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人口減少時代における地域経済とそれを支える地域

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人口減少時代における地域経済とそれを支える地域
山本 謙三 宍戸 信哉
◎ NTT データ経営研究所 取締役会長
Kenzou Yamamoto
◎住宅金融支援機構 理事長
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済と
それを支える地域金融機関
人口減少の実態をよく見ると
ものが地方によって支えられてきたというのは事実です
し、地方が大事という主張には理があると思います。し
宍戸 日本創成会議が発表した「消滅する市町村 523」
かし一方で、都市間の国際競争が激しい時代に、東京や
が各界に大きな衝撃を与えています。皆それぞれが漠然
大阪といった大都市が活力を失ったら日本経済全体がだ
と思っていたことが、数字をもって明確に、不都合な真
めになってしまうという議論も非常に説得力がある。で
実として示されたので、これだけの話題になったのだろ
すから、地方と大都市部のどちらかに偏った議論をする
うと思っています。
のではなく、両者を有機的につないで、その中で地方と
まずは、少子高齢化の中で地域社会はどのような課題
を抱えるのでしょうか。
山本 これまで国土の維持管理や暮らし、技術といった
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Housing Finance 2014 Autumn
大都市部がそれぞれの比較優位を持った産業や経済を構
築していくということが大事だと思っています。
人口動態については言えば、大きく3つの顕著な傾向
があります。1つは高齢者数です。国立社会保障・人口
↗ と思います。
問題研究所の推計では、日本全体で見ると、これからも
宍戸 今ご指摘された3つの問題についてですが、1番
高齢者数は増加して、2040 年代前半にピークアウトす
目の点については、地方と大都市部の問題は対立軸では
るのですが、これを地域別に見ますと、二極化が起って
なく、調和の中で考えなければいけないというのはおっ
いるのです。47 都道府県のうちおよそ半数の県では、
しゃるとおりだと思います。東京を始めとする人口が集
早くも 2020 年代に高齢者数が減少局面に入る一方で、
中する大都市部と地方との間の問題は、対立構造の中で
2030 年代を挟んで、残りの半分は 2040 年代以降に減り
捉えるやり方では解決できなかったわけですね。そこに
始める。高齢者人口のピークアウトという面で極端に二
気がついている方が多くなってきているのではないかと
極化した日本という未来像になっています。
思うのです。
そうすると、医療や介護関係の施設は、地方では 2020
山本 そのとおりですね。
年代以降は余剰気味になる一方、大都市部では 2040 年
宍戸 2点目の地方内部での人口移動の話は、先日、身
代に向かってどんどんと不足感が強まってくるので、例
を持って実感しました。宮城県塩竃市に帰省したんです
えば、退職後の高齢者に地方にうまく移住していただけ
が、被災地でもある自分の生まれ故郷を見ながら2つの
るような仕組みを考えていくことが、大事になってくる
ことを思いました。第一に、東北の被災地は、過疎地域
と思います。
が抱えている問題を、あの津波を契機として全国に先駆
2点目ですが、地方の内側を見ると、中核都市にもの
けて深刻かつ厳然と提示しているのだと思いました。次
すごい勢いで人が集中しています。典型的な例が北 ↙
に感じたのは、東北の中心都市である仙台市とその周辺
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
↘ 海道と札幌市でして、北海道は転出者の人数(転出超
の地域、例えば私の故郷である塩竃市では、構造変化が
過数)が 47 都道府県の中で最も多いのですが、一方で
かなり明確に表れているということです。先ほどのお話
札幌市は、全国の政令都市 20 都市中、流入人口(転入超
のとおり、北海道内では札幌市に集中している、九州で
