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超高齢社会・ 介護家族はテレビに何を求めているか

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超高齢社会・ 介護家族はテレビに何を求めているか
超高齢社会・
介護家族はテレビに何を求めているか
∼ 介護番組ニーズ調査の結果から∼
坂井律子
放送研究部 今回,この番組の制作担当の協力を得て,
1.はじめに
介護番組が「介護している当事者」にどのよ
高齢化が未曾有のスピードですすむ中,介
うに受け取られているのか,介護している家
護認定を受けた「要介護者」の数は 405 万人
族はどのような内容を望んでいるのかを探る
1)
を超えた 。「介護の社会化」が言われて久し
調査を行った。主に 2004 年 10 月以降に開発
いがサービスの質も量もいまだ不足してお
された番組の新コーナーの VTR 視聴を交え
り,介護を担う家族やプロの介護職の負担は
て,グループインタビューを行い,番組の内
2)
大きな社会問題となってきている 。介護さ
容改善に資することを目指した。
れる人の尊厳や生きがいを守り,介護する人
高齢者が高齢者を介護するいわゆる老老介
の生活や幸福を守るにはどうしたらいいの
護やその長期化で,介護を担う人の負担感や
か。
現在の日本が抱える重要なテーマである。
孤独が大きな問題となっている。こうした実
NHK 教育テレビでは 1984 年の「シルバー
態に番組が寄り添えているのかどうかを考え
シート」で初めて「介護」を位置づけ「すこや
るため,グループインタビューの質問は番組視
かシルバー介護」へと発展。身体介助のテク
聴感想にとどめず,介護実態の聞き取りも目指
ニックや,介護保険の基礎知識,家族の会の
した。本稿では,調査から浮かび上がった介
3)
ネットワークの紹介などを行ってきた 。コ
護家族の実態と悩み,またそれに応えるべき
ンセプトは一貫して「介護に役に立つ情報を
番組の方向性について考察を試みたいと思う。
放送するとともに,介護する家族を応援する」
というものである。
現在放送中の教育テレビ「福祉ネットワー
ク・めざせ介護の達人」(水曜午後 8 時∼ 8
時 30 分)は 2003 年 4 月に司会の毒蝮三太夫氏
2.調査の概要
( 1 )グループインタビューの内容
「介護している」
「最近まで介護していた」
の「全国の介護家族の皆さん,ご機嫌いかが
という経験を持つ男女 113 人を対象に,アン
ですか?」という言葉とともに,このコンセ
ケートと,グループごとのヒアリングを行った
プトをいっそう明確にしてスタートした。
48
放送研究と調査 MAY 2005
(2004 年 11月∼12 月に実施)
。
内容は 5 部構成で,
① 自身の介護経験
② 介護に関する悩みや情報の入手法
③ 平日夜間の過ごし方とテレビとの付き合
い方
3.番組評価と介護年数との関連
( 1 )視聴内容と評価法
番組について下記のような内容の 5 つの
④ 番組視聴後の印象
コーナーを実際に視聴してもらい,評価を聞
⑤ テレビへの要望
いた。
について,それぞれアンケート用紙に記入し
てもらった。またグループごとにアンケート
に沿ってフリートーク形式でヒアリングした。
( 2 )インタビュー対象者
「介護している」「介護していた」人を探
すにあたり,まず「認知(痴呆)症の家族会」
「失
語症者の家族会」「地域のデイサービス施設」
などを入り口として協力者を募った。こうし
た方々は,長期にわたる介護を続けているこ
とから介護情報入手に熱心であり,年齢層も
高い。また「比較的 NHK をよく見ている」と
いう特徴があった。そこで,ニュートラルな
立場のグループを構成するため調査会社(株)
シード・プランニングに依頼し,「家族会に
