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製品開発の視点

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製品開発の視点
研究テーマ紹介
製品開発の視点
エネルギア総合研究所 経営調査担当 滝本 恭司,小出 修司
1
はじめに
経営調査担当では,中国地域の魅力ある企業や人物
などを紹介する地域情報誌「碧い風」を年3回発行し
ている。毎回ユニークな取り組みを行っている企業
にインタビューを行っているが,都合により「碧い
風」には掲載できなかったものの,商品やサービスの
開発について興味深い話を聞けることも多い。ここで
は,75号(2012年7月発行)の「企業連携レポート」
で紹介した「株式会社ジャスト東海」
(山口県宇部市)
ひとし
の志賀均社長の製品開発の姿勢について紹介したい。
ジャスト東海は弱電メーカーや商社勤務を経て,志
賀社長が1994年に床材メーカーとして立ち上げた会
社であり,現在,床暖房システムや大地熱を利用した
融雪システムなど多様な製品ラインナップを備えた床
材総合メーカーに発展している。
2
顧客との接点を大事にする
弱電メーカー勤務時代に営業・サービスの窓口とし
て多くの顧客を訪問していた志賀社長は,顧客との付
き合いの中で自社の製品の長所や弱点について熟知す
るようになっていた。担当者として,製品の改良や開
発について幾度となく会社に意見具申したものの,な
かなか取り上げてもらえなかったそうである。
そのような時,得意先の某市交通局の整備課長か
ら「帰宅した時,玄関のボタンを押すとピンポンと
音がして心が安らぐが,バスのブザー音もそのよう
な音だったらよいのに」という話を聞いた。高校時代
からアマチュア無線に親しみ,機械いじりの腕に覚え
があった志賀社長は,自ら試作品を作り整備課長に持
ち込んだ。これこそ日本初の「バスチャイム式降車信
号装置」であった。この試作品は地元の新聞社にも取
り上げられ,交通局の他のバスにも装着されることに
なった。残念なことに,この装置は志賀社長が当時勤
務していたメーカーでは製品化されなかったが,折か
らのワンマンバス化の波に乗り,瞬く間に日本中に普
及した。
この発明は,懇意にしていた整備課長との日頃の会
の商品開発の原点にもなっている。
3
業界の常識にとらわれない
商社で床材を取り扱った後,ジャスト東海を創業し
た志賀社長は,安価で良質の床材を提供したいと研究
を続けていた。2001年に開発した温水式暖房パネル
「エアーボード」は,そうした努力が実を結んだもの
である。
温水式の床暖房はパイプの中を温水が循環して床を
温める。日本では,温水パイプには,床に熱を伝えや
すくするために銅のような熱伝導性が高い材料を使う
ことが普通であった。しかし,志賀社長はパイプにポ
リブテン樹脂を採用した。ポリブテン樹脂は熱伝導性
に劣るがゆえに,熱しすぎることなく,またムラなく
床全面を温めることができる。廃棄する時に有毒な物
質が発生しないという長所もある。
実は,志賀社長自身は欧州ではポリブテン樹脂が温
水式暖房に広く使われていることを知っていたのだ
が,日本の業界では熱伝導性の高い金属パイプを使う
ことが疑われることすらなかったという。志賀社長は
広く学び考えることで,狭い業界の常識の枠を飛び越
えていたのである。
4
顧客の問題を解決する
エアーボードには,もう一つの興味深い特長がある。
床材には,ゆるいカーブがついた温水パイプを通す溝
が成形されている。どのような材質にしろ,施工時に
パイプを曲げようとすると屈曲して空洞が潰れてしま
いがちである。これを防ぐため,エアーボードの溝は,
空洞が潰れない半径でパイプを簡単にガイドするよう
に作られている。こうした工夫により,手間がかかっ
ていたパイプの敷設時間を大幅に短縮し,施工の不良
を防止することができる。
こうして床を温めるという本来機能ばかりでなく,
敷設コストの低減という顧客の課題も解決し,低コス
トの床材を提供するという志賀社長の目標を価格競争
によらずに実現することができたのである。
話から生まれたものである。これは,顧客の日常の観
察や顧客との何気ないコミュニケーションを大切にす
ることがいかに重要であるかを示しており,志賀社長
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製品開発の視点
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問題意識で知識を温める
最近の製品開発では,地熱を利用した屋根用融雪シ
ゆ き
「大地熱」と名付け
ステム「雪消えちゃん」がある。
た地熱を使って屋根を温め,融雪を促す装置である。
この装置の屋根部分には超熱伝導パイプ「サーマルク
イック」が組み込まれている。このパイプに使われて
いる素材はNASA(米航空宇宙局)で60年前に開発
されていたものだそうである。志賀社長が若い頃,友
人宅に遊びに行き,そこで何気なく目を通した技術書
でこの素材を知ったとのことである。
知識は得た時にすぐに役立たなくても,問題意識を
持ち続ける人には活用の機会が訪れることがある。志
賀社長は,この知識を捨て去ることなく,頭の中でイ
ンデックスを付けて大切に保存していたのであろう。
6
写真1 エアーボードJWタイプの施工写真
写真提供:ジャスト東海
おわりに
製品が活用される現場に密着して情報収集し,さま
ざまな知的資源を総動員する志賀社長の製品開発の姿
勢は,私達にとって非常に参考になるものである。開
発者もまた「書を捨てて現場(まち)に出よう」とい
うことであろう。
さらに,志賀社長は,会社の使命として「自然との
共生」を一貫して語られていた。自然に学び,自然を
人のために生かす製品を開発する,製品のライフサイ
クルにおいて自然に負荷をかけないという理念は,志
賀社長の製品開発への揺るぎない情熱を支え続けてい
るように思われた。
ゆ
き
写真2 「雪消えちゃん」
のシステムを説明する展示品。右に
あるのが,大地熱を収集するスパイラルチューブ
★ 株式会社ジャスト東海
TEL:0836-44-0550
URL:http://www.just-toukai.co.jp
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