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アジア通貨危機と貧困問題

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アジア通貨危機と貧困問題
日本国際経済学会第 66 回全国大会
2007 年 10 月 7 日@早稲田大学
共通論題◆『アジア通貨危機 10 年の教訓と課題』
*本稿は、澤田(2007)に大幅な加筆修正を加えたものである
アジア通貨危機と貧困問題
―研究展望―
2007 年 10 月 1 日
澤田康幸
(東京大学大学院経済学研究科准教授)
はじめに
興味深いことに、アジア通貨危機に関するマクロ経済学的な研究は多数に上る一方、
危機が人々の生活や貧困に与えた「社会的なインパクト」については、ほとんど研究が
なされていない。例えば、アメリカ経済学会のデータベース ECONLIT によると、“Asian
Financial Crisis"と"Macroeconomic”の二つのキーワードで検索される論文数は 134 本に
のぼる一方、"Asian Financial Crisis”と“Poverty”で検索される論文数は 1 割弱のわずか 13
本である(2007 年 6 月 29 日現在の数字)。
先進国でも途上国でも,人々は暮らしを脅かすさまざまなリスクにさらされている。
事故や病気・自然災害は,人々の生活に深刻な悪影響を及ぼす。例えば、農業生産は価
格・収量に関するさまざまなリスクを伴うものであるが、そういったリスクは特に,途
上国の半乾燥地域に暮らす貧しい農民に降りかかるものである。しかし、忘れてはなら
ないことは、経済発展を順調に遂げつつある状況でも、人々は貧困に陥るリスクを抱え
ているということである。1997・98 年にアジア諸国を襲った通貨危機は、まさにその
典型例であった。
アジア通貨危機それ自体は、通貨が急速に下落するという現象であったが、1980 年
代の多くの通貨危機と異なり、国内の金融危機を伴うという特徴を持つものであった。
これを双子の危機(twin crisis)と呼んでいるが、Kaminsky and Reinhart (1999)の研究に
よると,90 年代において,金融危機と通貨危機の同時発生という双子の危機が急増し
ていることが分かる(表 1)。
危機のタイプ
通貨危機
双子
単発
金融危機
総数
26
1
25
3
表 1 長期的に見た経済危機の頻度
1970-79 年
一年あたりの回数
総数
2.6
0.10
2.50
0.30
50
18
32
23
1980-1995 年
一年あたりの回数
3.13
1.13
2.00
1.44
出所: Kaminsky and Reinhart (1999), Table 1
1
このような双子の危機は、後述するようなさまざまな経路で人々の生活に影響を及ぼ
すものとなった。アジア通貨危機は、1998 年に 1 人当たり経済成長率を大幅に低下さ
せ(図 1)、特にインドネシアを中心として激しいインフレや失業を生み(図 2・表 2),
家計の持つ富の実質的価値を瞬時に減少させるものであった.そして、このような状況
を皮切りとして経済危機の様々な負の社会的インパクトが認識されるようになった。例
えば、2001 年に緒方貞子・アマルティアセンの両氏を共同議長として「人間の安全保
障委員会」が国連の関連委員会として設置されたが(澤田. 2006)、1998 年にその先鞭
を付けた小渕首相(当時)の主張の背後にも、アジア通貨危機が貧困層に与えた影響へ
の懸念があった。
表 2 失業率の動き(%)
1994 1995 1996 1997 1998
..
..
4.1
4.7
5.5
2.5
2.1
2
2.6
7
..
3.1
2.5
2.5
3.2
8.4
8.4
7.4
7.9
9.6
1.3 ..
1.1
0.9
3.4
1990 1991 1992 1993
..
..
2.9 ..
インドネシア
2.5
2.4
2.5
2.9
韓国
4.7
..
3.7
3
マレーシア
8.1
9
8.6
8.9
フィリピン
2.2
2.7
1.4 ..
タイ
データ出所: World Development Indicators, the World Bank.
1999
6.3
6.3
3.4
9.2
3
2000
6.1
4.1
3
10.1
2.4
2001
8.1
3.8
3.5
9.8
2.6
2002
9.1
3.1
3.5
10.2
1.8
2003
9.5
3.4
3.6
10.2
1.5
図1
一人当たり実質 GDP 成長率
(PPP, 2000 年価格)
10
一人当たりGDP成長率(PPP,2000年価格)
5
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
インドネシア
韓国
マレーシア
フィリピン
タイ
-5
-10
-15
-20
年
データ出所: World Development Indicators, the World Bank.
