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Nutrition Support Journal
2012 年特別号 ISSN 1345 - 7497
Wound Healing
Progress Record book
Nutrition
Support Journal
特別号
Medical Magazine
創傷治癒経過記録 集
Vol.3
● 監 修 ●
岐阜大学大学院医学系研究科消化器病態学教授
森脇 久隆
● 編 集 ●
藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授
東口 髙志
巻頭言
全国各地の栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)から寄せられ
た創傷治癒経過の経験例特別号も第 3 版となった。当初は単行の特集のみと思っ
ていたので、ここまで到達できたことは監修者として望外の喜びである。またこの
ことは、創傷治癒について読者諸氏の関心がどれだけ大きいか、さらに言えば皆さ
んが臨床現場でいかにご苦労なさっているかを如実に反映するものと思われる。
さて本号も極めて多彩な症例をご提供頂くことができた。まず糖尿病である。
目次とタイトルに 糖尿病性 と付いている報告は 3 例のみであるが、実際、背景
疾患として糖尿病を有している症例は合計 11 例にのぼる。糖尿病の存在が創傷
治癒にとって大きな阻害因子であることがよく現れており、個々の症例に寄せら
れたコメントにも随所に耐糖能改善の工夫が記載されている。また熱傷、縫合不
全、褥 瘡に加え、本 号では閉 塞 性 動 脈 硬 化 症(arteriosclerosis obliterance:
ASO)による重症下肢虚血の症例や、頭頸部腫瘍に対する放射線治療に起因す
る放射線性口内炎など比較的珍しい症例の経験も、誌面を通して共有することが
できる。特にASOでは繰り返し血管拡張術が必要となるので、その間に創傷治
癒をどう上 手 に達 成 するか が 褥 瘡 チーム(pressure ulcer care team:PUT)、
NST にとって腕の見せどころである。前回の特別号でも巻頭言に書いた通り、ま
た本号 4 ページに報告者が記されている通り
「次回バルーン拡張を必要とする再
狭窄が来るまでに治癒させる、スピード感のある治療」
というのは大いに頷ける
コメントである。
また今後気をつけていくべき重要な示唆を与えるのは、5 ページの「ソラフェニ
ブによる創傷治癒遅延」症例である。ソラフェニブは血管新生阻害を作用機序と
する肝臓癌の分子標的薬であるが、同様の作用を有する薬剤が相次いで臨床に
導入される昨今、このような経験をされる施設もすぐ広まるものと思われる。今
後、経験を持ち寄りあい、ベストの対策・治療システムを構築する必要があろう
かと考える。
2012 年 9月
岐阜大学大学院医学系研究科消化器病態学教授
森脇 久隆
編集にあたって
前回、前々回に引き続いて、創傷治癒促進を目指す新たな取り組みとして、新しい栄養素である
HMB(β- hydroxy-β- methyl butyrate:ロイシン代謝産物)、そしてそれにグルタミンとアルギニ
ンを加えたHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の効果に着目して、最新の栄養学を駆使した
創傷治癒促進の効果について紙上での症例検討会を行った。回を重ねるごとにいろいろな領域
からその効果を示す報告がなされるようになり、あらためて栄養素の生体に及ぼす効果ならびに
栄養管理の力に驚かされた。多くの臨床現場で患者さんのことを思いながら一生懸命に尽くす皆
様からのレポートは、読者の皆様もお持ちであろう共通の悩みを包含しており、症例個々に対する
取り組みが理解しやすく、実際の現場で大変役に立ったとお褒めの言葉をたくさん頂戴している。
今回は、第 3 弾であり、先に述べたようにこれまでよりもさらに広い領域から症例提示がなさ
れており、それだけでも興味津々の内容となった。もちろん、今回も、写真を詳細かつ鮮明にし
て説明の簡略化にも努めていただいており、実際に現場で行っている症例検討会に紛れ込んだ
のではと思わせるような臨場感に
れるものとなった。
2010 年に「栄養サポートチーム(nutrition support team:NST)加算」が新設され、2012
年には急性期だけでなく慢性期の医療施設でも加算申請ができるようになった。今回の診療報
酬改正でも私たちの行った NST の稼働施設調査の結果を重視していただき、NST 加算の対象
施設の拡大につながった。しかし、この調査結果も日頃の皆様の努力なしでは集計できないも
のであり、多くの NST や栄養管理に真
に向かい合う皆様の熱い思いがこの改正につながって
いるものと確信している。今後はこの NST 加算をわが国の大切な宝として、わが国の医療・福
祉向上の糧にしていかねばならない。そのためには今回提示いただいた症例の 1 人 1 人を大切
にして、特に創傷治癒促進の立場からも栄養管理の底力を示していくことも重要である。
今回の症例検討にご参加いただいた皆様の中には、NSTで創傷治癒促進のための栄養管理
に長く携わっておられる方もおられるが、逆にこのシリーズの第 1 弾、第 2 弾をお読みになって
初めて実際の現場で試され、その効果にご自身が驚かれた方々もおられるとお聞きしている。
今後も症例それぞれにおける評価と治療方針の決定などに関する苦悩や苦労そして努力に焦
点を当てていきたいと思う。
2012 年 9月
藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座教授
東口 髙志
目次
P1
潰瘍・びらん
独立行政法人国立病院機構 千葉東病院 看護部 橋詰 亮 ほか
P2
結腸穿孔を伴う腹腔内膿瘍・難治性瘻孔
大阪府立成人病センター 消化器外科 後藤 邦仁
P3
骨盤死腔炎創離開
名古屋市立大学病院 栄養管理係 伊藤 明美 ほか
P4
重症下肢虚血
東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科病棟 安田 歩 ほか
P5
手術創部
国立病院機構 高崎総合医療センター 統括診療部 栄養管理室 小川 祐介
P6
術後創傷
千葉大学医学部附属病院 看護部 耳鼻咽喉・頭頸部外科病棟 菅原 久純
P7
褥瘡
日本私立学校振興・共済事業団 東京臨海病院 中央施設部栄養科係長 池田 茂
兵庫医科大学病院 NST 小倉 由美子
大牟田記念病院 溝手 博義
P10
創感染
中部ろうさい病院 外科 今枝 政喜
P11
創感染後の創離開
福岡大学病院 呼吸器・乳腺内分泌・小児外科准教授 増本 幸二
P12
大腸全摘術後会陰部
九州大学病院 栄養管理室 山口 貞子
P13
糖尿病性足壊疽
日本医科大学付属病院 再生医療科 桐木 - 市川 園子
水戸済生会総合病院 医療技術部 栄養科 武田 久美子 ほか
P15
糖尿病性足潰瘍
埼玉医科大学病院 形成外科 石川 昌一 ほか
特別号
P16
熱傷
成田赤十字病院 形成外科 加地 竜士
埼玉医科大学総合医療センター 形成外科 河内 司
関西医科大学附属枚方病院 形成外科 笹尾 卓史
東京大学医学部附属病院 栄養管理室 澤田 実佳
自治医科大学附属病院 臨床栄養部 NST 支援室 馬場 千恵子
朝日大学歯学部附属村上記念病院 栄養管理室 安江 裕香 ほか
P22
左下腿潰瘍
青森県立中央病院 NST 小川 吉司 ほか
P23
左側耳下腺腫瘍摘出術
信楽園病院 栄養科 細川 学 ほか
P24
左中指不全断裂
福井県済生会病院 栄養部 木下 充子 ほか
P25
フルニエ症候群
関西医科大学附属滝井病院 高度救命救急センター 齊藤 福樹 ほか
P26
蜂窩織炎による左第 2・3 趾壊死
福岡赤十字病院 薬剤部 竹野 智彦
P27
縫合不全
大分大学医学部附属病院 看護部 安部 幸 ほか
金沢大学附属病院 胃腸外科 岡本 浩一
藤田保健衛生大学病院 看護部 公衆衛生看護科 谷口 めぐみ ほか
利根中央病院 NST 専従 戸丸 悟志
P31
放射線性口内炎
久留米大学病院 歯科口腔医療センター 高野 雅代
鹿児島大学病院 口腔外科 松井 竜太郎
P33
右足外顆・踵部難治性潰瘍
宮崎江南病院 形成外科 大安 剛裕
創傷治癒経過記録集
潰瘍・びらん
独立行政法人国立病院機構 千葉東病院 看護部(看護師)
橋詰 亮
独立行政法人国立病院機構 千葉東病院 栄養管理室(管理栄養士) 永井 徹
独立行政法人国立病院機構 千葉東病院 外科(外科医長)
大月 和宣
1 患者背景
・年齢・性別:46 歳 男性 ・基礎疾患:糖尿病性腎症 ・創傷の状況 発生日:2012 年 2 月 27 日 部位:口腔∼食道
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,500 kcal 1日摂取水分量:2,000 mL
3 治療経過
2012 年 2 月 27 日 発症時口腔
2012 年 3 月 21日
2012 年 2 月 27 日 発症
2012 年 3 月 6 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2012 年 3月6日 使用量:1袋 / 日
2012 年 2 月 27 日 発症時食道
2012 年 3 月 21日
使用量の途中変更 □無 □有
2012 年 3 月 22 日
2 月15 日
生体腎移植施行。
2 月27日
口腔内異常を訴え、GF 施行。口腔内∼食道にかけて単純ヘルペスによる潰瘍とびらん形成あり。
3月2∼12日
アシクロビル(ビクロックス ®)75mg / 日投与
3月13∼22日
アシクロビル(ゾビラックス ® 錠 200)3T3×内服
ハチアズレ顆粒による含嗽とトリアムシノロンアセトニド軟膏により処置を開始。
2 月27日∼ 静脈栄養および経口濃厚流動食
3 月 6 日∼ 静脈栄養および経口濃厚流動食 +HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋
3 月 9 日∼ 静脈栄養および C - 2食摂取に腎疾患用経口流動食・栄養補助食品付加 +HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋
3 月13 日∼ C - 3食摂取に腎疾患用経口流動食・栄養補助食品付加 +HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋
3 月22日∼ C - 4食摂取に腎疾患用経口流動食・栄養補助食品付加 +HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋
(3 月 9 日∼ C - 2食を段階的にアップしたが、摂取少量のため、腎疾患用経口流動食・栄養補助食品の付加を継続)
腎移植後食食事基準
エネルギー(kcal)
たんぱく
脂肪
糖質
水(mL)
C -1食
400
15
8
70
800
C-2食
1,000
45
25
150
1,150
C-3食
1,350
55
35
200
1,300
C - 4食
1,800
65
40
300
1,200
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
2 / 27
3/6
3/9
3 /13
3 / 20
3 / 22
体重(kg)
80.45
80.8
77.9
78.5
69.8
68.45
3.2
2.8
2.7
2.7
2.9
3.0
BUN(mg /dL)
92.9
74.7
45.5
22.6
33.4
34.1
Cre(mg /dL)
8.17
3.85
2.36
1.47
1.57
1.63
Alb(g /dL)
5 コメント
生体腎移植レシピエント。口腔内疼痛があり、食事摂取量は 1∼ 2 割程度であったが経腸栄養剤および栄養補助食品の摂取によりエネルギー
量の充足を図った。これにHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を併用することで改善がみられた。
1
結腸穿孔を伴う腹腔内膿瘍・難治性瘻孔
大阪府立成人病センター 消化器外科(医師) 後藤 邦仁
1 患者背景
・年齢・性別:60 歳代 男性
・基礎疾患:十二指腸乳頭部癌 術後重症膵炎
・創傷の状況
発生日:術後 25 病日 部位:腹腔内
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,640kcal
3 治療経過
術後 25 病日
術後 39 病日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
術後73 病日
