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社会の高齢化が進展する東南アジア地域への わが国発の最先端医療

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社会の高齢化が進展する東南アジア地域への わが国発の最先端医療
ESRI Discussion Paper Series No.299
社会の高齢化が進展する東南アジア地域への
わが国発の最先端医療技術による貢献について
村田貴司、篠原千枝
June 2013
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものでは
。
ありません(問い合わせ先:https://form.cao.go.jp/esri/opinion-0002.html)
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見
解を示すものではありません。
The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those
of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of
Japan.
社会の高齢化が進展する東南アジア地域への
わが国発の最先端医療技術による貢献について i
村田 貴司 ii
篠原 千枝 iii
2013 年6月
要 旨
健康は、人の幸福の度合いを左右する重要な要素である。高齢社会では、がんに
よる死亡率が高まる傾向にある。高齢化が急速に進展する東南アジア社会の健康増
進に対する日本の国際貢献を考えるとき、わが国発で、低侵襲の重粒子線がん治療
の国際展開は、科学技術力を有する国家にふさわしい国際貢献の一形態である。そ
れはまた、国際的な産業競争力強化にもつながる。重粒子線がん治療の国際展開に
必要な諸施策を、統合的に発動することが求められている。
i
本稿の公表にあたっては、事前審査として行った所内セミナーで、辻井博彦 公益財団法人医用原子
力技術研究振興財団理事、秋山浩 一般社団法人日本画像医療システム工業会専門委員会副主査
からの査読コメントと出席者の方々から有益なコメントを頂いた。ここに記して謝意を表する。なお、本
稿に残された誤りはすべて筆者らの責任である。
ii
内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
iii
内閣府経済社会総合研究所研究官
1
Japan’s Contribution to the Aging Society in Southeast Asia
Through State-of-the-Art Medical Technology
Takashi Muratai,
Chie Shioharaii
Abstract
Being healthy is one of the most important factors that affect the degree of human
happiness. In an aging society, deaths due to cancer tend to increase. When
considering the improvement of wealth of the aging society in Southeast Asia, the
international transfer of Japanese R&D results and experiences in the field of heavy
ion-beam cancer therapy, which is characterized as a minimally invasive treatment, is
one of the appropriate forms of Japanese contribution.
Integration of governmental policy measures is indispensable to the international
development of heavy ion-beam cancer therapy.
i
Executive Research Fellow, Economic and Social Research Institute, Cabinet Office
ii
Research Officer, Economic and Social Research Institute, Cabinet Office
2
1.はじめに
「人はだれしも、良い暮らしをしたいと思っている。」(1) 良い暮らしを考える際、健
康であることは、その最も重要な側面のひとつである。世界保健機関(WHO)の健康
の定義、すなわち「健康とは、単に病気ではないとか、弱っていないということではなく、
肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあること」と言
われるように、健康である状態は様々な要素が関連するが、最先端の研究開発成果
により、長期にわたり疾患が続く状況を回避できるとすれば、それは良い暮らし、すな
わち人の幸福の度合いを向上させる大きな力になると考えられる。
幸福の度合いを考えるとき、健康であることが、世代層を超えて共通する重要な要
素であることは、さまざまな調査からも見て取ることができる。
内閣府の「平成 22 年度国民生活選好度調査」(2)によれば、男性の 50 代後半以上、
女性の 40 代前半以上で、「健康であること」が幸福度を判断する際に最も重視する項
目となっている。また、内閣府経済社会総合研究所の幸福度に関する研究会が取り
まとめ公表した報告書(3)でも、「長期にわたって疾患が続くことは、その後の生活上の
制約要因として働き、ひいては主観的幸福感を引き下げ続ける可能性が高い」こと、
また、高齢者については、「どれだけ不自由なく日常生活が送れているかということが
