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バーチャルコミュニティに関する考察

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バーチャルコミュニティに関する考察
バーチャルコミュニティに関する考察
~コンピュータが創る新しい社会~
1999 年 1 月
指導教員
草薙信照
M955238
4 年Q組32番
宮崎
和也
<目次>
第1章
はじめに
第2章
インターネットは今
世界をつなぐネットワーク
インターネットの成功
増え続けるネットワーク利用者
2.1
2.2
2.3
第3章
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
第4章
4.1
4.2
第5章
5.1
5.2
5.3
5.4
第6章
6.1
6.2
コミュニティ概念の変遷
コミュニティとは
社会と相互作用
コンピュータコミュニケーション
ネットが人々に与える影響
言葉の壁を超えて
広がる世界観
地図のないコミュニティ
仮想空間が生み出すもの
意識をかえる技術
融合メディアがつくる場のメタファ
ネットワークの問題
ネットワーク事業者の淘汰
ネットワークコミュニティの脆弱性
電子会議システムのゆくえ
インターネットの重要性
最後に
今後の考察
今後の課題
バーチャルコミュニティに関する考察
第1章
はじめに
近年になって新聞や雑誌でパソコンに関する特集や記事を目にすることが多くなった。これは、
世間がパソコンの機能に注目しているという証拠である。パソコンを利用すれば、そこにいなが
らにして数多くの仕事や連絡のやりとりをこなすことができる。このなかで、いま非常に注目さ
れているインターネットによる人と人との関わりあいについて考察したい。現代では、同じ地域
に住んでいる家庭同士のコミュニケーションどころか、家族間でさえコミュニケーションがなく
なっている。そのために一人一人が孤独な状態におちいってしまいがちである。最近では少年や
若者の犯罪が増加し、親と学校のあり方について議論されている。ここでパソコン通信を見てみ
ると相手の顔や名前など知らないのに、パソコン通信の方が気軽に本音で話し合っている。誰に
も相談や話ができないが、パソコン通信では自分の興味や関心事、気のあう相手が見つかるため
親近感を抱き、居心地がよく、また自分の顔が相手には知られないことが、自分の本音を語りや
すくしている。だから、仕事中であってもパソコン通信に没頭する人がでてくる。このように人
を引き付けるパソコン通信におけるコミュニケーションについて、そしてその可能性についてパ
ソコン通信、インターネット、地域社会を含めた文献や新聞等を参考にして考察してみたい。
第 2 章 インターネットは今
2.1 世界をつなぐネットワーク
今やインターネットの利用者は世界に一億五千万人、うち日本の利用者は 800 万∼900 万人
といわれる。この世界的なネットワークは、個人向け通信販売や、企業による原材料の受発注な
どにも利用され、経済活動の一端を担うようになってきた。
今日のインターネットの急速な普及に象徴される、情報化がもたらす社会的変化としてあげら
れるのは、様々な社会背景をもつ人々が、特定の関心事、目標にもとづいてコンピュータネット
ワークを通じてコミュニケーションを行うことで、地理的、時間的制約や所属意識、居住地域を
超えた人々のネットワークが形成され、こうしたネットワークが多様な関心事、目標にもとづい
て多数形成され複雑に絡まり合うことでバーチャルコミュニティと呼ばれる電子的社会空間が成
立するようになった。
バーチャルコミュニティを構成する個々のコミュニティ型ネットワークがそのメンバーに提供
するサービスは、情報サービスを中核としながらも、それだけにとどまるものではない。むしろ
個々のコミュニティ型ネットワークはそれぞれが他とは異なる特徴というか個性を持とうとする
と同時にさまざまな学校、病院、金融、保険機関、商店、娯楽、保養施設、情報サービス業者な
どと提携したり、それらを自己の系列下に置いたりしながらその会員の個別的で多様なニーズに
即してきめの細かい各種のサービスの提供や仕事の斡旋などの業務を行っていくことになるだろ
う。現に今日のデパート、銀行、生協、クレジットカード会社、学習塾などのなかには、すでに
このような方向への事業展開を模索しているところも少なくないようだ。企業自身による利用を
別にすれば、これからのパソコン通信の発展方向はこのようなコミュニティ型ネットワークのた
めの柔軟で多面的な通信手段となるところにあるようだ。
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バーチャルコミュニティに関する考察
コンピュータネットワークによる地球規模の結びつきによって、物理的にはある国に住んでい
ても地球規模のコンピュータネットワークを通じて世界中に住む人とつながっている。まるで地
球上のどの人々とも隣同士に住んでいるようなものである。地理的には断絶していても同じネッ
トワーク上の空間を共有できれば問題がない。
コンピュータネットワークは急速に成長し、すでに先進国の大半をカバーしている。連日続々
と新しいコンピュータが既存のネットワークに接続され新しいユーザーが増えている。
2.2 インターネットの成功
インターネットは地球規模のネットワーク集合体である。注意をする点は、ニフティサーブや
PC−VANといった特定事業者が運営するネットワークサービスではないことだ。インターネ
ットには、さまざまな管理主体や固有の名称を持つネットワークが含まれている。
コンピュータを使ってユーザー同士が通信するという試みは 1969 年にアメリカで始まった。
アメリカの国防総省の援助で実現した研究者間のネットワーク、ARPANETである。当時は
まだいくつかの大学や研究機関を結ぶものでしかなかった。このネットワークはやがてインター
ネットと呼ばれる国際的な巨大ネットワーク・グループに成長する。
インターネットで最も有名なものは、アメリカのNSFNETである。ARPANETが研究
者間で評価されたことを背景にアメリカのNSF(National Science Foun
dation)は 1986 年にNSFNETを開設した。現在これはインターネットに属するネッ
トワークの中で、最も強力な基幹回線を供給している。
その一方で 1979 年頃にUSENETが誕生した。これはワークステーションの事実上の標準
OSであるUNIXのユーザー間で、情報交換をするための手段として開発された。ここでは、
NetNewsと呼ばれる電子の記事がやりとりされている。利用イメージはパソコン通信の電
子掲示板に似ている。現在では世界中で5,000を越えるグループが「記事」の配布をおこなっ
ている。
日本のインターネットは、1984 年に慶応大学、東京工業大学、東京大学の共同実験によるJ
UNET(Japan University Network)から始まった。1986 年にはWIDEProjectが
始まり、約 40 の民間企業、約 20 の大学・国立研究機関の共同プロジェクトとしてネットワーク
の基盤がつくられた。JUNETの管理はすべてボランティアで運営されていたが、その後利用
数や利用頻度が増大したこともあり、現在ではJPNICという組織が管理をおこなっている。
研究開発活動は、つまるところ情報処理活動である。実験や観察のようなフィールド・ワーク
であっても、結果は情報という形にまとめられる。実験の評価も情報を生産する活動である。60
年代末に開発されたオンラインデータベースがものがたっている。コンピュータによる情報管理
の試みは、宇宙開発でソ連に一歩先んじられたアメリカのいわゆるスプートニクショックに端を
発した。以来、研究成果である論文や特許はデータベースという形でコンピュータに登録され、
必要に応じて検索されるようになった。80 年代になると研究成果となる前の情報が必要になっ
てきた。これは、バイオテクノロジーやオプトエレクトロニクスなどハイテク開発競争が加熱し、
よりはやく開発した者が莫大な利益を得るようになったことが一因である。成果に結びつかなか
ったさまざまなデータも、境界領域の研究が重要になるに連れて、再認識される機会をもつよう
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バーチャルコミュニティに関する考察
になった。
このようにまったくの機密(ブラック)ではないが、論文などの出版物(ホワイト)となるに
至らない情報をグレイリテラチャーと呼ぶ。80 年代以降では、グレイリテラチャーが研究者間
を流通する情報の主役となった。一度発表された論文は、機関紙や学会誌などを通じて知ること
ができる。引用部分の原論文なども、執筆者に連絡すれば入手できる。グレイともなると日頃か
ら頻繁に接触のある研究者間でしか知ることができなかった。ところが、距離という地理的制約
がある以上、頻繁に接触できる研究者の数は限定される。電子メールはこのような状況に最適な
