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Vol.7 No.l
environment Update
−海外環境関連情報誌−
第 37 号
Vol.7 No.1 (2005.5)
CONTENTS
WEEE & RoHS 指令等の最新動向
RoHS 追加除外は再検討へ
2
<参考資料> 理事会決定 1999/468/EC
8
寄稿
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
株式会社 プロティビティジャパン
アソシエイトディレクター
12
蛇抜信雄
モニタリング
欧州 ・連載 欧州環境規制動向
∼ 在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
24
米国 ・連載 米国における環境関連動向
∼ 在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
49
59
中国〖19〗EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
組合員のページ
東芝グループの総合環境効率を2倍に
株式会社東芝 環境推進部 部長
65
蜂屋利巳
環境・安全グループニュース
環境・安全グループ担当委員会活動の状況
事務局便り
71
69
WEEE & RoHS 指令等の最新動向
RoHS 追加除外は再検討へ
環境・安全グループ
WEEE & RoHS 指令に関する EU レベルの検討は一進一退の様相を呈しており、WEEE マーキング、
RoHS 閾値、RoHS 追加除外など企業の準備に必要な条件がなかなか定まらない極めて不安定な状
態が続いている。一方、EuP 指令案に関する審議は、欧州議会、理事会、欧州委員会の三者で修
正案の合意に達するなど進展を見せ、また REACH 規則案については、これまで多方面からの議
論が出ている中、欧州議会第 1 読会が開始されるなどの動きがみられた。これらの状況について、
特に WEE & RoHS 指令関連の動向を中心として、当組合ブラッセル事務所からの情報、英国 DTI
の TAC 非公式記録等に基づき以下に報告する。
I.
WEEE & RoHS 指令関連動向
WEEE & RoHS 指令の詳細を検討する TAC(技術適応委員会)は、3 月 16 日及び 4 月 19 日に開催さ
れ、RoHS 指令の適用除外追加等について審議を行った。
3 月の TAC では 2004 年 12 月 10 日 TAC で採決した第 1 次コンサルテーションに関する追加除外
案が再提案され、可決されたが、欧州議会で同案を見直しすべきとの決議が満場一致で採択され、
欧州委員会が見直しを余儀なくされている。
また 4 月の TAC では 2 項目の追加除外案が提案されたが、否決されたことから、理事会に回付さ
れ、理事会での審議、結論待ちの状態である。
こうしたことから、追加除外について結論が出るのはかなり先になるものとみられ、不確定な状
態が続いている。
それぞれの TAC での議論と結果およびその後の動向を整理すると以下の通り。
1.3 月 16 日 TAC での RoHS 適用除外追加等採決とその後の動向
TAC において第 1 次コンサルテーションに関する RoHS 指令適用除外の追加及び修正提案を
採択した。
・ これに対して欧州議会は、コンサルテーションにおける問題、除外要望の評価における問題
及び個々の除外項目決定案自体の問題を指摘し、欧州委員会が与えられた権限を越えている
として、決定案を再検討するよう求める決議を採択した。
(TAC 決定および欧州議会決議の詳細については、本誌前号 3 ページ参照)
・ 現在、欧州委員会は本件について再検討し、議会に通知しなければならないという考えを表
明している。その理由として、1999 年 6 月 28 日付理事会決定 1999/468/EC(欧州委員会に
付与された実施権限の実行手続きを規定)第 8 条により、欧州委員会が付与された実施権限
を越えていると欧州議会が決議した場合、欧州委員会は決定案を再検討しなければならず、
今後取ろうとする行為およびその理由を議会に通知しなければならないことを挙げている。
(理事会決定 1999/468/EC は 8 ページに掲載)
JMC environment Update
2
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WEEE & RoHS、EuP 指令を巡る最近の動き
2.4 月 19 日 TAC および関連情報
(1)RoHS 指令追加適用除外(2 項目)の採決
・ 「ポリマー用途中の Deca-BDE」と「鉛青銅ベアリング・シェル及びブッシュ中の鉛」を
RoHS 指令の追加除外とする欧州委員会案について審議が行われた。
・ 審議においては、Deca-BDE の除外に焦点が当てられた。すなわち、Deca-BDE については
環境や人の健康への影響の懸念が依然あり、さらなるデータが出されるまで除外決定を延
期すべきとの意見が数カ国から出された。これに対し、欧州委員会は、EU リスクアセスメ
ントは昨年終了し、法的に規制すべきリスクはないとの結論が出されていると反論し、英
国およびその他の加盟国はこの反論を支持した。
・ 欧州委員会は、加盟国が自主的な排出削減と更なる監視のプログラムにすでに合意してい
ること、回収されたデータは定期的に見直され、Deca-BDE にリスクがあると判明した場
合には欧州委員会が直ちに対応することを説明。欧州委員会の見解において、決定案は、
加盟国、産業、他の総局および法務部局との協議を経て、しかるべき考慮が行われている
とされ、予定通り採決が行われた。
・ 採決の結果、賛成票が特定多数(321 票中 232 票)に達せず、除外案は否決された。(賛
成 155、反対 100、棄権 51)
・ 同案は理事会および議会に提出され、さらに検討が行われる。*
*決定案は理事会決定 1999/468/EC の規定により理事会の他、議会にも送られるが、採決は
理事会で行われることになっている。理事会での審議期間は 3 ヶ月。3 ヶ月以内に理事会で
可決するか何も決定しない場合、案が採択となる。
(2)RoHS 指令適用除外の追加(第 2 次コンサルテーション関係)
・ 第 2 次コンサルテーションに関する RoHS 指令適用除外の追加(19 項目**)については、
欧州委員会は、独立の技術コンサルタントによる調査を近く行い、すべてについて猶予期
間を与えるのでなく除外のための考慮が行われることになろうとしている。委員会として
は迅速な調査スケジュールを計画しているが、調査結果が出るのは早くとも本年末と見込
まれている。
(⇒少なくとも 2006 年初頭までは、本件について採決は行われないことにな
る。)
**第 2 次コンサルテーションにかけられた除外対象項目は 22 あったが、そのうち、
①第 2 項目と第 3 項目はともにクリスタルグラス関係で除外申請者が一括して既に調査を
行っている項目なので統合
②第 20 項目(2006 年 7 月 1 日より前に上市されたプリンタおよび複写機で、販売、レン
タルまたはリース、あるいはその他に家庭以外でビジネスに使用された製品から回収さ
れた部品を、2011 年 7 月 1 日までオリジナルメーカーの循環システム内で同じ目的で
再使用する場合における当該部品に含まれるハンダの中の鉛と表面処理に使用される
六価クロム)は欧州委員会法務部局の検討に付されることとなり、リストから削除
③第 22 項目(航空機用機器中の禁止 6 物質の用途)は当初から RoHS の対象範囲外であ
ると欧州委員会法務部局の意見があることから削除
となり、19 項目になったものである。
(22 項目のリストは、本誌 Vol.6 No.5、7 ページに掲載)
・ 上記以外の新規除外要望(18 項目)については、欧州委員会は、資金的に許されるなら
ば、除外チェックリストと企業から出された技術情報の見直しを行う技術専門家への調査
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WEEE & RoHS、EuP 指令を巡る最近の動き
委託を行いたいと考えている。
(3)RoHS カテゴリー8、9 問題
・ RoHS 指令カテゴリー8(医療機器)および 9(監視・制御機器)に関する見直し日程につ
いては、欧州委員会は、2005 年 3 月に本件調査のための入札を行った旨説明したが、本年
夏休み以前に契約できるようにとの希望が出された。本調査は完了までに 10 ヶ月から 12
ヶ月を要すると見込まれている。
(⇒カテゴリー8、9 をどのように扱うかについては、本調査結果が出てから欧州委員会で
検討されるので、少なくとも 2006 年上半期まで提案や決定は行われないということにな
る。)
(4)ICT 製品の在庫品移動(RoHS 上の扱い)
・ ある加盟国が、リファービッシュされた ICT(情報通信技術)製品の在庫を顧客の欠陥機
器と交換するため国際間で動かすことを許す必要があるとの産業界の懸念を取り上げ、こ
れについては、RoHS 不遵守のリファービッシュ製品は 2006 年 7 月 1 日より前に EU に上
市しなければならないとする RoHS 指令の要求事項により明らかに制限を受ける、との見
解を示した。
・ 欧州委員会は、本件に関して産業界から追加の説明を受けており、本件を法務部局に回付
して判断を求めており、回答待ちとなっている旨説明。
(5)RoHS 適合性問題
・ EC 共同研究センターの標準材料・測定研究所(IRMM)から、カドミウム、水銀および鉛
の標準材料は存在するが、臭素系難燃剤の標準材料を開発する必要性があるとの説明があ
り、欧州委員会は、この開発のため資金が提供されるべきかどうか TAC に見解を求めた。
結局、これらの材料の開発は、今後の RoHS 検査体制に貢献するので、支援されるべきと
の結論に達した。
(6)WEEE & RoHS 灰色製品問題
・ WEEE & RoHS 指令の対象かどうか明確化が求められてきた製品(灰色製品)のリストが
欧州委員会から出されたが、あまり議論されず、欧州委員会は加盟国から 4 週間以内にコ
メントを出すよう要請した。
(7)WEEE 付属書 II に関する検討
・ 「WEEE 付属書 II ワーキング・サブグループ」の進捗レポートが出された。同会合には、
4 月 14 日にハーグで開催され、加盟 9 カ国のほか、WEEE 執行フォーラムの代表、欧州電
子リサイクル業者協会(EERA)および同サブグループを支えるコンサルタント達が出席し
た。そこでは処理の要求事項の解釈に役立つようなガイダンス文書を用意することに合意
した。いくつかの加盟国は、同付属書が技術的に見て時代遅れの処理方法を反映している
と感じていた。そして付属書 II における処理の際に「除去」される品目への言及が文字通
り解釈されるべきかどうか議論された。
・ またサブグループ会合では、付属書 II を有益な形でどのように修正すべきかについて最初
の議論が交わされたが、これについては次回予定されている 5 月 27 日の会合でさらに議
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4
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WEEE & RoHS、EuP 指令を巡る最近の動き
論される予定である。いかなる修正が可能かという点に関する法的見解は明確でなく、現
在調査中である。
・ 加盟国代表者の間では、付属書 II の規定は実際に処理する際に困難な問題を引き起こすと
いう認識で一致している。ある加盟国は、欧州委員会に」対して、付属書 II で想定する処理
を監視する代替のアプローチが許容され得るか示すよう迫った。
(8)WEEE 生産者登録における加盟国間の調和
・ 欧州委員会は、第 8 条と第 9 条に関する情報を含めた生産者の登録について加盟国間の取
り組みがより調和されたものとなるよう、いくつかの生産者グループからロビーを受けて
きたことを言明した。
・ 加盟国代表者は、自国の登録を確立する方法をそれぞれ示したが、それらは大きく以下の
カテゴリーに分類される。すなわち、政府または執行機関が登録を司る加盟国、公的機関
が生産者組織と協力して実施する加盟国および生産者主導の機関が登録を司る加盟国。加
盟国はそれぞれの第 8 条へのアプローチを説明したが、多くは集団的スキームを生産者の
保証を提供するものとみている。
・ 大多数の加盟国は、原則として登録内容の調和およびデータ交換を支持できるとしたが、
数カ国は、実際問題として、今から調和を図るのは遅すぎるとの見解を示した。
(9)WEEE マーキング規格(分別回収マーク、生産者・ブランド名等)
・ 欧州委員会は、CENELEC(欧州電気標準化委員会)提案の規格は指令に整合しないとして
CENELEC に再検討を要請し、回答待ちの状態と説明した。***
***欧州委員会の主張は、処理業者への情報提供の場合、製品以外に取り扱い説明書等にマ
ークして良いことにはなっていないとの理由による、と言われている。
(10) WEEE 指令に関する欧州委員会の研究
・ 欧州委員会は、専門機関に委託して加盟国および他の欧州諸国における WEEE 指令への取
り組みに関する調査を行っており、WEEE 指令の実施を含めた取り組みについて評価する
ことを伝えた。TAC の代表者達はこの調査でインタビュー等を受けると見込まれる。
II. EuP 指令案の動向
1.
審議経過と見通し
EuP 指令案については次のような経過を経て、かなり早いペースで審議が進んでいる。
2003 年 8 月 1 日
欧州委員会、EuP 指令案を提出
欧州議会第 1 読会を経て
2004 年 11 月 23 日
理事会、「共通の立場」採択
2005 年 3 月 15 日
欧州議会環境委員会、「共通の立場」を修正する第 2 読会勧告承認
2005 年 4 月 6 日
議会、理事会及び欧州委員会の間で非公式会議、妥協案を合意
2005 年 4 月 13 日
議会本会議、妥協案(修正案)採択
2005 年 6 月頃
理事会、議会修正案を採択見込み(指令成立)
2005 年 10 月頃?
実施指令の策定開始
JMC environment Update
5
(→官報告示)
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
WEEE & RoHS、EuP 指令を巡る最近の動き
2.合意内容(骨子)
欧州議会、理事会及び欧州委員会の間で合意された内容(骨子)は、以下の通り。
・ 法的根拠を欧州共同体設立条約 95 条(域内市場の確立)のみとする。
・ 実施措置における優先対象製品を以下のものとする。
(欧州気候変動プログラム対象製品を優
先)
暖房・給湯機器、電動モーターシステム、照明器具、家庭電気製品、事務機器、民生電子機
器、換気・空調機器
・ 実施措置において対象とする製品の判断基準は以下の通り。
−EU 内で年間 20 万台を超える販売量・取引量
−EU 内で環境の及ぼす影響が著しいこと
−過度の費用をかけずに環境負荷を著しく改善する可能性があること
(他に関連する EU 法規が存在しないこと、適切に対応し得る市場が不十分なこと、類似製
品で環境性能に大きな差があることを考慮)
・ 自主規制(self-regulation)規定を導入
・ 中小企業支援のための施策の導入を考慮
(注)実施措置に向けての動きとしては、すでに欧州委員会がオランダのコンサルティング企
業 VHK 社に委託して調査を開始している。
III. REACH 規則案の動向
1.審議経過と見通し
REACH 規則案については、上記 EuP 指令案とほぼ同時期に提出されたが、これまで多くの利害関
係者から様々な意見が出されており、なお議論百出という状況が続いている。審議はようやく欧
州議会第 1 読会に入った段階である。
2003 年 10 月
欧州委員会 REACH 規則案を提出
2005 年 3 月
欧州議会環境委員会、サコーニ議員(ラポーター)修正案提示(第 1 読会)
2005 年 5 月 24 日
議会産業委員会
2005 年 6 月∼7 月
議会環境委員会、採決見込み
2005 年 10 月頃
議会本会議、採決見込み
2.サコーニレポートで注目される点(骨子)
・ 製造者、輸入者、川下ユーザー等が物質の生産、使用、販売により生じるリスクを適切かつ
透明な方法で知らせ、最も安全な物質を選択するという原則の明示(注意義務の強化)
・ REACH 規則への適合マークの導入
・
ラベルによるリスクに基づいた製品中の化学物質に関する情報の消費者への伝達に関する
製造者の義務
・ 化学品庁による優先評価物質リストの作成
・ 動物実験を用いた試験結果共有の強化
(上記 EuP 指令案および REACH 規則案の審議動向関連して「EU の立法過程」を次ページに掲載
したのでご参照下さい。
)
□
JMC environment Update
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WEEE & RoHS 指令等の最新動向
EU の立法過程
日本機械輸出組合
環境安全 G 作成
(共同決定手続き)
∼EC 条約第 251 条に従う指令の採択∼
期
欧州委員会
法案を提出
限
欧州議会
な
(第 1 読会)
修正提案(あれば)
理事会、欧州議会が修正提案を
しない場合、提案を採択できる
理事会、欧州議会の修正提案を
全て承認した場合、修正版を採択
し
修正提案
理事会
理事会、共通の立場を特定多数決で採択
(伝達)
欧州議会
(共通の立場を採択するに至った理由を欧州議会に通知)
欧州議会(伝達 3 ヶ月以内)
第2読会
欧州議会、共通の立場 の承認 or 決定を
欧州議会、総議員の絶対多数決により共通の
欧州議会、総議員の絶対多数決により共通の
行わない場合、共通の立場に従い採択
立場を拒否した場合、提案は採択されない
立場を修正提案した場合、修正案の送付
理事会 3 ヶ月以内*に
特定多数決☆で行動
☆
全会一致
欧州委員会、修正について
の意見を述べる
否定的な意見の場合
理事会、欧州議会の全ての修正を承認した場合、
理事会、一つでも修正を承認しない場合、
修正された共通の立場の形で採択
理事会議長、欧州議会議長との合意で、6 週間以内に調停委員会開催
・構成 : 理事会のメンバー又はその代表、同数
の欧州議会の代表
・欧州委員会 :手続きに参加、必要な発議
調停委員会
・多数決で共同草案の合意
調停委員会、6週間以内*に
共同草案を承認した場合
欧州議会、投票の絶対多
数決で採択か否か決定
調停委員会、共同草案を承認しなかった
場合、不成立
・第2読会の欧州議会の修正提案を検討
* 3 ヶ月及び 6 週間の期間は、
欧州議会 or 理事会の発議により、
夫々最大1ヶ月及び2週間延長
理事会、特定多数決で
採択か否か決定
どちらか一方が、共同草案を
承認しなかった場合不成立
YES
YES
成立
JMC environment Update
7
Vol.7 No.1 (2005. 5)
寄
稿
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
株式会社プロテイビテイジャパン
アソシエイト・ディレクター 蛇抜信雄
(当組合「貿易と環境専門委員会」
「環境問題関西委員会」元委員長)
Ⅰ.重金属汚染
金、銀、水銀、クロム、カドミウム、鉛、鉄など、比重が 4∼5 以上の金属を重金属という。重
金属は毒性が強いものが多く、鉛および水銀をはじめとする有害重金属類は自然界に普通に存在する
物質である点で、他のいわゆる有害化学物質と異なる。これら金属類は、通常他の元素との化合物と
して存在している。これら有害重金属は劣化しない。したがって鉱石の採掘、金属の精錬、あるいは
副生物としての排出などで人間の生活環境に取り込まれる。それらは微量であっても繰り返し摂取し
た場合、体内で蓄積され、人体に有害である。水俣病は有機水銀、またイタイイタイ病はカドミウム
が中毒の原因である。
水俣病と呼ばれる有機水銀中毒は、1956 年に熊本県水俣湾周辺の住民に発生した。同湾岸にあ
るチッソ水俣工場のアセトアルデヒド製造工程で使用していた無機水銀の触媒から生じたメチル水銀
が工業排水として水俣湾に排出され、魚貝類中にメチル水銀が蓄積し、その汚染された魚貝類を摂取
することによって発生した公害病である。イタイイタイ病と呼ばれるカドミウム中毒は富山県神通川
流域で多発した公害病。腎障害と骨軟化症を主症状とする慢性カドミウム中毒である。原因とされる
カドミウムの汚染源は、神通川上流にあった三井金属鉱業神岡鉱業所で、亜鉛を製錬した後に出るカ
ドミウムを含んだ排水をそのまま神通川に流していたために汚染を招いた。イタイイタイ病は、同地
域の汚染された農作物や飲料水を通じてカドミウムを長期間摂取したことにより引き起こされたとさ
れる。
これら重金属の多くは、有害性が指摘されながらも、代替物質の利用可能性の点からそれぞれ
の特性を利用して、様々な工業で有用な物質として現在まで利用され続けてきた。例えば鉛は、現在
自動車バッテリーの主流である鉛蓄電池で電極として使用されている。クリスタルガラスや光学ガラ
スにも鉛が添加されている。これら広範な、また長い年月の利用に対して、その環境への包括的な影
響評価が行われ、汚染の深刻さが認識されたのは最近のことである。ここでは有害重金属の中から水
銀および鉛を取り上げる。
1. 水銀
水銀は高度有害物質であり、自然界にもまた汚染物質としても存在する。無機態の水銀化合物
はどこにでも存在するが、体内に吸収されにくい。だが、有機態のメチル水銀は毒性が非常に強く、
魚類、鳥類、人間に吸収されやすい。自然界に表出した水銀は最終的に水に溶け込み、堆積し、たと
え無機水銀であっても汚染された水の中に普通に見られるバクテリアがそれを有機水銀に容易に転換
してしまい、それが食物連鎖へと入り込むことになる。人間への汚染は空気や水を通じても行われる
ものの、多くは食物、特に魚貝類を摂取することによる経口汚染である。人間が高濃度の水銀に汚染
JMC environment Update
12
Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
されると脳、心臓、腎臓、肺や免疫システムを損傷する。これまでの研究では、通常の魚の摂取によ
これら健康障害が起こるとは考えられていないが、胎児や乳幼児に高濃度のメチル水銀が蓄積すると
思考や学習能力に影響を及ぼす。また 1999 年から 2000 年にかけて米国の成人女性を対象に行われた
体内水銀蓄積調査では、約 8%の被験者が米国の水銀体内蓄積基準値を上回った。一般的にグリーン
ランドや日本など魚貝類摂取の多い国では、蓄積レベルは更に高くなると言われている。
水銀が人間および自然環境に入り込む源泉は、主に以下の 3 つのカテゴリーに分類できる。
(1) 天災などにより自然界に存在していた水銀(汚染物質を含めて)が移動。
(2) 天然資源の不純物として含まれる水銀がその資源の使用により放出。
(3) 工業材料として使用された水銀が、商品の使用や廃棄に伴い放出。
下図は水銀の汚染源とその侵入に対するコントロールをまとめたものである。上述のカテゴリーのう
ちコントロールすべきは(2)および(3)である。カテゴリー(2)に関して現在最大の問題は石炭の燃焼に
よる、不純物としての水銀の発生であり、これにはクリーンエネルギーへの移行や不純物除去装置の
使用などが対策として考えられる。カテゴリー(3)については次段落で説明する。
カテゴリー(3)に分類されるものとしては電池や計測機器への使用、塩素アルカリ生産への使用
などが挙げられる。以下は UNEP がまとめた、2000 年の世界の水銀に対する需要の内容である。
放出は人間のコン
地震や火山噴火
トロールを超える
既存物の再移動
人間および
消費削減
石炭など原材料
中の不純物
自然環境
代替材の使用
出口での除去技術
消費削減
産業 使用に 伴う
リサイクル
代替材の使用
水銀の放出
出口での除去技術
UNEP Global Mercury Assessment 2003 より作成
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
カテゴリー
EU(15 カ国)(t)
米国(t)
その他(t)
世界合計(t)
95
72
630
797
0
0
650
650
電池
15
16
1050
1081