過数)が最も多い都市ということで、北海道の中でもの
は福岡市に周辺から多くの人が集まっている。人口の増
すごい勢いで人口移動が起こっている。高齢者にとって
減は地域差が非常にある現象だという御指摘は、今後政
も、都市には、病院とか介護施設、スーパーマーケット
策を考えていく際に、きちっと押さえなきゃいけないと
等の生活に必要な施設がそろっている。逆に地方部では
改めて思いました。
雪かきが負担になるということもあり、高齢者の方々が
山本 地方中核都市への人口流入の1つの要因として
札幌や帯広、旭川といった都市に移ってくる。このよう
は、典型的には地方出身で三大都市圏に居住している団
な人口移動は高齢化とともに、今後より激しくなってく
塊世代のうち、
一定の数の方が地元に戻られる。ただし、
るのではないかと思っています。
自分の実家までは戻らずに、地元でも暮らしに便利な大
3点目は単身世帯の問題です。総世帯数自体は 2010
都市に住居を構えるというケースが多いみたいですね。
年代後半にピークアウトしてくるはずなのですが、晩婚
宍戸 3点目の御指摘にも絡みますが、高齢者の現実生
化や未婚化に伴って若者の独身世帯が増加するというこ
活の中では郊外部の戸建て住宅では草むしりなどの負担
れまでのパターンに代わって、これからは高齢者の単独
も大変です。従前担保されていた生活利便の変化もあっ
世帯が増えます。スーパーマーケットや病院などが近く
て、昔は都市と言えば若い人が住むというイメージだっ
にない高齢単身世帯が増加するという問題を社会的にど
たのが、最近はむしろ高齢者のほうが都市に魅力を感じ
うやって克服したらいいかという課題が大きくなる ↗
ていると言えるということでしょう。
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山本 謙三
Kenzou Yamamoto
NTT データ経営研究所取締役会長
1954 年 1 月福岡県福岡市生まれ。1976 年に東京大学教養学部
教養学科(国際関係論)卒業、日本銀行入行。金融市場局長、米州
統括役、決済機構局長、金融機構局長などを経て、2008 年理事。
2012 年日本銀行退任後、現職に就任。専門分野は、金融機関・金
融システム、金融政策、決済。
山本 そうですね。札幌市などでは、現在、高齢者向け
産基盤の地球規模での分散という形で一番端的に現れて
の住宅や介護施設等の整備が相当進められている。今か
いるので、1つの工場全体がそのままの形で日本国内に
ら高齢者向けの施設を前もって整備して、将来的には全
とどまるということがなくなってきている。このため、
国から高齢者を誘致するという一種の産業都市としての
これまで工場や製造業を抱えていた地域から人口が流出
成長を志向するのは、非常に合理的な都市戦略だと思い
するという傾向が非常にはっきり見えます。
ます。
今後、どういう産業が地方で発達していくのかと言う
と、1つは同じ製造部門でも研究開発の部門は雇用の吸
地域活性化のために
必要な産業とは
収力がありますので、R&D 部門が先進国にとっては強
味になると思いますね。ただ、具体例で言えば、R&D
産業は、つくば市や横浜市といった既に知識の集積があ
宍戸 地方都市を復活、再生させるためにグローバル競
る都市や地域に集中している。ですから、それぞれの地
争力のある製造業の誘致が必要だ、といった論調には、
方、地方で考えていく際には、どういう R&D の基盤が
すごく違和感を覚えるのですね。今時そんなものが各地
あるか、そうしたものをどう維持して活用していくかと
域に立地するとは考えられないので、別の方法を考えな
いったこと考えることが必要です。
ければいけないと思うんです。
もう1つは、
一言で言えば自然資源の有効な活用です。
山本 はい。現在、日本全国の各地域が影響を受けてい
観光や一次産業の農業などそれぞれの地方にとって優位
るのは、これまで話してきた人口動態のほか、経済のグ
性のある部門を、再度活性化させていくということが重
ローバル化です。経済のグローバル化は工場を含めた生
要になると思うのですね。
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Housing Finance 2014 Autumn
