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重要性を増す“地域貢献”の視点‐

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重要性を増す“地域貢献”の視点‐
SC
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B
S
h。
SHINKIN
SHINKIN
CENTRAL
CENTRAL
BANK
BANK
総合研究所
産業企業情報
海外経済調査レポート
21−6
No.11
〒103-0028 東京都中央区八重洲 1-3-7
TEL.03-5202-7671 FAX.03-3278-7048
URL http://www.scbri.jp
(2009.6.17)
2000.10
農業者向け融資を巡る最近の動向
−重要性を増す
地域貢献
の視点−
視点
厳しさを増す経済社会情勢の中で、さまざまな方面から「農業」を見つめ直す動きが着実に
拡がっている。地域経済に立脚する信用金庫などの地域金融機関においても、身近な産業のひ
とつとして農業分野へ着目し、融資開拓を図る動きも定着しつつある。
そこで本稿では、わが国農業と地域金融機関を巡る最近の動きをあらためて概観するととも
に、躍進を遂げる気鋭の農業法人の事例などを紹介する。
要旨
z
わが国の農業は、「担い手」の減少や高齢化の進展、あるいは耕作放棄地の増加など、産
業としての存亡にもかかわるような危機的状況にある。しかし、農政を改革する流れの中
で、新たな「担い手」への台頭期待などから、農業を
成長分野
として認識する動きが
各方面に拡がっている。
z
地域経済を金融面から支える立場にある信用金庫などの地域金融機関においても、リレバ
ンの流れも追い風となって、地域における主要な産業のひとつとしてあらためて農業分野
に着目し、農業者向け融資の拡大を図る動きが顕著となっている。
z
地域金融機関が農業者向け融資を推進するにあたっては、農業関連情報不足の克服に加え
て、担保不足をカバーしていくためのABL(動産・債権担保融資)の活用や、農業信用
基金協会による信用保証の活用促進などが課題となっている。
z
農業者向け融資に取り組む地域金融機関は、農業者のピンポイントな動きに着目するとと
もに、「農商工連携」に注力する食品加工業や流通業、あるいは飲食業までも含めた広い
意味での農業関連産業をターゲットとし、
地域貢献
の視点を持って取り組んでいく必
要があろう。
キーワード
農業、農政改革、地域金融機関、ABL、信用保証、農業法人、農商工連携、地域貢献
©信金中央金庫 総合研究所
目次
1.厳しい現状の打開へ向けた改革の流れの中で
成長分野
として注目される「農業」
(1)わが国農業は産業としての継続性すら危ぶまれるほどの危機的状況
(2)改革の流れの中で「農地問題」にもメス
2.農業者向け融資を巡る最近の動向
(1)農業分野の改革の流れをビジネスチャンスと捉える地域金融機関
(2)政策的にも幅広いチャネルでの資金調達が模索されている農業者向け金融
(3)農業者サイドからの活用期待が大きいABL
(4)地域金融機関による活用の模索が続く農業信用基金協会の信用保証
(5)CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を活用した新たな信用補完スキームも登場
3.農業法人の活躍事例(2件)
(1)株式会社リーフ(愛知県豊橋市、従業員:約 43 名)
(2)農事組合法人和郷園(千葉県香取市、加入生産農家数:約 90 戸)
4.農業者向け融資へ取り組む地域金融機関に求められる
地域貢献
の視点
おわりに
1.厳しい現状の打開へ向けた改革の流れの中で 成長分野 として注目される「農業」
(1)わが国農業は産業としての継続性すら危ぶまれるほどの危機的状況
厳しさを増す近年の経済社会情勢のなかで、これを打破していくための突破口のひと
つとして、あらためて農業に注目する動きが各方面で拡大している。
しかし、わが国農業の現実に目を移すと、就業人口の減少と著しい高齢化、転用など
による農地面積の減少、耕作放棄地の増大などが進展する中で、新たな「担い手」の参
入も遅々として進まないなど、極論すればひとつの産業としての継続性すら危ぶまれる
ほどの、極めて危機的な状況にあるのが実態となっている。国民の「食」の一翼を担う
べき農業のこうした危機的状況は、歯止めのかかる気配のない食料自給率の低下傾向と
(図表1)主な農業関連指標
農地面積(千ha)
耕作放棄地(千ha)
耕地利用率(%)
作付(栽培)延べ面積(千ha)
農業就業人口(万人)
うち65才以上(%)
農業総産出額(百億円)
米(%)
野菜(%)
果実(%)
花き(%)
畜産計(%)
その他(%)
食料自給率 カロリーベース(%)
生産額ベース(%)
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2006
2007
6,071
−
133.9
8,129
1,454
−
191
47.4
9.1
6.0
0.5
18.2
18.8
79
93
6,004
−
123.8
7,430
1,151
−
318
43.1
11.8
6.6
0.6
23.2
14.7
73
86
5,796
−
108.9
6,311
1,035
−
466
37.9
15.8
8.5
0.9
25.9
11.0
60
85
5,572
131
103.3
5,755
791
21.0
905
38.3
