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法科大学院の 現状と今後 - Kei-Net

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法科大学院の 現状と今後 - Kei-Net
[特集]
法科大学院の
現状と今後
司法制度改革の一翼を担って2006年に
スタートした法科大学院は、今年で4年
目を迎えた。
法科大学院に関しては、新司法試験の
合格者数見直しの議論、新司法試験合格
率の低迷、法科大学院を修了した司法修
習生の質、認証評価における「不適格」
、
入学定員の削減といったことが、話題と
なっている。
そこで、今回は、法科大学院に関する
現状について、入学者選抜、入学定員、
新司法試験の結果を整理し、さらに、今
後、どのような方向に向かうのかについ
て、文部科学省中央教育審議会の「法科
大学院教育の質の向上のための改善方策
について(報告)
」を中心に検証する。
●
●
●
●
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●
●
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●
●
C
Part1 法科大学院の現状
1 法科大学院とは何か…………p3
●
O
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N
●
T
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E
●
N
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●
T
S
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●
Part2 法科大学院教育の改善に向けた動き
1 「中教審が法科大学院教育の質の向上に向けた改善方策を提言 」 ……………p8
文部科学省高等教育局専門教育課専門職大学院室 浅野敦行室長
2 法科大学院の
入学者選抜の実施状況………p4
3 法科大学院の入学定員………p5
4 新司法試験の合格状況………p6
2 自己改革が進行する法科大学院∼法科大学院協会のアンケート調査より ………p12
法科大学院協会 大貫裕之事務局長(中央大学法科大学院教授)
3 地方法科大学院の取り組み「中四国法科大学院連携教育システムの構築」 ……p14
岡山大学大学院法務研究科 松村和徳研究科長
4 法科大学院修了生の職域は広がっているか ……………………………………p16
ジュリナビ事務局代表 鈴木修一教授(明治大学法科大学院)
2 Guideline September 2009
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
Part 1
法科大学院の現状
Part1- 1
法科大学院とは何か
さまざまな課題を受けてスタートした司法制度改革
1999年7月、司法制度改革審議会が設置され、戦後最大
規模といわれる司法制度改革が始まった。改革の柱は、
1.国民の期待に応える司法制度の構築
2.国民的基盤の確立(国民の司法参加)
3.司法制度を支える法曹の在り方の改革
者だけに受験資格が与えられる新司法試験に一本化される。
従来との大きな違いは、一発勝負の「点」の選抜であっ
た旧司法試験に対して、新司法試験は、法科大学院の教育、
および司法研修所での修習との有機的な連携のもとに、
「プロセス」を重視した養成へと移行したことだ。
プロセス重視とはどのような意味だったのか。簡単に流
れを概説しておこう。
の3つである。例えば、「1. 国民の期待に応える司法制度
当初、司法制度改革審議会は、法科大学院修了者の7∼
の構築」により、民事・刑事とも第一審の裁判を2年以内
8割が司法試験に合格できる制度設計を構想していた。合
に終わらせることになった。「2. 国民的基盤の確立」では
格率が高ければ、法科大学院が極端な知識偏重型、あるい
裁判員制度が始まった。そして、
「3.司法制度を支える法曹
は司法試験対策を行う必要はなくなる。じっくり法曹とし
の在り方の改革」により、法科大学院制度・司法試験・司法
ての資質を養成することができるというわけだ。
修習が連携した新しい法曹養成制度が創設された。
実際に、法科大学院のカリキュラムは「法律基本科目群」
旧来の法曹養成制度については、いくつかの課題が指摘
「実務基礎科目群」「基礎法学・隣接科目群」「展開・先端
されていた。第一の課題は、法曹数の不足だ。日本は欧米
科目群」の4群に分かれるが、教育方法は学生と教員、学
と比較して圧倒的に法曹が少なく、裁判が長期化。特に地
生同士の討論や、プレゼンテーションなどを含む双方向
方は法曹不足が深刻化しており、ゼロワン地域(弁護士が
的・多方向的なものが取り入れられている。討論に参加す
0∼1名しかいない地域)の解消が課題になっていた。
るために、事前に法令や判例などを調べておく必要もある。
第二は、法律問題の専門分化だ。グローバル化への対応、
このうち、プロセス重視を端的に表しているのが「実務
医療過誤、環境問題、知的財産などの新たな分野での法律
基礎科目群」だ。法曹倫理を身につけるとともに、法文書
問題が浮上してきた。それに伴って、多様なバックグラウ
作成、模擬裁判、エクスターンシップ(注)などに取り組む。
ンドを有する法曹の活躍が望まれるようになった。医療過
実務基礎科目は新司法試験では課されないが、軽視はでき
誤なら医療系、知的財産は理工系の素養を有する法曹への
ない。新司法試験合格後に行われる司法研修所の司法修習
期待である。
では、法科大学院で実務実習が行われていることを前提と
第三は、選抜の在り方に関する課題だ。旧司法試験は日
本で最難関の国家試験として知られ、合格率2∼3%であ
して、修習期間が軽減(旧司法試験合格者は1年4カ月間、
新司法試験合格者は1年間)されているからだ。
った。合格するために受験者の多くが大学在学中から司法
法科大学院のもう1つの特色は、法学部出身者を主対象
試験予備校に通い、暗記型の学習で答案作成テクニックを
とする2年制の「既修者コース」と、他学部出身者を主対
磨いていると批判されていた。
象とする3年制の「未修者コース」に分かれていることで
「点」から「プロセス」重視の法曹養成へ
ある。多様な学部の出身者、社会人を受け入れようという
狙いによるものだ。
新しい法曹養成の要となる法科大学院が発足したのは、
こうして始まった法科大学院だが、予想以上に数多くの
2004 年度で、国立 20 校、公立2校、私立 46 校、計 68 校、
法科大学院が誕生したことによって、当初の構想よりも新
入学者数5,767名でスタートした。翌年には国立3校、私
司法試験の合格率が低迷。特に、他学部出身者や社会人が
立3校の計6校が加わり、現在74校になっている。
進学を敬遠するようになった。また、司法修習終了時に実
法科大学院の誕生に伴って、法曹養成制度は大きな転換
施される「司法修習生考試」の不合格者の増加(不合格だ
期を迎えた。旧司法試験は2010年度(口述試験のみ2011
と法曹になれない)などの課題も指摘されている。そのた
年度まで)に終了し、その後は原則として法科大学院修了
め、近年、新たな改善策の必要性が浮上しているのだ。
(注)法律事務所や企業法務部、官公庁法務部門等で研修を行うこと。
Guideline September 2009 3
Part1- 2
法科大学院の入学者選抜の実施状況
3万人を下回った志願者数
競争倍率は2.8倍に
<グラフ1>法科大学院志願者数・志願倍率の推移
(人)
80,000
(倍率)
20
72,800
志 願 者 数 (注)と 志 願 倍 率 ( 志 願 者
数/入学定員)の推移を見てみよう<
70,000
願者数は4万人程度で推移してきた。
しかし、2009年度入試においては、志
14.1
その結果、ここ数年6∼7倍台で推
14.5
50,000
41,756
40,341
18
16
7.9
7.1
30,000
7.5
6.3
20,000
13.6
14
12
45,207
10.7
10.1
40,000
願者数が前年の39,555人から29,714人
と大幅に減少した。
志願倍率 私立
志願倍率 公立
志願倍率 国立
60,000
グラフ1>。法科大学院設立初年度で
ある2004年度の72,800人を除くと、志
志願者数 私立
志願者数 公立
志願者数 国立
17.3
10.4
39,555
7.8
6.9
7.1
5.6
10
29,714
8
5.2
6
4.6
4
6.1
10,000
2
移していた志願倍率も、5.2 倍となっ
ている。なお、2009 年度の競争倍率
0
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009(年度)
(受験者数/合格者数)は2.8倍であり、
2倍未満の法科大学院は全体の半数を
超える 42 校ある。特に、私立大は全
