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大画面インタラクションシステム:UBWALL

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大画面インタラクションシステム:UBWALL
大画面インタラクションシステム:UBWALL
Interaction System Using Large Display: UBWALL
あらまし
57, 3, 05,2006
ユビキタス社会を実現するIT機器は,これまでモバイル端末が主流であった。著者らは,
現場に設置される環境埋め込み機器が今後重要性を増し,さらに,環境埋め込み機器とモバ
イル端末との相互作用が,世の中に変化をもたらすと想定している。すでに,空港,駅,店
舗などの現場で広告効果の高い大画面のディスプレイが使用されているが,片方向の情報提
供サービスにとどまっている。一方,お得意様カードや定期券などの非接触ICカード化は
目覚ましく,今後も各社の活発な活動が予定されている。さらに,インターネット広告がラ
ジオ広告を上回るとともに,マス広告であるTVコマーシャルが効かなくなってきている。
本稿では,大画面による「気づき」,
「インタラクション」
,非接触ICカード使用の「パー
ソナライズサービス」の特徴を持つ環境埋め込みシステム“UBWALL”を紹介し,そのイ
ンタフェースや適用場面,および現場広告の効果などに関して説明する。
Abstract
Until now, the main IT device for ubiquitous computing has been the mobile terminal. IT
devices installed in actual site are expected to become more important in the future, and the
interaction between these devices and mobile terminals will bring a big change to society.
Large advertisement displays are already being used at locations such as airports, stations,
and stores; however, they still provide information in only one direction. On the other hand,
contactless IC cards are widely used, for example, as membership cards and commuter
tickets.
Fujitsu’s UBWALL is a large display device that provides bi-directional and
personalized information services to people carrying a special contactless IC card. This
paper describes UBWALL and some examples of using UBWALL to display advertisements.
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尾崎 暢(おざき とおる)
内藤宏久(ないとう ひろひさ)
紀伊隆弘(きい たかひろ)
ビジネスインキュベーション研究所
所属
現在,UBWALLなどのビジネスイ
ンキュベーションに従事。
ビジネスインキュベーション研究所
所属
現在,ユビキタスシステムの研究開
発,およびビジネスインキュベー
ションに従事。
ビジネスインキュベーション研究所
所属
現在,UBWALLのシステム開発,
およびビジネスインキュベーション
に従事。
FUJITSU.57, 3, p.314-319 (05,2006)
大画面インタラクションシステム:UBWALL
ま え が き
「いつでも」「どこでも」「だれでも」ITを享受
る。使用されている理由は,大画面の視認性の良さ,
リアルタイム情報をすぐに反映できること,および
大画面ディスプレイの価格低下が主である。しかし,
することができるユビキタスの世界が広がりつつあ
案内や広告などの広告主からの片方向の情報の流れ
る。これまで,ユビキタス社会を実現するための
での使用に限定されているのが現状である。
IT機器は,携帯電話,PDAなどのモバイル端末が
一方,店舗などの現場に置かれている双方向の情
主流であった。しかし,これらの端末の操作は,複
報端末としては,KIOSK端末がある。この端末は,
雑な場合が多く,誰でもがすぐに必要な情報を入手
様々なことができる反面,一見して何ができるのか
できるとは限らない。例えば,現状の携帯電話は,
分からなかったり,求める情報に行き着くまでに,
一昔前のPCの機能を備えており,いろいろなこと
かなり多くの操作が必要であったりするため,明確
ができる反面,使いこなすには,それなりの知識と
な目的を持った人のみが利用する傾向がある。
時間が必要であり,ある意味でデジタルデバイドを
● ICカード/RFIDタグの普及
発生させてきた。また,使いこなしているユーザで
国内では,消費者が所有するクレジットカード,
も,レストランに行ったときにその場でクーポンを
お得意様カード,定期券などのカードのICカード
取得するのに時間を要するなど,必要な情報に行き
化は目覚ましく,近ごろは,非接触型ICカード普
着くにはかなりの時間を要することが多々ある。
及を目指した各社の活発な動きがある。例えば,交
また,RFIDタグもユビキタス社会を実現するた
通系では,定期券と電子マネー機能を併せ持つ
めの代表であり,店舗の商品に添付されたり,道路
Suica,ICOCA,ICい∼カードなどが既に普及し,
に埋め込まれたりする試みが増えてきた。これは,
2007年には,首都圏の電車・バスに乗車できる
