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ブラウントラウト Salmo trutta

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ブラウントラウト Salmo trutta
ブラウントラウト
Salmo trutta
適切な管理が必要な産業上重要な外来種(産業管理外来種)
定着段階
分布拡大期∼まん延期
選定理由
Ⅰ
法規制状況
なし
対策優先度の要件
基本情報
名称
別名:ブラウンマス、シートラウト
英名:Brown trout、Sea trout
分類
硬骨魚綱
サケ目
サケ科
タイセイヨウサケ属
原産地
写真なし
C 加納光樹
○
ヨーロッパからアラル海までの西アジア。
移入分布
釣魚として人気が高く、現在ではアフリカ、オーストラリア、北アメリカ、南アメリ
カ、南アジアに持ち込まれ、広く分布している(Francis eds , 2012)。
日本での分 ・明治以降にアメリカからカワマスなどの卵に混じって導入されたと考えられている
布
(自然環境研究センター(編著),2008)。
・導入時期は、カワマスとニジマスの導入時期から 1877 年から 1926 年の間と推測さ
れている(瀬能・松沢,2008)。
・北海道,秋田,栃木(中禅寺湖),神奈川(芦ノ湖),山梨,長野,富山(黒部川)
に分布する。北海道では多くの河川で定着しており、本州では栃木県中禅寺湖ほか
数ヶ所で定着している(侵入生物 DB, 瀬能・松沢,2008)。
形態的特徴 最大全長 107cm。体側には緑褐色から茶褐色の地色に、黒い斑点と白や薄い青色で縁
取られた朱赤点が散在する。幼魚は脂鰭が赤く縁取られるため、他種との識別点とな
る。
生態的特徴 <生息環境>
・平野から標高 2400m 以上の高地にいたる、水が冷たくて酸素が豊富な湖沼や急深
な河川の岩石や倒木の陰や淵に好んで生息する。冷水性。降海型も存在する。
<繁殖>
・河床の礫底に掘った産卵床に産卵する。産卵数は 3∼6 歳魚で 5000∼1 万 3000 粒
(Boschung and Mayden, 2004)。
<食性>
・幼魚期には陸棲水棲を問わず昆虫、貝類、甲殻類、小魚など、小動物なら何でも
捕食する。ニジマスに比べて魚食性が強い(森田ほか, 2003)。日没後にも活発に
捕食する。
侵略性に関する情報
・在来魚類との競合や捕食が懸念される。
・特に北海道では、一部地域では在来サケ科魚類と競合して駆逐、絶滅危惧種を捕食している。
生態系
<競合>
国内
・千歳川水系の紋別川では、導入から 15 年間で在来種のアメマスがブラウントラ
ウトに置き換わったと考えられている(鷹見ほか,2002)。
海外
・アメリカのミシガン州では、在来のカワマスを良好な生息域から追いやっている
(GIDS)。
<交雑>
国内
1
・北海道で在来種アメマスとの交雑が報告されている(Kitano et al., 2009)。
海外
・イタリア北部では在来のタイセイヨウサケ属魚類との交雑が起こっている
(GIDS)。(ただし、日本にはタイセイヨウサケ属の在来種は生息していない)
<捕食・摂食>
国内
・北海道の豊似湖では絶滅危惧種のニホンザリガニを多数捕食している(中
田,2006)。
海外
・オーストラリアでは捕食によって魚類、エビ類、水生昆虫など様々な在来種の減
少を引き起こしている(Allen et al., 2002;GIDS)。
・ニュージーランドでは捕食によって河川や湖沼で在来のキュウリウオ類の減少と
生息域の後退を引き起こしている(GIDS)。
<その他>
国内
・北海道では発眼卵や稚魚の私的放流で分布が広がり、2002 年には 36 河川に生息
し、定着地も多数確認されている(自然環境研究センター(編著),2008)。
海外
・フォークランド諸島では在来のゼブラトラウト(Aplochiton zebra)が本種の侵入
によって大きく減少した(GIDS)。
利用に関する情報
利用状況
留意事項
・古くから養殖・放流がされてきている。
・本州の少なくとも 3 県で漁業権魚種(第五種共同漁業権)として免許されている。
・釣りの対象として人気があり、多くの管理釣り場や定着している地域で利用されて
いる。
・北海道では広い範囲で定着しており、いったん定着すると在来種との競合が生じる
ため、これ以上の分布拡大をしないよう注意が必要。
・北海道では内水面漁業調整規則により移植が禁止されている。
