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1 序 論 政策決定過程の変化は、それを取り巻く政治環境の変化と密接な

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1 序 論 政策決定過程の変化は、それを取り巻く政治環境の変化と密接な
Yun Duk-Min
1 序 論
政策決定過程の変化は、それを取り巻く政治環境の変化と密接な関係がある。一般的に、
権威主義体制のもとでは、政策調整の方向は一方的かつ下向きであるが、民主化された体
制のもとでは、政策調整はより体系的かつ制度化されたフレーム内で進められる。言い換
えれば、政治的民主化が進むにつれ、大統領と少数の参謀中心の政策決定から、市民社会
の世論、マスコミの動向、政府各省庁の意思などへと政策決定の主要変数が代わる場合が
多くなる。
韓国の場合も、権威主義体制を清算しながら、単線的だった対外政策決定過程は、多方
面から提起される多様な政策提言を重視する方向へと転換した。このように、外交政策決
定を取り巻く全般的な政治環境が変化する過程のなかで、かなり目立ち始めた領域がまさ
にシンクタンク(Think Tank)の役割であった。なぜなら、市民社会において世論の重要性
が増したとはいえ、国家の安全保障政策と戦略の樹立を世論にのみ依存することはできず、
むしろ政策決定者や一般市民に「新たな思考」を提供できる領域が必要だったからである。
一般的にアメリカのシンクタンクは「アイデア工場」または「政策生態系の貯水池」な
どと呼ばれる。アメリカの外交問題評議会(CFR: Council on Foreign Relations)のリチャード・
ハース(Richard N. Haass)会長は「シンクタンクは、新しく行政府で働く専門家と議会の補
佐となる人材をたゆまず提供する一方、政府を去る人々が公職期間中に鍛えた洞察力を広
く共有できるような制度的支えとなる」と言った。また、彼は、政策決定者たちは、シン
クタンクから「議題設定と政策代案の提示、政策を立案する人材の供給、政策共同体形成、
教育・広報活動、緊張緩和のための媒介」などの助けを借りているとも説明している。
もちろん韓国は、アメリカでみられるような熾烈に競争する「アイデア工場」が多数布
陣した状況にはない。しかし、ハースが指摘したようなシンクタンクの役割は、韓国でも
ある程度根を下ろし、体系化、制度化されているのが実状である。言い換えれば、シンク
タンクから政府へ必要な人材が輩出され、再びシンクタンクへ戻りその経験を還元すると
いうフィードバックシステムが形成されている。このシステムは、政府外で政府の政策形
成の空白を埋め、その層を厚くする重要な装置としての役割を果たしている。特に、シン
クタンクのアイデアを政策サークルに反映させるべく、各種論文、著書、政策報告書など
の随時刊行・配布、テレビおよびラジオ討論・座談会への出演、新聞コラム執筆およびイ
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
ンタビュー、国内外の著名人の招聘・講演、世論の指導者層とのネットワーク形成、イン
ターネットのホームページ活用など、多様なチャンネルと方法が動員されている。
本稿では、このような韓国のシンクタンクの現況を紹介し、その役割を評価したい。ま
た、市民社会における世論の重要性が高まるにつれ出現した、より低コストの「シンク・
ネット」
(Think-Net)の現況に関しても手短に紹介することにする。
2 代表的なシンクタンクの現況と役割
(1) 外交安保研究院
外交安保研究院(www.ifans.go.kr)は、韓国における外交・安保関連のシンクタンクのなか
で、最も長い歴史をもっている。もともと同研究院は、外務公務員教育院(EIFSO)として
創設された。1965 年、外交問題に関する研究機能を補強し、外交研究院(RIFA)へと改編
