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世界初 反射防止コートがいらない曲面ガラスレンズを開発

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世界初 反射防止コートがいらない曲面ガラスレンズを開発
i〒212-8554
i神奈川県川崎市幸区大宮町1310
iミューザ川崎セントラルタワー
2008.5.21
ihttp://www.nedo.go.jp
理事長 村田 成二
世界初 反射防止コートがいらない曲面ガラスレンズを開発
(表面反射率0.2%の曲面レンズの超精密モールド成型に成功)
NEDO技術開発機構は、平成 18 年度より「次世代光波制御材料・素子化技術プロジェクト【プロジ
ェクトリーダー:(独)産業技術総合研究所光技術研究部門 西井準治主幹研究員、参画企業:松下
電器産業株式会社、日本山村硝子株式会社、他 2 社】」を実施しており、ガラスレンズ表面の反射を
防止するために、光の波長よりも小さなナノ構造をモールド法で形成する技術開発に取り組んできま
した。
この度、世界ではじめて周期 290 ナノメートルの表面反射防止構造(1)が形成されたガラスレンズを
超精密モールド法で一発プレス成型することに成功しました。表面反射率は従来ガラスの 1/25 に相
当する 0.2%を達成できました。デジタルカメラやビデオカメラの画質が大幅に向上するだけでなく、こ
れまでのレンズ成型と反射防止コーティングの 2 つの工程がひとつになり、生産コストが大幅に削減さ
れます。
1.開発のポイント
図1に示すように、従来のカメラ用ガラスレンズは研磨によって製造されていましたが、最近は「モー
ルド法」に代わり、製造工程が大幅に短縮されました。しかしながら、その後の「反射防止膜のコーティン
グ」という工程は依然として必須でした。今回開発された「超精密モールド法」では、ガラス成型と同時に
反射防止用の微細構造を曲面ガラスに転写することで、反射防止膜のコーティング工程も不要になり、
カメラやDVDレコーダー用信号読み取りレンズなどの製造コストと製造エネルギーの大幅な削減が期
待されます。
また、今回開発した反射防止構造は、従来の反射防止膜では困難であった「広い波長域」と「広い入
射角度」での優れた反射防止機能をもっているため、デジタルカメラなどの高画質化に大きく寄与すると
同時に、フラットパネルディスプレイ、光ディスクレコーダにも応用展開可能な技術です。
製品
球面レンズ
検査
コーティング
洗浄
芯取り
剥がし
研磨
中仕上げ
第二面焼き付け
剥がし
研磨
中仕上げ
第一面焼き付け
第二面荒仕上げ
従来法
第一面荒仕上げ
光学部材
ステ ンレ ス
真空容器
ヒー ター な ど
イオ ンま た は
微 粒 子 化し た
ガ ラス
真 空 ポ ンプ
製品
球面/非球面レンズ
検査
コーティング
洗浄
冷却
プレス
加熱
超精密モールド法
図1 超精密モールド法によるレンズ製造プロセス
-1-
反射防止コート
2. プロジェクトの背景
デジタルカメラ、フラットパネルディスプレイ、光ディスクレコーダなどの情報家電分野では、高画質化
に対するニーズがますます高まっています。これらの製品には様々な光学部品が使われており、高機
能化の要求は日増しに強くなっています。特に、デジタルカメラやビデオカメラのレンズの約 90%以上に
採用されているガラスレンズの高機能化、低コスト化は極めて重要な課題です。
デジタルカメラのほとんどのレンズはモールド法でプレス成型することで製造されます。その生産量は
年々増加していて、最近は年間 10 億個以上にも及びます。成型されたレンズをそのままカメラに使うこ
とはできず、画質の低下の原因となるフレアー (2)やゴースト (3)を抑えるために、レンズの表面に反射防
止膜をコーティングする必要があります。反射防止膜のコーティングには、レンズ成型機とは別の大型
設備が必要で、多くの製造エネルギーと時間が必要です。しかも、人間の目に見える光の波長帯
(400nm~800nm)全体で低反射を実現するためには、何層もの膜をコーティングする必要があり高価な