モバイル機器だけでなく,現場にIT機器を埋め込
PASMOも導入される予定になっている。また,
んだり設置したりすることが,今後重要になってく
プリペイド式電子マネーのEdyや,ポストペイ型
ることを意味している。
電子マネーのQUICPayも店舗での決済にかなり利
著者らは,現場に設置される環境埋め込み機器が
用されている。
今後重要性を増し,それらの機器が普及するととも
さらに,これらの非接触型ICカード機能は携帯
に,それらの機器とモバイル端末との相互作用が,
電話に搭載される方向で,Suica,Edy,QUICPay
世の中に変化をもたらすと想定している。現場に設
は既に利用できるようになっている。
置される機器は,個々のユーザの利便性を増すこと
一方,前記のような消費者が所有するIDカード
に加え,その現場で事業を展開されている企業の事
機能とは別に,低コストのRFIDタグが利用可能に
業価値を高めることが,より一層重要となる。そこ
なったことにより,テーマパークの入場券などのア
で,著者らは,お客様の事業価値を高めていただく
ドホックな場面でのIDカード機能の利用も進むと
にはどうしたらよいかを念頭に置き,環境埋め込み
考えられる。
機器を用いたバリューイノベーションの研究開発を
● 広告市場の遷移
行っている。
国内の広告市場(2005年における市場規模は6.0
本稿では,この研究の一環として開発した,大画
兆円)では,インターネット広告費がラジオ広告費
面によるインタラクションで双方向情報サービスを
を上回るなど顕著な伸びを示しており,市場遷移が
提供する環境埋め込み機器“UBWALL”に関して紹
起きつつある。インターネット広告が伸びている理
介する。
由の一つとして,インターネットの一般化が進み,
周辺ビジネス環境
● 大画面ディスプレイの現場適用とKIOSK端末
ユーザのインターネット接触時間がテレビに次いで
長くなっていることがあるが,インターネット広告
が従来の広告とは異なり,双方向性を持ち,広告効
近ごろ,空港や駅などでの案内情報提供用,店頭
果が定量化できることも大きな理由であると考えら
でのプロモーション用,街頭での看板・広告用など
れる。例えば,インターネットの検索サイトでユー
に,大画面ディスプレイが使用され効果を上げてい
ザがあるキーワードを入力して検索すると,その
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大画面インタラクションシステム:UBWALL
キーワードに応じた広告が現れる。その広告料は,
オークションで決まるキーワードの価値に応じて決
定され,高価なキーワードは検索1回につき数千円
を広告料として徴収できる。
に説明する。
(1) 気づき
空港,駅,店舗,街頭などの現場においては,そ
の場にいる人に対して,情報提供のきっかけとなる
また,不特定多数に対するマス広告であるTVコ
「気づき」を与えることが重要である。そのために,
マーシャルより,口コミやブログを利用するなど,
大画面で動画表示も可能なディスプレイとして
広告もマスからセグメント指向/メディアミックス
PDP(試作機は63インチ)を用いた。さらに,遠
指向となっている。
くからの視認性を考慮し,画面を90度回転し,縦
UBWALLのコンセプトと基本構成
前述した背景をもとに,著者らは,大画面の視認
性の良さを生かした双方向の情報流通が可能な大画
面インタラクションシステム“UBWALL”を開発
型の形状に配置した。このディスプレイに,一目で
内容が理解でき,その場にフィットしたコンテンツ
を動画や画面遷移も使用して表示し,その場にいる
人により効果的な「気づき」を与える。
(2) インタラクション
した。UBWALLは,空港,駅,店舗,街頭などの
「気づき」によって表示された内容に興味を持っ
消費者に密着した現場で双方向サービスを行うこと
た人は,さらに情報を得ようとUBWALLに近づい
で,消費者の利便性の向上,およびそこで事業を
てくる。ある程度近づいたときに,モーションセン
展開されている企業の事業バリュー向上をねらって
サがそれを検知する。この検知により,大画面に
(1) そ の ね ら い を 実 現 す る た め に ,
開発した。
表示しているコンテンツが,気づき用からインタ
UBWALLは,現場サービスで今後重要になる「気
ラクション用に変更され,タッチパネルなどによる
づき」
,
「インタラクション」
,「パーソナライズサー
操作が可能になる。近づいた人は,この時点で
ビス」という三つの特徴を備えている。これらの特
UBWALLのユーザとなる。ユーザがその場を離れ
徴を,大画面のタッチパネル付PDP,モーション
ると,大画面の表示は,もとの気づき用コンテンツ
センサ,複数の非接触型ICカードリーダ/RFIDタグ
リーダ(以下,リーダ),およびPCから成るハード
ウェアで実現している(図-1)
。
に戻る。
(3) パーソナライズサービス
インタラクションまでは,その現場の誰でもが受
なお,UBWALLは,PDP型のほかに投射ディス
けられるサービスであるが,このパーソナライズ
プレイ型もある。以下に,三つの特徴に関し具体的
サービスは会員やお得意様向けのサービスである。
サービスの内容は,広告の内容をその人の興味のあ
モーション
センサ
りそうな内容に絞る,割引クーポンを提供する,予
約サービスを提供するなどがある。ユーザは,会員
カードや会員証が入った携帯電話をUBWALLにか
ざすだけで,これらのサービスを受けることがで
きる。
PDP
タッチパネル
なお,ここで使用する会員カードや携帯電話は,
本人を特定する情報の入った非接触型ICカードや
2.5 m
複数の非接
触型ICカード
リーダ/RFID
タグリーダ
PC内蔵
それが搭載された携帯電話などである必要がある。
UBWALLのインタフェース
UBWALLは,現場で誰でもが簡単に所望の情報
を入手するために,「浅いインタラクション」と
「パブリックな表現を保存した画面遷移」という
図-1 UBWALLの基本構成
Fig.1-Construction of UBWALL.
