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 Title
Author(s)
照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ市場を読み
解くデータ分析』有斐閣、2013年
中山, 雄司
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
大阪府立大学經濟研究. 2014, 60 (1・2), p.37-40
2014-10-15
http://hdl.handle.net/10466/14425
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
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書 評
照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ
市場を読み解くデータ分析』有斐閣、2013年
中 山 雄 司
はじめに
「ビッグデータ」や「データ・サイエンティスト」が流行のキーワードとなり、世の中を
賑わせている。その背景には、買い物時に記録されるPoint of Sales(以下,POS)データ、
顧客を識別し、その属性まで分かるID付きPOSデータ、さらには購買までの閲覧状況まで
分かるWebアクセスデータなどの大量データの蓄積・送信を可能にした情報通信技術の普
及がある。
本書は、統計科学の学術的バックグラウンドを持ち、マーケティング・サイエンス分野の
第一線で活躍されている著者によるマーケティング・リサーチの概説書である。表1を見る
と分かる通り、その内容はデータ取得のためのリサーチの準備(第Ⅰ部)から、データ取得
後の、リサーチ目的とデータ構造に合わせた分析手法の解説(第Ⅱ部と第Ⅲ部)と幅広く、
マーケティング・リサーチを理解するために必要なことを一通りカバーしている。分析手法
のエッセンスを伝えるために必要な数式は登場するものの、記述のレベルは文系の学部上級
生やビジネススクールに在籍する社会人大学院生にも理解できるように配慮されており、彼
らを対象とするマーケティング・リサーチあるいはマーケティング・サイエンスなどの授業
科目の教科書として適している。
マーケティング・リサーチの実際では、統計分析ソフトウェアの利用が欠かせない。現
在、Rというソフトウェアが、マーケティング・リサーチを含む、データ分析が必要な各分
野で世界的にユーザーを増やしている(R Core Team 2014、Smith 2014)。無料で入手して、
自由に利用でき、一定の手続きを経て改変・改良・再配布できるフリーなソフトウェアであ
ることがその理由である。また、各分野の専門家がそれぞれの分野でのデータ分析に必要
な手法をRで利用できるパッケージとして公開できることも、ユーザーの増加、更なるパッ
ケージとユーザーの増加という好循環をもたらす要因となっている。マーケティングでは、
マーケティング・サイエンスの分野で著名なUCLA Anderson School of Managementの
Peter E. Rossi教授によるパッケージbayesmが有名である(Rossi 2012、Rossi, Allenby and
McCulloch 2005)。
大阪府立大学経済研究 第60巻 1・2(247・248)〔2014. 9〕
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照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ 市場を読み解くデータ分析』有斐閣、2013年
しかし、Rを用いてデータ分析を行うためには、R用のプログラミングの知識が必要であ
り、
そのことが理工系の所属、出身でない者には利用の障壁になっている面がある。本書では、
Rcmdr(Rコマンダー)というパッケージを採用し(Fox 2005、Fox et al. 2014)、出版社の
Webサイトにおいて本文中で使うデータと簡単なRスクリプト(プログラム)を提供してお
り、第Ⅱ部と第Ⅲ部において読者がマーケティング・リサーチの実際を追体験する手助けを
している(有斐閣 2013)。このパッケージでは、Graphical User Interface(GUI)によりR
の主な機能を実行できるので、例えばExcelを使うことができるならば、その利用に困難は
感じないであろう。また、RcmdrからGUIにより利用できるパッケージも増えていることも
(本書、p. 341 表C.1を参照)、このパッケージを用いることの利点となっている。
ただし、Rcmdrの利用には(少なくとも評者が感じる)二つの短所がある。第一に、GUI
での操作に対応したスクリプトが、Rcmdrの画面に表示されるが、そのスクリプトはRcmdr
でのみ使われる方言を含むため、Rcmdrを卒業して、GUIを使わずにRを利用するときにス
ムーズに移行できない可能性がある。例えば、Rcmdrでヒストグラムを描く関数はHistであ
るが、R本体ではhistである。ヘルプ・ドキュメントを読めば、その違いは分かるが、逐一
