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認知症の方が 安定的な日常生活を過ごせるために

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認知症の方が 安定的な日常生活を過ごせるために
薬剤師の現場を
サポートする
メディカル情報誌
Pharmacist & Patient
2014-1 No.
Doctor’s View ―
― 医師からの疾患アプローチ
認知症の方が
安定的な日常生活を過ごせるために
Pharmacist’s Skill ―
― 薬剤師の必須スキル
十分な服薬指導が
認知症治療の継続につながる
For Patient ―
― 医療チームからのヒント
多くのサポーターの連携で認知症の方を支える
[P&P 通巻22号]2014年3月25日発行
発行:第一三共株式会社 東京都中央区日本橋本町3 - 5 -1 〒103 - 8426 編集制作:株式会社協和企画 東京都港区新橋2 -20 -15 〒105 - 0004
ALL1T16300-0KK
2014年3月印刷
22
Doctor’s View 医師からの疾患アプローチ
Approach
01
認知症の方が
安定的な日常生活を
過ごせるために
認知症は、通常の老化が
早送りで進んでいる状態
の状態に慣れながら安定的に日常生
画像検査などで行われます。しかし、ご
活を過ごせるようにすることにあります
く初期ではMRIやCTで脳の萎縮がみ
(図1・橙)。
られない場合もあります。そのため、認
知症を疑う症状があっても、画像上で
誰でも加齢とともに認知機能は徐々
に低下します(図1・青)。そのため、例
えば100歳の人が物忘れをしても、それ
を認知症とはいいません。一方、認知
早期発見のポイントは
変化に気づくこと
脳に異常が認められない場合は、専門
医を受診します。
症では認知機能が急速に低下します
認知症の方にみられる症状にはさま
(図1・赤)。つまり認知症は、
“通常
ざまなものがあります(表1)。ごく初期
の老化が早送りで進んでいる状態”と
の症状では、生活上の問題を生じない
言い換えることもできます。
こともあります。しかし徐々に、重要な
治療効果を実感することが
治療継続意欲の維持に
つながる
認知機能の急速な低下をご本人・ご
ことをよく忘れる、同じことを何度も言
認知症、特にアルツハイマー型認知
家族・周囲の人が受容することができ
ったり聞いたりするなど、生活に影響す
症の薬物療法では、主にコリンエステ
ないと思って、医療機関を受診しない方もいます。
ないと、焦燥感や不安を感じ、トラブル
る変化がみられるようになります。また、
ラーゼ阻害薬(ChEI)やNMDA受容
近年、さまざまな認知症治療薬が開発され、認知機
を起こすこともあります。しかし、そのス
対人関係が上手くいかず、ご本人がイ
体拮抗薬であるメマンチンが用いられ
能低下を遅らせることができるようになりました。また、
ピードを遅らせることができれば、ご本
ラついたり、疑い深くなったりすること
ます。これらの薬剤は認知症症状の進
社会資源を活用することで、日常生活をより快適に過
人もご家族・周囲の人も変化に慣れて、
もあります。認知症の早期発見には、こ
行を抑制するものですので、治療効果
ごすこともできます。つまり、適切な治療・介護を受け
安定的に日常生活を過ごせるようにな
うした変化に気づくことがポイントにな
を実感しにくい場合もあります。一方、
ります。
ります。
治療効果の実感の有無は、治療継続
したがって、認知症の治療目標は、
診断は、症状などの問診や記憶・認
に影響することもあります。そこで診察
認知機能の低下を緩徐なものにし、そ
知機能の検査、脳の萎縮などを調べる
の際、治療によって笑顔が増えた、少
高齢化社会を迎えて認知症の方が増加しています。
認知症はご本人・ご家族の日常生活や社会生活に支
障をきたす疾患ですが、認知症が怖い、あるいは治ら
れば、認知症の方も安定的な日常生活を送ることが可
能なのです。