2
2004
9.9
3.5
3.5
10.9
1.5
図2
消費者物価指数の動き
180
160
消費者物価指数(2000年=100)
140
120
インドネシア
韓国
マレーシア
フィリピン
タイ
100
80
60
40
20
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
年
データ出所: World Development Indicators, the World Bank.
とはいえ、「V 字回復」としばしば形容されるように、これらアジア諸国におけるそ
の後の経済成長率は、危機以前の水準を取り戻したように思える(図 1; Ito, 2007)。今、
アジア経済危機の 10 年間を振り返り、その社会的なインパクトを分析し、理解を深め
ることは、今後も頻発するであろうさまざまな経済危機が人々にもたらす悪影響を予測
し、それに対する事前・事後の政策介入のあり方を考える上で有益であろう。
1.
通貨危機の直接的影響
まず、アジア通貨危機が直接に人々の厚生に与えた負の影響について、整理してみる。
このような負の影響が生まれる経路には大きく分けて三つがある(澤田, 2003)。第 1
に、為レートの減価が輸入財価格の上昇に転嫁(pass through)され、経済にインフレ圧
力をもたらし(図 2)、実質所得は大幅に低下したことである。例えば、通貨が急激に
下落したインドネシアでは、1998 年のインフレ率は 58.39%にのぼり、その結果、実質
賃金の急落を増長させた。
第 2 に、アジア諸国の企業においては、しばしば外貨建ての借り入れによって企業の
投資が融通されていたため、為替レートの減価によって直接的に企業のバランスシート
が悪化するという経路(balance sheet channel)がある。1このバランスシートを通じた経
路によって企業の業績が瞬時に悪化し、失業率が急激に上昇した可能性がある (表 2)。
第 3 の経路として挙げられるのは、通貨危機が双子の危機として現れ、同時に発生し
た金融危機が信用逼迫 (credit crunch)を引き起こすことである。信用逼迫とは、緊縮的
な金融政策や銀行の信用供給の低下などを通じて信用市場における供給量が下がり、結
果として信用に対する超過需要が生ずる状況を指す。信用逼迫は、特に中小・零細企業
など銀行借り入れに依存せざるを得ない企業の資金繰りを悪化させ、倒産や失業の増加
を生み出す。例えば、韓国における個人事業主の倒産件数は、1997 年から 1998 年の 1
年間の間に実に 46 倍にも跳ね上がっている(澤田, 2003)。
1
このような経路は、例えば Krugman (1999) によって定式化されている。
3
以上のような諸経路を通じて、一人当たりの実質所得水準が 1997 年から 98 年の 1 年
間に激減することになった(図 1)。このような実質所得の急激な低下は家計の厚生に
どのような影響を及ぼしたのであろうか?そして家計はいかにして生活の安定を維持
しようとしたのであろうか?その実態は、危機の前後を挟んだ家計の個票データ(ミク
ロデータ)を詳細に分析したいくつかの研究によって明らかになっている(Frankenberg,
Smith, and Thomas, 2003; Alem and Townsend, 2003; Townsend, 1999; Goh, Kang, and
Sawada, 2005; Kang and Sawada, 2007a)。ここでは、まず、通貨危機前後の消費水準の動
きをたどることによって、家計の厚生水準への通貨危機の直接的影響を見てみることに
しよう。
まず、インドネシアについては Frankenberg, Smith, and Thomas (2003) が Rand 研究所
のプロジェクトの一環として通貨危機前後の家計パネル調査のデータを収集・分析して
いる。彼女らの分析によれば、通貨危機による実質所得の急落に直面した家計は、教育
費・医療費への支出を大幅に低下させている(表 3)。1997 年から 98 年にかけての医療
費・教育費支出はそれぞれ 35%・37%も減少した。一方、食料品価格上昇の影響もあ
り、食糧の支出低下は 9%にとどまった。
表 3 インドネシアにおける一人当たり実質消費の変化
1997 年から 1998 年
にかけての変化率
(%)
-23
-9
-34
-35
一人あたり総消費
食糧
非食糧
衣服・家具・儀式
医療・教育
-37
出所: Frankenberg, Smith, and Thomas (2003), Table 1.
