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最高裁判所が提唱する『弁護士強制制度』に対する意見書 2312.28
平 成 23年 12月 28日 最高裁判所長官 竹崎 博允 様 東京 青年 司法 書 士 協議 会 漬 口 宏明 東京都練馬区石神井町 3 丁 目2 5 番 4 号 ダイアパ レス石神井公園 7 0 2 会長 Tel:03‐5923‐6851 2312.28 FAD【 :03‐ 5923‐6852 Inail daihyo@tokyo‐ ssk.org e‐ URL http:〃www.tokyo‐ssk.Org/ 最高裁判所 が提唱する 『 弁護士強制制度』 に対する意見書 23:12.28 意見 民 事 事 件 にお い て 、弁 護 士 の選 任 を強制 す る「 弁護 士 強 制 制 度 の 導 入 」には反 対 であ る。 意 見 の理 由 1 貴庁 が 本 年 7 月 8 日 に公 表 した 「 裁 判 の 迅速 化 に係 る検 証 に 関す る報 告 書 ( 第 4 回 ) 」 にお い て 、民事 訴 訟 事件 一 般 に共 通す る長期 化 要 因 の一 つ に 「 本 人 訴訟 」 の 存在 を指 摘 し、それ に対応 す る強 化 施 策 と して 「 弁護 士 強制 制度 」導入 の 可能 性 の 検 討 が 報 告 され て い る。 しか し、以 下 の 理 由か ら、弁 護 士 強制 制度 の 導入 に つ い て は反 対 で あ る。 2 まず 、本報告書では、弁護 士へのアクセスの現状について、①当事者 の中には 資力があるに も関わらず弁護 士 を選任 しない者 も多い。②本人訴訟 の当事者 の 中 には経済的理由で弁護 士に依頼 しないとい うより、む しろ本人 自身による訴訟追 行 を積極的に望んでい る者が少なか らず い る。③裁判官 が 当事者本人に弁護 士 を 代理人に選任するよ うに促 しても、なかなか選任 しない場合 が多い。当事者本人 の性格や コス ト意識 が影響 してい る可能性がある。④ いわゆる勝 ち筋 の事案なの に弁護 士 を頼 まな い 当事者本人や 当事者双方 にそれな りの言 い分 の ある本人訴 訟 が増 えてい る、 と述べ られてい る。 以 上か ら、市民 の 中には、経済的理 由で弁護 士 を利用できないか ら本人訴訟 を 仕方 な く選択 しているとい うケース ばか りでない とい うことが導 かれ るが、本報 告書 自身 も 「 本人訴訟 の割合は従前 か らそれほ ど変 わつていないが、弁護 士 にア クセスできるに もかかわ らず、自ら訴訟を追行 したい と考える当事者 の割合 が増 えてきてい る。」 と、自ら裁判を追行 したい と考 える市民がい る ことを認 めてい る。 これ らを裏付 けるよ うに、民事訴訟利用者調査報告 書 (司法制度改革 審議会 h t t p : / / w w w o k a n t e i . g o . j p / j p / s i h o u s e i d o / t y o u s a / 2r0e0p1o/rstuor vhetym一 l)に は、本人訴 訟 を自らの意思 で追行す る理 由 として裁判 の実際を 自分で体験 した い ・弁護 士 を頼むほどの事件ではなかつた ・個人的な事情を弁護 士に も話 した く な か っ た と い う記 述 及 び 表 も 存 在 し て い る (表 3A-9-5 h t t p : / / wvwo、 k a n t e i . g o o j p / j p / s i h o u s e i d O / t y o u s a / 2 0 0 1 / p d f s / t a b l e 2 , p d f ) 。 したがつて、弁護 士強制制度を導入す るので あれば、まず 、弁護 士等 の代理人 を就 けず に訴訟 を追行 したい とい う市民 の権利 が制約 され る事実 を充分 に認識 しなければな らない。 