そこで、認知症の正しい理解と早期発見のポイント、
継続した治療を行うために考慮すべきこと、ご本人・ご
家族を支えるうえで知っておくべきことなどについてご
解説をいただきます。
● 図1 認知機能の変化(概念図)
● 表1 認知症早期発見のポイント
正常の老化
認知症発症後、無治療
認知症治療開始
中村 祐
認知機能
香川大学医学部精神神経医学講座
教授
治療
開始
❶ 同じことを何回も言ったり聞いたりする
❷ 財布を盗まれたと言う
❸ だらしなくなった
❹ いつも降りる駅なのに乗り過ごした
❺ 夜中に急に起き出して騒いだ
❻ 置き忘れやしまい忘れが目立つ
❼ 計算の間違いが多くなった
❽ 物の名前が出てこなくなった
Yu Nakamura
02 P&P 2014-1 No.22
❾ ささいなことで怒りっぽくなった
時間の経過
中村祐先生ご監修
参考:東京都福祉局「高齢者の生活実態及び健康に関する調査・専門調査報告書」1995より
2014-1 No.22
P&P 03
Doctor’s View 医師からの疾患アプローチ
Approach
01
認知症の方が安定的な日常生活を過ごせるために
し話ができるようになった、など様子の
ChEIでは食欲不振や吐気、嘔吐、下
チンの副作用として眠気が生じること
が進行することもあります。そのため、
体活動の低下などから認知症が進行
ます。併発疾患への対応のためにも、
変化を観察します。症状改善が認めら
痢などの消化器症状が、またメマンチ
がありますが、そうした場合も夕方の服
外に出かける、回想療法や音楽療法な
することもあります。そのため、入院中
近隣にかかりつけ医を持っていただく
れたら、ご本人・ご家族にそのことを伝
ンでは浮動性めまい、頭痛、眠気、便
用が考慮されます。
どリハビリテーションをするなど、何ら
もできるだけ認知症治療薬を継続し、
とよいでしょう。
え、治療効果を実感していただくこと
秘、頻尿などが挙げられます。副作用
認知症が進行すると、単剤では症状
かの活動を行うことが推奨されます。
早期離床・早期退院を図ることが大切
が、治療の継続意欲の維持につながり
は服薬継続に影響を及ぼす可能性が
コントロールが難しくなることがありま
また、ご自宅でお仕事をされている場
です。
ます。
あるため、予想される副作用について
す。そうした場合、ChEIとメマンチンを
合やお店を経営されている場合、お仕
転倒・骨折や感染症、特に肺炎も長
認知症治療薬は少量から開始し、
あらかじめご本人・ご家族に伝えておき
併用することで、認知機能低下の進行
事を続けることが作業療法となり、認
期臥床の原因となり、認知症の進行を
医療資源・社会資源を
活用し、認知症の方を支える
忍容性を評価しながら、維持量まで増
ます。なお、メマンチンの場合、腎機能
抑制が期待できます(図2)。日常生活
知機能低下に抑制的に作用することも
加速させることがあります(表2)。その
繰り返しになりますが、認知症の治
量します。このことを事前に伝えずに薬
が低下していると、副作用が発現しや
での様子や変化は、診察だけでは分か
あります。デイケアなどのサービスを利
ため、骨粗鬆症を有する場合は骨粗
療目標は、日常生活を安定して過ごせ
剤を増量すると、ご本人・ご家族は「病
すくなります。そのため、高度の腎機能
らないことが多いため、ご本人・ご家族
用するのもよいでしょう。
鬆症に対する治療を継続します。転倒
るようにすることです。治療を継続させ
気が悪くなったから、薬が増えた」と勘
低下(Ccr30mL/分未満)を有する場
には気になる症状を記録しておいてい
認知症以外の疾患で入院すると、身
の原因となるような薬剤を服用してい
るには、ご本人・ご家族をさまざまな職
違いして不安になり、そのことが治療
合、メマンチンは10mg/日を維持量と
ただくと、症状把握・治療方針検討の
る場合には、転倒に気をつけるようご
種が支えることが大切です。
本人・ご家族に注意を促すことも大切
また、ご本人・ご家族が困っている事
です。また、インフルエンザ感染後に
柄によっては、医療では対応できない
肺炎を罹患することがあるので、インフ