解決手段をあたえた。いまや研究者にとってオンラインデータベースのみならず、電子メールが
必要不可欠な道具である。
インターネットは世界中の研究者のための公共的な情報通信網だ。国際会議などの案内などで
も、連絡先として責任者のインターネットのアドレスを入れることがあたりまえになっている。
すでにインターネットなしでは成り立たない研究分野もあるという。情報交換、約束の取り付
け、国際会議の草稿配布などで、はじめからインターネットを前提にする例が増えてきている。
アイデアに関する議論やさまざまなアンケート調査も、ネットワーク上で交わされるようになっ
てきた。商業目的のパソコン通信とは性格をやや異にするものの、機能、内容のいずれも共通点
が多くある。先に示したグレイリテラチャーの流通ではインターネットの役割が不可欠である。
米国政府の研究機関のドラフトなどもインターネットで流布されている。ネットワークを利用す
るとしないとでは、研究上の情報収集活動効率に極端な差が生じる。インターネットは研究活動
のインフラストラクチャ(社会基盤)なのである。
インターネットで最も頻繁に利用される機能は電子メールである。このような仕組みが普及す
る背景としては、当然のことながらパソコンやワークステーションなどが普及していなければな
らない。反対に 1980 年代の初頭、研究者や技術者を中心にこれらの機器需要が急速に拡大した
ことが、インターネットへの需要を喚起したといえるだろう。インターネットを利用すればアメ
リカのコンピュサーブやデルファイなどのパソコン通信サービス、MCImailのような電子
メール・サービスとの接続もなされているため、インターネットでメールを交換できる人数は数
百万人に達する。
2.3 増え続けるネットワーク利用者
日本のパソコン通信は、1980 年初頭、パソコンマニアの実験からはじまり、毎年倍々ゲーム
で利用者が増え続けている。
パソコン通信の利用者調査は、通産省の外郭団体である電子ネットワーキング協議会が実施し
ていて結果は協議会のホームページで知ることができる。この調査は、商用パソコン通信サービ
スおよび比較的規模の大きな草の根ネットワークを対象に行っている。そのなかに会員数をたず
ねる項目があり、その合計でのべ人数を算出するようになっている。同協議会によれば、加入者
数 1 万人以上のパソコン通信ネットワークの会員数は、1998 年 6 月の時点で、のべ 950 万人に
もおよんでいる。ただ、この数字はあくまでも「会員」数であって、実際に利用している人の数で
はない。複数のパソコン通信ネットの会員になっている人もいれば、加入はしたものの、実際に
は利用していない人もふくまれているからである。また、小さな草の根ネットワークの会員数は
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バーチャルコミュニティに関する考察
対象になっていない。ただ、草の根ネット自体は、大手パソコン通信サービスによる寡占化もあ
り、さほど会員数は多くないと考えられる。実質的には、大手商用パソコン通信サービスである、
ニフティサーブ、ビッグローブ、ピープル、ASAHI ネット、AOL(アメリカオンライン)の5
社の会員数を見れば、国内のパソコン通信の利用者数を知ることができるといえる。
このように利用者の増加やシステムの飛躍的な向上によって、ネットワークをとりまく環境が
急速に変化し続けている状況のなか、このままパソコン通信の利用者は増え続け、日常生活のな
かに定着していくと考える。
利用者を絞り込んだ電子会議室を増やすとしたら、どのようになるのか。現在でも、パソコン
通信は大手数社の寡占状態にある。なかでもニフティサーブとビッグローブ(PC-VAN)の2つが
他社のネットワークを大きく離している。今後増える電子会議室はこれまでのパソコン通信によ
って担われるのだろうか。それとも、他のパソコン通信やインターネットプロバイダによって提
供されるのだろうか。
おそらく、まだしばらくは大手パソコン通信による寡占状態が続くと考えられる。理由は、現
在大手2社による寡占状態が続いている理由と同じである。パソコン通信が始まった頃は、もっ
と多くの商用パソコン通信が運営されていた。その後、2社が急成長し他のネットを圧倒するこ
とになった。ニフティとPC−VANを運営するNECは、自社あるいは系列企業の所有する広
域ネットワークを使い全国展開したということと、系列企業の社員にIDをたくさん発行したと
いう事情はあるのだが、それだけでは説明できないように思う。全国にアクセスポイントを展開
したにもかかわらず、2社のようには伸びていないパソコン通信もあるからである。
この理由としてはまず、会員が多いから新規加入者数も多くなるといえる。パソコン通信の加
入動機を見ると、友人が入っていたからという理由で上位にきている。また、書籍などで目にふ
れる機会も大手パソコン通信が他を圧倒している。また規模が大きくなれば、それだけ専門知識
をもつ人が多い可能性も高まるし、文章力があり読んで楽しい発言をする人も多くなる。つまり、
パソコン通信の加入動機とは、そこに人がいるからそこに集まるといえる。先に人を集めること
ができ、人が人を呼ぶ相乗効果でここまで大きくなったといえる。
次にサービスごとに操作体系がことなっていることがあげられる。パソコン通信はインターネ
ットとは異なり閉じたシステムである。そのため、それぞれ独自の操作体系を持っている。メニ
ュー構成もコマンドもまったく異なる。そのため、複数のパソコン通信に加入するにはその数だ
け操作を覚えなければならない。このことは、他のパソコン通信に加入するにはかなり大きなメ
リットがなければ、なかなか乗り換えられないことを意味している。
大手のパソコン通信は、カバーしているサービス範囲が広く一度入るとそのネットをずっと利
用し続けることになる。また、中小のパソコン通信の場合、どうしても話題がつきてしまうこと
が多く、この問題ならニフティサーブでといった議論になりがちである。そのために、そちらに
も加入することになる。そうすると、なんでも揃う大手パソコン通信ばかり利用することになり、
ますます集中することになる。したがって、大手2社が突出する状態は今後もしばらく続くと考
えられる。
では、米国で成功したアメリカオンラインのように今後パソコン通信分野に新規参入しうる余
地はないのだろうか。他のパソコン通信に対抗しうる大きなアドバンテージがあり、ある程度人
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バーチャルコミュニティに関する考察
を集められれば大化けするかもしれない。しかし、大手2社がそれぞれ 200 万人以上の会員を集
めてしまった今となっては、かなり難しいといわざるをえない。利用料を安く押さえたとしても、
電子会議室が運営にコストのかかるサービスであり、シスオペに対する報酬など人件費は削れる
ものでもなく、事業として成立しない可能性がある。逆に、料金を高めに設定し大勢のスタッフ
によるきめ細やかなサポートを提供するという道も考えられますが、これも現状 1 分間 10 円が
高いと捉えられている以上、難しいものがある。そのため、今後も一部の大手による寡占状態が
続くと考えられる。
しかし同時に、多様さという価値観から見るとこのような状況は必ずしも芳しくは思えない。
各ネットワークごとが自主性を持つことが望まれる。全国規模のネットワークに対して草の根ネ
ットは規模で対抗できないことは明らかである。だから、そのネット独自のカラーを出すことに
よってユーザーの心をつかまなければならない。その上で各ネットワーク関での連携ができれば、
ユーザーにとって選択肢が広がり、よりよい利用環境が達成されるだろう。
図1
電子ネットワーク加入者推移
資料:平成10年度「電子ネットワーク実態調査」
(財団法人ニューメディア開発協会)
図1は、これまでの調査結果の推移を示す。平成3年度(91/6)から平成8年(96/6)ま
ではパソコンネットを対象とする調査結果であり、それらを実線で結んでいる。また、昨年度(9
7/6)からはインターネットの普及の立ち上がりに対応するために、インターネットサービスに
おける端末型ダイヤルアップ接続の会員数を加算しているので、昨年度と今年の結果を実線で結
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バーチャルコミュニティに関する考察
んでいる。平成8年度(96/6)と平成9年度(97/6)の結果の間の破線は、連続性が幾分
欠けていることを表している。
第 3 章 コミュニティ概念の変遷
3.1 コミュニティとは
もともとコミュニティすなわち地域社会というのは人間が生きていくために必要とされる共同
性とそれが一定の地域において営まれることに根拠をもつ地域性を基盤とするものであったけれ
ども、共同の内実や地域との関わり方は 様々であることから、きわめて多様なあり方をそのう
ちに含む曖昧な概念とされてきた。その上、この共同の内実や地域との関わり方は、現代の社会