開始日:術後36 病日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
十二指腸乳頭部癌の診断にて膵頭十二指腸切除術を施行。術後重症膵炎を発症。
術後25病日 ドレーン造影にて結腸穿孔を伴う腹腔内膿瘍、難治性瘻孔と診断。
術後 36病日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用を開始。
術後 57病日 食事開始。
術後 81病日 ドレーン抜去。
術後 87病日 退院。
4 栄養状態の変化
確認日(術後病日)
31
39
43
57
65
Alb(g /dL)
2.8
2.7
3.3
3.5
3.8
CRP(mg /dL)
9.2
9.6
6.9
0.6
0.9
BUN(mg /dL)
11
13
16
19
14
Cre(mg /dL)
0.59
0.53
0.59
0.62
0.65
5 コメント
術後重症膵炎発症後、結腸穿孔を伴う腹腔内膿瘍、難治性瘻孔をきたした症例に対して保存的治療を行った。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用後より、膿瘍腔の著明な縮小とアルブミン値の上昇を認めた。
2
骨盤死腔炎創離開
名古屋市立大学病院 栄養管理係(管理栄養士) 伊藤 明美 中村 吉博
名古屋市立大学病院 消化器外科助教(医師) 原 賢康
1 患者背景
・年齢・性別:80 歳 男性
・基礎疾患:腹会陰式直腸切断術後 糖尿病
・創傷の状況
発生日:2011年10 月15 日 部位:会陰部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,600kcal
1日摂取水分量:1,800 mL
3 治療経過
7.5cm
6.3cm
1.6cm
3.6cm
2.7cm
2.5cm
2.2cm
1.6cm
0.8cm
1.2cm
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
使用前
使用 5 日目
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
使用 8 日目
使用11日目
使用14 日目
開始日:2011年10月25日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
術後、食事が充分にとれなかったことや、既往歴に糖尿病があり血糖コントロールに苦慮したことなどから、会陰部創の治癒は難航した。
また、創部感染に対して、ニューキロノン系経口抗菌剤を投与していた。術後 21日目、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始時に
は、食事摂取が良好となり血糖コントロールも安定していた。創部は、毎日洗浄を継続した。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開
始後、炎症反応が低下し栄養状態が改善され、良好な肉芽形成が得られ創部の著明な縮小が可能となった。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創のサイズ(cm)
体重(kg)
10 / 25
11/1
11/ 4
11/ 7
11/ 10
7.5×2.5
6.3×2.2
3.6×1.6
2.7×1.2
1.6×0.8
58.0
57.5
58.2
60.1
(胸水あり)
Alb(g/dL)
CRP(mg/dL) 2.2
2.9
2.9
4.53
1.96
0.20
BUN(mg/dL) 11
21
22
Cre(mg/dL)
0.7
0.7
0.6
5 コメント
直腸断絶後の感染した死腔の治療において、
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用は、肉芽形成を促進することで創閉鎖を得ることが
できた。また、高齢であったが、尿素窒素、クレアチニンともに正常範囲内であり腎機能への影響もなかった。
3
重症下肢虚血
東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科病棟(看護師) 安田 歩
東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科(医師)
宇都宮 誠
東邦大学医療センター大橋病院 形成外科(医師)
山田 哲郎
田中 美紗子
長島 義宜
大西 清
小野寺 佳代子
中村 正人
1 患者背景
・年齢・性別:95 歳 男性
・基礎疾患:閉塞性動脈硬化症 重症下肢虚血
・創傷の状況
発生日:約 3 年前 部位:左下腿足部内側 2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,600 kcal
3 治療経過
2012 年 2 月 20 日
血行再建前の下肢動脈造影
腓骨動脈は開存しているものの前脛骨動脈、
後脛骨動脈は完全閉塞している
2012 年 2 月15 日
入院時
2012 年 2 月 20 日
治療後の下肢動脈造影
前脛骨動脈、後脛骨動脈へバルーン拡張術を行った。
足底動脈弓に至るまでの良好な血流を確保することに成功した。
2012 年 2 月 23 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始
3 日目 創傷は治癒傾向がみられている
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 3 月14 日
創傷は急激に縮小している
2012 年 3 月 29 日
創傷治癒が得られた
開始日:2012 年 2 月21日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
約 3 年前から保存的治療を行うも治癒に至らない重症下肢虚血。高齢ではあったが自立歩行が可能で ADLも自立している方であった。
高齢であったため血行再建は血管内治療で行うこととした。血行再建はうまくいったが、膝下動脈に対するカテーテル治療は再狭窄率が
高いため、再狭窄に至る前に創傷を治すスピードが求められる。この症例のように創傷が大きい場合には、植皮などの外科的治療も必要
となるが、今回は高齢であることから軟膏のみで創傷への治療を行った。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
2 /21
3 /1
3 /14
3/20
3/29
創傷のサイズ(cm)
7×4.5
6×3
2×1+2×2
1×1
治癒
体重(Kg)
60.6
TP(g /dL)
8.2
8.1
8.9
8.1
8.7
Alb(g /dL)
3.9
3.6
3.9
3.6
4.1
BUN(mg /dL)
23
51
56
57
65
Cre(mg /dL)
2.07
2.04
2.19
2.02
1.95
59.7
5 コメント
カテーテル治療後すぐにHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を開始した。比較的大きな創傷であったため治癒まで時間がかかることが予
想されたが、思ったよりも早く創傷治癒が得られた。大きな潰瘍では治癒までに時間がかかってしまい、経過中にカテーテル治療を繰り返さざ
るを得ないことが多いが、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料は創傷治癒を促進し治癒までの時間を短縮することができるため再狭窄が
生じる前に創傷を治癒させる可能性があると考えられた。
4
手術創部
国立病院機構 高崎総合医療センター 統括診療部 栄養管理室(管理栄養士) 小川 祐介
1 患者背景
・年齢・性別:63 歳 女性
・基礎疾患:肝細胞癌 狭心症
・創傷の状況
発生日:2011年 2 月16 日 部位:右上腹部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,700kcal
3 治療経過
2011年 3 月 31日
2011年 4 月 8 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 4 月15 日
2011年 8 月 30 日
開始日:2011年 4月1日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2 月16 日に肝 S7 部分切除。創部の軽 度 感 染はあったが 3 月上旬に退院。ソラフェニブ再開となる。その後創部感 染が悪化したため、
3 月下旬に再 び ソラフェニブ休 薬 のため入 院。連 日 創 洗 浄とデ ブリード マ ン を 施 行した が 改 善 傾 向 が みら れず、NST に依 頼 あり。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1日 2 袋使 用を提 案。その後、創部 感 染および浸出液は減少となり 4 月中旬退院となった。現
在、ソラフェニブ再開となり、外来通院をしている。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創の評価
3/31
4 /8
4 /15
8 /30
治癒
写真参照
8/30
3/29
4/12
4/22
TP(g /dL)
6.4
6.7
7.5
7.3
Alb(g /dL)
3.1
3.4
3.9
4.1
BUN(mg /dL)
8.2
10.5
7.5
8.5
Cre(mg /dL)
0.57
0.48
0.50
0.48
Hb(g /dL)
12.6
12.0
12.1
12.5
検査日(月 / 日)
5 コメント
分子標的薬ソラフェニブを内服していたことにより、創傷治癒の遅延があったと思われるが、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用し
たことにより、たんぱく質合成を高め創傷治癒が促進したと思われる。
5
術後創傷
千葉大学医学部附属病院 看護部 耳鼻咽喉・頭頸部外科病棟(看護師) 菅原 久純
1 患者背景
・年齢・性別:46 歳 男性 ・基礎疾患:なし
・創傷の状況
2011年 4 月19 日咽頭喉頭食道摘出、遊離回盲部再建、両頸部郭清、気管切開術。4 月30 日 再建腸管壊死のため、右胸三角筋部皮弁
再建術。12 月 20 日 右大胸筋皮弁再建による瘻孔閉鎖術。2012 年 2 月2 日 左胸三角筋部皮弁再建術。
部位:頸部 胸部 肩部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:2,000 ∼ 2,200 kcal
1日摂取水分量:2,600 ∼ 3,300mL
3 治療経過
頸部皮弁
頸部皮弁
2012 年 2 月 21日 左肩右肩
胸部
2012 年 3 月 2 日 左肩右肩
胸部
頸部皮弁
2012 年 3 月 9 日 左肩
右肩胸部
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 3 月13 日 左肩
右肩
胸部
開始日:2012 年 2 月17日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
皮弁採取部の皮膚が術後より上皮化せず経過。必要栄養量の投与を継続したが、創部の改善は認められなかったため、創傷治癒促進の目
的で HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を導入。
In Body 測定にて、1,342kcal /日。入院時より低体重があったが、術後も更に体重減少を認めたため、体重増加を期待し、またリハビ
リなどの活動量と術後の組織欠損も考慮し、1日の栄養量を 2,000kcal に設定。TPN と経管栄養併用の状態から、HMB、グルタミン、
アルギニン配合飲料の使用を開始した。
2 月 21日経管栄養から必要量が使用できると判断に至り、TPN 離脱。経管栄養単独で 2,200kcal にて栄養使用。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料は、全体的に上皮化が認められたので、3 月12 日で使用を中止した。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創のサイズ
長径(cm)
体重(kg)
Alb(g/dL)
TP(g/dL)
Hb(g/dL)
BUN(mg/dL)
Cre(mg/dL)
2 /15
左肩 3.5
胸部 5
右肩1.5
(2 /21)
49.8
(2 /13)
3.6
6.3
9.0
30
0.70
2 /22
51.34
(2/21)
3.4
5.8
8.5
30
0.66
2 /28
左肩 2