歯科材料
70
44
158
272
計測機器
26
35
105
166
照明
21
17
53
91
電気コントロール
25
50
79
154
50
50
75
175
284
2800
3386
塩素アルカリ(水銀
電池生産に使用)
金・銀採掘
スイッチなど
その他
302
合計
European Union, US & global mercury demand 2000
上の表によると、途上国における電池生産に関連する需要が水銀需要の大きな位置を占めていること
がわかる。これは 2000 年の EC 貿易白書によれば中国、インド、その他アジアの国における電池生産
によるものとの報告がある。
この現状に対して、2004 年に UNEP および有力環境 NGO が取りまとめた「世界水銀戦略に関
する NGO ブループリント」では 2015 年までの水銀需要削減に関して、以下の表のような提言をして
いる。
塩素アルカリ産業
EU・US の需
その他地域需
世界需要
世界需要
世界需要
要/2000 年
要/2000 年
2000 年
2010 年
2015 年
167
630
797
400
0
0
650
650
500
250
31
1050
1081
81
81
114
158
272
200
100
38
53
91
91
91
236
259
494
245
100
586
2800
3385
1517
622
(水銀電池生産)
小規模金採掘
電池
歯科材料
照明
計測機器
合計
NGO Blueprint for a global mercury strategy 2004
提言では特に電池および電池生産関連による水銀使用に焦点を当て、その削減を求めている。水
銀汚染の深刻さと、その対応策のひとつとして電池由来の水銀汚染を削減することは、世界的なコン
センサスとなりつつある。
2. 鉛
鉛による環境汚染については、日本においても東京都新宿区牛込柳町で行われた住民の集団検
診において多数の人が鉛中毒と診断されたと報道されて(1970 年)
、一時世間の大きな注目を浴びた。
このころの高度経済成長の時代は、自動車が広く普及していった時代でもあった。当時その車の高出
JMC environment Update
14
Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
力のエンジンを支えた技術の一つにアンチノック剤1があり、そこには四エチル鉛などのアルキル鉛が
添加されていた。その結果、排気ガスに鉛が含有され、大気を介して環境汚染が広がった。この事態
は、アンチノック剤の有害性が指摘・解明され、無鉛ガソリンに置き換わっていくまで、広く先進国
で、また時間差をおいて途上国においても進行した。現在でも一部途上国では、広く有鉛ガソリンが
使用されているところがあるが、多くの国では無鉛ガソリンが定着しつつあり、それとともに世間の
鉛汚染への関心度が落ち着いた感がある。しかしながら、現在においても鉛汚染は引き続き高いレベ
ルにある。
鉛の人体への害については、主に神経系統への影響が挙げられる。鉛は成長過程にある人体へ
取り込まれ、蓄積されやすいため、成人と比較して子供への影響が大きい。鉛は飲食や呼吸などで体
内に取り込まれ、血液を介して脳や腎臓、肝臓に、最終的には骨にまで蓄積する。こうして蓄積した
鉛は、腹痛、嘔吐、頭痛、精神異常や学習機能への損傷を引き起こす。人体への鉛の主な侵入経路に
ついては、鉛に汚染された水や食品の摂取、鉛を含有した埃や砂などの吸引、鉛を含有する機器の使
用や処理にともなう摂取・吸引などが挙げられる。金属鉛は鉛蓄電池の電極板、鉛管、放射線遮蔽材、
活字、ハンダ、鉛ライニング、真鍮、青銅などに利用され、また無機鉛化合物は顔料、塗料、ゴムの
耐熱増強剤、塩化ビニル安定剤、農薬などに広く用いられる。
上述のように、人間の鉛の曝露は特に子供への影響が大きいため、その主要経路である室内環
境について様々な取り組みが行われてきた。米国を参考にすると、鉛を含有した室内用塗装はほぼ全
廃に向かっており、また既存の鉛濃度の高い住宅に関しては、政府が各種補助金や手当を用意して改
装を促進しているため、鉛に関する室内環境は大幅に改善されてきている。また家庭内での機器使用
に伴う曝露も、例えば鉛を含有する陶器の使用やヒスパニック系を中心とした家庭内療治での鉛使用
に関する啓蒙活動を経て、少しずつ改善が達成されている。その他の主要経路である水および食品へ
の汚染については、機器類の廃棄に伴う流出を源泉とする鉛の汚染に注目しなければならない。機器
類への鉛の使用が多いのは自動車産業および電気・電子産業であり、この中でも技術的問題、代替材
の問題から対応が分かれてきている。ここでは北米を例に取り、鉛の最大使用産業である自動車産業
の鉛に対する対策を見てみる。
カナダ政府の 2000 年の調査によれば、北米(米国およびカナダ)で産業用に鉛が 200 万メトリ
ックトン使用されているが、そのうち自動車関連への使用が少なく見積もって 115 万メトリックトン
と半数を超えている。その自動車の中での鉛の用途および汚染の側面をまとめたものが次頁の図であ
る。ここで考慮しているスターターライトイグニッションバッテリーは世界の市場の 80%で使用され
ているものである。
1 アンチノック剤
ガソリンのアンチノック性(耐爆性)を示す尺度で、0-100 で表す。ガソリンの成分中最もノッキングしやすい n-ヘプタンのオ
クタン価を 0、最もノッキングしにくいイソオクタンを 100 とし、試料と同一のアンチノック性を示すような n-ヘプタンとイソ
オクタンの混合物中の、イソオクタンの容量%をオクタン価とする。内燃機関の燃焼過程で、過早発火を起こしたり、異常爆燃を起
こしたりして、気筒内でカナヅチを叩いたような金属音を生ずる現象をノッキングといい、そのノッキングを起こしにくい性質がア
ンチノック性である。ノッキングが起きると騒音になるだけでなく、熱効率が低下し、エンジンを傷める。ガソリンのアンチノック
性を高めるための添加剤をアンチノック剤、またはオクタン価向上剤という。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
<0.1%
亜鉛コーティング
「自動車生産あたりの鉛使用」
ターンメタルはんだ付け <0.1%
電子部品半導体 <0.1%
鉛バッテリー
95.9%
鋼合金
<0.1%
銅合金
0.8%
0.2%
その他
アルミニウム合金
4.1%
振動緩衝材
0.3%
燃料ホース
<0.1%
塩化ポリビニール
<0.1%
車輪バランス調整材 1.7%
その他
0.8%
下図の示唆していることは、自動車バッテリーに直接・間接に関連する鉛の使用量および曝露量が
圧倒的に大きい、すなわち自動車生産においてバッテリーが最大の鉛汚染リスクを抱えているという
ことである。鉛による環境汚染対策においても、電池に関する取り組みは非常に重要である。
「自動車ライフサイクルの鉛排出および移動」
鉛含有シュレッダーくず 3%
12%
鉛の生産
44%
スターターバッテリー
の埋立廃棄 31%
車輪用バランス
鉛副生成物
4%
材料の磨耗 4%
鉄の副生成物 3%
自動車生産および
組み立て 2%
参考文献
・Global Mercury Assessment, UNEP, 2002
・Getting the Lead Out, Environmental Defense, 2003
・NGO Blue Print for a global mercury strategy, 2004
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
II. 廃棄物とリサイクル(廃電池のケース)
電池は昨今の電子機器の小型化やワイヤレス化を受けて、世界中で生産量・消費量が飛躍的に伸び
ている。現在、以下のように 15 種類にもわたる各種電池が世界各国に上市されている。電池には有
毒な水銀やカドミウムが含まれているため、適切に廃棄処分されなければ非常に深刻な汚染源となり
える。米国環境保護庁の報 化学電池
一次電池
・マンガン乾電池
告によれば、自治体が処分
(使いきり)
・アルカリ(マンガン)乾電池
する廃棄物のうち、電池は
・ニッケル系一次電池
たった 1%未満の体積しか
・リチウム電池
占めないが、廃棄物全体の
・アルカリボタン電池
カドミウム汚染のうち廃電
・酸化銀電池
池に由来するものが 75%
あるということである。
・空気(亜鉛)電池
電気・電子、自動車
関連製品を対象とした化学
物質管理規制が強まる中で、
また前述した鉛、水銀汚染
の深刻化を受けて、対策が
動き出している。焦点は電
池への有害重金属使用の削
減および回収・再生の強化
である。以下に地域・各国
の取り組みの概略を説明す 物理電池
る。
二次電池
・ニカド電池
(蓄電池)
・ニッケル・水素電池
・リチウムイオン電池
・小型制御弁式鉛蓄電池
(小型シールド鉛電池)
・鉛蓄電池
・アルカリ蓄電池
燃料電池
太陽電池
(電池工業会ホームページより)
1.欧州
欧州全体としての廃電池に対する環境対策は 1991 年に遡る。同年 3 月に EEC(ヨーロッパ経済
共同体)で廃電池指令(91/157/EEC)が制定され、廃電池に対する全体的な取り組みが始まった。これ
は廃棄物処理工程に重金属が流れ込むのを防ぐのが目的であり、非常に限定された種類の電池が対象
であった。1993 年に EEC は上述の廃電池指令を補完する目的で 93/86/EEC を制定した。これは
91/157/EEC 対象廃電池に対して、1996 年以降上市分の含有重金属および廃棄方法に関するラベル表
示を規定し、家庭ごみと混同して廃棄しないよう消費者に提言している。
1998 年には廃電池対策で先行していたオーストリア、フィンランドおよびスウェーデンなどの
要請を受け、廃電池指令は改定された(98/101/EC)
。現行法となるこの指令では規制対象となる電池
の種類が拡大され、水銀に関する規制も厳しくなった。
<EC 指令 98/101/EC>
・ 1998 年 12 月 22 に採択
・ 従来の規制対象であった「0.025%を超えるカドミウム含有電池」および「0.4%を超える鉛含有
電池」に加えて、0.0005%を超える水銀を含有する全ての電池(蓄電池や製品の一部となってい
る電池を含む)が対象。ただし水銀含有率 2%未満のボタンセル電池をのぞく。
電池への有害重金属使用の削減および回収・再生をさらに強化するため、現在 2005 年の採択を
目指して新電池指令案が審議されている。すでに欧州理事会で政治合意に至っている草案のポイント
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
をまとめると以下のようになる。
(新電池指令案採択案、第 1 読会後変わる)
・ 新電池指令では形状や重さ、材質に関わらずポータブルカドミウム電池を含む原則全ての使用済
み電池を回収し、リサイクルを促進と焼却・廃棄の防止を目的としている。
・ 従来と同様、以下の化学物質を含有する電池・蓄電池は禁止する
水銀:0.0005%以上 鉛:0.004%以上 カドミウム:0.002%以上
適用除外:水銀含有 2%を超えないボタンセル電池
:医療機器、緊急灯・アラームシステム、コードレス電動工具用のニカド電池
・ 生産者は WEEE 指令に準拠する形でリサイクルスキームを構築。
・ 加盟国を拘束する回収目標値、リサイクル目標値の設定
<新電池指令案>
Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on batteries and accumulators
and waste batteries and accumulators
第 1 読会後の案
・スコープ
指令の適用は、形状や重さ、成分や使用目的に関わらず、全ての使用済み電池及び蓄電池に適用
され、また ELV 指令及び WEEE 指令に適用される。但し、国家安全、武器、軍需品に関連する機
器、及び宇宙開発関連機器には適用されない。
・禁止事項
−重量比、水銀 0.0005%以上含有する全ての電池、蓄電池は上市禁止。また、重量比、カドミウ
ムを 0.002%以上含有するポータブル電池2、蓄電池は上市禁止。
―但し、水銀含有 2%を超えないボタン電池、緊急灯・アラームシステム、医療用機器、ワイヤ
レス電動工具は適用除外となる。
―委員会は適用除外項目について、この法の施工後 4 年以内にカドミウムの使用禁止に関する観
点から報告を理事会及び議会に提出する。
2 ポータブル電池とは、中身が密封されていて、手で持ち運びできて、産業用または自動車用の電池、蓄電池でないもの。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
・ 回収目標
各国法施工後、4 年で販売平均 25%、8 年目で販売平均 45%の回収率を達成する。販売は電池及
び機器用の電池が含まれる
・リサイクル
鉛蓄電池は平均重量比 65%、二カド電
池は平均重量比 75%、他は平均重量比
50%
・ラベル
―加盟国は全ての電池、蓄電池、電
池パックに適切に付属書II に規定す
るシンボルが表示されるよう計らう
(crossed-out wheeled bin)
。
―0.0005%を超える水銀、0.002%を超えるカドミウム、また、0.004%を超える鉛を含有する
電池、蓄電池、ボタン電池は金属に関する化学表示“Hg, Cd, Pb”を付属書 II に規定する
シンボル表示の下に、その 1/4 以上の大きさで印刷
―シンボルは見やすく、読みやすく、消えないように印刷
2.米国
米国では「回収・再生の強化」が対策の主要な内容となる。米国では年間約 12 万 5000 トンに
もおよぶ電池・蓄電池が消費される世界最大の電池消費国であるが、廃電池の回収および再生は民間
の自主的活動が主要な役割を占め、関連法規制はこれら自主的取組をサポートするところが特徴的で
ある。
<水銀含有蓄電池管理法 (the Mercury-containing and rechargeable battery management act)>
・ 1996 年 5 月 13 日に採択
・ タイトルⅠおよびタイトルⅡの 2 部門に分かれており、前者ではニカド電池、小型シールド鉛蓄
電池およびその他蓄電池の効果的なリサイクルに関する規定、後者では水銀の含有に関する規定
である。
・ ニカド電池、小型シールド鉛蓄電池その他環境保護庁が規定する規制対象電池にはリサイクルの
表示を行う。またニカド、鉛などを含む電池の場合、これら含有有害物質の表示およびリサイク
ルを促す旨のメッセージを表示する。
・ 製品に電池が含有されていて存在の視認が困難な場合は、電池が含有されている旨を製品に表示
する。
・ アルカリマンガン電池、水銀を含有する亜鉛電池およびボタンセル酸化水銀電池の販売の禁止。
ただし 25ppm 以下の水銀含有ボタンセルアルカリマンガン電池はのぞく。
・ ボタンセル以外の酸化水銀電池については、リサイクルサイトを設置し、その情報をラベル表示
し、情報アクセスのための電話番号を合わせて表示することを義務付け。
米国の廃電池回収およびリサイクルに関する動向
1994 年に全米の電池生産者および輸入業者、関連業者が集まり、RBRC (Rechargeable Battery
Recycling Corporation) という充電式電池をリサイクルする非営利団体(Non-profit Organization)を
結成して自主的な取り組みを行ってきた。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
実績
1994 年以降、RBRC は全米から 2,000 万ポンドを超える蓄電池をリサイクルしてきた。その成果が認
められ、数々の賞を受賞してきた。
・ The Keep America Beautiful の“Reduce, Reuse, Recycle”カテゴリー第1位
・ Leadership Award by North American Hazardous Materials Management Association
・ Recycling Council of Ontario Minimization Award
・ Recycle at Work by US Conference of Mayors
・ Environment Canada Eco Action Network
・ Home Depot in 2002 “Environmental Partner of the Year”
対象電池3
・ 二カド電池(Nickel Cadmium Battery-Ni-Cd)
・ ニッケル水素電池(Nickel Metal Hydride Battery-Ni-MH)
・ リチウムイオン電池(Lithium Ion Battery-Li-ion)
・ 小型シールド鉛電池(Small Sealed Lead Battery-Pb)
使用している対象機器
・ 携帯電話
・ コードレス電話
・ 電動工具
・ ラップトップコンピューター
・ カムコーダー
・ 双方向ラジオ
・ リモートコントロール玩具
適用市場は米国およびカナダ
RBRC のリサイクルシール
約 300 社(電池メーカー、電池を使用するメーカー)の生産者がプログラムを支援、対象の電池及び
電子機器に RBRC のリサイクルシールを貼り、消費者及び使用者に当該電池はリサイクルされること
を告知する。
プログラムの内容
・ 小売業者、地域にとって無料
・ 参加するビジネスが処理施設までの輸送費を負担
・ RBRC は回収マテリアルとリサイクルコストを負担
・ RBRC の運営費用は加盟企業が負担
3 ニカド電池以外は 2001 年 1 月から追加
JMC environment Update
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重金属汚染(廃電池の問題と規制)
州の状況
・ いくつかの州では、二カド電池及び小型シールド鉛電池の廃棄を禁止し、使用者が使用済み電池
をゴミ箱に捨てることを禁じている。
・ 州法では、当該電池は生産者、卸業者若しくは、他の回収プログラムを利用してリサイクルされ
るか、適切に処理することを要求している。
RBRC National Retail Partners
アメリカ
カナダ
Alltel
RadioShack
Batteries Plus
Motorola Cellular Dealers
Batteries Plus
Remington Product Co.
Bell Mobility
Personal Edge / Centre du
Best Buy
Sears / Orchard Supply
Canadian Tire
Rasoir
Black & Decker
Staples
FIDO / Microcell
RadioShack Canada
Cingular Wireless
Target
Future Shop
Revy
The Home Depot
US Cellular
The Home Depot
Sears
Lowe’s
Verizon Wireless
Home Hardware
The Sony Store
Milwaukee Electric Tool
Wal-Mart
London Drugs
Telus Mobility
Makita Factory Services
Zellers
Porter Cable ServiceCtrs.
Centers
ニカド電池及び小型シールド鉛電池の廃棄に関する連邦及び州の法的要求事項
■ ニカド電池及び小型シールド鉛電池の廃棄を禁じている州
・ 最終使用者は当該電池をゴミ箱に投げ捨てることを禁止する
・ リサイクルと適切な処理を目的に、生産者、卸業者及び他の回収プログラムを通して送る
・ RBRC に参加することを勧める
適用している州
フロリダ
メイン
ミネソタ
バーモント
アイオワ
メリーランド
ニュージャージー
■全ての鉛電池の廃棄を禁止
・ 全ての最終使用者はゴミ箱に投げ捨ててはいけない
・ リサイクル目的のために、小売業者、卸業者若しくは生産者に返すか、
鉛精錬業者に直接に送っても良い
小型シールド鉛電池に関しては、RBRC に参加することを勧める
適用している州
アリゾナ
インディアナ
ミシシッピ
ノースダコタ
ユタ
アーカンサス
アイオワ
ミゾーリー
オレゴン
バーモント
カリフォルニア
ケンタッキー
ネブラスカ
ペンシルバニア
バージニア
コネチカット
ルイジアナ
ニューハンプシャー
サウスカロライナ
ウエストバージニア
フロリダ
メイン
ニューメキシコ
サウスダコタ
ウイスコンシン
ハワイ
ミネソタ
ノースカロライナ
テキサス
ワイオミング
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
その他、特記事項
例外もあるが、連邦法の要求では、使用済みニカド電池及び小型シールド鉛電池は Universal
Waste(40CFR Part 273)で管理される。そして、Universal Waste Rule によれば、取り扱い者は、ニカ
ド電池及び小型シールド鉛電池を廃棄してはならない、リサイクルのため送らねばならない。
日本を含めた世界3極の電池規制の状況まとめ
日本
法的背景
・
再生資源の利用の促進に
・
廃棄物の処理および清掃
水銀含有および蓄電池管
・
・
EU 電池指令および新電
池指令案
理法
関する法律
・
EU
米国
各関連州法
・
各国電池法令
に関する法律
法の目的
資源の有効利用
重金属規制
重金属規制
対象電池
・
二カド電池
・
カドミウム、鉛を含む二
水銀、鉛、カドミウムを含む
・
ニッケル水素電池
次電池
電池
・
リチウムイオン電池
・
小型シールド鉛電池
・
表示(マーク・記号)
・
取り外し容易化
・
回収
・
再資源化
法の要求
・
水銀を含む電池
・
表示(マーク・記号・文
・
表示(マーク・記号)
章)
・
取り外し容易化
取り外し容易化、回収シ
・
回収システム
ステム
・
リサイクル率、回収率
・
対応団体
(社)電池工業会
RBRC 1994 年∼
EPBA 1993 年∼
費用負担
メーカー、輸入業者
RBRC 加入者
各国で異なる
FB テクニカルニュース(2004 年)60 号をもとに作成
3.中国
中国における年間電池生産量は 2003 年で約 262 億本、そのうち 204 億本が輸出されているな
ど、世界一の電池生産国であり、また国内消費も著しく増加している。中国における廃電池への取り
組みについては、現在法規に当たるものは無く、
「廃棄電池汚染防止技術政策」と呼ばれるガイドライ
ンがあるのみである。しかしながら、昨今の化学物質および固体廃棄物に関する取り組みの強化、ま
た電池の国内消費の伸びを受けて廃電池への法規制策定も可能性が高まっている。以下に「廃棄電池
汚染防止技術政策」の概要を示す。
<廃棄電池汚染防止技術政策>
・ 2003 年 10 月発布
・ 国家環境保護総局、国家発展和改革委員会、建設部、科学技術部、商務部による合同発布
・ 固体廃棄物環境汚染防止法を補完するためのガイドライン
・ 電池のリサイクルおよび含有有害物質に関するラベル表示の規定
・ 水銀、鉛、カドミウムを含む廃電池の重点回収
・ 水銀、鉛、カドミウムを含む廃電池の回収・運搬・処理に際する汚染防止
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
重金属汚染(廃電池の問題と規制)
<参考文献>
・世界の電池規制の状況、
(社)電池工業会 2004 年
・FB テクニカルニュース No.60 2004 年 12 月
・EU Policy on End-of-Life Batteries, Perchards, February 2005
・ Implementation of the Mercury-Containing and Rechargeable Battery Management Act, US
Environmental Protection Agency, 1997
・Battery lesson Plan, RBRC, 2002
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
連載
欧州環境規制動向
∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
I.
EU
新たなアプローチを早計に判断することなく、
1.