・なお、現在のところ北海道での定着事例がほとんどで、それ以外の多くの水域では
放流し続けなければ個体群を維持できないとの見解がある。ただし、本州でも、栃
木県中禅寺湖などで自然再生産が確認されており、自然環境下では注意が必要。
対策に関する情報
防除方法
対策事例
・海外では魚毒であるロテノンや電気ショッカーを用いた駆除と再侵入防止のための
障壁の併用による防除が行われている。
・オーストラリアやアメリカではブラウントラウトを殺魚材のロテノン等や電気ショ
ッカー、網等で取り除き、天然の滝にブロックやコンクリートでバリアーを設けて
遡上を妨げている(自然環境研究センター(編著),2008; Francis eds , 2012)。
・アメリカ国立公園局では、バージニア州のシェナンドア国立公園で電気ショッカー
を用いたニジマスとブラウントラウトの駆除を実施している(Fuller, 2011)。
・北海道では内水面漁業調整規則により卵を含めて移殖を禁止している。
・北海道では北海道外来種検討委員会において取り扱いを検討し、ブラウントラウト
を「緊急に防除対策が必要な外来種」に指定している(下田, 2012)。
参考文献
Allen GR, Midgley SH, Allen M(2002)Field guide to the freshwater fishes of Australia.
Boschung, H. T. and R. L. Mayden(2004)Fishes of Alabama. Smithonian Books. Washington.
独立行政法人国立環境研究所 侵入生物データベース(侵入生物 DB)
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/50180.html
Fuller P.,(2011)Oncorhynchus mykiss(USGS Nonindigenous Aquatic Species Database). Gainesville,
Florida, USA: USGS.
http://nas.er.usgs.gov/queries/factsheet.aspx?SpeciesID=910
Francis, R. A. eds.(2012)A Handbook of Global Freshwater Invasive Species. Earthscan. Nwe York.
Invasive Species Specialist Group ( ISSG ) of the SSC- Species Survival Commission of the IUCN
-International Union, Global Invasive Species Database(GISD)
2
http://www.issg.org/database/species/ecology.asp?si=78&fr=1&sts=&lang=EN
川那部浩哉・水野信彦・細谷和海(監修・編)(2001)山渓カラー名鑑 日本の淡水魚(改訂版). 山と渓谷社. 東
京
森田健太郎・岸大弼・坪井潤一・森田晶子・新井崇臣(2003)北海道知床半島の小河川に生息するニジマスと
ブラウンマス. 知床博物館研究報告 24:17-26.
中田和義・中岡利泰・五嶋聖(2006)移入種ブラウントラウトが淡水産甲殻類に及ぼす影響:絶滅危惧種ニホ
ンザリガニへの捕食.日本水産学会誌,72: 447-449
Kitano, S., K. Hasegawa, and K. Maekawa(2009)Evidence for interspecific hybridization betweennative
white-spotted charr and nonnative browntrout on Hokkaido Island, Japan. J. Fish Biol, 74:467- 473.
瀬能宏・松沢陽士(2008)日本の外来魚ガイド. 文一総合出版. 東京
自然環境研究センター(編著)(2008)決定版 日本の外来生物. 平凡社, 東京
下田和孝(2012)北海道における外来魚問題(外来サケ科魚類),日本水産学会誌,78(4):754-757.
鷹見達也・吉原拓志・宮腰靖之・桑原連(2002)北海道千歳川支流におけるアメマスから移入種ブラウントラ
ウトへの置き換わり.日本水産学会誌,68: 24-28.
2015.03.26
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