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シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告

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シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告
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シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告
荻野友希・荻野みちる
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シロナガスクジラはその生態について多くを知られて い
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リフォ ルニア、パハカリ フォルニアで生態を知る ために
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目視調査を行 った.冬、春にはパハカリフォルニアで、
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荻野友希・荻野みちる
ない.背びれは三角型である.背びれにも薄い模様があ
3
. 研究の方法
る
.
観察結果 3:シロナガスクジラの背びれは、形は多様
1
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4年から 1
9
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8年の 5年間、目視調査を行った調査
の日時、天候、風、波の状態を記録するとともに、目撃
であり特徴的な場合もある.写真 3の個体の背ビレには
した個体の海域の緯度、経度を地図に記した.さらに目
細長くて袋状になっている着生生物が 4匹ほど確認され
撃頭数、発見時の時間、体の大きさ、特徴、呼吸回数、
る.同じく、写真 4のシロナガスクジラの幅広い尾びれ
潜水時間、海面にあらわれている時間を個体別に記録を
の先端にも、びっしりと写真 3にみられるものと同じよ
とった.調査対象海域は、北半球、北はカナダ、ブリテ
うな着生生物が確認できる.我々がいままでに観察して
ィッシュコロンビア沖から 、南はメキ シコ、バハカリフ
きたシロナガスクジラのなかには、この写真 3よりもた
ォルニアのコルテス海までである.調査後、写真及びビ
くさんの着生生物が、尾ビレについているものもいた.
デオの記録をもとに個体識別を行った.さらに目撃時の
コドモ、オトナを問わず、個体差はあるが尾ビレの先端
観察記録を個体ごとにまとめた.個体識別に利用した写
をおおうように付着しているものや、全くついていない
真は、天候、撮影条件で質の悪いものは省き、背びれを
ものもいて、多様だ‘った.
中心に右側面、左側面の写真および尾びれの裏の写真を
選択して比較した.
観察結果 4 :このときに観察したシロナガスクジラ
は、呼吸をすると、水をはきだすような大きな音をたて
てすく寺に潜ってしまった.潜るときには大きく尾びれを
4. 観察結果
上下にふって潜ってい った.そのあと、水中から白い泡
観察結果 l :シロナガスクジラは、ブローが高く lOm
ほどにもなるので、洋上での識別が大変容易である.浮
につつまれた大きな渦ができるのを確認した(写真 5).
再び呼吸のため浮上したあと体を横倒しにして、スピー
上するときに海面にあらわれる U字型の上顎は、大変幅
ドをださずゆっくりと水面近く、船から姿が確認できる
広く大きい.海中でしっかりと閉じられていた鼻は、呼
ほどのところを漂うように泳いでいた そのまま沈むよ
2つの鼻孔はハの字型で大き
うに潜っていき、また浮上したときには、口が少し開い
く開く.このとき大きな音がする.体色は、濃い青灰色
て、あふれだすように水が口からこぼれ出ていた(写真
吸と同時に大きく高まる.
で、ところどころ色が薄いところと濃いところがあり、
6).このとき、シロナガスクジラの息はとても生臭か
まだら模様に見える .頭部は比較的まだらが少なく、胸
った.またこの個体は、オレンジ色の固形状の糞をした
びれ付近から背びれにかけてまだら模様がはっきりと確
(
写真 7).
認できる.背びれから尾びれにかけてはまだら模様が少
観察結果 5 :母子クジラは毎年観察する事ができた.
ない.背びれは、小さく高さも低い.鎌型の背びれにも
このときの母クジラと思われる個体は、体長が我々の船
わずかながらまだらの模様がある.着生生物は見当たら
と比較して約 24m、小さいほうの子どもと思われるクジ
ない(写真 1).尾びれを高く上げて海中に潜っていく
ラは、体長約半分以下であった. 2頭ともに体色は、濃
時に見える尾びれの表上面は、かすり模様がほとんどな
く、からだのまだら模様も柄が大きい.背びれは、母ク
い.尾びれのかたちは、三角形で、中心にわずかに切れ
ジラは三角型で先がとがっている.子クジラは鈎状の鎌
込みがあるが、後縁はぎざぎざがなくなめらかに見える.
型であった.すでにこの子クジラと思われる個体には、
尾びれの裏下面は、中心に向かつて縞模様になっている.