EU、2020 年までに地球規模で 15−
EU は他の関係者とともに必要な排出削減達
30%の温室効果ガス削減を推進
成のための戦略を検討していきたい。
」これは
2005 年 3 月 10 日の環境閣僚提案に沿った内
EU の指導者達は、気候変動対策の公約を再び
容である。それは主として米国に対して発せ
繰り返す苦痛の中で、先進国対象の削減目標
られたメッセージであった(但し、米国に限
案を 2020 年までに 15−30%と制限し、温室
効果ガス排出削減に関する目標を引き下げた。
つまり、欧州委員会の方針にさらに近づいた
しかし、EU の指導者達は、
(ドイツとオース
のである。委員会は、長期目標の公約は依然
トリアの要請により)2050 年までに 1990 年
として時期尚早との方針である。従って、こ
比 60−80%の排出削減という目標案を排除
れで気候変動に関する方向転換が確実となっ
するなど、環境相理事会が提案する各種目標
た。EU は地球温暖化対策を先導していると自
を摘み取った。その代わり、先進国について
負したいようであるが、そのパートナーに関
2020 年までに 15−30%の排出削減という中
して柔軟な姿勢を見せてきていることは明ら
期目標案だけを残した。これにより、理事会
かである。いずれにしろ、2005 年 3 月 25 日
の立場は欧州委員会に近づく。委員会も環境
にブラッセルで開催された春季サミット終了
閣僚が定めた長期目標をしぶしぶ承認したに
後に採択された結論から、そのような EU の
指導者達のメッセージが浮かび上がってくる。
過ぎない。やはり、重要な点は外交的慎重さ
ということであった。さらに、理事会は、同
じような調子で次のように述べている。
「この
理事会の結論は、単に京都議定書に対する EU
削減幅は、費用対効果の側面も含めて、目標
の公約を繰り返し、同議定書の発効に対する
達成方法に関する今後の取組みと照らして検
満足の意を表明するものであった。また理事
会は、
「国連気候変動プロセスの枠組みの中で、
2012 年以降の取り決めに関する各種オプシ
討する必要がある。また、新興経済国および
開発途上国も含めて、主要エネルギー消費国
を効果的に関与させる方法も検討すべきであ
ョンを検討することで、国際交渉を活性化し、
る。
」
すべての国から可能な限り広範な協力を得る
とともに、効果的かつ適切な国際的対応への
現在、EU はできる限り穏やかな方法で、最大
各国の参加を確実にしていきたい」と強調し
多数のパートナーを気候変動対策に参加させ
た。
ようとしている。これには米国、主要な新興
経済国(中国、インド、ブラジル)、および開
この非 EU 加盟国に向けた外交的文言による
発途上国が含まれる。いずれにしろ、これは、
アピールは、その後、サミット出席者によっ
2005 年 5 月にボンで開催されるハイレベル
てさらに明確になった。
「将来の公正かつ柔軟
専門セミナーに各国代表が集う場でのメッセ
な枠組みにおいて、関係者間に格差を設ける
JMC environment Update
定されるものではない)。
ージとなるはずである。このセミナーは、次
24
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
期気候変動枠組み条約・京都議定書締約国会
し英国の変更が認められると、他の EU 加盟
議に向けた準備のための専門会議など周辺プ
国が同じことをしても止める術がなくなる。」
ログラムの一つである。
法的措置に訴えるとの警告や、英国の修正に
より取引制度の信頼性が脅かされる可能性が
2. 欧州委員会、英国の国家配分計画修正を
あるとの懸念にもかかわらず、英国政府は同
国の決定は容認可能なものと確信していると
却下
述べた。
欧州委員会は、2005 年 2 月 14 日、英国が EU
二酸化炭素排出量取引制度(2005 年 1 月 1
日開始)に参加するための国家配分計画(承
「英国政府は、国家配分計画(NAP:National
認済み)の修正案を却下した。
Allocation Plan)の修正案が EU 排出量取引制
度(ETS:Emission Trading System)法の要
それにもかかわらず、英国は 2005 年 2 月 14
件に整合していると確信しており、委員会と
日、修正案を公表した。これによると、2004
の討議は続いている」と、英国環境食糧地方
年 7 月に委員会に承認された計画より 2.7%
省は声明の中で述べている。
増え、2,000 万トンが追加配分されている。
新案では、2005 年から 2007 年までの期間に
しかしながら、英国政府は現在の法的対立を
756 メガトンの排出が認められることになる。
めぐり、英国産業界を納得させようと努力し
ており、当初配分に戻すことを余儀なくされ
委員会は、2005 年 2 月 14 日、「当該計画を
る可能性があることも覚悟しているようであ
変更する法的手段は存在しない」と述べ、英
る。
国に当初の計画を遵守させるよう欧州司法裁
判所に訴えると断言した。
「有効なのは 2004
「できる限り規制に関する確実性を産業界に
年 7 月の計画である」と、委員会の広報官
与えるために、政府は 7 億 5,600 万以下の配
Barbara Helfferich 氏は述べた。「英国が排出
分になる場合には、発電部門への排出枠を削
量取引制度を開始し、同制度に配分した排出
減することにより達成すると断言した。これ
枠が計画の中で予見されている排出枠に一致
により産業界は政府の意図を信頼し、それに
するのであれば、われわれは非常に嬉しい。
応じて計画が立てられるはずである。」と、同
一致しない場合には違法とみなす。」
省は声明の中で述べている。
委員会は、英国の配分計画変更を認めると、
3. エコデザイン:欧州議会、エネルギー効
率改善が必要と主張
他の EU 加盟国に配分量の上方修正を促すこ
とになり、欧州産業界が京都議定書に定めら
欧州議会環境委員会によると、電気製品のエ
れた EU 公約を十分に履行できる程の温室効
コデザインは、エネルギー効率および排出削
果ガス排出削減を排出量取引制度によって達
減に実質的効果がなければならないという。
成する能力が損なわれるとの懸念を抱いてい
2005 年 3 月 15 日、同委員会は、ほぼ全会一
る。
致でエコデザイン枠組み指令案に Frédérique
Ries(ベルギー、ALDE)氏の報告(第二読会
「実際に、英国の計画は最も意欲的な計画の
勧告)を採択、80 項目の修正を加えることを
一つであったが、英国は他国の計画を見て、
決議した。
当初の計画では自国の産業界が競争上不利に
なることを懸念するに至ったようである」と、
欧州委員会の原案および理事会の共通の立場
委員会の高官は匿名を条件として語った。
「も
と比較すると、欧州議会は中小企業の過剰負
JMC environment Update
25
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
担を避ける一方で、エネルギー効率および消
ザインの利点ならびにその利点が当該製品の
費者向け情報の改善を重視しようとしている。
持続可能な使用によるエネルギー消費量の削
この第二読会勧告は 2005 年 4 月 11 日−14
減に実際に果たせる役割などの情報が消費者
日に開催される欧州議会本会議に上程され、
に確実に提供されなければならない。
*
採決の運びとなる 。
その他に、中小企業の負担を軽減する修正が
いくつか成立した。環境委員会は、製品のラ
2004 年 4 月の第一読会では、欧州議会は欧州
イフサイクル分析を製造業者に義務づける要
委員会が示した一般的アプローチを不服とし
件を削除した。また、同委員会は、中小企業
た。しかしながら、理事会は、その時に提案
がエコデザインおよび適合化に必要な資源
された 78 項目の修正のうち、2004 年 11 月
(例えば、製品設計ソリューション、再設計
29 日付の共通の立場では、23 項目しか残さ
ソリューション、訓練および利用可能な形式
なかった。そこで、環境委員会は、第一読会
の専門知識)が確実に得られるよう加盟国の
の時の修正のいくつかを再度上程した。ある
支援を求める修正を採択した。
修正の中で、環境委員会は、エネルギー使用
4. ルクセンブルグ、REACH 関係者の役割の
製品のエコデザイン要件に関する指令の主た
る目的はエネルギー効率を改善し、各種環境
「明確化」を希望
目標(京都目標、大気汚染基準、有害廃棄物
現在、理事会議長国を務めるルクセンブルグ
防止など)の達成に寄与することであると強
が、EU 化学物質政策に基づく情報の受発信
調している。
者である化学物質サプライヤーの役割を明確
にする提案を用意していることが明らかにな
欧州議会は、最初に影響を受けるのはどの製
った。
品かを明確にする、重要な修正を通過させた。
枠組み指令の採択から 1 年後に、欧州委員会
ルクセンブルグのルックス環境大臣は、2005
は、これらの製品に関して、コスト効果の良
年 3 月 10 日の環境閣僚理事会で、化学物質
い、温室効果ガス排出量削減の可能性が高い
の登録、評価および認可(REACH)規則案に
製品について実施措置を採択しなければなら
関する加盟国間交渉の進捗状況について各国
ないというものである。当該製品には、暖房・
閣僚に最新報告を行う見込みである、と理事
給湯機器、電動モニターシステム、家庭用お
会のスポークスマンが述べた。
よび第三次産業用照明器具、家庭用電気機器、
家庭用および第三次産業用事務機器、民生用
議長国の担当官によると、ルクセンブルグは、
電化製品および冷暖房空調(HVAC:Heating
REACH 問題を検討する理事会作業グループ
Ventilating Air Conditioning)設備が含まれる。
が同法案の情報要件について定めた第 4 章お
よび第 5 章の「詳細な分析」を終了し、「付
環境委員会はまた、製造業者および販売業者
属文書も考慮」したことを、各国閣僚に報告
に対する消費者情報要件を再度導入した。こ
する用意であるという。
れらの要件により、当該製品がそのライフサ
イクルを通じて環境に及ぼす影響、当該製品
同法案の当該規定は、製造業者、輸入業者お
のエコロジカル・プロフィールおよびエコデ
よびいわゆる「下流ユーザー」が規制当局に
提出しなければならない化学物質に関する情
*
報の種類および構造ならびにサプライチェー
編者注:環境委員会の採決後、欧州議会、理事会および欧
州委員会の三者による非公式な会合が行われ、委協案がま
とまった。同委教案は、4 月 13 日に開催された議会本会
議で採決されたが、以下に説明の環境委員会における修正
が大筋取り入れられている。
JMC environment Update
ン関係者間における当該データの共有方法に
ついて定めている。
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
前述の担当官は、当該規定は「最も政治的な
前述の加盟国による作業グループでは、現在、
規定というわけではない」と認めながらも、
このいわゆる OSOR 提案について論じてはい
ルクセンブルグは情報要件そのものに限らず、
ないが、前述の担当官によると、一部の国が
異なる関係者が当該情報を取得・伝達する権
依然として同案の一部の側面について不服な
利および責任についてより「明確」にするこ
様子を示しているため、議長国はハンガリー
とを重要視していると明らかにした。
と英国に「残る問題の分析」をさらに勧める
よう求めたということである。
特に、化学物質流通業者は、サプライチェー
ンにおいて重要な役割を担っており、その役
「一部の加盟国は依然として OSOR を問題視
割を明確にする必要があると、同氏は主張し
しているが、
・・・この方式には非常に魅力的
た。
な側面がある」と同氏は主張し、次のように
続けた。
「欧州議会にもこの方式に対する共感
「これまで流通業者には明確なミッションが
が強い。われわれは、最終的には、この規則
なかった。われわれは、流通業者は非常に重
案に OSOR の内容を一部盛り込むことになる
要だと考えている。この点に関して条文を変
と、私は思う。
」
更する提案がいくつかある。」
議長国は、現在のところ 2005 年 5 月 11 日に
議長国は作業グループに対する議長国提案を
予定されている加盟国および利害関係者のワ
明らかにしていないが、当該担当官は、
「一部
ークショップで、「どのような形の OSOR で
の加盟国がサプライヤーのミッションに少々
あれば REACH 案に適合するのか」について、
懸念を抱いている・・・その他多くの人々は
加盟国の見解を打診する決定を下す可能性が
サプライヤーも重要と考えている。」と言及し
あることを、同氏は明らかにした。
ている。
しかしながら、同氏は依然としてくすぶって
提案されている情報要件は、本来、化学物質
いる混乱を払拭しようと、理事会は「今後と
の登録または通知のために化学物質安全性報
も欧州委員会案の検討を継続する。EU 共同決
告書および安全性データシートを作成する企
定手続きに基づき通常予想されるものに先だ
業を対象とする要件であるが、これもすっき
って、何らかの書き直し提案を受け取る見通
りしたものにしなければならない。
「極めて技
しはない」と述べた。
術的な問題であるとしても、明確にする必要
がある」と、当該役人は述べた。
また、同氏によると、議長国は先頃ルックス
大臣が明らかにしたように、当該法案の第 4
いったん情報要件が明確化されれば、加盟国
章から第 6 章に関する加盟国内の予備的同意
は REACH の第二・第三段階である評価・認
を得ようとするだけではなく、
「それ以上に野
可に関する規則案の討議を開始することにな
心的な目標」を目指しており、第 4 章から第
り、事態が再び加速度的に進展する可能性が
8 章に関する統一見解のもとに、各国閣僚を
ある。そうなると、さらに「一化学物質につ
結集させようとしているという。
き一回の登録(OSOR:One Substance,
One
Registration)」という方式を REACH に適用す
この目的に向かって議長国は、2005 年 6 月 6
るよう求める英国・ハンガリー提案がまた EU
日の競争理事会および 2005 年 6 月 24 日の環
の主たる関心事となる可能性が高い。
境相理事会で、当該章の主要問題に限定した
政策論議を予定していると、同氏は述べた。
さらに 2005 年 3 月のそれぞれの閣僚会合で
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
の討議を予定しないことで、加盟国の交渉者
要な法的確実性を与えられる。また、EU の諸
は、その会議の準備に貴重な時間を取られず
機関も、その後、同規則を徹底的に「改善」
に済むであろうと、付言した。
していくことができるであろう。
5. 欧州議会議員、可能であれば最も危険な
そのために、Sacconi 議員は報告の中で、欧
州委員会が提案する 12 年後ではなく、6 年後
化学物質の代替を要求
イタリア社会党欧州議会環境委員会のラポー
に修正の可能性も含めて REACH 規定を見直
ターGuido Sacconi 議員は、2 月、EU 化学物
すことを提案している。
「われわれは、同制度
質規則案の修提案を発表し、他の法律が対象
を見直し、是正することができる」と、同議
とする化学物質は除外するが、非常に危険な
員は述べている。
化学物質は可能な場合には代替することを要
求している1。
従って、重量に基づく登録案は当面維持され
るが、
「修正される可能性や、固有の危険性、
Sacconi 議員は、あらゆる異なる意見の調整
使用および曝露の度合いなど他の基準と統合
に努力したとして、欧州議会環境委員会で大
される可能性もある」と、報告の中で述べて
いに称賛された。
いる。
欧州議会最大派である中道右派欧州人民党
同議員は、欧州議会の REACH に関する主た
(EPP:European People’s Party)の議員達
る起草者である。その文書は、2005 年 2 月に
は、修正案に最も消極的な反応を示した。EPP
公表した作業文書の中での自らの提案に大体
の議員は、REACH 規則案に示されている、同
沿っているが、内容を充実・具体化している。
制度の対象となる化学物質の優先順位設定に
Sacconi 議員は、特に同制度案の第三段階(認
必要なメカニズムをめぐり、Sacconi 議員と
可)に合格する基準の明確化と、その環境側
意見の相違があると述べた。
面の強化を提案している。
一方、Sacconi 議員は、環境委員会の同僚に、
2003 年 10 月の REACH 提案では、製造業者
欧州議会が理事会との今後の交渉で重視する
は「非常に懸念の高い」化学物質を「適切に
可能性の高い約 12 の優先事項リストに関し
管理」できることを実証しなければならない
て、すべての政治グループの意見が集約しつ
という主たる要件があるが、これは化学物質
つあると述べた。
の販売を許可する場合の二次的基準にすべき
であるという。
しかし、同議員は、
「簡易な枠組みにすぎない
としても、同制度を立ち上げ、運営すること
その代わりに、そのような化学物質−発癌性、
も重要である。これは絶対に優先しなければ
変異原生または生殖毒性(CMR)があると見
ならない」と警告を発した。そうすることで、
なされる化学物質−は、より安全な代替物質
企業に長期的計画や投資計画を立てる上で必
が利用できず、かつ欧州委員会が提案する他
の基準が満たされている場合に限り、認可す
べきであるという。
1
Sacconi 議員の報告書の詳細は以下のサイトを参照のこ
と。
http://www.europarl.eu.int/meetdocs/2004_2009/docum
ents/PR/557/557575/557575en.pdf
議会産業委員会のラポーターEk 議員の意見は以下のサ
イトを参照のこと。
http://www.smallbusinesseurope.org/Issues/Chemicals%
20%28REACH%29/1109949637/EK_opinion
JMC environment Update
企業が「適切な代替物質または代替技術がな
いこと、当該物質の使用による社会への利点
がその使用に関連するリスクを上回ること、
28
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
リスクが適切に管理されていること」を実証
から除外すべきであるという。
「各業界を個別
することを Sacconi 議員は提案している。
に評価する必要性があると、同議員は論じて
いる。
また、同議員は、
「最大」5 年間の認可が認め
られると述べ、その後も製品の販売継続を望
一部の業界、特に金属業界などは、特に EU
む企業は、当局に最新情報を提供しなければ
の再生・リサイクル規定により、すでに規制
ならないとしている。
されているので、除外されるべきだと主張し
ている。
「われわれは質を選択し、競争を求めてい
る・・・私の仕事は代替メカニズムを強化・
スウェーデン自由党の Lena Ek 議員は、産業
明確化させることである・・・しかし、誰に
委員会で当該規則案に関する検討を主導して
も無理強いはしていない」と、Sacconi 議員
いるが、鉱石、金属およびパルプを REACH
は議員達に述べた。
から除外するよう提案している。しかし、同
議員の報告は同委員会に厳しく非難された。
同氏は、CMR と同様に、「認可基準を満たす
ことが分かっている」化学物質を優先的に登
一方、Sacconi 議員は、可能な限り規則案を
録すべきハイリスク化学物質リスト」に追加
明確、かつ「すっきり」させようと努力して
することを希望している。
いる。同議員は、REACH 案が中小企業に及ぼ
す影響を緩和するよう、また同規則が EU 全
この場合、主要な候補となるのは、難分解性、
域において一律に適用・遵守されるよういく
生体内蓄積性および毒性を有する物質(PBT)、
つかの提案をしている。
ならびに難分解性・生体蓄積性の非常に高い
化学物質(vPvB)であろう。オランダを含め
この点に関して、同議員は、計画されている
て、一部の EU 加盟国がこのような主旨の提
中央化学物質庁の権限の拡大を望んでいる。
案をしたことが知られている。
特に、同制度の第二段階である評価の対象と
なる化学物質の選択・分類業務は同庁に任せ
欧州議会の左派および環境保護派の議員は、
るべきであるとしている。多くの利害関係者、
利害関係者である環境団体と同じように、環
特に企業部門は、このような動きを歓迎して
境的視点から認可を厳しくする試みを称賛し
いる。理事会では、各国加盟国交渉者から同
た。化学物質の代替に関する文言を一段と厳
じような主張が出ている。Sacconi 議員によ
しくすることは、環境保護派にとって REACH
ると、このことについては欧州議会内部の討
制度に関する最優先事項の一つであった。
議も行われ、
「意見がかなり収斂した」という。
実際のところ、特に EPP の議員達がこの方針
一方 Sacconi 議員は、他の特定 EU 法の対象
を支持していることが知られている。
となる企業は、原則的に REACH 要件から除
外されることを提案しようとしている。特に、
しかしながら、EPP の主要な要求で Sacconi
1996 年統合的汚染防止管理指令または 2000
議員が受け入れなかった点がある。同議員は、
年水枠組み指令の対象となる工場からの排出
欧州委員会が提案した「事前登録」制度を発
は、この認可要件から除外されるべきである
展、または変更することは考えていない。
という。
EPP は、企業が早期に化学物質情報を規制当
同様に Sacconi 議員は、化粧品および医療機
局に送付するよう要求することで、最初にチ
器は、法律の「重複」を避けるために同制度
ェックを通過すべき化学物質が何であるかを
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
一層明確にしたいと、Ria Oomen-Ruijten 議
盟国の支持を広く得ているようである。要す
員(オランダ−EPP)は述べている。同議員
るに、この種のテストはできる限り制約し、
の提案では、大企業は同制度の開始後 18 ヶ
実験の重複を回避しなければならないという
月以内にデータを提出しなければならないが、
ことである。
中小企業は 5 年間の期限を与えられるという。
理事会で議論されている「一化学物質につき
われわれは一種のフィルターを求めてい
一回登録」(OSOR)提案に関して、Sacconi
る・・・5 年以後はすべてが対象となり、す
議員は、このような考え方は「興味深い」が、
べてをフィルターにかける[ことができるよ
詳細な議論に入る前に、欧州議会は加盟国が
うになる]・・・まず、最も危険なものから始
どのように「コンソーシアム問題を解決する」
める。皆さんの意見がこの点で異なることは
のか見ていくべきである、という従来のコメ
分かるが、すべての政治グループがこの点に
ントを繰り返している。
関 し て 歩 み 寄 る 必 要 が あ る と 、
Oomen-Ruijten 議員は述べている。
一部の議員は、環境委員会の会合でこの方式
を歓迎する発言をしている。John Bowis 議員
しかし、英国の環境保護派の Caroline Lucas
( 英 国 − EPP ) は 次 の よ う に 述 べ て い る 。
議員は、Oomen-Ruijten の提案は「根拠が誤
「OSOR 提案は改善を要するが、合意が得ら
っている」と述べている。REACH はすでにリ
れた場合には大きな一歩となるであろう。」
スクを基準にした制度であるとして、同議員
は CMR 早期登録、中間財化学物質に関するデ
しかし、Oomenn-Ruijten 議員は、同提案が「誰
ータ要件軽減、少なくとも一時的なポリマー
もが耐えなければならない」重要提案である
除外を指摘した。「私はこの考えに反対であ
という。「この OSOR は、化学物質メーカー
る・・・これでは産業界に大きな力を与え過
は一種類毎の化学物質登録を求めているにす
ぎることになる。われわれは・・・欧州委員
ぎないこと、
・・・そしてデータ交換が義務づ
会の提案通りに進め、Sacconi 議員の追加内
けられることを前提としている。果たして義
容を受け入れることになるだろう、というの
務化せずに実践できるというのだろうか。」
が私の考えである。」
一方、Ek 議員は同様の方針をとりながらも、
その後、欧州委員会の某職員は、
「委員会の提
現在の OSOR 提案には「多くの問題」が伴う
案にはすでにある種の」事前登録が含まれて
ことを指摘した。
いるという Lucas 議員の主張を繰り返した。
この登録に関する Sacconi 議員の主張は、製
企業の登録情報の品質保証を強化する要求に
造業者だけではなく「動物実験によって得ら
応じるため、Sacconi 議員は、提出されたフ
れた化学物質に関する調査結果や情報を有す
ァイルの 5%を無作為に調べることを提案し
る者は」それを中央化学物質庁に送付しなけ
ている。これは登録ファイルの評価を示唆す
ればならないということである。
るものである。ドイツと一部の北欧諸国も理
事会作業グループの討議の中で、この品質確
また、製造業者または輸入業者が、このよう
保問題を持ち出したことが知られている。
にして収集されたデータを登録のために使用
した場合、当該動物実験情報の作成にかかっ
Sacconi 議員の REACH に関する要望リストに
た初期コストを「平等に」分担しなければな
は、同制度に基づき認可された製品のラベル
らないとしている。動物実験のデータをすべ
表示制度も含まれている。さらに具体的に、
て共有するという提案は、欧州議会および加
製品が抱えている可能性のあるリスクの要点
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
を示す「欧州安全性マーク」を導入したい、
先頃 Ek 議員が欧州議会で報告を発表した第
と同議員は考えている。このことにより、消
一起草者として有利な立場に立てる、と述べ
費者の化学物質に対する信頼性が高まるだけ
た後の Sacconi 議員のこの動きにより、環境
ではなく、同制度に基づきチェックされた EU
委員会が再び REACH 制度の主導権をしっか
製品に付加価値を与える可能性があると、同
りと握ることになる。
議員は同僚に指摘している。そのためにも、
同議員は消費団体が情報にアクセスする「権
欧州議会議員らは、Sacconi 議員の意見に対
利」を強化するよう提案している。
する修正があれば本年 4 月 28 日までに提出
しなければならないが、数人の議員は、5 月
欧州委員会の某職員は、Sacconi 議員の報告
までに委員会から出てくると思われる
を「大いに歓迎する」と述べた。Sacconi 議
REACH 詳細影響調査の結果を見たい、との警
員の代替提案は「それだけで委員会にとって
告を発している。
大きな励みとなったが、これを押しつけるの
環境委員会は、2005 年 9 月に当該報告に関す
は良くない。」としている。
る意見の採択を予定しており、本会議は 10
この点に関して、Bowis 議員は、欧州議会は
月に第一読会の立場を策定する可能性が高い
「認可ということ・・・それが実際に何を意
と、欧州議会の広報官は発表している。
味するのか慎重に検討する」必要があると述
べた。例えば、段階的廃止の期限があまりに
別の欧州議会の広報官によると、欧州議会議
も短ければ「特定産業」が不利な立場に置か
員が Ek 報告にコメントする期限は 5 月 24 日
れる可能性があると、同議員は主張した。
であり、その後、産業委員会は 7 月 14 日に
採決を予定しているという。
一方、前述の欧州委員会の職員は、中央化学
物質庁の強化は容認できるが、
「その後の資源
6. EU 水銀輸出禁止案の難題―保管問題
の投入が必要である」とさらに警告を発した。
EU 水銀戦略案により、塩素アルカリ業界は余
剰水銀保管のために年間 150 万ユーロ程の負
鉱物、コークス、鉱石など様々な物質も対象
担を強いられる可能性があるが、2020 年まで
とすることを求めた欧州議会議員に対して、
には水銀需要が消滅する可能性もあると、デ
同職員は、規制案では危険と見なされない、
ィマス環境担当委員は 2005 年 1 月 31 日に文
かつ(石油や石炭など)改質されていない自
書を発表する際に発言した。
然発生物質は除外されていると述べた。しか
しながら、同議員によると、鉱物およびコー
この動きは、欧州委員会が 2011 年までに高
クスはすでに現行化学物質法の対象となって
い毒性を有する物質の輸出を禁止する EU 戦
いるので、
「われわれは単に・・・従来の優れ
略を採択し、民生機器および医療機器に使用
た習慣を適用するのである」という。
しかし、別の職員は、
「鉱石、鉱物、鉄鋼、[お
よび金属]合金は、欧州委員会が詳細な影響評
価に基づき検討している分野である。
「区別で
きるのか・・・下流段階も取り扱うことがで
きるのかは、今後の成り行きを見ることにし
たい」としている。
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
欧州委員会が年間 150 万ユーロと推定する塩
される水銀に対する規制を強化する提案が発
2
表されてから 3 日後のことであった 。
素業界の負担とは別に、同戦略に付随する影
響評価によると、測定機器の段階的禁止によ
「EU は世界最大の水銀輸出者であり、われわ
るコストは中程度にとどまるとの見込みであ
れにはこの貿易を段階的に全面禁止する責任
る。
がある」と、ディマス委員は、ブラッセルで
の記者会見で発言した。さらに「水銀戦略の
例えば、温度計の水銀使用から電子式温度計
目的は・・・人の健康を守ることであり、こ
への移行はすでに進められていた。このよう
の重金属は人の神経系を攻撃し、実際に、
「脳
な禁止措置はすでにデンマーク、フランス、
障害から死に至るまで様々な症状を引き起こ
オランダおよびスウェーデンでは導入済みで
すことが知られている」と、同委員は述べた。
あると、某職員は後日記者に説明した。
温度計、気圧計、測定機器などの輸出禁止お
しかしながら、当該戦略案によると、委員会
よび規制とは別に、当該戦略案には、さらに
は「現段階では」EU における段階的使用禁止
排出量を削減するために現行 EU 法を見直し、
への対応として、当該重金属の永久処分を提
国際的な水銀「プール」対策に取り組む計画
案していない。
「永久処分は環境的視点から最
が含まれている。ディマス委員は、欧州委員
適といえるが、共同体レベルで推進するには、
会は国連環境計画加盟国の次期会合で、各国
現在はコストが高すぎ技術的にも不確かであ
が拘束力をもたないグローバル戦略に同意す
る」という。
ることを積極的に支援・協力していくことを
20 項目の提案のうちの主要な対策として、
公約した。
「2011 年までに水銀輸出の段階的禁止とい
例えば、歯科用アマルガム廃棄物その他の廃
う目的と矛盾しない日程に沿って、塩素アル
棄物、さらには小規模燃焼などから発生する
カリ業界の水銀保管を推進することであり、
EU 排出対策の推進の可能性も検討すると、デ
まず、委員会は、業界との合意範囲を探って
ィマス委員は述べた。
いく。」と委員会は、文書の中で補足している。
「総合的分析の結果、当該提案の効果が費用
ディマス委員は、塩素アルカリ業界はすでに
を上回ることが明らかになった」とし、
「経済
塩素および苛性ソーダの製造工程に使用する
効果にはそれほど重要性はない・・・企業に
水銀に代わる「他の代替物質の検討」を行っ
は損失が生じるが、それほど大きくはない」
ており、2020 年までに当該物質の段階的不使
と、同委員は主張した。余剰水銀の「保管に
用を実現する自主プログラムを策定している
はかなりの費用がかかる」という。
と述べた。しかしながら、輸出禁止は、EU
唯一の輸出業者(1,000 トンすなわち世界の
年間生産量のわずか約 3 分の 1 程度)であり、
2
スペインのアルマデン鉱山を経営するスペイ
欧州委員会の戦略は以下のサイトを参照のこと。
http://www.europa.eu.int/comm/environment/chemicals/
mercury/index.htm
プレスリリースは以下のサイトを参照のこと。
http://www.europa.eu.int/rapid/pressReleasesAction.do?
