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PDFデータ - 九州地域産業活性化センター

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PDFデータ - 九州地域産業活性化センター
日韓自由貿易協定(FTA)の影響と
日韓海峡経済圏の可能性に関する調査
報 告 書
2005 年 3 月
財団法人 九州地域産業活性化センター
は じ め に
日韓自由貿易協定(日韓 FTA)締結に向けた動きは、2003 年6月の日韓首脳会談で政府
間交渉開始の合意に至り、同年 12 月から 2005 年内の締結に向けた本格的な協議が始まり
ました。日本側は農水産物、韓国側は工業製品の輸入増大等について懸案事項も抱えるも
のの、企業の国際競争力の強化や市場の拡大等で、大きな経済効果が期待されています。
日韓 FTA が締結されれば、日韓は新たな時代を迎えるとともに、アジアにおいて大きな影
響力を与えるとみられます。
韓国と距離的に近い九州では、韓国南部地域を中心に、日韓 FTA の恩恵を最も受ける地
域のひとつです。日韓 FTA が締結され、日韓の交流環境が向上すれば、人流や物流と比較
して交流が低調である企業交流や産業交流も進展していくことが予想されます。とくに九
州と韓国南部は、製造業をはじめ産業構造が類似しており、協力できる分野は多岐にわた
ると思われます。
本調査は、日韓 FTA が九州に与える影響と、日韓経済交流における九州の先駆的な役割
を明らかにすることを目的とし、統計による日韓海峡圏の現状や、日本企業と韓国企業へ
のヒアリング調査を実施しました。また、九州と韓国南部の企業と有識者に対してアンケ
ート調査を行い、日韓 FTA に対する両地域の意識の違いを把握することができました。そ
してこれらの調査を通じて、九州と韓国南部地域における経済圏(日韓海峡経済圏)構築
のための戦略を提言しています。
本報告書が、九州と韓国における産業交流の発展の一助となれば幸いです。
なお、本調査の実施にあたり、取材にご協力いただきました企業や自治体、関係機関に対
して、厚くお礼申し上げます。
本調査は、学識経験者や有識者、産業界、地元自治体、韓国の関係機関の方々など、日頃
から韓国との交流を行っている専門家による「日韓自由貿易協定(FTA)の影響と日韓海
峡経済圏の可能性に関する調査委員会」を設置し、貴重なご意見を賜りました。また、専
門的な立場から本報告書のとりまとめには、(財)九州経済調査協会にご協力をいただきま
した。ここに関係各位のご尽力に対し、深く感謝を申し上げます。
2005 年3月
財団法人
会
九州地域産業活性化センター
長
大 野
茂
■目
次■
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概況
1. 九州と韓国の貿易・投資動向
1
(1)貿易動向
1
(2)投資動向
5
2. 九州と韓国の人的交流
7
(1)旅客ネットワーク
7
(2)人的交流
8
3. 九州と韓国の地域連携
10
(1)地方自治体による交流・連携
10
(2)国による交流・連携
12
4. 日韓海峡圏の概況
13
(1)人口・経済規模
13
(2)日韓海峡圏を構成する県市道の概況
15
(3)産業集積
16
(4)主要プロジェクト
17
第Ⅱ章 日韓自由貿易協定をめぐる動向
1. 日韓自由貿易協定とは
31
(1)わが国の自由貿易協定・経済連携協定の取組状況
31
(2)日韓自由貿易協定の取組状況
33
2. 日韓自由貿易協定の影響
35
(1)日韓 FTA のスコープ
35
(2)日韓 FTA の経済効果
39
3. 日韓自由貿易協定の課題
40
第Ⅲ章 日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
1. アンケート調査の概要
41
(1)調査目的
41
(2)調査の概要
41
(3)調査方法等
42
(4)調査実施体制
42
2. 企業アンケート調査結果
43
(1)回答企業の属性
44
(2)日韓 FTA について
45
(3)日本・韓国の経済連携について
47
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
51
3. 有識者アンケート調査結果
53
(1)回答者の属性
54
(2)韓国との関係について
55
(3)日韓 FTA について
58
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
63
第Ⅳ章 日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
1. 農水産業・食品産業
67
(1)九州と韓国南部における農業・水産業の現状
67
(2)九州と韓国の食料品貿易の動向
73
(3)日韓 FTA の農水産業への影響と今後の戦略
75
2. 機械・金属産業
78
(1)九州における機械・金属産業の現状
78
(2)九州と韓国の機械・金属貿易
79
(3)九州の機械・金属産業の日韓分業
81
(4)機械・金属産業の連携の方向性
83
3. 半導体産業
86
(1)九州と韓国の半導体産業の現状
86
(2)九州と韓国の半導体貿易の現状
89
(3)半導体産業における九州と韓国の連携
91
4. 自動車産業
93
(1)日韓自動車コリドー構想の再検討
93
(2)九州と韓国の自動車貿易の現状
96
(3)日韓海峡圏における自動車産業協力の将来方向
98
5.物流産業
102
(1)九州・韓国の海上輸送の現状
102
(2)激化する港湾間の競争
105
(3)海上輸送における九州・韓国の連携の方向性
107
6. 情報サービス産業
110
(1)九州における情報サービス産業の概況
110
(2)韓国における情報サービス産業の現状
113
(3)ソフトウェア貿易と海外へのアウトソーシング
114
(4)九州と韓国の情報サービス産業における連携の可能性
116
7. 観光産業
118
(1)九州から韓国への観光客の動向
118
(2)韓国人観光客の動向
119
(3)韓国人観光客の九州観光の特徴
121
(4)九州における韓国人観光客の集客戦略
124
第Ⅴ章 日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
1.「日韓海峡経済圏」が有するポテンシャル
127
2.「日韓海峡経済圏」が抱える課題
128
3.「日韓海峡経済圏」の形成に向けた方向性と方策の提言
130
(1)一体的なビジネス環境の形成
130
(2)国境を越えた産業連携の促進
135
(3)日韓海峡経済圏の体制づくり
141
4.「日韓海峡経済圏」の形成に向けたアクションプログラム
143
おわりに
144
【資
料】
九州と韓国の経済連携の可能性に関するアンケート調査票
企
業アンケート
有識者アンケート
委
氏
◎
名
員
所
名
簿
属
役職
植木
謙治
九州経済産業局国際企画調査課
課長
小川
雄平
西南学院大学商学部
教授
鈴木
宣弘
九州大学大学院農学研究院
教授
篠原
統
第一施設工業株式会社
代表取締役
髙宮
俊諦
株式会社タカミヤ
代表取締役社長
中澤
武信
九州旅客鉄道株式会社
野口
俊郎
九州電力株式会社
朴
基植
韓国貿易センター(福岡)
館長
前山
修一
財団法人
九州地域産業活性化センター
専務理事
矢幡
卓美
株式会社
イックストレード
代表取締役社長
山下
雅弘
福岡県国際交流課
船舶事業部
部長
情報通信事業部
戦略企画グループ長/副部長
企画主査
(五十音順、敬称略)
◎ は委員長を示す。
委
第 1 回委員会
員
会
2004 年 7 月 21 日
・
経
過
[於・(財)九州地域産業活性化センター]
[於・(財)九州地域産業活性化センター]
調査研究中間報告について
第 3 回委員会 2005 年 3 月 2 日
・
議
企画書(案)について
第 2 回委員会 2004 年 11 月 25 日
・
審
[於・(財)九州地域産業活性化センター]
調査報告書(案)について
調査の目的
日韓自由貿易協定(以下、日韓 FTA)締結に向けた動きは、2003 年に大きな展開をみせた。
これまで研究機関や経済界の間で研究交流や意見交換は続けられてきたが、2003 年6月の日
韓首脳会談で政府間交渉開始の合意に至り、同年 12 月から 2005 年締結を目標とした本格的
な協議が始まった。日本側は農水産物、韓国側は工業製品の輸入増大等について懸案事項も抱
えるが、企業の国際競争力の強化や市場の拡大等で大きな経済効果が期待される。日韓 FTA
が締結されれば、日韓は新たな時代を迎えるとみられている。
本調査は、日韓 FTA が九州に与える影響と、日韓経済交流における九州の先駆的な役割を
明らかにすることを目的とする。半導体、自動車、ソフト、観光等の産業分野において日韓
FTA が与える影響や日韓 FTA に期待される役割を明らかにし、九州と韓国の交流を支えるイ
ンフラや制度のあり方を分析し、九州と韓国南部地域における経済圏(日韓海峡経済圏)構築
のための戦略を提言する。
調査対象地域
調査対象地域は、以下のとおりである。
九
州:福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、山口県の一部
韓国南部:釜山広域市、光州広域市、蔚山広域市、全羅南道、慶尚南道、済州道
本報告書の全体フロー
第Ⅰ章
拡大する日韓経済交流
と日韓海峡圏の現況
1.九州と韓国の貿易・投資動向
(1)貿易動向
・増加傾向の輸出額と頭打ちの輸入額
・韓国の貿易窓口機能を果たす九州
・九州の対韓国品目別貿易
∼輸出は一般機械、電気機器が中心
(2)投資動向
・低水準にとどまる韓国への企業進出
・福岡に集中する韓国企業の九州進出
2.九州と韓国の人的交流
(1)旅客ネットワーク
・充実した旅客ネットワーク
(2)人的交流
・年間 94 万人が往来
・年間 30 万人にのぼる九州への入国
韓国人
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
企業アンケート調査
有識者アンケート調査
(1)回答企業の属性
(2)日韓 FTA について
・日韓 FTA に対して、九州は肯定的、韓国は時期尚早
・地元経済への影響について、九州はプラスが 69.5%、韓
国が 45%。負の影響を懸念する声は韓国が多い
(3)日本・韓国の経済連携について
・連携の意向をもつ企業は九州 35%、韓国 45%
・九州は市場拡大、韓国は技術移転に対する期待が大きい
・希望する技術協力は、九州が共同研究開発、韓国が技術
導入
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
・期待される経済協力分野は、九州が観光、韓国が自動車
・期待される自治体の役割は、九州が情報提供、韓国が
資金援助、情報提供
(1)回答者の属性
(2)韓国との関係について
・相手国の関心について、九州側は韓国を隣国の友好国、
韓国側は競争関係と捉える
・九州、韓国とも将来的には緊密な関係を構築すべき
(3)日韓 FTA について
・九州、韓国との日韓 FTA を締結すべきと考えている
・九州は日韓 FTA について総じて良い影響を与える。韓
国は良い面と悪い面があると考える
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
・九州、韓国とも地域レベルの国際協力関係が必要
・自治体の取組みについて、民間交流が盛んになるような
各種支援施策を望む声
4.日韓海峡圏の概況
(1)人口・経済規模
・人口比を下回る域内総生産の比率
・韓国一国を上回る経済規模
(2)日韓海峡圏を構成する県市道の
概況
・人口と域内総生産で上回る九州
(3)産業集積
・製鉄、電機、自動車等の製造拠点が
集積
(4)主要プロジェクト
・空港・港湾・鉄道・道路・新都市
情報通信・構造改革特区と貿易投資
促進地域
第Ⅱ章 日韓自由貿易協定を
めぐる動向
1.日韓自由貿易協定とは
2.日韓自由貿易協定の影響
3.日韓自由貿易協定の課題
日韓海峡経済圏の新たな発展
をめざして
1.「日韓海峡経済圏」が有するポテンシャル
・韓国一国を上回る経済規模
・世界的な生産拠点
・対韓貿易の窓口
・年間 100 万人を目前とした日韓海峡圏の人的交流
2.「日韓海峡経済圏」が抱える課題
・低迷する企業の海外進出
・少ない企業間の連携
・港湾開発や企業誘致で激化する都市間競争
・FTA に対して積極的な九州と慎重な韓国
3.「日韓海峡経済圏」の形成に向けた方向性
と方策の提言
(1)一体的なビジネス環境の形成
3.九州と韓国の地域連携
(1)地方自治体による交流・連携
・日韓海峡沿岸県市道知事交流会議
(日韓知事サミット)
・姉妹都市・友好都市
(2)国による交流・連携
・九州・韓国経済交流会議
第Ⅴ章
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
1.農水産業・食品産業
2.機械・金属産業
3.半導体産業
4.自動車産業
(1)九州と韓国南部にお
ける農業・水産業の現状
(2)九州と韓国の食料品
貿易の動向
(3)日韓 FTA の農水産
業への影響と今後の戦
略
(1)九州における機械・
金属産業の現状
(2)九州と韓国の機械・
金属貿易
(3)九州の機械・金属産
業の日韓分業
(4)機械・金属産業の
連携の方向性
(1)九州と韓国の半導体
産業の現状
(2)九州と韓国の半導体
貿易の現状
(3)半導体産業における
九州と韓国の連携
(1)日韓自動車コリドー
構想の再検討
(2)九州と韓国の自動車
貿易の現状
(3)日韓海峡圏における
自動車産業協力の将来
方向
5.物流産業
6.情報サービス産業
7.観光産業
(1)九州・韓国の海上輸
送の現状
(2)激化する港湾間の
競争
(3)海上輸送における九
州・韓国の連携の方向性
(1)九州における情報
サービス産業の概況
(2)韓国における情報
サービス産業の現状
(3)ソフトウェア貿易と
海外へのアウトソーシ
ング
(4)九州と韓国の情報
サービス産業における
連携の可能性
(1)九州から韓国への観
光客の動向
(2)韓国人観光客の動向
(3)韓国人観光客の九州
観光の特徴
(4)九州における韓国人
観光客の集客戦略
○「九州ノービザ特区」の設置
○日帰り経済圏の構築
○空港・港湾間の「特恵港待遇」
○貿易投資促進地域間の連携
○通関・検疫手続きの円滑化
○知的財産権の保護
○基準・認証制度の標準化と資格の相互認証
○日韓 IT 光コリドーの利用促進
(2)国境を越えた産業連携の促進
○医療・福祉の国際交流拠点づくり
○農水産物と食品の双方向貿易の促進
○インターネットを活用したビジネスマッチング
の推進
○開発型ベンチャー企業の育成・支援
○「九韓共同技術革新センター」の設置
○戦略的提携の促進
○研修生・インターンシップの受け入れ
○国境を越えた産学連携
○情報センターを設置とポータルサイトの開設
(3)日韓海峡経済圏の体制づくり
○「九韓 CEPA」の締結
○日韓海峡経済圏の構築に向けた専門事務局の設置
4.「日韓海峡経済圏」の形成に向けた
アクションプログラム
第Ⅰ章
第Ⅰ章
拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概況
1.九州と韓国の貿易・投資動向
(1)貿易動向
増加傾向の輸出額と頭打ちの輸入額
最近 10 年間の九州の対韓国貿易額をみると、2000 年以降、輸出は増加しているものの、輸
入は頭打ちである(図表Ⅰ−1)。
輸出額は、1998 年にはアジア経済危機の影響で一旦大きく落ち込んだが、その後は急速に回
復して再び増加し、2004 年は 9,060 億円に達した。輸出の増加にあわせて輸出総額に占める
対韓国輸出比率も徐々に上昇している。1995 年の 13.0%から 1998 年には 7.7%まで低下した
ものの、2000 年には 15%台まで回復し、2004 年は 16.0%となった。輸出増加の背景には、
工作機械などの資本財や部品の輸出増加が挙げられる。
図表Ⅰ−1 九州の対韓国貿易額と貿易比率の推移
(10億円)
1,000
(%)
20.0
906
15.6
輸入比率
800
12.8
貿 600
易
額
400
13.0
411
387
11.7
449 10.8
384
15.0
12.0
11.7 597
359
7.7
655
12.9
12.3
428
386
456
415
405
579
740
12.6
11.0
468
407
9.7
379
292
200
16.0
15.4
14.6
13.6
輸出比率
13.9
15.6
8.6
貿
易
10.0
比
率
389
5.0
輸 輸
出 入
額 額
0.0
0
1995
96
97
98
99
2000
注)1.山口県、沖縄県を含む
2.2004 年は速報値
資料)門司税関「九州経済圏の貿易」
1
01
02
03
04(速報)
逆に輸入額は、大きな増減はないものの、近年は 2001 年をピークに頭打ちである。2004 年
は 3,890 億円であった。輸入総額に占める対韓国輸入比率は、1999 年以降低下傾向にあり、
1999 年の 13.6%から 2004 年には 8.6%まで低下した。中国から韓国経由の物流ルートが、中
国からの直接輸入に切り替わったり、生産拠点の中国への設置により輸入先が韓国から中国に
シフトしていることが影響していると思われる。
韓国の貿易窓口機能を果たす九州
九州は全国と比較して、相対的に対韓国貿易比率が高く、韓国貿易の窓口としての機能を果
たしている。
まず九州地域の貿易相手国・地域をみると、韓国は輸出で第1位であり、全輸出の 16.0%を
占め、九州にとって重要な輸出先となっている。輸入は中国、サウジアラビア(図表Ⅰ−2中
では、中東に含まれる)に次いで第3位で、8.6%を占めている(図表Ⅰ−2)。
貿易額に占める韓国の比率を全国と九州で比較すると、輸出は全国 7.8%に対して九州は
16.0%、輸入は全国 4.8%に対して九州は 8.6%であり、それぞれ 8.2 ポイント、3.8 ポイント
高い(図表Ⅰ−3)。
また、全国の対韓国貿易のうち、九州の比率は、輸出が 18.9%、輸入が 16.3%を占める。つ
まり輸出入とも九州のウェイトは2割弱と高く、わが国の韓国貿易の重要な役割を果たしてい
ることがわかる(図表Ⅰ−4)。
図表Ⅰ−2 九州の貿易相手国・地域別構成比(2004 年速報値)
【輸出】
その他
17.3%
EU
14.7%
【輸入】
韓国
16.0%
その他
19.6%
韓国
8.6%
中国
15.6%
中国
11.8%
アメリカ
14.6%
その他
アジア
25.7%
その他
アジア
17.7%
中東
29.2%
EU
3.0%
注)山口県、沖縄県を含む
資料)門司税関「九州経済圏の貿易」
2
アメリカ
6.3%
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
図表Ⅰ−3 対韓国貿易比率の比較
【輸出】
【輸入】
(%)
20.0
(%)
20.0
16.0
15.0
15.0
10.0
10.0
7.8
8.6
4.8
5.0
5.0
0.0
0.0
全国
全国
九州経済圏
九州経済圏
注)山口県、沖縄県を含む
資料)門司税関「九州経済圏の貿易」
図表Ⅰ−4
全国の対韓国貿易のうち九州経済圏の占める割合
【輸出】
(%)
20
【輸入】
(%)
20
18.9
16.3
15
15
10
9.3
10
9.2
5
5
0
0
総額
韓国貿易
総額
韓国貿易
注)山口県、沖縄県を含む
資料)門司税関「九州経済圏の貿易」
九州の対韓国品目別貿易∼輸出は一般機械、電気機器が中心
九州の対韓国輸出品目は、一般機械と電気機器の比率が高い。2003 年には、一般機械が 1,748
億円、電気機器が 1,687 億円で、全体の 26.0%、25.1%を占める。この 10 年間の推移をみて
も、両品目とも安定して増加しているのがわかる。韓国での電子製品等輸出の増加にともない、
日本から工作機械や半導体製造装置、電子部品などが下関港や博多港からフェリーによって輸
出されていることが背景にある。また近年増加が顕著なのは精密機器類であり、1994 年の 34
億円から、2003 年には 1,015 億円へと 30 倍に増加した。(図表Ⅰ−5)。
3
図表Ⅰ−5 九州の対韓国品目別輸出額の推移
(10億円)
800
700
その他
600
精密機器類
500
400
電気機器
300
一般機械
200
鉄鋼
100
化学製品
0
1994
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
注)下関港を含む
資料)通関統計
韓国からの輸入品目は、電気機器が 1,237 億円と全体の 37.5%を占める。これは半導体等電
子部品が中心である。輸出品目でも電気機器は高い比率を占めており、日本と韓国間で水平分
業が進んでいることがうかがわれる。一方、大きく減少しているのは、雑製品である。1994
年は 1,370 億円あったが、2003 年には 292 億円に減少した。繊維製品など雑貨の輸入が韓国
から中国や東南アジアへシフトしたことが大きな要因である。食料品・飲料等も減少傾向にあ
り、1994 年の 971 億円から 2003 年には 651 億円に減少した(図表Ⅰ−6)。
図表Ⅰ−6 九州の対韓国品目別輸入額の推移
(10億円)
500
400
その他
300
雑製品
電気機器
200
一般機械
鉄鋼
化学製品
原材料・鉱物性燃料
100
食料品・飲料等
0
1994
95
96
97
98
99
2000
注)下関港を含む
資料)通関統計
4
01
02
03
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
(2)投資動向
低水準にとどまる韓国への企業進出
九州から韓国への投資状況を、事務所の設置などを含めた海外進出でみると、1994∼2004
年の進出件数は合計 24 件である。最も多かった年でも 1995 年と 2000 年の5件であるなど、
輸出を中心に貿易が活発になっている反面、企業の海外進出は低水準にとどまっている(図表
Ⅰ−7)。
進出先はソウルが最も多く、韓国南部への進出は8件である。韓国南部の内訳は、釜山広域
市が6件、慶尚南道馬山市が1件、慶尚南道山清邑が1件であった。業種は様々だが、進出目
的では主として販売・サービス拠点の設置が多い。1994 年には流通業界で初めて㈱タカミヤ
が釣具販売店を釜山に設けた。2004 年4月には九州旅客鉄道㈱(JR 九州)が、JR グループ
で初めての海外支店となる釜山支店を開設した(図表Ⅰ−8)。
近年、低迷する韓国向け投資だが、2004 年に入り、液晶分野で韓国への投資が活発になって
きた。背景には、液晶分野で大型投資を予定している韓国の三星電子㈱と LG フィリップス㈱
向けの需要があるためである。一方、九州においても、韓国への投資セミナーや韓国からのミ
ッション団の訪問等が活発に行われ、物流企業や IT 関連企業などを中心に韓国とのビジネス
に関心を寄せる傾向にある。今後、投資の増加や企業交流が活発になる可能性も高い。
図表Ⅰ−7 九州企業の韓国への進出
(件)
6
4
5
5
3
3
2
2
1
1
2
1
1
0
0
1994
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
04
注)山口県を含む
資料)九経調「九州・山口地場企業の海外進出 1986-2003」
図表Ⅰ−8 九州地場企業の韓国南部への進出事例
進出地域
釜山広域市
慶尚南道馬山市
山清邑
企業名
壽産業㈱
㈱メック
東亜非破壊検査㈱
㈱タカミヤ
辻産業㈱
九州旅客鉄道㈱
㈱セントラルユニ
インフラテック㈱
業種
卸売・小売
電気機器
サービス
卸売・小売
輸送用機械
サービス
化学
窯業・土石
進出形態
進出年
合 弁
単 独
合 弁
単 独
事務所
単 独
単 独
合 弁
1986
1987
1993
1994
1999
2004
1987
1991
注)山口県を含む
資料)九経調「九州・山口地場企業の海外進出 1986-2003」、ヒアリング
5
事業内容
カメラ・テレビ・ビデオの輸入
メンテナンス検査業務、計測器等販売
釣具卸売・小売、レジャー用品小売
現地連絡事務所。現地での情報収集
船舶事業、旅行業
医療用機器加工
特殊なコンクリートの製造
福岡に集中する韓国企業の九州進出
一方、九州に進出している韓国企業は 20 件である。進出している都市は福岡市に集中して
おり、15 件を数える。事業内容は、ホテルや旅行業、航空業の支店や事務所が多い。なかに
はポスコの子会社の㈱ポスメタルが、北九州市に鋼板加工工場を設置する例もある。近年、眞
露ジャパン㈱や LG 電子ジャパン㈱など、韓国製の焼酎や家電といったメーカーが、販売・情
報収集拠点を設置するといった動きがみられ、進出する韓国企業の業種が多様化している(図
表Ⅰ−9)。
図表Ⅰ−9 在九州韓国企業
進出都市
企業名
事業内容
北九州市
㈱ポスメタル(本社は福岡市)
鋼板加工
福岡市
日本サムスン㈱福岡支店
商社。営業拠点
LG 電子ジャパン㈱九州出張所
情報収集拠点
(社)韓国船級
船に係る製品群を規格化し検査する機関
眞露ジャパン㈱西日本支店福岡営業所
韓国焼酎の営業、販売拠点
パラダイスホテル釜山福岡事務所
ホテルの営業拠点
㈱ロッテ免税店福岡事務所
デパートの営業拠点
ロッテ観光㈱福岡事務所
旅行業
㈱相知企画
旅行業
㈱ジャフコ
金融業
㈱新韓銀行福岡支店
銀行業
㈱大韓航空福岡支店
営業拠点
アシアナ航空㈱福岡支店
営業拠点
世邦旅行福岡事務所
営業拠点
㈱世一旅行社福岡事務所
営業拠点
韓進観光福岡支店
営業拠点
長崎市
㈱大韓航空長崎支店
営業拠点
熊本市
アシアナ航空㈱熊本支店
営業拠点
宮崎市
アシアナ航空㈱宮崎支店
営業拠点
鹿児島市
㈱大韓航空鹿児島支店
営業拠点
資料)韓国貿易センター(福岡)「駐福岡韓国機関・企業リスト」、韓国貿易協会「駐日韓国企業名簿」、
日本電信電話㈱「インターネットタウンページ」
6
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
2.九州と韓国の人的交流
(1)旅客ネットワーク
充実した旅客ネットワーク
九州と韓国には、充実した旅客ネットワークが構築されており、航路・航空路合わせて 12
路線がある。このうち九州と韓国南部には、博多・下関・対馬∼釜山に航路(フェリー・高速
船)、福岡∼釜山(金海空港)と福岡∼済州島に航空路線が合計6路線ある。このほか、九州
各地とソウルの間に航空路線が 6 路線就航している(図表Ⅰ−10)。
さらに九州・韓国間の運航ダイヤは 220 便/週あり、このうち九州・下関∼釜山・済州の間
には、124 便/週が就航している(図表Ⅰ−11)。
このような旅客ネットワークの充実は、日韓海峡圏を往来する人的交流の増加に大きく寄与
し、両地域の交流を活発化させている。
図表Ⅰ−10 九州と韓国間の旅客ネットワーク
資料)㈱JTB「時刻表」
7
図表Ⅰ−11 九州・韓国間の運航ダイヤ(2005 年2月現在)
路
線
便/週
フェリー
博多∼釜山
12
(26 便/週)
下関∼釜山
14
高速船
博多∼釜山
72
(84 便/週)
対馬(比田勝・厳原)∼釜山
12
航空機
福岡∼釜山
18
(110 便/週)
福岡∼済州
6
合
福岡∼ソウル
56
長崎∼ソウル
6
熊本∼ソウル
6
大分∼ソウル
6
宮崎∼ソウル
6
鹿児島∼ソウル
6
計
220
九州・下関∼釜山・済州
124
九州∼ソウル
96
資料)㈱JTB「時刻表」、
JR 九州 HP(http://www.jrkyushu.co.jp/beetle/navi/main.html)
(2)人的交流
年間 94 万人が往来
日韓海峡圏で運行されるフェリー、高速船、航空機のすべての輸送機関の 2004 年の輸送人
員は、1991 年に比べて 2.1 倍にあたる 94 万人となった。日韓海峡圏では、1990 年代初頭か
ら、福岡∼釜山間においてカメリアライン㈱、JR 九州「ビートル」
「ジェビ」、未来高速㈱「コ
ビ−」など、相次いで海上旅客ネットワークが結ばれ、航路、航空路線とも便数が次第に増加
されるなど、両地域間の旅客輸送ネットワークは充実している。これらの旅客ネットワークは、
日韓海峡圏において人の往来を活発にし、九州と韓国南部の交流を促進させるうえで大きな役
割を果たしてきた(図表Ⅰ−12)。
とくに 2004 年には、
「韓流ブーム」の影響で日本人の韓国訪問はさらに増加した。一方、韓
国から九州への訪問も、ゴルフツアーなどこれまでになかった目的が加わり、増加傾向にある。
このように双方向での往来が増えたことで、日韓海峡圏内の人の動きは、年間 100 万人を目前
としている。
8
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
図表Ⅰ−12 日韓海峡圏の年間輸送人員の推移
(単位:千人)
1,000
941
848
800
820
716
600
597
518
459
456
382
400
473
458
698
475
482
200
0
1991
92
93
94
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
04 年
注)福岡∼釜山の航空・航路、小倉∼釜山・蔚山の航路、下関∼釜山の航路旅客数の合計
ただし、小倉∼釜山は 2004 年9月以降運休、小倉∼蔚山は 2004 年2月以降運休
資料)韓国観光公社
年間 30 万人にのぼる九州への入国韓国人
九州へ入国した韓国人は、アジア経済危機で減少した 1998 年を除いてはほぼ前年を上回っ
ている。1990 年にはわずか 9 万 8 千人だったのが、2003 年には 29 万 6 千人まで増加した。
入国外国人に占める割合も 1998 年の落ち込んだものの、その後は高まっている。その結果、
1990 年の 44.3%だったが、2003 年には 65.1%へ 6 割を超えた。九州からの訪韓のみならず、
韓国人の九州ならびに日本への訪問が増加していることで双方向の人的交流が進んでいるこ
とがわかる(図表Ⅰ−13)。
図表Ⅰ−13 九州への入国外国人数
(千人)
500
450
400
九
州
へ
の
入
国
外
国
人
数
九州へ入国した
韓国人
九州への
入国外国人数
(除・韓国人)
(%)
70.0
全入国外国人数に
占める韓国人の割合
60.0
50.0 占
350
め全
る入
300
40.0 韓 国
250
国外
30.0 人 国
200
の人
割に
20.0 合
150
100
10.0
50
0
1990
95
2000
資料)総務省「出入国管理統計年報」
9
0.0
03 (年)
3.九州と韓国の地域連携
(1)地方自治体による交流・連携
日韓海峡沿岸県市道知事交流会議(日韓知事サミット)
日韓海峡沿岸県市道知事交流会議(日韓知事サミット)は、1992 年、日韓海峡を挟んだ九州
北部 3 県(福岡県、佐賀県、長崎県)及び山口県(1999 年から参加)と、韓国南岸 1 市 3 道
(釜山広域市、全羅南道、慶尚南道、済州道)が参加して始まった。毎年 1 回、九州と韓国で
交互に会議を開催している。両地域の交流の現状と今後の展望に関して意見交換を行い、様々
な分野での交流事業を通して、両地域の発展と友好関係を促進している。
これまでに実施した共同事業を大きく分けると、草の根交流事業(青少年交流事業、住民親
善イベント)、産業交流に関する事業(水産関係交流事業、環境技術交流事業、経済交流促進
事業)、文化・歴史に関する事業(地域伝統工芸交流事業、日韓交流史理解促進事業)に分類
できる。研究機関共同研究事業や地域振興団体交流支援事業など、すでに民間レベルの交流に
移行した事業もある(図表Ⅰ−14)。
図表Ⅰ−14 知事交流会議の範囲と開催経緯、共同事業
開催場所
第1回
(1992.8)
第2回
(1993.6)
第3回
(1994.9)
第4回
(1995.8)
第5回
(1996.9)
第6回
(1997.9)
第7回
(1998.9)
済州道
佐賀県
釜山広域市
長崎県
慶尚南道
福岡県
開催場所
第8回
(1999.9)
第9回
(2000.9)
第 10 回
(2001.9)
第 11 回
(2002.11)
第 12 回
(2003.9)
第 13 回
(2004.11)
全羅南道
日韓海峡沿岸県市道知事交流会議
共同事業
青少年交流事業
環境技術交流事業
水産関係交流事業
広域観光協議会事業
経済交流促進事業
住民親善イベント事業
地域伝統工芸交流事業
日韓交流史理解促進事業
*研究機関共同研究事業
*地域振興団体交流支援事業
(∼1998 年度)
備考)*は終了。民間レベルの交流へ移行
資料)日韓海峡沿岸情報ネットワーク
10
(∼2000 年度)
佐賀県
済州道
山口県
釜山広域市
長崎県
慶尚南道
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
姉妹都市・友好都市
九州と韓国の間で締結されている姉妹都市・友好都市は全部で 24 組あり、このうち九州の
自治体は 24 自治体が参加、韓国側は 23 自治体が参加している。韓国の 23 自治体のうち、約
半数にあたる 12 自治体は日韓海峡圏に属する。
姉妹都市・友好都市のなかには、長崎県対馬市と釜山広域市影島区、熊本県波野村(現・阿
蘇市)と釜山広域市東莢区温泉二洞、熊本県白水村(現・南阿蘇村)と釜山広域市金井区金城
洞など、韓国側の小規模なコミュニティと姉妹盟約を結んでいる自治体もある。
また九州側では宗像市や唐津市、韓国側では忠清南道扶餘郡扶餘邑のように複数と締結して
いる自治体もみられる。
自治体の姉妹都市・友好都市交流は、市民の相互理解を主目的とした草の根レベルの交流が
盛んであり、自治体職員の交換派遣や自治体内の中学生の修学旅行、各種スポーツ・文化サー
クルのグループ交流が行われている(図表Ⅰ−15)。
図表Ⅰ−15 九州・韓国間の姉妹都市・友好都市
九州側自治体
韓国側自治体
締結年
福岡県福岡市
釜山広域市
1989
福岡県宗像市
済州道南済州郡城山邑
1991
慶尚南道金海市
1992
佐賀県佐賀市
釜山広域市蓮堤区
1998
佐賀県唐津市
全羅南道麗水市
1982
済州道西帰浦市
1994
佐賀県鹿島市
全羅南道高興郡
1997
長崎県対馬市
釜山広域市影島区
1986
熊本県波野村(現・阿蘇市)
釜山広域市東莢区温泉二洞
1992
熊本県白水村(現・南阿蘇村)
釜山広域市金井区金城洞
1993
大分県別府市
全羅南道木浦市
1984
鹿児島県大口市
慶尚南道南海郡
1991
福岡県北九州市
仁川広域市
1988
福岡県太宰府市
忠清南道扶餘郡扶餘邑
1978
福岡県添田町
仁川広域市江華郡
1996
熊本県
忠清南道
1983
熊本県泗水町
全羅北道金堤市
1985
熊本県菊水町
忠清南道公州市
1979
大分県宇佐市
慶尚北道慶州市
1992
宮崎県南郷村
忠清南道扶餘郡扶餘邑
1991
宮崎県高岡町
忠清北道報恩郡
1993
鹿児島県長島町
仁川広域市江華郡吉祥面
1994
鹿児島県川辺町
全羅北道淳昌郡
2003
鹿児島県徳之島町、天城町、伊仙町
慶尚北道清道郡
2003
注)太枠内は九州と韓国南部の姉妹・友好都市
資料)西日本新聞社「九州データブック 2004」
11
(2)国による交流・連携
九州・韓国経済交流会議
九州(九州経済産業局、7 県 2 政令市、経済団体等)と韓国(産業資源部、地方自治体、経
済団体等)は、中小企業が有する資金、技術、人材等の地域資源を相互補完し、貿易、投資、
産業技術の交流拡大と地域間交流の促進を目的として、1993 年から「九州・韓国経済交流会
議」を毎年 1 回開催している。
同会議では、両地域の経済・産業交流に資する具体的な事業を双方から提案し、実施に向け
た合意を得ることにしている。また貿易促進セミナー及び投資環境説明会の開催、経済団体や
民間企業間の意見交換もあわせて行っている。
これまでの主な成果として、九州・韓国産業技術交流ミッションの派遣や、環黄海産業・技
術フェアの開催(現在はアジア産業交流フェアへ拡大)など、日韓の企業マッチングの推進や、
北九州国際技術協力協会技術研修生受入れ及び専門技術者派遣や韓日友好技術研修生プログ
ラムの協力といった人材育成、技術移転に関する事業を行っている。また、2001 年度には日
韓 IT 光コリドープロジェクトを開始し、日韓両国の経済団体の支援、協力を得て、福岡市・
北九州市∼釜山市間に海底光ファイバー網を設置するに至っている。
2004 年 7 月に開催された熊本市での「第 11 回
九州・韓国経済交流会議」では、
「観光交
流事業の推進」や「FTA 調査・研究に関する協力」等、過去最多の 42 事業が提案された(図
表Ⅰ−16)。
図表Ⅰ−16 九州・韓国経済交流会議
目
的
内
容
九州と韓国との「貿易、投資、産業技術」における協力促進と双方の地域間交流の拡大
を通じた、九州と韓国の互恵関係のもとで経済発展を目指す地域協力体制の構築
本会議の実施(九州と韓国の双方が、経済・産業交流の促進に資する交流プログラムを
双方から提案の上、会議において当該交流事業実施に関し、コンセンサスを得る)
・九州・韓国貿易促進セミナーの実施
・九州・韓国投資環境等説明会の実施
主な成果
・北九州国際技術協力協会技術研修生受入れ及び専門技術者派遣(1994 年度∼)
・九州・韓国産業技術交流ミッション(1997 年度∼)
・環黄海産業・技術フェアの開催(現アジア産業交流フェア)
(1997 年度∼)
・韓日友好技術研修生プログラムの協力(2000 年度∼)
・ベンチャー企業支援に係る協力体制の構築(2001 年度)
・日韓 IT 光コリドープロジェクト(2001 年度)
開催実績
第 1回 1993 年 11 月 北九州市
第 2回 1995 年 2月 ソウル
第 3回 1996 年 2月 長崎市
第 4回 1997 年 6月 全羅北道全州市
第 5回 1998 年 7月 別府市
第 6回 1999 年 5月 光州広域市
第 7回 2000 年 9月 宮崎市
第 8回 2001 年 6月 慶尚南道昌原市
第 9回 2002 年 8月 鹿児島県牧園町
第 10 回 2003 年 7月 済州道西帰浦市
第 11 回 2004 年 7月 熊本市
第 12 回 2005 年
資料)九州経済産業局「九州アジア国際化レポート 2003」、ヒアリング
12
忠清北道堤川市(予定)
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
4.日韓海峡圏の概況
以上のとおり、九州と韓国は人的交流や物流で、近年、急速に連携を深めており、九州7県
と韓国南部の 3 市 3 道で構成される日韓海峡圏は、日本と韓国を連結する地域として重要な役
割を果たしている。
日韓海峡圏は企業間の連携では不十分であるが、経済力や産業集積では大きなポテンシャル
