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カテゴリー特異性障害を説明するためのデータ表現とアトラク ターネット

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カテゴリー特異性障害を説明するためのデータ表現とアトラク ターネット
カテゴリー特異性障害を説明するためのデータ表現とアトラク
ターネットによるそのシミュレーション
A Representation of Semantic Memory in Order to Account
for Category Specific Deficits And Its Simulation by
Attractor Neural Network
浅川伸一
Shin-ichi Asakawa
東京女子大学現代教養学部
Tokyo Woman’s Christian University, School of Arts and Sciences
[email protected]
Abstract
The author implemented the attractor neural network, which was originally developed by Hinton
& Shalice(1991), and applied to the date of Tyler
et.al.(2000). There are 3 conditions (category, homogeneous, and identity conditions) to simulate the
human brain damage patients. The category condition could be the candidate to mimic the human data.
Keywords — Neural networks, Attractor network, Neuropsychology, Rehabilitation
1.
はじめに
意味 記 憶 に 障害を呈する患者のデータを 用い た
神 経 心 理 学 的 研 究 は ,意 味 記 憶 の 構 造 と 内 容 に 関
し て 重 要 な デ ー タ を 提 供 し て い る 。脳 損 傷 患 者 の
示 す 障 害 と ,そ の 障 害 が あって も ,な お 保 た れ て
いる意味記憶の知識のパターンを詳細に調べるこ
と で ,意 味 記 憶 の 構 造 ,情 報 ,格 納 方 法 ,ア ク セ
ス 方 法 な ど に 関 す る 興 味 深 い 洞 察 が 得 ら れ る 。と
り わ け,患 者 の 示 す カ テ ゴ リ ー 特 異 的 な 障 害 ,す
な わ ち ,意 味 記 憶 内 の 特 定 の カ テ ゴ リ ー に 選 択 的
な 障 害 に 関 す る デ ー タ が 示 唆 に 富 む 。最 も よ く 観
察 さ れ る 障 害 の パ タ ー ン は ,生 物 に つ い て の 知 識
が 侵 さ れ る 一 方 で ,人 工 物 に つ い て の 知 識 は 比 較
的 よ く 保 た れ て い る と い う も の で あ る 。ま た ,こ
の 逆( 人 工 物 の 知 識 が 侵 さ れ ,生 物 の 知 識 が 保 た
れ て い る )の パ タ ー ン も 散 見 さ れ る 。従って ,生
物の知識と人工物の知識は二重に乖離していると
さ れ て き た 。こ の よ う な 障 害 の パ タ ー ン か ら ,意
味記憶の体制化とその性質を推し量ることが行わ
れ て い る 。脳 損 傷 に よ る 障 害 に よって ,一 方 の 知
識 が 保 存 さ れ ,他 方 の 知 識 が 障 害 さ れ る よ う な ,
知識の特定のパターンを生ぜせしむるためには,
どのように意味記憶の知識は表象され構成されて
い る の で あ ろ う か 。こ れ ら の 障 害 は 異 な る 意 味 記
憶 が 別々に 局 在 化 し て い る こ と を 示 す の で あ ろ う
か?あ る い は ,意 味 記 憶 内 の 知 識 は ,分 散 表 象 さ
れ ,脳 内 に 拡 散 し て 格 納 さ れ て い る と し た 方 が よ
い の で あ ろ う か?