<グラフ2>社会人・他学部出身者の入学状況
(人)
3,000
(%)
60
49 校中 32 校が2倍未満であり、1.5 倍
未満の 15 校のうち 14 校が私立大であ
2,500
社会人数
他学部出身者数
48.4
社会人割合
他学部出身者割合
50
る。国公立大と比べて学費が高い私立
大が、学生募集において苦戦している
2,000
33.3
ようだ。
定員の過欠員状況であるが、初年度
の+177名を除き、入学定員に対して
40
37.7
1,500
32.1
29.8
34.5
26.8
29.9
28.3
26.1
26.1
30
25.3
1,000
20
500
10
入学者数が下回る状況が続き、2009年
度は921人の欠員が生じている。欠員
が増加しているのは、志願者数の減少
もあるが、大学が入学者の一定の質を
0
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009(年度)
保つために、合格者を絞っていること
もその理由である。
て実施されている入学時期の弾力的な運用、夜間コースの
社会人・他学部出身者は漸減傾向
法科大学院の基本理念の1つに、多様な経験を有する法
曹の養成がある。社会人入学者の割合は、2004 年度には
48.4%と高い割合であったが、それ以降は30%台に減少し、
設定、長期履修コースの運用等により、働きながら学修で
きる環境の整備、また、奨学金の適切な運用について提言
している。
さらに、一層の社会人、他学部出身者の受け入れのため、
2008年度には29.8%と3割を切った。他学部出身者も同様
法学を全く学んだことのない者が3年間学んだ後、法科大
に漸減傾向である<グラフ2>。
学院修了に相応しい質と能力を備えられるよう、カリキュ
この状況に対し、「法科大学院教育の質の向上のための
ラムや授業内容・方法の改善を求めている。
改善方策について(報告)」では、8月下旬∼12月にかけ
(注)重複出願分を除く(既修者コースと未修者コースに出願した場合は1人として集計)
4 Guideline September 2009
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
Part1- 3
法科大学院の入学定員
2004年度にスタートした法科大学院は、現在74校ある。
る」と提言。さらに、小規模な、特に地方の法科大学院は
入学定員が最も多かったのは2007年度の5,825人であった。
教育水準を継続的・安定的に保証できない場合、教育課程
一方、2008年度の新司法試験合格率(受験者数/合格者数)
(注2)
の共同実施や統合を検討するべきだとしている。
は 33 %程度にとどまる (注1)など、修了者の7∼8割合格
という当初の目標とは乖離している。
また、日本弁護士連合会は、教育の質を維持・向上し、
修了者が相当の割合で法曹資格を取得できるようになるに
文部科学省法科大学院特別部会は、「入学定員の規模に
比して質の高い教員の数を確保することが困難、志願者が
は、一学年の入学定員を当面4,000名程度に削減すること
(注3)
が望ましいと提言した。
減少し競争倍率が低いため質の高い入学者を確保すること
注目される 2010年度入学定員だが、河合塾が大学のホ
が困難、修了者の多くが司法試験に合格しない状況が継続
ームページなどを調べたところ、54校が定員削減を予定。入
(その見通しも含む)といった状況が見られる法科大学院
学定員は前年よりも861人(14.9%)減となっている<表>。
については、自ら主体的に平成22 年度の入学定員の削減
入試の実施までにさらに削減を予定している大学もあり、
などの適正化に向けた見直しを個別に検討する必要があ
最終的にどの程度まで削減されるか注目される。
<表>法科大学院入学定員(2009年8月11日現在)
法科大学院名
2010年度 2009年度 入学定員
増減数
入学定員 入学定員
80
北海道大法科大学院
80
東北大法科大学院
36
筑波大法科大学院
40
千葉大法科大学院
240
東京大法科大学院
85
一橋大法科大学院
40
横浜国立大法科大学院
35
新潟大法科大学院
25
金沢大法科大学院
18
信州大法科大学院
20
静岡大法科大学院
70
名古屋大法科大学院
160
京都大法科大学院
80
大阪大法科大学院
80
神戸大法科大学院
20
島根大法科大学院
45
岡山大法科大学院
48
広島大法科大学院
20
香川大・愛媛大連合法科大学院
80
九州大法科大学院
22
熊本大法科大学院
15
鹿児島大法科大学院
22
琉球大法科大学院
(9/5発表予定)
首都大東京法科大学院
60
大阪市立大法科大学院
30
北海学園大法科大学院
30
東北学院大法科大学院
25
白鴎大法科大学院
70
大宮法科大学院大学
48
駿河台大法科大学院
40
獨協大法科大学院
50
青山学院大法科大学院
50
学習院大法科大学院
260
慶應義塾大法科大学院
40
國學院大法科大学院
50
駒澤大法科大学院
100
上智大法科大学院
50
成蹊大法科大学院
100
100
40
50
300
100
50
60
40
40
30
80
200
100
100
30
60
60
30
100
30
30
30
65
75
30
50
30
100
60
50
60
65
260
50
50
100
50
−20
−20
−4
−10
−60
−15
−10
−25
−15
−22
−10
−10
−40
−20
−20
−10
−15
−12
−10
−20
−8
−15
−8
―
−15
0
−20
−5
−30
−12
−10
−10
−15
0
−10
0
0
0
入学定員
削減率
20.0%
20.0%
10.0%
20.0%
20.0%
15.0%
20.0%
41.7%
37.5%
55.0%
33.3%
12.5%
20.0%
20.0%
20.0%
33.3%
25.0%
20.0%
33.3%
20.0%
26.7%
50.0%
26.7%
―
20.0%
0.0%
40.0%
16.7%
30.0%
20.0%
20.0%
16.7%
23.1%
0.0%
20.0%
0.0%
0.0%
0.0%
法科大学院名
専修大法科大学院
創価大法科大学院
大東文化大法科大学院
中央大法科大学院
東海大法科大学院
東洋大法科大学院
日本大法科大学院
法政大法科大学院
明治大法科大学院
明治学院大法科大学院
立教大法科大学院
早稲田大法科大学院
神奈川大法科大学院
関東学院大法科大学院
桐蔭横浜大法科大学院
山梨学院大法科大学院
愛知大法科大学院
愛知学院大法科大学院
中京大法科大学院
南山大法科大学院
名城大法科大学院
京都産業大法科大学院
同志社大法科大学院
立命館大法科大学院
龍谷大法科大学院
大阪学院大法科大学院
関西大法科大学院
近畿大法科大学院
関西学院大法科大学院
甲南大法科大学院
神戸学院大法科大学院
姫路獨協大法科大学院
広島修道大法科大学院
久留米大法科大学院
西南学院大法科大学院
福岡大法科大学院
計(*)
2010年度 2009年度 入学定員
増減数
入学定員 入学定員
60
35
40
300
40
40
100
100
170
60
60
300
35
30
60
35
40
30
30
50
40
40
120
150
30
45
130
40
125
50
35
30
30
30
35
30
4,839
60
50
50
300
50
50
100
100
200
80
70
300
50
30
70
40
40
35
30
50
50
60
150
150
60
50
130
60
125
60
60
30
50
40
50
30
5,765
0
−15
−10
0
−10
−10
0
0
−30
−20
−10
0
−15
0
−10
−5
0
−5
0
0
−10
−20
−30
0
−30
−5
0
−20
0
−10
−25
0
−20
−10
−15
0
−861
入学定員
削減率
0.0%
30.0%
20.0%
0.0%
20.0%
20.0%
0.0%
0.0%
15.0%
25.0%
14.3%
0.0%
30.0%
0.0%
14.3%
12.5%
0.0%
14.3%
0.0%
0.0%
20.0%
33.3%
20.0%
0.0%
50.0%
10.0%
0.0%
33.3%
0.0%
16.7%
41.7%
0.0%
40.0%
25.0%
30.0%
0.0%
14.9%
※2008年度入試から関東学院大は30名、2009年度入試から姫路獨協大は10名、福岡大は20名の定員を削減している。
(*)2010年度入学定員、入学定員増減数、入学定員削減率には、首都大学東京の値を含まない。
(注1)
(注2)
「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)」
(2009年4月17日)より
(注3)
「新しい法曹養成制度の改善方策に関する提言」(2009年1月16日)より
Guideline September 2009 5
Part1- 4