胸部 4
右肩1
(3/2)
54.50
(2 /28)
3.2
5.2
8.4
17
0.65
3/ 7
左肩 2
胸部 3
右肩1
(3/9)
52.62
(3/4)
4.6
7.4
12.2
29
0.85
3 /14
左肩1.5
胸部 2.5
右肩 0
(3/13)
51.26
(3/8)
4.2
6.7
11.4
26
0.92
3 / 21
51.98
(3/26)
4.2
6.7
11.6
25
0.90
5 コメント
これまでも栄養量は不足がないよう調整していたが、創部離解を繰り返しており、上皮化しにくい状態があった。使用後 1 週間ほどで、創部の
縮小を認めた。左肩の創部に関しては 2 月21 日の段階では上下に2ヵ所存在していたが、3 月2 日には概ね上皮化しており、3 月9 日には消
失した。また、数値として表記できていないが、頸部の皮弁も 2 月21 日では湿潤状態であるのに対し、3 月13 日にかけ上皮化していることが
確認できる。検査データ上 2 月15 ∼ 28 日にかけての体重増加は全身性の浮腫が考えられ、水分量を管理した。これまでの経過から考える
と、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の開始により創傷治癒を促進したと考えられる。
6
褥瘡
C A SE ❶
日本私立学校振興・共済事業団 東京臨海病院 中央施設部栄養科係長(管理栄養士・NST 専門療法士) 池田 茂
1 患者背景
・年齢・性別:74 歳 男性
・基礎疾患:左第1趾壊疽 左大腿骨頸部骨折 左股関節手術(2 回) 5cm 大腿骨長短縮 右下肢閉塞性動脈硬化症
・創傷の状況
発生日:2011年 6月 8 日 部位:左足背外側
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,587kcal
1日摂取水分量:1,476mL
手術前には主食・副食とも半量以下しか摂取できていない状況がみられたが、術後よりほぼ 8 割以上摂取していた。HMB、グルタミン、
アルギニン配合飲料を摂取することは人により甘すぎるなどの抵抗もあるが、患者は甘いもの好きであったため抵抗なく摂取されてい
た。それに加え、病棟看護師が機転を利かせ、氷を入れるなどしたことにより、摂取が楽しみに変わったといったことも持続するための一
因となった。
3 治療経過
2011年 6 月15 日
2011年 6 月 20 日
2011年 6 月 23 日
2011年 6 月 27 日
2011年 6 月 30 日
2011年 7 月 8 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 6 月 24 日
開始日:2011年 6月15日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
左第1趾壊疽手術と入院後発生した褥瘡に対してデブリードマンを施行。褥瘡発見日より、壊死組織の自己融解処置としてスルファジア
ジン銀クリーム を使 用、除圧ケア・リハビリを同時に行った。術後7 病日目(6月15 日)、褥 瘡 対 策チームが介入し、回診を実 施(毎週1
回)。術後 9 病日目(6月17 日)、低栄養によりNST チームが介入[ 回診(1回 / 週)と症例検討会を実施 ]し、褥瘡初回回診日より普通食に
加え HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を1日 2 袋使 用(1回の水分は 240mL)。日本褥 瘡学会が発表している褥 瘡アセスメント
ツール DESIGN-R は、術後7 病日目は16 点、術後 22 病日目(6月30 日)は 3 点となり、退院日術後 30 病日目(7月8 日)の DESIGN- R
は 0 点となり改善した。CONUT スコアでは、NST介入時栄養不良レベル中等度異常 5 点が、2 点軽度異常となり栄養状態が改善した。
4 創傷・栄養状態の変化
7/15
6 /15
6 /20
6 /23
6 /24
6 /27
6 /30
7/8
DESIGN-R(点)
16
15
10
5
5
3
0
体重(kg)
53
51.4
51.1
BUN(mg /dL)
39
41
12
Cre(mg /dL)
0.98
0.98
1.06
確認日(月 / 日)
CONUT スコア(点)
5
51.1
2
5 コメント
一般的に危険要因レベル中等度の褥瘡患者では、治癒期間 57 日(※「新・褥瘡のすべて」永井書店)というデータもある。患者の背景や褥瘡
の程度もさまざまであり、一概に効果を比較することは難しい。経口摂取が保たれた状態で HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用し
た結果では、ほぼ 3 週間で痂皮化し栄養状態も改善した。病棟スタッフや医師は、短期間に治癒が促進されたとの印象をもち、創傷治癒の改
善を促したと考えられた。
第 27 回日本静脈経腸栄養学会(神戸)02, 2012にて発表
7
褥瘡
C A SE ❷
兵庫医科大学病院 NST(看護師) 小倉 由美子
1 患者背景
・年齢・性別:67 歳 女性
・基礎疾患:胃切除後 パーキンソン病 壊疽性筋膜炎
・創傷の状況
発生日:2011年 3 月中旬頃 部位:臀部 右大腿部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,887kcal
3 治療経過
2011年 6 月 22 日
2011年 7 月 6 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 8 月 4 日
2011年 9 月 2 日
開始日:2011年 7月6日 使用量:3 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
入院当日、臀部、右大腿部の褥瘡部のデブリードマン施行。翌日から言語聴覚士介入により嚥下評価後、7 分粥開始とともに経鼻チューブ
挿入により経腸栄養開始となる。創部切開術後、2 週間後一般病棟へ転科となるが、パーキンソン病による嚥下障害のため摂取量は 5 割
ほど 30 ∼ 40 分かけての摂取。体重 37kg、BMI15.6kg /m2 と低栄養状態の継続が示唆されたため、リンクナースの依頼により NST
介入となった。
壊疽性筋膜炎による広範囲の創部感染防止のため人工肛門増設、および創部切開、皮膚移植術を繰り返した。
(皮膚再建術、デブリードマ
ン 8 回)
4 栄養状態の変化
6 / 22
7/ 6
TP(g /dL)
5.9
6.1
Alb(g /dL)
2.8
3.1
確認日(月 / 日)
8 /4
2.9
9/2
10 / 6
5.9
6.5
3.1
3.1
RBP(mg /dL)
0.6
1.5
PreAlb(mg/dL)
4.5
13.5
Tf(mg /dL)
37
249
Zn(μg /dL)
37
61
11/ 7
12 /6
2 /14
0.5
100
Cu(μg /dL)
100
CRP(mg /dL)
12.6
0.4
2.6
2.2
4.2
0.7
3.3
BUN(mg /dL)
16
28
18
19
16
21
20
25
Cre(mg /dL)
0.33
0.33
0.30
0.25
0.33
0.24
0.25
0.29
入院期間:2011 年 6 月22 日 ∼ 2012 年 2 月29 日
5 コメント
入院時当日から広範囲の褥瘡・創傷に対する全身状態と同時に栄養状態の評価を行い、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を早期より強
化導入した結果、皮下・肉芽組織形成の追い風となり、創傷治癒促進効果が得られたものと考える。
使用期間中、腎機能には変化を認めず、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料3袋 / 日でも安全に使用可能であることが示唆された。
8
褥瘡
C A SE ❸
大牟田記念病院(医師) 溝手 博義
1 患者背景
・年齢・性別:83 歳 女性
・基礎疾患:脳梗塞後遺症
・創傷の状況
発生日:不詳 部位:仙骨部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,200 kcal
高濃度栄養食品(400 kcal /200mL)3P/ 日
3 治療経過
2010 年11月 26 日
2010 年12 月 4 日
2010 年12 月 22 日
2011年1月 4 日
2011年 2 月 4 日
2011年 2 月18 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2010 年11月30 日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用前にデブリードマン施行、ドレッシングはワセリン塗布ならびにラップ。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
11/ 26
12 /4
12 / 22
1/4
2 /4
2/8
創のサイズ(cm)
11×8.8
10×9
10×8
10×8
5×5
7×4
体重(kg)
45
BUN(mg /dL)
21.9
26.2
37.7
22.9
Cre(mg /dL)
0.2
0.3
0.4
0.3
5 コメント
仙骨部の褥瘡に対し創部の洗浄とワセリン + ラップのドレッシング処置を行っていたが改善を認めていなかった。HMB、グルタミン、ア
ルギニン配合飲料使用開始後ポケット付近より次第に肉芽の増殖が認められ、使用開始後約 2 ヵ月半で上皮化が得られた。
9
創感染
中部ろうさい病院 外科(医師) 今枝 政喜
1 患者背景
・年齢・性別:70 歳 男性
・基礎疾患:胆石症 総胆管結石症(10 月31日胆嚢摘出、総胆管切開結石摘出術)
・創傷の状況
発生日:2011年11月10 日 部位:手術部位(右季肋部)
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,000kcal
1日摂取水分量:500mL
3 治療経過
2011年11月 29 日
2011年12 月 9 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年12 月16 日
開始日:2011年11月19 日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
11 月10 日 創を一部抜糸して排膿、その後毎日洗浄した。11月16 日より創洗浄後、創部にアクアセル Ag を挿入。
12 月11 日∼ トラフェルミンスプレー噴霧を開始。上皮化が良好で12 月22 日に退院した。
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
11/1
Alb(g /dL)
11/ 24
11/ 29
12 / 8
42.5
体重(kg)
43.9
12 / 9
12 /11
12 /16
45.0
2.2
BUN(mg /dL)
15.7
Cre(mg /dL)
0.96
5 コメント
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用後、創の状態が改善した。
術後創感染に対して HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用することで(栄養状態が改善し)、創傷治癒を促進すると考えられる。
10
創感染後の創離開
福岡大学病院 呼吸器・乳腺内分泌・小児外科准教授(医師) 増本 幸二
1 患者背景
・年齢・性別:21歳 女性
・基礎疾患:メッケル憩室による絞扼性イレウス 難治性てんかん 精神発達遅滞
・創傷の状況
発生日:2011年 4 月 9 日 部位:右下腹部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:800kcal
1日摂取水分量:1,500mL+α
術後 5 日目であり、経腸栄養はできていない状況
3 治療経過
2011年 4 月 28 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
使用開始日
2011年 5 月 2 日
使用後 4 日目
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 5 月 6 日
使用後 8 日目
2011年 5 月12 日
使用後14 日目
開始日:2011年 4月28日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