属していない」「NHK よりやや民放をよく
見る」という条件で介護家族の募集を行った。
1. 介護テクニック Q & A
視聴者からの質問に答える形で,寝返りの
仕方について具体的に紹介。
2. まるとく うちのアイディア介護
介護家族の体験から生まれた智恵を VTR
取材。車いすの持ち手を長くすることで少な
い力で段差を乗り越えられる智恵を紹介した。
3. 日本全国介護自慢
国内各地の先進的な地域の取り組みを紹
介。山形県尾花沢の,花笠音頭を利用した「花
笠ダンベル体操」。地域で介護予防に取り組
む様子を紹介した。
4. 介護保険ワンポイント講座
介護保険の申請の第1歩から,初めての人が
その結果下記のような 2 グループ構成で,合
戸惑いやすいポイントをコミカルなドラマ方式
計人数が 113 名となった。
で取り上げ,
スタジオで具体的に対処法を解説。
① 一般グループ 42 名 平均年齢 51 歳 平均介護歴 4.5 年
5. 介護百人一首
介護している相手への思いや介護生活でな
家族会には属していない
かなか口にできない苦悩などを 31文字に詠んだ
比較的民放をよく見ている
短歌を紹介した,
介護家族のVTRドキュメント。
② 家族会グループ 71 名 平均年齢 63 歳 平均介護歴 9.2 年
評価は
何らかの家族会や施設にかかわりを持つ
A 面白いですか?
比較的 NHK をよく見ている
(興味深いか,共感できるか)
放送研究と調査 MAY 2005
49
B 役に立ちますか?
あったり,
認知症や失語症でコミュニケーショ
C 毎週シリーズで放送していたら,また見
ンが取れない状態である。番組はそうした実
情を反映していないと受け取られている。
たいと思いますか?
この 3 ポイントについて,
「とても」
「やや」
「やや∼ない」「とても∼ない」の 4 段階で評
② 介護経験の浅い人ほど,「また見たい」
介護保険のコーナーについての視聴感想で
は「役に立つ」評価は高いとはいえない(図 2)
。
価してもらった。
しかし介護経験が浅いほど「また見たい」が高
( 2 )集計結果の特色
くなっている(図 3)
。
結果を介護歴の長さによって分析した結
果,次のようなことが浮かび上がった。
図 2 介護年数
0
① 介護歴が長くなるほど番組の評価が厳しい
2 年未満
多くの項目で共通して介護年数の長い人の
2 ∼ 5 年未満
図 1 0
20
40
60
80
100%
2 年未満
n=8
2 ∼ 5 年未満
n=36
5 ∼ 10 年未満
n=28
10 年以上
とても役に立つ あまり役に立たない
介護保険:役に立つか
40
60
80
100%
5 ∼ 10 年未満
介護テクニック:役に立つか
介護年数
20
n=34
やや役に立つ
役に立たない
評価が厳しい(図 1)。
特に介護テクニックについては健常者の女
性モデルを男性の介護専門家が寝返りさせて
10 年以上
とても役に立つ
やや役に立つ
あまり役に立たない
役に立たない
不明
図 3 介護年数
0
20
介護保険:また見たいか
40
60
80
100%
2 年未満
2 ∼ 5 年未満
5 ∼ 10 年未満
10 年以上
またぜひ見たい
やや見たい
不明
あまり見たくない
見たくない
いるシーンを視聴してもらったため,次のよ
うな意見が多く出た。
普通は女が体の重い男を持ち上げるはずな
でも,
「もしかしたら将来役に立つことをやっ
のに,このテレビは逆になっている。寝ている
人を体の大きなおじいさんにして持ち上げる
てくれるのでは」という期待感を持っている。
また,将来介護の状況が変わった時,自分に
人を女性にしないとおかしい。
(女性 75・介護歴 10 年・認知症家族)
情報が足りないことを恐れている。
身体介護においては,重い人を抱き上げた
り,動かしたりする女性介護者の身体の負担