確認するのは面倒である。第二に、Rcmdrでは、GUIでデータ分析を行うために、データを
読み込む必要があるが、その形式がデータ・フレーム(Excelの一つのシートに文字を含む
多変量データが行列の形で保存されているイメージ)に限定さる。リスト形式(Excelの複
数のシートに行列の形に限らない様々なデータが保存されているイメージ)で保存された
データはRcmdrのGUIでは利用できない。Rのパッケージには、分析を実行するための関数
と共に、その関数を適用するデータも含まれていることが多い。例えば、上述のbayesmには、
Montgomery(1997)で用いられたオレンジジュース11ブランドの多店舗週別POSデータが
含まれるが、これはリスト形式で保存されており、Rcmdrでそのまま使うことはできない。
しかし、評者が感じる上記の短所はR利用の障壁を下げるRcmdrの長所とトレードオフの関
係にあるため、長所の効果が大きい場合にはそれ程気にする必要もないのかもしれない。
Rの普及とともに、その利用のための様々な解説書が出版されている。中にはマニュアル
的な説明は詳しいが、分析手法のポイントと利用する際の注意点への配慮が十分でないもの
もある。しかし、本書の著者が、はしがきで述べる通り、
「画面上で結果が得られるといっ
てもマーケティング分析は完全自動で行うことはできない」し、
「正しい結論を得るためには、
手元のデータや課題に適した手法の選択とその細かなチューニングなど各種の検討が求めら
れる」ことを忘れてはならない。
マーケティング・データの分析経験が豊富な著者は本書の随所で、分析手法のポイントと
利用の際の注意点を述べている。例えば、第5章で重回帰モデルの推定結果を使って売上予
測をする場合に、予測で用いる説明変数が「標本のなかの値から著しく離れないこと、外的
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照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ 市場を読み解くデータ分析』有斐閣、2013年
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環境が変わらないこと、を条件として合理的な予測といえる(p. 103)」と述べた箇所や、第
7章でクラスター分析を使った市場セグメンテーション(クラスタリング・セグメンテー
ション)について説明する際に、セグメンテーションの評価の視点(頑健性、識別性、収益
性、アクセス可能性)を示した後に、
「クラスタリング・セグメンテーションで得られたセ
グメントは、標的セグメントへのアクセス可能性の観点で困難が生じやすく、その点がデメ
リット(p. 148)
」と述べた箇所、第13章においてアソシエーション分析で顧客の同時購買状
況を分析する際の注意点として、
「本章のアプローチはあくまでも「仮説」をみつけること
に主眼があるので、消費者の態度や行動の理由やメカニズムまでは明示的に扱うことはでき
ない(p. 274)
」と述べた箇所である。
上記のような記述は、マーケティング・リサーチの初学者にはきわめて有益であり、実務
家にも参考になる。このように、本書は学術的知見とデータ分析の経験がうまくミックスさ
れたマーケティング・リサーチの良書であり、この分野に関係する多くの人に薦めたい。
表1 本書の構成
第1章 マーケティング意思決定とリサーチ・デザイン
第Ⅰ部 調査編
第2章 データの取得と整理
第3章 サンプリング
第4章 質問紙の作成と測定尺度
第Ⅱ部 分析編
第5章 市場反応分析(Ⅰ)
:回帰モデル
第6章 市場の発見と知覚マップ:因子分析
第7章 市場セグメンテーション:クラスター分析
第8章 製品開発:コンジョイント分析
第9章 新製品の普及:バスモデル
第10章 顧客の管理:RFM分析、分散分析、ロジスティック回帰分析
第Ⅲ部 上級編
第11章 市場反応分析(Ⅱ)
:離散選択モデル
第12章 ブランドと属性の同時マップ:コレスポンデンス分析
第13章 マーケットバスケットとクロスセリング:アソシエーション分析
第14章 定性調査データの分析:潜在変数の構造分析
補論
補論A 確率と統計の基礎
補論B 回帰分析の統計理論およびその周辺
補論C RおよびRコマンダーの準備
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照井伸彦・佐藤忠彦『現代マーケティング・リサーチ 市場を読み解くデータ分析』有斐閣、2013年
参考文献
有斐閣(2013)
「付加データ:『現代マーケティング・リサーチ』」, 書籍編集第2部ブログ,2013年9
月9日 http://yuhikaku-nibu.txt-nifty.com/blog/2013/09/post-8330.html(2014年8月4日 ア ク
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月4日アクセス).
大阪府立大学経済研究 第60巻 1・2(247・248)〔2014. 9〕
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