をもつ。以下では、日韓海峡圏の概況とポテンシャルについて整理する。
(1)人口・経済規模
人口比を下回る域内総生産の比率
日韓海峡圏の面積は 6 万 8,896km2、人口は 2,536 万 7 千人と、日本と比較するとそれぞれ
18.2%、19.9%を占める。
域内総生産は、4,597 億ドルで、日本と比較すると 11.3%と、人口規模に比べて低い。釜山
市をはじめ、圏域内には人口 100 万人を越える大都市が 5 都市存在するものの、日本の関東や
関西、ソウル首都圏などにくらべると都市集積が弱く、経済規模は相対的に小さい。産業別の
図表Ⅰ−17 日韓海峡圏の日韓における規模
面積
人口
単位
年次
日本
k㎡
377,887
99,585
68,896
(18.2%)
42,173
26,723
千人
127,619
48,824
25,367
(19.9%)
13,436
11,931
47,063
14,312
8,619
(18.3%)
4,998
3,621
4,082,709
414,254
459,987
(11.3%)
351,262
108,725
韓国
日韓海峡圏 (対日本)
九州
韓国南部
2003
世帯数
千世帯
2000
域内総生産
第1次産業
百万㌦
51,490
18,376
16,491
(32.0%)
9,571
6,920
第2次産業
2001
1,107,682
176,815
131,609
(11.9%)
79,591
52,018
第3次産業
3,131,513
237,930
328,753
(10.5%)
275,797
52,955
工業出荷額
百万㌦
2002
2,273,095
526,246
325,582
(14.3%)
152,019
173,563
貿易
百万㌦
853,411
372,644
173,755
(20.4%)
53,749
120,006
2003
470,650
193,817
93,805
(19.9%)
29,261
64,544
382,761
178,827
79,950
(20.9%)
24,488
55,462
輸出額
輸入額
注)1.2001 年は1ドル=122.4 円、1ドル=1,290.8 ウォンで換算
2002 年は1ドル=118.5 円、1ドル=1,199.7 ウォンで換算
2003 年は1ドル=115.9 円で換算。なお、韓国の貿易額(2003 年)は、ドルにて公表
2.域内総生産における各産業の合計は帰属利子を含むため、合計と内訳は一致しない
資料)総務省、内閣府「県民経済計算年報 平成 16 年版」、経済産業省「工業統計表」、
日本貿易振興機構「貿易投資白書」
、門司税関「九州経済圏の貿易」
、韓国統計庁「2003 韓国統計年鑑」、
韓国都市行政研究所「全国統計年鑑」、九経調「図説九州経済」
13
内訳では、第 1 次産業が 165 億ドル(対日本 32.0%)と相対的に高い。第 2 次産業は 1,316
億ドル(同 11.9%)である。後述するが、圏域内には、世界的にみても大規模な工場が立地す
るものの、工業出荷額は決して高いとは言えない。第 3 次産業は 3,288 億ドル(同 10.5%)で
ある。
貿易は、総額 173,755 百万ドルである。日本と比較して 20.4%の規模である。九州・韓国間
の地域間貿易は比較的盛んであり、これまでにみた他の指標とくらべると高い比率を占めす。
内訳は、輸出額が 93,805 百万ドル(同 19.9%)、輸入額は 79,950 百万ドル(同 20.9%)であ
った。
韓国一国を上回る経済規模
日韓海峡圏を一国と仮定して人口と域内総生産を世界の国・地域と比較を行った。人口は 43
位に相当するものの、東アジアではマレーシア(2,309 万人)や台湾(2,260 万人)を上回る。
ところが経済規模になると、13 位に相当する。これは、韓国一国(4,359 億ドル)や台湾(2,726
億ドル)を上回り、東アジアでも日本、中国、インドに次ぐ。このように日韓海峡圏は世界的
にも大きな経済規模であり、投資先として魅力的な地域であるといえよう。今後、局地経済圏
として発展する可能性を十分に有する地域である。
図表Ⅰ−18 人口の世界との比較
図表Ⅰ−19 域内総生産の世界との比較
(2003 年、単位:万人)
順位
1
2
3
:
10
:
24
:
41
42
43
:
46
47
48
国名
中 華人 民共和 国
インド
アメリカ合 衆国
:
日本
:
大 韓民 国
:
ウ ズベキスタン
ウ ガンダ
日 韓海 峡圏
イラク
:
マレーシア
台 湾/中華 民国
北 朝鮮
(2001 年、単位:10 億ドル)
国名
アメリカ合衆国
日本
ドイツ
イギリス
フランス
イタリア
中国
カナダ
メキシコ
スペイン
ブラジル
インド
日韓海峡圏
13 韓国
:
:
17 台湾
順位
人口
129,484
104,970
29,467
:
12,721
:
4,829
:
2,598
2,563
2,537
2,468
:
2,309
2,260
2,247
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
資料)CIA「ワールドファクトブック 2003 年」
注)中国とインドは 2000 年
資料)九経調「図説九州経済」
14
金額
10,082
4,176
1,846
1,423
1,310
1,089
1,080
705
618
582
503
465
460
422
:
272
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
(2)日韓海峡圏を構成する県市道の概況
人口と域内総生産で上回る九州
日韓海峡圏を構成する県市道別の概況を整理したのが図表Ⅰ−20 である。面積は、九州
(42,173km2)が、韓国南部(26,723km2)の約 1.5 倍である。全羅南道(12,037km2)と慶
尚南道(10,518km2)は1万 km2 を超える。これは九州で最大の面積をもつ鹿児島県(9,187km2)
を越える。一方、釜山広域市(763km2)や光州広域市(501km2)は市域が狭いことがわかる。
人口は、九州(13,436 千人)が韓国南部(11,931 千人)を約 150 万人上回る。県市道別に
みると、福岡県(5,051 千人)が最も多く、済州道(554 千人)が最も少ない。単独の市では、
釜山広域市(3,711 千人)が最も多い。
図表Ⅰ−20 県市道別の概況
面積
(km2)
年
次
-
人口
(千人)
域内総生産
(百万㌦)
工業出荷額
(百万㌦)
貿易額
(百万㌦)
輸出額
輸入額
(百万㌦)
(百万㌦)
2003 年
2001 年
2002 年
2003 年
2003 年
2003 年
日本・韓国
477,472
176,443
4,496,963
2,799,342
1,226,055
664,467
561,588
日本
377,887
127,619
4,082,709
2,273,095
853,411
470,650
382,761
韓国
99,585
48,824
414,254
526,246
372,644
193,817
178,827
日韓海峡圏
68,896
25,367
459,987
325,582
173,755
93,805
79,950
九州計
42,173
13,436
351,262
152,019
53,749
29,261
24,488
福岡県
4,974
5,051
136,662
58,498
35,171
23,484
11,687
佐賀県
2,439
872
23,007
11,790
696
373
322
長崎県
4,094
1,501
36,097
12,603
2,778
1,718
1,060
熊本県
7,404
1,855
48,558
19,978
580
135
445
大分県
6,339
1,218
35,562
24,086
7,321
2,955
4,366
宮崎県
7,735
1,164
28,008
10,218
473
216
257
9,187
1,775
43,369
14,846
6,731
379
6,352
韓国南部計
26,723
11,931
108,725
173,563
120,006
64,544
55,462
釜山広域市
763
3,711
25,373
18,812
10,312
4,844
5,468
光州広域市
501
1,401
9,511
9,057
7,001
4,035
2,966
蔚山広域市
1,056
1,079
20,977
63,761
50,136
27,485
22,651
全羅南道
12,037
2,024
20,233
30,229
21,796
8,885
12,911
慶尚南道
10,518
3,162
28,867
51,192
30,591
19,236
11,355
鹿児島県
111
59
170
512
3,764
554
1,847
済州道
注)1.2001 年は1ドル=122.4 円、1ドル=1,290.8 ウォンで換算
2002 年は1ドル=118.5 円、1ドル=1,199.7 ウォンで換算
2003 年は1ドル=115.9 円で換算。なお、韓国の貿易額(2003 年)は、ドルにて公表
2.域内総生産における各産業の合計は帰属利子を含むため、合計と内訳は一致しない
資料)総務省統計局、内閣府「県民経済計算年報 平成 16 年版」、経済産業省「工業統計表」、
日本貿易振興機構「貿易投資白書」
、門司税関「九州経済圏の貿易」
、韓国統計庁「2003 韓国統計年鑑」、
韓国都市行政研究所「全国統計年鑑」、九経調「図説九州経済」
15
域内総生産は、九州(351,262 百万ドル)が韓国南部(108,725 百万ドル)の約3倍の規模
である。県市道別にみると、福岡県(136,662 百万ドル)が最も多く、韓国南部を上回る規模
である。逆に最も少ないのは済州道(3,764 百万ドル)であった。
工業出荷額は、韓国南部(173,563 百万ドル)が九州(152,019 百万ドル)を上回る。とく
に韓国南部では、石油化学工業や自動車工業、造船・重機工業、これらを支える部品工業が数
多く立地する蔚山広域市(63,671 百万ドル)と、慶尚南道(51,192 百万ドル)の出荷額が大
きい。
貿易額は、工業出荷額と比例しており、こちらも韓国南部(120,006 百万ドル)が九州(53,749
百万ドル)を上回っている。県市道別にみても、工業集積の高い蔚山広域市(50,136 百万ドル)
や慶尚南道(30,591 百万ドル)、九州では福岡県(35,171 百万ドル)において規模が大きい。
とくに蔚山広域市は、九州に及ぶ規模の貿易額である。
(3)産業集積
製鉄、電機、自動車等の製造拠点が集積
日韓海峡圏には、製鉄、造船など重厚長大型製造業の、世界的な大企業の工場が立地し、自
動車・半導体などの加工組立型産業も集積している。九州、韓国南部とも、比較的類似した産
業構造をもち、今後両地域間での戦略提携やそれにともなう貿易、技術交流、投資交流が活発
になることが期待される(図表Ⅰ−21)。
図表Ⅰ−21 日韓海峡圏に立地する主要企業・工場
資料)九経調「図説九州経済 2003-2004」、韓国企業各社ホームページ
16
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
(4)主要プロジェクト
日韓海峡圏においては、人流や物流の増大、企業誘致の推進、観光振興等を目指した大型プ
ロジェクトが進行している。
空港は、2006 年3月開港予定の新北九州空港の建設が進行中である。港湾開発は、九州では
ひびきコンテナターミナル(2005 年4月供用開始予定)、韓国では釜山新港、光陽港と、大型
の港湾開発が進められている。鉄道では、九州新幹線鹿児島ルート・長崎ルート、ソウル∼釜
山を結ぶ韓国高速鉄道(KTX)は大邱∼釜山間の専用線の建設が進められている。高速道路は
九州内で整備が後れている東九州等で進められている。新都市整備では、福岡市においてアイ
ランドシティが、釜山広域市においてセンタムシティの整備が進んでいる(図表Ⅰ−22)。
以下、日韓海峡圏のハード整備やソフト面での主要施策等についてみていくこととする。
図表Ⅰ−22 主要プロジェクト
資料)各種資料をもとに九経調にて作成
17
空港
◆新北九州空港(九州/北九州市)
現在の北九州空港に替わる新空港として、北九州市、苅田町の周防灘沖に新北九州空港を建
設中である。2006 年 3 月の開港予定で、開港すれば 24 時間利用可能な海上空港となる(図表
Ⅰ−23)。
図表Ⅰ−23 新北九州空港の開発概要
事業主体
国土交通省
所在地
北九州市、苅田町の周防灘沖
事業期間
1994∼2005 年度。2006 年3月開港予定
事業規模
人工島規模
373ha
管理面積
160ha
滑走路
2,500m×60m
大型ジェット機2バース、中型ジェット機2バース、
小型ジェット機4バース
総事業費
980 億円
内容
24 時間利用可能な海上空港
資料)九経調「九州・沖縄・山口 2004 年度の主要プロジェクト」
港湾
◆ひびきコンテナターミナル(九州/北九州市)
北九州市では、日本の中枢国際港湾の一つとして、響灘地区に5万トン級のコンテナ船が寄
港可能な水深 15m岸壁を持つコンテナターミナルの整備を進めており、2005 年 4 月に供用開
始予定である。コンテナターミナルの整備および運営にあたっては、PFI(Private Finance
Initiative)手法を導入し、民間企業の資金力や運営能力を活かした、国際競争力のある港づく
りを目指している(図表Ⅰ−24)。
図表Ⅰ−24 ひびきコンテナターミナルの開発概要
事業期間
施設
第 1 段階
最終計画
1997∼2004 年度
∼2020 年
開発面積
122ha
開発面積
122ha
ふ頭用地
57ha
ふ頭用地
180ha
(内コンテナターミナル 43ha)
港湾関連用地
65ha
港湾関連用地 316ha
−15m∼−16m×6バース
−15m×2バース
−12m×4バース
−10m×2バース
−10m×2バース
年間コンテナ
処理能力
50 万 TEU
150 万 TEU
事業費
1,000 億円
資料)北九州市港湾局HP(http://www.kitaqport.or.jp)、
九経調「九州・沖縄・山口 2004 年度の主要プロジェクト」
18
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
◆釜山新港(韓国/釜山広域市)
1876 年に開港した釜山港は、1906 年に初の埠頭築造工事以来、港湾開発が継続して続けら
れ、次第に拡張していった。北港、南港、甘川港、多大浦港の4つの港湾と、子城台、神仙台、
甘湾、牛岩、新甘湾、甘川の6つのコンテナターミナル、そして国際旅客ターミナルを持つ港
湾を形成している。
現在釜山港には、169 隻の船舶が同時に接岸できる 26.8km の岸壁施設と、年間 9,100 万ト
ンの処理ができる荷役能力がある。
また、コンテナ物流量の増加に対応して 30 隻の船舶が同時に接岸でき、年間 804 万 TEU の
コンテナを処理できる釜山新港開発を 2011 年の完工を目標に推進中である(図表Ⅰ−25)。
図表Ⅰ−25 釜山新港の開発概要
事業期間
船席
年間コンテナ
処理能力
事業費
第 1 段階
第 2 段階
最終計画
1995∼2008
2009∼2011
1995∼2011
14
16
30
352 万 TEU
452 万 TEU
804 万 TEU
5 兆 5,519 億ウォン
3 兆 6,023 億ウォン
9 兆 1,542 億ウォン
資料)釜山港 HP(http://www.portbusan.or.kr)
◆光陽港(韓国/全羅南道)
光陽港を含めた光陽湾は、粗鋼生産世界一の㈱ポスコ光陽製鉄所と麗川石油化学団地な
ど重厚長大型産業を背後地にもつ港湾である。地政学的に東北アジアの中心に位地し、ア
ジア−北アメリカ−ヨーロッパをつなぐ主航路上に位置しているため、経済成長を続ける
中国のトランシップ貨物を集荷する拠点としての役割が期待されている。このため国家プ
ロジェクトとして開発が進められ、2011 年には 933 万 TEU の年間コンテナ処理能力を有
する港湾が完成する予定である(図表Ⅰ−26)
。
図表Ⅰ−26 光陽港の開発概要
第 1 段階
第 2 段階
第 3 段階
第 4 段階
最終計画
事業期間
1987∼1997
1995∼2003
2002∼2010
2005∼2011
1987∼2011
キャパ
シティ
年間
コンテナ
処理能力
50,000DWT×4
50,000DWT×4
50,000DWT×12
50,000DWT×9
水
深
20,000DWT×4
50,000DWT×29
20,000DWT×4
120 万 TEU
163 万 TEU
380 万 TEU
270 万 TEU
933 万 TEU
−15m
−16m
−17m
−18m
−15∼18m
備考)DWT:Dead Weight Tonnage。載貨重量トン数
資料)韓国コンテナターミナル管理公団「PORT OF GWANGYANG」
19
鉄道
◆九州新幹線(九州)
九州新幹線鹿児島ルートは、2004 年 3 月、新八代∼鹿児島中央間が開業した。今後 2010 年
度を目途に、博多∼新八代間の開業を目指す。博多∼新八代間が開業すれば、博多∼鹿児島中
央間は 1 時間 20 分で結ばれることになる。
九州新幹線長崎ルートのうち、武雄温泉∼長崎間は、いわゆるスーパー特急方式を採用する
計画である。開業すれば、博多∼長崎は 1 時間 20 分で結ばれることとなる(図表Ⅰ−27)。
図表Ⅰ−27 九州新幹線の概要
事業主体
事業期間
事業区間
内
容
九州新幹線鹿児島ルート
九州新幹線長崎ルート
(財)鉄道建設・運輸施設整備支援
機構、JR 九州
1991∼2003 年:新八代∼鹿児島中央
(2004 年 開業)
1998∼2010 年度:博多∼新八代
博多∼鹿児島中央。257km。
(工事区間 249km)
博多∼鹿児島中央をフル規格で整
備の方向。
全線フル規格新幹線では、博多∼鹿
児島中央1時間 20 分。
(財)鉄道建設・運輸施設整備支援
機構、JR 九州
博多∼長崎。144km(うち博多∼鳥
栖 26km は鹿児島ルートと供用)
武雄温泉∼長崎は新幹線鉄道規格
新線(スーパー特急方式)で整備の
方向。スーパー特急方式で開業した
場合、博多∼長崎間が約1時間20
分で結ばれる。
資料)西日本新聞社「九州データブック 2004」
◆韓国高速鉄道・KTX(韓国)
2004 年 4 月に韓国高速鉄道(KTX)が一部開業した。現在、ソウル∼大邱間は専用路線で
走行しているが、大邱∼釜山間は在来線を利用している。ソウル∼釜山全線開通は 2012 年の
予定である(図表Ⅰ−28)。
図表Ⅰ−28 韓国高速鉄道(KTX)の概要
第一期
(1992∼2004)
区間
第二期
(2002∼2010)
ソウル∼大邱(281.6km) 大邱∼釜山(130.4km)
所要時間
1時間 20 分
想定輸送
人員数
141,000 人/日
36 分
−
全体計画
(1992∼2010)
ソウル∼釜山(412km)
1時間 56 分
289,000 人/日
22 兆 292 億ウォン
財政プラン*
資料)JR 九州ほか
20
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
道路
◆九州内高速道路(九州)
九州の高速道路は、北九州∼福岡∼熊本∼鹿児島の南北軸と、長崎∼大分・鹿児島∼宮崎の
東西軸はすでに整備が終了し、九州の高速道路網の骨格となっている。とくに九州自動車道と
長崎・大分自動車が交差する鳥栖近辺には、流通関連の施設が立地している。東九州の高速道
路網は、九州の他の自動車道と比較して整備が後れている(図表Ⅰ−29)。
図表Ⅰ−29 九州の高速道路網
備考)( )は仮称
資料)日本道路公団
21
新都市
◆アイランドシティ(九州/福岡市)
アイランドシティは、博多湾東部海域に位置し、次世代を視野に入れ将来の福岡市を支える
新しいまちとして整備が進められている。計画的に広い土地を確保できるという特性を活かし、
港湾・産業集積用地・住宅・緑地などをバランスよく配置することにより、「働き、暮らし、
遊ぶ」3 つの生活シーンが調和した未来志向のまちを目指している(図表Ⅰ−30)。
図表Ⅰ−30 アイランドシティ計画図
【整備の目的】
港湾機能の強化
快適な都市空間の形成
将来の港湾取扱貨物量の増加や船舶の大型化など
に対応した最新鋭の国際コンテナターミナルなどの
港湾施設の整備。
市民の多様なニーズに対応した子どもからお年寄り
までが、快適な生活を営むことができる住宅地の整
備や、親水性の高い緑地空間の創出など、人と自然
が共生したアメニティ空間の創出。
新しい産業の集積拠点の形成
東部地域の交通体系の整備
国際化、情報化の進展に対応した研究開発機能や
産業機能の集積により福岡市の都市機能を強化。
海の中道地区への道路を整備することにより、和白
周辺の交通渋滞の緩和を図るなど東部地域の交通
体系整備への寄与。
22
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
【アイランドシティの土地利用】
区 分
面積(ha)
ふ頭・港湾関連ゾーン
内 容
134.5 コンテナターミナル、保管施設用地 等
産業集積、新産業・
研 究 開 発 ゾ ー ン
46.8
住
62.5 住宅、教育施設用地 等
宅
ゾ
ー
ン
複合・交流ゾーン
そ
の
他
合 計
アジア国際ビジネス、先進医療・福祉、
IT関連等産業集積用地 等
41.3 業務・商業、複合住宅用地 等
116.2 公園・緑地、道路用地 等
401.3
【アイランドシティの係留設備】
区 分
水深(m)
バース数
延長(m)
15
2
700
14
1
330
外国貿易ターミナル
11
1
190
国内貿易ターミナル
7.5
4
520
国際コンテナターミナル
資料)福岡市資料をもとに作成
23
◆センタムシティ(韓国/釜山広域市)
センタムシティは、釜山のビッグプロジェクトの一つで、釜山広域市海雲台区に先端科学と
自然が調和する最先端未来都市を開発している。
エリア内には、最先端技術と映画産業の育成、国際観光の中心地、東北アジアの活発なビジ
ネスと文化交流の拠点、最先端住宅環境の機能をもった整備を行う。事業期間は、1997∼2011
年である(図表Ⅰ−31)。
図表Ⅰ−31 センタムシティの概要
ゾーン
BEXCO
デジタル
メディア
ゾーン:DMZ
都心エンター
テイメント
センター
:UEC
国際業務
地域:IBC
内 容
韓国最大のコンベンションセンター
が位置し、様々な国際展示行事が開催
されている。
センタムシティの中核地域で、インタ
ーネットデータセンター、ビジネスイ
ンキュベーター、デジタルプロダクシ
ョン、映画・アニメーションプロダク
ションなど IT 基盤産業で構成され
る。
ウォーターフロントに隣接し、国内外
の観光客等のショッピング、外食、レ
クリエーション等の観光スポットと
して開発する。また映画館、ホテル、
ショッピングモール、免税店、レスト
ラン等の施設を備える。
国際ビジネス、貿易、通商のための国
際業務地域である。
ゾーン
複合商業流通
地区
テーマパーク
内 容
シティ内は、業務と住居が一体化してお
り、環境に優しい最先端の施設の複合機
能団地として開発する。
最先端の技術、アニメーション、マルチ
メディアを使った娯楽施設・設備が自然
の景観と調和した美しいテーマ公園を
開発する。
ウォーター
フロント
市民が水に親しみ文化、スポーツイベン
トが開催できる水辺公園や、階段式円形
劇場、水上舞台、フェリーターミナル、
商店といった施設が集積する。
公共庁舎地域
海雲台区庁や図書館、医療センター、老
人福祉館といった公共施設が集積する。
資料)韓国貿易センター(KOTRA)インベストコリア(http://www.investkorea.org)
24
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
情報通信
◆日韓 IT 光コリドー・プロジェクト(九州・韓国)
日本と韓国の間の経済・文化交流が活発になり、両国におけるブロードバンド・サービスの
普及と、それによる動画や音楽配信などのデータ通信需要の増大を受けて、2000 年 9 月、日
韓首脳会談において「日韓 IT 協力イニシアティブ」が合意され、福岡・釜山間 IT コリドー構
想が発表された。
日本-韓国ケーブル・ネットワーク(KJCN/Korea-Japan Cable Network)は、日韓 IT 光コ
リドー・プロジェクトとして、九州山口経済連合会や韓国全国経済人連合会の協力・支援の下、
整備され、2002 年3月から供用を開始している。九州と韓国を2ルート(福岡∼釜山、北九
州∼釜山)で接続する無中継・多芯光海底ケーブル・ネットワークで、ケーブルには髪の毛と
ほぼ同じ太さの 24 本の光ファイバーが入っており、この極めて細い光ファイバーによって、
何万人もの声や情報を同時に、かつ瞬時に遠方まで送信することが可能である。今後、日韓の
みならず、アジアへ広がる情報基盤整備として大きな期待を集めている(図表Ⅰ−32)。
図表Ⅰ−32 日韓 IT 光コリドーの概要
項目
区間
内容
福岡∼釜山
備考
約 250km
北九州∼釜山
光心線数
24 心/ルート
回線
50 ギガビット/秒
初期
電話換算約 65 万回線
CD−ROM 換算 78 枚
容量
設計
2.88 テラビット/秒
電話換算約 3,500 万回線
CD−ROM 換算 4,500 枚
運用開始
2002 年3月
参加事業者
九州電力㈱
出資比率は、順に 40%、
日本テレコム㈱
20%、20%、20%。
韓国テレコム社
NTT コミュニケーションズ㈱
工事付託先
富士通㈱
総工事費
約 70 億円
資料)九州電力㈱「日韓 IT 光コリドー・プロジェクト」パンフレットより
25
構造改革特区と貿易投資促進地域
貿易や投資の誘致、国際ビジネスの活性化に向けて、九州では構造改革特区による地域指定、
韓国では 5 つの貿易投資促進地域が設定され、地域振興策として活用されている(図表Ⅰ−33)。
図表Ⅰ−33 構造改革特区と韓国の貿易投資促進地域
資料)日本ニュービジネス協議会連合会編「ビジネス特区発見地図」、内閣官房構造改革特区推進室、
山崎宗範「経済自由区域∼北東アジアのハブを目指す∼」
26
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
◆構造改革特区(九州)
九州では、32 地域が構造改革特区の指定を受けている。県別には、福岡県 6、佐賀県 2、長
崎県 6、熊本県 8、大分県 2、宮崎県 3、鹿児島県 5 で、分野は多岐にわたる。このうち国際関
係に直接関わるものは、
「福岡アジアビジネス特区」、
「飯塚アジア IT 特区」、
「久留米アジアバ
イオ特区」、
「北九州市国際物流特区」、
「環境創造新産業特区」、
「伊万里サステイナブル・フロ
ンティア知的特区」、「しま交流人口拡大特区」
、「留学生特区」、「リゾート宮崎 IT 特区」の 9
特区がある。
規制緩和の内容には、外国人研究者の受入れ促進や外国人の入国、在留申請の優先処理、短
期滞在査証の発給手続きの簡素化といった外国人の誘致に関する項目や、港湾・空港の臨時開
庁手数料の軽減、税関の執務時間外における通関体制の整備といった貿易促進に関する項目な
どが含まれている(図表Ⅰ−34)。
図表Ⅰ−34 九州における構造改革特区
特区名
福岡アジアビジネス特区
地域
主な規制緩和項目
福岡市の全域並びに春日市及び大野城 ・外国人研究者受入れ促進
市の区域の一部(九州大学筑紫地区)
・外国人の入国、在留申請の優先処理
・外国人情報処理技術者の在留期間延長
・博多港、福岡空港の臨時開庁手数料の軽減に
よる貿易の促進
・税関の執務時間外における通関体制の整備
・夜間大学院における留学生の受入れ
飯塚アジア IT 特区
飯塚市の全域
・外国人研究者(IT 技術者)受入れ促進
久留米アジアバイオ特区
久留米市の全域
・外国人研究者受入れ促進事業
・特定事業に係る外国人の入国・在留諸申請優
先処理事業
北九州市国際物流特区
門司区及び小倉北区の全域、若松区、八 ・臨時開庁手数料の軽減による貿易の促進事業
幡東区及び八幡西区の一部
・税関の執務時間外における通関体制の整備
・外国人の入国、在留申請の優先処理
・外国人研究者の受入れ促進
環境創造新産業特区
大牟田市全域
・土地開発公社の所有する造成地の賃貸事業
・外国人研究者受入れ促進事業
・外国人の入国、在留申請の優先処理
伊万里サステイナブル・フ
伊万里市の全域
・国立大学教員等の勤務時間内研究成果の活用
ロンティア知的特区
・外国人の入国、在留申請の優先処理
・国の試験研究施設の使用手続きの迅速化、使
用の容易化
・国有施設等の廉価使用の拡大
・温度差発電設備の法定検査等の不要化
しま交流人口拡大特区
長崎県下県郡厳原町、美津島町及び豊玉 ・短期滞在査証の発給手続きの簡素化
町並びに上県郡峰町、上県町及び上対馬 ・特区研究開発学校の設置(教育課程の弾力化)
町の全域
留学生特区
別府市の全域
・公営住宅を留学生向けに目的外使用する手続
きの簡素化
リゾート宮崎 IT 特区
宮崎市、清武町、佐土原町の全域
・国立大学教員等の勤務時間内研究成果活用兼
業事業
・外国人の入国、在留申請の優先処理
・外国人情報処理技術者の在留期間延長
注)国際関係に関する特区を掲載
資料)日本ニュービジネス協議会連合会編「ビジネス特区発見地図」
、内閣官房構造改革特区推進室
27
◆韓国の貿易投資促進地域(韓国)
韓国では 1970 年に輸出を目的とした「自由貿易地域」がつくられた。その後、20 年以上も
これに続く貿易投資促進地域の施行は行われなかったが、90 年代後半に入って、再び各地で
施行が始まっている。1996 年には「外国人専用団地」、98 年には「外国人投資地域」、2000
年には「関税自由地域」
、2003 年には「経済自由区域」が施行された。
90 年代後半以降に施行された貿易投資促進地域の特徴をみると、「外国人専用団地」と「外
国人投資地域」は、臨海部、内陸部を問わず韓国西部・南部に点在しているものの、「関税自
由地域」と「経済自由区域」は、仁川、釜山、光陽に限定して、空港・港湾とその背後地の整
備とあわせて指定を行っている。つまり物流産業の振興の手段として利用されている。
図表Ⅰ−35 韓国の貿易投資促進地域
貿易投資促進地域
(施行年)
(指定者)
■経済自由区域
(2003 年7月)
(産業資源部長官)
◆関税自由地域
(2000 年)
(財政経済部長官)
▲外国人投資地域
(1998 年)
(産業資源部長官)
▼外国人専用団地
(1996 年)
(産業資源部長官)
●自由貿易地域
(1970 年)
(産業資源部長官)
指定地域
インセンティブ
<法人・所得税>7 年間 100%、次の 3 年間 50%減免(大規模直
接投資企業の場合)
<関税>3 年間資本財導入免除
<地方税>5 年間 100%、次の 3 年間 50%減免(大規模直接投資
企業の場合)
<経営環境>迅速な労務関連苦衷処理、出入国手続き簡素化、英
語併用など、英語インフラ拡充など
<生活環境>外国人学校設立支援及び外国教育機関進出許容、先
進国水準の住居・レーザー環境提出、外国病院・薬屋進出許容等
<賃貸料>外国人投資企業が国有財産賃貸時、最高 100%まで減
免、規範施設建設費用も建設費用の 50%まで国家が優先支援
<労働関係>有給週休日の無給化、月次休暇、生理休暇の適用除
外、広範囲な専門業種派遣勤務の許容
<法人・所得税>3 千万ドル以上投資時、最初所得発生年度から
釜山甘川港
課税標準に外国人投資比率を掛けた金額を 7 年間 100%、次の 3
光陽港
年間 50%減免
仁川港
仁川国際空港 <関税等>関税法上、オフショアでの取引として、大部分の搬入
物品に関して関税・付加価値税・特別消費税などの払い戻し、免
(予定)
税 *関税減免対象:ネガティブ方式
<その他>法人税などの減免を受けた企業に対して国有財産の賃
貸料全額免除
<法人・所得税・地方税>7 年間 100%、次の 3 年間 50%減免
天安 晋泗
<関税>3 年間資本財導入免税
麗川 梁山
<国公有財産の賃貸期間を 50 年範囲内にして、期間更新可能>
完州 陰城
<外国人投資企業に国公有財産を貸付又は使用受益する場合には
燕岐全儀
貸付料又は、使用料の減免(100%、75%、50%)など>
<教育訓練補助金、雇用補助金など>支援可能(地方自治団体負
担)
<法人・所得税>高度技術随伴事業に限って 10 年間免除<財産・
晋泗 天安
取得・登録・総合土地税>8∼15 年間免除
平洞 大仏
<関税等>資本財に対して 3 年間免除
梧倉 亀尾
<賃貸料減免対象>投資金額 100 万ドル以上の高度技術は無償、
投資金額 500 万ドル以上である一般製造業は 75%減免
<賃金支援>政府方針によって個別審査
馬山 益山
<法人・所得税>7 年間 100%、次の 3 年間 50%減免
群山 大仏
<財産・取得・登録・総合土地税>7 年間 100%、次の 3 年間 50%
減免
<関税>機械、器具、装備などに関する減免をポジティブ方式で
列挙
<その他>建築許可、工場設立、租税減免、外国人投資申告など
に関してワンストップサービス提供
仁川
釜山・鎮海
光陽
資料)山崎宗範「経済自由区域∼北東アジアのハブを目指す∼」
28
指定対象
地域
物流・ビジ
ネスハブ可
能地域
空港・港湾
及びその背
後地、流通
団地、貨物
ターミナル
外国人投資
家が希望す
る地域
産業団地内
空港・港湾
及び配布地
背後地、産
業団地その
他(大統領
令)
第Ⅰ章 拡大する日韓経済交流と日韓海峡圏の概要
日韓海峡圏では、1970 年代から日本企業が数多く進出している馬山自由貿易地域と大仏が指
定されている。
「外国人専用団地」は晋泗と大仏が指定されている。
「外国人投資地域」は、梁
山、晋泗、麗川(現:麗水市)がある。梁山は釜山広域市の北部に隣接する都市で、物流都市
としての役割を担っている。麗川は、大規模な石油化学工業団地がある。
「関税自由地域」は、
釜山甘川港、光陽港が指定されている。いずれも大規模な港湾開発が進められており、その背
後地に流通団地、貨物ターミナルを整備中である。「経済自由区域」は、釜山、光陽が指定を
受けている。「関税自由地域」と同様に、物流・ビジネスハブとして期待されており、外資系
企業の誘致にあたっては、土地の賃貸条件などで大胆な優遇措置を設定している(図表Ⅰ−35)。
29
第Ⅱ章
第Ⅱ章
日韓自由貿易協定をめぐる動向
日韓自由貿易協定をめぐる動向
1.日韓自由貿易協定とは
(1)わが国の自由貿易協定・経済連携協定の取組状況
自由貿易協定・経済連携協定とは
自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)とは、「特定の国や地域の間で、物品の関税
やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定」であり、経済連携協定
(EPA:Economic Partnership Agreement)とは、FTAをさらに包括的な協定にしたもので、
「特定の二国間または複数国間で域内のヒト、モノ、カネの移動の更なる自由化、円滑化を図
るため、水際及び国内の規制の撤廃(投資に対する規制等)や各種経済制度(知的所有権、政
府間調達等)の調和等を行うことを目的とする協定」である。
図表Ⅱ−1 経済連携協定の内容
1.物・サービス・人の自由な移動の確保
2.域内における経済活動の円滑化
①投資ルールの整備・・共通化
①域内関税の撤廃
投資規制撤廃、手続の簡素化・透明化、接収リスクの
解消、紛争解決手続の整備など
我が国の一層の市場開放の一方、ASEAN 市場を含む
東アジア市場の統合、関税の相互撤廃等を実現
②制度の調和及び透明化
②円滑な「モノ」の移動
知的財産制度、基準・規格、IT 関連制度、競争法、司法
制度等の協調・透明化、遂行能力向上など
ASEAN 広域型等物流インフラ(道路、空港、港湾)の整
備(ODA 等の活用)、通関簡素化・電子化推進など
3.安全性・持続的発展性の確保
③サービス貿易の自由化
①金融・為替の安定・自由化
サービスに係る規制の撤廃、市場アクセスの改善など
通貨危機対応支援の拡充、非ドル建て取引の拡大、
バスケット通貨の検討、資本取引の自由化、マクロ政
策の調整など
④人的交流の拡大
看護師、介護労働者等の受け入れ、ビザ手続・入管手
②そのほか
続の簡素化、我が国における留学生の拡大、我が国
東アジアエネルギーセキュリティ(緊急時融通等)、環境
保全に関する共通のルール作り、環境 ODA など
における受入インフラの整備、高度技術者への永住権
付与の検討など
資料)経済産業省「経済連携の取組状況について」(2004年12月)
31
わが国では、従来、WTO(世界貿易機構)のもとで、多角的自由化交渉を進めてきたが、世
界的な地域統合の動きや二国間FTAの広がり等を受けて、多角的自由化交渉と地域協力や二国
間協力を併せて推進する多層的アプローチをとることとなり、その重要な手段として、経済連
携協定と自由貿易協定が積極的に活用されることになった。
WTO(世界貿易機関)の協定では、FTAを締結する際には、農業やサービス業を含む実質上
全ての貿易について、原則10年以内に関税等を撤廃することを要件とし、その条件のもとで特
定の二国間や地域に対して関税撤廃等の自由化が適用される。現在、わが国が推進する経済連
携の内容を例示すると、図表Ⅱ−1のようになる。
自由貿易協定・経済連携協定の進捗状況
わが国は2002年にシンガポールと経済連携協定を締結し、2004年9月には、メキシコとの間
で農業分野も含めた経済連携協定を締結した。アセアン各国との交渉では、フィリピンと2004
年11月に大筋合意に至った。フィリピンとの経済連携協定では、看護師や介護士の受け入れも
含む内容となっている。
その他の経済連携のスケジュールは図表Ⅱ−2の通りで、マレーシアやタイとの交渉が2005
年には本格化し、韓国とは2005年実質合意をめざすこととしている。また、アセアンとの交渉
も2005年4月の開始が見込まれる。このほか、インド、チリとの交渉も検討されている。ただ、
日本と中国の間では経済連携協定に関する交渉の見通しはまだ立っていない。
図表Ⅱ−2 経済連携のスケジュールのイメージ
2001年
10月 1月
首
シンガポール脳
合
意
メキシコ
交渉
2002年
2003年
1月
11月
署
名
発効
10月11月
首脳
合意
2004年
9月署名
2月
10月
枠組に
署名
フィリピン
交渉
11月大筋合意
交渉
1月
12月
交渉
首脳
合意
2月
タイ
韓国
4月
協議
2月
2006年
4月
発効予定
交渉
アセアン
マレーシア
2005年
交渉
10月
12月
交渉
首脳
合意
2003年中に実質合意
インド
次官級の政策対話
チリ
?
産学官共同研究会
アセアン+3
?