16.2
7.1
0.9
27.5
10.0
54
83
5,461
123
104.5
5,706
697
24.5
1,026
30.1
18.5
6.7
1.7
31.4
11.6
53
77
5,379
135
105.1
5,656
624
28.7
1,163
32.9
18.1
8.1
2.0
28.0
10.9
53
82
5,243
217
102.0
5,349
565
35.7
1,149
27.8
22.5
9.1
3.3
27.2
10.1
48
75
5,038
244
97.7
4,920
414
43.2
1,045
30.5
22.9
8.7
4.2
24.1
9.6
43
74
4,830
343
94.5
4,563
389
52.9
913
25.4
23.2
8.9
4.9
26.9
10.7
40
71
4,692
386
93.4
4,384
335
58.2
851
22.9
23.9
8.5
4.7
29.4
10.6
40
69
4,671 4,650
93.0 92.6
4,346 4,306
321
299
57.8 60.4
829
819
21.9 21.9
24.8 25.0
9.1
9.2
4.8
4.8
29.2 30.2
10.2
8.9
39
40
68
66
(備考)農林水産省「農業センサス」などをもとに信金中金総合研究所作成
1
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も相俟って、近年ではわが国の食糧安全保障に関わる 国家レベル の問題として取り
扱われるケースも増加している。(図表1)
このように、わが国の農業は、まさに「だれかがやらねば」という危機的状況に置か
れているわけであるが、こうした状況を打開すべく、気鋭の農業者が新たな「担い手」
として台頭できるような環境整備の実施へ向けて、政策サイドを中心に進められている
農業改革 への期待は、世界的な経済金融危機などものともせずに、日に日に高まっ
ている状況にある。
逆に言えば、この「だれかがやらねば」という状況に対応して、既存の農業の枠組み
等にとらわれることなく躍進を遂げる気鋭の農業者への期待には、極めて大きなものが
ある。わが国の農業がひとつの産業として危機的な状況にあるにもかかわらず、各方面
から注目を集めている背景には、こうした気鋭の農業者台頭への期待があることは間違
いない。さらにいえば、こうした気鋭の農業者が全国各地で次々と台頭してくる状況が
生まれてくれば、農業マーケット全体も活力を伴いながら拡大基調に転じ、食料自給率
の反転すら現実のものとなってくる可能性は十分にあるものと思われる。農業が、厳し
い現局面の中にありながらも 成長分野 と捉えられている所以には、こうしたことが
背景にあるものと考えられる。
(2)改革の流れの中で「農地問題」にもメス
農業分野に関する最近の政
策サイドの動きとしては、政府
の「農政改革特命チーム」が
2009 年4月にとりまとめて公
表した「農政改革の検討方向」
(図表2)「農政改革の検討方向」の検討項目と検討方向
1.食品の安全性の向上
・食品安全科学の確立
・新たな食品情報を提供する仕組み
2.担い手の育成・確保
・経営感覚を持った経営体の育成、絶えず新たな人材が確保される環境作り
・参入を促す仕組み、育てる仕組み、支える仕組み
3.農地問題
が、多方面にわたる近年の 農
・「平成の農地改革」法案の早期成立
業改革 の流れをおおむね集約
・需要を起点
・土地利用型農業は農政の問題の縮図
した内容となっている(図表
2)。今後は、この「農政改革
の検討方向」に沿って、2009
年8月をメドに取りまとめら
れる予定の「中間報告」を経て、
2010 年3月までに策定される
政府の「食料・農業・農村基本計
画」の改訂版(前回は5年前の
05 年3月)の中へ織り込まれ
ていく見通しにあり、今後の議
4.農業生産・流通施策
5.農業所得の増大
・農業所得(農業純生産)の増大を実現
・個別に取り組んできた課題を総合化
6.食糧自給力問題
・よりよい目標を含めて検証
・肥料確保対策
7.農山漁村対策
・地域のマネージメント体制のあり方
・農山漁村が持つ機能の維持発揮方策、農地面積の狭小な地域
8.連携軸強化
・農業・農村の価値を認識共有
・経済的な連携、教育面など社会的な連携
9.新しい分野への挑戦
・耕作放棄地解消プロジェクト
・緑と水の産業技術革命
・農山漁村IT活用総合化プロジェクト
・食品産業グリーンプロジェクト
(備考)農林水産省資料「『農政改革の検討方向』について(09年
5月)」をもとに信金中金総合研究所作成
論の行方が注目されよう。
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(図表3)「平成の農地改革」の概要
∼自給力の基盤たる優良農地の確保∼
∼「所有」から「利用」への転換∼
農地を面的に集積
○ 公的機関が農地を一括引受け、担い手に再配分
○ 担い手に貸し付けられた農地には、相続税納税
猶予を適用
意欲ある若者・経営体の参入を促進
農地転用規制の厳格化
○ 違反転用への罰則を強化
農用地区域内農地の確保
○ 農用地区域からの除外の厳格化
耕作放棄地対策の強化
○ 農地貸借の規制を緩和
○ 貸出農地情報等を全国からアクセス可能に
農地の権利を有する者の責務の明確化
○ 農地の適性かつ効率的な利用の責務について、
法律上明確に位置付け
農地に対する転用期待を極力排除し、国民
に対する食料の安定供給を確保
意欲のある者に農地が集まることにより、国内の食
