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ユーザー企業でのプロジェクトマネジメント ―最初の工程でユーザー企業

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ユーザー企業でのプロジェクトマネジメント ―最初の工程でユーザー企業
特 集 [システムコンサルティングの現場から]
ユーザー企業でのプロジェクトマネジメント
―最初の工程でユーザー企業が留意すべき点―
近年、プロジェクトマネジメントに対する経営層の関心が高まっている。しかし、企業が考
えるプロジェクトマネジメントと情報サービス企業が考えるプロジェクトマネジメントは範囲
が違っており、企業はこの点を認識して主体的にプロジェクトを運営することが重要である。
本稿では、プロジェクトの最初の工程でユーザー企業が留意すべき点について考察する。
プロジェクトマネジメントへの関心
事業・業務への影響の大きさから、システム
ここ数年、ビジネスに大きな影響を与える
の中長期計画に組み込まれていることが大半
重要システムの障害を目の当たりにして、経
である。ここから、業務・システムの内容を
営層のプロジェクトマネジメントへの関心が
具体化しつつ概算費用の推計と見直しを行
高まっている。このような環境下で、情報サ
い、さらに調達計画を策定して開発を委託す
ービス業界ではPMBOK(米国のプロジェク
るベンダーを決定し、ベンダー決定後の調整
トマネジメント協会による知識体系)のよう
といった作業を経てプロジェクト計画書の策
な手法や、PMP(同協会が認定する国際資
定にたどり着く(図 1 参照)
。
格)などの資格が注目を集めている。また、
一方、ベンダーのスコープは、システム開
手法の教育や資格取得にとどまらず、システ
発のプロジェクト計画書の策定から始まる
ムコンサルティング企業による支援サービス
“ITプロジェクト”であり、両者の考えるス
も一種の流行のようになっている。このよう
コープには大きな違いがある。
に各方面から関心を集めているプロジェクト
新規事業参入やBPRにITが関わらないこ
マネジメントであるが、企業が行うべき作業
とはほとんどないことを考えれば、企業にと
の内容と、情報サービス業界が強化を図って
っては業務、システムの双方がプロジェクト
いるプロジェクトマネジメントの領域にはズ
に含まれる。そのため、企業が主体となって
レがあると思われる。
進める最初の工程、つまり業務面の検討を含
企業におけるプロジェクトの範囲
新規事業参入のためのシステム開発やBPR
(業務プロセス革新)にともなうシステム全
面再構築など、数十億円から百億円規模の投
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は広い。このような案件は、投資額の大きさ、
めたシステム化構想・計画の工程こそが重要
である。では、この工程をマネジメントする
際に留意すべき点は何なのだろうか。
システム化構想・計画工程での留意点
資を要する大規模プロジェクトの場合、企業
大規模プロジェクトの開始にあたって、企
にとってプロジェクトのスコープ(作業範囲)
業はまずWBS(Work Breakdown Structure。
2006年12月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
野村総合研究所
システムコンサルティング事業本部
社会ITマネジメントコンサルティング部
上級システムコンサルタント
角井将史(かくいまさし)
専門はITの企画、調達、発注側プロジェクトマネジ
メント、IT部門のマネジメント改革など
図1 ユーザー企業とベンダーのスコープの違い
の ユ プロジェクト開始 ITプロジェクト実施の前年度
ITプロジェクトの開始年度
スー
テ ザ 中長期計画 次年度予算策定 調達準備
調達(RFI・RFP) ベンダー (詳細な)
ッー
●概算費用見通し ●調達計画策定
※既存ベンダーに限 決定後の 要件定義 …
プ 企 ●方針策定
の作成
●実行体制などの準備 定されない場合
調整
業
内
ベンダーのプロジェクト
具体度・詳細度に差はあるが、すべて個別システムの内容具体化の作業
工シ
設計
程 ス システム化構想/システム化計画
要件定義 ●概要設計
論 テ ●目的、方針 ●主要事項の大まかな要件定義、予想効果、概算費用・目標費用
●外部設計
ム ●スケジュール、体制
…
開
発
の
ITプロジェクトのプロジェクト計画書策定
…
プロジェクトの成果物を構造的に分割したも
った適切な選定手順の組み込みも必要である。
の)を作成し、予算策定からプロジェクト終
費用については、当初の工程ほど情報が乏
了までの工程・スケジュールを明確化するこ
しいが、その時々に応じた手法、たとえば、
とが必要である。その際は、具体化された計
簡易FP法(ソフトウェアの規模を図る手法
画やベンダーの選定などを経営層に報告する
のひとつ)や、概算費用を含むRFI(情報提
時期の設定と、経営層の了承を得るまでの調
供要請)の実施で推計する必要がある。
整作業・期間を考慮することを忘れてはなら
ない。また、多くの場合、業務・システムの
ユーザー企業が必要とする支援
全体最適といった横断的観点からの検討が不
実際に以上のような初期工程のマネジメン
可欠であり、情報システム部門とユーザー部
トを行う場合、人材やノウハウの不足が問題
門間、関連するユーザー部門間で組織的に検
となる企業も多い。そのため、情報サービス
討し了承を得るためのステップや協働体制を
企業が蓄積してきたITプロジェクトマネジ
デザインする必要がある。
メントやベンダー選定などに関するノウハウ
加えて、投資額が大きいこと、ベンダーの
を、この段階への支援サービスとして活用す
能力がプロジェクトに及ぼす影響が大きいこ
ることも有効な方策である。野村総合研究所
となどを考えれば、すでに取引があるという
(NRI)では、広い意味でプロジェクト品質
理由でベンダーを選ぶという安易なやり方は
を向上させるためには、企業内の意思決定構
避けるべきである。計画には、ベンダー選定
造や、企業からみたマネジメントの重要事項、
に向けた情報収集、ベンダーの役割(委託範
利害関係者への説明責任のあり方などについ
囲)のデザイン、提案依頼内容準備、候補のベ
ても把握した上で、支援内容を組み立てて助
ンダーによる提案書作成、提案内容評価とい
言することが重要であると考えている。
■
2006年12月号
レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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