が大きい。また多くは介護する相手に麻痺が
50
介護初心者は,その時に見たシーンに不満
放送研究と調査 MAY 2005
今は寝たきりではないが,今後は寝たきり
になる可能性がある。これからの人のために
は,基本的なことがわかり役に立つと思う。 (女性 55・介護歴 1 年半)
介護初心者の情報に対するニーズは高く,
こうした人たちへのサービスは番組の重要な
役割であろう。また,介護経験の長い人への
より高度な内容も検討する必要がある。
しては情報提供を行っていた)。
感想は,次のようなものである。
あそこで番組終わっちゃうからだめ。あ
れでは「いいわねー」で終わり。
(女性 57・介護歴 3 年・認知症家族)
③「面白い」が「役に立たない」ケース
特に介護歴 2 年以下の人たちに顕著だが,
「まるとく うちのアイディア介護」の「面白い」
このような商品はどこで購入できるか,
介護保険が適用になるのかなどの詳しい情
報がプラスされていないと意味がない。
(女性 58・介護歴 8 年)
と
「役に立つ」
のギャップに注目したい
(図 4,
5)
。
介護をしている人たちは「役に立つ」情報
図 4 介護年数
0
20
まるとく:面白いか
40
60
80
を切実に求めており,だからこそ,その情報
100%
を「すぐに使える状態で」求めている。特に
2 年未満
50 代以下は,民放の情報番組の親切さに慣
2 ∼ 5 年未満
れている。例えば放送直後に更新される番組
5 ∼ 10 年未満
ウェブサイトに関連商品が掲載されたりする
10 年以上
と,その情報を使って買い物することが快感
だと語った人もいた。その分,商品広告に制
とても面白い
やや面白い
不明
ややつまらない
つまらない
図 5 介護年数
0
まるとく:役に立つか
20
40
60
80
約のある NHK の番組が不親切だと感じられ
る傾向がある。
100%
2 年未満
2 ∼ 5 年未満
5 ∼ 10 年未満
10 年以上
とても役に立つ
やや役に立つ
不明
あまり役に立たない
役に立たない
このコーナーでは車いすの持ち手を長くす
ることで,車いすの前輪を持ち上げやすくし,
段差を乗り越えることが楽になるというアイ
④ 百人一首は評価高い:「面白い」と同時に
「役に立つ」
年下の義妹を 40 年間介護しているという
女性の短歌を紹介したドキュメント「介護百
人一首」は「面白い」(興味深い)という評価
が非常に高かった(図 6)
。
図 6 介護年数
0
2 ∼ 5 年未満
方法や部品の入手法が紹介されなかったため
5 ∼ 10 年未満
に,コーナーの興味深さでは非常に高い評価
10 年以上
たと思われる(番組放送後の問い合わせに対
百人一首:面白いか
40
60
80
100%
2 年未満
ディアを紹介していた。しかし車いすの改造
を得ながら,
「役に立つ」という評価が低かっ
20
とても面白い
やや面白い
不明
ややつまらない
つまらない
放送研究と調査 MAY 2005
51
介護歴 2 ∼ 5 年未満層では,「役に立つ」と
評価した人の割合も高かった。介護歴の浅い
人たちは「どのように気持ちの切り替えを行
図 7 介護についての悩み(N=113)
不 明
4%
悩みはない
12%
うか」という観点でこのコーナーを見ている。
その意味で「役に立った」という評価がなさ
悩みがある
84%
れている。
気持ちを切り替える手段として百人一首
はすばらしい。 (女性 55・介護歴 1 年半)
一方介護年数の長い人は,閉塞感を感じる
介護の日々の中で,「同じような境遇の人が
( 1 )精神的・身体的負担
まず,高齢になってから介護を長期間担う
いて励まされた」「自分よりすごい人がいた」
老老介護の精神的・身体的辛さを挙げる人が
と見る人が多かった。
多かった。
励まされる。上には上がいる。言葉に出
すと愚痴になるが,短歌でコミュニケーショ