カ テ ゴ リ ー 特 異 的 な 障 害 に は ,さ ま ざ ま な も の
があることが報告されている(果物,野菜,動物,
な ど )。そ の よ う な カ テ ゴ リ ー の 障 害 に は ,少 な
くとも2種類あることの証拠と解釈されてきた。
す な わ ち ,カ テ ゴ リ ー に 特 異 的 な 障 害 は ,知 覚 的
な知識と機能的知識に関して組織化されている
と さ れ て き た (E. K. Warrington & Shallice, 1984;
E. Warrington & McCarthy, 1983; E. K. Warrington
& McCarthy, 1987)。Warrington と彼女の同僚らは,
主に知覚的な特性を用いて区別できるという意味
で,楽器と宝石が生物と類似していると主張した。
一 方 ,人 工 物 と 身 体 の 部 位 は 機 能 的 な 記 述 が 顕 著
で あ る 知 識 の カ テ ゴ リ ー で あ る と い う。こ の よ う
に ,脳 障 害 に よって ,選 択 的 に 知 覚 的 意 味 の 知 識
を そ こ な う な ら ば ,そ れ 生 物 に よ り 大 き な 影 響 を
及 ぼ す と さ れ る 。彼 女 ら の 仮 説 ,す な わ ち ,知 覚
的特性と機能的特性との異なる重み付けに基づ
くカテゴリーの差別化という意味記憶の体制化
に 関 す る 仮 説 は ,行 動 デ ー タ と ニュー ラ ル ネット
ワ ー ク に よ る 研 究 に よって 支 持 さ れ て き た (Farah
& McClelland, 1991)。コ ン ピュー タ シ ミュレ ー ショ
ン に よって ,生 物 は 人 工 物 に 比 べ て ,よ り 知 覚 的
な 特 性 に よって 記 述 さ れ て い る の で 知 覚 的 意 味 記
憶 が 障 害 さ れ れ ば ,そ の 特 性 に よって 生 物 の 知 識
に対して大きな障害を示すことを明らかとなった。
し か し ,知 覚 的 な 特 性 に つ い て の 選 択 的 な 障 害 を
伴 う こ と な く,生 物 に つ い て の 知 識 に 障 害 を 持っ
て い る 患 者 の 報 告 も あ る 。さ ら に ,生 物 が 機 能 的
な特性(Farah & McClleland のシミュレーションに
とって は 不 可 欠 な 仮 定 で あ る )よ り,多 く の 知 覚
的 特 性 を 持 つ と い う 仮 定 に 対 す る 支 持 も ,疑 わ れ
てきている (Caramazza & Shelton, 1998)。あるカテ
ゴ リ ー に 特 有 の 障 害 の 結 果 と し て ,異 な る 種 類 の
意味記憶の特性についての証拠は疑がわれても
いる。
し か し ,知 覚 的 ,お よ び 機 能 的 な 記 憶 表 象 の 特
性 の 貢 献 に よって ,生 物 と 非 生 物 と の 区 別 が な さ
れ る と い う 基 本 的 な 観 点 に 関 し て は ,変 わ ら な い
と言ってよいであろう。議論の焦点は,個々のカテ
ゴ リ ー メ ン バ ー シップ の 保 持 の さ れ 方 か ら ,機 能
的 ,知 覚 的 意 味 情 報 は 別 個 に 保 持 さ れ て お り,局
所 的 脳 損 傷 に よって 独 立 に 障 害 さ れ う る と い う 保
持 さ れ て い る 情 報 の タ イ プ に 議 論 が 移った と 言っ
てよかろう。カテゴリー特異性障害は,独立した意
味 記 憶 の 分 化 と い う よ り,異 な る 意 味 カ テ ゴ リ ー
における概念の内容と構造の差異の結果として出
現することが示唆される。
上 記 の よ う な 趨 勢 に 鑑 み ,本 研 究 で は ,カ テ ゴ
リー特異性障害を説明するための意味記憶表象と
し て ,生 物 ー 非 生 物 ,あ る い は 知 覚 的 ー 機 能 的 の
よ う な 二 分 法 に 頼 る の で は な く,個々の ア イ テ ム
の弁別性と相関性に基づいてデータを表現した。
こ の デ ー タ 表 現 方 法 は Devlin et al.(1998) の デ ー
タ 表 現 を 踏 襲 し た も の で あ る 。こ の よ う に し て 表
現 さ れ た デ ー タ に 対 し て ,Tyler et. al(2000) に 基
づ き ,以 下 の よ う な 特 徴 を 持 た せ た 。す な わ ち ,
1. 特徴の特殊性:意味表象は,同一カテゴリー内
の 他 の 表 象 か ら ,い か に 検 索 さ れ る か に お い
て ,さ ま ざ ま に 変 動 す る 。一 般 に 生 物 は ,よ
り 共 有 さ れ る 意 味 特 徴 を 持 ち ,人 工 物 と 比 べ
てより少ない弁別特徴を持つ。
2. 相関関係:共起する特徴は,相互活性化によっ
て 相 互 に 強 化 さ れ る 。生 物 概 念 は ,人 工 物 概
念より高い相関のある特徴が多い。
である。Tyler et. al(Tyler et al., 2000) の用いたデー
タ を 以 下 の 表 tab:Tyler に 示 す。
図 1 Tyler et.al.(2000) の用いた刺激の相関行列。図
中 白 ヌ キ の 円 は 正 の 相 関 を ,黒 い 円 は 負 の 相 関 を
表 す。円 の 大 小 が 相 関 係 数 の 大 き さ を 表 し て い る
あ る が ,意 味 記 憶 の 諸 相 を 表 現 す る に は ア ト ラ ク
タ ネット (Plaut, 1996) の 方 が 適 し て い る と 思 わ れ
る( 図 2)。
図 2 ア ト ラ ク タ ー ネット
表 1 Tyler et.al(2000) で 用 い ら れ た デ ー タ
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ただし こ の 行列の相関行列を考えてみると必ず
し も ,著 者 ら の 意 図 ど お り に は なって い な い 。表
1 か ら 計 算 し た 相 関 行 列 を 図 1 に 示 す。
2.