健康な生活を送れていることを捉える重要な切り口」になることが指摘されている。
発展を続けているアジア諸国、特に東南アジア諸国の中で、一足早く高齢社会とな
ったわが国には、日本社会の高齢社会化に伴い発生している課題、経験を生かし、
またこれまで培ってきた高度な科学技術力を踏まえ、わが国らしい形での当該地域
全体の健康を向上させ、幸福度の向上に貢献することが期待されている。
(1) 急速な東南アジア地域の高齢化
わが国を含む東南アジア地域は 1970 年代以降、総人口に対する生産年齢人口の
比率上昇が経済成長の原動力となる「人口ボーナス」(4)の恩恵をも受け、持続的な経
済成長を遂げてきた。しかし、すでにわが国は 2004 年に総人口がピークアウトし、高
齢社会となっており、東南アジアの多くの国においても、2020 年代には「人口ボーナ
ス」期の終焉を迎え、高齢社会に突入するものと予測されている(5)。
通商白書(6)において、「高齢化社会から高齢社会になるまでの期間をみると、フラ
ンスが 115 年、スウェーデンが 85 年、英国が 47 年という中で、日本は 24 年という比
較的短い期間で高齢社会となっている。その他アジア諸国についてみると、シンガポ
ールで 17 年、韓国で 18 年、タイで 22 年など、日本以上のスピードで高齢化が進展す
る」と予測されているように(表1)、今後、東南アジア地域における他に類を見ない急
速な人口の高齢化は、当該地域の経済社会活動に大きなインパクトを与えるものと
考えられる。(7)
3
表 1 各国が高齢化社会から高齢社会になるまでにかかる期間(倍化年数)
(出典)経済産業省 通商白書 2010
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2010/2010honbun/html/i2510000.html (2013 年 5 月 8 日閲覧)
(2)社会の高齢化と死亡原因の変化
わが国の人口動態予測(8)では、わが国の人口が 2050 年には 9,515 万人(2004 年、
12,784 万人)に減少し、高齢化率も 39.6%(同、19.6%)となると言われているように、
文字通り、わが国は、2050 年までに「世界史上最も高齢化の進んだ社会になる」(9)と
予測されている。
こうした、急速に進展するわが国社会の高齢化は、疾病構造を大きく変化させ、他
の疾病に比べ、相対的により多くの日本人ががんを発症し、がんにより死亡するよう
になってきている。(図1)
すなわち、わが国の場合、死亡原因の変化として、人口 10 万人当たりの死亡率の
推移をみると、1950 年に死亡原因の 13.5%を占めていた結核が、1980 年までには 1%
以下に減少し、これに変わり、1950 年から 1980 年までは脳血管疾患、1981 年以降は
がんが死因の第 1 位となった。
このように、高齢社会では、相対的により多くの者ががんを発症し、死亡する傾向
にあり、このことは、わが国以外の東南アジア諸国においても同様と考えられる。
4
図1 主な死因別にみた死亡率の年次推移
(出典)厚生労働省、平成 23 年人口動態統計月報年計(概数)の概況(2012 年)
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai11/dl/gaikyou23.pdf
(2013 年 5 月 8 日閲覧)
5
2.社会の高齢化によるがん患者の増加と対応の必要性
既にわが国の事例でもみたとおり、高齢化の進展は、がんで死亡する者の相対的
な増大をもたらす。世界保健機関(WHO)傘下の国際がん研究所(IARC)も指摘して
いるように、今後、東南アジア諸国等、経済の発展が著しい地域では、高齢化の進展、
生活様式の向上に伴い、感染症等の疾病との対比において、相対的にがん患者数
が増加することから、このトレンドを見越して、積極的な医療上の対策を講じることが
社会的要請となっていると言えよう。(10)
高齢化の進展が著しい東南アジア諸国について、がんが発生する部位別の順位
および死亡原因となったがんの部位別順位を見ると、表 2 および図 2 のとおりである。
これらのがんに対する効果的な治療法を政策的に展開するニーズは大きい。
表 2 東南アジア諸国の部位別順位
男性
(注)
日本
中国
女性
胃、大腸、肺、前立腺、結腸、肝 乳、大腸、胃、子宮、結腸、肺、
臓、直腸、膵臓
子宮頸、直腸、子宮体
胃、肝臓、肺、食道、結腸・直腸、 胃 、 食 道 、 肝 臓 、 肺 、 結 腸 ・ 直
白血病、脳腫瘍、上咽頭、リンパ 腸、子宮頸、子宮体、乳、白血
腫、膵臓
病、脳腫瘍、膵臓
フィリピン
肺、肝臓、前立腺、白血病、結腸
ベトナム
肺、胃、肝臓、結腸・直腸、上咽 乳 、 子 宮 頸 、 胃 、 結 腸 ・ 直 腸 、
頭、悪性リンパ腫、白血病、食 肺、肝臓、卵巣、上咽頭、白血
道、口腔、咽頭
病、口腔
タイ
肺、肝臓、白血病、口頭、結腸・ 子宮頸、乳、卵巣、白血病、口
直腸、リンパ腫、上咽頭、膀胱、 腔、結腸・直腸、リンパ腫、子宮
咽頭
内膜種、皮膚、甲状腺
マレーシア
乳、子宮頸、肺、甲状腺、卵巣
肺・上咽頭、胃、膀胱、結腸・直 子宮頸、乳、卵巣、肺、上咽頭
腸
(出典)辻井博彦(2005)
(注) 日本については、地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(2007 年)
http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html (2013 年 5 月 8 日閲覧)
6
乳がん
子宮頸がん
肺がん
大腸がん
口唇・口腔がん
卵巣がん
肝臓がん
食道がん
胃がん
前立腺がん
他の咽頭がん
非ホジキンリンパ腫
罹患
白血病
死亡
子宮体がん
咽頭がん
人/10 万人
図 2 東南アジア諸国におけるがんの発生およびがんによる死亡(男女)(推定)
(出典) Ferlay J, Shin HR, Bray F, Forman D, Mathers C and Parkin DM.