宍戸 仙台市でいえば、東北大学があって例えば金属系
が非常に大きなウエートを占めるらしいんです。典型的
に絶対的優位性がある。また、東北福祉大学を中心に医
には若者が観光に来て、ツイッターなどであそこがおも
療・福祉にも強みを持っているので、そういったものが
しろかったとか情報を発信するんですね。そういうとこ
基盤となるのかも知れませんが、仙台市から離れた地域
ろから情報を集めると、この土地の何が人々に訴える魅
では、やはり伝統文化に裏打ちされた観光や食べ物とい
力なのか見えてくる。おっしゃるとおり、現場にいると
った部分で優位性というか特性を出さないといけないで
魅力は当たり前になって、見落としてしまいがちですの
すね。私は今回行って愕然としましたのは、松島湾は牡
で、外からの声をなるべく集めるという努力も必要だと
蠣で有名なんですよ。仙台の牡蠣はもともとは非常に小
思います。
ぶりで、酢牡蠣には一番おいしい牡蠣だったんです。と
宍戸 でも、その魅力の中身は、それぞれの地域地域で
ころが、今は広島の牡蠣と同じぐらい大きいのです。お
違うという形にならないとおもしろみがないですね。
客様に喜ばれるために改善した結果なのでしょうが、ど
山本 そうですね。それぞれの地域の持っている特色、
この町も食べ物や観光も含めて、1つのパターンの中に
経済学的に言えば比較優位をどう広げていくかが戦略を
標準化してしまった部分があるのではないかと思うんで
立てる上で重要な点ですね。それが地方と都市のつなが
す。したがって、もう一度伝統的な農作物や産業といっ
りにもなっていきますし、やはり、新しい施設を全国至
たものに立ち返って考えてみることがすごく大事だと思
るところにつくるということは、余り効果的ではないと
うのですが、その場合、魅力や優位性といったものは実
思いますね。
は外部の人が気付かせてくれることがあると思ったりし
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
ます。
山本 そうですね。全国各地、最近はアジアからの観光
客の勢いがすごいわけですけれども、アジア人観光客が
空き家問題と中古リフォーム
〜人口減少社会における住宅政策〜
何をしに来られるか。もちろん雪を見るとか、温泉に入
宍戸 人口移動、人口減少は住宅政策でも大きな課題と
るとかもありますが、もう1つの大きな要素として、そ
なります。地方中核都市で起きているのは、中心部に超
れぞれの土地のラーメンを食べるというのがあるんです
高層マンションが建築されて、若い世代だけでなく、団
ね。土地土地のラーメンを食べることが楽しみになると
塊世代が転居してくるため、団塊世代がそれまで住んで
いうことは、今でこそ我々も知っていますけど、誰かに
いた郊外部の戸建て住宅が空き家になるという現象で
言われないとなかなか気付かない。
す。いま空き家問題がクローズアップされていますが、
宍戸 思い付きで恐縮ですが、松島湾には 250 ぐらい
どのようにお考えですか。
の島があるのですが、そのうち人が住んでいるのは4島
山本 実は、子育ての世代は、今でも比較的郊外部に住
だけで、その4つの島には、それぞれに地元の祭りがあ
むという傾向はあるんですね。先ほども引用しました住
るんです。一つ一つの島の人口も減る中で、単独ではそ
民基本台帳人口移動報告を見ても、0歳〜9歳の年齢層
の祭りを復活することはできないので、単純な再生を目
の人口は、東京 23 区や三大都市圏の政令都市で実は転
指すのではなく、地域でまとめて、集約して再生するこ
出超過なんです。つまり子育て世代が、大都市圏の中心
とで、
4つの祭が1つの観光資源になるかも知れないと、
部ではなくて郊外部に住宅を求めるという傾向が見られ
お話を聞いていて、そんな感じがしました。
るんです。そうすると、すべてという訳にはいかないで
山本 外国人観光客の情報源は、来られた方々の口コミ
すが、高齢者がこれまで住んでいた住宅に子育て世代が
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入居するという住み替えのサイクルが回ればいいはずな
戸建て住宅を購入して上がりというものですけど、新住
んですね。ただ、これを進めるには、地方自治体や住宅
宅すごろくは、スタートは同じなんですけど、子供がで