reference=MEMO/05/30
水銀通達に関する回答は以下のサイトを参照のこと。
http://www.europa.eu.int/comm/environment/chemicals/
mercury/pdf/q_a_mercury.pdf
影響評価は以下のサイトを参照のこと。
http://www.europa.eu.int/comm/environment/chemicals/
mercury/pdf/extend_impact_assessment.pdf
JMC environment Update
ン国営企業マヤサとの現行協定を無効にする
ことになるので、業界のさらなる早期対応を
促すことになるであろう。
同社は、現在、新たな水銀生産は行っていな
いと、ディマス委員は述べ、
「スペインで水銀
生産を再開する意向はないようである。」と補
32
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
足した。実際に、ヨーロッパ塩素産業会(Euro
また、Whippy 氏は、委員会が現段階で塩素
Chlor)の Peter Whippy 氏は、業界団体とし
アルカリ業界の水銀保管コストを判断できる
て、新規生産の必要なし(すなわちリサイク
ことに驚きを表明した。Euro Chlor は予想コ
ルに限る)ということで当該スペイン企業と
ストを一切示唆していない。
「試算は全くない
合意に至ったと述べている。
のである」と同氏は強調した。
業界がアルマデンに送る水銀 1 トンにつき、
しかし、環境諸団体は声明を発表し、
「待望の
採掘量は 1 トン減少した。そういう方法で、
共同体水銀戦略の採択」に歓迎の意を表明し
同社は水銀を新規生産することなく、十分に
た。しかしながら、欧州環境局(the European
顧 客 の 需 要 に 応 え る こ と が で き た 。 Euro
Environmental Bureau)、水銀作業グループ
Chlor は、業界が締結している自主的協定に
(the Mercury Working Group)、欧州健康同
基づき 2020 年までに水銀の使用を段階的に
盟環境ネットワーク(the European Health
廃止していく一方で、このようにして水銀リ
Alliance Environment Network)およびグリー
サイクルを継続することを望むであろうと、
ンピースは、同戦略が以前の案に比べて「輸
Whippy 氏 は 述 べ た 。 欧 州 の 工 場 で は 約
出禁止期限が後退したこと」に遺憾の意を表
11,000 トンの水銀が依然として使用されて
明した。
いると、同氏は付言した。
これらの団体はまた、大規模燃焼施設−委員
しかしながら、Euro Chlor は、処分問題の解
会の某職員によると EU 最大の水銀排出源−
決策を模索するために欧州委員会と協力して
および特に石炭火力による燃焼施設からの排
いくことを「受け入れた」と、Whippy 氏は
出を削減するために、一層の EU 措置を求め
述べた。さらに、現段階では、廃止された岩
ている。
塩坑に永久地下保管することが最もコスト効
委員会が提案した 20 項目の対策は以下の通
果の良い方法に思えると付言した。
り。
しかし、同氏は、Euro Chlor は委員会の戦略
対 策 1.
案を支持しないとして、EU 輸出禁止によって
Integrated Pollution Prevention and Control)
水銀生産が規制の緩やかな国に移行するにす
お よ び 欧 州 汚 染 物 質 排 出 登 録 ( EPER :
ぎず、当該問題に十分に対応するには国際的
European Pollution Emissions Register)の報
行動が必要であると述べた。委員会によると、
告要件に基づきデータが提出され、また、
その他の主要な水銀生産国は、キルギスタン、
2010 年末までには広範な戦略の見直しが行
アルジェリアおよび中国である。
「われわれは、
われるので、委員会は水銀排出に対する IPPC
EU による一方的な輸出禁止措置では水銀問
適用の効果を評価するとともに、共同体排出
題を十分に解決することはできないと考え
制限値など新たな対策の必要性を検討する。
る」と、Whippy 氏は述べた。
また、この戦略の見直しには、大規模燃焼施
統 合 的 汚 染 防 止 管 理 ( IPPC :
設の二酸化硫黄排出削減のための指令
「われわれは、汚染を減らすには、世界の他
2001/80/EC に基づき、2008 年 1 月 1 日まで
の地域における水銀貿易、排出および使用を
に実施される対策のコスト効果の見直しも含
管理するための国際レベルの行動が必要にな
まれる。
ると考えている」と Euro Chlor のエグゼクテ
ィブ・ディレクターBarrie Gilliatt 氏は声明で
対策 2.
述べている。
て、水銀放出および防止管理技術に関する一
委員会は、加盟国および業界に対し
層の情報提供を奨励し、結果を BREF(IPPC
JMC environment Update
33
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
に関連する、最優良事例技術指針文書)に引
REACH 規制案が採択された場合、それに基づ
用し、一段の排出削減に役立てるようにする。
き残存する使用は、認可および代替の検討対
塩素アルカリ業界の BREF 第二版には、水銀
象となる場合がある。
電池の廃棄による放出リスクに関する情報が
対策 9.
含まれる。
委員会は、2011 年までの水銀輸出
段階的廃止という目的に沿った日程に従い、
対策 3.
委員会は、2005 年に小規模石炭燃
塩素アルカリ業界の水銀保管を推進するため
焼による水銀排出を軽減するための各種オプ
の対策を講じる。まず、委員会は業界との合
ションに関する研究を実施する。これを広範
意範囲を模索する。
な欧州大気浄化計画(CAFE:Clean Air for
Europe)の評価と並行して検討する。
対策 10.
短中期的に、委員会は、すでに社
会に流通している製品に含まれる水銀の最終
対策 4.
委員会は、2005 年に加盟国におけ
的結末について詳しく調査する。
る歯科用アマルガム廃棄物処理に関する共同
体要件の実施状況について見直し、その後、
対策 11.
正しい適用を確実にするための適切な対策を
婦や子供など)影響を受けやすい副次集団に
講じる。
おける各種魚類・海産物の特定食物摂取量を
短期的に、欧州食品安全局は、
(妊
詳しく調査する。
対策 5.
水銀の一次生産の段階的廃止と余剰
水銀の市場への再投入を阻止するために提案
対策 12.
されている地球規模の組織的対策への積極的
食糧に含まれる水銀に関する追加情報を提供
な貢献として、委員会は、2011 年までに共同
する。また、国家当局に対して各国の事情に
体から水銀輸出を段階的に廃止する規則
配慮して助言を行うよう奨励する。
委員会は、新データを入手次第、
(EC)No.304/2003 の修正を提案する意向
対策 13.
である。
EU 第 7 次研究開発枠組み計画、お
よび他の然るべき資金調達メカニズムにより、
対策 6.
短期的には、委員会は医療機器専門
水銀研究に関する優先課題に取り組む。
家 グ ル ー プ ( the Medical Devices Expert
Group)に歯科用アマルガムへの水銀使用に
対策 14.
ついて検討するよう依頼し、追加的規制措置
係者は、水銀問題に取り組むべく技術移転も
が妥当かどうかの検討に関して、健康と環境
含めて、国際的進出および活動、二国間取組
リスクに関する科学委員会(the Scientific
み、ならびに第三国とのプロジェクトなどへ
Committee on Health and Environmental
Risks)に意見を求める。
の貢献を目指すべきである。
対策 15.
対策 7.
共同体、加盟国、その他の利害関
委員会は、例えば中国、インドお
委員会は、2005 年に、電気または電
よびロシアなど、固定燃料依存度が高い国に
子式以外の水銀含有測定制御機器の民生・医
おける石炭燃焼による水銀排出を削減するた
療用販売を規制する指令 76/769/EC の修正を
めに、クリーンかつ効率的な固体燃料使用を
提案する意向である。
推進する CARNOT プログラムのような、研究
および試験プロジェクトを対象とする特定資
対策 8.
短期的には、委員会は EU に残存す
金調達制度の設立を検討する。
る少量の水銀を使用する数点の製品および用
途について詳細な調査を行う。中長期的には、
JMC environment Update
34
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
対策 16.
共同体は、ロッテルダム条約の事
委員会が現在進めている「廃棄物防止・リサ
前の情報に基づく合意(PIC:Prior Informed
イクルに関するテーマ別戦略」についての協
Consent)手続きを水銀に適用するイニシア
議(2005 年中頃完了予定)の一環として、当
ティブを推進すべきである。
該指令への環境目標挿入が加盟国宛てのアン
ケートの中で示唆されている。
対策 17.
共同体および加盟国は、国連欧州
経済委員会(UNECE)長距離越境大気汚染条
委員会によると、環境への影響を軽減する各
約の重金属議定書に基づく活動を継続的に支
種廃棄物管理手段を推進する場合の経済的手
援すべきである。
段の効率に言及した上で、加盟国は適宜、経
済的手段を活用すべきであるという規定を改
対策 18.
共同体、加盟国、その他の利害関
定指令に挿入すべきか質問したという。
係者はまた、例えば素材に関する調査や技術
的知識および人材資金の提供を通じて、UNEP
アンケートの中で提示された他の選択肢には、
グローバル水銀プログラムを支援すべきであ
リサイクル、その他再使用事業の定義の変更
る。
もある。
対策 19.
共同体および加盟国は、UNDP/
委員会は、廃棄物そのものの定義に関して、
GEF/UNIDO グローバル水銀プロジェクトの
以前の協議では「廃棄物の定義を実質的に修
ように、金採掘部門における水銀の使用削減
正しようという意向は感じられなかった」と
に貢献するグローバルな取組みを支援すべき
述べた。しかしながら、廃棄物が廃棄物でな
である。また、国家開発戦略に考慮しつつ、
くなる時点を明確にすれば「歓迎されるであ
開発協力支援に関連する様々な手段を通じて、
ろう」という。
個々の開発途上国を支援する様々な可能性に
ついて検討する。
多くの利害関係者は、委員会の新アプローチ
を廃棄物法の重要な緩和として捉えている。
対策 20.
国際的な水銀供給を減少させるた
めに、共同体は、オゾン層枯渇物質に関する
委員会が示している選択肢の一つに、現行ル
モントリオール議定書にあるようなイニシア
ールを「廃棄物の流れに基づく環境・使用適
ティブに基づき、国際的な一次生産段階的廃
正基準」に置き換えるというものがある。す
止を推進し、他国に対して余剰分が再び市場
なわち、環境に与える影響が低い場合、当局
に流れるのを阻止することを奨励すべきであ
は、特定廃棄素材を廃棄物としての分類から
る。この目標を支援するために、予想されて
はずすことができるかどうか、事例毎に判断
いる規則(EC)No.304/2003 の修正により、
するということである。対照的に、現行ルー
2011 年までに共同体からの水銀輸出が段階
ルでは、廃棄素材は処理の終了まで廃棄物で
的に廃止されることになる。
あり、従って厳格な取扱い、処理、輸送およ
び輸出ルールが適用される。
7.
欧州委員会、廃棄物枠組み指令の変更
を提案
欧州委員会は、廃棄物枠組み指令の変更を検
IPP 携帯電話報告書、指標簡素化の必
要性を指摘
討している。これにより環境目標達成のため
本格的ライフサイクル分析(LCA:Life Cycle
に経済的手段の活用が促される。
Analysis)その他の複雑な調査は、携帯電話
JMC environment Update
8.
35
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
による環境影響評価には適していない3。これ
コンサルタント会社 ERM は、もう一つの試験
は 欧 州 委 員 会 の 包 括 的 製 品 政 策 ( IPP :
プロジェクトの報告書をまだ提出してない。
Integrated Product Policy)プロジェクトの一
これはカルフールのチーク材家具による影響
環として実施され、2005 年 1 月末に携帯電話
を評価するプロジェクトである。報告による
会社ノキアが終了した 2 つの試験プロジェク
と、チーク材の主要輸出国であるインドネシ
トの第 1 回報告書の結論である。
アの津波の影響で遅れているという。
ノキアは、少数の主要な製品環境パフォーマ
9. 理事会、欧州議会議員の訴えを受入れ、
自動車リサイクルに時間的猶予を認め
る
ンス指標(KEPI:Key Product Environmental
Performance Indicator)を使用した方がより
効果的かつ実行可能であるという。ノキアは、
すでに市販されている車種を製造する自動車
他の製造業者とともに、電子製品の適切な環
メーカーは、欧州議会および理事会が一度の
境評価方法の開発に取り組んでいる。KEPI
読会で徹底的に検討した迅速な手続きに基づ
はその一例である。
き、将来の EU 自動車リサイクル指令への遵
守に関して時間的猶予が与えられることにな
調査の結果、携帯電話の場合、そのライフサ
る。
イクルの全段階において最も影響が大きいの
は、エネルギー消費であることが明らかにな
同指令の発効後 36 ヶ月以内に車に使用する
った。調査では、第三世代携帯電話システム
素材はリサイクル、再生または再使用可能な
による年間二酸化炭素総排出量は、自動車を
素材にしなければならないとする要件を満た
250−380km 走行させた場合、すなわち約 20
リットルのガソリンを消費する場合に等しい。
世界の電話加入者は、2006 年には 20 億人に
していない新車種の型式認証を、加盟国は拒
否しなければならなくなる。しかし、すでに
市販されている既存車種は、指令発効後 54
達する見込みである。
ヶ月間は要件を満たさなくても販売が可能と
なる。
IPP プロジェクトの目的は、製品が環境に及
ぼす影響を軽減する対策が実際にどれだけ効
欧州委員会の原案では、36 ヶ月後にはすべて
果があるかを実証することである。携帯電話
の自動車がリサイクル要件を満たさなければ
は、多くの電子製品のライフサイクルを代表
ならない。しかし、ドイツ自由党欧州議会の
するものとして、試験プロジェクトの一つに
Holger Krahmer 議員は、当該提案の議会起草
選択された。もう一つはチーク材家具である。
者であるが、それでは事務的混乱が生じると
述べた。同委員は、現在 EU で市販されてい
この試験プロジェクトは 2004 年 6 月に選択
る約 600 の既存車種を指令発効後 3 年以内に
され、1 年間実施される。この初期報告書に
新しい型式認証にすべて合格させるのは不可
対するコメント期間は 2005 年 2 月 11 日まで
能である、との主張を通すことに成功した。
であった。同年 3 月には、調査結果およびそ
の意味を討議するために、委員会、業界およ
Krahmer 議員は、既存車種に、さらに 72 ヶ
び環境団体の代表との会合が開催される。
月の猶予期間を求めたが、議員の大半は中間
を取り、54 ヶ月間の猶予期間を支持した。こ
れは委員会提案より約 18 ヶ月も長い。
3
詳細情報は以下のサイトを参照のこと。
http://europa.eu.int/comm/environment/ipp/
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
欧州議会は、2005 年 3 月 9 日に理事会との
委員会は、この自主協定が 2004 年 1 月に合
合意を成立させることになっていたが、広報
意した EU 包装および包装廃棄物指令(指令
官の説明によると「技術的な理由」により−
EC/94/62)の目標達成に貢献するものと期
おそらく翻訳の遅れ−当該報告は最終段階で
待している。この目標では、各加盟国に全包
議題から削除された。今後、2005 年 4 月 11
装廃棄物の重量比で 50%から 65%の再生を
−14 日の欧州議会本会議で当該案はすんな
求めている。
りと認可され、その後直ちに理事会も認可す
ることになるであろう。従って、同指令はお
また、この目標には、2008 年までに、ガラス、
そらく 2007 年には発効するであろう。
紙および段ボールは 60%、金属は 50%、プ
ラスチックは 22.5%、木製容器は 15%とい
う目標が含まれている。委員会は、2005 年 6
10. 欧州プラスチック製造業者、リサイク
ル活性化のための自主協定に合意
月にこれらの目標の達成進捗状況を見直す予
定である。
欧州委員会は、2005 年 2 月 14 日、欧州プラ
スチック業界との自主協定締結を快諾した。
業界団体プラスチックヨーロッパ
これにより、製造業者は生分解性ポリマーを
(PlasticEurope)によると、従来の 15 ヵ国
製品に使用することに同意し、リサイクルの
EU 加盟国におけるプラスチックのリサイク
推進が促される4。
ルは 2001 年から 2002 年までの間に 11%増
加し、2003 年も同様に増加したという。また、
フェアホイゲン企業担当委員は、プラスチッ
埋立て処分されるプラスチックの量は 2001
ク業界との協定は、高い環境基準を維持しつ
年から 2003 年の間に「若干」増加しただけ
つ業界の規制緩和を推進するという新 EU 執
であるという。
行部の方針に沿うものであると述べた。
「2003 年に西欧で埋立て地に送られたプラ
「このような協定は厳しい法律に代わるもの
スチック廃棄物の総量は、1993 年と同じ水準
であり、より簡単な方法で、より優れた規制
と推定される」と、2004 年に発行されたプラ
方法を望む委員会にとって重要な要素であ
スチックヨーロッパの報告書に述べられてい
る。
」と、フェアホイゲン委員は述べた。
る。
この自主協定には、対象製品が生物分解性基
この新環境協定に合意した企業は、ドイツの
準を確実に満たすための認証およびラベル表
BASF 、 米 国 の Cargill Dow 、 イ タ リ ア の
示制度が含まれている。
Novamont 、 オ ラ ン ダ の
Rodenburg
Biopolymers などである。
また、当該協定は、製造業者に 180 日以内に
生物分解するプラスチックを使用し、特定の
11. ブラッセル、持続可能な開発戦略の見
直しを開始
エコ毒性および製品安全性に関する化学テス
トに合格することを求めている。
欧州委員会は、2005 年 2 月 9 日、EU 持続可
能な開発戦略(SDS:Sustainable Development
Strategy)の見直しを開始した。まず、2001
4
年に策定されたこの政策を評価するための青
EU プラスチック製造業者自主協定に関する詳しい情報は
以下のインターネットのサイトを参照のこと。
写真を描き、2005 年後半に本格的に開始する。
http://www.europa.eu.int/comm/enterprise/
environment/index_home/emantool_indic_prodrel_
vappr/polymer.htm
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
「われわれは期待した成果を達成することは
同委員にとって、この見直しに関する文書は、
できなかった・・・多くの問題が改善されず
委員会が依然として広範な環境・経済目標に
−悪化している」と認めながらも、バローゾ
対して打ち込んでいることを示す「シグナル」
欧州委員会委員長は、まず、EU 本部は現状を
であり、リスボン戦略の修正アジェンダの一
評価した後に戦略の変更を提案すると述べた。
部として採択された戦略目標に沿ったもので
「本日は枠組みを、そして今年後半には目的
ある。
を明確にし、それらを実施に移していく」と、
バローゾ担当委員長は、ディマス環境担当委
「持続可能な開発は EU の根本的目標であ
員とシュピドラ社会問題委員とともに、通知
る・・・EU 政策の核心部分であり、1 週間前
文書を発表する共同記者会見で述べた。
に採択された戦略目標の根底をなすものであ
る」と、同委員は述べている。
しかし、すでに委員会には、いくつかの変更
構想がある。バローゾ委員長は、見直しの目
さらに、戦略の効果を高めるために見直しが
的は、新たな節目や戦略の効果を高めるため
必要であることを示すもう一つの理由も述べ
のモニタリング・メカニズムを備えた一段と
た。同委員によると、多くの分野で、EU の状
「精度の高い」戦略を作成することであると
況が 2001 年と比べて改善していないことを
説明した。
示す証拠があり、生物多様性および交通シス
テムを過去 4 年間に悪化した二つの分野とし
バローゾ委員長は、委員会はまた見直しに「パ
て引き合いに出した。
ートナー」を参加させ、産業界、NGO、業界
団体および消費者団体がプロセスに参加でき
通知文書では、まず、
「戦略の礎となる持続的
るようにしたいと述べた。
可能な開発には典型的な三次元的性格」があ
ることを認め、見直しに関する委員会の行動
委員会は、バローゾ委員長がいう「プロアク
計画について述べている。当該文書では、持
ティブ・アプローチ」についても決定した。
続可能ということは、欧州および世界の他の
これは環境責任や社会責任を「機会」に変え
地域の両方において、経済成長、社会的側面、
る意味を含む。
環境保護が調和しなければ達成できない開発
であることを明確にしている。
雇用と成長を重視するあまり、環境面および
社会面の懸念を二の次にしているとの批判を
また、見直しでは、次の二つの方法で、地球
回避しようと、バローゾ委員長は、リスボン
規模の持続可能な開発に対する EU の貢献を
戦略と SDS は「補完的かつ相互に強化し合う
考慮に入れる。まず、戦略の中で触れられて
関係にある」が、目標や日程は異なると強調
いる 6 つの持続不可能な動向の国際的側面に
した。
取り組む。次に、地球規模の持続可能な開発
に貢献する EU 域外政策を戦略に統合する。
ディマス委員も、SDS 見直しに関する通知文
それにより、EU は国際的なレベルでの持続可
書を発表する記者会見で、リスボン戦略の修
能な開発アジェンダ推進における主導権の発
正をめぐり、特に環境団体から委員会に降り
揮、という責任を再確認し、強化する、とい
注いだ批判を払拭しようとした。同委員は、
うものである。
通知文書は、
「先週、われわれがリスボン戦略
のアジェンダを修正採択したことに対する政
さらに、委員会は、見直しを通じて影響評価
治的に必要、かつ時宜を得た賛辞である」と
と市場型手段の推進を伴う「新たな政策立案
付言した。
アプローチ」を強化し、資源利用、およびそ
JMC environment Update
38
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
れが環境に及ぼす影響によって社会が負担す
また、通知文書には「誰がどの時期にどんな
る真のコストを反映させたいと考えている。
行動に対して責任をもち、誰がそのコストを
負担するのか明確にしなければならない」と
もう一つの計画は、持続可能な開発に脅威を
述べられていることから、委員会は様々な利
与える主要な動向を重視していくことである。
害関係者との効果的なパートナーシップの構
通知文書では、これらの動向の多くは長期間
築を目指している。その目標に向けての第一
にわたる継続的対策を講じるしかないこと、
歩として、EU 経済社会委員会(the EU’s
また社会の機能および欧州経済の主要な構造
Economic and Social Committee)は、2005
的変化を伴うものであると述べている。しか
年 4 月 14−15 日にブラッセル本部で、戦略
しながら、当該文書では「これを短期的な無
見直しに関する利害関係者フォーラムを主催
策の口実にしてはならない」と論じている。
する。
従って、見直しでは、今後の目標および必要
な対策を明確化することを視野に入れて、現
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
在の戦略で取り上げている持続不可能な動向
の徹底的な評価も行われる。
Ⅱ.
