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中国総合家電企業 海爾(ハイアール)集団の経営戦略

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中国総合家電企業 海爾(ハイアール)集団の経営戦略
中国総合家電企業
海爾(ハイアール)集団の経営戦略
王 曙光(拓殖大学国際開発学部教授)
Executive summary
「中国総合家電企業」の8文字は、海爾(ハイアール)を表すのにふさわしい呼
称だと思う。海爾は、1984 年から 2001 年まで総売上(グループ連結売上高)の
成長率が年平均 70%を上回る勢いの急成長を続け、2002 年時点で1兆円企業とな
った。ただし、WTO 加盟による市場競争の激化などで、昨年度から業績が低迷し、
増収減益という事態に直面した。その後、企業組織改革と経営戦略の見直しを行
った結果、今年から再び市場シェア拡大に成功し、収益性を向上させている。
はじめに
「中国総合家電企業」の 8 文字は、海爾(ハイアール)を表すのにふさわしい呼称
だと思う。2002 年 12 月に東洋経済新報社から出版した書籍『海爾集団(ハイアー
ル)世界に挑戦する中国家電王者』では、昨年夏までしか触れていないが、その後
状況は変化し、新たな対応も行われている。そこで今日は、海爾における最近の経
営戦略の変化について説明させていただきます。
近年の戦略の変化
海爾は、1984 年から 2001 年まで、総売上(グループ連結売上高)の成長率が年
平均 70%を上回る勢いの急成長を続けてきた。海爾は、2002 年時点で 1 兆円企業
となった。1 兆円といっても、現地の物価やコスト安を考えると、先進国企業でいうと
ころの 3∼4 兆円企業に匹敵するのではないか。ただし、WTO 加盟による市場競争
の激化などで昨年度から業績が低迷し、増収減益という事態に直面した。その後、
企業組織改革と経営戦略の見直しを行った結果、今年から再び市場シェア拡大に
成功し、収益性を向上させている。
海爾は WTO 加盟後戦略を変化させている。例えば、現地生産を利用してどんど
ん新製品を打ち出している。今後 2∼3 年の間に一斉に、市場に数多くの強力な製
品が投入されるのではないかと海爾や中国の業界関係者は述べている。
中国の人件費やオーバーヘッドのコストは安いが、外資系も中国に進出すると、
同様の状況になる。多くの中国企業は外資系企業に危機感を抱いている。外資系
本稿は平成 15 年66 月 18 日の経営研究所・競争戦略研究会での報告を加藤寛之(東京大学大学院)が記録し、本稿掲載
のために報告者の加筆訂正を経て、経営研究所が整理したものである。文責は経営研究所に、著作権は報告者にある。本記
録は会員限定の記録である。内容の引用または複製には著作権者の許可を必要とする。
がシェアを伸ばしており、海爾としても状況認識を改め即座に対応しないと、中国家
電市場では 10 数年前のように、外資系企業製品のシェアが高い状況になるのでは
ないかと危惧している。そこで近年では新市場開拓などを手がけている。
OEM の積極利用
例えば、従来は外注委託生産をほとんどしていなかったが昨年から実施している。
高級タイプの携帯電話は三洋電機と提携し、三洋から OEM 提供を受けている。ま
た、三星から部品を購入して携帯電話を海爾ブランドで作っている。PDP(プラズマ・
ディスプレイ)については、海外メーカーから海爾ブランドで OEM 供給を受けている。
記録型 DVD についても同様であり、中国国内市場では海爾ブランドで、海外メーカ
ーから OEM 供給を受けている。
なぜ OEM を数多く導入するのか。海爾の経営陣に尋ねたところ、海外の大手メ
ーカーと比べた場合、海爾の経営総合力は弱いとの答えが返ってきた。危機感を
抱いているのだ。三洋電機と比べると小学生レベルであり、特に海外市場において
は海外大手メーカーとの格差があると認識している。外国メーカーから OEM 供給を
受けるのは、従来の中国地場メーカーと逆のパターンである。洗濯機やテレビ、エア