アセアン+3経済大臣会合で検討
資料)経済産業省「経済連携の取組状況について」
(2004年12月)
32
2012年までに
実施完了
第Ⅱ章
日韓自由貿易協定をめぐる動向
(2)日韓自由貿易協定の取組状況
日韓 FTA の交渉決定までの経緯
日韓FTAの検討は、1998年末に始まった日韓の研究機関による共同研究によって本格的にス
タートした。2002年7月からは、日韓合同の産学官共同研究会がスタートし、2003年10月に報
告書が取りまとめられた。2003年10月の日韓首脳会談(於:バンコク)において、2003年内
の交渉開始と日韓国交正常化40周年の2005年締結を目標とすることが確認された(図表Ⅱ−3
参照)。
図表Ⅱ−3 日韓FTA構想開始から交渉開始合意までの経緯
1998 年 11 月
第 1 回日韓閣僚懇談会において、日韓自由貿易協定(FTA)構想について議論がなされる。
1998 年 12 月
上の議論を受け、両国の日本貿易振興会アジア経済研究所と韓国対外経済政策研究院によ
る「21 世紀日韓経済関係研究会」が発足し、日韓 FTA に関する共同研究が開始される。
2000 年 5 月
共同研究の結果が広報され、両国報告書とも日韓 FTA の実現にはいくつかの懸念材料も伴
うという前提を置きつつも、同 FTA は関税撤廃効果のみならず、外資誘致、競争促進、生産
性向上といった諸効果、あるいは日韓両国の対世界貿易収支の改善(黒字増)をもたらすと
いった各種メリットを示した。
2000 年 9 月
日韓首脳会談において金大中大統領より両国経済界の代表から成る「日韓 FTA ビジネス・フ
ォーラム」の設置について正式に提案があり、首脳間で合意された。
2001 年 3 月
日本側が日韓 FTA ビジネス・フォーラムを設置(座長:牛尾会長)、民間のできる限り幅広い分
野の参加を得て、日韓 FTA に関する理解の促進、意見の集約を行うことを目的として議論を
開始した(韓国側は 2000 年 12 月に設置) 。
2001 年 9 月
第 1 回日韓 FTA ビジネス・フォーラム日韓合同会議開催。
2001 年 11 月
経団連が「日韓産業協力の新たな発展に向けて」を日本政府に提出。
2002 年 1 月
第 2 回日韓 FTA ビジネス・フォーラム日韓合同会議を開催。「日韓両国の産業・経済は今後
一層緊密な関係を構築していく必要があり、日韓 FTA はその手段として極めて有効であり、
今後早期に実現を図る必要がある。」という点について日韓双方で合意し、共同宣言文等を
取りまとめ、日本側は同年 2 月、日本政府に対し報告書を提出した。
2002 年 2 月
日本側ビジネス・フォーラムが共同宣言文等を総理及び経済産業大臣、外務省副大臣に提
出(韓国側は 3 月 30 日に韓国政府に提出)。
2002 年 3 月
日韓首脳会談において、日韓 FTA に関する産学官研究会の設置に合意。
2002 年 7 月
日韓FTA共同研究会第1回会合をソウルにて開催。
2003 年 6 月
ノ・ムヒョン韓国大統領の訪日の際に発表された日韓首脳共同声明において、早期に FTA 締
結交渉を開始するよう努力する旨言及。
2003 年 10 月
日韓 FTA 共同研究会第 8 回会合を開催。
会合終了後、日韓 FTA 共同研究会報告書を公表。小泉首相と廬武鉉大統領が日韓 FTA の
年内交渉開始及び 2005 年内に実質的に交渉を終えることを発表。
資料)経済産業省「日韓FTAのこれまでの経緯」
(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/asia/s_korea/html/jk_fta_keii.html)より作成
33
日韓 FTA の交渉状況
2005年2月時点では、2003年12月の第1回交渉会合以来、2004年11月まで計6回の会合が開
催されている。しかし、それ以降、本格的な交渉に必要な関税撤廃品目リストの交換までには
至っていない。第7回の交渉会合の予定も未定である。自動車や電気製品等の関税撤廃への韓
国側の慎重な姿勢、韓国の対日赤字の拡大への懸念、韓国の中小企業や労働組合の反対等が日
韓FTA交渉に影響を及ぼしているとみられる。
図表Ⅱ−4 日韓FTA締結交渉の概要
交渉の全体概要
日韓 FTA 締結交渉
第1回会合
2003 年 12 月 22 日
於:ソウル
日韓 FTA 締結交渉
第2回会合
2004 年2月 23 日∼25 日
於:東京
・交渉の枠組みにつき合意
・全体会合及び(a)物品貿易、(b)非関税措置、衛生植物検疫措置、貿易の技
術的障害、(c)サービス及び投資、(d)その他貿易関連事項(政府調達、知的
財産、競争)、(e)協力、の5つのグループを開催した。各グループにおいて、
関心事項、協定骨子、今後の作業計画等について議論した
・日韓双方は、各分野において、第1回会合において合意した、包括性、実質
的な自由化、相互利益の拡大、WTO ルールとの整合性の実現、2005 年内
の実質合意を目標、といった基本原則を踏まえ、建設的かつ効率的に協議を
進めていくことを確認した。
・今次会合において、相互承認に関する交渉グループ会合の設置が決定さ
れ、次回会合より、同グループを開催することとなった。
日韓 FTA 締結交渉
第3回会合
2004 年4月 26 日∼28 日
於:ソウル
・全体会合及びこれまでに双方の合意により設置された交渉グループ((a)総
則・紛争解決、(b)物品貿易、(c)非関税措置、衛生植物検疫措置、貿易の技
術的障害、(d)投資、サービス、人の移動、(e)その他貿易関連事項(政府調
達、競争)(f)協力、(g)相互承認の7つ)を開催し、各グループにおいて、主と
して、事前に日韓間で交換した条文案を中心に議論を行った。
日韓 FTA 締結交渉
第4回会合
2004 年6月 23 日∼25 日
於:東京
・全体会合の他、(a)物品貿易、(b)非関税措置、衛生植物検疫措置、貿易の
技術的障害、(c)投資、サービス、人の移動、(d)その他貿易関連事項(政府
調達、競争、知的財産)(e)協力、(f)相互承認の各グループを開催し、条文案
やその他関心事項について議論を行った。
日韓 FTA 締結交渉
第 5 回会合
2004 年8月 23 日∼25 日
於:慶州
・全体会合の他、(a)総則・紛争解決、(b)物品貿易、(c)非関税措置、衛生植
物検疫措置、貿易の技術的障害、(d)投資、サービス、人の移動、(e)その他
貿易関連事項(政府調達、競争、知的財産)(f)協力、(g)相互承認の各グルー
プを開催し、条文案やその他関心事項について議論を行った
資料)経済産業省ウェブサイト「日韓FTAについて」
(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/html/jk_fta.html)より作成
日韓 FTA の意義
日韓FTAの交渉は、具体的な交渉を目前にして難局を迎えているが、日韓FTAの意義として
は、次のような点が指摘されている(経済産業省ウェブサイト参照)。まず第1に、東アジアの
経済連携を推進する意義がある。そのためには、日韓両国がリーダーシップをとって、農業を
34
第Ⅱ章
日韓自由貿易協定をめぐる動向
含むすべてのセクターを対象とする高いレベルの自由化のルールを構築しなければならない。
第2に、日韓両国の経済構造改革を一層進展させ、両国の競争力を一層向上させる意義がある。
日本と韓国の産業構造は比較的類似し、産業のレベルも似通っていることから、両国市場の一
体性を高めることにより、両国企業の国境を越えた競争・協力を促進しなければならない。第
3に、欧米から見た日韓両国の「投資先」としての魅力をも増加させる意義がある。日韓がFTA
を通じて市場として一体化することが望まれる。
2.日韓自由貿易協定の影響
(1)日韓 FTA のスコープ
物・サービス・人・制度の自由化と円滑化
日韓 FTA は現在交渉中であり、関税撤廃品目リストも交換されていない状況では、日韓 FTA
がどのような具体的な内容をもつか予想するのは困難である。ただ、2003 年 10 月にまとめら
れた日韓 FTA 共同研究会の報告書に示された日韓 FTA のスコープ(展望)に基づき、どのよ
うな点がポイントになるのかをある程度予想することはできる。
まず関税については、日本が 2.7%、韓国が 9.19%(貿易加重平均実行税率、全品目)であ
り、無税品目の比率は、日本が 57.3%、韓国が 28.3%である(図表Ⅱ−5 及び図表Ⅱ−6)。セ
クターごとにみると、日本は革製品、履物、石油化学製品、繊維製品に比較的高い関税率を設
定し、韓国は衣料品や履物に高い関税率を設定している。農業は日韓ともに高い関税をかけて
いるが、韓国の関税率はとくに高い。関税の分野では、すべてのセクターを対象として、どこ
まで高いレベルの自由化のルールを構築できるかが問われることになるだろう。
非関税措置の分野では、数量制限、検疫、流通障壁等をどこまで撤廃できるかがポイントと
なる。とくに、ノリ等の日本の水産物の輸入割当(IQ)制度については、韓国側が WTO に提
訴する事態に至っている。日韓 FTA とは別に、WTO の場で解決が図られることになるが、日
韓 FTA の交渉にも影響は出てくるだろう。
貿易の円滑化では、税関手続の簡素化・迅速化、ペーパレス貿易による電子化の推進が求め
られる(図表Ⅱ−7) 。
人の移動の自由化も、日韓の人的交流をさらに拡大するとともに、サービス貿易の自由化を
推進するために必要である。具体的には、ビザ手続や入管手続の簡素化やビザ免除の対象の拡
大が求められる。
制度の調和や透明化では、安全基準等さまざまな基準や規格の相互承認、知的財産権の保護
等が重要な課題となる。
投資の面では、2003 年に日韓投資協定がすでに発効しているが、日韓の相互投資の拡大に結
びつけるためには、投資の促進を促すビジネス環境の整備が必要であろう。
35
図表Ⅱ−5 日本と韓国の関税比率の比較
貿易加重平均実行税率
韓国
全品目
貿易加重平均譲許税率
日本
韓国
日本
9.19%
2.70%
11.74%
3.60%
農産品(水産品を除く)
84.04%
10.60%
93.94%
15.80%
水産品及び水産加工品
13.04%
4.40%
13.15%
4.40%
石油
4.51%
0.90%
5.04%
3.70%
木材、パルプ、紙、家具
3.97%
1.40%
4.93%
1.90%
繊維及び衣料品
9.76%
9.30%
22.78%
9.40%
皮革、ゴム、履物、旅行用具
6.73%
11.00%
10.80%
11.00%
金属
3.88%
0.60%
5.68%
0.70%
化学製品及び写真用品
6.86%
2.00%
10.18%
2.00%
輸送機器
4.95%
0.00%
7.40%
0.00%
機械類(電気機械を除く)
4.65%
0.00%
6.83%
0.00%
電気機械
2.29%
0.10%
3.20%
0.10%
鉱物性生産品、宝石、貴金属
2.94%
0.60%
5.25%
0.30%
その他工業製品
5.54%
0.70%
7.44%
0.70%
資料)日韓自由貿易協定共同研究会報告書(2003 年 10 月)より
図表Ⅱ−6 日韓両国の輸入における有税品目比率
韓国 → 日本
日本 → 韓国
(2002年)
総輸入額
(2002年)
総輸入額
155億ドル
300億ドル
石油製品等
2.1% 化学品等
11.6%
農林水産品
8.9%
石油製品等
13.4%
無税品目
57.3%
無税品目
28.3%
化学品等
3.0%
プラスチック
及びゴム類
3.9%
金属等
5.9%
プラスチック
及びゴム類
5.0%
金属等
14.3%
光学機器、
写真用機器
6.4%
その他製品
6.4%
紡績用繊維
及びその製品
4.1%
その他の
鉱工業品
3.4%
機械及び電気機器
22.9%
資料)日韓自由貿易協定共同研究会報告書(2003 年 10 月)より
36
車両、航空機、船舶
3.0%
第Ⅱ章
日韓自由貿易協定をめぐる動向
図表Ⅱ−7 日韓FTAのスコープ(自由化及び円滑化)
内
容
1.関税
・貿易加重平均実行関税率は、日本(対韓国)2.5%、韓国(対日本)7.9%
・比較的高い関税率を設定している分野は、日本で革製品、履物、石油化学製品、繊
維製品等。韓国で衣料品、履物等
・両国ともに農林水産業はセンシティブなセクター
2 . 非 関 税 措 置
(NTMs)
・関税と並んで、非関税措置を撤廃する作業が重要
・非関税措置については、一般的な定義存在せず
・数量制限、技術障壁、衛生植物検疫措置、流通障壁等
3.原産地規則
・特定の産品の原産地を決定するために使用される一連の基準
・日本及び韓国を原産とする物品だけに、日韓 FTA による利益享受
4.税関手続
・税関手続きの電子化、予備審査制度及び通関手続きの 24 時間化の措置によって、
通関時間の短縮、税関手続きの簡素化
5.ペーパレス貿易
・日本は貿易金融 EDI(TEDI)、韓国は韓国貿易ネットワーク(KTNET)
・日本は複数の標準、税関手続きと物流のシステムが統一されていない。シングル・ウ
ィンドウ・システムの導入が必要
6.貿易救済措置
・セーフガード措置
・ダンピング防止措置及び相殺関税措置
7.貿易の技術的
障害∼相互承認
・相互認証協定(MRA)が、検査と認証に伴う費用を削減
・電気用品、情報通信機器、圧力容器、医薬品/医療機器、日本工業規格/韓国国家
基準
8.衛生植物検疫
(SPS)措置
・人、動物、植物の生命と健康の保護に必要な SPS 措置を講じる権利を有するが、貿
易制限的な側面も考慮
9.サービス貿易
・一般的なサービスセクター以外に、通信、運輸、金融等
・韓国側から、医師、看護師、助産師などの医療従事者の資格に関する MRA の締結
に向けた交渉が要請される→日本側は、日本の国家資格を取得することが必要であ
ること、MRA 締結は困難
10.投資
・2003 年1月に日韓投資協定が発効
・両国の経済規模と二国間貿易の額を考慮すると、両国間の投資には大きな改善の
余地あり
11.人の移動
・サービス分野に従事している人の移動を促進する必要
・二国間査証免除協定の重要性
・韓国側から、短期商用入国者に対する査証の免除、数字査証に関連する措置の改
善等の暫定措置が要望
・IT エンジニアの資格の相互承認と有資格者への査証発給要件の緩和、ビジネス・ト
ラベル・カード制度、日本へ修学旅行する韓国学生の査証免除、期間限定の査証免
除により日韓間に一日生活圏
12.知的財産権
・日本側から知的財産権保護→日本からの投資拡大、両国間の文化産業関連製品の
貿易拡大
13.政府調達
・日本と韓国は、これまで相互の政府調達市場に積極的に参加してこなかった
・両国企業がコンソーシアムを形成、両国企業の世界市場への進出
14.競争政策
・韓国側は、日本の流通システムにおける取引慣行について懸念
資料)「日韓自由貿易協定共同研究会報告書(2003 年 10 月)」より作成
37
貿易自由化に補完的な役割を果たす経済協力
日韓 FTA を推進する上で、経済協力は貿易自由化に補完的な役割を果たすと考えられる。
図表Ⅱ−8 にみられるように、多方面にわたる経済協力の推進も必要となるだろう。とくに、
韓国の中小企業が FTA によって大きなダメージを受けることが予想される場合、技術協力や
人材養成面での協力は不可欠であろう。韓国の中小企業が競争力をもち、日本と新たな分業関
係を築くことができれば、日韓両国の相互利益の拡大にも結びつく。
図表Ⅱ−8 日韓FTAのスコープ(協力)
内
容
1.情報通信技術
・情報通信関連製品に対する関税撤廃
・電子商取引の分野での協力の重要性
・モバイル通信とデジタル・エレクトロニクスの共同標準の制定を提案
2.中小企業
・日韓 FTA による中小企業の事業機会の拡大
・韓国側は、韓国の中小企業は関税の撤廃によって韓国の中小企業に大きな損失が
生じるかもしれないという韓国企業間の重大な懸念を指摘
・韓国側から、韓国の中小企業に日本の退職技術者を雇用することを支援する仕組
みを提案
3.貿易と投資の
促進
・日韓投資協定、日韓産業技術協力財団、韓日産業技術協力財団の役割
・JETRO、KOTRA が両国の投資と貿易の振興に貢献
・韓国の部品・原材料部門に対する日本企業の投資を拡大
・部品と原材料の分野における産業協力と技術協力
4.科学技術
・日韓科学技術協力協定、科学技術協力委員会、科学技術フォーラム等による科学
技術分野における二国間協力
・韓国側からバイオ、ナノテク等の共同研究基金の設立、人材交流のプログラム設
立、研究施設の共同利用の促進等を提案
5.運輸
・韓国側が、海上・航空運送セクターの自由化推進を提案
・両国間に一日生活圏を実現するため、金浦∼羽田空港間の航空便を導入すること
6.放送
・両国の友好と相互理解促進のために、放送分野の協力は重要
・韓国における日本の映画、CD、ゲームに関する自由化
7.観光
・日本を訪れる韓国人数増加
・韓国側から、査証免除の協定、運輸協力拡大の要望
8.環境
・環境保護のための施策を日韓 FTA に盛り込むことの重要性
・貿易自由化が環境に及ぼす影響
・日本の「エコマーク」と韓国の「エコラベリング」の相互承認が重要
9.金融
・二国間及び地域レベルでの金融協力強化が必要
10.人材養成
・学生、教育、大学の研究者の交換
・技術分野の専門家の交換、退職した CEO や専門家による経営や技術上の助言
11.紛争解決
・省略
資料)「日韓自由貿易協定共同研究会報告書(2003 年 10 月)」より作成
38
第Ⅱ章
日韓自由貿易協定をめぐる動向
(2)日韓 FTA の経済効果
マクロ的な効果
日韓 FTA の経済効果に関する研究は、韓国対外経済政策研究院(KIEP)と日本貿易振興機
構アジア経済研究所(IDE)が 1999 年から 2000 年にかけて実施している。
韓国側(KIEP)の研究によれば、短期的には貿易赤字の増大によって、韓国に悪影響を及
ぼし、短期的には 60 億ドルの対日赤字が増大すると予測している。しかし、外国直接投資の
流入の増加によって、長期的には韓国にもメリットが生じ、日本からの技術移転や資本流入も
期待できるとしている。
一方、日本側(IDE)の研究によれば、短期的には両国、とくに日本にメリットが生じると
予測している。長期的には韓国が 8.67%、日本側が 10.44%の GDP を増加させるとしている。
また、韓国の生産性が 10 年間で 10∼30%増加とも予測している(図表Ⅱ−9)。
数量的なインパクトは両者で異なるものの、長期的には、日韓両国の経済連携(GDP は約5
兆ドルで世界の 17%、人口は 1 億 7,000 万人)による規模の経済、競争の増加による効率性
の増大、協力と競争による戦略的提携の増加、貿易・投資の拡大(とくに産業内貿易の促進)
等によって日韓双方にプラスの影響が出るとみている。
図表Ⅱ−9 日韓FTAのスコープ(協力)
静態効果
KIEP
韓国
動態効果
IDE
KIEP
IDE
厚生水準(%)
-0.19
0.34
11.43
7.09
GDP(%)
-0.07
0.06
2.88
8.67
-60.90
-38.85
-4.40
-24.60
-15.43
-2.70
30.14
408.00
厚生水準(%)
0.14
0.03
-
9.29
GDP(%)
0.04
0.00
-
10.44
対日貿易収支
(単位:1億米ドル)
対世界貿易収支
(単位:1億米ドル)
日本
対韓貿易収支
60.90
38.85
(単位:1億米ドル)
対世界貿易収支
54.79
(単位:1億米ドル)
資料)日韓自由貿易協定共同研究会報告書(2003 年 10 月)より
24.60
182.00
日韓産業界の日韓 FTA への期待
日本側の期待としては、資本財、自動車、農産物等の対韓輸出の拡大(半導体、熱延鋼板、
自動車部品、プラスチック製品、化学製品等)があげられる。新日本製鐵㈱(新日鐵)と㈱ポ
スコ、日産自動車㈱とルノー三星自動車㈱、ソニー㈱と三星電子㈱等、日韓企業の戦略的な提
携が拡大する可能性もある。また、韓国企業が対日投資を拡大することも考えられる。
一方、韓国側の期待としては、日本企業の対韓投資の拡大、日本からの技術移転や共同技術
39
開発の促進、農水産物や繊維製品や化学製品等の対日輸出拡大、人の移動の自由化(ノービザ
等)等があげられる。とくに韓国では、韓国貿易センターの附属機関で外資誘致の専門機関で
ある「インベスト・コリア」や、日本の部品・素材企業の対韓進出を専門的にサポートする「ジ
ャパン・デスク」を設置しており、日本企業の対韓投資への関心は高い。
3.日韓自由貿易協定の課題
韓国側の課題
日韓 FTA は日韓双方に利益をもたらすという共通認識は深まっているものの、短期的には
痛みをともなうセンシティブな分野があるため、日韓 FTA の行方はまだ不透明な点も多い。
韓国にとっての最大の課題は、対日貿易赤字の悪化である。2004 年の対日貿易赤字は 2 兆
円を超えた。関税が撤廃された場合、短期的には対日貿易赤字が増大することは避けられない
とみられるため、それを補う仕組みをつくり、韓国国民に日韓 FTA への理解を深めてもらう
努力が必要とされるだろう。
日本から韓国へ自動車部品や電子・機械製品等の工業製品の輸出が増大すれば、韓国の中小
企業に脅威やダメージを与えることになるかもしれない。とくに、韓国東南部には中小零細企
業が多く、韓国中小企業の間では強い懸念が広がっている。労働組合運動も活発であり、政治
的な影響も看過できない。日韓の間で産業協力や技術協力を強化することも必要である。
韓国の農業は、日本と同様、国際競争力が弱いとされ、関税によって韓国農業は保護されて
いる。しかし、日韓 FTA によって関税が撤廃されれば、日本から高級品市場向けの農産品(お
茶、果物、米等)が韓国に輸出されることも起こりうる。わが国も、韓国農産品の輸入を増や
すことによって、日韓双方の農業の競争力を高めていくことが望まれよう。
日本側の課題
韓国側の懸念の増大に対し、日本側は日韓 FTA に積極的な姿勢をみせているといえる。し
かし、ノリの輸入割当制度にみられるように、一部の農水産物についてはきわめてセンシティ
ブな分野が残されている。農産品の市場開放は着実に進展しているものの、こうした一部の農
水産物について、日韓 FTA でどのように取り扱うのか課題は残されている。
また、日韓両国が高いレベルの自由化をめざすなら、人の移動やサービス分野の自由化、さ
らには制度の調和や透明化等でより積極的な対応が求められよう。こうした分野では、むしろ
韓国側が進んでいるケースもみられる(例えば、医療・福祉の自由化等)。
40
第Ⅲ章
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会
に及ぼす影響
1.アンケート調査の概要
(1)調査目的
日韓自由貿易協定(以下、日韓 FTA)締結に向けた動きは、2003 年 6 月の日韓首脳会談で
政府間交渉開始の合意に至り、同年 12 月から 2005 年の締結を目標に本格的な協議が始まって
いる。日本側は農水産物、韓国側は工業製品の輸入増大等について懸案事項も抱えているが、
企業の国際競争力の強化や市場の拡大等で大きな経済効果が期待されている。
本調査は、日韓 FTA が九州に与える影響と、日韓経済交流における九州の先駆的な役割を
明らかにすることを目的に、九州と韓国東南部の企業と有識者に対してアンケート調査を行っ
た。今回の調査では、半導体、自動車、ソフト、観光等の産業分野において日韓 FTA が与え
る影響や日韓 FTA に期待される役割を明らかにするとともに、九州と韓国の交流を支えるイ
ンフラや制度のあり方を分析し、九州と韓国南部における経済圏(日韓海峡経済圏)構築のた
めの戦略を提言するものである。
(2)調査の概要
九州(下関市を含む)に立地する企業・事業所を対象とする企業アンケートと、九州に居住
する有識者を対象とする有識者アンケートの二種類を、2004 年 8 月から 9 月にかけて実施し
た。
主な質問項目は、韓国との交流の現状、日韓 FTA が与える影響及び日韓 FTA に期待する役
割、日韓海峡圏における地域協力等についてである。
日韓の比較を行うため、韓国の研究機関(国土研究院、慶南発展研究院、蔚山発展研究院)
や大学(釜山国立大学・東北亜地域革新院)と協力・連携し、韓国東南部(釜山広域市、蔚山
広域市、慶尚南道)においても、九州とほぼ同様の質問項目によるアンケート調査を実施した。
九州におけるアンケートでは、本調査の経済連携の対象地域である韓国南部(釜山広域市、
蔚山広域市、全羅南道、慶尚南道、済州道)を想定して質問を行っている。
41
(3)調査方法等
九
州
韓
国
サンプル
地域
企
業
向
け
九州・山口 8 県
韓国東南部
(福岡 700 通、佐賀 100 通、長崎 100 通、
(釜山広域市、蔚山広域市、慶尚南道)
熊本 100 通、大分 100 通、宮崎 100 通、
鹿児島 100 通、山口〈下関市〉100 通)
対象
期間
方法
配付数
回収数
各県商工名鑑から抽出した主要企業
商工会議所名簿から抽出した主要産業
・事業所
2004 年 8 月 20 日∼9 月 30 日
郵送法
1,400 通
262 通(回収率 18.7%)
2004 年 8 月
電話で確認後 FAX 配付、後日調査員回収
−
207 通
九州・山口 8 県
韓国東南部
(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、
(釜山広域市、蔚山広域市、慶尚南道)
サンプル
地域
鹿児島、山口〈下関市〉)
有
識
者
向
け
対象
期間
方法
配付数
回収数
県・市・町・村の首長(498 通)
政府・地方公共団体の首長
国出先機関・県の関係部長等(46 通)
マスコミの管理職従事者
大学教授等学識経験者(178 通)
大学学長・学部長・教授
マスコミ関係者(42 通)
研究機関の経営者
NPO 代表(288 通)
コミュニティ組織や NPO の代表
2004 年 8 月 20 日∼9 月 30 日
郵送法
1,052 通
295 通(回収率 28.0%)
労働組合幹部
2004 年8月
電話で確認後 FAX 配付、後日調査員回収
−
216 通
注)九州側は配付・回収とも郵送法で行った。韓国側は 200 通の有効回答を目標とし、それに達する
まで対象者リストをもとに電話連絡後 FAX を送付し、後日調査員が回収を行う方法をとった
(4)調査実施体制
(企画)
(企画)
(財)九州地域産業活性化センター
韓国・国土研究院
委託
(実施機関)
協力・連携
(財)九州経済調査協会
42
釜山
慶南
蔚山
国立
発展
発展
大学等
研究院
研究院
(実施機関)
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
2.企業アンケート調査結果
企業アンケート調査結果のまとめ
1)全体的に、九州企業の大多数は日韓 FTA に対して肯定的意見を持っており、ま
た、日韓 FTA は九州経済によい影響を与えると考えている。一方、韓国側では、
日韓 FTA の締結に関しては九州側と同様に肯定的であるが、韓国国内産業への
マイナスの影響を勘案して、慎重に交渉を進めるべきであるとの意見が多くな
っている。
(図表Ⅲ−5、7、8 を参照)
2)調査対象企業における現時点での日韓企業交流はあまり活発ではない。しかし、
将来における連携の意向は九州 35%、韓国東南部 45%と比較的高い。九州側で
は、市場拡大、韓国側では技術移転に対する期待が大きい。また、連携におけ
る障害としては、九州側では「言語の問題」、「情報の不足」、
「商取引習慣の差」
など非関税障壁を挙げるものが多く、韓国側では「技術移転の不足」を指摘す
る声が多かった。(図表Ⅲ−10、14、15、17 を参照)
3)地方レベルでの国際協力については、九州側は、民間主導による市場拡大を望
むものが多く、自治体による支援策として「情報提供」や「制度的な障害の撤
廃」、
「交流機会の創出」といった項目に対する期待が大きい。一方韓国側では、
「資金援助」に対する期待が大きく、国内産業の競争力を高めた上での連携を
求めている。(図表Ⅲ−18、20 を参照)
43
(1)回答企業の属性
回答企業の所在地は発送数とほぼ同じ構成で、福岡県が 47.3%と最も多い。業種は「製造業」
が最も多く 31.7%、次いで「サービス業」の 16.4%となった。従業者数では、
「50 人未満」が半
数を占め、300 人以下の中小企業が 8 割を占めた。主要な営業エリアは、中小企業が多いこと
を反映し、
「九州(下関市含む)」が約 7 割となり、逆に海外を営業エリアとするものは少なか
った。
図表Ⅲ−1 所在地《九州》
図表Ⅲ−2 業種《九州》
無回答
1.1%
熊本
佐賀 4.6%
5.7%
卸・小売業
6.9%
大分
7.6%
製造業
31.7%
建設業
7.3%
福岡
47.3%
鹿児島
8.0%
無回答
2.3%
情報通信業
3.8%
宿泊・飲食業
4.2%
農林水産業
8.8%
長崎
8.0%
その他
9.2%
山口(下関)
宮崎
8.4%
9.2%
N=262
図表Ⅲ−3 従業者数《九州》
運輸業
9.5%
N=262
図表Ⅲ−4 主要な営業エリア《九州》
無回答
0.8%
海外
0.0%
無回答
1.1%
全国及び
海外
9.2%
100人以上∼
300人未満
14.9%
51人∼100人未満
16.4%
サービス業
16.4%
全国
22.5%
50人未満
51.1%
九州(下関市含む)
67.2%
300人以上
16.8%
N=262
N=262
44
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
(2)日韓 FTA について
日韓 FTA について
日韓 FTA については、「なるべく早く締結すべき」が 45.0%を占め、「現時点での締結は時
期尚早」とする意見を大きく上回り、九州企業における日韓 FTA に対する積極的姿勢を示し
ている。一方韓国東南部では「現時点での締結は時期尚早」が約7割を占め慎重な意見が多い。
図表Ⅲ―5 日韓 FTA について
《九州》
《韓国東南部》
ASEAN等、他国との
FTAを先に締結する
べき
1.9%
日韓中の三国FTAを
締結すべき
11.6%
無回答
2.3%
ASEAN等、他国との
FTAを先に締結する
べき
3.8%
わからない
17.2%
なるべく早く
締結すべき
45.0%
日韓中の
三国FTAを
締結すべき
14.5%
韓国とのFTA締結に
は反対
1.5%
日本との締結には
反対
3.4%
現時点での
締結は時期尚早
15.6%
わからない
2.4%
なるべく早く
締結すべき
12.1%
現時点での締結は
時期尚早
68.6%
N=262
N=207
日韓 FTA 交渉の進展について
日韓 FTA が順調に進むかとの問いに対しては、
「遅れても協定は締結される」が 45.4%と「予
定通り進む」の 19.1%を大きく上回った。韓国東南部においては、「遅れても協定は締結され
る」が 60.9%と九州よりも多くなっている。
《九州》
図表Ⅲ−6 日韓 FTA の進展予想
《韓国東南部》
無回答
1.9%
わからない
29.4%
日韓FTAの
代わりに
日中韓FTA
が進む
12.1%
予定通り進む
19.1%
遅れても協定は締
結される
45.4%
日韓FTAの代わりに
日中韓FTAが進む
4.2%
わからない
予定通り進む
12.6%
14.5%
遅れても協定は締
結される
60.9%
N=207
N=262
45
日韓 FTA 締結による地元経済への影響
日韓 FTA が締結された場合の九州経済への影響としては、「プラスの影響が多少ある」が
40.5%、
「プラスの影響が大きい」が 29.0%と「マイナスの影響が多少ある」と「マイナスの影
響が大きい」を大きく上回り、日韓 FTA は九州経済に対してプラスとの見方が約 7 割を占め
た。韓国側では、
「プラスの影響が多少ある」との意見が 44.6%で最も多いが、「マイナスの影
響が多少ある」が 26.7%と九州側より多く、FTA 締結による負の影響を懸念する声が多い。
図表Ⅲ−7 日韓 FTA 締結による地元経済への影響
《九州》
とくに影響はない
9.5%
プラスの影響
が大きい
6.9%
無回答
6.1%
とくに影響はない
16.8%
プラスの影響が
大きい
29.0%
マイナスの影響
が多少ある
10.7%
マイナスの
影響が大きい
4.2%
《韓国東南部》
マイナスの影響が多
少ある
26.7%
プラスの影響が多
少ある
40.5%
N=262
プラスの影響が多
少ある
44.6%
マイナスの
影響が大きい
5.0%
N=202
日韓 FTA 締結による企業利益
日韓 FTA 締結による企業利益としては、「特に利益はない」が 45.4%で最も多く、次いで「わ
からない」、
「若干の利益が期待できる」の順となっており、日韓 FTA は九州経済に対してプ
ラスの影響が大きいが、自社の利益への貢献は少ないとしている。韓国側では「特に利益はな
い」とするものが半数近くを占めることは共通しているが、損失があると予想しているものが
21.6%と九州よりかなり多い。
図表Ⅲ−8 日韓 FTA 締結による企業利益
《九州》
無回答
1.9%
わからない
23.3%
損失が出ると予想さ
れる
4.6%
《韓国東南部》
大きな利益が期待
できる
2.3%
わからない
6.4%
若干の利益が期待
できる
22.5%
損失が出ると
予想される
21.6%
特に利益はない
45.4%
大きな利益が期待
できる
1.0%
若干の利益が期待
できる
26.0%
特に利益はない
45.1%
N=262
46
N=204
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
日韓 FTA 締結による企業利益の形態
日韓 FTA 締結による企業利益の形態としては、
「共同市場開拓または市場拡大」が 67.7%と
最も多く、「低廉な中間財及び部品の輸入」といった関税引き下げによる利益よりも、市場の
拡大に対する関心が高いことがうかがえる。
図表Ⅲ−9 日韓 FTA 締結による企業利益の形態(複数回答)《九州》
(%)
0
10
20
30
40
50
60
70
共同市場開拓または市場拡大
67.7
26.2
技術者および人的交流の拡大
低廉な中間財及び部品の輸入
16.9
10.8
共同技術開発または技術指導
韓国からの直接投資
経営技術の導入
80
9.2
0.0
その他
7.7
N=65
(3)日本・韓国の経済連携について
日本・韓国の企業間の連携
現在の韓国との関係では、「韓国から製品・部品等を輸入」などが 10%前後で並んでいる。
一方、「韓国企業に技術者を派遣」や「韓国から社員や研修生を受け入れ」といった人材交流
については相対的に少なかった。また、韓国側でも、輸出入や提携といった項目と比べて人材
交流に関する項目が比較的少なくなっている。なお「とくに関係はない」と答えたものは九州
側で 70.2%、韓国側で 40.6%を占め、つまり関係がある企業は九州側 29.8%、韓国側 59.4%
を占めることになる。
図表Ⅲ−10 日本・韓国の企業間の連携(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
(%)
0
20
60
80
10.7
韓国から製品・部品等を輸入
韓国へ製品・部品等を輸出
8.4
韓国企業と提携
(技術・販売提携、生産委託等)
6.9
韓国に事業所や支社を設置
(出資・合弁を含む)
40
(%)
10
20
中間財および部品の
主要な輸入国
17.4
製品の主要な輸出市場
17.4
日本企業との提携
17.4
30
40
50
3.8
韓国から社員や研修生
を受け入れ
1.1
韓国企業に技術者を派遣
0.8
9.9
その他
とくに関係はない
日本の技術者の招聘
3.9
日本での事業所や
支所の設置
3.4
日本への研修生の派遣
70.2
何も関係はない
無回答
0
1.1
N=262
47
0.0
40.6
N=207
韓国のパートナーのいる地域
韓国企業と関係がある企業のうち、韓国側のパートナーのいる地域としては「ソウル」が
66.7%で圧倒的に多く、次いで「釜山」、「韓国南部」といった地域が続いている。
図表Ⅲ−11 韓国のパートナーのいる地域(複数回答)《九州》
(%)
0
10
20
30
40
50
60
70
ソウル
80
66.7
21.2
釜山
韓国南部
9.1
韓国北部
9.1
韓国中部
3.0
N=33
注)韓国南部:光州、蔚山、全羅南道、慶尚南道、済州島
韓国中部:大邱、大田、忠清北道、忠清南道、全羅北道、慶尚北道
韓国北部:仁川、江原道、京畿道
韓国との協力形態
韓国企業と関係がある企業のうち、その協力形態としては「市場開拓」が 45.5%で最も多く、
次が「技術指導」の 21.2%、「OEM 委託」の 12.1%の順となった。
図表Ⅲ−12 韓国との協力形態(複数回答)《九州》
(%)
0
10
20
30
市場開拓
50
45.5
技術指導
21.2
OEM委託
12.1
技術研修
9.1
共同研究開発
6.1
部品調達
6.1
技術導入
3.0
資本調達
3.0
12.1
その他
無回答
40
N=33
3.0
48
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
第Ⅲ章
韓国と関係を持つきっかけとなった機関・媒体
韓国と関係を持つきっかけとなった機関・媒体としては、「直接調査および訪問」や「協力
パートナーによる直接提案」が多く、逆に政府機関によるものは比較的少なかった。
図表Ⅲ−13 韓国と関係を持つきっかけとなった機関・媒体(複数回答)
《九州》
(%)
0
10
20
30
40
直接調査および訪問
31.2
30.1
協力パートナーによる直接提案
海外の展示会
12.9
韓国の関連分野の専門家(大学、コンサル等)
9.7
国際会議、国際セミナー
9.7
6.5
韓国中央政府・公共機関
韓国地方政府・公共機関
5.4
日本中央政府・公共機関
3.2
日本地方政府・公共機関
3.2
日本の関連分野の専門家(大学、コンサル等)
3.2
専門雑誌など2次資料
1.1
23.7
その他
N=93
今後の日韓間の協力・連携の意向
今後の韓国の企業・団体との協力・連携の意向としては、「ある」と答えたものが 35.1%で、
図表Ⅲ−10 の現在関係がある 29.8%を上回っている。一方、韓国側では日本との協力・連携
の意向が「ある」が 45.3%で九州側より多いが、現在関係がある 59.4%より少なくなってい
る。したがって九州側は連携に対してやや積極的、韓国側ではやや消極的な意向となっている。
図表Ⅲ−14 今後の日韓間の協力・連携の意向
《九州》
《韓国東南部》
無回答
4.6%
ある
35.1%
ある
45.3%
ない
54.7%
ない
60.3%
N=262
N=203
49
希望する協力・連携の形態
韓国との協力・連携の意向がある企業のうち、希望する協力・連携の形態としては、「販売、
サービス網の利用」が 38.0%、「共同市場開拓」が 23.9%と市場や販売に関する項目が多かった。
一方韓国側では、「技術協力」を挙げるものが半数を超えている。
図表Ⅲ−15 希望する協力・連携の形態
《九州》
その他
4.3%
《韓国東南部》
無回答
1.1%
相互投資
4.4%
相互の人的交流
21.7%
販売、サービス網
の利用
38.0%
共同技術開発
9.8%
販売、サービス
網の利用
14.4%
技術協力
56.7%
共同市場開拓
22.2%
共同市場開拓
23.9%
N=92
N=90
経営技術の導入
および開発
2.2%
相互投資
1.1%
希望する技術協力の形態
また、韓国との協力・連携の意向がある企業のうち、希望する技術協力の形態としては、「無
回答」を除くと「共同研究開発」が 18.5%で一番多かった。一方、韓国側では、
「技術導入」
挙げるものが 5 割強となっている。
図表Ⅲ−16 希望する技術協力の形態
《九州》
《韓国東南部》
技術導入 技術指導
4.3%
3.3%
技術研修
6.5%
無回答
53.3%
OEM委託
3.6%
共同研究開発
14.5%
共同研究開発
18.5%
その他
9.8%
その他
3.6%
技術研修
12.7%
OEM委託
4.3%
技術導入
52.7%
技術指導
12.7%
N=55
N=92
50
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
第Ⅲ章
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
九州と韓国東南部の企業間の経済協力を実現するための課題
九州と韓国東南部の企業間の経済協力を実現するための課題としては、多い順に「言葉の問
題」、「相互の情報不足」
、「商取引習慣の違い」、
「高率な関税、通関手続き」となっており、非
関税障壁の面での課題を挙げるものが多かった。一方、韓国側では「技術移転の不足」が 49.8%
と最も多く、九州側の意識と大きなズレが見られる。
図表Ⅲ−17 九州と韓国東南部の企業間の経済協力を実現するための課題(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
0
(%)
10
20
30
40
言葉の問題
34.7
相互の情報不足
34.0
商取引習慣の違い
27.9
高率な関税、通関手続き
27.5
40
60
49.8
技術移転の不足
38.2
相互の情報不足
21.7
政府の対応
14.5
11.1
知的財産権の問題
物流費用・納期
12.1
言葉の問題
11.6
9.2
物流費用・納期
技術移転の不足
20
商取引習慣の違い
ビザ等の出入国規制
その他
(%) 0
6.9
3.4
高率な関税、通関手続き
9.7
知的財産権の問題
8.7
1.1
無回答
12.6
その他
N=262
N=207
1.9
九州と韓国東南部での企業間協力において期待される自治体の役割
九州と韓国南部での企業間協力において期待される自治体の役割としては、「情報提供」が
最も多く 43.9%、次いで「制度的な障壁の撤廃」
、「交流機会の創出」の順となった。
一方、韓国側では「資金援助」が一番多く、次いで「情報提供」、
「制度的な障壁の撤廃」
、「交
流機会の創出」の順となっている。
図表Ⅲ−18 期待される自治体の役割(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
(%) 0
10
20
30
40
43.9
情報提供
34.4
交流機会の創出
資金援助
15.6
人的交流支援
14.9
無回答
20
24.2
15.2
交流機会の創出
N=262
その他
40
26.7
制度的な障壁の撤廃
人的交流支援
30
29.8
情報提供
0.8
11.5
10
資金援助
37.4
制度的な障壁の撤廃
その他
(%) 0
50
3.6
0.6
N=207
51
九州と韓国東南部での経済協力が期待される分野
また、九州と韓国東南部での経済協力が期待される分野としては、「観光産業」が 43.1%と他
の産業を圧倒して多かった。一方、韓国で最も多かったのは「自動車・自動車部品産業」であ
り、「観光産業」は第 2 位となっている。また、他にも九州側では低位にある「一般機械」が
韓国では比較的上位になっている。韓国東南部には、自動車関連産業が集積しているが、韓国
側アンケートの調査対象業種をみても、とくに自動車関連産業に過大に偏っているわけではな
いことから、地域の基盤産業として、自動車・自動車部品産業に対する期待が高いのではない
かと思われる。
図表Ⅲ−19 経済協力が期待される分野(複数回答)
《九州》
(%)
0
10
《韓国東南部》
20
30
40
43.1
観光産業
(%) 0
50
16.0
観光産業
半導体関連業
14.9
一般機械
ソフトウェア産業
14.5
物流業
14.5
11.8
農林水産業
11.1
教育・研究開発活動
4.6
ロボット産業
4.2
その他
無回答
1.5
13.0
参考
17.6
13.1
11.6
ソフトウェア産業
8.2
農林水産業
6.5
半導体関連業
6.0
環境産業
4.3
ロボット産業
4.0
6.9
一般機械
教育・研究開発活動
0.9
医療・福祉サービス業
0.6
N=262
その他
韓国側アンケート調査業種構成
実数
農林水産
食料品
繊維衣服
木材・木製品
化学製品 非鉄金属・鉱物 金属
その他機械・装備
電機・電子
精密機器 自動車・トラーラー
その他輸送機械
その他製造業
貿易
金融・保険
その他・サービス
無回答
構成比
6
13
13
6
17
12
29
22
14
7
25
7
26
1
1
5
3
207
52
30
25.6
物流業
8.4
医療・福祉サービス業
20
自動車・自動車部品産業
環境産業
自動車・自動車部品産業
10
2.9
6.3
6.3
2.9
8.2
5.8
14.0
10.6
6.8
3.4
12.1
3.4
12.6
0.5
0.5
2.4
1.4
100.0
1.7
N=207
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
第Ⅲ章
九州と韓国東南部の経済協力促進のための戦略
九州と韓国東南部の経済協力促進のための戦略としては、「民間交流の拡大」が最も多く
44.3%、次いで「地域レベルでの統合経済圏の形成」34.0%、「早期の日韓 FTA の締結」の 30.9%
となり、民間主導による経済連携を志向している。これに対し韓国側では、「地域レベルでの
統合経済圏の形成」と「特定分野における協力強化」の方が「民間交流の拡大」より上位にな
っている。
図表Ⅲ−20 九州と韓国東南部の経済協力促進のための戦略(複数回答)
《九州》
(%)
0
《韓国東南部》
10
20
30
40
地域レベルでの
統合経済圏の形成
34.0
特定分野における協力強化
その他
15.3
3.8
30
40
28.3
17.5
早期の日韓FTAの締結
8.9
企業人統合団体の形成
(商工会議所等)
8.6
7.0
地域協力基金の創設
1.5
その他 無回答
20
29.4
民間交流の拡大
21.8
企業人統合団体の形成
(商工会議所等)
10
特定分野における協力強化
30.9
早期の日韓FTAの締結
0
地域レベルでの
統合経済圏の形成
44.3
民間交流の拡大
地域協力基金の創設
(%)
50
9.5
0.3
N=207
N=262
3.有識者アンケート調査結果
有識者アンケート調査結果のまとめ
1)九州と韓国東南部ではともに回答者の約半数が、観光などの目的で相手国を訪
問した経験があり、また相手国に対する関心も非常に高い。また、将来的には
より緊密な関係を築くべきであると考えている。
(図表Ⅲ−25、26、31 を参照)
2)九州と韓国東南部の有識者の大多数は日韓 FTA を締結すべきであると考えてい
る。しかし、九州側が日韓 FTA は総じて良い影響を与えると考えているのに対
し、韓国側では良い面と悪い面の双方があると見解が分かれている。また、産
業別では九州側では農業における悪影響を懸念する声が多い。
(図表Ⅲ−33、35、
36、37、38、39 を参照)
3)九州と韓国東南部の双方ともに地域レベルでの国際協力の必要性を唱える声が
多い。(図表Ⅲ−41、43 を参照)
53
(1)回答者の属性
回答者の性別では「男性」が 93.2%で圧倒的に多い。年齢では 40 歳以上が全体の 9 割を占め
ている。職業では「公務員」が約半数を占める。居住地は「福岡県」が 35.3%で最も多く、次