料生産の増大を通じた国民に対する食料の安定供給
を確保
(備考)農林水産省資料「『農政改革の検討方向』について(09年5月)」をもとに信金中金総合研究所作成
ちなみに、「農政改革の検討方向」のなかでも指摘されている「平成の農地改革」で
は、すでに農地法等の改正案が 09 年通常国会で審議中(09 年 6 月 12 日現在)であり、
これまで改革の 阻害要因 とされることも多かった農地問題は、ここへきて大きな転
機を迎えている。すなわち、今般の農地法等改正により、優良農地の維持・確保(農地
転用規制の厳格化など)、農地法の目的そのものの抜本的な見直し(農地は耕作者自ら
が「所有」することが最適という考え方から、農地の効率的な「利用」を促進するとい
う考え方への転換)、といったように、農地の確保と効率的利用を図るための措置がこ
れまで以上に強化されていく見通しとなっている(図表3)。
「担い手の育成・確保」の一環として推進されている一般企業の農業参入促進など、
一部には成果が出ているように見える施策であっても(図表4)、実態として農地問題
が見えない壁(参入障壁)となって、結果的に農業全体としての危機的状況の打開につ
ながっていなかった。こうした現実に鑑みれば、今般、 農業改革 の根幹に関わる農
地問題にもメスが入ったことで、改革の流れが今後一段と鮮明化していくことがこれま
で以上に期待されよう。
(図表4)組織形態別、業種別の農業参入法人数
参入法人数
組織形態別
株式会社 特例有限会社
NPO等
建設業
食品会社
業種別
その他
農業生産法人に移行
2008年9月1日現在
320
170
85
65
104
65
144
7
2008年3月1日現在
2007年3月1日現在
2006年3月1日現在
281
206
156
144
110
80
80
54
41
57
42
35
94
76
57
65
46
41
122
84
58
−
−
−
(備考)農林水産省「特定法人貸付事業(農地リース方式)を活用した企業等の農業参入ついて」をもとに信金中金総合研究所作成
3
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2.農業者向け融資を巡る最近の動向
(1)農業分野の改革の流れをビジネスチャンスと捉える地域金融機関
近年の 農業改革 の流れのなかで、今後の躍進が期待される気鋭の農業者の出現可
能性を新たな ビジネスチャンス と捉えつつ、農業者向け融資の拡大へ向けて体制整
備を図るJAグループ以外の民間金融機関の動きが、ここ数年、急速に活発化している。
とりわけ、地域経済を金融面から支える立場にある地域金融機関(地方銀行・信用金
庫・信用協同組合など)においては、2003 年ごろからの
リレーションシップ・バンキ
ング(リレバン) の流れも追い風となって、地域における主要な産業のひとつとして、
あらためて農業分野に着目する動きが地方部を中心に急速に拡がりつつ、現在に至って
いる。
例えば、日本政策金融公庫の農林水産事業本部(旧・農林漁業金融公庫)と「業務協
力」を締結している地域金融機関(2009 年5月 27 日現在)は、銀行で 84 行(メガバ
ンクを含む)、信用金庫で 77 金庫、信用協同組合で6組合にも及んでおり、農業者向
け融資等に関するノウハウ不足を政府系の専門金融機関と連携することで克服しよう
という動きもすでに定着している(図表5)。
(図表5)日本政策金融公庫農林水産事業本部と「業務協力に関する覚書」を締結した金融機関(09年5月27日現在)
都銀・地銀・第二地銀
信用金庫
信用組合
北洋、北海道、札幌
北門、北空知、帯広、北見、北海、留萌、空知、網
北海道
走、旭川、遠軽、大地みらい、釧路
北都、秋田、山形、青森、みちのく、殖産、大東、 福島、二本松、あぶくま、仙南、杜の都、石巻、米
岩手、東北、北日本、荘内、東邦、七十七、山形 沢、会津
東北
しあわせ
常陽、埼玉りそな、足利、千葉興業、三井住友、 銚子、しののめ、利根郡、佐原、飯田、長野
栃木、東京三菱UFJ、千葉、みずほ、群
関東
馬、関東つくば、武蔵野
スルガ、大垣共立、百五、十六、三重、清水、 高山、蒲郡、西尾、豊橋、岐阜、岡崎、東濃、西濃、知
愛知、第三
多、大垣、関、豊田、北伊勢上野、碧海、豊川、磐
東海
田、富士宮、浜松、遠州、しずおか、三島
第四、北越、北陸、山梨中央、大光、長野、福
新発田、のと共栄、高岡、三条、小浜
北陸・甲信越 井、八十二、北國、富山
びわこ、みなと、滋賀、南都、京都、紀陽、関 姫路、但馬、播州、京都中央、淡路、きのくに、湖
近畿
西アーバン
東、但陽
山口、中国、山陰合同、広島、トマト、島根、鳥 水島、玉島、西中国、島根中央、萩、鳥取、おかやま、
中国
取、西京
米子、日本海、呉
阿波、四国、高知、徳島、百十四、愛媛、香川、伊 宇和島、観音寺、愛媛
四国
予
鹿児島、熊本ファミリー、宮崎、宮崎太陽、十八、親 鹿児島相互、高鍋、南郷、鹿児島
和、長崎、肥後、福岡、南日本、大分、筑邦、
九州
西日本シティ、豊和
(備考)1.原則として各地域ごと、業態ごとに覚書の締結順に掲載
2.日本政策金融公庫のホームページをもとに信金中金総合研究所作成
茨城県、銚
子商工、七
島
塩沢、糸魚
川
鹿児島興業
なお一般に、これまで農業者に対する融資に関しては、基本的にJAグループ(農協
系統など)が担うものという 既成概念 が存在していたこともあり、地域金融機関等
が取引先(貸出先)として農業分野へ目を向けるケースは少なかったのが、 農業改革
以前の実情であった。