GLOBOCAN 2008 v2.0, Cancer Incidence and Mortality Worldwide: IARC CancerBase No. 10 [Internet].
International Agency for Research on Cancer; 2010.
http://globocan.iarc.fr/factsheet.asp (2013 年 5 月 8 日閲覧)
7
10 万人当たり患者数
(出典)J Carcinog, et.al. (2012)
http://www.carcinogenesis.com/article.asp?issn=1477-3163;year=2012;volume=11;issue=1;spage=7;epage=7;aulast=Cullen
(2013 年 5 月 8 日閲覧)
図 3 アジア諸国における前立腺がん患者の増加
8
3.高齢社会におけるがんの治療方法としての放射線療法
がんに対する主要な治療方法には、外科療法、化学療法、放射線療法がある。
放射線療法は、外科的な手術とは異なり、患部を切り取ることがないため、各部位
の持っている機能を失わずにがんを治療することが可能であること、体のほとんどの
がん治療に適用できること、手術と比較して身体への負担が少ないこと(いわゆる低
侵襲)、化学療法と比較して全身的な副作用が少ないことなどから、高齢社会におけ
るがん患者の生活の質(QOL)の向上の観点から、そのニーズが高まるものと考えら
れる。(11)
放射線療法は、その線種により表 3 のように分類される。
表 3 放射線療法に用いられる放射線
光子線
ガンマ線
がん治療に用いられる
放射線
エックス線
粒子線
陽子線
炭素線
(重粒子線)
放射線療法に用いられる線種のうち、粒子線はそのエネルギーにより人体内に入
る飛程が定まり、その飛程の終端近くでエネルギーを急激に放出し(ブラッグ・ピーク)、
その際にがん細胞を殺傷する。また、加速器を用いて粒子のエネルギーを調節し、腫
瘍の部分で粒子が止まるようにすることができるので、照射の道筋にある正常な細胞
への影響を最小にすることができる。(図 4)
わが国では、こうした特性に着目し、独立行政法人放射線医学総合研究所(放医
研)の重粒子線(炭素線)がん治療装置(HIMAC)が、1984 年策定された「第 1 次対
がん 10 か年総合戦略」の一環として位置づけられ、1994 年より臨床試験が開始され
た。
9
図 4 各種放射線の生体内における線量分布
(出典)公益財団法人医用原子力技術研究振興財団ホームページ
http://www.antm.or.jp/05_treatment/0201.html (2013 年 5 月 8 日閲覧)
4.わが国の研究開発文化の粋を集めた重粒子線(炭素線)がん治療
これまでにわが国が独自に臨床応用水準まで開発してきた重粒子線(炭素線)が
ん治療は、炭素イオンを光速の 7 割程度まで加速したビームを患部に照射するもの
であるが、その治療は、照射される炭素線の以下の特徴に着目したものである。
(1)線量集中性
X 線、ガンマ線などの通常の放射線や中性子線は、体の表面直下で線量が高く、
体の深いところになるにつれて線量が低くなる。このため、がん病巣以外の正常部分
にも多くの線量が照射されることになる。それに比べ、陽子線や炭素線等のいわゆる
重粒子線は、体の浅い所では線量が低く、一定の深さで線量が高くなるピーク(ブラッ
グ・ピーク)があり、それより深部には進まないという性質がある。この性質を利用し、
ピークの位置、高さ・幅を調整し、立体的な腫瘍の形に合わせ集中的に照射を行うこ
とで、大きな効果を上げることができる。このため、手術で切除が困難ながんや、重要
な臓器の近くに病巣があり通常の放射線治療では照射が難しいがんを治療すること
ができる。
(2)高い生物効果
炭素線は細胞を破壊する力(生物効果)が強く、通常の放射線や陽子線に比べお
よそ 2~3 倍の威力がある。このため、従来の放射線治療に対して抵抗性を示すがん
10
にも効果が認められる。
以上のように、重粒子線(炭素線)がん治療は、炭素線の線量集中性、高い生物効
果により、大きな治療効果をもたらすことが期待される療法であるが、それだけに、確
実に患部にビームを照射すること等、その臨床経験の蓄積には、わが国ならではの
技術文化である、繊細さ、確実さ等が大きく寄与してきていると考えられる。
・繊細さ
炭素線の高い線量集中性と高い生物効果は、逆に言えば、炭素線を病巣の形状
に合わせて適切に照射する技術蓄積がなければ、治療効果を高めることはできず、
重篤な副作用が発生する可能性があるということである。わが国の重粒子線(炭素線)
がん治療施設では、放医研での実績を踏まえ、照射される炭素線ビームが、照射計