コンなどの主力製品では海爾は成功しているが、PC では失敗し他企業に生産委託
している。現在は無理して自分で作ると競争力のない製品しかできないと認識して
いる。また、収益性重視を考えての行動であり即効性もある。海外の一流メーカーの
製品を扱うことになるので商品としての競争力もある。
また直近の情報であるが、半製品を台湾進出企業に依頼している。1 部の台湾企
業は海爾ブランドの OEM 受託を目指して動いている。
特定機能提供戦略
エアコンはシェアは大きいが価格競争により収益性が低下している。そんななか、
海爾は特定の性能に絞り込んで成功している。SARS 騒ぎで家電企業は売上が伸
び悩んでいる。ところがこの騒ぎの中、海爾は 20%の成長を実現している。SARS 対
策の各種殺菌防菌型家電を投入し、宣伝がうまいこともありよく売れている。また家
電は顧客が店に来ないことには売れないが海爾はオンライン・ショッピングのネットワ
ークが中国一である。
更新需要:携帯電話
中国では更新需要が大きな収益機会になっている。例えば携帯電話は地域加
入の増加が 1 ヵ月当たり 500 万台と世界最大ペースであり、現在 2 億台普及してい
る。すでに世界一である。ただし、中国の携帯電話は日本で言うところの 4∼5 年前
の普及タイプで通話機能のみである。ここに膨大な更新需要がある。
海爾では、買い換え需要用として、新しいタイプの携帯電話を販売している。ペン
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タイプの細いものでプレゼン用のレーザー・ポインタもついている。最初は技術者が
会議で使う用途のものだった。これが若い人にも売れている。2 台目として購入して
いるのだ。
すでに持っていながら同時に 2 台目を所有するのは、中国市場の特性を活かし
た行動である。日本人ではなかなか理解できない。というのも中国では携帯電話で
は基本料金がかからないのである。プリペイドの IC チップを買い換える方式なので、
家庭用仕事用で IC チップだけとりかえればいい。プリペイド IC チップは 50 元(750
円)で買うことができる。
そもそも基本料金という制度がないので、2 台目や 3 台目を購入しても余分の基
本料金が発生しない。だから 2 台目以上の市場は十分にありうるのだ。またヨーロッ
パも基本的に同じ方式なので、今年夏にベルギーで夏の目玉商品として売り出す
予定だという。
更新需要:小型冷蔵庫
また子供部屋用の小型冷蔵庫を販売している。外資系企業には存在しない製品
だった。企画力を重視している。これも第 2 需要を狙った製品開発である。さらに、ノ
ン・フロンの冷蔵庫のケースもある。ヨーロッパではこのタイプを 1 台売ると政府から
100 ユーロの補助金をもらえるらしいので、海爾では主に欧米の輸出用を手がけて
いる。
外資系企業にできないこと:住宅組み込み家電
中国は現在住宅ブームであり、組み込み家電は大きな需要が見込める。そこで
海爾では新築住宅との一体化も積極的に推進している。住宅設計から施工、内装
工事、販売、管理まで建築デザイナーや不動産屋と手を組んで内装段階から海爾
製の家電を意識した製品開発をしている。顧客が住宅を新築するとすでに海爾の
家電製品が入っているのだ。
建築業者や販売業者、銀行ローンまでひとつのセットになっていることが必要に
なるが、これは外資系企業にはできないことである。海爾では 1 年前から住宅組み
込み家電を製品化し建築業者と販売業者、銀行ローンをセットとして行動する専門
の部署を設立した。
外資系企業にできないこと:ネット・ショッピング
またネット・ショッピングにも力を入れている。現在では海爾のほぼ全ての商品をイ
ンターネット上で販売できるようになった。一部製品はオーダー・メイドである。日本
の家電メーカーはオンライン販売ではほとんど別の業者が担当し、企業内で直接手
がけているところは少ない。一方海爾はネット・ショッピングに非常に力を入れている。
人材については北京や天津のインターネット関連企業から能力ある人材を集めて、