しかし、こうした 既成概念 は、近年の 農業改革 の広がりとともに、すでに過
4
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去のものとなりつつある。
現在でも農業者に対する小ロットの融資に関しては、政策金融機関を除けば、販売面
なども含めて農業者にとって最も身近な存在であることの多いJAグループが主要な
担い手(あるいは窓口)であることに変わりはないとみられる。しかし、近年の 農業
改革 の流れのなかで台頭しつつある気鋭の農業者の多くは、これまでの農業の世界で
はあまり見かけることのなかった 大規模化 の概念を持ち合わせており、もはや「農
・
家」とは呼べないような法人組織形態(いわゆる「農業法人」)をとり、的確な収益管
理のもと、加工や販売などと一体化した 農業ビジネス を展開しているケースも少な
くない。
こうした気鋭の「農業法人」は、販売面や資金調達面でもJAグループのみに依存し
ない独自ルートの開拓に積極的であるケースが多く、農業者向け融資の拡大を睨む地域
金融機関等にとっても、ビジネスチャンスの拡大につながりやすい構図があるといえる。
もともと地域金融機関は、農業そのものにはあまり詳しくないものの、商工業者との
幅広い取引ネットワークを有していることなどから、資金面のみならず、加工や販売な
どと一体化した
農業ビジネス
そのものを支援しやすいポジションにある。加えて、
近年の地域金融機関は、基本的に中小企業の 経営 を支援することに注力しているこ
となどから、計数管理などが喫緊の経営課題となっていることの多い「農業法人」の 経
営 を支援できるという点で、農業者向け融資の拡大を進めるうえでプラスに作用する
面も少なからずあるものと思われる。
(2)政策的にも幅広いチャネルでの資金調達が模索されている農業者向け金融
ちなみに、前出の「農業改革の検討方向」においても、「担い手を育てる仕組み」の
項の中で、「農協系統や政策金融機関が主体である農業金融について、農業経営体が必
要な資本、運転資金、設備資金等をより円滑に幅広いチャネルで調達できるような方策
を検討する。」ということも明記されている。
例えば、農林水産省では、これまでにも「農業法人」向け融資の実態調査などを継続
的に実施している。これらの中では、地域金融機関において農業者向け融資を一段と活
発化させていくための今後の課題として、①融資の活性化を支援するための情報提供
(対金融機関、対農業法人ほか)、②担保に過度に依存しない方式での融資の活性化(A
BL(動産担保)や公的保証の活用ほか)、などがすでに認識されている状況もある(図
表6)。近年の「農商工連携」に対する期待の高まりなど、地域の農業者と商工業者が
有機的な連携を模索する動きが拡がっている状況にも鑑みれば、地域事情いかんではあ
るが、わが国農業の危機的状況打開という大局を見据えたとき、農業者向け金融の面に
おいて、今後は地域金融機関が必要に応じてJAグループとの連携も模索していく展開
(いわば金融版の「農商工連携」)も考えられよう。
5
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(図表6)農業法人向け融資にかかる現場の状況と今後の課題等
〔論 点〕
民間金融機
関の融資の
活性化を支
援するため
の情報提供
農業法人へ
の担保に過
度に依存し
ない方式で
の融資の活
性化方策の
提案
農業法人等
に対する資
金管理手法
の確立
農業法人等
に対する資
金調達等の
実態の情報
提供
〔具体的には〕
金融機関、農業法
人の現場での状
況等
〔今後の課題等〕
金融機関にとっての
農業情報不足
金融機関への農業情
報の提供、サポート
金融界、農業界の接
点がない。農業は行
政の関与も大きい
金融団体、農業法人
組織、行政等による
情報の共有
ABLの活用
一部の金融機関、農
業法人は利用。活用
への期待は大きい
評価、管理、処分手
法の整理とPR
スコアリングモ
デルの活用
農業公庫モデルが稼
動、民間金融機関の
活用は今後の課題
情報の共有化の
方法について
公的保証の活用
農業法人の視点
から見た経営の
ための資金管理
手法の提示
資金調達方法の
改善例を広く紹
介
農業信用保証保険制
度の銀行・信用金庫の
利用低調
事例集等による啓蒙
農林公庫モデル活用
スコアリングと業界
情報を並行して活用
各基金協会の保証制
度PR、フォロー
直売等の実施により
資金管理複雑化
農業法人に対する啓
蒙、研修等指導強化
農業法人は金融機関
の指導も期待。経営
把握は金融機関にも
メリット
金融機関への農業情
報の提供、サポート
動産担保、社債発行
などによる資金調達
方法実践事例あり
農業法人への啓蒙、
普及
金融機関との情報共
有の場などでのPR
(備考)(財)農林水産長期金融協会「農業法人向け融資における実態調査報告書(08年3月)」
をもとに信金中金総合研究所作成
(3)農業者サイドからの活用期待が大きいABL
地域金融機関が農業者向け融資を進めていくうえで、しばしば問題点として指摘され
ることのひとつに、「農地を担保として扱うことが困難」といった点がある。実態とし
て農地の転用や売買に多くの制約がある現状においては、事実上やむを得ないという面
もあるといえるが、近年ではこうした「担保不足」を補って農業者向け融資へ前向きに
対応していく手法のひとつとして、ABL(Asset Based Lending:動産・債権担保融資)
の活用を模索する動きが、金融機関と農業者の双方に拡がっている。
農林水産省のホームページでも、ABLについては「借り手の事業活動そのものに着