画上の患部に対して非常に正確・確実に照射が行われ、正常細胞への放射線影響
を最小にすることが実現されている。
・確実さ
重粒子線がん治療では、適切な線量が確実に患部に照射されなければならず、供
給されるビームが照射途中で途切れるようなことがあってはならない。放医研で照射
される炭素イオンビームは、加速器により高速の8割程度まで加速されるが、何らか
の理由で患者への照射中にビームが途絶しないよう、また、計画したタイミングに計
画通りの炭素イオンビームが供給されるよう、イオン源の工夫、加速器運転上の工夫
が施されている。その結果、諸外国には類例のないほど確実、安定的な治療が実現
されている。
このように、重粒子線(炭素線)がん治療は、わが国ならではの技術文化を体現し
た、極めて日本的な装置の利用により初めて実現できるがん治療であり、その成果を
治療装置とプロトコルとをパッケージとして海外に展開することは、わが国ならではの
知恵による世界への貢献と言うことができる。
11
5.HIMAC の成果の活用
HIMAC では、2013 年 3 月までに、7,339 名の治療(臨床試験を含む)が実施(図 5)
されるとともに、放射線医科学等の基礎研究のために国内外の研究者の研究に活用
されている。
図 3 に示す通り、近時東南アジア諸国では前立腺がんの患者が増加しているが、
前立腺がんに関する HIMAC の治療成績を見ると、5 年生存率で約 95%との成績が
得られている。(12) これは、HIMAC における初期段階の臨床試験(PhaseI/II)の成果
であり、主に手術不能ながん、進行・再発がんを対象にしていることを考慮すると、き
わめて良好な治療成績であり、このような重粒子線(炭素線)がん治療を海外展開す
る意義は大きい。
図 5 炭素線がん治療の実績(1994 年 6 月~2013 年 3 月)
(出典)放射線医学総合研究所
HIMAC は重粒子線をがん治療に適用するための臨床試験施設であるとともに、さ
まざまな粒子を加速し小動物や細胞等に照射することによりその生物影響等を研究
するための研究施設として計画され、建設されたものであることから、臨床施設として
はオーバースペックとなっている。このため、HIMAC の経験をベースとして臨床利用
に特化した小型施設が開発され、この小型施設が既に国内 3 か所で稼働あるいは建
12
設中となっている。
さらに、現在、放医研では、スキャニング照射等、照射方法等のさらなる向上を図
るための研究開発が進められており、近い将来、標準的な炭素線治療に適用される
予定である。
これらのことから、本稿で東南アジア展開を想定する重粒子線(炭素線)がん治療
施設としては、上述の小型施設に現在研究開発が進展している新たな照射方法等を
加味した施設とすることが適当であろう。
6.重粒子線(炭素線)がん治療装置の海外展開
(1)海外展開の意義
重粒子線(炭素線)がん治療装置の海外展開には、以下のように、今後のわが国
にとって重要な意義があると考えられる。
1)わが国ならではの技術・経験による東南アジア諸国の課題解決への貢献
高齢社会に向かう世界、特に東南アジア諸国の人口動態変化による疾病構造の
変化を念頭に置くなら、すなわち、
a)今後の高齢社会において、「がん」により死亡する可能性が高まること
b)高齢患者の「がん」治療では、治療に伴うQOLを高めることが重要であること
を考えるのであれば、わが国発の「安全・安心・健康」分野の研究開発成果である重
粒子線(炭素線)がん治療装置を展開し、当該地域のがんに対する戦略的な医療体
制の整備に、貢献することには、大きな意義があると考えられる。
重粒子線(炭素線)がん治療装置およびその利用に必要な治療経験をベースとし
たノウハウは、わが国ならではの研究開発をベースとした知的活動の集積であり、そ
の東南アジア諸国への展開は、当該地域に対するわが国にしかできない、平和的・
社会文化的な貢献として、わが国の存在感を高めることにもつながるであろう。
重粒子線(炭素線)がん治療装置を医療システムとして当該地域に提供することは、
医療人材の育成を含め、長期定期な観点で当該地域の医療という社会構造の基盤
部分においてわが国発の知恵が重要な役割を担うことにつながり、当該地域とわが
国の友好関係を強化することにつながると考えられる。
13
2)わが国の医療機器産業の活性化
わが国の医療機器産業は、軟性内視鏡のようにわが国のメーカー3 社が世界市場
を独占している分野は例外で、世界市場において劣性である。(13) ある程度日本企業
が世界シェアを維持しているCTについても、図 6 のように、日本企業は欧米企業の後
塵を拝している。また、国内市場においては、輸入超過の状態が続いている。(図 7)
2%
15%
32%
GE
Siemens
東芝
Phillips
25%
日立
26%