ものとなってしまいます。
レンズ表面に光の波長よりも小さい円錐状あるいは四角錐状のナノ構造を敷き詰めれば、入射する
光はレンズ表面がどこにあるのか認識することができず、垂直入射の場合でも斜め入射の場合でも反
射することなくレンズに入ります。その原理を図 2 に示します【資料①】。この様な効果は 20 年以上も前
から知られていましたが、数百℃の高温での成型が必要となるガラスレンズの表面に形成できた実例
はありませんでした。その理由は、成型時の高温に耐えるだけのレンズ、しかも、ナノ構造が形成された
曲面モールドを作ることができなかったからです。
NEDO技術開発機構では、このような課題を解決するためのナノテクノロジーの創出を目的として、
平成 18 年度より「次世代光波制御材料・素子化技術」プロジェクトを実施しており、ガラス表面に反射防
止構造を形成するためのガラスモールド法の開発に取り組んできました。その結果、表面にナノ構造を
形成した耐熱性の高い曲面モールドを開発し、そのナノ構造がほぼ完璧に転写されたガラスレンズを成
型することに世界で初めて成功しました。図 3 はその製造プロセスのイメージ図です【資料②】。
3. これまで得られた成果
本プロジェクトでは、平成 19 年 6 月に、石英板の表面に 2 次元ナノ構造を形成し、それをモールドとし
てリン酸塩系ガラスを成型することで、反射率 0.56%の反射防止構造を得ることに成功しました。しかしな
がら、その当時の技術は、平面モールドにしか適用できず、レンズのような曲面への転写が不可能でし
た。
今回この課題の克服に取り組んだ結果として、以下のような研究成果が得られました。
目的とするナノ構造は、モールド材料をドライエッチング(4)することによって作製します。そのためには、
ナノ構造の基となるマスクパターンを作る必要があります。これまで平面上へのマスクパターン形成に
は電子線描画装置が使われていましたが、レンズ曲面に描画できる機能がありません。曲面にナノレベ
ルのパターンを形成できる唯一の方法が紫外レーザー干渉露光 (5)ですが、これまでにガラス用耐熱モ
ールドの表面へのパターニングは前例がありませんでした。本プロジェクトでは、曲面干渉露光に関す
る様々なノウハウを積み上げ、反射防止構造に最適な形状を大面積で形成することに初めて成功しま
した。
今回は、曲率半径 23mmの曲面モールド表面にマスクパターンを形成し、その後、ドライエッチングに
よって周期 290nm、穴深さ 350nmの錘形の反転形状を形成しました。ここでも、理想的な錘形が形成で
きるように、エッチングガスなどの条件の最適化を図りました。得られたモールドの表面にカーボン離型
膜を形成して、リン酸塩系ガラス (6) を成型しました。ガラスとモールドとが融着せず、モールド形状が忠
実に転写されるように、成型条件を最適化しました。その結果、モールドの逆円錐構造が反転した構造
高さ(7)290nmの円錘構造の成型に成功しました。
図 4 は、耐熱曲面モールドの表面に 2 次元的に形成した反射防止構造と成型したガラスレンズに形
成された反射防止構造の走査型電子顕微鏡写真です【資料③】。耐熱曲面モールドの表面はガラスが
入り込みやすく、また抜けやすいように、錘形の傾斜角度を最適化しました。しかも、反射の原因となる
平坦な面が全く残らないように加工しており、成型したガラスレンズの表面には忠実にモールドの反転
形状が形成されています。
このようにして成型したガラスレンズの表面反射率は、波長 530nm の垂直入射光に対して 0.22%であ
り、構造が形成されていないフラットな面の 1/25 に低減されており、実用レベルの反射防止構造として
機能することを実証しました。図 5 は、今回開発したガラスレンズ(反射防止構造付き)と従来ガラスレン
-2-
ズ(反射防止構造無し)の性能比較です【資料④】。反射防止構造が形成されていないフラットな面のガ
ラスレンズでは表面反射光によって裏面の文字が見えにくくなっており、反射防止膜の形成が必要です。
一方、反射防止構造付きガラスレンズでは、裏面の文字ははっきりと見え、反射防止膜は必要ありませ
ん。