4 月14 日に緊急手術にて回腸切除を行った後、4 月19 日に創感染が生じた。4 月 21日に創部デブリードマン、ドレナージを行ったが、
創傷治癒 遅 延があったため 4 月 28 日よりEN+HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使 用を開始した。創部洗浄、抗生剤投与併用。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用後肉芽の盛り上がりは良好で、1週間目以降創離開部の縮小が認められた。使用後 4 週目
には創は完全に閉鎖した。
4 創傷・栄養状態の変化
4 / 21
4 / 28
5 /2
5/6
5 /12
5 / 30
6.5×2.7
6.8×3.5
6.8×3.0
6.0×1.5
4.7×1.0
closed
39.0
38.4
38.2
38.6
38.7
40.2
TP(g /dL)
5.7
6.2
6.7
6.6
6.5
7.4
Alb(g /dL)
2.6
2.8
3.0
3.2
3.5
4.4
BUN(mg /dL)
11
8
9
-
8
7
Cre(mg /dL)
0.6
0.4
0.4
-
0.4
0.5
確認日(月 / 日)
創のサイズ(cm)
体重(kg)
5 コメント
本例は腸管切除後に生じた創感染による創離開があり、腹壁膿瘍となったため、創部のデブリードマンおよびドレナージを行った。その後も創
部の創傷治癒遅延が認められたため、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用した。通常、当科ではこのような症例には陰圧持続吸引
療法+アルギニン含有のサプリメントを使用しているが、精神発達遅滞があり、陰圧持続吸引療法の使用が困難であった。そのため、アルギニ
ンなどの含有量の多い飲料のみを使用した。創の底部や周囲の肉芽形成は早期に認め始め、使用 1 週間後ぐらいから創部の縮小が認められ
た。完全な閉鎖までの期間は約 4 週間であった。飲料使用後の創部の改善は極めて良好であり、本飲料に含有量の多いアルギニンやグルタ
ミンなどが創傷治癒過程を促進すると考えられた。
11
大腸全摘術後会陰部
九州大学病院 栄養管理室(管理栄養士) 山口 貞子
1 患者背景
・年齢・性別:20 歳代 男性
・基礎疾患:小腸・大腸クローン病
・創傷の状況
発生日:2011年 9 月12 日(手術) 部位:大腸全摘術後会陰部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,680 ∼1,800 kcal
1日摂取水分量:1,650 ∼ 2,000mL
3 治療経過
使用開始(術後 47 日目)
使用 2 週間後(術後 61日目)
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
使用 3 週間後(術後 68 日目)
開始日:術後 47日目 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
連日スワブスティックにて洗浄。会陰部にはトラフェルミンスプレー、肛門周囲はテルビナフィン塩酸塩軟膏を塗布し、パウダー散布。
術後 47 日目よりHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋追加(3 週間)。
4 栄養状態の変化
使用開始時
使用 2 週間後
使用 3 週間後
56.0
59.6
59.6
TP(g/dL)
7.9
8.2
7.9
Alb(g/dL)
3.8
4.3
4.2
BUN(mg/dL)
11
10
12
Cre(mg/dL)
0.79
0.78
0.79
確認日
体重(kg)
5 コメント
肛門部の創治癒遅延の患者に術後47日目からHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用し、使用3週間で肉芽形成が進み創縮小を認めた。
本例の経験からはクローン病患者の肛門部における術後創傷治癒遅延に対し肉芽形成を促進したと考えられた。ただしアルギニン含有食品で
あるため炎症反応の変化を確認しながらの使用が必要である。
12
糖尿病性足壊疽
C A SE ❶
日本医科大学付属病院 再生医療科(医師) 桐木 - 市川 園子
1 患者背景
・年齢・性別:42 歳 男性
・基礎疾患:2 型糖尿病
・創傷の状況
発生日:2011年11月頃 部位:左足
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,900 kcal
3 治療経過
2011年11月 24 日 入院時1
2011年11月 24 日 入院時 2
2011年11月 28 日 入院直後切開排膿
2011年12 月 9 日 入院 2 週間
2012 年1月 26 日 入院 2ヵ月
2012 年 2 月 6 日 退院時
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2011年12 月28日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2011年 9 月左足底擦過傷から蜂窩織炎、壊疽となった。未治療の糖尿病あり。入院後切開排膿、外科的デブリードマン、抗生剤投与に
加えマゴットセラピーを行った。12 月末より栄養補助食品使用開始、その後閉鎖陰圧療法を併用し創は速やかに縮小した。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
11/ 21
創の評価
12 / 8
12 / 22
1/13
デブリードマン手術
マゴットセラピー
閉鎖陰圧療法
2 /13
体重(kg)
115
112.5
112
111.5
Alb(g /dL)
3.0
2.7
3.3
3.4
3.5
BUN(mg /dL)
17.6
10.8
7.2
7.3
7.5
Cre(mg /dL)
1.03
0.61
0.65
0.74
0.73
5 コメント
糖尿病性足壊疽の治療は血糖コントロールが最も重要である。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料は 1 袋当たり79kcalと低カロリーな
ので、血糖の変動にほとんど影響を与えないため使用しやすい。この患者は左第 1 趾内側に腱膜に達する深い潰瘍があり、その潰瘍が治癒し
なければ第 1 趾切断をしなければならなかったが、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料と他の治療の併用で良好な肉芽形成をみた。
13
糖尿病性足壊疽
C A SE ❷
水戸済生会総合病院 医療技術部 栄養科(管理栄養士) 武田 久美子 島田 千賀子
1 患者背景
・年齢・性別:49 歳 男性
・基礎疾患:慢性腎不全(血液透析歴11年) 糖尿病 心筋梗塞 間質性肺炎 不安定狭心症
・創傷の状況
発生日:両下肢多発潰瘍(4 月中旬) 左下肢切断術(5月19 日、6月14 日施行) 部位:両下肢
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,800kcal
3 治療経過
左下肢
2011年 5月 4 日
2011年 5月11日
2011年 5月16 日
2011年 8 月9 日
2011年 5月16 日
2011年 8月9 日
右下肢
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2011年 5月12日 使用量:1/2 袋 / 日(外来時)
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:2011年 5月18日 変更後の量:1袋 / 日)
(入院後)
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:2011年 8月9日 変更後の量:0 袋 / 日)
両下肢に虚血性の多発潰瘍を発症し、壊疽へ進行したため左下肢切断術を施行した。極 度の偏食だったが、頻回に面談を行い、教育を
繰り返したことで食事療法の理解が得られ、個別対応した食事と HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を全量摂取し、必要量を充足
することができた。転倒を繰り返し、創部が離開したため再縫合術を施行したが、感染兆候はなく、術後の創傷治癒は良好だった。右下
肢創部も縮小し、栄養指標の改善もみられたため、8 月19 日退院した。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
7/4
8 /1
5/21
6/17
左下肢切断
再縫合
退院時
HMB、グルタミ
術後 2 病日
術後 3 病日
HMB、グルタミン、
ン、アルギニン
アルギニン配合飲料
配合飲料開始時
Alb(g /dL)
CRP(mg /dL)
nPCR(g / kg / 日)
8 /19
5/9
外来時
終了14日後
3.1
2.1
2.6
7.2
16.6
9.5
0.77
2.6
3.4
0.4
0.3
0.6
0.93
0.95
0.92
5 コメント
創部の経過や血液検査をもとに、栄養量を適宜見直すことで、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用前後の尿素窒素や血清クレアチニ
ン値、標準化蛋白異化率(nPCR)に大きな変動はみられなかった。これにより、HMB、L-アルギニン、L-グルタミンを有効利用するためのエ
ネルギーの確保と食事たんぱくを調整することで、末期腎不全患者でも効果的に使用できる可能性が示唆された。
14
糖尿病性足潰瘍
埼玉医科大学病院 形成外科(医師)
石川 昌一 市岡 滋
埼玉医科大学病院 栄養部(管理栄養士) 岡村 聡之
1 患者背景
・年齢・性別:63 歳 男性
・基礎疾患:糖尿病
・創傷の状況
発生日:2011年 8 月 5 日 部位:左足底
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,800kcal
1日摂取水分量:1,000 mL
3 治療経過
2011年 9 月14 日
入院時、第 5 趾切断後であり、
感染、壊死組織が残存
2011年 9 月16 日
第 3、4 趾の中足骨切除と
デブリードマンを施行
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年10月17 日
2011年11月 9 日
足底のポケットが残存したため、 植皮術前、良好な肉芽形成
追加デブリードマンを施行
2011年11月11日
植皮術直後
2012 年 2 月 9 日
退院 2ヵ月後
開始日:2011年10月1日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2011年 8 月5 日頃より左足底に潰瘍出現、8 月18 日に前医入院、左第 5 趾切断術を施行も軽快せず、9 月13 日、当院入院。
9 月16 日、第 3、4 趾の中足骨切除とデブリードマンを施行。
足底のポケットが残存したため、10 月17 日、足底のデブリードマンを施行。
V.A.C. ATS ® 治療システムによる陰圧閉鎖療法を行い、良好な肉芽形成が得られたため、11月11日、鼡径部からの植皮術を施行。
術後経過良好で、12 月13 日、装具着用下で歩行可能な状態での退院となる。
4 栄養状態の変化
12 /12
確認日(月 / 日)
9 /13
10 /15
11/10
体重(kg)
62.8
63.1
63.2
64.0
99.4
109.3
109.3
105.3
%TSF
99.7
102.3
Alb(g/dL)
1.8
2.7
3.2
3.2
WBC(/μL)
5,760
6,550
4,540
4,220
CRP(mg /dL)
11.6
2.79
0.67
0.41
BUN(mg /dL)
12
18
23
23
Cre(mg /dL)
0.66
0.67
0.70
0.77
%AMC
5 コメント
入院時は炎症が強かったため、デブリードマン手術後炎症が落ち着いてからHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用開始した。使用量
については、eGFR は 84.6mL/min /1.73m2(60mL/min /1.73m2 未満で腎機能低下)であり、入院期間内は BUN が正常範囲内であっ
たため、1日 2 袋のまま継続とした。厳重な血糖管理[ HbA1c(NGSP)は前医では 14.0%、退院時は 6.5% ]と陰圧閉鎖療法など従来の治
療に加え、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を併用し、早期の創治癒を得られることができた。