いで「熊本県」、「長崎県」「佐賀県」の順となっている。
図表Ⅲ−21 性別《九州》
図表Ⅲ−22 年齢《九州》
無回答
女性
2.7%
4.1%
70歳以上
1.4%
20∼29歳
0.7%
無回答
1.0%
30∼39歳
3.1%
60∼69歳
19.3%
男性
93.2%
50∼59歳
39.3%
40∼49歳
35.3%
N=295
N=295
図表Ⅲ−23 職業《九州》
団体職員
(NPO等)
3.4%
図表Ⅲ−24 居住地《九州》
山口県
0.3%
無回答
0.7%
その他
6.1%
大分県
8.1%
会社員
10.5%
宮崎県
7.1%
福岡県
35.3%
鹿児島県
10.8%
公務員
52.5%
大学、研究機関
26.8%
無回答
0.7%
佐賀県
11.2%
長崎県
12.5%
N=295
熊本県
13.9%
N=295
54
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
(2)韓国との関係について
過去3年間における訪問
過去 3 年間における韓国への訪問では、半数近い 44.1%が「韓国に過去 3 年間に訪問した経
験がある」と回答している。韓国側もほぼ同じく 45.8%が、訪問経験があるとしている。
図表Ⅲ−25 過去3年間における訪問
《九州:韓国への訪問》
《韓国:日本への訪問》
無回答
1.7%
訪問した
44.1%
訪問していない
54.2%
訪問した
45.8%
訪問していない
54.2%
N=295
N=216
訪問目的
主な訪問目的では、
「観光」が最も多く 54.6%となっている。次が「学会・学術研究」の 30.8%
となっている。一方、韓国側でもほぼ同じ結果となっている。
図表Ⅲ−26 訪問目的(複数回答)
《九州》
(%)
0
20
《韓国東南部》
40
60
(%)
0
10
20
30
40
観光
41.8
30.8
学会、学術研究
学会、学術研究
33.0
13.8
ビジネス
ビジネス
親戚、知人訪問
5.4
親戚、知人訪問
学業
0.0
就業
16.2
その他
無回答
16.5
6.9
学業
就業
50
54.6
観光
1.5
その他
N=130
55
3.3
1.1
0.0
4.4
N=91
韓国への訪問回数
過去3年間における韓国への訪問回数は、「1 回」が最も多く全体の 43.1%、次いで「2 回」
が 21.5%を占めており、比較的訪問回数は少ないと言える。
図表Ⅲ−27 過去 3 年間における韓国への訪問回数《九州》
無回答
1.5%
6回以上
13.1%
1回
43.1%
3∼5回
20.8%
2回
21.5%
N=130
韓国での目的地
韓国での目的地としては、「ソウル」が 63.8%で最も多いが、「釜山、蔚山、慶尚南道」も
56.9%とソウルに迫るほどの多い結果となっている。
図表Ⅲ−28 韓国での目的地(複数回答)《九州》
(%)
0
10
20
30
40
50
60
63.8
ソウル
56.9
釜山、蔚山、慶尚南道
19.2
光州、全羅南道
18.5
済州島
12.3
その他地域
無回答
70
N=130
0.8
56
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
韓国への渡航手段
韓国への渡航手段は、「航空機」が最も多く、全体の 81.5%、次いで「高速船(ビートル、ジ
ェビ、コビー等)」が 39.2%となっている。
図表Ⅲ−29 韓国への渡航手段(複数回答)《九州》
0
(%)
10
20
30
40
50
60
70
80
90
81.5
航空機
高速船
(ビートル、ジェビ、コビー等)
39.2
フェリー
(関釜フェリー、かめりあライン)
3.8
N=130
相手国に対する関心
韓国に対しては、「隣国の友好国」であると答えた回答が全体の 45.8%で最も多く、次いで「ビ
ジネスや学術研究の場」
(24.7%)、「旅行先」(18.3%)の順となっている。
韓国側では同じ質問は行っていないが、現在の日韓関係をどのように見るかという質問では、
「競争関係」と見ているものが最も多く、「協力関係」とするものを上回っている。
図表Ⅲ−30 相手国に対する関心《九州》
その他
1.7%
趣味の領域
2.4%
無回答
3.1%
関心はない
4.1%
旅行先
18.3%
隣国の友好国
45.8%
ビジネスや
学術研究の場
24.7%
N=295
参考
現在の日韓関係をどのように見るか《韓国東南部》
わからない
3.2%
対立関係
7.4%
協力関係
32.9%
競争関係
56.5%
N=216
57
今後の日本と韓国の関係
今後の日本と韓国の関係については、「あらゆる分野でより緊密な関係に発展する」と答え
た回答が最も多く、全体の 75.6%を占めている。一方、韓国側においは、協力関係を拡大すべ
きとの意見も 23.6%あるが、「分野別に選択的な協力関係を維持する」との回答が 42.1%で最
も多く、また中国を含めたより大きな枠組みでの協力関係に期待している。
図表Ⅲ−31 今後の日本と韓国の関係
《九州》
わからない
3.4%
《韓国東南部》
無回答
2.0%
現状維持
5.8%
積極的に緊密な関
中国を含めた北東
係に発展させるべき
アジア全体の協力
23.6%
等の枠内で再調整
が必要である
31.5%
分野別に選択的な
協力関係を維持す
現状を維持する
る
2.8%
42.1%
一部の分野で
協力関係を構築
13.2%
あらゆる分野でより
緊密な関係に発展
75.6%
N=204
N=295
(3)日韓 FTA について
日韓 FTA の認知度
現在、日韓両国で締結に向けて協議中の日韓 FTA については、「よく知っている」(9.2%)と
「ある程度知っている」(31.9%)をあわせて全体の 4 割であり、「名前しか知らない」(30.8%)
と「全く知らない」(26.4%)をあわせた5割強に比べると低く、日韓 FTA への関心を高める
よう努力する必要があろう。
図表Ⅲ−32 日韓 FTA の認知度《九州》
無回答
1.7%
よく知っている
9.2%
全く知らない
26.4%
ある程度知っている
31.9%
名前しか知らない
30.8%
N=295
58
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
日韓 FTA について
日韓 FTA については、「締結すべき」との回答が全体の 48.1%あり、締結が必要との意見が
半数近くある。また日韓だけでなく中国も含めた FTA を締結すべきとの意見も 19.7%ある。ま
た、韓国側では九州と同じく日韓 FTA を締結すべきとの意見が最も多いが、FTA 締結は時期
尚早とする意見が九州と比べるとやや多くなっている。
図表Ⅲ−33 日韓 FTA について
《九州》
《韓国東南部》
無回答
2.4%
北東アジア地域を越
えた地域との締結が
先である
4.7%
わからない
18.0%
韓国より
他国とのFTA
を締結すべき
1.0%
FTA締結は
時期尚早
22.0%
日韓FTAを
締結すべき
48.1%
FTA締結は
時期尚早
10.8%
日韓FTAを
締結すべき
48.6%
日韓中のFTAを
締結すべき
24.8%
日韓中のFTAを
締結すべき
19.7%
N=295
N=214
日韓 FTA 交渉の障害
日韓 FTA 交渉を進める上での障害としては、「国内産業界からの反発」
が 34.9%と最も多く、
次いで「法的な規制」(15.6%)、
「韓国への信頼不足」
(15.3%)となっている。韓国側において
も、国内産業からの反発は大きいが、それ以上に「自国(韓国)の利益を第一に考えた交渉姿
勢」が障害になると考えている。
図表Ⅲ−34 日韓 FTA 交渉の障害
《九州》
無回答
5.8%
その他
6.4%
法的な規制
15.6%
日韓両国の
言葉の壁
3.7%
商取引慣行
の違い
6.8%
《韓国東南部》
韓国の
情報不足
11.5%
法的な規制
2.8%
両国間の
国民情緒的要因
20.0%
国内の産業界から
の反発
34.9%
自国の利益を第一
に考えた交渉姿勢
44.7%
産業構造調整よる
産業界および労働
者からの反発
32.6%
韓国への
信頼不足
15.3%
N=295
59
N=215
日韓 FTA 締結が市場拡大に与える影響
日韓 FTA の締結により予想される影響としては、市場拡大については「両国によい影響を
与える」と回答したのが 58.0%と最も多くなっている。韓国側でも肯定的意見が約 7 割を占め、
約 2 割の否定的見解を大きく上回っている。
図表Ⅲ−35 日韓 FTA 締結が市場拡大に与える影響(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
わからない
2.9%
無回答
3.1%
とても否定的
2.9%
どちらでもない
0.0%
わからない
26.4%
両国に悪い
影響を与える
1.0%
影響は
ほとんどない
3.4%
韓国のみ良い
影響を与える
6.1%
両国に良い影響を
与える
58.0%
否定的
20.5%
とても
肯定的
9.8%
肯定的
63.9%
N=295
日本のみ良い
影響を与える
2.0%
N=205
日韓 FTA 締結が貿易に与える影響
日韓 FTA の締結により予想される影響として、貿易については「双方で貿易量は増加し、
全般的に良い影響を与える」と回答したのが 51.9%と最も多くなっている。一方、韓国では、
対日赤字増加の懸念から否定的意見が 45.4%と多いが、肯定的意見も 35.2%あり、意見が分
かれている。
図表Ⅲ−36 日韓 FTA 締結が貿易に与える影響(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
わからない
3.7%
無回答
2.7%
とても否定的
3.2%
双方で貿易量は減
少し、全般的にマイ
ナスの影響を与える
0.0%
わからない
23.1%
日本には全般的に
マイナスの影響を与
える
8.8%
双方で貿易量は増
加し、全般的に良い
影響を与える
51.9%
影響はほとんどない
3.7%
日本には全般的に
良い影響を与える
9.8%
N=295
とても肯定的
2.3%
肯定的
35.2%
否定的
45.4%
N=216
どちらでもない
10.2%
60
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
第Ⅲ章
日韓 FTA 締結が両国の直接投資に与える影響
日韓 FTA の締結により予想される影響として直接投資に関しては「双方の直接投資が増え
る」と回答したのが 48.5%と最も多い。一方、韓国側では、
「肯定的」、
「どちらでもない」、
「否
定的」と意見が分かれている。
図表Ⅲ−37 日韓 FTA 締結が直接投資に与える影響(複数回答)
《九州》
《韓国東南部》
わからない
6.1%
無回答
2.7%
とても否定的
1.9%
わからない
30.2%
双方の直接投資が
増える
48.5%
とても肯定的
4.2%
肯定的
33.2%
否定的
24.3%
どちらでもない
30.4%
影響はほとんどない
5.4%
N=295
N=214
対韓直接投資のみ
対日直接投資のみ
増える
増える
9.8%
3.4%
日韓 FTA 締結が消費生活に与える影響
日韓 FTA の締結により予想される影響について、消費生活に関しては「一部でマイナスは
あるものの全般的に良い影響を与える」と回答したのが 47.1%と最も多く、「全面的に良い影響
を与える」
(24.1%)とあわせると約7割が消費生活にプラスの効果を与えると考えている。ま
た、韓国側においても肯定的意見が過半数を占めている。
図表Ⅲ−38 日韓 FTA 締結が両国の消費生活に与える影響(複数回答)
《九州》
全面的に悪い影響
を与える
0.0%
一部でプラスはある
ものの全般的に悪
い影響を与える
6.4%
影響はほとんどない
5.4%
《韓国東南部》
わからない
7.9%
無回答
2.7%
わからない
14.2%
とても肯定的
7.9%
とても否定的
1.4%
全面的に良い影響
を与える
24.1%
否定的
15.8%
肯定的
46.5%
一部でマイナスはあ
るものの全般的に
良い影響を与える
47.1%
どちらでもない
20.5%
N=295
61
N=215
日韓 FTA 締結の国内産業への影響
日韓 FTA 締結が国内産業に与える影響を産業分野別にみると、「全面的に良い影響を与え
る」「一部でマイナスはあるが全般的に良い影響を与える」との回答は、「観光産業」(82.1%)
「流通・サービス業」
(60.0%)
「先端技術産業」(58.7%)の順で多く、逆に「農業・漁業」では
悪い影響があるとする回答が目立つ。
一方、韓国側では、総じて悪い影響があるとするものは少ないが、産業別に見ると製造業で
は他の産業より良い影響があるとする意見がやや少なくなっている。また、九州と同じく観光
産業においては良い影響があるとする意見が過半数を占めている。
図表Ⅲ−39 日韓 FTA 締結の国内産業への影響
0%
20%
40%
60%
80%
100%
3.1
29.2
農業・漁業
11.2
28.5
9.2
15.3
3.7
15.9
3.4
15.9
3.4
14.2
3.7
2.7
︽
︾
九
州
7.5
製造業
42.0
10.8
17.6
0.7
先端技術産業
(IT、ロボット、バイオ等)
23.4
35.3
流通・サービス業
21.7
38.3
14.6
6.8
0.7
14.2
7.1
0.0
N=295
58.0
観光産業
24.1
5.1
3.4
8.8
0.7
0%
農業・漁業
20%
40%
60%
80%
20.5
29.8
38.6
100%
4.2 3.7
3.3
︽
︾
韓
国
東
南
部
3.3
27.6
28.0
33.6
製造業
3.7 3.7
先端技術産業
(IT、ロボット、バイオ等)
7.5 4.7
2.3
3.7
3.7
20.5
21.9
46.5
流通・サービス業
10.7
34.1
40.7
3.7
N=215
全面的に
良い影響
を与える
11.2
63.3
観光産業
一部で
マイナス
はあるが
全般的に
良い影響
を与える
影響は
ほとんど
ない
一部で
プラス
はあるが
全般的に
悪い影響
を与える
62
全面的に
悪い影響
を与える
9.8
わから
ない
8.8
4.2
無回答
2.8
第Ⅲ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
(4)日韓海峡圏における地域レベルでの協力について
九州と韓国東南部の地域間経済協力の認知度
九州と韓国東南部の地域間経済協力の現状に対する認知度については、「あまり知らない」
が最も多く全体の 43.7%を占め、「全く知らない」
(15.6%)も加えると、地域間経済協力の現状
について実態をほとんど知らない人が全体の約 6 割を占める。九州に比べると、韓国側の方が
若干認知度は高くなっている。
図表Ⅲ−40 九州と韓国東南部の地域間経済協力の認知度
《九州》
《韓国東南部》
無回答
0.7%
全く知らない
5.1%
よく知っている
8.5%
よく知っている
6.0%
全く知らない
15.6%
あまり知らない
41.2%
ある程度知っている
31.5%
ある程度知っている
47.7%
あまり知らない
43.7%
N=216
N=295
九州と韓国東南部の地域レベルの国際協力の必要性
九州と韓国東南部の地域レベルの国際協力の必要性に関しては、76.9%の人が「地域レベルの
国際協力関係が必要である」と回答しており、現状に対する認知度は低いものの、地域レベル
の国際協力関係の必要性を感じている人が多いことがわかる。また韓国側でも国際協力関係の
必要性を説く意見が多い。
図表Ⅲ−41 九州と韓国東南部の地域レベルの国際協力の必要性
《九州》
《韓国東南部》
無回答
1.0%
FTAが締結され
れば、地域レベル
では必要ない
4.4%
FTAが締結されれ
ば、地域レベルの協
力は必要ない
11.6%
わからない
6.0%
わからない
17.6%
近接性の活用と国
境地域の経済協力
で意義がある
31.9%
地域レベルの
国際協力関係が
必要である
76.9%
N=295
産業補完と競争力
強化のため緊密な
協力の必要である
50.5%
N=216
63
日韓 FTA 締結後の九州産業への影響
日韓 FTA 締結後の九州の各産業に与える影響については、図表Ⅲ−39 と同様に、観光産業、
流通・サービス業、先端技術産業では良い影響を与えるとの回答が全体の半数を超えているの
に対して、農業・漁業では悪い影響を与えるとの回答が比較的多い。
韓国側では同じ質問は行っていないが、今後の日韓海峡圏の経済協力において展望のある分
野という問いでは、「観光および文化分野」との回答が 59.3%で最も多く、次いで「先端技術
産業」の 22.9%となっており、九州とほぼ同じ分野に対して期待が大きいことがわかる。
図表Ⅲ−42 日韓 FTA 締結後の九州産業への影響《九州》
0%
20%
40%
60%
80%
100%
3.7
10.2
29.8
8.8
29.5
農業・漁業
16.3
1.7
16.6
1.4
16.9
1.4
3.1
製造業
12.9
42.0
7.8
16.3
0.7
先端技術産業
(IT、ロボット、バイオ等)
22.7
流通・サービス業
22.0
34.2
7.1
16.9
0.7
43.4
12.5
5.8
14.2
1.4
0.0
N=295
観光産業
4.4
25.4
56.9
10.2
1.7
1.4
全面的に
良い影響
を与える
参考
一部でマ
イナスは
あるが全
般的に良
い影響を
与える
影響は
ほとんど
ない
一部でプ
ラスはあ
るが全般
的に悪い
影響を与
える
全面的に
悪い影響
を与える
わから
ない
無回答
今後の日韓海峡圏の経済協力において展望のある分野《韓国東南部》
金融、医療など その他
サービス業分野 4.7%
1.9%
伝統的製造産業
3.7%
教育および
人的交流分野
7.5%
先端技術産業
22.9%
観光および
文化分野
59.3%
N=216
64
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の経済社会に及ぼす影響
第Ⅲ章
経済協力推進のための自治体の取り組み
日韓海峡圏における経済協力推進のために自治体に期待する取り組みについては、「日韓海
峡圏での民間交流が盛んになるような各種支援施策」が最も多く、54.9%となっている。以下
「韓国人観光客の誘致活動」(31.9%)「地場産業の販路開拓支援」(26.1%)と続いており、自
治体には交流活動の促進や各種誘致活動を期待する声が大きい。
韓国側においても、ほぼ同様の結果となっているが、観光客の誘致に関しては九州側と異な
り順位が低くなっている。
図表Ⅲ−43 経済協力推進のための自治体の取り組み(複数回答)
《九州》
(%)
0
《韓国東南部》
20
40
日韓海峡圏での民間交流が
盛んになるような各種支援施策
(%)
31.9
地場産業の販路開拓支援
30
40
35.2
19.0
16.7
交通・通信など日韓海峡圏内の
インフラの整備
11.3
21.0
知事サミットなど自治体間で
の協力体制の強化
知事サミットなど自治体間での
協力体制の強化
8.5
日本企業との観光客誘致活動
の強化 8.5
17.6
2.0
その他 無回答
20
地域産業と観光の相互連携の
ための販売支援活動の強化 23.7
交通・通信など日韓海峡圏
内のインフラの整備
10
新たな地域協力体制の構築と
推進
26.1
新たな地域協力体制の構築と
推進
0
日韓海峡圏での民間交流が
盛んになるような各種支援施策
54.9
韓国人観光客の誘致活動
その他
60
2.7
0.8
N=216
N=295
企業アンケートと有識者アンケートの比較
1)企業アンケートと有識者アンケートを比較すると、日韓 FTA 締結の必要性につ
いては、九州側では企業と有識者で大きな相違は見られない。しかし、韓国側
では、企業において「現時点での締結は時期尚早」とする意見が7割を占める
のに対し、有識者では「日韓 FTA を締結すべき」との意見が半数近くを占め、
より FTA 締結に積極的である。
(図表Ⅲ−5、33 を参照)
2)九州側においては、日韓 FTA は締結すべきであり、農業など一部の産業でマイ
ナスの影響はあるが、総じて良い影響があるとする点で、企業と有識者の見解
は概ね一致している。一方、韓国側では、企業側が日韓 FTA の必要性を認識し
つつも、国内産業への負の影響を考慮して早期の締結にはやや消極的な姿勢を
見せているのに対し、有識者では、日韓 FTA 締結の影響に対して企業より楽観
的な見方が強くなっている。(図表Ⅲ−6、7、34、39 を参照)
65
第Ⅳ章
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業
に与える影響
1.農水産業・食品産業
(1)九州と韓国南部における農業・水産業の現状
センシティブな分野としての農業・水産業
食品産業、なかでも農業・水産業に関わる分野は、日韓 FTA 交渉の場において日本側にと
って最もセンシティブな分野である。日本にとっては農業分野を含めた初の包括的合意となっ
たメキシコとの FTA 交渉では、両国とも鉱工業分野のほぼ全品目の関税を、10 年以内に撤廃
する一方、農業分野においては、コーヒー豆、ワインなど約 300 品目の関税を撤廃・無税枠を
設定し(米、麦、リンゴ、みかん、乳製品、黒マグロ等一部の農産品は無税措置の対象外)、
豚肉とオレンジ果汁については特恵輸入枠を設け(FTA 発効 5 年目にそれぞれ年間 8 万トン
と 6,500 トン)、牛肉、鶏肉、オレンジ果実に市場開拓枠を設定する(5 年目に各 6 千トン、8
千 5 百トン、4 千トンとする)ことを約束した。また、韓国においてもチリとの FTA 交渉で
はセンシティブな品目として青果物等農産物の約 30%(リンゴ、ナシ、コメ、ぶどう、にんに
く、玉葱、唐辛子、酪農品等)を FTA から除外した。
日韓 FTA の交渉の場においても、両国ともセンシティブな品目を多く抱える農業・水産業
分野が重要な焦点となっており、既に日本の海苔の輸入数量制限など交渉の議題に挙がってい
る。今後も農業・水産業分野では様々な交渉上の困難が予想されるが、本節では、九州と韓国
南部の農水産業の現状を把握するとともに、両地域間での日韓 FTA 締結による両地域の農水
産業への影響等について検討する。
農産物輸出に期待をかける韓国
現在、日本と韓国の貿易は日本側の圧倒的な輸出超過にある。この輸出超過の主な原因は、
強力な国際競争力を持つ部品や素材、製造装置等の中間財・資本財の日本からの輸出によるも
のであるが、韓国では、日韓 FTA が締結されると関税撤廃によって素材や部品等の製造業分
野において大きな打撃を受けるとの声が根強い。これに対し農業分野においては、韓国側の輸
出超過となっており、両国とも農産物・水産物の分野でセンシティブな品目を抱えているが、
生産費では韓国側に優位性があることから、日本への輸出拡大に期待が寄せられている。
食糧供給基地:九州
九州は、日本の人口の約 1 割を占めるが、農業所得では 18%を占めているのを見ても分か
るように、従来から日本の食糧供給基地として重要な役割を果たしてきた。
67
九州の販売農家数は、しばらく減少傾向にあったが、近年では現状を維持しつつ推移してお
り 2003 年で約 1 万戸という状況にある。その一方で専業農家比率は上昇傾向にあり、2003
年で 31.0%となっている(図表Ⅳ−1−1)。これは、兼業を行う若年層の農業就業者が減少し、
農業就業者の高齢化が進んだ結果であると考えられる。このような現象は、農業就業人口と農
業就業人口に占める 60 歳以上人口の比率の推移において、農業就業者が徐々に減少し、それ
と同時に 60 歳以上の高齢者の比率が増加していることからも読みとれる(図表Ⅳ−1−2)。
図表Ⅳ−1−1
九州の販売農家戸数、農業就業人口の推移
(千戸)
専業農家比率
28.2
120
100
(千人)
(%)
販売農家数
140
25.5
23.5
29.2
30.1
31.0
35
1,200
30
1,000
25.5
25
63.1
63.4
65.3
55.9
70
60
農業就業人口
45.5
800
50
60歳以上比率
36.1
20
80
(%)
64.7
40
600
60
15
40
10
20
5
0
120
114
100
97
98
100
100
30
400
20
200
0
0
1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003
10
898
785
655
603
589
577
568
0
1985 1990 1995 2000 2001 2002 2003
資料)農林水産省「農業センサス」、「農業構造動態調査」
図表Ⅳ−1−2
九州の主要農作物生産額の推移
(億円)
米
5,000
4,424
4,500
4,165
4,048
麦類
4,190
3,803
4,000
3,824
3,788
雑穀・豆類
3,500
3,765
3,640
2,802
3,000
いも類
3,469
2,403
野菜
2,500
2,000
2,096
1,661
1,574
1,758
1,183
1,181
2,400
1,448
1,315
1,500
2,601
1,819
1,259
1,114
1,000
500
745
713
470
1,081
1,065
1,221
1,280
949
2,516
1,353
1,028
花き
工芸農作物
0
1970
果実
75
80
85
90
95
00
資料)農林水産省「生産農業所得統計」
68
01
02
種苗・苗木類・その他
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
図表Ⅳ−1−3
九州の主要農作物生産額のシェア及び特化係数(2002 年)
生産額(億円)
九州
米
麦類
シェア(%)
全国
九州
特化係数
全国
九州
全国
2,516
22,338
11.3
100.0
0.67
1.00
249
1,287
19.3
100.0
1.16
1.00
1.00
雑穀
6
59
10.2
100.0
0.61
豆類
112
994
11.3
100.0
0.67
1.00
いも類
503
2,145
23.4
100.0
1.40
1.00
野菜
3,788
20,717
18.3
100.0
1.09
1.00
果実
1,353
7,537
18.0
100.0
1.07
1.00
1.00
花き
835
4,434
18.8
100.0
1.13
1,028
3,352
30.7
100.0
1.83
1.00
308
1,125
27.4
100.0
1.64
1.00
農業生産額計
10,700
63,988
資料)農林水産省「生産農業所得統計」
16.7
100.0
工芸農作物
種苗・その他
九州の主要農作物生産額の推移をみると、生産調整のため米の生産額が減少するとともに、
野菜類の生産が増加し、2002 年で 3,788 億円となっている。各農産物の全国シェアをみると、
九州はタバコ葉等の工芸作物でシェアが高く(30.7%)、その他にも、種苗・その他(27.4%)、
いも類(23.4%)、麦類(19.3%)花き(18.8%)、野菜(18.3%)果実(18.0%)といった品
目でシェアが高い(図表Ⅳ−1−3)。
また、畜産では、飼育頭数でみると、減少傾向にあるブロイラーを除けば、ほぼ安定的に推
移しており、生産額でみても、どの項目もほぼ安定した生産を確保している。全国シェアを見
ると、ブロイラーの 41.1%を筆頭に九州はほとんどの項目で高いシェアを保持している(図表
Ⅳ−1−4、5、6)。
また、漁業の面では、海面養殖業は微増傾向にあるが遠洋漁業縮小のあおりを受けて、海面
漁業の漁獲量は急速に低下している(図表Ⅳ−1−7, 8)
。
図表Ⅳ−1−4
九州の畜産飼育頭数の推移
8,000
(億円)
肉用牛(千頭)
7,107
肉用牛
3,000
乳用牛(千頭)
6,705
7,000
図表Ⅳ−1−5 九州の主要畜産生産額の推移
乳用牛
2,649
豚(千頭)
6,188
採卵鶏(万羽)
6,040
ブロイラー(万羽)
5,612
6,000
5,042 4,999
5,000
4,879 4,819 4,770
4,669
4,548
4,728
2,677
2,500
2,259
1,989
1,510
3,650 3,688 3,594 3,552
3,481 3,555
3,403 3,482 3,333 3,353
3,260 3,242
2,974
1,424
968
978
980
966
960
961
969
977
990
1,009
197
198
197
195
188
182
178
174
170
163
158
155
154
1,000
1,780
1,851
1,681
1,658
1,625
1,515
1,489
841
813
799
792
95
00
01
02
984
902
935
1,890
1,000
2,000
901
1,785
1,763
1,597
1,487
3,000
868
1,895
1,694
1,900
1,500
3,035 2,999 3,019 3,020 3,034 2,966
3,008 2,923
2,882 2,870 2,938 2,946 2,963
1,970
2,000
2,014
4,000
豚
鶏(鶏卵含む)
787
879
500
477
0
0
1990
92
94
96
98
00
1975
02
資料)農林水産省「畜産統計」
80
85
90
資料)農林水産省「生産農業所得統計」
69
図表Ⅳ−1−6 九州の主要畜産物生産額のシェア及び特化係数(2002 年)
生産額(億円)
九州
シェア(%)
全国
九州
九州
全国
1,681
4,290
39.2
100.0
1.64
1.00
乳用牛
792
7,713
10.3
100.0
0.43
1.00
豚
1,625
5,337
30.4
100.0
1.28
1.00
鶏
1,851
7,136
25.9
100.0
1.09
1.00
593
3,819
15.5
100.0
0.65
1.00
1,005
2,444
41.1
100.0
1.73
1.00
0
17
0.0
100.0
0.00
1.00
48
651
7.4
100.0
0.31
1.00
203
611
33.2
100.0
1.76
1.00
畜産計
5,993
25,143
資料)農林水産省「生産農業所得統計」
23.8
100.0
1.27
1.00
(ブロイラー)
養蚕
その他畜産物
加工農産物
図表Ⅳ−1−7
九州の漁業経営体数
図表Ⅳ−1−8 九州の海面漁業・養殖業の漁獲高
(所)
50,000
(千トン)
海面漁業
2,000
45,000
1,730
海面養殖業
1,800
40,000
1,600
35,000
1,400
30,000
1,200
25,000
1,000
20,000
800
15,000
1,535
1,381
1,328
1,152
971 976
887
766 725
683
621 590
600
10,000
38,505
35,058
36,006
37,376
36,490
39,352
40,376
41,059
42,311
43,066
44,421
45,400
400
46,862
0
全国
肉用牛
(鶏卵)
5,000
特化係数
200
320 275
266 273 285 286 260 240 309
255 275 257 241
0
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02年
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02年
資料)農林水産省「漁業経営調査」「漁業センサス」
資料)農林水産省「海面漁業生産統計調査」、
「海面養殖業収穫統計調査」
食糧生産の重要な拠点としての韓国南部
韓国の状況をみると、韓国南部は、2002 年で農家数の 34.0%、農業人口の 31.9%、耕地面
積の 32.3%を占めており、九州と同様に、韓国における重要な農業生産の拠点となっている。
韓国の農家の特徴は、日本と比べて専業農家の比率が非常に高いことであり、2002 年の専
業農家比率は 67.3%にも達する。これは、韓国では第 2 次産業、第 3 次産業の多くがソウル首
都圏に集積しており、地方には兼業機会が非常に少ないことが要因であるといわれている。
また、韓国においても後継者不足による農業労働者の高齢化の問題は深刻であり、農家人口
が減少傾向にある中で、農業人口の 60 歳以上人口比率は増加傾向にあり、2002 年で 38.2%と
なっている(図表Ⅳ−1−9、10)。
70
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
図表Ⅳ−1−9
韓国南部の農林水産業(2002 年)
農家数
(戸)
韓国
専業農家
第一種
兼業農家
農家人口
耕地面積
専業農家
比率
(人)
(ha)
(ha)
第二種
兼業農家
農家1戸 農家1戸
当たり
当たり
耕地面積
人口
(a)
(a)
1,280,462
861,994
139,182
279,286
3,590,523
1,862,622
67.3
2.8
145
釜山広域市
7,872
4,351
1,527
1,994
25,231
9,704
55.3
3.2
123
光州広域市
10,612
6,902
1,192
2,518
30,636
13,689
65.0
2.9
129
蔚山広域市
11,504
6,007
1,298
4,199
33,996
14,041
52.2
3.0
122
全羅南道
208,190
154,296
18,447
35,447
522,290
328,599
74.1
2.5
158
慶尚南道
158,797
108,916
16,937
32,944
418,068
177,128
68.6
2.6
112
37,850
18,218
7,708
11,924
118,709
59,167
48.1
3.1
156
434,825
298,690
47,109
89,026
1,148,930
602,328
68.7
2.6
139
(34.0)
(34.7)
(33.8)
(31.9)
(32.0)
(32.3)
済州道
韓国南部
構成比(%)
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
図表Ⅳ−1−10 韓国の農家戸数、農家人口の推移
(千戸)
農家数
2,000
専業農家比率
1,800
(%)
65.2
67.3
65.3
68.0
66.0
1,600
63.6
64.0
1,200
62.0
1,000
60歳以上人口比率
(%)
4,500
3,500
45.0
38.2
36.2
29.9
30.5
32.2
33.1
40.0
35.0
30.0
3,000
25.0
2,500
60.0
58.7
600
58.0
400
20.0
2,000
15.0
1,500
10.0
1,000
56.0
200
0
農家人口
4,000
63.2
1,400
800
(千人)
5,000
1,440
1,413
1,382
1,383
1,354
1,280
1997
1998
1999
2000
2001
2002
5.0
500
54.0
4,468
4,400
4,210
4,031
3,933
3,591
1997
1998
1999
2000
2001
2002
0
0.0
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
韓国の農業生産品目の構成比をみると、野菜が最も多く、51.5%を占める。次いで多いのが
米の 29.5%であり、果実が 15.0%となっている。これらの品目を地域別に見ると、韓国南部
は米の 29.7%、小麦・大麦で 78.5%、豆類 41.5%、いも類 34.2%、野菜 43.9%、果実 43.4%
と多くの品目で重要な生産拠点といなっている。
また、畜産についても、多くの畜産物で農作物と同様に重要な生産拠点となっており、飼育
頭数でみると、肉牛 29.9%、豚 26.3%、ヤギ 41.6%、犬 25.2%、アヒル 56.3%といずれの項
目でも高いシェアを保っている。
水産業についてみると、近年韓国では、漁業戸数、漁業労働者とも急速に減少しており、漁
業生産額も頭打ちの状態にある。韓国南部は、2003 年で漁業戸数の 63%、漁業労働者数の 66%
と 6 割以上を占め、漁業においても重要な基地になっている(図表Ⅳ−1−11、12、13、14)。
71
図表Ⅳ−1−11 韓国の農業生産量構成比(2002 年)
いも類
1.4%
豆類
0.8%
小麦・大麦
1.3%
雑穀類
0.5%
0%
20%
40%
29.7
米
雑穀類
78.5
米
29.5%
15.7
84.3
58.5
34.2
いも類
100%
21.5
41.5
豆類
野菜
51.5%
80%
70.3
小麦・大麦
果実
15.0%
60%
65.8
野菜
43.9
56.1
果実
43.4
56.6
韓国南部
その他地域
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
図表Ⅳ−1−12 韓国の主要畜産物の飼育戸数・飼育頭数(2002 年)
肉牛
韓国
︵
︶
戸
豚
ヤギ
犬
ニワトリ
アヒル
11,716
17,437
45,231
765,006
176,206
82,931
1,805
6,050
22,995
205,943
50,576
3,625
(構成比%)
(39.1)
(15.4)
(34.7)
(50.8)
(26.9)
(28.7)
(31.0)
釜山広域市
191
32
63
102
23,647
186
92
光州広域市
374
30
23
43
17,325
888
71
蔚山広域市
3,001
39
62
130
6,010
979
134
全羅南道
38,608
781
3,486
11,509
92,481
25,840
2,319
慶尚南道
40,084
841
2,141
11,152
54,916
22,442
951
673
82
275
59
11,564
241
58
1,410,228
543,587
8,974,403
444,150
2,948,444
101,692,903
7,823,542
421,695
94,470
2,364,725
184,697
741,935
19,393,782
4,402,872
(29.9)
(17.4)
(26.3)
(41.6)
(25.2)
(19.1)
(56.3)
1,186
1,176
21,265
1,079
35,135
77,063
65,476
269,263
韓国南部
飼
育
戸
数
乳牛
212,317
済州道
韓国
︵
飼 韓国南部
育
(構成比%)
頭
釜山広域市
数
光州広域市
頭
蔚山広域市
・
全羅南道
羽
︶
慶尚南道
済州道
11,679
3,068
1,134
6,584
488
27,749
252,469
19,531
1,899
35,430
1,771
26,869
524,927
12,340
203,415
42,604
836,064
106,081
376,061
11,148,929
3,824,340
178,711
41,820
1,090,927
72,737
242,819
5,896,204
205,207
15,784
5,837
374,455
2,541
33,302
1,494,190
26,246
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
図表Ⅳ−1−13 韓国の漁業戸数・漁業従業者数の推移及び地域構成(2003 年)
(千戸)
(千人)
180
160
205
207
漁業労働者数
176
140
174
その他
80%
34.0
36.8
済州道
200
171
120
100%
250
漁業戸数
137
100
125
150
60%
6.8
9.2
慶尚南道
17.8
16.8
80
100
40%
全羅南道
60
40
50
20%
31.9
0
0%
3.8
36.2
蔚山
20
120
114
104
100
98
78
73
0
1991
93
95
97
99
01
03
漁業戸数
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
72
1.5
3.8
1.3
漁業労働者数
釜山
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
図表Ⅳ−1−14 韓国の漁獲量・漁業生産額の推移
(千トン)
養殖業
5,000
遠洋漁業
4,500
沿岸漁業
4,157
5,000
4,512
4,265
4,205
3,500
2,827
3,000
789
2,500
2,000
956
790
1,056
1,093 1,017
897
3,000
1,040
887
741
1,024
873
897
667
715
829
791
723
1,500
1,000
777
797
925
651
2,500
668
739
794
2,000
580
1,500
1,542 1,304
1,526 1,486 1,425 1,624 1,367 1,308 1,336
1,295
1,189 1,252 1,096
500
4,500
4,000
3,669
3,372
3,175
3,500
4,543 4,482
4,421
4,330
生産額
4,000
(10億ウォン)
4,818
1,000
500
0
0
1990
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
資料)韓国統計庁「韓国統計年鑑」
(2)九州と韓国の食料品貿易の動向
対韓国食料品貿易は大幅な輸入超過、輸出は徐々に拡大
日本は世界でも有数の食料品輸入国であり、日本と韓国間の食料品貿易でも、2003 年で輸
入 1,506 億円、輸出 315 億円と大幅な輸入超過の状況にあるが、日本の食料品貿易に占める
韓国の比率は、2003 年で輸入 3.0%、輸出 11.9%に過ぎない。
一方、九州と韓国の食料品貿易をみると、2003 年で輸入 651 億円、輸出 171 億円となって
おり、全国と同様に輸入超過ではあるが、輸入が減少する一方で輸出は徐々に拡大傾向にある。
九州は食料品貿易額に占める韓国の比率が輸出入とも全国より高く、2003 年で輸入の 14.4%、
輸出の 51.4%を占め、大幅な輸入超過であることに変わりはないが、対韓国食料品輸出に関し
ては非常に重要なポジションを占めている(図表Ⅳ−1−15)。
図表Ⅳ−1−15 食料品の対韓国輸出入額及び食料品輸出入額に占める韓国の割合(九州:下関含む)
(%)
輸入
60
輸出
839
943
40
704
651
800
600
43.7
30.9
26.5
30
28.5
22.3
171
185
165
153
118
25.8
36.8
27.0
20.7
21.3
17.0
15.8
1990
93
10
24.3 24.5
20.3
19.6
17.1 18.5
20.5 19.8
17.0
14.8 14.4
52
60
30
24
20
25
15
30
18
200
35.9
35.8
20
400
53.4
51.4
51.5
50
891
894
985
879
971
922
1,051
1,000
輸出
輸入
963
1,264
1,200
1,208
(億円)
1,400
0
0
1990
93
96
99
02
資料)財務省「貿易統計」
73
96
99
02
対韓国食料品貿易の約半数が九州
日本の対韓国貿易全体からみると、食料品の比率は輸出全体の 0.8%、輸入全体の 7.3%を占
めるに過ぎない。九州においても対韓国貿易の全体に占める食料品の割合は輸入 2.5%、輸出
19.7%と全国よりも若干高いが、それでも貿易額全体から見ればそれほど多いとはいえない
(図表Ⅳ−1−16)。
その一方で、日本の対韓国食料品貿易に占める九州のシェアを見ると、輸出に関しては一旦
シェアが低下したものの、その後急速に増加し、2003 年では 54.4%と半数以上を占めている。
一方、輸入に関しては若干低下傾向にあるが、それでも 2003 年で 43.2%と非常に高いシェア
を占めている。したがって、対韓国食料品貿易に限っていえば、輸出入とも九州が半数近くを
占めている状況にある(図表Ⅳ−1−17)。
図表Ⅳ−1−16
対韓貿易額全体に占める
食料品貿易の割合
図表Ⅳ−1−17 対韓食料品貿易に占める
九州の割合
(%)
輸出(全国)
(%)
35
輸入(全国)
70
輸出(九州)
30
輸入(九州)
29.7
26.8
24.6
50 54.6
26.6
20
15
12.5
13.5 13.3
14.3
12.6
10.7
11.5 11.3
0
19.9
18.9
2.1
0.8 1.1 1.1 0.7 0.9 0.8 0.9 1.6
39.7 41.2
30
7.3
20
3.2 2.8 3.2 3.1 2.5
10
0.3 0.5 0.5 0.6 0.7 0.7 0.6 0.7 0.5 0.8 0.8 1.0 0.9 0.8
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年
46.2 46.9
44.2
19.7
12.5
55.0 55.8 54.4
53.2
40
8.7 8.6 8.7
10
5
55.8 56.1
49.4
21.1
13.7
53.1
24.9
24.4
58.5
51.1
58.0
27.5 27.8 27.2 26.9
25
55.5
60
41.8 43.2
26.6
23.0 23.4
21.0
15.6
11.9 12.1 11.3
輸出
輸入
0
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年
資料)財務省「貿易統計」
九州から韓国への主要輸出品目は魚介類とたばこ
九州は対韓国食料品貿易において輸出入とも約半数近くを占めているが、これを品目別に見
たものが図表Ⅳ−1−18 である。品目別に九州から韓国への輸出を見ると、魚介類・同調製
品とたばこが急速に伸びているのが分かる。2003 年の輸出額では魚介類・同調製品が 108 億
円、たばこが 41 億円となっており、それぞれ輸出全体の 63.0%、23.8%を占めている。一方、
輸入においても魚介類・同調製品が最も多い。2003 年で 394 億円と輸入全体の 60.5%を占め
ているが、90 年代を通じてやや減少傾向にある。次いで多いのが果実・野菜で 220 億円、食
料品輸入の 33.8%を占めている。このように、九州と韓国との食料品貿易において輸出入とも
に大きな割合を占めているのは魚介類・同調製品であることが分かる。
74
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
図表Ⅳ−1−18 品目別食料品対韓国輸出入額の推移(九州:下関含む)
(億円)
140
