付着するために、この重
油由来のバナジウムが触媒のリサイクル時に回収されている。その結果、リサイクル量
は消費量を大きく上廻っている(表2.2-9)。触媒からの回収は、Vの機能としてリサイ
クルされていると考えられる。
表2.2-9
バナジウムのリサイクル量(回収量)(単位:t)
2001 年
554
バナジウムの回収量
注:2005 年は推定。
2002 年
701
2003 年
798
2004 年
758
2005 年
800
出典:使用済触媒資源化協会
重油脱硫触媒(Ni、Mo、V含有)、石油精製用触媒、硫酸製造用、排ガス脱硝用のケ
ミカル触媒に、バナジウムが添加されている。高純度(99.9%)のV2O5を使用した触媒と
して、硫酸製造用、排ガス脱硝用に2~3%含有したものが使用されている。触媒寿命が
平均10年~20年と長いが、専門業者により回収、処理されフェロバナジウムとしてリサ
イクルされている。表2.2-10に、使用済脱硫触媒の分析例を示す。
表2.2-10
直接脱硫
間接脱硫
V
8.8
0.5
0.8
0.01
Mo
2.5
5.9
8.9
7.8
Ni
使用済脱硫触媒の分析例(%)
Co
S
C
P
H2O+Oil
3.9
0.0
14.0
9.2
0.03
21
1.8
0.0
7.3
21.3
0.7
12
0.2
1.8
10.5
12.0
0.4
17
0.8
1.6
9.1
8.6
0.5
22
出典:渡部陽一、環境資源工学会シンポジウム資料集、2008年
39
バナジウムが付着した石油脱硫触媒等も使用済触媒としてリサイクルされている。
また、重油燃焼灰のなかにVが5~15%含まれていることから、重油燃焼灰からもVが
回収されている。さらに重油ボイラーのスケールにもV含有量40%程度のものが存在す
る。発電所の重油ボイラー灰も年1回の設備点検時に回収されV2O5製造用として使用さ
れ、国内におけるバナジウム原料のソースとなっている(バナジウム換算で106t)。ケミ
カル用のV触媒は、油などの付着がないことから中国向けの輸出が増加している。石油
精製用触媒は1年に1回入れ替えがある。JFEグループの取扱量が多い。
各種V含有触媒および原油中からのV回収量は、使用済触媒資源化協会の統計データに
よると、2005年は800t。市場に出たうちの80%程度は回収されているとみられている。
回収は入れ替え時に行われ、その入れ替えスパンは数ヶ月~2年である。ケミカル触媒
は化学処理工程を経てV2O5としてリサイクルされている。重油脱硫触媒、重油ボイラー
スケール、重油燃焼灰からも化学処理工程を経てV2O5の形でリサイクルしているのが一
般的であるが、JFEグループの場合は使用済触媒、燃焼灰などを、焙焼~電気炉で精錬
~合金鉄製造というリサイクル形態をとっている。
主要なリサイクル業者
○重油脱硫触媒
脱硫方式には直接脱硫と間接脱硫があり、直接脱硫の方がV含有量は高い。重油脱硫
の触媒にはVが5%程度付着している。この触媒はLMB(ロンドン・メタル・ブリテン)
のV2O5相場が指標となり、有価で取引されている。市況連動型の使用済触媒である。2007
年現在では国内外での需給は旺盛である。
・太陽鉱工(株)(神戸市中央区)
・日本キャタリストサイクル(株)(愛媛県新居浜市):住友金属鉱山系
・JFEマテリアル(株)(富山県射水市)(販売は、JFEマテリアル、三菱商事、鹿島北
共同発電(株)の出資した(株)メタルテクノロジーが担当)
・エヌ・イーケムキャット(株)(東京都港区浜松町):一部の使用済重油脱硫触媒
○重油燃焼灰系
火力発電所等から発生する。重油(C重油)のなかにVが500~1,000ppm程度含まれて
いる。集塵灰(EP煤)には、V2O5換算で1~3%、定期補修時に出るボイラースケール
には、V2O5換算で20~40%程度含まれている。
・新興化学:化学処理でVを回収した後の残渣(ニッケルと鉄分)をステンレス特殊
鋼メーカーに売却。最大手。
・JFEグループ:JFE環境(神奈川県横浜市)で焙焼、JFEマテリアルにて電気炉精
錬工程を経てVを回収し合金鉄、或いは脱硫剤を製造している。
○ケミカル用のV触媒
脱硝触媒、硫酸触媒(輸入が多い)のほか、化学工業用途で重合触媒(ゴム)、フタル
40
酸、マリエン酸触媒がある。メーカーによってV含有量が違う。これらの触媒は従前よ
り逆有償でリサイクルされている。ケミカル用触媒のリサイクラーは、新興化学工業の
みである。ケミカル用の比較的汚れの少ないものは中国へ輸出されるケースが増えてい
る。重合触媒などは、1)ゴム製品に触媒が紛れ込んでしまう、2)不純物が多い、ことか
らVの回収はあまり進んでいない。汚泥となって埋め立て処理されている量が多いので
はないかと思われる。
新興化学工業は、使用済みのケミカル用触媒を逆有償で処理している。最近はLNG(天
然ガス)発電が増えていることで、使用済み脱硝触媒の発生量が減少している(クリー
ンエネルギーならば触媒じたいが不要になる)。
主要なリサイクラーの概要
○太陽鉱工(株)(神戸市中央区)
リサイクル事業として、使用済脱硫触媒からモリブデン、バナジウムを回収し、高純
度(品位99.99%)の触媒用原料として再び触媒メーカーに納入。使用済触媒資源化協会
会員。触媒リサイクルの老舗である。
○日本キャタリストサイクル(株)(愛媛県新居浜市)
住友金属鉱山の関係会社であり、使用済脱硫触媒をリサイクル処理し、モリブデン、
バナジウム、ニッケルを回収。製造能力は三酸化モリブデンが1,000t/年、五酸化バナ
ジウムが1,000t/年、フェロニッケル原料が1万2千t/年。使用済触媒資源化協会会員。
○JFEグループ
JFEスチールは、使用済み触媒のリサイクル事業を展開するにあたり、JFE環境㈱、
JFEマテリアル㈱、㈱メタルテクノロジーを核としたリサイクルグループを形成してい
る。リサイクルの流れとしては、メタルテクノロジーが使用済触媒、ボイラー灰などの
「原料」を調達し、JFE環境の焙焼プラントで焼却、JFEマテリアルの電気炉、精錬炉
で合金鉄、脱硫剤を製造する。使用済触媒から、ニッケル、モリブデン、バナジウムを
回収しそれぞれ合金鉄とし、流通のメタルテクノロジーが普通鋼及びステンレス特殊鋼
メーカーに販売する。JFEグループはV濃度の高い石油コークスのなかからVを回収する
ことを計画していると言われている。(2007年3月末現在)。ちなみにJFEグループは
使用済触媒資源化協会の会員ではない。
・㈱メタルテクノロジー(富山県新湊市)
JFEマテリアル㈱ 52.5%、三菱商事㈱ 27.5%、鹿島北共同発電㈱20%。
・JFEマテリアル㈱(富山県射水市)
JFEスチール97%、JFE商事 2%、三井物産 1%
・鹿島北共同発電㈱(茨城県神栖市)
三菱化学 37.83%、鹿島石油 23%、鹿島電解 16%、その他23.17%
・JFE環境㈱(神奈川県横浜市)
JFEエンジニアリング 84%、三井物産 9%、JFEプラント&サービス7%
・V含有触媒リサイクルの課題
V含有の触媒は使用原単位量が少ないため、触媒からのV回収は少なく、現状は重油由
41
来のVの回収であるために、今後は、添加量の少ない触媒からのVの回収量を上げてい
くかにある。
火力発電所ボイラーに使用される脱硝触媒は、発電所のエネルギー源そのものが天然
ガスに切り替わりつつあるので触媒は、半永久的にもつことなる。従って使用済脱硝触
媒の発生が減少する傾向にある。比較的きれいな触媒については、ロータリーキルンで
油を飛ばしたのちにリユース、というものもある。多くは阪和興業が扱っている。
・海外諸国でのバナジウム含有触媒リサイクル
中国でのリサイクルが目立って増えてきている。使用済触媒が入手しやすい環境にあ
り、中国向けに使用済触媒の輸出は漸次増えている。中国には太陽鉱工の関係会社で泰
和(株)というリサイクル企業がある。台湾ではフーイーというリサイクル企業が触媒リ
サイクルを行っている。米国で合金鉄メーカーの仏エラメット社の子会社GCMCが使用
済み触媒からMoとVの回収を行っている。
今後、アジア市場において触媒は取り合いになると予想されており、日本もリサイク
ル原料として海外から触媒を輸入する可能性も指摘されている。最近はV2O5からフェロ
バナジウムを作るメーカーが増えており、フェロバナジウムの輸入量も増えている。
③V-Al合金
V-Al合金は、主に航空機用材料やゴルフクラブのヘッド等に使用されている。2005 年
は航空機用資材向けに35t、ゴルフクラブ用に35tの消費があった。
バナジウムを含有するTi-V合金は、分別回収されてスクラップとなる。航空機用は成
分別保管が行われ、リサイクルされる。ゴルフクラブについては、製造工程からのスク
ラップは回収されるが、使用後のクラブは捨てられるもの、スポーツ店で引き取るもの
がある。
④石油コークス
(出典::T.Nagasaka 投稿準備段階のもの)
バナジウムのマテリアルフローの中で、五酸化バナジウムと輸入フェロバナジウムは
触媒や鉄鋼業(高抗張力鋼、工具鋼)、チタンの原料に利用されているが、バナジウム源
としてのリサイクル対象としては使用済み触媒からの回収に加え、カロリーが高いこと
から燃料として利用されている石油コークスの燃焼灰からの回収が挙げられる。石油コ
ークスは年間 400 万トンを海外から輸入しており、バナジウム含有量にばらつきはある
ものの、燃焼灰から数万トンオーダーでバナジウムが回収できる可能性がある。マテリ
アルフローの課題としてはその燃焼灰が散逸していることである。
2)
マテリアルフロー
図2.2-9、図2.2-10、図2.2-11にマテリアルフローを示した。
42
バナジウム(V)
2006年ベース
単位:( )内はV純分t
その他はマテリアル量t
<原料>
<中間製品>
重油脱硫触媒
重油燃焼灰
<主要応用製品>
<最終製品>
五酸化バナジウム
生産量
フェロバナジウム
2,041
生産量
含バナジウム鉄鋼
3,036
43
2,250
輸入量
輸入国内訳 中国
2,075
輸入国 中国
南アフリカ
160
南アフリカ
韓国
15
ロシア
360
(288)
チェコ
1088
(870)
オーストリア
80
(64)
純分
生産量分
(1,143)
輸入量
(1,260)
(船舶、橋梁、建造物)
非調質強靭鋼
(自動車)
(2,429) FeV消費 7,230
輸入量
5,718 (4,574)
496
高張力鋼
<リサイクル>
スクラップ
(397)
(439*)
3,080 (2,464)
工具鋼他
バナジウム触媒
(工具他)
(硫酸製造設備他)
使用済み触媒
(80)
(n/a)
(航空機)
金属V
輸入量
鉱石埋蔵量(Reserves): 13百万t (USGS:MCS 2007)
6Al-4V-Ti合金
288*
展伸材
(ゴルフクラブ)
(n/a)
*は2005年数値
工業レアメタル2007
純分換算比率 : 五酸化バナジウム(V2O5) V : 56%
フェロバナジウム(FeV) V : 80% 使用済み合金
経済産業省:金属製品統計月報
V-AI合金 V : 40% 、50%、 85%
含バナジウム鉄鋼 V : 0.03% ~ 5.2% 図 2.2-9
出典:JOGMEC ホームページ、赤枠は神鋼リサーチ
バナジウムのマテリアルフロー(2006 年)
図 2.2-10 バナジウムのマテリアルフローの概要(2005 年)
(出典:T.Nagasaka 投稿準備段階のもの)
図 2.2-11
バナジウムのマテリアルフロー
44
第3章
3.1
モリブデン
3.1.1
1)
未利用資源とその利用における技術課題
未利用資源の現状
銅製錬スラグ中のモリブデン
銅製錬の際に発生するスラグは、硅砂より比重が大きいために衝撃力があり、現状
は、主に造船業界で使用する研削材に、また各種モルタル骨材やセメント副原料に利
用されている。モリブデンのほかに、SiO2, Al2O3, Fe2O3, MgO, CaOが含まれている。
世界最大の銅生産国チリにおいて、銅製錬スラグは、年間約400万トン発生し、これ
までに約4,500万トンのスラグが堆積していると言われている。スラグにはMoO2が最
高0.4%ほど含まれている。図3.1-1に示すように、年間500万トンの銅製錬スラグから
MoO2が回収できたとすれば、2万トン(Mo純分1.5万トン)が得られることになる。
従来方法で新たにMoを得ようとすると、原料となる硫化モリブデン鉱(MoS2)か
ら焙焼鉱(MoO3に変換)を得る酸化焙焼工程で必ずSOxが発生する。ところが、チリ
においては、深刻な大気汚染に対処するために新たな焙焼設備が認められない状況に
あり、環境対策の観点からも銅製錬スラグからのMoの回収は有益である。
出典)Fernando P. et al.; Nonferrous Pyrometallurgy,p135(2009 年 1 月、サンチアゴ、チリ)
図 3.1-1
チリにおける銅製錬スラグの経済的価値
図3.1-2は、銅鉱石から浮遊選鉱にて得られた銅精鉱を処理して電気銅を得るまでの
フローを示している。モリブデンを含む銅製錬スラグは、鍰(からみ)と呼ばれる部
分である。図3.1-3は、一般的な銅製錬におけるスラグの発生量を示している。これに
よれば、銅精鉱1トンあたり、約510kgのスラグが発生する。
45
チリにおいては、銅品位が低下し、採算性が低下している。そこで、これまで排出
された銅スラグに含まれるモリブデンが注目され、その回収技術の開発が検討されて
いる。
出典)日本伸銅協会、「銅および銅合金の基礎と工業技術(改訂版)
図 3.1-2
銅製錬フローシート
出典)成田ほか、第 1 回日本 LCA 学会研究発表講演要旨集(2005 年 12 月)
図 3.1-3
銅製錬スラグ発生量
46
2)
モリブデン選鉱過程における未回収モリブデン精鉱
モリブデンを含有して最も広く分布し重要な鉱石は、輝水鉛鉱(molybdenite, MoS2)
である。輝水鉛鉱は、南北アメリカ大陸の銅鉱石に含まれているために、銅精鉱プロ
セスの副産物として得られる (出典:金属製錬工学、日本金属学会編)。
モリブデン精鉱は、銅精鉱の選鉱工程で分離されるが、鉱山によって実収率は変動
する。実収率を決定する工程は浮選である。浮選で回収されずに銅精鉱用に流れたり、
廃さい池に棄てられるものがある。
以下に、輝水鉛鉱から浮選で MoS2 品位 80~95%の精鉱を得るプロセスに記した。
輝水鉛鉱(MoS 2 品位 1%以下、0.15~0.35%)
鉱石
破砕・粉砕
凝集剤
浮遊選鉱
粉砕機
粉砕粒度
粉砕時間
粉砕エネルギ
ポンプエネルギー
種類
添加量
モリブデン精鉱用鉱石
(MoS2 10%)
銅精鉱用鉱石
浮遊選鉱
モリブデン精鉱
(MoS2 90%80~95%)
浮遊選鉱
出典)金属便覧改訂 4 版、日本金属学会編、及び世界鉱物資
源データブック(社)資源・素材学会資源経済部門委員会編,平
成 10 年、オーム社発行、より作成
図 3.1-4
乾燥
二硫化モリブデン
(MoS2 98%)
モリブデン精鉱及び二硫化モリブデンの選鉱フロー
また、図 3.1-5 には、銅鉱山からのモリブデン選鉱過程の具体例として、カナダ・