目し、農畜産物(牛、豚、野菜など)等動産や売掛金を担保に資金を貸し出す仕組み」
6
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(図表7)農林水産分野へのABL導入のメリットと課題
農林水産 ・
業者
・
・
・
・
金融機関 ・
メリット
担保として今まであまり活用してこなかった
動産や売掛金を利用することで、農林水産業
者が保有する資産を有効に活用
不動産担保や第三者保証に過度に依存しない
資金調達という選択肢が増加
無担保と比べて借入金利の抑制や借入金額の
拡大が期待できるため、経営の規模拡大など
積極的な経営展開が可能
金融機関に定期的に事業報告を行い情報を共
有することで安定した資金を確保でき、ま
た、金融機関から適切なタイミングでアドバ
イスを受けることも可能
売掛債権の早期資金化で資金繰りが楽
農地の担保価値が低いため参入しづらかった
農業融資にも参入が可能となり、顧客が増加
・ 借り手である農林水産業者を管理すること
で、農林水産業の特性を把握し、農業融資能
力が向上
・ 借り手からの定期的な事業報告により事業状
況を把握でき、事業悪化時には迅速な対応で
貸し倒れを事前に防ぐことが可能
課題
・ 金融機関への月次の業績報告が速やかにでき
るような管理や体制整備が必要
・ 担保物の品質保持・管理の徹底が必要
・ 延滞等した場合、不動産のみならず売掛金
や在庫も処分されるため経営の継続が困難
となる懸念
・ 借り手である農業者の事業内容や担保物を正
確に管理し、把握できる人材の確保
・ 客観性・合理性ある評価方法の確立
・ 肥育、栽培途中のものを処分する際、出荷
可能な状態まで肥育、栽培する委託先の確
保
・ 評価・管理・処分を外部専門会社に委託し
た場合にかかる経費の負担
・ 担保物が善意の第三者に即時取得されるこ
との防止
(備考)農林水産省ホームページをもとに作成
と、農業者にとっての新たな資金調達手法のひとつとして前向きに表記されている。実
際に、農業者にとっては、これまで担保として活用しようという発想すらなかった動産
(農畜産物)が、担保として評価されるということとなれば、新たな融資枠の設定等の
道が開けることとなるだけに、ABLに対する期待には極めて大きなものがある。すで
に畜産部門においては、牛の固体識別を可能とするトレーサビリティー制度(生産履歴
管理)が定着していることも追い風となって、ABLの取組み事例が全国的に散見され
る状況にある。
なお、農林水産省ホームページでは、すでに多様なジャンルにわたるABLの取組み
事例(畜産、米、野菜、花、海産物など)が紹介されている状況にある。ABLについ
ては、貸し手と借り手の双方にノウハウの蓄積不足がみられることなどから、実務上ク
リアすべき課題もまだまだ少なくないが、民間金融機関が農業者向け融資を前向きに進
めていくうえで、ABLは今後も重要なキーワードとなっていくであろう。
(4)地域金融機関による活用の模索が続く農業信用基金協会の信用保証
一方、地域金融機関が農業者向け融資を進めるうえで、「信用保証」の問題が指摘さ
れることも少なくない。
すなわち、地域金融機関が通常の商工業者向け融資の際に利用することの多い全国の
信用保証協会の中小企業信用保証制度は、「農業」が対象となる事業ではないと整理さ
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(図表8)農業信用保証保険制度の概要
農業信用保証保険制度
中小企業信用保険制度
農業者等(借受者・被保証者)
①農業を営む者及び農業に従事する者
(個人、法人、任意団体のいずれも該当します)
②農協、農業協同組合連合会
③農業振興公益法人、農業協同会社その他①、②の
者が組織する法人
基
金
協
会
会
員
出
資
保
証
料
保
証
委
託
申
込
農業信用基金協会
保
険
契
約
農業参入者
農作物の受託・農作業の受託
農業参入者の例
①製造業 ④サービス業
1.建設業者が農作業を受託
②卸売業 ⑤運送業、建設業等
2.観光業者が観光農園で農
③小売業
作物を生産
3.食品販売業者が自ら利用
する食材を生産
農
協
組
合
員
出
資
資
金
の
借
入
れ
保
証
委
託
申
込
資
金
の
借
入
れ
債務保証
(略称「基金協会」)
各都道府県に設置
保
証
料
中小企業者(借受者・被保証者)
債務保証
融資機関
銀行
信用金庫
信用協同組合
銀行
信用金庫
信用協同組合
(農協を含む)
信用保証協会
全国52カ所に設置
融資機関
農協
信農連等
保
証
料
金融機関等負担金
交付金(利用者負担)
保
険
契
約
保
証
料
出資金(利用会員負担)
独立行政法人
㈱日本政策金融公庫
農林漁業信用基金
(備考)農林水産省「農業信用保証保険制度のご案内(08年10月)」をもとに作成
れているため、農業者向け融資を進めようとする局面では、製造・加工の設備を有して
生産物の加工事業を行っているケースなどを除き、基本的に利用することができない状
況にあると認識されている。
一方、農業の世界では、都道府県ごとに設置されている農業信用基金協会で取り扱わ
れている農業信用保証保険制度があるが、地域ごとの制度の運用などにバラツキがある
ことから、農業者向け融資に 不慣れ な地域金融機関が円滑に利用できているケース
はあまり多くない。農林水産省では、小冊子「農業信用保証保険制度のご案内」を、 農
協・銀行・信用金庫・信用協同組合を利用する農業者等の方々へ と銘打ちながら、07 年