韓国については、Kang and Sawada (2005)が、約 4500 の家計の個票データである
Household Income and Expenditure Survey (HIES)を用い、通貨危機前後における消費変化
を分析している。この研究によると、通貨危機が勃発した 1997 年の第 4 四半期におい
てはまず娯楽費が 26%もの低下をみせ、その後 98 年の第 1 四半期に入ってから食糧
消費が低下したことが分かる(表 4)。他方、教育費支出の変動についてはその季節性
で大半が説明され、通貨危機固有の影響は統計的には見出すことができない。これは、
危機によって教育費支出が大幅に下落したインドネシアとは顕著に異なる点である。
表 4 韓国における一人当たり実質消費支出の変化
総消費支出
食糧
医療
教育
娯楽
1997 年.
第 2−第 3
四半期
1997 年.
第 3−第 4
四半期
1997 年.
第 4−98 年
第 1 四半期
1998 年.
第 1−第 2
四半期
1998.年
第 2−第 3
四半期
1998 年.
第 3−第 4
四半期
2.65
7.42
–6.48
39.57
10.90
–3.37
–4.39
7.38
–48.11
–26.32
–12.15
–29.52
–26.28
48.89
–22.85
–10.91
1.00
11.46
–53.79
7.17
0.62
2.55
–4.75
40.66
4.31
10.75
14.75
0.00
–41.67
–3.06
4
同様の傾向は、Kang and Sawada (2007a) が分析した、Korean Household Panel Survey
(KHPS)からもうかがい知ること出来る。表 5 に示されているように、食糧消費や教育・
医療費支出がそれぞれ 15.2%、20.4%低下したものの、労働所得よりもこれら消費項目
の低下率は相対的に小さく、これらの消費はある程度所得ショックから遮断されていた
ことが分かる。一方、娯楽費や耐久消費財などの奢侈財支出は 63%もの率で削減され
ている。これらのデータが示していることは、韓国の家計が負の所得ショックに対して
消費支出の配分を変化させることで対処したという可能性である。すなわち、韓国家計
にとっては、必ずしも必要でない財の削減を行うことが通貨危機に対する重要な対処戦
略であった可能性が高い。従って、必需財支出という観点から家計の厚生水準を計測し
た場合には、とりわけインドネシアのケースと比較して、通貨危機が動学的な貧困に与
えた影響は韓国においてはそれほど大きくなかったといえるかもしれない。繰り返しに
なるが、教育や医療への支出に対する影響が大きくなかったのはインドネシアの場合と
対照的である。
表 5 韓国家計パネルデータの記述統計
(1995 年価格に基づいて実質化されている、単位は 10,000 韓国ウォン)
1996 年 8 月 1997 年 8 月
-97 年 7 月 -98 年 7 月
平均
平均
(標準偏差) (標準偏差)
変化率
(%)
消費支出
食糧支出
教育・医療支出
奢侈財支出
(文化活動・娯楽費・外食費・耐久消費財への支出)
351.54
(216.26)
304.17
(371.30)
147.25
(333.75)
297.99
(177.63)
242.21
(336.21)
53.98
(86.36)
-15.2
2064.81
(1734.66)
51.38
(214.14)
19.18
(116.35)
195.01
(1305.44)
7681.19
(9403.04)
842.02
(2177.78)
1523.41
(1264.16)
54.90
(209.45)
20.99
(134.08)
203.62
(1089.94)
7533.37
(11895.05)
1074.34
(5252.27)
-26.2
2629
2375
-20.4
-63.3
所得・資産や負債
労働所得
私的トランスファー所得
公的トランスファー所得
資産の売却・処分による所得
(土地・不動産・債券・貯蓄の取り崩し)
総資産残高
(貯蓄残高・株式・債券・保険・貯蓄信用講)
総負債残高
(公式・非公式金融機関・個人からの負債)
家計の数
6.9
9.4
4.4
-1.9
27.6
出所) Kang and Sawada (2007) Table 1
5
2. 通貨危機は貧困層を直撃したか?