ハックルベリー鉱山の例をに記した。ハックベリー鉱山は、日本グループ 50%(三菱
マテリアル 31.25%、DOWA ホールディングス、古河機械金属、丸紅ともに 6.25%)、
カナダ Imperial Metals Corporation 50%であり、銅精鉱は全て日本に輸出され、モ
リブデン精鉱は欧州に輸送されている。
同鉱山から選鉱過程から、銅品位 27%の銅精鉱とモリブデン品位 50%のモリブデン
精鉱が生産されているが、未回収のモリブデン精鉱は、廃さい池、もしくは銅精鉱シ
ックナに流れる。
47
採石
破砕
(150mm 以下)
SAG ミル
(約 10m×4.6m;5,500bp×2 台)
スラリー
篩い分け
スクリーンデッキ(7mm、10mm)
網下産物
網上産物
サイクロパック(2 系統)
再破砕
ボールミル (約 9m×5m;5,500bp×2 台)
サイクロパック (約 66cm サイクロン×6 台)
浮選給鉱
(75μm で 60%通過率)
バルク粗選系統 (100m3×6 台)
廃さい池
粗選精鉱
サイクロパック (約 38cm サイクロン×6 台)
アンダー
オーバー
再磨鉱ミル
バルク精選系統
(14.5m×3.8m カラム×2 台、
精選清掃 16m3×8 台、黄鉄鉱の分離)
精選精鉱
バルクシックナー
濃縮バルク精鉱
3
3
モリブデン粗選系統 (粗選 3m セル×7 台、清掃選 1.5m ×8 台)
銅精鉱シックナ
粗選精鉱
モリブデン精選系統 (10m × 径 1.2m 、 10m × 1.04m 、 6.5m ×
)
モリブデン精鉱
図 3.1-5
出典)白井政幸;鉱山.p.17-22,Vol.60(2007)
ハックルベリー鉱山におけるモリブデン精鉱の選鉱フロー
48
3)
使用済潤滑油中のモリブデン
潤滑剤として二硫化モリブデン等が添加されている潤滑油においては、国内の使用
済潤滑油の大半が回収され、ロータリーキルンやボイラーの燃料として利用されてお
り、燃料以外への再利用は少ない。しかし、産業廃棄物として無駄に焼却されている
ものも多い。
① 使用済潤滑油からの再生重油
表3.1-1は、廃油再生事業者を対象とした使用済潤滑油収集量及び再生重油等の生産
量を示している。
表3.1-1
使用済潤滑油収集量及び再生重油等生産量の集計結果 (単位:kℓ/年、()は回答数)
平成13年度
①使用済潤滑油収集量
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
368,816 (60)
563,075 (65) 599,271 (64) 537,534 (62) 543,647 (67)
343,633 (58)
535,486 (63) 536,426 (63) 515,977 (62) 523,790 (60)
②生産量(再生量)
再生重油
離型剤再生
2,962 (11)
1,836 ( 9)
4,015 ( 9)
2,465 ( 8)
3,712 ( 9)
受託再生
2,603 ( 5)
2,404 ( 7)
3,695
3,705 ( 9)
3,764 ( 8)
349,198
539,726
540,441
518,442
527,502
19,618
23,349
58,830
19,092
16,145
生産量合計
③ロス量(①-②)
出典:資源エネルギー庁補助事業
潤滑油環境対策補助事業報告書
再生重油の基本的な製造は、加熱による水分除去(80℃加温にて油水分離)、狭雑
物の除去(遠心分離器)などの簡易プロセスを採用している。遠心分類機で分離され
たスラッジは、主にセメント焼成炉に送られる。離型剤の原料には、良質な使用済潤
滑油が求められ、作動油、タービン油などが利用されている。
② 使用済潤滑油の排出
表3.1-2は、業種別の使用済潤滑油の排出量を示している。また、表3.1-3には、大規
模事業所において、排出された潤滑油の処理先別割合を示している。
表3.1-2
業種別使用済潤滑油排出量(平成17年度) (有効回答1,145事業所)
業種
非鉄金属
金属製品
一般機械
電気機械
輸送用機械
精密機械
その他
未回答
小 計
排出量(kℓ)
6,248
11,522
16,443
5,614
11,950
2,627
5,040
829
60,273
出典:資源エネルギー庁補助事業
49
潤滑油環境対策補助事業報告書
表3.1-3
大規模事業所における使用済潤滑油の処理方法別内訳 (平成17年度)
処理先
排出量(kℓ)
外部事業者委託
水系廃油処理
所内利用等
委託再生
自家焼却
自家燃料
合 計
46,127
6,476
3,443
2,526
1,127
574
60,273
出典:資源エネルギー庁補助事業
割合(%)
76
11
6
4
2
1
100
潤滑油環境対策補助事業報告書
③ 使用済潤滑油中のモリブデン量
表3.1-4には、代表的なエンジン油廃油中の金属成分量を示す。モリブデンは、添加
剤としてほぼ等しい量で含まれる。
表3.1-4
代表的使用済潤滑油(エンジン油廃油)の金属成分量 (単位:ppm)
A
B
C
D
E
平均 市販油A 市販油B 新油C* 廃油D* ギア油 *
B
311.1
226.0
125.1
14.0
41.0
Ca 1854.3 2010.9
897.2 3435.0 2014.0
2,427
1,870
Mg
47.4
0.0
0.0
0.0
21.0
Cu
25.1
24.4
12.1
9.0
25.0
Fe
15.5
33.1
3.7
12.0
11.0
Na
37.8
12.4
12.0
2.6
19.5
P
840.6
891.2
560.4 1180.0
813.0
910
940
Zn
896.7 1046.4
437.7 1307.0
926.0
1,010
1,040
Pb
1.9
0.8
0.0
5.8
6.0
Mo
62.6
62.4
27.5
0.0
96.0 49.7
110
75
100 1,000
<10
Al
0.0
0.0
0.0
0.0
29.0
Si
7.8
10.3
0.0
197.0
25.8
合計 4100.8 4879.5 2075.7 6162.4 4027.3
市販油新品:SJ10W-30ガソリンエンジンオイル
出典:資源エネルギー庁補助事業 潤滑油環境対策補助事業報告書平成15年3月
資源エネルギー庁補助事業 潤滑油環境対策補助事業報告書平成17年3月
*)神鋼リサーチ調べ ICP発光分析(2009年)
なお、海外で取り組みがなされている廃油から再生基油のリサイクル処理において
は、エンジン油に必要な酸化安定性を阻害する要因を取りのぞく必要があるとして、
日本においては、次の精製プロセスは検討された。
1)
アルカリ処理による脱金属精製(金属系添加剤、摩耗金属粉、油溶性添加剤
及びその変質物などを高濃度のアルカリ溶液等との反応で沈殿分離)
2)
真空蒸留(超微粒子のカーボン、砂、塩素化合物、エンジンクーラント等の
様々な汚染成分、ポリマー、油溶性添加剤及びその変質物等などを真空蒸留
装置を用いて分離)
3)
溶剤抽出精製(多環芳香族成分、油溶性添加剤変質物、塩素化合物など分離)
4)
真空蒸留(エンジン油基油、工業用潤滑油基油などに適した粘度、沸点範囲
に調整するために真空蒸留装置を用いて留分を分離)
であり、モリブデンは精製プロセス2)で取り除かれる(→回収される)が、実態とし
て、モリブデンは回収されていないと考えられる。
50
④ 自動車解体業者からの使用済潤滑油の回収
表3.1-5に、自動車解体業者から回収された使用済潤滑油量を示す。
表3.1-5
自動車解体業からの使用済潤滑油の回収量(平成13年度)
回答数
廃油(使用済潤滑油)
1社当たりの平均
154
出典:資源エネルギー庁補助事業
発生量
ℓ/月
ℓ/年
100,620
1,207,440
653
7,836
潤滑油環境対策補助事業報告書平成15年3月
⑤ 再生重油利用ボイラーの燃焼灰
再生重油を商業的にボイラーで利用している工場における分析値を表3.1-6に示す。
燃焼灰中のMo濃度は、4,600ppm(0.46%)~12,000ppm(1.2%)程度である。また、
V濃度は高い場合で24,000ppm(2.4%)、低い場合で100ppm未満となっている。
表3.1-6
再生重油の金属分とボイラー燃焼後の付着灰の金属分
Ppm
再生重油 ボイラ灰 再生重油 再生重油 ボイラ灰 再生重油 再生重油
灰分(%)
0.39
0.49
0.39
0.02
0.22
金属分析
Al
2
3,600
2
2
3,300
<1
<1
B
25
1,600
28
25
1,900
<1
10
Ba
7
660
20
17
470
<1
10
Ca
940 350,000
1,400
1,100 380,000
<1
490
Cr
<1
300
<1
<1
370
<1
<1
Cu
28
2,100
39
29
2,300
<1
7
Fe
29
14,000
33
27
16,000
<1
13
K
<100
870
<100
<100
920
<100
<100
Mg
15
11,000
25
20
11,000
<1
16
Mn
<1
370
<1
<1
440
<1
<1
Mo
11
10,000
24
16
12,000
<1
5
Na
18
1,800
16
18
1,500
<5
11
Ni
<1
680
<1
<1
850
7
8
P
420
88,000
610
450 110,000
<10
230
Pb
<1
880
<1
<1
420
<1
2
Si
53
12,000
34
30
6,900
1
20
Sn
5
390
13
<1
660
<1
<1
V
3
930
1未満
1未満
790
19
19
Zn
400
68,000
680
450
68,000
<1
21
出典:資源エネルギー庁補助事業
ボイラ灰 再生重油 ボイラ灰
0.21
5,500
1,500
360
73,000
320
1,800
13,000
2,100
3,100
340
4,600
4,800
8,300
41,000
<10
24,000
<10
24,000
39,000
6 20,000
18
770
84
<100
480
30%
<1
3,600
7
5,600
24 85,000
<100
2,400
9
5,800
<1
1,200
4
8,000
4
8,000
2
2,600
120 70,000
<1
<100
13 20,000
1
<100
1未満 100未満
100 42,000
潤滑油環境対策補助事業報告書平成17年3月
潤滑油より再生された重油燃焼灰中のMo量は、年間約11.5トン(5.1~31.2トン)と推計
年間輸入量(53万kℓ)×灰分量(平均0.25%(0.21~0.49%))×Mo含量(平均0.865%、0.46~1.2%))
=平均約11.5トン(5.1~31.2トン)
⑥ グリース
平成18年度は概ね72千トンである。
表3.1-7
年度
製造・輸入量
グリースの製造・輸入量の年度別集計結果 (上段:トン/年、下段:有効回答数)
平成10
64,120
(48)
平成11
60,188
(45)
平成12
64,542
(49)
平成13
64,462
(47)
51
平成14
62,896
(47)
平成15
73,205
(49)
平成16
74,336
(48)
平成17
72,394
(48)
平成18
71,798
(48)
⑦ 潤滑油のマテリアルフロー
潤滑油全体のマテリアルフローを図3.1-6に示した。また、用途別の使用済潤滑油の
フローを図3.1-7~図3.1-9に示した。
販売:205 万 kℓ
(205 万 kℓ)
需要家:103 万 kℓ
(118 万 kℓ)
回収:87 万 kℓ
(86 万 kℓ)
廃油焼却工場:23 万 kℓ
(23 万 kℓ)
浴場・農家:9 万 kℓ
(9 万 kℓ)
再生委託:2 万 kℓ
(2 万 kℓ)
廃油再生工場:55 万 kℓ
(54 万 kℓ)
自家燃料:4 万 kℓ
(22 万 kℓ)
平成 17 年度
()は 16 年度
自家焼却:1 万 kℓ
(8 万 kℓ)
再生潤滑油:2 万 kℓ
(2 万 kℓ)
所内利用:3 万 kℓ
(-万 kℓ)
再生重油:53 万 kℓ
(52 万 kℓ)
水系処理:6 万 kℓ
(-万 kℓ)
焼却処分:少量
(少量)
出典:資源エネルギー庁補助事業
図 3.1-6
潤滑油全体のマテリアルフロー(平成 17 年度)
平成 17 年度
需給量
自動車用潤滑油
695 千 kℓ
100%
全損型 2 サイクルエンジン油 ガソリンエンジン油
12 千 kℓ
324 千 kℓ
30.9% 48.4% 30.9%
ディーゼルエンジン油
215 千 kℓ
30.9%
交換補油
197 千 kℓ
潤滑油環境対策補助事業報告書平成 17 年 3 月
工場充填
17 千 kℓ
工場充填
47 千 kℓ
交換補油
277 千 kℓ
ディーラー、整備工場
111 千 kℓ
SS
77 千 kℓ
その他車両油
144 千 kℓ
20.7%
交換補油
81 千 kℓ
工場充填
85 千 kℓ
カーショップ、その他
89 千 kℓ
持ち帰り
22 千 kℓ
店頭交換
66 千 kℓ
発生率 82%
使用済油発生
払出
162 千 kℓ
使用済油発生
払出
64 千 kℓ
使用済油発生
払出
91 千 kℓ
使用済油発生
払出
18 千 kℓ
使用済油発生
払出
54 千 kℓ
使用済油発生
払出
67 千 kℓ
使用済潤滑油払出量 455 千 kℓ
出典:資源エネルギー庁補助事業
図 3.1-7
潤滑油環境対策補助事業報告書平成 17 年 3 月
自動車用潤滑油の推定マテリアルフロー(平成 17 年度)
52
平成 17 年度
需給量
船用潤滑油
181 千 kℓ
100%
船用シリンダー油
77 千 kℓ
42.5%
交換補油
89 千 kℓ
49.2%
工場充填
15 千 kℓ
8.3%
水運
72 千 kℓ
漁業
17 千 kℓ
全損型
使用済油発生
37.6 千 kℓ
使用済油発生
払出
2.8 千 kℓ
使用済潤滑油払出量
3.1 千 kℓ
使用済潤滑油自家燃焼量 37 千 kℓ
払出
0.3 千 kℓ
自家燃
37 千 kℓ
出典:資源エネルギー庁補助事業
図 3.1-8
潤滑油環境対策補助事業報告書平成 17 年 3 月
船用潤滑油の推定マテリアルフロー(平成 17 年度)
平成 17 年度
需給量
工業用潤滑油(絶縁用を含む)
1,171 千 kℓ
100%
材料用途・全損型
交換補油
785 千 kℓ
67.0%
プロセス油、印刷インク油等
327 千 kℓ
28.0%
工場充填
59 千 kℓ
5.0%
使用済油発生比率(86.3%)
使用済油発生
538 千 kℓ
平成 18 年度調査
処理方法別
再生委託
22 千 kℓ
自家燃料 焼却処分等 所内利用等 水系処理
5 千 kℓ
58 千 kℓ
10 千 kℓ
31 千 kℓ
払出
412 千 kℓ
出典:資源エネルギー庁補助事業
図 3.1-9
潤滑油環境対策補助事業報告書平成 17 年 3 月
工業用潤滑油の推定マテリアルフロー(平成 17 年度)
53
⑧ 廃油リサイクルの仕組み
