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<ネッシーのお薦め作品(焚書坑儒リスト)> 国内編 7. 梶井基次郎

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<ネッシーのお薦め作品(焚書坑儒リスト)> 国内編 7. 梶井基次郎
<ネッシーのお薦め作品(焚書坑儒リスト)>
国内編 7. 梶井基次郎 「檸檬」
またまた梶井です。これは彼の代表作とされていますが、ひとつネッシー流に貶してみましょう。
「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧さえつけていた。焦燥といおうか、嫌悪といおうか―酒を飲んだあとに宿酔
があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。
結果した肺尖カタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金がいけないのではない。いけないのはその不
吉な塊だ。」
見事な書き出しです。でも、なにか物足らない気がするのです。全体に、
「びいどろ」とか「オードコロンとオードキニン」
、
「ロココ趣味」
とか「アッレグロ」、「レモンエロウの絵の具のチューブ」とか「アイデア」といった外来語がこの短編の中に頻出するのです。
場所を京都ではなくパリに、寺町通りをサン・ジェルマン通りに、丸善をルーブル美術館に置き換えてみれば、フランスの一青年でも感じ
るアンニュイさと少しも変りがないのです。前回取り上げた「闇の絵巻」のような日本産の感性を感じることができません。な
んとなく、西洋そのものではなく、日本化された西洋に触れている気がします。気詰まりな丸善を壊してしまうのに、どう
して爆弾がレモンという外来果実でなければいけないのでしょう。じゃがいもや、さつまいもでも良かったのではないかと考
えてしまうのです。フランス語とは違い日本語は、平仮名と漢語と外来カタカナ語の混在をその宿命としているので仕方ないといえ
るでしょうが。
前にも書いたように、加藤周一はこの文学者(詩人)を評論するのを避けていますが、彼の方法論では梶井の作品は解剖し
ようがなかったからでしょう。
志賀直哉の長編「暗夜行路」を評して、「長編小説としての建築的構成は、ここにはない。部分的な場面は並列され、それ
ぞれ独立した短編の趣を備える。またその場面がしばしば緊密に美しく描き出され(たとえば山中の孤独な主人公が宇宙と
の融合感を覚えるところ)、各部分を統一する唯一の強い力が同じ主人公の濃密な現在性の他にないという点でも、この小
説の全体は「絵巻物」に似る。志賀直哉の自己中心主義は、あきらかに漱石の個人主義以後のものであった。しかし漱石の
場合とはちが
がって、強い倫理的意識も、社
社会的関心も、伴わない。儒教
教倫理の伝統と
と西洋の近代文
文学との接触は、
、漱石が成
立するために
には必要な条件
件であった。その
のいずれも、志
志賀を生み出すためには必要な
な条件ではなか
かった。もし志賀
賀直哉の世
界に西洋の影
影響があったとすれば、小説技
技術上の若干の
の点を除いて、それは西洋近代
代の思想から直
直接に来たのではなく、西
洋を規範とし
して工業化しつつあった日本社
社会の変化から
ら直接に来たものである。志賀
賀直哉は純日本
本製であった。意
意識して平
安朝以来の文
文化的伝統に近
近づいた谷崎とは
は異なり、いわ
わば無意識的に、おそらくは彼
彼自身の意に反
反してさえも、志
志賀は『伊
勢物語』以来
来の日本の土着世界観と美学と
とを体現してい
いた。―その此岸
岸的世界の日常
常性、超越的価
価値の欠如、鋭い
い細部の観
察と美的感受
受性、表現にお
おいては全体から
らでなく部分か
から出発する傾
傾向。
」と書いて
ています。
(
「日本
本文学史序説」
)
加藤は志賀直
直哉を語ることによって、梶井
井を語り尽くし
していたのです
す。さらに、梶井
井は部分から全
全体を語ったの
のではなく、
まさに部分に
によって部分を語っているので
ですから。
私はいまでも
も梶井を愛する者ですが、まさ
さにその「部分
分」の語り口を愛しているので
です。
かって二度伊
伊豆湯が島を訪
訪れて、彼が歩い
いたであろう闇
闇の街道を歩いてみましたが、明るい蛍光灯
灯に照らされた薄
薄っ汚い夜
の風景にしか
か出会えません
んでした。しかし
し、梶井の止宿
宿した湯川屋という古びた旅館
館に泊って、思
思いがけなく、そ
その老女将
から梶井の思
思い出を聞くことができたのに
には感激しまし
した。ある夜中、うらの世古の
の滝から大声が
がするので、雨戸
戸を繰り灯
を照らしたと
ところ、梶井と親友の三好達治
治が褌一つで、瀬の中で子供
供のようにふざけ
け合っていたの
のだそうです。
少年のころ
ろ闇の中で桜の
の花の咲く音を聴いていた @ネッシー
@
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