通貨危機は、特に貧困層の生活水準に対して悪影響を及ぼしたのであろうか?このよ
うな視点を分析するためには、ミクロデータが強力な情報源となる。Friedman and
Levinsohn (2002) は、インドネシア全国レベルの家計調査である SUSENAS データと財
別の価格変動データを用い、通貨危機の厚生効果を集約した指標である「等価変分」を
推計している。「等価変分」とは、通貨危機前後で一定の家計の厚生水準(生活水準)
が達成されるためには、通貨危機後にいくらぐらいの追加的な消費支出が必要となるか
を数量化したものである。このことを見るために、支出関数を考えよう: E(u, P)。ここ
で P は価格ベクトルであり、P0 と P1 はそれぞれ、通貨危機前と後の価格ベクトルを示
しているとする。E(u, P1)を P0 の周りで一次のテーラー近似を行うと、以下を得る:
E(u, P1) ≈ E(u, P0) + Q0’×(P1−P0)
(1)
ここで、Q0 は通貨危機前の消費量ベクトルを示している。(1)式より、効用を一定に保
つために必要な追加支出としての等価変分が、
E(u, P1) - E(u, P0) ≈ Q0’×(P1−P0)
(2)
で表されることが分かる。言い換えれば、等価変分によって通貨危機によってもたらさ
れた財価格上昇が生み出した負の厚生効果を把握できる。この等価変分と一人当たり総
消費との関係を示したのが図 3 である。この図から、都市貧困層が通貨危機によって最
も深刻な打撃を受けた一方、地方在住の貧困層への影響は比較的軽微にとどまったこと
が分かる。後者の理由については、地方の貧困層においては農作物の自家消費比率が高
く、食料品価格上昇を通じた通貨危機の悪影響からある程度隔離されていたことがデー
タから分かっている。また、都市貧困層については、都市経済が国際経済環境の変化に
より統合されており、為替レート変化の影響をより大きく受けることを示唆している。
図3
インドネシアにおける通貨危機の厚生効果
Friedman and Levinsohn (2002), Figure 1 参照
韓国については、前出の Kang and Sawada (2005)と、KHPS を用いた、Goh, Kang and
Sawada (2005) が、通貨危機の影響について所得階層ごとに分析している。Kang and
Sawada (2005) では、貧困層が大幅に食費を削減する一方、富裕層は奢侈的な消費を削
減しているというパターンが若干見られているものの、Goh, Kang, and Sawada (2005) に
よれば、貧富の程度によらず、通貨危機はすべての所得階層に対してある程度均一な悪
影響を及ぼしており、貧富の差あるいは相対的な貧困が拡大したという傾向は見られて
いない(表 6)。他方、後述するように、絶対的貧困に対しては明らかに悪化させる影
響を持っていたことが分かっている。
表6
所得 10 分位別に見た、通貨危機前後の消費支出変化
Goh, Kang, and Sawada (2005) Table 3 参照
6
タイについては、独自に収集した家計パネルデータを用いた Alem and Townsend
(2003) の分析がある。この調査結果によれば、貧困地域であるタイ東北部においては、
貧困層が通貨危機からより強い悪影響を受けていると見られる一方、相対的に発展した
中部地域では、逆に富裕層がより深刻な影響を受けていることが示されている。通貨危
機の与えた影響が地域によって異なるということは、集計的ショックの伝達経路がマク
ロ経済への統合度によって異なることを示唆しており、興味深い。
3. 家計の対処行動
さて、危機の影響を受けた家計は、どのようにしてそれに対処しようとしたのであろ
うか。まず重要な対処手段は、資金の借入である。資金借入が可能である家計は、予期
せぬ実質所得の低下に対して将来の所得を今期の予期せぬ損失の埋め合わせに用いる
ことができ、消費を平準化することが可能となる。しかしながら、アジア通貨危機にお
いては、同時に発生した金融危機が信用逼迫を引き起こしており、対処手段としての資
金借り入れの役割を弱め、人々の生活に悪影響を及ぼした可能性がある。
Kang and Sawada (2007a) は、KHPS のデータを用い、韓国の家計が資金借入の制約に
直面する確率を推計している。その推計結果によれば、通貨危機が発生した後、金融危
機に伴う資金借入の制約は全ての家計においてより深刻化しており、信用逼迫の問題が
家計レベルで顕在化したことを示唆している。Kang and Sawada (2007a) の手法は以下の
ようにまとめることが出来る。まず、家計の瞬時的効用関数は、家計消費 Ct.の凹関数
である U(•) で表されるものとしよう。流動性制約を明示した、代表的な家計が直面す
る異時点間の効用最大化問題から、一階の条件として、以下のような拡張された消費オ
イラー方程式が得られる(Zeldes, 1989):
U ' (C t ) = βEt [U ' (C t +1 )(1 + rt )] + λt ,
(3)
At + y t − C t + z t ≥ 0 if λt = 0,
At + y t − C t + z t = 0 if λt > 0.