120
100
80
60
《輸出》
生きた動物
肉類
酪農品・鳥卵
魚介類・同調製品
穀物・同調製品
果実・野菜
糖類・同調製品
茶・香辛料類等
飼料
その他の調製品
飲料
たばこ
(億円)
《輸入》
1,000
900
800
700
600
500
400
300
40
200
20
100
0
0
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年
1990 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年
資料)財務省「貿易統計」
(3)日韓 FTA の農水産業への影響と今後の戦略
意見が分かれる日韓 FTA の影響
日韓 FTA が日本、九州の農業分野に対してどのような影響を与えるのかについては、様々
な意見がある。一般的には、日本より労賃も含めて物価水準が低い韓国の方が生産費の面で有
利であり、その点を持って韓国から日本への輸出が増加するとの意見が根強い。しかしながら、
必ずしも韓国の方が有利とはいえないとする見解もある。例えば、一般に関税率は韓国の方が
高く、加重平均実行関税率でみた場合、農産品は日本の 10.6%に対して韓国 84.04%、水産品
及び水産加工品は日本 4.4%に対して、韓国 13.04%となっている。これが FTA 締結によって
撤廃されるとするならば、品目よっては日本側の方が有利になるケースもあると考えられる。
但し、韓国のリンゴ、ナシ、茶、コメ、唐辛子といった高関税率品目は、もともと韓国にとっ
てのセンシティブ品目なので、韓国−チリ FTA で除外されたように、例外扱いされる可能性
もある(図表Ⅳ−1−19)。
また、日本では野菜等はすでに関税が低く設定されており、たとえ日韓 FTA が締結し、す
べての関税が撤廃されても影響は薄いだろう。現在、韓国から日本に輸出されている農作物の
多くは、価格競争力を要因とするものよりも、むしろ韓国農業・水産業の特産品的な物が多い。
韓国から日本が輸入している農作物の代表的品目としては、パプリカや朝鮮人参があるが、こ
れらの品目は日本国内ではほとんど栽培されていない。パプリカについては韓国にとっても輸
入作物であり特産品とはいい難いが面もあるが、戦略的な輸出作物として韓国政府が積極的に
農家での栽培を支援してきた歴史的経緯がある。
また、九州から韓国に大量の水産物が輸出されているが、これらの多くは韓国では地理的な
条件(例えば水温等)から養殖するのが難しい養殖のタイ類や五島沖で取れた太刀魚等の活魚
が中心であり、韓国近海で入手できない時季に出荷しているものである。これらのケースでは、
関税撤廃はさほど輸出に影響を与えないと考えられる。
75
韓国の関税率は農産物も含め日本より高いことから、韓国側では関税撤廃によるメリットを
享受しにくいとの考えがあり、原産国表示や、規格、検疫制度、商慣行等の非関税障壁(NTB)
の面での改善や、サービス業等の規制緩和を含めた包括的な経済連携協定の締結によって、日
本市場への参入を促進することを意図している。
韓国の漁業関係者(韓国水産業協同組合中央会)でも、FTA の影響については具体的な締結
内容が明らかにならなければ、影響度を正確に予測することは出来ないとしているが、一般的
には日本の方が関税率の下げ幅が小さいことから日本からの輸入が増える可能性が高いとし
ている。韓国政府は、とくに韓国から日本への主要輸出品である海苔に関して、関税よりもむ
しろ日本の輸入数量制限(IQ)の撤廃を求めている。
図表Ⅳ−1−19 日本と韓国の関税率の比較
貿易加重平均実行税率
韓国
全品目
日本
9.19%
2.7%
農産品(水産品を除く)
84.04%
水産品及び水産加工品
13.04%
石油
木材、パルプ、紙、家具
繊維及び衣料品
皮革、ゴム、履物、旅行用具
貿易加重平均譲許税率
韓国
日本
11.74%
3.6%
10.6%
93.94%
15.8%
4.4%
13.15%
4.4%
4.51%
0.9%
5.04%
3.7%
3.97%
1.4%
4.93%
1.9%
9.76%
9.3%
22.78%
9.4%
6.73%
11.0%
10.80%
11.0%
金属
3.88%
0.6%
5.68%
0.7%
化学製品及び写真用品
6.86%
2.0%
10.18%
2.0%
輸送機器
4.95%
0.0%
7.40%
0.0%
機械類(電気機械を除く)
4.65%
0.0%
6.83%
0.0%
電気機械
2.29%
0.1%
3.20%
0.1%
鉱物性生産品、宝石、貴金属
2.94%
0.6%
5.25%
0.3%
その他工業製品
5.54%
資料)APECIAP2002
出典)日韓自由貿易協定共同研究会報告書
0.7%
7.44%
0.7%
地方自治体の農産物輸出戦略
一方、日本の農林水産省ではシンガポール、メキシコとの FTA 交渉を通じて、農産物を例
外扱いするのではなく、むしろ日本からの農作物輸出を後押しする姿勢に変化してきている。
近年、九州の地方自治体のなかでは FTA 等による農作物・水産物市場の開放を不可避なもの
と捉え、国際競争力のある農作物を積極的に輸出しようとする取り組みがみられる。福岡県で
は早くから海外への農作物輸出に取り組み、いちごの「あまおう」や桃、ぶどう、柿、茶等を
海外に販売するルートの開拓や海外に販売しようとする生産者グループの支援に取組んでい
る。福岡県では香港を中心に台湾、上海の富裕層をターゲットとして、日系百貨店等での「福
岡フェア」を開催し、好感触を得ているという。また、農産物の「福岡ブランド」を確立する
ために、「福岡ブランドマーク」を香港、台湾、中国、韓国で商標登録申請している。また大
分県でも、丸果大分大同青果㈱、大分県、日本貿易振興機構(ジェトロ)大分貿易情報センタ
ーが組んで、ナシを香港に輸出することを試みており、現地の日系スーパーマーケットと組ん
76
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
で「大分県食品フェア」を香港で実施している。
しかしながら現時点では、福岡県や大分県の試みは、富裕層が多く高価な日本の食品にも関
心が高い香港や台湾の市場を中心としており、ナシ、リンゴなど九州が売り込みたいものに高
関税がかかる韓国市場を指向してはない。また韓国には、日系の百貨店やスーパーマーケット
といった手がかりとなる流通ルートがないことも韓国への売込みを躊躇させる要因となって
いる。このように、現時点では様々な問題により、九州の農作物の韓国への輸出は低水準にと
どまっている状況にあるが、日韓 FTA の交渉内容次第では、人口規模や所得水準の点で韓国
は魅了的な市場になりうる可能性がある。
食料品貿易における課題∼食の安全・安心の確保
日本は世界最大の農産物純輸入国であり、既に食糧自給率も先進国中で最も低い 40%(2002
年:カロリーベース)となっている。その意味では、米等の一部の品目を除いては日本の農産
物・水産物市場は事実上最も自由化が進んでいるともいえる状況にある。一方、韓国も米国、
中国から大量の食料品を輸入する純食糧輸入国であり、急速に低下した食糧自給率は 2001 年
で 49%(カロリーベース)と既に 5 割を割り込んでいる。
日本と韓国はともに大量に食糧を輸入する純食糧輸入国であり、一部のセンシティブ品目に
ついては強固な保護政策を取っているという面で共通点を有している。農業・水産業の分野は、
BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザの騒動で問われた「食の安全・安心」の問題や、農
業の多面的機能の維持、安全保障上最低限の国内生産の維持といった様々な側面を有しており、
経済合理性のみを判断基準として扱われるべきものではない。とくに近年では BSE や残留農薬
の問題など食の安全に関わる問題が重要になってきている。このような分野は、膨大な食料品
を輸入しながら、各国民の食の安全・安心を確保しなければならない、日本と韓国の利害が一
致する分野であると考えられることから、共同で取組むことが有益であると思われる。
日韓海峡圏構築に向けた戦略∼相手国での企業・機関による検疫施設の設置
日本の厳しい検疫システムは、農林水産品において諸外国から非関税障壁として指摘される
ことが多い。しかしながら、食の安全・安心に対する関心が高まるなかで、この種の食料品に
対する検疫システムは強化することはあっても緩めることは適切とはいえない。したがって、
食の安全・安心を確保しつつ食料品貿易をより円滑に行えるようなシステムを模索する必要が
ある。
現在の検疫システムでは、輸出元で検疫を通過したものでも、輸入先の検査で不合格となれ
ば、輸出先へ送り返されることになる。このようなケースではある程度保存が可能な加工食品
ならともかく、鮮度を大切にする生鮮食品等の場合には、事実上商品価値を失い、輸入先の倉
庫で放置されるか破棄されることになる。また、検査を輸出先と輸入先でそれぞれ行うこと自
体が二度手間であり、鮮度を失わせることにもつながる。したがって、相手国(韓国)の港・
税関に政府(日本)の許認可・承認を受けた企業・機関等による検査施設を設置し、そこで検
査を受けたものは(日本へ)輸入する際に検査を行わないといったシステムが考えられる。こ
のようナシステムが可能になれば、輸出先でのトラブルを回避し、食料品の安全・安心を確保
しつつ、迅速かつ確実な検疫システムの構築が可能になると思われる。
77
2.機械・金属産業
(1)九州における機械・金属産業の現状
世界的な企業が立地する九州と韓国南部
九州には、日本を代表する機械・金属企業が立地し、九州の製造業を支えている。北九州市
には新日本製鐵㈱(新日鐵)と㈱住友金属小倉の二つの製鉄所と産業用ロボットで国内第 2 位
のシェアをもつ㈱安川電機が立地している。長崎県には、プラントやロボット、環境装置を製
造する三菱重工業㈱と、産業用機械を製造する佐世保重工業㈱の二つの主要な工場がある。そ
の他、大分市には㈱新日本製鐵大分製鐵所といった工場が立地している。
一方、韓国南部においても世界的な機械・金属企業が立地している。工業都市の蔚山市には
現代重工業㈱をはじめ、現代グループの工場が集積している。慶尚南道では、同じく工業都市
の昌原市に大宇綜合機械㈱や斗山重工業㈱が、巨済市に三星重工業㈱が立地している。全羅南
道には㈱ポスコ光陽製鉄所が立地している(図表Ⅳ−2−1)。
図表Ⅳ−2−1
九州・韓国南部の主な機械・金属工場
資料)各種資料ならびに各社ホームページ
78
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
このように韓国南部には韓国の大手財閥系企業の工場が立地しており、韓国の機械・金属産
業の重要な役割を担っている。九州北部の主要な工場とあわせると、日韓海峡圏の機械金属産
業の集積がみられる。
国内の 6%の規模をもつ九州の機械・金属産業
九州の機械・金属産業(鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械、精密機器)の製造品出荷額
をみると、2002 年は 3 兆 5,784 億円であり、2000 年以降 2 年連続で減少した。とくに 2002
年は 12.8%減となるなど、減少幅がやや大きい。一方、製造品出荷額の全国比は、6%前後で
推移している(図表Ⅳ−2−2)。
図表Ⅳ−2−2
機械・金属産業(九州)の出荷額と全国比の推移
(%)
(10億円)
7,000
8.0
全国比
6,000
5,000
製
造
品 4,000
出
荷 3,000
額
2,000
1,000
5.6
4,040
5.9
4,359
5.6
4,320
5.6
3,968
6.3
6.4
6.0
5.9
6.0
4,238
3,774
4,105
3,578
4.0
製
造
品
出
荷
額
全
国
比
2.0
0
0.0
1995
96
97
98
99
2000
01
02
注)1.従業員4人以上の事業所
2.鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械、精密機器
3. 1995-2001 年の一般機械(長崎)には武器を含む
4. 1995-99 年の非鉄金属(宮崎)、1995-97 年の非鉄金属(鹿児島)は
秘匿データのため両県は0とした
資料)経済産業省「工業統計表」
(2)九州と韓国の機械・金属貿易
増加傾向にある機械・金属の対韓国輸出
九州(下関港を含む)と韓国における、機械・金属産業(鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般
機械、精密機器)の貿易額の推移をみると、輸出は増加傾向にある反面、輸入は減少傾向にあ
るという対照的な結果となっている(図表Ⅳ−2−3)。
輸出額は、1990 年には 694 億円だったが、2000 年には 2,492 億円に増加した。2001 年に
は若干減少したものの、その後は増加に転じ、2003 年は 3,422 億円に達している。輸出総額
に占める比率も高まり、1990 年の 30.2%から 2000 年には 45.5%、2003 年には 50.8%へ上昇
した。
79
品目別に内訳をみると、一般機械は、2000 年の 1,371 億円から 2003 年には 1,748 億円に増
加した。精密機械も、2000 年の 472 億円から 2003 年には 1,015 億円に増加している。
一方、輸入は 1990 年代に増加し 2000 年には 969 億円に達したものの、その後は減少に転
じている。2003 年は 543 億円にとどまった。輸入総額に占める比率も、1990 年の 7.5%から
2000 年には 23.0%まで上昇したが、2003 年には 16.5%に低下している。
品目別に内訳をみると、輸入額の最も多い一般機械は 2000 年の 746 億円から、2003 年には
341 億円に大きく減少している(図表Ⅳ−2−4)。
こうした近年の貿易動向の要因として、輸出の増加については、工作機械や半導体製造装置
などの資本財、および部品の輸出が増加していること、その一部には韓国で製造されるデジタ
ル家電の生産増加に合わせた製造装置の輸出の増加などが挙げられる。とくに 1999 年に韓国
において輸入先多角化品目制度が撤廃されてから、日本から韓国への機械機器類の輸出が急増
している。また九州では、輸出ルートに下関港や博多港が使われていることも、輸出の増加に
寄与している。
一方、輸入の減少については、日本企業の部品等の調達先として中国が浮上しており、韓国
から輸入先がシフトしていること、輸入ルートに韓国を経由せず、直接中国から輸入されるこ
となどが考えられる。
図表Ⅳ−2−3
九州の対韓国機械・金属の貿易動向
(10億円)
400
(%)
60.0
350
輸出総額に
占める比率
300
金
額
250
38.2
342 50.8
50.0
45.0
45.5
40.3
総
40.0 額
に
占
め
30.0
る
比
率
20.0
268
249
30.2
210
200
輸入総額に
占める比率
117
150
100
50
23.0
20.9
18.0
97
69 7.5
9.8
32
37
16.5
88
67
輸 輸
出 入
額 額
54
0
10.0
0.0
1990
95
2000
01
注)九州7県、下関港
資料)日本関税協会「日本貿易月表」
80
02
03
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
図表Ⅳ−2−4
九州の対韓国機械・金属産業の品目別貿易額の推移
輸出
(単位:百万円)
1990
230,126
69,386
16,403
12,245
2,325
33,512
4,901
輸出総額
機械金属
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
一般機械
精密機器
95
305,177
116,686
21,450
18,709
2,454
68,960
5,114
2000
547,431
249,183
42,569
20,412
1,925
137,068
47,209
01
521,295
210,325
32,495
18,188
1,866
99,543
58,233
02
596,544
268,171
50,699
20,666
1,815
118,641
76,351
輸入
03
673,056
342,220
49,265
14,361
2,344
174,764
101,487
(単位:百万円)
輸入総額
機械金属
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
一般機械
精密機器
1990
424,966
31,997
12,740
5,143
3,750
8,308
2,056
95
374,082
36,675
13,642
2,153
7,117
9,906
3,857
2000
421,482
96,857
10,072
1,585
6,187
74,583
4,428
01
421,425
88,064
8,932
1,701
6,970
66,218
4,244
02
372,406
67,038
7,442
1,073
6,557
47,613
4,354
03
329,959
54,314
8,264
936
7,154
34,088
3,871
注)下関港を含む
資料)日本関税協会「日本貿易月表」
(3)九州の機械・金属産業の日韓分業
低水準にとどまる九州企業の韓国進出
九州から韓国へ進出した機械・金属関連企業は、1986∼2003 年の間にわずか 5 社と低水準
にとどまる。進出都市別にみると、ソウル 3 社、釜山 2 社で、日韓海峡圏への進出はわずかに
2 社であった。北部を中心に機械・金属関連企業が立地する九州においては、韓国への投資は
少ないといえる(図表Ⅳ−2−5)
。
図表Ⅳ−2−5
九州の機械・金属関連企業の韓国進出状況
進出
都市
進出
年
㈱安川電機
(福岡県北九州市)
ソウル
1994
単
独
電気機器の輸入・販売・サービス
森鉄工㈱
(佐賀県鹿島市)
ソウル
1995
単
独
自動車部品用精密加工器具
の販売拠点
不二輸送機工業㈱
(山口県小野田市)
ソウル
1999
事務所
ロボットの販売
辻産業㈱
(長崎県佐世保市)
釜
山
1999
事務所
情報収集のための現地連絡事務所
東亜非破壊検査㈱
(福岡県北九州市)
釜
山
1993
合
メンテナンス検査業務、計測器等の販売
企業名
資料)九経調「九州・山口地場企業の海外進出
進出
形態
弁
事業内容
1986∼2003」
81
事例をみると、釜山に進出した企業のうち 1 社は、船舶用クレーンで国内トップシェアをも
つ辻産業㈱である。1999 年に情報収集のための現地連絡事務所を設置した。釜山周辺をはじ
めとした日韓海峡圏は、造船や重機工場が数多く立地しており、市場動向の調査や新たな取引
先の獲得を目指す拠点として活用している。2002 年には船舶用クレーンと船体ブロックの製
造拠点を中国江蘇省に設置し、製品の約 7 割を日本や韓国などへ輸出している。
また 1986 年以前の進出企業であるため、図表には出ていないが、㈱松島機械研究所(北九
州市)が 1982 年にソウルに駐在員事務所を設置した。進出した背景には、当時、韓国国内で
はセメント工場の建設が多かったことがあり、セメント工場に粉体用レベル計の販売を行って
いた。その後、韓国経済の成長が鈍化するにつれ、マーケットの中心は次第に中国へ移ること
になった。
このように韓国へ進出する九州企業は少なく、それに加えて投資先として中国を希望する企
業が多くなっている現状は、機械・金属企業の連携を進めるにあたって問題点のひとつに挙げ
られるだろう。
九州市場に浸透するポスメタル
逆に、韓国の製鉄メーカーである㈱ポスコの孫会社である㈱ポスメタルは、1994 年に北九州
市に進出した。㈱ポスメタルは、過剰投資により倒産した福岡鋼板工業㈱若松工場を買収し、
従業員をそのまま引き継いで操業を行っている。
現在、浦項、光陽の両ポスコ製鐵所で生産された原材料のコイルを約 13 時間かけて専用船
で運搬し、ポスメタルでオーダーに沿った加工を行い、西日本地域の自動車、家電、産業機械、
建設など幅広いユーザーに供給している。海峡をわずか半日で運航して原料を輸送できること
は、地理的に近い九州のメリットであり、日韓海峡圏内で原料の調達と加工、市場とが一体と
なった事例である(図表Ⅳ−2−6)。
韓国企業が九州、あるいは日本国内に製造拠点を設けるにはコスト負担が大きい。そういう
意味で、倒産した九州企業を入札によって取得した㈱ポスメタルは、既に蓄積された技術や設
備、販売ネットワークを引き継ぐことが可能で、日本への進出形態の一つの事例となり得るだ
ろう。
82
第Ⅳ章
図表Ⅳ−2−6
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
㈱ポスメタルのネットワーク
資料)㈱ポスメタル HP
(http://www.posmetal.co.jp/gyoumugaiyou.htm)
(4)機械・金属産業の連携の方向性
日韓 FTA の貿易・投資への影響
今後、日韓 FTA が締結すれば、九州・韓国間の機械・金属産業にはどのような影響があるの
だろうか。図表Ⅳ−2−7に、鉄鋼と工作機械の FTA 提携後の予想インパクトを示した。
鉄鋼は、他の製造業とくらべて影響は少ないとみられる。関税は、日本はゼロ、韓国は低率
であり、関税撤廃による影響はほとんど受けない(図表Ⅳ−2−8)。韓国製品の品質向上に
ともない、日本から韓国への輸出のみならず、日本の韓国からの輸入も増加し、双方向での貿
易が拡大するであろう。いずれも自動車・造船市場向けの貿易が期待される。企業間において
は、すでに新日本製鉄㈱(新日鉄)と㈱ポスコが 2000 年に提携を行っているように、鉄鋼メ
ーカーおよび関連企業間での戦略的提携が進展すると思われる。ただし、高炉と電炉では、FTA
導入後のインパクトは異なる。高炉は戦略的提携の実現、韓国に競争力のある電炉は域内再編
がおきると予想される。
九州には、新日鐵や㈱住友金属小倉などの製鉄所が立地している。地理的に近い韓国南部に
集積する自動車や造船への鋼材の供給が考えられよう。一方、北九州に立地する㈱ポスメタル
を通じて、㈱ポスコからの鋼板の輸入は引き続き行われるだろうが、㈱ポスメタルの輸入量を
考慮すると、大規模な競争がおきるとは考えにくい。むしろ、韓国製品の品質が全般的に向上
していることで、競争の激化やその後の分業体制への移行が予想される。
工作機械は、日本と韓国で技術格差があるため、日本に有利に働く。日本からみれば韓国は
重要な輸出先であり、輸入先多角化品目制度撤廃後は、自動車産業向けを中心に輸出が増加し
83
ている。逆に韓国からの輸入は少ないとみられる。
九州には、工作機械を製造する大企業は少なく、大きな影響はみられないが、産業用機械や
ロボットを製造する一部の中小企業からの対韓国輸出は、今後も続くと思われる。
図表Ⅳ−2−7
鉄鋼・工作機械の対韓関係と FTA の予想インパクト
鉄
対韓国輸出
対韓国輸入
在韓国日系
鋼
工作機械
自動車用・造船鋼材を中心に輸出。
韓国は重要輸出先。
韓国の技術水準向上・輸入先多角化品目制
輸入先多角化品目制度の撤廃で輸出増加。
度の撤廃で分業深化。
韓国の自動車産業向け輸出が中心。
冷延鋼板など高付加価値化の進展。
輸入は少ない。
電炉部門の競争大。
競合は見られない。
戦略的提携。
工具、部品企業が少数進出済み。
パートナーからの出資買取りなど。
企業・直接投資
域外市場関係
日韓が主要プレーヤー。世界的にみれば日
市場の棲み分け
韓の競争力は大きい。
(日本:アジア、韓国:欧州)。
一方、韓国の高付加価値化で競争関係継
アメリカ市場は製品により棲み分け。
続。
FTA 導入の
高炉メーカーの戦略的提携の実現。
市場の棲み分け。
電炉メーカーの域内再編。
製品の棲み分け持続・加速。
インパクト
資料)日本貿易振興会アジア経済研究所(現・日本貿易振興機構)「21 世紀日韓経済関係研究会報告書」
(2000 年 5 月)をもとに加筆・修正
図表Ⅳ−2−8
日韓の機械金属関連の関税率
日本
韓国
なし
1%
機械類
なし
8%
機械類の部分品
なし
8%
産業用ロボット
なし
8%
加工機械
なし
8%
液晶デバイス、レーザー、光学機器
なし
0−8%
鉄鋼
(鉄鋼石を直接還元して得た鉄鋼その他
の海面上の鉄鋼及び重量比による純度
が99.94%以上の鉄)
資料)World Tariff website(http://www.worldtariff.com/)
産業連携の強化に向けた戦略的提携の促進
日韓 FTA の締結を控え、日本と韓国の企業間では、両国の構造調整と競争力の強化、分業
構造の深化を模索するために、包括的な戦略的提携に至る企業も現れている。しかし、九州の
機械・金属産業においては、韓国南部への企業進出が 2 件にとどまっている。今後、日韓海峡
圏においては、産業構造の類似性を活用することで、企業連携による相乗効果の創出が図られ、
産業の活性化が期待される。
そのためには、まず、企業間連携が必要であろう。韓国企業の技術力が向上している機械・
84
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
金属産業では、企業間の戦略的提携を促進することで、開発、生産、販売面で企業の強みを活
かした連携を組むことが可能となる。実際に、半導体工場向けに搬送機器を輸出している九州
の機械メーカーでは、委託生産を行っている韓国企業と共同で中国市場を開拓することも視野
に入れている。この場合、生産と販売においてそれぞれの強みを活かした連携を推進すること
になる。
技術移転の促進に向けた取り組み
日韓 FTA の締結によって、日本から韓国への投資は増加することが予想される。とくに機
械産業は、日韓において技術格差があり、韓国においては、産業構造の高度化や競争力の強化
に結びつく形で誘致を進められなければならない。実際、第Ⅲ章の企業アンケートでも、日本
に対して技術協力を求める韓国企業の声は多いことが明らかとなっている。
技術移転の進め方として、例えば、日韓産業技術協力財団が人材育成への支援と協力、生産
性の向上、品質の向上に向けた支援と協力、産業技術、および産業人の交流、セミナーの開催
を行っている。九州では、北九州国際技術協力協会(KITA)において、海外から研修生を受
入れて技術協力や人材育成を行ったり、中小企業が中心となって構成されたアジアビジネス推
進会では、韓国をはじめアジアへの技術移転や OEM、技術者交流を行っている。
このような技術を通じた企業間連携を進めていくことは、日韓海峡圏において分業構造の構
築や、域内での貿易・投資の拡大につながると期待される。
国境を越えた産学連携の推進
また、日韓海峡圏内の産業連携を強化する戦略として、九州と韓国南部での産学官交流が有
効であろう。九州の企業と韓国南部の大学・研究機関、九州の大学・研究機関と韓国南部の企
業による共同研究開発事業である。
例えば釜山大学には、東南圏部品素材産学協力革新センターや、附属工場、生産研究所など、
機械・金属に関する研究、開発を行う附属機関がある。九州の中小機械・金属企業とこれらの
機関との連携による、新製品や技術の共同開発が考えられよう。
同様に、韓国の企業が九州の産学連携機関に参加することも考えられる。例えば、九州には、
ロボット分野において、大学の研究者と企業で組織する産学官研究会「次世代ロボット研究会」
や、企業や個人、学識経験者を中心に組織する「ふくおかロボット技術研究会」があり、韓国
の機械メーカーがこれらの研究会に参加して、共同研究・共同開発を行っていくことも考えら
れる。
85
3.半導体産業
(1)九州と韓国の半導体産業の現状
シリコン・アイランド九州の現状
半導体産業は、九州経済を支える重要なリーディング産業の 1 つである。九州の半導体産業
の 2002 年における出荷額は 1 兆 240 億円であり、この数値は IC 生産における日本全体の
32.2%、世界の 6.1%を占めている(図表Ⅳ−3−1)。
1990 年代に入って、韓国や台湾の半導体産業が急速な発展により、半導体分野における国
際競争が激化し、とくに DRAM の分野では、韓国の三星電子㈱やアメリカ・マイクロン㈱が
台頭し、日本の半導体メーカーはコスト競争力の面で劣勢に立たされている。韓国の三星電子
㈱は、多様な商品構成を保とうとする日本企業に対し、メモリー分野に特化し、日本企業を遥
かに上回る規模で投資を行うことでコスト競争力をつける選択と集中の戦略によって、DRAM
分野におけるトップ企業となった。また台湾では TSMC や UMC といった企業に代表される
ファンダリービジネス(製造の外注請負い)が出現し、これらの新興勢力の急成長によって日
本、そして九州の半導体産業は大きな再編を受けている。
図表Ⅳ−3−1
九州の IC 出荷額の推移
(百万円)
(%)
1,600,000
35
1,400,000
30
シェア
1,200,000
25
ハイブリッド IC
1,000,000
20
リニア IC
800,000
MOS その他
出荷額
15
MOS メモリ
600,000
10
MOS ロジック
(マイコン、
ASIC等)
5
400,000
200,000
0 バイポーラ IC
0
1975
1978
1981
1984
1987
1990
1993
1996
1999
2002
資料)九州経済産業局調べ
メモリーからロジックへと転換する九州の半導体産業
九州の半導体メーカーは 1990 年代後半以降、従来のメモリー生産から ASIC 等のロジック
へと生産の重点を移すようになった。九州では、1990 年に全半導体生産の 31.8%を占めてい
たメモリーは、2002 年には 14.2%へと減少した。反対に、ロジックは、1990 年の 36.0%から
86
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
2002 年に 57.9%へと大幅に増加した。日本の大手半導体メーカーの多くはメモリー事業から
撤退、もしくは事業の縮小を進めており、メモリー生産に踏みとどまったメーカーの間でもメ
モリー事業は大きな再編を余儀なくされている。例えば、日本電気㈱(NEC)と㈱日立製作所
のメモリー事業部は統合されて新たにエルピーダメモリ㈱が設立された。また九州においては、
九州日本電気㈱(NEC 九州)、三菱電機㈱熊本製作所(現・㈱ルネサス九州セミコンダクタ)、
㈱東芝大分工場で行われていたメモリー生産は、海外工場に移管された。これらの再編によっ
て、九州の半導体生産はより付加価値の高いシステム LSI へと生産の主軸を移している(図表
Ⅳ−3−1)。
デジタル家電需要で活況を呈する九州の半導体産業
2000 年に、世界の半導体市場は、2,000 億ドルを越えるまでになっていたが、2001 年に起
きた IT バブルの崩壊によって 1,390 億ドルにまで急減した。しかし、世界半導体市場統計
(WSTS)によると、世界の半導体市場は 2003 年には 11.5%増の 1,560 億ドルになると予測
されている。このような近年の半導体市場の回復は、いわゆるデジタル家電市場の活況による
システム LSI の需要増によるものである。このようなデジタル家電市場における需要増に対応
していくために、ソニーセミコンダクタ九州㈱は、長崎工場に 1,200 億円の投資を行って
300mm ウエハ/65nm プロセスのシステム LSI 製造ラインを作る予定である。また、㈱東芝は、
2003∼2007 年にかけてのシステム LSI 生産のために大分工場で 2,000 億円を投資する計画を
立てている。
図表Ⅳ−3−2
九州・韓国の主な半導体工場
資料)各種資料より作成
87
IT バブルの崩壊により韓国の対米メモリー輸出は大幅な減少
一方、韓国の半導体産業の現状をみると、2002 年の半導体デバイスの生産額は 21 兆 9,751
億ウォンとなっているが、2000 年には 85.9%がメモリーであったのに対し、2002 年には、IT
バブルの崩壊によって対米向けメモリー輸出が急速に減少したことで、メモリーの比率は
47.3%に大幅に低下している(図表Ⅳ−3−3)。
韓国の集積回路(IC)貿易の動向をみると、順調に推移してきていた韓国の集積回路(IC)
輸出入額は、2001 年の IT バブルの崩壊によって大幅に減少した。2002 年以降は再び増加傾
向に転じたものの、以前の水準にまでは回復していない。一方、輸入額は順調に回復し、2003
年には 2000 年の水準を越えるまでになっている。これにより、1988 年以降輸出超過の状態に
あった半導体貿易は、IT バブルの崩壊以降は輸入超過に逆転している(図表Ⅳ−3−4)。
韓国の集積回路貿易を主要な貿易相手国別にみると、輸出入額ともにアメリカが圧倒的に多
く、日本は、アメリカに続く第 2 位となっている。しかし IT バブルの崩壊によって、輸出入
ともに、アメリカとの貿易は大幅に減少したが、日本との貿易は大きな影響を受けず、輸出入
ともに増加傾向にある(図表Ⅳ−3−5)。
図表Ⅳ−3−3
韓国の半導体デバイス出荷額の推移
出荷額 (百万ウォン)
1997
半導体
14,056,208
ディスクリートデバイス
集積回路(IC)
デジタル IC
構成比(%)
1998
1999
2000
2001
2002
16,385,305
18,054,395
16,474,824
12,106,466
21,975,130
1998
2,757,462
2,792,611
2,536,211
2,590,230
1,846,546
3,253,081
11,298,746
13,592,694
15,518,184
13,884,594
10,259,920
18,722,049
2000
100.0
2002
100.0
100.0
8,102,142
9,811,213
13,568,802
12,902,707
9,014,516
12,058,049
72.2
92.9
64.4
7,682,738
9,276,365
12,973,579
11,923,163
7,068,141
8,859,109
68.2
85.9
47.3
DRAM
7,147,385
8,642,884
10,036,534
6,268,363
3,252,351
4,102,633
63.6
45.1
21.9
SRAM
-
-
1,569,562
5,102,531
1,209,105
1,069,471
-
36.7
5.7
メモリ
Flush
その他
-
-
-
-
428,241
1,361,578
-
-
7.3
535,353
633,481
1,367,483
552,269
2,178,444
2,325,427
4.7
4.0
12.4
ロジック
246,545
289,368
285,529
528,513
1,368,047
946,289
2.1
3.8
5.1
その他
172,859
245,480
309,694
451,031
578,328
2,252,651
1.8
3.2
12.0
6.2
アナログ IC
86,309
48,039
387,526
436,509
456,406
1,160,886
0.4
3.1
202,025
194,292
211,439
247,843
229,594
251,698
1.4
1.8
1.3
2,908,270
3,539,150
1,350,417
297,535
559,404
5,251,416
26.0
2.1
28.0
ハイブリッド IC
その他 IC
資料)韓国情報通信産業協会「情報通信産業年報」
図表Ⅳ−3−4
韓国の集積回路(IC)貿易の動向
(百万ドル)
25,000
輸出
20,000
輸入
15,000
10,000
5,000
0
1988 89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
注)「集積回路」は HS コード 8452
資料)Korean statistical Information System
88
01
02
03
第Ⅳ章
図表Ⅳ−3−5
(百万ドル)
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
韓国の集積回路(IC)貿易の動向(主要国別)
<輸出>
(百万ドル)
8,000
<輸入>
8,000
日本
台湾
USA
中国
6,000
日本
台湾
USA
中国
6,000
4,000
4,000
2,000
2,000
0
0
1988
1991
1994
1997
2000
2003
1988
1991
1994
1997
2000
2003
注)「集積回路」は HS コード 8452
資料)Korean statistical Information System
日韓の半導体企業の連携
日韓海峡地域は、国内だけでなく世界的な視点から見ても半導体生産の重要な拠点となって
いる。このように世界的レベルの産業集積を誇る日韓海峡圏地域では、既に企業レベルで様々
な連携が行われている。なかでも、日韓の主要半導体メーカーは、半導体生産設備への投資規
模の拡大と投資リスクを分散させるために、企業間の戦略提携を積極的に推進している。例え
ば、ソニー㈱は三星電子㈱と第 7 世代液晶パネルの分野において戦略的提携を行い、約 20 億
ドルを投資して、TFT 液晶ディスプレイ・パネルの会社を設立する予定である。このような日
韓の企業間での戦略的提携の進展によって半導体分野における日韓での連携はさらに強まる
ことが予想される。
(2)九州と韓国の半導体貿易の現状
増加する日韓の半導体デバイス貿易
九州と韓国の半導体デバイス貿易の動向をみると、九州と韓国間の貿易額は、近年劇的に増
えている。九州から韓国への輸出額は 1998 年以降急増し 2003 年には約 970 億円に達してい
る。同様に、韓国から九州への半導体デバイスの輸入額も急激に増加し、韓国からの輸入額は、
2003 年で 840 億円となっている。また、九州と韓国の半導体デバイス貿易は、1988 年以降、
常に輸出超過の状態にある(図表Ⅳ−3−6)
。
九州の集積回路(IC)貿易を国別にみると、輸出入ともに 1998 年以降、韓国との貿易が急
速に増加しているのに対し、逆にアメリカとの貿易は大きく減少している。また、集積回路(IC)
の種類別に九州と韓国との集積回路(IC)貿易を見たものである。九州から韓国への輸出額では、
リニア IC のシェアが低下し、MOS ロジックが大幅に増加している。また、韓国から九州への
輸入においても、同様に MOS ロジックが急増していることが注目される(図表Ⅳ−3−7)。
89
図表Ⅳ−3−6
九州と韓国の半導体デバイス貿易の動向
(億円)
1,200
対韓国輸出
1,000
対韓国輸入
800
600
400
200
0
1988
1991
1994
1997
2000
2003
注)1.九州は下関港を含む
2.「半導体デバイス」には HS コード 8541「ディスクリートデバイス」と
8542「集積回路」を含む
資料)日本関税協会「日本貿易月表」
図表Ⅳ−3−7
九州の集積回路(IC)輸出入の動向
≪輸出≫
(億円)
≪輸入≫
(億円)
3,500
900
韓国
800
3,000
700
USA
2,500
600
その他
2,000
500
1,500
400
その他
300
韓国
1,000
USA
200
台湾
500
台湾
100
中国
0
1988
91
94
97
00
中国
0
03
1988
91
94
97
00
注)九州は下関港を含む
資料)日本関税協会「日本貿易月表」
図表Ⅳ−3−8
九州の対韓国集積回路(IC)貿易
額 (百万円)
韓国
への
輸出
韓国
からの
輸入
MOS メモリ
MOS マイクロ
MOS ロジック
リニア IC
バイポーラ IC
ハイブリッド IC
その他
計
MOS メモリ
MOS マイクロ
MOS ロジック
リニア IC
バイポーラ IC
ハイブリッド IC
その他
計
1988
105
1,326
1,555
3,842
218
427
7,580
15,054
0
0
0
7,258
0
4,400
190
11,848
1993
78
1,672
702
6,851
1,906
232
6,952
18,393
1,457
0
63
7,282
10
5,951
49
14,812
1998
1,014
2,580
4,952
4,367
227
272
3,717
17,129
3,546
24
2,898
6,488
66
7,082
245
20,349
注)九州は下関港を含む
資料)日本関税協会「日本貿易月表」
90
シェア(%)
2003
11,523
12,416
40,603
10,481
2,493
143
2,298
79,956
7,925
0
58,488
1,879
7,296
4,056
70
79,715
1988
0.7
8.8
10.3
25.5
1.4
2.8
50.4
100.0
0.0
0.0
0.0
61.3
0.0
37.1
1.6
100.0
1993
0.4
9.1
3.8
37.2
10.4
1.3
37.8
100.0
9.8
0.0
0.4
49.2
0.1
40.2
0.3
100.0
1998
5.9
15.1
28.9
25.5
1.3
1.6
21.7
100.0
17.4
0.1
14.2
31.9
0.3
34.8
1.2
100.0
2003
14.4
15.5
50.8
13.1
3.1
0.2
2.9
100.0
9.9
0.0
73.4
2.4
9.2
5.1
0.1
100.0
03
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
日韓海峡圏における生産工程分業
日本からの輸出に関しては、IT バブルの崩壊によるアメリカ向け需要の減少に加えて、九州
における半導体生産品目がメモリーからロジックへと変化したことで、需要先がデジタル家電
の生産拠点であるアジア諸国に切り替わったことが影響している。また輸入に関しては、アメ
リカからの輸入が減少し韓国が急増しており、さらに韓国向けのロジック IC の輸出が増加す
ると同時に韓国からのロジック IC も同時に増加しているが、これは、九州の半導体メーカー
の生産工程間分業を反映したものであると考えられる。
近年、アメリカ企業が韓国企業を買収し、韓国で後行程の業務委託を開始したが、これに合
わせて九州の半導体メーカー(前行程)が、この韓国企業に半導体のパッケージングを業務委
託するようになっている。ソニー、東芝、三菱といった九州に立地する大手半導体メーカーの
多くがこの韓国企業を利用しているが、メモリー生産に特化した韓国ではシステム LSI を始め
としたロジック IC のテストを行える企業が少なく、九州の半導体メーカーは、韓国で組立て
たシステム LSI を再輸入して九州でテストを行っている。したがって、日韓海峡地域の半導体
産業では既に、前工程(九州)→組立(韓国)→テスト(九州)といった流れで、生産工程間
分業が行われている。
(3)半導体産業における九州と韓国の連携
シリコンシーベルト福岡構想
福岡県では、九州から韓国、台湾、シンガポールまでを含んだエリアで世界の半導体生産の
約5割が行われていることを受けて、同地域を世界的な半導体の設計・生産拠点にしようとい
うシリコンシーベルト構想を提唱している。福岡県の提唱する構想は、福岡、北九州地域を中
心に、付加価値の高いシステム LSI の設計・開発拠点を構築し、シリコンシーベルト地域の頭
脳部分を担う研究機関・企業等の集積を促進することを意図しており、九州・福岡の半導体産
業を従来のメモリーやマイクロプロセッサ中心の部品産業からシステム LSI の設計・開発・製
造を中心とするシステム産業へ転換を図ることを目指している。
日韓 FTA の影響は少ない半導体産業
現在の日韓海峡地域での連携が民間ベースによる既存の商取引の中で行われているのをみ
ても分かるように、シリコンシーベルトの一翼を担う日韓海峡地域は、既に実質的に同じ生産
システムの一部として機能している。その意味では、日韓 FTA 締結によって現在の状況が大
きく変わることはないと考えられる。半導体産業においては日韓の連携は、今後も基本的には
個別企業の経営戦略に従って民間主導で進行すると思われるが、同地域における半導体産業の
さらなる発展と連携の強化を促進するための戦略としては以下のような方策が考えられる。
九州企業と韓国の大学の海峡を越えた産学連携
九州の半導体企業は、デジタル家電向けのロジック半導体(ASIC)の需要増加により、非
常に好調な状況にある。しかしながら、その一方で、ロジック半導体(ASIC)の設計・デザ
91
イン人材の不足に直面している。
一方、韓国においては、半導体産業におけるメモリー偏重を改めることを目的として、1995
年から ASIC 等の VLSI 設計人材の育成を図るための IDEC(IC Design Education Center)
プロジェクトを進めている。韓国南部においては、釜山大学が IDEC の地域センター(他には
江原大、天安大、漢陽大、慶北大が指定)として指定されており、半導体デザインに関する多
数の人材を育成している。しかしながら、韓国経済の停滞により、半導体デザイン分野におい
ても就職が難しくなってきている。したがって、人材を求める九州企業と、人材を持つ釜山大
学の IDEC 地域センターとの人材交流を図ることにより、韓国の半導体デザイン人材が九州企
業において 2∼3 年程度の研究開発プロジェクトに参加する、もしくは九州企業における韓国
人技術者の雇用を促進させることによって、海峡圏を越えた産学連携を図ることが考えられる。
韓国 IT 人材のインターン制度
また、九州企業における韓国人技術者の雇用を促進するために、九州企業が釜山大学 IDEC
地域センターの大学院生をインターンとして受入れることも有効である。半導体デザインやソ
フトウェア開発であれば、英語が話せれば十分であり、また企業の短期的な研究開発プロジェ
クトへの参加も見込める。また本当に有能な存在であれば自社で雇用することも十分に可能性
があると考えられる。
九州の半導体と韓国の自動車産業との連携
九州北部にはトヨタ自動車九州㈱、日産自動車㈱九州工場の主力工場が立地し、関連する部
品産業が集積している。また将来的にはトヨタ自動車九州㈱のエンジン工場も設立が予定され
ており、北部九州は自動車の一大生産拠点になりつつある。一方、韓国では、蔚山広域市に現
代自動車㈱の生産拠点が存在し、同時に多数の自動車部品を生産する企業が立地する。しかし
ながら、ジャストインタイムを基調とする現在の自動車生産方式は、ある程度クローズドな生
産システムを前提としており、突発的な事件で流通がストップする可能性のある流通経路は選
択しにくい。したがって、海峡を挟んで自動車関連が集積しているにも関わらず国境をまたい
だ自動車部品の取引は難しい状況にある。
ところで、近年、日本では自動車のエレクトロニクス化に注目が集まっている。排ガス規制
や燃費向上を目的としたエンジンコントロール用の半導体や、安全性向上のための各種センサ
ー類など、自動車向けの半導体需要は、将来的に現在のパソコン向けと同規模にまで拡大する
との予測もある。現時点では、日本車とくらべると韓国車への半導体の搭載は少ないが、アメ