廃油は業界団体が構築した
ルートで概ね回収されてリサ
イクルされている。
図 3.1-10
使用済潤滑油のフロー
出典)全国オイルリサイクル協同組合 HP
54
3.1.2
1)
未利用資源の利用における技術課題
銅製錬スラグからのモリブデン回収における技術的課題
銅製錬の際に発生するスラグには、MoO2 が最高で0.4%程度含まれているが、その
他にも、Fe2O3, SiO2, Al2O3, MgO, CaOなどが含まれている。
チリにおいては、銅品位が低下し、採算性が低下している。そこで、これまで排出
されていた銅スラグに含まれるモリブデンが注目され、回収技術の開発が検討されて
いる。
以下に、銅製錬スラグからのモリブデン等回収に関する最新の研究事例を紹介する。
① 銅製錬スラグは、チリでは7箇所の製錬所で発生。スラグには 42~45%の範囲で
鉄を含まれている。スラグをリサイクルすることにより、鉄-銅合金と酸化物リッチ
な最終スラグを得られるとの仮定で、酸化銅と磁鉄鉱を還元するために量論的に必
要な量の 150%にあたる還元剤としてコークスを用い、Flash Smelting スラグの還
元実験結果に示している。スラグ中の化合物の特殊性と熱力学的安定性が提示され、
得られた結果から、二段階プロセスによって、0.6~0.8%の銅、98%以上の鉄合金
が得られる可能性を示している。
(出典)Dusan B. et al.; Metal Recovery,p63(2009 年 1 月、サンチアゴ、チリ))
② 典型的な銅製錬スラグは 0.01-0.50%のモリブデンを含んでいる。この値はモリブ
デン鉱石グレードである。したがって、モリブデンを含む銅スラグをリサイクルす
ることができれば、すなわち、スラグの直接還元プロセスを含み、二相(炭素飽和
鉄-モリブデン-銅合金と二次スラグ)を還元プロセスにて得る方法である。しかし、
銅含有量は、鉄においては削減する必要がある。したがって、本研究は鉄モリブデ
ン合金から銅を除くことの可能性を研究したものである。
(出典)Fernando P. et al.; Nonferrous Pyrometallurgy,p135(2009 年 1 月、サンチアゴ、チリ))
③ 銅を0.77~1.32%を含み、モリブデンを最大0.4%含むある銅スラグは、新規プロ
セス開発の原料としてのポテンシャルを持つ。スラグ中のモリブデンを回収する目
的で、焙焼-溶出プロセスを用いて銅スラグを処理した。酸化焙焼は、鉄酸化物を水
不溶のヘマタイトに変換するために、銅とモリブデンを酸性溶液に溶解する形に変
換するために行うものである。モリブデンは酸化鉄のスピネル型相と関連づけられ
て、その回収はリーチングプロセス中にスラグ中のマグネタイト含量に影響された。
硫酸を、スラグリーチングのために用いたところ、モリブデンの回収率は80%以上
となった。酸化焙焼、酸溶出の2段階プロセスにより、モリブデンが回収される可能
性が示された。
(出典)Dusan B. et al.; Nonferrous Pyrometallurgy,p136(2009 年 1 月、サンチアゴ、チリ))
以上の研究事例から、次の課題が浮かび上がる。銅製錬スラグからモリブデンを回
収しようとすると、現行の乾式製錬法ではスラグからのMo回収に適したプロセスには
55
なっていないために、発生したスラグは冷え切った状態となってしまう。そのためス
ラグを、Moを含むメタルの分離回収に必要な反応温度まで再加熱する必要があり、エ
ネルギー的にみて不利である。加熱が必要であるならば、炉から出た直後の高温の溶
融スラグを利用することが望ましい。仮に銅製錬スラグからMo等のメタルが回収でき
れば、残りのスラグをセメント副原料としても有効活用できるメリットも生まれる。
一方、酸液を用いた湿式法では、鉱山によって鉱物相が異なるために、抽出率が変動
し、現状では20%程度と言われており、廃液処理費用も加わって経済的には成立しな
い。
以上、銅製錬スラグからのMo回収における技術的課題は、高温の溶融スラグの顕熱
を活用して反応エネルギー効率を高めるとともに、経済的に成立可能なモリブデンの
抽出率の向上である。
2)
モリブデン選鉱における技術課題
銅精鉱プロセスの副産物として得られるモリブデン精鉱において、その回収率の向
上が課題である。
・モリブデン精鉱は、銅精鉱の選鉱工程で分離されるが、鉱山によって実収率は変動
する。実収率を決定する工程は浮選である。
・浮選にあって、銅-モリブデンバルク精鉱回収率の向上が課題となっており、モリ
ブデン回収の律速段階となっている(鉱山側のモリブデン評価)。
・律速段階ではあるが、モリブデン精鉱の浮選は比較的良好であり、電位と薬剤コン
トロールにより、鉱山によっては 95%以上の実収率を維持しているところがある。
・しかし、銅精鉱側にロスしているのも事実であり、回収されない分は損失分量とな
る。銅精鉱に、ある程度のモリブデンが残る。
・回収されない要因としては、単体分離の不十分さ、鉱山で産出する粘土成分量の影
響が挙げられ、バルク精鉱後の分離性(銅の抑制)の向上が課題となっている。
なお、すでにモリブデン精鉱の回収率は、80%あるいは 95%以上の実収率を達成し
ていることから、回収率の向上によっても、回収されるモリブデン精鉱量は、現状の
1.2 倍程度である。
56
3.2
バナジウム
3.2.1
1)
未利用資源の現状
燃焼灰
(1)
重油系燃焼灰
重油(特にC重油)には、バナジウムが高濃度(500~1,000ppm程度のものもある)
で含まれているために、その燃焼灰にバナジウムが濃縮される。集塵灰(EP煤:排ガ
ス中に未燃分とともに飛散した媒は電気集塵機等で捕集される非常に細かい微粒子)
には、V2O5が1~3%が含まれ、定期補修時に出る、ボイラー水管や熱交換器、炉底等
に沈着しているボイラースラグ(燃えがら)には、V2O5が20~40%程度含まれている。
表3.2-1に電力会社10社合計の2007年度の燃料実績を示した。電力会社10社の重油使
用量は約1,200万kℓ、その他の主要な民間企業でのボイラー等での使用量は約650万kℓ
の合計約1,850万kℓが少なくとも燃焼され、相当量の燃焼灰が発生している。仮に500
~1,000ppmのバナジウムが含まれるとし、全て燃焼灰に回収されたとすると、2007
年度はV換算で9,250~18,500トンを含む灰が生成したと推計される。これらの重油系
燃焼灰からのバナジウム回収は、経済的に回収できる範囲で行われている。
表3.2-1
電力10社その他の燃料実績(2007年度)
種別
消費
石炭(t)
53,014,115
発生燃焼灰
768万
再資源化
746万t(97%)
再資源化用途
セメント原料、肥料、土木材
料(土壌改良材、海砂代替材)
バナジウム回収、助燃剤
10社合計 11,969,518
11,197,269
北海道
866,521
224,849
東北
893,664
402,523
東京 6,795,505
3,085,346
中部
73,404
4,000t
2,059,253 (発生率0.20%)
北陸
583,212
3,792t
セメント原料
328,956 (発生率0.42%)
関西
278,982
3,096,519
中国 1,035,007
1,253,530
四国
668,607
3,900t
セメント製造用助燃剤
312,527 (発生率0.40%)
九州
471,850
2,285t 2,284t
433,766 (発生率0.25%)
沖縄
281,096
68t
(発生率0.02%)
電力以外 *1 6,516,000
3,000
*1)範囲:パルプ・紙工業(紙・板紙は従業員50人以上)、化学工業、化学繊維工業(従業員30人以上)、石
油製品工業、窯業製品及び土石製品工業(石灰は従業員30人以上)、ガラス製品工業(従業員
100人以上)、鉄鋼業、非鉄金属地金工業(アルミニウム二次地金は従業員30人以上)、機械工
業(大臣が指定する従業員500人以上)
重油:B・C重油であって、「ボイラー用」と「コージェネレーション用」の合算値
原油:「ボイラー用」と「コージェネレーション用」の合算値
出典:電力事業連合会、石油等消費動態統計年報より作成
重油(kℓ)
原油(kℓ)
57
表3.2-2にボイラーに用いられる低質燃料油の一般性状を示す。同じC重油でもV濃度
は異なり、40ppm前後のものから150ppmのもの、アスファルトでは150ppmを越える。
表3.2-2
C重油
S分 wt%
V ppm
Na ppm
残留炭素wt%
1.0~2.0
~40
~40
5~10
*)神鋼リサーチ調べ
低質燃料油の性状
高粘度
C重油
3.0~4.0
70~150
40~70
15~20
2.0~3.0
30~50
7~15
7~15
C重油*
C重油*
A重油*
20
40
<10
アスファルト
4.0~
150~
60~
20~
ICP発光分析(2009年)
表3.2-3にEP灰の平均組成を示しているが、V濃度は乾燥重量で0.3~0.8%含まれて
いる。同じく、表3.2-4にEP灰の産出別の組成を示しているが、V濃度で2.4%に達す
るものがある。また、表3.2-5はボイラースラグの発生所別の組成を示しており、V濃
度で16.5%になるものも見られる。
表3.2-3
EP灰の平均組成(乾物重量%)
C
S
NH3
V
Ni
40~70
3~10
1~10
0.3~0.8
0.2~0.5
出典)塚越邦光;環境資源工学会シンポジウム「リサイクル設計と分離精製技術」資料集, p.33(2008年)
表3.2-4
種類
A
B
C
D
E
F
G
H
I
EP灰の産出別組成(乾物重量%)
V
0.1
0.3
0.1
0.7
0.1
0.8
2.4
0.9
0.5
C
77.5
59.1
81.5
30.5
79.9
47.3
0.6
38.4
44.0
S
2.8
4.7
1.5
15.9
1.6
12.4
23.4
14.5
9.0
N
0.4
3.2
0.2
11.0
0.4
6.4
13.6
10.2
5.8
Ash
6.7
16.2
5.6
4.3
4.3
6.5
14.9
3.1
20.5
出典)塚越邦光;環境資源工学会シンポジウム「リサイクル設計と分離精製技術」資料集, p.33(2008年)
表3.2-5
ボイラースラグの産出別組成(乾物重量%)
種類
A
B
C
D
E
F
G
H
V
6.6
1.3
9.3
14.6
5.8
16.5
0.3
2.3
Ni
3.0
1.7
4.9
5.8
6.1
7.8
0.8
6.5
出典)塚越邦光;環境資源工学会シンポジウム「リサイクル設計と分離精製技術」資料集, p.33(2008年)
なお、重油系燃焼灰については、次の企業がリサイクルを行っているとのことから
未利用資源とは言い難いが、その他の燃焼灰との関係から、状況を整理する。
58
・新興化学:化学処理でVを回収した後の残渣(ニッケルと鉄分)をステンレス特殊
鋼メーカーに売却。最大手。
・JFEグループ:JFE環境(神奈川県横浜市)で焙焼、JFEマテリアルにて電気炉
精錬工程を経てVを回収し合金鉄、或いは脱硫剤を製造している。
2)
オイルコークス由来の燃焼灰
オイルコークスとは、石油精製過程において、ガソリン、軽油等の留分の収率を上
げるために、重質残渣をさらに熱分解したときに得られる副産物の固形物。発熱量は
35.6 MJ/kgと、コークス用原料炭の29.1 MJ/kgに比べて20%高い。
日本のオイルコークス輸入量は、年間400万~450万トンであり、大部分は米国から
である。主として発電所やボイラーで燃料として使用されている。例えば、鹿島北共
同発電では、電気・蒸気発生用のボイラー向けに、ベネズエラ産オリマルジョンから
オイルコークスに転換している。図3.2-1にオイルコークスの輸入量を示したが、米国
からの輸入量が大部分を占める。ただし、図3.2-2に示すように、輸入単価は5年前に
比較して凡そ4倍に上昇している。
輸入量(トン)
5,000,000
4,000,000
その他
韓国
中国
カナダ
米国
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
1998
1999
2000
2001
図 3.2-1
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
オイルコークスの輸入量
千円/MT
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
1998
図 3.2-2
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
オイルコークスの輸入単価(千円/MT)
59
元来、オイルコークスには高濃度でバナジウムが含まれているために、オイルコー
クスを燃焼した後の燃焼灰中のバナジウムの含量はさらに高くなる。例えば、表3.2-6
に示すように、発電所ボイラー燃料に使用されているオイルコークスの燃焼灰(灰発
生量0.2~0.6%、平均0.4%)には、18%~69%(単純平均38.3%)のV2O5(純分Vで
5~19%、平均値10.7%)が含まれており、未利用資源としての価値が高いと考えられ
る。
仮にオイルコークス燃焼灰からバナジウムを全量回収されるとすれば、年間約1,700
トン(400~4,560トン)が得られる。これは、日本の年間バナジウム輸入量(約6,000
トン純分V)の約29%(7~76%)に相当する。
年間輸入量(400万トン)×灰分量(平均0.4%(0.2~0.6%))×V含量(平均10.7%(5~19%))
=平均約1,712トン(400~4,560トン)
表3.2-6
発熱量
MJ/kg
工業分析
水分
灰分
揮発分
固定炭素
元素分析
C
H
N
S
O
灰組成%
SiO2
Al2O3
TiO2
Fe2O3
CaO
MgO
Na2O
K2O
P2O5
MnO
V2O5
(純分V*1)
SO3
NiO
その他
輸入オイルコークスの性状及び燃焼灰中のバナジウム含量(単位:%)
オイルコークス
3
4
5
36.23
35.77
35.94
6
36.23
7
35.85
1
27.54
石炭
2
27.42
3
29.6
0.4
0.2
10.5
88.9
0.5
0.3
10.4
88.8
0.6
0.6
10.9
87.9
2.7
16.6
25.6
55.1
8.9
7.5
27.2
56.4
2.4
11.4
33.0
53.2
88.85
3.43
1.41
5.96
0.35
87.84
3.53
1.19
7.19
0.25
90.50
3.80
2.36
2.05
1.29
90.73
3.90
2.47
2.72
0.18
84.06
4.87
1.68
0.30
9.08
82.28
4.53
1.82
0.35
11.02
83.59
5.33
1.69
0.71
8.67
23.72
8.95
0.62
6.24
5.97
0.50
1.33
0.37
0.34
0.06
39.35
11.0
4.37
7.39
0.79
23.67
7.54
0.57
8.27
4.73