され、変化し続ける地域および国際環境を包括的かつ体系的に分析する必要に応じ、研究
機能をより拡大・強化しながら、1977 年に現在の外交安保研究院(IFANS)へと再改編され
た。外交安保研究院は、何回もの機能拡張を通じ、韓国における同種機関のなかで、最も
優れた研究機関という地位を占めるようになり、外交政策決定者向けシンクタンクとして
主要な役割を果たしている。また、体系的かつ組織的な教育訓練を通じて、国際競争力の
ある優秀な外交官を育成する外交・安保教育の産室としての役割を果たしてきた。
同研究院は、大きく分けて二つの機能、すなわち研究機能と教育および訓練機能を有す
る。まず、研究活動においては、対外政策および国家安保問題に関する政策代案の準備、
対外政策および国家安保問題に関する国内外の専門家との学術会議・セミナーの開催、国
内および海外における同種の研究所との交流および合同研究推進などの機能を果たしてい
る。そして、教育および訓練機能については、外交通商部に所属する公務員向けの専門教
育や職業訓練の提供、外交通商部に所属する公務員の国内における外国語教育、および海
外研修を通じての語学訓練、中堅外交官向け専門分野の海外研修の取りまとめ、政府各省
庁や関連機関、その他民間団体の国際関係業務能力向上を目的とした専門教育の提供、海
外駐在員として勤務する他の部署の職員教育などを実施している。
特に、同研究院は、他の政府機関、研究所、大学および一般人に対して、外交および国
家安保問題に関する「新しいアイデアとビジョン」を提示することに力を注いでいる。
〔朝
鮮半島〕統一問題と対北〔朝鮮〕政策は、南北〔朝鮮〕間だけの問題にとどまらず、国際的
な性格を帯びているため、業務上外交通商部の関与度は非常に高い(〔 〕内は訳注または訳
。したがって、外交安保研究院は、国際情勢の変化に対応し、対北朝鮮政
者補筆。以下同様)
策に関して、政策上の優先順位を調整し、具体的な行動計画を提供するなど、多くのチャ
〔自らの見識を〕投影させている。外交安保研究院は、1980 年代末以降、韓
ンネルを通じ、
国政府が積極的に推進した北方外交はもちろんのこと、1990 年代初頭の南北首相会談を通
じ、韓国政府が推し進めた朝鮮半島平和体制構築、南北軍費統制、朝鮮半島非核化などに
おいて、かなりの理論的貢献をした。特に外交安保研究院院長は、南北首相会談の代表と
して、とりわけ「朝鮮半島非核化」のための南北交渉を担当し、1991 年の南北基本合意書
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
と 1992 年朝鮮半島非核化に関する共同宣言において外交安保研究院は理論的な基礎を提供
キョンジュ
したことがある。また 2001 年以後、韓米同盟問題を扱う慶州プロセスを開始し、国内専門
家のネットワークを構築する一方、アメリカの有数な研究機関および専門家たちとの戦略
対話を推進し、韓米同盟の今後に関する公共外交(public diplomacy)と理論的検討を進めて
いる。
外交安保研究院は、言論界・学界など世論の指導者層との政策共同体の形成および政府
政策の広報活動にも大きな影響力を発揮している。多種多様なネットワークを通じて、政
府と世論の間の意思疎通と緊張緩和のための媒介という役割を果たしている。
一方、外交安保研究院は、シンクタンクの主な役割である政策立案者の供給という側面
でも重要な地位を占めている。最古のシンクタンクである外交安保研究院出身の専門家た
ちが、統一研究院、世宗研究所など、後発の研究所創立に参加することにより、韓国にお
ける外交・安保分野シンクタンクの拡大に寄与した。現在、研究院の現職および前職教授
の多数は、青瓦台、政府各省庁、学界などで安保・統一政策の樹立および遂行に対する絶
大な影響力を発揮している。
(2) 世宗研究所
世宗研究所(www.sejong.org)は、安保・統一・外交政策分野の中長期的な国家戦略と政策