2001 年に特定された優先分野は、EU 国際公
1. 電気電子機器法発効
約や、2004 年の EU 拡大(25 ヵ国に)、およ
消費者は、連邦官報に公布された新しい廃電
びその後の拡大に伴って生じる新たな課題と
気電子機器法において、2006 年 3 月 24 日か
の整合性が図られる。見直しでは、新規動向
ら古いラジオ、コンピュータ、その他の電気
または代替的動向の追加について検討するほ
電子機器を地域の回収拠点に無料で返却でき
か、さらに、最大限可能な相乗効果をあげる
とともに妥協のための取引を軽減するために、
様々な持続不可能な動向の関連も検討する。
るようになる、という選択肢が規定されてい
る。この法律により、ドイツは当該 EU 指令
を最も早く実施する加盟国の一つとなる。ト
さらに、優先分野における行動の重視と進捗
リッティン連邦環境大臣は、次のように述べ
状況の評価を可能にする方法として、目標、
ている。
「今後、製品責任原則は廃電気製品に
目的および関連する期限をより明確にする必
も適用される。これは環境および健康にとっ
要があることを確認する。
て朗報である。将来、資源は一段と持続的に
使用されるようになり、有害物質が及ぼす負
「動向とは、長期的な解決策が必要な長期的
の影響が回避される。」
な問題であるが、社会を正しい方向に進ませ
る唯一の方法は、当面の目標を明確に設定し、
2006 年 3 月以降、生産者は回収された機器を
進捗状況を評価することである」と、通知文
引き取り、最新技術を用いて処分する義務が
書に述べられている。従って、改定後の戦略
生じる。
では、持続不可能な動向毎に新たに大きな目
標を定め、EU が進捗状況をモニターできるよ
このため 2005 年 11 月 24 日から、生産者は
うな中間的節目を設定する。
電気機器を上市する前に登録しなければなら
ない。管理権限を有し、業界によって設置さ
通知文書では、年次モニタリングが期待はず
れる生産者のクリアリングハウスが中央登録
れであったことを認め、見直しの戦略目標の
所となる。同機関は、ドイツ連邦環境庁(UBA)
短中期的な成果に焦点を当てた、一段と強力
の監督下に置かれる。さらに、公共廃棄物管
な報告制度を策定する予定、としている。
JMC environment Update
ドイツ
39
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
理当局への初期コンテナーセットの供給およ
ドイツの国家配分手続きでは、工場が過去の
び生産者による地域回収拠点からの機器回収
排出量に基づいて排出枠を要求するか、ある
の調整を行わなければならない。当該指定ク
いはベンチマークという手順を利用するかの
リアリングハウスは、2004 年 8 月に生産者が
いずれかを選択できる。
Fürth に 設 置 し た 「 EAR Electro-Altgeräte
register(「WEE 登録」)」という財団である。
しかしながら、要求総量が許容総量を超過し
たために環境庁排出量取引局が利用した排出
さらに、2006 年 7 月以降、鉛、水銀、カドミ
枠削減方式に対して、一部の排出源から配分
ウム、六価クロム、PBB および PBDE は、新
量計算の根拠として過去の排出量を選択した
しい機器に使用できなくなる。
工場に対して不当に厳しい方式である、との
声が上がったのである。
2. ドイツ炭素排出源の半数近くが配分に不
結果的に、法律では 2.91%の排出削減と明記
服を申立て
EU 排出量取引制度への参加を義務づけられ
されているものの、一部の工場は最大 7.5%
ているドイツの 1,849 施設のうち、799 施設
もの排出削減を要求されることになった。
がドイツ国家配分計画に示された二酸化炭素
排出枠に不服を申し立てたと、2005 年 2 月下
その他の不服は、主として、ベンチマーク方
旬に連邦環境庁(UBA)が発表した。
式に基づき適用される利用可能な最善の技術
の基準に対するものであり、また排出量取引
しかしながら、同庁は、取引は計画通りに進
制度全般の合法性を問題視する不服も少数あ
めると発表した。配分決定に対する不服申立
った。
ての期限は 2005 年 1 月 31 日であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
同庁によると、不服を申し立てた 799 施設の
うち、4 分の 1 は配分増加を求める理由を述
べているが、その他の施設は何も説明してい
Ⅲ.
ないという。
英国
1. 企業の廃棄物削減・資源効率改善を推進
不服申立て件数は「意外ではない」と、同庁
するプログラムがスタート
ディレクターAndreas Troge 氏は声明の中で
企業の効率的資源管理、および廃棄物削減を
述べている。排出枠には相当のキャッシュバ
支援する 2 億 8,400 万ポンド(4 億 1,500 万
リューがあり、これは「新たな法的領域」で
ユーロ)規模の新しい戦略が、2005 年 3 月
ある。従って、
「夥しい数の企業が様々な法的
30 日にモーリー環境大臣によって正式に開
オプションを利用している」と、同氏は述べ
始された5。
ている。
多くの不服は、要求総量がドイツの許容総量
を超過することが判明したために、同庁が配
分削減に用いた方式を標的としたものである
5
と、同庁は述べている。
JMC environment Update
40
産業資源効率廃棄物(BREW:Business Resource
Efficiency and Waste) プログラムは、その必要性に応え
るために、経済界代表、財務省および貿易産業省(DTI)
との協議に基づき、開発された。詳しい情報は以下のサ
イトを参照すること。
www.defra.gov.uk/environment/waste/brew/index.htm
Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
産 業 資 源 効 率 ・ 廃 棄 物 ( BREW : Business
・ 製品設計:企業は、Defra の市場転換プロ
Resource Efficiency and Waste)プログラムは、
グラムへの参加を通じて、方針の方向性
埋立税の増収によって生じた資源を、一連の
および優先事項を早期に通告することに
無料サービスおよび企業を対象とする特定支
より企業の設計戦略をより良く伝え、方
援の財源として還流する制度である。
針立案に影響を与えることができる。ま
た、Envirowise から無料で助言を受ける
同プログラムは、特に廃棄物減量、埋立て地
ことにより、製品設計段階で廃棄物およ
に送るゴミの転換および資源効率改善を対象
び非効率なものを除外することができる。
としている。
・ 業務: Envirowise の無料の視察および助
モーリー環境大臣は次のように述べている。
言ならびにカーボントラストの特定支援
「製造業者から小売業者に至るまで幅広い産
を受けることにより、管理制度および業
業が、多くの場合、投資を伴わないかあるい
務を見直し、汚染・廃棄物の削減および
はほとんど伴うことなく、廃棄物削減および
収益を拡大できる。
資源効率改善により、文字通り年間何十億ポ
ンドも節約することが可能である。あらゆる
・ 廃棄物に対する市場解決策:国家産業共
規模の企業が参加すれば、環境への影響を緩
生プログラムにより、ある会社の副産物
和しつつ、収益を拡大することになる。」
を他の会社の供給原料として商業利用す
る。これも企業を対象とする無料サービ
以下に示すとおり、BREW から資金調達した
スである。
各種の取り組みは、企業のビジネスプロセス
の各段階においてその効率的資源管理および
・ 遵守の保証:企業が合法的な廃棄物管理
廃棄物削減を支援するものである。
を行うことができるよう、平等な土俵を
整備することを目的とした環境庁主導の
・ 研究開発:DTI 技術プログラムにより、
新プログラムにより、企業が廃棄物を処
企業が資源効率および廃棄物に関する
分する必要がある場合に法律を遵守させ
様々なアイデアを研究段階から商用化す
る。同時に、違反した企業を厳しく取り
ることを支援する。
締まる。
・ 市場開発:廃棄物資源行動計画(WRAP:
モーリー大臣は、さらに次のように述べてい
the Waste and Resources Action
Program)により、難しい産業廃棄物のた
る。
「このプログラムは、経済界に強く支持さ
めの新市場を開発し、リサイクルに関与
の価値を証明した取り組みである。おかげで、
する中小企業(SME)に助言および支援
英国企業はこれまでに全体で 10 億ポンド以
を提供する。中小企業が排出するリサイ
上のコスト削減を達成できた。」
クル可能資源の回収制度に関する実現可
「これまでの環境への貢献には大いに励まさ
能性調査も実施する。
れる。何百万トンもの廃棄物が埋立て地から
れている。これらは、すでに企業に対するそ
転換され、何百万トンもの二酸化炭素排出量
・ 戦略的開発:英国環境食糧農村地域省
が削減された。また、水の消費量が削減され
(Defra)の「廃棄物データ」戦略により、
るなどの付随効果も発生している。廃棄物減
廃棄物動向に関するデータの改善および
量は常に収益の機会であった。今日の消費者、
それに基づく計画立案を改善する。
経済、および環境保護ならびに規制状況にお
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
いて、廃棄物減量は必要不可欠なものとなり
「有害廃棄物規則の頭書の告知は、2005 年 4
つつある。」
月 16 日に発効する。また、同規則の全要件
は 2005 年 7 月 16 日に発効し、2005 年 5 月
また、英国産業連盟(CBI)の Michael Roberts
3 日には環境庁の電子的手段による通知の受
氏は、同プログラムの開始に当たり、次のよ
付が可能となる。」
うに述べている。
「廃棄物最小化は、ゴミ埋立
てによる影響を緩和し、必要な資源量を減ら
「1996 年以来の特別廃棄物規則の経験があ
し、コスト節減をもたらすもので、企業にと
ったからこそ、改善が可能となった。より良
って誰もが利益を得られる機会となる可能性
い規制という意味での管理の合理化のみなら
がある。われわれは、本日開始した BREW 戦
ず、有害廃棄物指令の要件をより効果的に実
略を歓迎するとともに、資金が確実に有効的
施し、環境を十分に守ることができるように
に利用されるよう、推進グループに参加する
なった。」
つもりである。
」
新規則では、現行のように有害廃棄物を現場
本プログラムの開発および管理は、企業代表
から移動する前に環境庁に事前通知する必要
が構成する推進グループが指揮する。
がなくなり、移動後の廃棄物の追跡も以前よ
り簡単な方法が導入される。また、特定の有
2. 有害廃棄物規制により有害廃棄物追跡を
害廃棄物製造箇所を環境庁に確実に通知させ
る制度が新たに導入される。これにより、発
改善
新イングランド有害廃棄物規側が 2005 年 3
生箇所から廃棄箇所に至るまで有害廃棄物チ
月 24 日に議会に提出された。新規則は、有
ェーン全体の規則が改善される。
害廃棄物の移動をより簡単な方法で追跡する
新たな手順を導入する6。
モーリー大臣はさらに、次のように述べてい
る。
「場所の通知を伴う簡素化された追跡制度
新規側により、イングランドの 1996 年特別
が導入されるので、この新規則により、環境
廃棄物規則は廃止され、欧州有害廃棄物指令
庁は発生箇所での有害廃棄物対策に重点を置
の要件に完全に適合することになる。
き、有害廃棄物製造業者に助言および指導を
与え、環境要件を遵守しない製造業者に的を
絞ることができるようになる。」
今回の進展に言及して、モーリー環境大臣は
以下のように述べている。
「追跡制度の変更により、環境庁は事務職ス
「私は、この規則を提案できたことを嬉しく
タッフを現場の執行スタッフへと配置転換で
思う。この規則は、現在および今後の長きに
きるようになる。」
わたり、われわれの有害廃棄物管理の礎にな
るであろう。産業界も、新規則の適用時期を
2005 年 7 月 16 日の規則発効が提案されたの
めぐる不確実さがこれで消えたことに満足す
は、しばらく前のことであるが、これはゴミ
るであろう。」
埋立て地の廃棄物受け入れ基準の実施と同時
期に発効するものである。
6
有害廃棄物に関する専用サイトは、以下を参照のこと。
www.hazardouswaste.org.uk
同サイトには有害廃棄物法の変更に関する主要情報が
提供されている。また、最新情報、ガイダンス、総合的
FAQ および照会先が示されている。
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欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
3. 英国、EU 排出量取引制度に関する次の
能性があることを明らかにしていたので、こ
の回答に失望している。政府はまた、委員会
ステップを発表
英国政府は、2005 年 3 月 11 日、欧州委員会
に通知した修正案は、関連する共同体法に整
に対する法的手続きを開始する一方で、でき
合すると考えている。
る限り早急に排出枠を発行し、英国の産業施
設が EU 排出量取引制度(EU ETS:the EU
また、今回の法的手続きにより、委員会に修
Emission Trading Scheme)に参加する意向で
正案の内容の検討を要求する。修正案では、
英国の施設に配分する排出枠総量を 7 億
7
あることを発表した 。
5,600 万トンにすることが提案されている。
排出量取引は、英国および欧州全域の気候変
動対策の主要な要素であり、産業界に炭素排
4.
出削減のインセンティブを与えると同時に、
電子電気業界は、英国政府が EU 廃電気電子
最小コストでのその実現を可能にする制度で
機 器 指 令 ( WEEE : Waste Electrical And
ある。
Electronic Equipment)」を正しく実施できな
英国製造業者、WEEE 実施の延期を要求
い場合、
「製造業を海外に移転させる他にほと
同制度の対象となる英国の産業施設が本格的
んど選択肢がなくなる」と、英国リサイクル
に参加できるように、政府はできるだけ早急
電 気 製 造 業 コ ン ソ ー シ ア ム ( REPIC : UK
に排出枠を発行する意向である。この配分は
Recycling Electrical Producers ’
暫定総量 7 億 3,600 万トンの排出枠を基準と
Consortium)は警告を発している。
Industry
して行われる。これは欧州委員会がすでに認
可しており、2 月に発表された数字に対する
政府は、2005 年 3 月中旬までに WEEE 指令
事業者のコメント内容が十分に把握され次第、
を実施する意図を発表すべきであったが、会
配分が行われる。この作業は 2005 年 4 月下
員が電気電子機器売上の 80%を占めるとい
旬か 5 月上旬に完了すると思われる。
う REPIC は、EU が期限とする 2005 年 8 月ま
でにインフラを整備するには「時間が足りな
政府はまた、委員会に対する法的手続きを開
い」と述べた。同団体は、政府と業界が実行
始する予定である。2005 年 2 月 14 日、政府
可能な解決策に合意できるよう、2006 年まで
は、2004 年 11 月に委員会に通知した国家配
延期することを求めた。
分計画(NAP:National Allocation Plan)修正
案に沿って、施設レベルの排出枠配分方法を
REPIC のチーフ・エグゼクティブ Dr. Philip
発表した。その後、政府は配分修正の根拠を
Morton は、2005 年 2 月に、議員や経済界の
主張してきた。しかしながら、委員会は、2004
指導者に宛てた書簡の中で業界が抱く懸念を
年 4 月に同委員会に通知された暫定総量 7 億
明らかにした。同氏は、政府は「潜在的な落
3,600 万トンの排出枠を超過することはでき
とし穴を認識し、他の欧州諸国のように実施
ない、との考えを明らかにした。従って、委
を 1 年間延期する必要がある。これに失敗し
員会は、2004 年 11 月に提出された修正案の
た場合の影響は余りにも重大であり、他に方
中味を検討する用意はないという。政府は、
法はない」と、述べている。
2004 年 4 月の NAP に示した数字は変更の可
また、この書簡では、廃棄物業界は具体的な
リサイクル・プロセスに関する決定が依然と
7
して下されていないために機器、および訓練
詳しい情報は以下のサイトを参照すること。
www.defra.gov.uk/environment/climatechange/trading/
eu/index.htm
www.dti.gov.uk/energy/sepn/euets.shtml
JMC environment Update
への投資ができていないと指摘している。
「こ
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欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
の指令は多くの複雑な問題を発生させており、 5. 英国、新戦略により持続可能な開発を強化
製造業者および小売業者は、以前から全力を
「将来の安全確保」を支援するための新たな
尽くしてこれに取り組んでいる。」
政策の中で、英国政府は大幅に内容を修正し、
重点分野を明確にした持続可能な開発戦略を
Morton 氏は、電気電子機器業界の利益率が厳
発表した。
しいことを指摘し、
「政府自身が発表している
数字でも実施コストが業界の収益に等しいこ
同戦略について、ブレア首相は、新たな枠組
とが分かる」と述べている。すなわち、製造
みが「行動の触媒」となり、また政府のあら
業者は「電子廃棄物のリサイクルコストを消
ゆるレベルの考え方や行動を統一し、様々な
費者に転嫁」できなければならないというこ
長期目標が実現されることを期待している、
とであり、そうでなければ「雇用が失われる」
と述べた。そのために同戦略では、以下に示
と述べた。
す 4 つの「重点分野」において早急な対策を
求めている。
もう一つの懸念は、リサイクル料金を消費者
に対して透明にしなければならないこと、お
・ 持続可能な消費および生産
よび消費者が法外な額を支払うようなことが
―少ない消費で多くの生産を達成する
あってはならないということである。
「消費者
取り組み。
は、古い製品の合理的 WEEE 関連コストに見
・ 自然資源の保護および環境改善。
合うリサイクル料金を支払っていること、ま
・ 気候変動およびエネルギー
た完全にその目的に『限定されている』こと
―最大の脅威に対する対策。
が消費者に分かるようにしなければならな
・ 持続可能な地域社会の構築
い」と、Morton 氏は述べた。「料金が目に見
―地球規模および地域レベルの取り組み。
えるものでなければ、供給チェーンの中で「値
上げ」が行われ、消費者が必要以上の額を支
さらに、政府は、第 5 の「横断的重点分野」
払うことになる可能性がある。」
として「行動の変容」、すなわち他のすべての
対策の立案および方向付けのための原則につ
さらに、同氏は次のように発言している。
いて詳しく述べている。
「REPIC は指令の意図および指令が現実的に
可能な限り早く導入されることを全面的に支
同戦略は、最も具体的な目的として、この 10
持している。しかし、消費者が実際のリサイ
年間で、英国が欧州の持続可能な調達のリー
クル費用を上回る金額を負担しなければなら
ダーになるという目標を定めている。そのた
ないのであれば、誰にとっても最善とは言え
めに、持続可能な調達に関する特別委員会が
ない。
」同様の問題に直面したドイツ政府も、
設置される。同委員会は 2009 年までに国家
2006 年まで実施を延期し、他の加盟国も同様
行動計画を策定しなければならない。その中
の措置を取る見込みであると、書簡には指摘
で、公的部門の調達が直接的に与える影響と、
されていた。
年間 1,250 億ポンド(1,790 億ユーロ)の公
的支出による技術革新の推進、およびさらに
また、回収分類が 5 種類しかないので、再生
多くの持続可能な製品のための市場創設を確
業務の質に関する懸念も存在する。つまり、
実にする方法という二つの問題を検討する。
製造業者によると、様々な機器が一緒に回収
されるため、生態系にやさしい製品設計を推
新戦略に基づき、2006 年 4 月までに炭素相殺
進するインセンティブが下がり、製造業者の
制度も設立され、同制度により公務員および
コストが上昇するという。
JMC environment Update
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
政府の各部署は空路による移動が及ぼす炭素
ルペルティエ. エコロジー・持続可能開発大
の影響を相殺できるようになる。空路以外に
臣 は 、 経 済 協 力 開 発 機 構 ( OECD : the
別の方法がない場合、政府は、再生可能エネ
ルギーおよびエネルギー効率化プロジェクト
Organization for Economic Cooperation and
Development)の作成による仏環境政策レビ
に投資することによって、公務員のフライト
ューに関するスピーチの中で「グリーン税委
によって放出された二酸化炭素を相殺する。
員会」設置計画を明らかにした。
また、可能であれば、この投資は、例えば大
気の質の改善、エネルギーおよび技術へのア
パリに本部を置く OECD−世界の主要先進国
クセスなど持続可能な開発に二次的恩恵をも
30 ヶ国のシンクタンク兼交渉の場−は、エコ
たらす対策を対象としなければならない。
税改革はフランスが直面する最も緊急の環境
課題の一つであるとしている。
また、
「ローカルアジェンダ 21 活動の活性化」
に資するため、
「共同体行動 2020(Community
「1999 年に始まった環境税改革の大規模な
Action 2020)」というプログラムが今年後半
推進は、成果をあげていない」と OECD は指
に立ち上げられる。これに、ローカルグルー
摘し、フランスは「グリーン税委員会を設置」
プに支援、情報および研修が提供され、さら
することにより「税および助成金がもたらす
に多くの市民が地域開発計画および持続可能
環境への影響を詳細に検証」すべきであると
な共同体の戦略の立案ならびに解釈に参加で
述べている。
きるようになる。これに関連して、政府は、
インターネットベースの地図および統計を利
OECD レポートは、グリーン税委員会のため
用して提供される「近隣地域データ」構想へ
の指針を示している。また、
「大半の助成金が
の財源拠出を公約した。その目的は「すべて
相変わらず環境上の、または経済的結果の見
の人の地域環境の質に関する完全な情報」を
通しではなく、財源確保の可能性に基づいて
イングランド国民に提供することである。
決定されている」こと、また「税には環境の
外部性がほとんど考慮されていない」点に言
また、進捗状況をモニターするため、独立し
及している。
た持続可能な開発委員会に、持続可能な開発
の実現に関する政府の遂行を「監視する役割」
OECD によると、グリーン税委員会は、特に
が新たに与えられる。
「交通およびエネルギー税に関するある側面
(すなわち)環境に有害な部分」を検討しな
ければならない」という。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エネルギー税改革に関する OECD 勧告には、
環境に優しい水力発電への課税はその利用を
Ⅳ.
1.