15
熱傷
C A SE ❶
成田赤十字病院 形成外科(医師) 加地 竜士
1 患者背景
・年齢・性別:34 歳 男性
・基礎疾患:慢性 C 型肝炎
・創傷の状況
発生日:2011年 5月25 日 部位:両下肢 両手 臀部 顔面 気道(Ⅲ度 27% Ⅱ度 23%)
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:2,600kcal
1日摂取水分量:2,000 mL
3 治療経過
2011年 5月27 日 受傷後に減張切開
2011年 5 月 31日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 6 月 20 日
2011年 7 月 8 日
2012 年1月11日 退院後
開始日:2011年 6月13日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2011年 5月 25 日工場の爆発で受傷(Ⅲ度 27% Ⅱ度 23%)。当日ドクターヘリで搬送。当日全身麻酔下に減張切開を行った。
5月 27 日、5月31日、6月 6 日に全身麻酔下にデブリードマン、分層植皮術を施行した。
6月13 日に抜管し、その後よりHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を開始した。
6月23 日に自家培養表皮を植皮した。その後歩行などリハビリを開始。
9 月1日に再度自家培養表皮を植皮した。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創の評価
8 /15
9 /12
5/25
6/13
6/27
7/ 25
50%熱傷
臀部、大腿後面は
培養表皮も
感染部以外は
2 回目培養表皮
感染のため
一部感染
生着
も生着
減張切開
潰瘍が残存
TP(g /dL)
3.2
4.2
5.3
6.0
5.5
6.0
Alb(g /dL)
1.9
1.9
2.3
2.7
2.6
3.1
5 コメント
熱傷面積の広い重症熱傷では同一部位からの数回の採皮をすることや、今回の症例のように自家培養表皮を使用することが今後増加すると考
えられる。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用により、熱傷の自家培養表皮を施行した部位のみならず、採皮創の上皮化も促進し
ている印象を受けた。
16
熱傷
C A SE ❷
埼玉医科大学総合医療センター 形成外科(医師) 河内 司
1 患者背景
・年齢・性別:62 歳 女性
・基礎疾患:高血圧
・創傷の状況
発生日:2012 年1月27 日 部位:右鼡径 右下肢 腹部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,800kcal
3 治療経過
2012 年1月 27 日 初診時
2012 年 2 月 2 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 2 月 9 日
2012 年 2 月14 日
開始日:2012 年 2 月1日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2012 年1月 27 日コンロで沸かしたお湯を運んでいた際に転倒して、熱湯をかぶり受傷した。
同日当科を受診し緊急入院となった。
3 日間は清拭のみとし、トラフェルミンスプレー噴霧・軟膏塗布を開始した。
感染徴候を認めないことを確認後、シャワー浴を開始し、同様の処置を継続した。
ほぼ上皮化したため、2012 年 2 月15 日退院となった。
4 栄養状態の変化
2/7
1/ 27
1/ 30
体重(kg)
49
→
→
TP(g/dL)
5.5
5.2
8.2
Alb(g/dL)
3.4
3.2
5.4
Hb(g/dL)
15.1
確認日(月 / 日)
14.8
13.7
BUN(mg/dL)
11
-
12
Cre(mg/dL)
0.44
-
0.38
9,300
8,100
8,400
WBC(/μL)
5 コメント
熱傷などのストレスにより需要量が増すと考えられるグルタミン・アルギニンを使用することで、当初手術加療も検討していた本症例も、手術
せずに保存治療のみで上皮化を得ることができた。
17
熱傷
C A SE ❸
関西医科大学附属枚方病院 形成外科(医師) 笹尾 卓史
1 患者背景
・年齢・性別:81歳代 男性
・基礎疾患:高血圧症 狭心症
・創傷の状況
発生日:2010 年 8 月 23 日 部位:顔面 前胸部 腹部 両上肢 右大腿熱傷
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,250 ∼ 2,000 kcal
3 治療経過
2010 年 8 月23 日
2010 年10月20 日
2010 年 9月15 日
2011年1月11日
2010 年10月20 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年1月11日
開始日:2010 年10月28日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2010 年 8 月23 日に火炎にて、顔面・前胸部・腹部・両上肢・右大腿に熱傷を受傷。同日救急搬送され、救急救命科入院となった。3 度
熱傷は左小指、下腹部、右前腕、右手掌、右手背、右大 腿 膝上であり、2 度は顔面、前胸部、右上 腕、左上 腕、左前腕、左手掌、左手背、右
大 腿であり、熱傷面積は 26%、Burn Index は16.5 であった。熱傷部位に対して救急救命科入院中に数回の植皮術などの手術加療施
行。それと同時にシャワー浴とともに、軟膏加療による保存的加療を行った。専門的な加療が必要なため、9 月29 日に形成外科に転科。
転科後も保存的加療を行うとともに、1度植皮術を行った。
栄養面の改善が、創治癒に影響があることを考慮し、10月28 日より30 日間 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用を開始した。
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
9 / 27
10/15
体重(kg)
10 / 29
11/13
11/ 22
12 /1
46.8
12 /15
1/11
51.4
49.7
47.1
48.2
TP(g/dL)
5.6
5.5
5.6
5.5
5.6
6.2
Alb(g/dL)
2.0
2.1
2.5
2.8
3.1
3.1
BUN(mg/dL)
17
13
21
14
21
13
13
15
Cre(mg/dL)
0.73
0.56
0.62
0.58
0.60
0.59
0.63
0.67
5 コメント
当初は数ヵ月を要すると予測しての HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用であったが、予想より早い段階での上皮化がみられた。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用することにより、より早く創状態が改善してきたと考えている。良好な治癒経過が得られた 1 症
例を経験したので報告する。
18
熱傷
C A SE ❹
東京大学医学部附属病院 栄養管理室(管理栄養士) 澤田 実佳
1 患者背景
・年齢・性別:56 歳 男性
・基礎疾患:熱傷 糖尿病 高血圧 不整脈
・創傷の状況
発生日:2012 年1月10 日 部位:両手
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,900kcal
3 治療経過
受傷時
2012 年1月10 日
31病日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始時
2012 年 2 月8 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
61病日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用1ヵ月後
2012 年 3月9 日
開始日:2012 年 2 月8日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
1 月 9 日火災現場の火災防御中に熱気にあおられ両手に熱傷を受傷。適宜デブリードマンを施行し、軟膏処置を連日実施。疼痛により食事
摂取量(1,000kcal程度)が不足していたため、12病日より濃厚流動食を追加し、輸液メニューを細胞外補充液からアミノ酸・ビタミン B1
加総合電解質液へ変更。痛みの軽減とともに経口摂取量は増加した。創傷治癒の促進目的に 31 病日より HMB、グルタミン、アルギニン配
合飲料を2袋/日の摂取を開始。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
右手
左手
体重(kg)
Alb(g /dL)
指尖部潰瘍残存
2 /14
2 / 21
第 3 - 4 指尖部に潰瘍残存
3/6
2 / 28
第 3- 4 指尖部に痂皮付着
手掌は上皮化傾向
その他上皮化傾向
その他上皮化傾向
2/7
手背、手指背側に黄色壊死組織散在
53.4
手背、手指背側に
手背はほぼ上皮化第1-2 指は上皮化傾向
潰瘍残存
第 4 - 5 指背側、指尖部に潰瘍残
52.9
53.0
53.4
54.4
3.3
2.8
PreAlb(mg /dL)
21.8
CRP(mg /dL)
0.67
0.15
BUN(mg /dL)
19.7
21.5
Cre(mg /dL)
0.79
0.85
5 コメント
両手Ⅱ度熱傷の患者において、経口摂取が安定した時期よりHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料 2 袋 / 日の摂取を開始した。必要量
(1,700kcal)を充足して摂取できたことも重なり、創部の改善ならびに栄養状態の改善がみられた。
19
熱傷
C A SE ❺
自治医科大学附属病院 臨床栄養部 NST 支援室(看護師) 馬場 千恵子
1 患者背景
・年齢・性別:74 歳 男性
・基礎疾患:2 型糖尿病 糖尿病腎症 3 期 A 糖尿病神経障害 糖尿病網膜症
・創傷の状況 発生日:2010 年12 月 22 日 部位:左足背・左第1∼3 趾
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,600kcal 1日摂取水分量:制限なし
開始前:1日の推定摂取栄養量は1,970 kcal(内間食にて 250kcal)+アルコール140kcal たんぱく質 57g 食塩15g 以上
調 整:エネルギー 25 ∼30 kcal / kg 標準体重 たんぱく質 0.8 ∼1.0g/kg 標準体重 食塩 7∼ 8g /日
エネルギー 1,600 kcal たんぱく質 45∼ 50g 食塩 6g
食事内容を是正後 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用を検討する。
3 治療経過
2010 年12 月 24 日
2010 年12 月 24 日
2011年 2 月16 日
2011年 3 月 2 日
2011年 3 月16 日
2011年 3 月 30 日
2011年 4 月 20 日
2011年 4 月 20 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2011年 2 月2日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
入院での創傷管理で、切断か植皮術の説明がされたが、入院の同意が得られず、外来で治療となった。
受傷 3 週間後も創状態は改善せず、感 染も疑われた。そこで外来で、適正な栄養管理を実施したうえで、創傷治癒に特化した栄養飲料
を使用することを検討した。
血糖コントロール:インスリン強化療法
創傷管理:1. 流水での洗浄 2. トラフェルミンスプレーを噴霧後、スルファジアジン銀クリームを塗布する
3. ガーゼ保護とテーピングの注意 4. 創部の安静など管理指導を行う
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創の評価
11/ 24
体重(kg)
Alb(g /dL)
TP(mg /dL)
Hb(g /dL)
CRP(mg /dL)
BUN(mg /dL)
Cre(mg /dL)
尿蛋白定性
HbA1c(%)
(NGSP)
65.9
4.1
7.2
14.5
0.04
25
1.23
2+