においては従来以上に多様な分化を示すようになり、地域社会にあるいはコミュニティに新しい
あり方を次々に生み出している。その結果地域社会のあり方は、今までの多様さをはるかにこえ
て多様化してきており、すでに文字どうりの地域社会として把握することが困難になり、より抽
象的、道理的なコミュニティとしてしか位置づけられない場合でさえ生み出されてきている。す
なわち、従来のコミュニティ像にかわる新しいコミュニティ像がとらえられなければならない。
その性格は、伝統的なコミュニティと比べて、①自主・自作性、②自主管理、③使命感、④共同
性の点で共通しているが、次の点で相違する。第一に地域に限定されない広域的な社会構成単位
であること、第二に共通の価値観や目的のもとに結ばれた情報空間をもっていること、そして第
三にコミュニティが多中心的、重層的、開放的形態をとり、メンバーが複数のコミュニティに属
すること、などである。
日本の場合今までのコミュニティ像から離れて新しい発想を持ち込まなければならない条件が、
我々の周りに数多く現れてきている。同質的なものであることが強調されてきた日本社会にも、
多民族社会としての様相が顕著になってきた。人々の流動性が増し新しいコミュニケーションの
手段が多様に現れて、長く人々の地域的な結びつきを支えてきた地域的な近接ということの意味
が揺らいできた。
3.2 社会と相互作用
コミュニケーションは、意識するしないにかかわらずいつの時代にあっても人間社会の共同性
の基礎となるものである。本来的に会話欲求をもつ人間は意識の自己表出により、それぞれに独
自の言説空間をもち社会的生存のなかで多種多様な文化をつくり上げている。つまり、既成の社
会、文化は一面でコミュニケーションの結果であるとみなすこともできる。逆にいえば、各時代
の社会生活や文化状況を反省的に思考するならば、そこには常にコミュニケーションの問題が内
包されているといってよい。
また、人間のコミュニケーションを他の動物のコミュニケーションとの対比でとらえると、そ
の重要な特徴の一つは直接的なインターパーソナルコミュニケーションに基礎をおきつつも人工
的なコミュニケーション手段の開発、利用にあり、その手段の発達にともなう物理的および意味
的情報空間の形成、拡大にある。現実において私たちはもっぱらマスメディアに依存することに
よって、それが形成する情報空間を自らが直接経験できない現実環境の代替物として、つまり疑
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バーチャルコミュニティに関する考察
似環境として受容している。そうした人工的手段の発達は人間のコミュニケーション史の流れの
なかでは、程度の差はあれ、とりわけ今日の先進産業社会においては活発に議論されている。
「多
メディア化、マルチメディア化」への過程をたどっており、情報技術の革新にともなって登場し
てきた情報通信ネットワークもその過程の一部を構成するものである。今日の情報通信ネットワ
ークの発達は、コミュニケーション・メッセージの伝達過程における時間的空間的制約の克服と
伝達される情報モードの量的拡大、質的向上によって、一面で人工的手段を介してもほとんど違
和感のない自然な人間同士のコミュニケーションの実現に向かっている。
そればかりか、そうしたネットワークの機能特性と結びついた新たな編成原理が、既存のコミ
ュニケーションと社会の変革をうながすという議論もさかんである。たとえばコミュニケーショ
ンの編成に関しては、パソコン通信の利用にみられるように、情報が開放的かつ水平的に流通し、
人間のコミュニケーションの本来的な形態とされる直接的なインターパーソナルコミュニケーシ
ョンに疑似するものとして、つまり相互作用的(interactive)コミュニケーション
を活発にするものとして特徴づけられる。それは一方的なマス・コミュニケーションが典型であ
るような、社会全体のなかで情報が階層的かつ垂直的に流通する形態とは対照をなすものである。
また社会の編成に関しては、以前にはマクルーハンが地球村(global villege)
として文明史的に将来のコミュニケーションのあり方を展望したように、近年ではラインゴール
ドが仮想共同体(virtual
community)としてインターネットにおけるコンピュ
ータを媒介にしたコミュニケーション(computer−mediated
communi
cation)に注目しているように、世界的規模での情報通信ネットワークが形成されること
によって、コミュニケーション主体が自由にメッセージ交換し、民主的で開かれた社会を実現し
ていくという理想ないし新たな可能性が語られている。もちろん、情報通信ネットワークの発展
とともに、地域コミュニケーションのあり方や対人関係に支えられたコミュニティのあり方も変
化すると考えられる。
3.3 コンピュータコミュニケーション
まったく新たな次元の『縁』が浮上する空間としてとらえたものは、コンピュータを媒介とし
たコミュニケーションシステムとの相互作用によって形成される電脳空間(cyberspac
e)である。この言葉が最初に現れたのは 1980 年代初頭であり、ウィリアム・ギブソンのSF小
説においてである。電脳空間の発想の基本は、コンピュータネットワークとインターフェース(接
続感覚)であるが、コンピュータを媒介としたコミュニケーションでは、人間と機械が一体とな
ったコミュニケーション空間の形成と関係づけられている。世界的規模で拡大している専用網の
インターネットは、その商用化によりあたかも公衆網の電話のように一般の個人も利用可能にな
ったグローバルなコンピュータネットワークである。マルチモードの情報に対応したインターネ
ットは、個人にメールを出したり、参加者と情報を交換したり、関心のあるニュースを読んだり、
自らが情報の提供・呼びかけをしたりと、従来のパソコン通信とほぼ近似のサービス・機能を有
している。だが、両者を比較すれば、少なくともシステム特性として、前者がコンピュータ単位
に情報処理が分散されたグローバルでオープンなネットワークであるのに対して、後者はホスト
コンピュータに情報処理が集中されたローカルでクローズなネットワークである。
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バーチャルコミュニティに関する考察
ラインゴールドは、「世界中の人々を結びつけ、公共的な討議に引き入れるためにコンピュー
タを媒介としたコミュニケーションの技術を利用する緩やかに相互に連結されたコンピュータネ
ットワーク」のことをバーチャルコミュニティ表現している。つまり、彼のいうバーチャルコミ
ュニティは電子空間のなかでのグローバルなコミュニケーションネットワークにほかならない。
さらに彼は、バーチャルコミュニティを「電脳空間のなかで人的関係の網の目を形成するために、
満足のいく人間的感情をもちつつ、十分に多くの人々が十分な時間をかけて公共的な討議を行う
場合に、バーチャルコミュニティから出現する社会的集合体」であると説明する。ここで電脳空
間とは「コンピュータを媒介にしたコミュニケーションの技術を利用する人々によって、言葉、
人間関係、データ、富、および権力が表明される概念的空間」を示す言葉であるから、それ自体
が一つのコミュニケーション空間として位置づけられる。また、そのバーチャルコミュニティの
説明のなかに「∼の場合に」とすでに一定の条件が付されているけれども、その条件を満たせば、
血縁・地縁や社縁などとは異なる、実体としては確認できない新たな社会関係がその空間に発生
していることになる。
現実の直接の人間同士のコミュニケーションと、仮想の間接のコンピュータを介したコミュニ
ケーションとの間の形容を対比的にとらえるならば、後者に実体としての社会的ネットワークの
形成機能を期待することは難しいかもしれない。しかし、コミュニケーションの主体の位置づけ
が変化すれば、すなわちその記号空間を固有で独自の世界として参加者に価値をもたせるとする
ならば、おそらくその空間は現実社会の事象に反響する。−さらには<現実>そのものが反転す
る。−、主体にとって仮想的ではあっても実質的な意見を担う社会的ネットワークとして成立し
ていく可能性を否定できないだろう。情報社会のなかでは、<実>と<虚>の相互転換と相互媒
介が行われているのである。
問題は、地域社会の場合と同様、電脳空間にコミュニティが形成されうるということを参加者
自身が意識できるかということだろう。<情縁>はなんら必然性をもたない<無縁>から生まれ
てくる関係であり、その集合体自体が曖昧な性格をもつものであるから、電脳空間が存在し、そ
こにコミュニティが形成されることをその参加者が自覚してはじめて、実際に存在するものとし
て受け入れられるのである。つまり、電脳空間であれ、地域社会であれ、参加者にコミュニティ
という共通の観念が抱かれなければ、そこに真の意味でのコミュニティは存在しないのである。
3.4 ネットが人々に与える影響
、