代案の立案を設立目的とする純然たる民間研究所である。世宗研究所は、1983 年 10 月のミ
ャンマー・ラングーン事件後、朝鮮半島の平和統一達成のためには、朝鮮半島の緊張と対
立状況を専門的に研究する機関が必要であるという政財界トップの共通認識に基づき、1986
年 1 月 18 日、正式に発足した。1996 年 9 月、研究所は「財団法人世宗財団」付属「世宗研究
所」に再編され、安保、南北朝鮮関係、地域・国際政治経済の研究分野で多くの研究業績
を残している。
去る 1999 年、世宗研究所は研究機能の拡大と専門化のため、朝鮮半島の安保政策を扱う
「安保研究室」、対北朝鮮政策と朝鮮半島の統一問題を研究する「南・北朝鮮関係研究室」
、
周辺 4 大国〔アメリカ、日本、中国、ロシア〕に関する基礎研究・政策研究を並行する「地域
研究室」
、国際社会の政治・経済イシューを分析する「国際政治経済研究室」という体制を
備え、分野別の中長期的政策研究を効率的に行なうと同時に、緊急な安保問題と国際情勢
に対する時期適切な政策代案を提示している。また、国内外の著名人や研究者を招き講演、
セミナーをさまざま開催しており、研究事業を補いつつ、独創的な専門研究分野を開拓す
るべく、外部の優秀な専門家を研究事業に参加させる客員研究委員プログラムを運営して
いる。
キム・デジュン
ノ・ムヒョン
特に、世宗研究所は、金大中政権、盧武鉉政権時、対北朝鮮政策立案にこのうえなく大
イム・ドンウォン
イ・ジョンソク
きな影響を及ぼした。代表的人物が、林東源、李鍾
ペク・ジョンチョン
、白鍾天などである。現在、理事長
イム・ドンウォン
在任中の林東源は、金大中政権の第 27 代統一省長官・第 24 代国家情報院長(1999 年)、大統
領外交安保統一特別補佐役(2001 年)などを務めた。彼は金大中政権の「太陽政策」の理論
的・制度的フレームを提供したという評価も受けている。盧武鉉政権時代には、同研究所
理事長職に就任(2004 年)し、政権の対北朝鮮政策立案になお大きな影響を及ぼした。一方、
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
現在同研究所首席研究員として在職中の李鍾
は、盧武鉉政権の「平和・繁栄政策」全般
に最も大きな影響を及ぼした人物である。彼は、2003 年国家安全保障会議(NSC)事務次長
を経て、NSC 常任委員長(2006 年)、第 32 代統一部長官(2006 年)を歴任した。そして、白
鍾天は、2006 年世宗研究所所長に就任した後、大統領秘書室外交安保室長(2006 年)、NSC
常任委員長(2007 年)職を歴任し、現在、同研究所首席研究員として活動中である。このよ
うに世宗研究所では、政府内の要職在任中の経験を還元するフィードバックシステムが形
成されている。
世宗研究所の長所は、民間研究所であるため、国家からの自立性の確保が容易であると
いう点である。同研究所は、政府の公式見解にかかわらず、対北朝鮮政策および安保政策
の事案に対して、そしてそれらへの政府の対処方法に対しても、比較的自由に評価を下す
ことができる。
(3) 国防研究院
国防研究院(www.kida.re.kr)は、国防全般に関する研究分析を通じ、韓国国防に関連する
政策提言を行なうことを目的に設立された政府系研究機関である。同研究所は 1979 年 1 月、
国防管理研究所として出帆し、1987 年 3 月の韓国国防研究院法制定により、独立した国防政
策総合研究機関となった。
同研究院は、国防関連の全分野に関する研究を行なっているが、国防フォーラム、韓・
米国防分析セミナー、国防 NGO〔非政府組織〕フォーラム、高位政策パネル、韓・米武器体
制効果分析セミナー、韓・米国防謀議分析ワークショップ、韓・米安保ワークショップ、
韓日研究交流・協力、韓中国防学術会議、韓ロ国防学術会議、海外の専門家を招いての講
演会など、国防・安保関連の国内外の専門家あるいは専門機関との活発な人的交流および