秋以降、地域金融機関等へ配布、信用金庫等による農業信用基金協会の信用保証の活用
促進に努めているが、なかなか利用拡大へ結びついていないのが実態である。こうした
なかで、一部の農業信用基金協会では、地元の信用保証協会との連携を模索するような
動きも出てきているほか、政府の規制改革会議では、中小企業信用保険において、農林
漁業者でも利用できる事業範囲を一段と明確化するなどの方向で議論が進められてい
る状況もあり、今後の動向が注目されよう。
(5)CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を活用した新たな信用補完スキームも登場
日本政策金融公庫の農林水産事業本部では、民間金融機関の農業分野への参入促進の
ために、独自に構築した農業信用リスク情報サービス「ACRIS」と証券化を利用し
た新たな信用補完スキーム(CDS〔クレジット・デフォルト・スワップ〕を活用した農
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業者向け債権証券化)を構築、08 年 10 月より制度運用を開始した。ここへきて徐々に
融資実績も出てきている模様で、民間金融機関の農業分野への参入を加速させる新たな
試みとして、今後の普及拡大が期待されよう。
(図表9)CDSを活用した農業者向け債権証券化の概要
CDS
農業者
民間金融機関
農業者
CDS
CDS
農業者
融資実行
①
投資家
日本政策
金融公庫
②
CDS
農業者
農業者
投資家
民間金融機関
農業者
③
CDS
SPC
③
社債
引受
農林水産
事業本部
③
引受証券
(証券)
投資家
社債売却
投資家
CDS
投資家
CDS
投資家
スキーム概要
①民間金融機関は、各農業者に対して融資を実行
②民間金融機関は日本政策金融公庫(農林水産事業本部)と各融資契約ごとに最大80%まで補償するCDS契約を締結
③日本政策金融公庫(農林水産事業本部)は、②で契約したCDSプールを、SPCを通じて証券化
(備考)日本政策金融公庫農林水産事業本部の資料(09年2月)をもとに信金中金総合研究所作成
3.農業法人の活躍事例(2件)
以下では、躍進を遂げる気鋭の農業法人の活躍事例(2件)を紹介する。いずれの事
例も、躍進の過程では地元の信用金庫による資金的な協力が重要な役割を果たしてきた
経緯もあり、今後の新しい農業金融のあり方を探るうえでも注目に値しよう。
(1)株式会社リーフ(愛知県豊橋市、従業員規模:約 43 名)
①胡蝶蘭の加工・販売に特化して躍進
当社は、現・社長の尾崎幹憲氏が胡蝶蘭の将来性に着目、98 年に独立創業したことに
始まる、愛知県豊橋市を地盤とする胡蝶蘭の加
(図表10)愛知県豊橋市の位置
工・販売会社である。
創業当時は、父親が営むトマト農家の一角を
借り受けるような形で、農家の後継者のための
JAの制度資金(約 7,000 万円)などを活用し、
胡蝶蘭の生産から販売までを一貫して手がけ
愛知県豊橋市
ていた。その後、事業が徐々に軌道に乗ってき
たことから、06 年には加工・販売事業をさらに
分社化するような形で株式会社リーフを新設
した。現在は、尾崎社長の父親が個人事業とし
(備考)信金中金総合研究所作成
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て胡蝶蘭の苗の育成(約5か月間)を手がける一方で、さらに当社で出荷へ向けて加工
した後に、花き(花卉)卸売業者や消費者へ販売を行うという分業体制が確立されている。
事業立上げ当初の胡蝶蘭の販売は、一般の青果物と同様に、当社が花き卸売市場へ胡
蝶蘭を持ち込んで、価格の決定を市場に委ねるというスタイルであったため、「自分で
価格を決められないもどかしさのようなもの」があった。また、消費者へ行き渡るまで
に物理的に市場を経由することから、胡蝶蘭が痛むなどロス率を高める原因となってお
り、従前より何とかして物流面でも改善ができないだろうかと模索する日々が続いてい
た。
現在の年商(約3億 5,000 万円)の販売先別構成比は、生産業者として花き卸売市場
(愛知豊明花き市場など)へ持ち込むも
㈱リーフの作業場
のが約 30%、生花店から個別に注文を
受けるもの(卸売り)が約 40%、消費
者からインターネット経由で直接注文
を受けるもの(小売り)が約 30%、と
なっている。
当社が運営する胡蝶蘭のインターネ
ット販売サイト「フラワーショップはな
やか」では、送付前に現物写真をネット
上で確認してもらうなど、商品受取り時
のイメージのギャップを埋めることに注力しており、利用客からも好評である。胡蝶蘭
は、ギフト需要が大半であるため、こうした配慮が特に受けている模様で、最近ではネ
ット販売による小売りルートの構成比が徐々に拡大している状況にある。
②豊橋信用金庫が胡蝶蘭を担保としたABL融資を実行
当社は、農業者向け融資への取組みにも熱心な豊橋信用金庫(本店:愛知県豊橋市)
より、07 年 10 月に愛知県信用保証協会の流動資産担保融資保証制度(ABL保証)を
活用して、胡蝶蘭の在庫(作業所内の2万鉢)および上位5社の売掛金を担保として
1,500 万円の融資を受けた。当社の借入れは、もともとJA中心であったが、当社で加
工・販売事業の分社化を検討していたころに、胡蝶蘭の生産技術関連の相談で尾崎社長
がたまたま出入りしていた地元・豊橋技術科学大学で、産学連携のコーディネーターを
担当していた豊橋信用金庫の職員と出会ったことがきっかけとなり、前述のABL融資
の実行へと話が展開した。