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ヒューマンインタフェースを基本としている。これ
らのインタフェースを空港のフロアガイド,および
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カルチャーセンター講座案内を例に説明する。
行き先情報が入手でき,つぎのインタラクションで
● 浅いインタラクション
興味のある情報も得ることができる。
メニュー選択とIDの入力をカードをかざすとい
また,カルチャーセンター講座案内(図-3)では,
う1回の動作で実現する方法や,ユーザが必要だと
まず複数の講座案内の画面が数秒ごとに切り替わる
思われる情報に制限して表示する方法などを用いて,
気づき用コンテンツが表示される(左端図)。その
浅いインタラクションを実現している。
画面を見て興味を引かれた人がUBWALLに近づく
空港のフロアガイド(図-2)では,RFIDタグが
と,それをモーションセンサが検知し,自動的にイ
入った搭乗券,あるいは搭乗券が格納された携帯電
ンタラクション用の講座のスケジュール表示(中央
話を,ユーザがUBWALLのリーダにかざすと,搭
左図)に切り替わる。さらに,興味を引いた講座を
乗ゲートまでの案内と発着時刻などが表示される
指でタッチすると,その講座の内容が表示(中央右
(図-2中央)。発着時刻に余裕がある場合は,発着時
図)されるとともに,「予約する」のメニューが表
刻の下にその人にフィットすると思われる広告案内
示される。ユーザは講座の内容などを確認し,予約
(図では2件)が表示される。ユーザがその広告に
したい場合は,会員カードをかざすと,その講座の
興味がある場合は,その広告案内(この場合は「安
予約が完了する(右端図)。この例では,興味を引
眠グッズはコチラ」)にタッチすると,広告が現れ
いてから2回のユーザインタラクションで予約が可
る(図-2右側)。最初のインタラクションで重要な
能である。
(1)搭乗券をかざす
(2)広告案内にタッチ
図-2 空港のフロアガイドへの適用
Fig.2-Floor guide application for large airport.
(1)人が前に来る
(2)指でタッチする
(3)カードをかざす
図-3 カルチャーセンター講座案内への適用
Fig.3-Information application for culture center.