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事業立ち上げにあたらせた。
ネット・ショッピングに力を入れるのは、流通を省くことができるので、利幅が大きい
からである。販売価格は値引きするのだが、市販の 1 割引程度である。流通業者の
マージンや販売店の利益を中抜きした場合、1 割引いて販売しても充分に利益率が
高いのだという。
また中国国内で大きな問題となっている代金回収問題も、ネット・ショッピングの場
合お金が入ってから送付するのでそもそも発生しない。ネット・ショッピングでは中国
現地の金融会社と一体になって行動する必要がある。これも外資には行いにくい領
域である。
外資系企業にできないこと:販売列車
先日たまたま海爾の会議に参加し、海外メーカーにはできず、海爾にだけできる
ことは何かと議論していた現場に居会せた。私はそこで今、外国のメーカーも海爾も
できていないこと、海外メーカーがやろうとしてできず、海爾も手がけていないことを
したらどうかと提案した。彼らの反応は敏感だった。責任者が若く、20 代後半から 30
代であることも、反応の早さや行動の早さと関係があるのだろう。
例えば、列車をチャーターし展示販売車として量販店のない地域を走らせるのだ。
そして列車の中を製品展示室や販売相談室とする。中国は広い。小さな駅に 3 日
間列車を止めて販売し移動していくのだ。中国の奥地ではまだまだ大きな需要が見
込める。
これも外資には不可能なことである。ダイヤ改正が必要であり鉄道局との関係が
必要になるからだ。まだ全国ではなく一部の地域にとどまっているが非常におもしろ
い試みだ。
国際市場開拓戦略:製品輸出と海外戦略
海爾では 1998 年から「3 つの 3 分の 1」という経営方針を掲げている。具体的には、
国内生産・国内販売を総売上の 3 分の 1 に、国内生産・海外輸出を 3 分の 1、海外
生産・海外販売を残りの 3 分の 1 にすることを意味している。ちなみに、海外生産・
海外販売の比率はまだ 1 割程度にすぎない。海外進出が本格化したのはアジア通
貨危機の直後の 1997 年であり、まだ 5 年しか経っていない。
海外生産拠点の設立
海外生産拠点の設置を始めてから7年経ったが、現時点で海爾の海外生産を集
計すると赤字になる。アメリカではまだ 2 年足らずしか経っていないこともある。
海外生産の最初の数年間は、利益を直接の目標にはしていない。海爾が、今製
品輸出の際に直面している問題が、価格要素以外で購買行動に影響を及ぼす、非
関税障壁問題である。そこで、中国製品が非関税障壁によって市場から排除される
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のを回避するために、それぞれの主要経済圏に家電製造拠点を確立しようとしてい
るのだ。あくまで狙いは、非関税障壁の突破である。
先日、アメリカ連邦政府からオフィス用の冷蔵庫の大量受注に成功した。これは
現地進出の効果である。
生産委託外注体制を強化
海爾では世界規模で部品・資材調達システムを強化している。調達の最適化戦
略をとっている。発注量が多いことからくる強い交渉力を用いて、業者に厳しい注文
をつけている。部品メーカーとしては海爾は大口顧客であり厳しい注文に応えざる
を得ない。
また、高性能部品については、海外メーカーや国内外資系企業に開発委託も始
めた。海爾のこうした動きは、供給している部品メーカーや、半製品をこれから納入
しようと画策している台湾の OEM 企業にとっては、頭の痛い話だ。
人材戦略:市場チェーン
海爾では人的資本についても競争原理を導入し、生産効率向上と品質・サービ
ス改善を図っている。「市場チェーン」とは、社内に仮想的市場が存在するという考
え方である。バリュー・チェーンにおいて、社内の下流部署は上流部署の顧客であ
るという考え方である。
人材戦略:「相馬より競馬」
幹部も公開公募制度を設けて上級幹部の知識化、専門化、若年化を促している。
「相馬より競馬」とは指導者が部下を抜擢するという考えではなく、上司も部下も 1 度