老老介護,しみじみ感じる。夫が 70 歳
くらいまでデイサービスに何を着せていこ
ンできるのはすばらしいと思う。
(女性 58・介護歴 8 年)
うかとか考えたが,今はそれも疲れる。
(女性 75・介護歴 10 年・認知症家族)
自分に足りない,忘れがちな心の豊かさ
を持っている人だと感じ,わが身を振り返っ
た。介護にかかわらず,人間的な生き方とし
て見習う部分がありとてもよかったと思う。
(女性 41・介護歴 3 年)
夫は脳梗塞で,痴呆症状も出て寝たきり。
体格がいいので動かすのが大変。意思疎通
のない人を動かすのは 3 倍の重さだと聞い
た。体力的・精神的に限界。
しかし,介護歴の長い人には現実を思い出
し,強く「見たくない」という拒否感を示す
人もいた。
(女性 66・介護歴 10 年・認知症家族)
( 2 )閉塞感と不安
24 時間 365日,休みない介護がいつまで続
くのかという閉塞感や不安がある。介護相手
4.介護者が直面する生活の現状
番組の評価や番組への要望を聞く中で浮か
び上がるのは,
介護している人たちが直面する,
厳しい生活である。アンケートでは,
介護に「悩
みがある」と答えた人は 84%に上った(図 7)
。
アンケートやインタビューに現れた「悩み」
をいくつかの項目に分けて整理する。
52
放送研究と調査 MAY 2005
が失語症や認知症である人には,
コミュニケー
ションが取れないことも大きな悩みである。
睡眠不足。介護のことがひとときも頭を
離れない。経済的な不安もある。
(女性 58・介護歴 28 年)
24 時間介護で家族が崩壊しそうな不安。
お互いイライラして,パズルのように一つ
崩れるとすべてが崩れそうな気持ちになる。
(女性 54・介護歴 12 年・認知症家族)
痴呆を理解できなくて精神的に不安定に
なった。この介護が何年続くのだろうとい
つも不安の中にいた。
(女性 67・介護歴 18 年・認知症家族)
( 5 )公的機関への不満
公的なサービスに「援助しようという気持
ちが感じられない」という指摘もあった。
夫婦の会話ができないのが一番つらい。
言葉が通じないのと右半身麻痺があること
で介護にも時間がかかり自分の時間がな
役所はこちらから話をしないと何も教え
てくれない。ひとつ聞くとひとつ答えるとい
う一問一答で,プラスαを教えてくれない。
(女性 41・介護歴 3 年)
い。(女性 67・介護歴 12 年・失語症者家族)
では,こうした厳しい状況の中で,介護番
( 3 )罪悪感
福祉サービスの利用をすることで逆に罪悪
感を感じるという声もある。
グループホーム入所を決めたとき本人が
嫌がったので罪悪感にかられた。いい介護
ができる自信がない。虐待こそしないが全
て受容はとてもできないのが現実。
(女性 61・介護歴 8 年)
( 4 )介護相手や親族の無理解
介護されている本人や,介護を自分に任せ
ている配偶者や親戚が無理解であると,辛さ
が増す。たとえ家族であっても感謝や理解,
ねぎらいの言葉がほしいという気持ちを訴え
る人が目立った。
母が痴呆だが,日中の状況を夫に言って
も理解してもらえない。近所の人には昔の
話しかしないので,まわりも痴呆だとは
思っていない。誰にも助けてもらえない。
(女性 51・介護歴 4 年)
親は同居している人が介護をするのが当
たり前だと思っている。遠くにいてたまに来
る親族には感謝して,優しく接している。毎
日一緒にいると感謝もしてもらえないし,や
さしくもしてくれない。
(女性 54・介護歴 4 年)
組には何が求められているのだろうか。
5.介護番組に何が求められているか
( 1 )求められる内容と演出
まず介護している人が見たいと思うテーマ
は何か。
「介護番組を見ることで,一番期待
することはなんですか?」と聞いたところ,下
記のようになった。圧倒的に「自分の介護に