ここで A は期首における家計資産の総額を示しており、主観的割引ファクターがβ、r
と y はそれぞれ平均的な利子率と確率変数で表されている家計所得である。さらに、
変数 z は、借入の上限を示している。λ は流動性制約 A+y-C+z ≥ 0 についてのラグラ
ンジュ乗数を示している。
Kang and Sawada (2007a) は、相対的リスク回避度一定(CRRA)型の効用関数の元で、
(3) 式を最尤法によって推計することにより、家計が流動性制約に直面する確率を推計
している。図 4 は、Kang and Sawada (2001) の推計結果から描かれた、流動性制約の確
率の分布を示すノンパラメトリックな密度関数である。図 4 によれば、通貨危機が発生
した後、金融危機に伴う流動性制約は全ての家計においてより深刻化しており、信用逼
迫の問題が家計レベルで顕在化したことを示唆している。このことは、「双子の危機」
の発生がライフサイクルの効用に対して深刻な負の動学的貧困の影響をもたらしたこ
とを示している。
7
0
.02
.04
.06
.08
.1
図 4 流動性制約に直面する確率の分布関数
(ノンパラメトリックなカーネル密度関数)
50
60
70
80
Predicted Probability
Before the Crisis
90
100
During the Crisis
出所)Kang and Sawada (2007a)
さらに、 (3)式で示される、拡張されたオイラー方程式の意味は、図 5 によって直観
的に示されている。図 5 においては、縦軸には消費の限界効用が取られており、横軸に
は左から t 期での消費、右から t+1 期での消費を測っている。従って、ラグランジュ乗
数 λ の大きさと、それによって囲まれた三角形の面積は、流動性制約によってもたら
された負の厚生効果の大きさを示していることになる。
図5
拡張されたオイラー方程式
βE t [U ' (C t +1 )(1 + rt )]
U ' (C t )
厚生のロス
λt
→Ct=At+yt+zt ←
→ Ct
Ct+1
←
8
Kang and Sawada (2007a)は、図 5 における流動性制約の厚生ロスの平均値を推計して
おり、その結果は表 7 にまとめられている。厚生ロスの推計値は、相対的リスク回避度
の大きさに依存するものの、1998 年では 97 年のそれに比べて少なくとも約 30%以上増
加したことを示している。
表7
流動性制約の厚生ロス平均値
Under the assumption γ = 1
Under the assumption γ = 2
Under the assumption γ = 4
Under the assumption γ = 6
(×10-6)
(×10-8)
(×10-12)
(×10-16)
Before Crisis
During Crisis
2.63
0.87
0.51
0.37
3.40
1.50
2.34
4.79
出所)Kang and Sawada (2007a)
第二に、重要であるのは、自己の所有する実物資産や金融資産を取り崩すことである。
表 5 で示されている、Kang and Sawada (2007a) のデータによると、通貨危機の発生後
1998 年における韓国家計の資産売却額はほとんど増加しておらず、危機への対処手段
としての資産取り崩しが広範には行われていなかったことを示している。通貨危機・金
融危機の時期においては、地価・株価といった資産価格が急速に低下していたため、多
くの家計が合理的な判断として資産の取り崩しを手控えた可能性がある。Frankenberg,
Smith, and Thomas (2003) では、同様の傾向がインドネシアにおいても見出されている。
ただし、インドネシアにおいて特徴的であるのは、多くの家計が危機前に保有していた
金を売却したことである。実のところ通貨危機後に金価格が上昇しており、家計がその
ような価格変化に敏感に反応したものと思われる。
第三に、家計は労働時間を延ばすことで実質所得・実質賃金の低下に対処することが
出来る。Frankenberg, Smith, and Thomas (2003)によると、インドネシアの家計は通貨危
機後に一週間当たり平均して約 5 時間程度の労働時間を増加させており、労働供給増に
よるリスク対処のメカニズムが働いていると考えられる。また、Fallon and Lucas (2002)
の分析によれば、1997 年から 98 年にかけて農業部門の雇用が韓国・タイ・インドネシ