当社では、豊橋信用金庫職員から受ける経営面でのアドバイスも真摯に受け止めなが
ら、今後も地場の胡蝶蘭生産・販売業者として躍進を続けていく意向である。
【㈱リーフの「フラワーショップはなやか」の URL:http://www2.enekoshop.jp/shop/hanayaka/】
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(2)農事組合法人和郷園(千葉県香取市、加入生産農家数:約 90 名)
①新進気鋭の農産物出荷団体
当社は、わが国有数の野菜の生産地である千葉
(図表11)千葉県香取市の位置
県北東部の生産農家約 90 戸で構成される農事組
合法人「和郷園」を中核組織として、科学的な裏
付けのある土作りに基づいた安心・安全な野菜等
を、既存の流通ルートに依存することなく、首都
千葉県香取市
圏の大型スーパーや外食業者など約 50 先へ供給
する新進気鋭の農産物出荷団体である。グループ
の年商はおよそ 50 億円にも及ぶ。
(備考)信金中金総合研究所作成
当社はもともと、1991 年ごろに千葉県香取市で
実家の生産農家を継承していた現・代表理事の木
内博一氏が中心となって、「自分たちの商品は自分たちで価格を決めて売りたい」とい
う考えのもと、近隣農家の有志5名がトラックに野菜を積み込んで東京のスーパーへ直
接売込みに行ったことから始まった。その後、その熱意と商品の良さが徐々に評価され
るなかで、首都圏の生協やスーパー向けの直販ルートを拡大させる一方で、仲間の生産
者も徐々に増やし品目を拡大、新進気鋭の農産物出荷団体としての事業基盤を固めつつ
今日に至っている。
現在、実際の農産物販売事業を担う別会社の㈱和郷の販売先別構成比は、生協系の消
費者会員組織が約 50%、外食業者が約 30%、一般のスーパー等が約 20%となっている。
また、品目別の売上構成比は、キュウリ 17.2%、大葉 9.9%、サンチュ 7.9%、大根 7.1%、
トマト 6.2%、ミニトマト 4.5%などとなっている。
当社では、「農業はさまざまな商品を作り出す製造業である」と捉え、原則として顧
客(小売業者等)との間であらかじめ品目ごとに量や価格を決めて注文を受け、これに
沿って生産するシステムに徹しており、当初からの理念でもある「自分たちの商品は自
分たちで価格を決めて売りたい」というスタイルを貫いている。ちなみに、「和郷園」
を構成する主要メンバー(生産者)の年間売上規模は、全国平均の約2倍にも及び、「農
業は儲からない」という業界内の常識を覆す気鋭の農業者集団となっている。
なお、当社では天候リスクなどを勘案して注文より若干多めに生産するのが通常だが、
こうしたことから生じる 売れ残り やいわゆる規格外の野菜等は、当社の加工部門(カ
ットセンター、冷凍加工センター)で鮮度のよいうちに産地加工し、生産した野菜等を
100%有効活用できる仕組みを構築している。ちなみに、当社の冷凍加工センターで作
られる冷凍野菜は、旬の時期に大量に収穫したものを独自の冷凍技術で加工・凍結した
ものが中心である。とりわけ、ホウレンソウ、小松菜、枝豆、ブロッコリー、ささがき
ゴボウ、大和芋とろろ、の6種類については、インターネットを通じた消費者への直販
に加え、香港やタイなどへの輸出も行っている。
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ちなみに当社では、04 年に欧州方面への輸出の際に必須条件となっている欧州小売
業組合の適正規範である「EUREP GAP(現グローバルGAP)」の認証を取得、
当社農産物の安全性を客観的に担保するとともに、国内の他の有力農業者等と連携して
「日本GAP協会」の発足・運営にも尽
和郷園の本社壁面に掲げられている看板
力している。
また、当社では、千葉県が農薬や化
学肥料などの使用について基準を設け
た「ちばエコ農産物」の普及に積極的
に取り組むとともに、千葉県農業総合
研究センター等と連携して野菜残渣の
堆肥化を行うバイオマスの実証実験に
も協力するなど、安全・安心や環境問題
への取組みも、地域経済に根ざしなが
ら継続的に行っている。
【和郷園の URL:http://www.wagoen.com/main.html】
②銚子信用金庫などの地元金融機関を積極的に利用
当社では、設備投資関連の長期資金では日本政策金融公庫の制度資金などを主に利用
しているが、運転資金などの短期資金は、農業者向け融資にも積極的に取り組んでいる
銚子信用金庫(本店:千葉県銚子市)などの地元金融機関の資金も積極的に利用してい
る。
わが国有数の農業地帯を営業地盤とする銚子信用金庫は、旧・農林漁業金融公庫との
「業務協力」を信用金庫業界で最初に締結(04 年7月)したことでも知られており、
比較的早い段階(04 年 11 月)から農業者向けの専用ローン商品「みのり」を投入する
など、農業者向け金融に取り組んできた。最近では、千葉県信用保証協会の信用保証の
みならず、千葉県農業信用基金協会の信用保証も必要に応じて適宜活用しながら農業者
向け融資に対応している。「和郷園」のような、雇用創造を通じて地元経済への貢献を
も実現している農業者に対しても、地域に根ざす金融機関として、資金面から積極的に
支援している。
銚子信用金庫では、今後も地域の基幹産業である農業を継続的に支援していくため、
その資金ニーズへ的確に対応していくとともに、ビジネスマッチングの機会を提供する
ことなどを通じて、地元農業者の経営支援などを検討している。