図 6 CTの医療メーカー別世界シェア(2009)
(出典)みずほコーポレート銀行 「医療機器メーカーの成長戦略」(2012)
http://www.mizuhocbk.co.jp/fin_info/industry/sangyou/pdf/mif_111.pdf (2013 年 5 月 8 日閲覧)
14
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
輸出(百万円)
(百万円)
輸入百万円
400,000
200,000
0
2007
2008
2009
2010
2011
図 7 日本の医療機器の輸出額・輸入額の推移
(出典)厚生労働省 平成 23 年薬事工業生産動態統計年報の概要
http://www.mhlw.go.jp/topics/yakuji/2011/nenpo/ (2013 年 5 月 8 日閲覧)
重粒子線(炭素線)がん治療装置の国内市場は、わが国のがん患者の総数を考え
てもさほど大きくないことから、国内市場だけでは供給側のメリットもさほど大きくはな
い。また、上述のように輸入の大幅超過となっているわが国の医療機器産業を活性
化するという観点からも、わが国が独自に開発してきた重粒子線(炭素線)がん治療
装置を、積極的に海外展開し、国内外無差別の市場を形成していく必要がある。
重粒子線(炭素線)がん治療システム全体の売上げ規模は、立地点の社会経済環
境等の差異により大きく変動するものの、完成後 10 年間程度の保守管理契約等をも
考慮するなら、1基当たり三百億円から四百億円程度と見込まれる。
(2)海外展開促進策
現在、炭素線がん治療装置システムを商業規模で展開する技術的能力を有する
日本企業は数社ある。上述の通り、重粒子線(炭素線)がん治療装置は、そのがん治
療実績にもかかわらず、国内市場が必ずしも大きくないことから、今後は、国内外無
差別でその普及を図る必要がある。しかしながら、いくつかの例外を除き、どの社も
海外における恒常的な受注の目途は立っていない。
15
他方、炭素線によるがん治療装置の開発を手掛けている海外企業も存在するが、
現在商用化している企業はわが国の企業以外にはないのが現状である。
したがって、実績および技術において勝るわが国としては、炭素線がん治療装置を
順次海外に展開して行くことを念頭に、国として具体的な政策パッケージを用意する
必要がある。そうすることで建設案件が継続して確保できれば、量産効果による建設
価格の一層の低廉化も期待できるであろう。
1)人材育成・供給
先進的な医療装置がスムーズに医療現場に投入されるためには、それを安全、確
実に使いこなすことができる人的な体制が構築されなければならない。このため、今
後、東南アジア諸国にわが国で開発された炭素線がん治療装置を中心とした病院コ
ンプレックスを設置するとき、放射線科医のみならず、医学物理士、診療放射線技師、
放射線に関する理解のある看護師等が適切に養成され供給される必要がある。
重粒子線(炭素線)がん治療は、さまざまな専門分野の医療スタッフによる共同作
業である。すなわち、放射線治療医(治療・診断・治療計画の決定)、医学物理士(施
設及び治療装置の安全確保・管理、治療計画、治療技術の開発)、診療放射線技師
(治療装置の操作、必要な治療用具(固定具等)の製作)看護師(患者看護・介護)、
治療計画技術者(治療計画作業)等、放射線に関する専門的な知見を有するスタッフ
の共同作業である。
定常時年間 1000 人超規模の治療を想定すると、これらのスタッフは、自動化等、
今後の技術開発等の成果を踏まえ大きく変動する可能性があるものの、数十名規模
で必要となると考えられ、効果的、計画的に養成していく必要がある。(14)
重粒子線(炭素線)がん治療装置を東南アジア諸国に展開する場合、各国におけ
る大きな課題の一つが、これら専門人材の確保である。例えば、東南アジア地域では、
核医学専門医はまだ少なく、積極的に養成する必要がある。
このため、わが国としては、装置自体の計画・建設と並行して、現地で働く上述のよ
うな多様な専門的人材を効果的、計画的に養成するための支援体制を構築する必要
がある。
このような人材を養成において、一定水準の質を確保するためには、放射線医科
学の多様な領域、すなわち、放射線生物学、発生生物学、医学、看護学、物理学、工
学、化学、薬学、獣医学、疫学、心理学、インフォマティクス等々、さまざまな学問領域
の共同作業が必要である。放医研に設置されている研究開発病院において、行われ
てきた人材の養成は、今後の国内外における普及をにらみながら、放射線医科学の
知見を活かしつつ、十分整備する必要がある。有償による各専門領域の人材養成及
び(定期的な)認定試験の実施による人材育成、人材の質向上体制の構築も有効で
あろう。
16
2)初期投資