新司法試験の合格状況
試験は「5年で3回」までの受験制限がある(注)。
2011年までは新・旧司法試験が並行して実施
司法試験は、現在2種類ある。新司法試験は法科大学院
修了者を対象とするもので、2006年から実施されている。
大学別合格率にも大きな開き
<図表3>は3年間の新司法試験の合格状況をまとめた
旧司法試験は2011年(平成23年)まで新司法試験と並行
ものだ。大学間で合格率に差があることがわかる。2008年
して実施されるが、2011年においては、2010年度の2次
の新司法試験の合格率別に校数をカウントしたのが<図表
試験筆記試験合格者への口述試験に限り実施される。
4>である。合格率が3割を割っている法科大学院が 48
2011年からは、法科大学院を経由しない者にも法曹資格
校と、全法科大学院の半数を超えている。
を取得する道を開くため、予備試験が実施される予定であ
前述の「報告」では、2005年度に修了した法学既修者の
る。予備試験の合格者は、法科大学院修了者と同等の資格
50%以上が、2006年∼2008年までの3回の新司法試験に
で新司法試験を受験することができる仕組みだ。
おいて合格しているが、一方で 50 %に満たない法科大学
新司法試験実施後の新・旧司法試験の合格者数等は<図
院が8校あること。さらに、直近の司法試験で合格してい
表1>のように推移している。2006年の新司法試験は、既
る割合が、全国平均の半分に満たない法科大学院が 2006
修者のみの受験であり受験者も少なく、合格率は48.3%と
年度は11校、2007年は30校、2008年は34校あり、いずれ
高かった。2008 年は両試験合わせて 2,209 名が合格した。
の司法試験においても、全国平均の半分に満たない法科大
当初は、2010年頃に司法試験の合格者を3,000名程度に増
学院が8校あることを指摘している。
やす予定だったが、日弁連が今年3月、2009年以降の数年
「報告」では、司法試験の合否のみにより法科大学院の教
間は、現状の合格者数を目安とし、その数を維持するよう
育成果のすべてを評価することは適切と言えないとしつつ、
に求めた提言を出すなど、合格者数の抑制を求める動きが
①3回の司法試験の受験の結果、司法試験に合格し、法
ある。今後、注目しておく必要がありそうだ。
曹として活躍できる者の割合が相当に低い状況が継続
2008年の新司法試験は、受験者数が6千名を超えた一方
(見通しも含む)して見られる場合は、入学定員の見
で、合格者が 2,065名だったため、合格率は33.0%に低下
直しも含めた現状の改善を図る必要がある。
した。既修者の合格率は44.3%だが、未修者は22.5%と前
②合格者が全くまたはごく少数しか出ていない状況が見
年の32.3%から10ポイントダウンしている<図表2>。法
られる法科大学院については、その在り方について抜
学未修者の合格率が既修者の半分程度であることは課題と
本的な見直しが必要である。
されており、「法科大学院教育の質の向上のための改善方
と述べ、各大学に入学者選抜、教育水準の確保・向上、厳
策について(報告)
」
(以下、
「報告」
)でも、法律基本科目
格な成績評価・修了認定の徹底などを求めている。
の充実などの対策が取られることとなった。なお、新司法
<図表1>新・旧司法試験の受験者数・合格者数等の推移
年
2006
2007
2008
受験者数
30,248
23,306
18,203
旧司法試験
最終合格者数
549
248
144
合格率
1.81%
1.06%
0.79%
受験者数
2,091
4,607
6,261
新司法試験
最終合格者数
1,009
1,851
2,065
<図表4>2008年 新司法試験合格率の分布
25
合格率
48.3%
40.2%
33.0%
*合格率は受験者数/最終合格者数
<図表2>新司法試験既修 ・未修別の結果
うち既修
回数(実施年)
受験者数 最終合格者数
(名)
(名)
第1回(06年実施)
2,091
1,009
第2回(07年実施)
2,641
1,215
第3回(08年実施)
3,002
1,331
合格率
(%)
48.3%
46.0%
44.3%
受験者数
(名)
うち未修
最終合格者数
(名)
1,966
3,259
636
734
21
大学数
20
15
︵
校
︶ 10
15
14
12
7
4
5
合格率
(%)
32.3%
22.5%
1
0
0
∼
10.0
未満
10.0
∼
20.0
未満
20.0
∼
30.0
未満
30.0
∼
40.0
未満
40.0
∼
50.0
未満
50.0
∼
60.0
未満
(注)法科大学院課程の修了者は、課程修了の日後の最初の4月1日から5年間の期間(受験期間)において、3回の範囲内で受験することができる。
6 Guideline September 2009
60.0
∼
70.0
未満
(%)
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
<図表3>新司法試験 法科大学院別合格状況
法科大学院名
北海道大法科大学院
東北大法科大学院
筑波大法科大学院
千葉大法科大学院
東京大法科大学院
一橋大法科大学院
横浜国立大法科大学院
新潟大法科大学院
金沢大法科大学院
信州大法科大学院
静岡大法科大学院
名古屋大法科大学院
京都大法科大学院
大阪大法科大学院
神戸大法科大学院
島根大法科大学院
岡山大法科大学院
広島大法科大学院
香川大・愛媛大連合法科大学院
九州大法科大学院
熊本大法科大学院
鹿児島大法科大学院
琉球大法科大学院
首都大東京法科大学院
大阪市立大法科大学院
北海学園大法科大学院
東北学院大法科大学院
白鴎大法科大学院
大宮法科大学院大学
獨協大法科大学院
駿河台大法科大学院
青山学院大法科大学院
学習院大法科大学院
慶應義塾大法科大学院
國學院大法科大学院
駒澤大法科大学院
上智大法科大学院
成蹊大法科大学院
専修大法科大学院
創価大法科大学院
大東文化大法科大学院
中央大法科大学院
東海大法科大学院
東洋大法科大学院
日本大法科大学院
法政大法科大学院
明治大法科大学院
明治学院大法科大学院
立教大法科大学院
早稲田大法科大学院
神奈川大法科大学院
関東学院大法科大学院
桐蔭横浜大法科大学院
山梨学院大法科大学院
愛知大法科大学院
愛知学院大法科大学院
中京大法科大学院
南山大法科大学院
名城大法科大学院
京都産業大法科大学院
同志社大法科大学院
立命館大法科大学院
龍谷大法科大学院
大阪学院大法科大学院
関西大法科大学院
近畿大法科大学院
関西学院大法科大学院
甲南大法科大学院
神戸学院大法科大学院
姫路獨協大法科大学院
広島修道大法科大学院
久留米大法科大学院
西南学院大法科大学院
福岡大法科大学院
計(平均)
06年
合格率
70.3%
47.6%
−
57.7%
70.6%
83.0%
50.0%
50.0%
50.0%
−
−
60.7%
67.4%
47.6%
64.5%
100.0%
33.3%
25.0%
−
53.8%
25.0%
−
−
43.6%
69.2%
−
−
50.0%
−
−
9.5%
35.7%
30.6%
63.4%
50.0%
5.6%
33.3%
44.0%
17.6%
57.1%
21.1%
54.8%
0.0%
16.7%
13.0%
37.7%
45.3%
44.4%
38.9%
63.2%
30.8%
6.7%
−
54.5%
72.2%
−
−
50.0%
40.0%
0.0%
39.8%
26.5%
−
−
36.0%
50.0%
43.8%
27.8%
0.0%
0.0%
−
25.0%
50.0%
60.0%
07年
合格率
49.0%
49.0%
−
64.5%
58.6%
63.5%
34.2%
22.2%
33.3%
−
−
63.1%
64.0%
43.8%
50.5%
16.7%
43.5%
34.4%
33.3%
39.2%
10.0%
8.0%
43.8%
40.6%
43.1%
−
9.4%
21.1%
14.0%
20.0%
19.6%
17.5%
28.4%
63.8%
21.4%
21.6%
42.6%
38.1%
25.0%
51.3%
11.1%
52.4%
12.5%
27.3%
12.6%
18.8%
40.0%
20.4%
28.8%
51.6%
32.0%
39.1%
25.7%
32.3%
25.9%
−
22.2%
38.5%
30.0%
19.4%
35.4%
36.7%
−
14.3%
24.6%
11.8%
30.0%
25.0%
36.4%
5.3%
28.6%
3.4%
25.0%
42.9%
08年
合格率
30.6%
46.5%
19.2%
49.3%
54.6%
61.4%
36.9%
18.0%
8.5%
0.0%
11.8%
32.7%
41.5%
38.6%
54.7%
15.4%
31.4%
36.5%
14.3%
36.2%
21.2%
4.3%
12.5%
49.4%
40.2%
15.4%
18.9%
9.5%
19.8%
20.0%
13.1%
24.6%
23.0%
56.5%
10.0%
