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ハブ機能で世界経済取り込み ドバイ・ショックから回復
http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 外国審査部第 2 ユニット 2011 年 11 月 14 日 ハブ機能で世界経済取り込み ドバイ・ショックから回復 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国で、2009年11月に政府系企業の債務問題が表面化 してから、ちょうど2年が経過した。「ドバイ・ショック」の発火点となった債務の再編は進展を見せ、ド バイ経済は優れた「ハブ機能」を軸に回復。「アラブの春」の波及は見られず、政情も安定している。 ただ、欧州債務危機の広がりなど対外経済環境の悪化は、ドバイ経済の先行きに影を落としてい る。 ●世界の金融市場が混乱 ドバイといえば、ヤシの木をかたどった人口島「パーム・アイランド」、世界一の高さを誇る超高層 ビル「ブルジュ・ハリファ」が思い浮かぶ。こうした大規模な不動産開発は、世界の注目を集め、ドバ イ経済の高成長を象徴していた。 しかし、高成長を謳歌していたドバイ経済は、09年、世界的な金融危機の影響を受けて落ち込 んだ。短期の資金調達に依存してきた不動産会社は資金調達に窮し、多くの開発プロジェクトが 停止。不動産価格は急落し、建設を含む関連部門は大きく落ち込んだ。09年11月には、政府系 持ち株会社ドバイ・ワールドが債務の返済期限延長を債権団に要請したことをきっかけに、政府系 企業の債務をめぐる懸念が表面化。世界的な金融市場の混乱につながったドバイ・ショックは、ド バイ経済の落ち込みを印象付けることになった。 しかし10年以降、貿易・物流部門にけん引されて、経済は回復を続けている。回復を可能にして いるのが、ドバイが誇る「ハブ(拠点)機能」である。 ●「脱石油依存」の国づくり UAEは7つの首長国からなる連邦国家で、ドバイ首長国はアブダビ首長国とともにUAEの中核 を担う。 UAEは日本の石油輸入相手国としてはサウジアラビアに次ぐ第2位であり、世界有数の産油国 として日本でも広く知られる。しかし、UAEが有するエネルギー資源の約9割はアブダビに集中し ており、ドバイ首長国は資源に乏しい。このため、ドバイは早くからエネルギーに頼らない国づくりを 推進してきた。 1980年代には、世界最大規模の貿易港シュベル・アリ港を有する経済特区(フリーゾーン)を整 備している。外国資本100%の企業設立を認めるとともに、無税を保証して外資系企業の誘致を進 め、現在では世界中から6千社以上が中東地域のビジネス拠点を立地させている。 85年に設立され、航空機2機で始まったエミレーツ航空も目覚しい成長を遂げた。現在では153 機を所有し、世界100都市以上の路線網を有する。 ドバイ国際空港の旅客数も高い伸びを続けている。人口190万人足らずのドバイで、2010年の 1 http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 旅客数は約4700万人。中東域内のみならず、世界を結ぶ一大ハブ空港となった。ハブ都市機能 の強化を早くから積極的に行ってきたドバイの戦略的投資が大きな実を結んでいる。 10年以降、ドバイは優れたハブ機能をてこに、アジアを中心とする世界経済の成長を取り込む 形で回復を遂げている。11年初めから周辺諸国で「アラブの春」と呼ばれる民主化デモが頻発す る中でも、ドバイへの波及は見られない。むしろ安定した政治情勢から、安全な逃避先として好感 され、国外からの資金や事業のシフト、観光客の増加が見られるなど、中東地域の「セーフ・ヘイブ ン(安全な避難場所)」として機能している。 ●依然として残る不透明感 ただ、欧州債務危機の広がりや米国経済の失速懸念といった世界経済の不安材料は、ドバイに も大きな影を落としている。国を開き、ヒト・モノ・カネを呼び込みながら成長を実現するドバイ経済 は、世界経済の動向に大きく依存しているからだ。貿易量が減少したり、観光客が落ち込んだりす る場合、ドバイ経済も成長を鈍らせることになる。さらに、政府系企業の債務規模が依然大きく、不 動産市況の回復が遅れる中で、金融面でのリスクにも注意を払う必要がある。 ドバイ・ショックの発火点となったドバイ・ワールドの債務は、11年1月に債権者との間で債務返 済延長について最終合意が成立。8月には、政府による大規模な資本注入を受けた政府系不動 産会社ナキールが、債権者との債務再編合意にこぎ着けた。 こうした進展は国際金融市場でも好感され、ドバイ首長国政府のクレジット・デフォルト・スワップ (CDS、債務不履行リスクを保証する金融派生商品)のリスク度合いは縮小傾向をたどってきた。 しかし、今年の夏場以降は、ぶれ幅に大きな動きが見られるようになった。国際金融市場でリスク 回避姿勢が高まる場合には、中東地域のセーフ・ヘイブンであるドバイもその影響を免れ得ない。 さらに、多額の返済が予定される政府系企業の債務をめぐる問題も、引き続き金融市場の懸念 材料となっている。 足元の景気回復は、中東地域のビジネス拠点、ハブ都市としてのドバイの競争力の高さを証明 したが、開放的な経済構造は国際経済・金融情勢の大きな影響を受ける。ドバイ政府は、投資環 境改善のための法案制定など、ヒト・モノ・カネの呼び込みに向けた努力を続けるとともに、政府系 企業を含む公的部門の債務管理強化に加え、金融システム強化に向けた銀行再編に取り組んで いる。 国際通貨基金(IMF)は、今年9月、世界経済の見通しを下方修正したが、中国、インドといった アジアの新興国やアフリカ諸国の成長率見通しは依然として高い。中期的には、貿易や投資を通 じてそうした有望国の勢いを取り込めるかが、ドバイ経済が成長するための鍵となる。 (国際協力銀行 ※ 外国審査部第 2 ユニット副調査役 吉田 晋也) この記事は、2011 年 11 月 14 日号の共同通信社「Kyodo Weekly」に掲載されたものです。 2