8.2
12 / 24
受傷 2 日目
第1∼3趾黒色
13.0
9.4
1/ 5
第1趾骨露出
第2趾節骨と
DIP 関節露出
悪臭
64.5
3.3
7.2
12.6
2.91
16
1.15
2+
8.7
2 /2
2 /16
第1趾骨切除
第3趾骨露出
紅色肉芽の表面 第1趾第2趾肉
にゼリー状の黄
芽形成
色浸出液
足背軽度腫脹
64.3
65.2
3.7
4.1
8.0
7.5
12.9
13.3
1.57
0.07
17
24
1.19
1.20
+
+
9.3
3/2
4/6
3 /16
第1趾肉芽局面 第1趾2 ㎜×2㎜
第2爪のあった
大の潰瘍
部位に紅色肉芽 第2趾肉芽増生
65.5
3.8
7.3
12.8
66.4
4.2
7.1
13.3
67.6
4.1
7.3
13.4
19
1.23
2+
8.4
22
1.28
2+
22
1.24
+
7.7
5 コメント
この事例は易感染で治癒遅延だったが、急速な血糖値の是正は、増殖網膜症を悪化させる。そこで、服用にあたり栄養評価を行い、過剰摂取
を修正し、継続的な腎機能・血糖モニタリングを行い外来治療で改善した。
20
熱傷
C A SE ❻
朝日大学歯学部附属村上記念病院 栄養管理室(管理栄養士) 安江 裕香 高橋 貞子 青木 百合
朝日大学歯学部附属村上記念病院 外科(医師)
川部 篤 久米 真 森 章 中島 早苗
朝日大学歯学部附属村上記念病院 看護部(看護師)
鷲見 郁子
1 患者背景
・年齢・性別:83 歳 男性
・基礎疾患:心房細動 第1度房室ブロック SSS
・創傷の状況
発生日:2012 年1月16 日自宅で湯沸し中に意識消失、転倒し熱湯の床に倒れて両下肢に熱傷を負った。右第7肋骨骨折、右胸水。
熱傷面積13%、臀部1%×Ⅱ度、右下腿 3%×Ⅱ度、左大腿 2%×Ⅱ度、左下腿 7%×Ⅲ度、Burn index 10.0。
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:14,00 ∼1,800 kcal 1日摂取水分量:1,500mL
1月17日 入院 全粥食(1,900kcal)を1∼2 割摂取
1月20日 腎臓病食1,300kcal+1.6kcal/mL 栄養補助食品1本、エネルギー補給食品150 kcal 開始
1月26日 腎臓病食1,300kcal+HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋、エネルギー補給食品 300kcal、1.6 kcal/mL 栄養補助食品1本
2 月 3 日 腎臓病食1,600kcal+HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料 2 袋、エネルギー補給食品 200 kcal →1,800∼2,000 kcalを安定して摂取可能
3 治療経過
2012 年1月19 日 左大腿
左下腿
2012 年1月 26 日 左大 腿
左下腿
2012 年 2 月 3 日 左大腿
左下腿
2012 年 3 月 7 日 左大 腿
左下腿
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2012 年1月26日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:2012 年 2 月3日 変更後の量:2 袋 / 日)
毎日熱傷創洗浄後処置。
2012 年1月17日からジメチルイソプロピルアズレン、
2012 年1月26 日 右胸腔ドレナージ施行し呼吸循環動態は安定に向かった。
1月30 日スルファジアジン銀クリーム、
2012 年 2 月 21日 ペースメーカー挿入。
2 月1日からヒドロコルチゾン・混合死菌浮遊液軟膏使用。 2012 年 2月23日 分層植皮術施行。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創の評価
1/17
1/ 23
1/ 30
2 /10
2 / 27
3/8
水泡、下腿浮腫
壊死組織融解
Ⅱ度の部位上皮下
Ⅲ度の周囲上皮下
感染兆候なし
植皮後
3.5
3.1
2.3
2.3
2.2
2.4
BUN(mg /dL)
47.6
22.7
18.0
23.9
14.2
26.9
CRP(mg /dL)
31.94
22.99
10.41
7.49
8.22
6.31
Alb(g /dL)
5 コメント
負傷によるストレスで経口摂取が不良で入院時脱水、栄養不良、胸水、下腿浮腫、炎症反応が強かった。腎臓病食と合わせて HMB、グルタミ
ン、アルギニン配合飲料を1袋から使用し、腎機能の回復を確認して 2 袋に増量した。呼吸循環動態、栄養状態も改善したため熱傷局所処置
の効果もあって感染を併発せず熱傷部の良好な上皮化が認められ2 期的に安全に植皮手術を行うことができた。腎機能低下時にも BUN 値に
注意し適切に使用していけば HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料によって良好な結果が得られるのではないかと考えられる。
21
左下腿潰瘍
青森県立中央病院 NST(チェアマン) 小川 吉司
青森県立中央病院 NST(看護師)
赤平 敦子
青森県立中央病院 NST(管理栄養士) 加藤 麻子 田沢 優一
1 患者背景
・年齢・性別:78 歳 女性
・基礎疾患:糖尿病 眼筋型重症筋無力症
・創傷の状況
発生日:2012 年 3 月16 日 部位:左下腿
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,200 ∼1,300kcal
1日摂取水分量:2,000mL(経腸投与)
軟菜一口大(主食1/2)を7∼ 8 割摂取、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料+適宜輸液変更(アミノ酸液 脂肪乳剤 微量元素製剤)
3 治療経過
2012 年 3月16 日 切開後
2012 年 3月19 日 変性組織除去後
2012 年 4 月10 日 植皮術後 4 日目
2012 年 4 月25 日 植皮術後19 日目上皮完了
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 3月29 日 傷が埋まっている
開始日:2012 年 3月23日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
3月15日 入院
4 月 6 日 分層植皮術施行
3月16日 皮下腫瘍の切開、デブリードマン術施行
4月19日 採皮部、植皮部ともに徐々に上皮化、感染兆候なし(主治医ノートより)
、
3月19日 変性した筋膜、脂肪組織を除去
もともと入所していた施設に退院となる
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
3 /15
3/22
Alb(g /dL)
3/26
4/4
4 /11
4 /17
推定 48
体重(kg)
2.5
PreAlb(mg/dL)
2.4
2.7
2.8
2.8
2.7
20.6
20.8
19.0
19.4
10.6
BUN(mg /dL)
24.0
9.1
16.7
16.5
21.3
14.3
Cre(mg /dL)
0.52
0.36
0.38
0.36
0.27
0.35
CRP(mg /dL)
8.59
2.73
0.81
1.30
1.00
3.92
5 コメント
低栄養、広範囲の皮膚潰瘍がありNST 介入となる。
基礎疾患に、眼筋型重症筋無力症があり咀嚼嚥下能力の低下がみられ、経口による摂取エネルギーの増量は難しいと思われた。栄養状態改
善、肉芽の形成を期待し、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用を試みた。途中摂食量にムラが生じたが、HMB、グルタミン、アル
ギニン配合飲料は継続。下痢、感染兆候もみられず潰瘍部も良好な状態で順調に経過した。
以上のことから、食事により必要エネルギー量を満たすことのできない条件下でも栄養療法によるHMB の供給は創傷治癒に有効であると考
えられた。
22
左側耳下腺腫瘍摘出術
信楽園病院 栄養科(管理栄養士) 細川 学 佐藤 美代子
1 患者背景
・年齢・性別:92 歳 男性
・基礎疾患:慢性腎不全
・創傷の状況
発生日:2009 年12 月15 日 部位:左側耳下腺
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,400kcal
3 治療経過
2009 年12 月9 日
2009 年12 月15 日
2009 年12 月29 日
2010 年1月5 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2009 年12 月23 日
2010 年1月11日
開始日:2009 年12 月13日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
術前左側耳下腺腫瘍が自壊し閉鎖困難のため 12 月 15 日摘出術予定となり栄養管理目的にて介入。基礎疾患に慢性腎不全を罹患していた
が、たんぱく調整未実施にて低たんぱく食へ変更。腎機能の低下が認められるが、術前 2日前、術後3日間の計5日間HMB、グルタミン、ア
ルギニン配合飲料2袋/日を術後縫合不全予防目的として使用した。
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
PreAlb(mg /dL)
CRP(mg /dL)
12 /13
12 /16
12 /22
12 /28
18.5
17.2
22.3
22.9
6.7
3.1
0.4
0.2
BUN(mg/dL)
38
43
45
34
Cre(mg /dL)
2.1
2.2
2.4
2.2
5 コメント
92 歳の高齢者で腎機能低下が認められる患者に使用し術後に縫合不全などの合併症は認められず術後 7 日目に10 針中 6 針抜糸し、14 日
目に全抜糸され創部の改善が認められた。
23
左中指不全断裂
福井県済生会病院 栄養部(管理栄養士) 木下 充子
福井県済生会病院 整形外科
山内 大輔
1 患者背景
・年齢・性別:1歳 2ヵ月 女性
・基礎疾患:
・創傷の状況
発生日:2011年 7月24 日 部位:左中指
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・目標栄養量:720kcal P27g F20.8g 水分1,030mL
・1日摂取エネルギー:
1 病 日 En:0kcal
P:0g
水分 500mL(輸液)
2 病 日 En:163kcal P:5.7g
水分 584mL(食事 + 輸液)
3 病 日 En:514kcal P:21g
水分 521mL(食事 + 輸液) 4 病 日 En:715kcal P:26g
水分701mL(食事 + 輸液) 8 病 日 En:797kcal P:27g
水分 863mL(食事)
17病日 En:837kcal P:26.5g 水分1,020mL(食事+HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料)
3 治療経過
16 病日
21病日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始 5 日後
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:17 病日 使用量:0.5 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:23 病日 変更後の量:0 袋 / 日 使用終了)
車のパワーウインドウに挟まれ中指不全断裂を認め全身麻酔下接着術施行、ギプス固定。
2 病日より食事開始。11病日ギプス抜去、16 病日創部皮膚黒色滲出液あり抗生剤再開。17 病日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
1日 0.5 袋使用開始。21病日黒色皮膚一部剥離すると良好な皮膚があり、刺激にて少量出血した。患部に発赤腫脹軽度あるも経過良好。
創部経過良好にて HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用は 22 病日に終了。27 病日感染兆候みられずカットバン保護にて退院。
4 創傷・栄養状態の変化
1
12
23
30
8.6
8.5
8.7
8.6
WBC(/μL)
13,600
10,600
10,900
Plt(/μL)
38,800
39,400
31,000
TP(g /dL)
7.0
Hb(g /dL)
12.0
11.3
11.6