23.4%
41.7%
37.8%
22.7%
21.7%
16.2%
55.7%
11.8%
7.3%
17.6%
23.7%
31.8%
21.6%
22.8%
37.7%
12.2%
9.5%
12.7%
17.5%
45.7%
0.0%
22.2%
30.6%
16.1%
8.9%
28.1%
28.8%
8.3%
3.6%
20.3%
16.0%
30.4%
16.9%
33.3%
0.0%
20.0%
11.9%
4.3%
30.3%
06年
受験者
38
42
−
27
170
53
10
10
2
−
−
28
129
21
62
1
12
12
−
13
4
−
−
39
26
−
−
6
−
−
21
14
49
164
2
18
51
25
51
14
19
239
3
24
54
62
95
18
18
19
13
15
−
11
18
−
−
10
5
1
88
103
−
−
50
6
64
18
3
8
−
4
4
5
06年
最終合格者
26
20
−
15
120
44
5
5
1
−
−
17
87
10
40
1
4
3
−
7
1
−
−
17
18
−
−
3
−
−
2
5
15
104
1
1
17
11
9
8
4
131
0
4
7
23
43
8
7
12
4
1
−
6
13
−
−
5
2
0
35
27
−
−
18
3
28
5
0
0
−
1
2
3
07年
受験者
98
96
−
62
304
96
38
36
24
−
−
65
211
73
91
18
23
32
9
74
20
25
16
69
72
−
32
19
43
30
46
40
67
271
28
37
94
42
76
39
36
292
16
44
111
128
200
54
59
223
25
23
35
31
27
−
18
26
20
36
161
169
−
14
130
17
130
44
11
19
21
29
28
14
07年
最終合格者
48
47
−
40
178
61
13
8
8
−
−
41
135
32
46
3
10
11
3
29
2
2
7
28
31
−
3
4
6
6
9
7
19
173
6
8
40
16
19
20
4
153
2
12
14
24
80
11
17
115
8
9
9
10
7
−
4
10
6
7
57
62
−
2
32
2
39
11
4
1
6
1
7
6
08年
受験者
108
127
26
69
366
127
65
50
47
19
17
98
241
127
128
26
35
52
21
105
33
23
24
79
82
13
37
21
81
40
84
61
87
292
40
47
120
45
88
60
37
352
34
55
148
135
264
74
92
345
41
42
63
40
35
16
36
49
31
45
210
205
24
28
187
25
168
71
18
24
35
42
46
33
08年
最終合格者
33
59
5
34
200
78
24
9
4
0
2
32
100
49
70
4
11
19
3
38
7
1
3
39
33
2
7
2
16
8
11
15
20
165
4
11
50
17
20
13
6
196
4
4
26
32
84
16
21
130
5
4
8
7
16
0
8
15
5
4
59
59
2
1
38
4
51
12
6
0
7
5
2
10
48.3%
40.2%
33.0%
2,091
1,009
4,607
1,851
6,261
2,065
※受験者数には、途中欠席者を含む。
Guideline September 2009 7
Part 2
法科大学院教育の改善に向けた動き
Part 2- 1
中教審が法科大学院教育の質の向上に
向けた改善方策を提言
2009 年 4 月 17 日、中央教育審議会 大学分科会
いて、優れた学生が多いと評価されている。
法科大学院特別委員会では「法科大学院教育の質の
①自発的・積極的な学修意欲が高い。
向上のための改善方策について(報告)」をまとめた。
②学修のための方法論を身につけ、判例や文献等の法情
現在、法科大学院はどのような課題を抱えており、
解決のために何に取り組むべきなのか。文部科学省
高等教育局専門教育課専門職大学院室の浅野敦行室
長に伺った。
報調査能力が高い。
③コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力に
優れている。
④法曹倫理の学修等を通じて、法曹の果たすべき社会的
使命についての確かな理解を得ている。
法科大学院生の質は低下していない!?
⑤法律基本科目だけでなく、実務に有用な知的財産法、
経済法など多様な分野についての学識を有している。
日本弁護士連合会(以下、日弁連)など、法曹現場を中
この評価を見れば、法科大学院の教育内容は功を奏し始
心として、法科大学院修了者の質が十分でないとの指摘が
めているようだ。法科大学院では新司法試験には出題され
相次いでいる。しかし、浅野室長は、法科大学院特別委員
ない臨床科目も含めて幅広く履修する。授業方法も双方向
会の審議においては、実態調査、法曹関係者(司法修習委
型で討論や発表の機会が豊富であり、コミュニケーション
員会委員長、法務省、現役法曹など)へのヒアリング調査
能力やプレゼンテーション能力が身につく。授業に積極的
の結果を見ると、必ずしも質が低下しているわけではなく、
に参加するために、事前準備として自ら法情報を調査する
全般的に従来と比べて能力に遜色がないばかりか、一部の
能力も自然に高まる。その意味では「点」から「プロセス」
点については以前より優れている点も見られると評価され
に移行した法曹養成システムは着実な成果をあげていると
ていると語る。
いえよう。
「法科大学院修了者の質を問
逆にいえば、新司法試験対策に特化した教育は、法科大
題にしているのは、旧司法試験
学院の理念から逸脱してしまうことになる。認証評価機関
を経て法曹になった方々です。
が、プロセスを重視した評価を実施し、試験対策に偏重し
法科大学院は従来とは異なる新
た法科大学院に改善を促したのも首肯できるところだ。
しいタイプの法曹育成を目標に
しています。意図した法曹育成
浅野敦行室長
一方で、課題がないわけではない。特に以下の点は大き
な課題とされている。
ができたかという評価は利用者
①基本分野の法律に関する基礎的な理解や法的思考能力
である国民が下すべきものであ
が十分に身についていない修了者が一部に見られる。
り、それは将来的な活躍を見る
②法文書作成能力など、論理的表現能力の不十分な修了
必要があります。個人的には、法科大学院の教育は、期待
通りの方向性に向かって来ています。私は法科大学院で学
生の日々の様子に接することも多いのですが、学生は極め
て真摯に学んでおり、むしろ期待感の方が大きいです」
(浅野室長)
実際、法科大学院特別委員会の調査では、以下の点にお
8 Guideline September 2009
者が一部に見られる。
③各法科大学院における法律実務基礎教育の内容が不統
一である。
4月に発表された法科大学院特別委員会の報告書では、
こうした課題を解決するために、さまざまな改善方策が示
されている<表1>。
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
入学定員見直しで競争的環境を確保
<表1>「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)」の概要
第一は、入学者の質と多様性の確保だ。志願
者数の減少に伴い、競争率が低下。2005 ∼
2008 年度においては、平均志願倍率が3倍を
割っている法科大学院が 13 校に達しており、
単年度の競争倍率(受験者数/合格者数)が1
倍台という法科大学院もある。入試の競争倍率
と新司法試験合格率は相関関係が高いこともあ
って、2倍以上の競争倍率を目安として、入口
における競争的環境を確保。そのために、各大
学に対して、自主的に入学定員の見直しなどを
進めることを促している。
「2009年度入試でも、入学定員5,765名に対し
て入学者は 4,844 名に止まっています。一方、
東京大、中央大、早稲田大など、司法試験の合
格実績が高く、定員規模の大きい法科大学院で
も、入学定員より入学者が少なくなっています。
これは、たとえ定員割れになっても入学段階で
の競争性を確保し、入学者の質を維持したいと
いう意識の表れでしょう。まだ全体像は判明し
ていませんが、2010 年度入試においては、入
学定員の削減を表明する法科大学院が相当数に
のぼると予想しています。ただし、入学定員の
見直しが教員数の削減につながり、教育体制が
脆弱になってしまっては意味がありません。報
告書でもその点に十分に配慮するように明記しています」
(浅野室長)
適性試験の統一入学最低基準の設定
法科大学院の入試は、適性試験、書類審査、小論文、面
接などの総合判定で合否が決定されているが、配点比率は
各校ごとに異なる。近年の傾向として、適性試験の配点比