リカ向けの輸出を行う限り、排ガス規制や燃費の向上といった面で日本車と同様の要求が求め
られてくると予想される。車積用の半導体は、韓国に供給できる企業が少ないことから、ロジ
ック系 ASIC に強い九州の半導体企業との連携が期待できる。したがって車積用半導体の将来
性を見込んで、韓国の自動車企業と九州の半導体企業による共同研究プロジェクトやコンソー
シアムの結成によって、日韓海峡圏における自動車=半導体の連携を図ることが考えられる。
92
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
4.自動車産業
(1)日韓自動車コリドー構想の再検討
日韓自動車産業の連携と競争
日本と韓国は、アジアにおける自動車生産大国である。両国の自動車メーカーの間には、こ
れまでさまざまな協力関係が築かれてきた。はじめは日本企業から韓国企業への技術供与や資
本参加が中心だったが、韓国の技術レベルの向上とともに、韓国からの部品調達も拡大し、自
動車部品の産業内貿易は拡大している。
また、完成車の貿易でも、韓国車の日本市場での販売が本格的に始まる一方、2001年以降、
トヨタ自動車㈱と本田技研工業㈱が韓国市場に参入し、日産自動車も2005年から参入予定であ
る。自動車市場での日韓の競争も徐々に激しくなってきている。
日韓自動車コリドー構想の概要
九州と韓国の自動車産業の間には、まだ産業連携の実績は多くない。しかし、1990年代には、
九州と韓国の自動車産業の交流に大きな期待が寄せられた。最も代表的な構想が、「日韓自動
車コリドー構想」である。
「日韓自動車コリドー構想」は、1996年に響灘開発推進会議より提案された。この構想は、
北部九州と、釜山広域市や蔚山広域市、慶尚南道といった韓国東南部における自動車産業の集
積に着目し、約200kmしか離れていない両地域の間で、国境を越えた水平分業体制を築き、両
地域を活性化させようとするものである。
この構想では、北九州市北部に位置する響灘地区への「自動車特区」の設置が提案された。
自動車特区では、日本や韓国の自動車メーカーが、単独または合弁で工場や物流センターを設
置し、自動車部品の製造拠点や物流拠点を形成することを提案している。
また、貿易面では、韓国を主要な取引相手と想定し、輸入自動車の拠点や自動車部品の輸出
入拠点が形成されることを想定している。生産部門や物流部門以外にも、中古車センター、廃
車・解体センター、リファイン・リビルトセンター等からなるリサイクル拠点の形成も提案さ
れた。リファイン、リビルトされた自動車部品の海外への輸出も考えられている。このように、
自動車特区は、動脈産業と静脈産業が組み合わさった産業拠点になることを目指している。
日韓自動車コリドー構想の背景:①三星自動車㈱と日産自動車㈱の技術提携
日韓自動車コリドー構想が提案された第1の背景には、1990年代半ばに、三星自動車㈱(現・
ルノー三星自動車㈱)の釜山工場が立地したこと、さらに三星自動車㈱が日産自動車㈱と技術
提携をしたことが挙げられる。ルノー三星自動車㈱釜山工場は、北部九州からわずか200km余
りしか離れていない。しかも、韓国の他の自動車メーカーによる三星自動車へ技術援助が禁止
されていたことから、北部九州に立地する日産自動車九州工場や関連メーカーとの間で、多様
な連携の可能性が考えられた。
93
ルノー三星自動車㈱釜山工場は、日産自動車㈱九州工場をモデル工場とし、工場のレイアウ
トや生産ラインはほぼ似通っていると言われる。技術提携によって、大勢の韓国人研修生を日
産自動車㈱九州工場が受け入れたこともある。九州に立地する日産自動車㈱関連の自動車部品
メーカーからみれば、ルノー三星自動車㈱関連の自動車部品企業への技術供与や部品輸出の可
能性が高まった。
ちなみに、2002年7月から量産を開始した新型小型車「SM3」は日産自動車㈱の「ブルーバ
ード・シルフィー」をベースにし、2004年に販売を開始した「SM7」は同じく日産自動車㈱
の高級セダン「ティアナ」をベースにしている。
図表Ⅳ−4−1
九州・韓国の主な自動車工場
資料)現代自動車㈱年次報告等より作成
94
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
日韓自動車コリドー構想の背景:②韓国南部地域における自動車産業の集積
第2の背景には、韓国南部地域が、京畿道周辺を上回る韓国における最大の自動車産業集積
地となっていることがある。蔚山広域市の現代自動車㈱の自動車工場は単一の工場としては世
界最大規模と言われる。同地域全体の自動車生産台数は、韓国全体の約50%を占める。
2003年における同地域の自動車生産台数は約240万台にのぼる。主要な自動車工場としては、
釜山広域市に、ルノー三星自動車㈱(2003年の生産台数:24万台)、蔚山広域市には、現代自
動車㈱(同約153万台)、昌原市にはGM大宇(GM大宇自動車技術㈱。同21万台)、光州広域市
には、起亜自動車㈱(同37万台)の工場がある(図表Ⅳ−4−1)。
日韓自動車コリドー構想の背景:③わが国第 3 の自動車生産拠点となる九州
第3の背景としては、九州が東海地方や関東地方に次ぐ、わが国第3の自動車生産拠点とし
て発展の可能性を急速に高めてきたことが挙げられる。九州においては、1990年代初頭に日産
自動車九州工場で大規模な設備投資が行われ、1992年にはトヨタ自動車九州㈱が操業を開始し
た(図表Ⅳ−4−2)。九州の自動車関連産業の集積も厚くなり、現在、自動車関連メーカーは
約700社にのぼるとみられる。
また、九州の自動車産業は、新規立地や設備投資によって、最新鋭の工場となっている。そ
のため、将来的に増産する場合は、九州の工場が担う可能性が高いといえる。今後、アジアの
自動車市場の発展が見込まれる中で、九州の自動車産業が果たす役割も高まると考えられる。
図表Ⅳ−4−2
日産自動車㈱九州工場
所在地
敷地面積
生産開始
従業員数
生産台数
生産車種
福岡県苅田町
236.2ha
1975年4月
約4,700人
乗用車53万台
ティアナ、プレサージュ、
ラフェスタ、ムラーノ、
ブルーバード、シルフィー、
エクストレイル、プリメーラ、
アルメーラ等
九州の主な自動車工場
トヨタ自動車九州㈱
福岡県宮田町
106ha
1992年12月
約2,100人
乗用車28万台
クルーガーV、ハリアー
ダイハツ車体㈱
大分(中津)工場
大分県中津市
134ha
2004年12月
約1,000人
軽乗用車12万台
ハイゼット、アトレー
資料)各社資料より
日韓自動車コリドー構想のその後
日韓自動車コリドー構想が提案された時期は、日本経済が低迷し始めた時期と重なり、1990
年代後半も、長く厳しい不況が続いた。自動車産業もその影響を逃れることはできなかった。
1999年に、カルロス・ゴーン氏が日産自動車㈱の最高執行責任者(COO)に就任し、当時2
兆1,000億円の有利子負債があった日産自動車㈱の建て直しを図った。
韓国側も、1997年の金融危機以降、外資による買収や提携があり、韓国の自動車産業の大改
革が行われた。その結果、日韓自動車コリドー構想の実現は、しばらく困難になった。
95
(2)九州と韓国の自動車貿易の現状
増大する自動車部品貿易
2000年以降、日産自動車㈱の建て直しが成功し、ルノー三星自動車㈱釜山工場も操業を開始
し、日韓の間で自動車産業の国際分業が進展することによって、日韓自動車コリドー構想が考
えていた自動車部品貿易が増大している。
図表Ⅳ−4−3は、九州と韓国の自動車部品貿易の推移をみたものである。九州と韓国の自
動車部品貿易の推移をみると、1999年以降、九州から韓国への自動車部品の輸出が急増してい
ることがわかる。2002年の九州から韓国への輸出額は、54億円に達した。絶対額はまだ少なく、
日本から韓国への自動車部品輸出総額の3%にしかすぎないが、伸び率の高さは注目できる。
一方、韓国から九州の輸入も2001年以降、着実に増加し、2003年には約40億円に達した。韓
国から日本への自動車部品輸入額の約15%を占める。
図表Ⅳ−4−3
九州と韓国の自動車部品貿易
(百万円)
6,000
5,429
5,500
5,000
輸入
4,500
輸出
3,986
4,000
3,500
3,000
2,799
2,541
2,646
2,500
2,000
1,596
1,429
1,500
1,214
890
1,000
500
734
711
612
520
413
325
486
0
1996
97
98
99
2000
2001
2002
2003
資料)門司税関調べ
韓国自動車部品企業の技術水準の向上
このように自動車部品貿易が増加した理由としては、韓国の自動車部品企業の技術水準が向
上したことが挙げられる。2001年に九州−釜山自動車産業交流会*が釜山の自動車部品メーカ
ーを調査した結果によると、「韓国の自動車部品メーカーは、日本企業から技術供与を受け、
96
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
日本向けの輸出も多い。輸出拡大の最大の課題は、物流コスト、とくに、梱包と防錆対策が重
要」という指摘があった。
一方、日本の自動車関連企業は、韓国の部品メーカーは管理技術、品質、設備、開発力に弱
さがあるとみている。とくに韓国東南部の自動車部品メーカーは、零細企業が多く、部品企業
が脆弱だと言われる。しかし、最近の日本の自動車部品メーカーの考え方は、1990年代後半に
韓国の技術水準が急速に進歩したと評価し、コスト削減を目指すために、今後さらに輸入を増
加させる可能性が高いということだった。今後、韓国から金型等の中間財の輸入が増える可能
性は高いという指摘もあった。
実際、韓国から部品を調達したケースとして、トヨタ自動車九州㈱の事例を挙げることがで
きる。トヨタ自動車九州㈱は、2001年に韓国から自動車鋼板用プレス金型の調達を開始したこ
とを明らかにした。トヨタ自動車九州㈱は、これまでトヨタ自動車㈱から部品を調達し、自ら
部品調達をすることはなかった。しかし、韓国の金型企業(ソウル)が高い品質を維持できる
こと、調達コストを2割ほど削減できること等から、韓国からの部品調達を決定した。今後、
トヨタ自動車九州㈱だけではなく、他の自動車部品メーカーも、金型等の中間財を韓国から輸
入する可能性は高い。
*九州と釜山地域の自動車産業に関する研究活動や経済活動に関して情報交換や連携を図ることを目的に
して、釜山大学や九州大学の自動車関係の研究者が中心となって設立した研究会。
急増する韓国への日本車輸出
一方、完成車の輸出については、北米と欧州に偏っており、九州の自動車輸出も全体の約60%
が北米と欧州向けである。トヨタ自動車九州㈱によれば、70%が北米向け、15%が他の諸外国
向け、残り15%が国内市場向けということだった。また日産自動車㈱九州工場の場合も、約60%
が北米向けである。韓国への輸出台数については、把握できないほどに少ないということだっ
た。全国ベースでみても、日本から韓国への輸出台数は、2003年で3,581台にすぎず、160万
台を輸出する北米とは較べものにならないほどに少ない。
しかし、1999年から韓国の自動車市場が自由化されたことによって、日本車の韓国への輸出
が急増している。トヨタ自動車㈱、本田技研工業㈱はすでに韓国市場での販売を開始し、日産
も2005年から販売開始予定である。とくにトヨタ自動車㈱は、高級車「レクサス」の人気が高
く、売れ行きを伸ばしている。
このような状況を反映して、九州から韓国への輸出も急増している。2002年と2003年は140
億円を上回る輸出額となった(図表Ⅳ−4−4)。わが国の韓国への自動車輸出額は約180億円
なので、韓国に輸出される自動車の約8割が九州から輸出されていることになる。九州は日本
車の韓国への輸出拠点になっているということもできる。
日本での韓国車の販売
韓国車の日本への輸出は日本車の韓国への輸出に較べ多くないが、福岡には、韓国車の日本
市場での販売にいち早く取り組んだユニークな会社もある。大宇自動車㈱(現・GM大宇自動
97
車技術㈱)が生産する「マティス」を日本市場で販売する事例である。福岡市が韓国に地理的
に近いということによって、1999年に福岡市に大宇ジャパン㈱が設立され、イタリア人がデザ
インしたマティスが日本で販売開始された。マティスは、欧州では100万台の販売実績がある
車である。マティスを生産する工場は昌原にあり、釜山から福岡まで船で運ぶ。しかし、大宇
自動車㈱の経営が悪化したため、独立した販売会社(㈱オートレックス)を設立し、日本全国
への販売・サービスを開始した。1999年から2002年の2年半でマティスの販売台数は2,000台
であった。今後、マティス以外の韓国車の販売も強化していくとのことである。
図Ⅳ−4−4 九州と韓国の完成車貿易
(百万円)
15,000
14,444
14,094
14,000
13,000
12,000
輸入
11,000
輸出
10,000
9,000
8,000
7,000
6,355
6,000
5,000
4,000
2,467
3,000
2,000
1,000
54 143
100 108 150 57
295
609
403
197
2000
2001
167
208
0
1996
97
98
99
2002
2003
資料)門司税関調べ
(3)日韓海峡圏における自動車産業協力の将来方向
日韓 FTA が九州の自動車産業に及ぼす影響
これまで九州と韓国の自動車産業の連携は、ポテンシャルは高いとみられてきたが、実績は
少なかった。しかし、今後、日韓FTAが締結されれば、九州と韓国の自動車産業の連携にかな
りのインパクトを与えることが予想される。
日韓FTAは、政府間の交渉であり、九州や韓国の地方自治体は直接関与することはできない。
しかし、自動車や自動車部品の関税率や非関税障壁が変わることによって、九州や韓国南部の
自動車産業も直接的、間接的に影響を受けると考えられる。韓国の自動車関連の関税は8%で
98
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
あるので、この関税が低くなれば、日本の自動車産業の価格競争力は強くなる。九州からみれ
ば、完成車輸出や部品輸出の可能性が高まる(図表Ⅳ−4−5)。
図表Ⅳ−4−5
日韓の自動車関連の関税率
日本
韓国
10人以上の人員の輸送用の自動車
なし
10%
乗用自動車その他の自動車
なし
8%
車体
なし
8%
部分品及び付属品
なし
8%
資料)World Tariff website(http://www.worldtariff.com/)
またルノー三星自動車㈱と日産自動車㈱の提携等、日韓自動車メーカーの戦略提携により、
車台の共通化、部品の共通化、部品のユニット化・モジュール化等が進めば、日本の部品メー
カーから部品供給が増える可能性もある。日本の部品メーカーはすでに韓国に生産拠点をもつ
ので、韓国の自社工場や提携先の韓国ローカルメーカーの工場の増強を図るだろうが、それと
。
ともに基幹部品の日本からの輸入も考えられる(図表Ⅳ−4−6の中の①の経路)
図表Ⅳ−4−6
日韓の自動車部品貿易と産業協力の将来イメージ
99
完成車の輸出については、北米や欧州向けの輸出が約6割なので、完成車輸出の面では、日
韓FTAの影響はそれほど大きくはない。しかし、韓国で人気のあるレクサスがトヨタ自動車九
州㈱で生産されれば、九州から韓国への輸出の可能性も高まると考えられる。
日韓 FTA が韓国の自動車産業に及ぼす影響
一方、韓国の自動車メーカーや自動車部品メーカーにとっては、日韓FTAによって短期的に
はチャンスよりも脅威が増大するとみられる。韓国の自動車部品メーカーは零細企業や中小企
業が多く、日韓FTAによって関税が下がれば、競争力がさらに低下する。自動車部品産業は、
韓国では代表的なセンシティブな産業である。日本は自動車や自動車部品に対しては関税をか
けていないので、韓国の自動車産業や部品産業にとって、日韓FTAがもたらすメリットはほと
んどない。したがって、日韓FTAの脅威を少しでも減らすためには、韓国の自動車産業や部品
産業が、長期的にみてメリットを享受できるような仕組みを作る必要がある。例えば、日韓の
自動車部品メーカー間の技術提携や技術協力や、韓国の大学(例えば、釜山大学の慶南自動車
テクノセンター)と九州の自動車産業の連携等を通じて、日韓自動車産業の連携の道をさぐり、
韓国の自動車産業の技術水準を高めることが必要である(図表Ⅳ−4−6の中の②の経路)。
九州の新たな自動車産業の集積が及ぼす影響
今後、日韓の自動車産業連携に大きな影響を及ぼすもう1つの要因は、北部九州での自動車
産業の新たな集積である。
トヨタ自動車九州㈱は、2005年夏に高級車「レクサス」を生産する新工場を稼動させること
を発表した。当社の生産能力は現在の約30万台から43万台に増加する。海外市場での需要の伸
びが大きく、現地生産では間に合わなくなってきたこと、それに愛知県での労働力の確保が難
しくなり、九州が労働力確保に有利であること等がトヨタ自動車九州㈱の増設の理由とみられ
る。また、22万台の生産能力をもつエンジン工場も福岡県に立地し、2006年に稼動する。トヨ
タとしては初めての愛知県以外のエンジン工場である。エンジン工場の立地によって、新たな
部品メーカーの工場進出も期待されている。
日産も、リバイバルプランを進めながら、九州工場へ生産をシフトさせ、新型車の投入等に
より2004年度には生産台数が52万台(半完成車も含む)に達する見込みである。
さらに、2004年末には、ダイハツ車体㈱大分(中津)工場が操業を開始した。初年度は年産
12万台の軽乗用車を生産する計画である。
こうした結果、ダイハツ車体㈱大分(中津)工場とトヨタ自動車九州㈱の新工場が稼動する
と、九州の自動車生産台数は100万台を超えると見込まれる(図表Ⅳ−4−7)。山口県のマツ
ダ㈱防府工場もあわせると、九州・山口の生産台数は約150万台となる。
100
第Ⅳ章
図表Ⅳ−4−7
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
九州の自動車生産台数の推移と今後の見通し
(千台)
1,200
国内生産台数を
850万台とすると
全国シェア8.8%
1,100
1,000
国内生産台数を
850万台とすると
予想
102 万台)
全国シェア12% (
(100万台)
120
ダイハツ大分
900
トヨタ九州
800
(見込み)
日産九州
700
430
600
500
267
168
284
254
464
470
2003
2004 2006
2006
年以降
262
204
182
400
300
200
425
378
408
328
365
1999
2000
2001
2002
470
100
0
FY 1998
注)完成車のみ
資料)日産自動車㈱九州工場およびトヨタ自動車九州㈱より
九州の新たな自動車部品マーケット拡大への期待
九州の新たな自動車産業の集積とともに、九州の自動車部品のマーケットも拡大し、韓国か
ら九州への自動車部品の輸入の可能性も高まってくるだろう。とくに、わが国の自動車メーカ
ーは、中国との競争に備えて生産コストの削減を強化している(低コスト部品調達)。生産コ
ストを削減するためには、新しい部品メーカーを開拓しなければならない。新しい部品メーカ
ーとして可能性が高いのは、技術力をもつ企業、低価格で供給できる企業、そしてアジアの企
業である。韓国の自動車部品メーカーも、九州の自動車部品市場に参入するためには、現地日
系自動車部品メーカーとの取引を通じた実績づくりや、展示会や商談会を通じた九州市場開拓
の努力をする必要があるだろう(図表Ⅳ−4−6の中の③の経路)。
100 万台達成後の新たな戦略の必要性
福岡県は、こうした自動車産業の集積をさらに促進するために、
「北部九州自動車100万台生
産拠点推進会議」を設置し、北部九州で自動車生産台数100万台を達成することをめざしてい
る。100万台達成は、目標年次の2007年度以前に容易に達成できそうである。しかし、この計
画には、韓国を含むアジアと関連する具体的な目標は設定されていない。100万台達成後は、
アジア市場を視野に入れた新たな戦略も検討されてよいだろう。
101
5.物流産業
(1)九州・韓国の海上輸送の現状
釜山港に集中する九州の定期コンテナ航路
日韓海峡圏には、多くの定期コンテナ航路があり、九州各地の港湾と釜山港との間に航路が集
中している(図表Ⅳ−5−1)。九州では、各地が地域の国際化を進め、地元の港湾と釜山港を航
路で結ぶ一方、韓国の中小海運企業においては、釜山港を母港にフィーダー船で日本の地方港と
航路を開設し、主に海外から日本向けの貨物を運搬している。九州では、博多港において世界と
結ばれる大型船が入港するものの、釜山港で積換える荷主は多い。
九州のみならず、こうした構図は日本全体に拡大しており、北東アジアにおける釜山港の存在
は大きい。
図表Ⅳ−5−1
九州と韓国の定期コンテナ航路
資料)九州運輸局「九州の物流」をもとに作成
102
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
増加傾向の博多港・北九州港∼韓国のコンテナ貨物量
九州∼韓国南部の海上コンテナ貨物量のデータ入手には限界があるため、ここでは九州のコン
テナ貨物の大部分を取り扱う博多港と北九州港の韓国航路のコンテナ貨物取扱量をもとに、傾向
を把握する。
取扱量は、輸出入ともに増加傾向にあり、九州∼韓国間でモノの移動が活発になっている。2002
年は、輸出が 977 千トン、輸入が 1,884 千トンで、1998 年にくらべてそれぞれ 2.8 倍、1.5 倍と
なっている(図表Ⅳ−5−2)。ただし全航路に占める韓国航路の比率は、輸出は上昇を続け 2002
年には 15.8%となったものの、輸入は近年、大きな変動はみられず、20%前後で推移している。
輸出については、九州から韓国への輸出品の他に、国内各地から九州を経由して韓国へ搬送され
る部品や工業製品などが増えていることが背景にある。輸入については、中国からの直接輸入が
増加し、相対的に韓国からの輸入比率を低下させていると考えられる。また輸出と輸入を比較す
ると、輸入量が輸出量を大きく上回っており、量ベースでみると輸入超過となっている。
次に各港湾の推移についてみると、輸出は博多港の増加が顕著である。1998 年は 229 千トン
から 2002 年には 673 千トンと、約3倍に増加した。北九州港は、1998 年の 118 千トンから 2002
年には 304 千トンとこちらも3倍弱の伸びであった。輸出の増加には、韓国の工場向けの部品や
素材、生産設備が寄与していると思われる。とくに博多∼釜山間のカメリアラインは、定時運航
等で利便性が高く、ユーザーの利用頻度は高い。
輸入は、博多港では、1998 年の 935 千トンから 2002 年には 1,300 千トンに増加している。北
九州港においても 1998 年の 306 千トンから 2002 年には 584 千トンに増加しているものの、2000
年以降はほぼ横ばいで推移している。博多港、北九州港ともに、港湾の背後圏である九州・中国
市場向けの輸入品を中心に取り扱っており、主にマーケットの拡大によるものである。
図表Ⅳ−5−2
博多港・北九州港の韓国航路のコンテナ貨物取扱量
【輸出】
【輸入】
(千トン)
20.0%
2500
(千トン)
2500
20.0%
15.8%
2000
13.9%
15.0%
12.8%
韓国航路
比率
1500
7.7%
7.4%
1000
2000
1406
701
977
1000
766
497
673
500
347
350
220
130
258
269
304
0
229
118
1998
99
2000
01
02
443
1241
10.0%
5.0%
0.0%
資料)九州運輸局「九州の運輸」
103
500
21.5%
2021
1500
博多港
北九州港
韓国航路
比率
19.3%
18.7%
1150
935
北
博 九
多 州
港 港
1757
25.0%
20.5%
20.0%
1884
15.0%
1432
1300
10.0%
1059
5.0%
306
347
1998
99
607
589
584
2000
01
02
0
0.0%
工業品主体の博多港・北九州港∼韓国の物流品目
博多港・北九州港∼韓国間で貨物取扱量は増加傾向にあるが、どのような品目が流通している
のだろうか。
輸出(移出を含む。以下同)は、①金属機械工業品(42.1%)、②化学工業品(29.1%)、③雑
工業品(12.6%)であった。輸入(移入を含む。以下同)は、①化学工業品(27.4%)、②金属機
械工業品(18.6%)、③雑工業品(15.5%)であり、順序は異なるものの、輸出入とも上位 3 品
目は同じ品目で占められる。このことから、日韓の工場間で、素材や部品、完成品の往来が盛ん
であり、工業品主体の水平貿易が構築されていることがわかる。
また、輸入においては、農水産物が 263,553 トン、13.7%を占める。輸出はわずか 9,514 トン、
0.8%にとどまっており、大幅な輸入超過となっている(図表Ⅳ−5−3)。
図表Ⅳ−5−3
博多港・北九州港∼韓国の品目別取扱量
【輸出】
【輸入】
農水産物,
9,514 トン,
0.8%
軽工業品,
31,243 トン,
2.7%
林産品,
3,717 トン,
0.3%
鉱産品,
48,053 トン,
4.1%
特殊品,
90,691 トン,
7.8%
雑工業品,
147,431 トン,
12.6%
化学工業
品, 339,870
トン , 29.1%
分類不能,
5,127 トン,
0.4%
金属機械
工業品,
492,130 トン,
42.1%
鉱産品,
80,797 トン,
4.2%
軽工業品,
150,705 ト
ン, 7.9%
特殊品,
175,386 ト
ン, 9.1%
林産品,
45,213 トン,
2.4%
分類不能,
22,733 トン,
1.2%
化学工業
品,
524,685 ト
ン, 27.4%
農水産物,
金属機械
263,553 ト
工業品,
ン, 13.7%
357,435 ト
雑工業品,
ン, 18.6%
296,698 ト
ン, 15.5%
資料)福岡市港湾局「博多港統計年報」、北九州市港湾局「北九州港港湾統計」
104
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
(2)激化する港湾間の競争
活発に行われる港湾開発
日韓海峡圏において貿易は増加している、一方で、ハブポートとして対応可能な大港湾の開発
も、玄界灘を挟んだ狭いエリアで活発に行われている。世界的に物流量は増加しているとはいえ、
その弊害として集荷競争がすでに生じており、港湾利用料金の減額をはじめとした優遇措置など
が講じられている。今後、港湾間の協調や機能分担、連携を具体的に進める必要があるだろう。
以下、日韓海峡圏内での港湾開発をみていくと、北九州港ではひびきコンテナターミナルを
2005 年 4 月に開港する。全体計画では 2020 年までに水深 15∼16mの大水深港湾を6バース建
設する予定で、貨物取扱能力は 150 万 TEU に達する。九州をはじめ、韓国や中国沿岸部を含め
た環黄海圏のハブポートを目指している。
博多港アイランドシティコンテナターミナルは 2003 年 9 月に一部開業した。水深 15mの大水
深港湾 2 バースをはじめとして、外貿・内貿あわせて 8 バースの設置を計画している。最新鋭の
国際コンテナターミナルなどの港湾関連施設の整備を進め、先進的な物流機能やサービスの提供
で、国際物流拠点の形成および世界との貿易・ビジネスの拡大をめざす。
釜山港は、2003 年に 1,037 万 TEU のコンテナ取扱量(世界5位)を記録した世界有数の港湾
である。現在は増加する貨物取扱量に港湾の処理能力が追いつかず、新たに釜山新港を開発中で
ある。2011 年を目標に 30 バースの大港湾を整備する。貨物取扱能力は 804 万 TEU と現在の釜
山港に匹敵する大規模な港湾となる。
全羅南道の光陽港は、2011 年を目標に、33 バース、913 万 TEU の貨物取扱能力を有する港湾
整備を進めている(図表Ⅳ−5−4)。
このように、日韓海峡を挟んで建設が進む港湾は、増加するコンテナ取扱量を想定して開発を
進めているものの、それぞれが環黄海や北東アジアのハブポートをめざして開発を進めているの
が現状である。
105
図表Ⅳ−5−4 港湾開発計画
資料)各港湾のホームページより
優遇措置の拡充を図る釜山港
ハード整備のみならず、ソフト面での競争も見られる。とくに釜山港では、今後のコンテナの
集荷に危機感をもっており、優遇措置の拡充を行い、ソフト面の充実を始めている。
これまで釜山港が成長してきた背景には中国からのトランシップ貨物によるところが大きい。
釜山港の貨物取扱量のうち、6 割が韓国発着の貨物で、4 割はトランシップ貨物である。ところ
が上海や青島、天津など中国が自国の港湾整備が進め、自国の港からダイレクトに輸送を行うよ
うになり、釜山港に集まるトランシップ貨物の増加率は次第に鈍化している。このため世界第 3
位のコンテナ取扱量だった釜山港は、上海港とシンセン港に抜かれ、第5位に転落している(図
表Ⅳ−5−5)。
106
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
第Ⅳ章
釜山港はこのことに対して強い危機感をもち、従来のようにコンテナ処理量だけに重点を置か
ず、港湾の発展と地域経済をいかに結びつけるかに強い関心を持つようになった。具体的には、
港湾の背後団地に外国企業を誘致することで雇用と新規の貨物を創出する戦略である。実際に釜
カム チョン
山・甘 川 港には三井物産が韓国企業との共同出資で最新鋭の物流倉庫を建設し、日本、中国、東
南アジア間で輸送される貨物を一括で保管、集配送する中継基地とする。中国から日本へ運ばれ
るコンビニエンスストア向けの食品・雑貨をストックするもので、同社だけで3万 TEU の取扱
量が見込まれる。これまで高雄港にあった機能を釜山港へ移す計画である。この事例の特徴は、
誘致にあたっての優遇措置にある。進出地は、「経済自由区域(FTZ)」に指定されているため、
税の減免措置のほか、2 万坪の土地を約 600 円/坪で賃貸するもので大きなインセンティブとして
働いている。三井物産㈱のほかにも、日本通運㈱と日本貨物鉄道㈱(JR 貨物)の進出が予定さ
れている。また、同 FTZ は光陽港にも適用され、こちらも釜山港並みの廉価な土地賃貸料や税
の減免措置が用意されている。
図表Ⅳ−5−5
世界主要港のコンテナ取扱量(2003 年)
2010
香港
1810
シンガポール
1128
上海
シンセン
1061
釜山
1037
…
328
東京
光陽
118
仁川
82
57
博多
北九州
44
蔚山
32
0
500
1000
1500
2000
2500
(万TEU)
注)香港以下、釜山までは 1∼5 位。東京は 17 位。博多、北九州は順位が判明せず。
釜山港の積換率は 41%
資料)ナゴヤ・ポート・ニュース(www.port-of-nagoya.jp/topics/portnews)
西日本新聞社(2004.6.23)
(3)海上輸送における九州・韓国の連携の方向性
日韓海峡圏では物流量が増大し、日韓間でも輸出を中心に貿易が伸びている。その一方で九州、
韓国南部、それぞれが港湾開発を行ない、コンテナ処理能力は増大している。今後は、日韓海峡
圏内の港湾間で連携を探り、お互いが効率的な港湾運営を行えるような体制を構築することが求
められる。そのためには以下のような方向性が考えられる。
107
釜山港を拠点とした物流ネットワークの構築
釜山港を中心に九州各地にも航路が結ばれていることを活用した物流ネットワークの構築が考
えられる。
こうしたメリットを活かして、釜山港に日本国内向け物流センターを設置する企業連合が現れ
ている(図表Ⅳ−5−6)。物流コンサルティング会社である J&K ロジスティクス㈱(東京都)
が全体の管理を行うなか、福岡運輸㈱など日本国内の運輸関連企業 6 社と、韓国の運輸関連企業
2社が参加して、中国から日本へ輸入される商品のストックポイントを釜山港に設置している。
日本の参加企業は各地に分散しているために、荷主に近い港で陸揚げして配送することが可能で
ある。そうすることで、国内輸送コストを安く抑えることを可能としている。釜山港では、検品
やラベルの貼り付け、仕分けなど流通加工を行う。釜山港を利用する利点は、保税が認められて
いる経済自由区域内にストックポイントを置くため、不用なものは無税のまま生産地である中国
へ返送することができる点にある。
このようなシステムを活用することで、釜山港との定期航路を有効に利用ことができる。また九
州においても、アジアとの航路をもつ博多港や北九州港を活用して九州にも同様のストックポイ
ントを置くことが考えられよう。九州にストックポイントを置くことで、緊急時のデリバリーに
も陸送で素早く対応することが可能となるため、釜山港にはない新しいメリットを生み出すこと
にもつながる。
図表Ⅳ−5−6 釜山港の利用した日本向けロジスティクスシステム
注)J&K ロジスティクス㈱が全体のシステムを運営する
資料)日経産業新聞(2002.5.9)およびヒアリングにより作成
108
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
港湾間の交流協定による協力体制の構築
貨物の集荷にあたって、港湾間の競争が激しくなる中で、港湾間で交流協定を締結することで
相互の協力体制を構築し、ともに集荷につとめることも必要であろう。
こうした事例として、2004 年 11 月に北九州港と仁川港の間で交流協定が締結された。2005 年
4月にひびきコンテナターミナルが開港することにあわせて、相互に優遇措置や港湾の利用促進
に向けた施策を開始する。両港と中国・大連港は、港湾運営を PSA 社(シンガポール)に依頼
しており、3 港湾をあわせた「トライアングル・ネットワーク」にて 3 港への貨物の集中を図っ
ていく。
具体的な施策として、入港料や岸壁使用料の減免、物流企業に対するセミナーやフォーラムの
共同開催、北九州市、仁川市を拠点とする物流関連企業が相手側都市に進出する際の行政による
積極的な支援などを行う。さらに港湾のみならず、2006 年 3 月開港の新北九州空港と仁川国際
空港の路線開設でも相互に協力体制をとる。
仁川は日韓海峡圏には属しないものの、交流協定の具体的な優遇策等は、日韓海峡圏内の港湾に
も適用できよう。実際、日韓海峡圏内に位置する北九州市、福岡市、下関市、釜山市、蔚山市の
ほか、仁川市、大連市、天津市、青島市、煙台市の 10 都市では、東アジア経済交流推進機構を
立ち上げ、その中の主要な施策として港湾使用料の引き下げや通関手続きの簡素化を挙げている。
物流の促進に向けた連携は、日韓海峡圏内でも始まっており、このような相互の協力体制を徐々
に拡大していくことが必要である。
貿易促進地域間の連携
日韓海峡圏内での物流の利便性を高めることで、活発なモノの移動のみならず企業を誘致して
いく戦略も必要と考えられる。
九州には、
「福岡アジアビジネス特区」や「北九州市国際物流特区」といった国際関係の構造改
革特区が、韓国には経済自由区域という貿易促進地域がある。これらの貿易促進地域間の連携を
図ることで、例えば日本へ進出を考えている韓国企業を九州の特区に誘致することが考えられる。
九州の経済規模は、日本国内の約1割と、テストマーケットに適した規模であり、日本市場へ進
出する外国企業の最初の拠点にふさわしい地域である。逆に韓国へ投資を希望する日本企業や海
外の企業を経済自由区域へ誘致するなど、日韓海峡圏内での投資を活発にしていく。そのための
情報交換や情報の共有を図っていく。
優遇措置では、韓国の経済自由区域において、賃料を坪単価 45 円/年にするなど大胆な優遇措
置が講じられている。九州にはそのような優遇措置はないものの、日韓海峡圏内からの企業進出
については、
「特恵優遇措置」の導入を視野に入れることも必要であろう。
109
6.情報サービス産業
(1)九州における情報サービス産業の概況
九州における情報サービス産業の現状
「特定サービス実態調査」によれば、日本の情報サービス業は 2002 年時点で事業所数 6,728
所、従業者数 492,382 人、年間売上高 13 兆 857 億円となっており、10 年間で事業所数は 18.8%、
従業者数 20.0%、売上高は 114.5%の増加となっている。一方、九州・山口では、2002 年時
点で事業所数 664 所、従業者数 27,042 人、売上高 5,101 億円であり、増加率では事業所数 33.6%、
従業者数 14.3%、年間売上高 98.9%と全国には及ばないものの高い成長率を維持している。
シェアで見れば九州・山口は、事業所数で 8.7%、従業者数 5.1%、売上高でも 3.7%を占める
に過ぎない(図表Ⅳ−6−1、2)
。
九州には多数の半導体関連企業が集積しており、日本の半導体産業において重要な役割を担
っているが、IT 産業のもう 1 つの柱である情報サービス業については、九州のポジションは低
いといわざるを得ない状況にある。これは情報サービス産業が大都市に集中する傾向があるこ
とが大きな要因となっている。
図表Ⅳ−6−1
情報サービス産業の動向(九州・山口、全国)
九州山口
事業所
(所)
日本
従業者数
売上高
事業所
従業者数
売上高
(人)
(百万円)
(所)
(人)
(百万円)
1993年
497
23,652
256,527
6,432
445,662
6,514,358
1994年
473
22,469
255,300
5,982
424,867
6,177,007
1995年
467
22,452
271,076
5,812
407,396
6,362,183
1996年
474
21,323
273,633
6,297
417,087
7,143,543
1997年
468
21,134
278,807
6,092
426,935
7,587,959
1998年
633
28,551
388,255
8,248
535,837
9,800,606
1999年
623
28,344
408,390
7,957
534,751
10,151,890
2000年
598
26,519
441,387
7,554
515,462
10,722,844
2001年
662
26,452
491,832
7,830
526,318
13,703,868
2002年
664
27,042
510,173
7,644
534,731
13,973,141
1993-2002
増加率 (%)
33.6
14.3
98.9
18.8
20.0
114.5
資料)経済産業省「特定サービス産業実態調査報告書:情報サービス業編」
大都市圏に集中する情報サービス産業
情報サービス産業の地域別構成比をみると 2002 年の時点で、首都圏は、事業所数の 40.6%、
従業者数の 61.7%、売上高の 70.1%を占めている。このような情報サービス産業の首都圏集
中の要因は、その市場が首都圏に集中していることにある(図表Ⅳ−6−2)。
情報サービス産業の契約先産業別売上高をみると、九州・山口と首都圏で大きく異なる点は、
首都圏では金融・保険の比率が非常に高く、一方、九州・山口では同業者の比率が高いことで
ある。一般に、金融業や保険業は情報技術との親和性が高く、また、大企業になるほど情報シ
110
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
ステムに対する投資規模が大きい。したがって、情報システムに大規模投資する金融保険業の
本社が立地する首都圏が情報サービス業の最大の市場となっている。一方、九州・山口のよう
な地方圏では、首都圏のような大規模情報システムに対する投資を期待することはできない。
九州の情報サービス企業の最大の顧客は同業者となっているが、これは、九州の情報サービス
企業が、首都圏等より需要が多い地域企業の下請業務を多く行っていることを示していると思
われる(図表Ⅳ−6−3)。
図表Ⅳ−6−2
0%
10%
8.7
事業所
20%
情報サービス産業の地域的分布 (2002 年)
30%
40%
50%
60%
70%
40.6
80%
100%
50.7
首都圏
九州山口
その他
61.7
従業者数
90%
33.2
5.1
70.1
売上高
26.3
3.7
注)首都圏は、東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県
資料)経済産業省「特定サービス産業実態調査報告書:情報サービス業編」
図表Ⅳ−6−3
契約先産業別の情報サービス産業の売上高 (2002)
九州山口
(百万)
首都圏
日本
(%)
(百万)
(%)
(百万)
(%)
製造業
90,215
(17.7)
1,999,038
(20.4)
3,016,050
(21.6)
卸小売業
35,915
(7.0)
880,336
(9.0)
1,391,832
(10.0)
6,648
(1.3)
206,771
(2.1)
259,337
(1.9)
43,440
(8.5)
2,088,160
(21.3)
2,495,889
(17.9)
建設業
金融・保険
輸送・通信
16,959
(3.3)
806,740
(8.2)
1,019,330
(7.3)
電気・ガス・水道
30,533
(6.0)
281,279
(2.9)
470,382
(3.4)
その他のサービス
37,746
(7.4)
791,108
(8.1)
1,094,693
(7.8)
公務
76,159
(14.9)
981,974
(10.0)
1,458,179
(10.4)
同業者
113,556
(22.3)
1,259,466
(12.9)
2,008,459
(14.4)
その他
59,000
(11.6)
494,100
(5.0)
759,021
(5.4)
計
510,173 (100.0)
9,788,972 (100.0)
13,973,172 (100.0)
資料)経済産業省「特定サービス産業実態調査報告書:情報サービス業編」
急成長する九州・山口のソフトウェア産業
九州における情報サービス業を業種別に見ると、2002 年の構成比では、ソフトウェアが事
業所数の 62.8%、従業員数の 73.8%、売上高の 75.8%を占めており、また、1997 年と比べて
各項目においてソフトウェアが占める割合が拡大している。寄与率をみても、ソフトウェアが
他の業種より大きな比率を占めており、この 10 年間の九州・山口の情報サービス産業の成長
は、主にソフトウェア業の拡大によるものであることがわかる(図表Ⅳ−6−4)。
111
図表Ⅳ−6−4
九州・山口における情報サービス産業の製品別構成比
1993
事業所
従業者数
売上高
(百万)
ソフトウェア
情報処理サービス
データベースサービス
その他の情報サービス
計
ソフトウェア
情報処理サービス
データベースサービス
その他の情報サービス
計
ソフトウェア
情報処理サービス
データベースサービス
その他の情報サービス
計
297
130
7
63
497
15,228
5,543
44
2,327
23,142
165,910
57,906
1,156
24,683
249,655
2002
(%)
(59.8)
(26.2)
(1.4)
(12.7)
(100.0)
(65.8)
(24.0)
(0.2)
(10.1)
(100.0)
(66.5)
(23.2)
(0.5)
(9.9)
(100.0)
417
159
7
81
664
19,229
4,316
154
2,358
26,057
379,838
71,495
4,038
45,564
500,935
寄与率
(%)
(%)
(62.8)
(23.9)
(1.1)
(12.2)
(100.0)
(73.8)
(16.6)
(0.6)
(9.0)
(100.0)
(75.8)
(14.3)
(0.8)
(9.1)
(100.0)
71.9
17.4
0.0
10.8
100.0
137.3
-42.1
3.8
1.1
100.0
85.1
5.4
1.1
8.3
100.0
資料)経済産業省「特定サービス産業実態調査報告書:情報サービス業編」
ソフトウェア産業を製品別にみると、2002 年時点の構成比では、システム・インテグレー
ション(SI)を中心とする受注ソフトウェアが約 90%を占めている。その一方で、ソフトウ
ェアプロダクトも急速に増加し、構成比で 1993 年の 10.0%から、2002 年には 19.0%に拡大
している。この 10 年間で九州・山口のソフトウェア産業の売上高は約 2 倍になったが、寄与率
では、受注ソフトウェアが 72.9%、ソフトウェア製品が 27.1%となっており、ソフトウェア製
品が急成長していることがわかる(図表Ⅳ−6−5)。
図表Ⅳ−6−5
九州・山口におけるソフトウェア産業の製品別売上高
1993
(百万)
受注ソフトウェア
ソフトウェアプロダクト
2002
(%)
寄与税
(%)
(%)
140,841
(90.0)
268,437
(81.0)
72.9
15,701
(10.0)
63,117
(19.0)
27.1
56,999
(17.2)
22
(0.0)
アプリケーション
ゲーム
OS
計
(百万)
156,542
(100.0)
6,095
(1.8)
331,554
(100.0)
100.0
資料)経済産業省「特定サービス産業実態調査報告書:情報サービス業編」
ソフトウェア産業の振興に注力する福岡市
九州・山口のなかでも福岡市はソフトウェア産業の育成に力を入れており、福岡市西部にあ
る「福岡ソフトリサーチパーク」地区(6.3ha)には、富士通九州 R&D センター、日立九州
ビル、NEC 九州システムセンター、松下電器九州マルチメディアセンターなど、日本を代表
する企業のソフトウェア開発センターが立地している。リサーチパーク全体では企業数約 110
社、従業者数約 6.500 人が集積している。
また、福岡市には、IT ベンチャー企業のボランティア団体である「D2K」がある。「D2K」
は、
「Digital Daimyo 2000」の略であり、福岡市の大名地区におけるデジタルコンテンツに関
連した IT 企業の活動を振興することを目的として、アーティスト、クリエイター、IT 企業な
どの企業・人材が集まり 1999 年に結成された団体である。D2K では、IT ビジネスセミナー
や事業のプレゼンテーション、情報交換などを行っている。
112
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
(2)韓国における情報サービス産業の現状
成長著しい韓国の情報サービス業
情報サービス産業は韓国においても成長著しい分野である。図表Ⅳ−6−6は韓国のソフト
ウェア産業の生産額の推移を示している。統計の基準が異なるために、韓国の情報サービス産
業を日本や九州と直接比較することは難しいが、韓国の現状を知る上では十分参考になる。
2002 年の時点で、韓国の情報サービス産業の生産額は 1,970 億ウォンとなっており、1996
年の 6 倍以上にまで成長している。2002 年の構成比ではコンピュータ関連システムが 76.7%
を占め、最も生産額が多い。しかしながらデジタルコンテンツ開発サービスは 7.2%と構成比