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大画面インタラクションシステム:UBWALL
● パブリックな表現を保存した画面遷移
れているが,これをUBWALLにすると,搭乗券を
パブリックな表現の一部を目立たせたり,パーソ
リーダにかざすと,自分のフライトがハイライトさ
ナライズする部分を時分割・空間分割したりして表
れ,すぐに確認できるようになる。また,フロアガ
現することで,パブリックな表現を保存した画面遷
イドは,百貨店やモールへの適用も考えられる。
移を実現している。
このほか,レストランガイドやホテル広告予約ガ
空港のフロアガイドでは,ユーザに提示する行き
イドへの適用が考えられる。レストランガイドでは,
先案内と搭乗時刻や広告案内および広告詳細は,フ
数店のレストランの広告が可能で,UBWALLが
ロアガイド全体の表現はそのままで,一部を描き変
ネットワークに接続されていれば,昼は昼食用,夜
えることにより表現している。
は夜用のコンテンツを表示するタイムマーケティン
また,カルチャーセンター講座案内では,気づき
グや,席の空き状況などリアルタイムな店舗の状況
用コンテンツは広告効果を大きくするため,1件1
も提供できる。さらに,図-4(b)に示すように,
件を大きく表示するが,インタラクション用コンテ
ユーザが会員カードをかざすことにより,その店舗
ンツに移行すると,講座内容と予約完了画面は,そ
のクーポンを受け取ることができ,それをお店で提
れぞれのコンテンツの上に上書きすることにより表
示することにより,割引きを受けられるといった
現している。
サービスへの適用も考えられる。
このような表現を用いると,もとの絵を変更しな
全体システム
いことによりユーザに分かりやすく,掲示板として
見ているユーザ以外の人にもできるだけ情報量を落
UBWALLは,単体でもサービス可能であるが,
タイムマーケティングなどリアルタイム情報の提供
とさないで見てもらうことができる。
を考慮すると,ネットワークでサーバに接続し,
適 用 場 面
サービスするコンテンツをリモートで変更できるシ
UBWALLは,空港,駅,店舗,街頭などの現場
ステムが望ましい。ネットワーク接続する場合も,
に設置され情報サービスを行う,街角サービスフロン
店舗内に数台設置するローカルエリア設置型や,複
トとして位置付けられる。空港では,前述したフロア
数の駅で同様のサービスを提供するワイドエリア設
ガイドのほかに,フライトスケジュール{図-4(a)
}
置型がある。
への適用が考えられる。
また,UBWALLはほかの端末と同様にサービス
フライトスケジュールは,従来も大画面で表示さ
(a) 空港のフライトスケジュール
のフロントであるため,POS,ポイントシステム
(b) レストランガイド
図-4 UBWALL適用場面
Fig.4-Applications of UBWALL.
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大画面インタラクションシステム:UBWALL
などの顧客管理システム,広告管理システムなど,
従来の様々なバックヤードシステムとの連携により,
● 広告効果と顧客の囲い込み
タッチパネルに触れた回数の分析だけでも,現場
全体として高い効果を発揮できる。例えば,POS
広告の効果の定量化が可能であるが,IDが入った
で収集される購買事例のデータをもとに推論するこ
カードなどによるパーソナライズサービスが使われ
とにより,UBWALLで表示する広告をユーザによ
ると,使用した各個人に対する広告効果がより厳密
りフィットさせることができる。
に定量化できる。加えて,パーソナライズサービス
UBWALLの効果
UBWALLは,すでに10以上の展示会などでデモ
のログが収集されると,お勧め表示するコンテンツ
のパーソナライズの精度が向上する。これにより,
広告効果もより一層向上する。
展示を行い,多くの方から有効な適用サービスの提
さらに,パーソナライズサービスはカードなどを
案をいただいている。しかし,実際にどの程度の効
所有している人だけへのサービスになるので,カー
果があるかは,実際の現場での実証実験を行う必要
ドによるお客様の購買意欲向上の効果も期待できる。
があり,2006年度に実証実験を行う予定である。
む
以下に,定性的ではあるが,ユーザ側と現場で事業
を展開されている企業側のメリットを説明する。
● ユーザの利便性向上
す
び
本稿では,UBWALLに関する,開発の背景,機
能,適用例,および効果を述べた。もう一つ重要な
空港での利用では,搭乗券をかざすだけで,進む
要素である「気づき」を効果的に与える画面などの
べき経路や乗る便の状況が分かりやすい大画面で表
デザインに関しては,富士通総合デザインセンター
示されるので,利便性はかなり向上する。また,搭
の協力により,魅力的なコンテンツになっており,
乗までの時間を考慮したレストランやお土産店舗の
その効果も相まって展示会などで好評を得ることが
案内も可能である。レストランガイドでも,行きた
できた。今後,UBWALLを実際の場面に適用して
いと思った近くの店のクーポンがワンタッチで入手
いく上でも,デザインも重要視していく予定である。
できるので,これまでにない利便性を提供できる。
なお,UBWALLは,2006年度上期に(株)富士
なお,搭乗ゲートの情報など,多少なりとも個人
通ゼネラルから,製品として提供される予定である。
固有な情報を大画面で表示することに抵抗感を感じ
今後は,実証実験とともに,バックヤード/携帯電
る人もいるので,自分の意思でカードなどをかざし
話との連携機能の開発や,異業種・異分野との仕組
たときに,パーソナライズした情報を大画面に表示
みづくりも推進していきたい。
するシステムとしている。今後,個人固有な情報を
その人の携帯電話に表示する機能を開発し,さらな
る利便性の向上を予定している。
参 考 文 献
(1) M. Sekiguchi et al.:“UBWALL”, Ubiquitous Wall
changes a common Wall into the Smart Ambience.
Joint sOc-EUSAI conference,October 2005.
FUJITSU.57, 3, (05,2006)
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