ため、介護サービスなど社会資源の活
ルエンザ流行前には予防接種を行うこ
用が必要な場合もあります。認知症は
とも大切です。さらに、糖尿病や高血圧
さまざまな医療資源・社会資源を活用
も認知症の進行を加速させる要因とな
しなければならない疾患であり、医療
るため、これらを合併している場合に
スタッフ・介護スタッフによりご本人・ご
は、より厳格な管理を行う必要があり
家族を支えていくことが重要なのです。
参考になります。
継続の妨げになる場合もあります。こう
します。
したこともあらかじめ説明しておくこと
認知症の方の中には、不眠を訴えら
が大切です。
れる方もいますが、できるだけ睡眠導
入薬を使用しないことが原則です。認
日常の様子の記録から
症状を把握し、
治療方針を検討する
認 知 症 治 療 薬 の 副 作 用として、
知症治療薬、特にメマンチンは夜間の
異常行動の抑制のほか、睡眠の改善
認知症の加速因子に
対する配慮も重要
きちんと薬物療法を継続していても、
● 表2 認知症の加速因子
転倒・
骨折
高血圧
肺炎
糖尿病
寡動
も期待できるので、夕方服用することで、 家に閉じこもって外出しない、あるいは
睡眠導入薬を減量または中止すること
他人と会話する機会が少ないなど、精
もできます。なお、前述のようにメマン
神活動・身体活動が少ないと、認知症
中村祐先生ご監修
薬剤師の先生方へ:継続的な認知症治療のために
● 図2 NMDA受容体拮抗薬とChEI併用による効果(概念図)
短い診療時間の中では、医師が副作用を十分聞き出せないことや、ご本人・ご家族
もともとの能力
が気になる症状があっても言いだせないことがあります。そこで、服薬指導をされる際に、
「こんな症状はありませんか?」と、具体的な聞き取りから副作用の有無や、認知症治
軽度
療薬の効果を確認していただくことが重要になります。特に便秘のような、見逃されが
NMDA受容体拮抗薬服薬
中等度
ちな副作用では有効な確認方法になります。
また、残薬確認も大切です。飲み忘れなどにより適切に服薬できていない場合には、
どうしたら服用できるかご本人・ご家族と一緒に考え、アドバイスしていく必要がありま
す。服用回数や剤形などが服薬アドヒアランスに影響していると考えられる場合には、
高度
無治療
ChEl服薬
そのことを主治医に伝え、剤形変更などの提案も必要でしょう。
継続的な認知症治療のために、薬剤師の先生方にも、ご本人・ご家族を支えていた
だければと思います。
中村祐:医薬ジャーナル 新薬展望 2012:48(S-1):278-291より改変
04 P&P 2014-1 No.22
2014-1 No.22
P&P 05
Pharmacist’s Skill 薬剤師の必須スキル
File No
Volume 01
01
十分な服薬指導が
認知症治療の継続につながる
せるものです」「徐々に効果を感じ
か?」とご本人・ご家族に声を掛け
剤を服用しにくいこともあります。そ
られるものです」のように、薬剤に
ることが大切です。
「症状チェック
のため、少なくともコップ半分程度
ついて正しく理解していただけるよ
シート」
(図1)などを用いると、日
の水と一緒に服用するよう指導し
うに説明することが必要です。
常生活の変化を把握でき、それを
ます。それでものみにくく、そのこと
服薬による効果発現までの期間
主治医に示すことで、病気の進行
が服用継続の支障になっている場
には個人差がありますが、明るくな
具合や今後予想される事態に対
合には、錠剤からOD錠などに剤形
認知症の治療では、治療薬を継続して正しく服用
った、怒りっぽくならなくなったなど
策を講じることができます。薬剤師
を変更することも検討されます。ご
していただくことが極めて重要です。そのため、服薬
の変化がみられます。ただし、アル
もご本人・ご家族から得た情報を
本人・ご家族には、薬剤のことは医
指導など薬剤師が果たす役割は大きいといえます。
ツハイマー型認知症は進行性の疾
薬歴に記録しておくとよいでしょう。
師や薬剤師に相談できることを伝
そこで、認知症治療における服薬指導や服薬管理の