は低いものの、1996 年の 42 倍と驚異的な速度で成長している。また、いずれの分野においも、
1999 年∼2000 年以降の成長が著しいが、これは韓国政府による情報サービス産業への強力な
支援策が背景にあるといわれている。
図表Ⅳ−6−6 韓国における情報サービス産業の生産額の推移
(単位:100 万ウォン、%)
ソフトウェア
コンピュータ関連
システム
計
コンピュータ関連
システム
デジタルコンテンツ データベース提供
開発サービス
サービス
1996
26,696
9,877
16,093
326
400
1997
35,034
12,606
21,462
358
608
1998
46,834
12,594
33,361
449
430
1999
64,986
13,204
50,168
1,239
375
2000
107,316
21,919
81,486
2,950
961
2001
147,268
34,892
103,952
7,298
1,126
2002
197,000
30,637
151,134
14,118
1,111
100.0
15.6
76.7
7.2
0.6
4,230.7
177.8
2002 構成比
1996-2002
637.9
210.2
839.1
寄与率
資料)Korea Association of Information & Telecommunication
「Statistical Yearbook of Information & Communication Industry」
IMF 危機を契機とした韓国情報サービス業の発展
韓国では 1998 年の通貨危機後に、抜本的な経済構造改革に取り掛かった。1999 年には「サ
イバーコリア 21」計画を策定し、2002 年までに IT 先進国の基礎を築くという目標を立て、
ベンチャー企業への支援など、情報サービス産業、なかでもソフトウェア産業の育成に積極的
に取り組んできた。これにより、韓国ではインターネット基盤が整備され、ユーザーベースで
は世界で最もインターネットの普及が進んだ国の 1 つとなり、インターネット用のソフトウェ
アやゲーム、ネットワーク関連の情報サービスが急速に拡大した。
また、韓国のソフトウェア企業が急速に増加した大きな要因として、通貨危機の際に韓国の
大企業で大規模なリストラが行われ、優秀な若手社員・研究者が多く退職した際に、政府によ
る情報サービス産業への支援を活用して、IT 系のベンチャー企業を設立したことにあるといわ
れている。
113
ソウル首都圏に集中する韓国情報サービス産業
図表Ⅳ−6−7は韓国における情報サービス事業所の分布を示している。日本と同様に韓国
でも情報サービス業は大都市圏、なかでもソウルに集中している。2002 年時点で、パッケー
ジ・ソフトウェアの 60.2%、コンピュータ関連サービスの 65.5%、コンテンツ開発・サービ
スの 65.5%がソウルに立地しており、韓国南部は各項目で 20%以下を占めるに過ぎない。日
本と同様、韓国においても情報サービス産業のなかで、システム・マネージメント(SI)など
のコンピュータ関連サービスの占める割合が高く、情報サービス産業の 8 割を占める SI 企業
は、顧客である大企業の本社の近くに立地する必要があり、このことが大企業の本社が集中す
るソウルに情報サービス企業が集中する要因となっている。
図表Ⅳ−6−7
韓国における情報サービス事業所の分布(2002 年)
(単位:所、%)
計
ソウル
京畿
忠清
慶尚
全羅
江原/済州
パッケージソフトウェア
5,895
60.2
8.2
7.6
16.0
6.3
1.6
ソフトウェアシステム
1,935
57.5
8.9
9.7
12.4
9.5
2.0
ソフトウェア開発
811
59.3
9.1
8.5
13.6
6.9
2.6
アプリケーション
2,919
60.2
8.2
7.6
16.0
6.3
1.6
その他
230
65.7
6.5
9.6
10.9
6.1
1.3
4,900
65.8
7.5
6.3
13.1
5.6
1.8
3,979
66.4
7.7
6.2
12.6
5.2
1.8
843
62.4
6.8
6.6
14.8
7.4
2.0
78
69.2
2.6
5.1
17.9
5.1
1,277
65.5
6.5
7.3
11.2
7.0
2.4
ゲーム
352
80.7
1.7
4.0
6.8
3.4
3.4
教育
359
55.4
9.2
9.5
14.2
10.3
1.4
ライフカルチャー情報コンテンツ
292
71.9
4.5
6.8
9.9
4.1
2.7
コンピュータ関連システム
システムインテグレーション
システムマネージメント
IT 教育
コンテンツ開発・サービス
-
デジタル出版
70
51.4
12.9
10.0
15.7
8.6
1.4
デジタル映像
204
52.9
10.8
8.8
13.7
11.3
2.5
組込みソフトウェア
140
52.9
18.6
12.9
12.1
2.1
1.4
22
72.7
4.5
18.2
253
54.5
9.9
8.3
13.8
コンポーネント
データベース提供サービス
-
4.5
11.5
2.0
事 事業所数
12,487
7791
999
945
1679
835
238
構成比
100.0
62.4
8.0
7.6
13.5
6.7
1.9
資料)Korea IT Industry Promotion Agency
(3)ソフトウェア貿易と海外へのアウトソーシング
日本のソフトウェア貿易は大幅な輸入超過
情報サービス産業における国際取引については、物財における貿易統計のような詳細な資料
がなく動向を把握することは難しいが、ここでは、
(社)電子情報技術産業協会(JEITA:Japan
Electronics and Information Technology Industries Association)の統計資料をもとに、日本
のソフトウェア産業の貿易動向と海外への業務委託の状況についてみていく。
日本のゲームを除いたソフトウェア貿易の動向をみると、ソフトウェアの貿易は輸出・輸入
ともに拡大傾向にあるが、2000 年時点における輸入額は 9,188 億円、輸出額は 89 億円となっ
ており、大幅な輸入超過となっている。パーソナル・コンピュータ用の基本ソフトやアプリケ
114
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
ーション・ソフトの多くがアメリカ製であることを考慮すると、ソフトウェア貿易が輸入超過
となることはある意味当然といえる。また、ソフトウェアの種類ごとの貿易額をみると、輸入
においては、カスタム、アプリケーション、ベーシックのいずれにも増加しているが、とくに
カスタム・ソフトウェアにおける増加が著しい(図表Ⅳ−6−8、9)。
図表Ⅳ−6−8 日本のソフトウェア貿易の動向(ゲーム除く)
(百万円)
1,000,000
918,860
900,000
輸入
輸出
800,000
720,104
700,000
595,165
600,000
474,913
500,000
400,000
392,576
393,540
300,000
200,000
100,000
3,931
5,679
9,292
8,752
2,812
8,981
0
1995
1996
1997
1998
1999
2000
資料)JEITA「ソフトウェア輸出入統計調査」
図表Ⅳ−6−9 日本の製品別ソフトウェア貿易(ゲーム除く)
≪輸入≫
≪輸出≫
(百万円)
1,000,000
900,000
800,000
(百万円)
10,000
カ スタム・ソフトウェ ア
アプ リケーショ ン ・ソフト
ウェ ア
ベーシック・ソフトウェ ア
9,000
8,000
273,977
700,000
7,000
600,000
6,000
297,514
500,000
400,000
33,917
300,000
120,068
200,000
100,000
カ スタム・ソフトウェ ア
アプ リケーショ ン ・ソフト
ウェ ア
ベーシック・ソフトウェ ア
359
5,177
5,000
4,000
3,000
431
1,030
2,000
347,369
238,591
1,000
0
3,445
2,470
0
1995
2000
1995
2000
資料)JEITA「ソフトウェア輸出入統計調査」
低賃金国へのソフトウェア外注の拡大
情報サービス産業の中でもソフトウェア産業は、典型的な労働集約的産業であり、ソフトウ
ェアの生産量を拡大するためには、人員の増加を行う必要がある。しかし、ある程度のソフト
ウェアの技能をもった人員の増加をすぐに行うことは難しいことから、自社の人員で処理でき
る以上の受注がある場合には、同業他社に業務の一部を委託することになる。情報サービス産
業において、労働者派遣や同業者間での取引が多いのは、このようなことが理由となっている。
115
また、労働集約的産業であるソフトウェア産業では、生産費用のほとんどが人件費によって
占められる。したがってコスト削減のためには、賃金水準を引き下げることが最大の方法とな
る。そのためソフトウェア産業では、賃金水準の低い地域や海外への外注が広く行われている。
カスタム・ソフトウェアの輸入の増加は、受注ソフトウェアの生産コスト削減を目的とした
海外の企業への業務委託が広範に行われていることを示している。
図表Ⅳ−6−10 は、ソフトウェア企業の海外業務委託先についてのアンケート結果である。
これをみると、委託先としては圧倒的に中国が多く、次にインド、韓国、ベトナムの順となっ
ている。韓国は日本よりは賃金水準は低いが、中国、インドと比較すると賃金水準は十分に高
い。したがって、賃金水準が直接生産コストに反映するソフトウェア産業においては、韓国よ
りも、より賃金水準の低い中国、インドへの外部委託が有利となっていることがうかがえる。
図表Ⅳ−6−10 情報サービス産業の国別アウトソーシング先
0
20
40
60
中国
88.1
19.0
韓国
8.3
ベトナム
4.8
フィリピン
台湾
アメリカ
シンガポール
3.6
3.6
2.4
2.4
カナダ
1.2
イスラエル
1.2
タイ
1.2
マレーシア
0.0
インドネシア
0.0
ロシア
0.0
オーストラリア
0.0
その他
100 (%)
33.3
インド
EU
80
2.4
N=84
資料)情報サービス産業協会「情報サービス産業白書 2004」
(4)九州と韓国の情報サービス産業における連携の可能性
日韓での連携可能性が高いのはパッケージ・ソフトウェア開発
日本と韓国の情報サービス産業の現状をみると、業種としては両国ともにシステム・インテ
グレーションの占める比率が高く、これらの企業は需要先である大企業本社が立地する首都圏
に圧倒的に集中しており、九州も韓国南部も情報サービス産業の集積は少ない。また、中国や
インドと比較すると比較的賃金水準が高い韓国への業務委託はコスト面から実現は難しい。従
って、システム・インテグレーションなどの受注ソフトウェアの分野においては日本と韓国、
九州と韓国南部との連携は難しいと思われる。
しかしながら、九州と韓国南部においては、規模はまだ大きくないが、パッケージ・ソフト
ウェアやデジタルコンテンツが急速に伸びてきている。この分野においては、すでに韓国との
連携を行っている事例もあり、日本と韓国の連携の可能性は高いと思われる。
116
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
韓国産ソフトを輸入・販売する北九州市のベンチャー企業
北九州市にあるベンチャー企業、㈲ランテックソフトウェアーは、韓国のベンチャー企業と
提携して、韓国のベンチャー企業が開発したアプリケーションソフトウェアを日本国内で販売
している。また、同じく北九州市にある㈱エーエスエー・システムズは、工作機械用制御ソフ
トウェアを韓国のベンチャー企業と提携して、韓国で販売している。また、別の韓国のベンチ
ャー企業のソフトウェアを日本で販売する契約を結んでいる。
日韓双方にメリットのあるソフトウェアの販売提携
韓国のベンチャー企業がもつソフトウェアの技術レベルは高く、なかでもインターネット関
連のソフトウェアは日本よりも優れているものが多い。韓国では IMF 危機以降、政府による
支援もあって、IT ベンチャーが多数出現した。これらのベンチャー企業は優秀なソフトウェア
を開発しているが、販売の段階において困難に直面している。もともと韓国は市場が小さく、
また経済的不況もあって市場は停滞している。つまり韓国のソフトウェア・ベンチャー企業は
優秀なソフトウェアをもっているが販売先がない状況にある。
日本は韓国と比べて市場規模が大きいが、韓国のベンチャー企業が日本でコンシューマー向
けソフトウェアを販売するのは、日本でのサポート体制の構築など様々な困難がある。
北九州の事例は、韓国のベンチャー企業から完成品のソフトウェアを購入、ローカライズを
施し、自社のサポート体制を流用して日本で販売するというものである。コンシューマー向け
ソフトウェアは、販売してみなければ売れるかどうか分からないという不確実性があり、ヒッ
トすれば莫大な利益が期待できるが、そうでなければ開発費用の回収も困難になる。日本側に
とっては、韓国から開発済みのソフトウェアを購入することは開発に関わるコスト回収リスク
を低減させ、韓国側にとっては、低コストで日本市場に進出でき、開発費用の一部を回収でき
るということで双方にメリットがある。
九州と韓国とのソフトウェア業の連携可能性
2004 年、北九州市では、㈲ランテックソフトウェアーが中心となって、IT ベンチャーの団
体である「北九州国際 IT ビジネス推進会」が結成された。同会は北九州の IT ベンチャー間で
の情報交換と、海外企業との共同プロジェクトや個別企業同士の連携を支援することを目的と
して活動している。また、韓国でもソフトウェア産業における九州との連携を模索しており、
2003 年には韓国のソフトウェア企業団体が福岡にミッションを派遣している。
情報サービス業における九州と韓国の連携は、現時点では、販売提携が望ましい。情報サー
ビス業においては、日本と韓国の間に他の製造業のような大きな技術格差は存在しない。日韓
FTA が締結されても長年の積重ねのなかで形成されてきた各国の商慣習がすぐに統一される
わけではない。商慣習は日本も韓国も特殊であり、日韓 FTA を契機とした市場拡大を達成す
るためには、販売提携がポイントになると考えられる。
注)システム・インテグレーション(SI):ユーザーの業務内容に応じて、ソフトウェアの開発や、コンピ
ュータによるシステムの設計、開発、統合を行う業務。1990 年代以降、世界的に企業の情報化投資が
積極的に行われるようになり、SI 企業が急速に増加し、今や情報サービス産業の中核を担う部門となっ
ている。
117
7.観光産業
(1)九州から韓国への観光客の動向
増加する韓国への出国者数
九州から韓国への出国者数は徐々に増加している。1990 年には 18 万 2 千人だったが、1999
年には 30 万人を超え(30 万4千人)、2000 年には 34 万9千人となった。全出国者に占める
割合は、1991 年に 29.8%と 1990 年以降では最も高かったが、その後は次第に低下し、1996
年には 18.7%と 2 割を下回った。その後は再び上昇して 2000 年には 27.8%となった(図表Ⅰ
−7−1)。
統計の制約上、データは 2000 年までしか取得できないが、その後の韓国への出国者数と全
出国者に占める割合は、さらに伸びていると思われる。それを裏付けるデータとして、九州旅
客鉄道㈱(JR 九州)の博多港∼釜山港を結ぶ高速船「ビートル」の利用客は、年々増加して
いる。2004 年(暦年)には、34 万 7,840 人に達した(図表Ⅰ−7−2)
。このうち日本人の乗
降比率 66.7%を占め、韓国人は 31.6%を占めた(2004 年実績)。また、2004 年度上半期(4
∼9月)の、博多・小倉・下関∼韓国の旅客航路の輸送実績は、前年同期比 41.2%増の 45 万
6千人と、上半期の輸送人員として過去最高に達している(九州運輸局まとめ)
。
これらの背景として、1つは、2000 年以降、文化面を中心に韓国に対する関心が高まってい
ることが挙げられる。とくに、映画やテレビドラマ等を通じて理解が深まり、韓国の文化を肌
で感じようとする日本人が、数多く韓国旅行に出かけている。2004 年には「韓流ブーム」と
いう言葉が生まれるほど韓国への関心が高まった年であった。とりわけ九州は地理的に近く、
「安・近・短」の旅行先として韓国旅行が定着しつつある。
もう1つは、航路・航空ネットワークの充実が挙げられる。2000 年以降、アシアナ航空㈱宮
崎∼ソウル線(2001 年4月就航)、未来高速㈱博多∼釜山航路(2002 年2月就航)
、武星海運
㈱小倉∼蔚山航路(2002 年4月就航。2004 年 2 月以降運休)
、同小倉∼釜山航路(2003 年4
月就航。2004 年9月以降運休)、アシアナ航空㈱熊本∼ソウル線(2003 年9月就航)が新た
に開設している。この他にも、JR 九州と未来高速㈱において高速旅客船の増配や、カメリア
ライン㈱においてフェリーの代替建造が行われるなど、九州∼韓国間での輸送力の向上が顕著
であった。
こうしたことから現在も韓国への出国者数は増加傾向にあることが推測されよう。
118
第Ⅳ章
図表Ⅳ−7−1
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
韓国への出国日本人数の推移
(千人)
(%)
500
35.0
全出国者に占める割合
29.8
27.3
400
24.0
26.5
26.1
25.5
20.9
300
18.7
韓国への出国者数
200
182
202
235
25.0 全
出
国
20.0 者
に
占
15.0
め
る
10.0 割
合
304
282
231
231
207
208
182
30.0
27.8
349
22.2
韓
国
へ
の
出
国
者
数
26.7
100
5.0
0
1990
91
92
93
94
95
96
97
98
99
0.0
2000 (年)
注)2001 年より日本人出国者の訪問国統計資料廃止のため、2001 年以降は不明
資料)総務省「出入国管理統計」
図表Ⅳ−7−2
JR 九州「ビートル」の乗降客数の推移
(千人)
400
348
300
299
304
310
01
02
03
04
(年度) 1∼12
4隻運行
体制
240
213
200
174
87
100
45
44
1991
92
101
115
132
60
0
93
94
95
96
97
98
99
2000
2隻運行
体制
1隻運行
体制
3隻運行
体制
資料)JR 九州「JR 九州の現状」
(2)韓国人観光客の動向
増加する九州への韓国人観光客
九州を訪れる韓国人観光客は 1997 年のアジア通貨危機により 1998 年は大幅に減少したも
のの、1999 年以降は順調に回復し、増加を続けている。2003 年に九州へ入国した韓国人は 29
119
万 6 千人で 1990 年の約 3 倍に達した。
九州へ入国した全外国人に対する韓国人の割合は 65.1%
と6割を超えた(図表Ⅳ−7−3)。
九州は韓国に地理的に近く、訪問しやすいことや、九州各地と仁川国際空港を結ぶ航空ネッ
トワークと、博多港と釜山港を結ぶ旅客航路の便数が増えたことなどが大きな要因である。ま
た日本の大衆文化の韓国内での開放により、韓国において日本文化に対する関心が高まったこ
とや、市民レベルでの交流、観光旅行のテーマが多様化したことなども大きく寄与している。
図表Ⅳ−7−3
(千人)
350
九
州
へ
の
入
国
韓
国
人
数
韓国人の入国者数
(%)
70.0
全入国外国人数に
占める韓国人の割合
300
60.0
250
50.0 占
200
40.0 韓 国
150
め全
る入
九州への
入国韓国人数
国外
30.0 人 国
の人
割に
20.0 合
100
50
10.0
0
1990
91
92
93
94
95
96
97
98
99
2000
01
02
0.0
03 (年)
資料)総務省「出入国管理統計年報」
韓国人にとって入国の窓口となる九州
日本に入国する全韓国人のうち、九州から入国する韓国人の割合も、年々上昇している。1990
年は 10.0%にとどまっていたが、2003 年には 18.3%と、日本を訪問する韓国人の 5.5 人に1
人は九州から入国しており、韓国人にとって九州は日本への入国窓口という位置付けになって
いる(図表Ⅳ−7−4)。
とくに博多港の利用は、2004 年には 65 万9千人と、過去最高であった(図表Ⅳ−7−5)。
このうち韓国人の利用は 45%を占める。博多港は 1993 年以降、外国航路船舶乗降人員数は全
国トップを続けており、この傾向は今後も続くと思われる。
120
第Ⅳ章
図表Ⅳ−7−4
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
九州への入国韓国人の全国比
図表Ⅳ−7−5
博多港外国航路船舶
乗降人員数の推移
(万人)
70
(%)
20.0
65.9
60
50.7
18.3
50
15.0
40.1
40
10.0
10.1
10.0
30
20.2
20
5.0
10
7.6
10.0
1.1
0
0.0
1990
95
2000
2000
03
1990
資料)総務省「出入国管理統計年報」
95
2000
04
04.00
資料)福岡市港湾局調べ
韓国南部からの訪問客が多い九州
九州を訪れる韓国人観光客を居住地域別に見ると、釜山などの韓国南部からの訪問客が多い。
訪日観光旅行を専門に扱い、福岡県夜須町にも韓国人観光客向けにバス会社を設立した韓国の
旅行関連企業・㈱旅行博士によれば、ソウルを含む韓国北部と、釜山を含む韓国南部を比較し
た場合、訪日旅行に占める九州旅行のシェアは、韓国北部が全体の3割であるのに対して、韓
国南部は全体の 7 割を占めるという。
韓国南部における九州観光のシェアが高い理由としては、1 つは、九州との交流の歴史が長
く、住民の中に九州訪問への抵抗感が少ないこと、2 つ目に、時間的・距離的に見て近いこと、
3 つ目に、船舶航路が充実していて航空路線に比べて安いコストで訪日できることを挙げてい
る。つまり安・近・短の旅行先として最適な場所であるという評価である。
(3)韓国人観光客の九州観光の特徴
九州観光の目的は「温泉」「ゴルフ」「ショッピング」「テーマパーク巡り」
韓国南部に限らず韓国人観光客が九州を訪れる理由は、上記の 3 つの理由のほか、火山や温
泉など韓国には少ない景勝地があること、料理がおいしいこと、気候が温暖であることなども
挙げられる。こうしたことを背景に、韓国人観光客は、「温泉」「ゴルフ」「ショッピング」を
ツアーの目玉として九州を訪れる傾向にある。
「温泉」は、九州各地に点在している。別府では韓国人の誘致に早くから取り組んできたが、
近年はこうした韓国人観光客の誘致活動が他地域にも広がっている。菊池温泉では、韓国人の
ノービザ渡航を提案している。「ゴルフ」は、韓国では気候と料金の 2 つの要因から、九州で
プレーする韓国人が増加している。
「温泉」、「ゴルフ」の年齢層は、中高年が中心である。
121
一方、「ショッピング」は若者が中心である。若年層は、福岡市天神の大型商業施設やキャ
ナルシティなどを訪問する。さらに、ハウステンボス、スペースワールド、シーガイアなどの
「テーマパーク巡り」も多い。
平均的な旅程は1泊2日∼2泊3日
九州観光に訪れる韓国人観光客の平均的な旅程は 1 泊 2 日∼2 泊 3 日が中心である。韓国で
も週休 2 日制を導入しているものの、すべての企業に行きわたっているわけではない。日本に
くらべて祝日が少ないこともあり、長期休暇をとって訪れる人はまだ少ない。したがって短い
期間でも訪問できる九州は、安・近・短の旅行先としてふさわしい観光地となっている。
高い九州へのゴルフツアーの人気
韓国人女子プロゴルファーの活躍や経済回復によるレジャーの多様化によって、韓国のゴル
フ熱は急激に高まっている。韓国のゴルフ人口は現在約 350 万人と言われる(日本は、約 1,200
万人)。5年前は約 150 万人と言われており、わずかな期間で2倍以上となっている。
ゴルフ場は、約 200 コースあり、これも5年前(95 コース)と比較して急増している。そ
れにともない国内のゴルフ場の会員権の高騰、ならびに会員数の増加によるプレーの制限など、
国内でプレーする環境は悪化している。
こうした弊害が韓国内でおきているため、多くの韓国人ゴルファーは海外にプレーの場を求
めている。目的地は、日本・台湾・中国・フィリピン・タイ・マレーシアなどに広がっている。
とくに九州は、冬でも比較的温暖なこと、冬期も営業できること、プレー料金が全国平均に比
べて安いこと、周辺に温泉や観光地があり、手軽な異文化体験も可能であることからゴルフツ
アー先としては人気が高い。
韓国人ゴルファーはツアー料金の安さを求めるタイプと、ツアー料金が高くても知名度のあ
るゴルフ場でのプレーを求めるタイプの 2 つに分かれるが、両者とも 1 ヵ所のゴルフ場だけで
プレーするのでなく、一回のツアーで複数のゴルフ場でプレーすることを求めるゴルファーが
多い。
九州で韓国人ゴルファーに人気のある地域は大分、宮崎、熊本県などである。人気の背景は、
自治体やゴルフ場が長年にわたり誘致活動を行ってきたこと、温泉や景勝地などゴルフ場以外
の観光施設が充実していること、ホテルや旅館などの宿泊施設と受入れ体制が充実しているこ
となどが挙げられる。
受入れ先のゴルフ場でも韓国人ゴルファーの増加を受けて、ハングルによる案内表記の整備
や韓国のゴルフ場との提携、複数のゴルフ場間を結ぶシャトルバスの運行などのサービスを行
ない、リピーターの確保と新規訪問客の増加を狙っている。
韓国企業による九州のゴルフ場の買収
韓国人ゴルファーの増加にあわせて、韓国資本による九州のゴルフ場買収の例もある(図表
Ⅳ−7−6)。ゴルフ用品商社である韓国産業洋行は、
「福岡レイクサイドカントリークラブ」
(福
岡県穂波町)、「ペニンシュラオーナーズゴルフクラブ」(長崎県琴海町)を買収した。㈱本間
122
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
ゴルフは阿蘇高森ゴルフ倶楽部を韓国本間製品の独占販売代理店系列の会社に売却している。
買収対象としているゴルフ場は、都市部からのアクセスが良好なこと、ゴルフ場付近の空港
に韓国便があること、韓国からのゴルファーが最も多い秋冬の6ヵ月間にプレーが可能なこと、
韓国から比較的近いことである。これらの条件に九州の多くのゴルフ場は合致しており、さら
に九州のゴルフ場は、人口に比べてゴルフ場の数が少なく、1 つのゴルフ場に比較的多くの集
客があり、採算性を確保し経営を健全化しやすいといったことが挙げられる。
また宮崎カントリークラブでは、2003 年 5 月に韓国のアシアナカントリークラブと姉妹ク
ラブ盟約を交わし、それぞれのメンバーに対して、提携先ゴルフ場を自社メンバー料金で利用
できるサービスを行っている。アシアナカントリークラブが位置する錦湖グループの中核会社
であるアシアナ航空㈱が宮崎空港∼仁川国際空港間に航空路線をもち、この集客に貢献してい
る一方、宮崎カントリークラブでは、韓国の旅行代理店に営業を行なった際に、知名度が以前
よりも増したという効果を生んでいる。新聞やネット上で「アシアナ CC と姉妹クラブ盟約を
結んでいる、日本の名門クラブ宮崎カントリークラブでプレーができる」といった宣伝文句を
使えるようになったのは、姉妹クラブ盟約締結による効果である。
図表Ⅳ−7−6
韓国企業による九州のゴルフ場の買収先と提携先
資料)新聞記事、ヒアリング
123
日本とは異なる韓国の修学旅行の実態
2004 年 3 月より日本を訪問する修学旅行生に対してノービザ入国が認められた。韓国の修
学旅行は日本と異なり、複数校の希望者が合同で行く「研修旅行」としての特徴をもつ。その
ため目的地や訪問先での行動も「異文化交流のできる受け入れ態勢がある」「安価で大量の宿
泊にも対応できる受け入れ態勢がある」「歴史や文化教育のできる目的地がある」を基準に決
められることが多く、物見遊山的な要素は小さい。そのため受け入れ側の自治体や学校との協
力関係の有無がコース設定において重要な役割を果たしている。
韓国の海外修学旅行の予算は一人当たり 32 万∼34 万ウォン
韓国の海外修学旅行の一人当たりの予算は 32∼34 万ウォン(約3万2千∼3万4千円)で
ある。韓国内の修学旅行(16∼17 万ウォン。約1万6千∼1万7千円)と比較して約2倍で
ある。このため予算的制約の関係で、目的地は近隣の日本か中国を選択するケースが多い。学
校長の間ではアジアの先進国であり、異文化交流体験の受け入れ先も整っているため、日本向
けの修学旅行を希望する意見が多いが、学生やその保護者は航空機を利用でき、今後アジアで
の地位が向上する中国を希望する意見が多いという。
(4)九州における韓国人観光客の集客戦略
期待される韓国からの集客
増加する韓国人観光客は、入込客の減少に悩む九州の各観光地にとって活性化の起爆剤とし
て期待されており、各地で集客増に向けた取り組みが行われている。
具体的には、韓国内における観光物産展への出展、旅行事業者に対するセールス、韓国語版
ウェブサイトの開設、観光地内でのハングル表記の設置、語学要員として韓国人留学生の雇用
等である。九州では大分県別府市などが、早くから韓国人観光客の誘致に取り組んでおり、別
府市は温泉観光都市として韓国においても知名度は高い。
また九州のテーマパークは各地とも開設以来、アジア周辺国からのインバウンド客(海外か
らの訪日客)の獲得に努めており、韓国人観光客の誘致にも積極的である。
ハウステンボス㈱では 1992 年の開園当初から、韓国をはじめ東アジアでの宣伝・営業活動
を行っており、現地旅行代理店との共同広告によるツアー募集を展開している。通貨危機以前
は、韓国内のエージェントとの連携や販売代理店が未整備だったが、アジア通貨危機以後は韓
国からの入園者が増加し、現在、海外からの入込客のうち、最も多いのは韓国からとなってい
る。2003 年度は入園外国人の約半数にあたる 10 万 7,500 人に達した。同社の集客戦略は、月
に 1∼2 回営業スタッフを韓国に派遣して、旅行代理店廻りや新商品、イベントの売り込みを
行っている。また韓国の代理店に協賛金を支払い、共同で新聞広告を出している。エリアはソ
ウル、釜山にとどまらず大田や光州などの主要都市にも及び、需要の掘り起こしに努めている。
㈱ハーモニーランドでは、別府市の温泉やゴルフ場を組みあわせたツアーコースの提案や自
社のキャラクターグッズを使った宣伝・販売促進を行っている。
124
第Ⅳ章
日韓の交流拡大や日韓 FTA が九州の主要産業に与える影響
韓国人観光客拡大のための課題と方策
九州は韓国と地理的に近く、韓国人の旅行形態や嗜好から見ても今後も主要な海外旅行の目
的地として、観光客数は増加すると考えられる。
しかしながら、所得水準の向上やレジャーの多様化、団体ツアーから個人旅行へのシフトは、
韓国人観光客の海外旅行先も広域化させている。とくに日本に比べて滞在費が格段に安い中国
や東南アジアは今後の有力な競合相手となる。
海外のみならず、国内での競争も激しい。ソウル周辺部では、九州よりもむしろ東京、大阪、
北海道へのツアー客が多い。各地にもそれぞれ長所があるが、九州ならではの個性を打ち出す
ことが重要であろう。
まずは、気候が温暖でゴルフ場や温泉、テーマパークが多く、買い物もできるという従来の
九州の強みの他に、韓国人観光客誘致の問題点を明らかにする必要がある。韓国の旅行代理店
や観光客へのヒアリングによると、九州への観光にあたっては次のような課題があると回答し
ている。①観光ビザの取得が煩雑、②観光情報の発信がソウル周辺に偏っている、③インター
ネットにおける情報発信が不十分、④九州と韓国の2国間にまたがる観光素材がない、⑤博多
港到着後からのアクセスが不便等である。
以上の点を踏まえた上で、今後も九州における韓国人観光客を拡大するには、次のような方
策が考えられるだろう。
1)日韓海峡圏に限定した韓国人旅行客へのノービザ実施
2002 年の日韓ワールドカップでは、韓国人旅行者向けにノービザ入国が認められ、その結
果多くの旅行者が日韓海峡圏を往来したが、韓国の旅行者からは観光ビザ取得に際しての煩雑
な事務手続きからノービザを求める声が強くなっている。
そこで将来的なノービザの全面解禁に先駆けて、九州を訪れる観光客を対象に期間と地域を
限定したノービザでの入国が提案されよう。九州では、別府温泉が長年、韓国人観光客を受け
入れてきた実績がある。熊本県菊池市でも、韓国人観光客のノービザでの入国を強く要望して
いる。将来的に見ると、韓国人観光客へのノービザ渡航の許可は時代の要請であると考えられ
るが、全面実施の期間までに九州をノービザ対象地域とすることで、韓国の観光客に「九州=
訪問しやすい観光地」というイメージを植え付けることができる。
2)釜山に「九州観光情報館(仮称)」の設置
現在、九州各県の観光情報はソウルを中心に発信されており、観光イベントなどもソウルを
中心としている。しかし九州への韓国人旅行客は、人口比からみてソウルよりも釜山等韓国南
部地域が相対的に多い。ところが釜山に常設する九州の観光案内所はなく、釜山の観光事業者
からは情報発信不足を指摘する声が多い。
そこで九州各県の観光部門やテーマパークが共同で、釜山広域市中心部に九州の観光情報を
発信する「九州観光情報館(仮称)」を開設・運営することが望まれる。そうすることで、観
光パンフレットの配付や観光 PR ビデオの放送のほか、九州の観光誘致イベントの実施、釜山
周辺の観光業者や学校関係者へのインバウンド誘致の拠点としての活用が期待される。
125
3)九州観光ポータルサイト「九州観光.com(仮称)」の運営
韓国におけるインターネットの普及率は非常に高く、インターネットは韓国社会において不
可欠な社会インフラとして機能している。韓国の旅行代理店も自社サイトの開設やツアーの予
約・販売機能の強化には力を入れている。とくに新興の旅行代理店は、店舗を持たずにローコ
ストでツアー商品の宣伝・販売ができるネット販売を主要な販売ツールとして活用している。
現在、九州の観光情報の発信手段は、新聞広告や TV 番組、各種観光展への出展などが中心
で、インターネット上での情報発信は不足している。そこで九州の観光情報を統合したポータ
ルサイト「九州観光.com(仮称)」を開設し、韓国内のネット上において情報発信を図ること
が必要であろう。こうしたなか、㈱キューデンインフォコムは、韓国から九州への観光・集客
ポータルサイト「九州路(KyushuRo)」を 2004 年 12 月に開設し、韓国人個人旅行者を対象
に、九州の観光情報の提供や宿泊予約などのサポートを開始している。今後は、このようなポ
ータルサイトの内容を拡充し、日本旅行を予定する韓国人の目に触れやすいような環境づくり
を行うことで、韓国人観光客の九州への集客につなげていくことが望まれる。
4)日韓共同観光商品の開発
日韓海峡圏の観光客の動向を見ると、韓国からの訪日観光客は温泉・ゴルフ・アミューズメ
ントパーク訪問を目的としている。一方、日本からの訪韓観光客はグルメ・美容・買い物を訪
問の目的としている。日韓を比較すると、自然・アミューズメント・買い物と訪問目的のバラ
ンスがとれた日本に対して、韓国は自然やアミューズメント施設の開発が不足しており、今後
長期にわたりリピーターを確保していくという観点からは不十分であるといえる。
そこで、日韓の観光事業者が中心となって、日韓海峡を一つのエリアとみなした旅行商品の
開発を行うことが必要であろう。日韓海峡圏で「歴史」
「自然」
「スポーツ」など、それぞれの
テーマで国境を超えた観光コースを設定した旅行商品を作ることで、日韓海峡圏における観光
地の整備と観光客の増加が見込めるようになる。
5)博多、釜山両港から都心部へのアクセス改善
近年、日韓海峡圏での往来の増加には、旅客航路の充実が貢献している。とくに博多∼釜山
間では、JR 九州「ビートル」、未来高速㈱「コビ−」、カメリアライン㈱「カメリアライン」
と、高速船とフェリーが3社就航しており、日韓海峡圏におけるメインルートとなっている。
しかしながら交流人口の拡大に対して、両港の機能や都心部へのアクセスは決して十分とは
言えない。博多港国際ターミナル内には、両替窓口がなく日本に入国した韓国人がウォンから
円へ換金することができない。また郵便ポストの設置もなく、日韓両国の観光客から改善を求
める声があがっている。そのため、日韓海峡圏の九州側の玄関口として、博多港の機能強化が
求められよう。具体的には、まず銀行の窓口を設置し、両替を行えるような環境を整備しなけ
ればならない。また、最近改善されてきたが、ハングル表記の徹底や、都心へ向かうバス等公
共交通機関の利用環境の向上などが挙げられよう。
一方釜山港では、利用客数の増加にあわせて、27 億ウォン(約2億7千万円)をかけて狭小
化した現在のターミナルを改築中である(2005 年9月の完成予定)。
126
第Ⅴ章
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
1.「日韓海峡経済圏」が有するポテンシャル
九州と韓国南部は約 200km の距離しか離れておらず、両地域間の交流は人的交流や物流を
中心に活発化している。日韓 FTA が締結し、今後、日韓海峡圏が世界的な局地経済圏として
発展していくには、次のようなポテンシャルを活かしながら、経済的な一体化をよりいっそう
図っていくことが必要である。
韓国一国を上回る経済規模
九州と韓国南部を合わせた日韓海峡圏の人口は、2,537 万人にのぼり、世界の国・地域と比
較すると、世界 43 位に相当する。域内総生産(GRDP)は 4,597 億ドルで、韓国一国(4,222
億ドル)を上回り、同じく世界 13 位に相当する規模である。局地経済圏としての日韓海峡圏
は、このように大きな市場をもち、世界から投資を呼び込む可能性をもつといえるだろう。
世界的な生産拠点
日韓海峡圏には、高度な技術力をもつ世界的な工場が多数集積している。自動車産業や造船
などの輸送用機械、半導体や家電等の電気電子関連産業、ロボットやメカトロなど一般機械産
業、製鉄などの金属産業である。日韓海峡圏は、このように比較的類似した産業をもち、しか
も日本と韓国で技術レベルが近いため、技術協力や研究開発面で連携を促進し、相乗効果を生
み出すことが期待される。
韓国企業へのアンケートでも、日本企業との協力・連携の形態として、「技術協力」を望む
声が多かった。さらに経済協力が期待される分野でも「自動車・自動車部品産業」という回答
が最も多かった。逆に日本企業へのアンケートでは、「販売、サービス網の利用」が最も多か
った。このように技術を通じた連携を模索し、世界的な生産拠点になると同時に、相互の販売
ネットワークを活用することで世界市場に対して販売力を強化するポテンシャルをもつこと
も可能だろう。
対韓貿易の窓口
九州は地理的に韓国と近く、わが国の韓国貿易の窓口としての機能をもつ。韓国との貿易比
率は、日本全体で輸出が 6.9%、輸入が 4.6%であるのに対し、九州は輸出 14.7%、輸入 11.5%
と相対的に高い。また全国の対韓国貿易のうち、九州(山口を含む)を経由するのは、輸出が
18.9%、輸入が 16.3%を占める。貿易の取引内容では、例えば半導体製造装置のような韓国向
127
け輸出品は、トラックで下関港や博多港へ運送した後フェリーで韓国へ輸送している。韓国か
らの輸入品の中には、輸送時間を短縮するため、海上距離の短い下関港や博多港に陸揚げし、
トラックで国内の目的地へ配送しているものも多い。
日韓 FTA が締結されると、企業間のビジネスネットワークが拡大し、日韓海峡を行き交う
モノの流れもさらに増加するであろう。日韓 FTA のメリットを最も享受できるのは距離的に
近い日韓海峡圏であり、今後ますます交流が盛んになることが期待される。
年間 100 万人を目前とした日韓海峡圏の人的交流
日韓海峡を挟んだ、北部九州(福岡・小倉・下関)と韓国東南部(釜山・蔚山)の間には、
2004 年には 94 万人の往来があった。これは、韓国の TV ドラマや映画、音楽が日本でヒット
し、「韓流ブーム」がおきたこと、また韓国からはゴルフツアーなどが定着しつつあることに
よる側面が大きい。九州の有識者に対するアンケート結果でも、3 人に 1 人は、1 年に 1 回以
上韓国を訪問している。そして韓国での目的地として、釜山・蔚山・慶尚南道を挙げた人は
56.9%であり、ソウル(63.8%)と大きな格差はみられなかった。
2004 年に小倉∼釜山・蔚山間の航路が運休したものの、福岡∼釜山間は、航空機、ジェット
フォイル、フェリーとも便数が増加するなど利便性の向上が進んでいる。今後、韓国での「日
韓友情年 2005」や日韓 FTA の締結が実現すれば、観光、ビジネスでの人の往来はさらに増大
し、経済圏の一体性はますます高まると思われる。
2.「日韓海峡経済圏」が抱える課題
このように日韓海峡圏は世界的な経済規模と産業集積をもち、域内のヒトとモノの交流は活
発に行われている。しかしながら、世界的な局地経済圏へと発展する可能性をもつものの、九
州と韓国南部の企業間の連携は弱く、制度的にも改善する余地は多く残されている。今後、経
済交流や一体的な経済圏の構築に向けて発展していくためには、次のような課題を解決してい
かなくてはならないだろう。
低迷する企業の海外進出
九州から韓国への海外進出件数は、
1994∼2004 年で 24 件であり、進出がない年もみられた。
進出先は、韓国南部が 8 件と、決して活発な企業進出が行われているとはいえない。
逆に韓国企業の九州への進出件数は 20 件あるものの、業種はホテルや旅行業者、航空会社
などに偏り、進出形態も支店や事務所の設置にとどまる。
このように両地域間の企業進出は少なく、今後ビジネス交流の拡大を図ることが必要である。
128
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
少ない企業間の連携
比較的類似した産業構造と技術レベルを有する九州と韓国南部だが、地域内の企業間連携は
少ない。例えば、戦略的提携は、近年、新日本製鐵㈱とポスコ㈱、ソニー㈱と三星電子㈱など
全国的に大企業同士で事例がみられるものの、日韓海峡圏においては、地場企業の企業体力が
比較的弱いこと、中国とのビジネスに関心がもたれていることなどから、あまり行われていな
い。このため提携による分業関係や販売ネットワークの構築がおくれている。もう一つは、九
州と韓国南部がともに、大企業の支店や工場などの集積する地域であることが挙げられる。意
志決定の権限が域外にあることは、日韓海峡圏の企業間交流を限定的なものにしているといえ
よう。企業アンケート調査でも、韓国企業と関係のある九州企業のうち、韓国側のパートナー
のいる地域は、ソウルが 66.7%、釜山及び韓国南部は 30.3%というふうに、ソウルとのつな
がりをもつ企業が多いという結果に表れている。
港湾開発や企業誘致で激化する都市間競争
日韓海峡圏の主要都市の間では、競争が激化している分野もある。例えば港湾開発では、北
九州港、博多港、釜山港、光陽港の各港湾がいずれも環黄海地域や北東アジアのハブポートを
目指して大水深港湾を建設するなど、積極的な港湾開発を行っている。また企業誘致では、韓
国において外国企業を誘致するために、港湾の背後地の産業団地の坪単価を 35 円/年(光陽港)
や 45 円/年(釜山新港)に設定するなど、思い切った優遇措置を設定している。九州では、構
造改革特区による規制緩和を行い、企業誘致を含めた経済の活性化に努めている。
一方、九州内、韓国内でも、企業誘致などで都市間・地域間競争は激化しており、今後、ど
ういう形で役割分担や協調体制を構築していくか、課題となっている。
FTA に対して積極的な九州と慎重な韓国
日韓 FTA に対する意識は、九州と韓国でやや異なる。企業アンケートによれば、日韓 FTA
に対して、九州側は「なるべく早く締結すべき」との回答が半数近く占めるものの、韓国側は
「現時点での締結は時期尚早」との回答が 7 割近くを占め、日韓の考えには温度差が見られた。
具体的にどういう産業において影響があるかについては、九州側は「農業・漁業」で悪い影響
があるとの回答が多かったのに対して、韓国側は、他の産業と比較すると、製造業において悪
影響があるとの回答が目立った(有識者アンケートより)
。
韓国は部品や素材の輸入を日本に大きく依存しているため、両国間の貿易収支は日本の黒字
である。九州と韓国の間でも、九州の韓国からの輸入が横ばいであるのに対し、輸出は機械や
自動車を中心に増加している。こうしたことを背景に、関税の撤廃は韓国への工業製品の一層
の流入を促すとの懸念があり、韓国の自動車部品や機械関連の中小企業において反発がある。
一方、日本側では、海苔の輸入量に対する IQ(輸入割当)枠の設定で韓国から WTO(世界貿
易機関)に提訴されるなど、両国とも一部のセンシティブ分野の取り扱いで結論が出ておらず、
日韓 FTA 交渉を難航させる原因となっている。
129
3.「日韓海峡経済圏」の形成に向けた方向性と方策の提言
日韓海峡経済圏のポテンシャルと課題を踏まえて、今後、日韓海峡経済圏を構築していくた
めには、人的交流と物流のさらなる拡大とともに、ビジネス交流をいかに活性化するかが重要
な鍵を握る。そのためには、まず日韓海峡圏が魅力ある投資先となるようなビジネス環境を形
成することが重要である。次に、域内の交流をさらに活発にしていくために、農業や製造業に
とどまらず、サービス業を含めた産業全体の連携を促進することも重要である。さらに、日韓
海峡経済圏の構築を強力に推進していくために、九州と韓国南部が一体となった体制をつくる
ことも検討しなければならい。以下では、
「日韓海峡経済圏」の形成に向けた3つの方向性と、
具体的な方策を提言する。
(1)一体的なビジネス環境の形成
一体的なビジネス環境の形成に向けては、ヒトとモノの移動を円滑に行う取り組みに主眼を
置いている。具体的にはノービザによって韓国人の訪問を容易にすることや、圏域内における
港湾間の優遇措置の適用などである。通関・検疫手続きの円滑化や知的財産権の保護、基準・
認証制度の標準化や資格の相互認証などは、地域で行うには限界があり実現に向けて国に対し
て働きかけを行っていく必要がある。
○「九州ノービザ特区」の設置
韓国を観光目的で訪問する日本人に対しては、1993 年 8 月以降、30 日以内の滞在であれば
ノービザ(査証免除)での入国を認めている。さらに 2005 年 3 月から 9 月まで、
「韓日友情年」
事業の一環として、渡航期間が 30 日から 90 日へ延長される。
一方、韓国人が日本を訪問する場合は、ビザが必要である(ただし愛知万博が開催される 2005
年 3 月∼9 月に間は、90 日以内のノービザ入国を認める)。
九州の観光地では、韓国人観光客が増加しており、地域にとって重要な顧客となっている。
熊本県菊池市などの温泉地では韓国人のノービザ入国を強く訴えている。九州へのノービザ入
国が実現すれば、韓国人の手軽な海外旅行先として、九州の評価はこれまで以上に高まるであ
ろう。
○日帰り経済圏の構築
地理的な近接性によるメリットを最も享受できるのは、ヒトやモノの移動にかかる時間であ