背びれに着生生物が確認できた(写真 8).この母クジ
観察結果 2 :我々が観察した限りシロナガスクジラ
ラは尾びれをあげて潜るが.子クジラが尾びれを上げて
は、呼吸のために浮上したとき、真後ろ上から見ると体
いるのは見ていない.母クジラは、 2
0分から 3
0分潜水し、
表からでも大きな背骨がよく分かる.このクジラのよう
その問、子クジラは漂うように同じ場所に浮いていた.
に大きなからだでも比較的骨ばって見えて痩せているよ
母クジラはオレンジ色の糞をした.さらにこの子どもの
うな個体も見かける.またシロナガスクジラが浮上した
個体は、母クジラの乳頭と思われるあたりを左右交代に
ときに、上顎の上や鼻のまわり、背びれの周辺に黒い魚
何度も潜っては呼吸していた.
のようなものが付着していることがある.一匹のときも
5
. シロナガスクジラの体の特徴
あるがときには 5∼ 6匹が付着している.かなり速く泳
ぐシロナガスクジラに振り落とされることなく付いてい
シロナガスクジラは、上顎が U字型で、頭部が幅広く、
るのを確認した(写真 2).この個体は、体の表面の色
鼻孔の前からのびる中央の一本の稜線は短い.体色は濃
が上顎から尾部にかけて全体的に統ーしたまだら模様が
灰青色で、全体に淡いまだら模様がある(写真 1).広
あり、体表の色が薄く、まだら模様もあまりはっきりし
い頭の上や鼻の周りにコバンザメがぶら下がるように付
一22-
シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告
着 していることがある(写真 2).胸びれは先がとが っ
アどちらの海域にも 三角型、鎌形、隆起型、突起型、背
ていて細く裏が白い.
胸びれに着生生物は見 当たらない
びれがカットされているものが見られた.我々は、 三角
背びれは、小さく高さも低く、からだの前から 3/4のと
形の背びれを A型、鎌形のものを B型、隆起型のものを
ころに位置 し、比較的多様な形をしていて個性的な特徴
C型、さらにいびつな突起型のものや背びれがカットさ
を示す場合 もある.背びれに紐状の着生生物が付着 して
れてい るもの などを D型として分類した.
いる ところ があり 、個体を確認できる例がある(写真 3).
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考察 3 個体識別・ 5年間で記録した頭数は、約 2
背びれにもまだら模様があり特徴的である.尾びれは三
頭.識別に用いた写真枚数は、約 2
0
0
0枚、個体識別でき
角形で幅広く大きい.わずかに尾びれの後縁のほぼ中心
たのは、 5
2頭である.カラー写真及びビデオの記録を用
に切れ込みがあるが、後縁はギザギザがなくなめらかで
いて、シロナガスクジラのからだの特に背びれのまわり
ある.尾びれの後縁に背びれに付着していたものと同じ
を中心としたまだら模様の比較が可能である.加えて、
ような紐状の 着生生物がついている 個体がある(写真
背びれの個体差、さらに背びれの特徴がいくつかのタイ
4).尾びれの裏 には特徴的な縞模様がある.
プにわけ られ、個体識別に有効であると 考えられる.こ
の個体識別の調査を継続することにより、シロナガスク
6
. 考察とまとめ
ジラの回遊の規模や生態について理解できることを確認
考察 1 着生生物・ 写真 2に見ら れる、シロナガスク
した.
ジラの体の表面に付着している生物は、 コバ ンザメ のな
考察 4 採餌行動: 一般的に、シロナガスクジラは他
かまで クロコ パンと思われる.上顎の 口のまわりに付着
の ヒゲク ジラ 同様、 高緯度 にある 夏の摂餌海域と低緯度
している このク ロコ パンは、背びれが吸盤状に変化した
にある越冬海域を長距離にわた って回避すると 言われて
ために付着相手のシロナガスクジラがかなり速く泳ぐに
いる.この回避は、高緯度で餌を大量に食べて、低緯度
もかかわらず、ひ。
っ たりとく っついてい ることができる
での繁殖海域での出産子育ての時期には餌を食べな いと
のだろう .他に シロナガスクジラの外部表皮に着生する
考えら れている( L
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生物がおり、 一部のシロナガスクジラの尾びれや背びれ
し我々はカリ フォルニア沖でもメ キシコ沖でも、 シロナ
に付着しているのが確認できた.クジラによっては全く
ガスクジラがフィーディングしている様子を確認した
ついていないものもいる.子どもの個体の背びれに着生
(観察記録 4、 5).このことは、春、夏の低緯度海域
している ことがある. 写真 3に見ら れる背ビレに付着し
でも餌を食べていることになる.