1.41
4.88
2.38
0.32
0.03
29.94
8.4
8.96
6.30
1.00
2.21
2.80
0.53
9.99
6.75
0.70
3.65
0.46
1.02
0.42
39.70
11.1
9.94
16.82
5.01
35.0
9.13
0.68
9.61
4.54
0.90
3.95
1.63
0.88
0.14
18.00
5.0
6.93
8.61
0.0
49.22
33.08
1.36
4.86
5.21
0.97
0.20
0.42
1.81
<0.05
<0.05
61.14
32.85
1.50
2.85
0.13
0.21
0.09
<0.05
0.27
<0.05
<0.05
48.73
38.06
1.7
4.15
2.34
0.81
0.29
0.66
0.34
<0.05
0.06
2.39
-
(0.38)
<0.05
-
(0.76)
1.66
-
(1.15)
1
35.35
2
35.89
0.7
0.5
10.5
88.3
0.4
0.4
11.6
87.6
0.5
0.3
12.2
87.0
0.5
0.4
10.6
88.5
87.92
3.62
1.71
6.41
0.34
88.41
3.88
1.47
5.84
0.40
89.75
3.97
2.68
2.42
1.18
8.32
2.99
0.06
1.32
0.89
0.26
1.75
0.22
0.18
0
68.84
19.3
0.87
9.25
5.05
10.32
4.81
0.57
5.38
14.50
1.28
2.76
0.30
0.60
0.09
37.31
10.5
12.32
7.72
2.04
3.55
1.69
0.54
31.87
3.42
0.61
2.40
0.39
0.29
0.16
35.18
9.9
4.74
14.25
0.91
*1)純分V=V2O5×51/182、*2)その他:残り(100%より算出)
出典)NEDO、平成16年度石油コークスの電力・鉄鋼業界等への利用可能性に関する調査報告書(平成17年3月)
60
バナジウムを含む未利用資源として価値が高いオイルコークスは、日本での消費は
どうなっているのか。以下にその状況を記した。
○ 日本でのオイルコークスの消費動向
オイルコークスは、2006 年に 4,470 千トン輸入されている。輸入量と供給在庫量、
輸出量を加味すると、4,380 千トンが国内に供給されたことになる。
内訳をみると、発電や蒸気発生のため(エネルギー転換用)に差し引き 1,341 千ト
ンが消費されている。しかし、電力会社では使われておらず、民間企業における自家
発電用(1,075 千トン)、産業用蒸気(989 千トン)、鉄鋼コークス向け(263 千トン)
などに消費されている。つまり、全国の企業で使用されていることから、オイルコー
クス燃焼灰は全国に分散しているものと考えられる。なお、石油精製の過程から、オ
イルコークス 834 千トンが製造されている。
また、エネルギー転換されずに直接、エネルギー用として消費された量は 3,039 千
トンとなっている。内訳をみると、化学 537 千トン、窯業土石 1,610 千トン(うち、
セメント 840 千トン)、鉄鋼 486 千トン、その他中小製造業 1,005 千トンとなってい
る。この領域でもオイルコークスは全国で消費されていることから、燃焼灰も分散し
ていることが推測できる。
61
表 3.2-7
項目
輸入量
輸出量
供給在庫
国内供給
オイルコークスの消費動向(単位:1,000 t)
量(t)
項目
4,469
-92
3
4,380 エネルギー転換
量(t)
1,341
項目
事業用発電
自家用発電
産業用蒸気
地域熱供給
一般ガス製造
石炭製品製造
石油製品製造
最終エネルギー消費
3,039
他転換・品種振替
純転換部門 計
自家消費・送配損
失
消費在庫
非製造業
製造業 計
民生
業務他
運輸
最終エネルギー用途消費
非エネルギー利用
出典)資源エネルギー庁、エネルギー消費統計
62
量(t)
項目
0
1,075 製造業自家発電
パルプ紙板紙
化学繊維
石油製品
化学
ガラス製品
窯業土石
鉄鋼
非鉄地金
機械ほか
重複補正
その他自家発電
989
パルプ紙板紙
化学繊維
石油製品
化学
ガラス製品
窯業土石
鉄鋼
非鉄地金
機械ほか
重複補正
蒸気部門間移転
0
0
263
コークス製造
-834
常圧残油・減圧蒸留・分解
32
1,525
0
-184
0
3,039
0
0
0
2,498
541
パルプ紙板紙
化学繊維
石油製品
化学
ガラス製品
窯業土石
鉄鋼
非鉄地金
機械ほか
重複補正
他業種・中小製造業
量(t)
1,075
57
135
185
394
0
304
0
0
0
0
0
60
188
212
562
0
73
0
0
0
107
0
263
-834
8
0
0
537
0
1,061
486
14
0
-72
1,005
○ 世界のオイルコークス生産・消費動向
(以下の出典:NEDO「石油コークスの電力・鉄鋼業界等への利用可能性に関する調査報告書」(平成 17 年 3 月))
・オイルコークスは、石油精製プロセスにおける熱分解工程からの副産物(20~30%)
であり、減圧残油等の石油残渣の改質を行うための石油コーカーから得られる。
・石炭よりも高発熱量・低灰分であり、石炭炊きボイラーで石炭との混焼や専焼が米国
を中心に行われている。
・原油質が重質に変わってきており、改質が求められることが予想され、それに伴い
オイルコークスの増産も予想される。
・SFA(Synthetic Fuel Association)による 2005 年の世界のオイルコークス生産量予測
によれば、世界で 8,340 万トンであり、米国が半分以上を占め、次いでベネズエラ、
カナダ、インド、中国、メキシコ、ブラジルなどとなっている。
・オイルコークスの大きな用途は、冶金分野においてアルミ電解製錬用の電極や、そ
の他の陽極などの資源分野であり、要求されるコークスの品質は高い。
・オイルコークスの最大の用途で 65%以上を占めるエネルギー分野では、セメント焼
成用や発電用に使われている。米国の状況を見ると 2004 年ベースでは、一般電気事
業者向け約 325 万トン(約 46%)と IPP 向け約 295 万トン(約 42%)の合計約 620 万
トン(約 88%)が発電用となっている。一般産業分野向け約 85 万トン(約 12%)と
なっている。
表 3.2-8
世界のオイルコークスの生産動向
63
3)
オイルサンド系燃焼灰
オイルサンドは、極めて粘性の高い鉱物油分を含む砂岩。砂岩の代わりに頁岩の場
合は、オイルシェールと呼ばれている。
世界中に埋蔵されているオイルサンド、オイルシェールから得られる重質原油は5
兆バレル以上と推定。原油代替の石油燃料資源として注目を浴びる。オイルサンドか
ら1バレルの重質原油を得るためには、数トンの砂岩を採掘、乾留する必要があり、
大量の廃棄土砂が発生するため、従来の原油と比較して採掘及び抽出コストが高く、
さらに廃棄土砂の処理に多額の費用がかかるため、長い間不採算の資源として放置さ
れてきた。かつて第二次世界大戦中、石油資源の枯渇した日本軍部が満州のオイルサ
ンド採掘に取り組んだこともあり、1970年代のオイルショックの際には我が国の国家
プロジェクトとしてオイルシェール生産プラント実験が行われた。しかし、2004年10
月15日、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(en:NYMEX)でウェスト・テキサス・
インターミディエイト原油(en:WTI)先物取引価格が市場取引開始以来の最高値を更
新して以降も引き続く原油価格高騰で採算コストを上回るようになり、大規模な採
掘・精製が行われるようになった。これにともない、埋蔵地や採掘権の買収に多額の
投機マネーが集まっている。
大規模なオイルサンドは、カナダ・アルバータ州、ベネズエラ東部のオリノコ地域
やコンゴ、マダカスカルにも分布している。また、オイルシェールは、アメリカ西部、
ブラジル、ロシア、オーストラリアなどに分布する。極めて低質なものは日本でも新
潟県新潟市の新津油田などに見受けることができる。
2003年におけるカナダのオイルサンドの生産量は、89万バレル/日で、原油生産量
の40%を占めている。北米市場における実績は30年以上に上り、在来型の原油と区別
することなく取引されている。カナダの場合は、非OPEC加盟国であって、今後も石
油の増産が期待される。カナダ産のオイルサンドからの重質の合成原油には、Vが
66ppm、残渣には249ppmも含まれている。また、オイルサンドから得られた油分に
は160ppm程度のVが含まれているとの報告がある。
南米ベネズエラのオリノコ河流域に帯状に埋蔵されているオリノコタールは、膨大
(推定可採埋蔵量約2,700億バレル)な量の超重質油(ヘビーオイル、API比重8~10程度)。
通常の原油に比べて流動性は低く、カナダのオイルサンドとほぼ同様か若干重質では
あるが、油層が深いために油層温度が高く、加温なしで生産可能。2006年の日産量は
約6万バレル。回収には特殊な技術が必要。回収した超重質油に水分と界面活性剤を加
えたものは火力発電用等に活用されているが、レアメタルを含む金属分を多く含むた
めに利用上の課題がある。
オリノコタールに特定の乳化剤成分を添加して、C重油並みの流動性を付与したもの
R があり、すでに日本では鹿島北共同発電(株)、関西電力(株)、北海
にオリマルジョン○
R 中のVの含量は、
道電力(株)で導入されている。次表に示すように、オリマルジョン○
394ppmであり、オリノコタールでは400~500ppmの範囲にある。バナジウム含量が
高いことから、燃焼時にはマグネシウム注入設備を設けて、高温腐食(バナジウムア
タック)を抑制する必要がある。
64
表3.2-9
比重
窒素(%)
硫黄(%)
水分(%)
発熱量(kcal/kg)
灰分(%)
バナジウム(ppm)
ナトリウム
マグネシウム
オリマルジョンの燃料性状
オリマルジョン
1.013
0.54
2.78
26.3
7,125
0.07
394
9
26
天然オリノコタール
0.63
3.79
<0.1
10,000
0.13
400~500
60~100
C重油
0.931
0.22
0.97
<0.1
10,400
0.01
<50
出典)三菱重工技報,37(1),14,2000
バナジウム含量が高いと考えられるオイルサンド系燃焼灰については、今後、注目
されるもの。
4)
残渣油(アスファルト)燃焼灰
平成7年の電気事業法改正により、IPPの発電事業への参入が可能となり、石油精製
会社では残渣油(アスファルト)を燃料とした発電を行っている。アスファルトを燃料と
した燃焼灰中のバナジウム含量は150ppmを超えており、バナジウム源として今後、注
目される。
表3.2-10
S分 wt%
V ppm
Na ppm
残留炭素wt%
低質燃料油の性状
C重油
1.0~2.0
2.0~3.0
~40
30~50
~40
7~15
5~10
7~15
高粘度C重油
3.0~4.0
70~150
40~70
15~20
アスファルト
4.0~
150~
60~
20~
出典)三菱重工技報,37(1),14,2000
5)
石炭灰
石炭にもバナジウム(11~62ppm)が含まれているが、石炭を燃料とした場合は、
石炭中の灰分が10%以上もあることから、石炭灰(フライアッシュ)中のVの品位は
極めて低い。(前出の表3.2-6参照)
6)
海水
希少金属は海水中では、炭酸と結合しイオンの形態で存在。また、海底の岩石中に
は海水中濃度をはるかに上回る量が存在しているため、濃度はほぼ一定。
Mo濃度は0.01mg/ℓ(→1トンのMo =1億m3 の海水)、V濃度は0.001~0.002mg
/ℓ(1~2トンのV=10億m3の海水)程度である。現在のところ、海水から効率よく回
収でき、実用化に至った技術はない。
65
表3.2-11
濃度 *1
元素
(g/kg)
Cl
19.35
Na 10.78
S
0.898
SO42- 2.712
Mg
1.28
Ca
0.412
K
0.399
C
0.027
Br
0.067
濃度 *2
(mg/ℓ)
濃度 *3
(mg/ℓ)
11,000~12,000 9,800±800
2,600~2,700
1,200~1,400
380~450
360~450
58~66
2,683±299
1,300±70
421±20
407±10
海水中の成分
濃度 *1
濃度 *2
元素
(mg/kg)
(mg/ℓ)
N
8.72
Sr
7.80
6.6~7.5
7.91±0.99
Ni
Zn
B
4.75±1.02
Kr
Si
F
Li
Rb
79.1±11.0
P
I
Ba
0.015
Mo
0.010
U
0.0032
V
0.0020
As
0.0012
4.50
4.1~4.7
濃度 *3
(mg/ℓ)
元素
濃度 *1
濃度 *2
濃度 *3
(μg/kg)
(μg/ℓ)
(μg/ℓ)
0.48
0.34~0.97 0.33±0.137
0.35
2.7~3.0
0.66±0.31
0.31
2.80
0.17~0.28
1.30
1.0
0.53±0.07
0.18
0.17~0.19
0.12
0.11~0.12
0.062 0.093~0.015
0.058 0.071~0.079
0.007~0.009
0.025±0.031
0.0063~0.0098 0.00781±0.00181
Cs
0.306
Cr
0.212
Sb
0.200
Ne
0.160
Se
0.155
Cu
0.150
Cd 0.070
Xe
0.066
Al
0.030
0.0010~0.0012
Fe
0.030
0.001~0.0013 0.00033±0.000204 Mn 0.020
Y
0.017
Zr
0.015
Tl
0.013
W
0.010
Re
0.0078
He
0.0076
Ti
0.0065
La
0.0056
Ge
0.0055
Nb
0.0050
Hf
0.0034
Nd
0.0033
Pb
0.0027
Ta
0.0025
Ag
0.0020
Co
0.0012
Ga
0.0012
Er
0.0012
Yb
0.0012
Dy
0.0011
Gd
0.0009
Sc
0.0007
Ce
0.0007
Pr
0.0007
Sm
0.00057
Sn
0.00050
Tb
0.00017
Hg
0.00014
Rh
0.00008
Pd
0.00006
Pt
0.00005
Bi
0.00003
Au
0.00002
In
0.00001
Ru
0.000005
出典 *1)Newton別冊地球大解剖より抜粋
*2)富山湾日本海固有水の表層水:大越健嗣編著「海のミネラル学」成山堂、2007年
*3)室戸岬表層水:隅田ほか;高知県工業技術センター研究報告,35,67(2004)
66
0.2~0.4
<0.2
0.43~0.58
0.03
0.32±0.267
0.009±0.01
2.6~10
4~20
0.63~1.4
0.37±0.522