確認日(病日)
体重(kg)
5 コメント
アルギニン薬剤中の L-アルギニン1 日量は 0.12 ∼ 0.38g/ kg なので、体重 8.5kg の小児では 1.02 ∼ 3.23gになる。HMB、グルタミン、
アルギニン配合飲料のアルギニン含有量は 7,000mg であり、約 1/2 袋を上限量とした。また、健常人にグルタミンを0.29 ∼ 0.57g/ kg
摂取させた研究(Journal of Parental and Enteral Nutrition 14 : 137S -146S, 1990)で、安全性が報告されており、小児の体
重では 2.55∼4.25gとなるためL-グルタミン含有量 7,000mg の約 1/ 2 袋とした。HMBに関しては指標がなく、たんぱく質分解抑制・皮
膚組織再生などに効果的であったかは不明である。しかし、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を利用することは創傷治癒を促す手段の
1 つとなる可能性があることが示唆された。
24
フルニエ症候群
関西医科大学附属滝井病院 高度救命救急センター(医師) 齊藤 福樹 津田 雅庸
関西医科大学附属滝井病院 形成外科(医師)
三宅 良平
1 患者背景
・年齢・性別:73 歳 女性
・基礎疾患:フルニエ症候群 慢性腎不全(透析未導入) SAH 術後(VP シャントあり)
・創傷の状況
発生日:2012 年 2 月29 日 部位:会陰部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:2012 年 2 月 29 日 800 kcal/ 日で静脈栄養開始、2012 年 4 月17 日現在 経腸栄養剤1,200 kcal/ 日
3 治療経過
2012 年 2 月29 日
(初診時)
:皮膚潰瘍を有する。会陰∼臀部にかけて筋膜壊死。
2012 年 3月28 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用後より
良性肉芽が増生された。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 3月10 日
ベッドサイドでにてデブリードマン継続。
炎症あり肉芽増生にも苦慮。
2012 年 2 月29 日
(緊急手術)
:筋膜切開・排膿
2012 年 4 月 4 日
(手術)
:良好な母床に植皮術を施行、皮弁作成。
開始日:2012 年 3月12日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:2012 年 3月19日 変更後の量:2 袋 / 日)
2月29日 臀部筋膜切除、CHDF(2月29日∼ 3月 1日)
3 月 6 日 人工肛門造設
3月12日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始(1袋/日)
3月19日 HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料増量(2袋/日)
4 月 4 日 皮弁作成、植皮
4 栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
2 /29
体重(kg)
72.1
3/8
3/12
3/19
4/4
4/16
62.0
62.3
Alb(g/dL)
1.5
1.4
1.5
1.8
2.0
2.0
BUN(mg /dL)
87
39
65
34
32
32
Cre(mg /dL)
5.46
2.29
2.49
1.62
1.52
1.55
5 コメント
腎機能障害のため、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料導入初期に使用量を調整した。
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始後より白苔が融解、2 週間で良好な肉芽形成を得て、3 週間で手術導入をしえた。
25
蜂窩織炎による左第 2・3 趾壊死
福岡赤十字病院 薬剤部(薬剤師) 竹野 智彦
1 患者背景
・年齢・性別:53 歳 男性
・基礎疾患:蜂窩織炎 左第 2・3 趾壊死 糖尿病
・創傷の状況
発生日:2012 年 2 月2 日 部位:左第 2・3 趾
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,700kcal
3 治療経過
2012 年 2 月 27 日
2012 年 3 月 8 日
2012 年 3 月 30 日(抜糸前)
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2012 年 2 月24 日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
釘を踏んだことにより蜂窩織炎発症。10 年来の糖尿病があり、またコントロール不良であったため壊疽が酷く、踵を残しての切断手術
の予定であった。糖尿病コントロールのため手術までの期間があったので、手術後の早期回復を目的に、HMB、グルタミン、アルギニン
配合飲料を使用。糖尿病コントロールがつき手術となった際に、切断部位を再度検討することとなり踵を残して切断の予定であったが、
血液も改善しており、壊疽部位も広がってないため左第 3 趾のみの切断でよいこととなった。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料に
よる血液改善や創傷治癒効果があったためと考える。また、左第 3 趾切断後も糖尿病が既往にあるにも関わらず経過は良好で、切断部
位もとてもきれいな肉芽となっている。
4 創傷状態の変化
確認日(月 / 日)
創の評価
2 / 24
3/8
3 /13
3 /30
踵を残して
手術前
手術施行
抜糸後、
切断予定
どの部位の
第 3 趾切断術
肉芽良好
切断をするか
→左第 3 趾のみ
5 コメント
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料は切断後の早期手術部位回復を目的に使用開始したにも関わらず、手術までの約 3 週間の使用で切
断部位を「踵を残す」ことから、
「左第 3 趾のみ」の切断でよくなるなどの血流改善、また、創傷治癒を促進することができた。
26
縫合不全
C A SE ❶
大分大学医学部附属病院 看護部(看護師 摂食・嚥下障害看護認定看護師)
安部 幸
大分大学医学部附属病院 栄養管理室(看護師 摂食・嚥下障害看護認定看護師) 足立 和代 田邉 美保子
1 患者背景
・年齢・性別:83 歳 男性
・基礎疾患:食道癌
・創傷の状況
発生日:2012 年 7月下旬 部位:胸部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,004kcal
3 治療経過
依頼当日
使用後12 日目
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
使用後12 日目
使用後 28 日目
開始日:2012 年 8月上旬 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有 (変更日:使用開始後 21日目 変更後の量:1袋 / 日)
食道再建術後、胸部縫合不全、皮下膿瘍を発症した。NST 依頼は、栄養状態改善目的であった。
投与カロリーを1,600kcal へ上げ、た ん ぱく量を 60g(1.2g /kg)へ 増 量した。また低 栄 養 が原 因と考えられ た 創 治 癒 遅 延 が あり、
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料 2 袋の使用を開始した。
4 栄養状態の変化
確認日
依頼当日
22 日目
15日目
10 日目
28 日目
TP(g /dL)
5.63
5.73
6.21
6.00
5.30
Alb(g /dL)
2.48
2.52
2.96
2.49
2.22
CRP(mg /dL)
6.67
5.57
5.13
2.11
6.08
RBP(mg /dL)
3.9
3.1
4.3
4.3
4.0
12.5
11.6
14.2
16
14.2
Tf(mg /dL)
84
95
92
127
127
Cu(μg /dL)
112
91
108
102
111
Zn(μg /dL)
65
59
57
47
68
BUN(mg /dL)
94.4
118.4
91.6
101.3
74.5
Cre(mg /dL)
2.94
2.76
2.42
2.00
2.14
1,004
1,600
1,600
1,600
1,600
40(0.8g/kg)
60(1.2g/kg)
60(1.2g/kg)
60(1.2g/kg)
60(1.2g/kg)
PreAlb(mg /dL)
投与カロリー(kcal)
たんぱく質(g)
5 コメント
必要エネルギー、たんぱく、アミノ酸投与量の適正化に加えて HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を使用することでたんぱく合成、たん
ぱく崩壊の抑制、グルタミンによる腸管免疫能の促進により創部が治癒促進したことが考えられた。
27
縫合不全
C A SE ❷
金沢大学附属病院 胃腸外科(医師) 岡本 浩一
1 患者背景
・年齢・性別:58 歳 男性
・基礎疾患:食道胃接合部腺癌 2 型糖尿病 慢性腎不全腎移植後状態 発作性心房細動
・創傷の状況
発生日:2012 年 3 月 4 日 部位:食道空腸吻合部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:2,000 kcal
1日摂取水分量:2,400mL(経腸投与)
3 治療経過
吻合部
膿瘍腔
吻合部
吻合部
造影剤の
漏出
造影剤の
漏出
ドレーン
胸部 CT(術後 5 病日目)
2012 年 3月 4 日
術後透視(術後10 病日目)
2012 年 3月9 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
吻合部
術後透視(術後 23 病日目)
2012 年 3月22 日
術後透視(術後 30 病日目)
2012 年 3月29 日
開始日:2012 年 3月16日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
2012 年 2 月 28 日に食道胃接合部癌に対して縦隔鏡補助下下部食道噴門側胃切除術を施行した。術後 5 日目(3 月 4 日)に発症した食
道空腸吻合部の縫合不全に対して、縫 合不全部付近に留置された下縦隔ドレーンよりのドレナージと抗生剤投与にて感染の鎮静化を図
りつつ、経腸栄養と HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用による栄養療法を継続することで創傷治癒を促進し、保存的に加療を
行ったところ、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始10 日目(3 月26 日)よりドレーンからの消化管内容の漏れが減少し、HMB、
グルタミン、アルギニン配合飲料開始13 日目(3 月 29 日)に術後 造 影 検 査で吻 合 部よりの造 影剤漏出の消失が確認された。その後ド
レーンを短切、抜去した。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
ドレーン排液量(mL)
体重(kg)
Alb(g/dL)
3 /4
3/5
3/7
3 /9
3/12
3/14
17
75
70
115
230
340
67.0
66.8
68.6
67.1
66.6
66.2
3.0
2.8
2.6
2.5
2.6
BUN(mg/dL)
24
25
25
24
37
Cre(mg/dL)
0.83
1.06
0.93
1.01
1.10
確認日(月 / 日)
3/16
3/22
3 /23
3/26
3/28
3/30
ドレーン排液量(mL)
300
155
25
10
5
短切
体重(kg)
66.2
64.8
66.2
2.9
Alb(g/dL)
2.7
2.9
2.9
BUN(mg/dL)
42
75
64
32
Cre(mg/dL)
1.34
1.53
1.20
1.00
5 コメント
食道空腸吻合部の縫合不全に対して、HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を経腸栄養剤と併用することで、速やかに縫合不全の改善が得
られた。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料は、糖尿病や腎機能障害合併症例においても安全に使用可能と考えられた。
