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量子力学と情報科学の結びつき - JPS

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量子力学と情報科学の結びつき - JPS
f
2
p
3
pp
4
チャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」��第1楽章��第160小節付近�
どんなに弱い�ppppppppppppppppppppppp�の音もありえる・・・だろうか?�
5
実は、「これ以上弱い音は出せない」という、強さの最小単位がある!�!�!!� !� !� !� !� !� !� !� !� !� !� �
その最小単位の音の粒を「phonon(フォノン)」と呼ぶ。音はその粒の集まりである。�
光も、「これ以上弱い光は出せない」という強さの最小単位がある!�
その最小単位の光の粒を「photon(フォトン)」と呼ぶ。日本語では「光子」�
およそ「波」というものは、「これ以上弱い波はない」という最小単位がある。�
つまり、「波は粒子として振る舞う」!!!!!!!!!!�
逆に、「粒子は波として振る舞う」����→�電子、中性子、原子、分子など�
これら「波と粒子の両面を持つもの」を「量子」と呼ぶ。� 量子が従う力学が「量子力学」�
【正確を期すためのコラム】�
持続する波の強さはワットで与えられるが、�
波の強さの最小単位はエネルギー(ジュール)で測られる。�
その値は振動数に比例する。(つまり最小単位は一つでなく、光の色ごとに異なる。)�
その比例定数をプランク定数という。�
明暗明暗明暗明暗明�
7
ヤングの二重スリット実験(量子版)�
8
量子情報と量子光学
の結びつきとは?
・光や物質は「粒子でもあり波でもある」
ヤングの二重スリット干渉実験
光子も
(浜松ホトニクス)
電子も
(日立基礎研究所)
原子も!
(東京大学) ・従来のテクノロジーは粒子の性質だけ、あるいは波の性質だけ使っている。
・両方使うと何が起こるか?→ 光と物質を使った革命的情報処理
・ではそれを物理的に実現しよう!
ところで、革命的情報処理とは?
「できない」ことで有名な問題�
現在のコンピューターや通信技術でできないこと�
10
量子コンピューターや量子通信で可能?�
無条件安全なプライバシー通信�
○(量子暗号)�
選管を置かない選挙�
?�
巨大整数の素因数分解�
○(量子コンピューター)�
巨大有限体上の対数演算�
○(量子コンピューター)�
二つのグラフの同型性判定�
?�
Deutsch-Josza 問題を解くこと�
○(量子コンピューター)�
巡回セールスマン問題�
?�
超複雑構造の物質の性質の数値計算�
?�
超複雑現象(天気・社会)のコンピューター予測�
?�
�これらの難問が実際に解ければ素晴らしい。�
が、解けても困ることもある。なぜなら・・・�
◇ 現代の情報セキュリティは素因数分解が「解けない問題」�
� ��であることを前提としている。�
◇ 1994年に「量子コンピューティングで素因数が解ける」� �
����ことが示されてしまった。�
◇ 1997年に「量子暗号は量子コンピューティングでも破れ�
� ��ない」ことが示された。�
◇ さまざまなハードで実現を目指して研究されるようになった。�
→「量子情報処理」研究分野の出現�
現在、量子コンピューターの物理的実現は目前とはいえないが、�
量子暗号は実験的には何とか実現している。�
11
量子コンピューティング・量子暗号シンポジウム(1993年)�
Information is physical!�
12
量子情報はbitでなくqubit�
→いろいろなハードの試み:�
光�
単一光子の偏光�
単一光子の位相�
単一光子のパス�
光子の有無���
半導体�
(原子等の)準位�
電子の有無���
電子の位置���
電子スピン���
核スピン����
超伝導�
ジョセフソン電流方向�
ジョセフソン電流有無�
磁束量子����
その他�原子・分子など�
13
14
第三者に見られているインターネット プライバシーを守る方法
(その1:秘密鍵暗号) 1つ鍵方式(秘密鍵暗号)�
解�
施� �錠�
�錠�
問題は・・・(1)一度使ったカギは使えない ・・・実演
(2)カギは手渡しでなく通信で送りたい
解�
施� �錠�
�錠�
2つ鍵方式(公開鍵暗号)�
施�
錠�
�鍵�
� 解�
錠�
鍵�
�
これを公開�
これは保管�
公開鍵暗号�
1. まず、受信者(カード会社)は e (施錠鍵)と d (解錠鍵)を次のように生成�
� (a) 二つの素数 p と q を選択、(p-1) と (q-1) の�
���最小公倍数 L を計算。[例:p = 5,q = 11 → L = 20]�
� (b) L と互いに素で L より小さい整数 e を選択。[e = 7]�
� (c) ed = 1 (mod L) により d を求める。→ [d = 3]�
� (d) eを公開。同時にN = pqも公開。→ [N = 55]�
2. 送信者(市民)は C = Me mod N によりメッセージM を 暗号文 C に変換。�
�C を受信者に送る。�
��例:M = 2 → C = 18�
���� (2 の 7 乗を 55 で割った余りは 18)�
注)なぜ数字がメッセージになるのか?�
考え方〈その1〉�
俳句の総数は5017である。�
これに通し番号をつける。�
d
3. 受信者は C mod N を計算。�
�これは M に戻る。(フェルマーの小定理)�
� �例: 18 の 3 乗を 55 で割った余りは 2 に戻る。�
20
考え方〈その2〉�
JISコードで「行け!」は�
3954 2431 21 である。�
これを一つの整数とみなす。�
かけ算:11
41 73 101 137 271 3541
27961 1676321 5964848081 �
����9091
= 1111111111111111111111111111111111111111�
素因数分解:2で割れるか? (No)��
������ 3で割れるか? (No) ��
�����5で割れるか? (No)�
������・・・・・・・・�
�����11で割れるか? (Yes)�
������・・・・・・・・�
�����41で割れるか? (Yes)�
������・・・・・・・・�
����� 5964848061で割れるか? (Yes. 計算終了)�
上の例は40ケタの数�→�現在のコンピューターでも素因数分解できる。�
1000ケタの数(公開鍵暗号で実際に使われている)→�どうなるか?�
→�question & answerの回数は100ケタの数を優に上回る。�
� 宇宙の年齢�
� プランク時間(=10-44 sec)�
21
<1080 �
つまりこの世では解けない�
1028穣(じょう)
1032溝(こう)
1036澗(かん)
1040正(せい)
44載(さい)
10
0
10 一
48極(ごく)
10
1
10 十
56恒河沙(ごうがしゃ)
2
10
10 百
64阿僧 (あそうぎ)
10
3
10 千
72那由他(なゆた)
4
10
10 万
80不可思議(ふかしぎ)
10
8
10 億
88無量大数(むりょうたいすう)
10
12
10 兆
1016京(けい)
1020垓(がい)
1024のぎへんに予(じょ)
22
23
24
明暗明暗明暗明暗明�
25
26
29
30
ヤングの二重スリット実験(量子版)�
31
量子力学的パラレル計算�
2で割れるか?�
3で割れるか? �
うまい
状態を
準備�
5で割れるか? �
・・・・・・・�
11で割れるか? �
・・・・・・・�
5964848061�
で割れるか?�
32
11で割れた!
周期構造による干渉�
波の山と谷が揃って
いるので強め合う�
周期構造による干渉�
波の山と谷が揃って
いないので和はゼロ�
周期構造による干渉�
この方向も強め合う�
周期構造による干渉�
×
�×
�×
×
周期構造による干渉�
実演�
量子力学的パラレル計算�
2で割れるか?�
3で割れるか? �
うまい
状態を
準備�
5で割れるか? �
・・・・・・・�
11で割れるか? �
・・・・・・・�
5964848061�
で割れるか?�
時間的ステップ数の爆発的増大が、
空間的穴の数に変わるだけではないか?�
→�エンタングルメントを使って解決!�
38
11で割れた!