1.21±1.76
<10
0.03~0.04
0.03~0.06
0.02~0.05
<0.02
0.099±0.058
7)
海産動物などの生物
バナジウムは様々な生物(比較的単純な生物が多い)から検出され、乾燥重量で
100ppmを超える生物も多数確認されている。生物濃縮の結果と考えられる。また、特
異的に濃縮する生物も何種か知られている。石油中に多く含まれる原因とも考えられ
ている。
・ホヤ:血液中の濃縮細胞(バナドサイト)内にpH3前後の硫酸とともに、種によっ
て海水の数万~数百万倍の濃度で蓄積し、最も著しい例では1%に達する。ま
た、血液中に緑色のヘモバナジンというヘモグロビンやヘモシアニンに似た
構造の金属タンパク質を持ち、その中心元素はバナジウムである。ホヤ類を
利用する国は、日本、韓国、中国(香港)、フランス、チリ。
現在、日本で食しているホヤのほとんどは、養殖もの。宮城県、岩手県、
青森県、北海道で養殖されており、多くは宮城県である。平成17年のホヤの
全国収穫量は8,624トンで、前年の15,093トンからは急減している。
東北地方のマボヤ中のバナジウム濃度は、2.3μg/g-乾物である。一方、ユ
ウレイボヤ、スジキレボヤ、ナツメボヤのそれは、それぞれ210、250、1,500
μg/g-乾物 (出典:海のミネラル学-生物との関わりと利用-,成山堂書店、2007年) 。
収穫ホヤ中のバナジウム量
収穫量(8,624 トン-水分込み)×乾燥重量%(5%)×バナジウム濃度(210μg/g-乾物)
=90kg/年間
・エラコ:環形動物・ケヤリムシ科、主に東北地方に生息している。エラに5,500μg/g乾物のバナジウムを含有する。
・ベニテングダケ:選択的に取り込み、4価の錯体(アマバジン)として保持している
とされる。
・藻類:コンブなどの褐藻や紅藻で多い
・地衣類、環形動物のケヤリムシ、一部のプランクトン
・その他:エビ、カニ、パセリ、黒こしょう、マッシュルームなど
しかし、実際に、これらを鉄鋼用希少金属原料として利用することは、現実的では
ないことから、ここで留めるものとする。
67
3.2.2
1)
未利用資源の利用における技術課題
燃焼灰からのバナジウム回収技術の課題
(1)
現状のリサイクル技術の整理
燃焼灰からのバナジウム回収技術を整理するに当たっては、各技術を図3.2-3のよう
な要素技術毎に分けた。
処理フローの方向
原料
前処理
粉砕
造粒
メカノケミカル処理
脱炭素
水洗
図 3.2-3
焙焼
溶出
分離
水(温水)抽出
酸抽出
アルカリ抽出
H2O2 抽出
超臨界流体抽出
精製
か焼
生産物
塩析法・沈殿法
溶媒抽出法
イオン交換法
(吸着法)
燃焼灰からのバナジウム回収技術の概略フロー
リサイクルプロセスは、求める生産物の組成によって異なる。純度が必要なバナジ
ウム(化合物)を得ようとすれば、湿式処理を取ることになるが、Fe-V原料となる場合
は、それほどの純度が求められないために、乾式処理だけでも可能である。
湿式の基本的なプロセスは、燃焼灰を必要に応じて粉砕、造粒等の前処理を施す。
灰に含まれるバナジウムを効率よく抽出するために、事前に焙焼により水可溶性の
バナジン酸ソーダに変換することも行われる。ソーダ源としては通常、Na2CO3が使わ
れるが、NaClを用いた例も報告されている。
次に燃焼灰から、溶出液で燃焼灰中のバナジウムを抽出する(固液抽出)。溶出液
の種類により、水抽出、酸抽出、アルカリ抽出に分けることができるが、その他にも
過酸化水素水(弱酸性)や超臨界CO2を使う方法もある。アルカリ抽出は、抽出効率は低
いものの、バナジウムの選択性が高いとの報告がある。なお、抽出に当たっては、固
液比(L/S)、薬剤の濃度、抽出温度、抽出時間、撹拌速度などの因子を考慮する。
抽出液に溶解させたバナジウムを液体から分離する方法として、塩析法・沈殿法、溶
媒抽出法、イオン交換法がある。塩析においては、一般にpH10-11で塩安(硫安)を
添加して、バナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を析出させる。塩の代わりにエタノール
を添加して沈殿させる試みもある。析出法の場合、バナジウム以外の成分も沈殿する
恐れがあるために、純度を求める場合には、別途事前処理が必要となる。溶媒抽出法
では、選択性が高い溶媒を用いてバナジウム化合物を抽出し、抽出液から逆抽出によ
って水系に移す方法が採られる。イオン交換では、バナジウムイオンを樹脂に吸着さ
せて、溶離液で高濃度のバナジウム溶液を得る方法である。また、高分子を使って表
面に吸着させる試みもある。精製する場合、水もしくは酸性水で洗う方法、再度析出
させる方法がある。
68
表3.2-12に湿式による燃焼灰からのバナジウム回収技術を、表3.2-13に同じく乾式に
よる回収技術を整理した。表中の左欄の○数字は、表の次に記述した各技術の番号を
示している。
69
表3.2-12 燃焼灰からのバナジウム回収技術(湿式)
V原 その他
副原料
料 のV原料
産物
① EP灰 脱 硫 触 Na2CO3 V2O5
添加
媒
⑯ オ イ
ルサ
ン ド
飛灰
NaCl
③ 重 質 オ リ マ 亜硫酸 水 酸 化
油灰 ルジョン Na( 還 バ ナ ジ
灰
元剤) ウ ム
VO(OH)2
④ ボイラ ( オ リ マ -
NH4VO3
NaVO3
ー ス ラ ルジョン
グ
燃焼EP
灰)
副産物
Mo、Ni原
料( 触媒
の場合)
Mo 、 塩
類
乾式/
湿式
フロー概略
前処理
焙焼
ソーダ焙焼
(Na2CO3下)
(NaVO3化)
乾式/ 脱炭素(500~ 焙 焼 (NaCl
湿式 600℃、6-8時 下)
(850-900℃
間)
、2~3時
(造粒)
NaCl 添 加 間)
(20-30%)
湿式 脱硫排水にて
スラリー化
(取扱性の改
善)
湿式 粉砕
( 200mesh 以
下)
乾式/ 乾燥→粉砕
湿式
溶出
水抽出
(触媒)V抽出率93%
Mo抽出率97%
温水抽出(95-97℃、
1hr)→洗浄液も回収
V抽出率75-85%
50%NaOH抽出
(120℃、60min)
NaVO3に変換
(抽出率99.9%)
70
⑤ EP灰 -
湿式
-
NH4VO3 石膏( 純 湿式
度
99.5%)
20%アン
モニア水
乾式粉砕:45
分
(メカノケミカ
ル処理)
分離
(塩析・沈殿)
塩析(NH4VO3)
分離
(イオン交換)
Ni,Al,Mg,Z 湿式
n溶液
pH調整(HCl)→
NH4Cl 添 加 = 塩 析
NH4VO3
EtOH添加(4倍量)→析
出NaVO3
溶媒抽出→NaOH EtOH 添加→ 析出
溶液逆抽出
NaVO3
溶媒:TOMAC/キシレ
ン
論文記載の
生産物の用途
メリット
デメリット
鉄鋼用ク ゙ レ ー ト ゙ は 脱硫触媒プロ 低品位ものは別プ
Fe-V原料に
セスの活用
ロセス要。酸化剤、
塩析剤必要
V資源
ソーダ焙焼が 抽出に時間を要す
不要。抽出率 る。設備が複雑。
が高い。夾雑
物の抽出率が EtOH添加量が多い
低い
EtOH添加量が多い
NH4Cl濃度80g/ℓ
でV析出率:
99.2%
V析出率:
99.8%
水抽出
抽出率:約95%
V の純度: 約 触媒、磁石、半導体 MC処理で可 粉砕エネルギーが
従来の回収率約
95%
等の機能性材料
溶性Vが増加 多い。
15%→約95%に
= V 回収率
向上。
95%以上に。
ソーダ焙焼が 設備が複雑
水抽出液中のV NH4VO3:99.4%
不要。抽出率
の溶媒抽出率:
が 高 い 。
99.5%以上
NH4VO3 純 度
99.4%
メタバナジン酸アン 鉄鋼用添加剤
AMV純度93%
モニウム:93%
化成品用原料
溶媒抽出で連
続化可能。
水抽出(1hr)
溶媒抽出→逆抽
燃焼灰/水=1/ 出NH4VO3
1
(第4級アミン/ケロシ
ン)
(抽出効率99.5%)
水抽出
(2g/50ml, 25 ℃ 、
60min(Ni,Al,Mg,Zn 回
収)、あるいは希酸
抽出(V)
V純度
(V含有汚泥として回 ソーダ焙焼が 亜硫酸Naが必要
収で、用途の記載 不要
排水処理が必要
なし)
溶媒:トリカプチルメチ
ルアンモニウムクロライド
( 被抽出液V 濃
度:2g/ℓ)
中間品
(V)
収率
水抽出率(触媒) V2O5:99.8%
V:93%
Mo:97%
ろ過→洗浄→ V溶出率75-85% V2O5:98.5%
か焼(500℃)
(V2O5:98.5%)
pH調整(NH4水)→H2O2
酸化→AMV沈殿
⑥ EP 灰 底S重油 -
( 高 S EP灰、オ
重油) イルコークス
EP灰
酸化
か焼(V2O5)
事前にpH10-11で脱シ
リカ.
NH4Cl 添 加 = 塩 析
NH4VO3
(pH10-11 、 80-90 ℃ 、
30-60min)
pH調整(NH4水)→
VO(OH)2沈殿
(V含有汚泥回収)
pH調整(H2SO4)→
還元(Na2O3S)
(V5+→V4+)
6%H2O2抽出
(25℃、5hr、280rpm)
灰濃度100g/ℓ
⑨ EP灰
分離
(溶媒抽出)
イオン交換→
V溶離(1トン灰/ 25 ト ン 水、25℃、6hr)
V の純度: 約
95%以上
ソーダ焙焼が イオン交換樹脂の
不要。抽出剤 劣化。薬品代の負
が少ない。
担。
大量の水の処理。
処理時間が長い。
V原 その他
副原料
料 のV原料
産物
副産物
乾式/
湿式
(NH4水) NH4VO3工 カーボン、 湿式
業用
15% 安
水 、 石
膏、 ス ラ ッ
ジ
⑧ EP灰 オ リ マ
V2O5
カーボン、 湿式/
ルジョン
安水、Ni 乾式
燃焼灰、
アスファ
ルト燃
焼灰
フロー概略
前処理
⑦ EP灰 -
焙焼
分離
(溶媒抽出)
溶出
前処理水洗
(高硫安濃度
EP 灰)→ V含
有排水→
水洗灰→
焙 焼 → 他 水抽出→
の原料と混
合・粉砕→
焙焼
71
湿式
⑬ 都市廃
棄物飛
灰
⑫ 燃焼
灰
湿式
水抽出(3w/v%)
湿式
アルカリ抽出
(8M-NaOH, L/S:5、
100℃、3hr)
アルカリ抽出
(2M-NaOH)
V2O5
⑮ 重油
燃焼
飛灰
Mo、Ni
溶出剤処理
TBP
、
D2EHPA
Fe-V 原
料
湿式
酸化
収率
論文記載の
生産物の用途
V純度
メリット
NH4VO3 :98%
以上
超臨界CO2 流体抽
出
(60℃、L/S10、pH7)
V 抽 出 率 :
90-95%
(グラフト重合
ポリマ-に吸
着)
塩析(硫安)→AMV
デメリット
プロセスがやや複雑
焙焼し、V濃度を高
める必要。
フローが複雑。
イオン交換あり。
Fe-V原料
TBP
、
D2EHPA の V
抽 出 率
90-95%
(飛灰からのVの除 V濃度0.2μg/
去)
ℓ→0.00に低下
(抽出率:99%)
か 焼(500 ℃ 、 V抽出率85%以上、
24 時 間 ) → V析出率:溶出Vの
V2O5
90%以上
Vの純度:99%
pH8でAlを選択的に沈
殿→有機溶媒(アミン
系)抽出
有機層→逆抽出
水層→キトサン吸着
酸抽出(25 % 以上
析出(水酸化物、バナ
NaClO3)
ジン酸、鉄化合物の複
100℃、pH2.3
合体)→洗浄(Na除去)
湿式
⑭ 飛灰
分離
(イオン交換)
ソーダ焙焼が不
要。酸化剤、塩
析剤不要。スター
ト時の原料輸
送が容易。
イオン交換→
抽出物に対して V2O5 :98%以 V2O5(フレーク状は 回 収 率 が 高
V溶離→抽出
ほぼ100%。
上
鉄鋼用に販売)
い。
工程へ
排水Vの鉄イオ
化学向けは精製物 他の原料も活
ンとの共沈で回
用
塩析(V含有排水はイ
か 焼→ 溶融 収した汚泥には
オン交換工程)
→ フ レ ー ク 状 不純物が多く、V
製品にはコスト
V2O5
高。
スラリー化→回収
NH4 水添加→空気
酸化
⑪ 都市廃
棄物焼
却飛灰
分離
(塩析・沈殿)
塩析→水洗→
NH4VO3
鉄鋼用合金元素
Fe-V原料
網がけは実施中。
表3.2-13 燃焼灰からのバナジウム回収技術(乾式)
V原
料
その他V
原料
副原料
産物
② ホ ゙ イ ラ 廃触媒、 鉄スクラッ Fe-V
ー灰 スラッジ
プ、生石
灰、アルミ
網がけは実施中。
副産物
乾式/湿式
Fe-Ni合金
乾式
Fe-Ni-Mo合金
CaO-Al2O3
前処理
乾燥(120℃)→粉砕→造粒
焙焼
焙焼(800-900℃)→
溶融・還元(電気炉1,700℃)→V
含有スラグ→アルミ還元(高周
波炉)→Fe-V合金
フロー概略
溶出
分離
(溶媒抽出)
分離
(塩析・沈殿)
分離
(イオン交換)
酸化
論文記載の
用途
Fe-V合金鉄
メリット
デメリット
各種廃棄物の区別不要。 電力原単位が 高
乾式にて一括処理可能。 い。
設備が簡単。合金添加剤
として使える。
① A社(太陽鉱工)
・EP灰(排ガス中に未燃分とともに飛散した媒。電気集塵機等で捕集される非常に細
かい微粒子)は粒状であるが、炉内灰は塊状であるために粉砕が必要である。
・A社では、V2O5 品位が8%以上(V2.2%)のものを対象としていたが、現在、燃焼灰
からのV回収は行っていない。
・粉砕後、ソーダ焙焼にて、水溶性のメタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)かバナジン
酸ナトリウム(Na3VO4)に変換(条件による)。
・焙焼物から水抽出、ろ過により、Ni(触媒由来)、Fe、SiO2などを除去する。
・ろ液に硫酸アンモニウムか塩化アンモニウムを添加し、バナジウムを塩析沈殿。
・ろ別により回収した焙焼にてアンモニアを加熱除去し、五酸化バナジウムを得る。
品位 :V 2 O 5 1.5%、Fe 56%、TiO 2
鉱石(チタン磁鉄鉱)
13%( 以 上 南ア )
粉砕
石炭、フラックス
ロー タ リ ーキ ル ン
処理 温 度 :1,000℃
加熱処理
還元処理
アー ク 炉
含 Ti スラグ
含V鉄
SiO 2 , くず鉄等
V 2 O 5 : 約 1.4%
撹拌取鍋
重油・オイルコークスの燃焼灰
銑鉄
バナジウムスラグ(FeO・V 2 O3 含む)
V 2 O 5 品位: 8 %以 上(A 社)
V 2 O 5 品位: 約 25% ,
不溶 性
粉砕機 : ボー ル ミ ル
粉砕粒 度 :<100μm
粉砕
Fe
磁選
炭酸ソーダ
Ti 2 O 2 : 約 30%
乾燥
EP 灰 は 粉 状 で あ
るが、炉内灰は塊
状ゆえに粉砕が必
粉砕
脱硫触媒
(造粒・カーボン回収)
粉砕
ソーダ焙焼
添加量:V に対し、モル数の 1.5~2 倍
炉: 多 段 賠償 炉 or ロー タ リ ーキ ル ン
焙焼 温 度 :850~900℃
排ガス
メタバナジン酸ソーダ(NaVO 3 ) 水溶性の塩
水
水抽出
添加量:塩の比重(4 仮定)の 4 倍量
ろ過
触媒の場合
メタバナジン酸ソーダ溶液
硫酸
塩化アンモニウム
弱ア ル カ リ性
ろ過残渣(P、Cr、Si、Fe)
Ni 原料
中和
塩析沈殿(V が還元 5 価→3 価)
ろ過
プレートフィ ル タ ー
ろ液
バナジン酸アンモニウム(NH 4 VO 3 )
pH 調整
焙焼
炉:キルンロ ー タ リ ー
五酸化バナジウム(V 2 O 5 )