炭素線がん治療装置施設の建設運転には、多くの初期投資が必要である。このこ
とが、国際展開上の大きな課題と言える。
具体的には、例えば、建屋建設費用、装置本体建設費用(据付・試運転含む)、診
断機器設置費用(CT、MRI 等)等が当初必要である、また、運転開始後も保守・メンテ
ナンス費用が必要となる。さらに、施設運用に必要な人材の確保のための費用がこ
れに加わる。
これまでのわが国内における実績と、現在放医研で進められている新しい照射方
法の臨床応用の成果を考えると、年間の治療患者数を 1000 人超規模と想定すること
が可能であるが、建設開始後、当該規模で施設運用が定常化するには、建設・据付・
試運転に 3 年かかるとして、5~6 年程度の期間が必要であろう。
炭素線がん治療装置の海外展開を可能とするには、この初期、例えば 5~10 年の
間に必要な資金を確保する必要がある。
したがって、炭素線がん治療施設を東南アジアに展開するためには、日本の政策
金融、アジア開発銀行の融資(PPP プログラム(15))等、現地における設立母体の多様
性に対応して、公的なファンドを柔軟に活用できるように措置することが必要であり、
特に、当該施設が経常的に収益を上げるまでの間(例えば 5~10 年)、借入資金の返
済を猶予するシステムを、わが国が提供できるようにすることが重要である。
図 8 に、わが国の政策金融機関等の資金提供を念頭に置いたビジネスモデルの
一例を示す。
図 8 重粒子線(炭素線)がん治療装置の海外展開のための資金計画モデル例
17
3)輸出対応の技術開発等
日本以外の地に大きなシステム技術を展開する場合、システム引き渡し以降の運
転管理をより容易なものにしておくことは、展開した技術の信頼性確保の観点からも、
重要なことである。
例えば、メンテナンスフリー、リモートメンテナンス、モジュール化、自動化などの技
術は、海外展開した装置の、その後長期にわたる保守点検等を容易にし、コストパフ
ォーマンスを高めるために非常に重要である。これらのための技術開発等は、従来、
各企業が独自に行い、各企業独自の付加価値とされる領域であるが、医療装置の場
合、標準装置の小規模な改造でも各国の規制当局の規制対象となる場合が想定さ
れるため、各企業がこれらの技術を単独で開発することは、海外展開の遅延要因に
なりかねない。
このため、こうしたいわゆる産業技術領域に属するような技術開発についても、そ
の国際標準化を念頭に置きつつ、適切な公的資金による研究開発が進められるべき
であろう。
なお、いわゆる国際標準をわが国の研究開発成果に準拠させることは、当該技術
の国際展開上非常に重要である。粒子線がん治療装置に関しては、国際電気標準
会議(IEC)の場で、現在、安全性等に関する規格案が検討されており、わが国の産業
界関係者も審議に参画している。国としても、こうした検討段階の活動を積極的に支
援することが望まれる。
4)重粒子線(炭素線)治療計画システム等の開発と利用
放射線がん治療に当たっては、各患者の状態に対応し、がん細胞のみに適切な線
量が投与されるよう慎重に治療計画を作成する必要があるが、そのためにはシミュレ
ーションによる繰り返し等による評価を行わなければならず、非常に手間暇のかかる
作業となっている。このため、適切な放射線治療がスムーズに行われるためには、治
療計画システムの高度化が不可欠である。特に重粒子線(炭素線)がん治療におい
ては、線量集中性、高い生物効果という特徴を生かすためにも、高度な治療計画シス
テムの導入が必要であり、放医研においてもその開発が行われてきている。
今後の粒子線(炭素線)がん治療装置の国内外展開に当たっては、単に装置自体
を展開するだけという発想ではなく、後述するように、導入先で蓄積される臨床データ
をわが国に集積し、学術的に分析評価し、その結果を各国の臨床現場にフィードバッ
クすることが重要となるが、それへの対応を可能にするためにも、日本発の治療計画
システムの標準システムを開発し、治療装置自体とともに展開する必要がある。(16)
残念ながら、従来、治療計画システムの選択は各臨床現場における親和性等が重
視されるので、多くの場合、欧米企業が開発した実績のあるシステムが採用されてき
ているが、今後世界的に重粒子線(炭素線)がん治療装置の導入が進展する場合に
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は、メディカル・スタッフやコ・メディカルスタッフの養成段階から、わが国で開発した、
重粒子線(炭素線)がん治療装置に最適な治療計画システムに習熟させ、この治療
計画システムを搭載した重粒子線(炭素線)がん治療装置による治療が広く行われる
道を追求すべきであろう。
5)臨床データの集積と活用
医学の一層の発展を図るためには、海外に展開した重粒子線(炭素線)がん治療