アでそれぞれ 4.0%・3.5%・13.3%増加しており、農業の就労機会が家計所得に対する
一種の保険機能を提供していたことが示唆される。この結果、タイやインドネシアにお
いては、都市部門から農業部門・地方への移住が、地方から都市への人口流入を上回る
こととなった。また、そもそもアジア諸国の企業が雇用調整を行う速度は比較的緩やか
であり、通貨危機の後に企業が解雇等を通じて雇用調整をすすめたという傾向が必ずし
も見られないという研究もある(阿部・久保, 2003)。
最後の対処方法は、利他的に結びついた家族・親戚からの援助金に頼るということで
ある。Kang and Sawada (2005) によると、韓国における私的援助の受け取り額が危機後
に一世帯あたり約 7%上昇しており、絶対額は小さいものの、危機への事後対処法とし
てある程度の役割を果たしたことが示されている。さらに、Kang and Sawada (2005,
2007b) は、このような私的援助のネットワークが通貨危機発生後に強化されたことを
見出しており、公的支援の不足を補うものであったことを示している。
9
4.
危機がもたらした貧困への長期的影響
図 1 に見られるように、アジア通貨危機に瀕した諸国の経済は 1999 年以降急速に回
復し「V 字回復」がもたらされた。しかしながら、一時的とはいえ通貨危機の悪影響が
長期にわたる持続的な負の効果をもたらしたという可能性も否定できない。例えば、失
業した労働者は、再び職を得るために長期にわたる調整時間や調整費用を必要としたか
もしれない。また、危機に対処するために物的資産や金融資産を処分した家計において
は資産が激減しており、それらを回復することは不可能であったかもしれない。さらに、
教育や健康に対する短期的な負の影響は、人的資本の蓄積を阻害し、長期にわたって負
の効果を持ちうるかも知れない。事実、1997 年から 98 年にかけて、インドネシアの中
等・高等学校退学率が男子では約 11.6%、女子では 10.4%増加していた。このことは、
子供の労働所得あるいは家計内労働が、通貨危機によって低下した家計所得に対する保
険的機能を果たしたことを間接的に示していると言えるが、一方で人的資本蓄積が損な
われることで長期的な所得増加を犠牲にしている可能性がある。
Burton and Zanello (2007)は、危機後の 10 年間にフィリピン、韓国、マレーシアにお
いて所得が不平等化したことを見出している(図 6)。このような相対的な貧富の拡大
に加え、ここでは、通貨危機がもたらした貧困への長期効果を把握するための一時的接
近として、貧困ライン以下の生活を営んでいる人口の比率、すなわち貧困人口比率の変
化を見てみることにする。表 8 は、貧困人口比率の変化をまとめたものである。すべて
の国に共通する傾向として、通貨危機後に短期的に貧困人口比率が増加したが、全体の
傾向としては貧困人口比率が低下しつつあることが分かる。
図 6 アジアにおける過去 10 年間の所得不平等度変化
Burton and Zanello (2007), Chart 4 参照
10
表8
1人1日1ドル以下の貧困人口比率(%)
インドネシア
貧困ライン
(1 人 1 日)
年
1981
1ドル
2ドル
1984
1985
1987
1988
国内
ライン
20.70
28.15
75.84
1ドル
2 ドル
タイ
1ドル
2ドル
21.64
55.03
23.5
62.01
24.9
57.02
17.86
54.06
24.6
55.48
6.02
37.48
2.21
28.28
1.20
0.93
17.10
1991
1992
1995
1996
1 ドル
フィリピン
1.96
1989
1990
1993
1994
マレーシア
0.43
17.39
64.19
17.5
0.90
14.12
52.72
8.90
59.73
1997
1998
26.33
75.95
0.00
28.17
1999
2000
7.58
7.19
55.16
55.39
2.03
1.96
31.61
32.51
2001
2002
7.78
52.89
0.89
25.81
2003
2004
0.14
16.6
5.50
18.1
13.49
43.92
44.92
43.87
出所: フィリピンの1人1日1ドルの場合の1985−2000年データについては、Sawada and
Estudillo (2005a, b)の推計によるもの。マレーシアの国内貧困ラインの場合の数値については、
OECF (1997), マレーシア政府資料。その他の数値は、PovcalNet, World Bank