CO 2 などの排ガス
V2O5:99.8%
出典)金属便覧改訂 4 版、日本金属学会編、及び世界鉱物資源データブック(社)資源・素材学会資
源経済部門委員会編,平成 10 年、オーム社、和田芳明;J.MMIJ,p.839,Vol.123,No.12(2007)より
作成
図 3.2-4
五酸化バナジウム等の製造フロー
72
触媒の場合
沈殿:水酸化モリブデン
焙焼
三酸化モリブデン(MoO 3 )
・低温焙焼法(400~900℃)の場合、Na2CO3、NaOHでV,Moを回収するが、Ni,Coは酸で
回収する必要あり。
・酸化バナジウムは、主に鉄鋼添加剤であるFe-V原料として用いられる。
・表3.2-14は、A社の規格表である。
表 3.2-14
A社の V2O5 製品規格(%)
グレード
V2 O5
SiO 2
Fe 2O3
Al2 O3
Na2 O
K2O
Mo
高純度
鉄鋼用
一般流通品(海外)
>99.5
>98.5
>98
<0.07
<0.1
<0.3
<0.02
<0.1
<0.3
<0.06
<0.1
<0.3
<0.005
<0.02
<0.5
<0.001
<0.01
<0.1
<0.005
<0.2
<0.05
② B社(JFEグループ)
ボイラー灰と廃脱硫触媒から、V2O5 ではなく、Fe-V合金(Fe-Ni-Mo合金も)を製造
するプロセスである。
・廃触媒、ボイラー灰、スラッジなどの各種廃棄物を、乾燥(120℃)、粉砕、造粒した上
で、焙焼する(800~900℃)。
・焙焼物とFe、フラックスとしての石灰を電気炉に投入し、1,700℃で加熱還元すること
で、Fe-Ni合金、Fe-Ni-Mo合金と含Vスラグを得る。
・スラグは、溶湯にAl還元剤を添加して、Fe酸化物を還元するとともに、V含有スラグ
中の鉄分を調整。
・V含有スラグはレードル(高周波炉)に出湯され、Al還元剤、石灰、成分調整用V2O5
が投入されて、Fe-V系合金とCaO-Al2O3スラグが生成される。
・その後、Fe-Mo-Ni合金と同じレードルに出湯し、フラックスにより脱S、P、C処理する。
・各種廃棄物原材料を区別することなく、乾式にて一括処理できる。
・電気炉を使った乾式法は、経済面では湿式よりも優れているが、合金添加剤としてリ
サイクルされるために、その他の用途には使えない課題が残る。
ボイラー灰
脱硫触媒
乾燥
ロータリー乾燥機
造粒
ペレタイ ザー
副原料(鉄スクラップ、生石灰)
焙焼
溶解・還元
製錬用電気炉
含 V スラグ
メタル
副原料(アルミ灰、V 原料)
Fe-Ni 合金
Fe-Ni-Mo 合金
アルミ還元
Fe-V 合金
CA(カルシウムアルミネート)
脱硫剤
図 3.2-5
出典)B社資料より作成
重油燃焼灰、脱硫触媒からのバナジウム合金等の製造フロー
73
③ C社&D社(中部電力と三菱重工)
・重質油灰(オリマルジョン灰・高 S 分重油灰等)を脱硫排水との混合スラリー化によ
って取扱を改善。
・硫酸で pH 調整し、亜硫酸ナトリウムを加えて灰スラリー中の V 5+ を V 4+ に還元する。
2VO2+ + 2H+ + SO32- → 2VO2+ + SO42- +H2O
・さらにアンモニア水で pH を調整し、析出した水酸化バナジウム等の金属水酸化物を
脱水機によりバナジウム含有汚泥として回収する。
VO2+ + 2NH4OH → VO(OH)2↓ +
74
2NH4+
④ 公害資源研究所(現、産総研)(出典:日本鉱業学会誌,p.8(1997))
・ボイラースラグ(重油専焼火力発電所ボイラー)からバナジウム回収。
表 3.2-15
ボイラースラグの化学組成(wt%)
V
Ni
Fe
Mg
Ca
Si
Al
S
28.4
4.89
4.46
3.92
0.05
0.65
0.24
5.66
・炭酸ソーダを加えてのアルカリ焙焼は、700~850℃の高温で行うために、エネルギー
消費が高いなどの欠点がある。
・灰黒色の塊状スラグを 200 mesh 以下に粉砕。
・高温でのアルカリ焙焼する代わりに、NaOH50%水溶液を添加し、120℃にて、撹拌抽
出し(60 分での抽出率は 99.9%)、バナジン酸ナトリウムに変換する。狭雑物の抽出
率が低く、Ni、Fe、Ca、Mg、Al で 0.05%,0.04%,<0.01%,0.76%,76.7%。Al の抽出
率が高いが、資料中の Al が低い。
・ろ液を HCl で所定の pH に調整後、NH4Cl 添加でバナジン酸アンモニウム(NH4VO3 )
塩析。その後のプロセスは同じ。
・析出方法としてエタノール添加(溶液1に対して4で、析出率 99%)も試みており、
その場合の塩析物は NaVO3
【抽出剤の変更】
・NaOH の代わりに 6%過酸化水素を用いて抽出(25℃、5 時間)。浸出したバナジウムは
TOMAC(トリ-n-オクチルメチルアンモニウムクロライド)/キシレンで抽出する。そ
の後、NaOH 溶液で逆抽出し、エタノール添加にて金属塩として回収する。
・オリマルジョン専焼火力発電所の EP 灰(V:6.45%、Ni:1.63%、Mg:8.46%)
V:6.45%(Ni:1.63%、Mg:8.46%)
EP灰
過酸化水素水抽出
抽出液
溶媒抽出
逆抽出
pH 調整
塩安
塩析
V沈殿
過酸化水素の濃度:6%
灰の濃度:100g/ℓ、4 時間
V:6.59g/ℓ(Ni:1.72、Mg:8.62)
pH4.21
分別沈殿法により、V,Ni,Mg を効率
的に分別回収することは困難
溶媒:10%TOMAC キシレン液、
10 分間
溶媒:2.5M-NaOH 水溶液
10 分間
pH:8.20
V:3.44g/ℓ
NH4Cl 濃度:80g/ℓ
V析出率:99.2%
pH:13.62
V:7.10g/ℓ
pH 調整
EtOH 析出
EtOH 添加 比: 5
V沈殿(V 2 O 5 )
V析 出 率 :99.8%
出典)六川暢了;資源・素材学会春季大会講演集,p.86-87,2(2001)より作成
図 3.2-6
重油燃焼灰からのバナジウムの抽出フロー
75
⑤ E社&千葉工大(太平洋セメント、千葉工大)
・重油燃焼灰EP灰からのバナジウム回収。
・重油燃焼灰から薬剤を用いてVイオン、Niイオンを溶出させて後に、pH調整によって
V、Niを析出する方法では、鉄等の他の成分も同時に析出するので、純度の高い回収
物を得ることが難しい。
・溶媒抽出法ではキレートの選定と運転条件(主にpH調整)を適切にすれば、容易にかつ
連続で高純度の回収物が得られる。
表 3.2-16
EP 灰の化学組成(mass%)
V2 O5
NiO
SO 3
(NH4 )2 O
MgO
Fe 2O3
SiO 2
Al2 O3
C
2.6
0.6
48
23
1.6
1.0
0.5
0.2
14
・水抽出(1時間撹拌)で、硫酸アンモニウムとバナジウムを溶出。
・EP灰の水の混合比(水重量/灰重量)1以下のときに、硫酸アンモニウムとバナジウ
ムイオンのみを溶出。→ろ過でろ液を得る。
(溶媒抽出法)
・抽出剤には第4級アミン、ケロシンで20倍に希釈。ミキサーセトラー使用。バナジウ
ムイオンの抽出率は99.5%以上。さらに逆抽出から純度99.4%のメタバナジン酸アン
モニウム(AMV)を回収。
(沈殿法)
・沈殿法(アンモニア水添加でpH8に調整後、過酸化水素水でVを5価に酸化させてAMV
を沈殿)において、硫安濃度を下げるなどにより純度93%のAMVを回収。
・石膏(純度99.5%以上)と蒸留にて20%濃度のアンモニア水を回収
重油燃焼 EP 灰 1kg
水 1kg
混合・撹拌
1 時間
ろ過
ろ過残渣
ろ液
アンモニア水
25%
度
V溶媒抽出
pH8
濃
H 2 O 2 水(31%)で析出
AMV
石膏晶析
アンモニア蒸
ろ液
ろ過
石膏
出典)野崎賢二ほか;無機マテリアル学会学術講演会講演要旨集.
p.36-37,,101st(2000)
図 3.2-7
重油燃焼灰からのバナジウムの回収フロー
出典)三浦啓一;太平洋セメント研究報告,p.110-116,No.140(2001)
76
(以下の出典:三浦啓一;無機マテリアル,p.213-219,Vol.6(1999))
・燃焼灰からバナジウムを回収する方法として、次の方法が検討されている。
硫酸浸出液から溶媒抽出法
・各種抽出剤の抽出特性に関する研究(六川らの研究)
結晶として回収する方法(三菱重工)
水酸化物として回収する凝集沈殿法(三菱重工)
焙焼と晶析を組み合わせた方法(塚越ら、須藤ら)
・燃焼灰から酸またはアルカリ水溶液でVイオンを溶出させた後にV化合物を析出させ
る場合、析出条件の僅かな違いによって析出が見られない場合や、V化合物の組成等
が大きく変化する。
→
安定的にVを回収するための基礎的知見(灰/水比、溶出時間、pH)
表 3.2-17
EP 灰の化学組成(ppm)
V
N
Ca
S
C
水分
21,000
8,875
774
80,800
66.9%
19.8%
・燃焼灰からのV抽出時において、灰/水の割合、浸出時間(6時間以上)では抽
出高率に変化はなく、抽出後に水洗をすれば十分である。
(以下の出典:Miura K. et al.:Solvent Extraction Research and Development, Japan, p.205-214,8(2001))
・飛灰からの連続溶媒抽出によるV回収
・有機溶媒:トリカプチルメチルアンモニウムクロライド
・飛灰からのバナジウムイオンの溶出条件:アンモニア水25g/ℓ
・これまでの知見によれば、pH制御による析出では不純物が混合する。溶媒抽出では、
他のメタルからVを選択的に分離できるとされ、多くの研究がなされている。ところが、
多くの研究は、バッチであり、連続化についてはなされてこなかった。
・溶媒抽出時の被抽出液のV濃度:2g/ℓ。
図 3.2-8
抽出によるバナジウムの回収フロー
77
⑥ 名古屋大
・重油燃焼EP灰(高硫黄C重油40%とコークスガス60%の混焼灰)
表 3.2-18
V
0.767
試供 EP 灰の金属含有率(wt%)
Fe
5.98
Mg
0.343
Ni
1.80
Al
0.287
Zn
0.111
・水抽出条件:2g-灰/50ml-水(1トン-灰/25トン-水)、25℃、6時間
・水や希薄酸溶液による浸出液のpHは、2.7~2.8(灰に含まれるSが硫酸等の形態)。
・VとNiをイオン交換法により選択的に回収する。
重油燃焼 EP 灰
水
抽出
イオン交換
ろ液
廃液
Ni、Al、Mg、Zn
抽出Ni
酸溶液
V抽出
イオン交換
ろ液
酸溶液
抽出V
残渣
図 3.2-9
出典)日本鉱業学会誌,p.186(1997)
重油燃焼 EP 灰からのバナジウムの回収フロー
(以下の出典:Tokuyama H. et al;J of Chemical Engineering of Japan,P.486-492,Vol.36(2003))
・重油燃焼飛灰からの V 回収では V/Fe の分離が重要。
・キレート樹脂 CR11 は Fe を吸着し、強酸カチオン樹脂 SK1B は両方のメタルを吸着
した。V は、SK1B の溶出液から回収できる。
・V/Fe の分離は長いカラムで、流速を落とせば効果的であった。
・酸抽出や沈殿の場合、廃液の中和処理が必要であり、薬品コストが掛かる。さらに処
理したとしても環境に放出するというデメリットもある。
78
⑦ F社(鹿島北共同発電所、JFE との繋がりあり)
・重油火力発電所の排ガス煙道に設置した電気集塵機(EP)に、EP 腐食防止のため、中和
用のアンモニア水を注入。EP 灰は、重油火力発電所で最大の産業廃棄物。
・アンモニア注入 EP 灰(安注灰)には、硫安が生成している(硫安 50%以上のものも)。
表 3.2-19
重油灰組成分析例(組成単位:wt%)
A社
B社
高硫黄重油
低硫黄重油
石油コークス
有り
有り
3.70
36.40
13.50
39.70
1.57
0.58
0.29
0.62
0.17
0.13
無し
無し
2.33
90.48
0.04
6.12
0.19
0.07
2.24
0.08
0.85
無し
無し
2.73
97.00
0.01
1.55
0.62
0.57
0.56
0.04
0.15
0.35
鹿島北共同発電
主要燃料
アンモニア水注入
Mg 添加剤
pH
水不溶分
NH3
SO 4
V
Ni
Fe
Mg
Na
Si
高硫黄重油
+VRO(減圧残査油)
有り
有り
7.02
11.48
18.67
59.90
2.16
0.83
0.46
2.52
0.25
0.15
・ソーダ焙焼法などの従来法では、バナジウム酸化のために NaClO3 等の酸化剤や NH4Cl
等の塩析剤を系外から供給する必要がある。その上に、高純度のバナジウム化合物を
得るには、再結晶等の精製プロセスが必要となり複雑である。輸送に際しては、灰の
嵩密度が小さいため、取扱方法、輸送費用が課題である。
・アンモニア含有 EP 灰を水でスラリー化。カーボンを分離しつつ、回収アンモニアを
添加し、アンモニア存在下で空気酸化によりメタバナジン酸アンモニウムが生成。安
注灰の生成物である硫安による塩析により、結晶として分離。
・結晶を水洗すると、純度 98%以上の NH4VO3 を得る。
安水
ボイラー
電気集塵器 EP
重油燃焼 EP 灰
リサイクル水
加湿
灰スラリー化
灰溶解
V空気酸化
カーボン分離
カーボン
V塩析
V分離
水洗
安水
硫安
複分解
アンモニア
分離
石膏
分離
石膏
V化合物
(NH 4 VO3 )
図 3.2-10
石灰
スラッジ
出典)化学工学,p.389,No.6,Vol.56(1992)
重油燃焼灰からのバナジウムの回収フロー
79
スラッジ
分離
排水
⑧ G社(新興化学)
・EP灰で硫安分の多いものは、前処理水洗し、未燃カーボン含有不溶性成分と可溶性成
分を分離。可溶性画分には硫安、Vが含まれ、回収される。
・不溶性画分(Vも含有)を800~1,000℃で焙焼し、未燃分を燃焼し、クリンカー状のV
原料とする。焙焼灰は、元の1/10~1/20となり、元々のV濃度0.3~0.8%のEP灰から、
下表に示すようにV濃度7.1%の焼成灰を得る。(→前処理で、濃縮する)
重油燃焼 EP 灰
水処理洗浄
V 含有ろ液
含V残渣
焙焼
抽出
廃液
抽出 V
800~1,000℃
出典)塚越邦光;環境資源工学会シンポジウム「リサイクル設計
と分離精製技術」資料集, p.33(2008年)
V含有焼成灰
図 3.2-11
表 3.2-20
重油燃焼 EP 灰の前処理
焼成灰の平均組成(乾燥重量%)
V
Ni
C
S
A*
7.1
3.6
0.2
0.5
B
12.4
5.9
4.2
1.1
C
3.8
3.1
9.6
2.3
D
9.3
4.9
1.4
0.9
E
1.7
3.2
7.9
0.2
*)自社で焼成したもの、それ以外は他社で焼成したもの。 出典)塚越邦光;同上
・焼成灰とボイラースラグ(標準的V濃度6.7%)と他の原料を混合、ボールミル粉砕。
・乾燥後、ソーダ焙焼。その後に水抽出し、ろ過。ろ過残渣にはNiが含まれる。ろ液は、
塩析でバナジン酸アンモニウムを沈殿回収する。
・結晶物を焙焼炉で酸化されて、五酸化バナジウムV2O5を得る。