推進するために廃止すること、またディーゼ
フランス
ルおよびガソリンに関しては、ディーゼルを
フランス、OECD 勧告に基づきエコ税委
優遇する税制を廃止して「均衡の取れた税制
員会設置を計画
に移行する」ことが含まれている。
2005 年 2 月 18 日、フランスは、2006 年度予
算に環境税導入案を策定するために、2005
ルベルティエ大臣は、OECD 税改革プログラ
年 3 月に省内作業グループを設置する計画で
ム実施への意欲を表明し、ラファラン首相が
あると発表した。
10 名の委員によって構成されるグリーン税
委員会の設置を認可したと述べた。同委員会
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欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
は、環境省と財務省の共同管轄下に置かれる
動した、素材別に異なる料金設定が導入され
ことになる。
る。
ルベルティエ大臣は、グリーン税委員会の付
REPA によると、これは 2005 年に発表される
託事項はエネルギー課税に限定されるもので
一連の料金体系変更の第一弾であり、消費者
はないとして、真の目標は「個人の行動の変
にとっては値上げになる場合も値下げになる
容」であり、
「環境有害性の低い革新的製品誕
場合もあるという。
生の促進」であると述べた。そのために、委
員会は、今年初めに提案された低燃費小型車
REPA のスポークスマンによると、これまで
種への課税を引き下げる一方、高燃費大型乗
の一律の料金体系は「もはや実行できない」
用車およびトラックに対する課税を強化する
という。同氏は次のように述べている。
「われ
新車課税改革案を検討する可能性があると、
われは料金体系を変更して、回収素材の価格
同大臣は述べた。
に含まれていないリサイクル費用を、その費
用を発生させているものの間で公平に分配す
また、OECD レポートは、汚染管理、天然資
るようにする。
」
源保全、エネルギー・交通・農業政策への環
境配慮の統合などの諸分野に重要な課題が残
「低コストでリサイクル可能な包装素材に、
っていることを指摘している。同レポートは、
よりリサイクル費用の高い包装素材にかかる
49 項目に及ぶ目標を環境政策改革案として
費用を負担させるべきではない。」
提示している。以下にその一部を示す。
最大の変更は段ボールの料金である。顧客の
・ 農業における硝酸肥料および殺虫剤の過
事業分野別に 4 段階の異なる料金が導入され
剰使用による被害を軽減すること。
る。その分類は業界との分析および協議の後
・ 経済全体におけるエネルギー集約度を下
に決定された。
げること。
REPA によると、新料金制度は、様々な市場
・ 計画されている気候変動対策を実施する
こと。
から発生し、分別された段ボール包装が、最
・ 山間部、沿岸部および景観に関する法律、
終的にどの程度オープンシステムのリサイク
ならびに自然および多様性保全に関する
ル・ステーションに集められるかによって決
EU 指令の執行を改善すること。
められているという。この制度で段ボールを
取り扱うコストは SKR2(0.22 ユーロ)/kg
と高いのに対して、このようなステーション
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
を通過しない段ボールは非常に低コストで処
理可能である。
V. スウェーデン
燃料、果実および野菜、化学製品、非包装用
1. スウェーデンのグリーンドット企業、格
紙およびタバコのメーカーに対しては
SKR0.02(0.002 ユーロ)/kg の料金が適用
差を設けたリサイクル料金体系を導入
される。他の食料品、医薬品、非包装用プラ
スウェーデンのグリーンドット企業 REPA の
スチック、時計類、宝石およびメガネ、新聞
料金体系変更は、2005 年 4 月 1 日より施行
および雑誌には、SKR0.05(0.0055 ユーロ)
される。実際のリサイクル費用により一層連
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/kg が課せられる。
46
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欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
建設資材、書籍およびレコード、パッケージ、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
清掃用品、車両、機械およびエンジン、スポ
ーツ用品、繊維および衣料品、木製品から出
る段ボールには SKR0.15(0.016 ユーロ)/
Ⅵ.
kg がかかる。
1.
オランダ
企業向け一般環境規制の増加
ヴァンギール住宅国土計画環境(VROM)大
最高料金の SKR0.75(0.08 ユーロ)/kg は、
臣は、企業を対象とする現行の一般環境規制
家電製品および電気器具、金物類およびビル
を見直す予定である。20,000 社の環境許可が
備品、家具およびコンピュータ用の段ボール
一般規制に置き換えられることになる。これ
に適用される。特別料金の SKR0.45(0.049
らの新一般規制の意図は、実施および執行状
ユーロ)/kg は「ピザ配達用の箱などの「業
況を改善することである。このことにより、
務用パッケージ」に適用される。
一層環境保護が進むと思われる。旧規制を新
規制に置き換えることによって、企業が負担
つまり、段ボールに異なる料金体系を導入す
する事務的経費は 2 億 1,600 万ユーロほど削
ることにより、今後は、以前のように段ボー
減される見込みである。2007 年 1 月 1 日ま
ルのサプライヤーではなく、詰める側の使用
でにこれらの新規制の導入を目指す。
者が REPA に料金を支払わなければならなく
なる。これは、製造業者は必ずしも最終的に
農業部門を除く企業を対象とする現行の一般
その段ボールを使用する業界が分からないか
規制−いわゆる 8.40 政令−は、一つの政令に
らである。段ボールに詰められた製品を輸入
統合される。8.40 政令には、様々な部門の企
する業者は、他の素材と同様に、今後も料金
業が遵守しなければならない一般環境規制が
を負担する。
含まれている。統合プロセスにより、規制の
簡素化、標準化およびコスト削減が進み、事
鉄鋼やアルミの料金は、以前と同じく
務的経費が 5,500 万ユーロほど削減される。
SKR1.20(0.13 ユーロ)/kg である。但し、
20,000 社の環境許可を一般規制に置き換え
缶、バケツおよびドラムなど大型容器は除く。
ることで、VROM は 1 億 6,100 万ユーロのコ
これらの料金は、回収コストの低下により半
スト削減を実現できる。
額の 0.6(0.006 ユーロ)/kg となる。
2. 排出量取引、順調なスタート
プラスチック製買物袋の料金は、低リサイク
CO2 排 出 量 取 引 に 参 加 義 務 の あ る 企 業 の
ルコストを反映して、SKR2/kg から SKR1.5
95%以上が、排出枠の割当を予定通りに受け
(0.165 ユーロ)/kg に下がる。
た。排出量取引登録簿は、2005 年 2 月 28 日
までに運用が開始される。その時点で、企業
REPA は、2005 年後半にさらに料金体系の変
はそれぞれの排出権を獲得する。まもなく州
更の導入を検討している、と述べた。紙およ
政 府 連 合 会 ( the Association of Provincial
び段ボールに関する新料金体系は 2005 年 7
Authorities)およびオランダ産業経営者連盟
月に導入され、輸送用パッケージに関しては
(VNO-NCW)に提出される評価に基づき、オ
「実質的」引き下げとなり、他の形態の紙お
ランダは、EU 諸国の中で最も早く排出量取引
よび段ボール・パッケージの料金は引き上げ
の要件を満たした国の一つとなる。
られるという。また、プラスチックのパッケ
ージ料金の見直しも 2005 年に実施する予定
であるという。
JMC environment Update
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欧州環境規制動向 ∼在ブラッセル弁護士モニタリング情報 [38]
2004 年 10 月から 2005 年 1 月までに、オラ
総企業数 205 社が排出量取引制度に参加する。
ンダ排出当局(NEA:The Netherlands
精錬所をはじめとして金属、製紙、化学およ
Emissions Authority)は 195 件の CO2 排出枠
び食品業界の企業など、いずれも大口エネル
割り当てた。排出量取引に参加義務のある企
ギー需要家である。
業は、取引開始時点で排出枠を受けていなけ
れば、法律に違反したと見なされる。排出枠
オランダは、国際協定に基づき、温室効果ガ
の割当を受けるには、まず、企業は容認可能
スおよび窒素酸化物の排出削減が義務づけら
なモニタリング計画を提出しなければならな
れている。2月に発効した京都議定書による
い。モニタリング計画には、年間排出量の測
と、オランダは、温室効果ガスの排出を 2008
定方法が示されている。NEA、業界、市町村
年から 2012 年までに 6%削減することが義
および州との緊密な協力により、モニタリン
務づけられている。欧州の規則によると、オ
グ計画の質は概して高かった。
ランダは、2010 年において窒素酸化物の排出
量が 260,000 トンを超過してはならない。
CO2 排出量取引は、経済的な方法で温室効果
ガスの排出を削減するための新しいツールで
NEA には、排出枠の割当、排出量取引の登録
ある。企業は、社内的な対策であれ、他の企
およびモニタリングの責任がある。現在、NEA
業からの排出量の購入であれ、削減達成の方
は VROM に所属しているが、将来的には自治
法を自由に選択できる。2005 年 6 月初めには、
組織となる。
酸性化とスモッグを軽減する対策として窒素
酸化物の排出量取引制度が施行される見込み
である。
<本モニタリング情報は、競輪の補助金を受けて実施したものです>
JMC environment Update
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連載 米国における環境関連動向
∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
【今月号のまとめ】
メリーランド州で 2005 年 5 月 10 日、全米で第 3 番目となる廃電子機器リサイクル法が成立
した。同法では、コンピュータメーカーに年間 5,000 ドルの登録料の支払いを義務付け、こ
の登録料を地方自治体(郡)主導のリサイクル活動の資金に充てる仕組みになっており、消
費者にリサイクル費用を負担させるカリフォルニア州の ARF の仕組みや、メーカーにリサイ
クルの仕組みの構築とリサイクル費用の負担をさせるメイン州のものとは異なっている。尚、
コンピュータメーカーは、自社で引き取りの仕組みを構築した場合、次年度からの年間登録
料は 500 ドルに引き下げられる。このような、同法が提唱する新たなアプローチは、法案が
提出された当初は既に独自のリサイクルの仕組みを構築している HP 社とデル社の反対を受
けたものの、最終的には州政府、地方自治体ならびにコンピュータメーカーからの支持を取
り付けることに成功した点が特筆できる。
NEPSI は 2001 年の発足以降、廃電子機器リサイクルの利害関係者からの統一意見を構築する
ことができないまま、活動が停止している。このような動きに業を煮やした米国環境保護庁
は 2005 年 3 月、廃電子機器リサイクルの利害関係者から 200 名の参加者を集い、全米規模の
廃電子機器リサイクルの仕組み構築に向けた具体的なアクションプランを構築することを目
指した会議を開催した。この会議では、最終的に 8 つのアクションプランが様々な利害関係
者(州政府機関、環境保護団体、小売店、大学機関など)から提案された。
Ⅰ.メリーランド州議会で廃電子機器リサイクル関連法が成立
米国では、廃電子機器リサイクル法としてカリフォルニア州の『2003 年廃電子機器リサイクル法
(The Electronic Waste recycling Act of 2003)』1と、メイン州の『廃電子機器の安全な回収・リ
サイクルのための責任共有システムを提供し、公共衛生及び環境を保護する法(An Act To Protect
Public Health and the Environment by Providing for a System of Shared Responsibility for the Safe
Collection and Recycling of Electronic Waste)』2の 2 本が既に成立している。これら廃電子機器リ
サイクル法は、廃電子機器の回収方法や費用負担の仕組みが異なっている点が特徴的であった。
1
カリフォルニア州の廃電子機器リサイクル法の概要については、ワシントン・コア『米国の環境関連動向』報告、2003 年 11
月号参照。
2
メイン州の廃電子機器リサイクル法の概要については、ワシントン・コア『米国の環境関連動向』報告、2005 年 3 月号参照。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
このような中で 2005 年 5 月 10 日、
カリフォルニア州
メイン州
2003年9月成立
2004年4月成立
メリーランド州において、2 州と
はまた異なるリサイクルの仕組み
を提案した廃電子機器リサイクル
法『州統一のコンピュータ・リサ
イ ク ル 試 験プログラム法
(Statewide Computer Recycling
Pilot Program:以下メリーランド
州リサイクル・プログラム法)』3が
メリーランド州
成立した。米国で第 3 番目となる
2005年5月成立
同法は、メリーランド州政府が主
© 2005 Washington|CORE
導の廃電子機器リサイクル試験プ
ログラムを構築し、このプログラムへの登録料として、コンピュータメーカーに対して毎年 5,000
ドルを支払うことを義務付けている。これにより、米国におけるコンピュータメーカーは、また
新たな州レベルの法規制へ対応する必要が出た。尚、同法では消費者へのリサイクル料の負担は
課せられてない。図表 1 で、州レベルで現在成立している廃電子機器リサイクル法の特徴を比較
した。ここでは、3 つの州ではそれぞれがまったく異なる仕組みを構築していることがわかる。
ニューハンプ
シャー
ワシントン
ノース
ダコタ
モンタナ
オレゴン
アイダホ
ワイオミング
バーモント
ミネソタ州
サウス
ダコタ
ネブラスカ
ネバダ
ユタ
コロラド
マサチューセッツ
ウィスコンシン
ペンシルバニア
アイオワ
イリノイ
インディアナ
オハイオ
ウエスト
バージニア
カンザス
ノースカロライナ
テネシー
ニュー
メキシコ
オクラホマ
ロードアイランド
コネチカット
ニュージャージー
デラウェア
バージニア
ケンタッキー
ミズーリ
アリゾナ
ニューヨーク
ミシガン
ワシントンDC
サウス
カロライナ
アーカンソー
ジョージア
ミシシッピ
アラバマ
テキサス
リダ
フロ
ルイジアナ
アラスカ
ハワイ
図表 1 米国3州の廃電子機器リサイクル法比較
州、法成立日、
対象製品
施行日
リサイクルの仕組み
ƒ
カリフォルニア州
2005 年 1 月 1 日
2003 年 9 月成立
対象:ディスプ ƒ
レー機器(対角線
4 インチ以上)
ƒ
消費者が負担(機器の
回収業者またはリサイ
購入時に 6-10 ドルを
徴収開始
クル業者がリサイクル
支払う)
する
廃電子機器の回
ƒ
収開始予定
2005 年 7 月 1 日
メリーランド州
ƒ
リサイクル料の ƒ
2006 年 1 月1日
2004 年 4 月成立 ƒ
対象:コンピュー
タモニター,TV
消費者が回収業者に持
ち込む
ƒ
メイン州
リサイクル費用負担
コンピュータ・
2005 年 5 月成立
リサイクル試験
対象:コンピュータ
プログラムが開
始予定
ƒ
地方自治体が一般家庭 ƒ
地方 自治体が一 般家
から集積所へ運ぶ
庭か ら集積所ま での
メーカーが集積所から
回収費用を負担
回収し、自らが構築した ƒ
メー カーが集積 所か
リサイクルの仕組みで
ら の 回収 費と リ サイ
リサイクルする
クル費用を負担
郡がリサイクルの仕組
みを構築
ƒ
メーカーが引き取りの
仕組みを構築
ƒ
メーカーが年間 5,000
ドル(あるいは 500 ド
ル)を州政府に支払う
出典:各州の廃電子機器リサイクル法4を基にワシントン・コア作成
3
『州統一のコンピュータ・リサイクル試験プログラム法(Statewide Computer Recycling Pilot Program)
』については以下を参
照:http://mlis.state.md.us/2005rs/bills/hb/hb0575t.pdf
4
カリフォルニア州の廃電子機器リサイクル法、全文は以下を参照:
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/postquery?bill_number=sb_20&sess=PREV&house=B&author=sher、
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/postquery?bill_number=sb_50&sess=PREV&house=B&author=sher
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Vol. 7 No. 1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
以下に、
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の概要と設立の背景、及び同法に対する関
係者の反応をまとめる。
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の概要
メリーランド州にて成立した『メリーランド州リサイクル・プログラム法』は、2005 年 2 月 4
日に州下院議員のダン・K・モレム議員(Dan K. Morhaim、民主党)5他 3 名6により提案された法
案『HB575』が基盤となっている。同法案は 2005 年 3 月 26 日に州下院、同年 4 月 8 日に州上院
で可決され、5 月 10 日にメリーランド州のロバート・L・エーリッヒ・ジュニア知事(Robert L.
Ehrlich, Jr.)によって署名されて同日成立した。
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の
最大の目的は、コンピュータの埋め立てを未然に阻止するというものであり、主に以下の 3 点で
構成されている。
図表 2 『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の 3 つのポイント
地方自治体(郡)に対してコンピュータの回収・リサイクル方法を独自に構築する権限
①
を付与する。
②
州政府環境局が州統一のコンピュータ・リサイクル試験プログラムを構築する。
③
コンピュータメーカーに対し登録料の支払いを義務付ける。
出典:『メリーランド州リサイクル・プログラム法』7を基にワシントン・コア作成
以下に、それぞれのポイントの詳細を纏める。
① 地方自治体(郡)に対してコンピュータの回収・リサイクル方法を独自に構築する権限を付
与する。
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』では、州内の郡がそれぞれ独自の廃電子機器の回
収やリサイクル計画を構築できるよう権限を付与している。郡のリサイクル計画策定プロセスの
支援は、メリーランド州政府環境局(Department of Environment)8のリサイクル室(Office of
Recycling)9が主管する。また、州政府がリサイクル目標値(recycling goals)を郡単位で導入す
ることも定めている。
メイン州の廃電子機器リサイクル法、全文は以下を参照:
http://janus.state.me.us/legis/ros/lom/LOM121st/15Pub651-700/Pub651-700-19.htm#P3287_550700
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』全文は以下を参照:http://mlis.state.md.us/2005rs/bills/hb/hb0575t.pdf
5
モレム議員は別途、コンピュータメーカーに対して、新たに製造するコンピュータ設計を解体しやすいものにすることを求め
る法案『環境にやさしいコンピュータの製造法案(Environmentally Compliant Manufacturers of Computers: HB614)
』も提出
したが、同法案は下院を通過することはなかった。HB614:http://mlis.state.md.us/2005rs/billfile/hb0614.htm
6
法案の提出者は、モレム議員の他に州下院議員のエリザベス・ボボ議員(Elizabeth Bobo)
、マギー・マッキントッシュ議員
(Maggie McIntosh)
、カレン・S・モンゴメリー議員(Karen S. Montgomery)の 3 名。
7
http://mlis.state.md.us/2005rs/billfile/HB0575.htm
メリーランド州政府環境局ウェブサイト:http://www.mde.state.md.us/
8
9
メリーランド州政府環境局リサイクル室ウェブサイト:
http://www.mde.state.md.us/citizensinfocenter/pollution_prevention/recycling/index.asp
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Vol.7 No.1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
② 州政府環境局が州統一のコンピュータ・リサイクル試験プログラムを構築する。
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の柱ともいえるのが、コンピュータ・リサイクル
の州統一プログラムを試験的に構築することの義務付けである。この試験プログラムは 2005 年 7
月 1 日より開始し、コンピュータメーカーに対して州政府に登録料として年間 5,000 ドルの支払
いを義務付ける。また、独自に引き取りの仕組みを構築したメーカーに対しては、次年度より登
録料が 500 ドルに引き下げられる仕組みになっている。これら登録料は、メリーランド州の地方
自治体(郡)が運営するリサイクルの仕組みの運営費として利用される。試験プログラムは 5 年
間半(2005 年 7 月∼2010 年 12 月)の試験運転が予定され、管理業務はメリーランド州政府環
境局リサイクル室が行う。
以下に、メリーランド州全体で実施されるコンピュータ・リサイクルの試験プログラムの目的、
リサイクルの対象、試験プログラムの対象者と登録手続きについてまとめる。
・目的:
消費者がコンピュータを無料でメーカー、あるいは回収所などへ持ち込むことのできる仕組み
(無料の返信用ラベルも含む)を、メリーランド州内全域に提供する。
・リサイクルの対象:
コンピュータ用モニターを搭載するデスクトップ型パーソナル・コンピュータおよびノート型
パーソナル・コンピュータ。
(PDA、マウス及び類似機器、プリンタ、取り外し可能なキーボー
ドなどのコンピュータ周辺機器は含まれない。
)
・試験プログラムの対象者:
直近の 3 年間で年間平均 1,000 台以上を製造したコンピュータメーカー。
・試験プログラムへの登録手続き:
試験プログラムの対象となるコンピュータメーカーは、毎年 1 月 1 日に、コンピュータの販売
ブランド名と、引き取りの仕組みを構築したか否かを登録する手続きが必要となる。尚、引き
取りの仕組みを構築している場合は、以下の情報提供も求められる。
o 消費者からの回収方法などを説明するウェブサイト、あるいは無料の電話番号
o 前年度の引き取り・プログラムの実績(回収したコンピュータの重さ、リサイクル・
改修・再利用の方法と実際にリサイクル・改修・再利用したコンピュータの数)
③ コンピュータメーカーに対し登録料の支払いを義務付ける。
試験プログラムの対象となるコンピュータメーカーは、州政府に対して登録料(Registration Fee)
を支払う。登録料は、州政府が管理するリサイクル信託基金(State Recycling Trust Fund)へ積
み立てられ、州内の各郡が実施するコンピュータ廃棄物の回収・リサイクルの運営費用に充てら
れる。登録料の仕組みは以下の通り。
ƒ
支払い日:
JMC environment Update
毎年 1 月 1 日
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米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
ƒ
初年度: 一律 5,000 ドル
ƒ
次年度以降:
o
コンピュータメーカーが前年度中に自社製品の引き取りの仕組みを独自に構築した
場合:500 ドル
o
コンピュータメーカーが引き取りの仕組みを構築していない場合:5,000 ドル
図表 3 メリーランド州の廃電子機器リサイクル法の仕組み
メリーランド州政府
メリーランド州政府
リサイクル信託基金
リサイクル信託基金
管理
郡のリサイクル
を支援
引き取りあり
500 ドル
郡のリサイクル
を支援
初年度
引き取りなし
5,000 ドル
回収
引き取り
リサイクル
リサイクル
消費者
消費者
コンピュータメーカー
コンピュータ製造メーカー
コンピュータ製造メーカー
地方自治体(郡)
地方自治体(郡)
© 2005 Washington|CORE
出典:メリーランド州廃電子機器リサイクル法を基にワシントン・コア作成
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』成立の背景
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』は、消費者が電子機器を購入する際にリサイクル
料を支払う「Advanced Recovery Fee(ARF)」の仕組みを支持する電子機器メーカーにより構成
される「責任あるリサイクルに向けた電子機器製造業連盟(Electronic Manufacturers Coalition for
Responsible Recycling:以下電子機器製造業連盟)」10からの強い支援により成立された。この電
子機器製造業連盟は、2004 年 4 月に成立したメイン州の廃電子機器リサイクル法がメーカーに重
10
同連盟のウェブサイトなどの公開情報はない。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
い負担を課したことから、ARF の仕組み(カリフォルニア州が採用)を支持11するメーカー(パ
ナソニック社、ソニー社、JVC 社、トンプソン社、サムソン社、日立社、IBM 社など)12によっ
て構成されている。
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』は、法案提出者であるモレム州下院議員は、
「コン
ピュータメーカーには、コンピュータを簡単に分解して消費者から回収・リサイクルしやすいよ
うなデザインにするための動機づけが必要であった」13と説明するように、コンピュータメーカー
に一定の費用負担を課しており、ARF の仕組みを採用していない。しかし、モレム州下院議員が
同時に「コンピュータメーカーが引き取りの仕組みを柔軟に構築できるような法案作りを目指し
