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Human Resources Development at Skill and Safety

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Human Resources Development at Skill and Safety
シリーズ 未来を担う人づくり
活人主義における技能安全研修センターでの人材育成
~ 安全はすべてに優先する ~
新東工業 ㈱ 奥 平 昌 治
新東工業は 1934 年の操業以来、鋳造設備メーカーとしての道を歩み続けてきた。その間鋳物づくり
の長い歴史に蓄えられた技と知に多くを学び、鋳造事業を 1 本の太い幹として、そこで培った技術や
ノウハウを鋳造以外のさまざまな素形材産業分野へと応用、展開することで進化してきた。会社の人
材育成に関する考えと技能・安全研修が人材育成にどのように関与しているのか今後の展開について
述べる。
1.人材育成
当社は 79 年の歴史と共に鋳造設備メーカーとして
発展。お客様の仕様を図面化し、製品を一つずつ作り
あげるという繰り返し頻度の少ない物づくりを行って
きた。
そのために、社員一人一人のスキル、経験、知識を
大切にしながら次世代にバトンを渡す必要がある。
しかし、進化のスピードアップに加えグローバル化
の波が押し寄せる中で社員のスキル向上も早めなけれ
ばならなくなった。それに加え当社も 2007 年問題(団
塊世代の大量定年による技能・技術の伝承に支障を発
生させる)に直面した。
図 1 「活人主義」の思想 ― 心技体を磨く ―
その対策として、第 4 項で紹介する社内キャリア制
度を立ち上げ社員のスキルの見える化を行った。そして
当社の製品を作り上げていく上で必要な技能の棚卸を
行い、最高レベルの技能を有する者から不足している
者へ体感教育を中心に伝承教育を実施し、受講後のス
2.技能安全センターの紹介
(1)開設と目的
キルレベルを再評価しながら各人のスキルレベルを向
2008 年 4 月に開設し、当社の社員はもとより、当
上させる手段として、技能安全研修センターを開設し
社に関するすべての関係者と『新東の安全・品質の思
体感機を使って、安全教育と技能の伝承を行ってきた。
想の共有化と技能伝承の加速(すべての職場における
安全の確保とアフターサービスのできる人材育成およ
会社の人材育成における位置づけ
び各工場の従業員の人材育成でスキルのレベル UP に
現在、当社の中期計画 GCS5(2012 年 4 月~ 2015
よる品質の向上)』を目的としている。
年 3 月)の中のひとつで、“スキルを軸とした人材づ
くり” を推進すべく『人事制度と人材開発制度を有
機的に結び付け、総合的に社員個々のレベルアップを
写真 1 に技能安全センターの外観を示す。
(2)研修の特色と内容
・座学だけではなく、工師が手づくりで製作した体感
図る』『人材の活性化 “活人主義” を追求する』こと
機を併用して対話式で研修を行っている(工師とは、
を目的に、人材開発制度の一層の進化を図っている。
技能キャリア制度において、生産現場の中で他の人
に代えがたい技能を有する人として会社から承認さ
れた人をいう)。
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SOKEIZAI
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写真 1 技能安全研修センター外観
・対話形式のため、1 回の研修の受入は最大 4 名まで
としている。
安全体感研修は、過去の災害やヒヤリハットを参考
・研修の種類は大きく分けて ① 安全体感研修、② 危険
予知訓練研修、③ 技能の伝承研修の 3 種類がある。
3.安全研修への取組み
にするということで実施している。
にして、挟まれ、巻き込まれ、高所作業、保護具の重
要性、感電、爆発といった体感機を 38 機種用意し、
“笑顔でただいま”
“安全はすべてにおいて優先する”
当社の社長が色々な行事の冒頭に必ず話す文言であ
る。そのような中、当社の災害を 2003 年 4 月~ 2013
年 3 月までを分析してみると、図 2、図 3 のような傾
向になる。
これらの災害を何とか限りなく “ゼロ” にしてい
くための手段の一部として安全体感研修と危険予知訓
練(KYT)研修を行ってる。主な目的は安全の感度・
感性を向上させ安全作業を身につけ、現地・現物で作
業 に 取 組 む こ と を 実 践 し、 職 場 の 災 害 を“ ゼ ロ ”
図 2 作業別災害分析
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写真 2 安全体感研修の研修風景
シリーズ 未来を担う人づくり
図 3 年齢別災害分析
研修生が実際に考え触れて、また工師が過去の経験等
からも 3D で危険予知ができることで、より臨場感の
を踏まえた指導をすることで、それを自らの現場に持
ある危険予知になっており効果が増大している。
ち帰って実践している。
運転免許証の更新と同様、以上の研修をセットで繰
また危険予知訓練研修においては、平面的なイラス
り返し行うことが重要で、研修修了者は設立から現在
トによる KYT ではなく、写真のようなマネキンを用
まで延べ 2,493 名となり、繰り返しの研修を行うこと
いて各工場の要素作業(鋳物工場:注湯、セキ折等、
で安全の感度や感性を上げ、職場の災害ゼロを目指し
製缶工場:溶接、ガス切断等、機械工場:旋盤、ボー
ている。その結果図 4 のように研修を始めてから会社
ル盤等、組立工場:高所作業、サンダー作業等)を
全体の災害が右肩下がりに減少している(2007 年 20