る。九州は、日本国内の他の地域とくらべて高い優位性をもつ。
しかし両地域は、交通機関のダイヤ編成上、日帰りが困難な地域である。現在、福岡∼釜山
間は、航空機(福岡空港∼金海空港)で 1 日 1 往復(金、日は 2 往復)が就航している。とこ
ろが航空機は、福岡発 13 時(金曜日、日曜日は 15 時 40 分発を加えて1日 2 便)、釜山発 11
130
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
時(同 13 時 50 分発)と、日帰りは事実上不可能である。ジェットフォイルについては朝から
夕方まで運航されているものの、片道約 3 時間を要するのでは、滞在時間が制限される。さら
に韓国南部地域の場合、工業都市である昌原や馬山に近い金海空港の利用価値が高いので、ジ
ェットフォイルの利用は難しい。国土交通省では、東アジア圏の経済的な結びつきが強まって
いることを踏まえ、ビジネスに絡む人の往来の増加をにらみ、現地に6時間以上滞在したうえ
で日帰りできる地域の拡大を視野に、空港アクセスの改善や拠点港湾の整備を進める方針を明
らかにした。ダイヤ編成はその前提となる。福岡∼ソウルはダイヤ、運航時間ともにすでに日
帰りが可能であり、距離が近い福岡∼釜山間でも日帰り経済圏の構築が望まれよう(図表Ⅴ−
1)。
図表Ⅴ−1 福岡∼釜山間の航空機、ジェットフォイルの運航時間
8時
9
10
■航空機
11
12
13
G
F
F
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
G(毎日)
福岡空港
G
∼金海空港
■ジェットフォイル
H
F
F
G(金、日)
(毎日)
博多港
∼釜山港
H
H
(毎日)
H(毎日)
H
H
(毎日)
H
H
H
H
H
H
(毎日)
H(毎日)
H
H
H
■フェリー
博多港
∼釜山港
H
(毎日)
(毎日)H
翌8時着
注)F:福岡空港、G:金海空港、H:博多港
:毎日運航、
:曜日および日にち限定で運航
資料)㈱JTB「時刻表」
131
○空港・港湾間の「特恵港待遇」
九州は対韓貿易の国内における玄関口となっている。今後、物流をより活発化するために、
九州の港湾では近隣諸国の港湾との間に交流協定の締結を開始している。2004 年 11 月に北九
州市と仁川市の間で港湾交流協定が締結された。2005 年 1 月には博多港と天津港の間で業務
協力の覚書が交わされた。また、2004 年 11 月に日中韓の 10 都市が参加して始まった「東ア
ジア経済交流推進機構」では、空港・港湾間の相互協力が盛り込まれている。
このように日韓海峡圏内の空港・港湾間で、相互に有利な条件を与え合う「特恵港待遇」を
実施することで、モノの自由な流れを生み出す考えである。優遇措置の内容は、地元の地方公
共団体に裁量権のある入港料や港湾使用料の減免、岸壁の優先使用権の付与、航空路・航路の
充実を、対象港から来る船舶に対して認めるものである。さらに物流リードタイムを短縮する
ために、税関や検疫所と連携した体制も必要で、国への働きかけも重要となってくる(図表Ⅴ
−2)。
図表Ⅴ−2 「特恵港待遇」のイメージ
○貿易投資促進地域間の連携
九州には、
「福岡アジアビジネス特区」や「北九州市国際物流特区」、
「飯塚アジア IT 特区」、
「久留米アジアバイオ特区」など、国際的な連携を促進する構造改革特区があり、韓国南部に
は、「釜山・鎮海経済自由区域」と「光陽湾圏経済自由区域」と2つの経済自由区域がある。
いずれもビジネスの活性化を図ることを主たる目的としているが、九州と韓国では優遇措置の
格差は大きい。例えば投資や企業誘致にあたっては、九州の構造改革特区には目立った優遇措
置は見られないものの、韓国の経済自由区域には、坪単価 35 円/年(光陽港)や同 45 円/年(釜
132
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
山新港)など賃料を大幅に安くした大胆な投資優遇策がみられる。その成果として実際に日本
から三井物産㈱など大手企業の進出も始まっている(図表Ⅴ−3)。
日韓海峡圏においては、域内の投資交流を活発にし、欧米など圏域外の企業も呼び込むため
に、貿易投資促進地域間の連携を促進させることが望まれる。具体的には、優遇措置の適用範
囲の拡大や、関係機関の情報交換、進出企業と進出を希望する企業へのサポート、当該地域へ
の誘導などが考えられる。こうしたネットワークの拡充により、日韓海峡圏の一体感を高める
ことが可能となり、域外からの注目を集めることが期待される。
図表Ⅴ−3 韓国の経済自由区域内の優遇措置
項目
直接税減免
間接税減免及び返済
賃貸料
物流活動申告手続きの
簡素化
内容
減免対象
・1,000 万ドル以上の投資のある外国製造企業
・500 万ドル以上の投資のある外国製造企業
減免内容
・法人税、所得税、取得税、登録税、財産税、総合土地税は3年間
100%免除。その後2年間 50%減免
・入居業者の FTZ 搬入外国物品に対して関税を免税
・入居業者が搬入した内国物品及び経済自由区域内の企業間の取引に
対して付加価値税零細率を適用
・臨時輸入付加税、酒税、特別消費税、交通税、農特税、教育税免税
・釜山港甘川敷地:年間 180 円/㎡水準
・釜山新港:年間 45 円/㎡水準
・光陽港:年間 35 円/㎡水準
経済自由区域内では登録業者間の物品移動及び譲渡、外国物品の使
用・消費及び補修作業など各種付加価値物流活動に対しての税関申告
手続きを簡素化
資料)韓国海洋水産部 HP(http://www.momaf.go.kr/)をもとに作成
○通関・検疫手続きの円滑化
税関手続きについては、日本と韓国で双方とも、申告から審査、納税、貨物検査までペーパ
ーレス化が進み、検疫や港湾関係の手続きなども同時に電子入力できる体制がすでに構築され
ている。さらに 2004 年 12 月には、日韓の税関当局間で「税関支援協定」を締結し、両国間で
の税関手続きを円滑にするための協力が確認された(図表Ⅴ−4)。
しかし、韓国側からは問題点も指摘されている。例えば、韓国側は韓国貿易ネットワーク
(KTNET)で統一されている税関手続きと物流だが、日本には、通関情報処理システム
(NACCS)、貿易金融 EDI(TEDI)、貿易管理オープンネットワークシステム(JETRAS)、
港湾物流情報ネットワーク(POLINET)、港湾 EDI など複数の標準システムが存在、相互に
リンクしていないことが問題とされている。また、日本の検疫体制は、一日の検疫処理件数に
限度があり、生鮮食品の輸入を制限しているという問題などもありこれらの解決に努める必要
がある。
133
図表Ⅴ−4 日韓の通関手続き、知的財産権保護に向けた協力のイメージ
日
韓
本
●税関手続き
電子化の徹底申
告などの簡素化
税関手続きの調和、
簡素化
国
●税関手続き
電子化の徹底申
告などの簡素化
税関支援協定
●知的財産権侵害
品の取 り締ま り
強化
●知的財産権侵害
品の取り締まり
強化
●その他
麻薬、重機などの
密輸の取り締ま
り強化
違反業者などの
情報共有
取締手法の技術支援
●その他
麻薬、重機などの
密輸の取り締ま
り強化
資料)日本経済新聞(2004 年8月2日)を修正
○知的財産権の保護
日本の民間企業の中には、コピー商品の氾濫など韓国での知的財産権の侵害に悩まされると
ころもある。日韓自由貿易協定共同研究会においては、民間企業のメンバーから、知的財産権
保護の向上に向けて韓国政府が努力することが、日本からの投資・貿易の拡大につながると指
摘されている。両国特許庁では、将来における先行技術調査・審査関連情報の効果的な共有の
ために、特許審査官交流プログラムを実施しているが、このような努力を継続することで、よ
り一層の知的財産権の保護に努めることが重要である。また、日韓の税関当局間では、2004
年 12 月に税関支援協定を締結し、違反実績のある業者の情報の共有や取締手法などの技術支
援など、水際での取締り強化に向けて相互の協力・支援を行っている。
○基準・認証制度の標準化と資格の相互認証
工業基準では、日本に日本工業規格(JIS)、韓国に韓国国家標準(KS)があるように、お
互いの国で基準が異なる。外国企業がこれらの認証を取得するには、煩雑な手続きを強いられ
るため、非関税障壁の一つとなっている。例えば、自国の技術規格、安全基準に合格した輸出
品であっても、輸入国の検査機関によって同類の規格の審査を受けると、その国の基準では不
合格となるケースがおきている。こうした非合理性を回避するために、国家間で相互認証協定
を締結するが、ヨーロッパ諸国ではこのような相互認証協定の締結を活発に行い、製品・商品
の流通を円滑にしている。日韓では、現在までに相互認証協定は締結されておらず、可能な製
品・商品から国家間で相互認証協定を締結していくことが求められる。FTA 締結交渉でも双方
134
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
の国内規制制度に対する相互理解を踏まえ、相互承認の可能性について議論が行われている。
一方、貿易を促進するために、世界的規格の統一も図られている。日韓両国でも、国際標準
化機構(ISO)や国際電気標準会議(IEC)規格など国際規格の認証を受ける企業が増加して
いるのはその表れである。このように、企業では国際規格の認証取得に努めることを第一とし
ながら、日韓二国間で相互認証を追求する可能性を探ることが必要である。
○日韓IT光コリドーの利用促進
日韓 IT 光コリドーの敷設により、日韓間における大量な電子情報を瞬時に送ることが可能
である。これまで日韓学術研究用大容量回線としての利用において、遠隔医療や遠隔講義の実
証研究を進めている。今後は情報通信の基幹インフラとして、コンテンツの発掘やユーザーの
開拓に努めることで、これまで以上に有効活用されることが望まれる。
(2)国境を越えた産業連携の促進
日韓海峡経済圏の構築に向けては、技術協力などものづくり分野での連携が中心であるもの
の、製造業の連携は十分な時間をかけて取り組む必要がある。一方、先行しているフィリピン
との FTA 交渉では、看護師や介護士など医療分野を含めて合意に至っている。また近年は九
州をはじめ日本からアジアへの農産物の輸出が徐々に増加するなど、非製造業での動きが活発
になっている。このように、産業連携は製造業にとどまらず、実現可能性の高い産業から連携
の促進に取り組んでいくことが重要であろう。ここでは、これまで連携を探る機会が少なく、
かつ動きが活発になっている医療・福祉産業や農業を前面に出しながら提言を行った。
○医療・福祉の国際交流拠点づくり
日本とフィリピンの間で大筋合意に至った外国人看護師の受け入れについては、日韓 FTA
交渉ではまだ中心的な議題とはなっていない。しかし高齢社会を迎え、労働力の不足が大きな
問題となっている日本では、今後、日韓 FTA にも含まれてくることが予想される。
そこで日韓海峡経済圏で試験的に行うことも提案できよう。すでに麻生飯塚病院では全国に
先駆けてフィリピン人看護師を看護助手として雇用し、日本の看護師資格の取得の支援を検討
するなど、域内には前向きに取り組む病院も現れている。また、福岡市のアイランドシティで
は、健康をキーワードに高度専門医療センターを中核とした、医療・福祉分野における研究開
発・ビジネス機能(産学共同研究センター)、福祉・居住機能(高齢者関連施設など)を有機
的にネットワーク化させる事業が進行している。アイランドシティを試験的なエリアとして医
療・福祉の国際交流拠点づくりを進めることも考えられよう。
国際化が進むことで、国境を越えた人の移動は今まで以上に活発になり、海外で外国人が安
心して受診できるような、外国人による診療体制の構築や、医療技術に関する情報交換、日韓
間での遠隔医療を本格的に行う拠点を設置していくことが望まれる。現状では、外国人による
診療は不可能であるため、規制緩和を国に働きかける必要がある(図表Ⅴ−5)
。
135
図表Ⅴ−5 福岡市アイランドシティの医療
人材・
サービス
新技術・
研究開発・
ビジネス機能
福祉・
居住機能
福祉介護サービス
民間研究所
製品
生活支援サービス
ベンチャー企業
メディカルコア
機能
新製品・サービス
資料)福岡市 HP(http:// www.city.fukuoka.jp/investment/business12.html)
○農水産物と食品の双方向貿易の促進
日韓 FTA により農水産物の関税が撤廃・削減されれば、国内の農水産業に与える影響が懸
念されている。その一方で国内の農業では、安全性と高品質性を背景に「攻めの農業」へと転
じ、農産物を積極的に輸出する取り組みが行われている。中国や東南アジアでは、日本の農産
物が、好調な売れ行きを見せているという。例えば香港の高級スーパーでは、1 パック 3 千円
の福岡産イチゴや、1 パック 4 千円の巨峰が好評である。福岡県ではアジア地域への県産農産
物輸出を 2 億円(2003 年度)から、5 年後には 20 億円まで高める計画である。
また水産品においては、長崎県から刺身用の養殖マダイや、鍋用のタラが韓国へ輸出される
など、農産物同様、水産品の輸出事例もある。
逆に韓国でも、農水産物流通公社において、安全で高品質な輸出用農産物共同ブランド
「Whimori」をつくり、輸出を増やす方針である。「Whimori」は、栽培から収穫、品質に至
るまで厳格な評価基準を設けて、基準を満たした商品だけに認められる(図表Ⅴ−6)。
このように日韓両国で農産物の輸出に力を入れ始めている。両国とも農産物の輸出は量的に
みてこれからである。加工食品を含めて、両国の消費者がお互いに求める価格帯と品質の商品
を購入できるような市場を創出し、両国の農業や食品産業の振興に努めることが必要である。
図表Ⅴ−6 「Whimori」のブランドマーク
資料)韓国農水産物流通公社 HP(http://www.whimori.co.kr)
136
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
○インターネットを活用したビジネスマッチングの推進
企業が取引を行うにあたり、最初の足がかりとなるのは、企業情報である。現在、多くの機
関が地域内の企業についてディレクトリーを刊行している。しかしこれらのディレクトリーは
冊子として作成されていることが多い。
インターネットが普及した今日においては、オンラインでビジネスマッチングを推進するこ
とが効果的である。韓国企業が九州企業との取引を希望する場合、デスクにいながらにして取
引企業を選定できるような環境づくりを行う必要がある。
福岡県を中心とする九州の中小企業とアジア諸国を中心とする世界の中小企業とのビジネ
スマッチングを行う「国際電子商取引市場」として、「Nextr@de」がある。同サイトは、海
外のパートナーを選定するにあたって、媒体となるポータルサイトである。現在、約 17,000
社の中小企業を登録したポータルサイト「電脳商社」
((財)福岡県中小企業振興センター運営)
とリンクされ、地場企業のビジネスマッチングを推進している。
課題は利用頻度をいかに高めるかである。とくに海外からのアクセス件数を増やすような、
利用環境の向上を図ることが必要である。こうした取り組みを、日韓海峡経済圏で拡大してい
くことが重要である(図表Ⅴ−7)
。
図表Ⅴ−7 「Nextr@de」の概要
ふくおかギガビットハイウェイ
香港・台湾
をはじめ、
ア ジ ア の
BtoB 電子商
取引推進機
関、運営団
体
(登録)
① ID(信用調査・与信枠設定)
② 企業ニーズ・シーズの照合、
マッチング
③ 取引商品/サービスの選択
④ 見積・価格交渉
⑤ 共同購入
⑥ 取引条件の設定
⑦ 決済代行
⑧ 物流代行
運営:
(財)福岡県
(登録) 中小企業振興
センター
登録企業
約17,000社
(アクセス)
電脳商社へ
210 万件/月
企業情報へ
120 万件/月
国内の
企業・個人
<取引>
<船積等>
<国内配送>
総合商社・専門商社
※実ビジネスによるフォローアップ体制
<輸送>
<倉庫>
<商社・輸入業者による物流制御>
◆
Nextrade 独自のサービス
資料)福岡県資料に加筆
○開発型ベンチャー企業の育成・支援
日韓海峡経済圏の一体化を進めるためには、共同で技術開発に努める必要がある。福岡市で
は、ベンチャー企業が出展・商談を行う「フクオカベンチャーマーケット(FVM)ビッグマー
137
ケット」や MAF(マルチメディア・アライアンス・フクオカ)による「アジアデジタルアー
ト大賞展(ADAA)」の開催、テクニカル電子㈱主催の「日韓 IB ベンチャー交流会」など、韓
国のベンチャー企業を育成・支援する事例がみられる。日本の大手企業の中には開発を韓国の
ベンチャー企業に委託し、その成果をやはり韓国の量産工場で商品化するケースもみられる。
このように日韓海峡経済圏においても、国境を超えた企業支援や、オーダーの発注、大学や公
的研究機関の施設や設備の利用などを通した開発型ベンチャー企業の育成・支援に努めること
が必要である。
○「九韓共同技術革新センター」の設置
日韓海峡経済圏の特長の一つは製造業の集積にある。圏域内には高度なものづくり技術を有
する企業が多く、これらの技術を結合することで相乗効果を図ることが可能となる。例えば、
九州と韓国南部の大学や公設研究機関が中心的な役割を果たし、これに企業が参画する「九韓
共同技術革新センター」(仮称)の設置が考えられよう。そしてセンターでは、圏域内に集積
する自動車産業や電機電子産業などの生産性の向上や新しいデザインの投入、ロボットやメカ
トロといった機械工業の新しい領域への挑戦、新素材の開発やバイオテクノロジー技術の向上
など、将来性の高い分野でのイノベーションを幅広く行うことが想定される。
○戦略的提携の促進
日韓海峡経済圏において産業クラスターを形成していくためには、企業間の連携と協力が欠
かせない。現在、新日本製鐵㈱とポスコ㈱、ソニー㈱と三星電子㈱など日韓の大企業間で戦略
的提携が行われている。中小企業が多い九州においても、中小機械メーカーが、生産を委託し
ている韓国企業と共同で中国市場へ販路を拡大しようする動きもある。しかし中小企業ではま
だ事例が少なく、このような戦略的提携を通じて九州と韓国南部の企業間で連携を促進してい
くことが必要であろう。
戦略的提携は、さまざまな内容が考えられる。例えば、開発では、近年技術力の向上がみら
れる韓国メーカーに対する九州企業からの委託開発や共同開発、生産では、合弁会社の設立に
よる共同生産、販売では、中国市場・世界市場への共同進出や合弁会社の設立による第三国市
場への共同進出、欧米企業からの共同受注・共同生産などがある。いずれの内容も、九州企業
と韓国企業の強みを持ち寄り、相乗効果を生み出すことが重要である。
○研修生・インターンシップの受け入れ
(財)日韓産業技術交流財団や、(財)北九州国際技術協力協会(KITA)では、韓国から研
修生を受け入れることで、技術交流を支援している。一方、韓国企業の中には、基盤技術産業
を中心に、日本の技術者を受け入れて、直接、技術移転を進める企業もある。このように日本
から韓国への基盤技術などの技術移転など、ものづくりに関する技術移転を円滑に進めるため
に、研修生の交流を進めることが重要である。
また外国人留学生のインターンシップにも着目する必要があろう。大分県では、留学生の人
材育成を総合的に支援するために、2003 年度から特定非営利法人産学連携教育日本フォーラ
138
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
ム(NPO 法人)
「WIL」と日本貿易振興機構(ジェトロ)大分貿易情報センターが共同で「大
分県留学生インターンシップ事業」を行っている。留学生にとっては、実務を経験することで
自己の価値を高める機会となり、受入れ企業においては、国際ビジネスのサポート役として活
用できる(図表Ⅴ−7)。さらに IT 分野では、九州企業が、半導体設計人材の育成機関である
釜山大学 IDEC(IC Design Education Center)地域センターの大学院生をインターンとして
受け入れることも有効である。
図表Ⅴ−7 大分県留学生インターンシップ事業
雇用
産業界
留学生・大学
人材
支援要 求
地域活性化
各種 支援と
規 制 緩和要 求
産 業 の高 度 化
国 際 化 支援
大分県 留学生関連施策協議会
大分貿易情報センター
大分県をモデルに研究
ジェトロ
NPO 法人
WIL
資料)大分県留学生関連施策協議会、日本貿易振興機構大分貿易情報センター、
特定非営利法人産学連携教育日本フォーラム(WIL)
「平成 15 年度大分県留学生インターンシップ事業に関する実施報告および提言」
○国境を越えた産学連携
九州の産業と韓国南部の大学、あるいは九州の大学と韓国南部の産業が連携を組むことで、
新しい事業創出を図る。組み合わせの幅が拡がり、多様な技術レベルとニーズに応じた連携が
結ばれると期待される(図Ⅴ−8)。
例えば、九州の自動車関連メーカーが、釜山大学校の附属機関である釜山・慶南自動車テク
ノセンターと産学連携を組むことで、韓国の自動車環境に沿った部品開発を行うなどの事例が
考えられよう。または九州の半導体メーカーやソフトウェア開発企業が、半導体デザインやソ
フトウェア開発を行う釜山大学 IDEC 地域センター(IC Design Education Center)と産学連
携を行うことといったことが考えられる。
同様に、韓国の企業が九州の産学連携機関に参加することも考えられる。例えば、九州には、
139
ロボット分野において、大学の研究者と企業で組織する産学官研究会「次世代ロボット研究会」
や、企業や個人、学識経験者を中心に組織する「ふくおかロボット技術研究会」があり、韓国
の機械メーカーがこれらの研究会に参加することも想定される。
図表Ⅴ−8 国境を越えた産学連携
九
州
韓国南部
学
学
大学
大学
研究
機関
大学
大学
研究
機関
大学
産
大学
産
企業
企業
企業
企業
企業
企業
○情報センターの設置とポータルサイトの開設
観光は、九州と韓国南部において、すでに双方向の往来が盛んである。韓国人観光客の輸送
を目的に、韓国企業が九州にバス会社を設立したり、ゴルフ場の買収を行っている。しかしな
がら、人の往来が盛んになればなるほど課題も浮き彫りになっている。なかでも、釜山など韓
国南部において九州の情報が入手しにくいといった問題が指摘されている。
こうした問題を解決するため、韓国南部の中心都市である釜山市内に、現地観光情報センタ
ー「九州観光情報館(仮)」の設置が必要である。福岡市には、観光客の誘致と観光情報の提
供を目的に韓国観光公社福岡支社や江原道観光事務所が開設されているが、このような機能を
果たす、情報発信基地の設置が望まれる。またインターネットを媒体として情報を取得する韓
」
国人のスタイルに合わせて、インターネット上に九州観光ポータルサイト「九州観光.com(仮)
を開設するといった取り組みが必要である。2004 年 12 月には、㈱キューデンインフォコムが、
韓国から九州への観光・集客ポータルサイトとなる「九州路(KyushuRo)」を開設した。韓国
人の個人旅行者を対象に、九州の観光情報の提供や宿泊予約などのサポートを行っている。今
後は、九州においてこのようなポータルサイトの内容を拡充し、日本旅行、あるいは九州旅行
を予定する韓国人の目に触れやすいような環境づくりを行うことで、韓国人観光客の九州への
集客につなげていくことが望まれる。
また旅行業者においては、九州新幹線と韓国高速鉄道(KTX)の開通に合わせた共同観光商
品を企画することで、日韓海峡圏を一体とした売込みを図ることが必要である。
140
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
(3)日韓海峡経済圏の体制づくり
現在、世界中で局地経済圏の形成が進んでいる。その中には民間の強力な連携が経済圏の形
成を牽引することもあれば、行政による後押しが必要な経済圏もある。日韓海峡経済圏は、人
流、物流においてすでに実績が生まれているものの、経済の相互依存はまだ脆弱である。
今後、活発な経済交流をともなった日韓海峡経済圏を構築していくためには、行政の連携が
必要であり、なおかつ地域が主体的に取り組めるような体制を整備していくことが求められる。
○「九韓CEPA」の締結
九州と韓国南部の協力体制を明確なものとしていくために、日韓海峡経済圏において「九韓
CEPA(経済緊密化協定:Closer Economic Partnership Agreement)」*)を締結し、経済圏構
築に向けた方向性を明示することが考えられよう。この中には、経済協力や技術協力のみなら
ず、技術や資格の相互認証や、物流、IT、医療・健康などサービス分野まで含めた包括的な協
力体制を目指すものとし、施策やプロジェクトについては、早期に着手できるものから取り組
みを開始することが重要である。また、国に権限のある事項については、国に積極的に働きか
け、要望していくことが不可欠であるといえる。
*)
FTA が主に国レベルの自由貿易協定を指すのに対し、ここでは地域間の経済交流協定である理由から
CEPA という表現を用いた。CEPA は、中国と香港との間に 2003 年 6 月に締結された協定(中国とマカ
オは 2003 年 10 月に締結)で、財やサービスの貿易自由化、貿易投資障壁の撤廃に関する項目が盛り込
まれている。「九韓 CEPA」は、財やサービスの貿易自由化にとどまらず、農水産業やサービス業を含め
て産業連携や技術協力までを想定している点で、中国・香港・マカオの CEPA とは異なる。
○日韓海峡経済圏の構築に向けた専門事務局の設置
日韓海峡経済圏の構築に向けては、地域が主体的に行動する必要がある。そのためには常設
の専門事務局を設置して専任スタッフを配置し、資金と一定の権限を付与し、国や関係自治体、
関係機関、企業などとのさまざまな調整、他の地域(局地)経済圏との連携、広報・PR 活動
に努めることが求められる。
事務局の設置あたっては、すでに存在する組織をベースに発展、統合させることが考えられ
る。現在、図表Ⅴ−9 に示したとおり、九州と韓国の間にはいくつかの組織体があり、これま
でに数多くの成果を得ている。今後、協力と連携をいっそう強めるため、重複している事業の
統一を図りながら窓口を一本化していくことが必要であろう。このため、従来の組織を基本と
して日韓海峡経済圏専門事務局へ発展させることが提案できよう。
141
図表Ⅴ−9 九州・韓国間の社会経済交流の組織体
主体
九州
会議名
九州・韓国経済交流会議(93 年)
韓国側パートナー
産業資源部
その他の参加メンバー
環黄海経済・技術交流会議(01 年) 九州経済産業局、
九州山口経済連
合会、経済団体他
産業資源部、地方
自治体、経済団体
他
中国科学技術部、
県
日韓海峡沿岸県市道知事交流会議
(92 年)
福岡県、佐賀県、
長崎県、山口県
都市
環黄海 10 都市会議(94 年)
北九州市、福岡市
下関市
北九州市、福岡市
下関市
釜山市、慶尚南道
全羅南道、
済州道
釜山市、仁川市
東アジア経済交流推進機構
(04 年)
日本側参加者
九州経済産業局
注)( )内は発足年
資料)各種資料
142
釜山市、仁川市
蔚山市
対外貿易合作部、
経済団体他
他中国 5 都市
他中国4都市
第Ⅴ章
日韓海峡経済圏の新たな発展をめざして
4.「日韓海峡経済圏」の形成に向けたアクションプログラム
最後に各方策の主体と実現までの期間を示した(図表Ⅴ−10)。これまで、地域が独自に取
り組める方策を中心に提言を行った。
一体的なビジネス環境の形成のなかには、ビザや通関・検疫手続き、知的財産権や基準・認
証制度など、国が主体となって取り組まなければ実現しない方策が含まれている。このような
方策は地域から継続的な要望を行うことが重要である。地域や民間が主体となって取り組む方
策については、地元の自治体と産業界、経済団体が連携をとりながら実現していくことが望ま
れる。
実現までの期間は、方策の内容によって短期から中長期までさまざまだが、短期間で実現可
能な方策から優先して取り組むことが重要である。
図表Ⅴ−10 各方策の主体と実現までの期間
方
策
主
実現までの期間
体
短 期
(1)一体的なビジネス環境の形成
○「九州ノービザ特区」の設置
国
地域
○日帰り経済圏の構築
民間
○空港・港湾間の「特恵港待遇」
地域
○貿易投資促進地域間の連携
国
○通関・検疫手続きの円滑化
国
○知的財産権の保護
国
○基準・認証制度の標準化と資格の相互認証
国
地域
○日韓 IT 光コリドーの利用促進
民間
(2)国境を越えた産業連携の促進
○医療・福祉の国際交流拠点づくり
地域
民間
○農水産物と食品の双方向貿易の促進
地域
民間
○インタ-ネットを活用したビジネスマッチングの推進
地域
民間
○開発型ベンチャー企業の育成・支援
地域
民間
○「九韓共同技術革新センター」の設置
地域
民間
○戦略的提携の促進
民間
○研修生・インターンシップの受け入れ
民間
○国境を越えた産学連携
地域
民間
地域
民間
(3)日韓海峡経済圏の体制づくり
地域
民間
○「九韓 CEPA」の締結
地域
○日韓海峡経済圏の構築に向けた専門事務局の設置
地域
○情報センターの設置とポータルサイトの開設
国
143
中長期
お わ り に
現在、世界中で局地経済圏の形成が進んでいる。世界には、企業間交流が主導し、自然発
生的に形成された局地経済圏があるなかで、わが国は、海に囲まれていることもあり、局
地経済圏の形成には時間を要してきた。こうしたなかで、九州と韓国南部で構成される日
韓海峡圏は、交流が日々活発化している地域であり、日韓海峡経済圏の胎動を感じさせる
地域である。
一方、国レベルで交渉が進められている日韓 FTA は、日韓国交正常化 40 周年にあたる
2005 年中に、妥結を目指して交渉をすすめてきた。しかし 2004 年 11 月以降、交渉が中断
している。背景には、一部の産業界から反発があるためである。長期的な国益を視野に入
れて交渉を進めるべきことを、お互い十分に理解しながらも、交渉は決して容易に進まな
いことを改めて痛感させられることとなった。
このような環境にある日韓海峡圏だが、今後、日韓海峡経済圏を形成していくうえで、日
韓 FTA は欠かすことができない。本報告書の内容も「日韓 FTA が締結されれば」という
期待的観測の下まとめた部分もあり、交渉の再開と一刻も早い日韓 FTA の締結が待たれる。
また、第Ⅴ章で提言した方策は、地域が主体となって短期的に実現できるものから着手し、
実績をつくっていくことが重要である。今後、日韓海峡経済圏が形成され、中国を含めた
環黄海経済圏の形成や、東アジア経済圏の形成に向けた礎となっていくことを期待したい。
そのための議論のたたき台として、本報告書が活用されれば、執筆者一同、望外の喜びで
ある。
144
【資
料】
企業アンケート
九州と韓国の経済連携の可能性に関するアンケート調査票
問合せ先:〒810-0041 福岡市中央区大名 1-9-48 TEL (092)721-4900 FAX (092)716-4710
(財)九州経済調査協会
担当:豆本(とうもと)、居戸(いど)、加峯(かぶ)
ご記入いただいたアンケート用紙は、同封の返信用封筒(切手不要)に入れて9月3日(金)までにご投
函くださいますようお願い申し上げます。
【貴社(貴事業所)についてご記入下さい。】
貴社
(事業所)名
所 在 地
福岡 佐賀 長崎
熊本
大分 宮崎 鹿児島 山口
県
部署名 :
ご連絡先
市・町・村
ご氏名 :
TEL :
FAX :
E-mail
業
1.自動車・自動車部品産業
2.半導体関連業
3.医療・福祉サービス業
4.一般機械
5.環境産業
6.教育・研究開発活動
7.ロボット産業
8.観光産業
9.農林水産業
10.ソフトウェア産業
11.物流業
12.その他(
種
(主要なものを
1つだけ)
従業者数
1.50 人未満
2.51 人∼100 人未満
3.100 人以上∼300 人未満
4.300 人以上
1.九州・山口
2.全国
3.全国及び海外
4.海外
)
(パート含む)
主要な
営業エリア
≪FTA:Free Trade Agreement(自由貿易協定)≫とは
FTAとは、特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目
的とするもので、WTO(世界貿易機関)の協定上では、FTAを締結する際には、農業やサービス業
を含む実質上全ての貿易について、原則10年以内に関税等を撤廃することを要件としています。
日本は、現在、韓国、タイ、マレーシア、フィリピンといった東アジア諸国とのFTA締結に向けた
協議が進めています。
1
【日韓FTAについて】
問1 現在、政府では 2005 年までに日韓自由貿易協定(FTA)を締結するために、韓国と交
渉を進めています。日本経済の将来を考えた時、日韓 FTA をどのように思いますか?
当てはまるもの1つに○をつけてください。
1.なるべく早く締結すべきである
2.将来的には締結すべきであるが、現時点での締結は時期尚早である
3.韓国よりも ASEAN 諸国等、他国との FTA を先に締結するべきである
4.日本、韓国、中国の三国での FTA を締結すべきである
5.韓国との FTA 締結には反対である
6.わからない
問2 日韓 FTA は 2006 年の発効を目標としていますが、予定通り進行すると思いますか?
それぞれ当てはまるもの1つに○をつけてください。
1.予定通り進む
2.遅れても協定は締結される
3.日韓 FTA の代わりに日中韓 FTA が進む
4.わからない
問3 日韓 FTA が締結された場合、九州経済に対してどの程度影響があると思いますか?当
てはまるもの1つに○をつけてください。
1.プラスの影響が大きい
2.プラスの影響が多少ある
3.とくに影響はない
4.マイナスの影響が多少ある
5.マイナスの影響が大きい
問4 日韓 FTA が締結された場合、貴社(貴事業所)にとって利益があると思いますか?当
てはまるもの1つに○をつけてください。
1.大きな利益が期待できる
2.若干の利益が期待できる
3.特に利益はない
4.損失が出ると予想される
5.わからない
(問4−1)問4で1か2を選ばれた方にお尋ねします。どのような形態での利益が
あるとお考えですか?当てはまるもの2つ以内に○をつけてください。
1.共同技術開発または技術指導
2.共同市場開拓または市場拡大
3.技術者および人的交流の拡大
4.韓国からの直接投資
5.経営技術の導入
6.低廉な中間財及び部品の輸入
7.その他(
)
2
【貴社(貴事業所)と韓国との関係について】
問5 貴社(貴事業所)は、現在、企業活動において韓国とどのような関係がありますか?
当てはまるものすべてに○をつけてください。
1.韓国へ製品・部品等を輸出している
2.韓国から製品・部品等を輸入している
3.韓国企業と提携している(技術提携、販売提携、生産委託等)
4.韓国企業に技術者を派遣している
5.韓国から社員や研修生を受け入れている
6.韓国に事業所や支社を設置している(出資・合弁を含む)
7.その他(
)
8.とくに関係はない
(問5−1)問5で3、4、5、6を選ばれた方にお尋ねします。パートナーのいる
地域はどこですか?当てはまるものすべてに○をつけてください。
1.ソウル
2.釜山
3.韓国南部(光州、蔚山、全羅南道、慶尚南道、済州島)
4.韓国中部(大邱、大田、忠清北道、忠清南道、全羅北道、慶尚北道)
5.韓国北部(仁川、江原道、京畿道)
(問5−2)問5で3、4、5、6を選ばれた方にお尋ねします。協力の形態はどう
いったものですか?それぞれ当てはまるものすべてに○をつけてください。
1.技術導入
2.技術指導
3.技術研修
4.共同研究開発
5.OEM 委託
6.部品調達
7.市場開拓
8.資本調達
9.その他(
)
問6 貴社(貴事業所)が、現在、企業活動において韓国と関係を持つきっかけとなった機
関や媒体はなんですか?当てはまるものすべてに○をつけてください。
1.韓国中央政府・公共機関
2.韓国地方政府・公共機関
3.日本中央政府・公共機関
4.日本地方政府・公共機関
5.韓国の関連分野の専門家(大学、コンサル等)
6.日本の関連分野の専門家(大学、コンサル等)
7.国際会議、国際セミナー
8.専門雑誌など2次資料
9.海外の展示会
10.協力パートナーによる直接提案
11.直接調査および訪問
12.その他(
13.韓国とは関係がない
3
)
問7 貴社(貴事業所)は、今後、韓国の企業や団体との協力・連携を進めていく意向はあ
りますか?当てはまるもの 1 つに○をつけてください。
1.ある
2.ない
(問7−1)問7で1を選ばれた方にお尋ねします。どのような協力・連携を希望し
ますか?当てはまるもの 1 つに○をつけてください。
1.相互の人的交流
2.共同技術開発
3.共同市場開拓
4.相互投資
5.販売、サービス網の利用
6.その他(
)
(問7−2)問7で1を選ばれた方にお尋ねします。技術協力の場合、どのような形
態の技術協力を希望しますか?当てはまるもの 1 つに○をつけてください。
1.技術導入
2.技術指導
3.技術研修
4.共同研究開発
5.OEM 委託
6.その他(
)
【日韓海峡圏の地域レベルの協力について】
問8 九州と韓国南部(釜山、光州、蔚山、慶尚南道、全羅南道、済州島)の企業間の経済
協力を実現するのに、大きな問題点は何だとお考えですか?当てはまるもの2つ以内
に○をつけてください。
1.高率な関税、通関手続き
2.ビザ等の出入国規制
3.言葉の問題
4.商取引習慣の違い
5.相互の情報不足
6.知的財産権の問題
7.技術移転の不足
8.物流費用・納期
9.その他(
)
問9 九州と韓国南部の企業間協力において企業の立場から自治体に期待する役割は何で
すか?当てはまるもの2つ以内に○をつけてください。
1.資金援助
2.情報提供
3.交流機会の創出
4.人的交流支援
5.制度的な障壁の撤廃
6.その他(
)
問 10 九州と韓国南部の間での経済協力において、最も将来性のある分野は何だと思います
か?当てはまるもの2つ以内に○をつけてください。
1.自動車・自動車部品産業
2.半導体関連業
3.医療・福祉サービス業
4.一般機械
5.環境産業
6.教育・研究開発活動
7.ロボット産業
8.観光産業
9.農林水産業
10.ソフトウェア産業
11.物流業
12.その他(
)
問 11 九州と韓国南部の間での地域レベルでの経済協力を促進するために、重要な戦略は何
だと思いますか?当てはまるもの2つ以内に○をつけてください。
1.早期の日韓 FTA の締結
2.地域レベルでの統合経済圏の形成
3.特定分野における協力強化
4.地域協力基金の創設
5.企業人統合団体の形成(商工会議所等)
6.民間交流の拡大
7.その他(
)
4
有識者アンケート
九州と韓国の経済連携の可能性に関するアンケート調査票
問合せ先:〒810-0041 福岡市中央区大名 1-9-48 TEL (092)721-4900 FAX (092)716-4710
(財)九州経済調査協会 担当:居戸(いど)、豆本(とうもと)、加峯(かぶ)
ご記入いただいたアンケート用紙は、同封の返信用封筒(切手不要)に入れて9月3日(金)
までにご投函くださいますようお願い申し上げます。
【回答者についてご記入下さい。】
性 別
年 齢
職 業
1. 男性
2.
女性
1. 20∼29歳
2.
30∼39歳
3. 40∼49歳
4.
50∼59歳
5. 60∼69歳
6.
70歳以上
1. 会社員
2.
公務員
3. 団体職員(NPO 等)
4.
大学、研究機関
5. その他(
居住地
)
1. 福岡県
2.
佐賀県
3. 長崎県
4.
大分県
5. 熊本県
6.
宮崎県
7. 鹿児島県
8.
山口県
調査票にご記入していただいた内容は、統計的にまとめた結果のみを公表し、個々の情報
の公開、および他目的への利用は致しません。重ねまして、ご理解とご協力の程よろしくお
願いします。
日韓 FTA とは
FTAとは、特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的
とするもので、WTO(世界貿易機関)の協定上では、FTAを締結する際には、農業やサービス業を含
む実質上全ての貿易について、原則 10 年以内に関税等を撤廃することを要件としています。
日本は、現在、韓国、タイ、マレーシア、フィリピンといった東アジア諸国とのFTA締結に向けた協
議が進めています。
5
【韓国に対する全般的な質問】
問1
あなたは過去3年間に、韓国を訪問されましたか?
1.訪問した
(回答は1つ)
2.訪問していない
「1.訪問した」と回答した人は次へ(2.
「訪問していない」と回答した人は問2へ)
訪問目的は
何ですか?
(複数回答可)
1.観光
2.ビジネス
3.学業
4.就業
5.学会、学術研究
6.親戚、知人訪問
7.その他(
)
過去3年間の
1.1回
2.2回
訪問回数
3.3∼5回
4.6回以上
1.ソウル
2.釜山、蔚山、慶尚南道
3.済州島
4.光州、全羅南道
(回答は1つ)
目的地
(複数回答可)
渡航手段
(複数回答可)
問2
5.その他地域(
1. 高速船(ビートル、ジェビ、コビー等)
2. フェリー(関釜フェリー、かめりあライン)
3. 航空機
あなたは韓国に対して、どのような関心をお持ちですか?
(回答は1つ)
1.旅行先として関心がある
2.ビジネスや学術研究の場として関心がある
3.趣味の領域として関心がある
4.隣国の友好国として社会的な関心がある
5.その他(
問3
)
)6.関心はない
あなたは今後の日本と韓国の関係はどうなることが望ましいと思いますか?
(回答は1つ)
1.現状維持
2.あらゆる分野でより緊密な関係に発展
3.一部の分野で協力関係を構築
4.わからない
【日韓 FTA について】
問4
現在日韓両国では、2005 年末までに貿易や交流の促進を目的にした日韓自由貿易協
定(FTA)を締結するための交渉を進めています。あなたは日韓 FTA のことをどの程
度ご存知ですか?
(回答は1つ)
1.よく知っている
2.ある程度知っている
3.名前しか知らない
4.全く知らない
6
問5
今後の経済交流の進展のために、日韓 FTA は必要だと思いますか?
(回答は1つ)
1. 日韓の交流促進のため、FTA は締結するべきだ
2. 国内産業の保護のため、FTA を締結するのは時期尚早だ
3. 日韓両国だけでなく、中国を含めた FTA を締結するべきだ
4. 韓国よりも先に他の国との FTA を締結するべきだ
5. わからない
問6
日韓 FTA 交渉の中で、最も大きな障害は何だと思いますか?
(回答は1つ)
1.法的な規制
2.日韓両国の言葉の壁
3.商取引慣行の違い
4.国内の産業界からの反発
5.韓国の情報不足
6.韓国への信頼不足
7.その他(
問7
)
日韓 FTA が締結された場合、どのような影響を与えると思いますか?
A∼D の分野ごとにお答えください。
(分野ごとに主要な回答を1つ)
A.企業の
市場の拡大
1.両国に良い影響を与える
2.両国に悪い影響を与える
3.日本のみ良い影響を与える
4.韓国のみ良い影響を与える
5.影響はほとんどない
6.わからない
1.双方で貿易量は増加し、全般的に良い影響を与える
2.双方で貿易量は減少し、全般的にマイナスの影響を与える
B.対韓国貿易
3.日本には全般的に良い影響を与える
4.日本には全般的にマイナスの影響を与える
C.日韓両国間での
直接投資の増大
5.影響はほとんどない
6.わからない
1.対韓直接投資のみ増える
2.対日直接投資のみ増える
3.双方の直接投資が増える
4.影響はほとんどない
5.わからない
1.全面的に良い影響を与える
D.消費者の生活
3.一部でマイナスはあるものの全般的に良い影響を与える
4.一部でプラスはあるものの全般的に悪い影響を与える
5.影響はほとんどない
問8
2.全面的に悪い影響を与える
6.わからない
日韓 FTA により、日本国内の各産業にはどの程度影響があると思いますか?
A∼D の産業分野ごとにお答えください。
全面的に
産業分野
良い影響を
与える
(分野ごとに回答は1つ)
一部でマイナ
スはあるが
一部でプラス
影響は
はあるが
全面的に
悪い影響を
わからない
全般的に良い ほとんどない 全般的に悪い
影響を与える
影響を与える
与える
A. 農業・漁業
1
2
3
4
5
6
B. 製造業
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
D. 流通・サービス業
1
2
3
4
5
6
E. 観光産業
1
2
3
4
5
6
C. 先端技術産業
(IT、ロボット、バイオ等)
7
【韓国南部との経済協力について】
*韓国南部:ここでは、釜山広域市、光州広域市、蔚山広域市、慶尚南道、全羅南道、済州島をさす。
問9
現在九州と韓国南部の間では、地理的に近いことを活かして地域間の経済協力を模
索しています。日韓知事サミットや九州韓国経済交流会議など、九州と韓国南部の
地域間経済協力についてどの程度ご存知ですか?
1.よく知っている
3.あまり知らない
問 10
(回答は1つ)
2.ある程度知っている
4.全く知らない
九州と韓国南部の間には、地域レベルの国際協力関係は必要だと思いますか?
(回答は1つ)
1. 九州と韓国南部の間には、地域レベルの国際協力関係が必要である
2. FTA が締結されれば、地域レベルの国際協力関係は必要ない
3. わからない
問 11
日韓 FTA により、九州の産業にはどのような影響があると思いますか?
(分野ごとに回答は1つ)
全面的に
産業分野
良い影響を
与える
スはあるが
一部でプラス
影響は
はあるが
全般的に良い ほとんどない 全般的に悪い
影響を与える
影響を与える
全面的に
悪い影響を
わからない
与える
A 農業・漁業
1
2
3
4
5
6
B 製造業
1
2
3
4
5
6
1
2
3
4
5
6
D 流通・サービス業
1
2
3
4
5
6
E 観光産業
1
2
3
4
5
6
C 先端技術産業
(IT、ロボット、バイオ等)
問 12
一部でマイナ
日韓海峡圏での経済協力の推進のため、地域の自治体が取り組まなくてならないこ
とは何でしょうか?
(回答は2つ以内)
1. 日韓海峡圏での民間交流が盛んになるような各種支援施策
2. 地場産業の販路開拓支援
3. 韓国人観光客の誘致活動
4. 知事サミットなど自治体間での協力体制の強化
5. 交通・通信など日韓海峡圏内のインフラの整備
6. 新たな地域協力体制の構築と推進
7. その他(
)
質問は以上です。ご協力ありがとうございました
8
日韓自由貿易協定(FTA)の影響と日韓海峡経済圏の可能性に関する調査報告書
2005 年3月発行
発行所
財団法人
九州地域産業活性化センター
〒810-0004
福岡市中央区渡辺通5丁目 14 番 12 号(南天神ビル)
TEL.092-713-6735
FAX.092-713-4292
http://www.kiac.or.jp
印
刷
城島印刷
有限会社
〒810-0012
福岡市中央区白金2丁目9番6号
TEL.092-531-7102
FAX.092-524-4411
http://www.kijima-p.co.jp
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