た」14と述べるように、メリーランド州の廃電子機器リサイクル法はメイン州のそれに比較して
メーカーの負担が少ない点が特徴的であり、このことからも電子機器製造業連盟がメリーランド
州の法案を支持する立場に回ったとみられる15。
例えば、パナソニック社のマーク・J・シャープ広報担当(Mark J. Sharp)は同法について「廃電
子機器リサイクルを行うべきである地方自治体に最終的に資金が回るような(メリーランド州の
試験プログラムの)仕組みを歓迎する」16として同法を支持する姿勢を見せている。また、電子
機器製造業連盟の J・スティーブン・ワイズ広報担当(J. Steven Wise)も、「法律で規定しない
ことにはこのような(リサイクルの)仕組みに資金は回らない(*)」17という現実を指摘し、登
録料をメーカーに負担させる点についても快諾している。
(*)メリーランド州環境局では、郡を運営主体とした廃電子機器のリサイクルを目指した試験プログラムを推進
するために、2001 年と 2002 年には米国環境保護庁(U.S. Environmental Protection Agency:EPA)からの初期投
資金(seed money)も受けていたが、当時は試験プログラム自体も法制化されていなかった。しかし、その後 EPA
及び他の資金源からの補助金を得ることができず、試験プログラムが運営できなかったという背景がある。
電子機器製造業連盟に所属せず、
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の成立に反対して
きた HP 社とデル社は、
「わずか 5,000 ドルの登録料では、廃棄物の回収やリサイクルに係る実際
18
の費用を賄えない」 ことを理由に反対していた。しかし、HP 社のロビイストであるウィリアム・
A・クレス氏(William A. Kress)は、同法案の可決見通しが高くなり「支援したほうがよいと判
断した」19ことから、同社は最終的に同法案の支援を表明し、結果的に 2005 年州議会期の最終日
であった 4 月 8 日に同法案の可決が実現した20。
11
12
「責任あるリサイクルに向けた電子機器製造業連盟」による ARF 支持リリースを参照のこと:
http://www.csgeast.org/pdfs/Electronic_Manufacturers_Coalition.pdf
従って、独自にリサイクルの仕組みを構築し、ARF に反対する HP 社とデル社は参加していない。出典:コンシューマー・エ
レクトロニクス・デイリー紙(Consumer Electronics Daily)
、2005 年 3 月 22 日。
13
キャピタル紙(The Capital)、2005 年 3 月 29 日。
14
ボルチモア・サン紙(The Baltimore Sun)、2005 年 4 月 15 日。
15
電子機器製造業連盟は具体的に『メリーランド州リサイクル・プログラム法』のどの部分を支持しているかは明確にしてい
ないものの、同法の成立を支援してきた。
16
ボルチモア・サン紙、2005 年 4 月 15 日。
17
同上。
18
ボルチモア・サン紙、2005 年 4 月 15 日。
19
同上。
20
デル社の『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の支援についての公開情報はない。
JMC environment Update
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Vol. 7 No. 1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
このような HP 社の動きに対してモレム州下院議員は「皆が皆、欲しいものを手に入れることは
できないが、
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』は利害関係者全員に十分に配慮した内
容になっている」21と述べ、
「この法律は廃電子機器リサイクルの関係者であるコンピュータメー
カー、メリーランド州政府環境局、メリーランド州郡協会(Maryland Association of Counties)22、
メリーランド州内の小売店、その他事業者のすべてから賛同を得ている」23と自信を見せている。
ARF の仕組みを採用しているカリフォルニア州の廃電子機器リサイクル法は、独自にリサイクル
の仕組みを構築している HP 社とデル社からの反対を受けており、一方のメイン州の廃電子機器
リサイクル法に対しては、メーカーの負担が大きいとしてコンピュータおよび TV などの家電メー
カーが反対していることからも、
『メリーランド州リサイクル・プログラム法』はメーカーの意見
が十分に組み込まれた法律である点が特徴付けられる。
尚、モレム州下院議員によると、今後は、メリーランド州内で不要となったコンピュータの量を
基準にしてコンピュータメーカーごとに登録料を増減させるという。また、テレビや携帯電話、
コンピュータ周辺機器についても『メリーランド州リサイクル・プログラム法』の対象とする考
えも明らかにしている24。
Ⅱ.EPA 主催の全米廃電子機器リサイクル会議
廃電子機器リサイクルのすべての利害関係者が一同に会して意見交換を行う場として 2001 年 1
月に発足した National Electronics Product Stewardship(以下 NEPSI)であるが、NEPSI の統一意
見としてのリサイクルの仕組みが提唱されず、2004 年 2 月にメーカーが独自にリサイクルの仕組
みを構築して連邦議会へ提出することが決定してその活動に幕を閉じた25。しかし、その後 1 年
以上が経過してもメーカーからの統一意見が提出されないことに業を煮やした EPA(EPA)は、
2005 年 3 月、廃電子機器リサイクルの利害関係者を招いた会議「全米廃電子機器リサイクル会議
(EPA National Electronics Meeting)
」を開催し、全米統一のリサイクルの仕組み構築を目指した
動きに踏み出した。この会議は、全米統一の廃電子機器リサイクルの仕組みを導入することを目
指した具体的なアクションプランをリサイクルの利害関係者全てが参加しながら構築することを
目的としたものであるが、結果的に、依然として複数のアクションプランにそれぞれ支持者・反
対者が存在するままの状態で会議は終了している。
「全米廃電子機器リサイクル会議」の趣旨
EPA が 2005 年 3 月 1 日・2 日の 2 日間に亘ってワシントン DC で開催した「全米廃電子機器リサ
イクル会議」26は、全米規模での廃電子機器リサイクルを実施する機会を増やすための解決策と
して、アクションプランを構築することを最終目的としている。EPA は、この会議を「出席者が
プレゼンテーションを聞くだけではなく、廃電子機器リサイクルの利害関係者である電子機器業
界、小売業界、政府機関、非営利環境保護団体、リサイクル業者のすべてが作業部会(working
session)に参加して、全米規模の廃電子機器リサイクルの導入に向けたアクションプラン構築に
21
州政府リサイクル法アップデート誌(State Recycling Laws Update)
、2005 年 5 月 2 日
22
メリーランド州郡協会ウェブサイト:http://www.mdcounties.org/
23
州政府リサイクル法アップデート誌、2005 年 5 月 2 日。
24
ボルチモア・サン紙、2005 年 4 月 15 日。
25
NEPSI の今までの活動経緯については、本誌 Vol.3 No.6、Vol.6 No.1 参照。
26
環境保護庁ウェブサイト内、「全米電子機器・リサイクル会議」関連ページを参照のこと:
http://www.epa.gov/epaoswer/osw/conserve/plugin/events.htm
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
関与すること」を求めた27。会議の開催目的は以下の通り。
図表 4
EPA 主催「全米廃電子機器リサイクル会議」要項
公的セクターや民間セクター主催のボランティア・プロジェクト、法規制におけるイニシ
①
アチブなど、全米規模での廃電子機器管理プログラムや仕組みづくりにおける、課題や新
たな機会に関する最新情報を提供する。
使用済みの電子機器製品を、全米規模で長期にわたり管理できるシステムを構築すること
②
を確認する。
「概念」ではなく次のステップとして「広く受け入れられ、実際に導入する」ことを目指
した、廃電子機器リサイクルの仕組み導入のアクションプランを構築する。
③
アクションプランでは、業界横断的で政府機関とも協力し合うような、多種多様なプロ
ジェクトを複数構築する。
EPA 研究開発室(Office of Research and Development)やその他研究機関に対して、今
④
後の研究材料になり得る情報を提供する。
出典:EPA ウェブサイト、会議開催告知28を基にワシントン・コア作成
全米規模の廃電子機器リサイクルの仕組みの構築に向けたアクションプラン案
「全米廃電子機器リサイクル会議」では、電子機器製品メーカー、小売業者、リサイクル業者、
非営利環境団体、電子機器製品改修業者、連邦・州政府機関、並びに地方自治体から約 200 名が
出席し、最終的に全米規模の廃電子機器リサイクルの仕組みの構築に向けた 8 つのアクションプ
ラン案が提案された。EPA のジョン・クロス広報担当者(John Cross)によると、会議の終了間
際に、全ての参加者がこれら 8 つのアクションプラン案の実行可能性を 10 段階(実行可能性が
高いほど数字も大きくなる)で自己評価したところ、
「7」という結果が出たという。この自己評
価結果について同氏は、
「統一の仕組み構築の難しさを参加者は理解しているが、それでも前進で
きるという自信があるという表れである。」29と前向きに解釈している。アクションプラン案は図
表5の通り。
27
28
29
EPA がこのような参加型の会議を開催したことについて環境コンサルティング会社のレイモンド・コミュニケーションズ社
(Raymond Communications)は、
「NEPSI が全米統一の廃電子機器リサイクルの仕組み構築に失敗したことが背景」と分析
している。出典:州リサイクル法アップデート誌、2005 年 3 月。
http://www.epa.gov/epaoswer/osw/conserve/plugin/events.htm
州リサイクル法アップデート誌、2005 年 3 月。
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米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
図表 5「全米廃電子機器リサイクル会議」の参加者にて提案されたアクションプラン案
アクションプラン(案)
主要な提案者
ワシントン州政府環境局
a
民間の第三者機関が、複数の州において廃電子機 北西プロダクト・スチュワードシップ協会
(政府機関)30
器リサイクル活動を支援する。
全米廃電子機器リサイクルセンター(政府
運営のプロジェクト)31
一箇所に統一された廃電子機器リサイクルの
データ倉庫を構築する。
このデータ倉庫では、電子機器メーカーごとの全 全米廃電子機器リサイクルセンター(政府
b
米市場シェアや、連邦・州政府の法規制状況、地 運営のプロジェクト)
方自治体による廃電子機器関連イニシアチブを
管理する。
使用済み廃電子機器を回収・再利用・リサイクル
するためのインフラを、既にリサイクルを実施し
ている機関・団体のノウハウやその他情報を最大
限に活用して構築する、廃電子機器リサイクル・
国際廃電子機器リサイクル業者協会
コンソーシアムを設立する。コンソーシアムは、
(IAER)33
国際廃電子機器リサイクル業者協会とローチェ
c
スター工科大学全米リマニュファクチャリン
ローチェスター工科大学統合生産学セン
グ・資源再生センター(The National Center for
ター34
Remanufacturing and Resource Recovery(NC3R)
)
32
が主導となり、リサイクル方法のベストプラク
ティスの構築の他、リサイクルに関する教育や業
界・技術調査も実施する。
全米規模のクリアリングハウス35を構築し、電子
d 機器メーカーに対する金銭的な責任を、メーカー ビタスタジオ(写真店)36
ごとの廃電子機器シェアなどから決定する。
e 廃電子機器リサイクル業者の資格制度をつくる。
30
31
国際廃電子機器リサイクル業者協会
(IAER)、その他多数
北 西 プ ロ ダ ク ト ・ ス チ ュ ワ ー ド シ ッ プ 協 会 ( Northwest Product Stewardship Council ) ウ ェ ブ サ イ ト
http://www.productstewardship.net/
全米廃電子機器リサイクルセンター(National Center for Electronics Recycling)
。ウェブサイトはなく、また活動の状況につ
いても公開情報はない。
32
ローチェスター工科大学全米リマニュファクチャリング・資源再生センター(NC3R, Rochester Institute of Technology)ウェ
ブサイト:http://www.reman.rit.edu/
33
国際廃電子機器リサイクル業者協会( International Association of Electronics Recyclers )ウェブサイト:
http://www.iaer.org/
ロ ー チ ェ ス タ ー 工 科 大 学 統 合 生 産 学 セ ン タ ー ( Center for Integrated Manufacturing Studies ) ウ ェ ブ サ イ ト :
http://www.cims.rit.edu/
クリアリングハウス(Clearinghouse)
:インターネットを活用した情報交換の場所。
34
35
36
ビタスタジオ(VitaStudios)ウェブサイト:http://www.vitastudios.net/
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005.5)
米国における環境関連動向 ∼在ワシントンコンサルタントによるモニタリング情報 [33]
f
アクションプラン(案)
主要な提案者
刑務所労働をリサイクル活動に活用する考えに
関する評価を報告する。
コンピュータ引き取りキャンペーン(環境
保護団体)37
州レベルの廃電子機器リサイクル関連法の一貫
性を後押しするために、全米レベルの立法モデル
多数
g を構築する。
このモデルは、連邦レベルの廃電子機器リサイク
ル法としても活用できる。
使用済み電子機器製品のリサイクルにおける、経
h 済面・環境面でのバランスを調査するプロジェク マサチューセッツ工科大学38
トを立ち上げる。
出典:EPA アクションプラン草案39及び州リサイクル法アップデート誌40を基にワシントン・コア
作成
「全米廃電子機器リサイクル会議」では、上述のように 8 つのアクションプラン案が提案された
が、参加者の多くが提案したのが「全米レベルの立法モデルの構築(図表 5:g)」であった。ま
た、全てのアクションプラン案についても、会議参加者すべてが賛同したものではない。例えば、
デル社を代表して参加した同社のトッド・アーボガスト上級サステイナビリティ・マネージャー
(Tod Arbogast)は、上記アクションプラン案のうち支持するのは「リサイクル業者の資格制度
(図表 5:e)のみ」と断言しており、同様にパナソニック社のデイビッド・トンプソン氏(David
Thompson)は「ARF の仕組みを採用することが条件となれば、民間の第三者機関による廃電子
機器リサイクル活動(図表 5:a)を支援する」と述べている41。一方で HP 社は、
「民間の第三者
機関によるモデルは廃電子機器リサイクルの問題解決を遅らせるだけで、廃電子機器に関する問
題の真の解決策にはならない」として反対し、EPA に対して「全米レベルでの廃電子機器リサイ
クル予算配分やデータ収集、リサイクル業界への仕組み作りの支援、消費者への啓蒙」を求めて
いる42。
調査委託先:
ワシントン・コア
Website: http://www.wcore.com
<本モニタリング情報は、競輪の補助金を受けて実施したものです>
37
38
39
40
41
42
コンピュータ・引き取り・キャンペーン(Computer Takeback Campaign)ウェブサイト:
http://www.computertakeback.com/
マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)ウェブサイト:http://web.mit.edu/
http://www.epa.gov/epaoswer/osw/conserve/plugin/pdf/act-plans.pdf
http://www.raymond.com/state/13_15/news/2612-1.html
州リサイクル法アップデート誌、2005 年 3 月。
同上。
JMC environment Update
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Vol. 7 No. 1 (2005.5)
中国【19】 EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
はじめに
2005 年 4 月、中国広州市で開催された第 97 回中国輸出商品交易会(いわゆる広州交易会)で、出展
した電気電子類製品メーカーの多くは、現在 EU からの RoHS 指令、WEEE 指令(以下 2 指令と略称)
に積極的に対応しており、2 指令の実施開始までに、自社製品がその基準をクリアできるよう頑張
りたいとの姿勢を明確に示していた。同時に、2 指令に対応するため、製品コストの上昇は不可避
であること、また原材料価格の上昇を契機に、今後製品輸出価格を引上げる可能性が大きいことな
どが、会場各所で聞かれた。
2 指令の対応状況について、中国国内の業界では、大手企業、とりわけ EU 向け輸出量の多いとこ
ろでは、各種の準備を進めている。一方、中小企業の場合、資金、人材および認識程度などが到底
大企業に及ばないことから、充分な準備ができていないところがかなり多い。以下は、現地におけ
る関連情報をまとめたものである。
1.大手企業は積極的に対処
大手企業の対応として、主として原材料・部品の仕入れを厳密にし、制限の対象となる有害物質が
入ったものの使用を極力避けること、同時に原材料のサプライヤーに対し、EU 基準合格品の供給を
要求するよう指導していくことなどが示された。
中国電子レンジメーカー大手の A 社(EU 市場における同社製品のシェアは 40%超、また同社製品
の 30~40%は EU 市場向け)は、2 指令への対応が最も早かった企業である。同社は 2003 年上半期
より「グリーン調達計画」を発足した。まず自社で内製化している製品に対し、同社は EU 基準を
ベースにした。次に外部調達の原材料について、同社は 1000 社あまりの仕入先に対し、有害物質
の名称、含有率など各種データの提出を要求している。合格しない調達先に対し、各種指導を行っ
た。2 年近くかけた努力を経て、現在 RoHS 指令をほぼ満足する製品の開発・生産体制を確立でき
たと、A 社はコメントしている。
一方、同業他社である B 社の 2 指令対応部門担当者は、WEEE 指令については自社内で対応体制を
樹立したものの、RoHS 指令への対応については、依然として仕入先の能力に依存する部分が大き
いことを認めた。
「わが社は 3000 社のサプライヤーと取引がある。わが社が人的・資金的資源を投
入し、サプライヤーを全社合格にもっていくことは現実的ではない」と、同担当者はコメントして
いる。
マルチメディア電子製品メーカーである C 社(主要製品はテレビ、DVD など)は、EU 諸国に液晶
テレビを輸出している。従来、基板の溶接には鉛化合物を使用していたが、RoHS 指令対応のため、
同社は生産ラインの「無鉛化生産ラインへの改造」を行った。さらに、コネクター、コンデンサー
などの電子部品は有害物質を含有していることから、2004 年 9 月、同社は 2 指令対応の組織体制
を打ち立てた。主な事業内容の一つは、部材サプライヤーと新たに協議書を締結し直したことであ
る。同社は部材サプライヤーを選別する基準として、スイスの SGS 基準に基づいて測定した RoHS
測定報告の提出を要求した。一方社内では、生産工程、生産ラインの革新を推進した。
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
中国【19】EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
中国総合家電メーカー大手の D 社は 2004 年から、EU に 10 数万台の液晶テレビを輸出している。
RoHS 指令対応のため、同社は 400 万元を投じて、本社のテレビ生産工場で、3 本の生産ラインを
改善した。同社は引続きこの分野に資金を投じ、さらに改善していく方針である。
「環境保護は時代
の流れであり、EU ばかりでなく、今後アメリカ、日本などの海外市場においても、このような技術
の壁が現れてくる可能性がある。わが社は、近い将来起こりうる事態に向けて準備すべきである」
と、同社液晶テレビ製造部長はコメントしている。
マルチメディア製造の E 社は、RoHS 指令対応のため、1 年あまり前から R&D に資金を投入し、製
品に使用されている部品の 30%以上を変更した。
総合家電大手の F 社は、各事業部の責任者による「EU 指令対応委員会」を設立した。これは、財務
部の責任者も、関連のコスト計算作業に取組む仕組みである。同社は外国大手企業と提携したり、
社内の生産管理体制を改善したりして、無鉛化生産ライン 3 本を軌道に乗せた。
香港系プリント基板大手メーカーである G 社は、数年前に取引先から 2 指令について知らされた。
同社研究開発部門は、早期から対応手段を打ち出し、タイムリーに EU 基準の製品を開発できた。
環境にやさしい製品の価格は、一般製品の数倍もするため、これまで市場に投入できなかった。同
社は、2 指令が本格的に実施されれば、基準合格製品を即時提供できると強調している。
以上、大手各社の対応からもわかるように、中国の地場企業が 2 指令対応を本格的に重視し始めた
のは、2004 年 10 月以降のことである。スイス SGS 認定組織は、中国側パートナーと連携し、中国
で大手企業に対し認定サービスを行っている。同組織消費財測定部の担当者は、
「2004 年 10 月以
降、それまで比較的暇な状況から、一転して多忙になった。地場企業からの電話等による問い合わ
せが毎日殺到している」とコメントしている。
無鉛溶接技術の採用はコスト増加をもたらすため、従来多くの地場企業では、この分野の技術導入
に消極的態度を示していた。また中国の知的財産権保護が不十分な状況下で、巨額の資金をかけて
開発した技術が保護される保証はないとの懸念もあった。しかし、2 指令実施のタイムリミットが
迫っていること、世間の環境意識が向上していることなどから、現在、巨額の資金を投じて関連技
術を導入、開発する企業が増加している。
報道によれば、広東省の大手家電メーカー(主力製品はエアコン、扇風機)である M 社の場合、日
本企業が行ってきた 2 指令対応方法を修得するため、同社会長がミッションを組織して訪日してい
る。
2005 年 4 月、中国商務部、中国機電製品輸出入商会(以下「機電商会」と略称)が関与した 2 指
令対応セミナーは、北京、上海、広州、深、昆明などの都市で行われた(うち昆明は 4 月 17~19
日開催、参加対象はテレビ、DVD など電機・電子耐久消費財メーカー)
。これらセミナーの目的は、
機電商会に所属する 6800 社の会員企業に対し、2 指令の内容および対応方法を説明することにある。
機電商会のメンバー企業 6800 社のうち、95%以上の企業は、2 指令実施による直接的影響を受け
るとみられる。これらのセミナーには、地場大手家電メーカーをはじめ、多くの企業が熱心に参加
した。企業のトップが出席したケースも多かった。機電商会では、今後このようなセミナーを月に
2 回、全国各地で開催するとのことである。
政府による対応重視の姿勢の表れとして、2005 年初、商務部、質量検検検疫総局などを含む 9 つの
政庁からなる特別協調体制が構築された。専門家による対策検討、専門基金の設立、機電商会によ
る各レベルのセミナーの開催(企業への情報提供、指導を含む)などが実施された。
JMC environment Update
60
Vol.7 No.1 (2005. 5)
中国【19】EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
2 指令対応がもたらすコストアップ(製造コスト、輸出検査・測定、市場流通費用、従業員教育な
ど)は、低価格を優位性とする中国企業にとってかなりのチャレンジである。2005 年 4 月に開催さ
れた第 97 回中国輸出商品交易会で、
あるテレビメーカー関係者は、
「スウェーデン向け輸出の場合、
テレビを 5 台売っても、この利益で 1 台の回収・処理費用(20 ユーロ程度といわれる)さえ払えな
い」と苦情をいっていた。また深市のある電子部品メーカーの総経理は次のように語った。
「われ
われの製品は、EU では回収コストが 5~20 ユーロである。自社製品の利益は数ユーロしかない。今
の価格で製品を全部回収することは、明らかに赤字商売である。
」
地場の電子レンジ、エアコンなどの家電メーカーも、同様の心配をしている。中国業界関係者は、
EU 諸国の回収・処理費用は、ヨーロッパの人件費にもとづいて計算されていることから、電子ゴミ
の回収コストが中国では製品の生産コストに近似ないし上回る可能性が高いとみている。
某地場系企業は以下のように語った。
「同社製品には 1000 種あまりの材料が使用されている。これ
らの材料を検査・測定のためヨーロッパに送ったが、20 数種類の材料は 2 指令の基準をクリアでき
なかった。代替材料は見つけられるものの、コストは 10%程度上昇する。原材料コストの増加分に
加え、2 指令が実施されれば、さらに材料・製品の測定費用もかなりの追加支出となる。
」
2 指令による地場企業の EU 向け輸出への影響について、機電商会副会長のヨウ氏は、楽観的な見
方を示している。ヨウ氏によれば、
「2004 年、中国の EU 向け機械・電気類製品輸出の 75%は、外
資企業が中国工場で生産したものである。これら外国企業は、部材のサプライヤーに対し、厳格な
審査、チェックを実施している。日系家電大手の M 社、S 社は、すでに EU 基準を達成した。地場
系の大・中企業は、長年の国際市場開拓に伴う困難を経験してきたこともあり、2 指令によるコス
ト増加を川上(部材供給)および川下(ユーザー)に移転させる努力が奏功し、今後コストアップ
水準を 1%以内に押さえることは可能である。また長期的にみれば、新しい環境基準をクリアする
ことは、中国機械電気製品の競争力の向上に積極的効果をもたらす。中国製輸出商品は低価格が唯
一の競争力、優位性であるといわれた局面の打開に有効である」と力説している。
しかし地場企業の 2 指令対応の現状を個別にみると、大手企業の対応は着実に進んでいる半面、数
多くの企業ではまだ充分に準備できていないことも事実である。マスコミのインタビューに対し、
中国某市電器科学研究院副院長の W 氏は、
「今(2005 年 3 月末時点)のところ、国内の地場企業の中
には、2 指令を充分にクリアできるところは 1 社もないと思う」とコメントしたくらいである。SGS
社の中国業務担当者も W 氏の見解を支持し、
「幾つかのケースで、地場企業は個々の製品別にみれ
ば、いくつか認定基準に合格するかもしれないが、ひとつの企業全体として合格する可能性はゼロ