患のため、症状に変化がないよう
製薬会社が作成している資材は、
えます。
ポイントなどについてご解説いただきます。
に思えても、実際は症状の進行を
認知症に関する情報がイラストな
のみ忘れやのみすぎの確認も重
遅らせていることもあります。した
どを用いて分かりやすく記載され
要です。入院中は病棟で残薬確認
がって、小康状態が維持されてい
ています(図2)。こうした資材をフ
を行いますが、外来であれば、服
れば、効果ありと判断できますので、
ルに活用することで、ご本人・ご家
用したらカレンダーにチェックする、
そのことをご本人・ご家族に十分説
族の理解が得られやすくなると思
包装シートの裏側に服用する日を
明します。
います。
事前に記入しておくなどの工夫が考
香川大学医学部附属病院
薬剤部 副薬剤部長
小坂信二
薬剤を正しく服用していても、認
漸増していく薬剤であることや
予想される副作用を
具体的に説明する
正しく理解されていないと、漸増す
か」など、具体的に聞くと情報を得
知症が進行し、症状が悪化するこ
る際に「症状が悪化したから、お
やすくなります。
とがあります。日常生活の様子や
変化は、診察だけでは分からない
薬が増えた」と誤解され、服薬継
続の妨げになることもあります。
認知症治療を継続させるために
副作用の発現も、服薬中止につ
は、ご本人だけでなく、ご家族など
ながる可能性があります。アルツハ
普段の生活の中で一番寄り添って
イマー型認知症治療薬の主な副作
服薬を継続していただくため
日常生活の様子や変化に
注意を払う
いるキーパーソンにも、治療につい
用として、ChEIの経口薬では悪心
治療効果を実感することも、服
てご理解いただくことが大事になり
や嘔吐、下痢といった消化器症状
薬を継続していただくうえで重要に
ます。服薬指導にあたっては、ご本
など、貼付薬では貼付部位の皮膚
なります。アルツハイマー型認知症
人に説明するほか、家族構成やど
症状など、NMDA受容体拮抗薬で
治療薬は症状の進行を抑制する
なたが主にサポートをしているかな
は浮動性めまいや眠気、便秘など
薬剤で、その効果は緩やかに発現
どの情報をご本人・ご家族から得
が挙げられます。そこで、予想され
します。ご本人・ご家族は、薬剤を
て、その方にも十分説明します。
る副作用についてご本人・ご家族
服用することにより「以前のように
現在、アルツハイマー型認知症
に十分に説明しておくと、その症状
戻るのではないか」「すぐにはっき
の治療には、コリンエステラーゼ阻
が出ても「前に聞いていた副作用
りするようになるのではないか」の
害薬(ChEI)とNMDA受容体拮
かもしれない」と思って、積極的に
ように、すぐに明確な効果が現れる
抗薬という2系統の薬剤が主に用
医師や薬剤師に相談していただけ
ものと期待されることも考えられま
いられ、いずれも少量から開始して
ると思います。また、副作用の有無
す。過度の期待がありながら効果
維持量まで漸増します。ご本人・ご
を聞き取る際には、
「この薬を飲み
が実感できないと、服薬を中断して
家族には、このことを具体的に伝え、
始めてから、ムカムカすることはあ
しまう可能性があります。そこで、
理解していただくことが重要です。
りませんか」「めまいはありません
「この薬剤は、症状の進行を遅ら
06 P&P 2014-1 No.22
えられます。なお、その日に服用す
のみにくさ、のみ忘れ・
のみすぎへの対策
る薬剤を小分けにする方法もあり
ますが、1錠ごとに小分けしておくと、
服用時に包装シートごとのんでしま
ことが多いため、薬剤師からも「最
一般に高齢者は唾液の分泌や
う危険もあるので、お勧めできませ
近、何か変わったことはありません
嚥下機能が低下しているため、錠
ん。
● 図1 症状チェックシート(例)
2014-1 No.22
P&P 07
Pharmacist’s Skill 薬剤師の必須スキル
For Patient 医療チームからのヒント
File No
Volume 01
01
十分な服薬指導が認知症治療の継続につながる
多くのサポーターの連携で