39
地震には最初に来る弱い揺れと後から来る強い揺れがある。�
縦波������������������������横波�
光は横波しかない。� その横波には、水平と垂直の二種類がある。�
→�これを偏光という。�
すべての偏光はこの二つを重ね合わせたもの。�
例)45度傾いた偏光は、水平振動�
����と垂直振動を同時に行ったもの�
40
異なる偏光は同時確定できない�
�
直
線
偏
光
�
円
偏
光
41
4偏光状態量子暗号(BB84)�
0 �
ルール①�
1 �
Aliceの�
選択 �
ルール① ルール②�
Bob�
の選択�
ルール①
0 �
ルール②�
ルール② 不確定 0/1確定
1 �
42
0/1確定 不確定�
量子暗号(1) :アリスとボブのルールが一致した場合�
直線偏光と円偏光の
どっちを測った?
円偏光だよ
OK。じゃ、右回りだったら
0、左回りだったら1として、
鍵の最初のビットにしてね。
43
量子暗号(2) :アリスとボブのルールが不一致の場合�
直線偏光と円偏光の
どっちを測った?
直線偏光だよ
あら私は円偏光で
コーディングしたから、
このビットは捨てましょう。
44
(3) 盗聴確認:盗聴されていない場合�
直線偏光と円偏光の
どっちを測った?
円偏光だよ
OK。じゃ、これはテストビットに
しましょうか。答まで言ってみて。
右回りでしょう?
その通り。この分だと盗聴されて
ないようね。じゃあ続けましょう
45
(4) 盗聴確認:盗聴者がいる場合�
直線偏光と円偏光の
どっちを測った?
円偏光だよ
OK。じゃ、これはテストビットに
しましょうか。答まで言ってみて。
左 回りでしょう?
それは変! じゃあこの区間の鍵は
捨てましょう!
46
偏光板の実験�
送信者�
送信者�
受信者�
配置(A)�
47
受信者�
受信者�
配置(B)�
偏光板の実験�
送信者�
送信者�
盗聴者�
受信者�
配置(A)�
48
盗聴者�
受信者�
受信者�
配置(B)�
Single-�
Photon�
polarization�
modulation�
QKD scheme �
without �
entanglement�
QKD scheme �
utilizing �
entanglement�
49
Single-�
Photon�
phase �
modulation�
Coherent-light �
phase �
modulation�
BB84 GV95 B92, HMGI95
KI97 Grangier, Hirano
E92
IKW96
図面提供:NTT物性科学基礎研究所 量子光物性研究部 都倉康弘部長
速度、伝送距離の現状�
単一光子系量子鍵配送方式�
1550nm帯、光ファイバ伝送�
10 M�
470kbit/s,
10 km
1 M�
鍵生成速度�( bit/s)�
100 k�
AIST 04�
10 k�
NTT 07�
NEC 04�
NEC 05�
NTT-日大 07
(InGaAsAPD)�
三菱 00�
IBM 00�
1 k�
BT 95�
AIST 01�
Geneva 00�BT 98�
100�
NICT-NECNIST 08�
Geneva 02�
学習院 01�
日大 02�
LANL 97�
10�
HW 01�
LANL 00�
東芝C 04�
1�
40�
60�
166bit/s,
100 km
NTT-Stanford-NIST
07�
(SSPD)�
MagiQ 03 (?)�
LANL-NIST�
07� 東芝C 04�
三菱 04�
三菱 02�NEC 03�
80�
音声通信 64 kbit/s, �
17kbit/s,
105 km
東芝C 07�
20�
・��は生鍵生成率�
・��は安全鍵生成率�
・下線はフィールド試験�
NTT-Stanford 06�
(Up-conversion + Si APD)�
NTT 04�
0�
・��BB84 (no-decoy)�
・��BB84 decoy�
・ DPS-QKD�
100�
距離 �(km)�
120�
NEC 04�
140�
12bit/s,
200km
180�
160�
50�
200�
51
もつれた三つの光子の発生実験�
レーザー光�
��非線形光学結晶�
GHZ状態と呼ばれる特殊な三つの光子�
光子の「2段引き出し」モデル�
光子の縦横偏光を測る → 上の引き出しを開ける�
��縦偏光 → ○と書いた紙が出てくる。�
��横偏光 → と書いた紙が出てくる。�
�
円偏光を測る→下の引き出しを開ける�
��右回り円偏光 → ○と書いた紙が出てくる。�
��左回り円偏光 → と書いた紙が出てくる。�
○�
・地球、月、火星の間で無線通信は出来るとする。(LOCC)�
�上�
�下�
実験:2人が「上」1人は「下」の引き出しをランダムに開ける。�
����たとえば・・・�
この操作を、第一便、第二便・・・ごとにランダムに行う。�
で、何が起きたかというと・・・�
○�
�
○�
とか、�
�
�
�
など、○が偶数個で は奇数個であった。(何回やっても)�
経験則「そういう規則で光子に○ が書き込まれているのだろう」�
→�予測できるようになる(物理法則化)�
たとえば・・・�
ここを開けたら�
何が出るか?�
�
○�
その通り!�
�
○�
○�
では応用問題�
○�
○�
ここを開けたら�
何が出るか?�
まずここが○の場合�
○�
○�
ここは となる�
○�
○�
○�
するとここは○�
�
○�
○�
○�
○�
○�
�
○�
○�
そうしたら�
ここは だろう�
次に、ここが の場合�
○�
○�
ここは○となる�
�
○�
○�
するとここは �
○�
�
○�
○�
�
○�
�
○�
○�
つまりどんな場合もここは と予測される�
○�
○�
ところが実験事実は!?�
○�
この矛盾をどう解釈したらいいのか?�
○�
○�
推論自体は間違いない。→ 前提を修正しなければ!�
これまでの前提とは?�
・3粒子にはあらかじめ○ が書いてある紙を、ある規則で引き出し�
�に入っている。我々はそれを開けてみただけ。(実在論)�
・遠方に引き離された3つの光子は独立で、どんな連絡も取り合えない。�
�(局所性)�
二つの可能性:�
(1)  三粒子は瞬時に連絡を取り合い、紙を書き替えている。(相対論に違反)�
(2)  相対論に違反しない、何か新しい背後の結託があるのでは?�
→�
(1)� :(正統から異端に転向した)D. Bohmの量子論。�
(2)の1:正統派コペンハーゲン解釈・・・大多数の物理学者が採用�
(2)の2:多重宇宙理論�
この「新しい背後の結託」は「entanglement」と名付けられた。�
今のところ(1)、(2)の1、(2)の2は同等。�
(どれが正しいか区別する実験はない。)�
71
研究室の最近の研究成果�
http://www.qi.mp.es.osaka-u.ac.jp/
[1] 量子誤り訂正
�����の理論と実験
Nature(2003), PRL(2005)
Nature Photonics(2008)
[2] 新しい量子暗号方式
�����の提案�
���PRL2005, PRL2007
(
暗
号
処
理
速
度
対
数
)�
光ファイバーの長さ�
[3] クラスターステート量子
演算 Phys. Rev. Lett.(2008)
まとめ�
量子力学には不思議な性質がある:�
�・並列処理�
�・不確定性原理�
量子情報科学:�
「これらの不思議な性質を有効に使うと、今までにない�
�革命的情報通信ができるのではないか?」�
��(1)量子暗号(プライバシー保護)�
��(2)量子コンピューター(計算能力拡大)�
��(3)量子テレポーテーション(電話で物質転送)�
��(4)量子ゲーム�
(3)(4)はまたの機会に。�
テクノロジーとしても学問としても、新しく面白い�
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