学術活動などを通じた「国防政策共同体」の形成にもかなりの役割を果たしている。
特に同研究院は、2006 年 7 月に「北朝鮮軍事研究センター」を設立した。この研究センタ
ーは、北朝鮮の軍事および脅威(その能力と意図)の実体を分析・把握し、それを管理する
ための諸般政策と軍事安保分野の対北朝鮮政策を研究・開発し、国防部および各軍、政府
の関連部署への政策的支援を行なうという任務を担っている。
このような任務遂行のため、同研究センターは、北朝鮮の軍事能力評価、軍事力を建
設・維持する経済的能力の評価、脅威の管理および南北軍事関係発展に向けた立案、そし
て包括的な対北朝鮮軍事安保政策の開発などの四つを中核機能として設定している。これ
ら四つの機能は、それぞれ対北〔朝鮮〕軍事協商戦略研究室、北朝鮮軍事戦略情報分析研究
室、北朝鮮軍事能力評価研究室などの三つの研究室が担当・運営している。
(4) 統一研究院
統一研究院(www.kinu.or.kr)は、民族共同体実現のため、国民の力を蓄え、統一環境の変
化に積極的・主導的に対応しようと、統一問題に関する諸事項を専門的に研究・分析し、
国家の統一政策樹立支援に貢献することを目的としている。
1980 年代後半以後、旧ソ連の解体と東欧圏の崩壊など、国際情勢の急変により、朝鮮半
島の統一環境も変化した。それに対して、政府は社会主義圏との交流拡大と南北朝鮮の統
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
一外交を積極的に推進するようになった。また、望ましい民族統一観を国民に定着させる
プログラムが必要となり、統一に関する議論の拡大と体系的かつ専門的な総合研究機関の
必要性が増した。このような要請に応じ、1991 年 4 月、「民族統一研究院」は創設された。
その後、1999 年 1 月の「政府出捐などの設立運営および育成に関する法律」の制定に伴い、
特殊公益法人化された。
統一研究院は、まず、中長期的な統一政策および統一のための基盤構築に関する研究を
行なうことにより、朝鮮半島の分断管理および統一過程に関する研究に重点を置いている。
また、政治・軍事分野における南北対話などへの対策を練り、軍費の統制および軍縮実現
などにかかわる代案を提示するための研究を行なっている。そして、経済・社会・文化分
野での南北交流協力に関する研究を理論と政策提言の両面で遂行している。そこには、朝
鮮半島平和促進のための南北経済関係の発展方案、南北朝鮮間の通行・通信・通関手続き
の改善および定着方法に関する研究などが含まれる。
その他にも、同研究院は、北朝鮮自体に関する研究も活発に行なっている。すなわち、
北朝鮮の体制の特性、内外および韓国に対する政策関連の理論的基礎研究を進め、北朝鮮
住民の日常生活、世界のみならず、北朝鮮の変化にも焦点を当て、北朝鮮の体制が変化し
ていく方向性、体制の安定度および体制の耐久性、北朝鮮の体制変動およびシナリオ別の
安全性評価などを主要な研究対象としている。また、北朝鮮における人権の実態、南北間
の人道主義的問題(離散家族、北朝鮮による拉致被害者、韓国軍捕虜)、脱北者、韓国に居住す
る北朝鮮出身者など、北朝鮮への人道的支援の問題に関する情報および資料収集、北朝鮮
に対する人権関連政策に関する研究にも関心を寄せている。
対北朝鮮・統一政策の最終決定者は、大統領であるが、一次的・直接的な政策立案は、
制度上、統一部が担当しているのが現状である。このような統一部の政策立案過程と密接
チョン・セヒョン
に連携しているシンクタンクが、統一研究院である。一例を挙げれば、丁世鉉第 3、4 代院
ヤン・ヨンシク
イ・ボンジョ
長、梁栄植第 5 代院長、李鳳朝第 9 代院長などは、統一部の長官または次官を歴任した人物
である。
3 低コストの「シンク・ネット」
(Think-Net)
昨今、全世界的にインターネット技術とグローバルネットワークの長所を生かした知的