われわれは、社会の再活性化に遭遇している。その枠組みはボトムアップで再構築され、新た
なる民主的世界が実現できるようになってきているのである。以前はほとんど不可能か、もしく
は非常に手に入れにくかった社会的結びつきをネットワークを通じて手に入れることができる。
ネティズン(ネット上の住民)たちはとても遠くにいるネティズンと出会ったり、近くに住んで
いても、ネットの存在なくしては出会うこともなかったネティズンと出会っている。
人々の新しい結びつきからなる世界−プライベートな個人対個人、またパブリックな個人から
ネットにいる選択的な大衆との結びつき−が形成されている。
地球上に住む人々の多くが、まだ完全にコンピュータネットワークによってつながっているわ
けではない。ザ・ネット上すべての資源が誰にでも入手できるようになり、また誰もがコンピュ
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バーチャルコミュニティに関する考察
ータネットワークにアクセスできるようになるまでには、様々な確執が生じるだろう。われわれ
が社会的な存在であるということが意味することの究極のあり方を知ることになる。ネットは「正
確な情報の宝庫」であるといえる。しかし、情報を受ける側は情報の波から、正しい情報を選び
分ける能力を持つことが求められる。
ネティズンの世界は、25年以上前に、J・C・R・リックライダーによって予言された。リ
ックライダーは国防総省高等研究局(ARPA)の情報処理技術部(IPTO)で、インターギ
ャラクティック(銀河系)コンピュータネットワーク構想の指揮をとっていた。「コミュニケー
ション装置としてのコンピュータ」というロバート・テイラーと共に著した論文において「コン
ピュータが人間同士のコミュニケーションにおいてどのように役立つのか」を観察しいくつかの
原理を確立している。彼らは「コミュニケーションはクリエイティブな過程である」と明らかに
定義した。
つまり、コミュニケーションと(単なる)情報の送受信とは異なるものだとしている。二つの
テープレコーダーがお互いに情報を送受信したとしてもそれはコミュニケーションではない。彼
らは以下のように述べている。
「コミュニケーションをするものは、自分の送ったり、受け取ったりする情報と少なからず関
係している。いきいきした有益な情報に対する相互作用−書籍や図書館を使うように受動的でな
くコンピュータネットワークへの接続によって一方的に情報を受け取らず、現在進行している事
態に対してコンピュータネットワークとの相互作用によって何か意見を投げかけたりするように、
活動的な、参加者となること−をすべきである。われわれは、一方通行を超えたものを重視した
い。お互いに建設的であることは重要でお互いに補強するというコミュニケーション−『これま
でどちらか一方しか知らなかったことを、二人とも知るようになること』である。心と心が触れ
あうとき、新たな考え方が出現する。
リックライダーとテイラーはコンピュータが人間のコミュニケーションに役立つための四つの
原則を定義している。
1)コミュニケーションは相互作用性のある創造的な過程である。
2)「会話」を自由で容易なものにするためには、反応するまでの時間を短くする必要がある。
3)大きなネットワークは、小さい地域ネットワークから形成される。
4) コミュニティは好みや共通の関心から生まれる。
コンピュータ資源・人的資源のどちらとも共有するという彼らの考え方は現代のコンピュータ
ネットワークにもあてはまる。あらゆる人々が結びついたネットワークは素早くその目標を形成
したり、変更したり、その協調関係を解消したり、再構築したりする。こういったグループの変
遷の流動性はアイデアの創造を促進する。あるグループが形成され、ある考えについて論議した
り、注目したり、深く掘り下げたりする。またあるグループは新しい考えに基づいて再編成され
る。
非商用コンピュータネットワーク上に創造されたネットワーク上の空間には、だれもがアクセ
ス可能である。たとえば、コンピュータサーブやアメリカオンライン上の情報には特定のネット
ワークに加入するために料金を支払っている人しかアクセスできない。非商用ネットワーク上の
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バーチャルコミュニティに関する考察
スペースには、ネットワークに接続してさえいればアクセスすることができる。
「始めから知り合い同士でなくても、共通の関心があればコミュニケーションできるようにな
る」と、リックライダーは予測している。バーチャルコミュニティの素晴らしいところは、自分
の考えを広く提供することが可能になり、まったく知らない人とも交流できるようになるという
点である。人々が従来コミュニケーションしにくかった人々とでも、この情報ネットワークを通
じてコミュニケーションする光景をリックライダーは予想した。リックライダーは、ARPAN
ETが二つの大陸へ広がるのを目の当たりにした。この物理的な接続によって、世界規模の社会
的協調が形成されうるようになった。これが、世界の人々のコミュニケーションを促進するコン
ピュータ・データ・ネットワークの起源である。
3.5 言葉の壁を超えて
コミュニケーションの空間がグローバルになると、当然言葉の問題が出てくる。「すべての人
のために」を目指すならば、どんな言葉を話す人もコミュニケーションの対象であり、情報が共
有される環境が整っていなければならない。当初、インターネットが地球全体のコミュニケーシ
ョンとして使われる場合、みんなが英語でしゃべり始めるようになるのではないかと心配された。
中には、インターネットが発展するにつれ、英語ばかりがコミュニケーション言語として使われ
るようになり、次第にローカルな言語や文化が衰退していくのではないかという議論もあった。
しかし、インターネットが世界的に利用されるようになって、むしろ逆の現象が起こっている。
つまり、それぞれの国の言語についてコンピュータそのものが文字をデジタル化して表現する
ということを進めた結果、その文字セットのデータをもっていれば、その言葉のままでコミュニ
ケーションできるようになってきた。
この背景には、コンピュータの進歩がある。それは、ひとことで言えばコンピュータの性能が
向上してどんな文字でも点の集合としてコンピュータが表現できるということである。こうして、
インターネットの共通の空間では、はじめに心配されていたように文字の多様性が失われていく
のではなく、むしろ文字の多様性わ広げていくための技術が補われていくという方向に進んでい
る。このことによって、コンピュータ上での文字の表現の可能性は大きく広がっていった。
以前、コンピュータがネットワークでつながっていなかったときには、それぞれのコンピュー
タが文字の表現を用意して、共通のコードに合意し、それを処理する準備を送り手と受け手でお
こなってはじめて表現ができるという考えであった。そのために、文字コードの標準化が各国の
言語に対して行われた。日本語についても、JIS による標準化は、ひとつひとつ独立のコンピュ
ータ上で、共通に日本語を扱うためにつくられた取り決めである。それが、インターネットで常
時つながっているコンピュータ間の表現ならば、6000 字という取り決めに縛られなくてすむ。
ネットワークでつながるコンピュータ間で独自にコードと表現を考えてそれを共有しておけばい
いからである。
このように、デジタル・コミュニケーションによって推進された文字表現は、さらにインター
ネットで発展し、自由で制限のない表現がグローバルにできるようになる。こうなると、どうい
う言語をどういうふうに使うかということは制約なしに考えることができ、どの言語とどの文化
をどのように伝えるかという自由度が保証されるようになるといえる。
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バーチャルコミュニティに関する考察
つまり、コンピュータで世界中がつながっているということは、文字の表現の自由度に対する
期待を抱かされる。自由に、どんな国のどんな文字でも送り手の意志に合わせて表現するという
ことが、より柔軟にできる可能性が出てきている。
インターネットが提供する環境は、デジタル情報を交換したり共有するための空間である。そ
こで、提供するコミュニケーションの仕組みはインターネット電話や電子メールのように人と人
の対話を提供するサービスであったり、WWW のように文字や映像と人を結びつけるサービス
であったりする。しかし、この文字や映像も誰かが人に何かを伝えようとした表現であるから、
結局私たちがインターネットで手に入れたものは、人類が、地球全体の広さできわめて自由に行
う、人間同士のコミュニケーション環境である。この環境はすべての人のため公平に、自由に提
供されなければならない。
3.6 広がる世界観
パソコン通信は、公共的な取り組みから離れて、本質的に草の根的な地域情報ネットワークと
して成立している。今日では大規模な商用ネットが拡大しており、そのネットワークを通じて個