金融支援機構も含めた金融機関がみんなで計画的に取り
きたら郊外部の庭つきの戸建中古住宅を買ってに住み、
組まないと、なかなか難しいですね。
上がりは都心のマンション又は高齢者用の介護サービス
宍戸 大きくまちづくりという意味では、数十年前に開
付き賃貸住宅でゴールというのはどうですか。住まい方
発されたいわゆるニュータウンで、新たに若い世帯に住
の発想を変えていかないと言うのですけれども、誰も賛
んでもらうため、魅力をつけようじゃないかという動き
同者がいないんですね。
があちこちで起きています。
山本 私は賛成します。
(笑)
住み替えのサイクルを円滑に回転させていくために
宍戸 ありがとうございます。
は、やはり中古住宅流通とリフォームがカギだと考えて
山本 高齢者の住み替えは、アクセスが不便とか雪かき
います。
が大変といったことを理由として、徐々にですが実際に
山本 よくわかります。
起こっているわけですね。ですから、子育て世代がリフ
宍戸 中古住宅流通とリフォームが動くように、金融・
ォーム後の一戸建て中古住宅に住むという仕組みをどう
ファイナンスの面でも対応していかないといけないです
やってつくっていけるかがポイントです。若い方の持ち
し、税制面での整備も求められています。自戒の念を込
家比率は低下していますので、何が何でも自分で購入し
めて言いますと、親世代が都心のマンションに転居して
なければいけないと考えているわけではない。若い世代
も、子供が帰ってくるかもしれないからと、それまでの
でも新築に住みたいという方も多いのでしょうが、中古
住宅は売ったり貸したりするのではなくてそのまま放置
リフォーム後の一戸建て賃貸住宅という選択もおかしく
する。私もその立場になってしまうとそういうふうに考
はないと思いますね。
えてしまうと思うんですね。でも、これはものすごい無
宍戸 御案内のように、今の住宅は、50 年から 60 年は
駄を作っているわけで、住まない家は売るとか、賃貸す
もつんですね。ですから、しっかりメンテナンスをして
ることを促すような取り組みをとっていかないといけな
リフォームすれば機能面でも十分ですし、資産としても
い。
無駄にならない。
山本 全く同感です。私自身も、実家は数年前に売るま
山本 今の日本の年齢層別の金融資産を見ると、高齢層
で、親が亡くなった後の 10 年ほどの間ずっと空き家で
に大きく偏っているわけです。かつ、70 歳以上になっ
した。非常にもったいないですね。新築中心の今の状態
てもネットの金融資産が増えているんです。私が学生時
というのは長い目で見ると、住宅という不動産の供給を
代に習った経済学とはまったく違うわけです。本来は、
増やし続けて、不動産の価値の目減りを早めているとい
老後に取り崩すために現役時代に貯蓄するはずなんです
う印象がありますね。ですから中古住宅をリフォームし
が、老後になってもちっとも取り崩されなくて、むしろ
て流通させる、そうした物件の量を増やして、サイクル
貯蓄が増えているんです。
を回していくために、中古住宅市場を整備するというの
宍戸 そうなんですよね。
は極めて大事だと思っています。
山本 皆さん、長生きしたときの生活費とか医療費が心
宍戸 実は私、新住宅すごろくというものを提唱してい
配で、できる限り節約される。でも、金融資産の他にも
るんです。昔ながらの住宅すごろくは、宿舎やアパート
住宅や不動産といった資産がしっかりあるのであれば、
がスタートで、賃貸住宅、マンションを経て、郊外部の
例えばリバースモーゲージを含めて、これを有効に活用
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Housing Finance 2014 Autumn
して、
もっと投資や消費にお金を回すこともできますし、
す。これは異次元の金融緩和の影響で、専ら利ざやが縮
あるいはリフォームした住宅を若い人たちに貸すといっ
小しているのが最大の理由です。収益が上がらないのは
た行動が理屈上は成立すると思うのですが、相続の問題
目利き能力が足りないからだといったことが言われてい
もありますし、担保価値が低くしか評価されないなど現
ますが、そうではなくて、貸出しに努力をすればするほ
実には問題が多いのでしょう。
ど利ざやが縮小して収益が悪化するというのが実態だと