認知症の方を支える
認知症の方は他の疾患を有する
入院される方では、持参薬が包
薬局と主治医との情報交換だけで
場合が多いため、他の薬剤を併用
装シートから出された状態で一包
なく、病院と保険薬局の薬剤師も
している可能性があります。そして
化され、薬剤の確認が困難なこと
連携することで、保険薬局での服
他の薬剤の服用タイミングで認知
もあります。そのため、薬剤師が持
薬指導がより充実したものになると
症治療薬も服用してしまい、認知
参薬を確認して、相互作用を有す
思います。
症治療薬をのみすぎてしまうことも
る薬剤の組み合わせがないかチェ
高齢化社会を迎えて、ご自宅で
認知症の方やご家族は医療上の問題のほかにも、さまざまな問題を抱えて
あります。それぞれの薬剤ごとに1
ックすることが大切です。保険薬局
療養される高齢者のさらなる増加
いることがあるため、さまざまな職種がご本人・ご家族を支えて、問題解決を
日の服用回数をご本人・ご家族に十
では、お薬手帳を活用することで、
が予想されます。そのため、これか
図る必要があります。
分説明し、理解していただくことが
どのような薬剤を服用しているか
らの薬剤師には在宅医療への積
そこで、認知症の方やご家族の相談にも対応されているソーシャルワーカ
大切です。また、服薬に関する相談
確認できます。また、お薬手帳を複
極的な関与も求められています。例
ーのお立場から、服薬指導などに役立つヒントなどを伺いました。
については、ご本人・ご家族から主
数所持されている場合は、1冊にま
えば、服薬状況を把握するうえで、
治医に伝えていただくほか、保険
とめて使用する指導が重要です。
残薬確認は重要ですが、保険薬局
薬局の薬剤師から主治医に服薬
で行うことは難しいこともあります。
情報提供書(トレーシングレポー
そこで、ご自宅を薬剤師が訪問して、
ト)などにより伝えることもあります。
これからの薬剤師は
在宅医療へも積極的な関与を
香川大学医学部附属病院
主任ソーシャルワーカー
川口郁代
残薬確認をすることも考えられます。
また、ご自宅での普段の暮らし
認知症の方の思いや
置かれている環境を理解する
ことが少なくありません。私たちソーシ
支援の切り口を判断するツールとして
ャルワーカーは、介護保険などの説明
活用しています。ご本人やご家族と一緒
をする職種と思われがちですが、必ず
に作成することもあります。若年性認知
認知症の方やご家族の内面にアプロー
症のこの例では、多額の借金を抱えて
チし、それぞれに合った解決法を一緒
いること、収入が低いことなど、経済的
に考え、提案していくことがソーシャル
な問題が明らかとなりました。また、生
認知症の治療では、他職種との
ぶりをみると、服薬指導の際に有
連携や地域連携が重要です。入院
用な情報が得られることもあります。
中の服薬指導で得た情報を、院内
介護サービスを利用されている場
2008年度から国の政策で「認知症
ワーカーの仕事です。
活支援や服薬管理が必要な状態です
アルツハイマー型認知症治療薬、
のカンファレンスなどで他のスタッ
合であれば、介護スタッフが訪問
疾患医療センター運営事業」が開始さ
例えば、認知症の方が徘徊して介護
が、ご家族の支援はほとんど期待でき
特にChEIでは相互作用を有する
フにも伝えることで、問題点をスタ
する日時に合わせて薬剤師も訪問
れ、香川県では2011年10月から6医療
されているご家族が疲弊されていたと
ないことも判明しました。
薬剤が少なくありません。そのため、
ッフ全員で共有し、よりよい医療を
し、介護スタッフからも普段の生活
機関が「認知症疾患医療センター」に
します。そういった場合、即、介護保険
そこで、ソーシャルワーカーは地域包
併用薬との相互作用にも注意が必
提供することができます。また、服
や服薬状況などの情報を得るとよ
指定され、活動を開始しています。香川
の説明にとりかかるのではなく、これま
括支援センターなどにつなぐとともに、
要です。
薬情報提供書などを通じた保険
いでしょう。
大学医学部附属病院は香川県の大川
での生活歴や価値観など、丁寧にお話