人や地域、集団の情報交流も可能になっている。また草の根BBSとよばれる個人が中心となっ
て運営する小規模ネットも全国各地に数多く存在している。そうしたネットワーク空間において、
その参加者の間で多様かつ重層的にコミュニケーションが展開され、そこに緩やかなパーソナル
ネットワークが形成されていくなかで共通の関心をもつメンバーを中心に構成される機能的コミ
ュニティや、各地の特色を活かした地域的コミュニティが、直にふれあう実在のコミュニティと
は別なところで成立している。
パソコン通信は多様な機能をもつメディアである。たとえば、①新聞記事、企業情報、イベン
ト情報など、利用者が欲しいと思う情報を入手できる<データベース>機能、②一定のメンバー
によって一つのネットワークを構成する<フォーラム>機能、③電子メール、掲示板など利用者
全員が参加可能な<コミュニケーション>機能、④オンラインショッピングやチケット申し込み
など利用者の生活行動を支援する<トランザクション>機能、⑤ネットワーク上でゲームや通信
教育などを実行する<コンピューティング>機能など、である。したがって、利用者個人がパソ
コン通信のどの機能をどのように活用するのかによって、つまりその時々の利用目的の応じてそ
のメディアの位置づけが異なるといえる。しかし、コンピュータを媒介としたコミュニケーショ
ンシステムの<会話>の次元を活かした、フォーラム機能やコミュニケーション機能の利用に着
目すれば、パソコン通信はその出発点においてパーソナルコミュニティの形成手段の一つとして
有効なメディアである。しかも現在、世界的な規模で広がるインターネットとの接続・利用が一
般的に拡大しつつあり、個人・地域から出発したパソコン通信も、地域や国家の枠を超えて、グ
ローバルなパーソナルコミュニティの形成へ向かう可能性を示している。つまり、地域を前提と
しない、地域に拘束されない新たな位相をもつコミュニティのあり方が、電子コミュニティの出
現によって問われることになった。
世界中の人々と容易に出会い、考えをやりとりできるということは、大きな影響力がある。自
分が人間という種の一員であるよいう認識が地球規模で広がっている。この認識は人々の思考方
法を変えている。より広いものの見方にするということである。インターネット上では孤独な個
11
バーチャルコミュニティに関する考察
人でも、他の人々や、さまざまな経験や、他の世界におけるものの見方に触れることができる。
ある意見を述べる前にたくさんの人々の意見を聞き、いろいろな考えについてよく考える機会が
提供される。意見の市場にアクセスすることにより、人々はより理にかなった判断ができるよう
になる。
からだにハンディキャップを負った人がパソコン通信でコミュニケーションを取り戻した例が
ある。また、自閉症で他人とスムーズにコミュニケーションできなかった人が、パソコン通信で
生き生きと交流することを覚えた例がある。パソコン通信は逃避的なイメージ受けとられやすい。
しかしハンディのフォーラム参加者についていれば、コミュニケーションを交わすことが、行動
の幅を広げることにつながっている。パソコン通信はさまざまな意味で、障害者の飛躍のきっか
けとなりうる。また、高齢者もハンディを持つ存在であり、その置かれた状況は変わらない。わ
れわれ自身、高齢となったとき社会から排除・隔離されないためにはどうすればよいか考えなけ
ればならない。
パソコン通信がなくても、日常のコミュニケーションに不自由しない人はいくらでもいるだろ
う。彼らからみれば、パソコン通信は面倒な手続きや操作の必要なわずらわしいコミュニケーシ
ョン手段かもしれない。しかし、日常のコミュニケーションからなんらかの理由で疎外されてい
る立場の人は現代社会では案外と多いかもしれない。今現在、疎外されていない人であってもい
つそのような状況に置かれるかはわからない。
電子化された文字と、通信手段の組み合わせによるコミュニケーション−これは最近になって
はじめて実現したコミュニケーション手段である。これまでの対人コミュニケーション・メディ
アは、文字そのものがこれほどまで大量かつひんぱんにやりとりされることがなかった。電子化
による応用範囲の拡大をこれらの例は示している。
3.7 地図のないコミュニティ
社会とは地縁・血縁あるいは結社縁による人間関係がささえるものである。つまり、お互いが
顔を合わせることを前提にして、社会は形成されてきた。ところが、メディア空間できずかれる
社会は、電気通信という記号の媒体を基本にしている。たしかにパソコン通信がきずく社会でも
人どうしのナマの交流が重視されている。パソコン通信の利点として、人と直接出会うきっかけ
になったことを評価する人が多い。その意味でこの新しい社会は実社会をメディアという手段に
よって、仮想的に拡張させたものであると考えられる。
メディアの発達は、これまでにも生活の変化をもたらしてきた。とくに消費生活ではその影響
が顕著である。流通・サービス業界の情報システムが発達し、宅配便のような流通サービスが登
場した。その結果、さまざまなメディアを利用して実際にモノを見ないで購入することが簡単に
なった。
買い物に費やす時間は貴重である。その貴重な時間を使って買い物に行くのに、銀行でお金を
おろし、店まで出かけ、さらに駐車場に入るのにも待たされる。時間も使うし、体力も使う。女
性の社会進出も進み買い物に時間をかけることができなくなっている。テレビショッピングも増
えて、ディノスやセシールといった通販で買い物をするのが日常の光景となっている。
パソコン通信は通信販売に向いた特性をもっていて、商用パソコンの黎明期から、いち早く取
12
バーチャルコミュニティに関する考察
り入れられてきた。パソコン通信の決済は一般にクレジットカードで行われるため、簡単な手続
きでオンラインショッピングが楽しめる。パソコン通信の場合、本人であることはログインした
という事実で確認され、品物の送付先も加入時の住所が使える。また、オンラインショッピング
業者はパソコン通信会社の審査を受ける必要があり、信頼がおけるという有利さもある。
しかし、インターネットのメリットとして一番注目されたのも、同じくオンラインショッピン
グである。ホームページは、誰でも簡単に開くことができ、なおかつ商品写真が簡単に呈示でき
るため、あっというまに無数のオンラインショッピングのホームページが開設された。もっとも、
採算ベースに乗っているオンラインショッピングとなるとごく一部に限られるようだ。
では、インターネットのオンラインショッピングには問題がないのだろうか。現在インターネ
ットでのオンラインショッピングがパソコン通信と比べて、不利な点が 3 つある。それは、クレ
ジットカード番号をはじめ、住所や氏名、連絡先等のかなりの文字をいちいち入力しなければな
らない。(2 度目以降の買い物では、入力を省略できる場合もある。
)大事なクレジットカード番
号を教えるのに、信頼の置ける業者かわからない。クレジットカードの手数料が高く、少額の決
済に向かない、の 3 点である。
確かに画像をすぐ見ることができてマウス操作で簡単にショッピングができるのだが、現状で
は不利な点があるといえる。そのため、ニフティサーブではホームページと連動させ、カタログ
はこちらで、決済はパソコン通信でという併用サービスを始めた。
では、オンラインショッピングはパソコン通信が有利といえるのか。現在はパソコン通信に軍
配が上がるが、将来的にはインターネットの方に利があると考える。これはエレクトリックコマ
ース(電子商取引)のシステムが実用化されつつあり、簡単かつ安全な決済方法が目の前まで来
ているからである。また、エレクトリックコマースではクレジットカードでは扱いきれなかった
少額の決済も可能など、インターネットのオンラインショッピングで扱える商品の幅も広がりそ
うに感じる。エレクトリックコマースについては、クレジット会社や銀行を中心に実用実験が進
められている。
つまり、パソコン通信でのオンラインショッピングは、WWW によるオンラインショッピン
グにとって代わられると考えている。店の信用についても必要であれば、大手通販業者・小売店
を利用するなり、信用のおける企業が開く複数のオンラインショッピングの店をひとつにまとめ
た WWW を利用すれば、大きな障害にはならない。
テレビや新聞、雑誌などの広告や記事などでモノの内容を知り、電話やファクシミリなどを使
って注文をする。注文したモノは宅配便で配送され、料金は受取人払いかクレジットカードで決
済する。すべてが記号のやりとりだけでおこなわれる。メール・オーダーの発達したアメリカで
は、東海岸の住民が西海岸の安売り店からモノを買うといったことが、ごく日常的におこなわれ
ているそうだ。こうなると、地図上の立地の重要性が、相対的に低くなったとさえいえる。日本
でも全国からの注文をさばき、店舗にはまったく商品を置かない小売店がある。メディアの発達
は、物理的な距離の意味を希薄にしている。
バーチャルコミュニティでみられる現象は、生活の機能面よりもむしろ、個人の社会的な活動
