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住民主体のコツコツ貯筋体操の取り組み 柏崎市福祉保健部 若月 直美

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住民主体のコツコツ貯筋体操の取り組み 柏崎市福祉保健部 若月 直美
住民主体のコツコツ貯筋体操の取り組み
○若月直美 藤巻真理子 三井田善之 金子保宏
(柏崎市福祉保健部)
Ⅰ. はじめに
柏崎市では、介護予防の一環として、高齢者がいつまでも健康でいきいきと暮らせるように、足
腰の筋力や体力の向上と、体操を通じてお互いに支え合う地域づくりを目指し、平成18年度から
高齢者に運動を普及できる市民ボランティア「名称:高齢者運動サポーター(以下:運動サポータ
ーという.
)
」を養成した.また、柏崎市オリジナル転倒予防体操「名称:コツコツ貯筋体操(以下:
体操という.
)
」を考案した.
平成24年1月末現在、体操は143名の運動サポーターの協力を得て、市内98ヶ所(月1~
2回実施17ヶ所、毎週1~2回実施81ヶ所)で実践されており、参加者実人数1,600人が
体操に取り組むまでに拡大した.
体操は高齢者が歩いて行ける身近な集会場等で開催され、住民が主体的に取り組んでいる.
近年、体操のみでなく茶話会、レクリエーション、忘年会等の会場独自の取り組みが各地域で次々
と生まれ、体操をきっかけとした地域づくりの場へと展開されている.
今回は、その発足経緯と住民が主体となって体操に取り組むための手法や、体操を通じた地域づ
くりにおける今後の課題について報告する.
Ⅱ. 体操普及の経緯
平成13年度から在宅介護支援センターや看護師等の訪問指導による転倒予防事業が開始された.
翌年、毎週1回3ヶ月間を1クールとする通所型コツコツ貯筋教室を元気館(柏崎市保健福祉施設)
で開催したが、終了後のフォローアップが困難なため、平成15年度から教室の拠点を地域のコミ
ュニティセンターや集会場に移し、地区版コツコツ貯筋教室として月2回全4回の体操伝達を行っ
た.しかし、運動指導者がいない等の理由から住民のみで体操を継続することができなかった.
そこで、平成18年度からの介護保険制度改正による介護予防事業開始に併せて、地域の虚弱高
齢者が地域住民とともに継続して運動に取り組める体制づくりを再考した.
Ⅲ. 住民主体の体操普及の取り組み
1.運動サポーターの養成
平成18年度から地域で運動を普及できる人材を確保するために、運動サポーターの養成を開始
した.当初、運動サポーターの選出はコミュニティセンターに依頼する予定であったが、趣旨には
賛同を得られるものの、人材の選出には難色を示す地域が多かったため、急遽広報での一般公募も
併せて行った.その結果、地域の推薦31名、一般78名の総勢109名が受講し、第1期生とし
て87名の運動サポーターが誕生した.
養成研修は高齢者の運動に関する講義と体操の実技を中心に、半日全8回、約4ヶ月間で行った.
平成20年度に養成研修の修了者で組織された運動サポーター協議会を発足すると、運動サポー
ター自身の資質向上と高齢者の健康や地域づくりを目指した体操普及活動を開始した.
運動サポーターは、男女比2対8、平均年齢62歳で、職業は地域の役員、体育指導関係者、元
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教師、医療専門職等で構成され、8割以上が自身の健康づくりと社会奉仕を目的に活動しており、
体操普及方法が確立されると、自らのチカラで積極的に地域にPRを始め、次々と自らの居住地に
体操の場を広げていった.
現在、運動サポーターは中学校区単位でグループをつくり、住民が体操を継続できるように会場
への支援を行っている.その他、有志が劇団を立ち上げ第二次成人式やイベント等で広く市内に体
操普及活動を展開している.
2. 体操普及方法
開始当初は、新たに体操の場を立ち上げるのではなく、老人会やサロン及び地域の既存の会で体
操に取り組んでもらうことにした.ところが、これらの団体はもともと交流が目的であったために、
体操を行うことへの不満の声が参加者から聞かれた.さらに、これらの団体は依存的、毎月1回で
は運動効果が期待できない、対象者が会員に限定される等の課題が次々と生じた.
そこで、新たな普及活動を2年間休止し、住民が簡単に体操に取り組める体操普及方法を見出し、
PR活動を行ったところ、市内への体操普及が急激に加速した.その成功の秘訣を表1にまとめた.