生かす」実用的な効果を期待している(図 8)
。
図 8 一番期待する効果
(人)
60
50
40
家族会
一般
30
20
10
0
生自
か分
すの
介
護
に
励
ま
さ
れ
る
癒
さ
れ
る
共
通
の
話
題
ア資
ド格
バや
イ
ス
そ
の
他
さらにその内容について「一番見たいもの
は何か」を聞くと,1 番多いのは「制度や法律
などの知識」だった。介護歴が長い人につい
ても,このニーズは変わらずある。また「介
護者自身の知恵」や「介護している人の悩み
や失敗談」も「見たい」という人が多かった。
放送研究と調査 MAY 2005
53
番組の演出・編集方針への要望は次のよう
なものだった。
トイレ介助,オムツがえのため,この時間
は寝ているという人もいる)。
①コーナーのセールスポイントをはっきり
介護生活は忙しく,テレビの前にじっとす
わっていられない。興味のないコーナーを我
慢して見ながら必要なコーナーを待つ,とい
う余裕はない。どの時間に何を放送するのか
内容を正確に告知し,
短時間で伝えてほしい。
②情報は「すぐに使える」状態で
「自分が入手できるか」
「安全に使えるか」
などに対して厳しく見極める力を持ってい
6.ニーズをより深く探るために
( 1 )二つのグループの特性
調査の概要で述べたように,アンケートを
行った「一般」グループと「家族会」グループ
にはそれぞれの特性がある。平均年齢・介護
歴だけでなく NHK か民放かというテレビの
接触形態にもグループ差がある。
る。民放情報番組が,親切に商品やサービ
そこで介護生活に関するアンケートの答え
スに導いてくれることに視聴者は慣れてい
を,グループ別に分析してみたところいくつ
るため,NHK は不親切に感じられてしまう。
③言葉遣いを正確に
(人)
必要な情報を切実に求めるがゆえに,言
15
葉ひとつで抱く期待も大きい。期待した情
10
報が出てこなかった時,裏切られたという失
望感も大きい。タイトルと中身の一致はもち
ろん,
新聞のラテ欄も正確に中身を反映させ,
図 9 誰に相談しているか(一般)
20
5
0
④体力の衰え始めた女性が視聴者であるとい
う配慮を
介護の担い手は圧倒的に女性である。介
護の肉体的負担を援助し,応援する姿勢が
求められる 4)。うるさい音楽,場をわきま
20
いう人も多い。午後 8 時台は介護相手の入
浴時間であり,9 時に寝かせた後がやっと
自分の時間になる人も多い(一部に深夜の
54
放送研究と調査 MAY 2005
25
15
10
5
0
配 こ 親 親 昔
戚 か
偶 ど
ら
者 も
の
友
人
介
護
で
知
り
合
っ
た
仲
間
行
政
の
担
当
者
医 ケ ヘ
師 ア ル
マ パ
看 ネ ー
護
ー 、
士 ジ 施
ャ 設
ー 職
員
・
「午後 8 時台はテレビを見られない」と
近 そ 誰
所 の に
の 他 も
人
相
談
し
て
い
な
い
35
疲れている時に聞かされるとたまらない。
⑤放送時間帯に工夫を
医 ケ ヘ
師 ア ル
マ パ
看 ネ ー
護
ー 、
士 ジ 施
ャ 設
ー 職
員
図 10 誰に相談しているか(家族会)
30
は細大の注意を払う必要がある。
行
政
の
担
当
者
(人)
えないトーンなどに対する拒否感も強い。
暗くはならず,かつ「無神経」であることに
介
護
で
知
り
合
っ
た
仲
間
・
違った期待を抱かせない注意が必要である。
配 こ 親 親 昔
戚 か
偶 ど
ら
者 も
の
友
人
近 そ 誰
所 の に
の 他 も
人
相
談
し
て
い
な
い
かの特徴的な差が浮かび上がった。このグ
ループ差をみることで番組への異なるニーズ
を探ることができるかもしれない。
( 2 )異なるニーズの存在
ここまでをふまえると,介護番組が視聴者
例えば「介護の悩みを誰に相談しているか」
としてターゲットとすべき人々には次のよう