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4.農業者向け融資へ取り組む地域金融機関に求められる
地域貢献
の視点
これまで述べてきたように、農業者向け融資を新たなビジネスチャンスと位置付けて
取組みを強化していく民間金融機関の動きは、農業が主要産業のひとつとして位置づけ
られる地方圏のみならず、東京などの 巨大マーケット に隣接したいわゆる 近郊農
業
が展開される地域においても、今後ますます活発化していくことが予想される。
しかし、今一度現実に目を移してみると、わが国の農業マーケットは総産出額ベース
でみて8兆円程度に過ぎないなど、それ自体は決して 巨大マーケット といえる市場
規模を形成していないのも実情である。もちろん、すでに本稿でも述べてきたとおり、
農業改革 の流れのなかで、右肩上がりの成長拡大を遂げる気鋭の農業法人などが出
現し、地域経済活性化にも資する新たな優良企業となる可能性が十分にあることは間違
いない。そして、地域の経済社会に立脚する信用金庫などの地域金融機関においては、
そのような農業者のピンポイントな動きに着目するとともに、ピンポイントな動きに必
ず付随する加工・流通などの広がりに着目することが大切である。
究極の地域密着産
業 である農業が持つ面的な広がりの可能性にもこれまで以上に目を向け、「農商工連
携」に注目する食品加工業や流通業、あるいは飲食業までも含めた広い意味での農業関
連産業全体を幅広くターゲットと捉えていく必要があると考えられる。
例えば、農業者向け融資への先行的な取組みで知られる鹿児島銀行では、地域特性を
活かした取組みとして、鹿児島県の基幹産業である農業(川上)と食品加工業(川中)
に加え、川下である流通業やその関連産業まで含めた商流にかかる幅広い産業群を「ア
グリクラスター」と捉え、単に農業者向け融資の拡大を志向するばかりでなく、極めて
幅広い概念を設定しながら、積極的に農業分野への融資推進に取り組んでいる。ちなみ
に同行では、農業を医業、環境と並ぶ「成長三分野」のひとつと位置付けており、今後
は改正食品リサイクル法の施行(07 年)などを受けた
循環型農業
の支援に注力し
ていくことを打ち出している。
なお、前述したように、農業マーケット自体がさほどの規模でないとすれば、当前の
ことながら、地域金融機関にとって、それだけでは大きな収益獲得は期待し難い。しか
し、気鋭の農業者の活躍を核とした関連産業の大きなうねりが地域経済全体にも拡がっ
ていけば、民間金融機関による農業者向け融資が結果として地域経済活性化にも資する
こととなる。究極の地場産業である農業を金融面中心に多方面から支援していくことは、
仮にそれ自体が短期的な収益機会に直結しなかったとしても、中長期的には関連産業活
性化の実現を通じて、低迷する地域経済全体の底上げにも貢献していくものと思われる。
地域経済に立脚する信用金庫などの地域金融機関が、今後の農業者向け融資の拡充へ
取り組んでいくに際しては、ビジネスマッチングと絡めた販路拡大など、強い農業者作
りへつながる支援メニューを備えるとともに、リレバンの原点でもある 地域貢献 の
視点が、これまで以上に求められていくことになると思われる。
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おわりに
信金中央金庫では、㈳全国信用金庫協会が推進する「地域活性化しんきん運動」の一
環として、㈱ぐるなびと連携し、信用金庫取引先に対する販路拡大支援を目的に、農業
者などの信用金庫取引先が生産・製造する食材等をインターネット上のサイトでPRで
きる仕組みを構築した。本サイトの名称は「日本全国しんきん旨いもん地図」で、㈱ぐ
るなびが信用金庫取引先に限定して商品掲載を行う「食」に関するBtoB(企業間取引)
サイトとして、2009 年6月 1 日、㈱ぐるなびのホームページにオープンし、全国約 63,000
店のぐるなび会員の飲食店等とのマッチング機会を提供している(図表 12)。
(図表 12)「日本全国しんきん旨いもん地図」のスキーム
ぐるなび運営
BtoB サイト
信用金庫
③サイト閲覧
①サイト紹介
信金取引先
④商品に関
する問合せ
②商品掲載
・ぐるなび会員
の飲食店
・百貨店
・スーパー
⑤商談、取引
① 信用金庫は、BtoB サイトを信金取引先に紹介
② 商品掲載を希望する信金取引先は、ぐるなびに申込みを行い、商品を掲載
③ 飲食店等は、サイトを閲覧
④ 掲載商品の詳細情報を知りたい場合、飲食店等はサイトの問合せ機能から信金取引先に照会
⑤ 商談を行い、成約すれば取引を開始
(備考)1.信金中央金庫のニュースリリース資料(09 年 6 月 1 日)より作成
2.「日本全国しんきん旨いもん地図」のURLは http://pr.gnavi.co.jp/shinkin/index.php
全国の信用金庫では、すでに地域単位で地元の農業者も含めたビジネスマッチング大
会などを開催しているケースが増えているが、上記のようなBtoBサイトの取組みは、
これを全国レベルで補完するものとして、信用金庫における農業者との取引拡大に繋が
っていくことが期待される。
以 上
(鉢嶺 実)
《参考文献》
・農林水産省「食料・農業・農村白書(平成 20 年版)」
・農林水産長期金融協会「農業法人向け融資における実態調査報告書」(2008 年 3 月)
本レポートのうち、意見にわたる部分は、執筆者個人の見解です。投資・施策実施等についてはご自身の
判断によってください。
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