思います。貸出しの努力もされ、かつ、人件費と物件費
を最大限圧縮する努力をして、基礎収益の悪化分を下支
人口減少社会における
地域金融機関の現状
えして、何とか地域に貢献されているという感じで私は
見ています。
宍戸 人口減少に伴って地域社会で様々な問題が顕在
将来に向けた課題の第一は預金です。2020 年代にな
化していますが、地域を支える金融機関の現状はどのよ
って高齢者数がピークアウトする県では、年金の流入が
うなものなのでしょうか。
減少することになります。これまでは年金のコンスタン
山本 収益面も含めて、厳しい環境だということは間違
トな流入が地域金融機関の預金を下支えしてきた面があ
いないと思います。信用コストが大きく下がっているこ
るのですが、これが先細る。一方で、相続が発生して預
とと株価が上がったことを要因として、表面上、当期利
金が子の世代のものになった途端に他県へ流出してしま
益は結構好調なのですが、預金と貸出しの本業を示す基
うという現象が出てくる。試算してみると、約4分の3
礎収益は、悪化傾向に歯どめがかからないという状態で
の県では、相続で預金が流出する。半分ぐらいの県は、
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
宍戸 信哉
Shinya Shishido
住宅金融支援機構理事長
1948 年宮城県塩竃市生まれ。1971 年に東北学院大学法学部卒
業、住宅金融公庫入庫。1990 年広報課長、1998 年情報システム
部長、2000 年企画部長、2001 年大阪支店長を経て、2003 年住
宅金融公庫理事。2007 年株式会社エイチ・ジイ・エス専務取締役、
同年株式会社住宅債権管理回収機構代表取締役社長。2011 年4
月住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫設立以来初めての住
宅金融公庫出身の理事長として就任。
Housing Finance 2014 Autumn
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相続された預金の2割程度の規模で流出することになり
ということで、地域金融機関は住宅ローンに力を入れら
ますので、ストック商売の面がある金融機関にとっては
れています。一方、将来、人口が減り、世帯数が減るわ
厳しい状況が待っていると思います。
けですから、必然的に住宅着工が落ちるという見通しが
一方の貸出しについては、
先ほどお話しましたように、
ある。住宅ローンは現在でも、過当競争で体力勝負にな
産業構造が大きく変わって、人口減少に伴って企業数も
っているといわれますが、この点はどのように見られて
減るという状況の中で、うまく新陳代謝がつくれるかが
いますでしょうか。
課題だろうと思いますね。
山本 金融機関から見ると、住宅ローンのメリットとい
宍戸 縮小均衡になっているんですかね。
うのは長期で残高が残るということと、金利変動型が多
山本 預金とか貸出しはマクロ経済の話ですので、金融
いので、金利リスクが相対的に小さく見えるということ
機関全体として縮小均衡になるとは思っていませんが、
なのだと思います。地域金融機関も、新築住宅着工が今
バランスシートが縮む金融機関は出てくると思います。
後増えるものではないことは十分に理解されています
これはつらいです。ストック商売を基本とする金融機関
が、一方で足下の金融環境で貸出しが出しやすいのは、
のバランスシートが縮小してくると、計画が立てにくく
やはり住宅ローンなんだと思います。猛烈な貸出競争が
なります。ですから、その場合はどうやって経営を維持
起こって金利が下がるという状態が起こっていますが、
していくか。選択肢が幾つかあって、預金や貸出しを引
他に運用チャンスがないということに結局なるのでしょ
き上げるように競争力をつけていくか、さもなければ、
う。
預金、貸出し以外のフローの商売に進出する。今ですと
宍戸 だから、我々としても、住宅ローンの中でも民間
投資信託や保険の販売をしたり、決済手数料を増やす、
金融機関では提供が難しいといわれる超長期固定金利の
又は、全く別の附随業務を始めるといったことです。更
フラット35を取り扱って頂いて、フィービジネスを一
には、