にかかわっている点が注目される。社会的な活動−広い意味でのひとづきあいで交わされるコミ
ュニケーションは、つまるところ、人どうしが会うことを基本にしてきた。多くの研究者が指摘
13
バーチャルコミュニティに関する考察
する通り、最も緊密な情報交換は人対人の対面で実現される。通信メディアはあくまでそれを補
完する役目−会うための連絡、会った後の確認、会えないときの代替手段などにすぎない。メデ
ィアを利用する場合であっても、面識のある者どうしのほうがコミュニケーションはより緊密で
ある。
ところで、人と会うためには、案外と多くの手続きをふまなければならない。まず、会うべき
相手を求める。しかるべき相手が見つかれば、その人と連絡を取り、会う約束をする。約束の日
がきたら、会うべき場所に移動し、その人をさがす。会ってからのち、お礼の連絡をとる。この
煩雑さが、活動の範囲や量を物理的に制約してきた。バーチャルコミュニティでは、この制約が
多くの点でとりはらわれている。インターネットで研究者が称賛した電子メールは、たしかに最
初は電話や手紙の代替機能をはたしただけかもしれない。しかし、それから発達したニュースサ
ービスや、あるいはパソコン通信の電子会議室の現象をみると、単なる連絡手段にとどまってい
ない。このバーチャルコミュニティで共同研究をすすめる研究者もいれば、共同出版をすすめる
作家や編集者もいる。これらの活動は、通信メディアという前提があってはじめて成立するもの
である。彼らの連絡先はID番号だけである。地球上のどこにいようとも、通信の端末から回線
をつなぎ、ID番号をさがすだけで交流ができる。そしてこのバーチャルコミュニティでは、日
常社会となんらかわりのない創作活動までおこなうことができる。
第 4 章 仮想空間が生み出すもの
4.1 意識の活動を変える技術
かつて経済学者で産業史家のベン・セリグマンは時計、蒸気機関などを戦略的発明と呼んだ。
セリングマンによれば技術史家は生産面ばかりでなく、社会的にも大きな影響をもたらす技術革
新を戦略的技術として性格づけた上で特別な関心をそそぎ込むと言う。
とすれば、今日セリングマンの言う戦略性の富んだ技術とはコンピュータをおいて他はないだ
ろう。コンピュータはすでに生産や経済面で大きな影響をもたらした。そして、その影響は社会
的な場面にもおよぼそうとしている。これまでの産業活動を変革してきたコンピュータをビジネ
ス・コンピュータ技術とするならば、今後はあらゆるメディアをシュミレートしたコンピュータ
が人間の意識に大きな影響をもたらし、生活や社会的行動様式をかえていくだろう。
過去百年にわたって、蒸気機関車や自動車、航空機のような戦略的技術が人類の空間や時間の
意識を変えたように、二十一世紀にはメディアとしてのコンピュータがわれわれの時空間感覚を
も変えていくことが予想される。コンピュータは今後われわれに「異空間を意識させる装置」と発
展していくにちがいない。
コンピュータによる電子ネットワークの発達は、非地理的な地図にはない、もうひとつの意識
社会を形成することになるだろう。その仮想の社会の形成により二十一世紀のライフスタイルが
作られ産業活動が新たな様相をみせるようになる。
14
バーチャルコミュニティに関する考察
4.2 融合メディアがつくる場のメタファ
新しい通信サービスであるが電話やFAXなど文字系通信の新種とみられていたパソコン通信
はマルチメディアの技術を取り込み、自己変身しつつ発展していく。つまり、各種のメディア網
に変身していくことになるだろう。注目すべきは、この融合メディアが単に従来のマスメディア
などの情報媒体を模倣しただけのものではなく、それ以上の力をもつ媒体となるといえる。この
メディアの融合体は、人間の意識活動に大きな影響を与える新しい知の場を形成するとともに、
経済の新しい活動空間を切り開くものになる。
このことを述べるにあたりまず融合メディア網の誕生プロセスをなぞってみることにする。パ
ソコン通信は周知のように、まず郵便のメタファとしての電子メールサービスからデビューした。
パソコン通信サービスという事業は 1985 年のいわゆる通信事業の自由化以来、比較的簡単に
行うことができる。草の根ネットと呼ばれるグループ活動もパソコン通信のひとつであり、この
種の小さなネットワークは、1980 年代なかばごろから急増した。さらに電子新聞、電子図書館(記
事情報、データベースなど)から電子カタログ、電子レジャー情報などデータバンク・サービス
へとメニューが増大するとともに、それまで文字しか表示しなかったディスプレイ上に動画を取
り込むようになったことから、ビデオ作品サービスやアニメ、ゲームソフトなど娯楽情報のオン
ラインサービスも可能になってきた。さらに動画転送は、コンピュータディスプレイ上にテレビ
のニュース表示をも可能にすることから、電子新聞とテレビニュースの融合化の試みもはじまっ
た。このようなサービスの複合化は、従来までの単一のマスメディアではできなかった表現力を
実現した。たとえば、新聞でもありテレビでもあるところの新しい表現力をもつニュース媒体の
最も大きな機能的特徴は双方向性であろう。
インタラクティブな融合メディアは、情報の消費者の直接的反応(クイックレスポンス)およ
び媒体発信を可能にする。とくにクイックレスポンスは、情報の受け手のメディア側への要求、
需要でもありそのニーズの反応によって融合メディアとなったパソコン通信網のディスプレイは、
電子新聞や電子図書館、電子カタログなどさまざまな媒体にかたちを変えていく。
融合メディアのクイックレスポンスおよび双方向性は、これまでの通信サービス網にはなかっ
た「場のメタファ」のサービスを新たに作り出すことになる。
たとえば、通信販売カタログのメタファとしての電子カタログサービスは、消費者が文字や画
像でディスプレイ上に商品を確認できるだけばかりでなく、すぐに購買行動を起こすこともでき
る。消費者はディスプレイ上で求めている商品を探し出し、その商品について詳しい追加情報を
入手し、売買契約を結んで代金を電子マネーで支払うなど一連の取引活動をコンピュータディス
プレイ上で行うことができる。
つまりは、クイックレスポンスの双方向機能がコンピュータネットワーク上でいつでもどこか
らでも、個別取引を可能にする場をつくる。リアリティの高い動画や静止画などの画像情報や文
字、および音声情報を距離に関係なく双方向でやりとりができるコンピュータネットワークは仮
想の市場空間ばかりか、仮想の会議室や談話室、作業室など意識交流の空間サービスを作り出そ
うとしている。それは「場のメタファ」をつくる力である。
これからの企業は、このような仮想空間を使って距離の制約を克服し、時間を短縮するなどし
て活動を効率化していくことが考えられる。電子会議室を使えば営業マンは移動中にも会議に参
15
バーチャルコミュニティに関する考察
加できるし、研究者や技術者は世界中の仲間と討論したり実験するなど、プロジェクトごとに知
の創造空間を共有することができる。メタファとしてのその場のほうが時間、空間の制約を超え
た知の共有化を設定しやすい。
第 5 章 ネットワークの問題
5.1 ネットワーク事業者の淘汰
これまで黒字経営をずっと維持し、成長をつづけていた米国第2位のパソコン通信サービスの
コンピュサーブが 1996 年 4 月∼6 月の四半世紀の決済で赤字になったというニュースがある。
四半世紀で 90 万人の新規加入者があったものの、それ以上に退会者の方が多かったからである。
その後、1997 年 9 月にはコンピュサーブの株式が売却され、通信ネットワーク部分はワールド
コム社、個人向けのコンテンツサービス部分は世界最大の AOL(アメリカオンライン)に吸収
されることになった。コンピューサーブは従来のサービスを続けているが、いずれは AOL に統
合されると考えられる。
また、米国最大のパソコン通信サービスである AOL が鳴り物入りでヨーロッパに進出しよう
としたヨーロッパオンライン(EOL)が、顧客の獲得に失敗し、倒産したというニュースもあっ
た。この他にも、米国ではアップル社が始めた画像通信の充実した eWorld が廃止となり、マイ
クロソフト社が始めたパソコン通信サービス MSN(マイクロソフトネットワーク)も、インタ
ーネットサービスに方向を転換している。
国内でも、国内第 2 位の商用パソコン通信サービスのビッググローブ(旧 PC-BAN)が、そ
れまでのパソコン通信中心サービスから、インターネットサービスの比重を大きくしている。ア
スキーネットや日経 MIX は閉鎖を余儀なくされた。
それまで、順調に顧客を獲得し急成長を続けてきたパソコン通信サービスが、インターネット
プロバイダの追撃にあい、岐路にたたされている。
2,3 年前まではインターネットは、一部の大学、一部の企業にいる者のみが使えるメディア
にとどまっていた。そのため、一般の人が簡単に使えるネットワークコミュニケーションの手段
はパソコン通信に限られていた。ところが、今やパソコン通信と同じぐらいの簡単さでインター
ネットが利用できる。パソコン通信で提供されていたさまざまなサービスも、インターネットで