法テラスに借金返済方法や生活保護
保健医療圏と三木町を担当する地域
をうかがい、生活背景を把握すること
について相談を行いました。そして、ご
型センターと指定され、ご本人・ご家族
から始めます。すると、例えば、夫婦関
本人がひとりで生活できる力や強みは
の相談に応じるとともに、認知症の早
係など家族内での人間関係が長年、悪
どうかを評価し、介護保険サービスを
期診療・治療に向けて、かかりつけ医
化していることが判明し、
「実家に帰り
活用できるよう調整しました。また、将
や物忘れ相談医、専門医療機関、地
たい」との気持ちが徘徊という行動に
来に備え、成年後見制度の申し立てに
域包括支援センターと連携を図りなが
含まれていると感じたケースもあります。
も着手しました。
ら、認知症の診断や治療方針の選定、
その人の気持ちや人生といったフィルタ
周辺地域の認知症疾患への対応能力
ーを通しての周辺症状と理解し、サポ
向上に努めています。私の経験を通じ
ート方法の糸口とします。
て、認知症の方やご家族が抱えている
そこで、ご本人やご家族を取り巻く環
問題やそれへの対応の仕方などについ
境を 理 解するために「エコマップ」
て述べたいと思います。
(図)をよく作成します。これによって、
認知症の方やご家族は、医療的な問
ご本人やご家族を取り巻く資源や人間
題のほかにも、経済上の問題や介護上
関係の強弱が把握できますし、ご本人
の問題などさまざまな問題を抱えている
やご家族の思いが反映されますので、
持参薬の確認には
お薬手帳を有効活用
● 図2 認知症に関する資材(例)
08 P&P 2014-1 No.22
「認知症疾患医療センター」では、専門スタッフが無料で相談に
対応している(原則予約制)
2014-1 No.22
P&P 09
For Patient 医療チームからのヒント
File No
01
● 図 エコマップの例
事業所
介護保険
国民年金
20,000円/月
地域包括
支援センター
香川大学
医学部附属
病院
ソーシャル
ワーカー
借金
法テラス
60代
借金の
保証人
生活
保護
成年
後見制度
30代
民生委員
病弱
ダウン症
パニック障害
経済的困窮
このように、認知症の方の生活支援
師、薬剤師、作業療法士など関係する
局の薬剤師さんが服薬指導をされる
は、まずはご本人が置かれている環境
全てのスタッフが参加しています。また、
際には、キーパーソンの把握と生活状
を理解することから始め、多くの資源
地域の訪問看護師やケアマネージャー、 況も確認していただきたいと思います。
で支えていく視点が大切です。
デイサービス事業者などにも出席してい
妄想から服薬を拒否する方もいらっ
ただき、院外の担当者も含めて退院後
しゃいます。そのような方に服薬を促す
のサポートを協議しています。そして、
際は、あせらずにソフトな口調で、繰り
退院後も、症状に変化がみられた場合
返しアプローチします。また、時間をお
は、その都度、カンファレンスを開催し、
いて、何度かに分けてお話ししてみるの
サポート体制の見直しを図っています。
も方法です。いずれにしても、認知症の
地域で連携体制を構築し
認知症の方をサポート
認知症の方の場合、生活環境の整
方にきちんと服薬を続けていただくた
備など医療だけでは解決できないこと
もあります。入院中の認知症の方が地
域に戻る際には、退院前から地域の中
でのサポート体制を構築しなければな
あせらずにソフトな口調で
繰り返しアプローチする
めには、ご本人への服薬指導の工夫と、
ご家族やキーパーソンにご理解いただ
けるような関わり、適切な社会資源の
りません。
認知症の方の中には、独居のため、
当院では、退院に向けてのカンファ
きちんと薬がのめないケースがあります。 が大変重要ではないでしょうか。
レンスを必ずセッティングしており、ご
また、ご家族がいても、服薬管理がで
本人、ご家族はもちろん、主治医、看護
きない事情もあります。そこで、保険薬
10 P&P 2014-1 No.22
活用を、多職種のチームで介入すること
2014-1 No.22
P&P 11
Fly UP