21 場面用意し、上からも下からもまた横からも後ろ
件 / 年 → 2013 年 10 件 / 年)。
件
30
休業件数
合計
25
23
15
14
15
15
9
12
20
当社構内
13
13
7
15
8
10
15
現地工事
11
12
7
4
7
10
5
5
3
5
2
4
3
4
4
6
6
6
4
1
3
0
3
3
0 2003 2004
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
5
6
12
棒グラフ=休業災害件数
20
19
20
10
27
5
年度
写真 3 危険予知訓練研修の訓練風景
図 4 年度別 災害発生件数
写真 4 安全体感研修コーナー
写真 5 危険予知訓練研修コーナー
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4.技能の伝承研修への取組み
当社においても例外ではなく、現在、特に当社に
とって重要な技能であるお客様に納めた設備に対する
現在日本のものづくりにおいて、技能を後進に伝承
メンテナンス技能(アフターサービスの出来る人材育
していくことが難しくなってきております。
成)や新規設備において、社内では製缶作業から始ま
昔は “おれの背中を見て技能を盗め” といった時
り、機械加工、組付け、芯出し、試運転を行い、現
代もあったが、現在ではそうもいかない。
地(お客様)では、土間のレベルチェックから墨打ち、
据付、総合試運転を行い、お客様の要求される品物を
アウトプットを迅速に行う技能があり、その技能の伝
承とそれに伴う品質向上を早急に行う必要がある。
しかしこのように多岐にわたり、ほとんどが “人の
技能(腕前)” に頼る各々の固有技能の習得は簡単で
はない。
また当社は、社員一人一人のスキルを明確にするた
めに、営業・技術・技能の各キャリア制に基づき各職
制でスキル管理表を作成し、その管理表にて 5 段階で
各個人のスキルを見える化している。そのスキル管理
表を表 1 に示す。
以上を踏まえて、固有技能の伝承を行うことで各個
人のスキル向上と品質向上を図るべく OJT と並行し
写真 6 技能の伝承研修の研修風景
表 1 スキル管理表
写真 7 実機を使った技能伝承コーナー(1F)
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写真 8 体感機を使った技能伝承コーナー(2F)
シリーズ 未来を担う人づくり
て研修専門の施設として技能安全研修センターを設立
場の技能の全体のスキルポイントが対象者 344 名につ
し研修を行っている。
いて 2012 年 4 月に対して 2013 年 4 月には全体で 1,885
技能の伝承研修では、特にお客様でのメンテナンス
ポイント上昇してきた。
業務や据付業務に関わる固有技能(墨打ち、芯出し、
また一部の研修修了者においては、現在国内外を含
油圧、空圧、制御等)の伝承を行うために、当社の標
めお客様での据付工事の現場でその技能をいかんなく
準的な実機を設置(写真 7)や体感機を 104 機種製作
発揮し、お客様に満足していただくために日夜活躍し
(写真 8)した。座学だけではなくその実機や体感機を
ている。
使い、動かしながら研修生が実際に触れ、それと共に
工師が過去に培った経験を基にそれぞれの技能を教え
ることで、現地・現物で身をもって体験、技能の習得
6.研修の感想
を図り、自分の職場や現地(お客様)において習得し
研修終了時には、必ず受講生にアンケートを記入し
た技能を実務で実践している。
提出していただき以後の研修の参考にしている。その
また、今後の新たな取り組みとして、技術の伝承を
一部を以下に列記する。
図るべく工場 1F にからくりコーナー(写真 9)を設
・安全体感研修について座学だけではなく、体感機を
置し、技術の基本となる機構を充実させている。現在
使って教えていただけるので、臨場感があって解り
はオルダム継手機構をはじめ 53 機種の基本的な機構
やすい。(お客様 A 様)
を展示してあり、毎年技術系新入社員教育の一環とし
・危険予知訓練研修において、イラストのような平面
的な危険予知ではなくて、マネキンは立体的な臨場
て研修をスタートしている。
感を感じられ、危険予知ができ実際の現場に活かす
ことができる。(生産部門 B さん)
・技能の伝承研修について実際の現場でメンテナンス
を行う上で困っていることに対して、実機や体感機
を用いて勉強できるのでわかりやすく、実践に活か
せる。(営業部門 C さん)
7.おわりに
団塊の世代の方々が次々と定年退職し、実践の場か
ら去っていく今日、日本のものづくりにおいてその技
写真 9 からくり装置コーナー(1F)
能を後進に伝承していくことは、経営課題の一つと考
える。そんな中で当社は、技能の伝承のために独立し
5.スキルの向上
た教育施設を各部門とは分けて設立し、少しでもその
課題を解決していこうという経営者の強い思いがあ
設立から現在まで営業や生産関係の技能の伝承研修
る。技能安全研修センターとしてその思いを受けて今
修了者は、延べで 1,059 名となっている。
後も繰り返し研修を行いながら、教える人(講師)も
研修にあたり最初に、研修の派遣側の職制の管理
育てながら、未来永劫続けていかなければならない。
職が、送り込む受講生と面接を行い、双方で受講する
受講者の意見を参考にしながら、体感機の充実を図
研修に対してスキルアップポイントを話し合う。そし
り、さらにクオリティーの高い研修を目指して会社の
て技能安全研修センターの工師にその旨を伝え理解し
利益に貢献できる人材づくりを実践していきたい。
た上で研修を実施している。結果、一例として生産現
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