率を下げる傾向が見られ、その結果、適性試験の得点がか
なり低い学生も法科大学院に入学している<表2>。
り、適性試験を無視するのは問題です。それに、各法科大
学院へのヒアリング調査からは、適性試験の成績が著しく
低い学生は、法科大学院の成績も芳しくないという声も聞
かれます。そこで今回の報告書では、適性試験の成績が極
端に低い(総受験者の下位から15%程度を目安とする)場
合は不合格とする、統一入学最低基準の設定を示しました」
(浅野室長)
つまり、適性試験の成績を「基準点」として活用しようと
いうことである。なお、適性試験は現在、大学入試センター
「これは、適性試験が法律そのものではなく学修の前提
と日弁連法務研究財団の2機関が実施しているが、2011年
となる判断力・思考力・分析力等の資質・能力を測るもの
度入試から1本化される予定。双方の出題形式・内容の優
であるため、必ずしも法科大学院の成績や新司法試験の成
れている点を統合した問題作成の検討が進められている。
績と相関関係が強くないことが要因でしょう。けれども、
法科大学院の本来の理念からすれば、単に新司法試験に合
社会人、他学部出身者に配慮した環境の整備
格できる学生を入学させればよいというものではありませ
質の確保の面では、法学既修者の認定方法に差があるこ
ん。法曹の適性がある人材を受け入れてほしいと考えてお
とにも言及されている。これまで認定方法は各法科大学院
Guideline September 2009 9
特に注目されるのが、法科大学院コア・
<表2>入学者選抜における適性試験の成績の取扱い
カリキュラム(共通的到達目標)の作成だ。
既に法科大学院特別委員会にワーキング
グループを組織。分野ごとに実務家を含む
専門家が集まり、作成作業を進めてい
る。<表3>は、2009年3月現在の検討状
況の一部を紹介したものだが、項目ごとに
何をどこまで学ぶ必要があるのか、かなり
細かく規定しようとする分野もあるよう
だ。今年度末までには最終案がまとまり、
2010 年度以降、随時、法科大学院の教育
に反映されていくことになる。
なお、このコア・カリキュラムは共通に
「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)
」の基礎資料より
p9「8. 入学者選抜における適性試験の成績の取扱い」
必要な水準、すなわちミニマム・スタンダ
ードを定めるものであり、各大学は教育理
に任されており、例えば法学既修者認定試験で課していな
念に則って到達目標やその達成度を定めるものとされてい
い科目であるにもかかわらず、単位を認定し、法科大学院
る。
での学修を免除する場合もあった。既修者枠を埋めるため
「認証評価機関では、このコア・カリキュラムを重要な
に認定試験の低得点者も合格させ、入学者数を確保してい
参考資料として認証評価を実施すると思われます。到達目
る場合もあった。そうして安易に入学させても、2年間で
標に達していない学生を数多く修了させていれば、認証評
十分な実力を備えることは困難で、かえって新司法試験の
価でチェックされることになるはずです」
(浅野室長)
合格率低下という事態を招く。
そこで、今回の報告書では、「履修したものとみなす
(つまり単位認定する)すべての科目を、法学既修者認定
試験で課す」
「各試験科目について最低基準点を設定する」
未修者の 2 年次進級判定を厳格化
2008年度の新司法試験結果を見ると、法学未修者の合格
率は22.5%で、既修者の合格率44.3%の半分程度にとどま
「少なくとも憲法、民法、刑法については、法的な文書作
っている。この要因として、法律基本科目の授業時間数が
成能力を評価するため、論文試験を課す」などが示されて
十分でないとの指摘が多い。そこで今回の報告書では、未
いる。
修者1年次の法律基本科目を6単位増やし、質量ともに充
また、社会人、他学部出身者の割合が漸減傾向にあるこ
とも問題視されている。多様な人材の受け入れは、法科大
実させることを提言。合わせて、未修者の1年次から2年
次への進級判定をより厳格化することも提言している。
学院の制度設計の骨格でもあり、大きな課題でもある。特
「1年間法科大学院で学んでみて、自分には法律の勉強は
に、社会人に配慮した環境整備としては「既存の入学定員
向かないと感じる人もいるはずです。厳しいようですが、
の枠内での夜間コースの設定や、標準修業年限よりも時間
その場合は早めに方向転換を図ることが重要で、それを促
をかけて履修していく長期履修コースの運用等により、働
すためにも進級条件を厳格化することが必要だと考えてい
きながら学修できる環境を整備する必要がある。その際、
ます」
(浅野室長)
複数の法科大学院が共同して夜間コースを設置することも
考えられる」と、記載されている。
今年度中にコア・カリキュラムを作成
実は、既に法科大学院の修了認定はかなり厳しくなって
いる。 2008年度に標準修業年限で修了した学生は78.6 %
と、他の大学院では考えにくいほど低い。とりわけ未修コ
ースは70.1%と、既修コースの93.0%よりも大幅に低くな
前述したように、法科大学院修了者は、基本分野の法律
っている。報告書を受けて、今後は未修者への教育内容・
に関する理解がやや不十分なことが課題になっている。そ
方法の改善に取り組む一方で、進級・修了認定が厳格にな
の点を解消するための改善方策も多岐に渡っている。
ることは確実である。
10 Guideline September 2009
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
<表3>法科大学院コア・カリキュラム(共通的到達目標)
イメージ Ⅱ 逮捕
1. 逮捕の種類
・逮捕の種類とそれぞれの異同を理解している。
2. 通常逮捕
・令状による通常逮捕の要件と手続について、条文上の根拠を示した
うえで説明できる。
3. 現行犯逮捕
・現行犯及び準現行犯の意義について、条文上の根拠を示したうえで
説明できる。
・現行犯逮捕の要件について理解している。
4. 緊急逮捕
・緊急逮捕の要件と手続について、条文上の根拠を示したうえで説明
できる。
5. 逮捕後の手続
・被疑者が逮捕された後の手続の流れ(被疑事実の要旨の告知、弁護
人選任権の告知、弁解録取、留置の必要性の判断、国選弁護人選任
に関する教示、身柄送致手続、拘束制限時間等)について、条文上
の根拠を示したうえで説明できる。
2009 年3月現在の検討状況より「刑事系 刑事訴訟法
ラムから第3章 被疑者の身体拘束」p17から一部を抜粋
コア・カリキュ
が最も高く、2年目以降は低下する傾向があります。これ
も、法科大学院で学びながらの方が合格しやすい、つまり
法科大学院の教育と新司法試験の内容が相関していること
の証明にもなると思います。そうした状況を踏まえると、
最も重要なポイントは、法科大学院の教育体制そのものを、
さらに充実したものにすることなのです。そして、教育体
制を検討する過程で、仮に単独での整備が難しいようなら、
統合なども含めて柔軟な対応が期待されます」
(浅野室長)
評価機関によるばらつきが生じている認証評価
報告書では、最後に「質を重視した評価システムの構築」
にも言及している。
法科大学院の認証評価は、日弁連法務研究財団、大学評
価・学位授与機構、大学基準協会の3つの機関が担当して
おり、2006年度からスタート。ほぼすべての法科大学院が
一巡目の認証評価を受けている。だが、法科大学院の関係
さらに、報告書では、これまでの新司法試験で「合格者
者からは、いくつかの問題点が指摘されている。認証機関
が全くまたはごく少数しか出ない状況が見られる法科大学
によって、評価項目・方法・内容にばらつきがあることが
院については、その在り方について、抜本的な見直しが必
要因だ。特に「不適合」「不適格」と認定された法科大学
要である」と記載されている。統合・廃止をもにらんだ提
院は、新聞などで大きく報道されたこともあって、不満の
言とも読める。発足後4年でこのような記述がなされるの
声が強い。
は、時期尚早との見方もあるが、法曹養成という明確な使
「正直なところ、この教育内容に対して不適格の認定を
命を帯びた教育機関である以上、それを果たせないことは
出していいのか、と思う場合も見られます。数値のみで杓
問題といえるだろう。
子定規的に評価するのではなく、もっと質を重視する必要
「報告書で、これまであまり触れていなかった新司法試
があります。『不適格』認定は、法科大学院としての適格
験の合格率に言及したのは、極端な格差が生じているから
性を有さないというイメージが社会的に先行してしまいま
です。率直に言って法科大学院が発足した当初は、ここま
す。ですから、教育の質に重大な欠陥が認められる時に限
で大きな格差になるとは想定されていなかったのではない
定して『不適格』と認定するなど、社会、特に法科大学院
でしょうか。適切な改善を図る必要があるでしょう」(浅
への入学希望者に誤解を与えないような運用が望まれま
野室長)
す」
(浅野室長)
法科大学院の成績と新司法試験合格率に相関あり