・溶融し、成型してフレーク状で鉄鋼用に販売される。
G 社の V2O 5 製品規格(%)
ボイラースラグ
V含有焼成灰
他の原料
混合・粉砕
グレード V 2 O 5
SiO 2 Fe 2 O 3 Al 2 O 3
S
フレーク
≧98
≦1.0
-
-
≦0.05
F
≧98
≦0.2 ≦0.2 ≦0.1 ≦0.5
FF
≧99
≦0.2 ≦0.1 ≦0.1 ≦0.2
FFF ≧99.5 ≦0.05 ≦0.05 ≦0.05 ≦0.01
焙焼
水抽出
化学用には精製後、
高純度のV 2 O 5 とする
抽出残渣Ni
Ni原料
塩析
V含有排水
焙焼(脱アンモニア)
溶融
図 3.2-12
フレーク状V 2 O 5
0.1~数 g-V/ℓ
イオン交換
V 吸着能:60~110g/ℓ
V溶離液
鉄鋼用に販売
Ni メーカーに販売
25~50g-V/ℓ
排水
0.001g-V/ℓ
抽出工程へ
出典)塚越邦光;環境資源工学会シンポジウム「リサイクル設計
と分離精製技術」資料集, p.33(2008年)
重油燃焼 EP 灰の焼成物等からのバナジウムの回収フロー
80
⑨ 東北大学多元物質科学研究所
・重油(オリノコ原油)火力発電所(鹿島北共同火力発電所)の EP 灰
・EP 灰:高 S 重油のために燃焼ガスにアンモニアを添加していることから、硫安が含ま
れる。硫安 62%、炭素約 28%、V 約 1.5%等)
・処理:EP 灰→ 乾式粉砕(メカノケミカル処理)→ 水抽出→ V 化合物可溶化で回収
・従来の回収率約 15%を約 95%に向上。
・灰中の V2O5 と硫安とが炭素共存下でメカノケミカル反応し、可溶性バナジウムが生成
したことによる。湿式粉砕ではその効果が得られない。
出典)張 其武ほか;金属,p.1068-1072,Vol.72(2002)
図 3.2-13
EP 灰の粉砕装置と粉砕時間によるバナジウムの回収率
メカノケミカル現象
固体を粉砕すると表面積は増加し、さらに粉砕を継続するとその増加傾向
は次第に小さくなり、やがて限界値に達し、減少へと転じる。表面積の増加
は、新生表面での結合子の切断と継ぎ手を失った表面原子・分子数の増大の結
果であり、結合状態が乱れる。その結果、表面が化学的に活性(機械的活性)
になり、固体(粉体)の化学ポテンシャルが増大する。
⑩ 東北大学ほか、東北電力、石油資源開発(株)
・オイルサンド層から回収したビチュメンは、V(160ppm、153ppm)を含むので、オンサ
イト処理により、V 含有量を事前に低下させる。
・アルカリ超臨界水熱反応におけるビチュメンの低分子化・改質反応を実験レベルで検
討。
・反応容器 45cm3 に、ビチュメンと超臨界水熱反応ではアルカリ水溶液もしくは蒸留水
を入れ、撹拌用小球を入れて気相をアルゴンで置換して密閉。
・アルカリ超臨界水熱反応の場合、反応温度 430℃、15 分間の反応により、90%以上の
V が除去される。
81
⑪ デルフト大学(蘭)(出典:C.Kersch et al.;Hydrometallurgy,p/119-127,Vol.72(2004))
・都市廃棄物焼却飛灰からの超臨界 CO 2 流体抽出。超臨界抽出の前に溶出剤にて溶出。
CO2:環境に優しい。低粘度。高拡散性。
・実験(12ℓスケール)、60℃、20~35 ℓの水道水を PP コンテナー。pH7 は、重金属の
溶出コンタミを防止するため。撹拌しながら、2~3.5kg の飛灰を入れる(液/固比 10)
1 時間撹拌、ろ過後に 5N 硝酸で希釈し、1 時間静置、超臨界水を除く。
・V の抽出効率は TBP(Tributyl phosphate)、D2EHPA で高い(90~95%)。しかし、
超臨界での効率は、低い。
・Mo の抽出効率は超臨界で 70~95%
⑫ シリア、ダマスカスの原子力委員会化学部
(出典:Jamal Stas et al;Periodica Polytechnica. Chemical Engineerig,p.67-70,Vol.51(2007))
・燃焼灰からアルカリ溶出で V、Mo を回収。続いて残渣から硫酸で Ni を溶出。
・液/固比、溶出温度、撹拌時間、溶出剤濃度の影響を研究。
・予備試験=抽出剤試験:4 時間抽出、濃度 8M、温度 100℃、液/固比 4
(結果)酸抽出:効率が高いが、選択性がなく、不純物を伴う。
アルカリ抽出:V 抽出に効果的である。ただし、Mo も抽出される。
表 3.2-21
表 3.2-22
試供飛灰の化学組成
リーチング液の違いによる抽出
・最適アルカリ抽出条件:
NaOH 濃度 8M、L/S 5、温度 100℃、
3 時間、V 抽出効率 85%以上
・処理フロー
図 3.2-14
溶出した V の 90%以上が析出。
82
飛灰からの V と Mo の溶出
⑬ 東京都立産業技術研究所
(出典:白子定治ほか;東京都立産業技術研究所研究報告,p.15-18,8(2005))
・飛灰からのグラフト重合ポリマーを用いた回収実験
・ポリマーフィルムの表面積に依存するが、一廃焼却灰溶融時のバグフィルター回収飛
灰を 3w/v%で混合後、ろ過したものを用いた結果、V 濃度 0.20μg/ℓが 0.00 に低下。
⑭ ピサ大学(伊)(出典:S. Vitolo et al.;Hydrometallurgy,p.141-149,Vol.57(2000))
・重油、オリマルジョンの飛灰(オリマルジョン飛灰は V 含量が高く 12%。その他の成
分の含量が低い)からの V 回収
・酸溶出 → 酸化 → V(5 価)析出 → 洗浄(不純物の除去)=Fe-V 原料
・各操作のパラメーターの影響を調べた後に、ラボスケールでの V 回収を実施し、オー
バーオールの収率を決定。
<溶出>
予備実験1
・溶出液、温度、時間
→
水抽出でも、室温、30 分で溶出
・アルカリ溶出が効果的でない。
予備実験2
・液/固比(L/S):重油燃焼灰 3、オリマルジョン燃焼灰 3~4、温度
・溶出液(H2SO4、重油燃焼灰 1M、オリマルジョン燃焼灰 2~3M)
<酸化・析出>
・酸化剤:NaClO3(25%以上)、
100℃、pH2.3
・V4+ → V5+(H+が放出されるので、pH の維持のために Na2CO3 添加)
・V が析出する(水酸化物とバナジン酸、鉄化合物の複合体)
・析出は 1 時間で終了
・析出物には、比較的高濃度の Na が含まれている。Fe-V 合金の妨害物質。
<洗浄>
・Na は、酸性液で洗浄すれば、95%まで除去できる。水より優れている理由は、
酸性液が、析出物中のバナジン酸 Na を溶解するため。(V ロス 6.6%以下)
・析出物の洗浄により不純物の濃度が下がり、Fe-V 原料に使えるまでになった。
表 3.2-23
表 3.2-24
試供燃焼灰の成分(wt%)
83
洗浄後の灰の成分(wt%)
図 3.2-15
飛灰からの V と Mo の溶出プロセス
⑮ メキシコ (出典:R.Navarro et al.; Waste Management,p.425-438,Vol.27(2007))
・重油燃焼飛灰(V1.6%)からの溶出で、溶出液、金属回収(沈殿 or 溶媒抽出)を検討
・溶出剤:2M-NaOH(0.5M-H2SO4 より抽出効率は低いが、V 溶出の選択性が高い)
・沈殿法が溶媒抽出より良い(理由:バナジン酸アンモニウムとして V 回収が可能。溶
媒抽出は有機相を除く必要がある。)
・沈殿
(1)pH8 で Al を沈殿
(2)塩安を pH5 で加えて、V を沈殿。
・溶媒抽出:アミン系の Aliquat 336 使用。
・有機相→逆抽出、
水相→キトサン吸着
図 3.2-16
飛灰からの V の溶出プロセス
84
⑯ アルバータ大(カナダ)
(出典:P.C. Holloway and T.H. Etsell ; Canadian Metallurgical Quarterly,p.25-32,Vol.45(2006))
・オイルサンド飛灰から乾式、湿式で処理。
表 3.2-25
図 3.2-17
試供飛灰の成分(wt%)
オイルサンド燃焼飛灰からの金属回収プロセスフロー
・脱炭素(濃度 15%以上の C を除く、500~600℃、6~8 時間)
(浮選:V ロス大で、得られた C 画分は売却できず、また処理も難しい)
(ダスト発生を防ぐには、事前に造粒も良い)
・NaCl 添加(焙焼中に V を水溶性の V 化合物にする。NaCl 濃度 20~30%)は、造粒
時に加えるか、ペレットを塩水に浸す方法が採られる。
・焙焼:850~900℃、2~3 時間(熱源:天然ガス、石炭)
・焙焼産物からの溶出:95~97℃、1 時間(バッチテストでは、産物濃度 50%まで OK
である)
V 温水抽出率:75~85%、溶出液の V 濃度は 27~42g/ℓ
・残渣中の V を回収するために洗浄→V 濃度 20~23g/ℓ
・脱シリカ:シリカ濃度は低い(100~200mg/ℓ)が、最終産物である V2O5 へのコンタ
ミを防ぐ(Si 0.1%以下)。NaOH と硫安で pH10~11 にする(95~97℃、30~60 分
間)ことにより、Al:Si=2~3:1 の沈殿が得られ、Si の 90%以上、Cu、Fe、Ni、
Ti、Zn も沈殿する。
・メタバナジン酸アンモニウム沈殿:減圧蒸発にて V 濃度は 45~50g/ℓ。塩安添加、pH10
~11、80~90℃、30~60 分。冷却により NH4VO3 沈殿
塩安の添加量は概ね理論量の 2 倍。
・ろ過、洗浄、焙焼(500℃)で V2O5(98.5%)を得る。
・ろ液中の V、Mo、また塩類なども、別処理にて回収。
85
2)
現状のリサイクル技術の課題
(1)で記述した各リサイクル技術について、乾式法、湿式法に分け、またバナジウム回
収の対象別に整理した結果を、表3.2-26、表3.2-27に示す。
バナジウム源となる未利用資源としては、オイルコークス燃焼灰やオイルサンド燃焼
灰が挙げられる。特にオイルコークス燃焼灰には、高濃度のバナジウム(V2O5 で約 70%)
を含むものもある。しかしながら、オイルコークスは、我が国国内においては電力会社
以外の自家用発電や蒸気発生目的(蒸気タービン、コジェネレーション)等で消費され
ているために、全国に分散して使われている可能性が高く、燃焼灰の収集コストの観点
から困難と予想され、効率的な輸送システムを検討する必要がある。オイルサンドにつ
いては、カナダなどの海外で生産されているが、灰成分などの情報収集が必要である。
一方、燃焼灰からのバナジウム回収技術については、湿式、乾式(高温)のプロセス
があり、それぞれ以下に示す課題がある。
○湿式プロセスにおける課題
バナジウムをソーダ焙焼等により溶出可能な水溶性成分に変換することを基本とし、
その後、塩析や溶媒、イオン交換等のいくつかのプロセスを通して抽出するため、バナ
ジウム酸化物としての純度が95~99%と高いことが特徴となる。しかし、鉄鋼用利用形
態であるフェロバナジウムを考えると、バナジウムは低濃度(45~85%程度)でも十分
利用可能である。ところが、湿式法は低濃度で大量に一度で回収することは不向きであ
り、廃液処理等のコスト面も課題がある。
○乾式(高温)プロセスにおける課題
乾式法には、燃焼灰を乾燥、粉砕、造粒、焙焼、還元し、生成したバナジウム酸化物
スラグをAl還元することでフェロバナジウムを製造しているプロセスがあるが、鉄鋼用
原料としては不純物となるS、P濃度の低減(JIS規格では共に0.10%以下)、Al濃度の低
減(JIS規格では4.0%以下)をするための制御が必要となる。
大量の処理に対して、乾式は湿式よりも優れているものの、上記乾式プロセスでは複
数の工程を経て合金が製造されることから、より安価で省エネのプロセスとして、鉄鋼
用フェロバナジウムを低バナジウム濃度で一度に多量に処理できるプロセスが必要と考
えられる。
86
表 3.2-26
対象燃焼灰
①重油
②オイルコー
87
クス
<A 社(湿式)>
集塵灰(EP 灰)
↓水洗→V 含有ろ過液→V 抽出
焙焼(800~1000℃)
↓
V 含有焼成灰 ← ボイラースラグ
↓
混合・粉砕・焙焼・水抽出・塩析
↓→イオン交換→V 溶離液
焙焼・溶融
↓
フレーク状 V2O5
<B 社(乾式)>
ボイラー灰(+廃触媒など)→乾燥
(120℃)→粉砕→造粒→焙焼(800~
900℃)→溶融還元(電気炉 1700℃)
→V 含有スラグ→アルミ還元(高周波
炉)→フェロバナジウム
未利用
(検討対象として注目している)
鹿島北共同発電の文献に分析内容が
記載
文献での
石油コークス
組成分析(wt%)
pH
2.73
水不溶分
97.0
NH3
0.01
SO4
1.55
V
0.62
Ni
0.57
Fe
0.56
Mg
0.04
Na
0.15
Si
0.35
③オイルサン
ド
燃焼灰からのバナジウム回収技術(乾式)に関する技術課題
V 回収の現状
灰組成
V
C
S
NH3
Ni
N
Ash
EP灰
(乾物重量%)
0.3-0.8
40-70
3-10
1-10
0.2-0.5
ボイラースラグ
(乾物重量%)
0.3
16.5
0.8
0.4
6.7
EP灰
(mass%)
V2O5
2.6
NiO
0.6
SO3
48
(NH4)2O
23
MgO
1.6
Fe2O3
1.0
SiO2
0.5
Al2O3
0.2
C
14
V2O5
(純分V)
SiO2
Al2O3
TiO2
Fe2O3
CaO
MgO
Na2O
K2O
P2O5
MnO
SO3
NiO
その他
EP灰
(乾物重量%)
0.1
2.4
77.5
0.6
2.8
23.4
V
Ni
Fe
Mg
Ca
Si
Al
S
13.6
14.9
比重
窒素(%)
硫黄(%)
水分(%)
発熱量(kcal/kg)
灰分(%)
バナジウム(ppm)
ナトリウム(ppm)
マグネシウム(ppm)
課題
国内電力 10 社及び民間企業での 07 年度重油使
用量からの燃焼灰 V 換算量
9,250~18,500 トン/年
・溶融還元と Al 還元の二
段還元を一段還元とす
る一貫工程化、工程省
略。
*電力会社 1200 万 kl
民間企業 650 万 kl
V 500~1000ppm 含有
ボイラースラグ
(wt%)
28.4
4.89
4.46
3.92
0.05
0.65
0.24
5.6
V 換算量
400~4560 トン/年
オイルコークス
(%)
68.84
18.0
19.3
5.0
8.32
35.0
2.99
9.13
0.06
0.68
1.32
9.61
0.89
4.54
0.26
0.90
1.75
3.95
0.22
1.63
0.18
0.88
0
0.14
0.87
6.93
9.25
8.61
5.05
0.0
未利用
7.8
V 総量(活用可能 V 量)
オリマルジョン 天然オリノコタール
1.013
0.54
0.63
2.78
3.79
26.3
<0.1
7125
10000
0.07
0.13
394
400-500
9
60-100
26
*オイルコークスの輸入量
400 万~450 万トン
V 換算式
400 万トン×灰分量(0.2~0.6%)×V 含量(5
~19%)
=400~4560 トン
(平均 1712 トン)
・鉄鋼用フェロバナジウム