を通じて得られる臨床データを集積し分析した結果を各臨床現場にフィードバックす
ることが重要である。これを可能とするためには、個人情報の管理問題に抵触しない
ような情報の集積体制、治療後のデータ集積体制の構築等、医療現場の協力体制
確保が不可欠である。
このような臨床データの集積・フィードバック体制が構築されれば、東南アジア諸国
を念頭に置いた、いわゆる医療ツーリズムにより日本国内で治療を受けた患者の帰
国後のケアに当たっても、日本の医療と適切な連携が可能となるであろう。わが国発
のがん治療システムをコアとした、国境を越えた病院間のネットワークシステム、つま
り医療圏の構築である。
今後、重粒子線(炭素線)がん治療装置の国際展開を促進するために、必要なスタ
ッフの養成、供給をわが国が積極的に行うことが重要であることは上述した通りであ
るが、その養成は、単に粒子線がん治療の実施を可能とする専門人材でわが国に親
近感を持つ人材を増やすという意味に留まらず、診断、治療、予後の各臨床現場で
蓄積された臨床データを集積、活用し、プロトコル等の更なる改良を通じて、重粒子
線(炭素線)がん治療を一層高度化するという、一連のプロセスの担い手を広く国内
外に見いだすことにつながる。
そうすることで、重粒子線(炭素線)がん治療の不断の高度化を世界レベルで速や
かに一層促進することができ、同時に、わが国発の技術を海外展開する場合の多く
に伴う、当該技術領域におけるわが国の相対的技術力の低下問題を未然に解決す
ることも可能となるであろう。
(3)将来のさらなる展開に向けた布石
重粒子線(炭素線)がん治療は、わが国発の放射線医科学分野の基礎的な研究
開発と臨床研究経験の蓄積の双方が織りなす最先端科学技術の成果である。今後、
世界的にこの成果を展開し、最先端がん治療の実を上げるためには、両者の協働を
可能とする研究開発体制を維持・発展させつつ、治療に先立つ早期発見のための適
切な診断を含め、診断と治療の全体をパッケージとして展開することが必要であろう。
例えば、分子イメージングの多彩な研究開発の成果と読影技術の向上を踏まえ、非
侵襲の高度な画像診断と重粒子線治療とを有機的に連携し、治療前の診断のみなら
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ず、リアルタイムで治療と治療の確認ができる技術開発(17)等も重要であろう。その詳
細は、本稿の範囲を超えるが、重粒子線(炭素線)がん治療を将来のがん治療の中
心として、一貫した最先端の、日本の知恵による診断・治療システムを構築、提供す
るとともに、更には、その他の日本製の高度な医療機器をも含め、これらをパッケー
ジとして高齢化が進展する世界に展開することは、最先端の科学技術力を総合的に
有するわが国らしい、国際貢献の姿であろう。
また、今後わが国が推進する様々なインフラシステム輸出案件において、日本発
の「安全・安心・健康」の象徴としての重粒子線(炭素線)がん治療装置の海外展開と
の連携を図ることは、当該システム輸出案件に新たな観点からの付加価値をつける
ことになり、また、建設資材、建設に携わる人材の調達・管理等において両者連携に
よる合理化を図ることができれば、重粒子線(炭素線)がん治療装置単機で展開を図
る以上のメリットがあると考えられる。このことから、今後、例えば、資材・人材の調
達・管理等建設段階で共通部分のある交通・エネルギーインフラ等、インフラシステム
輸出案件と重粒子線(炭素線)がん治療装置の海岸展開との連携を積極的に考える
べきであろう。
なお、医療ツーリズムにより現在計画されているわが国の重粒子線(炭素線)治療
施設への海外からの受け入れ患者数を増やしていく努力は、日本の最先端の重粒
子線(炭素線)治療の評判を海外に広め、ひいてはインフラ輸出の促進に相乗効果を
もたらすであろうことを追記しておきたい。
7.おわりに
重粒子線(炭素線)がん治療措置の海外、特に東南アジアへの展開は、社会の高
齢化に伴い各国で関心が高まるであろうがん治療に対し、日本発の QOL の良い治療
方法を提供し、当該地域の「健康の増進」に貢献するという、単なる工業製品輸出を
超える大きな意味を有する。
これは、最先端かつわが国ならではのきめ細かく、精緻な研究開発力を医療目的
に特化、わが国で培ったノウハウとともにパッケージ化したものであり、その展開によ
り「生命の安全の確保」とそれに伴う「安心感の醸成」という、人間社会の根本的な価
値に対する新たな可能性を、当該地域にもたらすものである。
こうした活動は、平和国家としてのわが国ならではの国際貢献であり、わが国の国
際的なイメージを一層良好なものにする可能性を秘めていると考えられる。
また、こうした活動は、人材養成等との組み合わせにより、海外展開に伴うさまざま
な経験がわが国にフィードバックされるシステムを構築するという意味で、わが国にお