に走らせて、1 番速く走れるやつを登用するという考えである。1998 年から導入され
ている。この結果 27 歳の女性事業本部長も存在している。4 大事業本部長の 1 人
である。
人材戦略:「定期定量淘汰制」は廃止
海爾の人事制度の特徴として日本でも有名だった成果主義と厳罰・淘汰システム
を結びつけ、工員の素質の選別を効率化させる「定期定量淘汰制」は、社内や中国
のマスコミから強く批判され、現在では廃止されている。具体的には社員を 3 等級に
分け、優秀な 4 割のワーカーは 3∼5 年の長期契約を結ぶ。普通の 5 割は 1 年契
約とする。残る 1 割の優秀でない層は淘汰する。自動的に優秀な人材が残り、優秀
でない人材は淘汰されるシステムであったが、1999 年から大きな問題とされ現在で
は廃止されている。
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人材戦略:研究開発
開発研究の分野で人材をなるべく登用しようとしている。私も含め海爾では 2∼3
ヶ月に 1 回、海外の華人系の学者を呼んで戦略検討会を催している。私は年 2 回ほ
ど行く。海爾に対する手厳しい批判が歓迎され工場も案内してくれる。ただしわれわ
れを大事にしてはくれるのだが旅費と滞在費はこちらもちである。
また技術系の華人系の人材は、別の会合を設けているようだ。海外メーカー・大
学・研究機関との共同研究開発を進めている。また外部の優秀なデザイナーも長期
契約で利用している。在外華人技術者と特別契約制度を結んでいるのだ。工場に
見えるような巨大規模の施設がある。外国人スタッフの比率は秘密にされているが、
食堂を調べると、洋食と和食を毎日食べる人が相当数いるようだ。
研究は 3 段階で行っている。中央研究所(中央研究院)と事業部内の開発センタ
ー、工場内の開発チームである。生産工場内では組立や工程の効率化の研究をし
ている。最大規模は中央研究所である。
海爾の 2002 年の研究開発費は売上高の 6.2%であり、中国家電メーカーの中で
は突出している。
おわりに
海爾は中国の家電の中では突出しているが、シャープや三洋とはまだまだ次元
が違うという印象がある。組立などの工程では力を付けているが、素材などの上流ま
で含めると、海外家電企業と力の差は大きいようだ。興味は尽きない研究対象だが、
集団所有の企業なので財務諸表が公開されないので分析には限界がある。
討議
Q:海爾は最近急激に海外進出しているが、最終的には何で利益をあげようと考え
ているのか。
A:13 の海外工場の多くは途上国である。一方重視しているのはアメリカとイタリアで
ある。儲かっていないが緻密な計算のうえで進出している。海爾はアメリカでここ数
年、製品販売、小型冷蔵庫などで業績をあげてきた。延べ 40 万台の販売実績があ
る。40 万台は 1 つの線引きのラインなのだという。一方、イタリアは延べ 29 万台販売
実績がある。進出コストはこのラインを土台にしていた。数十万台の販売実績がある
ので、安定した販売ができるとの考えがあるのだと思う。
Q:物流がまだ整っていないので輸出に手間がかかる。これを円滑にするために現
地工場を作っているのかと思った。
A:巨大な消費地の近くに生産拠点を作る考えはある。エアコンや冷蔵庫は輸送・保
管のコストが大きい。ただしこれは、海爾に限らず世界中の家電メーカーの戦略であ
る。
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Q:アメリカ市場で 40 万台市場を確保したから、少なくとも 40 万台は売れるということ
か。
A:昨年のアメリカ工場の生産量は 40 万台だった。現在は製品ラインが増えている
のでもう少し多い。先に市場開拓して現地工場という路線はある。一定の販売実績
がない限り現地進出は行わないだろう。
Q:海外事業はまだ儲かっていないとの話があった。アメリカで 40 万台輸出の時は、
利益を出していたのだろうか。それとも現地生産化しつつ利益構造を向上させようと
いうことだろうか。
A:アメリカ進出は 2001 年である。小型冷蔵庫が売れていたが、粗利は、中国の国