利用できるようになってきた。今後はパソコン通信とインターネット、それぞれの特性を生かし
たサービスの分化が進むものと考えられる。
5.2 ネットワークコミュニティの脆弱性
電子会議は、さまざまな人々が集まって会話を交わすことで成立している。会話を交わすこと
で参加者同士に一体感が生まれ、そこにコミュニティが生まれる。人は、このコミュニティに加
わり、その場を共有するために、ネットワークに参加する。では、コミュニティを形成する場と
して、どのようなネットワークサービスが求められるのか。ネットワークでは、楽しいコミュニ
ケーションもあれば、一般社会と同様にけんかや犯罪もある。しかし、そうはいっても現在のネ
ットワーク社会は一般社会ほどしっかりしたものではなく、かなり脆弱な社会といえる。一般社
16
バーチャルコミュニティに関する考察
会では、その社会の規範から外れた人、たとえば大声であたりかまわず罵倒する人がいたとして
も、迷惑をこうむるのはその声が通る狭い範囲にとどまる。また、周囲の反応も、少し離れて知
らない顔をするのが一般的といえる。そして、どうしようもない場合になって 110 番で通報する
ことになる。これが、ネットワーク社会では違ってくる。
発言内容は記録され、ずっとその場に残り、大勢の人の目にふれることとなる。その場を共有
する人の数も一般社会よりずっと多く、それに対して反論する人も現われ、周囲を巻き込んだ大
論争になりがちである。また、その論争を抑える警察のような役割も存在しない。とりわけネッ
トワーク社会に参加する人はお互いがフラットな社会を求めている場合が多いので、ネットワー
クの運営者やネットワーク外の社会権力(警察など)による介入をいやがり、ネットワーク内で
解決しようとする。しかし、それは対話という形は取ろうとしているものの、往々にして自分の
考えを相手に押しつけ合う結果になりがちである。一般社会では大勢の人が同じ空間で暮らして
いるようにみえるが、実際にコミュニケーションする相手は限られていて、自分の考えを共有で
きる狭い範囲での交流になる。ところがネットワーク社会では、誰もが自由に参加できる、つま
りさまざまな考えの持ち主が同じ場に参加している。そのため意見の衝突も起きやすくなりがち
である。一般社会ではそのような場合、どちらか一方が行動パターンを変えればすむのだが、ネ
ットワークでは同じ場にいるのでそうもいかない。結局、周囲を巻き込んでの大論争になってし
まう。このような事態になると、その場は論争で埋め尽くされ、本来の電子会議室としての機能
は停止してしまう。さらに論争が長引くと、当事者以外のメンバーが嫌気をさして離れてしまう
ことにもなりかねない。実際、トラブルメーカーが 1 人入っただけで、SIG が潰れてしまった事
例もある。
つまり、電子コミュニティを形成する場としては脆弱であり、この脆弱な部分をいかにしてカ
バーできるかが、今後より多くの人が参加できるかどうかを占ううえで重要だといえる。この点
で話題の流れを調整できないネットニュースは、モデレーターが話題の流れをコントロールでき
るパソコン通信と比べて向いていないといえる。
5.3 電子会議システムのゆくえ
1 つの電子会議室あるいはフォーラムには参加者の適正規模がある。人数があまりに増えすぎ
た場合、同じテーマの電子会議室を増やすのが最も簡単な解決方法といえる。しかし、半面、情
報が拡散することにもなり、これまで歓迎されない方法であった。また、古くからのメンバーに
とっては、これまでのコミュニティとっては、これまでのコミュニティが解散するような感じを
覚えることもあったであろう。しかし、ネットワークの規模が大きくなりすぎると、そんなこと
も言っていられない。たとえばニフティサーブでは 1996 年春、それまで同一のテーマのフォー
ラムは複数設置しない方針だったのを 180 度転換し、テーマの競合するフォーラムを設置するよ
うになった。また、これまで似通ったカテゴリのニュースグループを認めない人が多く、実質的
に競合するニュースグループを作れて、インターネットでも比較的自由にニュースグループを作
れる japan.で始まるニュースグループ群が新設された。その結果、これまで同一カテゴリである
として認められなかったニュースグループがたくさん誕生している。
また、これまでは同一カテゴリのテーマに対し、作成できるフォーラムやニュースグループに
17
バーチャルコミュニティに関する考察
制限があり、ネットワークの総人口も少なかったために、フォーラムやネットニュースは、取り
扱うテーマを広く取り、そのテーマに対するさまざまなスタンスの人が共存できることを優先し
て運営されてきた。しかし、ネットワークの利用者が増えてくると、あれこれ領域を広げること
は、多彩な話題を錯綜させるばかりでじっくりとコミュニケーションできないという問題を生み
出した。ネットワークには、ネットワーク外の世界と同様にさまざまな人が集まる。当然、個々
の人々の考えも志向も千差万別である。たしかに、みんなで共有できる場があるといいだろうが、
すべてがそうである必要はないと考える。一般の社会生活同様に普段は気のあう仲間と気軽で親
密なコミュニケーションをし、時々、いろんな人がいる場に顔を出す。こんなコミュニケーショ
ンをネットワーク参加者の多くは望んでいると考えられる。
だとすれば、これまでのようにテーマを広く浅くとり、誰もが参加できるけれども、範囲を絞
った深い議論がしづらいフォーラムや電子会議室だけでなく、それ以上にある程度参加者を絞り
込んでもより深くテーマを掘り下げたフォーラムや、ある程度固定化されたメンバーによる親密
な場が求められる。今後は、テーマは同じでも参加者やシスオペの個性が強くでているフォーラ
ムや電子会議室から、自分にあったコミュニティを見つけて、そこに参加するようになると考え
られる。
5.4 インターネットの重要性
インターネットの急速な発展にともなって、インターネットを利用できる人と利用できない
人との間に情報の格差が出てくることが考えられる。つまり、インターネットが利用できないと
さまざまな社会活動行うにあたって不利がともなってくるということである。たとえば、就職活
動を行うにあたっても今やほとんどの企業がインターネットのアドレスを公開している。そして、
その企業の情報、就職選考会に参加するかしないかの回答など、E−mail でしか受け付けない企
業も最近見られるようになってきた。
また、政府が何かを国民に伝えようとする場面で、インターネットに出していないのに国民に
伝えたとはいえないという考え方がだんだんあたりまえのように考えられてきている。さすがに、
インターネットだけでいいのだというところまでは至っていないが、政府が設置したある委員会
の委員長が、新聞記者から「そんな事は知らなかった」と詰め寄られたときに、「何を言ってい
るのだ。インターネットに出してある」と言い返されたということが、実際にあったようだ。イ
ンターネットでの情報伝達が標準的な伝達方法だと考えられてきている一例だといえる。さらに
は、言論の戦いが新聞・雑誌ではなくインターネットで展開されるということも起こってきた。
週刊誌の記事に対する反論を早稲田大学が自分のホームページで表現した。それから、広告にお
いてはインターネットが非常に大きな役割を果たすようになってきている。新聞・雑誌やテレビ
コマーシャルで、URL を表示する企業が非常に多くなってきた。限られた紙面や時間では伝え
られない詳しい商品情報をインターネットで提供するということから始まって、今ではインター
ネットで流すことで十分である、あるいはインターネットのほうが効果的である、という段階に
入りつつある。また、ショッピングがかなりできるようになっているし、飛行機や劇場のチケッ
トの予約ができるようになっている。これらは電話でも可能であるが、インターネットのほうが
便利である。
18
バーチャルコミュニティに関する考察
このようにインターネットの役割が増えるにつれて、インタ−ネットができないと社会の情報
の流通からはずれてしまうということが、起こりつつある。いいところが進むのはいいけれども、
それと同時に、誰でも必ずアクセスできるようにしておくことが重要である。そして、そのよう
にする責任が社会の仕組みとして求められている。
コンピュータによるネットワークは、相手の数や距離を限定しない。また、性別・年齢・国籍・
身分・体力・信条などの資格においていっさいの差別がもうけられない。これは、非常に大切な
ことである。現実には男と女、お金持ちと貧乏人、青年とお年寄り、保守と革新の差異があるに
違いないが、ネットワーク上ではこの違いは関係にされない。いずれ、テレビ画像通信が実現し
て、相手の室内や姿、格好がとりざたされるかもしれないが、それとて、希望に応じて隠すこと
は可能である。もちろん、メッセージの発し方に巧拙があるだろう。つたない通信は相手によっ
て無視もされうる。ただし、整った論理展開とか美しい表現とか、圧倒する迫力とかいった技術
でなく、コンピュータ上での個人的心情の吐露が相手によって評価されたり、嫌悪されたりする