「教育体制の充実」の項目では、
「2013年度(平成25年度)
まで認められている学部等との専任教員数のダブルカウン
トの暫定措置を延長しない(つまり、その後は法科大学院
の専任教員を確保することを求める)」など4つの改善の
方向性が提言されている。
こうした要望を踏まえて、報告書では、評価機関の間で
の不適格認定の内容・方法の調整を求めており、3つの認
証機関では、協議会を組織。基本的な共通認識の醸成に向
けて、調整の協議を進めている。
報告書では方策を提示しているが、改善の努力を促して
終わりではなく、フォローアップもする予定だ。
「法科大学院特別委員会内に、フォローアップを行うた
「ヒアリング調査によると、法科大学院の成績が優秀な
めの組織を設置。各法科大学院において、教育活動が適切
学生は、新司法試験の合格率も高いという声が数多く聞か
に行われているか、改善のための真摯な取り組みが推進さ
れます。司法試験予備校に通っても、法科大学院の成績が
れているかなど、実態を把握しながら、必要な改善を継続
芳しくないと、新司法試験に不合格になる場合が多いとい
的に促す仕組みを構築します。必要に応じて情報も公開し
うのです。また、法科大学院修了直後の新司法試験合格率
ていく予定です」と、浅野室長は語っている。
Guideline September 2009 11
Part 2- 2
自己改革が進行する法科大学院
∼法科大学院協会のアンケート調査より
な工夫を凝らしている姿がうかがえる。項目ごとに、改善
法科大学院相互の改善努力の参考のため
教育の質の改善に関するアンケートを実施
の動きを見てみよう。
まず、「入学者選抜方法の改善」についてだが、既修者
74 の法科大学院が加盟する組織
である法科大学院協会
(注1)
では、
えている(例えば、3科目を5科目に、5科目を7科目にす
2009年1月に「教育の質の改善に関
るなど)。中教審の法科大学院特別委員会の報告書でも、
するアンケート調査」を実施した。
法学既修者認定の厳格化が提言されていたが、その点は法
質問項目は「入学者選抜方法の改
科大学院でも課題と感じられていたと考えられる。
善」「教育力のある教員陣の確保」
大貫裕之事務局長
コースでは、論文試験で課す科目を増やす法科大学院が増
「厳格な成績評価」「厳格な修了認
一方、未修者コースでは、適性試験重視の傾向が強まっ
ている。
定」「入学定員の見直し」の 5 項目だ。このアンケートを
「未修者コースの場合、法律の勉強に適性がある学生を
実施した理由を、法科大学院協会の大貫裕之事務局長(中
選抜することが重要なポイントになるということがわかっ
央大学法科大学院教授)は、次のように語る。
てきました。そのため、適性試験の配点比率を高めたり、
「法科大学院が発足して5年。この間、優秀な修了生を送
最低基準点を設定したりといった動きが見られます。面接
り出してきたと自負しています。一部で質の低下が指摘さ
重視が進行しているのも、適性を判断したいという意識の
れていますが、それは主観的な印象に基づく評価であり、
表れでしょう。グループディスカッションを導入している
質の低下の証明とされている司法修習修了後の『司法修習
國學院大学のように、面接の方法も工夫されています。中
生考試』の不合格者数の増加にしても、新司法試験の合格
央大学では、短時間の面接で適性を判定できるスキルを身
者の増加に伴う必然的な現象であり、以前と比べて不合格
につけるために、外部講師を招いて、教員対象の講習会も
者の比率が高まっているわけではありません。
実施しています」
(大貫教授)
とはいえ、すべてが順風満帆というわけではないことも
事実です。最近の入学志願者数の減少、新司法試験合格率
の低さ、修了後の厳しい就職状況など、課題もあります。
未修者への「助走教育」が課題
もっとも、未修者コースに関しては課題も多い。2008年
今回のアンケート調査は、こうした課題の解決に向けてど
度の新司法試験の合格率が 22.5 %と、既修者の合格率
のような取り組みを行っているのか、情報を法科大学院間
44.3%の半分程度に止まっているからだ。この状況を打開
で共有し、相互の改善努力の参考に資することを目的とし
するには、入試における適性試験の重視だけでは不十分か
ています。このような調査を実施するのは本協会としては
もしれない。そもそも適性試験の内容が、本当に法科大学
初めてのことですし、他分野でもほとんど例を見ないので
院入学者としての適性を判定できるものになっているの
はないでしょうか。また、調査結果は、校名を明らかにし
か、吟味することも必要になるだろう。
ては公表できないとした2校以外はすべて公開しました。
「確かに、適性試験の成績と法科大学院入学後の成績に
反対意見もあったのですが、一部マスコミで、入学定員の
相関関係が低いという声はあります。しかし、それは一定
見直し=削減の項目だけを取り上げた報道がなされたた
以上の適性を有する入学者についてのみ相関関係を見てい
め、改善の努力がその部分に終始しているとの誤解を与え
るためで、入学者と不合格者(実際には入学していません
る恐れがあると考え、公開に踏み切りました」
から法科大学院入学後の成績はわかりませんが)を比較す
未修者コースは適性重視の傾向強まる
アンケート調査からは、各校とも改善に向けてさまざま
れば相関関係はあるはずです。適性試験の成績が比較的低
い学生も入学している法科大学院では、かなり明確な相関
関係が表れています。ですから、適性試験の重視は望まし
(注1)法科大学院相互の協力を促進して法科大学院における教育水準の向上をはかり、優れた法曹を養成し、社会に貢献することを目的として2003年(平成15年)
12月に設立された組織。
「法科大学院における教育の質の改善について」アンケート結果については、法科大学院協会ホームページhttp://www.lawschool-jp.info/index.html を参照。
12 Guideline September 2009
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
い傾向の1つといえるでしょう。適性試験の出題形式・内
<表>法科大学院の入学定員見直し状況
(法科大学院協会調べ、2009年6月現在)
容も改善の余地があることは事実ですが、2011年度から実
ます。法律知識がない学生に対して、法学的なものの考え
6校
40%以上の削減を予定または検討している校
10校
20%超40%未満の削減を予定または検討している校
21校
20%の削減を予定または検討している校
10校
20%未満の削減を予定または検討している校
2010年度または2011年度募集に向けて削減を検討中だが、
18校
具体的な数字を挙げていない校
5校
今のところ削減を予定していない校
3校
2009年度募集までに既に定員を削減している校
*教育の質のためのアンケートで回答校自身が選んだ選択肢ではなく、回答
の際の具体的記述に従って分類した。幅のある数字を挙げている校につい
ては、上限の数字を基準として分類した。
方を基礎から教えるにはどうしたらいいのか。法的な世界
生では、新司法試験合格は難しいということがわかってき
観、視点をいかに教えればよいのか。そういった『助走教
たのです。そこで、GPAの導入のほかに、近年は、単位
育』の確立が重要です。その認識は多くの法科大学院で共
認定を個々の教員の判断にのみ任せずに、成績評価基準を
通しているため、すでにさまざまな工夫が見られます。そ
統一して、学内の委員会で基準の適用をチェックする取り
うした工夫の一つとして、TA(ティーチング・アシスタ
組みも見られるようになっています。授業内容や試験問題
ント)を積極的に活用し、学生からの個別の質問に応じる
などを、教員が集まって精査する場を設ける法科大学院も
など、フォローアップの体制を構築している法科大学院が
増えています。法科大学院は、こうしたFDの取り組みで
あります。例えば中央大学では、実務講師(現役の若手弁
も一歩先を行っているといえます」
(大貫教授)
施機関が統合されることによって、さらなる質の向上が図
られると思います」
(大貫教授)
加えて、大貫教授は、未修者コースの学生への教育方法
は、さらなる工夫が必要になると語る。
「まだ未修者教育の方法論は確立されていない面があり
護士)1名に対して、未修者学生5∼6名のグループを配
置して受け持つ制度を導入し、法的文書の書き方などをき
入学定員見直しで新司法試験合格率がアップ?
め細かく指導しています。また、未修者が3年間で新司法
最後に、「入学定員の見直し」についてだが、アンケー
試験に合格できる実力をつけるには、教える内容の精選も
ト調査からは削減の意向を見せる法科大学院が相次いでい
必要であり、現在進行しているコア・カリキュラムにも期
る。法科大学院協会事務局のまとめでは、2010 年度で約
待しています」
700名、2011年度の予定を含めると、約1,000名が削減され
る見込みだという<表>。社会から期待される新司法試験
全科目ギリギリの成績で単位取得しても
新司法試験合格は難しい !?