内販売と同じだという。中国では販売・サービスのコストがかかる。でもアメリカでは販
売・サービスを現地企業に委託している。コストがかからない分、利益は出ているの
だという。100 ドルの冷蔵庫でも利益は出ている。
Q:急速な成長をずっと続けている。組織が急拡大しているので権限委譲、分権化
が進んでいる。分権化すると一方で統合を失うことにもなる。急拡大と分権化、統合
して管理の問題はどの国も同じだが、海爾独自の工夫はあるか。
A:海爾は過去数年間で企業組織について 3 回の大きな改革を経験している。1995
年より以前は垂直型組織であり、工場長から作業現場までの厳格な階層組織であり、
権限が工場長にあった。問題があったので松下の事業部モデルや、GE などのモデ
ルを参考に「連合艦隊」と呼ぶ、巨大な事業部制を採用した。1997 年に大拡張を経
験し、7つの家電メーカーを買収した。この際、より本格的な事業部制にした。また、
1999 年にフラット型組織とした。具体的には 4 つの推進本部を設け、事業部は横並
びとした。各事業本部に大きな権限を与え、海外も国内も権限委譲が進んだ。
最近は、注文を一括管理する専門部署を作ろうとしている。昨年夏に聞いた話だ
が具体化していない。組織改革の専門委員会を設け、中国の学者、ハーバードの
中国系の学者を含めて定期的に検討している。
Q:インターネット販売がうまくいっているという。ヤマト運輸やフェデックスのような、
小口物流を担う企業は中国にあるか。
A:物流は中国の弱点である。そもそも概念がなく日本語の「物流」をそのまま文字ご
と導入した。1997 年頃から政府や業界あげて、物流を意識し始めた。2000 年以降
は、日本の大手物流企業が進出している。上海浦東の空港地域に物流パークを設
け、日本から 3 企業が入っている。1998 年に北京に宅急便ができ、中国主要都市を
つなぐビジネスが始まっている。また、2001 年は日本企業の中国物流元年である。
技術もノウハウも日本企業が持っているので、市場機会を求めて積極的に展開して
いる。
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Q:海爾ができて外資ができないことを重視しているというが、オンライン販売は、地
方への販売ルートを持たない外資系にとって、かえって有利ではないのか。なぜ外
資系ではできないのか。
A:そもそも、インターネット業者は外資系には開放されていない。インターネットは政
治的配慮もあり、一切許可していない。モバイルは少しある。政治的理由で外資系
には難しい。中国のインターネットは厳重にチェックされている。
Q:自分で立ち上げるのは難しいだろうが。IT のベンチャー企業と外資系が組むこと
は可能ではないか。
A:そのパターンなら可能だろう。ただし、オンライン販売で難しいのは代金の振り込
みである。海爾は中国の 4 大国有銀行の 1 つである、建設銀行のネットワークを利
用している。中国でも海爾だけがここまでとりくんでいる。海爾の強みは銀行ネットワ
ークをうまく利用していることであり、ほとんど代金回収の問題がないことだ。
Q:海爾は PC で失敗したと聞いたが、なぜか。
A:アセンブリだけで、差別化競争はなかった。国内で大きなシェアを有するレジェン
ドと比べ失敗した。消費者の好みに合わせることができなかったのである。他の製品
でできたが、PC ではできなかった。新製品を出すとき、海爾は国内シェア 3 位以内
をめざす。PC は 10 位にいかなかったので自分で行うことからは撤退した。現在では、
扱っているが、OEM である。PC 業界では業界の動きに 2∼3 カ月遅れると、もう追い
つけない。
なお、電子レンジや扇風機でも失敗している。扇風機は海爾最大の失敗である。
扇風機の時代が終わり、エアコンが出てくるときに大きな扇風機工場を買収した。タ
イミングが悪く、売れないので製品開発もやめた。電子レンジはギャランツと競争で
きないのだ。ギャランツの OEM 生産の効率は非常にいい。他のメーカーもほとんど
ギャランツの OEM を利用している。中国市場の 8 割のシェア、世界の 5∼6 割のシ