合併などによってバランスシート全体を拡大する。
部分おやりになったらどうですかと提案しているのです
いろいろな選択肢があります。
ね。利幅はあまり大きくないかもしれませんが、確実に
ただ、やはり基本は、地域で人々が暮らしている限り
利益になる商品だと思っています。変動型から超長期固
金融ニーズがあるはずなので、この方々向けの金融サー
定金利型(フラット35)まで住宅ローンをフルライン
ビスの提供をどうやって維持していくか。これが、これ
アップ用意して頂き、ご利用者の要望にワンストップで
からも地域金融機関の役割であると思います。
対応してもらうということは金融機関さんにとって良い
宍戸 先日、ある地方銀行の頭取とお話をした際にも、
ことだと思っています。このような理解をしていただけ
その頭取が地域の文化とかそういうものを非常に大事に
る金融機関が増えればという思いで取り組んでいます。
考えていて、自分たちはそのために存在するんだという
ようなことを非常に強く主張しておられた。ちょっと感
動したのと同時に私達でできることは少ないかもしれな
いが、全面的に応援したくなりました。これまでどおり
地域全てが今までどおりというのではなく、文化圏単位
で集中させた形でよみがえってくれればと思いますね。
ところで、私どもが扱っています住宅ローンについて
言えば、現在は信用リスクは低いし、長期資産を持てる
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Housing Finance 2014 Autumn
地域金融機関に期待される役割とは
中心的役割を果たしてほしいと思います。
宍戸 なるほど。
山本 これからの地域金融機関に求められる役割はま
山本 コミュニティづくりという意味では、これから地
だまだ多いと思っています。1つは、人口動態や経済の
方ではインフラの老朽化と更新の問題が起こってくる。
グローバル化など環境が変わる中で、家計、コミュニテ
財政的に言って道路、公民館と言ったインフラを全て更
ィ、企業といったもののつながりを再構築していくとい
新することはできないと思いますので、優先順位をつけ
うことだと思うのです。例えば、家計のメインバンク化
た上で、PFI や民間資金を活用していく。その際、どの
といっても、地域に住んでいる高齢者の方だけでなく、
ような優先順位をつけて、どういうコミュニティづくり
東京に住んでいる子、孫も含めて全体のメインバンク化
をしていくかという議論に金融機関も積極的に参画する
を目指して、相続や孫の教育資金を取り込んでいくとい
べきだと思っているんです。
った観点や、地元に近い中核都市に居を構えて、親御さ
宍戸 地域に根差している金融機関が入ることによっ
んを近くに呼び寄せるといった方々の全体の金融ニーズ
て、話がうまく回るということはあるかもしれませんね。
を満たしていくといった観点、あるいは高齢者の単身世
山本 私が提唱していて全く実現していないのですが、
帯を例えば IT を活用してコミュニティにつなぎとめる
例えば、金融機関がホームページ上にネット型のマーケ
といった観点など、地域金融機関は圧倒的に地方の情報
ットを作って、取引先がそれぞれ出店して、預金者がア
を持っていますし、シンクタンク的機能も担っています
クセスして買い物をする。金融機関としては場を提供し
ので、このようにコミュニティを再構築していくときの
ているだけですが、バーチャルなコミュニティのような
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
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ものをつくっていくイメージと思っているのですけれど
これから地方で人口が減少していく一方で、金融サー
もね。
ビスがインフラであることを考えると、サービスの提供
宍戸 例えば、各地に良い地酒がありますが、そういう
は続けなければいけない。そうすると、従来の金融業の
ものは、売れるからと言って全国のデパートに出品する
枠組みで、収益的に維持できるのか。金融業の将来を展
のではなくて、むしろ今おっしゃられたようなサイトな
望すると、枠組みをもっと弾力的に考えていったほうが
どで、ここでしか取り寄せられないといった要素を持た