合格率を満たす規模へ移行していきそうだ。
次に、「教育力のある教員陣の確保」「厳格な成績評価」
程度が望ましいのではないかと考えています。もし、新司
「個人的見解としては、将来的には総入学定員約4,000名
「厳格な修了認定」だが、大貫教授は「手前味噌になるか
法試験の合格者3,000名が実現すれば、法科大学院修了時
もしれませんが、法科大学院は高等教育改革の最先端を行
点で約7割が合格、3 回受験する中ではほとんどの修了者
っていると自負しています」と語る。
が合格できる状況が期待できます。逆にいえば、そうした
「例えば、プレゼンテーション能力を重視した教員採用
状況にならないと、法科大学院に入っても法曹になるのは
を実施している法科大学院が見られますし、模擬授業を課
難しいというイメージが蔓延したままで、優秀な学生が入
しているところもあります。おそらく日本の高等教育機関
学を躊躇してしまいます。それでは法科大学院制度の存続
では希有な採用方法でしょう。それだけ法科大学院では教
自体が危うくなってしまうでしょう。新司法試験の合格者
育力に重きを置いているのです」
3,000名についても、果たしてそれだけ多くの法曹がきち
厳格な成績評価・修了認定も進行している。特に近年は、
GPA
を進級・修了要件にする法科大学院が目立つ。
(注2)
「発足当初よりも、明らかに成績評価、修了認定は厳し
んと就職できるのか危惧する声も聞かれますが、現実には
企業法務、公務分野を中心として、法曹の職域は拡大しつ
つあります」と、大貫教授は語る。
くなっています。GPAの導入校が増えているのは、修了
低迷する新司法試験合格率に注目が集まることで、最近
生の新司法試験合格実績の追跡調査結果を踏まえた措置だ
人気が低迷しつつあった法科大学院だが、教育の質の改善
と考えられます。ほとんどの科目が60 点程度で、ギリギ
とともに新司法試験合格率に関しても明るい兆しが生まれ
リで単位取得したレベルの学生、つまり『低空飛行』の学
ているといえよう。
(注2)GPA(Grade Point Average)
アメリカにおいて一般的に行われている学生の成績評価方法の一種。例えば、授業科目毎の成績評価をA(90点以上)、B(80点以上90点未満)
、C(70点以上
80点未満)
、D(60点以上70点未満)
、E(60点未満)という5段階で評価し、それぞれに対してA=4、B=3、C=2、D=1、E=0のグレード・ポイントを付
与し、単位当たりの平均(GPA)を出す。単位取得はDでも可能であるが、修了のためにはGPAが例えば2.0以上必要といったように、成績評価に用いる。
Guideline September 2009 13
Part 2- 3
地方法科大学院の取り組み
「中四国法科大学院連携教育システムの構築」
人的・物的資源の不足を解消
教材・教育方法を共同で開発
ここ数年、地方の法科大学院では志願者数が減少し、定
この課題を解決するために、現在さまざまな取り組みが
員割れ校も発生している。厳しい状況を打開するために、
さまざまな取り組みが見られるようになっている。
進行している。
最も注目されるのが、教材・教育方法の共同開発だ。
2008年度の文部科学省「専門職大学院等における高度専
2008年9月、共通教材作成のために、約10の「科目別ワー
門職業人養成教育推進プログラム」に採択された「中四国
キング・グループ(WG)」を設置。各グループ6∼7名の
法科大学院連携教育システムの構築」もその1つだ。
教員(実務家教員を含む)が定期的に集まり、議論を重ね
岡山大学法科大学院に連絡事務局を組織。島根大学、香
ている。2009年度末までに共通教材の具体的な案が提示さ
川大学(愛媛大学との連合)を合わせた3つの法科大学院
れ、科目によっては早ければ2010年度から授業で活用さ
が、共同教育プログラムの開発をはじめとして、連携を開
れる見込みだ。
始するという取り組みだ。
背景には、地方における人的・物的資源の問題があると、
「岡山大学法科大学院では、以前から実務家教員と研究
者教員との共同作業によって、独自の教材を作成してきま
岡山大学大学院法務研究科(法科大学院)の松村和徳研究
した。教員の負担は大きいのですが、共同作業を通して、
科長は語る。
教員同士の共通認識が形成されるとともに、教員の教育力
「入学定員が小規模で教員数も少ない地方の法科大学院
向上にもつながるなど、成果をあげてきたと自負していま
が、単独で教育の質を向上させるのは難しい面があります。
す。この取り組みを中四国の法科大学院が連携して実施す
例えば、民法が専門といっても、すべての分野に精通して
る意義は大きいはずです。各法科大学院の教員間で共通認
いる教員は少なく、得意な分野と不得意な分野があります。
識を醸成することによって、中四国版のコア・カリキュラ
大規模な法科大学院は、同一科目に複数の教員が関わるの
ムの作成も視野に入れています。現在、全国版のコア・カ
で、補完しあって一定レベルに均質化することが可能です
リキュラム策定が進められていますが、網羅的です。どち
が、担当教員が1人しかいない小規模法科大学院の場合、
らかというと都市部の大規模校の実態に即した議論になっ
どうしても教育内容や評価基準などの面で恣意性が高くな
ている印象があり、自学自習よりきめ細やかな指導が必要
りがちです。
な地方にはそぐわない面もあります。学生のレベルや目的
従来の日本の大学・大学院教育は、授業内容・方法も単
意識、教育の体制・環境など、それぞれの地方の実状を踏
位認定も、基本的に個々の教員に委ねられており、教員個
まえたコア・カリキュラムを提示する必要があるのではな
人の能力に依存していた面があることは事実です。けれど
いか。私はそう感じています」
(松村研究科長)
も、法科大学院の場合はそれではいけない。法曹養成とい
う目的が明確な教育機関だからです。その使命を果たすた
めに、成績評価を厳格にすることで一定の能力を担保し、
教材作りに加えて、教育方法改善の取り組みも活発化し
ている。
今年6月に第1回目の相互授業参観と意見交換会を開催。
それを満たした学生のみを修了させるという要請が強まっ
その後も、ほぼ月に1回のペースで実施している。年度末
ている中、何をどこまで教えるのか、教育内容・レベル、
には、作成した共通教材案を使用したモデル授業の実施も
教育方法を確立し、標準化しなければなりません。
予定されている。
それを恣意的に陥ることなく行うことは、教員の少ない
この相互授業参観・意見交換会には、3法科大学院の教
単独の法科大学院にとっては難しく、複数の法科大学院と
員のほか、外部の識者で構成される「外部評価委員会」の
地元弁護士会が連携体制を構築することが不可欠になると
メンバーも参加している。外部の客観的な評価を優れた教
考えています」
(松村研究科長)
材作りにフィードバックしていくことが目的だ。
14 Guideline September 2009
[特集]
「法科大学院の現状と今後 」
<図表>連携実施体制
いたようだ。しかし、そ
香川・愛媛大学
岡山大学
の後、各法科大学院で教
島根大学
育課程の共同実施にまで
専門領域についての特定の分野を
重点的に学習・実習させる
教育システムの構築
法科大学院における
教育内容・方法の確立と標準化
⇒教育の質の保証
踏み込むべきかどうか、
温度差が生じている。現
他大学
専門家ネット
在では、単位互換や教
材・教育方法の共同開発
①共通教育プログラムの協同形成
⇒教材・教育方法の共同開発プロジェクトの設立
②効果的なFDシステムの開発
⇒相互評価・外部評価システムの構築など
①会社法務(知財関係を含む)
②医療福祉関係
③教育紛争関係
④行政紛争(環境問題等を含む)関係
⑤地域産業(事業)再生
⑥国際取引関係
までは話が進んでいるも
のの、教育課程の共同実
施、共同大学院の設置に
ついては不透明な状態に
なっている。個別の法科
岡山弁護士会など中四国弁護士会
大学院の教育を充実させ
たいという思いは理解で
共同大学院構想はどうなるか
こうした共同作業を経て、2010年度からはさらに多様な
連携が図られる予定である。
多くの科目が共通の教材・教育方法で実施され、成績評
価も共通認識のもとで行われるほか、科目によっては3法
科大学院合同の授業も検討されている。そのために、すで
に遠隔授業システムも導入されている。
きるが、入学定員が少ないことによる法科大学院教育の標
準化についての課題もある。
この取り組みは、地方における法科大学院連携のモデル
ともなりうるため、今後の動向が注目される。
地方法科大学院は法曹の継続教育も担う
ところで、今後の地方法科大学院で重要な使命になると、
松村研究科長が指摘するのが、法曹への継続教育だ。