ェアを有しているのだ。
Q:住宅との組み合わせが 1 つの新たな動きだが、従来と販売チャネルやビジネス・
スタイルも違う。住宅を基盤とするのは総合家電企業である海爾のドメインといえる
だろうか。今後総合家電企業として住宅とどういう動きがあるだろうか。
A:住宅と一体化は、1 つの大きな方向だ。戦略担当者に 10 年後の海爾のイメージ
を聞くと、工場を閉鎖し、製造を外注に切り替えていくのだという。今おこなっている
ことと、10 年後の姿はまるで違うようだ。OEM の積極利用や住宅一体化、金融への
進出は、将来への布石だ。消費者ローンは今後伸びる分野だが、ほとんどの地場メ
ーカーは手がけていない。将来的にはもの造りよりも、もの造りのうえに立つことを考
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えているようだ。
Q:「合作」とは何か。医薬や素材の外資系「合作企業」がたくさんホームページにあ
るが、これはどういうことか。
A:「合作」は、外資系の資本参入 25%以下。25%以上から 49%までは「合資(合
弁)」。それらの外資系は提携関係による共同研究をしているということではないか。
Q:海爾集団で上場しているのは、青島だけである。中国企業は、優良子会社を 1
社だけ上場させ、資金調達する。連結会計が導入されていないので、グループの財
務内容がわからない。そもそも所有関係も複雑である。所有と経営の分離など、資
本主義国でよく見られる姿は、中国はどうなっているのか、また、どうなっていくの
か。
A:青島海爾は、エアコンと冷蔵庫だけを手がけており、事業部の上場のようなもの
だ。海爾は集団所有制で、財産は誰に所属するのかというと、極端にいえば青島市
のものである。最初に立ち上げた 300 人の所有に属するのか、現在の 3 万人の所有
に属するのかというややこしい問題は棚上げにして、議論していない。これは中国共
通の問題である。海爾は資産管理委員会をつくった。董事会の一部に資産管理委
員会を設け、一括管理している。いずれ集団所有制企業の分配に国が真剣に取り
組むことになる。そのときに資産管理委員会が考えることになるだろう。青島海爾の
株主は、3 分の 1 は青島市、3 分の 1 は海爾本社、3 分の 1 は一般株主。従業員で
はなく、地方政府が一部資金と土地を提供し、従業員が立ち上げる。どちらかという
と、所有権は地方政府にある。国営ではないが公営でもない。究極的な所有権は地
元政府が有している。
Q:中国ではエアコン登場で扇風機は少なくなってきているようだが、限界普及率と
達成の速度はどのようなものか。
A:カラーテレビは都市部では 120%。エアコンは都市部では 2∼3 割。洗濯機や冷
蔵庫は都市部で6割程度である。次は買い換えの需要を狙うことになるだろう。90 年
代半ばに購入された家電製品の更新需要が大きい。扇風機は今でも売れている。
中小メーカーが激安で販売している。SARS 騒ぎで院内感染を防ぐ意味からも、室
内の温度を高くし風通しを良くするため、中小扇風機メーカーは一時的に儲かって
いる。
Q:3 年連続強い商品をつくる企業はないが、3 年連続シェア 1 位は結構あるのが日
本メーカーであるが、営業力に力を入れている海爾はどうなのか。
A:海爾が他社と比べ強いのは営業、販売、アフターサービスである。取り付けに時
間がかからずすぐにやってくれる。注文して電車にのって帰宅すると門前で待って
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いる。故障すると数時間で来てくれる。午前中に契約すると、午後 8 時までには取り
付けてくれるという。
Q:海爾はネットワーク型企業ではないか。情報ネットワークが広く、提携候補者に非
常にいい相手のようだがどうやって管理しているのか。
A:海外推進本部の前部長は現在の副総裁である。世界市場におけるネットワーク
は海外推進本部が一括して管理している。
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