情報ネットワークの構築が活発である。一種の「シンク・ネット」もそれに該当し、代表
的なものは、アメリカのノーティラス研究所(www.nautilus.org)である。情報通信技術が発
達している韓国の現況では、十分に試みる価値があるシンクタンクモデルである。実際、
このようなモデルは「未来戦略研究院」
、
「コリア研究院」
、
「東アジア研究院」などにより、
現実化された。
未来戦略研究院(www.kifs.org)は、21 世紀は情報化、グローバリゼーション、脱冷戦に象
徴されるように知識基盤国家間の競争の時代であるため、国家政策樹立に向けた論壇文化
形成と巨大な知識結合体の発展構築という趣旨から、2001 年 3 月、社団法人として創立され
ユン・ヨングァン
た。初代院長は、盧武鉉政権期、外交通商部長官などを歴任した尹永寛ソウル大教授であ
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
った。
未来戦略研究院は、30 ― 40 代の専門研究者、政策決定者、企業経営者、ジャーナリスト、
社会活動家、ビジネスマンなど、多様な人材から成る「知識ネットワーク運動」の一環と
して創設された。主に専門知識をもつ知識人たちが、世界的トレンドと未来、主要なイシ
ューと代案などに関して、民主的公論化過程を形成する。特に、対北朝鮮・統一政策と関
連し、同研究院では「外交統一戦略センター」が別に構成されている。そこでは、南北朝
鮮関係や韓米同盟構造など、20 世紀的な様相にのみ焦点を当てるのではなく、21 世紀の超
国家的な脅威要因への対応戦略、変化する同盟構造にかかわる政策懸案、21 世紀ネットワ
ーク型国際秩序に対する多様な安全保障に関する議論と政策、処方箋などを提示している。
コリア研究院(knsi.org)は、理念的に進歩的あるいは中道進歩的であると考えられる知識
人たちを中心に、2005 年 2 月、正式に創設された。研究院の常任顧問は、金大中政権時代、
チェ・ジャンジプ
大統領諮問政策企画委員会委員長(1998 年)などを歴任した崔章集前高麗大教授である。同
研究院は、
「政治外交、経済通商、社会統合部門での実証的な認識をもとに、政策代案と国
家的戦略を提示し、民主的共同体の繁栄に寄与することで、朝鮮半島で自主・民主・平和
に立脚した統一を実現」することを目的としている。そして、研究院では 20 人余りの研究
委員たちが、政治外交研究センター、経済通商研究センター、社会統合研究センターとい
う領域に分かれて、社会的言説を形成しようとしている。特に、政治外交研究センター内で
は、南北関係と朝鮮半島の平和、北朝鮮政治と対外政策、北朝鮮経済と南北の経済協力な
ど細分化された主題に対し、多様な意見が述べられ、そこに参加する論者たちは、各種言論
媒体(特に進歩的なインターネット媒体である「オーマイニュース」〔http://www.ohmynews.com/〕、
「プレシアン」
〔http://www.pressian.com/〕などを通じて自らの見解を広めている。
東アジア研究院(eai.or.kr)は、規模の面で「コリア研究所」よりも相対的に大きい。理念
的に中道あるいは中道保守の人物により構成されている。コリア研究院が、進歩的なイン
ターネット媒体との共同企画を進めたとすれば、東アジア研究院は保守的な『中央日報』
との共同プロジェクトを数多く進めた。もともと同研究院は、外交・安保問題に関して、
韓国社会が過度に政治化され、理念化された状況を克服し、政治的な利害関係と両極端な
思考を乗り越え、外交・安保政策の基調となる国民的合意の基盤を模索しようという趣旨
イ・ミョンバク
のもと、2002 年 5 月に正式に発足した。初代院長は、李明博政権の外交安保首席秘書官など
キム・ビョングク
を歴任した金炳国高麗大教授である。東アジア研究院は、外交・安保研究、世論調査、企
業の社会的責任、ガバナンス研究、政治・経済史研究と活動分野を分けている。このうち