表1 体操普及成功の秘訣
1. 運動効果が現れる体操の開発と誰もが簡単にできる体操CDの作成
2. 体操の目的や地域での実践方法を明確に提示
3. 「気楽に無理せず手間かけず」をモットーに、役員負担を軽減し住民同士が支え合う体制の整備
4. 実施主体は体操の実践を希望する町内会等とし、住民のやる気が出るまで待つ
5. 体操は毎週 1 回以上行い、体操への参加は自己責任とし、団体側は責任を負わない
現在、町内会等が中心となって、老人会や地域組織と共働して地域で体操の場をつくり、継続し
て体操に取り組んでいる.近年、参加者の中から運動サポーターを選出する地域も増えており、地
域の中で元気高齢者が虚弱高齢者を支えるしくみが次々と生まれてきている.
3. 体操を継続するための取り組み
新規の会場が増え続ける中で、継続年数が経つにつれ、参加者の減少等の悩みが各地域で生じて
きた.そこで、平成23年度から各地域の情報交換と課題や対策を話し合うために、
「体操を通じ
て人と地域がつながろう」をテーマに、体操実践団体に加え、運動サポーター、地域包括支援セン
ター、地区担当保健師を一堂に集め市内5圏域で情報交換会を開催した.
情報交換会では、これ以上増えると会場に入りきらないと担当者が嘆くほど毎回参加者が多く、
参加者の継続率が最も高い地域の一つであるS町内会の事例を紹介し、体操を継続するために必要
なことやそれぞれの立場でできることを話し合った.
すると、S町内会には「地域の仲間が温かく迎えてくれる、話し相手がいる、楽しく笑いある、
自分の居場所がある等」継続するために必要なキーワード(表2)があり、役員と参加者が協力し
合って地域ぐるみで取り組むことが継続するために必要であることが分かった.
表2 継続するために心がけていること「S町内会コツコツ貯筋教室の事例」
1. 参加者ひとりひとりを大切にしている
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参加者同士が誘い合って毎回参加、欠席者の状況を役員が常に把握、3回以上欠席すると知人
が自宅へ訪問する
2. 体操が上手くできないことを深く追求しない、参加するだけでよしとする
3. 参加者が自主的に運営に参加、協力している
お茶当番、体操終了後の歌やレクレーション指導、片付け等
4. マンネリ化しないためにイベントを開催
お茶飲みと歌(毎月1回)、お花見、納涼会、クリスマス会等(年3回)
Ⅳ. 考察
1. 運動サポーターの養成
養成開始当初は、体操CDという媒体もなく、体操普及方法も確立されていなかったため、
「活動
がイメージと違った、負担が大きい」等の理由で、多くの退会者が出た.しかし、運動サポーター
の役割を「住民が主体的に体操に取り組むための支援」と提示したことで、活動の意義が明確にな
り、地域貢献の実感が生まれ、活動意欲につながった.
毎年行っている運動サポーターに対する活動満足度調査では、9割以上の方が活動に満足、おお
むね満足と回答しており、活動が自らの健康づくりと社会奉仕の場となっている.
2. 体操普及方法と体操効果
誰もが簡単にできる体操であることに加え、住民が「これならできる」と思える簡単な手法を提
示したことで、体操は市内各地に急速に広がった.また、体操開始前後の体力測定結果では、毎週
1回以上体操に取り組むことで、8割以上の参加者の複合動作(TimedUp&Go)や筋力(椅子か
らの立ち上がり)が維持向上し、専門職や指導者がいなくても運動効果が現れることを実証できた.
他にも「膝、腰、肩の痛みが楽になった.人と出会い楽しみが増え、生きがいができた.地域の
コミュニケーションが良くなった」等の声も聞かれ、体操が体や心のみでなく地域づくりにも影響
していることが分かった.
3. 体操を通じた地域づくり
情報交換会の開催により体操実践団体、運動サポーター、地域包括支援センター、地区担当保健
師、行政が同じ目線で目的を共有し、話し合いができたことは大きな成果であった.
現在、
課題となっている参加者の減少の対策としても、
体操関係者の他にも民生委員や参加者等、
一人でも多くの住民を巻き込みながら、お互いができる役割を模索していくことが、体操を通じた
地域づくりにも繋がるのではないかと考える.
Ⅴ. まとめ
住民主体の体操の取り組みと題して、柏崎市の6年間の経過をまとめた。地域で体操を普及でき
る人材を養成したこと、体操普及方法を見出したことで、体操の普及が急激に加速した.
また、地域によっては、脳卒中、認知症、うつ等、病気や障害があっても地域住民として気軽に
参加できる会場が増えてきており、体操をきっかけとした地域づくりへと発展している.
現在、新規要介護度認定者数の抑制を目指し、体操継続者と脱落者の認定者割合を経年で調査し
ている.平成18年度から体操を継続している人と途中で脱落した人の認定者割合を比較すると、
継続者より脱落者の方が認定者数が3倍近く多い傾向がみられた.
今後、さらに詳しく分析を進め体操の継続による認定者数への影響を調査していきたい.
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