アトラクターネット
Tyler らは三層のフィードフォワードタイプのモ
デ ル を 用 い た 。こ の タ イ プ の ネット ワ ー ク は ,生
物と非生物の二重乖離を説明するためには十分で
Plaut ら は ,ア ト ラ ク タ ネット を 使って 意 味 性 の
錯読や視覚性の誤りと意味性の誤りとの混ぜ合わ
さった誤りの説明を試みた。ニューラルネットワー
ク で は ユ ニット が 相 互 に 結 合 さ れ て い る 。こ の 相
互作用から生じる活性化パターン上で定義された
空 間 の 中 で ,ユ ニット の 状 態 が あ る 特 定 の 状 態 に
遷移することによって意味記憶の検索を表現する。
すなわち単語が提示されてからその単語に対応す
る 意 味 表 現 を 検 索 す る と き に ,ユ ニット の 活 性 値
が 意 味 空 間 上 で 遷 移 す る 。任 意 の 初 期 値 か ら あ る
領域へと引き込まれることをアトラクタに吸引さ
れ た と 言 い ,各 単 語 毎 に 吸 引 領 域 が 異 な る と 考 え
るのである。
ア ト ラ ク タ ー ネット に お い て は ,ポ イ ン ト ア ト
ラ ク タ が 一 つ の 概 念 を 表 し ,ア ト ラ ク タ の ベ イ シ
ン が そ の 範 囲 を 表 わ す。ノ イ ズ な ど の 外 乱 に よっ
てアトラクタから多少離れた位置にある概念が置
か れ た と し て も ,ベ イ シ ン の 範 囲 内 な ら ポ イ ン ト
アトラクタに引き込まれることで正しい概念に到
達できる。
あ る い は ,ネット ワ ー ク の 損 傷 に よって ア ト ラ
ク タ の 位 置 ,ベ イ シ ン の 形 状 や 大 き さ が 変 化 す る
ことで,誤った概念に到達することになったり,正
解 に 至 る ま で の 時 間 が か か る( 繰 り 返 し の 回 数 が
増 え る )よ う に な る こ と が 予 想 さ れ る (図 3)。
attractor
CAT
basin
DOG
図 3 ア ト ラ ク タ ー ネット の ベ イ シ ン と 損 傷 に よ る
その変化
Plaut ら は 意 味 記 憶 に お け る 障 害 に よって 深 層
失 読 の 症 状 が 再 現 で き る こ と を 示 し た 。彼 ら の シ
ミュレーションでは,さらに意味記憶の構造を操作
す る こ と で ,具 体 語 と 抽 象 語 と の 二 重 乖 離 の 説 明
にも成功している (Plaut, McClelland, & Seidenberg,
1995; Plaut, 2001)。具 体 語 に お け る 意 味 表 現 は 抽
象 語 の 意 味 表 現 に 比 べ て よ り 多 く の 特 徴 を 持って
い る と し て 意 味 記 憶 を 構 成 し ,損 傷 の 程 度 が 軽 度
ならば具体語よりも抽象語の方がより損傷の程度
が 大 き く,損 傷 が 重 篤 な 場 合 に は 反 対 に 具 体 語 の
方が損傷されやすいという結果を示した。
本研究では,上述のように,生物ー非生物の意味
記 憶 表 象 の 問 題 を 考 え る た め に ,二 分 法 的 な 個々
の 概 念 の 分 類 に 頼 る の で は な く,個々の ア イ テ ム
の 弁 別 性 と 相 関 性 に 基 づ い て デ ー タ を 表 現 し ,意
味 記 憶 の モ デ ル と し て よ り 多 く の 現 象( 混 同 率 ,
反 応 時 間 )を 説 明 す る た め に 妥 当 な モ デ ル と 考 え
ら れ る ア ト ラ ク タ ー ネット を 採 用 し ,上 記 の デ ー
タ表現の妥当性を検討した。
3.