外交・安保研究は、さらに国家安保パネル、北朝鮮研究パネル、韓米同盟ロードマップ、
「EAI 地球ネット 21」に細分化されている。
上記の三つの研究機関は、規模、性格、人物構成などにおいて差異がみられるが、韓国
が直面した統一・外交・安保問題に対して多角的な視点からの論評と分析を行なうことに
より、世論の関心を集めている。にもかかわらず、これらの研究機関がシンクタンクとし
ての役割を果たすには、現実的には多くの限界があるのも事実である。厳密に言えば、こ
れらの研究機関は、シンクタンクと言うよりも「シンク・ネット」に近い。これらの研究
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韓国の対外政策とシンクタンク―対北朝鮮政策を中心に
機関の構成員をすべて集めれば、韓国社会の理念的スペクトル全体を埋め尽くせるような
中堅の学者たちであるが、派手な外観に比べて、制度的、財政的限界はあまりに大きい。
「東アジア研究院」は、主に自助努力により多少実現できたが、依然として常勤研究員を置
けるような制度的・財政的支援は不足しているのが実情である。これらの研究機関が、政
府の外郭研究所よりも、研究の独立性と自律性の面で相対的に有利であるとは言っても、
シンクタンクとしての骨格がいまだでき上がっておらず、効率・効果の面で低い評価を受
けているのは事実である。
4 結 論
これまでみてきたように、韓国の対外政策および対北朝鮮政策決定過程は、もはや大統
領周辺の少数の参謀だけが牛耳る時代は終わった。たとえアメリカのように、多様な理念
的スペクトルを反映するような独自性をもつシンクタンクが体系的に存在しないとは言っ
ても、民主化以後、特に脱冷戦以後、韓国のシンクタンクは、確かに政府の政策決定に影
響を及ぼす重要な変数として登場するようになった。
昨今、韓国の安保・統一政策は、大統領の政策選好(policy preferences)のみでは説明でき
ない。しだいに、政府関連部署の利害関係や競争と論争が表面化する官僚政治モデル
(bureaucratic politics model)による説明のほうが、より的確であることを示す事例が数多く登
場している。まさに、韓国の代表的シンクタンクは、政府の関係部署へさまざまな「新し
いアイデア」を提供するシステムとして構成されている。外交安保研究院は外交部を、国
防研究院は国防部を、そして統一研究院は統一部を、それぞれ一番の得意先としている。
のみならず、それらの研究所は、部署の利害関係にかかわらず、直接政策決定に参与する
場合も多い。したがって、韓国の代表的なシンクタンクへの理解なくして、韓国の対外政
策決定過程を完全には把握しがたいのである。
特に対北朝鮮政策と関連し、韓国のシンクタンクは、かなり中心的な役割を果たしてき
ノ・テウ
キム・ヨンサム
た。北方外交と盧泰愚、金泳三政権の対北朝鮮包容政策は外交安保研究院が、金大中政権
の太陽政策は統一研究院と世宗研究所が、そして盧武鉉政権の平和・繁栄政策は主に世宗
研究所が、それぞれ理論的基礎を提供し〔その研究機関の〕出身の専門家たちが直接政策に
参画した。韓国のシンクタンクの歴史は短いが、非常に活発な活動を行なうとともに、公
共外交などにまで、活動範囲を広げているところである。
一方、独立研究機関として定着するには財政的基盤が脆弱だという限界にもかかわらず、
現在、韓国社会では、多様な「シンク・ネット」という諸実験が進められている。このよ
うな実験は、韓国社会における情報技術の発達により、世論の凝集力を示すことができる
きっかけとなりうる。
「外交」以上に「内交」がより難しいという言葉があるように、市民
参加型の「シンク・ネット」の動向にも、より多くの関心を傾ける必要があるだろう。
ユン・ドクミン 韓国:外交安保研究院教授
*原文は韓国語 訳=松田春香(東京大学大学院)
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