5年間にわたる調査の
た着生生物は、甲殻類のフジツボの仲間と思われる .ま
結果、シロナガスクジラには、大規模な回避ではなく、
た
、 1
9
98年 3月に観察した (
写真 8) この子クジラの背
餌場を移動して過ごす個体がいると考える.
びれにも、すでに着生生物が認めら れた. この個体には
考察 5 母子クジラ:シロナガスクジラの子どもは
かなりの成体と思われる甲殻類のフジツ ボ類が付着して
生まれた時、体長 7 m、体重約 3 トンといわれている
いた.写真 4の尾びれに付着し ている着生生物も同じく
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. 我々は 5年間の調査のなかで、毎年
2月から 4月にメキシコのパハカリフォルニアでシロナ
甲殻類のフジツボと思われる .
考察 2 背びれの形:これまで撮影したカラ ーフィル
ガスクジラの子どもの個体を目撃することができた 観
ムの写真で検討した範囲では、背びれのまわりのかすり
察記録 5の個体は母子クジラであり、また母クジラは餌
模係に加えて背びれの形が特徴的な個体があるので、背
を食べていたようである. 子クジ ラが何度も母クジ ラの
びれの形も個体識別に有効であると考えら れる.コルテ
乳頭のあたりを潜っては呼吸する様子から、母クジラが
ス海では親子と思われる 子供連れの個体を目撃したが、
餌を食べながらミルクを子 どもに与えているように見え
母クジラと 思われる個体の背びれと 子クジラの背びれの
た.このことからも出産子育ての時期に低緯度の海域で
特徴にも個体差があり、 三角型と鎌型で似ていない.さ
も餌を食べていると考える.
らに、カリフ ォルニアとパハカリ フォ ルニ アで観察し写
7
. おわりに
真撮影を行ったシ ロナガスク ジラの背びれの形 は、いく
つかのタ イプにわ け られ ることを確認 した(写真 9-A
私た ちの調査はほん のはじまりである. シロナガス ク
・B ・C ・D).たとえば、よく見ると、 一般的によく
ジラの生態はなぞに包まれていて、いまだに分かってい
いわれているように 三角形の背びれのものや、鎌形のも
ないことが多い 太平洋をゅうゅうと泳ぐシロナガスク
の、いびつな突起型のもの、さ らにザ トウクジラのよう
ジラは力強く生命力に溢れている.もしこの生物を人の
に背びれの前に明らかに隆起のあるものなどに分けるこ
手によって絶滅させるようなことになれば、このすばら
とができる . また、カリフォルニア、バハカリフォルニ
しい地球最大の動物を再び生み出すことはできない.彼
-23-
荻野友希 ・荻野みちる
写真 1
. シロナガスクジラの体の表皮は、まだらも様で色素の濃淡が見ら れる.
写真 2. コバ ンザメが、体表に付着している.
写真 3
. 背びれに甲殻類のフジツボの仲間 が付着 している.
写真 4. 背びれにびっしりと甲殻類のフ ジツ ボの仲間が着生している.
凋性
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シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告
写真 5
. シロナガスクジラが潜った後、大きな泡の渦ができた.
写真 6.海面に浮上した時、 口から勢いよく海水があふれ出た.
写真 7.母クジラは、オレンジ色の臭い糞をした
写真 8
. 母クジラの背びれは、 三角型、 子クジラの背びれは鎌型と似ていない.
-25-
荻野友希 ・荻野みちる
写真 9
. A. 一般的にいわれている 三角型の背びれ.
B
. 鈎状の形をした鎌形の背びれ.
C
. ザトウクジラのように隆起している背びれ.
D. 突起型のもの、いびつなもの、傷のある背びれ.
-26-
シロナガスクジラの写真撮影を用いた調査報告
らを傷つけることなく共存していけるように研究をすす
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めたい.この 5年間の観察をもとにさらにこつこつと調
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査を続けていきたい.今後も、回遊説に加えて定住説を
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9.山 田 格
・天野雅男監訳,海遊舎.
打ち立てることができるように根気よく目視調査を継続
していきたい.
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謝辞
粕谷俊雄・ 宮崎信之. 1
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. クジ ラ目. レッドデーター
最後にお忙しい中御指導いただいた国立科学博物館の
日本の晴 乳類
. 日本晴乳類学会. 1
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6
. 文一総合
山田格博士に心より感謝申し上げます.また調査に協力
出版
していただいた多くの方々にも感謝いたします.
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. THE SIERRA
CLUB HA
NDBOOK OF WHALES AND DPLPH
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引用文献
吉岡基・ 光明義文・ 天羽 綾郁 訳.
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,1997.BLUE WHALES.
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