3 また 、裁 判 の 迅 速化 の 実 現 の観 点 か ら、市 民 自身 が 手続 きに対 して 不慣 れ な た め に遅 滞 が生 じて い る こ とに 対 して は 、法教 育 の 推進 ( 具体 的 には 市 民 を対象 と した裁 判 手続 きや 法律 に 関す る市 民講座 を開催 す る等 ) 、 弁護 士 会 ・司法 書 士 会 等 に よる法 律 相 談 の 普 及 に よるべ きで あ り、経 済 的理 由に よ り弁 護 士 を就 け られ な い 市 民 に 対 して は 、法律扶 助 の推 進 に よるべ きで あ る。 ま た 、弁護 士 に 関す る 情報 が少ないことによ り弁護 士に依頼せ ず、本人訴訟 を行 う市民に対 しては、弁 護 士の専門分野な どの情報公 開によるべ きであ り、本人訴訟 に対応す る ことで、 裁判官や書記官 の労力が増 え、そ の結果、裁判所全体 の訴訟が遅延することに対 しては、裁判官や書記官 の人数を増やすな どの裁判所 の制度改革 によるべ きであ る。 このよ うに、裁判 の迅速化 には、様 々な機関が連携 し、総合的な対策 が必 要 で あ り、弁護 士強制制度 を導入 した としてもその解決 には向かわない。 4 ところで 、弁護 士 強制 制度 は 、憲 法 の 規 定 か らみ て 非 常 に危 険 な もの で あ り、 看過 で きな い 問題 で あ る。 まず 、憲法 第 1 3 条 には 、個 人 の 尊重 が 国政 の 上 で 最 大 限 の 尊 重 を必 要 とす る 旨が 規 定 され てい る国 民 一 人 一 人 は 、自らの信 じる ところに従 い 自身 の 幸福 を追 求す る とい うあた りま えの こ とをあ えて 明文化 し、これ を国 は 最 大 限尊 重 しな け れ ば な らな い の で あ る。 国家機 関 は 、個 人 を尊重 し、個 々人 の権利 が よ りよ く実現 され る とい う目的 に 資す るた め に こそ 存在 す る の で あ り、国 家機 関 の維 持 を助 け るた め に 国民 が 存在 す るわ けで は な い 。国 民 一 人 一 人 が 他 人 の 主 義や 志 向 にか か わ りな く、 自 らの 手 で 自律 的 に 自身 の 幸福 を追 求 で き る よ うにす る こ とが 国家機 関 の 責務 で あ り、国 家機 関 は、 この 責務 を達成 す る限 りにお い て 、主権者 か ら権 限 を委 ね られ て い る ので あ る。 以 上 の とお り憲 法 第 1 3 条 の 規 定 か らみれ ば 、本 来 、司法制 度 に 限 らず 、国民 が国の制度を利用するにあたっては、 『自分 自身で行 う』、 『専門家などに相談 し、ア ドバイスだけをもらう』、 『専門家に書類作成だけを依頼する』、 『専門 家 に代理人 となって代わ りにや ってもらう』等、どの ような手段を選択するかは、 いずれ も自由に選ぶ ことができるのが原則 である。 したがつて、国家機関の志向が国民の権利 がより自律的に実現 されることでは な く、 国民 の 権利 の 制 限 に向か うこ とを主 権者 た る国民 は決 して 許 さな い 。 5 ま た 、憲 法第 3 2 条 で は 、裁 判 を受 け る権利 が保 障 され て い る の は 当然 の こ と と してお り、国民 一 人 一 人 が 自身 の 権利 の 実現 に つ き 自己で な し得 る こ とが理想 で あ り、原 則 で な くて は な らな い 。 そ して 、国 と して は、憲 法 第 3 2 条 を踏 ま え た上 で 、上述 した い ず れ の 選 択肢 を も容 易 にす べ く、そ の 制 度 を整 え る義務 が あ る とい え る。 