いいんじゃないかと思っているんですね。
せたほうが、特性も出せますし、ブランド化という意味
各金融機関を見ていても、支店を維持する、あるいは
でも効果があると思いますね。
支店を閉鎖して出張所に置き換えるといったことで、か
山本 実際は、宣伝等に相当ノウハウが要ると思うので
なり苦労しておられる。IT を活用すれば、必ずしも支
すが、それぞれの地域の特色を出せるような形になれば
店でなくてもいいと思うのですが、地元から見ると、や
良いと思います。その際、手数料を取ると、
「それは金融
はり金融サービスへのアクセスが容易かどうかは大きな
機関の業務なのか」と叱られるかもしれませんので、手
意味があるので、
金融機関側としてもそれに応えていく。
数料は取らずに。
(笑)
そうすると、経営的に考えた場合、余り硬直的な枠組み
宍戸 金融業として手数料を取れないような業務をし
で考えていくとうまくいかないのではないかなと思うん
ろということなのですね。
です。
山本 もちろん、金融に少しでも関連するサービスに対
宍戸 なるほど。金融というのはサービス業だとよく
しては、手数料を取っていただいて。
(笑)
言われますけれども、そういうやわらかな頭で考えない
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Housing Finance 2014 Autumn
と、次の展開はないということですな。
日本でももう少し突っ込んだ議論ができるよう、機構か
山本 そうですね。先ほどお話した家計のメインバン
らジニーメイに職員を勉強のため派遣することとしてい
ク化ですが、見守りから墓守りまでやったらどうかとよ
ます。
く言っているのです。これこそ金融業なのかと言われそ
もう一つは、証券化支援事業(フラット35)の保証型
うですが、預金者の子の世代から見ると、お年寄りにな
の活用です。今、大いに活用されている買取型は民間金
られた親御さんと離れて生活するときに心配なのは、見
融機関から住宅ローンを買い取り、機構が証券化を行っ
守りであり、その後の墓守りですよね。そういうことも
ていますが、
保証型は民間金融機関自らが証券化を行い、
含めて、地域を支えていくためのサービスを、どうやっ
機構はそのサポートをする仕組みです。中でも、中小の
てパッケージとして提供できるかが非常に重要だと思っ
金融機関でも証券化ができるという意味で、複数の金融
ています。
機関の住宅ローン債権を一括して証券化するマルチセラ
ー方式をインフラとして整備していきたいと思っていま
す。
それから、市場がまだ小さい中でのインキュベーター
機能的な役割を、我々も持たなければいけないと思って
います。一例としては、サービス付き高齢者賃貸住宅へ
の融資です。現状では医療法人が大手のサービス提供事
業者と組んで運営している案件は、民間金融機関が融資
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
JHF の役割
〜地域金融機関のサポーターとして〜
されて非常にうまくいっているのですが、一方で地方の
中小規模の案件はなかなか難しいんですよね。経営や収
支を見通す上で、実はサービス部分のウエイトが大きい
宍戸 我々も、住宅金融支援機構となって、民間金融機
ため、目利きが難しい。だから機構がサービス部分の目
関の皆さんから見て、旧公庫時代のコンペティターから、
利き力をつけてワークさせられないかと考えています。
サポーターとしての位置付けになったのですが、これか
そして、地域の金融機関と協調して融資をする、その際、
らの時代、更に深い意味でサポーターとして働かせてい
抵当権の順位は同順位にしており、既に 27 程の地域金
ただくためにはどのような手法があるのか、今いろいろ
融機関(平成 26 年 10 月1日現在)と協定を結んでいま
と考えているところです。
す。民間金融機関と機構がお互いの特性を結びつけてビ
1つは先ほど出ましたが、リバースモーゲージです。
ジネスをつくるということを本格的に考え始めたので
リバースモーゲージには、都銀、地銀をはじめ各金融機
す。
関も取り組まれている、でも、なかなか普及しない。住
山本 なるほどね。
宅価格や土地価格の将来予測や不動産評価の問題、将来