ける更なる技術発展につなぐことを可能とするものである。
以上のことから、わが国としては、放射線医科学分野の基礎から臨床応用に至る
研究開発体制を更に強化しつつ、その成果を活用し、わが国発の最先端科学技術パ
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ッケージとしての重粒子線(炭素線)がん治療システムの海外(特に東南アジア)展開
に、官民を挙げた協力体制を構築するとともに、必要な諸施策を収斂させるべきであ
ろう。
そうすることで、わが国が築き上げてきた高度な科学技術力により、諸外国の幸福
度を高めることに貢献することが可能となる。これこそ、平和国家日本らしい、国際貢
献の姿ではなかろうか。
(注)
(1) OECD、OECD 幸福度白書(2012)
(2) 内閣府、平成 22 年度国民生活選好度調査(2010)
(3) 内閣府経済社会総合研究所、幸福度に関する研究会報告-幸福度指標試案-
(2011)
(4) 従属人口指数((年少人口+ 老年人口)÷ 生産年齢(15 歳~64 歳)人口)の値
が減少傾向にある期間を「人口ボーナス」期と言い、増加傾向にある期間を「人口
オーナス」期と言う。
(5) 加藤巌、東南アジアの人口動態と日本の経験の有効活用を考える、和光大学総
合文化研究所年報「東西南北 2012」(2012)
(6) 経済産業省、通商白書 2010(2010)
(7) 東アジア地域における少子高齢化がもたらす社会構造の変化については、既に
様々な研究がなされている。例えば、小島宏 東アジアの少子・高齢化と社会構造
の変化(2003)
(8) 内閣府、平成 24 年版高齢社会白書(2012)
(9) 英国「エコノミスト」編集部 2050 年の世界(2012)
(10) WHO/IARC、Human development central to changing cancer burden (2012)、
http://www.iarc.fr/en/media-centre/pr/2012/pdfs/pr212_E.pdf (2013 年 5 月 8 日
閲覧)
(11) 広川裕、「放射線療法と QOL」(1998)
(12) 放射線医学総合研究所、
http://www.hirt-japan.info/medical/current/result.html (2013 年 5 月 8 日閲覧)
(13) みずほ情報総研株式会社 「医療機器の海外市場における展開可能性につい
て」(2012)
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2012/0814.html (2013 年 5 月 8
日閲覧)
(14)重粒子線(炭素線)がん治療に特化した検討ではないが、「がん診療連携拠点病
院指定要件(放射線治療部門)の改定に向けての提言」(「がん医療の均てん化に
資する放射線治療の推進及び品質管理に係る研究」班、2012)において、放射線
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治療医、診療放射線技師、医学物理士、看護師等の配置体制等についての検討
が行われている。
(15) Public-Private Partnership(PPP)。 アジア開発銀行(ADB)が、アジア地域の
貧困削減という目標を達成するために、民間活力の育成を図ることを念頭に、社
会インフラ等の構築に融資を実施するプログラム。PPP のスキームには、プロジェ
クト全体額におけるアジア開発銀行融資の上限として一定の枠が設定されてい
る。
(16) 特許庁の「平成22年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 先端癌治療機
器」(2011)によれば、わが国からの粒子線がん治療装置にかかる特許出願は多い
ものの、治療計画装置に関する出願は、欧米に比べ際立って少ない。このため、
「日本は、技術的な優位性を持つ粒子線治療装置において、海外での特許取得を
更に進めて市場での優位性を確保していくとともに、その装置の小型化や低コスト
化を図っていく必要がある。さらには、システムとしての放射線治療装置の開発が
できるように、単なる治療計画装置でなく治療計画システムに関する出願を戦略的
に積極的に進めていくことが望まれる。」とされている。
(17) Open-PET に関する研究開発については、以下を参照。
http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/saisyu/sanko19.pdf (2013 年 5 月 8 日閲覧)
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