だろう。インターネットはいわば広場であり、顔と身振り、手振りとが生身で接触し、フェイス
トゥフェイスでコミュニケーションをする現実とは同じようにならないのである。
しかし、バーチャルコミュニティに集まる人は同じ関心事、興味を持つ人々である。そこには、
コミュニケーションを交わすうえでのルールが暗黙の了解で存在する。パソコンで通信している
以上思いもよらぬ発言で相手に不快感を与えるかもしれない。その事に十分な注意が必要であり
この注意がコミュニティを形成していくことになる。そこに、社会活動に関する共通の理解とコ
ミュニティ意識が生まれる。そこには、距離の制約がともなわない。いままでは巡り合うことの
なかったであろう人と、共通の関心事で今まで以上にコミュニティへの所属意識が強まるのであ
る。
しかしながら、ほんとうにバーチャルコミュニティは人々に認知されてくるのか。技術の発展
への過度の評価から、評価をあやまり間違った未来像を描きがちであるかもしれない。また、過
去の束縛を考えてすぎるあまり、開放を期待しすぎているとも限らない。予想される明るい可能
性と、あやうい危険の双方について、検討を重ねていかなければならない。コンピュータネット
ワークへの接続が容易になって、人間のコミュニケーション志向は全開される。さまざまな障害・
障壁によってはばまれてきた欲求は、十分解放される。
ネットワークはいまや地球全体をおおうにいたり、地球上のあらゆる局部は相互に結合された。
けれども、この結合は個別の多様な価値や伝統の消滅を意味はしていない。各個人のその固有性
をさらに進展させることこそ、ネットワーク社会の最大のメリットであって、いたずらに均一の
メッセージを要求することではない。いわゆる、経済発展途上国にあって、昨今におけるコンピ
ュータ化の速度がきわだっている。それは先進産業社会に優るともいわれている。このことは、
先進国にとって脅威であろうが、相互交流の機会を増大するものであり歓迎できる。しかし、急
速なコンピュータ化は、それらの国において、地域や階層などにおける価値観を壊しかねない。
先進社会にくらべて、途上国はこうした外力に対して無防備になりがちである。また、情報弱者
に対してネットワーク参加の機会の確保と改善が必要である。さもなければ、まさしく過酷な情
報社会における弱肉強食の世界が広がってくる。すべての変化・改革がそうであるように、可能
性には危険がともなう。そのいずれかを過度に強調しすぎることは無意味である。成立しつつあ
19
バーチャルコミュニティに関する考察
るバーチャルコミュニティの住人たちは、その可能性の開発に邁進するとともに、目の前に迫り
つつある危険な課題に対して、感性と知性をもって回避と解決のための方法を発見するべく務め
なければならない。バーチャルコミュニティは、光ファイバーが全世界の全家庭にはりめぐらさ
れるときに完成するのではない。こうした可能性と危険性について努力する方向が共有されて真
のバーチャルコミュニティが成立する。さらにそのように形成された考え、行動様式を身につけ
た人々が、自分の所属する組織や居住する地域の具体的な問題に取り組んでいくと、そうした行
動は、組織や地域、さらに社会全体を変えうる力を持つようになっていくだろう。
第6章
おわりに
6.1 今後の考察
パソコンがあればコンピュータネットワークに接続すれば、その場にいながらにして自由に
コミュニケーションできることは、人と人とのふれあいが希薄となっている現代において魅力的
なものに映る。しかも自分と共通の関心事を持っている人とコミュニケーションできるのならば
喜ばしいことだ。しかし、相手に自分が知られないからといって乱暴なコミュニケーションをす
ることのないように注意を払わなければならない。また、相手が見えないがためにコミュニケー
ションがなおざりになりがちにもなる。対人であればその人の表情やしぐさからどのような気持
ちや考えを持っているのか安易に察しがつくが、コンピュータ相手のコミュニケーションではそ
うはいかない。ディスプレイ上の文字でしか情報がない。つまり誤解が生まれやすい環境なので
慎重にならなければならない。こうして見てみるとコミュニケーションは思っているほど簡単な
ものでもないようだ。
また、インターネットでは、あらゆる情報を手に入れることが可能である。そのなかには爆
弾や劇薬の作り方や手に入れる方法など常識では考えられない情報も含まれている。偶然なこと
にこの論文を作成中にインターネットを通じて、自殺希望者に毒薬を送るという事件が起こった。
そしてその毒薬で自ら命絶った人もいた。さらにその毒薬を送った本人も死亡していた。この事
件を見てみると、ホームページの無秩序が指摘できるが、このようなことを未然に防ぐ手だては
匿名性が強く、今のところないといえる。各個人のモラルに頼るしかない。そのためにインター
ネットではすべてを検閲することがなかなか困難であるために非合法がまかり通っているしまっ
ている現実を見て取れる。普段日常では非合法な情報の入手ややりとりなど簡単にできるもので
はない。しかしインターネットを通じれば世界は広いというか同じ目的を持っている人がたいて
いは存在する。そこでは自分の望んだあるいは望んでいるものに近い情報を知ることが可能であ
る。情報の提供は各個人のモラルにまかされている。取り締まるにしてもどこまでできるのか、
どこまでなら許されるのか非常に微妙である。しかしこのままでよいのかというとそうとは言え
ない状況になってきている。今はまず環境が整備されないといけない。
インターネットは非常に便利な空間だが、その影響力、破壊力は予想を超えるものがある。
ネットワークが作り出す空間はもはや通信のみには限らず、重要な経済活動の場になりつつある。
表現や通信の自由だけを唱える状況ない。これからはネットワークを利用する上での情報化社会
を支える制度の安全性と信頼性を求めなければならない。
20
バーチャルコミュニティに関する考察
このためには行政の支援が望まれるのだが現在の財政難ではなかなか十分な対応は難しいと
考えられる。そこでまず、プロバイダー間で相互に検査が可能な自主規制団体を設立することが
1 つの手段であると考える。この団体を政府が支援を行い活動をサポートするような環境を作る
べきである。規制緩和が叫ばれる昨今に逆らうようだが、効率のある活動を行うにはある程度の
ルールは必要である。そして、害を与える者を排除しなければならない。
今後、サイバースペースが安全で信頼性を確保するためにも、問題なものを予測して、予防
する制度が不可欠である。ただ、これを規制緩和の流れに反するなどと混同することのないよう
にしなければならない。
6.2
今後の課題
この論文を作成するにあたって、多くの文献やインターネットの情報や新聞を参考にしてき
たが、そこからの引用が多すぎた。もうすこし自分なりに考察や結果を考えて作成しなければな
らなかった。インターネットに関する記事はところかまわず頻繁に目にすることができ、その情
報の数は膨大なものである。その中から文献を引用および参考にし、文章を構成することはとて
も困難であった。多くの情報の中から自分が必要とするものを取捨選択する能力がこれから必要
とされるだろう。多くの人がインターネットについて考察しているが、これを見ているとまだま
だ課題が多く、これから議論されなければならないものである。私自身の考察を6.1で述べた
がまだまだ述べ足りない部分もあるかと思う。今後、ますます市民の身近なものになってくるで
あろうこれからのインターネットに関してもっと注目していかなければならない。
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バーチャルコミュニティに関する考察
引用文献
第2章 村井 純
『インターネット』 1995 岩波新書
第3章 大石 裕 永井 良和
『情報化と地域社会』 1996 福村出版
吉岡 至 柳澤 信司
マイケル・ハウベン 『ネティズン』 1997 中央公論社
ロンダ・ハウベン
江下 雅之
『ネットワーク社会』 1994 丸善ライブラリー
第4章 下田 博次
『超メディアと時空革命』 1994 第三文明社
第 5 章 村井 純
『インターネットⅡ』 1998 岩波新書
参考文献
村井 純
『インターネット』
村井 純
『インターネットⅡ』
公文 俊平
『ネティズンの時代』
1995
岩波新書
1998
1996
大石 裕 永井 良和 『情報化と地域社会』
岩波新書
NTT出版
1996
福村出版
吉岡 至 柳澤 伸司
江下 雅之
『ネットワーク社会』
1994
マイケル・ハウベン 『ネティズン』
1997
丸善ライブラリー
中央公論社
ロンダ・ハウベン
公文 俊平
『ネットワーク社会』
1988 中央公論社
下田 博次
『超メディアと時空革命』
古瀬 幸弘
『インターネットが変える世界』
1994 第三文明社
1996 岩波新書
広瀬 克哉
ハワード・ラインゴールド
『バーチャルコミュニティ』 1995 三田出版会
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