今回の反射防止レンズの製造技術は、年間 10 億枚以上製造されているレンズの製造コストと製造エ
ネルギーの大幅な削減に寄与するだけでなく、青色 DVD(ブルレイ)用のピックアップに使われる急勾配
の傾斜をもつレンズの反射防止などが可能になり、レンズの高機能化にも波及すると期待されます。
【共同開発機関 】
(独)産業技術総合研究所
松下電器産業株式会社
日本山村硝子株式会社
4. お問い合わせ先
【本事業内容についての問い合わせ先 】
NEDO技術開発機構 ナノテクノロジー・材料技術開発部 坂井、木場
TEL 044-520-5220
【取材申込み、その他NEDO技術開発機構の事業についての一般的な問い合わせ先 】
NEDO技術開発機構 研究評価広報部 上坂、山本 TEL044-520-5151
なお、本件は経済産業記者会、経済産業省新聞記者会ペンクラブ、経団連会館内エネルギー記者会、
文部科学省内の文部科学記者会及び科学記者会にて、同時に資料配付を行っております。
(備考)「NEDO技術開発機構」は、「独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構」の略称です。
—
用語の説明
(1) 表面反射防止構造:光学材料の表面に光の波長よりも小さな錘形を 2 次元的に配列し、空気
から材料に入射する光が感じる屈折率変化を抑え、反射を防止するための構造(蛾の目の構
造がよく似ているので、モスアイともよばれる)。
(2) フレアー:カメラによって写真・映像を撮影する際、レンズに強い光が当たったときにレンズや
鏡胴内で光が乱反射して発生する、写真が白っぽくなったり、光がにじんだりしたもの。
(3) ゴースト:光源とは違った場所にできる光の輪や玉。
(4) ドライエッチング:イオン化したガスの物理的エネルギーによるエッチング、又はイオン化し活
性化された反応性ガスの物理的エネルギーと化学的作用を併用したエッチング手法。
(5) 紫外レーザー干渉露光:可視域よりも波長の短い紫外線レーザーの干渉縞をフォトレジストに
露光し、干渉周期に応じたパターンを形成する技術
(6) リン酸塩系ガラス:リンがガラスの主たる骨格を形成するガラス。
(7) 構造高さ:ガラス表面に形成された微細構造の高さ(“アスペクト比(構造の溝幅と高さの比)”
で表現することもあるが、錘形の場合は溝幅の定義ができないので本紙では構造高さと呼
ぶ)。
-3-
【資料①】
99.8%
表面反射防止構造
光は空気とガラスの界
面が判別できず、反射
が起こらない
95%
デジカメのレンズ表面・
裏面で光の反射による迷
光が発生し、フレアや
ゴーストの原因になる
フラットな面
表面で入射光の5%
以上が反射で失われ
る
図 2 反射防止構造の原理
レンズ表面に光の波長よりも小さな円錐状あるいは四角錐状のナノ構造を敷
き詰めた構造を形成すると、入射する光はレンズ表面がどこにあるのか認識す
ることができず、垂直入射の場合でも斜め入射の場合でも反射することなくレン
ズを透過します。
従来は、表面に反射防止膜をコーティングすることで同様な効果が得ていま
したが、レンズ成型機とは別に成膜設備が必要で、斜め入射の光を幅広い波長
帯で低反射にすることは困難でした。
-4-
【資料②】
数百℃、5MPa
ナノモールド
ガラス
成型前
成型中
成型後
図 3 ナノモールドによる反射防止レンズの成型イメージ
ナノ構造が形成された耐熱モールドとガラスを、ガラスが軟化する温度
まで加熱後にプレスすることで、反射防止レンズが得られます。
-5-
【資料③】
290 ナノメートル
SiC レンズモールド
2 ミクロン
ガラス成型品
(リン酸塩系ガラス)
2 ミクロン
図 4 反射防止構造を形成した SiC レンズモールド(直径 16mm、
上)およびガラス成型品(下)の走査電子顕微鏡写真
-6-
【資料④】
16mm
反射防止構造付き
反射防止構造無し
(今回開発したガラスレンズ)
(従来のガラスレンズ・コーティング無し)
図 5 今回開発したガラスレンズと従来のガラスレンズの性能比較
-7-
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