聞いたところ結果は次のようになった(複数回
な 2 タイプがあるのではないだろうか。これ
答)
。一般グループは配偶者に相談している人
までは「介護家族の皆さん」ということで考
がいちばん多いが,家族会グループは配偶者
えていた視聴者像をもう少し細分化し,それ
を介護していたり,すでに亡くなっていたり
ぞれのニーズをとらえてコーナーや番組の演
するため,相談相手は介護仲間となっている
出を考えてゆく必要があると思われる。
(図 9,10)
。
A グループ:平均年齢 40 代後半∼ 50 代
また情報を入手するメディアにも差がある。
初 め て 親 の 介 護 を 通 し て「 介 護 の 世 界 」
平均年齢の低い一般グループは家族会に比べて
を知り始めた人たちである。民放のワイド
インターネットを積極的に利用している
(図11)
。
ショーや情報番組の視聴によって民放的サー
番組内容に対する問い合わせなど付随する
ビスに慣れている。また情報はインターネッ
サービスについても,一般グループは電話より
トで積極的に取得する。若く体力はあるが,
インターネットを重視する傾向がある(図12)
。
子育てが終わっていない人も多く時間には非
常に切迫している。
図 11 何から情報を得ているか
(人)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
⇒ 切実に役に立つ情報を,すぐに使える状
態で求めている
家族会
一般
テーマとしては
*介護保険・制度
*介護のテクニック 入門編と応用編
*介護機器(どこで手に入るか,保険は使
自行
治政
体窓
広口
報・
新
聞
イ
ン
タ
ー
ネ
ッ
ト
口
コ
ミ
一
般
雑
誌
専
門
雑
誌
テ
レ
ビ
そ
の
他
専
門
チ
ャ
ン
ネ
ル
不
明
*住宅改造・終の棲家選び
B グループ:平均年齢 60 代∼ 70 代
図 12 番組に付随するサービス
(人)
えるか,安くなるかなどの情報も含めて)
すでに親を看取り,今度は配偶者の介護に
60
50
家族会
一般
40
遭遇している。そのため配偶者に相談できな
30
い人も多く,介護仲間との関係が大きな支え
20
となっている。インターネットや携帯を使い
10
こなす人は少なく,仲間からの情報をもっと
0
電
話
ウ
ェ
ブ
サ
イ
ト
番
組
テ
キ
ス
ト
ビ
デ
オ
や
D
V
D
そ
の
他
も信頼している。子育ても終わり仕事も退職。
しかしその分介護一色となり,閉塞感や孤独
感を強く感じる人も多い。自分の体力の衰え
放送研究と調査 MAY 2005
55
を非常に心配している。
痴呆とはどういうことか,一般の人にも
⇒「ひとりではない」という心の支え・励ま
知識人にもあまりにも知識がない。ある学
しと,同じ境遇の人たちからの知恵を求めて
者が「痴呆になるなんて人間でなくなるから
いやだ」といったのを聞いた。でも私の夫は
いる
テーマとしては
*同じ境遇の人の悩みや失敗談・知恵
*体力の負担の少ない介護法
*介護している相手と一緒に楽しめる体操
や音楽
道を歩くときに「車だよ」とか「寒くない?」
とか言ってくれるしやさしい面も失ってい
ない。人間でないなどとんでもないと思う。
そんな風に思われない番組を作ってほしい。
(女性 75・介護歴 3 年半・認知症家族)
②脳梗塞・失語症の理解
( 3 )共通するニーズ
一方A・B両グループに共通するニーズも
失語症については介護する相手との会話が
できない悩みは深く,そうしたことへの社会
まとめておきたい。
の理解がすすんでいないという声が多く寄せ
①認知症の理解
られた。
「認知症の正確な理解」を求める声は圧倒的
③医療的ケア
に多かった。認知症には初期から重度までそ
現状では吸引や経管栄養などいわゆる医療
れぞれの段階で正確な理解が必要であり,き
的ケアを家族が担っており,その安全な方法