数値実験
Tyler et.al(Tyler et al., 2000) で は ,恒 等 写 像 ,す
なわち入力層に提示される入力パターン (図 1) を出
力 層 で 正 確 に 再 現 で き る こ と を もって ,概 念 を 獲
得 し た と 定 義 し て い る 。し か し ,こ れ 以 外 に も 正
実際アトラクタネットの処理能力はかなり高い。
当 パ タ ー ン が 考 え ら れ る 。す な わ ち ,生 物 パ タ ー
一 般 に 3 層 の パ ー セ プ ト ロ ン に お い て は ,中 間 層
ン か ,非 生 物 パ タ ー ン か を 1, 0 で 表 現 し た 場 合
の ユ ニット 数 が 十 分 に 多 け れ ば ,任 意 の 関 数 を 任
( こ の 場 合 16 行 2 列 の 行 列 と な る 。こ れ を category
意 の 精 度 で 近 似 で き る こ と が 知 ら れ て い る (上 坂
条 件 と す る ),デ ー タ の そ れ ぞ れ を 同 定 さ せ る も
吉 則, 1993)。と こ ろ が ア ト ラ ク タ ネット で は 中 間
の(この場合 16 行 16 列のデータ行列で対角要素が
層の素子数が限定されていても任意の関数を近似
すべて 1 の単位行列となる。これを identity 条件と
で き る と 考 え ら れ る 。し ば し ば 用 い ら れ る 例 と し
す る ),そ し て ,Tyler et.al. が 用 い た 恒 等 写 像( こ
て ,排 他 的 論 理 和 の 問 題 が あ る が ,こ れ を よ り 難
れを homo 条件とすうる)。いずれのパターンもそ
しくしたパリティ問題を解かせてみると,4 ビット
パ リ ティ(入 力 層 4 ユ ニット,学 習 パ タ ー ン 数 16), れ な り の 意 味 を 持 つ 。category 条 件 で は ,個々の
概念の上位概念を学習させるものであり,identity
8 ビットパリティ(入力層 8 ユニット,学習パターン
条 件 は ,そ れ ぞ れ の メ ン バ ー を 正 確 に 同 定 す る こ
数 256) を 最 小 の 中 間 層 数 ,す な わ ち 1 で 学 習 で
とを求めるものである。
き る 。わ ず か 1 の 中 間 層 で 8 ビット パ リ ティ問 題
こ こ で は ,中 間 層 の ユ ニット 数 を 10,ク リ ー ン
を解いた場合の最終的な結合係数の値を図4にし
アップ
層 の ユ ニット 数 を 1,出 力 層 と ク リ ー ン アッ
めした。
プ 層 の 間 で の 繰 り 返 し の 上 限 を 50 と し た 。学 習
-5.513330
は 誤 差 伝 播 学 習 法 に 従 い 学 習 係 数 を 0.01 と し た 。
-0.045105 +1.409942
各結合係数の初期値は −0.1 から 0.1 までの一様乱
+0.013427 +0.432054
数 と し た 。学 習 の 成 立 条 件 は ,個々の パ タ ー ン の
+0.947872
二 乗 誤 差 が す べ て 0.05 以 下 に なった こ と もって 学
習 成 立 と し た 。図 5 は ,ア ト ラ ク タ ネット に Tyler
+0.301315
+0.360986
+0.362422+0.333694 +0.298292 +0.314958
+0.365649
+0.367147
et.al. の刺激を学習させた場合の学習成立までの繰
り返し数の平均である。3 つの条件は,正解パタン
図 4 8 ビット パ リ ティ問 題 を 解 い た ア ト ラ ク タ ー
( す な わち 上記 の 3 条 件 ,category, homo, identity)
ネット の 結 果
の 違 い で あ る 。条 件 ご と の ヒ ゲ は 標 準 偏 差 を 表 し
ている。
16
550
14
500
12
average correct
average iterations
600
450
400
350
300
10
8
6
4
2
0
250
category homo
category
identity
homo
identity
図 5 ア ト ラ ク タ ネット で Tyler et.al.(2000) の 刺 激
を学習させた場合の収束までの繰り返し回数の平
均 (n=20)
図 7 ア ト ラ ク タ ネット で Tyler et.al.(2000) の デ ー
タ を 学 習 さ せ た 後 ,ク リ ー ン アップ 層 と の 結 合 を
離 断 し た 場 合 の 平 均 正 答 数 (max=16)
図 5 か ら は ,もっと も 簡 単 だった の が homo 条
件 で あ り,個々の 事 例 を 学 習 し な け れ ば な ら な い
identity 条 件 は 難 し かった と い う こ と が で き よ う。
次 に ,ア ト ラ ク タ に 引 き 込 ま れ る ま で の 繰 り 返
し 回 数 ,す な わ ち 出 力 層 と ク リ ー ン アップ 層 と の
間 の 繰 り 返 し τ の 平 均 を 図 6 に 示 す。
た く 正 解 で き な かった 。こ の こ と は ,カ テ ゴ リ ー
学 習 の 面 で も 興 味 深 い 。カ テ ゴ リ ー 特 異 性 を 説 明
する際に繰り返し数が上限に達して正解できない
パ タ ー ン が ア ト ラ ク タ ネット で 実 現 で き た こ と を
意味するからである。
ま た ,人 間 の 脳 損 傷 患 者 が 示 す カ テ ゴ リ ー 特 異
性障害を再現したと捉えることもできる。
average iterations
3.5
4.