としての不純物 P,S の低
減。
・発電所や蒸気タービン、
コ・ジェネレーションな
どの様々な用途に利用
されているオイルコー
クスの灰を集めること。
・未検証が課題。
*日本の年間 V 輸入量
約 6000 トン/年の
約 7~76%(平均 29%)
C重油
0.931
0.22
0.97
<0.1
10400
0.01
<50
カナダのオイルサンド生産量
89 万バレル/日
(V 換算 2000 万トン/年)
*89 万×159l×1.013
×394ppm=56479 トン/日
ベネズエラの生産量
6 万バレル/日
可採埋蔵量:約 2700 億バレル
・乾式での未検証が課題。
表 3.2-27
対象
燃焼灰
論文
番号
重油
①
目的
<利用範囲拡大>
排ガス規制によっ て高性能
な触媒が要求されること
により、多量に発生する使
用済石油精製用触媒(脱硫
触媒)に対して、付着して
いる触媒毒バナジウムの回収
*触媒の交換頻度
灯軽油脱硫:2~3 年
間接脱硫:1~2 年
直接脱硫:1 年
③
<工程改善>
重質油灰へ、脱硫排水を混
合することによる取り扱
いの改善
④
<コストダウン>
炭酸ソーダのアルカリ焙焼は
1000℃前後で行なうため、
エネルギー消 費 が 高 い の が 欠
点。
石油系燃焼灰からの効率
よく安価なプロセスとして、
炭 酸 ソーダの アルカリ焙 焼 の 代
わりに NaOH 及び過酸化水
素水で検討
⑨
⑤
<コストダウン>
エネルギー効 率 の 良 い 粉 砕 を
使うことで、メカノケミカル反応
を利用して有価物を抽出
しやすい形態に変化させ
る。
<高純度化>
重油燃焼灰から薬剤を用
いて V、Ni イオンを溶出させ
て 、 pH 調 整で 析出 さ せ る
と鉄等の他の成分も同時
に析出する。
溶媒抽出方法でキレートと pH
調整の条件により、高純度
化が可能。
燃焼灰からのバナジウム回収技術(湿式)
V 回収の現状
重油・オイルコークス燃焼灰
↓
乾燥・粉砕・造粒
↓←脱硫触媒
ソーダ焙焼←粉砕・磁選後の V スラグ
↓
メタバナジン酸ソーダ(Na 2 VO 3 )
↓
水抽出・ろ過→Ni 原料
↓
メタバナジン酸ソーダ溶液
↓
中和(硫酸)・塩析沈殿(NH 4 Cl)・ろ過
↓
バナジン酸アンモニウム(NH 4 VO 3 )
↓
焙焼
↓
五酸化バナジウム(V 2 O 5 )
重質油灰 + 脱硫排水
↓
混合スラリー化
↓
硫酸で pH 調整
↓
還元(V 5+ →V 4+ )←亜硫酸ナトリウム
↓
アンンモニア水で pH 調整
↓
析出・脱水→バナジウム含有汚泥で回収
(水酸化バナジウム)
粉砕(200mesh)
↓
NaOH 50%水溶液で撹拌抽出
(120℃、60 分で 99.9%)
↓
バナジン酸ナトリウム
↓
pH 調整(HCl)→エタノール転化→NaVO 3 析出
↓
塩析←NH 4 Cl 添加
↓
バナジン酸アンモニウム(NH 4 VO 3 )析出
EP 灰
↓
過酸化水素水
↓
抽出液
↓
溶媒抽出・逆抽出
↓
pH 調整→エタノール析出→V2O5 沈殿
↓
塩析→NH 4 VO 3 沈殿
EP 灰
↓
乾式粉砕(メカノケミカル処理)
↓
水抽出
↓
V 化合物が可溶化して回収
EP 灰
↓
水抽出(1hr)
↓
溶媒抽出・逆抽出
(第 4 級アミン/ケロシン)
↓
NH 4 VO 3
灰組成
88
論文記載の
生産物の用途
V2O5
鉄鋼用グレード
Fe-V 原料
99.8%
V
Ni
Fe
Mg
Ca
Si
Al
S
ボイラースラグ
(wt%)
28.4
4.89
4.46
3.92
0.05
0.65
0.24
5.66
E P灰(%)
6.45
1.63
8.46
V
Ni
Mg
NaVO 3
99%
V2O5
99.8%
NH 4 VO 3
99.2%
(NH4)2SO4
C
V
V2O5
NiO
SO3
(NH4)2O
MgO
Fe2O3
SiO2
Al2O3
C
pH 調整(NH 3 水)
↓
H 2 O 2 酸化
↓
メタバナジン酸アンモニウム沈殿
溶媒:トリカプチルメチルアンモニウムクロライド
(被抽出液 V 濃度:2g/l)
V 純度
EP灰(%)
62
28
1.5
EP灰
(mass%)
2.6
0.6
48
23
1.6
1.0
0.5
0.2
14
V 収率
95%
触媒、磁石、半導
体等の機能性材
料
NH 4 VO 3
95%
NH 4 VO 3
99.4%
鉄鋼用添加材
化成品用原料
⑥
⑦
⑧
⑫
⑮
オイルサンド
<コストダウン>
酸抽出や沈殿は廃液の中
和処理が必要であり、薬品
コストもかかる。環 境面も問
題。その代わり にイオン交換
で選択的に回収。
EP 灰
↓
抽出→ろ液→イオン交換→抽出 Ni
↓
V 抽出→ろ液→イオン交換→抽出 V
<コストダウン>
ソーダ焙焼はバナジウム酸化の
ために NaClO3 等の酸化剤
や NH4Cl 等 の 塩 析 剤 を 系
外から供給する必要があ
る。高純度のバナジウム化合
物を得るには、再結晶等の
精製プロセスが必要である。
灰の嵩密度が小さく、取り
扱い、輸送費用が課題。
重油灰(wt%)
EP 灰
HS重油+VRO HS重油
↓
pH
7.02
3.70
スラリー化
水不溶分
11.48
36.40
↓
NH3
18.67
13.50
SO4
59.90
39.70
アンモニア水添加
V
2.16
1.57
↓
Ni
0.83
0.58
空気酸化
Fe
0.46
0.29
Mg
2.52
0.62
↓
Na
0.25
0.17
塩析
Si
0.15
0.13
↓
水洗→NH 4 VO 3
前処理水洗(高硫安濃度 EP 灰)
焼成灰(乾燥重量%)
V
12.4
1.7
↓
Ni
5.9
3.2
V 含有排水
C
4.2
7.9
↓
S
1.1
0.2
イオン交換
↓
V 溶離
↓
抽出
水洗灰
↓
焙焼
↓
オリマルジョン・アスファルト燃焼灰と混合
↓
粉砕・焙焼・塩析
↓
か焼・溶融→フレーク状 V 2 O 5
燃焼灰
↓
アルカリ抽出(8M-NaOH、L/S:5、100℃、3hr)
↓
塩析(硫安)
↓
か焼(500℃、24hr)→V 2 O 5
燃焼灰
↓
アルカリ抽出(2M-NaOH)
↓→pH8 で Al を沈殿→V99%
有機溶媒(アミン系)抽出
有機層:逆抽出→V48%
水層:キトサン吸着→V70%
重油、オリマルジョンの飛灰
燃焼灰(wt%)
水分
1.9
0.9
1.5
↓
C
33.1
39.6
79.1
酸溶出
V
2.6
3.3
1.3
Fe
3.5
3.9
4.0
↓
Na
2.3
2.4
0.2
酸化
K
0.2
0.2
0.1
Ni
1.3
1.2
0.7
↓
Si
2.5
0.7
0.8
V(5 価)析出
Al
2.1
0.4
0.6
Ti
0.1
trace
v
↓
S
12.6
11.3
1.6
洗浄(不純物の除去)
P
0.1
0.1
0.1
↓
Fe-V 原料
脱炭素(500~600℃、6~8 時間)
オイルサンド(wt%)
↓
V
3.00
Al
12.2
造粒
Ca
1.20
↓
Fe
5.20
NaCl 添加(20~30%)
Mo
0.20
Ni
1.00
↓
Si
25.7
焙焼(NaCl 下、850~900℃、2~3 時間)
Ti
1.70
↓
温水抽出(95~97℃、1hr)
↓
脱シリカ
↓
塩析出←NH 4 Cl 添加
↓
NH 4 VO 3
↓
ろ過・洗浄・か焼(500℃)
↓
V2O5
<利用範囲拡大>
EP 灰 の硫 安分 の多 い も の
に対して、前処理水洗を行
なうことで、未燃カーボン含
有不溶解成分と可溶成分
に分離する。不溶解成分に
も残っているバナジウムを焼
成炉で焼くことで未燃分
を燃焼し、バナジウム原料と
する。
<高純度化>
酸抽出は効率が高いが、選
択性がなく、不純物を伴
う。
アルカリ抽出は V 抽 出に効果
的であることから、その最
適条件を検討。
<高純度化>
溶媒抽出法より沈殿法が
バナジン酸 アンモニウムと し て V
回収が可能であり、溶媒抽
出は有機相を除く必要が
ある。
⑭
<高純度化>
高純度化のために、溶出、
酸化・析出、洗浄の各操作
の影響を調査。
⑯
<高純度化>
浮選は V ロスが大きく、処
理も難しいため、脱炭素を
前処理に取り入れ、その後
のプロセスを最適化。
89
V
Fe
Mg
Ni
Al
Zn
EP灰(%)
0.767
5.98
0.343
1.80
0.287
0.111
V 純度
95%以上
NH 4 VO 3
98%以上
V2O3
98%以上
V 純度
鉄鋼用合金元素
99%
Fe-V 原料
V2O5
98.5%
第4章
調査検討委員会からの提言
備蓄7鉱種の中で、鉄鋼の添加合金としてモリブデン、バナジウムは業界のニーズが
高く、モリブデンは国内需要の 90%が特殊鋼用、バナジウムも 90%以上がフェロバナジ
ウムとして製鋼用に使用されていることから、安定的供給の確保が必要である。調査検
討委員会での検討の結果、モリブデンとバナジウムに関するリサイクルと未利用資源の
活用について、以下を提言する。
4.1
モリブデン
1) モリブデンリサイクルに関する提言
本調査研究では、Mo 添加ステンレスの工程くず、使用済スクラップが、Mo を含まな
いものに比べ価格が高いことから、概ね 90%程度が分別されて再び Mo 源としてリサイ
クルされていることが判明した。一方で、国内の Mo 需要 28,000 トン(Mo 換算:2004
年)に対して鉄鋼原料として 85%が使用されているものの、特殊鋼として最終製品とな
った自動車、建築用等のスクラップは、Fe 原料として型鋼に分別してリサイクルされて
おり、Mo 源としては利用されていない報告事例もある。
また、二硫化モリブデン等として含まれている使用済潤滑油については、大半が回収
された後に、再生重油として燃料で利用されているが、鉄鋼用原料としては量的な確保
が困難である。
国内で様々な最終製品となったスクラップについて、モリブデン機能を生かしたリサ
イクルを行なうためには、特殊鋼材料としての解体・分別技術の構築とその標準化が必
要である。しかしながら国内で散逸したものを集め、コンタミしたスクラップをリサイ
クルすることは技術的・経済的ハードルも高いことから、海外も含めた未利用資源を活
用してリサイクルを検討することが必要である。
2) モリブデン含有未利用資源活用に関する提言
国内において、モリブデンを鉄鋼原料として量的・質的に確保することが困難である
ことから、海外での未利用資源の検討を行なった。その候補として、モリブデン精鉱が
副産物である銅鉱山の選鉱プロセスにおいて浮遊選鉱から漏れて未回収となっているモ
リブデン鉱、さらに銅製錬スラグに含まれる Mo を挙げることができる。
前者の未回収モリブデン鉱については、
・浮遊選鉱における銅-モリブデンの精鉱の回収率向上
・鉱山による実収率の変動
などが問題となる。従って、回収時の浮遊選鉱の技術課題のみならず、モリブデン源の
採取場所の選定も課題となる。ただし、現状最大 95%程度の高効率で回収が行われてい
ることから、回収量をそれほど高く上げることができない。
他方、後者の銅製錬スラグ中の含まれる Mo については、量的にも多いと考えられる。
スラグには Fe も含まれていることから Mo を含んだ Fe 源としての活用が挙げられる。
また、この銅製錬スラグからのメタル分離の可能性は実験室レベルで確認できているが、
鉄鋼原料として活用した場合には、不純物としての銅の濃度が問題となる。銅は熱間加
工を劣化させるだけでなく、精錬工程で鉄からの除去が非常に難しい元素でもあること
90
から、銅精錬時に溶融スラグを還元した際の顕熱を利用した脱銅により、量産工程での
低濃度化が課題となる。
今後は、未利用資源の活用の一つの候補として、銅製錬スラグからのメタル分離プロ
セスの量産に関する技術的および経済的なフィージビリティスタディ(FS)を進め、有
望とされれば事業化に向けた検討が必要である。
4.2
バナジウム
1) バナジウムリサイクルに関する提言
バナジウムのマテリアルフローの中で、五酸化バナジウムと輸入フェロバナジウムは
触媒や鉄鋼業(高抗張力鋼、工具鋼)、チタンの原料に利用されているが、バナジウム源
としてのリサイクル対象としては使用済み触媒からの回収、さらにはカロリーが高いこ
とから燃料として利用されている石油コークスの燃焼灰からの回収が挙げられる。
特に、石油コークスは年間 400 万トンを海外から輸入しており、バナジウム含有量に
ばらつきはあるものの、燃焼灰から数万トンオーダーでバナジウムが回収できる可能性
がある。課題としてはその燃焼灰が散逸していることである。現在輸入に頼っているバ
ナジウムを減らす手段として、国内で散逸した燃焼灰を収集してバナジウムを回収する
リサイクルをマテリアルフローとして検討することが重要である。
2) バナジウム含有未利用資源活用に関する提言
バナジウム源については、上記オイルコークス燃焼灰に加え、オイルサンド燃焼灰が
未利用資源として挙げられ、特にオイルコークス燃焼灰は高濃度のバナジウム(V2O5
で約 70%)を含むものもある。しかしながら、オイルコークスは我が国国内においては
電力会社以外の自家用発電や蒸気発生目的(蒸気タービン、コジェネレーション)等で
消費されているために、全国に分散して使われている可能性が高く、燃焼灰の収集コス
トの観点から困難と予想され、効率的な輸送システムを検討する必要がある。オイルサ
ンドについては、カナダなどの海外で生産されているが、灰成分などの情報収集が必要
である。
一方で、バナジウムの製錬プロセスは、湿式プロセスと乾式プロセスがあり、それぞ
れに技術課題の整理を行った。湿式法は、バナジウムをソーダ焙焼等により水溶性成分
として溶出することを基本とし、95~99%の高純度バナジウム源が得られるが、鉄鋼原
料としてはオーバースペックであり、簡易プロセス化によるコストダウンが課題と認識
された。ただ、湿式プロセスでの簡易化は困難で、乾式プロセス化によるコストダウン
が必要である。そのため、乾式プロセスでは、重油燃焼灰で実用化されている 2 段還元
法におけるアルミ還元材量の低減化、Ni 等の他成分がフェロバナジウムへ移行しないよ
うに不純物の低減化、フェロバナジウムとしての収率の向上、さらには工程の簡略化を
検討していく必要がある。また、有望と目されるオイルコークス燃焼灰、オイルサンド
燃焼灰への乾式プロセス適用可否の検証が課題として抽出された。
今後は、これらの有望未利用資源で技術的および経済的なフィージビリティスタディ
(FS)を進め、有望とされれば事業化に向けた検討が必要である。
91
非
売
品
禁無断転載
平
成
2
0
年
度
鉄鋼用希少金属原料の未利用資源からの
リサイクル技術に関する基盤的調査報告書
発
行
発行者
平成21年3月
社団法人
日本機械工業連合会
〒105-0011
東京都港区芝公園三丁目5番8号
電
話
03-3434-5384
神鋼リサーチ
株式会社
〒135-0016
東京都江東区東陽四丁目10番4号
電
話
03-5634-8202
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