に もかか わ らず 、裁 判 の迅 速化 、効 率化 を 目的 と して 、本 来補 完 的 役 割 で しか な い は ず の 弁 護 士 選 任 を強 制 す る制 度 導 入 へ 舵 を切 ろ うとす る こ と は本 末 転倒 に他 な らな い。 6 この 度 の 弁護 士 選任 強制 制 度 の 導入 を 目指す 裁 判所 の 志 向 は 、非 常 に 多 くの 問 題 を内包 す るに もか か わ らず 、憲 法上 の 問題 につ い て 特段 の検 討 を加 えた 様 子 も な く、単 に 「 裁 判 所 の 」事務 処 理 負 担 の軽 減 を理 由 と して い る こ とは 検討 資料 中 か ら明 らか で あ る。 この よ うな杜 撰 な理 由で 、国民 の 権利 を制 限 で き る と考 え 、 ま して や 国民 の議 論 、そ して 国民 の選 択 で あ る立 法 に よ らず して 、それ を為 し得 る と考 え る こ とは 言語 道 断 で あ る。 7 なお 、す で に東京 地裁 民事 20部 にお い て 、弁護 士 の選 任 の な い破 産 申立 事 件 につ い て は 、法律 に根 拠 の な い 「 運 用 」 と してそ の 選任 を執拗 に求 め 、 さ らに少 額 管財 事件 に移 行 した 場合 の 予納金 の 額 に も、そ の 選任 の 有無 に よ つ て 、お よそ 根 拠 の な い 差 を設 け る こ とに よ っ て事 実 上 の 弁護 士 強 制 と して 本 人 申立 を排 除 して きた経 緯 が あ る。 この よ うな 「 運 用 」は 、裁 判 所 の負 担 の 軽 減 を 目的 と して 、 そ の 施 策 を弁 護 士 選 任 の 強制 に求 めた こ とは想 像 に難 くな く、そ の 結 果 は市 民 に 経 済 的負 担 を強 い る こ とに 繋 が り、ひ い て は法 的救 済 の 道 が 閉 ざ され て しま う可 能性 を多分 に含 む もの で あ る。実 際 、弁護 士 を選 任 せ ず に破 産 申立 を した生 活 保 護 受 給者 が 、予納金 の 予納 が で きず にそ の 申立 を棄 去「され る とい う事例 が 当会 に 報 告 され て い る現 状 で あ る。 同報告書で、 「 弁護 士 にアクセスできるに もかかわ らず 自ら訴訟 を追行す る当 事者 の割合 が増加 している現状をも踏 まえ」との指摘 もあるよ うに、市民 が 「 本 人訴訟」を選択す る本 当の原 因に向き合 うことな く、裁判所 の負担 の軽減、訴訟 の迅速化 0効 率化 のために訴訟代理人 の選任義務化を企図することは、東京地裁 民事 20部 の 「 運用」 の過 ちを繰 り返す ことに他な らない。 8 裁 判 所 を通 じて の 自己 の権利 の 実現 の 追 求 にお い て は 、法律 専 門家 に依 頼 を希 望す る全 て の 市 民 が 経 済 的 、地域 的理 由 にか か わ らず 依 頼 が で き、本 人 自身 で の 追行 を希 望 す る場合 に は 、そ の 道 を閉 ざ さな い こ とが 、広 く多 くの 市 民 に利 用 し や す い 制 度 で あ り、あ るべ き司法 の形 で は な い だ ろ うか 。人 権 の 最 後 の 砦 と して 、 そ の 役 割 を果 た す べ き裁 判 所 が 、他者 を介在 させ な けれ ば 権利 の 実 現 が で きな い 制 度 を導入 す る とい うこ とは 、市 民 の 権利 を抑 制 す る こ とに等 しく、それ は市 民 を裁 判 所 か ら遠 ざけ る結果 に繋 が りかね な い 。 以 上 、当会 は 弁護 士 強制 制 度 を導入 す る こ との 弊 害 を危 惧 す る と と もに、市 民 の 生活 や 経 済活 動 に 、よ り密 接 な民事 訴訟 が よ り利 用 しや す く信 頼 で き る もの に な る こ とを切 望 す べ く意 見 を述 べ る もの で あ る。