3
2.5
2
1.5
1
category homo
identity
図 6 ア ト ラ ク タ ネット で Tyler et.al.(2000) の 刺 激
を 学 習 さ せ た 場 合 の 出 力 層 と ク リ ー ン アップ 層 と
の 間 の 平 均 繰 り 返 し 数 (n=20)
category 条 件 で は ほ ぼ 3 で あ り,ク リ ー ン アッ
プ 層 と の 結 合 を 利 用 し て い た 条 件 が category 条 件
で あ る と 言 え る 。一 方 ,home 条 件 ,identity 条 件
で は 繰 り 返 し 数 (τ ) が 1.0 か ら 1.5 で あ り,ほ ぼ ク
リ ー ン アップ 層 を 利 用 せ ず,3 層 の パ ー セ プ ト ロ
ンとして機能していたことが伺える。
図 7 では,クーンアップ層と出力層との結合を遮
断 し ,そ の 正 答 数 を 示 し た も の で あ る 。16 が 完 全
正 解 と な る が ,カ テ ゴ リ ー 条 件 は もっと も τ が 多
かった に も か か わ ら ず,損 傷 に 対 し て は 眼 瞼 だっ
たと言える。
category 条 件 で の 個々の デ ー タ を 表 2 に 示 し た 。
た と え ば 13 試 行 目 ,18,19 試 行 目 で は ,特 定 の
カ テ ゴ リ ー だ け 正 解 し ,他 方 の カ テ ゴ リ ー を まっ
考察
category 条件の教師信号行列は 16 行 2 列,homo
条件の教師信号行列は 16 行 24 列,identity 条件で
は 16 行 16 列 で あ る 。行 数 は 学 習 し な け れ ば な ら
な い 項 目 数 で あ る の で 同 じ で あ る 。そ れ ぞ れ の 条
件 の 出 力 層 の ユ ニット 数 は 異 な り 列 数 に 等 し い 。
おそらく表現すべきデータの複雑さと教師信号
行列の列数が関連すると考えられるのであれば,
category 条 件 が 最 も 簡 単 で あ り,homo 条 件 が もっ
と も 学 習 し に く い 。と こ ろ が ,図 5 から は ,もっと
も容易なのは homo 条件でありアトラクタネットが
学 習 す る こ と が もっと も 得 意 な 条 件 で あ る と 考 え
ら れ る 。ア ト ラ ク タ ネット が 人 間 の 概 念 形 成 の モ
デ ル と し て 考 え ら れ る の で あ れ ば ,視 覚 像 に 写っ
たイヌの姿をそのまま受け入れるのが homo 条件,
動 物 の 一 種 で あ る と い う 認 識 を 持 つ の が category
条件,
「 イ ヌ 」と い う ラ ベ ル を 与 え る の が identity
条 件 で あ る と 考 え ら れ よ う。ア ト ラ ク タ ネット に
とって homo 条 件 が 簡 単 で あった の は ,こ の よ う
に考えることができるのではないかと思われる。
category 条 件 は ,出 力 層 と ク リ ー ン アップ 層 と の
ル ー プ を もっと も 使った 条 件 で あ り,カ テ ゴ リ ー
判 断 の モ デ ル と し て ア ト ラ ク タ ネット ワ ー ク を 採
用すべき一つの理由をなしていると考えることも
で き る 。加 え て category 条 件 の 損 傷 実 験 で ,カ テ
ゴリー特異性と思われる症状が見られたのは偶然
で は な い と 解 釈 す る こ と も で き よ う。
表 2 category 条 件 で の 各 試 行 ご と の 正 解 (=1) と 不
正 解 (=0)
試行
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
5.
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結果
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まとめ
本 稿 で は ,ア ト ラ ク タ ネット を 用 い て 人 間 の 脳
損傷患者の示すカテゴリー特異性症状を説明する
た め の 妥 当 な デ ー タ 表 現 を 探った 。用 い た 3 条 件
の 中 で は category 条 件 を 設 定 す れ ば ,カ テ ゴ リ ー
特異性の一端を生じせしめることができたように
思われる。
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