<http://iresearch.worldbank.org/PovcalNet/jsp/index.jsp>でデータが入手可能なもののみ。
このような貧困人口比率の長期変化をたどるため、ミクロデータが豊富であり、より
正確な分析が可能であるインドネシアと韓国のケースに注目してみることにする。まず、
インドネシアについては、Ravallion and Lokshin (2005)が、1993年から2002年の10年間に
わたる、National Socio-Economic Survey (SUSENAS)データを分析し、通貨危機の長期的
影響を数量化している。SUSENASデータはインドネシア世帯の代表性を持ち、毎年約
200,000世帯をカバーする、巨大なデータである。彼らはまず、インドネシアの貧困人
口比率が通貨危機によって大幅に悪化した後、急速に低下していることを示している
(図7)。
11
図7 インドネシア貧困人口比率の推移
Ravallion and Lokshin (2005) Figure 1 参照
さらに、Ravallion and Lokshin (2005)は、二つの重要な知見を得ている。まず第一に、
図8で示されているように、通貨危機によって引き起こされた貧困人口比率増加(横軸)
と、通貨危機後5年間における貧困人口比率の低下(縦軸)は、強い相関関係を持って
おり、通貨危機後5年間に、通貨危機によって引き起こされた貧困悪化がほぼ克服され
たことを示している。とは言うものの、通貨危機が仮に起こらなかった場合に達成され
たであろう貧困人口比率は、実際の貧困人口比率よりも大幅に小さいという推計結果が
得られており、貧困人口比率の長期的な悪影響が示唆される。また、興味深いことに、
初期時点において相対的に貧困が深刻であった地域ほど、通貨危機がもたらした負の貧
困効果の影響を受けていない(図9)。
図8 貧困人口比率の推移
Ravallion and Lokshin (2005) Figure 4 参照
図9
通貨危機の貧困への長期的影響
Ravallion and Lokshin (2005)
Figure 5 参照
次に韓国については、Kang and Kwon (2006) が示しているように、韓国の都市部にお
いては、通貨危機によって一時的に貧困人口比率が急上昇した(図10)。危機後におい
て貧困人口比率は低下傾向にあるものの、危機前の貧困人口比率低下の傾向線には復帰
しておらず、危機が恒常的な貧困悪化効果をもたらしたことが示唆される。従って、危
機後の一人当たりGDPの回復は、必ずしも貧困層に十分行き渡っていないのかもしれな
い。
この貧困人口比率の変化パターンと、図1の一人当たりGDP成長率で示されるような
V字回復パターンの関係を見るため、Kakwani (1993) の手法に従って、貧困の所得弾力
性を計算してみることにしよう。2この弾力性は、韓国の一人当たりGDPが1%変化した
ときに、貧困人口比率が何%変化するかを示すパラメータであり、一般には負の値をと
る。韓国の貧困指標を用いて計算された弾力性値は図11に示されたとおりである。予想
通り、所得変化の貧困削減効果は、通貨危機を境にそれまでの−5%前後から−4%前後
へと弱まっており、国全体の経済成長の貧困層への均霑効果(トリクルダウン効果)3が
通貨危機によって恒常的に弱められた可能性がある。とはいえ、持続的な貧困削減には
経済成長が不可欠であり、貧困層に有利な経済成長(pro-poor growth)を推し進めると
ともに、補完的に直接的な貧困削減を目指す福祉政策を拡充していることが必要であろ
う。
2
Kakwani (1993) によれば、貧困ギャップ指標で見た場合の貧困の所得弾力性は、[(貧
困人口比率−貧困ギャップ指標) ÷ 貧困ギャップ指標] によって与えられる。
3
均霑効果は、英語では Trickle-down と呼ばれる概念の訳語であるが、経済成長の成果が貧
困層に対しても間接的に滴り落ちることをさす。
12
図 10
韓国都市部における貧困人口比率の変化
30.00
25.00
貧困人口比率
20.00
15.00
10.00
5.00
04
03
20
20
02
01
20
20
00
99
19
20
98
97
19
19
96
95
19
19
94
93
19
19
91
92
19
19
19
90
89
88
19
19
87
86
19
19
85
84
19
19
82
19
19
83
0.00
出所: Kang and Kwon (2006).