また、展開・先端科目群については、担当教員がいない
司法制度改革の狙いの1つに、ゼロワン地域(注)の問題
場合は、他の法科大学院から教員を派遣する試みも取り入
への対応があったが、それはかなり解消されている。ただ
れられる予定だ。学生にとって、多様な履修科目の選択肢
し、地方法科大学院が地元法曹の供給機関となったからと
が増えることは大きなメリットといえよう。例えば、岡山
いうよりも、都市部の大規模法科大学院を修了して法曹に
大学法務研究科は、「医療・福祉分野での地域連携法曹教
なった人が、Uターンなども含めて、地方に適正配置され
育の確立」というテーマで、「専門職大学院等教育推進プ
たことが大きいようだ。そのため、必ずしも地方に法科大
ログラム」に採択されており、この分野を専門とする教員
学院を点在させる必要はなく、新司法試験合格者が全国各
も多い。他大学にも、その資源が提供される見込みだ。
地に散らばる体制づくりを強化することの方が先決との考
ところで、「法科大学院教育の質の向上のための改善方
え方もある。
策について(報告)」でも、小規模の、特に地方の法科大
「けれども、地方在住の新人弁護士に、従来のような職
学院は、教育水準の継続的・安定的な保証について懸念が
務を通じた教育が可能なのか、疑問です。大規模な弁護士
生じている場合、「他の法科大学院との間で教育課程の共
事務所ならOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)も可
同実施・統合等を図るなど、教育体制の抜本的な見直しを
能でしょうが、地方は個人事務所が主体だからです。では、
積極的に検討する必要がある」とされているように、この
法曹への継続教育を担う主体はどこになるのか。私は、地
ような連携の先には、教育課程の共同実施や、統合も視野
方においては法科大学院以外にないと考えています。そこ
に入ってくると考えられる。入試の選抜基準を統一して学
に地方法科大学院の存続意義もあるのです」
(松村研究科長)
生の質を揃えるとともに、成績評価基準なども統一した方
充実した法曹への継続教育を実施するためにも、法科大
が、スムーズにいく面が多いと考えられるからだ。
実際に、岡山大学法務研究科が提唱したこの取り組みが
スタートした当初は、共同大学院への移行も視野に入って
学院同士、および地元弁護士会などとの協力が不可欠にな
る。さまざまな意味において、今後の地方大学院にとって
は「連携」が重要なキーワードになりそうだ。
(注)弁護士登録がない、もしくは1人しか登録がない地域
Guideline September 2009 15
COLUMN
法科大学院修了生の職域は広がっているか
法科大学院が設置され、法曹人口は増加しているが、果たして法科大学院修了生の職域は広が
っているか。そこで、明治大学法科大学院教授の鈴木修一先生にお話を伺った。鈴木先生は、法
科大学院生および修了生のキャリア支援を行うためのウェブサイト「ジュリナビ」の事務局代表
であり、法科大学院協会職域問題等検討委員会の委員も務めている。
急激に増加する弁護士の就職が法曹界の課題
まず、司法試験合格者の就職状況を見てみよう。「ジュリナ
ビ」の調査
(注1)
によると、新61期生1,731名のうち、検事採用
鈴木修一先生
は、法学部卒業者が企業法務を担ってきましたが、今後は法科
大学院修了生が、体系的に法律の考え方を身につけた専門家と
して、企業法務や官公庁や自治体で行政に関わる必要があるで
しょう」
(鈴木先生)
者が73名、判事補採用者が75名であるのに対し、弁護士登録
しかし、これまでは企業や官公庁へ法科大学院修了生を採用
者は1,499名であり、90%近くが弁護士になっている。裁判
する仕組みがなかった。1つには時期の問題がある。司法試験
官、検察官の採用人数はほぼ一定のため、法曹人口の増加に伴
の合格発表は 9 月のため企業の新卒定期採用とは合わないし、
い、弁護士事務所への就職が当初の想定通り拡大するかが懸念
国家公務員採用Ⅰ種試験は司法試験とほぼ同時期の 5 月に行わ
されていた。
れるため両方の受験は難しい。次に法律専門職採用が少ないこ
この点について鈴木先生は、「これまで日本では弁護士の数
とも問題である。さらに修了生の年齢もあって、官公庁や企業
が少なかったため、就職の心配はなく、就職のシステムを考え
への就職は難しくなる。最近、日本銀行や金融庁などでは法科
る必要もありませんでしたが、
今後法曹人口の増加は確実です。
大学院修了生を対象とした採用を開始したが、他の官公庁や企
従来、法曹と社会をつなぐ人材供給の仕組みがなかったため、
業では多くない。
弁護士事務所以外に就職先がなく、法曹人口増加は『弁護士の
就職難』を引き起こすと喧伝される事態が起きています」と分
析する。
法科大学院修了生の就職等を検討するため、昨年、74の法
科大学院が加盟する法科大学院協会が職域問題等検討委員会を
立ち上げた。それと軌を一にして「ジュリナビ」
(注2)
もスタート
した。
「仕組み」の問題も含め、弁護士の職域が拡大するかについ
て、今後も注目していく必要があるだろう。
学生自身の意識改革も必要
企業や官公庁の意識改革と協力が望まれる一方で、鈴木先生
は「弁護士を志す学生自身の意識改革も必要」と強調する。
「弁護士というと、未だ訴訟中心の業務を連想する学生が多く、
「ジュリナビ」に掲載されるのは、
「弁護士事務所、企業法務
企業や官公庁へは目が向かないようです。そこで「ジュリナビ」
部、官公庁、自治体、NPO 法人などからの法科大学院修了生
では、企業法務シンポジウムや、中央省庁でのインターンシッ
の求人」「就職セミナー等のイベント」など、法科大学院修了
プを開催しています。業務内容を知ると面白さがわかり、訴訟
生の就職に役立つ多様な情報である。「従来、日本では弁護士
以外の道に進みたいと考える学生が徐々に増えてきました。そ
事務所に所属し、民事・刑事の訴訟に携わる弁護士がほとんど
れと、これからの弁護士には法曹資格を取得すれば将来安泰と
でした。しかし、法曹人口の増加に伴って訴訟も大幅に増える
いう幻想を捨て、活躍できる場を自ら切り拓く積極性が求めら
というわけではなく、また日本では小規模な弁護士事務所が多
れます。さらに、弁護士と顧客間だけではなく組織の仲間と人
いため、今後も増加し続ける新人弁護士を吸収する余力が十分
間関係を築き、共に働くコミュニケーション力や、多様な課題
だとは言えません(【表】の新61期生採用数別内訳を参照)。
に対応するための教養も求められるでしょう」
(鈴木先生)
そこで、法科大学院修了生の職域拡大と就職支援が急務なので
す」
(鈴木先生)
企業や官公庁で活躍する新しい弁護士像の確立が鍵
こうした「新しい弁護士像」を、修了生、採用者双方に広め
ていくことが、法科大学院修了生の活躍の場を拡げる鍵となり
そうだ。
<表>新 61 期生採用数別内訳
しかし、鈴木先生は、「法科大学院修了生の将来は必ずしも
暗くない」と考えている。日本の訴訟中心の弁護士業務は欧米
と比べると異例であり、今後のグローバル化した社会では、欧
米のように非訴訟業務の法律専門家の需要が増すと予測するか
らだ。
「アメリカの社会では M&A や金融、環境対策、内部統制や
リスクマネージメントなど、非訴訟業務の法律専門家の需要が
増大しています。実際、多くの大手法律事務所の業務の大半は
非訴訟業務ですし、ロースクール修了後企業や連邦・州政府に
勤める人は全体の約 3 分の1にもなります。一方日本の企業で
所属事務所の採用数
10名以上
5∼9名
3∼4名
2名
1名
合計
採用総数
134
91
177
234
846
1,482
構成比
9.0%
6.1%
11.9%
15.8%
57.1%
100.0%
(注)1. 2008年12月18日付の所属弁護士数及び新規登録された新61
期生を集計。
2.「採用数1名」には、所属なしの新規登録弁護士9名が含まれ
ている。
(注1)ジュリナビホームページ 新61期生就職動向調査より
(注2)明治大学法科大学院を幹事校とする13法科大学院が、文部科学省の2007年度(平成19年度)「専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プ
ログラム」に共同申請し、採択されたプログラムである。
2009年7月現在、全法科大学院74校中70校が「ジュリナビ」に参加し、その他の大学院も参加を検討中である。また、全法科大学院の修了生および在
学生が登録・利用できる。
※ジュリナビ https://www.jurinavi.com/
16 Guideline September 2009
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