め細かな介護のための情報が求められていた。
を教えてほしいという声があった
本人がまだ動ける痴呆の場合,どのよう
にして 1 日を過ごさせればいいのか途方に
④緊急時のとっさの対応
くれた。やりたいこと,やらせたいこと,
いつも監視していなければならない。一
のほか多い。パニックにならずに対応できる
見簡単そうに見える「見守り」の方法など,
ぜひ取り上げてほしい。
(女性・介護歴 3 年・認知症家族)
若年性アルツハイマーは家族会の中でも
少数派です。家族も気づきにくく,本人も
認めにくい。ぜひ取り上げてほしい。
(女性 56・介護歴 2 年・
若年性アルツハイマー患者家族)
風呂での事故などに遭遇している人は思い
知識が求められている。
入浴介護の事故が多いので,消防署に来
てもらって応急処置の勉強会をしたことが
ある。水にスポッと入って沈んでしまうと
パニックになる。そういうときまずあわて
ず風呂の栓をぬいてから 119 番するなど重
要なことをまとめて放送してほしい。
(女性 64・介護歴 7 年)
また男性からの声として
また,社会全体の無理解が本人と家族を苦
⑤仕事をしながら遠距離介護を継続するノウハウ
しめているという指摘と,それを解消する努
⑥簡単な介護食の作り方,必要な栄養の知識
力をテレビに求める声があった。
などの要望があった。
56
放送研究と調査 MAY 2005
必要に迫られ料理番組を見るが高度すぎ
て役に立たない。弁当宅配がない日に買っ
てくる弁当は塩分が強すぎる。かといって
自分で作れる食事はあまりない。介護に必
要な老人向けの料理メニューをやさしく紹
介して欲しい。 (男性 59・介護歴 5 年)
( 4 )介護番組の必要性
「スカイパーフェクト TV! 」など専門チャ
ンネルの戦略として「ぶどうの房」の考え方
がある。一粒一粒は小さくても,房となった
時に一定の視聴者を確保するという考え方だ
という。選択視聴である教育テレビにもこの
考え方は有効かもしれない。
そして一粒一粒の味をよくする方法とし
て,リハビリや医療の専門家だけではなく,
最近各チャンネルで団塊世代の定年後を
すでに介護を終えて,家族会や小規模デイ
ターゲットにしたシニア番組が作られ始めて
サービスを主宰しているような人々の知恵を
いる。しかし,今回話を聞いた大多数は一般
借りたり,出演者として呼ぶことも,大きな
のシニア番組とは別に「介護番組を続けてほ
力になるのではないか。例えば川崎市では,
しい」という意見であった。
介護のベテランが自宅で開くミニデイサービ
昔では考えられなかったが,「更年期の
苦しみ」などがテレビで取り上げられたこ
スがあり,ここで伝えられるノウハウと支え
あいの実践は介護家族に非常に頼りにされて
とで,人前で話すことが苦でなくなった。
それと同じように,介護の暗い部分やしん
どい部分をテレビでどんどん出して,共通
の理解にしてほしい。テレビにはそういう
力があると思う。 (女性 57・介護歴 1 年)
いる 5)。全国のこのような人々を探して,番
テレビの役割について改めて考えさせられ
は 7.5 年。最長の人は 28 年に及んでいた。24
る意見である。
時間まったく自分の時間が無い人,配偶者と
組の協力者になってもらうのもひとつの方法
だと思う。
予想以上に介護者の置かれている状況は厳
しい。今回のアンケート協力者の平均介護歴
の離別・死別後,あるいは独身で長期間親の
7.まとめ
「介護家族」といっても一様ではなく,そ
れぞれのニーズに応じてテーマや演出を考え
ることがこれからますます求められていくと
考えられる。 要望として多かった認知症や失語症などを
症状別段階別の細分化したテーマ設定にする
と,1 テーマごとの視聴者数は少ないかもし
れない。しかしその切実度が高いため,ニー
ズのある人は確実に見て,口コミで仲間にも