図 11
貧困削減の所得弾力性
4
20
0
2
20
0
0
20
0
8
19
9
6
19
9
4
19
9
2
19
9
0
19
9
8
19
8
6
19
8
4
19
8
19
8
2
0
-1
-2
貧困削減の弾力性
-3
-4
-5
-6
出典:Kang and Kwon (2006) の数値に基づき、筆者作成
5. おわりに
本稿では、アジア通貨危機が貧困に与えた影響について、家計のミクロデータを用い
た諸研究の成果をサーベイし、危機に瀕した諸国の家計データから見出された知見につ
いてまとめた。全体を通じてわかったことは、通貨危機が貧困層に与えた影響は、タイ
ミング、都市住民と地方住民、あるいは国や地域によって異なり、非常に多様な側面を
持つということである。特に、通貨危機によって貧困層がより深刻な悪影響を受けると
13
は限らない。例えば、為替レート下落という形で起こる通貨危機は、輸出向け換金作物
を生産していた農民とって、正の厚生効果をもたらす。Fallon and Lucas (2002) による
と、輸出用米の主要産地であるタイ北部において 1997 年から 98 年の間に貧困人口比率
が有意に低下した。とはいえ、通貨危機が生み出す様々な悪影響に対して生活を守るた
めの十分な対処手段を貧困層が持たず、脆弱層となってしまう可能性もある。さらに、
韓国のケースに見られるように、マクロ経済が順調に回復する一方、貧困層へ成長の成
果が必ずしも十分には波及していない。
家計は、このような事態に対して、さまざまな対処手段を用いてきたことも分かった。
しかしながら、通貨危機は集計的なショックをもたらすものであり、人々の間での自発
的な取引ではそのリスクを十分には分散できないかもしれない。ここにおいて、政府は
広い意味での保険機能の提供者として重要な役割を果たしうる。例えば、韓国では通貨
危機の直後に失業保険の受給対象者枠を拡大し、さらにワークフェアを導入するなどし
てかなりの効果をあげた(World Bank, 2000; 寺西編, 2003; 澤田, 2003)。政府は、人々
の事前のリスク管理能力・事後的なリスク対処能力を高めるために経済取引環境を整備
するとともに様々な公的保険機能を補完的に提供していくことが不可欠である。
いずれにしても、通貨危機の貧困への影響を正しく認識し、公共政策に役立てていく
ためには、ミクロデータに基づいた精緻な実証分析が不可欠である。今後は、より迅速
にそのような情報を収集し、分析結果を政策に反映できるような分析手法を積極的に開
発していくことが必要である。例えば、第 3 節で簡単に紹介したように、Friedman and
Levinsohn (2002) が提案している等価変分の計算方法は、このような手法の一つとして
今後も活用されるべきであろう。
以上の文献展望から、以下のアジア通貨危機と貧困問題について 4 つの教訓をまとめ
ておく:
1. 通貨危機が 10 年の歳月を経てなお、貧困問題への悪影響を持ち続けていることであ
る。さらに、インドネシアにおける人的資本(教育)投資のように、このような悪
影響は構造的な問題から生み出されている可能性がある。
2. インドネシアの地方在住者のように、貧困層が必ずしも通貨危機から最も深刻な影
響を受けた層とは限らないことである。むしろ重要であるのは、国際経済・マクロ
経済への統合度である。
3. 通貨危機は、集計的ショックに対する公的な保険機能提供という観点から幅広い政
策議論を活発化させた。このような通貨危機は人的災害ではあるが、より広い見地
からすれば、自然災害とともに、集計的リスクとしてさらに議論されるべきもので
あろう(Sawada, 2007).
4. 通貨危機は、一種の自然実験であり、人々や企業の行動を識別するのに役立つ外生
的な変数として有益である。本稿で触れた一連の論文や、フィリピンのケース分析
した Young (2006)が用いたように、このような変数は、有効な操作変数として活用
することが出来る。
14
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15
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