宍戸 足下の金融情勢の下、有利な条件で資金の調達が
金利の問題等に加えて、融資期間が借り手の寿命によっ
できている。それを民間金融機関のサポートという形で
て左右されるという制度に根源的な要素があるので、仕
還元していきたいと考えています。
組み自体に難しさがあります。アメリカでは、公的機関
山本 リバースモーゲージの制度設計上一番悩ましい
であるジニーメイが枠組みというかインフラを用意し
のは、融資期間が不確実であることに起因するリスクを
て、その中で民間金融機関がワークしている。だから、
誰が負担するかという問題ですよね。日本人の長寿化
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は、世界にも類例のないペースで進んできましたし、今
めながら中古住宅のマーケットを整備していくといい循
後どこまで延びるか正直言うとよくわからないものです
環が生まれるのだろうと思います。
ので、民間で計算して想定されるリスクにすべて対応す
宍戸 最後に、我々に対する御提言をいただきたいと思
るというのはさすがに難しいと思います。公的な主体が
います。
最後の最後のリスクを補填するという枠組みで考えてい
山本 今日の話をまとめさせて頂くと、人口が減ること
くのは、自然なことだと思います。このリスクをピュア
は仕方ないにしても、人々が生活する限り必ず金融ニー
に取り出して、そこに公的な負担を入れるといった仕組
ズはある。それはお金を借りるということかも知れませ
みが最も自然だと思いますね。
んし、資産運用かも知れませんが、地域の金融機関を中
宍戸 機構でも、リフォーム資金をリバースモーゲージ
心としてその金融ニーズに応えていくという仕事は変わ
的に償還していただく融資を扱っているのですが、資産
らずある。その一方で、環境はどんどん変わっています
を持っている方がよりその資産を活用できる環境づくり
ので、金融の概念自体も柔軟化させながら、そのニーズ
をしていけないか、現在勉強中です。
に応えていくことが求められているのだと思います。そ
山本 私の知り合いで、一人だけリバースモーゲージを
の中で、住宅はいつの時代でもどこの国でも、生活の基
実験的に借りてみたという方がいるんですが、担保価値
本インフラなのですね。その住宅をベースに不動産を流
を余りにも低く見積もられたということでした。借入限
動化という表現がいいのかわかりませんが、典型的には
度が時価に比べあまりに少なく、本当は借りる気になら
リバースモーゲージですが、その価値を金融に振りかえ
なかったという感想でした。融資する側で、それだけ大
る仕組みを整備することで、人々の生活をより豊かにし
Kenzou Yamamoto
Shinya Shishido
人口減少時代における地域経済とそれを支える地域金融機関
きな不動産価値の下落リスクを計算しなければならない
ていただくということを、ぜひよろしくお願いしたいと
とすると、海外の例のように、公的な関与が必要な部分
思います。
が出てくるというのは、よく理解できます。
宍戸 本日は、どうもありがとうございました。
宍戸 不動産価格、特に建物の価格については、長期優
良住宅という国が推進している制度がありますが、この
制度のポイントは、必ず定期的に住宅の点検をしなけれ
ばいけないこととなっていることです。そしてリフォー
ムした場合は記録を残さなければいけない。ですので、
我々が御融資した住宅で、図面もしっかり残っていて、
リフォームの履歴や記録もある、そういう住宅の価値は
30 年したらゼロになる、20 年したらゼロになるという
ことにはならないと考えています。長期間にわたって住
宅の価値が維持できるという意味で、融資期間が不確実
であることに起因するリスクの緩和にもなる。金融だけ
ではなくて、このような仕事も我々がやれる仕事だと思
っているのです。
山本 そのとおりですね。結局、住宅価格のうち、上物
の価値が評価されない点が大きいので、リフォームを進
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Housing Finance 2014 Autumn
(2014 年9月 12 日実施)
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