勧めてくれる可能性が高い。
介護をしている人が数多くいる。次のような
声もあった。
夫婦で協力して介護している VTR を見
て孤独感が募った。結婚しないでずっと親
を介護してきた私は,介護をやめたくなる
気分に突き落とされた。そういう VTR を紹
介してもいいが,最後にフォローしてほし
い。もっと大変な人もいますと。理解して
制作していることがこちらに伝わればまだ
いいと思う。 (女性 58・介護歴 28 年)
また介護を担っている多くの女性は,長い
子育てを終えた後,人生の後半で今度は長い
放送研究と調査 MAY 2005
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介護を担っている。もちろんそれが本人の希
望であり生きがいであると語る人も多いが,
その実情を知ってどのように援助するのかを
考える必要がある。テレビは,社会全体に向
けて,きれい事やいい話ばかりではない介護
の実情を伝えるとともに,本当に当事者に役
なお,本稿では「認知症」という言葉を用いていま
すが,介護家族の方々の発言引用中の「痴呆症」につ
いては,そのまま採録させていただきました。
今回ニーズ調査を行った「めざせ介護の達人」は
2005 年度からメイン司会が町永俊雄アナウンサーに
代わりました。4 月・5 月放送は「認知症」についての
シリーズを放送する予定とのことです。
に立つ道を番組づくりで追求する必要がある
のではないか。
(さかい りつこ)
─ 謝辞 ─
今回のアンケートに際して,次の方々,グ
ループにご協力を得ました。アンケート協力
者の皆様に心から感謝いたします。
● 神奈川県川崎市
すずの会
● 神奈川県川崎市
認知症介護家族の会 なつめ
● 神奈川県川崎市
はなみずきの会
● 神奈川県川崎市
ひらいサロン
● 神奈川県川崎市
宮前すみれの会
● 神奈川県横浜市
東神奈川高齢者ショート
ステイセンター若草
● 千葉県松戸市
松戸神経内科
● 千葉県松戸市
松戸神経内科通所リハビリ
テーション(ふれあい広場)家族会
● 東京都杉並区
NPO 法人 福祉の家
● がんばらない介護生活を考える会
●(株)朝日エル
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放送研究と調査 MAY 2005
注/引用文献
1) 厚生労働省介護保険事業状況報告月報(暫定版)
最新データ(平成 16 年 11 月末)による。
2) 2005 年 2 月,石川県の高齢者グループホームの
非常勤職員が入所者を殺害するという事件が起
きた。この事件をきっかけに,介護施設での夜勤
規則の見直しや職員配置の検討,無理解からの
虐待を防ぐための研修の必要性などの議論が起
きている。改めて介護の現実と,対応の困難さ
が浮き彫りになっている。
3) 古 田 尚 輝 「
“ テ レ ビ ろ う 学 校 ”か ら“ 手 話
ニュース”へ」
『放送研究と調査』1999. 3 月号
4) 寝たきり高齢者の介護に占める女性の割合は
85.1%という数字がある。(山田祐子『家族介護
と高齢者虐待』一ツ橋出版 2004)
また介護者の負担に関する論文として荒井由美
子「家族介護者の介護負担」(『老年精神医学雑
誌 第 15 巻増刊号 2004. 12 』)
「ひろがる介護者ケアの試み∼在宅介護を
支 え る も う ひ と つ の ケ ア ∼」
(『 Home Care
Medicine April 2002 』)を参照した。
5) 川崎市の介護経験者らが自ら取材・編集して発
行している「介護サービス利用のためのガイド
ブック タッチ」
(編集代表・鈴木恵子)は市
内の病院・施設や相談窓口を網羅し改訂 4 版を
重ねている。
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