に近い」との見方を示した。
2 指令実施の影響は、代替部材の開発、回収費用に伴うコスト上昇のみにとどまらず、産業間のリ
ンクにおいても大変革が起きよう。この結果、相当数の企業が倒産に直面するとの指摘もある。地
場の部材メーカーが EU 基準を満足しなければ、中国地場企業、外資系企業ともに、部材調達の一
部を外国からの輸入にシフトする可能性がある。中国製品の価格優位性にも、ある程度影響を及ぼ
すことになろう。
2.部材供給側の川上産業では危機感
2005 年 3 月、深市にある PVC 基板安定剤メーカー(主要取引先は珠江三角洲にある大手電子メ
ーカー数社)のオーナー社長は、現在の受注が昨年同期の 1/3 ほどにもならない、とかなり悩んで
いた。その理由は、
「同社製品の鉛含有量が基準を超過しているから」とのことであった。納品先か
ら製造内容を飛躍的に改善するか、取引中止かのいずれかになろうといわれた。
「年間利益額が 100
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
中国【19】EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
万元にも満たないメーカーで、数百万元をかけて新製品を開発することは至難の業である」と、同
社長は困惑していた。
RoHS 指令対応は、完成品アセンブラーに納入する部材サプライヤーの淘汰を伴う。完成品アセン
ブラーが時折開催するサプライヤー向け指導セミナーのある参加者は、次のように語っている。
「2
年前、杭州で日系大手電器メーカーM 社の中国部材サプライヤー交流会に参加した。当時、M 社の
中国部材サプライヤーは 4000 社もあった。1 年前、今回と同様のセミナーに参加したが、サプライ
ヤーの数は 3000 社に減っていた。今回のセミナーに参加したところ、M 社のサプライヤーは 1700
社まで減っていたことがわかった。
」
前述の A 社の場合、
合格した部材サプライヤーの多くは外資系企業である。
地場系メーカーの場合、
宝山製鉄など少数の大手企業だけが合格リストに入っている。A 社向け主力サプライヤーに選ばれ
ようと、宝山製鉄は 2 年前に専門対策チームを発足した。顧客が要求する RoHS 指令対応の要求基
準を満足すべく、チームは研究開発に注力した。
2005 年 4 月中旬、深で開催された全国電子製品展示会では、出展企業の間で種々議論が交わされ
た。例えば、2 指令の実施開始期限が近づいてくるにつれ、日系家電大手メーカーの S 社は、中国
における 4000 社あまりの部材サプライヤーを整理し、関連認定が取れない企業に対し、仕入先リ
ストから削除することが話題になった。
S 社は、
「部品および材料に関わる環境物質管理規定」を打ち出し、中国の部材サプライヤーに対し
「緊急審査」を実施する。基準に合格したサプライヤーは、
「グリーンサプライヤー」の扱いを受け、
仕入れ規模も拡大できるチャンスがある。その一方で、審査に不合格となったサプライヤーは「絶
交」となる。業界の関係者は、S 社の審査後、中国におけるサプライヤーは 1000 社あまりに減ると
みている。日系大手家電メーカーの M 社も 2004 年 12 月、中国の部材サプライヤーに対し、環境
基準合格を要求する説明会を行った。
S 社、M 社同様、中国に進出している日系、地場系の完成品メーカーも、部材サプライヤーに対し、
環境基準を一層厳格に適用している。外資系の部材メーカーの製品は、ほぼ 1 回の測定で合格して
いるが、地場企業の製品の場合、何度も検査、測定を経てようやく合格することが多いといわれる。
地場系の部材製造業は、このまま 2 指令対応下における競争力を強化できなければ、かなりの企業
が市場から追い出されると、中国業界関係者は警鐘を鳴らしている。
電子レンジのメーカーである A 社がかつて実施した調査によれば、全国各地に点在する同社の部材
サプライヤー1000 社あまりの中で、2 指令に不合格のところが半分近くを占めた。中国機電製品輸
出商会副会長のヨウ氏は、
「多くの中小企業では、2 指令対応ができない場合の危機感がまだ不十分
で、研究開発能力や資金力もなく、また代替材料・調達先の開拓努力なども不足していることから、
今後生産コストの急上昇が起きれば、EU 市場から確実に淘汰されよう」と指摘している。
3.企業の懸念事項
1) EU 向け輸出製品の回収・処理費用水準が依然不明確
現在も、多くの EU メンバー諸国では、電子・電気製品の回収・処理制度に関する立法化措置が依
然完了しておらず、当基準が要求する各種製品の処理費用も、かなり格差があるとみられる。この
ような状況から、製品の輸出コストを予測することは困難であると、懸念を示す企業が多い。2005
年 8 月 13 日以降の輸出製品について、どの程度の「ゴミ代」が徴収されるかは、依然はっきりし
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
中国【19】EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
ていない。これらの周辺コストが不明確なため、輸出価格の決定など営業戦略計画も立てられない
企業が多い。
2) RoHS に関わる有害物質の測定方法や基準が不在
2006 年 7 月 1 日以降、EU 市場に輸出される製品は、6 種の有害物質について含有量が制限される。
しかし現在までのところ、EU は 6 種有害物質に関する測定方法、およびその基準の詳細について、
発表していない。これは、中国の業界がかなり困惑していることの一つである。中国家用電器協会
は、国際電気標準会議(IEC)と連絡をとり、IEC に対し測定方法・基準の早期制定の要望を提出し
た。前述のメーカーC 社は、RoHS 指令対応のため、生産ラインの無鉛化のための革新、資材調達な
どにおいて、6 種有害物質含有の原材料を調達しない方針を実施した。しかし、
「中国、EU および
国際業界において統一的な測定基準がないため、2006 年 7 月 1 日以降、自社製品が問題なく EU で
販売できるかどうか心細い」と、輸出部副総経理は述べている。
4. 中国の測定機関は有害物質測定業務を開始
中国では 2003 年より、2 指令対応の準備が始まった。しかし現在まで、国内で有害物質測定業務が
行える機関に関する情報はあまりなかった。2005 年 3、4 月頃、当業務を開始した各測定機関に関
する報道が、徐々に見られるようになった。以下はこれら測定機関の代表例である。
1) 広州検験検疫局測定技術センターは、2005 年 4 月 1 日より、電気電子製品輸出メーカーに対し、
RoHS 指令が規定する 6 種有害物質の含有量測定業務を開始した。同センターでは、今後さらに
東莞、中山、恵州、南海、順徳、仏山などで、RoHS 測定業務受付窓口を開設する方針である。
同センターでは、
「輸出適合測定、RoHS 測定、CB 測定、CE 測定」などの測定サービスを一括提
供する。
2) 2005 年 4 月、深検験検疫局では、同局工業品測定センターが 6 種有害物質測定方法に成功し
たと発表した。同局は「今後測定方法・設備をさらに完備させ、EU 指令で規定されている 10
大製品の輸出品サンプル検査を、全てカバーできるよう努力する」と説明した。
3) 江蘇検験検疫局所属の江蘇機電製品測定センターは、無錫および南京で RoHS 指令対応の測定実
験室を開設した。当実験室では RoHS 指令が規定する 10 種 200 項目におよぶ電気製品に対し、
重金属 4 項目の測定を行う。同センターは 2004 年より、上海復旦大学、ドイツ TUV、イギリス
ITS などの諸機関と技術交流を行い、6 種有害物質の測定方法を研究、開発してきた。
5. 中国国内の廃家電の処理について「強制回収、再流通禁止」に対する批判的見解
2004 年、中国国家発展改革委員会は、中国各地を廃家電の回収、リサイクルの実験地域に指定した。
しかし、現在までのところ、これら実験地域においては、廃家電の回収・処理事業において、あま
り目だった進展を見せていない。
これらの原因について、国の関連法律法規がまだできていないこと、廃電器製品処理の成功事例が
あまりないこと、外国から導入するリサイクル設備の輸入価格が高すぎること、リサイクル企業の
採算性の見通しがあまり明るくないことなどが挙げられている。そのなかで、中国家用電器研究院
の某シニアエンジニアは、中古家電を一律廃棄する措置に対し、以下のような批判的観点を述べて
いる。
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
中国【19】EURoHS・WEEE 指令に関わる中国の対応
1) 中古電器製品を「再利用」することは、今のところ環境保護に最も有益な方法である。先進国で
さえも、
「強制回収、再流通禁止」を実施していない。中国の場合、貧困地域、低収入階層がま
だ存在しており、経済発展地域の消費者が使用しなくなった中古家電製品を貧しい地域、人々に
提供し、製品の「再利用価値」を発揮すべきである。
2) 先進国の場合、廃家電を回収した後、それを解体、リサイクルする方法で処理する。中国がそれ
を単純に模倣すれば、リサイクル企業は 1 台当り 150~200 元もの高価格で廃家電を購入し、そ
れを解体、リサイクルして得た再利用可能材料の販売価格が同 30~120 元程度という結果になる。
この逆ザヤ分は、リサイクル企業の輸送費、人件費、設備償却費、光熱費、危険物廃棄・処理費
用などを含める前の数字であるから、トータルでみた赤字幅は極めて大きなものになろう。
3) 中古製品の修理費と解体費の比率のバランスをとることが、問題解決の糸口になろう。一定価格
で回収した中古家電を可能な限り修理し、それを中古品市場で販売(再利用)し、利益を獲得す
る。修理できないものについては、回収コストを押さえながら解体、リサイクルして、部品、材
料を「再利用」させる。また国の法規により、リサイクル企業が租税、補助金面で一定の優遇措
置を受けることができれば、リサイクル企業は収支均衡または一定の利益を生むことができる。
中古家電の修理・解体作業については、市場の状況に応じて動態的にバランスを図るべきである。
4) 中古家電の品質問題を懸念する消費者はいるかもしれない。しかしこれは中古電器品質基準の制
定、中古品表示やリサイクル企業名のラベルの貼り付け、監督制度の実施および中古品保証制度
の制定などで対処できる。
5) 中国の国内事情に合う廃電器製品の解体技術、解体・リサイクル設備の開発が急務である。一連
の電器製品の解体作業において、ポイントとなる重要な工程は限定されており、残りは補助的工
程である。重要工程に必要な専用設備を開発できれば、効率よくかつ安価なリサイクル処理ライ
ンが完成するはずである。
参考情報
○ 中国国家発展改革委員会が制定した
「廃旧家電および電子製品回収処理管理条例」
のドラフトは、
業界の意見を聴取した後、すでに国務院の審議に提出された。近々、公布される見込みである
(2005 年 3 月末の新聞報道による)
。
○ 中国信息産業部の主導で制定した「電子情報製品汚染防止管理方法」について、4 つの関連政
庁ですでに審査、認可を終え、残りの 2 官庁で審査を急いでいる(2005 年 4 月中旬の新聞報道
による)
。
☐
調査委託先:
Thrace Investments Limited(華南投資顧問有限公司)
HP: http://chinasouth.info/(日本語・English)
<本モニタリング情報は、競輪の補助金を受けて実施したものです>
JMC environment Update
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Vol.7 No.1 (2005. 5)
寄
稿
東芝グループの総合環境効率を2倍に
株式会社 東芝
環境推進部
部長 蜂屋 利巳
はじめに
まず、環境問題の歴史を俯瞰してみたいと思います。公害防止から環境保全へ、局所的から地
球規模へと問題が拡大していったにもかかわらず、対処は依然として抑制(規制)が中心でした。
“持続可能な社会の実現へ”と提唱されてすでに20年近く経っています。この“発展と地球
環境の両立”を目指すという概念が地球環境問題への対処に大きく貢献していることは疑いない
ことですが、これまでは、理念として活動に指針を与えるか、ある一つの事象に対する利用効率
向上といった限定的な指標となるに留まっていました。
しかし、ここ数年で地球温暖化や資源枯渇などの多様な環境問題を単一の指標に統合し、評価
する手法が実用的なものとして急速に進歩するに到り、環境効率をものさしとすることで、本当
の意味で環境経営を行うことができる時代となったと言えます。
この環境経営の時代を迎え、東芝グループの目指
す新しい環境ビジョンと第4次環境ボランタリープ
ラン(自主行動計画)を策定し、3月の第14回東芝グ
ループ環境展で発表しました。本稿では、その内容
を紹介します。
1.東芝グループの総合環境効率を2倍に
○
環境ビジョンの改定
まず、環境経営を推進するための方向を新しい東
芝グループ環境ビジョンとして定めました。この環
境ビジョンのポイントは“ライフサイクルでの取り
組み”と“環境効率の向上”です。
ライフサイクルでの取り組みとは、これまでの環
境ビジョンにもありましたが、「つくる」段階から、
お客様が「つかう」、そして役割を果たした後に再び
JMC environment Update
65
東芝グループ環境ビジョン
Vol. 7 No. 1 (2005. 5)
東芝グループの総合環境効率を2倍に
資源として「いかす かえす」まで、すべての事業プロセス、すべての製品で環境に対する取り組
みを展開していくことです。
環境効率の向上とは、「地球温暖化の防止」、「資源の有効活用」、「化学物質の管理」などを進め
て地球との共生を図りながら、「驚きと感動」、「安心と安全」、「快適」をテーマに豊かな価値を創
造していくことを表現しています。環境影響を分母に、価値を分子とした環境効率の向上を目指
していきます。
環境効率の向上をライフサイクル全体で取り組む環境経営を推進することで、持続可能な社会
へ先導的な役割を果たしていくことが「人と、地球の、明日のために。」繋がっていきます。これ
が東芝グループの環境ビジョンです。
○
環境ビジョン2010
∼東芝グループの総合環境効率を2倍に∼
新しい環境ビジョンのもとで、東芝グループの総合環境効率を2010年度までに2000年
度の2倍にすることが環境ビジョン2010です。
総合環境効率2倍に
総合環境効率2倍に
総合環境効率は、調達やお客さまでの使用、
廃棄段階など、間接的に寄与する部分の効果が
大きい製品のライフサイクル全体での環境効率
と、私たちが直接コントロールできる事業プロ
セスの環境効率を統合したものとして設定して
います。製品の環境効率を2.2倍、事業プロセ
スの環境効率を1.2倍にすることで、東芝グル
ープの総合環境効率を2000年度の2倍にす
ることが2010年度に目指す姿です。そのた
めの行動計画として第4次環境ボランタリープ
ランを設定しました。
2010年度/2000年度
2010年度/2000年度
製品の環境効率
事業プロセス
事業プロセス
の環境効率
2.2
1.2
(2010年度/2000年度)
(2010年度/2000年度)
製品の価値
の改善度
製品ライフサイクル
全体での環境影響
売上高
の改善度
事業プロセス全体
での環境影響
東芝グループ環境ビジョン2010
2.第4次環境ボランタリープラン
環境ボランタリープランは、1993年度からスタートし、活動を継続しながら「対象サイト/
プロセスの拡大」と「活動レベルの向上」の観点で、第2次、第3次と拡大していきました。第3次
は2005年度を最終年度としていましたが、最終目標を概ね1年以上前倒しでクリアしていま
す。そこで、取り組みの対象も現在の活動に合わせてさらに拡大し、「製品環境効率の向上」と「事
業プロセスの革新」の両面から第4次環境ボランタリープランとして2010年度をターゲット
として策定しています。
○
製品環境効率の向上
製品に関して、環境面から取り組まなければいけない要素は多く、また、トレードオフになる
事項も多々存在します。そこで、製品のライフサイクル全体で、種々の環境影響を総合して評価
を行う必要があります。そのための有効な指標が環境効率です。この環境効率を向上することで
持続可能な社会を目指すことが「ファクターT」と名づけた東芝グループの環境経営のコンセプト
です。製品環境効率の向上のために次の二つのテーマで活動を展開します。
JMC environment Update
66
Vol. 7 No. 1 (2005. 5)
東芝グループの総合環境効率を2倍に
①
環境調和型製品の提供
消費電力の低減や再生部品・材料の利用など、個々の事項の改善なくしては、環境効率の
向上は望めません。これまでの環境調和型製品の自主基準を、製品群毎にトップレベルと
なるようより高い水準へ見直しを行い、環境調和型製品の創出・提供を推進していきます。
②
特定化学物質の全廃
化学物質の管理は環境調和型製品の基準の一部ですが、特定化学物質の製品への不含につ
いて独立した項目として目標を設定しました。RoHS6物質を一歩進めて15物質群の
使用を全廃することを目指し、調達と設計の連携により、活動を進めていきます。
対象15物質群
ビス(トリブチルすず)=オキシド(TBTO)、トリブチルすず類(TBT類)・トリフェニルす
ず類(TPT類)、ポリ塩化ビフェニル類(PCB類)、ポリ塩化ナフレタン(塩素数が3以上)、
短鎖型塩化パラフィン、アスベスト類、アゾ染料・顔料、オゾン層破壊物質、放射性物質、
カドミウム及びその化合物、六価クロム化合物、鉛及びその化合物、水銀及びその化合物、
ポリ臭素化ビフェニル類(PBB類)、ポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDE類)
※詳細定義及び除外用途は別途定めます
○
事業プロセスの革新
オフィスや海外拠点へ対象サイトを広げ、販売から回収までのプロセスへも範囲を拡大して活
動を展開します。その総合的な指標として、新しく事業プロセスの環境効率を設定し、向上を目
指します。
①
地球温暖化の防止
管理面の改善、省エネルギー投資、クリーンルームの省エネルギーの3つの施策をベスト
ミックスにより推進します。
また、PFCなどのエネルギー起源以外の温室効果ガスの削減や、モーダルシフトや合理
化の推進により、製品物流に伴うCO2排出量の削減にも取り組みます。
②
資源の有効活用
3R(Reduce, Reuse, Recycle)の観点で取り組みを推進しています。お客様と協同して、使
用済みとなった製品リサイクルにも取り組みます。
③
化学物質の管理
プロセスの変更、物質代替、回収除去などのこれまでの取組を軸に、管理・削減対象物質
の拡大、グローバルでの展開を図っていきます。
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Vol. 7 No. 1 (2005. 5)
東芝グループの総合環境効率を2倍に
東芝グループ第4次環境ボランタリープラン
3.おわりに
新しく定めた東芝グループの環境ビジョンと環境ボランタリープランを紹介させていただきま
した。環境効率を軸に、すべての事業プロセス、すべての製品で環境に対する取り組みを推進す
ることが、企業の社会的責任を果たすことだと考えています。
総合環境効率2倍に向けて環境経営を推進することで、持続可能な社会の実現に貢献してまい
ります。
□
〔当組合
JMC environment Update
貿易関連環境問題対策委員会
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委員〕
Vol. 7 No. 1 (2005. 5)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
1.貿易関連環境問題対策委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(5/24:組合会議室)>
Œ 委員長の選任について
―― 委員長に 松下電器産業㈱ 環境本部 環境企画担当理事 中村 昭氏を選任した。
Œ 今年度の委員会運営について事務局より説明があり、了承された。
Œ 「今後の地球環境問題への対応について」
――経済産業省 産業技術環境局環境政策課 課長 伊藤 仁氏より、今後の地球環境問題へ
の対応について、京都議定書を巡る現状、目標達成計画、将来の枠組みなどの講演を伺っ
た後、意見交換を行った。
Œ 最近の海外環境規制動向について事務局より報告があった。
2.貿易と環境専門委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(4/11:組合会議室)>
Œ 委員長および副委員長の選任について
―― 委員長に ㈱リコー 社会環境本部担当部長
佐藤 孝夫氏、副委員長に ㈶日本規格協
会 審査登録事業部調査役 岡田 浩一氏 を選任した。
Œ 今年度の委員会運営について意見交換を行った後、最近の環境関連情報(WEEE & RoHS、
EuP 等)について情報交換を行った。
<平成 17 年度 第 2 回委員会(5/20:組合会議室)>
Œ 欧州環境関連動向(WEEE & RoHS 指令、EuP 指令案、REACH 規則案、等)について情報交
換を行った。
3.環境法規専門委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(4/28:組合会議室)>
Œ 委員長および副委員長の選任について
―― 委員長に ㈱東芝 環境推進部参事 三崎 均氏、副委員長に ソニー㈱ ソニー EMCS 環境
推進部門製品環境部シニアマネージャー 宮内 吉晴氏を選任した。
Œ 今年度の委員会運営等の検討、海外環境法規制(欧州:WEEE & RoHS、REACH 関連、米国:
加州プロポジション 65、省エネ規則、リサイクル法等)の情報交換などを行った。
4.環境問題関西委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(4/19:大阪支部会議室)>
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Vol.7 No.1 (2005.5)
環境・安全グループ担当委員会の活動状況
Œ 委員長の選任について
―― 委員長に 三洋電機㈱ イノベーショングループ コーポレート革新統括ユニット 環境推進センター 環境推
進チーム 主任企画員
藤原 秀昭氏を選任した。
Œ 今年度の委員会運営について意見交換を行った後、最近の環境関連情報(WEEE & RoHS、
EuP 等)について情報交換を行った。
<平成 17 年度 第 2 回委員会(5/18:大阪支部会議室)>
Œ ㈱島津製作所
分析計測事業部 X 線・表面ビジネスユニットプロダクトマネージャー 山下 昇氏より「RoHS
指令に関わる分析方法の標準化検討状況」について報告があり、その後、質疑応答を行っ
た。
5.基準認証委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(4/21:三菱電機㈱関連施設会議室>
Œ 委員長および副委員長の選任について
―― 委員長に ㈱コマツ 開発本部業務部規制・標準グループ主査 田中 健三氏、副委員長に
三菱電機㈱ 情報技術総合研究所 EMC 技術センター長 岡本 和比古氏を選任した。
Œ 基準認証関連事業の平成 16 年度完了報告および平成 17 年度事業計画について全会一致で
了承された。
Œ ㈱ユーエル エーペックス EMC 業務部 EMC 試験所アソシエイトエンジニアリングスタッフ
岡崎 憲二氏よ
り「無線機器に対する国内基準認証制度概要」について講演があり、終了後意見交換を行っ
た。
6.海外 PL 問題対策委員会
<平成 17 年度 第 1 回委員会(5/24:大阪支部会議室)>
Œ 16 年度委員の紹介の後、委員長の選任について諮った結果、委員長に宮内秀典氏(三洋セー
ルスアンドマーケティング㈱ 経営企画室・法務部担当課長)が再選された。
Œ 事務局より、平成 17 年度事業実施要領(案)について説明があり、原案通り承認された。
Œ ㈱インターリスク総研 社会・環境部 主任研究員 田渕 公朗氏より「中国PLの現状と日本
企業の対策」について講演があり、その後、質疑応答を行った。
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Vol. 7 No.1 (2005. 5)
事務局便り
◇
お陰さまで本誌を発刊して以来、6 年が経過し、ここに Vol. 7 刊行の運びとなりました。ここ
まで来られたのも偏に読者の皆様がご愛読下さったためと深く感謝しております。今年度も海
外事務所からの情報も含めて主要国・地域の環境関連動向に関する早期かつ正確な情報を提供
して行きたいと考えております。引き続きご愛読くださるようよろしくお願い申し上げます。
◇
記事についてご紹介します。まず WEEE & RoHS 指令を巡る動きとしては、3 月に続き 4 月に
も TAC が開催され、RoHS 指令の除外追加に関する採決が行われたほか、引き続き指令の実施
に向けての議論が行われました。4 月の TAC で 2 項目の追加除外について採決が行われました
が、可決に必要な特定多数の賛成票を得られず、理事会に送られてその審議を待つという事態
となりました。また 3 月の TAC における追加除外の決定について欧州議会でこれを見直すべし
との決議が採択されたことから、欧州委員会は案を見直すとの意思表示をするに至りました。
実施が目前に迫っている WEEE 指令についてもマーキング規格が確定しないという状態です。
これらの状況を含めて最新状況の報告と関連する規則等についての情報も入れました。皆様の
参考になれば幸いです。
◇
EuP 指令制定を巡る動きについては、4 月に欧州議会、理事会および欧州委員会の間で妥協案
が合意され、同月、議会本会議(第 2 読会)において同案が採択されました。今後、6 月頃と
予想されている理事会で同案を採択すれば、指令成立となり、焦点は実施指令の策定へと移る
ことになります。これら審議経過と合意概要を紹介しております。
◇
REACH 規則案については、欧州議会第 1 読会が動き出し、環境委員会ではラポーター(議案取
り纏め役)のサコーニ議員が修正案を提示して議論の最中ですが、6 月頃には環境委員会で採
択との見込みもあります。これら審議経過とサコーニ修正案のポイントを紹介しております。
◇
今年度第 1 号の刊行に当たり、当組合の 2 つの環境関連委員会の元委員長で現在、コンサルタ
ントをされている蛇抜信雄氏よりご寄稿いただきました。近年大きな関心が寄せられている重
金属汚染の問題を廃電池規制の動向も含めて、経緯、問題の所在、最近の状況等について明確
に分かる内容となっております。是非、ご一読下さい。
◇
モニタリング情報としては、欧州については地球温暖化対策、危険な化学物質の代替要求、水
銀の輸出禁止案にかかわる保管問題等、米国については、メリーランド州で成立したコンピュ
ータリサイクル法の詳細のほか全米リサイクル会議の模様、また中国については、EU の WEEE
& RoHS 指令にかかわる中国内企業の対応を報告しております。
◇
組合員のページとしては、
「東芝」をご紹介します。
「貿易関連環境問題対策委員会」委員とし
てご活躍されている蜂屋様から同社グループの環境への取り組みについてご寄稿いただきま
した。2010 年をターゲットとして「東芝グループの総合環境効率を 2 倍にする」という新し
い環境ビジョンを最近、策定したほか、製品環境効率の向上と事業プロセスの革新を柱とした
第 4 次環境ボランタリープランを設定したこと、およびそれらの内容が紹介されております。
同社の総合的で意欲的な取り組みが眼を引きます。
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Vol.7 No.1 (2005.5)
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