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言渡年月日 平成6年7月26日

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言渡年月日 平成6年7月26日
平成6年神審第41号
漁船第8喜代丸機関損傷事件〔簡易〕
言渡年月日
審
判
平成6年7月26日
庁 神戸地方海難審判庁(弓田邦雄)
副理事官
相田尚武
受
人
A
名
船長
審
職
海
技
免
状 一級小型船舶操縦士免状
指定海難関係人
B
職
甲板員
名
損
害
1番シリンダのピストンの焼き付きのほか、全シリンダのシリンダライナに縦傷を生じ、全クランクピ
ン軸受メタルが摩損していた。
原
因
主機(潤滑油系)の開放点検不十分
裁決主文
本件機関損傷は、主機潤滑油ポンプの開放点検が不十分で、同ポンプの吐出能力が低下したまま運転
されたことに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適
条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
裁決理由の要旨
(事実)
船 種 船 名
漁船第8喜代丸
総 ト ン 数
19トン
機関の種類
ディーゼル機関
漁船法馬力数
117キロワット
事件発生の年月日時刻及び場所
平成5年9月26日午後11時12分ごろ
富山湾
第8喜代丸は、昭和55年4月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製の漁船で、主機と
してC社が同年1月に製造したA155C-T4型と称する、計画回転数毎分915の過給機付清水冷
却4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え、操舵室から逆転減速機とともに遠隔操作されるよう
になっていた。
主機のピストンは、アルミニウム合金製の一体形で、頭部が冷却室を形成し、連接棒中心部の油孔を
上昇した潤滑油が中空の浮動式ピストンピンを経て流入して冷却するようになっており、ピストンリン
グとして3本の圧力リングと2本の油かきリングを有していた。
主機の潤滑油系統は、台板油だめ内の潤滑油が、多数の小孔が開いた吸入管を通してクランク軸から
駆動される歯車式ポンプ(以下「潤滑油ポンプ」という。)に吸入加圧され、複式こし器(以下「潤滑
油こし器」という。)、冷却器、圧力調整弁、入口主管を経て主軸受を含む各軸受に供給されるようにな
っており、入口主管部の標準の潤滑油圧力が5.0キログラム毎平方センチメートル(以下圧力は「キ
ロ」で示す。
)ないし5.5キロで、約3.0キロで操舵室及び機関室の潤滑油圧力低下警報(以下「警
報」という。
)が作動するようになっていて、潤滑油量が約140リットルであった。
指定海難関係人Bは、昭和57年4月から機関長として乗船して機関部の保守管理に当たっていたも
のであるが、平成2年11月に本船の従業制限が小型第2種から小型第1種に変更したことにともない、
甲板部の乗船履歴をつけるため甲板員として雇入れされ、引き続き機関部の保守管理に当たっており、
受審人Aは、平成5年7月から船長として乗船したものであるが、B指定海難関係人の機関部の経験が
長いので任せておけば大丈夫と思い、主機の運転保守について、異状があれば報告するよう同人を指揮
監督することなく、操舵室から主機の操作のみを行っていた。
B指定海難関係人は、毎年3月ごろ上架の際、業者に依頼してピストン抜きを含む全般的な主機の整
備を施工していたが、平成5年度はその時期に出漁が多く特に不具合箇所もなかったので整備を行わず、
約2週間ごとに潤滑油こし器を掃除し、3ないし4箇月ごとに潤滑油を新替えし、主機の全速前進時の
回転数を毎分900として、月間に420時間前後の運転を行っていたところ、いつしかピストンリン
グの摩耗の進行につれて潤滑油の汚れが早くなり、油だめ底部にはスラッジが堆積するようになってい
た。
ところで主機の製造以来の潤滑油ポンプは、経年に時折のスラッジの吸入が加わって、各歯車及びケ
ーシングの摩耗が進行し、各部すきまが増加して吐出能力が低下していた。
同年9月上旬B指定海難関係人は、始動後の回転数毎分600の中立運転の際、潤滑油温度の上昇に
ともない警報が作動するようになったのを認めたが、A受審人に報告し業者に依頼するなどして潤滑油
ポンプを開放点検せず、中立運転の回転数を上げて毎分800とし、吐出能力の更なる低下とともに再
三圧力調整弁を操作しながら対処しており、また、小笠受審人は同人から潤滑油圧力異状の報告を得ら
れなかったのでこれらを知らなかった。
こうして本船は、操業の目的をもって、A受審人及びB指定海難関係人の2人が乗り組み、船首0.
80メートル船尾2.20メートルの喫水をもって、同月26日午後11時富山県黒部漁港を発し、発
航して間もなく主機の回転数を毎分900の全速力前進として沖合の漁場に向け航行していたところ、
潤滑油温度の上昇にともない潤滑油圧力が低下して各シリンダのピストンの冷却油量が減少し、他シリ
ンダに比較して負荷が高かったのか1番シリンダのピストンが過熱膨脹し、同時12分ごろ生地鼻灯台
から真方位261度500メートルばかりの地点において、シリンダライナに焼き付いて回転が低下し
た。
当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人とともに操舵室にいたB指定海難関係人は、警報の作動と回転の低下を認めて急ぎ機関室に
赴き、潤滑油圧力が3.0キロ以下に低下しているのを認め、主機を停止した。
B指定海難関係人は、潤滑油こし器を開放したところ目づまりはなく、圧力調整弁を操作しても潤滑
油圧力が上らず、続行不能と判断してその旨をA受審人に伝え、本船は、低速力で黒部漁港に引き返し、
調査の結果、1番シリンダのピストンの焼き付きのほか、全シリンダのシリンダライナに縦傷を生じ、
全クランクピン軸受メタルが摩損していたが、圧力調整弁には特に異状がなく、それらは、のち潤滑油
ポンプの新替えとともに修理された。
(原因)
本件機関損傷は、主機始動後に潤滑油圧力低下警報が作動するようになった際、潤滑油ポンプの開放
点検が不十分で、各歯車及びケーシングの摩耗により各部すきまが増加して吐出能力が低下したまま運
転され、発航後の潤滑油温度上昇とともに潤滑油圧力が低下して冷却油量が減少し、ピストンが加熱膨
脹したことに因って発生したものである。
潤滑油ポンプの開放点検が不十分であったのは、船長が、主機に異状があれば報告するよう機関取扱
者に対する指揮監督が不十分であったことと、機関取扱者の甲板員が、主機の潤滑油圧力低下の異状を
船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
受審人Aが、主機の運転保守を機関部の経験のある甲板員に行わせる場合、主機に異状があれば報告
するよう指揮監督を行うべき注意義務があったのに、これを怠り、甲板員の機関部の経験が長いので任
せておけば大丈夫と思い、指揮監督を行わなかったのは職務上の過失である。
指定海難関係人Bが、主機始動後の中立運転時に潤滑油温度の上昇にともない潤滑油圧力低下警報が
作動するようになったのを認めた際、船長に報告し業者に依頼するなどして潤滑油ポンプを開放点検し
なかったことは本件発生の原因となる。
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