28
縫合不全
C A SE ❸
藤田保健衛生大学病院 看護部 公衆衛生看護科(NST 専従看護師)
谷口 めぐみ
藤田保健衛生大学病院 看護部 公衆衛生看護科(皮膚・排泄ケア認定看護師) 山村 真巳
1 患者背景
・年齢・性別:82 歳 女性
・基礎疾患:両下肢閉塞性動脈硬化症 短腸症候群 汎発生腹膜炎
・創傷の状況
発生日:2011年 2 月10 日 部位:腹部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,740kcal
1日摂取水分量:2,000mL(飲水量 500mLを含む)
3 治療経過
2011年 2 月22 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2011年 3月31日
開始日:2011年 3月10 日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
ストーマ閉鎖術後に縫合不全を合併。便汁が創内に貯留するため持続洗浄・吸引を実施、その後創状態は安定した。中心静脈栄養管理と
し、NST介入後は BCAA 強化のため輸液製剤の変更、アミノ酸製剤の内服とHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を開始。排液量を抑
えるため飲水量はTotal 500mL /日までとした。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創のサイズ(cm)
体重(kg)
2 / 22
3/2
11.0×9.0
9.0×9.0
49.5
49.3
3/9
3 /16
3 / 23
46.9
46.2
3 / 31
7.4×6.0
8.0×7.0
44.8
44.1
2.1
2.3
2.2
BUN(mg /dL)
50.1
66.3
56.1
Cre(mg /dL)
1.11
1.39
1.44
Alb(g /dL)
5 コメント
高度の下肢動脈硬化症にて、2009 年 1 月に人工血管バイパス術施行し、術後感染ありストーマ造設。その後、ストーマ閉鎖希望され手術と
なった患者。必要なカロリーの充足とHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料を継続した結果、創傷治癒を促進したのではないかと考えられる。
29
縫合不全
C A SE ❹
利根中央病院 NST 専従(看護師) 戸丸 悟志
1 患者背景
・年齢・性別:53 歳 男性
・基礎疾患:直腸癌
・創傷の状況
発生日:術後 2 病日 部位:直腸
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:2,000 kcal
1日摂取水分量:300∼ 600mL
3 治療経過
術後 6 病日
腸管内への造影剤の漏出を認める
術後15 病日
(HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用10 日目)
大腸内視鏡検査で吻合部に瘻孔を認めた
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
術後 24 病日
造影剤の漏出を認めず瘻孔が閉鎖した
開始日:2011年 6月13日(術後 6 病日) 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
直腸癌で低位前方切除術施行。術後 2 病日に吻合部縫合不全を発症。吻合部ドレーンから膿性排液を少量認めたが、腹膜炎には至らず。
中心静脈栄養法管理下で術後 6 病日よりHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料1袋 / 日を開始し、30 日間使用。術後 24 病日に縫 合
不全が治癒し、術後 25 病日に食事開始。術後 38 病日に退院。
4 栄養状態の変化
6/8
6 /13
6 / 20
6 / 29
7/11
(2 病日)
(6 病日)
(13 病日)
(22 病日)
(34 病日)
78.8
80
3.7
3.7
3.9
CRP(mg /dL)
20.1
12.1
0.6
BUN(mg /dL)
13.9
10
18.5
16.8
19.5
Cre(mg /dL)
1.01
0.87
0.88
0.86
0.92
確認日(月 / 日)
体重(kg)
Alb(g/dL)
78.6
78
4.2
3.6
1
5 コメント
通常消化管瘻症例では瘻孔部の安静のため絶食になることが一般的である。今回の症例は瘻孔部肛門側からの経腸栄養アクセスが困難で
あったため、瘻孔部口側から使用したが、症状の悪化もなく瘻孔閉鎖することが可能であった。腹腔内に消化液が拡散する危険性のない症例
では、瘻孔閉鎖目的の HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料の使用は問題を認めなかった。
30
放射線性口内炎
C A SE ❶
久留米大学病院 歯科口腔医療センター(歯科医師) 高野 雅代
1 患者背景
・年齢・性別:62 歳 男性
・基礎疾患:左口底部扁平上皮癌 左顎下リンパ節転移術後
・創傷の状況
発生日:2012 年1月30 日 部位:口内炎(舌)
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,600 kcal
3 治療経過
入院時
30 Gy 終了時
60 Gy 終了時
放射線治療終了 2 週間後
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2012 年1月4 日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
(1月11日∼ 2 月 21日まで)左下顎 ∼ 頸部に放射線照射施行(Total 60Gy)。
26Gyで口腔内乾燥を自覚したため、ピロカルピン塩酸塩内服開始。
30Gy 終了時口腔内 Burn(左舌根部に Grade 2)を認めた。
その後口腔内 Burn の範囲は拡大することなく、60Gy 終了した。
4 創傷・栄養状態の変化
1/ 24
2/7
2 / 22
(20Gy)
(40Gy)
(60Gy)
Grade 0
Grade 0
Grade 2
Grade 2
体重(kg)
42.7
43.2
44.1
44.5
Alb(g /dL)
4.14
3.71
3.13
3.36
BUN(mg /dL)
12.7
11.7
8.3
10.0
Cre(mg /dL)
0.61
0.62
0.61
0.72
確認日(月 / 日)
口内炎グレード
1/10
(CTCAE Ver.3 使用)
5 コメント
放射線照射 Total 60Gyを行った患者。照射 1 週間前よりHMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用を開始し、途中軽度の口内炎は認め
たものの、放射線治療終了まで食事はすべて摂取可能であった。
31
放射線性口内炎
C A SE ❷
鹿児島大学病院 口腔外科(診療講師) 松井 竜太郎
1 患者背景
・年齢・性別:63 歳 男性
・基礎疾患:2 型糖尿病 高血圧症 未破裂性脳動脈瘤 アルコール性肝炎
・創傷の状況
発生日:2011年 8 月 7 日 部位:口腔内全体
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,600kcal
3 治療経過
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始(2011年 9月7 日)
11日後(2011年 9月18 日)
6 日後(2011年 9月13 日)
9 日後(2011年 9月16 日)
16 日後(2011年 9月23 日)
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
開始日:2011年 9月7日 使用量:2 袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
口底癌(adenoid cystic carcinoma)にて、2011 年 7 月 5 日 全身麻酔下に右口底部悪性腫瘍切除術+右上頸部廓清術+皮膚移植術を施
行した。摘出物の病理組織学的検索で、癌の悪性度が強く、また切除断端に癌細胞が残存していたため、再発予防の目的で 7 月 25日より術
後放射線治療+化学療法を開始した。8月 7日より放射線性口内炎が著明に認められ、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物(キシロカイン
入り)、デキサメタゾン含嗽、アセトアミノフェン 1,800mg/日を投与するも、疼痛が著しく、麻薬の投与など行ったが、打つ手がなかった。
9 月 2 日放射線治療終了(総線量 60Gy)。9月7日より HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料 2 袋 / 日使用開始し、9 月 18 日には口内炎
は消失した。
4 創傷・栄養状態の変化
9/21
7/14
8 /17
8 /31
9/7
9 /14
口内炎(−)
口内炎(++)
口内炎(+++)
口内炎(+++)
口内炎軽減
消失
59.7
58.8
56.8
56.3
56.1
55.7
7.3
6.8
6.6
6.9
7.2
7.1
PNI(予後栄養指数)
45.3
43.6
39.4
39.3
39.4
39.3
CRP(mg /dL)
0.19
0.9
2.04
4.19
2.14
0.24
確認日(月 / 日)
創の評価
体重(kg)
TP(g /dL)
5 コメント
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料開始 10 日目で、著明に口内炎が改善した症例であった。
放射線性口内炎は、口腔癌における放射線治療で必発する合併症であるが、通常の放射線性口内炎の回復よりかなり速い回復速度で改善し
たと思われた。
32
右足外顆・踵部難治性潰瘍
宮崎江南病院 形成外科(医師) 大安 剛裕
1 患者背景
・年齢・性別:77 歳 女性
・基礎疾患:脳梗塞 総胆管癌術後
・創傷の状況
発生日:2011年 7月頃 部位:右外顆 踵部
2 栄養摂取状況 □食事 □経腸栄養 □静脈栄養
・1日摂取エネルギー:1,500kcal
1日摂取水分量:1,300mL
3 治療経過
2012 年1月 6 日
2012 年 2 月 8 日
HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料
2012 年 3 月19 日
開始日:2012 年1月19日 使用量:1袋 / 日
使用量の途中変更 □無 □有
1月 6 日当科初診。局所感 染徴候あり、外来で切開し入院管理。洗浄、ドレーンガーゼ挿入し創管理、局所感 染徴候が改善したところで
1月20 よりVAC(Vacuum Assisted Closure)開始。3 週間で肉芽の増生、創の縮小を認め軟膏処置へ変更。2 月14 日に創閉鎖確認。
4 創傷・栄養状態の変化
確認日(月 / 日)
創のサイズ(cm)
Alb(g/dL)
1/ 6
1/ 25
2 / 14
2×1.5
サイズ縮小
治癒
2.3
3.2
4.1
6.7
7.7
8.3
BUN(mg /dL)
25.7
27.5
24.8
Cre(mg /dL)
0.55
0.69
0.68
TP(g /dL)
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HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料摂取で改善が認められた。HMB、グルタミン、アルギニン配合飲料使用時は、腎機能の状態に注意を
払いながら、使用期間や使用量などを検討する必要がある。
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Nutrition
Support Journal
特別号
二〇十二年
発行 株式会社メディカルレビュー社 〒
- 大阪市中央区平野町
541
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2-
3
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8
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06
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